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明細書 :探傷方法及び探傷装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-032160 (P2014-032160A)
公開日 平成26年2月20日(2014.2.20)
発明の名称または考案の名称 探傷方法及び探傷装置
国際特許分類 G01N  25/72        (2006.01)
FI G01N 25/72 K
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2012-174309 (P2012-174309)
出願日 平成24年8月6日(2012.8.6)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 平成24年2月6日 「平成23年度博士論文審査 公開論文発表会」における文書による発表
発明者または考案者 【氏名】石川 真志
【氏名】八田 博志
【氏名】羽深 嘉郎
【氏名】福井 涼
【氏名】宇都宮 真
出願人 【識別番号】503361400
【氏名又は名称】独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
【識別番号】391021385
【氏名又は名称】株式会社KJTD
個別代理人の代理人 【識別番号】100092093、【弁理士】、【氏名又は名称】辻居 幸一
【識別番号】100082005、【弁理士】、【氏名又は名称】熊倉 禎男
【識別番号】100067013、【弁理士】、【氏名又は名称】大塚 文昭
【識別番号】100086771、【弁理士】、【氏名又は名称】西島 孝喜
【識別番号】100109070、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 洋之
【識別番号】100109335、【弁理士】、【氏名又は名称】上杉 浩
【識別番号】100164530、【弁理士】、【氏名又は名称】岸 慶憲
審査請求 未請求
テーマコード 2G040
Fターム 2G040AB08
2G040BA27
2G040CA02
2G040CA12
2G040CA23
2G040DA06
2G040DA12
2G040DA15
2G040EA06
要約 【課題】深い位置にある欠陥であっても検出することができる探傷方法を提供することである。
【解決手段】検査対象物を加熱するステップと、前記検査対象物の複数の部分の温度を測定し、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを生成するステップと、前記複数の部分の各々の前記データを比較できるようにするステップと、を含み、前記検査対象物を加熱するステップは、連続加熱によって行うことを特徴とする探傷方法を提供する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
検査対象物を加熱するステップと、
前記検査対象物の複数の部分の温度を測定し、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを生成するステップと、
前記複数の部分の各々の前記データを比較できるようにするステップと、
を含み、
前記検査対象物を加熱するステップは、連続加熱によって行うことを特徴とする探傷方法。
【請求項2】
経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを、周波数と位相との関係を示すデータに変換するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の探傷方法。
【請求項3】
前記連続加熱の加熱時間は、1秒から600秒までであることを特徴とする請求項1又は2に記載の探傷方法。
【請求項4】
前記連続加熱の加熱時間は、30秒以上であることを特徴とする請求項3に記載の探傷方法。
【請求項5】
前記検査対象物を加熱するステップは、ハロゲンランプによって行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかの1項に記載の探傷方法。
【請求項6】
前記データを比較できるようにするステップは、検査対象物の測定位置を2次元的に表し、測定位置に対応する前記データの値を示す2次元画像を表示することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の探傷方法。
【請求項7】
検査対象物を加熱する加熱器と、
前記検査対象物の複数の部分の温度を測定する温度測定器と、
経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを生成し、前記データの前記検査対象物の前記複数の部分の各々を比較できるようにするコンピュータと、
を含む探傷装置であって、
前記加熱器は、検査対象物を連続加熱することを特徴とする探傷装置。
【請求項8】
前記コンピュータは、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを、周波数と位相との関係を示すデータに変換することを特徴とする請求項7に記載の探傷装置。
【請求項9】
前記連続加熱の加熱時間は、1秒から600秒までであることを特徴とする請求項7又は8に記載の探傷装置。
【請求項10】
前記連続加熱の加熱時間は、30秒以上であることを特徴とする請求項9に記載の探傷装置。
【請求項11】
前記加熱器は、ハロゲンランプであることを特徴とする請求項7から10のいずれかの1項に記載の探傷装置。
【請求項12】
前記コンピュータは、検査対象物の測定位置を2次元的に表し、測定位置に対応する前記データの値を示す2次元画像を表示することを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の探傷装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物の欠陥を検出する探傷技術に関する。特に、検査対象物の表面の温度を測定することによって、検査対象物の内部にある欠陥を検出する非破壊材料探傷方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊材料探傷技術の典型的なものの一つとして、パルス・サーモグラフィ法が挙げられる。パルス・サーモグラフィ法では、フラッシュランプ等により検査対象物表面を瞬間的に加熱し、検査対象物の表面温度の時間変化を赤外線カメラ等により測定する。検査対象物の内部に欠陥が存在する欠陥部では、その直上表面から内部へと伝播する熱の流れが、欠陥が存在しない健常部と異なる。そのため、欠陥直上の表面温度も、健常部と異なる。パルス・サーモグラフィ法では、欠陥の直上の表面に発生する温度変化を観測することにより、検査対象物の内部にある欠陥を検出する。パルス・サーモグラフィ法は、検査対象物に対して非接触で且つ短時間で検査が可能であるという利点を有している。
【0003】
しかし、パルス・サーモグラフィ法において得られた表面温度データを直接利用すると、検出可能な欠陥の深さが浅いという問題があった。この問題を解決するために、表面温度データに対してフーリエ変換を行って得られる位相データ用いて、欠陥を検出するパルス・フェイズ・サーモグラフィ法が考案された。パルス・フェイズ・サーモグラフィ法は、パルス・サーモグラフィ法と同様の実験方法によって取得された検査対象物表面の温度と時間との関係を表すデータを用いて実施される。パルス・フェイズ・サーモグラフィ法では、検査対象物の表面温度と時間との関係を表すデータに対して、フーリエ変換を行うことによって、位相と周波数との関係を表すデータを算出する。そして、周波数(検査周波数)を選択し、その周波数における位相値を表示する画像を観察することによって、視覚的に検査対象物内部の欠陥を発見するものである。パルス・フェイズ・サーモグラフィ法の原理は、Maldagueらによって非特許文献1などに記載されている。パルス・フェイズ・サーモグラフィ法では、周波数と位相との関係を示すデータを用いることによって、表面温度を示すデータを直接用いる場合よりも深い位置にある欠陥を検出することが可能になる。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2011-247718号公報
【0005】

【非特許文献1】X.Maldague and S.Marineti, Pulse phase infrared thermography, J.Appl.Phys. 79(5)(1996), 2694-2698
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、各加熱条件のスペクトルの強度を示すグラフであり、横軸は周波数、縦軸は最大値で正規化したスペクトルの強度を示す。図1に示されるように、従来技術として用いられているパルス加熱は、あらゆる周波数成分を均等に含み、一度の検査で広帯域の位相データを取得するために有効であると考えられていた。例えば、特許文献1では、パルス加熱による探傷装置について記載されている。しかしながら、パルス加熱により検査対象物を加熱する従来の方法によって検出できる欠陥の深さよりもさらに深い位置にある欠陥を検出したいというニーズがある。
【0007】
本発明の目的は、従来技術では検出できない深い位置にある欠陥を検出する探傷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、深い位置にある欠陥の検出には、低周波成分が有効であることを発見し、図1に示されるように、例えば、低周波成分を多く含む1秒間等の加熱時間の連続加熱によって、検査対象物を加熱することにより、従来検出できなかった深い位置にある欠陥を検出することに成功した。
【0009】
本発明は、検査対象物を加熱するステップと、前記検査対象物の複数の部分の温度を測定し、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを生成するステップと、前記複数の部分の各々の前記データを比較できるようにするステップと、を含み、前記検査対象物を加熱するステップは、連続加熱によって行うことを特徴とする探傷方法を提供する。
【0010】
本発明では、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを、周波数と位相との関係を示すデータに変換するステップをさらに含むことが好ましい。また、本発明によると、前記連続加熱の加熱時間は、1秒から600秒までであることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。本発明では、前記検査対象物を加熱するステップは、ハロゲンランプによって行うことが好ましい。さらに、前記データを比較できるようにするステップは、検査対象物の測定位置を2次元的に表し、測定位置に対応する前記データの値を示す2次元画像を表示してもよい。
【0011】
さらに、本発明は、検査対象物を加熱する加熱器と、前記検査対象物の複数の部分の温度を測定する温度測定器と、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを生成し、前記データの前記検査対象物の前記複数の部分の各々を比較できるようにするコンピュータと、を含む探傷装置であって、前記加熱器は、検査対象物を連続加熱することを特徴とする探傷装置を提供する。
【0012】
本発明では、前記コンピュータは、経過時間と測定された前記温度との関係を示すデータを、周波数と位相との関係を示すデータに変換することが好ましい。また、前記加熱器は、ハロゲンランプであることが好ましい。前記コンピュータは、検査対象物の測定位置を2次元的に表し、測定位置に対応する前記データの値を示す2次元画像を表示してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】パルス加熱及び連続加熱のスペクトルの強度と周波数との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態の実施の手順を示すチャートである。
【図4】(A)平底穴形状の人工欠陥部の断面模式図である。(B)一次元熱伝導解析の際に用いた解析モデルの概略図である。
【図5】数3の右辺及び左辺の値とμとの関係を示すグラフである。
【図6】解析計算時の2つの加熱条件(A)と(B)との違いについて示したグラフである。
【図7】一次元熱解析より得られたパルス加熱した場合の各入力熱量に対する表面温度の時間変化を表したグラフである。
【図8】一次元熱解析より得られた連続加熱した場合の各加熱時間に対する表面温度の時間変化を表したグラフである。
【図9A】一次元熱解析より得られた深さ1mmの欠陥におけるパルス加熱した場合及び各時間で連続加熱した場合の欠陥部-健全部間位相差を示したグラフである。
【図9B】一次元熱解析より得られた深さ10mm の欠陥におけるパルス加熱した場合及び各時間で連続加熱した場合の欠陥部-健全部間位相差を示したグラフである。
【図9C】一次元熱解析より得られた深さ15mm の欠陥におけるパルス加熱した場合及び各時間で連続加熱した場合の欠陥部-健全部間位相差を示したグラフである。
【図10】欠陥深さ1-15mmについて、連続加熱した場合とパルス加熱した場合の各欠陥部-健全部間位相差最大値の比(Δφmax/Δφmax(pulse))と加熱時間との関係を示すグラフ(一次元熱解析結果)である。
【図11】連続加熱した場合の各加熱時間における位相ノイズのピークトゥピーク(peak-to-peak) 値と周波数との関係を示した図である。
【図12】本発明の検証実験に用いた検査装置の全体写真である。
【図13】本発明の検証実験に用いたCFRP 試験片の写真である。
【図14A】PMMA 樹脂試験片に対してパルス加熱をする実験より得られた加熱終了から78.5秒経過した温度分布を示す画像である。
【図14B】PMMA 樹脂試験片に対してパルス加熱をする実験より得られた周波数0.0014Hzでの位相分布を示す画像である。
【図15A】PMMA樹脂試験片に対して30秒間の連続加熱をする実験より得られた加熱終了から192.3秒経過した際の温度分布示す画像である。
【図15B】PMMA樹脂試験片に対して30秒間の連続加熱をする実験より得られた周波数0.0007Hzでの位相分布を示す画像である。
【図16】PMMA樹脂試験片に対して60秒間の連続加熱による実験より得られた周波数0.0007Hzでの位相分布を示す画像である。
【図17A】CFRP試験片に対してパルス加熱を行った際に得られた周波数0.01Hzにおける位相分布を示す画像である。
【図17B】CFRP試験片に対して30秒間の連続加熱を行った際に得られた周波数0.0093Hzにおける位相分布を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照しながら、本発明に係る探傷方法及び探傷装置の一実施形態について以下に説明する。

【0015】
図2に本発明の一実施形態の概要を、図3に実施の手順を示す。まず、加熱器02によって、検査対象物01を連続加熱する(ステップ202)。加熱器02には、検査対象物の吸収スペクトルに応じて、検査対象物が熱を吸収しやすい発光スペクトルを持つ加熱器を用いることが好ましい。例えば、検査対象物として、PMMA(ポリメタクリル酸メチル:polymethylmethacrylate )を選んだ場合には、ハロゲンランプ(短波長赤外線ヒーター)を用いることが多い。しかし、本発明では、検査対象物の吸収スペクトルに応じて、中波長赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター又は電熱線等の他の機器を用いて検査対象物01を加熱してもよい。ここで、連続加熱とは、キセノンフラッシュランプ等によって瞬間的に(例えば、0.1秒未満の間)加熱をするパルス加熱(フラッシュ加熱)ではないことを意味し、ハロゲンランプ等により一定時間、連続的に加熱をすることをいう。また、連続加熱には、一定時間ランプを点滅させて加熱する等の場合も含まれる。連続加熱の加熱時間は、例えば、1秒以上、好ましくは、10秒以上加熱する。また、30秒、60秒、120秒であることがさらに好ましい。加熱時間の最長値は、通常300秒から600秒であるが、より長い時間加熱してもよい。加熱器02の入力熱量及び加熱時間は、検査対象物の耐熱温度を超えないように調整すべきである。加熱器の加熱時間及び入力熱量等の制御は、加熱器01に接続されたコンピュータ04によって行ってもよいし、加熱器のタイマー機能等を利用してもよい。

【0016】
そして、温度測定器03によって、加熱後の検査対象物01の表面温度を測定する。温度測定器03は、典型的には、検査対象物の表面温度を2次元的に表面温度分布として測定できる赤外線カメラが用いられるが、他の機器を用いて温度を測定してもよい。また、温度の測定は、所定の時間、例えば、10秒間から300秒間程度行い、測定された温度データを、温度測定器03に接続されたコンピュータ04のメモリ等に蓄積し、例えば、加熱終了後からの経過時間と温度との関係を示すデータ(表面温度-時間データ)を取得する(ステップ204)。表面温度-時間データの取得は、例えば、所定の時間間隔(サンプリング周波数)で、検査対象物01の温度の測定を繰り返すことによって行ってもよい。温度の測定は、検査対象物上の複数の部分に対して行う。具体的には、検査対象物02表面の二次元の平面内の一定の間隔で温度を測定してもよい。測定されたデータは、コンピュータ04内にあるハードディスク等の記憶装置に保存されるようにしてもよい。加熱器02及び温度測定器03は、コンピュータ04によって制御するようにすることが望ましい。

【0017】
表面温度-時間データが取得されたら、コンピュータ04内のプロセッサ等によって表面温度-時間データに対してフーリエ変換を行い位相と周波数との関係を示すデータ(位相-周波数データ)を算出する処理を行う(ステップ206)。フーリエ変換で得られるデータは、周波数を定義域とする複素数であるが、該複素数の絶対値と位相のうち位相を利用して、探傷を行う。なお、各周波数の位相は、フーリエ変換で得られた対応する複素数の虚部を実部で除算して、逆正接関数(アークタンジェント)に代入した値である。フーリエ変換は、コンピュータ04内のプロセッサを用いて行うことが好ましい。測定されたデータは、通常離散的であるので、離散フーリエ変換を行うが、解析的な関数にフィッティングを行い、連続的なフーリエ変換を行うことによってフーリエ変換を実施することもできる。

【0018】
フーリエ変換によって得られた位相-周波数データに対して、ユーザが、コンピュータ04に接続したキーボード等のユーザインターフェースを用いて、周波数を選択するが、コンピュータ04によって例えば、最も位相差が大きくなる周波数を自動的に選択するようにしてもよい(ステップ208)。選択された検査周波数における位相を、コンピュータ04に接続されたモニタ等の表示機器によって画像表示することによって、検査対象物01の各位置における位相が可視化される(ステップ210)。データは、画像平面上に検査対象物01の検査位置を表し、彩度又は明度などによって、位相を表す態様で、可視化することができる。フーリエ変換や位相の可視化は、データ処理手段としてのコンピュータ04上でデータ解析ソフト(プログラム)を実行させることによって行うことができる。

【0019】
他の態様として、位相の相対値を表示してもよい。すなわち、基準となる位相値に対する各部分の位相値の比若しくは差を計算し、計算された値を表示して欠陥が存在するか否かを判断してもよい。ここで、検査対象物内において最も広範囲に渡る値を健全部の値と仮定して、基準となる値として採用してもよい。検査対象物に存在する欠陥の認識は、画像に表示された位相をユーザが確認することによって行ってもよいし、コンピュータが、例えば、基準となる位相値と他の部分の位相値の差若しくは比が、予め定められた閾値を超えるか否かに応じて、若しくは、位相データの誤差範囲を超えるか否かに応じて、欠陥の有無を自動的に判断してもよい。

【0020】
また、フーリエ変換される前の表面温度-時間データを用いて、位相-周波数データと同様に探傷を行うこともできる。この場合には、ユーザ又はコンピュータによって経過時間が選択され、選択された経過時間における温度分布を用いて、位相検査対象物内にある欠陥を特定できるようにする。

【0021】
以下に、従来技術に対して有利な本発明の効果の一例を示すために、一次元熱解析を用いたシミュレーションによる解析結果を記載する。

【0022】
図4Aに示される欠陥を含む検査対象物を単純化した解析モデルを用いた。解析モデルでは、欠陥が平底穴形状であるものとした。図4A内の破線で囲まれた領域に対して、熱伝導を計算した。計算対象とした領域を図4Bに示す。図4Bの厚さHの平板は、深さHの位置に欠陥がある場合を模擬することになる。計算対象とした領域では、厚さ方向に垂直の平面方向は、同一温度であり、厚さ方向に一次元的に熱伝導が起きると仮定して、熱伝導を計算した。

【0023】
図4Bに示される計算対象とした領域では、板の厚さ方向の位置をx(m)として示している。また、過熱面をx=0としている。従来技術を模擬するディラックパルス(Dirac pulse)と呼ばれる瞬間的な熱流束Q(J/m2)を過熱面に加える場合における、検査対象物の表面(x=0)での時間に対する温度変化T(t)は、数1によって示される一次元非定常熱伝導方程式を変形した以下に示される数2を用いて求めることができる。
【数1】
JP2014032160A_000003t.gif

JP2014032160A_000004t.gif
JP2014032160A_000005t.gif
JP2014032160A_000006t.gif【数2】
JP2014032160A_000007t.gif
ここで、tは時間(s)を示す。ρは、検査対象物の密度(kg/m3)を示す。cは、検査対象物の比熱(J/(kg・K))を示す。Biは、ビオ数(Bi=hH/k)を示す。F0は、フーリエ数(F0=αt/H2)を示す。なお、hは、検査対象物の上下面における外部と検査対象物との間の表面熱伝達率(W/(m2K))を示す。kは、検査対象物の熱伝導率(W/m・K)を示す。αは、熱拡散率(m2/s)を示す。またμnは、数3により決定される値である。すなわち、図5に示される数3左辺及び数3右辺の値を縦軸にとったグラフの複数の交点がμとなり、μの値が小さいものから順にμ1、μ2、μ3・・・と区別される。
【数3】
JP2014032160A_000008t.gif

【0024】
一方で、有限の時間幅thを持つ熱流束を過熱面に加える場合には、表面の温度の時間変T’(t)は、数2に対してth秒間の積分することによって得られる数4によって示される。
【数4】
JP2014032160A_000009t.gif
ここで、Q’は、単位時間当たりの入力熱量(J/m2s)を示す。F0hは、t=thに対するフーリエ数(F0h=αth/H2)を示す。

【0025】
数2及び数4をフーリエ変換することによって、以下の数5及び数6が得られる。
【数5】
JP2014032160A_000010t.gif
【数6】
JP2014032160A_000011t.gif

【0026】
数5及び数6の計算結果を数7に代入することによって、対象物表面での温度変化の位相を算出することができる。
【数7】
JP2014032160A_000012t.gif
ここで、fは周波数(Hz)を示す。R(f)及びI(f)はそれぞれ、数5及び数6の計算結果における複素数の実部及び虚部を示す。

【0027】
本解析の目的は、パルス加熱及び連続加熱の加熱時間、並びに、欠陥深さに応じて、検査対象物の表面の温度及び位相がどのように変化するかを評価することであり、以下の3点について評価した。
(1)パルス加熱及び連続加熱後の検査対象物の表面の温度を比較した。
(2)パルス加熱及び長時間加熱における欠陥部及び健全部の位相差を比較した。
(3)連続加熱における周波数に対する位相ノイズの大きさを計算した。
上記の3点を評価するために、連続加熱時の入力方法として、以下の2つの加熱条件を想定した。
(A)単位時間当たりの入力熱量(Q’)を4500J/(m2s)で一定とし、加熱時 間を変化させた。
(B)入力熱流束の総量を135kJ/m2で一定とし、加熱時間のみを変化させた。
図6は、上記の連続加熱に関する加熱条件において、加熱時間と入力熱量の総量との関係を示す。

【0028】
上記(1)の評価では、パルス加熱の入力熱量(Q)を、45-1350kJ/m2の範囲で変化させた。また、連続加熱の加熱条件は、(A)を採用し、過熱時間(th)を10-300秒の範囲から選択した。従って、連続加熱の場合であっても、入力熱量の総量は、パルス加熱と同様に45-1350kJ/m2となる。また、本評価では、解析モデルの平板の厚さHは、5mmとした。

【0029】
上記(2)の評価では、パルス加熱の入力熱量(Q)を、135kJ/m2とし、連続加熱の加熱条件を(B)とした。従って、パルス加熱の場合であっても、連続加熱の場合であっても、入力熱量は等しい。本評価では、加熱時間の変化に対する、欠陥部と健全部との位相の差Δφを評価した。また、厚さHを、1-15mmとして、欠陥部を模擬した。一方で、平板の厚さHを、20mmとして、健全部を模擬して、計算を行った。なお、20mmの厚さは、後に記載される実験に用いられた試験片の厚さと同一である。

【0030】
上記(3)の評価では、加熱条件(A)において、加熱時間th=30、60、120秒とした。加熱時間ごとに、周波数に対する位相ノイズの大きさを計算した。平板の厚さHは、20mmである。標準偏差0.065℃の正規分布に従う温度ノイズを、数4によって得られる温度データに付加し、温度ノイズが付加された温度データに対してフーリエ変化を行うことによって、ノイズを含む位相データを算出した。

【0031】
(1)-(3)いずれの検討についても、検査対象物として、PMMA(polymethylmethacrylate)樹脂を想定し、密度を1190kg/m3とし、比熱を1470J/(kgK)とし、熱伝導率を0.19W/(mK)として、計算を行った。

【0032】
図7及び図8は、(1)の計算結果を示す。図7は、パルス加熱の際の表面温度の時間変化を示す。また、図8は、連続加熱した場合の表面温度の時間変化を示す。図7に示されるように、パルス加熱の場合には、加熱直後に非常に大きな表面温度となるのに対して、図8に示されるように、連続加熱の場合には、同量の熱入力であっても、表面温度の最大値がパルス過熱の場合よりも小さい。従って、連続加熱では、パルス加熱のように対象物を高温にすることなく、大きな熱量を入力することができる。従って、連続加熱を利用するならば、耐熱温度が低い検査対象物を検査することも可能になる。

【0033】
図9A、図9B及び図9Cは、(2)の計算結果を示す、パルス加熱及び連続加熱の各時間について、横軸に周波数をとり、欠陥部と健全部との位相差(Δφ)を縦軸にとったグラフである。欠陥部として、厚さHが1mmの平板(図9A)、10mmの平板(図9B)及び15mmの平板(図9C)を解析した。また、健全部として、厚さ20mmの平板を解析した。

【0034】
図9Aに示されるように、平板の厚さHが1mmのときには、位相差の最大値は、パルス加熱をする場合に最も大きく、加熱時間が増加するにつれて、小さくなった。一方で、図9Bに示されるように、平板の厚さHが10mmのときには、10秒から120秒間加熱した場合の方が、パルス加熱する場合よりも、位相差の最大値の値が大きい。また、図9Cに示されるように、平板の厚さHが15mmのときには、10秒から300秒加熱した場合の方が、パルス加熱する場合よりも、位相差の最大値の値が大きい。従って、深い位置にある欠陥の検出には、連続加熱の方が、パルス加熱よりも適しているといえる。

【0035】
図10は、(2)の計算に関して、パルス加熱の最大の位相差に対する連続加熱における最大の位相差について、平板の厚さごとにまとめたグラフである。図10に示されるグラフの横軸は、連続加熱の加熱時間を示す。図10に示されるグラフの縦軸は、パルス加熱の位相差(φmax(pulse))に対する連続加熱の位相差の最大値(φmax)の比を表す。すなわち、縦軸の値が、1よりも大きい場合には、パルス加熱の場合よりも連続加熱を行った方が、位相差の最大値が大きくなることを意味する。図10から、平板の厚さHが1mmである場合には、パルス加熱の方が連続加熱よりも、位相差の最大値が大きく、パルス加熱の方が、欠陥を発見しやすいといえる。しかし、平板の厚さHが10mm及び15mmである深い位置にある欠陥がある欠陥部を模擬する場合には、パルス加熱よりも連続加熱の方が、位相差の最大値が大きく、連続加熱の方が、欠陥を発見しやすいといえる。

【0036】
図11は、(3)の計算結果を示す。図11に示されるグラフの横軸は、周波数を示す。図11に示されるグラフの縦軸は、位相ノイズのピークトゥピーク(peak-to-peak)値を表す。位相ノイズのデータ点は、円形で示される。図11から、位相ノイズは、加熱時間が長くなるにつれて、小さくなることが認められる。これは、連続加熱により、入力される熱量が増加したことに起因するものである。位相ノイズが小さくなることによって、健全部と欠陥部との位相差が小さくても、欠陥を検出することができるようになる。

【0037】
以下に、連続加熱を用いる本発明の実施例の実験結果を、パルス加熱を用いる従来技術と比較して示す。なお、実験データの取得には図12に示す日本クラウトクレーマー株式会社製のサーモ・インスペクターを使用した。装置系は、加熱器、温度測定器及び加熱器・温度測定器を制御し、また、測定した表面温度・時間データを位相・周波数データに変換するためのプロセッサを備えるコンピュータにより構成される。また、コンピュータは、表面温度・時間データ及び位相・周波数データを表示するための表示装置を備える。本実験では、連続加熱用の加熱器として、1000Wのハロゲンランプを用いた。また、パルス加熱用の加熱器として、1000J/Fのキセノンパルスランプを二つ用いた。温度測定器として、赤外線カメラであるFLIR社製のSC4000を用いた。このカメラの検出素子は、検出可能波長範囲を3から5μmとするインジウムアンチモンである。また、このカメラの検出素子数は、320×256個であり、ノイズ価温度差は、25mKである。

【0038】
検査対象物の材料として、PMMA樹脂及びCFRPを用いた。図13に、CFRP試験片の写真を示す。PMMA試験片及びCFRP試験片の形状は同一であり、外形は、150×200×20mmである。加熱する面(150×200mm)を加熱面、加熱する面の裏側となる加熱をしない面を非加熱面とする。非加熱面には、深さの異なる直径10mmの円形で平底の穴を人工欠陥として複数設けた。人工欠陥の深さ、すなわち、加熱面から人工欠陥の底面までの距離は、1mmの変化量で1mmから10mmまで、並びに0.5mm及び15mmとした。

【0039】
実験では、PMMA試験片に、キセノンフラッシュランプを用いてパルス加熱又はハロゲンランプを用いて連続加熱を行い、赤外線カメラにより、PMMA試験片の加熱面の表面温度を測定して、表面温度-時間データを取得した。コンピュータでは、赤外線カメラによって得られた表面温度-時間データから各時間での2次元温度画像を作成した。また、表面温度-時間データをフーリエ変換して、表面温度-周波数データを算出し、さらに、表面温度-周波数データを、数7を用いて位相-周波数データに変換した。また、位相-周波数データから各周波数での2次元位相画像を作成した。本明細書では、検出できる欠陥の深さが最も深くなる検査時間の2次元温度画像、及び、検出できる欠陥の深さが最も深くなる周波数の2次元位相画像を選択して、比較等の分析を行った。

【0040】
図14AにPMMA樹脂試験片に対してパルス加熱をしてから温度の測定を開始した表面温度-時間データの78.5秒後の2次元温度画像を、図14Bに、位相-周波数データの0.0014Hzでの2次元位相画像を示す。また、図15AにPMMA樹脂試験片に対して、30秒間の連続加熱をしてから温度の測定を開始した表面温度-時間データの78.5秒後の2次元温度画像を、図15Bに、位相-周波数データの0.0007Hzでの2次元位相画像を示す。図14Aの表面温度画像では、深さ2-3mmの部分が画像の濃さが他の部分と異なり、パルス加熱によって得られた表面温度-時間データでは、深さ2-3mmまでの欠陥のみ検出することができることが言える。同様に、図14Bの位相画像から、パルス加熱によって得られた位相-周波数データでは深さ5-6mmまでしか欠陥が検出できないことが言える。一方で、図15Aから、連続加熱後に取得された表面温度-時間データでは、深さ6-7mmの欠陥を検出できることが認められる。さらに、図15Bから、位相画像では、深さ9-10mmの欠陥を検出できることが認められる。従って、連続加熱後に測定したデータを利用することによって、パルス加熱後に測定したデータを用いるよりも深い位置にある欠陥を検出できるようになることが理解できる。

【0041】
図16は、PMMA樹脂試験片に対して60秒間の連続加熱を行ってから温度の測定を開始して取得したデータを変換して得られた周波数0.0007Hzでの位相画像である。図15Bに示される位相画像よりも、色のコントラストが明確になっていて、欠陥部がより明りょうに表示されている。この結果は、連続加熱によって、健全部と欠陥部との位相差が大きくなったこと、及び、位相ノイズが低減したためであると考えられ、上記の解析結果と一致している。

【0042】
図17AにCFRP試験片に対してパルス加熱を行ってから温度の測定を開始して取得したデータを変換して得られた周波数0.01Hzでの位相画像を示す。また、図17BにCFRP試験片に対して30秒間の連続加熱を行ってから温度の測定を開始して取得したデータを変換して得られた周波数0.0093Hzでの位相画像を示す。図17Aから、パルス加熱では、深さ3-4mmの部分の濃さが他の部分と異なり、深さ3-4mmまでにある欠陥しか検出できないことが言える。一方で、図17Bから、試験片を30秒間加熱した場合には、深さ6-7mm部分の画像の濃さが他の部分と異なり、深さ6-7mmの欠陥まで検出できることが認められる。CFRPは、熱伝導について異方性があるため、CFRP試験片表面に加えられた熱が内部へ伝わりにくく、PMMA樹脂などの等方性材料と比較して欠陥検出深さが小さくなるが、本方法は、熱伝導について異方性がある材料であっても有効であることが認められる。
【符号の説明】
【0043】
01 検査対象物
02 加熱器
03 温度測定器
04 コンピュータ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9A】
8
【図9B】
9
【図9C】
10
【図10】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図13】
14
【図14A】
15
【図14B】
16
【図15A】
17
【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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