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明細書 :イオン液体中でのアンヒドロ糖の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5317057号 (P5317057)
登録日 平成25年7月19日(2013.7.19)
発行日 平成25年10月16日(2013.10.16)
発明の名称または考案の名称 イオン液体中でのアンヒドロ糖の製造方法
国際特許分類 C07H   3/10        (2006.01)
FI C07H 3/10
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2008-553068 (P2008-553068)
出願日 平成19年12月27日(2007.12.27)
国際出願番号 PCT/JP2007/075060
国際公開番号 WO2008/084705
国際公開日 平成20年7月17日(2008.7.17)
優先権出願番号 2007001123
優先日 平成19年1月9日(2007.1.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月16日(2010.12.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】▲高▼橋 憲司
【氏名】佐藤 宏衣
【氏名】林 桃子
個別代理人の代理人 【識別番号】100081086、【弁理士】、【氏名又は名称】大家 邦久
【識別番号】100121050、【弁理士】、【氏名又は名称】林 篤史
審査官 【審査官】天野 皓己
参考文献・文献 特開2006-137677(JP,A)
特開2006-028040(JP,A)
特開2006-265544(JP,A)
特開2005-035916(JP,A)
特開平02-101092(JP,A)
Chemical Abstracts Vol.89,1978,p680 89:24646d
大野弘幸,有機イオン性液体,未来材料,2002年,第2巻第9号,6-11頁
調査した分野 C07H 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
N,N-ジエチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME-TFSI)、およびN,N,N-トリメチル-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TMPA-TFSI)から選択される疎水性イオン液体中で、セルロース、グルコース、デンプン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリンから選択される糖類を加熱することを特徴とする下記一般式(1)および/または一般式(2)
【化1】
JP0005317057B2_000009t.gif
で示されるアンヒドロ糖の製造方法。

【請求項2】
グルコース、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリンから選ばれる水溶性糖化合物を大気圧下、180~250℃の温度で、4~20分間反応させる請求項1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
【請求項3】
セルロース、およびデンプンから選ばれる非水溶性または難水溶性糖化合物を大気圧下、200~300℃の温度で、5~30分間反応させる請求項1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
【請求項4】
疎水性イオン液体の含水量が300ppm以下である請求項1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
【請求項5】
加熱をマイクロ波を用いて行う請求項1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
【請求項6】
反応後の生成物を水で抽出し、水溶液からアンヒドロ糖を分離する請求項1~5のいずれかに記載のアンヒドロ糖の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性イオン液体中で糖類を加熱することにより、高収率でアンヒドロ糖(無水糖)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性の糖類由来のアンヒドロ糖としては、例えば、6単糖由来のアンヒドロ糖として、それぞれグルコース、マンノース、ガラクトースなどの無水物であるレボグルコサン、マンノサン、ガラクトサンなど一般式(1)で示される1,6-アンヒドロヘキソピラノース、一般式(2)で示される1,6-アンヒドロヘキソフラノースなどがある。
また、リボース、キシロースなどペントース由来のアンヒドロ糖としては、一般式(3)で示される1,4-アンヒドロペントピラノース等が挙げられる。
【0003】
【化1】
JP0005317057B2_000002t.gif

【0004】
アンヒドロ糖は、生分解性を有するバイオプラスチック、バイオ接着剤などの化学原料、抗癌剤や抗HIV剤の原料、光学異性体分割剤、また、多分岐多糖を基盤物質とする糖由来の安全な医療材料など種々の機能性高分子材料として有用であることが知られ、様々な分野で注目されている。また、アンヒドロ糖の1種であるレボグルコサンを開環重合することにより生成するハイパーブランチ糖鎖は、近年の牛海綿状脳症(BSE)で問題となっている動物由来の医用ゲル材料(止血、接着、癒着防止のためのゲル材料)あるいはコラーゲンなどの化粧品材料に代わる、植物由来の安全な新規代替機能性物質である。ハイパーブランチ糖鎖は球状糖鎖高分子であり、天然の多糖類には無い多くの優れた機能性(高溶解性、低粘性ニュートン流動性、保水性、糖クラスター効果による分子認識性など)を有する。
【0005】
従来、例えば、アンヒドロ糖の1種であるレボグルコサンの製造方法としては、(1)セルロース成分を含む原料を有機溶媒と共に耐圧容器に入れ250~350℃に加熱する熱分解法(特開平2-101093号公報;特許文献1)、(2)超臨界アセトンを耐圧容器に圧送しながらセルロースを250~340℃で10時間かける熱分解法(J. Anal. Appl. Pyrolysis(1991), 19, 119~129;非特許文献1)、(3)ヘキソースからなる多糖類を主として含む原料をスルホランと共に耐圧容器に入れ、300℃以上の温度で熱分解する方法(特開2003-342289号公報;特許文献2、J. Anal. Appl. Pyrolysis(2003), 70, 303~313;非特許文献2)、および(4)セルロース成分にマイクロ波を照射するマイクロ波熱分解法(J. Wood Sci. (2001), 47, 502~506;非特許文献3)が知られている。
また、最近、本発明者らは、単糖、少糖あるいはこれらの配糖体、多糖およびこれらの混合物の中から選ばれる少なくとも1種類の水溶性糖化合物を含む原料を、触媒などの添加物を一切加えることなく、糖化合物を含む水溶液だけを加熱し、水蒸気状態で反応させるアンヒドロ糖の製造方法を開発した(特開2007-217386;特許文献3)。
【0006】
しかし、これら従来のアンヒドロ糖の製造方法は、収率が低い、精製方法が確立されていない、加圧条件下を必要とするため操作性が劣るなどの問題を有し、未だ実用化には至っていないのが現状である。従って、安全かつ簡便に、水溶性の糖類のみならず非水溶性のセルロース等からも高収率でアンヒドロ糖が得られる製造方法の確立が望まれている。
【0007】
なお、本発明方法に関連する技術として、イオン液体中でデンプンなどの糖と脂肪酸ビニルエステルとを触媒存在下に反応させて糖脂肪酸エステルを製造する方法が提案され(特開2006-265544号公報;特許文献4)、また、高極性の非ハロゲン系イオン液体からなる難溶性多糖類の溶解剤および該溶解剤と難溶性多糖類とを含有する組成物が提案されているが(特開2006-137677号公報;特許文献5)、疎水性イオン液体をアンヒドロ糖の生成に用いた報告例はこれまでに存在しない。
【0008】

【特許文献1】特開平2-101093号公報
【特許文献2】特開2003-342289号公報
【非特許文献1】J.Anal.Appl.Pyrolysis(1991),19,119~129
【非特許文献2】J.Anal.Appl.Pyrolysis(2003),70,303~313
【非特許文献3】J.Wood Sci.(2001),47,502~506
【特許文献3】特開2007-217386号公報
【特許文献4】特開2006-265544号公報
【特許文献5】特開2006-137677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、マイルドな条件で安全、簡便かつ高収率でアンヒドロ糖を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、単糖、少糖あるいはこれらの配糖体、多糖およびこれらの混合物の中から選ばれる水溶性糖化合物だけでなく、セルロース、デンプン、デキストリン、および非水溶性シクロデキストリン類などの糖類を構成単位とする非水溶性または難水溶性糖化合物類が疎水性イオン液体に溶解するという性質に着目し、イオン液体中でのアンヒドロ糖(レボグルコサン)の生成反応について検討した。その結果、イオン液体中で加熱することにより、高選択的および高収率でアンヒドロ糖が生成することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は下記のアンヒドロ糖の製造方法を提供する。
[1]疎水性イオン液体中で糖類を加熱することを特徴とする下記一般式(1)、一般式(2)および/または一般式(3)
【化2】
JP0005317057B2_000003t.gif
で示されるアンヒドロ糖の製造方法。
[2]糖類が、疎水性イオン液体に可溶性を有する糖類、または疎水性イオン液体に分散可能な糖類である前記1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[3]糖類が、単糖、少糖あるいはこれらの配糖体、多糖およびこれらの混合物の中から選ばれる水溶性糖化合物である前記1または2に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[4]糖類が、セルロース、デンプン、非水溶性または難水溶性デキストリン、および非水溶性または難水溶性シクロデキストリンの中から選ばれる少くとも1種類の非水溶性または難水溶性糖化合物である前記1または2に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[5]水溶性糖化合物が、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、アロース、アルトロース、イドース、タロース、リボース、キシロース、アラビノース、およびリキソースから選ばれる単糖、スクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、トレハロース、トレハルロース、パラチノース、ニゲロース、ラクトース、ラクチュロース、グリコシルスクロース、ラクトスクロース、パノース、ラフィノース、シクロデキストリン類およびその誘導体、水溶性シクロデキストリン類、水溶性シクロデキストラン、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、セロオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンノオリゴ糖、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、パラチノースオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖および大豆オリゴ糖から選ばれる少糖、および可溶性デンプン、プルラン、アラビアガム、デキストラン、デキストリンおよびグルコマンナンから選ばれる多糖から選ばれる少なくとも1種類の糖化合物である前記3に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[6]水溶性糖化合物を含む原料が、蜂蜜、糖蜜、廃糖蜜、水飴、黒糖製品およびメープルシロップから選択される前記3に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[7]疎水性イオン液体が、有機カチオンとアニオンとからなる前記1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[8]有機カチオンが、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンまたはピロリジニウムカチオンである前記7に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[9]アニオンが、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、PFイオン、CFSOイオン、(CFSOイオン、Clイオン、またはBFイオンである前記7に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[10]疎水性イオン液体中で、水溶性糖化合物を大気圧下、180~250℃の温度で、4~20分間反応させる前記3に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[11]疎水性イオン液体中で、非水溶性または難水溶性糖化合物を大気圧下、200~300℃の温度で、5~30分間反応させる前記4に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[12]疎水性イオン液体の含水量が300ppm以下である前記1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[13]加熱をマイクロ波を用いて行う前記1に記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[14]疎水性イオン液体が、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME-TFSI)、およびN,N,N-トリメチル-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TMPA-TFSI)から選択される前記7~9のいずれかに記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[15]糖類が、セルロース、グルコース、デンプン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリンから選択される前記1記載のアンヒドロ糖の製造方法。
[16]反応後の生成物を水で抽出し、水溶液からアンヒドロ糖を分離する前記1~15のいずれかに記載のアンヒドロ糖の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明によれば、二酸化炭素や低級炭化水素などの熱分解ガス、タールおよび炭化物などの生成が極めて少なく、原料の脱水反応や解重合反応によりアンヒドロ糖を簡便かつ高収率で得ることができる。
(2)大気圧下で実施できるため製造装置を簡略化できるだけでなく、安全かつ簡便に操作することが可能である。
(3)疎水性イオン液体中でのアンヒドロ糖生成反応では、先に提案した水熱反応と比較して、副生成物が極めて少ない。
(4)疎水性イオン液体は不揮発性のため、高温でも大気圧下で反応を進行することが出来る。従って、特殊な高圧容器を必要としない。
(5)疎水性イオン液体として疎水性のものを使用するので、反応後の生成物の分離は水で抽出するのみであり、分離操作が極めて簡単化される。
(6)疎水性イオン液体は不揮発性であり耐熱性もあるので、繰り返し使用できる。
(7)イオン液体はマイクロ波により効率的に加熱されるので、疎水性イオン液体は急速昇温が可能である。また、通常の加熱方法に比較して温度制御が容易である。
(8)これまで、糖類を構成成分として含むセルロース等の非水溶性化合物からアンヒドロ糖を高収率で得ることは困難であったが、疎水性イオン液体中にこれら非水溶性化合物が溶解し、あるいは完全に溶解しない場合でも一部が溶解(均一に分散)すれば、これら非水溶性糖化合物を均一にイオン液体中に分散させることにより反応させてアンヒドロ糖を高収率で得ることができる。
(9)本発明の方法によれば、生分解性を有するバイオプラスチック、バイオ接着剤などの化学原料、抗癌剤や抗HIV剤の原料、光学異性体分割剤、多分岐多糖を基盤物質とする糖由来の安全な医療材料など種々の機能性高分子材料として有用なアンヒドロ糖を安価に供給できる。
(10)本発明の方法により得られるアンヒドロ糖の1種であるレボグルコサンを開環重合することにより得られるハイパーブランチ糖鎖は、天然の多糖類には無い多くの優れた機能性(高溶解性、低粘性ニュートン流動性、保水性、糖クラスター効果による分子認識性など)を有し、医用ゲル材料(止血、接着、癒着防止のためのゲル材料)あるいはコラーゲンなどの化粧品材料に代わる、植物由来の安全な新規代替機能性物質として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、原料として単糖、少糖、多糖などの糖類を用い、それに触媒などの添加物を加えることなく、疎水性イオン液体中で加熱することでアンヒドロ糖を生成させる。
【0014】
本発明の方法により得られるアンヒドロ糖とは、下記一般式(1)で示されるレボグルコサン、マンノサン、ガラクトサンなどの1,6-アンヒドロヘキソピラノース、下記一般式(2)で示される1,6-アンヒドロヘキソフラノース、および/または下記一般式(3)で示される1,4-アンヒドロペントピラノース等のアンヒドロ糖である。
【化3】
JP0005317057B2_000004t.gif

【0015】
本発明では、反応媒体として疎水性イオン液体を使用する。ここで疎水性イオン液体とは常温乃至70℃で液状を示す疎水性のものであり、有機カチオンとアニオンからなる有機塩であり、蒸気圧がほとんどないため、環境中に揮発することがなく、引火性もなく安全性が高い。
疎水性イオン液体を構成する有機カチオンとしては、有機系のカチオンであれば特に限定されないが、アンモニウムカチオンおよびヘテロ環オニウムカチオンが好ましい。
アンモニウムカチオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシリルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、ジエチルトリメチル(2-メトキシエチル)アンモニウムイオン等の脂肪族4級アンモニウムイオン、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムイオン等の脂環式4級アンモニウムイオン等が挙げられる。
ヘテロ環オニウムカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン等が挙げられる。
イミダゾリウムカチオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムイオン等のジアルキルイミダゾリウムカチオン、1-(1,2または3-ヒドロキシプロピル)-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン等のトリアルキルイミダゾリウムカチオン、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムイオン等の1-アリル-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジアリルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。
ピリジニウムカチオンとしては、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4-ジメチルピリジニウムイオン等が挙げられる。
ピペリジニウムカチオンとしては、N-メチル-N-エチルピペリジニウムイオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムイオン、N-メチル-N-ブチルピペリジニウムイオン等が挙げられる。
ピロリジニウムカチオンとしては、N-メチル-N-エチルピロリジニウムイオン、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムイオン、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【0016】
疎水性イオン液体を構成するアニオンとしては、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン等のカルボン酸系アニオン、PFイオン、CFSOイオン、(CFSOイオン、Clイオン、BFイオン等が挙げられるが、中でもCFSOイオンおよび(CFSOイオンが好ましい。
【0017】
本発明で用いる疎水性イオン液体としては上記有機カチオンとアニオンとを組合わせてなるものが使用できるが、より具体的には、例えば、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME-TFSI)、N,N,N-トリメチル-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TMPA-TFSI)、1-アリル-3-エチルイミダゾリウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(AEIm-TFSI)、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(ABIm-TFSI)、1,3-ジアリルイミダゾリウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(AAIm-TFSI)などが好ましく使用できる。
【0018】
本発明で使用する疎水性イオン液体は、含水量が少ないものが好ましい。具体的には含水量が300ppm以下が好ましく、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。含水量が多いと、水分子が解離して生成するプロトンが、生成物であるアンヒドロ糖と反応するため、アンヒドロ糖の収率が低下する。
【0019】
本発明において原料に使用することのできる糖類は、加熱条件下において疎水性イオン液体に可溶性を有する糖類、または疎水性イオン液体に分散可能な糖類である。疎水性イオン液体に分散可能な糖類とは、加熱条件下において疎水性イオン液体に可溶性が十分ではないか不溶性のものであって疎水性イオン液体に均一に分散させ得る糖類である。
糖類としては、水溶性糖化合物、難水溶性糖化合物、非水溶性糖化合物のいずれもが使用できる。
【0020】
水溶性糖化合物は、水に可溶で、少なくとも分子中に単糖単位を含む限り、特に制限されない。水溶性糖化合物としては、水溶性の単糖、少糖あるいはこれらの配糖体、多糖が挙げられ、これらの混合物も使用できる。
単糖としては、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、アロース、アルトロース、イドース、タロース、リボース、キシロース、アラビノース、リキソース等が挙げられる。
少糖としては、前記単糖10個以下を構成成分として含むもの、例えばスクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、トレハロース、トレハルロース、パラチノース、ニゲロース、ラクトース、ラクチュロース、グリコシルスクロース、ラクトスクロース、パノース、ラフィノース、シクロデキストリン類およびその誘導体、分岐シクロデキストリン類、シクロデキストラン、マルトオリゴ糖(グルコースがα-1,4結合した少糖の総称)、イソマルトオリゴ糖(グルコースがα-1,6結合した少糖の総称)、セロオリゴ糖(グルコースがβ-1,4結合した少糖の総称)、ガラクトオリゴ糖、マンノオリゴ糖、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、パラチノースオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖および大豆オリゴ糖など単糖が2~10個結合した少糖類が挙げられる。
単糖または少糖の配糖体としては、フェニルグルコピラノシド類、アルブチン、カルミン酸、エスクリン、ヘリシン、フロリジン、サリシン、ストロファンチン、アミグダリン、グリシルリジン、ヘスペリジン、ルチン等が挙げられる。
多糖としては、可溶性デンプン、プルラン、アラビアガム、デキストラン、デキストリンおよびグルコマンナンなどが挙げられる。
中でもグルコース、マンノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、トレハロース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、可溶性デンプンが特に好ましい。
【0021】
また、本発明で使用する水溶性糖化合物を含む原料は、水溶性の単糖、少糖あるいはこれらの配糖体、多糖が含まれていれば特に限定されるものではなく、また、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、アルギン酸など上記単糖を構成成分として含まない水溶性の多糖、ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの半合成水溶性高分子、さらに、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなど水溶性の合成高分子等が混在していてもよい。
【0022】
水溶性糖化合物を含む原料としては、蜂蜜、糖蜜、廃糖蜜、水飴、黒糖製品、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖など種々のオリゴ糖類、メープルシロップなどのシロップ類、ビートやサトウキビ、キャベツやジャガイモなどの野菜や根菜類、ブドウやミカンなどの果物、各種穀類、トウモロコシ、豆類の搾汁液などが挙げられる。
【0023】
難水溶性糖化合物および非水溶性糖化合物も特に制限されないが、例えば、セルロース、デンプン、非水溶性または難水溶性デキストリン、および非水溶性または難水溶性シクロデキストリンなどが使用できる。
【0024】
原料糖類のうち、セルロースなど反応条件下で疎水性イオン液体中に溶解しにくいものについては、反応効率を高めるために予め原料を細断、粉砕するなどして微粒子あるいは微粉末状とし、かつ反応系を撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【0025】
加熱手段は特に限定されないが、マイクロ波による加熱が好ましい。マイクロ波を用いる利点としては、マイクロ波によりイオン液体が効率的に加熱されること、疎水性イオン液体は急速昇温が可能でありマイクロ波による加熱がそれに適していること、通常の加熱方法に比較して温度制御が容易であることなどが挙げられる。
【0026】
原料糖類の疎水性イオン液体中への配合量は、特に限定されるものではないが、通常、0.1~10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5~3質量%の範囲である。
【0027】
反応時の圧力も特に限定されるものではなく、0.01MPa以上5MPa未満の範囲で実施できるが、好ましくは大気圧(約0.1MPa)である。
【0028】
加熱温度および加熱時間は、原料の糖類の種類によって好適条件が異なる。
糖類として水溶性糖化合物を用いる場合は、その種類および仕込み濃度等によっても一概には言えないが、加熱温度は180~250℃が好ましく、より好ましくは190~210℃、さらに好ましくは200℃付近である。180℃より低い温度では脱水反応や解重合反応が十分に進行しない。加熱温度が高くなればタールおよび炭化物の生成促進にもつながり、目的物の収率も低下し、分離精製が難しくなるほか、非経済的であるため望ましくない。加熱時間は、加熱温度、原料の種類、仕込み濃度等により異なるが、4~20分が好ましく、さらに好ましくは6~10分である。加熱時間が短すぎると未反応の原料が多く残り、長すぎると原料および生成したアンヒドロ糖の過分解反応あるいは重合反応が進行し、目的物の収率が低下する。
【0029】
糖類として難水溶性糖化合物および非水溶性糖化合物を用いる場合は、その種類および仕込み濃度等により異なるので一概には言えないが、加熱温度は200~300℃が好ましく、より好ましくは260~280℃、さらに好ましくは270℃付近である。200℃より低い温度では脱水反応や解重合反応が十分に進行しない。加熱温度が高くなればタールおよび炭化物の生成促進にもつながり、目的物の収率も低下し、分離精製が難しくなるほか、非経済的であるため望ましくない。加熱時間は、加熱温度、原料の種類、仕込み濃度等により異なるが、5~30分が好ましく、さらに好ましくは10~20分である。加熱時間が短すぎると未反応の原料が多く残り、長すぎると原料および生成したアンヒドロ糖の過分解反応あるいは重合反応が進行し、目的物の収率が低下する。
【0030】
本発明の方法で使用する装置は、上記の条件で反応できるものであれば特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でも実施できる。本発明の反応は大気圧下で実施できるため、耐圧容器の必要はなく、上記加熱温度に耐え得るものであればよい。
【0031】
本発明の製造方法によれば、加熱温度、加熱時間、圧力、原料、仕込み濃度などの反応条件を適切に選択することにより、アンヒドロ糖を50%以上の高収率(高選択率)で得ることができる。
【0032】
本発明の製造方法で生成するアンヒドロ糖の単離・精製は、特に限定されないが、例えば、加熱されて高温状態にある反応液を冷却するにより反応を停止させ、疎水性イオン液体の反応混合物に水を添加してアンヒドロ糖を水抽出してイオン液体から分離した後、常法、例えば蒸留、凍結乾燥あるいはエバポレータによる減圧濃縮で容易に行うことができる。必要により、カラムクロマトグラフィーにて分画して、アンヒドロ糖の溶出画分から溶出溶媒を留去することにより精製することもできる。
【0033】
精製条件としては、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに用いる溶出溶媒として、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が好ましく、これらを適宜混合させて極性を調整し、目的とするアンヒドロ糖を溶出させて分離する。例えば、酢酸エチル/メタノール混合溶媒(20/1→10/1)でアンヒドロ糖を溶出させ、溶出画分から溶出溶媒を留去することにより高純度のアンヒドロ糖が得られる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例、比較例および試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0035】
実施例1:イオン液体N,N-ジエチル-N-メチル-N-(メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(以下、DEME-TFSIと略す。)中での非水溶性多糖(セルロース)からアンヒドロ糖の生成
イオン液体DEME-TFSIを予め減圧真空下で3時間乾燥させ、イオン液体中に含まれる水分を300ppm以下とした。この乾燥させたイオン液体DEME-TFSI4mLにセルロース(アルドリッチ社製,粉末状,粒子径10μm)40mgを分散させた。この試料を試験管(直径20mm)へ入れて、マイクロ波加熱装置(IDX社製,グリーンモチーフ)を用いて加熱した。試験管上部から熱電対を差し込み、試料の温度測定を行った。反応は大気圧のアルゴン雰囲気下で行った。設定温度270℃まで昇温するのに約2分必要であった。その後、設定温度を必要時間保って反応を行わせた。反応中、試験管内の試料を、マグネット撹拌子により撹拌した。反応後、試料を冷風により急冷し、その後試験管を冷水につけて反応を停止させた。
反応後のイオン液体試料に4mLの水を加えて撹拌することにより、未反応セルロースとアンヒドロ糖は容易に水相へ抽出分離できた。アンヒドロ糖を完全に回収するために、この抽出操作を4回行った。抽出分離した水溶液から未反応セルロースをろ過により分離した。アンヒドロ糖は高速液体クロマトグラフィーにより分析した。分離カラムには昭和電工(株)KS801を用い、検出器には示差屈折計(島津RID-6A)を用いた。アンヒドロ糖としては、アンヒドログルコピラノース(レボグルコサン)およびアンヒドログルコフラノースの2種類が検出された。反応時間とアンヒドロ糖選択率(アンヒドログルコピラノースとアンヒドログルコフラノースの収率の和)の結果を表1に示した。
【0036】
【表1】
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【0037】
実施例2:イオン液体DEME-TFSI中での非水溶性多糖(デンプン)からアンヒドロ糖の生成
イオン液体DEME-TFSI中でデンプンからアンヒドロ糖の生成反応を行った。実施例1と同様、DEME-TFSIは使用前に真空乾燥を行った。DEME-TFSI4mLにデンプン40mgを分散させた。マイクロ波加熱装置を用いて試料を加熱し、アンヒドロ糖生成に及ぼす反応温度の影響を調べた。
反応後の試料に、水4mLを加えて撹拌し、アンヒドロ糖を抽出分離した。アンヒドロ糖を完全に回収するため、この操作を4回行った。セルロースの場合とは異なり、デンプンをイオン液体から水で抽出分離することはできなかった。実施例1と同様の方法でアンヒドロ糖の分析を行った。セルロースを用いた場合と同様、アンヒドログルコピラノース(レボグルコサン)およびアンヒドログルコフラノースの2種類が検出された。アンヒドロ糖収率(アンヒドログルコピラノースとアンヒドログルコフラノースの収率の和)に及ぼす反応温度の影響を表2にまとめた。
【0038】
【表2】
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【0039】
実施例3:イオン液体N,N,N-トリメチル-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(以下、TMPA-TFSIと略す。)中での水溶性糖類(グルコース)からアンヒドロ糖の生成
イオン液体TMPA-TFSI中でグルコースを原料に用いてアンヒドロ糖の生成反応を行った。TMPA-TFSIは使用前に真空乾燥を行った。TMPA-TFSI(4mL)にグルコース40mgを分散させ、マイクロ波加熱装置により反応を行った。詳細は、実施例1と同様である。反応後の試料に4mLの水を加えて撹拌することにより、アンヒドロ糖とグルコースを抽出分離した。実施例1と同様の方法でアンヒドロ糖を分析したところ、アンヒドログルコピラノース(レボグルコサン)およびアンヒドログルコフラノースの2種類が検出された。反応時間とアンヒドロ糖選択率(アンヒドログルコピラノースとアンヒドログルコフラノースの収率の和)の結果を表3に示した。
【0040】
【表3】
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【0041】
実施例4~6:イオン液体DEME-TFSI中でのα-、β-およびγ-シクロデキストリンからアンヒドロ糖の生成
イオン液体DEME-TFSI中でα-、β-およびγ-シクロデキストリンをそれぞれ原料に用いてアンヒドロ糖の生成反応を行った。DEME-TFSIは使用前に真空乾燥を行った。DEME-TFSI(4mL)にα-、β-およびγ-シクロデキストリン40mgを分散させ、マイクロ波加熱装置により反応を行った。詳細は、実施例1と同様である。反応後の試料に4mLの水を加えて撹拌することにより、アンヒドロ糖を抽出分離した。実施例1と同様の方法でアンヒドロ糖を分析したところ、アンヒドログルコピラノース(レボグルコサン)およびアンヒドログルコフラノースの2種類が検出された。反応時間とアンヒドロ糖収率(アンヒドログルコピラノースとアンヒドログルコフラノースの収率の和)の結果を表4に示した。
【0042】
【表4】
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【0043】
試験例1:有機溶媒およびイオン液体中でのアンヒドロ糖の安定性
イオン液体中でアンヒドロ糖の収率および選択性が高いのは、一度生成したアンヒドロ糖が分解しづらいためであると考えられる。この点を確認するため、レボグルコサンの分解反応を検討した。イオン液体DEME-TFSI(4mL)中でレボグルコサン40mgを250℃に加熱した。加熱はマイクロ波加熱装置を用いた。また比較のために分子性溶媒スルホラン4mLにレボグルコサン40mgを分散させて同様の実験を行った。
その結果、イオン液体DEME-TFSI中では、250℃、6分の加熱条件で25%のレボグルコサンが分解し、スルホラン中では、同条件で90%のレボグルコサンが分解した。このことから、イオン液体中でアンヒドロ糖の収率が高い理由の一つに、生成したアンヒドロ糖が反応系で分解しにくいことが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により製造されるアンヒドロ糖は、生分解性を有するバイオプラスチック、バイオ接着剤などの化学原料、抗癌剤や抗HIV剤の原料、光学異性体分割剤、多分岐多糖を基盤物質とする糖由来の安全な医療材料など種々の機能性高分子材料として有用である。