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明細書 :ヘパラン硫酸糖鎖を付加したヘパリン結合性タンパク質、その製造方法及びそれを含有する医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4505631号 (P4505631)
公開番号 特開2005-287431 (P2005-287431A)
登録日 平成22年5月14日(2010.5.14)
発行日 平成22年7月21日(2010.7.21)
公開日 平成17年10月20日(2005.10.20)
発明の名称または考案の名称 ヘパラン硫酸糖鎖を付加したヘパリン結合性タンパク質、その製造方法及びそれを含有する医薬組成物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K  14/50        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 19/00
C07K 14/47
C07K 14/50
C12P 21/02 C
A61K 37/02
A61P 43/00 107
請求項の数または発明の数 8
全頁数 14
出願番号 特願2004-108570 (P2004-108570)
出願日 平成16年3月31日(2004.3.31)
審査請求日 平成17年10月4日(2005.10.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】今村 亨
【氏名】浅田 真弘
【氏名】鈴木 理
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査官 【審査官】北村 悠美子
参考文献・文献 特許第3318602(JP,B2)
Asada, Masahiro et al.,Trends in Glycoscience and Glycotechnology,2001年,Vol.13 No.72,pp.385-394
調査した分野 C12N 15/09
C07K 14/50
C12P 21/02
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
EUROPAT(QUESTEL)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
組成の90%以上がヘパラン硫酸糖鎖である硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖を共有結合させた、配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質
【請求項2】
組成の90%以上がヘパラン硫酸糖鎖である硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖を共有結合させたタンパク質の製造方法であって、以下の工程:(a)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドをコードするcDNAとヘパリン結合性タンパク質をコードするcDNAとを連結する工程、(b)当該連結cDNAを発現ベクターに組み込む工程、(c)当該発現ベクターを、ヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有する宿主細胞に導入する工程、および(d)当該宿主細胞において、配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドを介してヘパラン硫酸糖鎖が共有結合しているタンパク質を発現させる工程を含む、前記の方法。
【請求項3】
配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドをコードするcDNAが配列番号13の塩基配列で表されるDNAからなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ヘパリン結合性タンパク質が繊維芽細胞増殖因子ファミリーに属する因子またはその近縁の因子である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質を有効成分として含有する、医薬組成物。
【請求項6】
配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項7】
請求項6記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項8】
配列番号13の塩基配列で表されるDNAからなる請求項7記載の核酸。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパラン硫酸糖鎖を選択的に共有結合させることにより高機能化されたヘパリン結合性タンパク質、その製造方法及びそれを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘパリン結合性タンパク質、なかでも繊維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor、以下「FGF」と記す。)ファミリーに分類されるタンパク質は、硫酸化多糖であるヘパリンやヘパラン硫酸と非共有的な結合様式で強く結合することが知られていた。そして繊維芽細胞増殖因子などのヘパリン結合性タンパク質をヘパリンなどの硫酸化多糖との混合物とした場合、ヘパリン結合性タンパク質の生物活性や物性が変化し、その機能が変化し、高機能化する場合があることが知られていた。しかしながら、硫酸化多糖を混合しても、期待できる高機能化は限定的なものであった。また、これらを医薬品組成物として用いる場合には、遊離状態の硫酸化多糖による好ましくない生理活性が問題となっていた。
【0003】
そこで既にヘパリン結合性タンパク質の高機能化を意図してヘパリン結合性タンパク質とヘパラン硫酸を選択的に共有結合によって一体化したタンパク質の作製が意図され、ヘパラン硫酸を共有結合で有するヘパリン結合性タンパク質の作製方法が発明された。しかしながら、当該発明によっては、共有結合する硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖の内訳として、ヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸の混合物が得られた。分析の結果、当該物質の高機能化はヘパラン硫酸のみによっていることが明らかとなったので、ヘパラン硫酸が付加し、コンドロイチン硫酸がほとんど付加しない作製方法が待ち望まれていた。

【特許文献1】「糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質、その製造方法およびそれを含有する医薬組成物」特許第3318602号(2002)今村 亨、浅田真弘、岡 修一、鈴木 理、米田敦子、大田恵子、織田裕子、宮川和子、折笠訓子、松田知栄、小嶋哲人
【非特許文献1】Yoneda A, Asada M, Oda Y, Suzuki M, Imamura T. “Engineering of an FGF-Proteoglycan Fusion Protein with Heparin-Independent, Degradation-Augmented, Mitogenic Activity.” Nature Biotechnology 18 (6), 641-644 (2000)
【非特許文献2】米田 敦子、浅田 眞弘、今村 亨 「シンデカンとの融合によるヘパリン結合性増殖因子FGF-1の活性改変」 細胞工学 19 (9), 1338-1340 (2000)
【非特許文献3】Asada M, Yoneda A, Imamura T. “Engineering of a Heparin-Binding Growth Factor with Heparan Sulfate Sugar Chains. (ヘパラン硫酸糖鎖によるヘパリン結合性増殖因子のリモデリング)” Trends in Glycoscience and Glycotechnology 13 (72) 385-394 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ヘパリン結合性タンパク質の機能改質を目指し、ヘパラン硫酸選択的でコンドロイチン硫酸をほとんど含まないグリコサミノグリカン糖鎖を共有結合させたヘパリン結合性タンパク質とその製造方法を確立し、これを含む医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸の両方の糖鎖により複数の部位が修飾されている天然分子シンデカン4(配列番号9)の一次構造における第39番目のセリン残基が特にヘパラン硫酸に選択的に修飾されていることを、シンデカン4の糖鎖修飾部位とレポーターのキメラタンパク質を解析することにより見出した。これに注目して、選択的にヘパラン硫酸の付加を受けることができるペプチド(配列番号8)をコードするcDNA(配列番号13)とヘパリン結合性タンパク質(配列番号7)のcDNA(配列番号10)を連結し、この連結cDNAの遺伝子産物を動物細胞に生産させることにより、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合によって分子内に有するヘパリン結合性タンパク質を生産できることを見出した。さらに、このヘパラン硫酸糖鎖が付加したヘパリン結合性タンパク質の機能が向上していることを確認した。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、ヘパラン硫酸に富む糖鎖を共有結合させることにより高機能化されたヘパリン結合性タンパク質を提供する。本発明のヘパリン結合性タンパク質は、組成の90%以上がヘパラン硫酸糖鎖である硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖を共有結合させたヘパリン結合性タンパク質である。硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖の組成は、例えば、 Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., UNIT 17.13B (1996) に記載の方法などに従って判定することができる。
【0007】
糖鎖は、(1)ヘパラン硫酸、(2)ヘパラン硫酸及び他種グリコサミノグリカンと組み合わされたN-結合型糖鎖、(3)ヘパラン硫酸と他のグリコサミノグリカンと組み合わされたO-結合型糖鎖、及び(4)それらの組み合わせからなる群より選択することができる。ヘパリン結合性タンパク質はFGFファミリーに属する因子またはその近縁の因子であってもよい。ヘパリン結合性タンパク質は、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受ける事ができるペプチドを介して糖鎖を共有結合していてもよい。たとえば、糖鎖を共有結合させるヘパリン結合性タンパク質は、以下の、(a)または(b)のいずれかのタンパク質であってもよい。(a) 配列番号6または7のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質。(b) 配列番号6または7のいずれかのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾されたアミノ酸配列からなり、FGF活性を有し、かつヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるタンパク質。
【0008】
FGF活性とは、具体的には、繊維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、グリア細胞の増殖を促進または抑制する活性をいう。FGF活性は、Ornitz DM & Leder P., Journal of Biological Chemistry 267 (23), p. 16305-16311 (1992) に記載の方法に従って測定することができる。
【0009】
ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるタンパク質は、ヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有する生体内でヘパラン硫酸糖鎖の付加を他の糖類(例えば、コンドロイチン硫酸糖鎖)の付加よりも高い選択性を持って受けることができるものであればよい。ヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有する生体としては、動物細胞(例えばCOS cell, CHO cell,BHK cell, NIH3T3 cell, BALB/c3T3 cell, HUVE cell, LEII cell) 、昆虫細胞(例えば、Sf-9 cell 、Tn cell )などを例示することができるが、これらに限定されることはない。
【0010】
また、本発明は、組成の90%以上がヘパラン硫酸糖鎖である硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖を共有結合させたヘパリン結合性タンパク質の製造方法であって、以下の工程:(a)ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドをコードするcDNAとヘパリン結合性タンパク質をコードするcDNAとを連結する工程、(b)当該連結cDNAを発現ベクターに組み込む工程、(c)当該発現ベクターをヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有する宿主細胞に導入する工程、および(d)当該宿主細胞において、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドを介してヘパラン硫酸糖鎖が共有結合しているヘパリン結合性タンパク質を発現させる工程を含む、前記の方法を提供する。
【0011】
本発明の方法において、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドは、以下の(a)または(b)のいずれかのペプチドであるとよい。(a) 配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド。(b) 配列番号8のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾されたアミノ酸配列からなり、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチド。
【0012】
ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドは、ヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有する生体内でヘパラン硫酸糖鎖の付加を他の糖類(例えば、コンドロイ
チン硫酸糖鎖)の付加よりも高い選択性を持って受けることができるものであればよい。ヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有する生体としては、動物細胞(例えばCOS cell, CHO cell, BHK cell, NIH3T3 cell, BALB/c3T3 cell, HUVE cell, LEII cell) 、昆虫細胞(例えば、Sf-9 cell 、Tn cell )などを例示することができるが、これらに限定されることはない。
【0013】
ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドをコードするcDNAとしては、配列番号13の塩基配列を有するものを挙げることができる。
【0014】
本発明の方法において、ヘパリン結合性タンパク質は組成の90%以上がヘパラン硫酸糖鎖である硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖を共有結合させたヘパリン結合性タンパク質である。糖鎖は、(1)ヘパラン硫酸、(2)ヘパラン硫酸及び他種グリコサミノグリカンと組み合わされたN-結合型糖鎖、(3)ヘパラン硫酸と他のグリコサミノグリカンと組み合わされたO-結合型糖鎖、及び(4)それらの組み合わせからなる群より選択することができる。ヘパリン結合性タンパク質はFGFファミリーに属する因子またはその近縁の因子であってもよい。ヘパリン結合性タンパク質は、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受ける事ができるペプチドを介して糖鎖を共有結合している。たとえば、糖鎖を共有結合させるヘパリン結合性タンパク質は、以下の、(a)または(b)のいずれかのタンパク質であってもよい。(a) 配列番号6または7のアミノ酸配列からなるタンパク質。(b) 配列番号6または7のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾されたアミノ酸配列からなり、FGF活性を有し、かつヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるタンパク質。
【0015】
さらに、本発明は、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合させることにより高機能化された前記のヘパリン結合性タンパク質を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。
【0016】
さらにまた、本発明は、配列番号13の塩基配列を有し、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドをコードする核酸を提供する。核酸としては、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ分子、それらの誘導体などを挙げることができるが、本発明の高機能化されたヘパリン結合性タンパク質の製造方法に使用する場合には、核酸はDNAであることが好ましい。
【0017】
本明細書において、「硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖」とは、タンパク質の一次構造に存するセリン残基に結合したキシロースを起点として伸長する、あるいは遊離状態で存在する多様な糖鎖構造を総称するものであり、N-アセチルグルコサミンやN-アセチルガラクトサミンに代表されるアミノ糖と、グルクロン酸やイズロン酸に代表されるウロン酸あるいはガラクトースからなる二糖単位の繰り返し構造をもち、いくつかの水酸基あるいはアミノ基が硫酸基で置換されているものをいう。具体的な構造は、「糖鎖の細胞における運命」(永井・箱守・木幡編、講談社サイエンティフィック)などに記載されている。この硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖は、その機能を発揮する限りにおいて、その糖鎖配列の一部に、付加、欠失、置換または修飾があってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ヘパラン硫酸糖鎖を選択的に共有結合させ、コンドロイチン硫酸をほとんど含まないヘパリン結合性タンパク質及びその製造方法が提供された。本発明のヘパリン結合性タンパク質は、ヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸とを含むヘパリン結合性タンパク質よりも機能改質の度合いが高い。本発明のヘパリン結合性タンパク質は、医薬品として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明において、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合させるべきヘパリン結合性タンパク質は、ヘパリン結合性を有するタンパク質であり、具体例としては、FGFファミリーに属する因子または近縁の因子、またはヘパリン結合性を有するが前者と構造的な類似性はない他のタンパク質を挙げることができる。ここで述べる他のタンパク質としては、具体的には、ヘパリン結合性上皮細胞増殖因子様因子(HB-EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。FGFファミリーに属する因子の具体例としては、FGF-1~23などが知られている。ヘパリン結合性タンパク質は、糖鎖の付加を受けることができるペプチドを介してヘパラン硫酸糖鎖を共有結合していてもよい。例えば、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合させるヘパリン結合性タンパク質は、以下の(a)または(b)のいずれかのタンパク質であってもよい。(a)配列番号7のアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)配列番号7のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾されたアミノ酸配列からなり、FGF活性を有し、かつヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるタンパク質。
【0021】
配列番号7のアミノ酸配列を有するタンパク質は、例えば、配列番号10のDNA配列によりコードされる。あるいはまた、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合させるヘパリン結合性タンパク質は、以下の(a’)または(b’)のいずれかのタンパク質であってもよい。(a’)配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質。(b’)配列番号6のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾されたアミノ酸配列からなり、FGF活性を有し、かつヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるタンパク質。
【0022】
配列番号6のアミノ酸配列を有するタンパク質は、例えば、配列番号5のDNA配列によりコードされる。このタンパク質は、FGFファミリーに属する因子のペプチド配列の他、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチド配列とシグナルペプチドの配列を含んでいる。本明細書でいうヘパリン結合性タンパク質は、配列表に記載された cDNAが一次的に規定するタンパク質に加えて、細胞から分泌される際にそのアミノ末端に存するシグナルペプチドと呼ばれる分泌の為のペプチド配列が切断された形のタンパク質を含む。本発明の医薬組成物の有効成分として含有させるヘパリン結合性タンパク質は、初めからシグナルペプチドを欠損する形で製造してもその有用性には変化がない。
【0023】
ヘパリン結合性タンパク質に共有結合させるヘパラン硫酸糖鎖は、共有結合させることによりヘパリン結合性タンパク質が高機能化されるものであれば、いかなるものであってもよい。本明細書において、「高機能化」とは、対象のタンパク質の活性が上がることを意味する。高機能化の例として、ヘパラン硫酸糖鎖をタンパク質に共有結合させることにより、熱、酸またはアルカリによる処理の後に残っている活性が、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合させていないタンパク質に比べて、高くなることが挙げられる。本明細書でいうヘパラン硫酸糖鎖とは、上述した硫酸化グリコサミノグリカン糖鎖のうち、アミノ糖がN-アセチルグルコサミンであり、ウロン酸(グルクロン酸またはイズロン酸)との二糖単位の繰り返し構造をもち、いくつかの水酸基あるいはアミノ基が硫酸基で置換されているものをいう。このヘパラン硫酸糖鎖は、その機能を発揮する限りにおいて、その糖鎖配列の一部に、付加、欠失、置換または修飾があってもよい。
【0024】
ヘパラン硫酸糖鎖をヘパリン結合性タンパク質に結合させるにあたっては、ヘパラン硫酸糖鎖のみを直接ヘパリン結合性タンパク質に共有結合させてもよいし、ヘパラン硫酸糖鎖を共有結合している任意の長さのペプチドをヘパリン結合性タンパク質に共有結合させてもよい。本発明のヘパラン硫酸糖鎖が共有結合しているヘパリン結合性タンパク質(以下、「ヘパラン硫酸糖鎖付加型へパリン結合性タンパク質」と記す。)を製造するには、まず、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドをコードするcDNAとヘパリン結合性タンパク質をコードするcDNAとを連結し、これを適切な発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターを糖鎖付加経路を有する宿主細胞に導入して、ヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質を発現させればよい。
【0025】
各種ヘパリン結合性タンパク質のcDNAは、DDBJ (日本DNAデータバンク)など遺伝子バンクに登録された配列から適当なプライマーを設計し、当該動物の当該組織のmRNAよりRT-PCR(逆転写PCR)を行うことによって、取得できる。
【0026】
ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることが知られているペプチドとしては、各種プロテオグリカン(例えば、シンデカン、グリピカン、パールカンなど)のコアタンパク質またはその一部分が挙げられる。プロテオグリカンのコアタンパク質の一部分としては、プロテオグリカンの糖鎖付加部位と考えられるSer-Glyの繰り返し配列を含むペプチドが挙げられる。ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチドとしては、以下の(a)、(b)のペプチドが挙げられる。(a) 配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド。(b) 配列番号8のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾されたアミノ酸配列からなり、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることができるペプチド。
【0027】
本発明でヘパラン硫酸糖鎖を結合させる部位としては、ヘパリン結合性タンパク質の2次構造においてターンを形成している部位又は末端近傍や糖鎖付加によって3次元構造が大きく変化しない部位がよい。
【0028】
本発明のヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質の製造方法の一例を以下に説明する。
【0029】
まず、分泌シグナルおよびヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることが知られているペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを合成し、あるいは PCR反応によって増幅し、これをヘパリン結合性タンパク質をコードするプラスミドの5'端に組み込む。分泌シグナルペプチドとしては、例えば、典型的な分泌型糖タンパク質のアミノ末端を利用することができ、具体的には、ヒトシンデカンー4 のN末端より18残基のアミノ酸などが挙げられる。ヘパリン結合性タンパク質をコードするプラスミドは、ヘパリン結合性タンパク質をコードするDNAを適当なプラスミドに組み込むことにより調製することができる。このヘパリン結合性タンパク質をコードするDNAを組み込むプラスミドとしては、宿主内で複製保持されるものであれば、いずれも使用することができるが、例えば大腸菌由来のpBR322、pUC18 、及びこれらを基に構築されたpET-3cなどを挙げることができる。ヘパリン結合性タンパク質をコードするプラスミドに上記のオリゴヌクレオチドを組み込む方法としては、例えばT.Maniatisら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory, p. 239 (1982) に記載の方法などが挙げられる。
【0030】
上記のようにして作製したプラスミドから、分泌シグナル、ヘパラン硫酸糖鎖の付加を優先的に受けることが知られているペプチドおよびヘパリン結合性タンパク質のすべてをコードする塩基配列を含む領域(以下、「ヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質をコードする塩基配列を含む領域」と記す。) を切り出し、これを発現に適したベクター中のプロモーターの下流に連結することにより、発現型ベクターを得ることができる。この糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質をコードする塩基配列を含む領域はその5'末端に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3'末端には翻訳終始コドンとしてのTAA、TGAまたはTAG を有してもよい。さらに該翻訳領域にコードされているタンパク質を発現させるにはその上流にプロモーターを接続する。本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。形質転換する宿主が動物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーターなどが挙げられる。このようにして構築された糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質をコードする塩基配列を有する組み換えDNAを組み込むプラスミドとしては、宿主細胞内で発現さ
れるものであれば、いずれも使用することができるが、例えば大腸菌由来のpBR322、pUC18 などを基に構築されたベクターなどを挙げることができる。プラスミドに組み込む方法としては、例えばT.Maniatisら、Molecular Clonin g, Cold Spring Harbor Laboratory, p. 239 (1982)に記載の方法などが挙げられる。
【0031】
上記の組み換えDNAを含むベクターを宿主細胞に導入することにより、該ベクターを保持する形質転換体を製造する。宿主細胞としては、ヘパラン硫酸糖鎖付加経路を有するものであれば、いかなるものであってもよく、動物細胞(例えばCOS cell, CHO cell, BHK cell, NIH3T3 cell, BALB/c3T3 cell, HUVE cell, LEII cell) 、昆虫細胞(例えば、Sf-9 cell 、Tn cell )などを例示することができるが、これらに限定されることはない。上記の形質転換は、それぞれの宿主について一般的に行われている方法で行う。また、一般的でなくとも適用可能な方法ならばよい。例としては、宿主が動物細胞であれば、増殖期等の細胞に組み換えDNAを含むベクターをリン酸カルシウム法、リポフェクション法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。
【0032】
このようにして得られた形質転換体を培地にて培養することにより、ヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質を産生させる。形質転換体を培養する場合、培養に使用される培地としては、それぞれの宿主について一般的に用いられているものを用いる。または一般的でなくとも適用可能な培地ならば良い。例としては、宿主が動物細胞であれば、Dulbecco's MEMに動物血清を加えたものなどを用いる。培養は、それぞれの宿主について一般的に用いられている条件で行う。また一般的でなくとも適用可能な条件ならばよい。例としては、宿主が動物細胞であれば約32~37℃で、5% CO2、100%湿度の条件で約24時間~2 週間行い、必要により気相の条件を変えたり撹拌を加えることができる。
【0033】
上記のような形質転換体の培養物からヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質を得るには、培養液中に放出されたものを、遠心分離後の上澄み液から直接回収できる。この上澄み液からヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質を精製するには、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析、溶媒沈殿、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などが使用されうる。このようにして得られた標品はヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質の活性が損なわれない限りにおいて透析、凍結乾燥を行い、乾燥粉末とすることもできる。さらに、担体として血清アルブミンなどを添加して保存することは、標品の容器への吸着を防ぐのに有効である。また、精製過程、あるいは保存過程での微量の還元剤の共存は、該標品の酸化を防ぐのに好適である。還元剤としては、β-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、グルタチンなどが挙げられる。
【0034】
本発明の糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質は、化学的な方法で糖鎖をヘパリン結合性タンパク質に結合させることにより、製造することもできる。その具体的な方法としては以下のa)、b)いずれか、あるいはこれらの組み合わせによる方法が考えられる。
【0035】
a)例えば、まずヘパラン硫酸糖鎖を生物学的方法または化学的合成法またはこれの適宜組み合わせた方法により完成させる。その際、糖鎖末端に適当なタンパク質結合用の残基を導入しておくこともできる。例えば、完成された糖鎖の還元末端を還元および部分酸化することによりアルデヒド基を形成し、これをタンパク質中のアミノ基とアミノ結合させることにより、ヘパラン硫酸糖鎖とタンパク質の結合が完成する。
【0036】
b)例えば、まず、単糖の還元末端、あるいは単糖に結合した適当なタンパク質結合用の残基を還元および部分酸化することによりアルデヒド基を形成し、これをタンパク質中のアミノ基とアミノ結合させることにより、単糖とタンパク質の結合が完成する。この単糖の水酸基などの官能基にさらなる単糖や糖鎖などを結合させることにより、ヘパラン硫酸糖鎖を完成させる。この結合には生物学的方法または化学的合成法またはこれの適宜組み合わせた方法などが考えられる。
【0037】
ヘパリン結合性タンパク質にヘパラン硫酸糖鎖を共有結合させることにより高機能化したタンパク質は医薬として利用可能である。例えば、本発明のヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質は、FGFの生理的機能を調節する作用を有する。FGFの生理的機能とは、具体的には、繊維芽細胞、血管内皮細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、グリア細胞の増殖を促進または抑制することをいう。従って、本発明のヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質は、細胞増殖や肝臓など組織再生の促進、創傷治癒や神経機能調節、および繊維芽細胞等の増殖調節に有効であり、各種疾病、具体的には、繊維芽細胞腫、血管腫、骨芽腫、神経細胞死、アルツハイマー病、パーキンソン病、神経芽腫、健忘症、痴呆病、心筋梗塞の予防や治療に有用であり、発毛剤、育毛剤などとしても利用可能である。
【0038】
本発明のヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質は、医薬的に許容できる溶剤、賦形剤、担体、補助剤などを使用し、製剤製造の常法に従って液剤、ローション剤、エアゾール剤、注射剤、散剤、顆粒剤、錠剤、坐剤、腸溶剤およびカプセル剤などの医薬組成物としてもよい。医薬組成物中、有効成分であるヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質の含有量は、0.0000000001~1.0重量%程度とすればよい。該医薬組成物は、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して非経口的にまたは経口的に安全に投与することができる。本医薬組成物の投与量は、剤形、投与ルート、症状等により適宜変更しうるが、例えばヒトを含む哺乳動物に投与する場合、当該ヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質を、0.0001~100mgを患部に1日に数回適用することが例示される。
【0039】
以上、ヘパリン結合性タンパク質を例にとり本発明を説明したが、糖鎖を共有結合させることにより、ヘパリン結合性タンパク質以外の糖鎖を持たない天然のタンパク質も高機能化することができる。
【0040】
〔微生物の寄託〕 本発明のヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質をコードする遺伝子を作成するために用いた遺伝子(配列番号11のDNA配列を有する)を組み込んだプラスミドを含む大腸菌 DH5α株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託番号FERM P-16412にて、平成9年9月10日に寄託されている。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
〔参考例1〕S/FGF-1a-II/pMEXneoプラスミドの構築1) S/FGF-1a-II プラスミドの構築1. ヒトリュウドカン cDNA 断片の作製 phR7A8は、ヒトリュウドカンの cDNA (PCR産物) を pBluescript II (KS+) クローニングベクターの EcoR V 部位に挿入したプラスミドである。アセッション番号 D13292 に示される mRNA 配列のうち、7 番目から 2610 番目までを含む(B.B.R.C. Vol. 190, No. 3, p.814-822, 1993 を参照のこと) 。これを Pvu II で消化し、得られた 2,232塩基対の DNA断片を鋳型として PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメレース連鎖反応) を行った。プライマーとして # 109 (5'-TTG TCG ACC CAC CAT GGC CCC CGC CCG TCT-3' ) (配列番号15)および、# 111 (5'-TTG ATA TCT AGA GGC ACC AAG GGA TG-3' ) (配列番号16)を用いた。特異的に増幅された 276塩基対のバンドを電気泳動により分離し、これを抽出後、 EcoR V および Sal Iで二重切断した。得られた、268 塩基対のバンドを分離抽出し、以下に示す連結反応に用いた。2. FGF-1a/pBluescript II (KS+)の作製 ヒト FGF-1 cDNA を鋳型とし、# 967 (5'-GCG TCG ACA GCG CTA ATT ACA AGAAGC CCA AAC TC-3')(配列番号17)および # 630 (5'-CCG AAT TCG AAT TCT TTAATC AGA AGA GAC TGG-3')(配列番号18)をプライマーとして PCR反応を行った。特異的に増幅された 434塩基対のバンドを電気泳動により分離し、これを抽出後、 EcoR I および Sal Iで二重切断した。得られた、422 塩基対のバンドを分離抽出し、これを、EcoR I, Sal I で二重切断した pBluescript II (KS+) クローニングベクター ( 2934 塩基対) に挿入して、FGF-1a/pBluescript II (KS+) を得た。FGF-1a/pBluescript II (KS+) を Aor51H I および Sal Iで順次消化し、得られた2626塩基対のバンドを分離抽出し、以下に示す連結反応に用いた。3. S/FGF-1a-II キメラ遺伝子の作製 ヒトリュウドカンの PCR産物の EcoR V/Sal I 断片、及び FGF-1a/pBluescript II (KS+)の Aor51H I/Sal I 断片を DNA連結反応に供し、S/FGF-1a-II/pBluescript II (KS+)ベクターを得た。さらにこれを、EcoR Iおよび Sal Iで二重切断し、得られた、678 塩基対のバンドを分離抽出した。これを、EcoR I, Sal I で二重切断した pMEXneo発現ベクター (5916塩基対) に挿入して、S/FGF-1a-II/pMEXneo を得た。この発現型ベクターは、配列番号11の塩基配列を含む。
【0043】
〔実施例1〕trunc. PG-FGF-1蛋白質の調製1.trunc. PG-FGF-1 プラスミドの構築(1)trunc. PG-FGF-1 前半部遺伝子の構築 S/FGF-1a-II/pMEXneo(参考例1)プラスミドを鋳型として、PCR (polymerase chain reaction; ポリメレース連鎖反応)を行った。プライマーとして、#117 (5’- tcttccgatagactgcgtcg -3’)(配列番号1)及び #645 (5’- gtaattagctacatcctcatcgtctgg -3’) (配列番号2)を用いた。特異的に増幅された200塩基対のバンドを電気泳動により分離し、これを抽出した。 なお、S/FGF-1a-II/pMEXneoプラスミドが持つ翻訳領域のDNA配列を配列番号11に示す。また、これは、哺乳動物細胞では配列番号12のアミノ酸配列を持つ蛋白質をコードする。(2)trunc. PG-FGF-1 後半部遺伝子の構築 S/FGF-1a-II/pMEXneoプラスミドを鋳型として、PCRを行った。プライマーとして、#646 (5’- gaggatgtagctaattacaagaagccca -3’)(配列番号3)及び #118 (5’- cattctagttgtggtttgtcc -3’) (配列番号4)を用いた。特異的に増幅された479塩基対のバンドを電気泳動により分離し、これを抽出した。(3)trunc. PG-FGF-1 全長遺伝子の構築 上記(1)及び(2)で得られたDNA断片を混合して鋳型とし、プライマーとして#117及び #118を用いたPCRを行った。特異的に増幅された661塩基対のバンドを電気泳動により分離し、これを抽出した。さらにこれを、EcoR Iおよび Sal Iで二重切断し、得られた、564 塩基対のバンドを分離抽出した。これを、EcoR I, Sal I で二重切断した pMEXneo発現ベクター (5916塩基対) に挿入して、trunc. PG-FGF-1/pMEXneo を得た。この発現型ベクターは、配列番号5の塩基配列を含み、これは、哺乳動物細胞では配列番号6のアミノ酸配列を持つ蛋白質をコードする。
【0044】
2.trunc. PG-FGF-1 蛋白質の発現 得られた trunc. PG-FGF-1/pMEXneo をリポフェクション法によって COS-1 細胞(サル腎臓由来細胞株)に遺伝子導入した。無血清培地中で培養することで、培地中に生合成された蛋白質を分泌させ、3日後に培養上清を回収した。得られた馴化培地は低速遠心分離した後、その上清を4℃で保存した。
【0045】
3.陰イオン交換クロマトグラフィーによるtrunc. PG-FGF-1 蛋白質の粗精製 trunc. PG-FGF-1蛋白質の分泌細胞の馴化培地に DEAE(ジエチルアミノエチル)-セファロースビーズを加え、4℃で攪拌した。低速遠心によって沈降するビーズを回収し、カラム管につめた。0.001% CHAPS (コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルフォネート)を含むトリス塩酸緩衝液(10 mM, pH 7.4)で十分に洗浄した後、0.5 M NaClを含む同緩衝液によって結合した蛋白質を溶出した。さらにこの溶出液を生理的リン酸緩衝液( PBS : phosphate buffered saline, pH 7.4)に
対して透析した。
【0046】
〔試験例1〕 (SDS変性電気泳動) trunc. PG-FGF-1蛋白質の分泌細胞の馴化培地を蒸留水に対して透析した後、凍結乾燥により濃縮した。これを、電気泳動用緩衝液(SDS, 2-メルカプトエタノール含有)と共に煮沸し、電気泳動用試料とした。12.5 %アクリルアミドゲルを用い、SDS、 2-メルカプトエタノール存在下で電気泳動を行い、ニトロセルロース膜に電気的に転写後、抗 FGF-1単クローナル抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウス IgG抗体を用いて染色し、化学発光法で検出した(図1)。図中、左の線は分子量既知の標準タンパク質の泳動位置とその分子量(単位:ダルトン)を示す。
【0047】
〔試験例2〕 (糖質分解酵素処理) 上記試験例1の通り、凍結乾燥により濃縮したtrunc. PG-FGF-1蛋白質を、各種グリコサミノグリカン分解酵素(GAG’ase)で処理した後、さらにペプチドN-グリコシダーゼ Fで処理した。これを、上記と同様にSDS変性電気泳動で解析した。比較として、参考例1で作製したS/FGF-1a-II/pMEXneoも同様に解析した。(図2)
【0048】
〔試験例3〕 (細胞増殖促進活性) trunc. PG-FGF-1蛋白質の増殖因子としての生理活性を評価した。FGF-1は標的細胞の受容体に結合して生理活性を発揮する際にはヘパリンまたはヘパラン硫酸の共存が必須である。そこで、内在性ヘパラン硫酸を発現しないことが知られているマウスBa/F3細胞(pro B 細胞由来細胞株)にFGF受容体(R1cタイプ)を発現させた細胞株を標的とし、外来ヘパリンの共存あるいは非共存下における、trunc. PG-FGF-1蛋白質の細胞増殖促進活性を評価した。細胞増殖促進活性の評価にあたっては、テトラカラーワンを利用した生細胞数の測定に基づいた。
【0049】
96穴プレートにFGF受容体を発現するBa/F3細胞を播種すると同時に、粗精製したtrunc. PG-FGF-1蛋白質を各種濃度で添加した。また、この際、10 ug(micro-gram) のヘパリンを共存させたもの、させないものを用意した。48時間後、テトラカラーワンを10 ul(micro-liter)添加し、さらに4時間保温した後450 nm の吸光度を測定した(図3)。比較として、参考例1で作製したS/FGF-1a-II/pMEXneoを同様に解析した結果、及び、大腸菌で生産した単純蛋白質 FGF-1を同様に解析した結果も示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の新規なヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、蛋白質分解酵素抵抗性などの安定性に優れ、高い生物学的活性を有する。従って、本発明のヘパラン硫酸糖鎖付加型ヘパリン結合性タンパク質を医薬品に利用することにより、生体内での安定性、特に、耐酸性、耐アルカリ性といった安定性に優れ、経口投与への適用が可能でかつ薬効が高い医薬品を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、COS-1細胞が分泌したtrunc. PG-FGF-1蛋白質をSDS変性電気泳動で分離した後、抗 FGF-1単クローナル抗体で染色した結果を示す。分子量マーカーの泳動位置を左側に示す。trunc. PG-FGF-1蛋白質は配列番号6で示すところの183残基のアミノ酸からなる蛋白質であり、修飾がない単純蛋白質として発現・分泌されていれば、約 20 kDa 付近にバンドを与えるはずである。ところが、実際には、40 kDa~100 kDa あたりにスメアなバンドとして検出された。これは、グリコサミノグリカン糖鎖で修飾された蛋白質に特徴的なパターンである。スメアになる原因としては、グリコサミノグリカン糖鎖の鎖長が均一でないためであると考えられる。
【図2】図2は、trunc. PG-FGF-1蛋白質及び、S/FGF-1a-II蛋白質を各種グリコサミノグリカン分解酵素(GAG’ase)及びペプチドN-グリコシダーゼFで処理した後、SDS変性電気泳動及び抗 FGF-1単クローナル抗体染色で解析した結果を示す。左半分は、trunc. PG-FGF-1の結果を、右半分はS/FGF-1a-IIの結果を示す。分子量マーカーの泳動位置を両端に示す。 trunc. PG-FGF-1はヘパラナーゼとヘパリチナーゼの混合物(HP’ase & HS’ase)で処理することにより、スメアなバンドは完全に消失し21 kDa 及び25 kDa の2本のバンドを与える(レーン3)。一方、S/FGF-1a-IIはヘパラナーゼとヘパリチナーゼの混合物(HP’ase & HS’ase)だけでは、その一部は低分子化するものの、スメアなバンドを完全に消失させることはできず(レーン9)、これにさらにコンドロイチナーゼ(CS’ase)を加えることによって初めてスメアなバンドが消失する(レーン11)。以上の結果から、S/FGF-1a-IIはヘパラン硫酸のみならずコンドロイチン硫酸でも修飾されているが、trunc. PG-FGF-1はヘパラン硫酸のみで修飾されていることが判明した。 また、HP’ase& HS’ase、CS’aseで処理した後に現れる2本のバンド(レーン、レーン11)を解析する目的で、これらの酵素で処理した後、さらにすべてのN-結合型糖鎖を遊離する酵素であるペプチドN-グリコシダーゼ Fを添加した。その結果、高分子側のバンドは消失し、1本のバンドに収斂した(レーン、レーン12)。この結果から、trunc. PG-FGF-1、S/FGF-1a-IIは共に、その一部はN-結合型糖鎖でも修飾されていることが判明した。
【図3】図3は、各種蛋白質のFGF受容体を発現するBa/F3細胞に対する細胞増殖促進活性を評価した結果を示す。丸はtrunc. PG-FGF-1蛋白質の細胞増殖促進活性を、三角はS/FGF-1a-II蛋白質の細胞増殖促進活性を、四角は大腸菌で生産した単純蛋白質 FGF-1の細胞増殖促進活性を、それぞれ示す。また、実線はヘパリン共存下(5 micro-gram/ml)、破線はヘパリン非共存下での細胞増殖促進活性を示す。 Ba/F3細胞の増殖培地(IL-3 を含む)で培養した場合の450 nm の吸光度を100%とし、各増殖因子存在下での450 nm の吸光度の割合で、細胞増殖促進活性を表す。大腸菌で生産した単純蛋白質 FGF-1では、ヘパリンが共存した場合に限って、濃度依存的な細胞増殖促進活性が検出される(四角実線)。しかし、ヘパリンが共存しない場合には、全く活性が検出されない(四角破線)。 S/FGF-1a-II蛋白質では、ヘパリンが共存しなくとも、高濃度(10~100 ng/ml)では活性が見られる(三角破線)。 trunc. PG-FGF-1蛋白質の場合には、1~10 ng/mlの低濃度でも、ヘパリンの共存なしに活性を発揮する(丸破線)。その活性は、単純蛋白質 FGF-1にヘパリンを共存させた場合(四角実線)に匹敵するものであり、S/FGF-1a-IIより高い比活性を有する。 以上の結果から、S/FGF-1a-II蛋白質やtrunc. PG-FGF-1蛋白質は自身の分子内にヘパラン硫酸糖鎖を有する(図2参照)ため、これがヘパリンの機能を代用していると考えられる。しかし、S/FGF-1a-II蛋白質にはヘパラン硫酸糖鎖のみならず、活性の発揮に寄与しないと考えられているコンドロイチン硫酸糖鎖もが付加しているため、比活性はそれほど高くはない。これに対し、trunc. PG-FGF-1蛋白質は、ほとんどヘパラン硫酸糖鎖のみで修飾されているため、高い比活性が得られたものと考えられる。 この結果から、その活性発現にヘパリンやヘパラン硫酸の共存が求められる生理活性因子に対し、糖鎖の共存がなくても活性を発揮するように、タンパク質のリモデリングを行うにあたっては、ヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸の混合物でよりも、ヘパラン硫酸だけで修飾された分子をデザインする方が有効であることが示された。

【配列表フリ-テキスト】
【0052】
<配列番号1>配列番号1は、実施例1で用いたプライマー#117の塩基配列を示す。<配列番号2>配列番号2は、実施例1で用いたプライマー#645の塩基配列を示す。<配列番号3>配列番号3は、実施例1で用いたプライマー#646の塩基配列を示す。<配列番号4>配列番号4は、実施例1で用いたプライマー#118の塩基配列を示す。<配列番号5>配列番号5は、trunc. PG-FGF-1の塩基配列を示す。<配列番号6>配列番号6は、trunc. PG-FGF-1のアミノ酸配列を示す。<配列番号7>配列番号7は、FGF-1aのアミノ酸配列を示す。<配列番号8>配列番号8は、human syndecan-4の部分アミノ酸配列を示す。<配列番号9>配列番号9は、human syndecan-4の全アミノ酸配列を示す。<配列番号10>配列番号10は、FGF-1aの塩基配列を示す。<配列番号11>配列番号11は、S/FGF-1a-IIの塩基配列を示す。<配列番号12>配列番号12は、S/FGF-1a-IIのアミノ酸配列を示す。<配列番号13>配列番号13は、human syndecan-4の部分塩基配列を示す。<配列番号14>配列番号14は、human syndecan-4の全塩基配列を示す。<配列番号15>配列番号15は、参考例1で用いたプライマー#109の塩基配列を示す。<配列番号16>配列番号16は、参考例1で用いたプライマー#111の塩基配列を示す。<配列番号17>配列番号17は、参考例1で用いたプライマー#967の塩基配列を示す。<配列番号18>配列番号18は、参考例1で用いたプライマー#630の塩基配列を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2