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明細書 :移乗器具

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5531344号 (P5531344)
公開番号 特開2011-156255 (P2011-156255A)
登録日 平成26年5月9日(2014.5.9)
発行日 平成26年6月25日(2014.6.25)
公開日 平成23年8月18日(2011.8.18)
発明の名称または考案の名称 移乗器具
国際特許分類 A61G   5/00        (2006.01)
FI A61G 5/00 509
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2010-021973 (P2010-021973)
出願日 平成22年2月3日(2010.2.3)
審査請求日 平成25年2月4日(2013.2.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】小泉 邦雄
【氏名】中林 美奈子
【氏名】新鞍 真理子
【氏名】丸谷 芳正
【氏名】河原 雅典
【氏名】鳥海 清司
【氏名】稲葉 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】100095430、【弁理士】、【氏名又は名称】廣澤 勲
審査官 【審査官】土田 嘉一
参考文献・文献 特開平04-146749(JP,A)
特開2003-079678(JP,A)
特開2005-211628(JP,A)
特開2011-092324(JP,A)
調査した分野 A61G 5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
床面に設置される基材と、前記基材に対して上方に向かって垂直な面を回動可能に設けられた支柱と、前記支柱を回動方向に付勢可能に設けられた姿勢保持部材と、前記支柱に取り付けられ前記姿勢保持部材と反対側に位置し介護が必要な被介護者の胸の前側を受ける胸部保持部材と、前記被介護者の大腿部を受けて前記支柱の回動方向と同方向に回転する支持面である大腿部保持部材とを備え、
前記支柱は、被介護者の左右の両側に位置する一対の第一支柱とこの第一支柱に各々軸支された一対の第二支柱とから成り、前記第一支柱は前記基材に対して上方に突出して固定され、前記第二支柱は前記第一支柱の上端部に回動可能に取り付けられ、
前記大腿部保持部材は、前記一対の第一支柱の間に取り付けられ、前記胸部保持部材は、前記一対の第二支柱の間に取り付けられ、前記姿勢保持部材は、上端部が前記胸部保持部材に軸止され、下端部が前記第一支柱に対して揺動可能に設けられたことを特徴とする移乗器具。
【請求項2】
床面に設置される基材と、前記基材に対して上方に向かって垂直な面を回動可能に設けられた支柱と、前記支柱を回動方向に付勢可能に設けられた姿勢保持部材と、前記支柱に取り付けられ前記姿勢保持部材と反対側に位置し介護が必要な被介護者の胸の前側を受ける胸部保持部材と、前記被介護者の大腿部を受けて前記支柱の回動方向と同方向に回転する支持面である大腿部保持部材とを備え、
前記支柱は、前記被介護者の正面に位置する一対の第一支柱と第二支柱とから成り、前記第一支柱と前記第二支柱は互いに同形で、前記第一支柱と前記第二支柱の各下端部が前記基材に対して前記被介護者の前後方向に所定距離だけ離れて取り付けられ、前記第一支柱と前記第二支柱は、前記基材に対して垂直方向の面内で前記被介護者の前後方向に揺動可能に設けられ、前記第一支柱と前記第二支柱は互いに平行に位置して平行四辺形のリンク構造に形成され、
前記大腿部保持部材は、前記第一支柱と前記第二支柱に対して、前記被介護者側に取り付けられ、前記胸部保持部材は、前記第一支柱と前記第二支柱に取付部材を介して設けられ、前記取付部材が前記第一支柱と前記第二支柱に軸支されたことを特徴とする移乗器具。
【請求項3】
前記大腿部保持部材は、前記被介護者の足下から膝裏まで上下動し、固定可能に設けられている請求項1または2記載の移乗器具。
【請求項4】
前記大腿部保持部材は、ローラクッションから成る請求項1,2または3記載の移乗器具。
【請求項5】
前記基材の前記支柱の取付位置付近に設けられ前記大腿部保持部材と平行に位置したステップと、前記基材の下側面に取り付けられたキャスタが設けられた請求項2記載の移乗器具。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、介護が必要な人の身体を保持する身体保持部材を有する移乗支援器具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高齢による足腰の筋力低下や障害等により、自分の力で立ち上がり、向きを変えたり歩くことができなくなると、介護者の介助が必要となる。介護者は、このような被介護者が、ベッドから車椅子やトイレ等に移る際の動作の介助において、移乗作業を行っている。従来、このような移乗作業は、介護者が腰を屈めて両腕を被介護者の腋の下から背に回し、抱きかかえて少し立たせ、被介護者の体の向きを変えて座らせている。しかし、被介護者を抱きかかえて立たせたり座らせたりする動作は、介護者に被介護者の体重がかかるため負担が大きく、介護者にとっては腰痛等が発生しやすいものであった。また、トイレの前後に下着の着脱をするためには、被介護者を立たせておかなければならず、立位保持が不安定な被介護者の場合には、介護者はその介助も同時に行う必要があり、介助動作は重労働であった。さらに、被介護者も苦痛であり、転倒する危険にさらされていた。そのため、そのような状態の被介護者は「寝かせきり」にされ、その後、自分で何もできない「寝たきり老人」となってしまう場合が多く、被介護者の尊厳が損なわれている状況にあった。
【0003】
そこで、被介護者をトイレに連れて行く際に、介護者の移乗作業の負担を軽減するために用いられる移乗器が提案されている。特許文献1に開示されている移乗介護支援車は、移動用台車と移乗用架台とで構成され、移乗用架台はガススプリングを介して移動用台車に対して回転可能に設けられている。移乗用架台には、被介護者の身体の各部分をそれぞれ保持する足置き、すね当て、差し込みもも当て、腹当て、腕置き机、握り棒が設けられている。この移乗介護支援車の使用法は、移乗用架台に被介護者の身体を各部材に当て、移乗用架台を被介護者の前方へ向かってガススプリングにより回動させ、任意の位置で停止させて被介護者の体重を移乗用架台に受ける。トイレ等まで移動用台車で移動させ、移乗用架台を元の位置に回動させて被介護者をトイレに座らせるものである。
【0004】
特許文献2に開示されている移乗装置は、台車と、台車上に傾動自在に設けられた支柱が設けられている。支柱には、被介護者の臀部を支える座部プレートと、胸部を支える胸当パッドと、腋下を支える腋部サポートが設けられている。座プレートは支柱に対して開閉自在である。胸当パッドと腋部サポートは、支柱に沿って摺動自在に設けられている。この移乗装置の使用方法は、被介護者を座部プレートに座らせて支柱を被介護者の前方へ傾動させ、被介護者の体重は胸当パッドと腋部サポートで担うことになり、座部プレートは体重から開放される。そして、被介護者をトイレに座らせるには、体重から開放された座部プレートを閉じて畳み、胸当パッドと腋部サポートを下方にスライドさせ、被介護者の上体が前傾姿勢のまま滑り降り、臀部が便器等に着座するものである。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2005-211628号公報
【特許文献2】特開2005-328950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景技術の場合、被介護者の体重を受ける部材である差し込みもも当てや座部プレートは、被介護者が座る位置を変える際の移動の便宜について考えられていないものであり、被介護者が乗り込むときや降りるときに、体重をかけながら体の位置をずらすことが困難で不便なものであった。
【0007】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、介護者が簡単に操作することができ、被介護者の乗り降りが容易且つ安全であり、確実に移乗作業を補助することができる移乗器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、床面に設置される基材と、前記基材に対して上方に向かって垂直な面を回動可能に設けられた支柱と、前記支柱を回動方向に付勢可能に設けられた姿勢保持部材と、前記支柱に取り付けられ前記姿勢保持部材と反対側に位置し介護が必要な被介護者の胸の前側を受ける胸部保持部材と、前記被介護者の大腿部を受けて前記支柱の回動方向と同方向に回転する支持面である大腿部保持部材とを備えた移乗器具である。
【0009】
前記支柱は、被介護者の左右の両側に位置する一対の第一支柱とこの第一支柱に各々軸支された一対の第二支柱とから成り、前記第一支柱は前記基材に対して上方に突出して固定され、前記第二支柱は前記第一支柱の上端部に回動可能に取り付けられ、前記大腿部保持部材は、前記一対の第一支柱の間に取り付けられ、前記胸部保持部材は、前記一対の第二支柱の間に取り付けられ、前記姿勢保持部材は、上端部が前記胸部保持部材に軸止され、下端部が前記第一支柱に対して揺動可能に設けられたものである
【0010】
または、前記支柱は、前記被介護者の正面に位置する一対の第一支柱と第二支柱とから成り、前記第一支柱と前記第二支柱は互いに同形で、前記第一支柱と前記第二支柱の各下端部が前記基材に対して前記被介護者の前後方向に所定距離だけ離れて取り付けられ、前記第一支柱と前記第二支柱は、前記基材に対して垂直方向の面内で前記被介護者の前後方向に揺動可能に設けられ、前記第一支柱と前記第二支柱は互いに平行に位置して平行四辺形のリンク構造に形成され、前記大腿部保持部材は、前記第一支柱と前記第二支柱に対して、前記被介護者側に取り付けられ、前記胸部保持部材は、前記第一支柱と前記第二支柱に取付部材を介して設けられ、前記取付部材が前記第一支柱と前記第二支柱に軸支されたものである。
【0011】
前記支持面は、前記被介護者の足下から膝裏まで上下動し、固定可能に設けられている。さらに、前記支持面は、ローラクッションから成るものである。
【0012】
また、前記基材の前記支柱の取付位置付近に設けられ前記大腿部保持部材と平行に位置したステップと、前記基材の下側面に取り付けられたキャスタが設けられたものでも良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の移乗器具は、簡単な構造で被介護者の乗り降りの動作が容易且つ安全であり、介護者が被介護者の前方から確実に移乗作業を補助することができ、介護者の負担を軽減することができる。被介護者は着座姿勢から単純に体重移動することにより臀部が開放されるため、衣服の着脱が容易であり、転倒を防止し、また自助動作を容易にすることにより、介助時間が短縮し被介護者の尊厳を守ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第一実施形態の移乗器具の使用状態を示す側面図である。
【図2】この発明の第一実施形態の移乗器具の斜視図である。
【図3】第一実施形態の移乗器具の変形例の使用状態を示す側面図である。
【図4】第一実施形態の移乗器具の他の変形例を示す斜視図である。
【図5】この発明の第二実施形態の移乗器具の使用状態を示す側面図である。
【図6】この発明の第二実施形態の移乗器具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1、図2はこの発明の第一実施形態を示すもので、この移乗器具10は、床面にほぼ水平に位置する金属や樹脂、木製等の所定長さのフレームで作られたH形の板部材から成る基材12が設けられている。基材12の下面には、四隅にそれぞれキャスタ15が取り付けられている。

【0016】
一対の基材12の長手方向の途中には、上方に向かって第一支柱16がそれぞれ設けられている。第一支柱16は、基材12に沿う方向が側面となる板体であり、基材12の長手方向に対してほぼ直角に立設されている。一対の第一支柱16の互いに対向する面には、第一支柱16の長手方向に沿って溝部19が形成されている。一対の溝部19には、被介護者40が一時的に腰を下ろす支持面であるとともに、被介護者40の大腿部を受ける大腿部保持部材であるローラクッション18の両端部が、移動可能に取り付けられている。ローラクッション18の回転軸は、一対の第一支柱16の長手方向に直角に交差してほぼ水平に位置し、この回転軸等が第一支柱16の内側に形成された溝部19に移動可能に差し込まれている。溝部19には、ローラクッション18を任意の位置で係止するロック部材とレバーからなる係止部材17が設けられ、係止部材17によりローラクッション18を地面から膝裏までの間の所望の位置で固定することができる。係止部材17のレバー17aは、溝部19に収納可能に設けられている。

【0017】
第一支柱16の上端部16aは、被介護者40がベッド42等に腰かけたときの腰付近に達している。一対の第一支柱16の上端部16aには、基材12の長手方向に対してほぼ平行に突出する取付部材20が各々設けられている。取付部材20は、基材12に沿う方向が側面となる板体であり第一支柱16の外側面に固定され、取付部材20の先端部20aは、基材12の端部よりも内側に位置している。一対の取付部材20の間には、取付板22が設けられている。取付板22は、一対の取付部材20に対して直角に取り付けられて、取付部材20とともにコの字形に形成されている。取付板22は、被介護者40の大腿部に当接し、被介護者40が前方に滑り出てしまうのを防止している。

【0018】
一対の第一支柱16の上端部16aには、上方に向かって第二支柱24がそれぞれ設けられている。第二支柱24は、第一支柱16に沿う方向が側面となる柱状体であり、第一支柱16の上端部16aの内側面に、回転可能に軸部材26で取り付けられている。第一支柱16の上端部16a近傍には、取付部材20の突出方向と反対側の側縁部24bに、胸部保持部材30が取り付けられている。

【0019】
胸部保持部材30は、被介護者40がもたれかかっても大丈夫な強度に形成された樹脂や金属、その他布製等の剛性を有する部材であり、被介護者40の胸の前側を覆う湾曲した帯状に形成されている。胸部保持部材30は、一対の第二支柱24に対して直角方向に取り付けられ、略コの字形に湾曲して形成されている。

【0020】
取付部材20の取付板22と、第二支柱24の胸部保持部材30との間には、ガススプリング28が取り付けられている。ガススプリング28は第二支柱24の傾きを抑制し制御するものであり、上端部が胸部保持部材30の被介護者40と反対側となる外側面に軸止され、下端部が取付板22の外側面に軸止され、第二支柱24の回動方向に揺動可能である。

【0021】
一対の第二支柱24の、胸部保持部材30が取り付けられている位置には、被介護者40の背中に回して締め、胸部保持部材30に上半身を固定するベルト32が一対取り付けられている。一対のベルト32は、被介護者40の背中で互いに重なる長さであり、重なる部分には、面ファスナ34が取り付けられている。

【0022】
次に、この実施形態の移乗器具10の使用方法について図2に基づいて説明する。ここでは、ベッド42や椅子に腰掛けている被介護者40を、ベッド42からベッド42近傍に置いた図示しないトイレ等に座らせる動作を例に説明する。

【0023】
まず被介護者40をベッド42等に座らせた状態とし、被介護者40の前に移乗器具10を配置する。このとき、移乗器具10の胸部保持部材30を被介護者40に向け、基材12をベッド42の下に差し込んで、被介護者40の近くに寄せてキャスタ15をロックする。このとき、図1に示す左側の二点鎖線の被介護者40の状態で、移乗器具10のローラクッション18は、溝部19に沿って下げてあり、被介護者40は、座位のままでローラクッション18を容易にまたぐことができる。そして、移乗する際、ローラクッション18を被介護者40の膝裏に引き上げて、係止部材17のレバー17aにより固定する。

【0024】
この後、被介護者40を介護者が側方から押して、被介護者40をローラクッション18上で滑らせ、第二支柱24側に寄せて、腰がベッド42から離れた図1に示す右側の二点鎖線の被介護者40の状態とする。このとき、ローラクッション18が中心軸で回転するので、被介護者40の移動動作が容易である。この状態で、図1の右側の二点鎖線に示すように、被介護者40の胸に胸部保持部材30を当て、ベルト32を背中に回して締めて固定する。

【0025】
次に、被介護者40が胸部保持部材30に上半身を載せるように体重移動すると、被介護者40が前のめりになるように傾動して、第二支柱24を倒しながら胸部保持部材30に被介護者40の上半身が預けられる。このとき被介護者40は、胸部保持部材30に体重を預けた状態となり、ローラクッション18にほとんどは体重をかけていない状態、または離れた状態となる。これで図1の実線で示す状態となる。

【0026】
この後、介護者がキャスタ15により移乗器具10を水平方向に移動させ、ベッド42から離し、向きを回転させて被介護者40の背面が目的のトイレや車椅子等に向くようにする。この方向転換は介護者が被介護者40や移乗器具10を押して行う。

【0027】
次に、被介護者40は移乗器具10の第二支柱24を元に戻しながら、ローラクッション18から離れるように移動してトイレに移り、胸部保持部材30に体重を預けた状態で、ズボン等を下げ、体をローラクッション18側に戻し、トイレの便座に腰掛ける。この後、ベルト32の面ファスナ34を剥がしてベルト32を外し、ローラクッション18を下げて、不要であれば、ローラクッション18を下げて移乗器具10を被介護者40から離して移乗作業が終了する。また、ローラクッション18から体重移動した後、臀部がローラクッション18から開放された状態となるので、自助動作が可能な被介護者40は、この状態で衣服の着脱を行う。また、トイレからベッド等へ戻る場合も、上記と同様の動作を行う。

【0028】
この実施形態の移乗器具10によれば、簡単な構造で被介護者40の移乗動作が容易且つ安全であり、介護者が被介護者40の前方から移乗作業を確実に補助することができ、介護者の負担も軽減することができる。さらに、トイレや車椅子への移動に容易に使用することができ、車椅子を利用する被介護者40の活動範囲を広げ、生活の質を改善することができる。また、介護者の作業姿勢が楽なように改善され、足腰の重量負荷を軽減し、在宅介護や老々介護の場合も使いやすいものである。さらに、被介護者40は、ローラクッション18に大腿部を載せて、容易に胸部保持部材30へ移動することができる。しかも、被介護者40が胸部保持部材30に上半身の体重を預けた状態で、介護者が移乗器具10を押してキャスタ40により長い距離を移動させることができる。

【0029】
その他、ローラクッション18は軸周りに回転するため、移乗器具10の乗り降りの動作がきわめて容易で安全なものとなる。ローラクッション18の回転により、腰を上げることなく滑りを可能とし、移乗器具10に乗っているときに、被介護者40は安定した位置にくるように座る位置を前後に調整することができる。被介護者40がローラクッション18から離れる後ろ方向に移動すると、臀部をローラクッション18から離して開放することができ、トイレの前後に衣服を着脱する介護を容易に行うことができ、胸部保持部材30に体を預けた姿勢のままで衣服の着脱が可能となり、転倒を防止して安全なものとなる。また、トイレの自助動作を容易にして介助を最低限に抑えて尊厳を守ることができる。

【0030】
次に、この発明の第一実施形態の変形例について、図3を基にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の部材は同様の符号を付して説明を省略する。この移乗器具10は、ローラクッション18に代えて、抵抗が軽減され滑りの良い生地等により表面が覆われた支持面45を備えたものである。支持面45も、ローラクッション18と同様に、第一支柱16間を任意の位置にロック可能に上下動可能である。

【0031】
また、図4に示すように、ローラクッション18a,18bが中央部で分割されており、各ローラクッション18a,18bが片持ち状態で回転可能に支持されていても良い。これにより、脚部を容易にローラクッション18a,18bに載せることができ、より移乗が容易となる。さらに、各ローラクッション18a,18bが弾性的に上下左右に揺動可能に設けられていると良い。これにより、より容易に移乗が可能となる。

【0032】
次に、この発明の第二実施形態について、図5、図6を元にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の部材は同様の符号を付して説明を省略する。この実施形態の移乗器具50は、床面にほぼ水平に位置する金属製などの所定長さのフレームで作られた第一基材52と、第一基材52の両端部にほぼ直角に交差する一対の第二基材54が、H字形に連結されて設けられている。

【0033】
第一基材52の長手方向の途中には、上方に向かって第一支柱56と第二支柱58が設けられている。第一支柱56と第二支柱58は互いに同形で、断面形状が四角形の中空のフレームであり、第一支柱56、第二支柱58のそれぞれ下端部56a,58aは、連結部材60を介して、第一基材52に沿って互いに所定距離はなれて取り付けられている。第一支柱56、第二支柱58は、第一基材52の長手方向を含む垂直な面を回動可能に、連結部材60に軸止されている。

【0034】
第一支柱56、第二支柱58のそれぞれ上端部56b,58bには、第一基材52に対してほぼ平行な1個の取付部材62が設けられている。取付部材62は、第一基材52よりも短いフレームで作られ第一基材52の長手方向を含む垂直な面に位置している。第一支柱56、第二支柱58の上端部56b,58bは、下端部56a,58aと同じ間隔で取付部材62に取り付けられ、第一支柱56と第二支柱58は互いに平行に位置している。さらに、第一支柱56、第二支柱58は、第一基材52の長手方向を含む垂直な面を回転可能に軸止され、第一支柱56、第二支柱58、第一基材52、取付部材62からなる平行四辺形のリンク構造となっている。取付部材62の一方の端部は第一支柱56の上端部56bに位置し、他方の端部は第二支柱58の上端部58bを通過して外側に突出し、被介護者を介護する介護者44が使用する介護者用ハンドル63が設けられている。介護者用ハンドル63は、取付部材62の長手方向に対して直角に交差してほぼ水平に両側に突出する棒体である。

【0035】
第二支柱58の下端部58aより少し上の位置には、姿勢保持部材であるガススプリング28が設けられている。ガススプリング28の上端部は第二支柱58に軸止され、下端部は第一基材52の端部に連結された第二基材54の、第一基材52の延長線上の位置に軸止されている。ガススプリング28は第二支柱58の傾きを制御するものである。

【0036】
第一支柱56、第二支柱58の途中には、ガススプリング28と反対側に突出する胸部保持部材30が設けられている。胸部保持部材30は、被介護者40の胸の前側を覆う矩形の板状に形成され、被介護者40に当接する表面にはクッション材が取り付けられている。胸部保持部材30の裏面には支持部材67が突出して設けられ、支持部材67の先端には、第一支柱56、第二支柱58を挟んで交差して軸止する一対の取付部材68が設けられている。支持部材67、取付部材68は所定長さのフレームで作られている。胸部保持部材30は、支持部材67、取付部材68を水平にしたとき上端側が第一支柱56に近づく方向に僅かに傾斜している。取付部材68には、第一支柱56、第二支柱58に当接する位置に孔部69が形成され、また第一支柱56、第二支柱58には長手方向に孔部69に連通する孔部57,59がそれぞれ長手方向に沿って複数形成されている。取付部材68の孔部69を、第一支柱56、第二支柱58の任意の位置の孔部57,59に一致させてボルト等が挿通されて、第一支柱56、第二支柱58の高さを調整して回転可能に取り付けられている。一対の取付部材68の、胸部保持部材30と反対側の端部は、第二支柱58を通過してガススプリング28側へ突出し、被介護者用ハンドル65が設けられている。被介護者用ハンドル65は、一対の取付部材68をほぼ直角に貫通してほぼ水平に両側へ突出する棒体である。

【0037】
第二支柱58の、ガススプリング28の取付位置よりも少し上方に、介護者44用の足踏みペダル72が設けられている。足踏みペダル72は、第二支柱58から第一基材52に沿う方向に突出し、わずかに下方へ傾斜する棒部材である。

【0038】
第一基材52の下端面には、第一支柱56の取付位置の近傍に、被介護者40が足を乗せるステップ74が設けられている。ステップ74は、第一基材52にほぼ直角に交差してほぼ水平に両側へ突出する棒体である。

【0039】
第一基材52の、第一支柱56よりも胸部保持部材30の突出する方向に移動した位置に、被介護者40の大腿部を受ける支持面である大腿部保持部材のローラクッション18が設けられている。ローラクッション18は、第一基材52の長手方向に直角に交差してほぼ水平な方向を中心軸とし、回転可能であり、ローラクッション18の中心部が取付部材70の上端部に連結されている。取付部材70は被介護者40の体重を受けるため強度が高いフレームで作られ、取付部材70の下端部は第一基材52に取り付けられている。取付部材70は、移乗時に乗りやすいように下げることができ、被介護者40の膝の位置や身長に合わせて伸ばした際の固定高さを変えることができる。一対の第二基材54の下側面には、キャスタ15が設けられている。キャスタ15は、一対の第二基材54のそれぞれ両端部に計4個が設けられている。

【0040】
次に、この実施形態の移乗器具50の使用方法について図5に基づいて説明する。ここでは、ベッドや椅子76に腰掛けている被介護者40を、椅子76から椅子76近傍に置いた図示しないトイレ等に座らせる動作を例に説明する。まず被介護者40の前に、移乗器具50を持って介護者44が立ち、移乗器具50の胸部保持部材30を被介護者40に向ける。そして被介護者40は、座位のままで移乗器具50のローラクッション18が膝裏付近に来るように、ローラクッション18側方から足を差し入れ、ローラクッション18上を体重移動させながら滑り込むようにして乗り込み、椅子76から離れる。このときローラクッション18が回転するので乗り込み動作が容易である。乗り込むときに、被介護者40が胸部保持部材30を手で持ち、引き寄せると簡単に移動する。被介護者40はローラクッション18に大腿部を載せて体重をかけた状態となる。そして、介護者44がキャスタ40を転がしながら移乗器具50を水平方向に移動させ、椅子76から離れ、次に回転させて被介護者40の背面が目的のトイレ等に向くようにする。この方向転換は介護者44が介護者用ハンドル63により行う。

【0041】
次に、被介護者40はローラクッション18から離れるように移動してトイレに移り、移乗器具50から降りて移乗作業が終了する。移乗器具50から降りる動作は、ローラクッション18が回転するため容易である。ローラクッション18から降りる途中で、臀部がローラクッション18から開放された状態となり、自助動作が可能な被介護者40は、この状態で衣服の着脱を行う。不可能な場合は介護者44が行う。

【0042】
なお、椅子76がある程度硬いものであれば、被介護者40がローラクッション18に乗り込み、胸部保持部材30を持って引き寄せることで臀部が椅子76から上がることができ、第一支柱56、第二支柱58を固定したままで傾動させる必要が無い。しかし、椅子76が柔らかくで体重によるくぼみが大きいときは、臀部が食い込んで抵抗が大きいため乗り移ることが困難であり、第一支柱56、第二支柱58を傾動させて、椅子76から離れる動作を補助する。まず、被介護者40がローラクッション18に少し乗っている状態で被介護者40の胸部を胸部保持部材30に当て被介護者用ハンドル65を握らせる。両足はステップ74にのせる。この状態で介護者44は、足踏みペダル72に片足を載せながら介護者用ハンドル63を介護者44の手前に引く。すると第一支柱56、第二支柱58が回転し、被介護者40を前方向に引き出し、体重が胸部保持部材30にかかり、臀部が椅子76とローラクッション18から離れて開放される。なお第一支柱56、第二支柱58が回動するとき、倒れる方向にはガススプリング28の反発力が抵抗となって動作を安定にし、起こす際にはガススプリング28の反発力が動作を助け、介護動作を補助する。また、ガススプリング28により、第一支柱56、第二支柱58の傾倒動作において、任意の角度で容易に姿勢を維持可能にしている。この状態で介護者44が移乗器具50を椅子76から離れるほうへ移動すると被介護者40は椅子76から離れる。

【0043】
また、トイレの前後で衣服を着脱する際に、被介護者40の残存能力に合わせて、臀部をローラクッション18から広く離す必要がある場合も、第一支柱56、第二支柱58を倒す。第一支柱56、第二支柱58が回転し、被介護者40を被介護者40の前方向に引き出し、体重が胸部保持部材30にかかり、臀部がローラクッション18から離れて開放される。そして衣服の着脱の介護をした後は、第一支柱56、第二支柱58の傾斜を戻して被介護者40を一旦ローラクッション18に降ろしてからローラクッション18を移動してトイレに移り、移動作業が終了する。

【0044】
この実施形態の移乗器具50によれば、簡単な構造で被介護者40の乗り降りの動作が容易で安全であり、確実に移乗作業を補助することができ、介護者44の負担を軽減することができる。介護者44の人力による操作を基本とし、ガススプリング28はサポートする目的で取り付けられた小形のものであり、装置が小形・軽量で可搬性に富むものである。さらに、トイレや車椅子への移動に使用することができ、車椅子を利用する被介護者40の活動範囲を広げ、生活の質を改善することができる。介護者44の作業姿勢が楽なように改善され、足腰の重量負荷を軽減し、在宅介護や老々介護を支援することができる。被介護者40は、ローラクッション18に大腿部を当接して体重をかけて安定して座ることができ、座った状態で介護者44が移乗器具50を押してキャスタ40により長い距離を移動させることもできる。

【0045】
ローラクッション18は軸周りに回転するため、移乗器具50の乗り降りの動作が容易で安全なものとなる。ローラクッション18の回転により、腰を上げることなく滑りを可能とし、移乗器具50に乗っているときに、被介護者40は安定した位置にくるように座る位置を前後に調整することができる。被介護者40がローラクッション18から離れる後ろ方向に移動すると、臀部をローラクッション18から離して開放することができ、トイレの前後に衣服を着脱する介護を容易に行うことができる。

【0046】
第一支柱56、第二支柱58はリンク構造となり、強度が高く、安全に被介護者40の身体を前上方に押し上げ、椅子76から離れて移動させることができる。第一支柱56、第二支柱58を傾動させても胸部保持部材30と被介護者用ハンドル65の角度や高さが大きく変化することが無く、自然な動きとなる。肘掛けが固定された椅子や車椅子でも、肘掛が邪魔にならず、円滑に方向を変えることができる。

【0047】
第一支柱56、第二支柱58と、胸部保持部材30は、第一支柱56、第二支柱58の孔部57,59に胸部保持部材30の孔部69を一致させて連結するため高さ調節が可能であり、被介護者40の身長や運動能力に合わせて調節することができる。

【0048】
また、被介護者40はローラクッション18上を移動したり胸部保持部材30に寄りかかって擬似的な立位移乗をすることで、足で自分の体重の一部を支えて下肢訓練を促し、リハビリや介護予防に結びつく効果がある。被介護者40の足は固定されていないため、自由に動かすことができ、被介護者40の意思で身体を支えることができる。第一支柱56、第二支柱58を傾動するときは、上体の前傾を増して自然な立ち上がり状態に近づけることができる。

【0049】
なお、この発明の移乗器具は、上記実施形態に限定されず、各部材は適宜変更可能である。例えば支持面である大腿部保持部材は、回転せずに滑りの良い素材でも良く、滑りの良い素材を表面に設けることにより、前方移動動作を容易にすることができる。また、腰部に当てるベルトの内側には、クッション材を設けても良い。さらに、ガススプリングはコイルスプリング等その他の伸縮要素を用いても良い。胸部保持部材やローラクッション、被介護者用ハンドルは、被介護者の体形に合わせて位置や角度を調整可能としても良い。各部材は形状や素材等、自由に変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 移乗器具
12 基材
14 板部材
15 キャスタ
16 第一支柱
18 ローラクッション
19 溝部
20 取付部材
22 取付板
24 第二支柱
26 軸部材
28 ガススプリング
30 胸部保持部材
40 被介護者
44 介護者
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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