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明細書 :中性子検出装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5846574号 (P5846574)
公開番号 特開2013-053870 (P2013-053870A)
登録日 平成27年12月4日(2015.12.4)
発行日 平成28年1月20日(2016.1.20)
公開日 平成25年3月21日(2013.3.21)
発明の名称または考案の名称 中性子検出装置
国際特許分類 G01T   3/06        (2006.01)
G01T   3/04        (2006.01)
G01T   1/26        (2006.01)
FI G01T 3/06
G01T 3/04
G01T 1/26
請求項の数または発明の数 8
全頁数 25
出願番号 特願2011-190790 (P2011-190790)
出願日 平成23年9月1日(2011.9.1)
審査請求日 平成26年9月1日(2014.9.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】石田 武和
【氏名】藤巻 朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
審査官 【審査官】藤本 加代子
参考文献・文献 特開2008-134153(JP,A)
特開2009-115818(JP,A)
特開昭59-048671(JP,A)
特開2003-014861(JP,A)
特開2005-286245(JP,A)
特開2009-232311(JP,A)
特開2008-182157(JP,A)
石田武和 他,MgB2中性子検出器の基礎実験と応用可能性の検討,JAERI-Conf 2003-021,日本,日本原子力研究所,2004年 2月,第404-414頁
戦略的創造研究推進事業CREST 「超伝導量子ビットシステムの研究開発」研究終了報告書,蔡 兆伸,CREST 研究終了報告書,日本,科学技術研究開発機構,2009年,第69-150頁
調査した分野 G01T 1/26
G01T 3/00-3/08
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
1つの中性子と中性子検出用物質との核反応によって熱エネルギーを伴って生成され、異なる方向へ放射される少なくとも2つの粒子のうち、一の粒子の前記熱エネルギーを受容した場合に電子状態の変化が生じる第1粒子検出素子を複数個並列に配置してなるX座標検出素子群と、
他の粒子の前記熱エネルギーを受容した場合に電子状態の変化が生じる第2粒子検出素子を複数個並列に配置してなるY座標検出素子群とを備え、
各第1粒子検出素子は縦方向へ長く伸びる領域を有する超伝導物質であり、前記X座標検出素子群はそれらの第1粒子検出素子が横方向に並び、何れの第1粒子検出素子が前記一の粒子に係る電子状態の変化を検出したかに基づいて前記核反応がおこった位置のX座標を検出し、各第2粒子検出素子は、横方向へ長く伸びる領域を有する超伝導物質であり、前記Y座標検出素子群はそれらの第2粒子検出素子が縦方向に並び、何れの第2粒子検出素子が前記他の粒子に係る電子状態の変化を検出したかに基づいて前記核反応がおこった位置のY座標を検出し、
各第1粒子検出素子は、前記第1粒子の熱エネルギーの受容によって超伝導電子対が減少する電子状態の変化を運動インダクタンスの変化として検出し、
各第2粒子検出素子は、前記第2粒子の熱エネルギーの受容によって超伝導電子対が減少する電子状態の変化を運動インダクタンスの変化として検出することを特徴とする中性子検出装置。
【請求項2】
前記中性子検出用物質が、隣り合う第1粒子検出素子と第1粒子検出素子との間、隣り合う第2粒子検出素子と第2粒子検出素子との間、または各第1粒子検出素子と各第2粒子検出素子との間の何れかに少なくとも配置される請求項1に記載の中性子検出装置。
【請求項3】
前記中性子検出用物質が、第1粒子検出素子および/または第2粒子検出素子に用いられる請求項1または2に記載の中性子検出装置。
【請求項4】
超伝導リングの一部にジョセフソン接合を形成してなるSFQ回路をさらに備え、
前記SFQ回路は、所定時間T1ごとに所定の磁束を有する検出用SFQパルスを入力する検出用SFQパルス入力部と、前記運動インダクタンスの変化による前記超伝導リング内のジョセフソン電流の変化に基づき前記運動インダクタンスの変化を検出する運動インダクタンス検出素子群とを含み、前記第1粒子検出素子または第2粒子検出素子の一つと磁気結合されてなる請求項1~3の何れか一つに記載の中性子検出装置。
【請求項5】
前記SFQ回路は、尤度判定回路を備え、
前記尤度判定回路は、前記時間T1より長い所定時間T2ごとに判定用SFQパルスを入力する判定用SFQパルス入力部と、前記判定用SFQパルスの入力時に、前記検出用SFQパルス入力部により入力された前記検出用SFQパルスの数のうち、前記運動インダクタンスの変化を検出した前記検出用SFQパルスの数が所定の数以上であるとき、前記運動インダクタンスの変化が検出されたものと判定する検出判定部とを備える請求項に記載の中性子検出装置。
【請求項6】
前記X座標検出素子群および前記Y座標検出素子群により検出されたX座標およびY座標をデジタル化されたアドレス値として出力するアドレス生成回路をさらに備える請求項1~の何れか一つに記載の中性子検出装置。
【請求項7】
前記中性子検出用物質が10Bを含み、前記粒子は、中性子と10Bとの核反応によって生成され相反する方向に放射されるアルファ線とリチウム線の2つの粒子である請求項1~の何れか一つに記載の中性子検出装置。
【請求項8】
前記中性子検出用物質がMgB2を含む請求項1~の何れか一つに記載の中性子検出装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、中性子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子によるイメージング技術(中性子ラジオグラフィ)は、X線やガンマ線を用いた解析技術と同様に、中性子線が物質を通り抜ける性質を利用して物質内部を観察する技術である。中性子ラジオグラフィは、金属など重い元素の撮影に適したX線と異なり水素や炭素など軽元素の観察に適しており、生物や水分を多く含む物質の観察を可能にする。また、感度が高いため、映像として実時間観察できるなどの特徴を有し、生物中の水分の移動の様子などが観察できる。さらに、一般の金属には中性子の吸収が少ないという特性を活かし、機械内部を移動する燃料やオイルの様子も観察可能である。また、磁気モーメントを有するという特性を活かし、磁気分布を調べることも可能である。
【0003】
このような中性子線の特性を活かし、燃料電池内の水のダイナミクスを高空間分解能の動画として観測したいとの要望がある。また、サブミクロンの分解能で大画素化が実現できれば、スピン偏極中性子源を用いて磁性体材料におけるスピンの運動の様子を高速観察できるため、スピントロニクスなど最先端の研究を支援する強力なツールとなる。それゆえ、大画素化の実現、特にサブミクロンの高空間分解能でリアルタイムに観測できる中性子ラジオグラフィの技術が求められている。大強度陽子加速器施設J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)利用者協議会においては、「燃料電池」「蓄電デバイス」分野において2015年に1μmの空間分解能、2030年に10msのフレーム時間が全体構想として掲げられている。
【0004】
ところで、中性子ラジオグラフィの検出装置としては、ガス放電方式を用いたものやシンチレーション方式を用いたもの、イメージングプレートを用いたものなど様々な方式のものが挙げられる。前述の構想に応え得る高分解能、高速の中性子検出装置としては、ナノワイヤ状に微細加工した超伝導元素からなる検出素子を縦横にマトリックス状に配置した中性子検出装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。それらの検出素子と中性子との核反応に伴う発熱による検出素子の電子状態の変化を電気抵抗値の変化として測定するものである。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】WO2006-095659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高温超伝導体を利用した中性子検出装置を用いて大画素化を実現しようとする場合、例えば、百万画素の中性子検出システムを構築しようとすると、縦横あわせて百万個の検出素子をマトリックス状に配置する必要がある。そして、個々の検出素子に駆動電流を流す必要があり、単純に見積もっても駆動電流用に百万本、出力用に百万本の、計2百万本ものケーブルが最低限必要となる。その実現は不可能とはいえないまでも著しく困難といえる。
【0007】
また、検出素子と中性子との核反応に伴う発熱によって生じる電気抵抗の変化を検出する場合、前記核反応に伴う検出装置の発熱やケーブルからの熱流入により検出素子の超伝導状態が壊れ、検出装置の正常な動作を妨げる可能性がある。検出素子の個数が増大するに従い、発熱や熱流入に伴う前述の問題が顕在化する。
【0008】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、マトリックス状に検出素子を配置する従来の構成よりも少ない個数の検出素子で同じ空間分解能を有する中性子検出装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、1つの中性子と中性子検出用物質との核反応によって熱エネルギーを伴って生成され、異なる方向へ放射される少なくとも2つの粒子のうち、一の粒子の前記熱エネルギーを受容した場合に電子状態の変化が生じる第1粒子検出素子を複数個並列に配置してなるX座標検出素子群と、他の粒子の前記熱エネルギーを受容した場合に電子状態の変化が生じる第2粒子検出素子を複数個並列に配置してなるY座標検出素子群とを備え、各第1粒子検出素子は縦方向へ長く伸びる領域を有する超伝導物質であり、前記X座標検出素子群はそれらの第1粒子検出素子が横方向に並び、何れの第1粒子検出素子が前記一の粒子に係る電子状態の変化を検出したかに基づいて前記核反応がおこった位置のX座標を検出し、各第2粒子検出素子は、横方向へ長く伸びる領域を有する超伝導物質であり、前記Y座標検出素子群はそれらの第2粒子検出素子が縦方向に並び、何れの第2粒子検出素子が前記他の粒子に係る電子状態の変化を検出したかに基づいて前記核反応がおこった位置のY座標を検出することを特徴とする中性子検出装置を提供するものである。
【0010】
この発明で、中性子検出用物質の具体的な一例としては、二硼化マグネシウム(MgB2)が挙げられる。その場合、核反応により放射される粒子は4He(アルファ線)と7Li(リチウム線)である。
熱エネルギーを受容するとは、粒子の持つ熱エネルギーによって第1または第2粒子検出素子の特性、特に電子状態の変化が生じることをいう。何らかの手段でその電子状態の変化が検出できれば特に検出手法は限定されないが、後述する実施例においては、電子状態の変化を運動インダクタンスの変化として検出している。
【0011】
この発明による中性子検出装置は、横方向に複数個の第1粒子検出素子が並ぶX座標検出素子群を備えており、何れの第1粒子検出素子に電子状態の変化があったかによって核反応がおこった位置のX座標を検出する。また、縦方向に複数個の第2粒子検出素子が並ぶY座標検出素子群を備えており、何れの第2粒子検出素子に電子状態の変化があったかによって核反応がおこった位置のY座標を検出する。
【0012】
この発明の中性子検出装置は、ある時点においては中性子が一カ所にしか衝突せず、通常は複数箇所に同時に中性子が衝突することはないことを前提としており(仮にそのような事象が生じても確率が低ければよい)、衝突が順次発生しそれによる核反応の位置を検出するものである。
例えば、中性子検出用物質がMgB2で、核反応により放出される粒子がアルファ線とリチウム線の場合、それらのうち何れが第1粒子であるかは問わない。さらに、中性子とMgB2との衝突が順次発生するとき、第1粒子検出素子が一貫してアルファ線またはリチウム線を検出すると限定するものではなく、あるときは第1粒子検出素子がアルファ線を検出し、その次はリチウム線を検出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明の中性子検出装置によれば、中性子と中性子検出用物質との核反応に伴って異なる方向へ放射される2つの粒子のうちの一つの粒子をX座標検出素子群で検出し、他の粒子をY座標検出素子群で検出することによりマトリックス状に検出素子を配置する構成よりも少ない個数の検出素子で同じ空間分解能を有する中性子検出を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】従来の中性子検出装置の説明図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る中性子検出素子による中性子測定の一例を示す説明図である。
【図4】図1の中性子検出装置のA-A矢視方向断面図である。
【図5】中性子と10Bとの核反応の一例を示す説明図である。
【図6】この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置内の中性子と10Bとの核反応の一例を示す説明図である。
【図7】この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置のSFQ(単一磁束量子)回路および尤度判定回路を示す回路図である。
【図8】この発明の第1実施形態に係るSFQ回路および尤度判定回路の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置の構造を示す断面図である。
【図10】この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置の製造プロセスを示す説明図である。
【図11】この発明の第2実施形態に係る中性子検出装置の構造を示す断面図である。
【図12】この発明の第2実施形態に係る中性子検出装置内の中性子と10Bとの核反応の一例を示す説明図である。
【図13】この発明の第3実施形態に係る中性子検出素子を示す説明図である。
【図14】この発明の第1実施形態に係る中性子検出素子の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明による中性子検出装置において、前記中性子検出用物質が、第1粒子検出素子および/または第2粒子検出素子に用いられてもよい。
このようにすれば、第1粒子検出素子および/または第2粒子検出素子と中性子とが核反応がおこったときに放射される粒子のうち第1粒子を何れかの第1素子検出素子で検出し、第2粒子を何れかの第2粒子検出素子で検出することにより前記核反応がおこった位置のXおよびY座標を特定することができる。

【0016】
この発明による中性子検出装置において、前記中性子検出用物質が、隣り合う第1粒子検出素子と第1粒子検出素子との間、隣り合う第2粒子検出素子と第2粒子検出素子との間、または各第1粒子検出素子と各第2粒子検出素子との間の何れかに少なくとも配置されるものであってもよい。
このようにすれば、隣り合う第1粒子検出素子と第1粒子検出素子との間、隣り合う第2粒子検出素子と第2粒子検出素子との間、または各第1粒子検出素子と各第2粒子検出素子との間の何れかに少なくとも配置された中性子検出用物質と中性子とが核反応を生じたときに放射される粒子のうち第1粒子を何れかの第1素子検出素子で検出し、第2粒子を何れかの第2粒子検出素子で検出することにより前記核反応がおこった位置のXおよびY座標を特定することができる。また、第1粒子検出素子および第2粒子検出素子が中性子検出用物質を含まなくてもよいため、それらの検出素子として任意の高温超伝導体を用いることができる。

【0017】
この発明による中性子検出装置において、各第1粒子検出素子は、前記第1粒子の熱エネルギーの受容によって超伝導電子対が減少する電子状態の変化を運動インダクタンスの変化として検出し、各第2粒子検出素子は、前記第2粒子の熱エネルギーの受容によって超伝導電子対が減少する電子状態の変化を運動インダクタンスの変化として検出するものであってもよい。
このようにすれば、各第1粒子検出素子および各第2粒子検出素子が第1および第2粒子の熱エネルギーの受容をジュール熱の発生を伴う電気抵抗の変化ではなく、運動インダクタンスの変化によりそれぞれ検出するので熱がほとんど発生しない。

【0018】
この発明による中性子検出装置において、超伝導リングの一部にジョセフソン接合を形成してなるSFQ(単一磁束量子)回路をさらに備え、前記SFQ回路は、所定時間T1ごとに所定の磁束を有する検出用SFQパルスを入力する検出用SFQパルス入力部と、前記運動インダクタンスの変化による前記超伝導リング内のジョセフソン電流の変化に基づき前記運動インダクタンスの変化を検出する運動インダクタンス検出素子群とを含み、前記第1粒子検出素子または第2粒子検出素子の一つと磁気結合されてなるものであってもよい。
このようにすれば、微弱な磁場変化を検出可能なSFQ回路を備える中性子検出装置を用いることにより、前記熱エネルギーを受容した場合に生じる超伝導電子対の減少を運動インダクタンスの変化として高感度に検出できる。

【0019】
この発明による中性子検出装置において、前記SFQ回路は、尤度判定回路を備え、前記尤度判定回路は、前記時間T1より長い所定時間T2ごとに判定用SFQパルスを入力する判定用SFQパルス入力部と、前記判定用SFQパルスの入力時に、前記検出用SFQパルス入力部により入力された前記検出用SFQパルスの数のうち、前記運動インダクタンスの変化を検出した前記検出用SFQパルスの数が所定の数以上であるとき、前記運動インダクタンスの変化が検出されたものと判定する検出判定部とを備えるものであってもよい。
このようにすれば、尤度判定回路により前記運動インダクタンスの変化を示すSFQパルスの数を数え、多数決の原理によってさらに高い感度で運動インダクタンスの変化を検出することができる。

【0020】
この発明による中性子検出装置において、前記X座標検出素子群および前記Y座標検出素子群により検出されたX座標およびY座標をデジタル化されたアドレス値として出力するアドレス生成回路をさらに備えるものであってもよい。
このようにすれば、検出されたX座標およびY座標の値をデジタル化されたアドレス値として出力することにより、例えば、X座標検出素子群がN本のX座標検出素子を有する場合に、外部の室温領域へ信号を送るための信号線の数をデジタル化しない場合のN本に比べてlog2N本に削減することが可能となる。

【0021】
この発明による中性子検出装置において、前記中性子検出用物質が10Bを含み、前記粒子は、中性子と10Bとの核反応によって生成され相反する方向に放射されるアルファ線とリチウム線の2つの粒子であってもよい。
このようにすれば、中性子と反応してアルファ線とリチウム線の2つの粒子が相反する方向に放射することが知られている10Bを用い、かつ相反する方向に放射される2つの粒子を用いることにより、2つの粒子の放射方向に関わらずXおよびY座標を特定できるため、中性子の検出効率を高めることができる。

【0022】
この発明による中性子検出装置において、前記中性子検出用物質がMgB2を含むものであってもよい。
このようにすれば、中性子検出用物質として、加工しやすい高温超伝導体であるMgB2を用いて中性子検出装置を実現することができる。

【0023】
ここで示した種々の好ましい態様は、それら複数を組み合わせることもできる。以下、図面に基づいてこの発明の第1実施形態に係る中性子検出装置について詳述する。なお、以下の説明はすべての点で例示であって、この発明を限定するものと解されるべきではない。

【0024】
<<第1実施形態>>
この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置について、図1~10に基づいて説明する。

【0025】
図1は、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置の概略構成を示す説明図である。
図1に示すように、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置100は、縦横に格子状に配置された複数本の直線状の中性子検出素子を備えることを特徴とする。縦方向(図1のY軸)に沿って伸びる複数本(N本)の中性子検出素子は、横方向(X軸方向)の位置を検出する第1粒子検出素子に相当し、それら第1粒子検出素子の集合がX座標検出素子群に相当する。図1ではそれらN本のうちの中性子検出素子の一つに符号1xを付して代表としている。また、横方向(図1のX軸)に沿って伸びる複数本(N本)の中性子検出素子は、縦方向(Y軸方向)の位置を検出する第2粒子検出素子に相当し、それら第2粒子検出素子の集合がY座標検出素子群に相当する。図1ではそれらN本のうちの中性子検出素子の一つに符号1yを付して代表としている。中性子検出素子1x,1yは、中性子検出用物質として、MgB2を含む高温超伝導材料からなり、液体ヘリウムを用いた冷凍機により超伝導転移温度Tc(MgB2の場合、約39K)以下(第1実施形態の場合、約4K)に冷却して超伝導状態にされている。なお、中性子検出装置100は、超伝導状態を維持するため、冷凍機の中に入れ、真空中に保持する。
X軸、Y軸および中性子が飛来する方向を示す矢印、1~Nの文字は説明のために付したものである。これは、図2についても同様である。
図2は、従来の中性子検出装置の説明図である。即ち、縦横にマトリックス状に中性子検出素子が配置された構成を、図1の構成と対比し易いように示したものである。

【0026】
図3は、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置100による中性子測定の一例を示す説明図である。
図3に示すように、中性子源101から放射された中性子をスリット102a,102b間を通り抜けて試料103に照射する。現在日本国内において利用可能な中性子源としては、J-PARCなどのパルス中性子源が挙げられる。このような加速器で発生させた陽子ビーム等の高エネルギービームを水銀原子核に衝突させることにより中性子を発生させる。

【0027】
試料103に照射された中性子のうちの一部は、試料103を通り抜け、試料103の裏側に突き抜ける。その他は、試料103の内部で吸収されたり散乱されたりする。そのため、試料103の裏側に中性子検出装置100を設置して中性子を測定すると試料103の様子を知ることができる。これが中性子ラジオグラフィの原理である。

【0028】
中性子検出装置100は、試料103を通り抜けた中性子が、格子状の中性子検出素子1x,1yからなる面に略垂直に照射されるように設置する。ここで、中性子検出装置は、窓部104を備えた断熱容器105の内部に設置され、中性子は、窓部104を介して中性子検出装置100に至る。窓部104には、薄いアルミ合金等の中性子透過性のある材質を用いる。

【0029】
図4は、図1の中性子検出装置のA-A矢視方向断面図である。
図5は、中性子が10Bに衝突して核反応がおこり、アルファ線とリチウム線の2つの粒子が相反する方向に放射する様子を模式的に示す説明図である。
10Bは、自然界に主に存在する質量数11の11Bの同位体であり、中性子を吸収して4Heと7Liを生成する核反応を行うことが知られている。この核反応は、電荷を持たないために検出が困難な中性子の検出に利用される。10Bは、特に冷中性子に対して反応確率が高いことが知られている。

【0030】
中性子nが10Bと核反応を起こすと、
10B+n→7Li+4He
の反応により、2つの粒子、4He(アルファ線)と7Li(リチウム線)とが生成され放射される。このとき、約2.3MeVの核反応熱が発生するが、この熱エネルギーは4Heと7Liとによって運び出される。4He、7Liの熱エネルギーはそれぞれ、0.88MeV、1.47MeVである。この核反応の特徴は、運動量保存則に従い、4Heと7Liとが互いに相反する方向に放射されることであり、この発明では、この特徴を利用する。
なお、4Heと7Liとが放射される方向は一定ではなく確率的(ランダム)に決定され、核反応ごとに異なる。また、超伝導状態のMgB2中においては、4He、7Liの飛程はそれぞれ4μm、2μm程度である。

【0031】
この発明の第1実施形態に係る中性子検出素子1x,1yにおいては、各素子の幅は0.5μmであり、隣接する素子間の間隔は1μm程度である。中性子検出素子1xと1yとの間の中間層は最大でも厚み1μm程度である。このため、4He、7Liが中間層の向こう側の中性子検出素子に飛んでいったとしても、核反応位置からの検出位置のずれは、前記飛程の限度を考慮すれば、大きくても1~3μm程度にすぎない。

【0032】
図6は、この発明の第1実施形態に係る中性子検出素子中の10Bと中性子との核反応の一例を示す説明図である。
図6に示すように、中性子Aが中性子検出素子1y中の10Bと衝突した場合、核反応により4Heと7Liとが相反する方向に放射され、7Liが近傍(飛程距離内)の中性子検出素子1xと衝突する。
X軸方向において、N個の中性子検出素子のうち何れに衝突があったかを検出することにより、前記核反応がおこった位置のX座標を検出することができる。Y軸方向においても同様に、N個の中性子検出素子のうち何れに衝突があったかを検出することにより、核反応がおこった位置のY座標を検出することができる。
もっとも、4Heと7Liとが放射される方向はランダムであるため、7Liが中性子検出素子1xと衝突せずに4Heが中性子検出素子1xと衝突する場合もある。しかし、この場合においても、4Heと7Liとは相反する方向に放射されるため、4Heと7Liの何れが中性子検出素子1xと衝突しても運動インダクタンスの変化が生じるので検出ができる。
なお、4Heと7Liの放射方向が中性子検出素子1xと略平行な方向の場合は、中性子検出素子1xとの衝突が生じない。よって、その場合は核反応のX座標を検出することはできない。しかし、中性子検出素子1xと1yとの間隔はたかだか1μm程度であるので、4Heと7Liの何れもが中性子検出素子1xと衝突を生じない確率は低い。また、ラジオグラフィでは多数の中性子を用いて試料を観察するため、一部の中性子が検出できなくても問題にならない。
なお、この発明の中性子検出装置を用いた測定においては、一つの中性子が検出されてから次の中性子が検出されるまでの時間は十分に長く、複数の箇所で同時に中性子が検出されることはほとんどないものとしている。この前提は、一つの中性子の検出に要する時間がナノ秒のオーダーと短いことから、利用可能な加速器の中性子発生頻度に照らして十分合理的である。また、この前提を満たすように中性子の発生を制御すればよい。

【0033】
一方、図6で中性子Bが中性子検出素子1yの間をすり抜けてその奥側の中性子検出素子1x中の10Bと衝突した場合、核反応により4Heと7Liとが相反する方向に放射され、4Heが近傍の中性子検出素子1yと衝突する。
このように、核反応により4Heと7Liとが何れの方向に放射されようとも、互いに直交方向に配列された中性子検出素子1xおよび1yの何れか一方または両方に高い確率で衝突が生じる。

【0034】
なお、中性子Cが中性子検出素子1yの間および1xの間をすり抜ける場合、核反応が生じないため中性子は検出されないが、このような確率は、図2に示すような従来のマトリックス状に中性子検出素子を配列する構成と比較しても十分に低い。また、第2実施形態において後述するように、中性子検出素子間に10Bを含めることにより、このような未検出は回避される。

【0035】
なお、放射される2つの粒子に限定されず、核反応により放射される粒子が3つ以上であってもよい。一つの核反応で中性子検出素子1xおよび1yに衝突するような方向を有する粒子が放射されればよい。

【0036】
このように、X軸方向に伸びるN本の中性子検出素子1x、Y軸方向に伸びるN本の中性子検出素子1yを格子状に合計で2N本配列することにより、N×Nの分解能で中性子を検出することができる。この発明によれば、図2のように縦横にマトリックス状にN×N個の中性子検出素子を配列する従来の構成と比較して中性子検出素子の数を著しく減少できる。

【0037】
第1実施形態においては、100万画素の空間分解能を実現するためには、X,Y方向にそれぞれ1000個の中性子検出素子1x,1yを配列すればよい。即ち、合計2000個の中性子検出素子で100万(=1000×1000)画素の空間分解能が実現できる。

【0038】
なお、これまでは、説明を単純にするため、4Heおよび7Liが中性子検出素子1xおよび1yの何れか一方または両方にそれぞれ衝突することを検出の条件とした。しかし、熱エネルギーの受容により中性子検出素子1xおよび1yの電子状態に変化が生じれば、検出が可能である。必ずしも粒子が中性子検出素子1x,1yに衝突する必要はない。例えば、熱エネルギーを有する粒子が中性子検出素子1xおよび1yの近傍を通り過ぎることによって、当該中性子検出素子1xおよび1yの電子状態の変化が生じる場合でも、検出が可能である。

【0039】
次に、上記電子状態の変化の検出方法について説明する。
図7は、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置のSFQ回路および尤度判定回路を示す回路図である。
図8は、この発明の第1実施形態に係るSFQ回路および尤度判定回路の構成を示すブロック図である。図7と図8の対応する要素には同じ符号を付している。図7で、「100GHzサンプリング」と記した端子部分は図8の「検出用SFQパルス入力部111」に相当する。図7で「1GHzサンプリング」と記した端子部分は図8の「判定用SFQパルス入力部121」に相当する。図7でSFQ回路110内の超伝導ループは図8の検出部112に相当し、図7で尤度判定回路120内の超伝導ループは図8の検出判定部122に相当する。

【0040】
第1実施形態に係る中性子検出装置100においては、電気抵抗がほとんど発生せず運動インダクタンスが増加するモードを、SFQ回路を用いて検出する。これにより、従来構成のように電気抵抗が発生することによる発熱の問題を回避する。
具体的には、熱エネルギーの受容によって超伝導電子対が減少する電子状態の変化を運動インダクタンスの変化として検出する。

【0041】
従来は、電気抵抗値の変化を検出する手法が用いられていた。この手法は、核反応による熱エネルギーの受容により中性子検出素子内に流れる超伝導電子対を常伝導状態に転移させて電気抵抗を発生させるものである。例えば、MgB2においては、超伝導転移温度Tc(約39K)近傍の30Kにおいて、このような現象が確認される。しかし、この手法は高解像度化に伴いジュール熱による発熱の問題が顕在化する。

【0042】
一方、熱エネルギーによる常伝導状態への移行が一部の超伝導電子対に留まる場合、即ち、中性子検出素子内の一部の超伝導電子対のみが常伝導状態に転移する場合、常伝導電子は電気抵抗を有するが、中性子検出素子内の電流はもっぱら電気抵抗のない超伝導電子対を通じて流れる。そのため、常伝導電子による電気抵抗による熱の発生は若干生じるものの、超伝導電子対が全て常伝導電子に転移する場合ほど大きなジュール熱の発生は生じない。

【0043】
このような超伝導状態が一部残存する状態においては、電気抵抗のない超伝導電子対が一部電気抵抗を有する常伝導電子対に転移することにより運動インダクタンスの変化が生じる。運動インダクタンスは、電子に対する慣性である。このような超伝導状態が一部残存する状態においては、超伝導電子対の一部が常伝導電子に移行することにより運動インダクタンスの変化ΔLが生じる。このような運動インダクタンスの変化は、超伝導転移温度Tc(約39K)よりずっと低い温度で生じ、MgB2の場合、少なくとも16Kにおいて観測されることが確認されている。また、Ginzburg-Landau理論による超伝導電子密度のダイナミクスの数値計算の結果も、25Kにおいて運動インダクタンスの変化の検出が可能であることが示されている。なお、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置においては、4Kの超伝導状態で検出を行う。

【0044】
しかしながら、1個の中性子反応による運動インダクタンスの変化ΔLは1pH程度であり、磁気的インダクタンスの変化よりも小さい。検出用回路自身の熱雑音や室温からの電磁波などの環境雑音等を無視できないほど小さいため(熱雑音自体は、積分でゼロになるにしても)、運動インダクタンスの検出用回路としては、非常に高感度なものが望まれる。また、運動インダクタンスの変化の時間幅が1ナノ秒程度と極めて短いため、従来のMKID(マイクロ波運動インダクタンス変化)法、マイクロ波SQUID周波数多重読み込み方式、時間領域分割方式が何れも利用できない。それゆえ、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置においては、運動インダクタンスの高感度検出法として、SFQ回路を用いる。

【0045】
SFQ回路を用いた運動インダクタンスの検出法においては、MgB2に中性子が入射すると、等価的にQOS(Quasi One Junction SQUID)のループインダクタンスが変化する。なお、運動インダクタンスの変化は、検出用回路と磁気結合によって非接触で検出可能である。磁気結合の詳細については後述する。

【0046】
SFQ回路は、超伝導リングの一部にジョセフソン接合を形成してなる単一磁束量子(Single Flux Quantum)回路である。超伝導体でリングを作るとリングの穴を通る磁束の量は1か0かのとびとびの値をとる。ジョセフソン接合は、ごく薄い絶縁膜を超伝導体の間に挟んで弱く結合させた構造であり、ジョセフソン接合を超伝導リングに挿入してDCバイアス電流を流すことにより、超伝導リング内の磁束量子を操作することができる。例えば、臨界電流値と呼ばれる一定電流量以上の電流が流れると磁束量子は絶縁膜を通り抜けて隣の超伝導リングに移り順次伝播していく。SFQが超伝導リングを通過すると、電圧パルス(SFQパルス)が発生する。
なお、SFQ回路の詳細は、例えば、特開2007-104332に記載されている。

【0047】
この発明の第1実施形態においては、1つの中性子検出素子(図1に示されるようにX軸方向にN本、Y軸方向にN本、合わせて2N本ある中性子検出素子のうちの何れか1本)に対し、1つのSFQ回路110および1つの尤度判定回路120がそれぞれ対応して検出を行う。即ち、1つのSFQ回路110および尤度判定回路120に1つの中性子検出素子(1xまたは1yの1本)が対応する。なお、環境雑音等が十分小さければ、尤度判定回路120を備えず、SFQ回路110のみ備える構成であってもよい。図1のように、合わせて2N本の中性子検出素子がある場合、それぞれの中性子検出素子に対して1個のSFQ回路110および尤度判定回路120が対応するものとすれば、合計2N個のSFQ回路110および尤度判定回路120が必要となる。

【0048】
SFQ回路110は、検出用SFQパルス入力部111および検出部112を備える。検出部112は、その回路的特性が図7に示すジョセフソン接合として表される。
尤度判定回路120は、判定用SFQパルス入力部121および検出判定部122を備える。検出判定部122は、検出部112のジョセフソン接合の超伝導ループと磁気的に結合した第2のジョセフソン接合を有している。
尤度判定回路120は、後述するアドレス生成回路130に判定結果を送信する。

【0049】
検出用SFQパルス入力部111は、所定時間T1(図7では10ピコ秒)ごとに磁束Φ0の検出用SFQパルスを入力する(100GHzサンプリング)。SFQパルスの入力は、例えば次のようにして行う。超伝導線で接続された超伝導リングの列からなるジョセフソン伝送経路にDCバイアス電流を流した状態で、末端の超伝導リングに微少な磁場を加えると、当該超伝導リングにSFQが一つ入る。超伝導リング中に進入した前記SFQは、当該超伝導リングに流れる電流から力を受けて隣接する超伝導リングに移動する。このSFQの移動に要する時間は、2~3ピコ秒程度と極めて短い時間である。それゆえ、SFQ回路にDCバイアス電流を流した状態で、10ピコ秒ごとに(即ち100GHzで)末端の超伝導リングに微少な磁場を加えることにより、定期的に検出用SFQパルスをSFQ回路内で発生させることができる。

【0050】
この発明の第1実施形態においては、例えば、Gifford-MacMahon(G-M)冷凍機等を用いて、中性子検出素子1x,1yと共にSFQ回路の温度を4Kに保つ。
また、磁気結合の方法としては、中性子検出素子1x,1yとSFQ回路との間に超伝導コンタクトをとることで実現される。例えば、MgB2コイルと電極パッド、ニオブ(Nb)コイルと電極パッドを正確に微細加工して、フリップチップボンダで接着することによって、超伝導コンタクトが実現できる。

【0051】
この発明の第1実施形態におけるSFQ回路においては、中性子検出素子内の運動インダクタンスの変化を1ナノ秒程度の短期間で検出する。そのため、100GHz(10ピコ秒間隔)のサンプリングパルス(SFQ信号)により100回のサンプリングを行って検出結果を得る。
ここで、Φ0の磁束を有するSFQ信号が、インダクタンスLを備える超伝導リングの一部のジョセフソン接合を通過するときに電圧が発生する運動インダクタンスLの変化をΔL、前記運動インダクタンスの変化ΔLによる前記超伝導リング内のジョセフソン電流Jの変化をΔJとすると、運動インダクタンスの変化ΔLがLよりも微小(ΔL/L≪1)であるとき、ジョセフソン電流の変化ΔJは、ΔJ≒JΔL/Lとなる。ここで、ジョセフソン電流J≒Φ0/Lとすると、ΔJ≒Φ0ΔL/L2となるため、ΔL≒L2ΔJ/Φ0より、ジョセフソン電流の変化ΔJより運動インダクタンスの変化ΔLが求められる。

【0052】
なお、SFQ回路による超伝導ループが大きい場合、振動などの影響により磁気雑音が現れる可能性がある。その場合、図14に示すようにキャパシタCを挿入して共振回路を構成し、中性子の入射によって共振周波数がずれることを利用して高いS/N比の検出を行うようにしてもよい。
この場合、Φ0の磁束を有するSFQ信号が、インダクタンスLを備える超伝導リングの一部のジョセフソン接合を通過するときに電圧が発生する運動インダクタンスLの変化をΔL(ΔL/L≪1)、キャパシタCが挿入された共振回路の共振周波数の変化をΔFとすると、共振周波数の変化ΔFは、ΔF≒(1/(2π(LC)1/2)(ΔL/2L))となる。ただし、感度を得るためには、サンプリング周波数fsが共振周波数frの整数倍である必要がある。図14に示す例においては、fs(100GHz)はfr(12.5GHz)の8倍となっている。キャパシタは、例えば、針状の細長いメタルパターンを交互に近接配置して電極とするインターデジタル構造で作製してチップとして集積化し、すべての中性子検出素子で共振周波数が同一となるように構成する。

【0053】
尤度判定回路は、多数決によって出力が1か0かを判定することにより、高感度の検出を可能にするものであり、デジタル無線通信等で用いられている尤度判定法と原理的に同じである。一般的に、N回の試行の尤度判定により、ノイズの影響を1/(N1/2)倍に低減することができる。これは、統計的には、N回の測定に対する測定結果のばらつき(即ち標準偏差σ)が1/(N1/2)に比例することに起因する。ノイズ即ち測定結果のばらつきの要因としては、SFQ回路の場合、シャント抵抗に起因するジョンソン雑音や、一部の常伝導粒子の電気抵抗に起因する熱雑音等の影響が挙げられる。前記シャント抵抗は、ジョセフソン接合にオーミックな電流を流すためにジョセフソン接合と並列に接続される抵抗である。シャント抵抗は、ジョセフソン接合に過度な電圧がかかることによって破壊されるのを防止する。

【0054】
判定用SFQパルス入力部121は、前記検出用SFQパルス入力部111のSFQパルス間隔T1より長い所定時間T2(図7では1ナノ秒)ごとに判定用SFQパルスを回路内に入力する。例えば、図7のように検出用SFQパルスを100GHzで(即ち10ピコ秒ごとに)入力し、判定用SFQパルスを1GHzで(即ち1ナノ秒ごとに)入力する場合、ある判定用SFQパルスの入力から次の入力までの間に、100回の検出用SFQパルスが検出部112に入力されることになる。この場合、ノイズの影響は1/10に低減される。ただし、良好な尤度判定を行うには、当該100回の試行回数の間(即ち、少なくとも1ナノ秒の間)運動インダクタンスの変化が持続している必要がある。

【0055】
検出用SFQパルス入力部111により入力された前記検出用SFQパルスによって検出部112の超伝導ループには、前記運動インダクタンスの変化が生じていない期間はゼロ、前記運動インダクタンスの変化が生じている期間は1の磁束Φ0が発生する。ただし、SFQパルスが微少なために運動インダクタンスの変化がない期間においてもノイズの影響で磁束Φ0が1になるときがあり、逆に運動インダクタンスの変化が生じている期間においても磁束Φ0がゼロになるときがある。
1の磁束Φ0は、検出部112の超伝導ループと磁気的に結合した検出判定部122の超伝導ループに蓄積される。ただし、図7に示すように、尤度判定回路には減衰抵抗Rが挿入されているため、検出判定部122の超伝導ループに蓄積された磁束Φ0は、しばらく時間がたつと消失する。消失までの時定数は、減衰抵抗Rおよび磁気結合に係るインダクタンス成分Lによって決まる。
核反応により放射された粒子の熱エネルギーを受容した中性子検出素子は、2~3ナノ秒程度の期間に渡って運動インダクタンスの変化が生じる。その期間に検出部112の超伝導ループに1の磁束Φ0が例えば100回発生すると、その磁束が検出判定部122の超伝導ループに蓄積されていく。1回目の発生から磁束Φ0が次第に蓄積されていき100に近づいていく。消失の時定数が十分長ければ、やがて100の磁束Φ0が蓄積される。その後、同じ中性子検出素子が別の粒子を受容するまでの間に、蓄積された磁束は消失する。
尤度判定回路120は、検出判定部122の超伝導ループに蓄積される磁束Φ0が所定の数以上であるとき、前記運動インダクタンスの変化が検出されたものと判定する。
第1実施形態においては、100回の検出用SFQパルスを入力したうち、カウンタにおいて試行結果が、50回よりも多ければ後述するアドレス生成回路に検出結果を出力し、小さければ出力しないというように多数決による尤度判定を行う。

【0056】
アドレス生成回路は、中性子検出装置に中性子が同時に複数の箇所に衝突することは稀で通常は一カ所にしか衝突しなないことを前提としている。J-PARCなどのパルス中性子源は、同時多数に発生するほど密度の高いものではないため、1つ1つの中性子が中性子検出素子に個別に衝突するものとみなすことができる。

【0057】
第1実施形態において、図1に示す中性子検出素子1xは、X軸方向に1~Nまで、N個が並んでいる。図7の「Ch.1」は、そのうち1つ目の中性子検出素子およびそれに対応するSFQ回路および尤度判定回路に相当する。「Ch.2」は、2つ目の中性子検出素子、SFQ回路および尤度判定回路に相当する。よって、図1との対応関係から、図7のSFQ回路および尤度判定回路は、X軸方向にCh.1~Ch.NまでNチャネルの対があり、Y軸方向にもCh.1~Ch.NまでNチャネルの対がある。
尤度判定回路は、各チャネルにつき、判定用SFQパルスを1GHzで(即ち1ナノ秒ごとに)中性子検出の有無を判定する。アドレス生成回路は、1ナノ秒の遅延をおいて1~Nまでの各チャネルを順次走査し、判定結果を調べる。100万画素の例では、N=1000である。その結果、1ナノ秒×1000=1μ秒の間に、1000個のチャネルのうち、どのチャネルに1個の中性子が検出されたのかが分かる。各チャネルを走査する周期、この場合は1μ秒が走査周期にあたる。各走査周期で、アドレス生成回路に検出結果を出力する。アドレス値は、10ビット(210=1024)に1~1000の各チャネルの値を対応させる。

【0058】
それゆえ、この発明の中性子検出装置で試料をフレーム時間1msで観察する場合、1フレーム時間あたり最大1000個の中性子を1フレームで観察することができる。なお、外部(室温領域)とやりとりする信号線の本数は、X方向で10ビット(10本)、Y方向で10ビット(10本)の合計20本となる。ただし、SFQ回路のDCバイアス電流や、温度をモニタするための温度素子用のケーブルが必要なことから、実際には、合計40~50本のケーブルが必要となる。
なお、フレーム時間等の数値は、この発明を限定するものではなく、観測対象の違いなど利用目的に応じて変更可能である。

【0059】
次に、図9~10を用いて、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置100の製造プロセスについて説明する。
図9は、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置の構造を示す断面図である。
図10は、この発明の第1実施形態に係る中性子検出装置の製造プロセスを示す説明図である。

【0060】
図10(a)に示すように、カルーセルスパッタリング装置を用いてマグネシウムおよび硼素を同時にスパッタリングし、サファイア(Al23)の単結晶の基材10上にMgB2薄膜1を形成する。なお、基材10は、サファイアに限定されず、誘電体などの非金属であればよい。また、MgB2薄膜の堆積方法は気相蒸着法であればよい。なお、図10においては、図10(d)を除き、紙面に垂直方向をY軸、紙面に沿った方向をX軸として説明する。
MgB2薄膜の形成方法の詳細については、例えば、特開2005-286245に記載されている。

【0061】
次に、図10(b)に示すように、レジストをMgB2薄膜1上に塗布し、電子ビームリソグラフィによりレジストパターン11を形成した後、電子サイクロトロン共鳴(ECR)エッチングを行う。これによって、図10の紙面奥行き方向に伸びた0.5μm幅のストライプ状に中性子検出素子1xを形成する。

【0062】
次に、図10(c)に示すように、レジストパターン11を除去した中性子検出素子1x上に酸化シリコン(SiO)を蒸着させて保護膜3を形成する。保護膜3は、MgB2の表面が直接空気に接するのを防止する。

【0063】
図10(d)は、図10(c)の中性子検出素子1xを、紙面に垂直方向をX軸、紙面に沿った方向をY軸として見たものである。中性子検出素子1xの両端部には電極4aを形成する。電極4a,4bは導電体であり、例えば金(Au)、アルミニウム(Al)またはチタン-金(AuTi)で形成される。中性子検出素子1xの両端部には電極4aを形成する。

【0064】
それらと別に、超伝導体としてNbの薄膜を重ねて形成される超伝導集積回路プロセスによりSFQ回路110、尤度判定回路120およびアドレス生成回路130に相当する回路が集積された超伝導ICチップ2を作成する。超伝導ICチップ2上には、SiO2からなる絶縁層9を形成し、中性子検出素子1xの電極4aに対応する位置に電極4bを形成する。

【0065】
次に、図10(e)に示すように、超伝導ICチップ2のSFQ回路が形成された面に対向するように、中性子検出素子1xを(フェイスダウン)実装する。具体的には、超伝導性を有する半田バンプ8を介したフリップチップボンディングにより、電極4a,4bが対向するように、超伝導ICチップ2のSFQ回路と中性子検出素子1xとを接着層5を挟んで接合する。接着層5としては、接着剤の代わりに熱圧着シートを用いてもよい。なお、半田バンプ8の材料としては、鉛錫(Pb-Sn)合金、鉛インジウム金(Pb-In-Au)合金などの超伝導材料が用いられ、ボールボンディング法により形成される。
また、MgB2からなる図7の等価回路上のコイルとNbからなる図7の等価回路上のコイルの位置合わせも前述のフリップチップボンディングによってなされる。

【0066】
次に、図10(f)に示すように、さらに中性子検出素子1x上に、中性子検出素子1x,1yの伸びる方向が互いに直交するように中性子検出素子1yを実装し、中性子検出素子1xと同様に、超伝導ICチップ2と超伝導コンタクトによる磁気結合を行う。

【0067】
最後に、中性子検出素子1x、中性子検出素子1yおよび超伝導ICチップ2を封止樹脂6によって封止する。

【0068】
なお、2組の中性子検出素子を張り合わせた状態で、中性子検出素子1xおよび1y間の距離が、4He、7Liの飛程(それぞれ4μm、2μm)を超えないように構成するように留意すべきである。
また、変形例として、薄膜1xおよび1yがNb等の超伝導物質で、保護膜3がMgB2を含むようにしてもよい。

【0069】
<<第2実施形態>>
次に、図11、図12を用いて、この発明の第2実施形態に係る中性子検出装置100aについて説明する。
図11は、この発明の第2実施形態に係る中性子検出素子からなる中性子検出素子の構造を示す断面図である。
第1実施形態との違いは、中性子検出装置1xおよび1y中に10Bを含まず、それらの中間に10Bを含む核反応層7を備える点である。
なお、核反応層7は、MgB2薄膜に形成してもよい。その場合、超伝導のベースプレートとして用いることができる。また、10Bそのものの薄膜でもよい。具体的には、Kセルや電子ビームを用いた蒸着により形成することができる。

【0070】
図12に示すように、中性子が核反応層7中の10Bと衝突した場合、核反応により4Heと7Liとが相反する方向に放射され、4Heまたは7Liが近傍(飛程距離内)の中性子検出素子1xまたは1yと衝突する。核反応層7中に一様に10Bを含む場合、中性子が中性子検出素子1xおよび1yをすり抜ける経路を進んでも、核反応層7中の10Bと核反応を起こすため、中性子が確実に検出される。また、中性子検出素子1xまたは1yが10Bを含む超伝導物質である必要はないため、中性子検出素子1xまたは1yとして、例えばNbまたはNbNによる超伝導体や、ボロンをドープしたダイヤモンド薄膜(Tc=11K)
等の高温超伝導体を用いることができる。

【0071】
<<第3実施形態>>
次に、図13を用いて、この発明の第3実施形態に係る中性子検出装置100bについて説明する。

【0072】
図13は、この発明の第3実施形態に係る中性子検出装置を示す説明図である。
図13に示すように、中性子検出素子1x,1yの形状として、経路が曲がりくねった形状(以下、メアンダ(meander)形状と記載)を用いてもよい。運動インダクタンスの変化を効率的に検出できるのは、熱エネルギーの拡散長程度であり、超伝導細線の幅を1μm程度にするのがよいが、メアンダ形状にすることにより、超伝導細線の幅を最適にしつつ、大面積化を図ることができるため、中性子との核反応性を高めることが可能になる。また、図13のような形状に限定されず、用途に応じて、種々の形状、大きさ、線幅を有していてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:MgB2薄膜
1x,1y:中性子検出素子
2:超伝導ICチップ
3:保護膜
4a,4b:電極
5:接着層
6:封止樹脂
7:核反応層
8:半田バンプ
9:絶縁層
10:基材
11:レジストパターン
100,100a,100b:中性子検出装置
101:中性子源
102a,102b:スリット
103:試料
104:窓部
105:断熱容器
110:SFQ回路
111:検出用SFQパルス入力部
112:検出部
120:尤度判定回路
121:判定用SFQパルス入力部
122:検出判定部
130:アドレス生成回路
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13