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明細書 :酢酸資化性の細胞外電子伝達微生物を用いた浄化剤及び浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-212468 (P2013-212468A)
公開日 平成25年10月17日(2013.10.17)
発明の名称または考案の名称 酢酸資化性の細胞外電子伝達微生物を用いた浄化剤及び浄化方法
国際特許分類 B09C   1/10        (2006.01)
C02F   3/34        (2006.01)
C02F  11/02        (2006.01)
A62D   3/02        (2007.01)
C12N   1/00        (2006.01)
A62D 101/22        (2007.01)
FI B09B 3/00 ZABE
C02F 3/34 Z
C02F 11/02
A62D 3/02
C12N 1/00 R
A62D 101:22
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2012-084483 (P2012-084483)
出願日 平成24年4月3日(2012.4.3)
発明者または考案者 【氏名】吉田 奈央子
【氏名】片山 新太
出願人 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4D004
4D040
4D059
Fターム 4B065AA01X
4B065CA56
4D004AA02
4D004AA41
4D004AA50
4D004AB05
4D004AB06
4D004AB07
4D004AB08
4D004CA15
4D004CA17
4D004CC07
4D004CC15
4D040DD03
4D040DD11
4D040DD12
4D059AA00
4D059BA22
4D059BA29
4D059BJ00
4D059DB08
要約 【課題】悪臭物質の生成を伴わない浄化方法を実現することを課題とする。
【解決手段】酢酸又は酢酸塩と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と、脱ハロゲン化細菌とを組み合わせて用いることにより、酢酸を電子供与体とした脱ハロゲン化を行う。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
酢酸又はその塩と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と、脱ハロゲン化細菌とを組み合わせてなる浄化剤。
【請求項2】
以下の(1)~(6)のいずれかの構成からなる、請求項1に記載の浄化剤:
(1)酢酸又はその塩、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌の3成分を含有した混合剤;
(2)酢酸又はその塩を含有する第1要素と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌の2成分を含有した混合剤である第2要素と、からなるキット;
(3)酢酸又はその塩を含む第1要素と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌を含む第2要素と、脱ハロゲン化細菌を含む第3要素と、からなるキット;
(4)酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌の2成分を含有し、その使用時に酢酸又はその塩が併用されるもの;
(5)酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌を含有し、その使用時に脱ハロゲン化細菌と酢酸又はその塩が併用されるもの;及び
(6)脱ハロゲン化細菌を含有し、その使用時に酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と酢酸又はその塩が併用されるもの。
【請求項3】
酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌が、ジオバクター属細菌、シュワネラ属細菌、デスルフォビブリオ属細菌、アゾスピラ属細菌、ペロバクター属細菌、デスルフォモナス属細菌、デスルフォムサ属細菌、デスルフォバルバス属細菌、カンピロバクター属細菌、ウォリネラ属細菌、ジオスリックス属細菌、ホロファーガ属細菌、ブルデオビブリオ属細菌、ミクソコッカス属細菌、デスルフォコッカス属細菌、デスルフォサルシナ属細菌、デスルフォバクター属細菌、デスルフォバクテリウム属細菌、及びジオスピリラム属細菌からなる群より選択される一又は二以上の細菌である、請求項1又は2に記載の浄化剤。
【請求項4】
酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌が受託番号FERM P-21949のジオバクター属AY株である、請求項1又は2に記載の浄化剤。
【請求項5】
脱ハロゲン化細菌が、デハロコッコイデス属細菌、デハロバクター属細菌、デサルフィトバクテリウム属細菌、デスルフォモナス属細菌、クロストリジウム属細菌、及びデハロスピリラム属細菌からなる群より選択される一又は二以上の細菌である、請求項1~4のいずれか一項に記載の浄化剤。
【請求項6】
有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に対して、請求項1~5のいずれか一項に記載した浄化剤を作用させることを特徴とする、浄化方法。
【請求項7】
有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に対して、酢酸又はその塩の存在下、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と脱ハロゲン化細菌を作用させることを特徴とする、浄化方法。
【請求項8】
有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に、酢酸又はその塩と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と、脱ハロゲン化細菌とを添加するステップを含む、請求項7に記載の浄化方法。
【請求項9】
前記ステップが以下の(i)~(iii)からなる、請求項8に記載の浄化方法:
(i)酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と脱ハロゲン化細菌を含有する混合剤を用意するステップ;
(ii)前記混合剤を前記浄化対象物に添加するステップ;及び
(iii)酢酸又はその塩を前記浄化対象物に添加するステップ。
【請求項10】
前記ステップが以下の(I)及び(II)からなる、請求項8に記載の浄化方法:
(I)酢酸又はその塩、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌を含有する混合剤を用意するステップ;
(II)前記混合剤を前記浄化対象物に添加するステップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は浄化剤及びその用途に関する。詳しくは、塩素化エチレンや塩素化エタンといった有機ハロゲン化合物で汚染された環境(土壌や河川など)の浄化に利用される浄化剤及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハロゲン化合物汚染環境の浄化方法として、有機ハロゲン化合物を還元的脱ハロゲン反応により無毒化(分解)する微生物(脱ハロゲン化細菌)を補填する方法が知られている。塩素化エチレンや塩素化エタンを唯一無毒化できる微生物であるデハロコッコイデス属細菌は、還元的脱ハロゲン化反応の電子供給源として水素を必要とするが(非特許文献1)、汚染環境中に水素を供給することは困難である。そのため、既存技術では、乳酸、乳酸ポリエステルやデンプン等の発酵性有機物を供給することにより、環境中に生息する微生物または浄化剤中に存在する発酵性微生物の代謝により水素を生産することで浄化微生物(脱ハロゲン化細菌)に水素を供給し、浄化を実現している(例えば非特許文献2、特許文献1~3。図1を参照)。尚、本発明者らの研究グループは、脱ハロゲン化能に優れた新規なジオバクター属細菌を報告した(特許文献4)。また、特許文献5においても、新規なジオバクター属細菌が報告されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2006-150278号公報
【特許文献2】特開2006-272118号公報
【特許文献3】特開2008-049212号公報
【特許文献4】特開2012-34620号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2011/0151544号明細書
【0004】

【非特許文献1】Maymo-Gatell X., Chien Y. T., Gossett J. M., Zinder S. H.(1997) Isolation of a bacterium that reductively dechlorinates tetrachloroethene to ethene. Science 276:1568-1571.
【非特許文献2】Donna E. Fennell and James M. Gossett, Stephen H. Zinder (1997) Comparison of butyric acid, ethanol, lactic acid, and propionic acid as hydrogen donors for the reductive dechlorination of tetrachloroethene. Environmental Science & Technology 31:918-926.
【非特許文献3】Susan A. Gibson and Guy W. Sewell (1992) Stimulation of reductive dechlorination of tetrachloroethene in anaerobic aquifer microcosms by addition of short-chain organic acids or alcohols. Appl. Environ. Microbiol. 58:1392-1393.
【非特許文献4】Axel C. Heimann, Damien J. Batstone, Rasmus Jakobsen (2006) Methanosarcina spp. drive vinyl chloride dechlorination via interspecies hydrogen transfer. Appl. Environ. Microbiol. 72:2942-2949
【非特許文献5】Jianzhong He, Youlboong Sung, Mike E. Dollhopf, Babu Z. Fathepure, James M. Tiedje, and Frank E. Loffler (2002) Acetate versus hydrogen as direct electron donors to stimulate the microbial reductive dechlorination process at chloroethene-contaminated sites Environmental Science & Technology 36:3945-3952.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳酸やデンプン等からは、発酵性微生物の代謝によって、水素および酢酸の他に、副産物として酪酸やプロピオン酸といった悪臭物質が生ずる。酪酸はさらにプロピオン酸に発酵されるが、プロピオン酸の更なる発酵代謝は知られておらず、嫌気環境で分解されるには、硫酸還元やメタン発酵などの電子受容反応と共役する必要がある。環境中においては、かかる電子受容反応との共役が不十分となることが多く、結果として悪臭物質であるプロピオン酸が長期に残存しやすい。本発明の課題は、これら従来技術の問題を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み検討を重ねる中で本発明者らは、悪臭物質を産生する乳酸等に代わる電子供給源として酢酸に着目した。しかしながら、酢酸が水素を産生する酸化分解反応は以下の通りプロピオン酸の場合と同じく吸エルゴン反応であり、酢酸を電子供給源として利用する上でこの事実は大きな障害となる。
【化1】
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【0007】
従って、酢酸をそのまま水素資化性の脱ハロゲン化細菌に加えるだけでは、電子供給源として水素を産生することはできない(図2を参照)。このためか、酢酸を電子供与体として用いた過去の研究では脱塩素化活性をうまく維持することはできていない(例えば非特許文献3)。しかし、この酢酸酸化反応と水素資化性の脱ハロゲン化細菌がうまく共生することができれば、塩素化エチレンの水素を用いた脱塩素化反応は-167~192(kj/反応)であることから、総じて発エルゴン反応になり、酢酸酸化により産生された水素を用いた脱塩素化反応が理論上可能である。実際、酢酸を電子供与体とした塩素化エチレン脱塩素化微生物群を構築した例が2報報告されている(非特許文献4、5)。非特許文献4では、酢酸から産生した水素と二酸化炭素を用いてメタン生成を行う複合微生物群が報告されている。しかし、メタンは二酸化炭素の21倍の温室効果を有する可燃性ガスであるとともに、水素をめぐって脱塩素化反応を競合的に阻害することが懸念される。一方、非特許文献5では、メタンを生成しない酢酸を電子供与体として脱塩素化反応を行う複合微生物群が報告されているが、本培養物において脱ハロゲン化細菌と共生して酢酸酸化を担う微生物は特定されていなかった。また、共生する微生物による競合反応によって有機ハロゲン化合物の分解効率が低下しかねず、実用性に乏しい。
【0008】
以上の検討を踏まえ、本発明者らは、酢酸を資化できる細胞外電子伝達細菌(Extracellular Electron Transferring Bacteria、以下「EETB」と略称する)を用いることにより、酢酸酸化反応では供与し難い水素や電子を直接脱ハロゲン化細菌に供給するという方法(図3を参照)を着想した。EETBについては、通常の細菌が細胞内膜上で電子供受反応を行うのに対し、外膜型シトクロム、水溶性電子キャリアーや鞭毛を介して細胞外に存在する物質または生物と電子供受を行うことが知られている。これは、下のように示すことができる。
【化2】
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ここで、仮に、酢酸酸化により、細胞外電子伝達細菌のモデル電子キャリアーとしてAQDS(アントラキノン-2,3-ジスルフォネート)を還元し、AQDSの還元体であるAQH2DSからPCEの脱ハロゲン化反応に電子が供給する反応を考える。
【化3】
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【0009】
これより、両反応とも発エルゴン反応であることから、理論上、酢酸資化性EETBと脱ハロゲン化細菌が共に存在すれば、EETBが酢酸から得た電子を脱ハロゲン化細菌に供給できると考えられる。
【0010】
以上の仮説を検証するため、後述の通り、酢酸資化性EETBとしてのジオバクターAY株(AY株の詳細は後述する)と脱ハロゲン化細菌としての塩化ビニル脱塩素化コンソーシアを併用し、酢酸を電子供与体とした条件下、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化を試みた。その結果、良好な脱ハロゲン化を認めた。即ち、本発明者らが着想した方法が極めて有効であることが明らかとなった。一方、1,1,2-トリクロロエタン脱塩素化コンソーシアを脱ハロゲン化細菌とした実験、及び酸化グラフェンを唯一の電子受容体としたコンソーシアを酢酸資化性EETBとした実験においても、それぞれ期待通りの脱ハロゲン化を認め、本方法が汎用性に優れることも確認できた。
以下に示す本願発明は、主として上記成果ないし知見に基づく。
[1]酢酸又はその塩と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と、脱ハロゲン化細菌とを組み合わせてなる浄化剤。
[2]以下の(1)~(6)のいずれかの構成からなる、[1]に記載の浄化剤:
(1)酢酸又はその塩、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌の3成分を含有した混合剤;
(2)酢酸又はその塩を含有する第1要素と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌の2成分を含有した混合剤である第2要素と、からなるキット;
(3)酢酸又はその塩を含む第1要素と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌を含む第2要素と、脱ハロゲン化細菌を含む第3要素と、からなるキット;
(4)酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌の2成分を含有し、その使用時に酢酸又はその塩が併用されるもの;
(5)酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌を含有し、その使用時に脱ハロゲン化細菌と酢酸又はその塩が併用されるもの;及び
(6)脱ハロゲン化細菌を含有し、その使用時に酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と酢酸又はその塩が併用されるもの。
[3]酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌が、ジオバクター属細菌、シュワネラ属細菌、デスルフォビブリオ属細菌、アゾスピラ属細菌、ペロバクター属細菌、デスルフォモナス属細菌、デスルフォムサ属細菌、デスルフォバルバス属細菌、カンピロバクター属細菌、ウォリネラ属細菌、ジオスリックス属細菌、ホロファーガ属細菌、ブルデオビブリオ属細菌、ミクソコッカス属細菌、デスルフォコッカス属細菌、デスルフォサルシナ属細菌、デスルフォバクター属細菌、デスルフォバクテリウム属細菌、及びジオスピリラム属細菌からなる群より選択される一又は二以上の細菌である、[1]又は[2]に記載の浄化剤。
[4]酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌が受託番号FERM P-21949のジオバクター属AY株である、[1]又は[2]に記載の浄化剤。
[5]脱ハロゲン化細菌が、デハロコッコイデス属細菌、デハロバクター属細菌、デサルフィトバクテリウム属細菌、デスルフォモナス属細菌、クロストリジウム属細菌、及びデハロスピリラム属細菌からなる群より選択される一又は二以上の細菌である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の浄化剤。
[6]有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に対して、[1]~[5]のいずれか一項に記載した浄化剤を作用させることを特徴とする、浄化方法。
[7]有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に対して、酢酸又はその塩の存在下、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と脱ハロゲン化細菌を作用させることを特徴とする、浄化方法。
[8]有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に、酢酸又はその塩と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と、脱ハロゲン化細菌とを添加するステップを含む、[7]に記載の浄化方法。
[9]前記ステップが以下の(i)~(iii)からなる、[8]に記載の浄化方法:
(i)酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌と脱ハロゲン化細菌を含有する混合剤を用意するステップ;
(ii)前記混合剤を前記浄化対象物に添加するステップ;及び
(iii)酢酸又はその塩を前記浄化対象物に添加するステップ。
[10]前記ステップが以下の(I)及び(II)からなる、[8]に記載の浄化方法:
(I)酢酸又はその塩、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌及び脱ハロゲン化細菌を含有する混合剤を用意するステップ;
(II)前記混合剤を前記浄化対象物に添加するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】乳酸発酵菌を用いて乳酸を電子供与体として水素を供給する反応を示す模式図。
【図2】酢酸を電子供与体として水素を供給する反応を示す模式図。
【図3】酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌を用いて酢酸を電子供与体として水素を供給する反応を示す模式図。外膜型シトクロムc(Omc)、電子キャリアーまたはナノワイヤーとよばれる線毛を介し、水素ではなく直接電子が脱塩素化反応に供給される。
【図4】ジオバクター属細菌が、デハロコッコイデス属細菌を優占種とした塩化ビニル脱塩素化コンソーシアに与える影響。ジオバクター属細菌を接種していない場合の結果(左)とジオバクター属細菌を共接種した場合の結果(右)。
【図5】ジオバクター属細菌が、デハロバクター属細菌を優占種とした1,1,2-トリクロロエタン脱塩素化コンソーシアに与える影響。(a)ジオバクター属細菌を接種していない場合の結果(左)とジオバクター属細菌を共接種した場合の結果(右)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の局面は環境浄化に有用な浄化剤に関する。本発明の浄化剤は有機ハロゲン化合物を含む土壌や排水などの浄化に利用される。換言すれば、環境汚染物質である有機ハロゲン化合物が、本発明の浄化剤による分解(代謝)の対象となる。有機ハロゲン化合物とは分子内にハロゲン原子を含む有機化合物の総称である。テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、塩化ビニル、四塩化炭素、クロロエタン、メチレンクロリド、クロロホルム、ジクロロエタン、多塩素化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等の有機塩素化合物、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)、ブロモジクロロメタン、クロロジブロモメタン、ブロモホルム等の有機臭素化合物、フルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、パーフルオロカルボン酸類等の有機フッ素化合物が有機ハロゲン化合物に含まれる。尚、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称である。PCBの一つコプラナーPCB(Co-PCB)はダイオキシン類にも分類される。

【0013】
本発明の浄化対象物(処理対象)は特に限定されない。浄化対象物の典型例として、土壌、河川水、湖沼水、海水、地下水、汚泥、工業排液、工業排水、工業廃棄物、生活排水を挙げることができる。

【0014】
本発明の浄化剤では、酢酸又は酢酸塩と、酢酸資化性の細胞外電子伝達細菌(酢酸資化性EETB)と、脱ハロゲン化細菌とを組み合わせて用いる。理論に拘泥する訳ではないが、本発明の浄化剤では、酢酸を資化するEETBを用いることにより、酢酸酸化反応で生じた電子が脱ハロゲン化細菌に供給され、脱ハロゲン化が生ずる。即ち、酢酸を電子供与体として利用した脱ハロゲン化が実現される。ここで、「組み合わせて用いる」とは、第1成分、第2成分及び第3成分が併用されることをいう。使用時、即ち、本発明の浄化剤で浄化対象物を処理する際にこれら3成分が共存する状態が形成される限りにおいて、併用の態様は特に限定されない。3成分の共存状態が形成されることによって、EETBは周囲に存在する酢酸を取り込む(資化)ことができ、且つ、EETBから脱ハロゲン化細菌への電子の供給が行われる。尚、説明の便宜上、以下、本発明における有効成分の一つである「酢酸又は酢酸塩」を「第1成分」とも呼び、同「酢酸資化性EETB」を「第2成分」とも呼び、同「脱ハロゲン化細菌」を「第3成分」とも呼ぶ。

【0015】
本発明では、第2成分(酢酸資化性EETB)と第3成分(脱ハロゲン化細菌)は別々に調製され、その後、併用される。言い換えれば、酢酸資化性EETBと脱ハロゲン化細菌の両者を含むように集積された微生物コンソーシア(二以上の微生物の集合物)を使用するのではない。もっとも、併用の態様の如何によっては使用前に第2成分(酢酸資化性EETB)と第3成分(脱ハロゲン化細菌)が混合した状態が形成されることはある。ここで、酢酸を電子供給源とした脱ハロゲン化微生物コンソーシアを雑多な微生物が存在する環境試料から構築することは難しく、これまでにメタン産生菌との共生反応と未特定の共生反応の2例しか報告がなかった。上記特徴を備える本発明によれば、高度に集積された脱ハロゲン化微生物コンソーシア(第3成分に対応する)に対して、別に用意した酢酸資化性EETB(第2成分)を組み合わることにより、酢酸からの脱ハロゲン化反応への電子供給を実現できる。これにより、特定の有機ハロゲン化合物(例えば塩素化エタンや塩素化エチレン)に特化した脱ハロゲン化微生物コンソーシアに限らず、多様な脱ハロゲン化微生物コンソーシアを利用できることになる。つまり本発明では、使用する脱ハロゲン化微生物/微生物コンソーシアを選別することにより、様々な有機ハロゲン化合物に対して効率的な分解を実現可能である。

【0016】
本発明の第2成分及び第3成分は、それぞれ、微生物コンソーシアの状態であってもよい。第2成分が微生物コンソーシアの場合、当該微生物コンソーシアの中で酢酸資化性EETBが優占種として存在していることが好ましいが、第2成分としての機能を発揮する限りにおいて当該態様に限定されない。第3成分が微生物コンソーシアの場合も同様である。

【0017】
本発明の浄化剤は、例えば、第1成分、第2成分及び第3成分を全て含有した混合剤(第1態様)として提供される。この態様の浄化剤は、例えば、取扱が容易である点において好ましいといえる。一方、第1成分を含有する第1要素と、第2成分と第3成分を含有する混合剤の第2要素と、からなるキット(第2態様)として本発明の浄化剤を提供することもできる。また、第1成分を含む第1要素と、第2成分を含む第2要素と、第3成分を含む第3要素と、からなるキットとして本発明の浄化剤を提供してもよい。以上の如きキットでは、通常、各要素が同時又は順次、浄化対象物に適用されることになる(適用方法の詳細については後述する)。好ましくは、キットの要素の全てを同時に適用する。本発明の作用効果、即ち、酢酸を電子供与体として脱ハロゲン化が生ずること、を迅速且つ良好に発揮させるためである。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、各要素を混合した後に浄化対象物へ適用するなど、各要素の適用が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、ある要素の適用後、速やかに別の要素を適用するなど、実質的な時間差のない条件下での適用もここでの「同時」の概念に含まれる。

【0018】
本発明の浄化剤を、第2成分(酢酸資化性EETB)と第3成分(脱ハロゲン化細菌)を含有するものとして構成してもよい。この形態の場合、その使用時に第1成分(酢酸又はその塩)が併用されることになる。同様に、第2成分のみを含有する浄化剤とし(ここでの「のみ」は第1成分と第3成分を含まないことを意味する)、その使用時に第1成分と第3成分が併用されることにしてもよい。また、第3成分のみを含有する浄化剤とし(ここでの「のみ」は第1成分と第2成分を含まないことを意味する)、その使用時に第1成分と第2成分が併用されることにしてもよい。尚、本発明による浄化に必要な酢酸又はその塩(即ち、第1成分)が浄化対象物内に存在する場合には、浄化対象物への酢酸又はその塩の添加を省略してもよい。但し、本発明の作用効果を良好に発揮させるため、この場合においても、酢酸又はその塩を浄化対象物に添加することが好ましい。

【0019】
本発明の第1成分である酢酸又はその塩は、本発明の適用時に浄化対象物内で酢酸イオンを供給する。この状態を実現できる限りにおいて、酢酸の純度や酢酸塩の種類などは特に問わない。従って、各種濃度の酢酸(氷酢酸でもよい)、各種酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム)を採用することができる。

【0020】
本発明の第2成分である酢酸資化性EETBとしては、ジオバクター属細菌、シュワネラ属細菌、デスルフォビブリオ属細菌、アゾスピラ属細菌、ペロバクター属細菌、デスルフォモナス属細菌、デスルフォムサ属細菌、デスルフォバルバス属細菌、カンピロバクター属細菌、ウォリネラ属細菌、ジオスリックス属細菌、ホロファーガ属細菌、ブルデオビブリオ属細菌、ミクソコッカス属細菌、デスルフォコッカス属細菌、デスルフォサルシナ属細菌、デスルフォバクター属細菌、デスルフォバクテリウム属細菌、及びジオスピリラム属細菌等を用いることができる。上記の通り、酢酸資化性EETBが微生物コンソーシアの状態であってもよい。二種類以上の酢酸資化性EETBを併用することにしてもよい。また、支持体に固定化ないし担持された状態にある酢酸資化性EETBを用いることもできる。

【0021】
採用可能なジオバクター属細菌の具体例は、本発明者らが取得に成功したジオバクター属AY株である。AY株は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。
寄託機関:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号 中央第6)
寄託日:平成22年4月5日
受託番号:FERM P-21949

【0022】
ここで、ジオバクター属AY株を報告する上掲の特許文献4は、「AY株は酢酸を炭素源及び電子供与体として利用できる」と述べるとともに、AY株と他の脱ハロゲン化細菌の併用の可能性に言及する。ここでの併用は、AY株自体による脱ハロゲン化(1,2-ジクロロエタンをエチレンに分解)に加え、他の脱ハロゲン化細菌による脱ハロゲン化を可能にすることを意図したものである。即ち、本願発明とは異なり、酢酸酸化反応で生じた電子を脱ハロゲン化細菌に供給することを目的として、酢酸資化性EETBであるAY株を使用するものではない。このため、当然のことながら特許文献4には、AY株と他の微生物(脱ハロゲン化細菌)を併用するにあたって、当該他の微生物による脱ハロゲン化を達成するために酢酸を電子供与体として利用するという思想は示されていない。従って、酢酸を電子供与体として利用することに伴い酢酸又はその塩の併用が必須の要件となる点において、本願発明は特許文献4の開示と峻別される。

【0023】
本発明の第3成分として用いることができる脱ハロゲン化細菌を例示すると、デスルフォモナイル・ティージェイDCB-1株(Desulfomonile tiedjei DCB-1)、デハロスピリラム・マルチボランス(Dehalospirillum multivorans)、デハロバクター・レストリクタスPER-K23株(Dehalobacter restrictus PER-K23)、デハロバクター・レストリクタスTEA株(Dehalobacter restrictus TEA)、デサルフィトバクテリウム・デハロゲナンス(Desulfitobacterium dehalogenans)、デサルフィトバクテリウム sp. PCE1株(Desulfitobacterium sp. PCE1)、デサルフィトバクテリウムsp. PCE-S株(Desulfitobacterium sp. PCE-S)、デサルフィトバクテリウム・フラピエリTCE1株(Desulfitobacterium frappieri TCE1)、デサルフィトバクテリウムsp. Y51株(Desulfitobacterium sp. Y51)、デスルフォモナス・クロロエテニカTT4B株(Desulfuromonas chloroethenica TT4B)、クロストリジウム・バイファーメンタンスDPH-1株(Clostridium bifermentans DPH-1)、デハロコッコイデス・エタノジェネス195株(Dehalococcoides ethenogenes 195)、デハロコッコイデス sp. GT株(Dehalococcoides sp. GT)、デハロコッコイデス sp. VS株(Dehalococcoides sp. VS)である(Damborsky, J. (1999): Tetrachloroethene-dehalogenating bacteria, Folia Microbiologica, Vol.44, pp.247-262.; Holliger, C., Wohlfarth, G. and Diekert, G. (1999): Reductive dechlorination in the energy metabolism of anaerobic bacteria, FEMS Microbiology Reviews, Vol.22, pp.383-398.; Gerritse, J., Renard, V. Pedro Gomes, T.M., Lawson, P.A., Collins, M.D. and Gottschal, J.C. (1996): Desulfitobacterium sp. strain PCE1, an anaerobic bacterium that can grow by reductive dechlorination of tetrachloroethene or ortho-chlorinated phenols. Archives of Microbiology, Vol.165, pp.132-140.; Suyama, A., Iwakiri, R., Kai, K., Tokunaga, T., Sera, N. and Furukawa, K. (2001): Isolation and characterization of Desulfitobacterium sp. strain Y51 capable of efficient dehalogenation of tetrachloroethene and polychloroethanes, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Vol.65, pp.1474-1481.; Chang, Y.C., Hatsu, M., Jung, K., Yoo,Y.S. and Takamizawa, K. (2000) Isolation and characterization of a tetrachloroethylene dechlorinating bacterium, Clostridium bifermentans DPH-1. Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.89, pp.489-491.; Maymo-Gatell, X., Chien, Y., Gossett, J.M. and Zinder, S.H. (1997): Isolation of a bacterium that reductively dechlorinates tetrachloroethene to ethene, Science, Vol.276, pp.1568-1571.; Maymo-Gatell, X., Anguish, T. and Zinder, S.H. (1999): Reductive dechlorination of chlorinated ethenes and 1, 2-dichloroethane by "Dehalococcoides ethenogenes" 195, Applied and Environmental Microbiology, Vol.65, pp.3108-3113.; Youlboong Sung,1, Kirsti M. Ritalahti,1 Robert P. Apkarian,3 and Frank E. Loffler1,(2006): Appl. Environ. Microbiol., vol. 72, pp. 1980-1987; Muller, J. A., B. M. Rosner, G. von Abendroth, G. Meshulam-Simon, P. L. McCarty, and A. M. Spormann: Molecular identification of the catabolic vinyl chloride reductase from Dehalococcoides sp. strain VS and its environmental distribution (2005): Appl. Environ Microbiol. Sep ; 7(9):1442-50.)。上記の各細菌が脱ハロゲン化可能な化合物を以下に示す。
デスルフォモナイル・ティージェイDCB-1株: テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)
デハロスピリラム・マルチボランス: PCE、TCE
デハロバクター・レストリクタスPER-K23株: PCE、TCE
デハロバクター・レストリクタスTEA株: PCE、TCE
デサルフィトバクテリウム・デハロゲナンス: PCE、TCE
デサルフィトバクテリウム sp. PCE1株: PCE、TCE
デサルフィトバクテリウムsp. PCE-S株: PCE、TCE
デサルフィトバクテリウム・フラピエリTCE1株: PCE、TCE
デサルフィトバクテリウムsp. Y51株: PCE、TCE
デスルフォモナス・クロロエテニカTT4B株: PCE、TCE
クロストリジウム・バイファーメンタンスDPH-1株: PCE、TCE
デハロコッコイデス・エタノジェネス195株: 1,2-ジクロロエタン(1,2-DCA)、PCE、TCE、1,2-シス-ジクロロエチレン(1,2シスDCE)
デハロコッコイデス sp. GT株: 塩化ビニル(VC)
デハロコッコイデス sp. VS株: VC

【0024】
上記の通り、脱ハロゲン化細菌が微生物コンソーシアの状態であってもよい。2種類以上の脱ハロゲン化細菌を併用することにしてもよい。この場合、同一の有機ハロゲン化合物に対する脱ハロゲン化能を示すものを併用すれば、当該有機ハロゲン化合物に対する分解効果の一層高い浄化剤となる。他方、脱ハロゲン化できる化合物が異なる二種類以上の脱ハロゲン化細菌を併用すれば、脱ハロゲン化できる化合物の種類が多い浄化剤となる。尚、支持体に固定化ないし担持された状態にある脱ハロゲン化細菌を用いることもできる。

【0025】
第1成分、第2成分及び第3成分以外の成分として、微生物の維持、生育等に有用な各種物質(ミネラル、ビタミン、炭素源、還元剤等)、品質の保持に有用な各種物質(例えば防腐剤)、微生物を凝集または固定する物質等を本発明の浄化剤に含有させてもよい。

【0026】
本発明の第2の局面は上記浄化剤の用途に関する。具体的には、汚染環境の浄化方法が提供される。本発明の浄化方法では、本発明の浄化剤を浄化対象物に適用することによって、酢酸又はその塩の存在下、酢酸資化性EETBと脱ハロゲン化細菌が浄化対象物に作用する状態となり、浄化対象物が含有する有機ハロゲン化合物が脱ハロゲン化される。本発明の浄化剤を作用させるための手段(適用法)は、浄化剤の形態や浄化対象物の形態等に合わせて決定すればよい。典型的には浄化対象物に対して浄化剤を添加し、その後、必要に応じて混合する。ここでの「添加」は、投入、散布、塗布等によって行うことができる。土壌の処理には、本発明の浄化剤が固定、混合等された資材の埋設やすき込み等といった方法を採用してもよい。また、液体(例えば工業排液や工業排水)の処理には、本発明の浄化剤が添加又は設置されることになる処理槽を利用してもよい。本発明の浄化剤の使用量は任意に設定可能である。例えば、予備実験を通じて浄化対象物に適した使用量を決定すればよい。

【0027】
本発明の浄化方法では、典型的には、有機ハロゲン化合物を含む浄化対象物に、酢酸又はその塩(第1成分)と、酢酸資化性EETB(第2成分)と、脱ハロゲン化細菌(第3成分)とを添加するステップが行われる。添加順序は特に問わず、2成分又は3成分の全てを同時に添加することにしてもよい。例えば、酢酸資化性EETBと脱ハロゲン化細菌を含有する混合剤を用意した後(ステップ(i))、当該混合剤を前記浄化対象物に添加する(ステップ(ii))とともに酢酸又はその塩を前記浄化対象物に添加する(ステップ(iii))。或いは、酢酸又はその塩、酢酸資化性EETB及び脱ハロゲン化細菌を含有する混合剤を用意した後(ステップ(I))、当該混合剤を前記浄化対象物に添加する(ステップ(II))。

【0028】
酢酸又はその塩、酢酸資化性EETB及び/又は脱ハロゲン化細菌を追加で添加(即ち補充)することにしてもよい。脱ハロゲン化に伴い存在量が減少する酢酸又はその塩については特に、本発明による効果を維持するために定期的又は随時、補充することが好ましい。また、使用する細菌の増殖能や添加後の環境を考慮し、酢酸資化性EETB及び脱ハロゲン化細菌についても、期待される効果を維持できるよう、必要に応じて補充するとよい。
【実施例】
【0029】
1.酢酸を電子供与体としたデハロコッコイデスによる塩化ビニルの脱塩素化
脱塩素化細菌として、水田土壌より集積獲得した偏性水素資化性のデハロコッコイデスを優占種とした塩化ビニル脱塩素化コンソーシア(以下、DHCコンソーシア)について本方法が適用できるか試みた。
(1)方法
酢酸資化性EETBとしてジオバクターAY株(特開2012-34620号公報を参照)、脱塩素化細菌としてDHCコンソーシアを用いた。AY株は、水素、酢酸およびフマル酸を添加した無機塩培地を用い嫌気条件下、30℃で、107~108cell/mLの細胞密度になるまで培養した。DHCコンソーシアは、水田堆積物から、水素、酢酸および塩化ビニルを唯一の電子受容体として添加した無機培地で半年間5回以上連続継代した培養物をさらに寒天混釈培養し、生育したコロニーを採取した培養物でありデハロコッコイデスを優占種とする。107~108cell/mLの培養物からなるDHCコンソーシアを用いた。
【実施例】
【0030】
60mLガラス容器に無機塩培地20mLを投入し、窒素・二酸化炭素混合ガスにより曝気し、除酸素した後、テフロン(登録商標)シールブチルゴム栓で密閉後、オートクレーブ滅菌し、5mM酢酸および100ppmの塩化ビニルを添加した。ここへ、1mLのAY株培養物と1mLのDHCコンソーシアを共接種し、30℃で培養を行った。対照として、AY株を接種しない培養物も調製し、上述のDHCコンソーシアを共接種したものと同様の条件で培養した。
【実施例】
【0031】
(2)結果
DHCコンソーシアに対し酢酸のみを電子供与体として添加し培養を行った結果、前培養物からの持ち込み水素に由来すると思われる僅かな塩化ビニルのエチレンへの脱塩素化が観察されるにとどまった(図4左)。この培養物に対し、AY株を共接種した結果、およそ15日間の培養で100ppmの塩化ビニルがエチレンに脱塩素化された(図4右)。無論、ジオバクター属細菌のみを接種した培養物では、塩化ビニルの脱塩素化活性は確認されなかった。
【実施例】
【0032】
2.酢酸を電子供与体としたデハロバクターによる112TCAの脱塩素化
上記1.(1)と同様の方法で、デハロバクターを優占種とした1,1,2-トリクロロエタン(以下、112TCA)脱塩素化コンソーシア(以下、DHBコンソーシア)について本方法が適用できるか試みた。尚、100ppm塩化ビニルの代わりに160ppm 112TCAを、DHCコンソーシアに代わりDHBコンソーシアを用いた。
【実施例】
【0033】
DHBコンソーシアに対し酢酸のみを電子供与体として添加し培養を行った結果、112TCAの脱塩素化はほとんど観察されなかった(図5左)。この培養物に対し、酢酸資化性EETBとしてAY株を共接種した結果、112TCAの脱塩素化が観察された(図5右)。無論、ジオバクター属細菌のみを接種した培養物では、112TCAの脱塩素化活性は確認されなかった。
【実施例】
【0034】
3.多様な酢酸資化性EETBが脱塩素化細菌に与える影響
酢酸資化性EETBとして、AY株に代えて、酸化グラフェンを唯一の電子受容体とした3つのコンソーシア(ジオバクター属細菌を優占微生物とするコンソーシア、アゾスピラ属細菌およびペロバクター属細菌を優占微生物とするコンソーシア、並びにジオバクター属細菌およびデスルフォビブリオ属細菌を優占微生物とするコンソーシア)を用い、DHBコンソーシアによる112TCA脱塩素化を試みた。その結果、上記3つのコンソーシアのいずれについても112TCAの脱塩素化が観察された。無論、これらのコンソーシア自体に脱塩素化能は確認できない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明では、酢酸資化性EETBと脱ハロゲン化細菌を併用した上で、酢酸を電子供与体として利用する。これまでにも、有機ハロゲン化合物の汚染環境を浄化する微生物浄化剤が販売されているが、電子供給源として用いる乳酸やデンプンの発酵産物としてプロピオン酸や酪酸といった悪臭物質を産生する潜在的な問題がある。本発明によれば当該問題を解決することができ、悪臭物質を産生しない浄化が可能である。本発明は各種汚染環境(土壌、河川水、湖沼水、海水、地下水、汚泥、工業排液、工業排水、工業廃棄物、生活排水など)の浄化に適用可能である。
【0036】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
4