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明細書 :神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定方法及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-150734 (P2014-150734A)
公開日 平成26年8月25日(2014.8.25)
発明の名称または考案の名称 神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定方法及びその利用
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI C12Q 1/02
G01N 33/48 M
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2013-020620 (P2013-020620)
出願日 平成25年2月5日(2013.2.5)
発明者または考案者 【氏名】山田 雅巳
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
Fターム 2G045AA24
2G045AA25
2G045BB20
2G045CB01
2G045GC01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR69
4B063QR90
4B063QS24
4B063QX01
要約 【課題】神経細胞の遊走の程度に基づく疾患の判定や薬物の遊走能への効果の測定をする上で結果の信頼性および再現性が十分なインビトロ細胞遊走アッセイを提供することを課題とする。
【解決手段】神経細胞の凝集塊を、精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートすることにより、上記の課題を解決する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
生体から採取した脳組織から神経細胞を取得する工程と、
得られた神経細胞の凝集塊を形成させる工程と、
形成された凝集塊を、精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートし、遊走させる工程と
神経細胞の遊走の程度を測定する工程と、
遊走の程度に基づいて、前記生体が神経細胞の遊走障害を伴う疾患であるか否かを判定する工程と
を含むことを特徴とする、
神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定方法。
【請求項2】
神経細胞の遊走障害を伴う疾患の生体から採取した脳組織から神経細胞を取得する工程と、
得られた神経細胞の凝集塊を形成させる工程と、
形成された凝集塊を、試験物質および精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートし、遊走させる工程と、
神経細胞の遊走の程度を測定する工程と、
遊走の程度に基づいて、前記試験物質が神経細胞の遊走活性に与える影響を評価する工程と
を含むことを特徴とする、
試験物質の神経細胞の遊走活性に与える影響の評価方法。
【請求項3】
前記精製アルブミンが、有機溶媒を用いる沈殿、アルコール分画、熱処理および低温処理、低pH処理、結晶化、クロマトグラフィ、電気泳動、およびチャコール処理から選択される少なくとも1つの方法により精製されたアルブミンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記精製アルブミンが、グロブリンを実質的に含まない血清アルブミンである、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記神経細胞の遊走障害を伴う疾患が、遊走に関連する機能を有する遺伝子の変異に起因する、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記神経細胞の遊走障害を伴う疾患が、LIS1遺伝子の変異に起因する、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記神経細胞の遊走障害を伴う疾患が、滑脳症である、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の方法において用いられる、精製アルブミンを含むバッファー液。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定方法に関する。
また、本発明は、試験物質の神経細胞の遊走活性に与える影響の評価方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
滑脳症は、脳回(大脳皮質のしわ)の欠如、神経細胞の層構造の異常を伴う中枢神経系の先天的な遺伝子疾患の1つであり、知能障害やてんかん、麻痺を伴い、根治療法はいまだ確立されていない。日本では、新生児15000人に1人の割合で発症する。古典的I型滑脳症は、約60%が17番染色体に存在するLIS1遺伝子のヘテロ変異に起因し、当該変異によるLIS1の機能不全が神経細胞の遊走の異常を引き起こすことで発症すると考えられている。
【0003】
非特許文献1において、本発明者は、カルパイン阻害剤を用いるインビトロ細胞遊走アッセイにより、滑脳症モデル(LIS1遺伝子ヘテロ欠損)マウスの細胞内におけるLIS1タンパク質の発現量を正常レベルまで回復させ、その滑脳症(様)症状を個体レベルで改善すると共に、野生型マウスに対する副作用がほとんどないことを示している。このことから、非特許文献1に記載されるような細胞遊走アッセイを神経細胞の遊走の程度に基づく疾患の判定や薬物の遊走能への効果の測定に利用し、滑脳症の治療方法を確立することに対する期待が高まっている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Yamada M.ら、Nature Medicine, 2009, vol.15, p.1202-1208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の神経細胞の遊走アッセイでは、神経細胞の遊走活性を維持したまま均一な凝集塊を形成させることが困難であった。神経細胞の遊走アッセイは、通常、凝集塊の状態から開始するので、凝集塊の形成は当該アッセイにおいて重要な工程である。また、遊走アッセイでは、一般に、細胞の遊走の程度に基づいて該細胞の遊走能などを評価するが、従来のアッセイでは、遊走することが既知の神経細胞と遊走しないことが既知の神経細胞との間で遊走の程度の差が十分に大きくないため、評価結果の信頼性に影響を及ぼす。したがって、従来の神経細胞の遊走アッセイは、神経細胞の遊走の程度に基づく疾患の判定や薬物の遊走能への効果の測定に利用するには、結果の信頼性および再現性が十分に満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、神経細胞の凝集塊を、精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートすることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
生体から採取した脳組織から神経細胞を取得する工程と、
得られた神経細胞の凝集塊を形成させる工程と、
形成された凝集塊を、精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートし、遊走させる工程と
神経細胞の遊走の程度を測定する工程と、
遊走の程度に基づいて、前記生体が神経細胞の遊走障害を伴う疾患であるか否かを判定する工程と
を含むことを特徴とする、
神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
神経細胞の遊走障害を伴う疾患の生体から採取した脳組織から神経細胞を取得する工程と、
得られた神経細胞の凝集塊を形成させる工程と、
形成された凝集塊を、試験物質および精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートし、遊走させる工程と、
神経細胞の遊走の程度を測定する工程と、
遊走の程度に基づいて、前記試験物質が神経細胞の遊走活性に与える影響を評価する工程と
を含むことを特徴とする、
試験物質の神経細胞の遊走活性に与える影響の評価方法が提供される。
【0009】
更に、上記精製アルブミンを含むバッファー液自体もまた、本発明の範囲内である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、神経細胞の遊走の程度に基づく疾患の判定や薬物の遊走能への効果の測定に利用するには、結果の信頼性および再現性が十分な神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定方法および試験物質の神経細胞の遊走活性に与える影響の評価方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aおよび図1Bは、カルパイン阻害薬が神経顆粒細胞の遊走活性に与える影響を示す写真およびグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の測定方法の第1工程は、生体から採取した脳組織から神経細胞を取得する工程である。
生体としては、特に限定されず、哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ウサギ)などが挙げられる。好ましくは、生体は、ヒトまたはマウスのような哺乳動物である。脳組織としては、小脳が特に好ましい。神経細胞としては、顆粒細胞が特に好ましい。
組織から細胞を調製する方法としては、特に限定されず、トリプシンおよびDNase Iを含む適切なバッファーで処理する方法などが挙げられる。

【0013】
本発明の測定方法の第2工程である凝集塊の形成は、例えば、上記のようにして得られた神経細胞を培地中で培養することにより行うことができる。
培地は、神経細胞を培養可能なものであれば特に限定されず、Basal Medium Eagle (BME)培地(Gibco, Sigma, Cat. 21010)、10%のウマ血清(Horse serum(HS), invitrogen)を含む10% HS/BME培地などが挙げられる。
培養温度は、好ましくは30~40℃であり、より好ましくは35~37℃である。
培養時間は、好ましくは7~10時間であり、より好ましくは8~9時間である。
凝集塊の形成は、細胞同士の接着を容易にするために、細胞接着分子を用いて行うことが好ましい。そのような細胞接着分子としては、当該技術において、培養において足場として用いられるものであれば特に限定されず、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、コラーゲンなどが挙げられる。

【0014】
精製アルブミンとは、当業者に公知の精製方法により精製されたアルブミンを意味し、好ましくはグロブリンを実質的に含まない血清アルブミンである。
アルブミンは、特に限定されず、当業者に公知のものを用いることができる。アルブミンは、公知の市販製品であってもよいし、哺乳動物(例えばヒト、ウシ、ウマ、ヤギなど)の血清などから調製したものであってもよい。
精製方法は、アルブミンを精製可能なものであれば特に限定されず、有機溶媒を用いる沈殿(例えばアルコール沈殿など)、アルコール分画(例えばコーンの低温アルコール分画など)、熱処理および低温処理、低pH処理、結晶化、クロマトグラフィ(イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィなど)、電気泳動、およびチャコール処理から選択される少なくとも1つの方法が挙げられる。
なお、精製アルブミンは、市販の製品であってもよい。そのような製品としては、例えばAlbumin essentially globulin-free (Sigma, A3156)などが挙げられる。

【0015】
バッファー液は、上記の精製アルブミンを適切な溶媒に溶解させたものである。
溶媒は、神経細胞の生存および活性に影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、当業者に公知の任意のものを用いることができるが、好ましくはMason's Mediumである。
バッファー液中の精製アルブミンの含有量は、取得した細胞の状態などに応じて適宜設定できるが、通常は5~25mg/mL、好ましくは8~20mg/mL、より好ましくは10~15mg/mLである。
バッファー液は、任意にその他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えばN2-Supplement (Gibco, Cat. 17502-048)のような栄養ストック液、ペニシリンおよびストレプトマイシンのような抗生物質などが挙げられる。
バッファー液中のその他の成分の含有量は、当業者が適宜設定することができる。

【0016】
本発明の測定方法の第3工程であるインキュベーション・遊走工程は、上記の精製アルブミンを含むバッファー液中で神経細胞をインキュベートすることにより行う。
インキュベーション時の温度は、30~40℃、好ましくは35~38℃、より好ましくは36~37℃である。
インキュベーション時間は、1~24時間、好ましくは3~12時間、より好ましくは6~9時間である。
インキュベーション・遊走工程は、下記の遊走距離の測定を容易にするために、固体支持体上で行うことが好ましい。固体支持体としては、特に限定されず、カバーガラス(例えばMatsunami;24mm×24mm)、スライドガラス、培養皿などが挙げられる。

【0017】
その後、任意に、下記の第4工程の前に、上記神経細胞の遊走活性に影響し得る因子、例えば遺伝子またはRNAなどを導入する工程を行ってもよい。そのような因子の導入方法としては、特に限定されず、当業者に公知の任意の形質導入法、例えばNeon(登録商標)を用いるエレクトロポレーションなど、およびRNA干渉を用いる方法などが挙げられる。

【0018】
本発明の判定方法の第4工程は、神経細胞の遊走の程度を測定する工程である。
本明細書において、「遊走の程度」とは、遊走した細胞の数、および細胞の遊走距離またはこれに基づいて算出される面積から取得される、細胞の遊走能を示すデータを意図する。距離としては、例えば、凝集塊の辺縁からの距離、凝集塊の中心からの距離などが挙げられる。面積としては、例えば、各細胞が遊走した領域の面積、遊走した全細胞を包含する領域の面積などが挙げられる。

【0019】
本発明の好ましい実施形態においては、略円形となるように置かれた神経細胞の凝集塊を円と仮定してその周を0μmとし、当該仮定した円の半径をrμmとしたときに、(r+20n)μmの半径を有する同心円内に存在する遊走後の神経細胞数から、(r+20(n-1))μmの半径を有する同心円内に存在する遊走後の神経細胞数を減算することにより得られた値を(20n-10)μmの遊走距離を示す細胞数の全細胞数に対する割合(%)として遊走の程度を表す。但し、nは1~11の整数であり、n≧12のときに得られる細胞数は、n=11のときの細胞数に含めることとする。

【0020】
本発明の別の好ましい実施形態においては、公知の共焦点レーザー顕微鏡及び画像解析ソフトを用いて、20μmごとの半径で描いた各同心円の区画内において、染色された細胞核の数を細胞数としてカウントし、全細胞数に対する割合(%)として遊走の程度を表す。画像解析ソフトとしては、例えば、TCS-SP5共焦点レーザー顕微鏡(Leica)に搭載された解析ソフトが挙げられる。

【0021】
遊走の程度の測定の際、任意に染色用試薬を用いて細胞を染色してもよい。そのような試薬としては、特に限定されず、Hoechst、DAPIなどの当業者に公知の細胞核染色用試薬、ならびに当業者に公知の酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位体元素、ビオチンおよびアビジンなどで標識された標識抗体などが挙げられる。
遊走の程度の測定に用いる顕微鏡としては、特に限定されず、共焦点型顕微鏡、例えばTCS-SP5共焦点レーザー顕微鏡(Leica)、および倒立型顕微鏡などが挙げられる。

【0022】
本発明の判定方法の第5工程は、遊走の程度に基づいて、生体が神経細胞の遊走障害を伴う疾患を有する否かを判定する工程である。
判定の手法としては、遊走の程度が小さいとき、生体が神経細胞の遊走障害を伴う疾患を有すると判定する。この判定は、神経細胞の遊走の程度に関するデータの蓄積により経験的に行うことができるが、より高い精度で判定するために、所定の閾値との比較により判定することが好ましい。そのような閾値は、例えば、遊走することが既知の細胞および遊走しないことが既知の細胞の遊走の程度に基づいて適宜決定することができる。本発明の好ましい実施形態においては、第4工程で得られる遊走距離に基づいて、10~210μmの遊走距離を示す細胞数を100%と設定し、10μmの遊走距離を示す細胞数が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であるとき、生体が神経細胞の遊走障害を伴う疾患を有すると判定する。

【0023】
本発明のもう1つの態様は、
神経細胞の遊走障害を伴う疾患の生体から採取した脳組織から神経細胞を取得する工程と、
得られた神経細胞の凝集塊を形成させる工程と、
形成された凝集塊を、試験物質および精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートし、遊走させる工程と、
神経細胞の遊走の程度を測定する工程と、
遊走の程度に基づいて、前記試験物質が神経細胞の遊走活性に与える影響を評価する工程と
を含むことを特徴とする、
試験物質の神経細胞の遊走活性に与える影響の評価方法である。

【0024】
神経細胞の遊走障害を伴う疾患としては、特に限定されず、遊走に関連する機能を有する遺伝子(例えばヒト17番染色体に存在するLIS1、X染色体上のダブルコルチン(DCX)、リーリン(Reln)、14-3-3εなど)の変異、欠失および置換などに起因する疾患である。このような疾患の例としては、滑脳症、多小脳回、脳室周囲異所性灰白質、丸石様皮質異形成などが挙げられる。
本発明の1つの実施形態において、神経細胞の遊走障害を伴う疾患は、ヒトの17番染色体に存在するLIS1遺伝子のヘテロ変異(ハプロ不全)に起因する滑脳症である。

【0025】
本発明の評価方法の第1工程は、生体が、上記神経細胞の遊走障害を伴う疾患を罹患するものに限定されることを除いては、上記の測定方法の第1工程と同様である。
本発明の評価方法の第2工程は、上記の測定方法の第2工程と同様である。

【0026】
本発明の評価方法の第3工程は、形成された凝集塊を、試験物質および精製アルブミンを含むバッファー液中でインキュベートし、遊走させる工程である。
試験物質は、特に限定されず、当業者に公知の任意の化合物またはその塩、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどが挙げられ、神経細胞の遊走障害に対する影響を評価するために添加される。試験物質は、好ましくはシステインプロテアーゼ阻害薬またはカルパイン阻害薬であり、より好ましくはカルパイン阻害薬である。
その後、任意に、上記神経細胞の遊走活性に影響し得る因子の導入工程を行ってもよい。
本発明の評価方法の第4工程は、上記の判定方法の第4工程と同様である。

【0027】
本発明の評価方法の第5工程は、測定した距離に基づいて、前記試験物質が神経細胞の遊走の程度に与える影響を評価する工程である。
評価の手法としては、試験物質を添加しない場合の神経細胞の遊走の程度と比較して、試験物質を添加する場合の神経細胞の遊走の程度が増大するとき、当該試験物質が神経細胞の遊走の程度に影響を与えたと評価する。本発明の好ましい実施形態においては、上記の第4工程で得られる遊走距離に基づいて、10~210μmの遊走距離を示す細胞数を100%と設定し、試験物質を添加しない場合と比較して、試験物質を添加する場合に10μmの遊走距離を示す細胞数が30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上低減するとき、当該試験物質が神経細胞の遊走の程度に影響を与えたと評価する。

【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:マウス小脳由来の顆粒細胞凝集塊を用いたインビトロ神経細胞遊走活性測定法
(材料)
・マウス;生後2-6日(C57BL/6)
・CF-HBSS
HBSS (Hank's Balanced Salt Solution; Sigma, Cat. H8264) 200 ml
1M MgCl2 (最終濃度5mM) 1 ml
グルコース (最終濃度4mg/ml) 0.8 g
Penicillin/Streptomycin (Gibco, Cat. 15140-122) 2 ml
【実施例】
【0030】
・Trypsin-HBSS 10 ml
CF-HBSS 10 ml
2.5% trypsin (最終濃度0.025 %) 100 μl
10 mg/ml DNaseI (最終濃度0.0013 %) 6.3 μl
【実施例】
【0031】
・DNase Medium 5 ml
BME (Basal Medium Eagle; Gibco, Sigma, Cat. 21010) 4.5 ml
10 % ウマ血清(Horse Serum; HS) 0.5 ml
2.5% trypsin (最終濃度0.025 %) 100 μl
10 mg/ml DNaseI (最終濃度25 μg/ml) 12.5 μl
【実施例】
【0032】
・Mason's Medium 100 ml
Nutrient Stock (N2-Supplement; Gibco, Cat. 17502-048) 1.0 ml
ウシ血清由来精製アルブミン (Albumin essentially globulin-free (Sigma, A3156
))
1.0g
Penicillin/Streptomycin 1 ml
【実施例】
【0033】
カバーガラスのコーティング
予め、カバーガラス(Matsunami; 24mm X 24mm)を1mM 塩酸で洗浄後、大量の流水ですすぎ、70%EtOHに浸した後に乾燥させた。0.0002%のPoly-D-lysine (Sigma; Cat. P4707)を用いて室温で1時間、その後Laminin (Sigma, Cat; L2020)を用いて室温で1時間カバーガラスをコーティングした後、2回の振り洗いを含めて計10回洗浄した。
【実施例】
【0034】
(方法)
正常または滑脳症モデル(LIS1遺伝子ヘテロ変異モデル)の新生マウスから小脳を摘出し、10個程度の破片にした。これらの小脳片を崩さないように、チューブ(15 ml)に移した。CF-HBSS (5 ml)中に懸濁し、500 rpm x 1分間遠心し、上清を除去した。Trypsin-HBSS (10 ml)を加えて、37℃で20分間、時々タッピングしながらインキュベーションした後、500 rpm x 1分間遠心し、上清を除去した。10%ウマ血清(HS, invitrogen)を含む5mlのBME培地(10%HS/BME)で、2回洗浄(500 rpmで遠心)した。DNase Medium (2 ml)を加えて、30回程度ピペッティングした。DNase Medium (3 ml)を加えて、1分間放置した。70 μmのメッシュ(Cell strainer, Becton Dickinson)を通した。コートしていない培養皿の上で37℃、20分間インキュベーションした。塊を崩さないように、再びチューブ(15 ml)に移し、1,500 rpm x 1分間遠心し、上清を除去した。10%HS/BME (5 ml) を加えて、500 rpm x 1分間遠心し、上清を除去した。適当な量(数ml)の10%HS/BMEを加えて、コートしていない培養皿の上で37℃、8時間インキュベーションして凝集塊を再形成させた。マイクロチューブ(1.5 ml)に丁寧に懸濁液を移し、1分間放置した後、上清を除去した。1.0~1.2 mlのMason's Mediumを加えて、Poly-D-Lysin (SIGMA)とLaminin (SIGMA)でコートした35 mm Glass Base Dish (IWAKI)上に細胞の塊をのせて、200μMのカルパイン阻害薬を添加したか、または添加せずに、37℃で12時間培養した。その後、Hoechstを加えて核染色し、L15(Leibivitz; Gibco)にMediumを交換して共焦点レーザー顕微鏡(TCS-SP5, Leica)にて観察した。共焦点レーザー顕微鏡(TCS-SP5, Leica)の解析ソフトを用いて、20μmごとの半径で描いたそれぞれの同心円の区画内の核数を細胞数として数えて全細胞数に対する割合(%)で表した。
【実施例】
【0035】
結果を図1Aおよび図1Bに示す。
薬剤を添加しない場合、正常な神経顆粒細胞の遊走が見られる一方、LIS1ヘテロ変異細胞の遊走距離は小さく、大部分が10μmの遊走距離を示す。このことから、本発明のインビトロ細胞遊走アッセイを、神経細胞の遊走障害を伴う疾患の判定に利用できることがわかった。
また、薬剤を添加した場合、正常細胞では遊走距離に変化はあまり見られなかった一方、LIS1ヘテロ変異細胞では、遊走した細胞の数(n)が増大し、10μmの遊走距離を示す細胞の数は低減した。このことから、本発明のインビトロ細胞遊走アッセイを、試験物質の神経細胞の遊走活性に与える影響の評価に利用できることがわかった。
同様の実験を10回行った。これらの実験は、安定して図1Aおよび図1Bと類似の結果を再現した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のインビトロ細胞遊走アッセイは、結果の信頼性および再現性が十分であるため、神経細胞の遊走の程度に基づく疾患の判定や薬物の遊走能への効果の測定などに利用することができる。
図面
【図1】
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