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明細書 :硫黄複合体を含む正極及び二次電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-035944 (P2014-035944A)
公開日 平成26年2月24日(2014.2.24)
発明の名称または考案の名称 硫黄複合体を含む正極及び二次電池
国際特許分類 H01M   4/58        (2010.01)
H01M   4/36        (2006.01)
FI H01M 4/58
H01M 4/36 C
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2012-177454 (P2012-177454)
出願日 平成24年8月9日(2012.8.9)
発明者または考案者 【氏名】堤 宏守
【氏名】中本 大俊
出願人 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100120086、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼津 一也
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
審査請求 未請求
テーマコード 5H050
Fターム 5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA02
5H050EA15
5H050FA16
5H050FA18
要約 【課題】正極材料として導電性や反応性の高い硫黄材料であって、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出を防止することができ、また、正極中の硫黄の含有量を増加させることのできる硫黄材料や、該硫黄材料を用いた高容量で充放電による容量低下の少ない正極や二次電池を提供すること。
【解決手段】硫黄表面が金属層又は金属硫化物層で被覆されていることを特徴とする硫黄複合体、この硫黄複合体が含まれている正極活物質層と、集電体とを備えた正極、及びこの正極と電解質、負極を備えたことを特徴とする二次電池。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
硫黄表面が金属層又は金属硫化物層で被覆されていることを特徴とする硫黄複合体。
【請求項2】
繊維形状であることを特徴とする請求項1記載の硫黄複合体。
【請求項3】
金属層がビスマス層であることを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄複合体。
【請求項4】
金属硫化物層が硫化銅層であることを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか記載の硫黄複合体が含まれている正極活物質層と、集電体とを備えたことを特徴とする正極。
【請求項6】
請求項5記載の正極、電解質、負極を備えたことを特徴とする二次電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄表面が金属層又は金属硫化物層で被覆されている硫黄複合体や、該硫黄複合体を含む正極や二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な携帯電子機器や電気自動車の普及に伴い、高容量で繰り返し充放電可能な二次電池が要求され、開発が盛んに行われている。なかでもリチウム電池が、軽量で高出力が期待されることから、特に注目されている。現在、リチウム電池としては、正極にはLiCoO、LiMn、LiFePO等が、負極にはカーボン、リチウム等が用いられているケースが多い。負極がカーボンの場合は容量が300-370Ah/kg、リチウムの場合は3830Ah/kgであるのに対して、正極のLiCoOやLiMnの容量は110~140Ah/kg程度、LiFePOの容量は150~170Ah/kg程度であるため、高容量の正極材料の開発が望まれている。
【0003】
一方、高エネルギー密度の正極材料として、硫黄が着目されている。硫黄はLiSまでリチウムと完全に反応すると仮定した場合、2600Wh/kgの理論エネルギー密度と1672Ah/kgの理論的に高い容量を有している。さらに硫黄は毒性が低く、資源も豊富であるため、安価であるという利点もある。
【0004】
しかしながら、硫黄は反応性に乏しく、また絶縁体であるため、正極材料に用いるためには、硫黄の活性を高め、さらに導電性を付与する必要がある。そこで、これらの問題点を補うための開発がなされている。例えば、金属ナトリウムを負極材料とし、硫黄を正極材料とする二次電池として、硫黄の活性を高めるために、作動温度を300℃以上とする提案がなされている。また、このような高温下での作動を改良するナトリウム/硫黄電池として、50~70重量%の硫黄、導電剤である15~30重量%の炭素、15~20重量%のポリエチレンオキサイドからなる混合物を正極に用い、ナトリウム、ナトリウム含有炭素又はナトリウム酸化物を負極に用い、ナトリウム塩を含むグリミド(grymid)溶液を電解液に用いることで、常温作動のナトリウム/硫黄電池が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、硫黄と炭素を単に混合する代わりに、硫黄粒子の表面に炭素粒子を機械的に付着させる方法が提案され、この硫黄粒子を正極に、リチウムを負極に用いたリチウム/硫黄電池が提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、300℃もの高温下で作動する電池では、装置の大型化や安定性に欠けるなどの問題点があった。また、電池を常温で作動させるために、硫黄と炭素を混合したり硫黄に炭素を機械的に付着させたりしても、硫黄への導電性や反応性の付与は十分ではなかった。さらに、硫黄と炭素を用いる上記方法では、硫黄への導電性や反応性の付与のために多量の炭素の添加が必要となり、正極中で活物質として作用する硫黄の含有量が低下するという問題点があった。
【0007】
これらの問題点を改善するために、本発明者らは、繊維状の硫黄に導電性ポリマーを被覆した複合体を開発し、これを正極材料として用いる提案を行っている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2007-522633号公報
【特許文献2】特開2006-92885号公報
【特許文献3】特開2011-222389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
硫黄は、理論的には高い電気容量を得られるため、正極材料としての開発が望まれている。しかしながら、硫黄を用いた高容量で、かつ長期間安定的に常温で作用する正極材料は未だ開発されていない。硫黄と炭素を用いる従来の技術では、絶縁体であり反応性の低い硫黄に十分な導電性や反応性を付与することができなかった。また、充放電時に生じる正極からの硫黄化合物の電解液中への溶出を防止することはできなかった。さらに、電池の容量は、正極に含まれる活物質の量が多いほど大きくなるため、硫黄高含有の正極が望まれていたが、絶縁性の硫黄を用いるには炭素等の導電剤を多量に配合する必要があり、正極中の硫黄の含有量を高めることができなかった。
【0010】
本発明の課題は、これらの問題点を解決し、正極材料として導電性や反応性の高い硫黄材料であって、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出を防止することができ、また、正極中の硫黄の含有量を増加させることのできる硫黄材料や、該硫黄材料を用いた高容量で充放電による容量低下の少ない正極や二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高容量、かつ長期間安定的に常温で作用する正極材料として、硫黄を用いる方法を見いだすために、まずは正極材料として従来から知られている硫黄と炭素を混合して用いる方法、硫黄粒子の表面に炭素粒子を機械的に付着させる方法等の検討を行った。しかし、これらの方法では、ある程度導電性の向上は見られるものの、まだ導電性や反応性は十分ではなかった。さらに、使用時に出力の低下がみられたため、その原因を調べたところ、硫黄の還元反応時に生成する硫黄化合物が電解液中へ溶出することがわかった。硫黄と炭素を単に混合する方法では、硫黄表面の改質はできず、また硫黄粒子の表面に炭素粒子を付着させても、付着した炭素粒子と炭素粒子の間に間隙が存在し、硫黄化合物の電解液への溶出を防止することができないことがわかった。そこで、硫黄の表面を被覆することに着目し、被覆に用いる物質、被覆方法の検討を開始した。そして、硫黄の表面でモノマーを重合させて導電性ポリマーとすることにより、硫黄を導電性ポリマーで被覆した複合体を開発した(特許文献3)ところ、硫黄表面の被覆層が硫黄化合物の電解液中への溶出に影響を与えることがわかってきた。そこで、本発明者らは、更に検討を進めた結果、硫黄の表面を金属層や金属硫化物層で被覆することにより、従来に比べ高い導電性や反応性を硫黄に付与することができ、さらに、導電性ポリマーで被覆するよりも硫黄化合物の電解液中への溶出防止効果が改善できることを見いだした。また、硫黄の形状を繊維状とすることで、更に電子の移動性が向上すること、硫黄の活性を高めることができることを見いだした。以上の知見に基づき、本発明は完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち本発明は、(1)硫黄表面が金属層又は金属硫化物層で被覆されていることを特徴とする硫黄複合体や、(2)繊維形状である上記(1)記載の硫黄複合体や、(3)金属層がビスマス層である上記(1)又は(2)記載の硫黄複合体や、(4)金属硫化物層が硫化銅層である上記(1)又は(2)記載の硫黄複合体や、(5)上記(1)~(4)のいずれか記載の硫黄複合体が含まれている正極活物質層と、集電体とを備えた正極や、(6)上記(5)記載の正極と電解質、負極を備えたことを特徴とする二次電池に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、正極材料として用いることができ、導電性や反応性が高く、充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出が抑えられた硫黄複合体を提供することができる。また、正極中の硫黄の含有量を高めることのできる硫黄複合体を提供することができる。さらに、前記硫黄複合体を用いた、高容量で充放電による容量低下の少ない正極や二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の硫黄表面が硫化銅層で被覆された本発明の硫黄複合体を電極に用いた場合及び比較例1の表面が被覆されていない硫黄を電極に用いた場合のサイクリックボルタンメトリを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の硫黄複合体は、硫黄表面が金属層又は金属硫化物層で被覆されていることを特徴とする。本発明の硫黄複合体は、硫黄と硫黄表面に被覆された金属層及び/又は金属硫化物層との複合体である。上記金属層としては、特に限定されるものではないが、例えば、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、錫、アンチモン、白金、金、鉛、ビスマス、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステン、レニウム等から選ばれる1種又は2種以上の金属や、これらの合金からなる層を挙げることができる。これらの中でも、ビスマス層を好適に例示することができる。ビスマスは導電性、安定性が高く、硫黄-ビスマス複合体を正極に用いた場合に導電性や反応性がより向上し、生成する硫黄化合物の溶出防止効果が高い。上記のように、本発明の硫黄複合体は、1種類の金属や合金で被覆されていてもよく、複数の種類の金属や合金で被覆されていてもよい。

【0016】
上記金属硫化物層としては、特に限定されるものではないが、例えば、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、錫、アンチモン、白金、金、鉛、ビスマス、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステン、レニウム等から選ばれる1種又は2種以上の金属や、これらの合金の硫化物から選ばれる1種又は2種以上の金属硫化物の層を挙げることができる。これらの中でも、硫化銅層を好適に例示することができる。硫化銅は金属硫化物としての安定性、導電性が高く、硫黄-硫化銅複合体を正極に用いた場合に導電性や反応性が向上し、生成する硫黄化合物の溶出防止効果が高い。上記のように、本発明の硫黄複合体は、1種類の金属硫化物で被覆されていてもよく、複数の種類の金属硫化物で被覆されていてもよい。

【0017】
このように、本発明の硫黄複合体は、硫黄の表面が金属層及び/又は金属硫化物層で被覆されているため、導電性や反応性が高く、更に充放電時に生じる硫黄化合物の電解液中への溶出が抑えられるので、正極材料に好適に用いることができる。被覆されている金属層や金属硫化物層は、導電性が高いため、充放電時の電子の移動性を向上させることができ、また、硫黄の反応性を高めることができるため、正極での硫黄の酸化還元反応の反応効率を向上させることができる。硫黄を正極に、リチウムを負極に用いる場合、放電反応時には正極の硫黄表面でリチウムイオンが硫黄と反応し、硫黄が還元されてLi、Li、LiS等の硫黄化合物が生成する。充電反応時には、これらの硫黄化合物からリチウムイオンが放出される。ここで、LiSは電解液に溶け難いが、Li、Li等の多硫化物は、電解液に可溶であり、電解液中に溶出する。溶出した多硫化物は負極に達し、負極で難溶性のLiSを生成して正極と負極間の充放電反応を阻害するため、従来は充放電を繰り返すと容量の低下を引きおこしていた。これに対し、本発明の硫黄複合体では、硫黄の表面が金属層や金属硫化物層で被覆されているため、リチウムイオンは金属層や金属硫化物層を通過して硫黄表面に達することができ、また、金属層や金属硫化物層を通過して電解液中に出て行くことができるが、Li、Li、LiS等の硫黄化合物やS2-、S2-等の多硫化物イオンは金属層や金属硫化物層を容易には通過することができない。このため、正極でのリチウムと硫黄との反応を阻害することなく、生成する硫黄化合物の電解液中への溶出を防止できる。

【0018】
本発明の硫黄複合体における金属層や金属硫化物層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.01~5μmが好ましく、さらに0.1~3μmが好ましい。かかる金属層や金属硫化物層は、厚みが場所により異なっても構わないが、均一な厚みを有することが好ましい。金属層や金属硫化物層の厚みが0.01~5μmであると、硫黄に導電性や反応性を付与する効果と、硫黄化合物が電解液中に溶出するのを防止する効果がより高まる。また、硫黄への導電性の付与のために炭素を用いる従来の方法では、正極活物質層中の硫黄の含有量は、通常50~60質量%、硫黄粒子の表面に炭素粒子を機械的に付着させても70質量%程度であるが、本発明の硫黄複合体を用いると含有量を高めることができる。これは、硫黄の表面に上記程度の厚みの金属層又は金属硫化物層を形成することで、硫黄に十分な導電性や反応性を付与することができるため、炭素(導電剤)の量を低下させることができ、硫黄の配合割合を80質量%以上に高めることができるからである。

【0019】
本発明の硫黄複合体は、硫黄の表面全体が金属層及び/又は金属硫化物層で被覆されていても、表面の一部が金属層及び/又は金属硫化物層で被覆されていてもよいが、電気化学的活性を損なわない程度、また硫黄化合物の電解液中への溶出防止効果を損なわない程度に、硫黄の表面が金属層及び/又は金属硫化物層で被覆されていることが好ましい。

【0020】
本発明の硫黄複合体の形状としては特に限定されるものではないが、例えば、球状、板状、柱状、不定形、繊維状等を挙げることができる。球状、板状、柱状、不定形等の粒子状の硫黄複合体の場合、その大きさは特に限定されるものではないが、一次粒子の直径又は最長の辺の長さが500μm以下が好ましく、さらに300μm以下が好ましい。電極での反応に主に寄与するのは硫黄の表面又は表面近傍であるため、硫黄複合体粒子の大きさが上記範囲にあると単位質量あたり又は単位体積あたりの表面積が大きくなり、電極での反応に寄与する表面部分の面積が増大するからである。また、一次粒子の直径又は最長の辺の長さの下限値は、特に限定されるものではないが、正極に用いる場合の作業性の観点からは、5μm以上が好ましく、さらに10μm以上が好ましい。以上のことから、球状、板状、柱状、不定形等の粒子状の硫黄複合体の一次粒子の直径又は最長の辺の長さは、5~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましい。

【0021】
本発明の硫黄複合体の形状としては、繊維形状が好ましい。繊維形状の硫黄複合体を用いると、単位質量あたり又は単位体積あたりの表面積が大きくなる結果、電極での反応に寄与する表面部分の面積が増大し、また硫黄の活性が高まるため、硫黄複合体の反応効率が向上する。さらに、金属や金属硫化物の担持量も増加するため導電性も向上する。加えて、粒子状の硫黄複合体では、硫黄複合体粒子同士が接する界面で、電子の移動が制限される場合があるが、繊維形状の硫黄複合体では、一本の繊維の表面に金属層や金属硫化物層が連続的に形成されているため、この影響が少なく電子の移動性が更に向上する。

【0022】
上記繊維状の形状は特に限定されないが、繊維の長さ(L)と直径(d)との比(L/d)は50以上が好ましく、200以上がより好ましく、500以上が更に好ましい。また、繊維の直径は特に限定されるものではないが、繊維状の場合、直径が小さいほど単位質量あたり又は単位体積あたりの表面積が大きくなり、絶縁体で反応性が低い硫黄の電子の移動性や活性を向上させる効果が高まる。この観点から繊維の直径は60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。また、繊維の直径の下限は、実質的に使用できる程度であれば特に限定されないが、繊維としての強度を強くする観点から、繊維の直径は5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。以上のことから、繊維の直径は、5~60μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは20~40μmとすることが望ましい。また、繊維の長さは特に限定されるものではないが、不織布のマット状として用いる場合には、不織布をマット状に容易に形成できるという観点から、繊維の長さは1~40cmが好ましく、5~30cmがより好ましく、5~20cmが更に好ましい。

【0023】
本発明の硫黄複合体の製造方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。まず、硫黄の粒子や繊維を用意する。そして、金属で被覆する場合、被覆する金属を含有した無電解めっき浴を準備し、この無電解めっき浴に硫黄の粒子や繊維を所定の時間浸漬する。かかる無電解めっきを行うことにより硫黄の表面に金属を析出させ、金属の被覆層を形成することができる。無電解めっきは、通常用いられる方法を用いることができ、必要に応じてパラジウム等の触媒、ホルムアルデヒド等の還元剤を用いることができる。無電解めっきによると、硫黄の形状にかかわらず様々な形状の硫黄の表面に均一で間隙のない金属層を被覆することができ、また強度の強い金属層を被覆することができる。

【0024】
金属硫化物で被覆する場合、硫黄の表面に金属を接触・被覆させ、これを硫化することにより金属硫化物の被覆層を形成することができる。例えば、硫黄の粒子や繊維の表面に無電解めっきで金属を析出させ、析出した金属を表面部分で硫化することにより金属硫化物の被覆層を形成することができる。この無電解めっきを利用した方法によると、硫黄の形状にかかわらず様々な形状の硫黄の表面に均一で間隙のない金属硫化物層を被覆することができ、また強度の強い金属硫化物層を被覆することができる。無電解めっきに代えて、スパッタや蒸着等の気相による成膜法を用いて、硫黄の表面に金属や金属硫化物を被覆することもできる。また、本発明の硫黄複合体は、硫黄の表面に金属層又は金属硫化物層を後から被覆した形態だけではなく、硫黄の表面自体を改質して金属層や金属硫化物層を形成した形態も含まれる。

【0025】
本発明の硫黄複合体の製造に用いる硫黄繊維は、例えば、以下の方法で作製することができる。硫黄の融点は112.8℃(α硫黄)~119.6℃(γ硫黄)であるが、195℃までは粘度が増加し、更に高温では再び減少する。そこで、180~250℃、好ましくは190~220℃程度で硫黄を溶融し、ノズルから押し出すことにより硫黄繊維を作製することができる。

【0026】
他の方法としては、ニードル(針)の付いたシリンジを用意し、シリンジ中に硫黄を入れ加熱して、ニードル(針)とコレクター(集電体)の間に電圧を印加する。電圧がしきい値を超えると、電荷の反発力が溶融硫黄の表面張力に打ち勝って電荷を帯びた噴流が発生する。電場内で噴流は伸長して非常に細いファイバーを形成し、コレクター上に堆積する。このようにして、直径がナノサイズからミクロンサイズの硫黄繊維を作製することができる(溶融電界紡糸法)。この場合、硫黄繊維の直径は、溶融硫黄の粘度、印加する電圧及びニードルとコレクター間の距離により決めることができる。ニードルとコレクター間の距離は、過度に短い場合にはニードルとコレクター間で放電が起こり、過度に長い場合にはファイバーを引っ張る静電引力が小さくなることがあるため、4cm~10cmとするのが好ましい。また、印加電圧は、過度に低い場合には静電引力が小さくなり、過度に高い場合にはニードルとコレクター間で放電が起こることがあるため、8kV~20kVとすることが好ましい。この方法によると、装置が単純で短時間に微細化が可能であり、直径の小さい硫黄繊維を得ることができる。このようにして得た硫黄繊維を使用し、硫黄繊維の表面に上記の方法で金属層又は金属硫化物層を形成することにより、本発明の繊維形状の硫黄複合体が得られる。

【0027】
本発明の正極は、集電体の表面に正極活物質層を備えた正極であって、本発明の硫黄複合体が正極活物質層に含まれているものである。本発明の正極に用いられる集電体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、ステンレススチール箔、カーボン等を挙げることができる。本発明の正極の正極活物質層は、本発明の硫黄複合体と、必要に応じてバインダーや導電助剤を含む。バインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポルエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、炭素繊維等を挙げることができる。正極活物質層中における本発明の硫黄複合体の含有量は、特に限定されるものではないが、本発明の硫黄複合体の特性を発揮し、高容量で充放電による容量低下の少ない二次電池を得る観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、正極活物質層は、本発明の硫黄複合体以外の正極活物質を含んでもよい。

【0028】
本発明の正極の製造方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。本発明の硫黄複合体と、必要に応じて溶媒、上記のバインダーや導電助剤等を混合する。この混合物を集電体上に塗布し、乾燥して集電体上に正極活物質層を形成する。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、キシレン、トルエン等を挙げることができる。繊維形状の硫黄複合体の場合、繊維長を長くしてマット状にすることもでき、この場合は、集電体上にマット状の硫黄複合体を設置してバインダーで固定し、正極活物質層を形成することもできる。

【0029】
本発明の二次電池は、本発明の正極の他、電解質及び負極を備えるものである。その他にセパレータ等を備えてもよい。電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiI、LiTFSI等を挙げることができる。電解質は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジオキソラン、ジメトキシエタン等の非水系の溶媒に溶解して用いることができる。負極としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金等のリチウムを含む物質や黒鉛等のリチウムを吸蔵放出する物質を挙げることができる。本発明の二次電池では、例えば、負極に金属リチウムを用いる場合、リチウムイオンが、本発明の硫黄複合体の金属層や金属硫化物層を通って硫黄表面に達し、硫黄と反応する。また、この硫黄の還元反応時には、電解液に可溶なリチウムポリスルフィド等の硫黄化合物が生成するが、金属層や金属硫化物層により電解液中への溶出は抑制される。そのため、充放電の繰り返しによる容量低下の少ない二次電池を得ることができる。さらに、導電性の高い金属層や金属硫化物層を通して電子が移動し、集電体との間の電子の授受を行うため、高容量の二次電池を得ることができる。本発明の二次電池は、本発明の正極、上記電解質及び負極を組み合わせて製造することができ、二次電池の形状としては、特に限定されるものではないが、コイン型、積層型、円筒型等を挙げることができる。

【0030】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(繊維状形状の硫黄の作製)
ステンレス針(内径0.7mm)を装着した3mlガラスシリンジ[MITSUBA株式会社製]へ、変圧器[YAMABISHI株式会社製 TYPE S-130-10]に接続したシリコンコードヒータ(1.5m)[相互理化学硝子製作所株式会社製 SKH-0151]を巻きつけた。収集板としてステンレス板(9×9cm)を用いた。電圧を印加した際にステンレス針が正に、収集板が負に帯電するよう高圧電源装置[松定プレシジョン株式会社製]を接続した。コードヒータの温度は、被接触温度センサ[タスコジャパン株式会社製 THI-303F]およびセンサ電源付ディジタルメータリレー[タスコジャパン株式会社製 TAT-806A]によって測定、制御した。ステンレス針の先と収集板の距離を6cmとした。硫黄粉末をガラスシリンジへ加えた後、シリコンコードヒータによってガラスシリンジを200℃まで加熱した。その後、ステンレス針および収集板へ15KVの電圧を印加し、収集板上に硫黄の溶融電界紡糸を行い、実施例1に用いる繊維状形状の硫黄を作製した。
【実施例1】
【0032】
(硫黄表面への被覆)
作製した繊維状形状の硫黄を、硫酸銅を0.05mol/L、ホルムアルデヒドを10mL/L、水酸化ナトリウムを1.25mol/L、EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)を0.10mol/L配合した無電解めっき浴に2時間浸漬した。硫黄表面にはまず銅が析出するが、この銅は硫化銅に変化し最終的には硫化銅として硫黄の表面に析出した。こうして硫黄表面が硫化銅層で被覆された硫黄複合体を得た。得られた硫黄複合体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、長さが5cmから10cm、直径が30μmから40μmであった。また、硫黄複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、硫化銅層の厚みを測定したところ、1μmから2μmであった。また、表面のほぼ全体に均一に硫化銅層が被覆されていた。
【実施例1】
【0033】
(放電容量の測定)
得られた硫黄複合体をグラッシーカーボン上に設置し、得られた硫黄複合体をセパレータ[Celgard社製「セルガード(登録商標)2500」]で覆うことにより、硫黄複合体を集電体上に固定して正極活物質層とし、正極を作製した。この正極を三極式セルに組み込み二次電池を作製した。負極には、金属リチウムを用い、電解液には、1モルLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)/DOX(ジオキソラン):DME(ジメトキシエタン)(容積比1:1)を用いた。こうして作製した二次電池を用いて、0.05Cでの放電容量を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0034】
実施例1で用いたものと同じ繊維形状の硫黄を、エチレンジアミン四酢酸を0.10mol/L、クエン酸三ナトリウム二水和物を0.17mol/L、ニトリロ三酢酸を0.10mol/L、三塩化ビスマスを0.06mol/L、塩化第一スズ20%塩酸溶液を0.03mol/L配合した無電解めっき浴に2時間浸漬した。硫黄表面にはビスマスが析出し、硫黄表面がビスマス層で被覆された硫黄複合体を得た。得られた硫黄複合体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、長さが5cmから10cm、直径が30μmから40μmであった。また、硫黄複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ビスマス層の厚みを測定したところ、1μmから2μmであった。また、表面のほぼ全体に均一にビスマス層が被覆されていた。得られた硫黄複合体を用いて実施例1と同様に正極と二次電池を作製し放電容量を測定した。測定結果を表1に示す。
[比較例1]
【実施例2】
【0035】
実施例1で用いたものと同じ繊維形状の硫黄を被覆せずにそのまま用いて、実施例1と同様に正極と二次電池を作製し放電容量を測定した。測定結果を表1に示す。
【実施例2】
【0036】
【表1】
JP2014035944A_000003t.gif
【実施例2】
【0037】
(サイクリックボルタンメトリ(CV)測定)
実施例1の硫黄複合体、比較例1の硫黄を用いて、電極の電気化学的挙動を調査するためにCV測定を行った。測定には電気化学システム[北斗電工株式会社製 HZ-5000]を使用した。全ての電極に対して電位走査範囲1.8V-3.2V、走査速度0.5mVs-1とし、恒温槽[東京理科器械株式会社製 EYELA MG-2300]中でセルの温度を30℃で一定に保ち測定を行った。なお、これらの操作は全てアルゴン雰囲気下、グローブボックス中で行った。また、電解質は1モルLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)/DOX(ジオキソラン):DME(ジメトキシエタン)(容積比1:1)とする。測定結果を図1に示す。
【実施例2】
【0038】
硫黄表面が硫化銅層で被覆された硫黄複合体を用いた実施例1、硫黄表面がビスマス層で被覆された硫黄複合体を用いた実施例2は、表面に被覆のない硫黄を用いた比較例1よりも、高い放電容量が得られた。これにより、硫黄表面を硫化銅層やビスマス層で被覆することにより、正極材料として導電性や反応性の高い硫黄材料が得られることがわかった。また、サイクリックボルタンメトリ(CV)測定の結果から、実施例1の硫黄複合体は比較例1のものより酸化電流値が増加した。このことから、硫黄表面を硫化銅層で被覆することにより、硫黄の還元反応時に生成されるリチウムポリスルフィドが再酸化されており、硫黄化合物の電解液中への溶出が抑制されていることがわかった。
図面
【図1】
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