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明細書 :ポテンシャル取得装置、磁場顕微鏡、検査装置およびポテンシャル取得方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5713246号 (P5713246)
登録日 平成27年3月20日(2015.3.20)
発行日 平成27年5月7日(2015.5.7)
発明の名称または考案の名称 ポテンシャル取得装置、磁場顕微鏡、検査装置およびポテンシャル取得方法
国際特許分類 G01R  33/02        (2006.01)
G01R  29/12        (2006.01)
A61B   5/055       (2006.01)
FI G01R 33/02 A
G01R 29/12 Z
A61B 5/05 330
請求項の数または発明の数 14
全頁数 30
出願番号 特願2012-503192 (P2012-503192)
出願日 平成23年3月1日(2011.3.1)
国際出願番号 PCT/JP2011/054635
国際公開番号 WO2011/108543
国際公開日 平成23年9月9日(2011.9.9)
優先権出願番号 2010044218
優先日 平成22年3月1日(2010.3.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年10月22日(2013.10.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】木村 建次郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100109210、【弁理士】、【氏名又は名称】新居 広守
【識別番号】100110847、【弁理士】、【氏名又は名称】松阪 正弘
【識別番号】100136526、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 勉
【識別番号】100136755、【弁理士】、【氏名又は名称】井田 正道
審査官 【審査官】三田村 陽平
参考文献・文献 特開平04-098159(JP,A)
特開平09-243725(JP,A)
国際公開第2008/123432(WO,A1)
特開平03-090877(JP,A)
調査した分野 G01R 33/02
G01R 33/34
G01R 29/14
A61B 5/055

特許請求の範囲 【請求項1】
対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲に形成される3次元ポテンシャルを示すポテンシャル関数をφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは、前記対象物に対して設定される互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)として、前記対象物の外部に設定されたz=α(ただし、αは任意の値)を満たす測定面におけるφ(x,y,α)を取得するポテンシャル取得装置であって、
XY平面に平行な前記測定面上において前記測定面に平行な長手方向に伸びる複数の線状領域を、前記長手方向に垂直なX’方向に配列設定するとともに、Y方向に平行な前記測定面上の基準方向と、前記長手方向とがなす角度をθとして、前記角度θを複数通りに変更した状態にて前記複数の線状領域のそれぞれにおける前記3次元ポテンシャルに由来する測定値を、前記長手方向に伸びるセンサにより取得する測定ユニットと、
X’方向の座標パラメータをx’として(ただし、原点はZ軸上である。)、前記測定ユニットにより取得される測定値f(x’,θ)を用い
【数24】
JP0005713246B2_000025t.gif
(ただし、k’はX’方向の波数である。)によりφ(x,y,α)を求める演算部とを備える
ポテンシャル取得装置
【請求項2】
記測定ユニットが、
前記センサである測定部と、
前記基準方向と、前記測定部の前記長手方向との間の前記角度θを変更する角度変更部と、
前記測定面上において前記測定部をX’方向に前記対象物に対して相対的に移動して、前記対象物の測定領域上を前記測定部が通過する走査を行う移動機構と、
前記角度変更部および前記移動機構を制御することにより、前記角度θを複数通りに変更しつつ前記走査を繰り返す制御部と、
を備え、
前記走査の繰り返しにより、前記測定ユニットにおいて測定値f(x’,θ)が取得され
請求項1に記載のポテンシャル取得装置。
【請求項3】
記3次元ポテンシャルが、磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものであり、
前記測定部が、前記長手方向およびZ方向に広がるとともに、前記3次元ポテンシャルに由来する信号を生成する薄膜素子であ
請求項2に記載のポテンシャル取得装置。
【請求項4】
記薄膜素子の膜厚が前記対象物側に向かって漸次減少す
請求項3に記載のポテンシャル取得装置。
【請求項5】
記測定部をZ方向に前記対象物に対して相対的に移動するもう1つの移動機構をさらに備え、
前記3次元ポテンシャルがラプラス方程式を満たし、
前記制御部が、z=0を満たす前記測定面においてφ(x,y,0)を2次元の第1画像として取得し、前記測定部をZ方向に微小距離だけ相対移動した後、前記第1画像と同様の手法により2次元の中間画像を取得し、
前記演算部が、前記第1画像と前記中間画像との差分画像を求め、前記差分画像を前記微小距離で除算した微分画像を第2画像として取得し、前記第1画像であるφ(x,y,0)および前記第2画像であるφ(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(k,k)およびψ(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求め、さらに、ψ(k,k)およびψ(k,k)を用いて、
【数25】
JP0005713246B2_000026t.gif
によりφ(x,y,z)を求め
請求項2~4のいずれか1項に記載のポテンシャル取得装置。
【請求項6】
記3次元ポテンシャルがラプラス方程式を満たし、
z=0を満たす前記測定面における任意のポテンシャルH(x,y,z)のzによるq回微分であるH(q)(x,y,0)が一の測定において取得されるφ(x,y,α)であり、前記任意のポテンシャルH(x,y,z)のzによるp回微分であるH(p)(x,y,0)が他の測定において取得されるφ(x,y,α)であり(ただし、p,qは0以上の整数であり、qが奇数、pが偶数である。)、
前記演算部が、H(q)(x,y,0)およびH(p)(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してh(q)(k,k)およびh(p)(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求め、さらに、h(q)(k,k)およびh(p)(k,k)を用いて、
【数26】
JP0005713246B2_000027t.gif
によりH(q)(x,y,z)を求める、または、
【数27】
JP0005713246B2_000028t.gif
によりH(p)(x,y,z)を求め
請求項1~4のいずれか1項に記載のポテンシャル取得装置。
【請求項7】
記3次元ポテンシャルが、磁位、電位、温度または重力に由来するポテンシャルであ
請求項1~6のいずれか1項に記載のポテンシャル取得装置。
【請求項8】
磁場顕微鏡であって、
磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものをφ(x,y,z)として取得する請求項に記載のポテンシャル取得装置を備え、
前記演算部が、φ(x,y,z)のzに前記対象物の表面の位置または表面に近接する位置を示す値を代入す
磁場顕微鏡。
【請求項9】
核磁気共鳴を利用した検査装置であって、
磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものをφ(x,y,z)として取得する請求項に記載のポテンシャル取得装置と、
Z方向の複数の位置における複数の平面上にて前記対象物の内部に核磁気共鳴を順次生じさせる手段と、
を備え、
前記制御部が、前記複数の平面に含まれる各平面にて核磁気共鳴を生じさせた際に、φ(x,y,z)を取得し、
前記演算部が、前記各平面に対して取得されるφ(x,y,z)のzに前記各平面の位置を示す値を代入す
検査装置。
【請求項10】
対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲に形成される3次元ポテンシャルを示すポテンシャル関数をφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは、前記対象物に対して設定される互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)として、前記対象物の外部に設定されたz=α(ただし、αは任意の値)を満たす測定面におけるφ(x,y,α)を取得するポテンシャル取得方法であって、
a)XY平面に平行な前記測定面上において前記測定面に平行な長手方向に伸びる複数の線状領域を、前記長手方向に垂直なX’方向に配列設定するとともに、Y方向に平行な前記測定面上の基準方向と、前記長手方向とがなす角度をθとして、前記角度θを複数通りに変更した状態にて前記複数の線状領域のそれぞれにおける前記3次元ポテンシャルに由来する測定値を、前記長手方向に伸びるセンサにより取得する工程と、
b)X’方向の座標パラメータをx’として(ただし、原点はZ軸上である。)、前記a)工程により取得される測定値f(x’,θ)を用い
【数28】
JP0005713246B2_000029t.gif
(ただし、k’はX’方向の波数である。)によりφ(x,y,α)を求める工程とを含む
ポテンシャル取得方法
【請求項11】
記a)工程が、
a1)前記センサである測定部を、前記測定面上においてX’方向に前記対象物に対して相対的に移動して、前記対象物の測定領域上を前記測定部が通過する走査を行う工程と、
a2)前記基準方向と、前記測定部の前記長手方向との間の前記角度θを複数通りに変更しつつ、前記a1)工程を繰り返すことにより測定値f(x’,θ)を取得する工程とを含む
請求項10に記載のポテンシャル取得方法
【請求項12】
記3次元ポテンシャルが、磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものであり、
前記測定部が、前記長手方向およびZ方向に広がるとともに、前記3次元ポテンシャルに由来する信号を生成する薄膜素子であ
請求項11に記載のポテンシャル取得方法。
【請求項13】
記3次元ポテンシャルがラプラス方程式を満たし、かつ、前記測定面がz=0を満たし、
前記a)およびb)工程によりφ(x,y,0)が2次元の第1画像として取得され、
前記ポテンシャル取得方法が、
c)前記測定部をZ方向に微小距離だけ相対移動した後、前記第1画像と同様の手法により2次元の中間画像を取得する工程と、
d)前記第1画像と前記中間画像との差分画像を求め、前記差分画像を前記微小距離で除算した微分画像を第2画像として取得する工程と、
e)前記第1画像であるφ(x,y,0)および前記第2画像であるφ(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(k,k)およびψ(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求める工程と、
f)ψ(k,k)およびψ(k,k)を用いて、
【数29】
JP0005713246B2_000030t.gif
によりφ(x,y,z)を求める工程とを含む
請求項11または12に記載のポテンシャル取得方法
【請求項14】
記3次元ポテンシャルが、磁位、電位、温度または重力に由来するポテンシャルであ
請求項10~13のいずれか1項に記載のポテンシャル取得方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁位、電位、温度等に由来する2次元ポテンシャル分布を測定により取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超伝導量子干渉計(以下、「SQUID」という。)や、磁気抵抗センサ(magnetoresistive sensor)を用いて磁場の分布を取得することが行われており、磁場の分布に基づいて、例えば、電気回路の不良(短絡)部分を特定することが行われている。磁場測定の分解能は、SQUIDコイルや磁気抵抗センサのサイズに依存するため、当該サイズを小さくすることにより、測定の分解能を向上することが試みられている。
【0003】
また、磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscopy、以下、「MFM」という。)を用いて磁場の空間分布を取得することも行われている。特表2006-501484号公報では、MFMにおいて、ナノスケールの強磁性材料を含むカーボンナノチューブをカンチレバーとして利用することが提案されている。
【0004】
なお、国際公開第2008/123432号パンフレット(文献2)では、3次元ポテンシャル分布を取得する手法が開示されており、当該手法では、磁区を有する試料の上方において、MFMを用いて特定の測定面での磁気力の分布が2次元の磁場分布画像として取得される。また、上記測定面から微小距離dだけ離れた他の測定面にて測定を行って補助磁場分布画像が取得され、これらの差分を微小距離dで除算して2次元の磁場勾配分布画像が取得される。磁場分布画像および磁場勾配分布画像はフーリエ変換されてラプラス方程式の一般解から導かれる3次元ポテンシャル分布取得式に代入され、磁場の3次元分布を示す画像が高精度に取得される。
【0005】
ところで、SQUIDコイルや磁気抵抗センサの微細化には露光技術で用いられる波長に由来する限界があるため、測定の分解能の向上にも一定の限界が生じる。また、異方性エッチングによって形成されるシリコン探針では、探針の先端曲率半径を数nmにまで極めて小さくすることが可能であるが、当該シリコン探針をMFMにおいて利用する際には、探針の先端に磁性材料の薄膜を形成する必要がある。よって、“磁性体薄膜の膜厚+探針先端曲率半径+磁性体薄膜”の厚みの磁気力センサとなり、例えば磁性体薄膜の膜厚=10nm、 探針先端曲率半径=10nmの場合には、合計30nmの径を持つことになる。少なくとも測定の分解能が探針の先端曲率半径より向上することは無い。また、実用的に探針先端部のみに磁性体薄膜を被覆することは困難であるため、有効磁気力センサは、さらに大きくなる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、磁位、電位、温度等に由来する2次元ポテンシャル(2次元ポテンシャル分布)の測定の分解能を向上することを目的としている。
【0007】
本発明は、対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲に形成される3次元ポテンシャルを示すポテンシャル関数をφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは、前記対象物に対して設定される互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)として、前記対象物の外部に設定されたz=α(ただし、αは任意の値)を満たす測定面におけるφ(x,y,α)を取得するポテンシャル取得装置に向けられており、装置は、XY平面に平行な前記測定面上において前記測定面に平行な長手方向に伸びる複数の線状領域を、前記長手方向に垂直なX’方向に配列設定するとともに、Y方向に平行な前記測定面上の基準方向と、前記長手方向とがなす角度をθとして、前記角度θを複数通りに変更した状態にて前記複数の線状領域のそれぞれにおける前記3次元ポテンシャルに由来する測定値を取得する測定ユニットと、X’方向の座標パラメータをx’として(ただし、原点はZ軸上である。)、前記測定ユニットにより取得される測定値f(x’,θ)を用いて、数1(ただし、kx’はX’方向の波数である。)によりφ(x,y,α)を求める演算部とを備える。
【0008】
【数1】
JP0005713246B2_000002t.gif

【0009】
本発明の一の好ましい実施の形態では、前記測定ユニットが、前記長手方向に伸びるとともに、前記3次元ポテンシャルに由来する測定値を取得する測定部と、前記基準方向と、前記測定部の前記長手方向との間の前記角度θを変更する角度変更部と、前記測定面上において前記測定部をX’方向に前記対象物に対して相対的に移動して、前記対象物の測定領域上を前記測定部が通過する走査を行う移動機構と、前記角度変更部および前記移動機構を制御することにより、前記角度θを複数通りに変更しつつ前記走査を繰り返す制御部とを備え、前記走査の繰り返しにより、前記測定ユニットにおいて測定値f(x’,θ)が取得される。
【0010】
また、前記3次元ポテンシャルが、磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものであり、前記測定部が、前記長手方向およびZ方向に広がるとともに、前記3次元ポテンシャルに由来する信号を生成する薄膜素子であることが好ましく、この場合、測定部の走査における走査方向の測定分解能を向上することができる。
【0011】
より好ましいポテンシャル取得装置は、前記測定部をZ方向に前記対象物に対して相対的に移動するもう1つの移動機構をさらに備え、前記3次元ポテンシャルがラプラス方程式を満たし、前記制御部が、z=0を満たす前記測定面においてφ(x,y,0)を2次元の第1画像として取得し、前記測定部をZ方向に微小距離だけ相対移動した後、前記第1画像と同様の手法により2次元の中間画像を取得し、前記演算部が、前記第1画像と前記中間画像との差分画像を求め、前記差分画像を前記微小距離で除算した微分画像を第2画像として取得し、前記第1画像であるφ(x,y,0)および前記第2画像であるφ(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(k,k)およびψ(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求め、さらに、ψ(k,k)およびψ(k,k)を用いて、数2によりφ(x,y,z)を求める。
【0012】
【数2】
JP0005713246B2_000003t.gif

【0013】
前記3次元ポテンシャルは、磁位、電位、温度または重力に由来するポテンシャルであることが好ましい。
【0014】
本発明は、上記ポテンシャル取得装置を利用する磁場顕微鏡、および、核磁気共鳴を利用した検査装置にも向けられており、また、ポテンシャル取得方法にも向けられている。
【0015】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】2次元ポテンシャル取得方法の原理を説明するための図である。
【図2】磁場取得装置の構成を示す図である。
【図3】コンピュータの構成を示す図である。
【図4】コンピュータが実現する機能構成を示すブロック図である。
【図5】2次元ポテンシャルを取得する処理の流れを示す図である。
【図6】3次元ポテンシャルを取得する処理の流れを示す図である。
【図7】測定部および測定面を示す図である。
【図8】基板に磁性材料の薄膜を形成する様子を示す図である。
【図9】基板に磁性材料の薄膜を形成する様子を示す図である。
【図10】検査装置を説明するための図である。
【図11】制御ユニットの機能構成を示す図である。
【図12】第2の実施の形態に係る磁場取得装置の一部を示す図である。
【図13】温度分布取得装置の構成を示す図である。
【図14】素子群の底面図である。
【図15】磁場分布画像を取得する他の例を説明するための図である。
【図16】試料の着磁を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明に係る2次元ポテンシャル取得方法の原理について説明する。図1は、2次元ポテンシャル取得方法の原理を説明するための図である。図1では、互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系を示しており、以下の説明では、X,Y,Z方向の座標パラメータをx,y,zにて示す。図1中にて符号21を付す薄膜状の測定部は、z=α(ただし、αは任意の値)を満たす任意の測定面(XY平面に平行な測定面)上において測定面に平行な方向に伸びる。

【0018】
本発明に係る2次元ポテンシャル取得方法の一例では、磁化された磁性体が周囲に形成する磁位のポテンシャル、あるいは、多層の半導体装置の内部を流れる電流が半導体装置の周囲(および内部)に形成する磁位のポテンシャル等、対象物の存在に起因して少なくとも対象物の周囲に形成される磁位のポテンシャルの存在を前提として、当該磁位のポテンシャルに由来する3次元ポテンシャルの測定面における2次元ポテンシャル(ポテンシャル分布)が取得される。具体的には、測定部21が磁場のZ方向成分(およそZ方向に沿う磁場であってもよく、以下、単に「磁場」ともいう。)を取得するものである場合には、磁位のポテンシャルΦのZ方向の勾配をスカラー値とする3次元ポテンシャルの測定面における2次元ポテンシャルが取得される。すなわち、磁位のポテンシャルを示すポテンシャル関数をΦ(x,y,z)、上記3次元ポテンシャルを示すポテンシャル関数をφ(x,y,z)とすると、φ(x,y,z)は、Φ(x,y,z)のzによる1回微分であるΦ(1)(x,y,z)(以下、Φ(x,y,z)と表す。)であり、2次元ポテンシャル取得方法は、z=αとなる任意の測定面におけるφ(x,y,α)を取得するものとなる。

【0019】
以下の説明では、Y方向に平行な測定面上の方向を基準方向、測定部21の長手方向をY’方向、測定面上において長手方向(Y’方向)に垂直な方向をX’方向、基準方向とY’方向とがなす角度をθ、X’方向およびY’方向の座標パラメータをx’およびy’(ただし、X’方向およびY’方向の原点はZ軸上であり、図1ではX,Y、Z方向にて規定される直交座標系の原点と同じである。)とする。

【0020】
2次元ポテンシャル取得方法では、測定部21をX’方向に移動して測定面上の所定の領域(対象物上にて注目する測定領域を測定面上に投影した領域であり、以下、「測定対象領域」という。)を通過する走査が行われる。そして、走査時においてX’方向の各位置x’にて測定部21の全体が受ける磁場(測定部21内を通過する磁力線の総和)を示す信号が生成され(すなわち、測定部21が磁場を検出し、当該磁場に相当する電気信号を生成し)、測定値として取得される。実際には、角度θを0°以上180°未満の範囲内にて複数通りに変更しつつ、測定面上において長手方向に垂直な方向への走査が繰り返され、3次元ポテンシャルに由来する測定値を示す関数f(x’,θ)(以下、単に「測定値f(x’,θ)」という。)が、x’およびθをパラメータとして取得される。なお、Z軸は、測定対象領域のおよそ中央を通過するものとする。

【0021】
ここで、Z方向に沿って見た場合に、X’Y’座標系は、XY座標系をZ軸を中心として角度θだけ回転させたものであるため、数3が満たされる。

【0022】
【数3】
JP0005713246B2_000004t.gif

【0023】
また、既述のように、測定部21をX’方向に移動する各走査時には、測定部21の全体が受ける磁場が取得されるため、測定値f(x’,θ)は数4にて表される。なお、測定部21の長手方向(Y’方向)に関して、測定部21は測定対象領域の幅に比べて十分に長くなるように設定されている。

【0024】
【数4】
JP0005713246B2_000005t.gif

【0025】
ここで、φ(x,y,α)をX方向およびY方向にフーリエ変換したψ(k,k)|z=α(以下、単にψ(k,k)と表す。)は数5のように表される。ただし、数5において、k,kはX方向およびY方向の波数である。

【0026】
【数5】
JP0005713246B2_000006t.gif

【0027】
数5において、(k=kx’cosθ)、(k=kx’sinθ)、(x’=xcosθ+ysinθ)とおくと、数6が得られる。ただし、数6において、kx’,ky’はX’方向およびY’方向の波数である。

【0028】
【数6】
JP0005713246B2_000007t.gif

【0029】
また、数6中の(dxdy)は数7にて表される。

【0030】
【数7】
JP0005713246B2_000008t.gif

【0031】
したがって、数6は、数3、数4および数7を用いて数8のように変形することができる。数8ではψ(kx’cosθ,kx’sinθ)をg(kx’,θ)と表している。

【0032】
【数8】
JP0005713246B2_000009t.gif

【0033】
一方で、φ(x,y,α)は数9のように表すことができる。ただし、(k=kx’cosθ)、(k=kx’sinθ)、(x’=xcosθ+ysinθ)とおいている。

【0034】
【数9】
JP0005713246B2_000010t.gif

【0035】
数9に数8のψ(kx’cosθ,kx’sinθ)を代入することにより、φ(x,y,α)は数10にて表される。

【0036】
【数10】
JP0005713246B2_000011t.gif

【0037】
以上のことから、基準方向と測定部21の長手方向とがなす角度θを複数通りに変更しつつ、測定面上における測定部21の走査を行って測定値f(x’,θ)を取得し、さらに、測定値f(x’,θ)をx’に関してフーリエ変換したg(kx’,θ)を求めることにより、数10(以下、「2次元ポテンシャル取得式」と呼ぶ。)を用いてφ(x,y,α)を取得することができる。

【0038】
次に、上記2次元ポテンシャル取得方法を用いる磁場取得装置について説明する。図2は磁場取得装置1の構成を示す図である。磁場取得装置1は、センサーと試料の距離をコントロールするために、試料とセンサー間の相互作用力を検出するヘッド部2、試料9を水平面上にて保持する試料台31、試料台31を水平面に垂直な軸を中心として回動する回動機構32、回動機構32と共に試料台31を水平面内で移動する水平移動機構33、ヘッド部2(の後述する支持部22)を鉛直方向に移動する昇降機構34、ヘッド部2からの信号を処理する信号処理ユニット5、並びに、磁場取得装置1の各構成要素の制御および演算を行うコンピュータ4を備える。

【0039】
ヘッド部2は、薄膜素子である測定部21、および、測定部21を保持する支持部22を備える。支持部22は、法線が水平な支持プレート221を有し、支持プレート221の鉛直方向下側(試料9側)の部位に測定部21が設けられる。支持プレート221の上端は、略矩形のフレームである傾斜部222の一辺に接続される。傾斜部222は水平面に対して傾斜しており、支持プレート221とは反対側の辺が、水平方向に広がるベース部223に接続される。

【0040】
測定部21は、磁気抵抗効果を利用したセンサ(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)素子)であり、水平方向に長い矩形形状の複数の膜が支持プレート221上に積層されることにより形成される。測定部21の出力信号は、信号処理ユニット5のプリアンプ54および信号処理部55を介してコンピュータ4に入力される。測定部21では、磁場によって生じる電気抵抗の変化が検出されることにより、測定部21の全体に作用する磁場が取得される。

【0041】
ヘッド部2は、レーザダイオードモジュール(以下、「LDモジュール」という。)23、および、変位検出フォトダイオード(position sensitive photo-diode)(以下、「PSPD」という。)24をさらに備える。LDモジュール23には高周波重畳器231が接続され、高周波重畳器231にはRF発振器232およびLDバイアスコントローラ233が接続される。また、LD温度コントローラ234がLDモジュール23に接続され、LDモジュール23の温度が一定に調整される。磁場取得装置1では、制御部であるコンピュータ4の制御により、出射部であるLDモジュール23から、傾斜部222の支持プレート221側の端部近傍に向けて光が出射され、受光部であるPSPD24にて支持部22からの反射光が受光される。PSPD24からの信号は、信号処理ユニット5のI-Vコンバータ51、プリアンプ52および信号処理部53を介してコンピュータ4に出力され、支持部22の鉛直方向の位置が精度よく取得される。これにより、支持プレート221が試料9に接触することが防止される。

【0042】
水平移動機構33は、試料台31を互いに垂直な2方向に水平移動する第1および第2移動機構331,332を備える。第1および第2移動機構331,332の試料台31の移動方向は、測定部21に対して相対的に固定されており、第1移動機構331は試料台31を測定部21の長手方向に垂直に水平移動し、第2移動機構332は試料台31を長手方向に水平移動する。回動機構32、水平移動機構33および昇降機構34は、駆動制御部30に接続される。

【0043】
コンピュータ4は、図3に示すように、各種演算を行うCPU41、基本プログラムを記憶するROM42および各種情報を記憶するRAM43をバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムとなっている。バスラインにはさらに、情報記憶を行う固定ディスク44、各種情報の表示を行うディスプレイ45、操作者からの入力を受け付けるキーボード46aおよびマウス46b、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8から情報の読み取りを行う読取装置47、並びに、ヘッド部2や駆動制御部30に制御信号を送り出したり、信号処理部53,55からの信号が入力される通信部48が、適宜、インターフェイス(I/F)を介する等して接続される。

【0044】
コンピュータ4には、事前に読取装置47を介して記録媒体8からプログラム441が読み出され、固定ディスク44に記憶される。そして、プログラム441がRAM43にコピーされるとともにCPU41がRAM43内のプログラムに従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータ4がプログラムを実行することにより)、後述する演算部としての機能が実現される。

【0045】
図4は、CPU41がプログラム441に従って動作することにより、CPU41、ROM42、RAM43、固定ディスク44等が実現する機能構成を信号処理ユニット5と共に示すブロック図である。図4においてフーリエ変換部611,612、2次元ポテンシャル分布算出部613,614および3次元ポテンシャル分布算出部615を含む演算部61がCPU41等により実現される機能を示す。なお、これらの機能は専用の電気的回路により実現されてもよく、部分的に専用の電気的回路が用いられてもよい。また、複数のコンピュータにより実現されてもよい。

【0046】
図5は磁場取得装置1が2次元ポテンシャル(分布)を取得する処理の流れを示す図である。以下の説明では、既述の2次元ポテンシャル取得原理におけるX,Y,Z直交座標系が試料9に対して相対的に固定されて設定され、X方向およびY方向が水平であり、Z方向が鉛直であるものとする。また、試料9の表面はXY平面に平行であり、回動機構32は、Z軸を中心に試料台31を回動する。したがって、回動機構32により試料9が試料台31と共に回動すると、X,Y方向も試料9と共に水平面上を回動することとなる。また、第1移動機構331による試料台31の移動方向(すなわち、測定部21の長手方向に垂直な水平方向)をX’方向とし、第2移動機構332による試料台31の移動方向(すなわち、測定部21の長手方向に沿う水平方向)をY’方向とする。

【0047】
図2の磁場取得装置1による測定では、試料9の外部に設定されたz=αを満たす任意の測定面上に測定部21が配置され、第1移動機構331が試料台31を図2中のX’方向に移動することにより、測定部21は試料9の測定領域上を通過するように、走査を行う(ステップS11)。これにより、走査方向であるX’方向の各位置x’にて測定部21の全体が受ける磁場(のZ方向成分)が測定値として取得される。

【0048】
次の走査が行われることが確認されると(ステップS12)、角度変更部である回動機構32が試料台31を回動することにより、試料9に対して相対的に固定されたX方向およびY方向が試料9と共に回動する。これにより、Y方向に平行な測定面上の基準方向と、測定部21の長手方向(Y’方向)とがなす角度θが一定の微小角度(例えば、1度以上15度以下(好ましくは、10度以下であり、より好ましくは、5度以下)の角度)だけ変更される(ステップS13)。そして、測定部21が測定面上においてX’方向に試料9に対して相対的に移動され(すなわち、測定部21の走査が行われ)、各位置x’における磁場が取得される(ステップS11)。磁場取得装置1では、コンピュータ4の制御により、回動機構32が角度θを複数通りに変更しつつ測定部21の走査が繰り返され、x’およびθをパラメータとする測定値f(x’,θ)が取得される(ステップS12,S13,S11)。本実施の形態における複数の角度θは、0°以上180°未満の範囲内の一定間隔の角度である。

【0049】
測定部21の走査の繰り返しにより測定値f(x’,θ)が取得されると(ステップS12)、フーリエ変換部611では、f(x’,θ)をx’に関してフーリエ変換することにより、g(kx’,θ)が取得される。そして、2次元ポテンシャル分布算出部613において、g(kx’,θ)を2次元ポテンシャル取得式(数10)に代入することにより、測定面における2次元ポテンシャルを示すφ(x,y,α)が求められる(ステップS14)。

【0050】
ところで、超伝導量子干渉計や磁気抵抗センサを用いて磁場の2次元分布を取得する場合、これらのデバイスの微小化には技術的な限界があるため、測定の分解能の向上に一定の限界が生じる。

【0051】
これに対し、ポテンシャル取得装置である図2の磁場取得装置1では、測定対象領域の幅に比べて十分に長い測定部21が用いられ、測定面上の基準方向と、測定部21の長手方向とがなす角度θを複数通りに変更しつつ、測定面上において測定部21の長手方向に垂直な方向への走査が繰り返される。そして、走査の繰り返しにより取得される測定値f(x’,θ)を用いて2次元ポテンシャル取得式により、測定面における2次元ポテンシャルを示すφ(x,y,α)が求められる。これにより、測定対象領域の幅に比べて十分に大きい測定部21を用いて、2次元ポテンシャルの測定をX方向およびY方向に高い分解能(例えば、ナノスケールの分解能)にて行うことができる。この場合は分解能は、薄膜状の素子の膜厚にて決定される。薄膜の厚さをコントロールするのは容易であり、原理的には分解能は原子・分子スケールまで高められ得る。なお、測定部21として、水平方向に長い測定範囲を有する超伝導量子干渉計が用いられてもよい(以下同様)。

【0052】
次に、上記2次元ポテンシャル取得方法を用いて3次元ポテンシャル(分布)を取得する手法について説明する。本実施の形態では、国際公開第2008/123432号パンフレット(文献2)と同様の手法により、3次元ポテンシャルが取得される。以下の手法では、ラプラス方程式を満たす3次元ポテンシャルを示すφ(x,y,z)が求められる。

【0053】
まず、3次元ポテンシャルを取得する原理について説明する。ラプラス方程式を満たす3次元ポテンシャルであるφ(x,y,z)はラプラシアンΔを用いて数11にて表される。

【0054】
【数11】
JP0005713246B2_000012t.gif

【0055】
この方程式の一般解は、X,Y,Z直交座標系においてZ方向に指数関数的に減衰する項と指数関数的に増大する項との和として数12にて表すことができる。

【0056】
【数12】
JP0005713246B2_000013t.gif

【0057】
ただし、数12において、k,kはX方向およびY方向の波数であり、a(k,k),b(k,k)はk,kで表される関数である。さらに、数12の両辺をzで1回微分したものは数13にて表される。

【0058】
【数13】
JP0005713246B2_000014t.gif

【0059】
ここで、z=0を満たすXY平面に平行な面におけるφ(x,y,z)、すなわち、φ(x,y,0)は数14にて表される。

【0060】
【数14】
JP0005713246B2_000015t.gif

【0061】
同様に、数13にz=0を代入することによりφ(x,y,0)は数15にて表される。

【0062】
【数15】
JP0005713246B2_000016t.gif

【0063】
したがって、φ(x,y,0)とφ(x,y,0)とをそれぞれフーリエ変換したψ(k,k)|z=0およびψ(k,k)|z=0(以下、単にψ(k,k),ψ(k,k)と表す。)は、数16および数17にて表される。

【0064】
【数16】
JP0005713246B2_000017t.gif

【0065】
【数17】
JP0005713246B2_000018t.gif

【0066】
数16および数17からa(k,k),b(k,k)を求めることができ、これらは数18および数19にて表される。

【0067】
【数18】
JP0005713246B2_000019t.gif

【0068】
【数19】
JP0005713246B2_000020t.gif

【0069】
ここで、数12に数18および数19のa(k,k)およびb(k,k)を代入することにより、φ(x,y,z)は数20にて表される。

【0070】
【数20】
JP0005713246B2_000021t.gif

【0071】
以上のことから、対象物の外部に設定されたz=0を満たす測定面における測定によりディリクレ型境界条件であるφ(x,y,0)、および、ノイマン型境界条件であるφ(x,y,0)が得られる場合、これらをフーリエ変換することによって数20に示すようにφ(x,y,z)をxおよびyに関してフーリエ変換したものを導くとともに逆フーリエ変換を行うことにより、φ(x,y,z)を取得することができ、3次元ポテンシャルが厳密に導かれることとなる。

【0072】
ところで、数12をzにて奇数回および偶数回微分した関数に対して数20の導出に準じた処理を行うことによってもa(k,k),b(k,k)を求めることができ、φ(x,y,z)を1回以上微分した数20に相当する式を導くことができる。ここでは、q,pを0以上の整数としてqが奇数、pが偶数であるものとする(すなわち、q≡1、p≡0(mod2))。また、ラプラス方程式を満たす場を示す場関数H(x,y,z)のzについてのq回微分およびp回微分をH(q)(x,y,z),H(p)(x,y,z)にて表す。さらに、H(q)(x,y,0)(すなわち、数21)をxおよびyについてフーリエ変換したものをh(q)(k,k)と表し、H(p)(x,y,0)をxおよびyについてフーリエ変換したものをh(p)(k,k)と表すと、H(q)(x,y,z)およびH(p)(x,y,z)はそれぞれ数22および数23にて表される。

【0073】
【数21】
JP0005713246B2_000022t.gif

【0074】
【数22】
JP0005713246B2_000023t.gif

【0075】
【数23】
JP0005713246B2_000024t.gif

【0076】
以上のことから、測定によりH(q)(x,y,0)およびH(p)(x,y,0)を求めることができる場合、これらをフーリエ変換してh(q)(k,k)およびh(p)(k,k)を求め、数22または数23を用いてh(q)(k,k)およびh(p)(k,k)からH(q)(x,y,z)またはH(p)(x,y,z)をフーリエ変換したものを導くとともに逆フーリエ変換を行うことにより、H(q)(x,y,z)またはH(p)(x,y,z)を取得することができる。

【0077】
図2の磁場取得装置1では、上記3次元ポテンシャル取得方法を利用して3次元ポテンシャルの取得も可能となっている。図6は、磁場取得装置1が3次元ポテンシャルを取得する処理の流れを示す図である。

【0078】
3次元ポテンシャル取得処理では、図7中にて破線にて示すように、z=0を満たす測定面91上に測定部21の(-Z)側の端面が配置され、図5のステップS11~S14を行うことにより、φ(x,y,0)が取得される。本実施の形態では、2次元ポテンシャル分布算出部613により、測定面91上の各位置におけるφ(x,y,0)の値(磁場の大きさを示す値)が画素値に変換され、測定面91における磁場の2次元分布が磁場分布画像71(正確には画像のデータ)として固定ディスク44(図4参照)に記憶される(図6:ステップS21)。実際には、ステップS21の処理は、既述の図5の処理の実行により既に完了している。

【0079】
続いて、図2に示す昇降機構34により、ヘッド部2がZ方向に微小距離d(d>0)だけ下降し、図7中に二点鎖線にて示すように測定部21と試料9との間の距離が微小距離dだけ変更される。すなわち、試料9に対して相対的に固定された測定面91から(-Z)方向に微小距離dだけ離れた面92が新たな測定面とされる。そして、ステップS21の処理と同様に図5のステップS11~S14を行うことにより、測定面92における磁場の分布(すなわち、φ(x,y,-d))が補助磁場分布画像72として取得される(ステップS22)。なお、ステップS22の処理では、図4中の信号処理ユニット5からフーリエ変換部612に測定値f(x’,θ)が出力され、2次元ポテンシャル分布算出部614にて補助磁場分布画像72が生成される。もちろん、1つのフーリエ変換部および1つの2次元ポテンシャル分布算出部により、磁場分布画像71および補助磁場分布画像72の双方が生成されてよい。

【0080】
磁場分布画像71および補助磁場分布画像72(それぞれポテンシャル分布画像および補助ポテンシャル分布画像と捉えることもできる。)が準備されると、3次元ポテンシャル分布算出部615では、これらの画像の差分画像が求められ、当該差分画像を微小距離dで除算した微分画像が生成される。微分画像は測定面91における磁場のZ方向の微分、すなわち、磁場勾配を実質的に示す画像となり、磁場勾配分布画像(ポテンシャル勾配分布画像と捉えることもできる。)として記憶される(ステップS23)。

【0081】
既述のように、磁場分布画像71はφ(x,y,0)にて表される。また、磁場勾配は磁場をzにて微分したものであることから、磁場勾配分布画像はφ(1)(x,y,0)(以下、φ(x,y,0)と表す。)を示す画像となる。磁場分布画像71を第1画像、補助磁場分布画像72を中間画像、磁場勾配分布画像を第2画像とした場合、ステップS21~S23は、磁場の分布を示す2次元の第1画像および中間画像を取得してこれらの画像から磁場の勾配を示す第2画像を求める工程となっている。

【0082】
続いて、3次元ポテンシャル分布算出部615では、φ(x,y,0)である磁場分布画像71およびφ(x,y,0)である磁場勾配分布画像が、xおよびyに関してフーリエ変換されてψ(k,k)およびψ(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)が求められる(ステップS24)。フーリエ変換として具体的には2次元の離散フーリエ変換が行われ、フーリエ変換に際して、例えば、0~πの範囲の正弦関数のn乗(nは0以上)を窓関数として両画像に掛ける手法が採用される。

【0083】
ψ(k,k)およびψ(k,k)が求められると、ψ(k,k)およびψ(k,k)を用いて、数20で示される式(以下、「3次元ポテンシャル取得式」と呼ぶ。)によりφ(x,y,z)が求められる(ステップS25)。なお、ψ(k,k)およびψ(k,k)を3次元ポテンシャル取得式に代入してkおよびkに関して逆フーリエ変換する際には、フーリエ変換時と同様の窓関数が利用される。φ(x,y,z)が求められることにより、磁場のz成分の3次元分布が厳密に求められることとなる。

【0084】
次に、図7に示すように試料9の媒質に埋没した測定対象物質表面93とz=0の測定面91との間の距離がh(h>0)である場合、3次元ポテンシャル分布算出部615においてφ(x,y,z)のzに媒質に埋没した測定対象物質表面93の位置を示す値(-h)(または、媒質に埋没した測定対象物質表面93に近接する位置を示す値)が代入され、媒質に埋没した測定対象物質表面93における磁場分布が得られる(ステップS26)。媒質に埋没した測定対象物質表面93における磁区構造と磁場分布とは対応しているため、磁場取得装置1ではφ(x,y,-h)を示す画像が磁区構造を示す磁区画像として固定ディスク44に保存される。以上の動作により、保護膜等の磁性体上部に存在する物体の影響でセンサーを媒質に埋没した測定対象物質表面93に接近できない場合にも媒質に埋没した測定対象物質表面93近傍における磁場分布画像を得ることができ、磁場取得装置1により10nm以下(設計によっては、2~3nm以下)の高い空間分解能を有する磁場顕微鏡が実現される。

【0085】
以上のように、磁場取得装置1では、Z方向に微小距離だけ相違する2つの測定面にて同様の手法により磁場分布画像71および補助磁場分布画像72が取得され、これらの画像の差分画像を微小距離で除算した微分画像が磁場勾配分布画像として取得される。そして、磁場分布画像71であるφ(x,y,0)および磁場勾配分布画像であるφ(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(k,k)およびψ(k,k)を求め、さらに、ψ(k,k)およびψ(k,k)を用いて、3次元ポテンシャル取得式によりφ(x,y,z)が求められる。これにより、3次元ポテンシャルを精度よく求めることができる。また、演算部61が、φ(x,y,z)のzに試料9の媒質に埋没した測定対象物質表面93の位置または媒質に埋没した測定対象物質表面93に近接する位置を示す値を代入することにより、媒質に埋没した測定対象物質表面93における磁区構造を示す磁区画像を取得することができ、磁場取得装置1では、高い空間分解能の磁場顕微鏡を実現することができる。

【0086】
ところで、磁性体表面の観察に用いられる他の装置(例えば、走査トンネル顕微鏡や走査電子顕微鏡)では、極めて清浄な磁性体表面の観察しか行うことができないが、磁場取得装置1では、試料9の表面が清浄で無く、非磁性体物質に埋没した磁区の測定が可能であるため、実用的な評価装置または製造ライン上の検査装置としての応用が可能である。なお、磁場取得装置1は、ハードディスク駆動装置の検出器として用いることも考えられる。

【0087】
次に、測定部21の製造に関連して、好ましい薄膜形成手法について述べる。図8は、支持部22の支持プレート221となる矩形の基板(以下、同符号221を付す。)に磁性材料の薄膜を形成する様子を示す図である。既述のように、測定部21は磁性材料(コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等を含む材料)の多層膜であり、例えば、一の磁性材料の薄膜の形成時には、当該磁性材料の蒸着源81に対向する位置に基板221が板状の蒸着源81に対して平行に配置され、蒸着源81と基板221との間に開口を有するマスク82(図8では、断面を示す平行斜線の図示を省略している。図9において同様。)が配置される。そして、真空蒸着によりマスク82の開口形状に対応する基板221上の領域に当該磁性材料の薄膜220が形成される。このようにして、基板221の主面に沿って広がる薄膜素子(すなわち、図2中のY’方向およびZ方向に広がる測定部21)が、薄膜となる物質の蒸着により形成される。

【0088】
次に、より好ましい薄膜形成手法について述べる。図9は、基板221に磁性材料の薄膜を形成する様子を示す図である。図9に示す薄膜形成手法では、板状の蒸着源81と基板221とを対向させつつ、蒸着源81に対して基板221が傾斜して配置される。より詳細には、図9の下側が図2の磁場取得装置1における(-Z)側に対応しており、矩形の基板221の下側の部位が蒸着源81から離れるように、基板221が傾けられる。そして、この状態にて蒸着が行われることにより、図9に示すように、基板221の下部において、下側に向かうに従って膜厚が薄くなるように薄膜220が形成される。換言すると、基板221の下側(すなわち、磁場取得装置1に設けられた場合における試料9側)における薄膜220の膜厚が他の部位の膜厚よりも小さい測定部が形成される。測定部では、薄膜220の下端部の膜厚(実際には、多層膜の膜厚)が膜厚方向であるX’方向における分解能に影響するため、図9に示す手法にて形成されることにより膜厚が対象物側に向かって漸次減少する測定部では、図8の手法にて形成される測定部に比べて、X’方向に関する分解能が高い測定値の取得が可能となる。膜厚が対象物側に向かって漸次減少する薄膜素子は他の手法により形成されてもよい。

【0089】
図10は、上記2次元ポテンシャル取得方法を用いる検査装置1aを説明するための図である。検査装置1aは、核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging(MRI))により画像を取得するMRI装置である。図10中の左側は検査装置1aの構成を示し、右側は対象物9aの検査対象となる断面(図10中のXY平面に平行な断面であり、以下、「検査対象面」という。)のZ方向の位置と、後述の送信コイル12により対象物9aに対して付与される回転磁場の周波数ωとの関係を示している。

【0090】
検査装置1aは、図10中のY方向に横たわる人体である対象物9aに対してZ方向の傾斜磁場を形成する静磁場形成部11、対象物9aに向かって回転磁場を付与する送信コイル12、対象物9aの(+Z)側に配置されるヘッド部2a、ヘッド部2aをZ方向に平行な軸を中心として回動する回動機構32a、回動機構32aと共にヘッド部2aをZ方向に昇降する昇降機構34a、回動機構32aおよび昇降機構34aと共にヘッド部2aをX方向およびY方向に移動する水平移動機構33a、並びに、検査装置1aの各構成要素に接続される制御ユニット40を備える。図10では、符号A1を付す複数の矢印の長さを(+Z)側から(-Z)方向に向かって順に長くすることにより、静磁場形成部11により形成される静磁場の強度が(-Z)方向に向かって漸次大きくなる状態を抽象的に示している。

【0091】
ヘッド部2aは、対象物9aのX方向の幅よりも十分に長い(例えば、当該幅の2倍以上)測定部21a、および、測定部21aが固定される支持プレート221aを有し、支持プレート221aは支持棒224を介して回動機構32aに取り付けられる。

【0092】
図11は、制御ユニット40の機能構成を測定部21aおよび送信コイル12と共に示す図である。図11中の制御部62および演算部63が制御ユニット40に含まれるコンピュータにより実現される機能である。

【0093】
制御部62は、走査信号発生器410に接続され、走査信号発生器410からの信号に基づいて水平移動機構33aによりヘッド部2aが走査を行う。また、制御部62は、発振器401、位相調整部402、振幅変調器403および高周波増幅器404を介して送信コイル12に接続され、制御部62の制御に応じた周波数の回転磁場が送信コイル12から対象物9aに付与される。測定部21aは、受信器プリアンプ405に接続されており、測定部21aからの信号は受信器プリアンプ405にて増幅された後、位相検波器406、LPF407、A-Dコンバータ408に順に出力され、A-Dコンバータ408からの出力信号が、測定値f(x’,θ)としてメモリ409に記憶される。なお、図11では、A-Dコンバータ408から出力される信号の内容を、符号B1を付す破線の矩形にて囲んで示している(矩形B2,B3において同様)。

【0094】
図11中の演算部63の再構成制御部631は、図4中のフーリエ変換部611および2次元ポテンシャル分布算出部613と同様の機能を有し、測定部21aが配置されるとともにz=αを満たす測定面におけるφ(x,y,α)が、メモリ409にて記憶される測定値f(x’,θ)に基づいて求められる。また、3次元磁場再構成部632は、図4中の3次元ポテンシャル分布算出部615と同様の機能を有し、φ(x,y,α)に基づいてφ(x,y,z)を求めるとともに、後述のMRI画像を取得する。

【0095】
対象物9aにおいてz=z0を満たす平面を検査対象面とする場合には、図10中の右側に示すように、周波数ω0の回転磁場(RFパルス(90度パルス)とも呼ばれる。)を対象物9aに付与することにより、対象物9aの当該検査対象面上にて核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance(NMR))が生じる。また、後述するように、回転磁場の付与に同期して、測定部21aの走査を行うことにより、検査対象面のMRI画像が取得される。以下、検査装置1aにおける検査に係る動作の流れについて、図6に準じて説明する。

【0096】
検査装置1aでは、z=0を満たす測定面上に測定部21aの(-Z)側の端面が配置され、図5のステップS11~S13の処理が行われる。このとき、ステップS11における測定部21aの各走査では、走査方向(すなわち、X’方向)の各位置x’にて測定部21aが停止される。続いて、送信コイル12から対象物9aに周波数ω0の回転磁場が付与され、検査対象面上にて核磁気共鳴が生じる。そして、送信コイル12の駆動の停止後(すなわち、回転磁場の付与の停止後)所定時間の間、測定部21aにおける測定値の変化が取得される。送信コイル12の駆動、および、駆動停止後の測定値の変化の取得は、当該走査におけるX’方向の全ての位置x’に対して行われ、測定部21aの1回の走査が完了する。上記動作は、全ての角度θにおける走査に対して行われることにより、再構成制御部631にてφ(x,y,0)である磁場分布画像が取得される(図5:ステップS14、図6:ステップS21)。実際には、送信コイル12の駆動停止後の経過時間tもパラメータとして含むφ(x,y,0,t)が、各経過時間tに対する磁場分布画像を示すものとして求められる。

【0097】
φ(x,y,0,t)が取得されると、昇降機構34aによりヘッド部2aがZ方向に微小距離dだけ移動する。その後、上記ステップS21と同様の処理が行われることにより、φ(x,y,-d,t)が各経過時間tに対する補助磁場分布画像を示すものとして取得される(ステップS22)。続いて、φ(x,y,0,t)とφ(x,y,-d,t)との差を微小距離dで除算したφ(x,y,0,t)(すなわち、各経過時間tの磁場分布画像および補助磁場分布画像の差分画像を微小距離dで除算した磁場勾配分布画像)が取得される(ステップS23)。そして、φ(x,y,0,t)およびφ(x,y,0,t)をそれぞれフーリエ変換したものを用いて、3次元ポテンシャル取得式によりφ(x,y,z,t)が求められる(ステップS24,S25)。

【0098】
φ(x,y,z,t)は、検査対象面のZ方向の位置がz0である場合における、送信コイル12の駆動停止後の各経過時間tに対するφ(x,y,z)を示している。したがって、当該検査対象面に対して取得されるφ(x,y,z,t)のzにz0を代入することにより、検査対象面の各位置(x,y)に対して、回転磁場の付与停止後における磁場の時間的変化を示すφ(x,y,z0,t)が、励起状態の緩和現象を示すものとして求められる。そして、所定の演算により、検査対象面の各位置(x,y)における緩和現象の相違を示す画像が、MRI画像として取得される(ステップS26)。

【0099】
上記ステップS21~S26処理は、Z方向の複数の位置における複数の平面のそれぞれを検査対象面として繰り返される。このとき、例えば、z=(z0+Δz)の平面を検査対象面とする場合には、周波数(ω0-Δω)の回転磁場が対象物9aに付与される。ただし、磁気回転比をγ、傾斜磁場の傾きをGzとして、Δωは(γ・Gz・Δz)として表される(すなわち、(Δω=γ・Gz・Δz))。これにより、Z方向の複数の位置における複数の平面でのMRI画像が取得される。

【0100】
以上に説明したように、図10の検査装置1aでは、静磁場形成部11および送信コイル12が協働することにより、Z方向の複数の位置における複数の平面上にて対象物9aの内部に核磁気共鳴が順次生じる。そして、当該複数の平面に含まれる各平面にて核磁気共鳴を生じさせた際に、制御部62が演算部63に各経過時間tに対するφ(x,y,z)を取得させ、さらに、演算部63がφ(x,y,z)のzに当該平面の位置を示す値を代入することにより、検査対象面である当該平面上の各位置(x,y)における緩和現象が取得される。これにより、検査対象面の高精度なMRI画像を取得することができる。このように、検査装置1aでは、核磁気共鳴を利用した検査を精度よく行うことができる。また、図10の検査装置1aでは、一般的なトンネル型のMRI装置にて生じる被検者における圧迫感や閉塞感を低減することができる。通常のMRIと異なりX,Y方向には、急峻な磁場勾配を形成する必要がなく、薄膜磁場センサの膜厚がX,Y方向の空間分解能を決定するため、高分解能の検査が可能となる。また装置の小型化が実現され、手術中リアルタイム高分解能検査などの臨床応用も可能となる。

【0101】
以上の実施の形態では、磁位のポテンシャルをZ方向に1回微分したものに基づく測定値が測定部21,21aにより取得されるが、磁位のポテンシャルをZ方向に2回微分したものに基づく測定値が測定部により取得されてもよい。以下の説明におけるφ(x,y,z)は、Φ(x,y,z)のzによる2回微分であるΦ(2)(x,y,z)(以下、Φzz(x,y,z)と表す。)となる。

【0102】
図12は本発明の第2の実施の形態に係る磁場取得装置1bの一部を示す図である。磁場取得装置1bでは、ヘッド部2bの構成が図2の磁場取得装置1と相違している。他の構成は図2と同様であり、図12では図示を省略している。

【0103】
ヘッド部2bでは、磁性材料にて形成されるとともに磁化された薄膜が測定部21bとして支持部22bの支持プレート221に設けられ、Y’方向に長い測定部21bの全体と試料9との間にて磁気力が作用する。支持プレート221は、傾斜部222を介してベース部223に接続されており、ベース部223には、片持ち状の支持部22b(以下、「カンチレバー22b」という。)を振動させる振動部25が設けられる。また、ヘッド部2bには、図2のヘッド部2と同様のLDモジュール23およびPSPD24が設けられ、測定部21b、カンチレバー22b、振動部25、LDモジュール23およびPSPD24は密閉された容器20内に収容される。容器20内は減圧されており、カンチレバー22bのQ値の向上が図られる。また、容器20の側面および上面((+Z)側の面)は所定の磁気シールド材料にて形成されており、カンチレバー22bのQ値の向上と相まって、測定におけるノイズの影響を大幅に低減することができる。

【0104】
磁場取得装置1bでは、振動部25のピエゾによりカンチレバー22bが共振周波数で上下に励振される。カンチレバー22bにはLDモジュール23から光が照射されており、反射光の位置がPSPD24により検出される。これにより、信号処理部53(図2参照)により、カンチレバー22bの共振周波数が試料9との相互作用力によりシフトした量が検出される。ここで、カンチレバー振動の周波数のシフト量は相互作用力に由来し、保存力勾配に由来する測定量であるといえる。したがって、磁場取得装置1bでは、X’方向への測定部21bの走査の際に、X’方向の各位置において、カンチレバー22bの共振周波数のシフト量に基づいて磁気力勾配(測定部21bの全体における磁気力勾配)を示す値が取得される。よって、z=αとなる測定面上の基準方向と、測定部21bの長手方向(Y’方向)とがなす角度θを複数通りに変更しつつ、測定面上において測定部21bの長手方向に垂直な方向への走査を繰り返すことにより測定値f(x’,θ)が取得され、図2の磁場取得装置1と同様の手法にて、磁場勾配分布画像であるφ(x,y,α)が取得される。

【0105】
磁場取得装置1bによる測定では、z=0を満たす測定面上にてカンチレバー22bの振動周波数のシフト量が取得されて磁場勾配分布画像が第1画像として取得され(図6:ステップS21)、当該測定面から微小距離だけ離れた測定面にて同様に磁場勾配分布画像が中間画像として取得される(ステップS22)。続いて、第1画像と中間画像との差分画像を微小距離dで除算した微分画像が磁場勾配のzによる微分を示す第2画像として取得される(ステップS23)。この場合、第1画像はφ(x,y,0)(すなわち、Φzz(x,y,0))に対応し、第2画像はφ(x,y,0)(すなわち、Φzzz(x,y,0))に対応することから、これらの画像をフーリエ変換して数20の3次元ポテンシャル取得式に代入することにより、Φzz(x,y,z)であるφ(x,y,z)が求められる(ステップS24,S25)。そして、φ(x,y,z)のzに試料9の表面の位置を示す値が代入されることにより、表面における磁場勾配の分布が取得され、これに基づいて磁区画像が生成される(ステップS26)。

【0106】
このように、磁場取得装置1bでは、磁位のポテンシャルをZ方向に2回微分したものに基づく測定値f(x’,θ)が測定部21bにより取得され、Φzz(x,y,z)であるφ(x,y,z)を生成することが実現される。もちろん、磁場取得装置1bでは、磁位のポテンシャルをZ方向に3回以上微分したものに基づく測定値を取得可能な測定部が設けられ、磁位のポテンシャルをZ方向に3回以上微分したものがφ(x,y,z)として取得されてもよい。

【0107】
以上のように、磁場取得装置では、磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものがφ(x,y,z)として取得され、φ(x,y,z)のzに対象物である試料9の表面の位置または表面に近接する位置を示す値を代入することにより、高い分解能の磁場顕微鏡を実現することができる。

【0108】
なお、図12の磁場取得装置1bにおいて、振動させないカンチレバー22bを走査させつつ、カンチレバー22bの変位量をLDモジュール23およびPSPD24により取得することにより、磁位のポテンシャルをZ方向に1回微分したものに基づく測定値f(x’,θ)が測定部21bにより求められ、Φ(x,y,z)であるφ(x,y,z)が取得されてもよい(後述のMRI装置において同様)。

【0109】
また、磁場取得装置1bにおいて、振動させないカンチレバー22bの走査によるΦ(x,y,0)の測定と、振動させたカンチレバー22bの走査によるΦzz(x,y,0)の測定とを行い、Φ(x,y,0)をH(q)(x,y,0)とし(ただし、q=1)、Φzz(x,y,0)をH(p)(x,y,0)として(ただし、p=2)、これらをフーリエ変換してh(q)(k,k)およびh(p)(k,k)を求め、数23を用いてH(p)(x,y,z)(すなわち、Φzz(x,y,z))が求められてもよい。さらに、測定によりΦzz(x,y,0)およびΦzzz(x,y,0)が取得可能な場合には、Φzzz(x,y,0)をH(q)(x,y,0)とし(ただし、q=3)、Φzz(x,y,0)をH(p)(x,y,0)として(ただし、p=2)、これらをフーリエ変換してh(q)(k,k)およびh(p)(k,k)を求め、数22を用いてH(q)(x,y,z)(すなわち、Φzzz(x,y,z))が求められてもよい。

【0110】
このように、z=0を満たす測定面における任意のポテンシャルH(x,y,z)のzによるq回微分であるH(q)(x,y,0)が一の測定において取得されるφ(x,y,α)であり、当該ポテンシャルH(x,y,z)のzによるp回微分であるH(p)(x,y,0)が他の測定において取得されるφ(x,y,α)である場合に(ただし、p,qは0以上の整数であり、qが奇数、pが偶数である。)、H(q)(x,y,0)およびH(p)(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してh(q)(k,k)およびh(p)(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求めることにより、数22によりH(q)(x,y,z)を求める、または、数23によりH(p)(x,y,z)を求めることができる(他の装置において同様)。

【0111】
図12の磁場取得装置1bは、MRI装置として用いられてもよく、この場合、図10の静磁場形成部11および送信コイル12が磁場取得装置1bに追加され、Z方向の複数の位置における複数の平面上にて対象物の内部に核磁気共鳴が順次生じる。そして、当該複数の平面に含まれる各平面にて核磁気共鳴を生じさせた際に、Φzz(x,y,z,t)であるφ(x,y,z,t)が取得され、さらに、φ(x,y,z,t)のzに当該平面の位置を示す値を代入することにより、当該平面上の各位置(x,y)における緩和現象が取得される。これにより、対象物の検査対象面における高精度なMRI画像を取得することができる。

【0112】
また、このような磁場取得装置において、磁位のポテンシャルをZ方向に3回以上微分したものに基づく測定値を取得可能な測定部が設けられ、磁位のポテンシャルをZ方向に3回以上微分したものがφ(x,y,z,t)として取得されてもよい。以上のように、磁場取得装置では、磁位のポテンシャルをZ方向に関して1回以上微分したものをφ(x,y,z)として取得することにより、核磁気共鳴を利用した検査を精度よく行うことが実現される。

【0113】
また、2次元ポテンシャル取得式を用いて求められる2次元ポテンシャルφ(x,y,α)の基礎となる3次元ポテンシャル(すなわち、3次元ポテンシャル取得式を用いて求められるφ(x,y,z))は、磁位のポテンシャルに由来するものに限定されず、容易に2次元ポテンシャル取得方法を応用することができるものとして電位のポテンシャルに由来する3次元ポテンシャル分布を挙げることができる。この場合、例えば、図12の装置において、試料9は電荷が表面に存在するものとされる。また、表面を絶縁体で覆うとともに、当該絶縁体に電荷を保持させた測定部21bが準備される。そして、各角度θにおいて、振動させないカンチレバー22bを走査させつつ、カンチレバー22bの変位量が測定値としてLDモジュール23およびPSPD24により取得される。これにより、2次元のポテンシャル分布を示すφ(x,y,α)、すなわち、試料9の存在に起因する静電気力(のZ方向成分)の分布を示す静電気力分布画像が取得される。

【0114】
3次元のポテンシャル分布を示すφ(x,y,z)(ただし、φ(x,y,z)はラプラス方程式を満たす。)を取得する際には、測定面のZ方向の位置が微小距離だけ異なる2つの静電気力分布画像の差分を微小距離で除算して静電気力勾配分布画像が取得され、z=0の測定面における静電気力分布画像および静電気力勾配分布画像をフーリエ変換して3次元ポテンシャル取得式に代入することにより、静電気力を示す3次元ポテンシャルが再現される。さらに、試料9の表面(または表面近傍)の位置を示すzの値が、再現されたポテンシャル関数に代入されて試料9の表面における静電気力の分布を示す画像が電荷の分布に対応する画像として求められる。このように、上記手法によれば、試料9から十分に離れた位置から近距離性の相互作用の影響を受けることなく精度よく電荷の3次元的な分布を反映したポテンシャル分布を求めることができ、例えば、絶縁膜内に電荷が3次元的に分布する場合に、電荷が遠方に作る場から電荷がトラップされている位置を特定することが実現される。

【0115】
もちろん、共振するカンチレバー22bの振動周波数のシフト量から静電気力勾配分布画像がφ(x,y,α)として取得されてもよい。また、測定面のZ方向の位置が微小距離だけ異なる2つの静電気力勾配分布画像に基づいて静電気力勾配の3次元分布であるφ(x,y,z)が求められてもよい。

【0116】
上記2次元ポテンシャルおよび3次元ポテンシャル取得方法は、対象物の存在に起因して少なくとも対象物の周囲に形成される任意の3次元ポテンシャルに対して適用可能であり、磁位または電位のポテンシャルに由来するポテンシャル以外に、温度のポテンシャルまたは重力に由来するポテンシャル等にも応用が可能である。例えば、一方向に長い測定範囲の平均的な温度(当該測定範囲における温度の積分値と等価であると捉えられる。)が測定可能な測定部が、対象物の近傍に配置される。そして、対象物内に定常状態の熱の流れを生じさせ、測定面上の基準方向と測定部の長手方向とがなす角度θを複数通りに変更しつつ測定部の走査を繰り返すことにより、測定面上の温度分布を示すφ(x,y,α)を取得することができる。また、Z方向の位置が微小距離だけ異なる2つの測定面の温度分布を求めることにより、対象物内の3次元の温度分布φ(x,y,z)を取得して、対象物の内部構造を知ることも可能である。このような測定が可能な3次元の温度分布取得装置1cの一例を図13に示す。

【0117】
図13の温度分布取得装置1cは薄膜型熱電対を有する測定部21cを備える。薄膜型熱電対は、例えば基板上に白金(Pt)およびコンスタンタンを順に積層することにより形成される。測定部21cからの信号はアンプを介して、図2の装置と同様のコンピュータ4に入力される。図13では、コンピュータ4を破線の矩形にて示し、コンピュータ4が実現する機能を内部に示している。また、測定の対象物9cは、試料台31上に載置され、試料台31は回動機構32および水平移動機構33により回動および移動可能である。なお、対象物9cには、電圧源90が接続され、対象物9c内に定常状態の熱の流れが生じる。

【0118】
測定部21cは、図示省略の昇降機構によりZ方向に移動可能であり、測定部21cの出力は制御部62aを介して変換部610a,610bに入力される。変換部610a,610bでは、図2の装置と同様にして、Z方向の2つの位置での2次元温度分布が取得される。そして、2つの2次元温度分布に基づいて、対象物9c内の3次元の温度分布(3次元ポテンシャル分布)φ(x,y,z)が取得される。なお、温度分布取得装置1cでは、図2の装置と同様に、LDモジュール23およびPSPD24が設けられ、LDコントローラ233aがLDドライバ231aを駆動することにより、LDモジュール23からレーザ光が出射される。また、PSPD24からの出力は、IVコンバータ51、信号処理部53およびセレクタ541を介して制御部62a(図13では、図示の都合上、測定部21cに接続される制御部62aとは異なるブロックとして示しているが、これらのブロックは同一の制御部62aである。)に入力される。これにより、測定部21cが対象物9cに接触することが防止される。

【0119】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。

【0120】
上記実施の形態では、測定値f(x’,θ)を取得する測定ユニットが、測定部、回動機構、水平移動機構およびコンピュータ(または制御部)により実現されるが、測定ユニットは他の構成により実現されてもよい。図14は、他の測定ユニットに設けられる素子群210の底面図である。図14に示すように、それぞれが長手方向に伸びるセンサとなる多数の薄膜素子21dが膜厚方向に積層された素子群210では、一の角度θにおけるX’方向の各位置での測定値が同時に取得される。そして、素子群210または対象物をZ軸を中心として回転することにより角度θを複数通りに変更しつつ、素子群210による測定を繰り返すことにより、測定値f(x’,θ)が取得される。

【0121】
ここで、測定面上における各薄膜素子21dの領域を線状領域と捉えると、素子群210は、長手方向に垂直かつ測定面に平行なX’方向に配列される複数の線状領域の測定値を同時に取得するものとなる。また、上記実施の形態における測定部を走査する測定ユニットでは、長手方向に長い一の測定部を走査する動作は、一の角度θにおいて複数の線状領域をX’方向に配列設定しつつ、複数の線状領域のそれぞれにおける測定値を取得することと等価である。以上のように、φ(x,y,α)を取得するポテンシャル取得装置では、測定面上において測定面に平行な長手方向に伸びる複数の線状領域を長手方向に垂直なX’方向に配列設定するとともに、基準方向と長手方向とのなす角度θを複数通りに変更した状態にて複数の線状領域のそれぞれにおける測定値を取得する測定ユニットは、様々な態様にて実現可能である。

【0122】
図2の磁場取得装置1(他の装置において同様)において、Z方向に微小距離dだけ離れた2つの位置における磁場分布画像71および補助磁場分布画像72を取得する際に、測定部21のZ方向の幅(高さ)が微小距離dよりも十分に大きい場合には、例えば、図15に示すように、測定部21の底面をZ方向の3つの高さz1、z2、z3に順に配置して測定が行われてもよい。この場合に、高さz1、z2、z3にて取得される画像をそれぞれz1画像φ(x,y,z1)、z2画像φ(x,y,z2)、z3画像φ(x,y,z3)と呼ぶと、z1画像φ(x,y,z1)とz2画像φ(x,y,z2)との差分画像が磁場分布画像として扱われ、z2画像φ(x,y,z2)とz3画像φ(x,y,z3)との差分画像が補助磁場分布画像として扱われる。これにより、Z方向の幅が微小な測定部を用いて測定を行った場合と等価な磁場分布画像および補助磁場分布画像を取得することが可能となり、磁場の3次元分布を高精度に求めることが可能となる。なお、本手法を用いる際には、測定部21において試料9から最も離れた部位では、試料9に起因する磁場がほぼ0となっていることが重要である。また、測定部の設計によっては、本手法が長手方向およびZ方向に垂直なX’方向において採用されてもよい。

【0123】
磁場の測定において試料9(例えば、強磁性体あるいはフェリ磁性体のサンプル)を予め着磁する必要がある場合には、図16に示すように、複数のコイル901を試料9に垂直な方向に配列することにより(多段配置することにより)、着磁における磁界の指向性を高めることが好ましい。これにより、限定した範囲のみを着磁することができ(磁気配向した領域が広範囲に広がることが防止され)、好ましい測定を行うことが可能となる。なお、板状の試料9において両主面側からの着磁が可能である場合には、一方の主面側に設けられる複数のコイル901に加えて、図16中に二点鎖線の矩形にて示すように、他方の主面側にも同様の複数のコイル901が設けられ、着磁における磁界の指向性がさらに高められてよい。

【0124】
磁場取得装置において、図2の支持部22および図12のカンチレバー22bを走査方向に並べることにより、磁場分布画像および磁場勾配分布画像がおよそ同時に取得され、3次元ポテンシャルの測定の高速化が図られてもよい。

【0125】
また、2次元ポテンシャルや3次元ポテンシャルは既述の2次元ポテンシャル取得式や3次元ポテンシャル取得式に厳密に従って求められる必要はなく、適宜、類似もしくは近似する、または、変形された演算により求められてよい。フーリエ変換および逆フーリエ変換も既知の様々な技巧的な手法が採用されてよい。

【0126】
上記実施の形態では、測定部21,21a~21cがY’方向およびZ方向に広がる薄膜素子とされることにより、測定部21,21a~21cの走査における走査方向の測定分解能を向上することができ、さらに、2次元ポテンシャルの測定の分解能も向上することが可能となるが、測定される2次元ポテンシャルに求められる分解能によっては、測定面に平行に伸びるとともに、走査方向に比較的厚い測定部が用いられてもよい。

【0127】
図2の磁場取得装置1にて測定部21がZ軸を中心として回動され、図10の検査装置1aにて対象物9aを支持する部材がZ軸を中心として回動されてもよい。また、図2の測定部21が測定面上にて移動し、図10の対象物9aを支持する部材が、対象物9aと共に水平方向に移動してもよい。このように、測定面上における測定部の対象物に対する回動および移動は相対的なものであってよい。

【0128】
上記実施の形態では、昇降機構34,34aにより測定部21,21a,21bがZ方向に移動するが、測定部の対象物に対するZ方向への移動は相対的なものであってよく、対象物をZ方向に移動する昇降機構が、Z方向の移動機構として設けられてもよい。

【0129】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせられてよい。

【0130】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0131】
1,1b 磁場取得装置
1a 検査装置
1c 温度分布取得装置
4 コンピュータ
9 試料
9a,9c 対象物
11 静磁場形成部
12 送信コイル
21,21a~21c 測定部
32,32a 回動機構
33,33a 水平移動機構
34,34a 昇降機構
61,63 演算部
62,62a 制御部
71 磁場分布画像
72 補助磁場分布画像
81 蒸着源
91,92 測定面
93 (試料の)表面
220 薄膜
221 基板
S11~S14,S21~S25 ステップ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15