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明細書 :酸化亜鉛結晶層の製造方法及び酸化亜鉛結晶層並びにミスト化学気相成長装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-063973 (P2014-063973A)
公開日 平成26年4月10日(2014.4.10)
発明の名称または考案の名称 酸化亜鉛結晶層の製造方法及び酸化亜鉛結晶層並びにミスト化学気相成長装置
国際特許分類 H01L  21/365       (2006.01)
C23C  16/40        (2006.01)
C30B  29/16        (2006.01)
FI H01L 21/365
C23C 16/40
C30B 29/16
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 32
出願番号 特願2013-033503 (P2013-033503)
出願日 平成25年2月22日(2013.2.22)
優先権出願番号 2012185968
優先日 平成24年8月26日(2012.8.26)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】中村 有水
出願人 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099508、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 久
【識別番号】100093285、【弁理士】、【氏名又は名称】久保山 隆
審査請求 未請求
テーマコード 4G077
4K030
5F045
Fターム 4G077AA03
4G077AB02
4G077BB07
4G077DB05
4G077DB11
4G077DB21
4G077EA02
4G077EA06
4G077EC01
4G077ED05
4G077ED06
4G077EG03
4G077EG14
4G077EG16
4G077EG21
4G077EG23
4G077EG25
4G077HA02
4K030AA03
4K030BA47
4K030BB04
4K030CA05
4K030CA12
4K030EA01
4K030EA03
4K030EA04
4K030FA10
4K030GA05
4K030JA10
4K030JA20
4K030KA24
4K030LA18
5F045AA00
5F045AB22
5F045AB40
5F045AC00
5F045AC03
5F045AC11
5F045AC15
5F045AC16
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AE29
5F045AF09
5F045AF13
5F045BB02
5F045CA11
5F045DP04
5F045DP05
5F045DP28
5F045EE02
5F045EE20
5F045EF02
5F045EK06
5F045EM10
要約 【課題】安価にサファイア基板の非極性面に酸化亜鉛結晶層を形成する方法を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて酸化亜鉛からなる層を形成するミスト化学気相成長法によって、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板上に酸化亜鉛を結晶成長させる酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて酸化亜鉛からなる層を形成するミスト化学気相成長法によって、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板上に酸化亜鉛を結晶成長させることを特徴とする酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【請求項2】
前記サファイア基板上に、酸化亜鉛をエピタキシー成長させる請求項1記載の酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【請求項3】
前記サファイア基板における表面の結晶面が、m面である請求項1又は2に記載の酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【請求項4】
前記サファイア基板温度が、600℃以上850℃以下である請求項1から3のいずれかの酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【請求項5】
前記原料溶液における溶媒が、水又は水を主体とする溶媒である請求項1から4のいずれかの酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【請求項6】
前記酸化亜鉛前駆体が、塩化亜鉛である請求項1から5のいずれかの酸化亜鉛結晶層の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法にて製造されてなり、表面結晶面が非極性面である酸化亜鉛結晶層。
【請求項8】
熱分解性の酸化物前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて、薄膜状の酸化物結晶層を形成するためのミスト化学気相成長装置であって、
成長室と、
超音波振動子により前記原料溶液を霧化してミストを発生させるミスト発生器と、
前記ミスト発生器にキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、
前記ミスト発生器で発生したミストをキャリアガスによって前記成長室下方から内部へ供給する供給管と、
を備え、
前記成長室は、成長室内の上部中央に設置され、軸線を中心に回転可能な回転ステージと、前記回転ステージに保持された基板と、前記基板を加熱するためのヒーターと、前記供給管と連結し前記基板に対してミストを下方から上方に垂直方向に供給するノズルと、
を有することを特徴とするミスト化学気相成長装置。
【請求項9】
前記ノズルが、前記基板との距離を可変可能なノズルである請求項8記載のミスト化学気相成長装置。
【請求項10】
前記基板が、a面又はm面サファイア基板である請求項8または9に記載のミスト化学気相成長装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛結晶層の製造方法及び酸化亜鉛結晶層の製造方法に適したミスト化学気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率・長寿命の発光ダイオード(LED)が開発され、照明等に使用される白色光源として、蛍光灯からLEDに置き換わりつつある。
現行のLEDは、発光層が窒化インジウムガリウム(InGaN)材料から成っているが、希少金属であるインジウムの枯渇が懸念されている。
そのため、代替材料の開発が急務となっており、その代替材料候補の一つとして酸化亜鉛(ZnO)が注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
酸化亜鉛の原料である亜鉛は、現在あらゆるLEDの母材材料となっているガリウムと比較して、資源として豊富に地球上に存在し、ガリウムより非常に安価な材料であり、低価格化に向けて足り得る材料である。
【0003】
LED等の発光素子に使用される酸化亜鉛層は、結晶性の高い均質層として形成されることが必要である。従来、酸化亜鉛結晶層は、サファイア(Al23)のc面上に、極性の有るc面酸化亜鉛結晶層として形成されることが多いが、該酸化亜鉛結晶層は、量子井戸を形成した際、ピエゾ電界のため電子と正孔が分離し、発光効率が顕著に低下するという問題がある。
そのため、従来の極性面(c面)に加えて、a面やm面といった非極性面が最近注目されている。非極性面においては、極性面で問題となっていたピエゾ分極による量子井戸の発光効率の低下が、非極性面を用いることによって克服されるからである。
【0004】
このような結晶性の高い酸化亜鉛層の製造方法として、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE)が挙げられる(例えば、特許文献1,2参照)。この方法では、c面のみならず、a面やm面にも結晶性の高い酸化亜鉛層を形成することができる。しかしながら、この方法では、真空プロセスや高純度ガスを必要とし、製造コストが高くなるという問題がある。また、原料ガスが高価であることが多く、毒性や危険性があることも少なくない。
【0005】
酸化亜鉛層の他の製造方法として、ミスト化学気相成長法(ミストCVD法)が開発されている(例えば、非特許文献2参照)。ミスト化学気相成長法では、大気圧で製造できるため、真空プロセス等の設備を必要とせず、また、比較的安価な原料溶液を用いて製造することができるため、上記従来の製造方法と比較して、安価に製造することが可能である。
【0006】
また、高品質な酸化物薄膜を形成するための装置として、特許文献3には、基板が酸化物薄膜を形成するための成長室の上側に固定して設置され、前記基板の下側に設置された貫通孔プレートと、前記貫通孔プレートのさらに下側に設置され、前記貫通孔プレートと一体化された整流羽根を有し、前記貫通孔プレートと整流羽根の両者が、固定された前記基板に対して回転する構造を有する、ミストCVD装置が開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2010-73750号公報
【特許文献2】特許第3424814号公報
【特許文献3】特開2012-243988号公報
【0008】

【非特許文献1】A. Tsukazaki, et al., Nature Material, 4 (2005) 42-46.
【非特許文献2】J.G.Lu, et al., Journal of Crystal Growth 299 (2007) 1-10.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のようにミストCVD法は、高品質な酸化スズ等の酸化物薄膜を形成できる成膜方法である。一方、酸化亜鉛は、結晶性の高い薄膜を形成することが困難な物質であり、ミストCVD法で、LED等の発光素子として実用的に使用できる酸化亜鉛結晶層を形成することは、バッファ層を用いずにはc面サファイアのみならず、a面やm面サファイアにおいても困難と考えられていた。
【0010】
また、特許文献3に記載のミストCVD装置は、供給されるミストの整流のために用いられる整流羽根や貫通孔プレートに熱分解した酸化物が付着する等の技術的課題があり、結晶性の高い薄膜を形成することが困難な酸化亜鉛結晶層の成膜に直ちに転用できるものではなく、改良の余地が残されていた。
【0011】
かかる状況下、本発明の目的は、バッファ層を用いずに、a面又はm面サファイア基板上に、結晶欠陥の少ない酸化亜鉛結晶層を形成する方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、酸化亜鉛結晶層等の薄膜状の酸化物結晶層の形成に適したミスト化学気相成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて酸化亜鉛層を形成するミスト化学気相成長法によって、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板上に酸化亜鉛を結晶成長させる酸化亜鉛結晶層の製造方法。
<2> 前記サファイア基板上に、酸化亜鉛をエピタキシー成長させる前記<1>記載の酸化亜鉛結晶層の製造方法。
<3> 前記サファイア基板における表面の結晶面が、m面である前記<1>又は<2>に記載の酸化亜鉛結晶層の製造方法。
<4> 前記サファイア基板温度が、600℃以上850℃以下である前記<1>から<3>のいずれかの酸化亜鉛結晶層の製造方法。
<5> 前記原料溶液における溶媒が、水又は水を主体とする溶媒である前記<1>から<4>のいずれかの酸化亜鉛結晶層の製造方法。
<6> 前記酸化亜鉛前駆体が、塩化亜鉛である前記<1>から<5>のいずれかの酸化亜鉛結晶層の製造方法。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の方法にて製造されてなり、表面結晶面が非極性面である酸化亜鉛結晶層。
<8> 熱分解性の酸化物前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて、薄膜状の酸化物結晶層を形成するためのミスト化学気相成長装置であって、
成長室と、
超音波振動子により前記原料溶液を霧化してミストを発生させるミスト発生器と、
前記ミスト発生器にキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、
前記ミスト発生器で発生したミストをキャリアガスによって前記成長室下方から内部へ供給する供給管と、
を備え、
前記成長室は、成長室内の上部中央に設置され、軸線を中心に回転可能な回転ステージと、前記回転ステージに保持された基板と、前記基板を加熱するためのヒーターと、前記供給管と連結し前記基板に対してミストを下方から上方に垂直方向に供給するノズルと、
を有するミスト化学気相成長装置。
<9> 前記ノズルが、前記基板との距離を可変可能なノズルである前記<8>記載のミスト化学気相成長装置。
<10> 前記基板が、a面又はm面サファイア基板である前記<8>または<9>に記載のミスト化学気相成長装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低コストに酸化亜鉛結晶層を製造することができる。得られる酸化亜鉛結晶層は、発光強度の増大が可能な非極性面であるため、酸化亜鉛のバンド端から発せられる紫外発光、および酸素欠陥等による欠陥準位からの緑色発光において、発光強度を顕著に増強することができるため、発光素子として好適に用いることができる。また、得られる酸化亜鉛結晶層は、従来のMOCVDに匹敵する表面平滑性を有する。
また、本発明のミスト化学気相成長装置によれば、より広い基板に均一性高く、酸化亜鉛結晶層等の薄膜状の酸化物結晶層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るミストCVD装置(平行供給方式)の模式図である。
【図2】本発明に係るミストCVD装置(垂直供給方式)の模式図である。
【図3】本発明に係る酸化亜鉛結晶層を備えたLEDの模式図であり、(a)は、紫外LEDであり、(b)は、可視LEDである。
【図4】異なる酸化亜鉛前駆体と基板で酸化亜鉛結晶層を成膜した試料の表面形態の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】異なる酸化亜鉛前駆体と基板で成膜した酸化亜鉛結晶層(成膜温度700℃)のX線回折測定(θ-2θ法)の結果である。
【図6】m面サファイア及びm面酸化亜鉛の説明図である。
【図7】図1に示すミストCVD装置(平行供給方式)における酸化亜鉛層の測定位置を説明するための図である。
【図8】成膜温度及び測定位置と酸化亜鉛層の膜厚の関係を示す図である。
【図9】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度600℃~850℃)の表面SEM写真である。
【図10】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度600℃及び650℃、基板位置25mm)のX線回折測定(θ-2θ法)の結果である。
【図11】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度650℃、基板位置25mm)の基板面内回転によるφスキャン法を用いたX線回折測定の結果である。
【図12】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度750℃、基板位置45mm)のX線回折測定(θ-2θ法)の結果である。
【図13】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度750℃、基板位置45mm)のX線回折測定(θ-2θ法)の結果である。
【図14】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度750℃、基板位置45mm)の原子間力顕微鏡(AFM)による表面粗さ評価結果である。
【図15】集束イオンビーム(FIB)によるサファイアの切り出し加工を説明するための図である。
【図16】サンプルAの明視野像とサファイア[11-20]方向からの電子線回折像である。
【図17】サンプルBの明視野像とサファイア[0001]方向からの電子線回折像である。
【図18】実施例の酸化亜鉛結晶層(成膜温度750℃)の基板位置と、(a)抵抗率、(b)キャリア密度、及び(c)移動度の関係を示す図である。
【図19】サファイア基板の形状及び膜厚測定位置の説明図である。
【図20】実験例2-1~実験例2-6についての基板内測定位置と膜厚の関係を示す図である。
【図21】実験例2-4の各測定位置XにおけるSEM写真である。
【図22】実験例2-4の各測定位置Xにおける室温の発光スペクトルを示す図である。
【図23】実験例2-4の各測定位置Xとフォトルミネッセンス(PL)発光強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。

【0017】
本発明は、酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて酸化亜鉛層を形成するミスト化学気相成長法によって、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板上に酸化亜鉛を結晶成長させる酸化亜鉛結晶層の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す場合がある。)に関する。なお、以下「酸化亜鉛層を形成する」ことを「成膜する」と表現する場合がある。

【0018】
ミスト化学気相成長法(以下、「ミストCVD法」と記載する。)とは、原料を含む溶液を所定方法で霧状(ミスト)にし、キャリアガスによって反応部に搬送し、熱化学反応により成膜する方法をいう。

【0019】
本発明の製造方法は、例えば、図1に示すようなミストCVD装置(以下、「平行供給方式の成膜装置」と称す場合がある。)を用いて行うことができる。なお、図1における薄膜が、酸化亜鉛結晶層である。
まず、酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液と、基板を大気圧下のチャンバ(石英炉)内に載置する。次に、基板を所定の温度にまで加熱した上で、原料溶液に超音波を印加することにより、霧化して発生した酸化亜鉛前駆体を含むミストを形成する。同時にキャリアガスを供給し、ミストをガス流に乗せてチャンバ内の基板上に輸送する。その結果、ミストが基板表面と熱化学反応し、基板表面上に酸化亜鉛からなる結晶層が形成される。
ミストCVD法は、特殊な装置や真空を必要とせず、大気圧下で成膜することが可能であり、安全で安価なプロセス、省エネルギーで環境負荷が小さいという利点がある。

【0020】
特に図1に示すようなミストCVD装置の場合には、基板面に沿ってミストがキャリアガスと共に流動するため、原料の熱分解物が基板に接触する時間を比較的長時間確保することができる。その結果、酸化亜鉛前駆体が熱化学反応して生成した酸化亜鉛は、基板表面の結晶性に影響を受けながら結晶成長し、酸化亜鉛結晶層が形成される。

【0021】
より高面積に結晶性の高い酸化亜鉛結晶層を成膜できる点で、以下に説明するミストCVD成膜装置(以下、「本発明の垂直供給方式の成膜装置」と称す場合がある。)を使用することが好適である。
図2に示す本発明の垂直供給方式の成膜装置は、熱分解性の酸化物前駆体を含む原料溶液を霧化して発生したミストをキャリアガスによって基板上に搬送し、該基板上で熱化学反応させて、薄膜状の酸化物結晶層を形成するためのミスト化学気相成長装置であって、成長室と、超音波振動子により前記原料溶液を霧化してミストを発生させるミスト発生器と、前記ミスト発生器にキャリアガスを供給するキャリアガス供給手段と、前記ミスト発生器で発生したミストをキャリアガスによって前記成長室下方から内部へ供給する供給管と、を備え、前記成長室は、成長室内の上部中央に設置され、軸線を中心に回転可能な回転ステージと、前記回転ステージに保持された基板と、前記基板を加熱するためのヒーターと、前記供給管と連結し前記基板に対してミストを下方から上方に垂直方向に供給するノズルと、を有することを特徴とする。

【0022】
本発明の垂直供給方式の成膜装置は、酸化亜鉛結晶層の形成に好適な装置である。
一方、熱分解性の酸化物前駆体を含む原料溶液を使用して、酸化亜鉛以外の酸化物の薄膜状の酸化物結晶層の形成に用いることもできる。
対象となる酸化亜鉛以外の酸化物としては、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化チタン(TiO2)、酸化銅(CuO)や複合酸化物であるMgZnOなどが挙げられ、熱分解性の酸化物前駆体としては、それぞれの塩化物、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。

【0023】
図1で示すような基板面に対してミストを平行方向に流す方式の成膜装置では、高温の基板面に冷えたミストが流入するため、流入側では温度が低下し、流出側では温度が上昇する。成膜速度は原料の熱分解によるため、膜厚は基板の面内位置において、流出側に近づくと増加する傾向が有る。また、膜質の一例である発光特性も、基板の表面温度が面内で異なるため、不均一な分布が生じるおそれがある。

【0024】
本願発明の垂直供給方式の成膜装置によれば、回転運動する基板に対し、ノズルにより、基板中心に対して下方から原料溶液のミストを垂直方向に供給することができる。
下方から基板中心に対してミストを垂直方向に流しながら基板回転を行うことにより、
基板の高速回転により、基板に接するミスト流体と基板表面との摩擦力を介して、基板表面付近のミスト流体が遠心力により基板外周方向へ移動する。これにより、基板下部のミスト流体が基板方向(上昇方向)に吸い込まれ、基板全面にミスト流体が均一に供給される。この結果、ミストを平行方向に流す方式に問題となる基板面内の位置による膜質、膜厚のむらが減少し、基板上に形成される薄膜の厚さが均一になる。特に原料溶液濃度やキャリアガス流量や、ミストを流入させるノズル位置を適宜調整することで、より高均一成膜(膜厚・膜質とも±10%以内)を実現することができる

【0025】
また、膜厚の均一化は、回転数が或る程度以上である必要があるが、一方で乱流が生じない回転数以下に設定する必要があり、回転数はミスト供給量や基板の大きさなどを考慮して適宜調整される。均一なミストの供給により、基板表面温度も均一になり、発光特性等に影響する膜質も均一化される。なお、基板回転により円周方向に均一になるのは自明であるが、上記の作用により半径方向にも均一化するという利点もある。

【0026】
また、垂直供給方式の成膜装置には、上方のノズルから下方に配置された基板にミストを供給する方式のものがあるが、基板近傍の対流により、ミストの供給が不安定になったり、ノズルから基板表面へ液だれを起こす問題がある。
これに対し、本発明の垂直供給方式の成膜装置は、ノズルにより基板に対してミストを下方から上方に垂直方向に供給するため、上記対流に起因してミスト供給が不安定になる問題や、ノズルから液だれを起こす問題を回避することができるという利点もある。

【0027】
本発明の垂直供給方式の成膜装置において、前記ノズルが基板との距離を可変可能なノズルであることが好ましい。上述のように本発明の垂直供給方式の成膜装置によって、成膜される酸化物膜の品質は、原料溶液濃度やキャリアガスの供給量等のみならず、基板とノズルの距離が大きく影響を与えるため、より高均一成膜を実現するためには、これらのパラメータを適宜調整する必要がある。ここで、発明の垂直供給方式の成膜装置で使用されるノズルが、基板との距離を可変可能なノズルであると、基板とノズルの距離の調整が容易になる。
なお、基板とノズルの距離が小さいと形成される酸化物膜の成長速度は大きくなるが、基板内での膜厚分布が大きくなる傾向にあり、基板とノズルの距離が大きいと酸化物膜の成長速度は小さくなるが、基板内での膜厚分布が小さくなる傾向にある。そのため、酸化物膜の成長速度と、面内均一性のバランスを考慮して基板とノズルの距離が決定される。

【0028】
本発明の垂直供給方式の成膜装置は、上述のように原料溶液に含まれる熱分解性の酸化物前駆体の種類を選択することによって、酸化亜鉛以外の酸化物の薄膜状の酸化物結晶層の形成に用いることもできる。一方で、従来バッファ層を用いずに酸化亜鉛結晶層を実用的に成膜できる点で、酸化亜鉛結晶層用成膜装置として使用することが好ましい。
本発明の成膜装置を、酸化亜鉛結晶層用成膜装置として使用する場合、使用する基板はサファイア基板が好適であり、その面はc面、a面又はm面のいずれでもよいが、本発明の酸化亜鉛結晶層の製造方法を採用する点で、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板が好適であり、特に表面の結晶面がm面であるサファイア基板であると、非極性面の単結晶酸化亜鉛層がエピタキシー成長するため好ましい。

【0029】
以下、本発明の製造方法をより詳細に説明する。なお、本発明の成膜方法は、上述の図1や図2に記載の成膜装置により実施することができるが、製造装置はこれらに限定されるものではなく、本発明の製造方法を実現できるあらゆる成膜装置で実施することができる。

【0030】
<酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液>
原料溶液における溶媒としては、使用される酸化亜鉛前駆体に対する溶解度が大きな溶媒が選択される。すなわち、酸化亜鉛前駆体の種類によって、水、メタノール、エタノール等の極性溶媒、アセトン、トルエン等の非極性溶媒のうち好適な溶媒が適宜選択される
この中でも、装置内の汚染が起こりづらく、環境負荷を低減でき、低コストである点で、前記原料溶液における溶媒が、水又は水を主体とする溶媒であることが好ましく、特に水のみであることが好ましい。

【0031】
酸化亜鉛前駆体としては、熱化学反応により、酸化亜鉛を生成できるものであればよい。すなわち、熱分解により酸化亜鉛を生成できる化合物、キャリアガスと反応して酸化亜鉛を生成できる化合物のいずれも含む。具体的には、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛などの無機系酸化亜鉛前駆体、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等の有機系酸化亜鉛前駆体に大別される。
原料溶液における溶媒として水又は水を主体とする溶媒を使用する場合には、酸化亜鉛前駆体は、水溶性亜鉛塩であることが好ましい。
本発明の製造方法において、特に塩化亜鉛は、結晶性が高い酸化亜鉛結晶層を形成できるため、好適な亜鉛前駆体の一つである。

【0032】
原料溶液における酸化亜鉛前駆体の濃度は、酸化亜鉛前駆体及び溶媒の種類や、基板温度等の諸条件や、目的とする酸化亜鉛結晶層の厚み、必要な結晶性等を勘案して適宜決定される。
例えば、酸化亜鉛前駆体が塩化亜鉛、溶媒が水の場合には、通常、0.01~0.5mol/Lである。

【0033】
また、酸化亜鉛前駆体を含む原料溶液は、酸化亜鉛結晶層の物性を変化させる目的で酸化亜鉛前駆体以外の物質を含んでいてもよい。
好適な一例を挙げると、原料溶液に酸化亜鉛前駆体と共にマグネシウム(Mg)前駆体を含有させて同様にミストCVDを行うことでMgZnO層を形成することができる。より具体的には、ベースとなる塩化亜鉛水溶液に、酢酸マグネシウム水溶液を適量混ぜた原料溶液を用いて、ミストCVDを行えばよい。
また、n型MgZnOについても、III族であるガリウム(Ga)やアルミニウム(Al)を含む水溶液をベースとなる酸化亜鉛前駆体とMg前駆体を含む水溶液に混合することで、結晶中の亜鉛(Zn)サイトにこれらの原子が置換して入ることで、電子の放出が可能となり、ミストCVDにより形成される酸化亜鉛結晶層をn型化することが出来る。
さらに、p型化に関しても、V族である窒素(N)、燐(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)を含む水溶液をベースとなる酸化亜鉛前駆体とMg前駆体を含む水溶液に混合することで、結晶中の酸素(O)サイトにこれらの原子が置換して入ることで、正孔の放出が可能となりp型化することが出来る。

【0034】
<キャリアガス>
キャリアガスは、原料溶液を霧化して発生したミストをミストCVD装置の基板上に輸送するためのガスであり、酸化亜鉛前駆体及び溶媒の種類を勘案して適宜決定される。
キャリアガスとして具体的にはアルゴン等の不活性ガス、酸素、水蒸気等の酸化性ガス、窒素及びこれらのガスの混合ガスが用いられる。

【0035】
キャリアガスの流量は、酸化亜鉛前駆体及び溶媒の種類や、基板温度等の諸条件や、目的とする酸化亜鉛結晶層の厚み、必要な結晶性等を勘案して適宜決定される。

【0036】
<原料溶液の霧化方法>
原料溶液の霧化方法としては特に制限はないが、均一なミストが形成できるという点で超音波振動子によってミストを発生させる超音波法が好ましい。

【0037】
<基板>
基板として、表面の結晶面がa面((11-20)面)又はm面((10-10)面)になるように形成されたサファイア基板が用いられる。特に表面の結晶面が、m面サファイア基板であると、非極性面の酸化亜鉛結晶層が形成できるため好ましい。

【0038】
基板の形状としては、ウェハ状が好適である。ウェハ径は特に限定はないが、通常、10~300mmφ程度である。

【0039】
基板温度は、キャリアガスによって基板上に搬送されたミストに含まれる酸化亜鉛前駆体が、熱化学反応によって酸化亜鉛結晶を生成する温度であればよく、通常、550℃以上880℃以下であり、好ましくは600℃以上850℃以下、より好ましくは600℃以上800℃以下である。この温度範囲であれば、a面又はm面サファイア基板の少なくとも一部にエピタキシーした酸化亜鉛結晶層を形成することができる。

【0040】
例えば、m面サファイア基板を用いる場合、基板温度が600~750℃、特に650℃~750℃であると、サファイア基板表面からエピタキシー成長した、サファイア基板表面と連続した結晶性を有し、平坦性に優れた酸化亜鉛結晶層が形成されるため好ましい。

【0041】
(応用例)
酸化亜鉛は、通常半導体としてn型の性質を有しており、電気素子への応用が可能である。酸化亜鉛の結晶性は、光学特性・電気特性に関わる重要なパラメータであり、結晶性を改善することにより、電気特性において、格子・粒界・不純物散乱を低減でき、移動度を高めることができる。
本発明の成膜方法によれば、表面の結晶面がa面又はm面であるサファイア基板上に結晶性の高い酸化亜鉛結晶層の製造することができるので、当該酸化亜鉛結晶層は、例えば、LED、透明電極、光センサ、パワートランジスタ、薄膜トランジスタ等への応用が可能である。

【0042】
特に、図3(a)に示すような電流注入型の酸化亜鉛ベースの紫外LEDは好適な応用例の一つである。本発明の製造方法では、図3(a)に示すアンドープのi型ZnO発光層やi型ZnOバッファ層に好適な酸化亜鉛結晶層を形成することができる。また、n型MgZnO層、p型MgZnO層も本発明の製造方法で製造することができる。
紫外LEDは、n型MgZnO、i型ZnO(発光層)、p型MgZnO及び基板からなる。MgZnOはZnOにMgを添加したものであり、ZnOよりバンドギャップが大きい。このためZnOを用いたLEDではMgZnOをn型・p型半導体に利用することで、エネルギーバンドの井戸型構造を形成することができ、キャリアの閉じ込めによる発光効率の向上へと繋がる。
これらのn型MgZnO、i型ZnO(発光層)、p型MgZnOは、結晶性が高いことが望まれるが、ZnO結晶以外の基板を用いると結晶性の高い、MgZnOを形成することは困難である。
そこで、基板上に格子定数の違いを緩和させるための結晶性のZnOバッファ層を形成し、LEDの結晶性を向上させることが好適である。このZnOバッファ層は、酸化亜鉛単結晶であることに加え、無極性面配向単結晶酸化亜鉛であることが好ましい。発生する内部電界の影響を受けない非極性面を利用することにとってLEDの発光効率が上昇するためである。本発明の製造方法では、表面の結晶面がm面であるサファイア基板上にZnOバッファ層に好適な酸化亜鉛結晶層を形成することができる。
また、図3(b)に示すように、発光層にi型ZnCdOを用い、これをn型ZnO層とp型MgZnO層とで挟んだ構造の可視LEDも好適な応用例の一つである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実験1-1「酸化亜鉛前駆体及び基板と、酸化亜鉛層の結晶性」
単結晶酸化亜鉛薄膜を形成するのに有用な酸化亜鉛前駆体と基板を選定するため、以下の実験を行った。
図1に示した構成を有するミストCVD装置を用いて、酸化亜鉛結晶層の製造を行った。同装置において、濃度0.1mol/Lの酢酸亜鉛水溶液、又は濃度0.1mol/Lの塩化亜鉛水溶液を超音波振動子によって霧化し、発生したミストを窒素ガス(流量20L/分)によって、a面サファイア基板(2インチ基板)、m面サファイア基板(2インチ基板)上に搬送し、熱化学反応させることによって成膜した。基板温度は、基板の中心位置で測定した。
なお、成膜時間は全て1時間であり、バッファ層は用いていない。成膜時の基板温度を700℃として、それぞれの酸化亜鉛前駆体と基板で酸化亜鉛結晶層を成膜した試料の表面形態を走査型電子顕微鏡(SEM)で評価した。結果を図4に示す。また、基板の中心位置でのX線回折測定(XRD)で結晶性を評価した。結果を図5に示す。
【実施例】
【0045】
図4から塩化亜鉛水溶液を原料として用いた場合は酸化亜鉛の結晶粒サイズが酢酸亜鉛水溶液を用いた場合に比べ大きくなる傾向があることが分かった。すなわち、酸化亜鉛の前駆体としては塩化亜鉛がより好適である。
また、図5からa面サファイア基板を使用した場合、酸化亜鉛薄膜は(0002)面と(10-11)面の2方向に成長していることが分かる。一方、m面サファイア基板を使用した場合は(10-10)面が単一で成長していることが分かる。
また、基板面内回転によるφスキャン法を用いたX線回折測定の結果から、形成されたm面酸化亜鉛結晶層はm面サファイア基板に対し面内で結晶軸が一致していることが確認された。このことから、基板に対してエピタキシーしていることが判明した(図6(a),(b)参照)。すなわち、2インチm面サファイア基板内の少なくとも一部の領域で単結晶ZnO薄膜が形成されていることが示された。
ここで、結晶を[0002]方向に成長させLEDを形成すると、自発分極の効果からキャリアの波動関数がずれ、電子と正孔の再結合確率が低下、つまり量子効率が悪化してしまう可能性がある。[10-10]方向に成長させた酸化亜鉛は[0002]方向に対して垂直であり、自発分極の影響を回避できるため、量子効率の良いLEDの形成に向いている。
以上の結果から、本発明の製造方法では、a面、m面サファイア基板のいずれにも結晶性の酸化亜鉛層が成膜できるが、量子効率の良いLEDの形成にはm面サファイア基板がより適しているといえることが判明した。
【実施例】
【0046】
実験1-2「成膜温度依存性の評価」
図1に示した構成を有するミストCVD装置において、濃度0.1mol/Lの塩化亜鉛水溶液を超音波振動子によって霧化し、発生したミストを窒素ガス(流量20L/分)によって、m面サファイア基板(2インチ基板)上に搬送し、熱化学反応させることによって成膜した。基板温度は、基板の中心位置で測定した。
なお、成膜時間は全て1時間であり、バッファ層は用いていない。成膜時の基板温度を600℃~850℃として、それぞれの温度で酸化亜鉛結晶層を成膜した試料の膜厚を段差計を用いて評価した。図7に図1に示すミストCVD装置(平行供給方式)における酸化亜鉛層の測定位置の説明図、図8に横軸を測定位置、縦軸を膜厚とし、温度依存性を測定した成膜温度及び測定位置と酸化亜鉛層の膜厚の関係を示す。また、試料の表面形態をSEMで評価した結果を図9に示す。
【実施例】
【0047】
図8に示すように膜厚が位置に対して、連続的に変化しており、一定となっていない事が確認できる。これは、熱源に向かってミストを一方向に流しているため、ミストの加熱・分解の進行により、各位置によって酸化亜鉛の堆積速度が異なるためである。
基板温度600℃~750℃では基板位置が後方になるほど膜厚が厚くなっていた。
これはミストが基板後方になるほど加熱され温度が上昇し、反応しやすくなったためと思われる。しかし、基板温度800℃~850℃では基板後方では膜厚が低下していた。これは、酸化亜鉛の再蒸発、又は供給原料の基板前方における消費によるものと考えられる。
【実施例】
【0048】
図9に示すようにSEM表面観察の結果、600℃~850℃の全ての温度で酸化亜鉛層が形成されていることが確認された。基板温度650℃~750℃で形成した酸化亜鉛層が、平坦性に優れており、特に700~750℃ではより平坦性に優れた面が広い範囲で観測された。これは原料である亜鉛原子が十分な距離を表面拡散したためと考えられる。また、SEMの結果で平坦な表面が見られた試料では、ホール測定において凹凸の激しい試料より高い移動度が観測される傾向にあった。これは粒界散乱の影響が抑制されたためと思われる。
【実施例】
【0049】
また、θ-2θ法を用いたX線回折測定から600℃~850℃の全ての温度で形成された酸化亜鉛層はm面サファイア基板においてエピタキシー成長した単結晶であることが確認された。
代表例として、基板温度600℃及び650℃のX線回折測定結果(θ-2θ法、基板位置25mm)を図10に示す。また、図11に基板温度650℃の基板面内回転によるφスキャン法を用いたX線回折測定の結果を示す。m面酸化亜鉛を示す単一ピークが観測され、非極性面であるm面酸化亜鉛結晶層が形成されていることが分かった。
なお、面方位に関しては、c面酸化亜鉛上にLEDを製作すると、c軸方向に発生する内部電界が発光層内の電子と正孔を空間的に分離するため、発光効率が悪化する欠点がある。今回成膜されたm面酸化亜鉛を使用しLEDを製作すると、非極性のため内部電界が生じず発光効率の向上が期待できる。
【実施例】
【0050】
実験1-3「基板温度750℃」
実験1-2のSEMの結果から比較的平坦と思われる基板温度750℃(基板位置45mm)について、より詳細な評価を行った。
【実施例】
【0051】
(1)X線回折測定結果
基板温度750℃のX線回折測定結果(基板位置45mm)のX線回折測定結果、図12、図13に示す。なお、図12は2θが10~90°までの広い範囲を調べた結果であり、図13は30~40°の範囲を詳しく調べた結果である。
【実施例】
【0052】
(2)AFMによる評価
原子間力顕微鏡(AFM)により、サンプル表面を評価した結果を図14に示す。図14の結果からサンプルの表面粗さ(rms)の平均は約11nmであった。この結果は、MOCODで報告されている成膜したサンプルの値(10nm)と比べても遜色ない結果である。
【実施例】
【0053】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)による評価
サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)による評価を行った。
TEM観察用のサンプルの切り出しに加工は、集束イオンビーム(FIB、Focused Ion Beam)でガリウムイオンによるスパッタエッチングを行い、結晶の方位依存性を見るため、図15の線に示すように酸化亜鉛とサファイア基板をサファイア[0002](図中のA)と、サファイア[11-20](図中のB)の2通りで行った。このときの切り出したサンプルの厚さは約100nmとした。図16にサンプルAの明視野像とサファイア[11-20]方向からの電子線回折像、図17にサンプルBの明視野像とサファイア[0001]方向からの電子線回折像を示す。
【実施例】
【0054】
図16は、サンプルAの明視野像である。図16からサファイア基板上に単結晶酸化亜鉛が堆積していることが分かる。また、電子線の回折スポットから基板垂直方向に(10-10)面が成長しており、(a)と(c)から基板面内方向では酸化亜鉛の[0001]とサファイア[11-20]が一致していることが分かる。(b)はサファイア基板と酸化亜鉛薄膜の境界における電子線回折であり、両方の単結晶による回折が重なっていることが分かる。このことから、サファイア基板上に酸化亜鉛薄膜がエピタキシャル成長しているということが分かる。
【実施例】
【0055】
図17は、サンプルBの明視野像である。図17からサファイア基板上に単結晶酸化亜鉛が堆積していることが分かる。また、電子線の回折スポットから基板垂直方向に(10-10)面が成長しており、(a)と(c)から基板面内方向では酸化亜鉛の[11-20]とサファイア[0001]が一致していることが分かる。(b)はサファイア基板と酸化亜鉛薄膜の境界における電子線回折であり、両方の単結晶による回折が重なっていることが分かる。このことから、サファイア基板上に酸化亜鉛薄膜がエピタキシャル成長しているということが分かる。
【実施例】
【0056】
図16,17からサファイア基板上に酸化亜鉛薄膜がエピタキシャル成長することが分かった。電子線を透過させる領域をサンプル上で横断させても回折像に変化は見られなかったことから、少なくともTEM用のサンプルサイズ(約6μm)の領域では連続して単結晶であることが示された。また、サファイア基板と酸化亜鉛薄膜の結晶方位関係はXRD(2θ-θスキャン、φスキャン)で判明した結晶方位関係と一致することが分かった。
【実施例】
【0057】
(4)酸化亜鉛結晶層の抵抗率、キャリア密度、及び移動度の評価
図18に酸化亜鉛結晶層(成膜温度750℃)の基板位置と、(a)抵抗率、(b)キャリア密度、及び(c)移動度の関係を示す。
図18から、基板位置(基板温度)に電気的特性が影響を受けていることが分かる。それぞれ好適な位置の物性を示すと、抵抗率は低い所では10-1Ωcm程度、キャリア密度は2×1018cm-3程度、移動度は高い所で41cm2-1-1であることが分かった。
【実施例】
【0058】
実験2「垂直供給方式のミストCVD装置による成膜」
(1)酸化亜鉛結晶層の成膜
(1-1)実験例2-1
図2に示す本発明の垂直供給方式のミストCVD装置を使用して酸化亜鉛結晶層を製造した。
図2に示す装置において、濃度0.1mol/Lの塩化亜鉛水溶液を超音波振動子によって霧化し、発生したミストを窒素ガス(流量5L/分)によって、a面サファイア基板(2インチ基板)上に搬送し、基板回転数1000rpmで回転させながら、基板温度を700℃で、熱化学反応させることによって実験例2-1の酸化亜鉛結晶層を成膜した。なお、基板は図19に示す形状の基板を用いた、基板温度は、基板の中心位置で測定した。成膜時間は1時間であり、バッファ層は用いていない。表1に実験条件をまとめて示す。なお、表1において、「ノズル位置」は「長」が基板とノズル先端の距離が59mmであること、「短」は基板とノズル先端の距離が145mmであることを意味する。
【実施例】
【0059】
(2)実験例2-2~2-6
表1に示すような条件で、基板、溶液、ガス流量、基板温度、回転数、ノズル位置を選択した以外は、実験例2-1と同様にして、実験例2-2~2-6の酸化亜鉛結晶層を成膜した。なお、m面サファイア基板もa面サファイア基板と同様に図19に示す形状である。
【実施例】
【0060】
【表1】
JP2014063973A_000003t.gif
【実施例】
【0061】
(2)評価
実験例2-1~実験例2-6についての基板内測定位置と膜厚の関係を図20に示す。
ノズル位置が「長」である実験例2-1では他の実施例と比較して、全体的に膜厚が大きかったが、膜厚の分布が大きかった。基板とノズル先端の距離が近すぎて、ミスト供給が基板面内で不均一になったためと考えられる。
ノズル位置が「短」である、実験例2-2~実験例2-6では基板の回転数によって、膜厚の分布が異なることが確認された。すなわち、基板を回転数1000rpmで回転させて、ミストCVDを行った実験例2-2~実験例2-4では平均値に対する膜厚の分布が±5%であり、膜厚の均一性が高かったのに対し、回転数100rpmの実験例2-5、回転させていない(回転数0rpm)は、膜厚が不均一であった。これは、基板の回転数が少ない場合は、基板表面付近のミスト流体が遠心力により基板外周方向へ移動する効果が少なくなり、基板下部のミスト流体を均一に基板方向(上昇方向)に吸い込む効果が減少したためと考えられる。よって、少なくとも100rpmを越える高速回転が必要と思われる。
【実施例】
【0062】
膜厚の均一性の高い実施例2-2~実施例2-4についてSEM観察を行ったところ、平坦で欠陥が少ない酸化亜鉛結晶層が形成されていることが確認された。代表例として、図21に実験例2-4のSEM写真を示す。
また、膜厚の均一性の高い実施例2-2~実施例2-4についてX線回折法による結晶性の評価を行ったところ、それぞれ結晶性の高い酸化亜鉛結晶層が形成され、m面サファイア基板を用いた実施例2-4では単結晶の酸化亜鉛結晶層が形成されていることが確認された。
【実施例】
【0063】
実験例2-4について室温においてフォトルミネッセンス(PL)発光測定を行った。図22に実験例2-4の各測定位置Xにおける発光スペクトル、図23に実験例2-4の各測定位置XとPL発光強度の関係を示す。
図22に示すようにすべての測定位置において、波長380nm近傍にバンド端発光が確認された。また、バンド端発光以外の発光は観測されておらず、酸素欠陥や亜鉛欠陥の極めて少ない高品質の酸化亜鉛結晶層が形成されたことを示している。
図23は、上記の380nm近傍の発光ピーク強度を縦軸に、2インチ基板上の位置を横軸にしてプロットしたものである。これらピーク強度の平均値を点線で示している。平均値に対して、最大値は+3.3%、最小値は-6.7%となっており、発光ピーク強度の分布は10%以下となっている。この結果は、極めて均一で高品質な酸化亜鉛結晶層が形成されていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、低コストに酸化亜鉛結晶層を製造することができる。得られる酸化亜鉛結晶層は、発光強度の増大が可能な非極性面であるため、酸化亜鉛のバンド端から発せられる紫外発光、および酸素欠陥等による欠陥準位からの緑色発光において、発光強度を顕著に増強することができるため、発光素子として好適に用いることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22