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明細書 :新規なプロテアーゼおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5339543号 (P5339543)
登録日 平成25年8月16日(2013.8.16)
発行日 平成25年11月13日(2013.11.13)
発明の名称または考案の名称 新規なプロテアーゼおよびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/52        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C11D   3/386       (2006.01)
C07K  16/40        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/52
C12N 1/21
C12N 1/19
C12N 1/15
C12N 5/00 101
C11D 3/386
C07K 16/40
請求項の数または発明の数 13
全頁数 20
出願番号 特願2010-522747 (P2010-522747)
出願日 平成21年7月30日(2009.7.30)
国際出願番号 PCT/JP2009/063547
国際公開番号 WO2010/013767
国際公開日 平成22年2月4日(2010.2.4)
優先権出願番号 2008197467
優先日 平成20年7月31日(2008.7.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年1月13日(2011.1.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】金谷 茂則
【氏名】フーパオ チタ
【氏名】高野 和文
【氏名】古賀 雄一
個別代理人の代理人 【識別番号】100077012、【弁理士】、【氏名又は名称】岩谷 龍
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 国際公開第98/56926(WO,A1)
国際公開第97/21823(WO,A1)
Fukui T. et al.,Accession No. Q5JIZ5, Definition: Subtilisin-like serine protease.,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online],2006年10月31日,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/74506265> 検索日2009.09.28
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 9/50- 9/64
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
医学・薬学予稿集全文データベース

特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)または(c)に記載のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列
【請求項2】
アゾカゼインを基質としてpH7で20分間反応させたときの至適温度が100℃以上である請求項1に記載のプロテアーゼ。
【請求項3】
50mM Tris-HCl(pH7)中、100℃で90分間処理したときに40%以上の残存活性を有する請求項1に記載のプロテアーゼ。
【請求項4】
5%ドデシル硫酸ナトリウムを含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する請求項1に記載のプロテアーゼ。
【請求項5】
反応温度80℃でSuc-AAPF-pNAを基質としたときにKm値が0.1~1mMである請求項1に記載のプロテアーゼ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のプロテアーゼのプロ体であって、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるプロ体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号2もしくは4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドである請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項6に記載のプロ体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項10】
配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドである請求項9に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項7~10のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11の発現ベクターが導入された形質転換体。
【請求項13】
請求項1~5のいずれかに記載のプロテアーゼを含有する洗剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なプロテアーゼおよびその利用に関するものであり、詳細には、高温かつ高アルカリ条件下で高い活性を有する新規なプロテアーゼおよびそのプロ体、それらをコードするポリヌクレオチド、並びに、これらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素の総称であり、微生物、動物および植物に広く分布している。また、プロテアーゼは、洗剤、皮革加工、食品加工、機能性ペプチド生産において幅広く利用されている代表的な産業用酵素である。特に医療器具の二次感染予防の観点から、感染性タンパク質汚れのプロテアーゼによる分解は、代替の難しい技術となっている。産業用酵素としての実用面で一番重用視されるのは、酵素の安定性および利用条件下での活性の高さである。特に、物理的・化学的に高い熱安定性が要求される場合が多く、それゆえ、産業用プロテアーゼには耐熱性プロテアーゼが広く使用されている。現在、産業用プロテアーゼとして、subtilisin carlsbergやProteinaseKなどのサチライシンファミリープロテアーゼ(subtilisin family protease)が知られている。なかでも米国Genencore社が発売しているPrionzymeは、実用化されているプロテアーゼ中、最も高い安定性を示す酵素として、CJD(クロイツフェルトヤコブ病)等のプリオン病の原因物質である異常型プリオンの感染予防を目的とした器具洗浄用途に用いられている。しかし、その至適作用条件は40~60℃、pH8~10とされており、より高温で利用できるプロテアーゼの実用化が望まれている。そのため、高温かつ高アルカリ条件下で利用可能な新規プロテアーゼを見出すために、多数の試みがなされている。
【0003】
例えば本発明者らは、超好熱菌の1つであるThermococcus kodakaraensis KOD1株由来のサチライシンファミリーに属するプロテアーゼ(以下「Tk-subtilisin」という)を見出し、Tk-subtilisinがpH9.5、温度80℃~100℃で最も高い活性を示すこと、公知のプロテアーゼのなかで最も高い熱安定性を有することを報告している(非特許文献1および2参照)。また、特許文献1には、同じThermococcus kodakaraensis KOD1株由来の耐熱性プロテアーゼが開示され、この耐熱性プロテアーゼは、至適温度が80℃付近にあり、耐熱性は、120分間インキュベートした後も70℃で約75%、80℃で約50%の残存活性が認められ、耐アルカリ性は、120分間インキュベートした後もpH11で90%以上、pH11.5で約85%の残存活性が認められたことが記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2007-6846号公報
【0005】

【非特許文献1】Kannan, Y., Koga, Y., Inoue, Y., Haruki, M., Takagi, M., Imanaka, T. et al. Active subtilisin-like protease from a hyperthermophilic archaeon in a form with a putative prosequence. Appl. Environ. Microbiol. 67, 2445-2552. (2001).
【非特許文献2】Pulido, M., Saito, K., Tanaka, S., Koga, Y., Takano, K. & Kanaya, S. Ca2+-dependent maturation of Tksubtilisin from a hyperthermophilic archaeon: propeptide is a potent inhibitor of the mature domain but is not required for its folding. Appl. Environ. Microbiol. 72, 4154-4162. (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1および2に記載のプロテアーゼや特許文献1に記載の耐熱性プロテアーゼのように、高温かつ高アルカリ条件下で利用可能な新規プロテアーゼが見出されているものの、これらは未だ実用化に至っていない。また、産業用プロテアーゼは、洗剤に添加して使用される場合が多く、界面活性剤の存在下においても安定であり、かつ、活性を発揮できることが要求される。したがって、さらに新規なプロテアーゼを見出し、その機能を明らかにして、産業用プロテアーゼとして実用化すべく、研究・開発を行うことは、現在も当該技術分野の大きな課題となっている。
【0007】
そこで、本発明は、高温かつ高アルカリ条件下で高い活性を有し、タンパク質変性剤や界面活性剤に対する安定性が高く、洗剤用プロテアーゼとして高い有用性を有する新規なプロテアーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の発明を包含する。
[1]以下の(a)~(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるプロテアーゼ。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
[2]アゾカゼインを基質としてpH7で20分間反応させたときの反応至適温度が100℃以上である前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[3]50mM Tris-HCl(pH7)中、100℃で90分間処理したときに40%以上の残存活性を有する前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[4]5%ドデシル硫酸ナトリウムを含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[5]反応温度80℃でSuc-AAPF-pNAを基質としたときにKm値が0.1~1mMである前記[1]に記載のプロテアーゼ。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載のプロテアーゼのプロ体であって、以下の(e)または(f)に記載のアミノ酸配列からなるプロ体。
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列
(f)配列番号5に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
[7]前記[1]~[5]のいずれかに記載のプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド。
[8]配列番号2もしくは4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号2もしくは4に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドである前記[7]に記載のポリヌクレオチド。
[9]前記[6]に記載のプロ体をコードするポリヌクレオチド。
[10]配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号6に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロ体をコードするポリヌクレオチドである前記[9]に記載のポリヌクレオチド。
[11]前記[7]~[10]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[12]前記[11]の発現ベクターが導入された形質転換体。
[13]前記[1]~[5]のいずれかに記載のプロテアーゼに特異的に結合する抗体。
[14]前記[1]~[5]のいずれかに記載のプロテアーゼを含有する洗剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来に比べて高温かつ高アルカリ条件下で高い活性を有し、タンパク質変性剤や界面活性剤に対する安定性が高く、低濃度の基質を分解可能なプロテアーゼを提供することができる。当該プロテアーゼは、高温かつ高アルカリ条件下で使用される種々の洗剤に配合して使用するプロテアーゼとして非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は本発明のプロ体(proTk-SP)のSDS-PAGE結果を示す画像であり、(b)はproTk-SPを80℃で120分間インキュベートして得られた本発明のプロテアーゼのSDS-PAGE結果を示す画像である。
【図2】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)のMALDI-TOF MSによる分子量分析結果を示すチャートである。
【図3】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)のN末端分析結果を示す図である。
【図4】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)のpH依存性およびバッファー依存性を検討した結果を示すグラフである。
【図5】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)の温度依存性を検討した結果を示すグラフである。
【図6】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)の熱安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図7】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)の尿素(Urea)に対する安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図8】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)の塩酸グアニジン(GdnHCl)に対する安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図9】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)のTritonX-100に対する安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図10】本発明の耐熱性プロテアーゼ(Tk-SP)のTween20に対する安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図11】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に対する安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図12】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)のEDTAに対する安定性を検討した結果を示すグラフである。
【図13】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)の安定性に及ぼすカルシウムイオンの効果を検討した結果を示すグラフである。
【図14】本発明のプロテアーゼ(Tk-SP)の構造形成におけるカルシウムイオン要求性を検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔プロテアーゼおよびそのプロ体〕
(1)プロテアーゼの取得
本発明のプロテアーゼは、超好熱菌Thermococcus kodakaraensis KOD1株(Morikawa M et al. Appl Environ Microbiol, 1994 Dec;60(12):4559-66、以下「KOD1株」という)由来の新規なプロテアーゼである。KOD1株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターに寄託されており、その受託番号はJCM12380である。KOD1株の全ゲノム情報は既に解析されており、2036個のタンパク質コード領域(CDS)が特定され、そのうち約半数(1165個)のCDSに注釈が付与されている(Fukui T et al., Genome Res, 2005 Mar;15(3):352-63)。なお、KOD1株の全ゲノム2088737塩基の配列はDDBJ/EMBL/GenBankに登録されており、そのアクセッション番号はAP006878である。

【0012】
本発明者らは、KOD1株のゲノム情報から、サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION:1484233..1486224、配列番号8)に着目し、当該塩基配列にコードされる全長タンパク質中にプロテアーゼ活性を有する成熟タンパク質を構成する部分配列を特定した。一般に、サチライシンファミリーのプロテアーゼは、長いプレプロ配列を有している。プレ配列(シグナル配列とも称する)は、酵素の菌体外への分泌に必要な配列であり、プロ配列は酵素の活性型立体構造を形成する際に必要な配列であるとされている。そこで、本発明者らは、当該塩基配列(配列番号8)に基づいてプロ配列および成熟配列を含みプレ配列(シグナル配列)が除かれたプロテアーゼ前駆体(プロ体)をコードすると予想される領域のDNAを増幅した。得られたDNA断片を発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを大腸菌に導入してタンパク質(プロ体)を発現させた。得られたプロ体をインキュベート(例えば、pH9、温度80℃で120分間)してプロセシング(成熟化)させることにより、プロテアーゼ活性を有する成熟タンパク質、すなわち本発明のプロテアーゼを取得した。

【0013】
本発明のプロテアーゼは、以下の(a)~(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるものであればよい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION: 1484233..1486224、配列番号8)に基づく推定アミノ酸配列(ACCESSION BAD85878、配列番号7)の第137位~第562位に該当する。また、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(配列番号8)に基づく推定アミノ酸配列(配列番号7)の第137位~第563位に該当する。

【0014】
また、本発明のプロ体は、上記本発明のプロテアーゼのプロ体であって、以下の(e)または(f)に記載のアミノ酸配列からなるものであればよい。
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列
(f)配列番号5に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
なお、本明細書において「プロ体」とは、プレ配列がなくプロ配列および成熟配列を含むプロテアーゼ前駆体を意味する。
配列番号5に示されるアミノ酸配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(配列番号8)に基づく推定アミノ酸配列(配列番号7)の第24位~第663位に該当する。当該プロ体のアミノ酸配列(配列番号5)の第1位~第113位および第540位~第640位が除かれたものが配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼであり、第1位~第113位および第541位~第640位が除かれたものが配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼである。

【0015】
「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。

【0016】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。好ましくは、サイレント置換、欠失、および付加であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。

【0017】
本発明のプロテアーゼおよびプロ体は付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリヒスチジンタグ(His-tag)やMyc、FLAG等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。

【0018】
本発明のプロテアーゼおよびプロ体は、(I) 当該プロテアーゼを産生する細菌を培養し、分離および精製することにより製造することができる。または、(II) 公知の遺伝子工学的手法により細菌から本発明のプロテアーゼまたはプロ体をコードする遺伝子を単離して組み換え発現ベクターを構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させることにより製造することができる。または、(III) in vitro転写・翻訳系によって製造することができる。本発明のプロテアーゼの製造に利用可能な細菌は、本発明のプロテアーゼを産生し得るものであれば特に限定されない。好ましい細菌としては、上記KOD1株が挙げられる。

【0019】
上記(I)の方法をKOD1株を用いて行う場合、KOD1株の培養は、例えば、Morikawa. et al. Appl. Environ. Microbiol. 60: 4559-4566. (1994) に記載の培養条件で行うことができる。数日間培養した後、菌体を分離した残りの培養液から公知の方法で分離・精製すればよい。具体的には、例えば、塩析法、沈澱法、限外濾過法等の分離手段、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の精製手段、これらの組み合わせ、などが挙げられる。
上記(II)の方法については、後段の〔ポリヌクレオチド〕、〔発現ベクター〕および〔形質転換体〕で詳細に説明する。
上記(III)の方法で行う場合は、本発明のプロテアーゼまたはプロ体をコードするDNA断片と、公知のin vitro転写・翻訳系(例えば、大腸菌、小麦胚芽細胞、ウサギ網膜細胞の無細胞抽出液を用いる系)を用いることができる。
得られたプロテアーゼまたはプロ体の同定は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、得られたプロテアーゼを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーし、膜をクマシーブリリアントブルーで染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出す。切り出したバンドのトリプシン消化物をMALDI-TOF MSにより分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析により同定することができる。また、例えば、自動ペプチドシーケンサを用いてアミノ酸配列を決定することができる。

【0020】
(2)プロテアーゼの生化学的特性
(i) 至適pH(実施例2参照)
Suc-AAPF-pNAを基質とし、20℃で10分間インキュベートしたときの至適pHは少なくともpH6~11.5の範囲であり、pH11.5を超える範囲においても高い活性を示すことが予想される。したがって、本発明のプロテアーゼはpH6以上の多様なpH環境での利用に適している。

【0021】
(ii) 至適温度(実施例3参照)
アゾカゼインを基質としてpH7で20分間反応させたときの至適温度が100℃以上である。したがって、本発明のプロテアーゼは高温環境での使用に適しており、例えば感染性タンパク質の分解を目的とした医療器具用洗剤等に配合すれば、優れた効果を発揮することが期待される。

【0022】
(iii) 熱安定性(実施例4参照)
溶液中、100℃で90分間処理したときに40%以上の残存活性を有し、90℃で180分間処理したときに80%以上の残存活性を有する。80℃で180分間処理した場合には、活性は低下しない。このように、本発明のプロテアーゼは、極めて熱安定性が高いため、高温環境で使用に適している。

【0023】
(iv) タンパク質変性剤、界面活性剤およびキレート剤に対する安定性(実施例5参照)
8Mの尿素を含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する。
2Mの塩酸グアニジンを含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに60%以上の残存活性を有する。
10%TritonX-100を含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに95%以上の残存活性を有する。
10%Tween20を含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに95%以上の残存活性を有する。
5%ドデシル硫酸ナトリウムを含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに80%以上の残存活性を有する。
10mMEDTAを含む20mM Tris-HCl(pH8)中、55℃で60分間処理したときに活性が低下しない。
したがって、本発明のプロテアーゼは、各種のタンパク質変性剤、界面活性剤、キレート剤に対し高い安定性を有しているため、タンパク質変性剤、界面活性剤、キレート剤を含む組成物に添加して使用することが可能であり、産業用プロテアーゼとして幅広い用途に使用することができるという利点を有している。

【0024】
(v) Km値(実施例7参照)
反応温度80℃でSuc-AAPF-pNAを基質としたときにKm値が0.1~1mMである。この値は、上述のTk-subtilisin(非特許文献1および2参照)のKm値の約1/10であり、Tk-subtilisinと比較した場合、低濃度の基質を効率よく分解できることを示している。したがって、感染性タンパク質の二次感染が問題となる医療器具用洗剤などの用途に好適に用いることができる。

【0025】
(vi) 構造形成におけるカルシウムイオン非要求性(実施例8参照)
本発明のプロテアーゼは、構造形成にカルシウムイオンを必要とせず、カルシウムイオンが存在しない状態でも安定にプロテアーゼ活性を発揮することができる。同じThermococcus kodakaraensis KOD1株由来のプロテアーゼであるTk-subtilisinはカルシウム要求性が非常に強いことと対照をなし、本発明のプロテアーゼに特徴的な特性である。したがって、本発明のプロテアーゼは、例えばキレート剤を添加剤として含む洗剤中でも安定に機能を発揮することができるという極めて優れた利点を有している。

【0026】
なお、本発明のプロテアーゼの活性測定は、後段の実施例の記載に準じて行うことができる。すなわち、Suc-AAPF-pNAやアゾカゼイン等を基質として、ペプチド結合の分解反応を行い、その際遊離した色素量を吸光度から定量する。これにより、酵素によって切断されたペプチド結合の量を計算し酵素活性を測ることができる。

【0027】
〔ポリヌクレオチド〕
本発明のポリヌクレオチドは、上記本発明のプロテアーゼをコードするものであればよい。具体的には以下の(A)~(D)のポリヌクレオチドが挙げられる。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(C)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド
(D)配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるプロテアーゼをコードするポリヌクレオチド

【0028】
また、本発明のポリヌクレオチドは、上記本発明のプロ体をコードするポリヌクレオチドであればよい。具体的には以下の(E)または(F)のポリヌクレオチドが挙げられる。
(E)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるプロ体をコードするポリヌクレオチド
(F)配列番号5に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるプロ体をコードするポリヌクレオチド

【0029】
本明細書において「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用される。本発明のポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在することができる。DNAは、二本鎖でもよく一本鎖でもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)、または、非コード鎖(アンチセンス鎖)のいずれであってもよい。また、本発明のポリヌクレオチドは、その5’側または3’側でタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合されていてもよい。

【0030】
本発明のプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2もしくは4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号2もしくは4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
また、本発明のプロ体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、配列番号6に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロ体をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
配列番号2に示される塩基配列は、上記サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION: 1484233..1486224、配列番号8)の第409位~第1686位に該当し、配列番号4に示される塩基配列は、第409位~第1689位に該当する。また、配列番号2に示される塩基配列は、配列番号8の、第70位~第1992位に該当する。

【0031】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高く(ハイブリダイズし難く)なり、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。

【0032】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ」とは、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。

【0033】
本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号2または4に示される塩基配列に相補的な塩基配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、プロテアーゼをコードするポリヌクレオチドが好ましい。また、本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号6に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、プロ体をコードするポリヌクレオチドが好ましい。

【0034】
任意の特定のポリヌクレオチドが、例えば、配列番号2に示される塩基配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるか否かは、公知のコンピュータープログラム(例えば、Bestfit program(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,WI 53711)を使用して決定することができる。

【0035】
本発明のポリヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった1本鎖のDNAまたはRNAを包含する。また、本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。

【0036】
本発明のポリヌクレオチドを取得する方法としては、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、配列番号2に示される塩基配列の5’側および3’側の配列(またはその相補配列)に基づいてそれぞれプライマーを設計し、これらプライマーを用いてゲノムDNAまたはcDNA等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明のポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。

【0037】
〔発現ベクター〕
本発明は、本発明のプロテアーゼを製造するために使用される発現ベクターを提供する。本発明に係る発現ベクターは、上述した本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むものであれば特に限定されないが、RNAポリメラーゼの認識配列を有するプラスミドベクター(pSP64、pBluescriptなど)が好ましい。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択することができる。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物などから慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなど)に従って、本発明のプロテアーゼまたはプロ体を回収、精製することができる。

【0038】
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性遺伝子、およびE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。

【0039】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞)などが挙げられる。上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。

【0040】
〔形質転換体〕
本発明は、上記本発明の発現ベクターが導入された形質転換体を提供する。本明細書において「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含む。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞として例示した各種微生物、植物または動物が挙げられる。
本発明の形質転換体は、上記本発明のプロテアーゼまたはプロ体が発現されていることを特徴とする。本発明に係る形質転換体は、上記本発明のプロテアーゼまたはプロ体が安定的に発現することが好ましいが、一過性に発現してもよい。

【0041】
〔抗体〕
本発明は、上記本発明のプロテアーゼに特異的に結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、本発明のプロテアーゼに結合するがその前駆体には結合しない抗体であることが好ましい。本発明の抗体は、本発明のプロテアーゼの検出や分離に使用することができる。
本明細書において「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのフラグメント(Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメントなど))を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体などが挙げられるがこれらに限定されない。抗体は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies: a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。

【0042】
〔プロテアーゼの用途〕
本発明のプロテアーゼは、公知の産業用プロテアーゼに比べて高温かつ高アルカリ条件下で高い活性を有し、タンパク質変性剤や界面活性剤に対しても高い安定性を有するので、高温で使用される洗剤に配合して洗浄力の増強を図ることができる。また、低濃度の基質を分解可能であるため、二次感染が問題となる医療器具の感染性タンパク質汚れの分解・洗浄に高い有用性を有している。すなわち、本発明のプロテアーゼは、医療器具用洗剤、食器洗浄機用洗剤、洗濯用洗剤等の各種洗剤に好適に用いることができる。また、洗剤以外にも、飼料加工、食品加工(魚油加工、食肉加工等)、繊維加工、羊毛加工、皮革加工、コンタクトレンズ洗浄、配管洗浄等に利用することができ、入浴剤や脱毛剤に配合してもよい。さらに、組織や細胞からDNA等の核酸を調製する際に、試料を前処理するためのプロテアーゼとして利用することができる。

【0043】
本発明により、本発明のプロテアーゼを含有する洗剤(洗浄用組成物)が提供される。洗剤中のプロテアーゼの含有量は特に限定されないが、活性が高く界面活性剤に安定であることから、少量の添加で高い洗浄力を発揮することができる。好ましい含有量として、例えば0.1~10重量%が挙げられる。含有量が少なすぎると十分な洗浄効果が得られず、また逆に多すぎる場合には含有量に比した洗浄効果の向上が得られないため、経済性の点で好ましくない。本発明のプロテアーゼは、公知の任意の洗剤に対して、その洗剤の組成を何ら変更することなく配合することができる。また、本発明のプロテアーゼを含有する洗剤の成分については特に限定はない。そのような洗剤の代表的例としては、洗剤重量当たり10~50重量%の界面活性剤、0~50重量%のビルダー、1~50重量%のアルカリ剤あるいは無機電解質、0.1~5重量%の再汚染防止剤、酵素、漂白剤、蛍光染料、ケーキング防止剤および酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の配合成分からなる洗剤が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、本発明のプロテアーゼを「Tk-SP」という場合があり、そのプロ体を「proTk-SP」という場合がある。
【実施例】
【0045】
〔実施例1:新規プロテアーゼ(Tk-SP)の取得〕
1-1.プロ体(proTk-SP)の発現および精製
Thermococcus Kodakaraensis KOD1株のゲノム情報(ACCESSION:AP006878)から、サチライシン様セリンプロテアーゼ前駆体をコードすると予想される塩基配列(ACCESSION AP006878 REGION:1484233..1486224、配列番号8)の推定アミノ酸配列(ACCESSION BAD85878、配列番号7)のうち、シグナル配列(プレ配列)と予想されるアミノ酸配列を除き、プロ配列および成熟配列と予想される部分を含むプロ体を発現させるために、当該プロ体をコードすると予想されるDNA部分を増幅するためのプライマーペアを設計した。すなわち、NdeIサイトを含むフォワードプライマー(5'-GGCCTTTATCATATGGCCCCCCAGAAG-3'(配列番号9))と、BamHIサイトを含むリバースプライマー(5'-GGCCTTGGATCCTCACCCGTAGTAAAC-3'(配列番号10))である。KOD1株のゲノムDNAを鋳型とし、上記プライマーペアを用いてPCRを行い、DNA断片を増幅した。得られたDNA断片をNdeIおよびBamHIで消化し、得られた1.9kbのDNA断片をpET25b(Novagen社製)のNdeI/BamHIサイトにライゲーションし、pET25b-proTk-SPを構築した。このプラスミド(pET25b-proTk-SP)を用いて、大腸菌BL21(DE3)CodonPlusを形質転換し、proTk-SPを大量発現する菌株を得た。
【実施例】
【0046】
50μg/mlのアンピシリンおよび34μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB培地を用いて37℃で培養した。OD600が0.8に達した段階で、終濃度1mMのIPTGを添加し、さらに4時間培養を続けた。集菌し、20mM Tris-HCl(pH9.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離(30,000×g、30min)を行った。上清に30%硫酸アンモニウムを添加し、遠心分離(30,000×g、30min)により沈殿を得た。この沈澱を20mM Tris-HCl(pH7.0)に溶解し、硫酸アンモニウムを除去するために、20mM Tris-HCl(pH7.0)に対して透析を行った。透析後の上清を用いて、陰イオン交換カラムHitrap Q(GE Healthcare社)により精製を行った。
【実施例】
【0047】
1-2.成熟タンパク質(Tk-SP)の取得、分子量分析およびN末端分析
(i) SDS-PAGEによるプロセシングの確認
精製したproTk-SPを1mlの50mM Tris-HCl(pH9.0)に溶解し(タンパク質濃度:0.013 mg/ml)80℃で120分間インキュベートした。TCAで沈殿させ、15%SDS-PAGEに供した。結果を図1(a)および(b)に示した。(a)は80℃で120分間インキュベートする前のproTk-SPのSDS-PAGE結果を示す画像であり、(b)はproTk-SPを80℃で120分間インキュベートした後のSDS-PAGE結果を示す画像である。(a)のproTk-SPのバンドは、予想されるアミノ酸配列(配列番号5)の理論分子量68.6kDa付近に出現した。一方、80℃で120分間インキュベートした後の(b)のバンドは約44kDa付近に位置していた。この結果から、proTk-SPは80℃で120分間インキュベートすることによりプロセシングを受けていることが確認された。
【実施例】
【0048】
(ii) MALDI-TOF MSによる分子量分析
精製したproTk-SPを50mM Tris-HCl(pH9.0)に溶解し(タンパク質濃度:1 mg/ml)80℃で120分間インキュベートした。インキュベーション後のタンパク質溶液を1μl取り、1μlのマトリクス溶液(10mg sinapinic acid in 1ml of 0.1%TFA and acetonitrile in a volume ratio 2:1)と混和し、この1μlを試料としてMALDI-TOF MS(Bruker Daltonics社製)に供した。キャリブレーションスタンダードとして、protein standard IIを使用した。図2にMALDI-TOF MSのチャートを示した。図2から明らかなように、このタンパク質の分子量は、44271Daと決定された。
【実施例】
【0049】
(iii) N末端分析
プロセシング後のタンパク質(10μg)を15%SDS-PAGEに供し、泳動後のゲルからPVDF膜にタンパク質を転写させるためにブロッティングを行った。目的のバンドが転写されたPVDF膜を切り取り、プロテインシーケンサー(Procise automated sequencer,ABI model 491)に供してN末端分析を行った。結果を図3に示した。図3に示したように、このタンパク質のN末端のアミノ酸配列はVETEであることが明らかとなった。
N末端分析結果と分子量分析結果から、プロセシング後のタンパク質は配列番号5の第114位~第539位のアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号1、理論分子量:44207Da)、または配列番号5の第114位~第540位のアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号3、理論分子量:44322Da)であると考えられた。得られた分子量約44kDaのタンパク質(Tk-SP)を以下の実験に使用した。
【実施例】
【0050】
〔実施例2:Tk-SPのpH依存性およびバッファー依存性〕
Tk-SPのpH依存性およびバッファー依存性を検討するために、アセテートバッファー(pH 4.5, 5.0, 5.2, 5.4 および 5.6)、MESバッファー(pH 5.5, 6.0, 6.5 および 7.0)、HEPESバッファー(pH 7.0 および 7.5)、Tris-HClバッファー(pH 7.0, 7.5, 8.0, 8.5 および 9.0)、glycine-NaOHバッファー(pH 8.5, 9.0, 9.5 および 10.0)、並びにCAPS-NaOHバッファー(pH 9.0, 9.5, 10.0, 10.5, 11.0 および 11.5)を用いて以下の手順で酵素反応を行った。すなわち、50mMのバッファーおよび2mMの合成基質Suc-AAPF-pNAを含む反応液100μlを20℃で5分間インキュベートし、これに0.1μgのTk-SPを添加してさらに20℃で10分間インキュベートした。10μlの酢酸を添加して反応を止め、合成基質Suc-AAPF-pNAから生成されるパラニトロアニリン(p-nitroaniline)の量を、紫外分光光度計(Beckman model DU640)により、8900M-1cm-1の吸光係数を用いた波長410nmの吸収から定量した。1分間に1μmolのパラニトロアニリンを生成する酵素量を「1単位」と定義した。特異的活性は、タンパク質1mg当たりの酵素活性と定義した。
結果を図4に示した。図4からわかるように、Tk-SPの反応至適pH範囲はpH6~11.5と広く、したがって、Tk-SPはpH6以上の多様なpH環境での利用に適した酵素であることが明らかになった。
【実施例】
【0051】
〔実施例3:Tk-SPの温度依存性〕
Tk-SPの温度依存性を検討するために、20℃~100℃の範囲で基質にアゾカゼイン(Azocasein)を用い、以下の手順で酵素反応を行った。すなわち、50mMのTris-HCl(pH7.0)および2%のアゾカゼインを含む反応液270μlをそれぞれの温度で5分間インキュベートし、これに3.3μgのTk-SPを30μl(約0.1μg)添加してさらに20分間インキュベートした。200μlの15%トリクロロ酢酸(終濃度6%)を添加して反応を止めた。遠心分離(15,000×g、15min)して上清160μlを取り、40μlの2M NaOHと混和して、波長440nmの吸光値(A440)を測定した。300μlの反応液のA440を1分間に1上昇させるのに必要な酵素量を「1単位」と定義した。
結果を図5に示した。図5に示した結果からTk-SPの活性至適温度は100℃以上と推定され、Tk-SPは高温環境で高いペプチド分解活性を示す事が明らかになった。
【実施例】
【0052】
〔実施例4:Tk-SPの熱安定性〕
Tk-SP溶液(Tk-SP3.3μg/ml、50mM Tris-HCl(pH7))を80、90および100℃で処理することにより、不可逆的な熱失活に対するTk-SPの安定性を検討した。熱処理後のTk-SP溶液の30μlを取り、基質にアゾカゼインを用いて80℃で残存活性を測定した。測定の手順は実施例3と同様とし、反応温度は55℃とした。残存活性は、熱処理後の活性値を熱処理前の活性値で除することにより算出した。
結果を図6に示した。図6から明らかなように、Tk-SPは、90℃以下の温度で180分間処理しても失活せず、また、100℃では90分間の処理によっても活性を半分維持していた。この結果から、Tk-SPは熱安定性が極めて高い酵素である事が明らかになった。
【実施例】
【0053】
〔実施例5:Tk-SPのタンパク質変性剤、界面活性剤およびキレート剤に対する安定性〕
タンパク質変性剤として尿素(Urea)および塩酸グアニジン(GdnHCl)を用いた。界面活性剤としてTritonX-100、Tween20およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いた。キレート剤としてEDTAを用いた。0.05mg/mlのTk-SPを含む20mM Tris-HCl(pH8.0)を55℃で上記タンパク質変性剤、界面活性剤またはキレート剤とインキュベートした。タンパク質変性剤および界面活性剤の濃度は3~4段階を設定した。EDTAは1段階(10mM)のみを設定した。時間は0、2、5、10、15、30および60分を設定した。インキュベーション後のTk-SPについて、基質にSuc-AAPF-pNAを用いて20℃で活性を測定した。測定の手順は実施例2と同様とし、pHは8とした。
【実施例】
【0054】
尿素(Urea)の結果を図7に示した。図7から明らかなように、最高濃度の8Mで60分間処理しても、Tk-SPは約90%の残存活性を有していた。
塩酸グアニジン(GdnHCl)の結果を図8に示した。図8から明らかなように、4Mで用いた場合、Tk-SPは30分以内で失活したが、2Mで用いた場合は60分処理しても約65%の活性を維持した。
TritonX-100の結果を図9に示した。図9から明らかなように、最高濃度の10%で60分間処理しても、Tk-SPの活性は低下しなかった。
Tween20の結果を図10に示した。図10から明らかなように、最高濃度の10%で60分間処理しても、Tk-SPの活性は低下しなかった。
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の結果を図11に示した。図11から明らかなように、最高濃度の5%で60分間処理しても、Tk-SPは約90%の残存活性を有していた。
EDTAの結果を図12に示した。図12から明らかなように、10mMのEDTAで60分間処理しても、Tk-SPの活性は低下しなかった。つまり、Tk-SPの活性発現には、カルシウムイオンが必須でないことが明らかとなった。
以上の結果から、Tk-SPは各種のタンパク質変性剤、界面活性剤、キレート剤に対し高い安定性を有しており、産業用プロテアーゼとして有用性が高いことが示された。
【実施例】
【0055】
〔実施例6:Tk-SPの安定性に及ぼすカルシウムイオンの効果〕
Tk-SPを10mMのEDTAと80℃で30分間インキュベートし、0.1mM EDTA含有50mM Tris-HCl(pH8.0)で透析した。その後、Tk-SP溶液を80、90および100℃で処理し、Tk-SPの安定性を検討した。基質にはアゾカゼインを用いて80℃で残存活性を測定した。測定の手順は実施例3と同様とし、反応温度は55℃とした。
結果を図13に示した。図13に示した結果から、カルシウムイオンを除いたTk-SPは耐熱性が低下することが明らかとなった。したがって、Tk-SPを効率的に熱失活させる際には、EDTAの添加が有効であることが示唆された。
【実施例】
【0056】
〔実施例7:Tk-SPの速度パラメーター〕
基質にSuc-AAPF-pNAを用い、基質濃度を0.01~2mMの範囲で種々の濃度を設定して20℃および80℃でTk-SPの特異的活性を測定した。測定の手順は実施例2と同様に行った。得られたデータをミカエリス-メンテン式に当てはめて速度パラメーターを算出した。比較のために、公知の耐熱性プロテアーゼであるTk-subtilisin(非特許文献1参照)についても同様に特異的活性を測定し、速度パラメーターを算出した。
結果を表1に示した。表1からわかるように、いずれの温度においてもTk-SPのKmはTk-subtilisin(表中、Tk-sub)のKmよりも小さかった。したがって、Tk-SPは、Tk-subtilisinと比較して、低濃度の基質を効率よく分解できることが明らかとなった。
【実施例】
【0057】
【表1】
JP0005339543B2_000002t.gif
【実施例】
【0058】
〔実施例8:構造形成におけるカルシウムイオン要求性の検討〕
proTk-SPのアミノ酸配列(配列番号5)の第359位のセリンをアラニンに置換することでプロテアーゼ活性を失わせた変異体(以下「proS359A」という)を用いた。proS359Aは、実施例1で構築したpET25b-proTk-SPに公知の変異誘導法を適用して、proS359A発現ベクターを作製し、このベクターを実施例1と同様の方法で大腸菌に導入し、発現させ、精製することにより取得した。
二次構造形成の確認は円偏光二色性測定(CDスペクトル測定)により行った。測定時のタンパク質濃度は0.1mg/ml、バッファーは20mM Tris-HCl(pH7.5)、温度は25℃とした。
【実施例】
【0059】
以下の4種類の試料について二次構造形成を確認した。
試料1:精製したproS359Aを20mM Tris-HCl(pH7.5)で透析したもの。
試料2:精製したproS359Aを20mM Tris-HCl(pH7.5)で透析した後、EDTA(濃度1mM)および塩酸グアニジン(濃度6M)を添加し、80℃で一夜保温したもの。
試料3:試料2を20mM Tris-HCl(pH7.5)で5倍に希釈し、氷上で30分間インキュベートしたもの。
試料4:試料2を20mM Tris-HCl(pH7.5)で一夜透析したもの。
【実施例】
【0060】
結果を図14に示した。図14に示したように、正常に二次構造を形成している試料1のスペクトルを示す曲線と比較して、塩酸グアニジンを添加して変性させ、EDTAを添加してカルシウムイオンを含まない状態にした試料2は、曲線が浅くなっていることから二次構造が壊れて変性していることがわかる。変性した試料2をバッファーで5倍に希釈した試料3は、200~210nmの範囲を除いて試料1の曲線とほぼ同じ形状を示した。また、変性した試料2をバッファーで一夜透析した試料4は、完全に試料1と同じ曲線を示した。このように、試料3および試料4が二次構造を回復したことから、Tk-SPは、カルシウムイオンに依存せずに構造形成していることが明らかとなった。
この結果から、Tk-SPは、活性化するためにカルシウムイオンを必要とせず、キレート剤を添加剤として含む洗剤中でも安定に機能を発揮することができ、極めて有用であることが示された。
【実施例】
【0061】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図面
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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