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明細書 :MSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3535045号 (P3535045)
公開番号 特開2001-013251 (P2001-013251A)
登録日 平成16年3月19日(2004.3.19)
発行日 平成16年6月7日(2004.6.7)
公開日 平成13年1月19日(2001.1.19)
発明の名称または考案の名称 MSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置
国際特許分類 G01T  1/185     
G01T  1/161     
FI G01T 1/185 C
G01T 1/161
請求項の数または発明の数 4
全頁数 9
出願番号 特願平11-187831 (P1999-187831)
出願日 平成11年7月1日(1999.7.1)
審査請求日 平成13年4月20日(2001.4.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】谷森 達
【氏名】越智 敦彦
【氏名】西 勇二
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】大熊 靖夫
参考文献・文献 特開 平10-300856(JP,A)
特開 昭62-225984(JP,A)
特開 昭62-5194(JP,A)
特開 昭62-203079(JP,A)
特表 平9-508750(JP,A)
特表2001-516454(JP,A)
特表2001-508935(JP,A)
調査した分野 G01T 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
MSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置であって、
(a)窓となるドリフト電極と、
(b)ガスパッケージと、
(c)該ガスパッケージ内に配置される複数のフィールドワイヤを有する長いドリフト領域と、
(d)前記ガスパッケージ内に配置されるキャピラリープレートと、
(e)前記ガスパッケージ内に配置されるMSGC基板部と、
(f)データ収集システムとを備え、
(g)前記ガスパッケージ中の反跳電子により検出領域中のガスを電離させ、このうち電子は検出面に垂直になるよう調整されたドリフト電場に沿ってドリフトし、中間増幅器である前記キャピラリプレートに到達し、ガス増幅され、さらに増幅された電子を前記MSGC基板部へドリフトし、2次元の電極で信号を発生し、これが前記データ収集システムによってナノ秒オーダーの高速時間毎に位置が記録されることを特徴とするMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置。

【請求項2】
MSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置であって、
(a)窓となるドリフト電極と、
(b)ガスパッケージと、
(c)該ガスパッケージ内に配置される複数のフィールドワイヤを有する長いドリフト領域と、
(d)前記ガスパッケージ内に配置される長いドリフト領域の脇に配置される光検出器と、
(e)前記ガスパッケージ内に配置されるキャピラリープレートと、
(f)前記ガスパッケージ内に配置されるMSGC基板部と、
(g)データ収集システムとを備え、
(h)前記ガスパッケージ中の反跳電子は検出領域中のガスを電離させ、γ線がガス中で光電/コンプトン効果を起こした瞬時の時間を決定するために、前記光検出器で電離気体が発生する光を捉えるとともに、前記電子は検出面に垂直になるよう調整されたドリフト電場に沿ってドリフトさせ、中間増幅器である前記キャピラリプレートに到達し、ガス増幅され、さらに増幅された電子をMSGC基板部へドリフトし、2次元の電極で信号を発生し、これが前記データ収集システムによってナノ秒オーダーの高速時間毎に位置が記録されることを特徴とするMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置。

【請求項3】
請求項又は記載のMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置において、前記ガスパッケージはXeをベースとするガスで満たされることを特徴とするMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置。

【請求項4】
請求項記載のMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置において、前記ガスパッケージはXeの圧力を調整可能にしてなることを特徴とするMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【1】

【発明の属する技術分野】本発明は、MSGC(マイクロストリップガスチャンバー)による反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置に関するものである。

【10】
また、最近、他の検査では発見できないごく初期の癌の早期発見の決め手として、PET(Positron Emission Tomograph)を用いた方法がでてきた。PETは、陽電子・電子消滅から同時発生する2γ線を捉えることにより、数ミリという高い位置分解能と3次元像が得られる優れた検出器である。ただ、装置が非常に高価であり、特殊な同位体を作る為の加速器も必要となり、全国に20台程度しかないのが現実である。

【11】
これとは別に、二重コンプトン効果を用いたγ線入射方向決定方法もあるが、やはり効率が非常に悪い。これについては、ここでは説明を割愛する。

【12】
上記したように、コリメータを用いずにγ線の到来方向を検出できれば、これまでとは比較にならない程の高効率で高精度なγ線方向検出器ができる。ここで対象となっている100keV~1MeV程度のγ線が通常の物質と起こす相互作用は、主に光電効果とコンプトン効果である。いずれもこの作用の結果として物質中で反跳電子が発生する。この反跳電子の方向は、入射γ線の方向に対してある確率分布を持っており、また、そのエネルギーは光電効果では一定、コンプトン効果では反跳角に応じたものを持つ。

【13】
表1はそれぞれの効果における反跳電子の散乱角とエネルギーについてまとめたものである。

【14】

【表1】
JP0003535045B2_000002t.gifこの表により、物質中で入射γ線が生じさせた反跳電子の方向、及びエネルギーを測定できれば、数イベントのγ線だけでその入射方向を決定できることが分かる。

【15】
本発明は、上記状況に鑑みて、コリメータを用いること無しに、迅速、確実にγ線入射方向を決定することができるMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置を提供することを目的とする。

【16】

【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕MSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置であって、窓となるドリフト電極と、ガスパッケージと、このガスパッケージ内に配置される複数のフィールドワイヤを有する長いドリフト領域と、前記ガスパッケージ内に配置されるキャピラリープレートと、前記ガスパッケージ内に配置されるMSGC基板部と、データ収集システムとを備え、前記ガスパッケージ中の反跳電子により検出領域中のガスを電離させ、このうち電子は検出面に垂直になるよう調整されたドリフト電場に沿ってドリフトし、中間増幅器である前記キャピラリプレートに到達し、ガス増幅され、さらに増幅された電子を前記MSGC基板部へドリフトし、2次元の電極で信号を発生し、これが前記データ収集システムによってナノ秒オーダーの高速時間毎に位置が記録されるようにしたものである。

【17】
〔2〕MSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置であって、窓となるドリフト電極と、ガスパッケージと、このガスパッケージ内に配置される複数のフィールドワイヤを有する長いドリフト領域と、前記ガスパッケージ内に配置される長いドリフト領域の脇に配置される光検出器と、前記ガスパッケージ内に配置されるキャピラリープレートと、前記ガスパッケージ内に配置されるMSGC基板部と、データ収集システムとを備え、前記ガスパッケージ中の反跳電子は検出領域中のガスを電離させ、γ線がガス中で光電/コンプトン効果を起こした瞬時の時間を決定するために、前記光検出器で電離気体が発生する光を捉えるとともに、前記電子は検出面に垂直になるよう調整されたドリフト電場に沿ってドリフトさせ、中間増幅器である前記キャピラリプレートに到達し、ガス増幅され、さらに増幅された電子をMSGC基板部へドリフトし、2次元の電極で信号を発生し、これが前記データ収集システムによってナノ秒オーダーの高速時間毎に位置が記録されるようにしたものである。

【18】
〔3〕上記〔〕又は〔〕記載のMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置において、前記ガスパッケージはXeをベースとするガスで満たされるようにしたものである。

【19】
〔4〕上記〔〕記載のMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置において、前記ガスパッケージはXeの圧力を調整可能にするようにしたものである。

【2】

【従来の技術】γ線(ここでのγ線は、100keV~1MeV程度のものを指す)は、最もエネルギーの高い電磁波であり、光と同様、非常に直進性が高く、X線以上に物質の透過性に優れているため、物体内の透過、さらにはγ線を発生する同位体の原子核を用いることにより、生体内の物質の移動を見るトレーサとして、化学、生物、医療、薬学を始めとする多くの分野で使用されている。

【20】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。

【21】
従来の検出器では、物質中でγ線が発生させる数10keV~数100keV程度のエネルギーの反跳電子の飛跡を捉え、その方向、エネルギーを決定することは、不可能であった。しかし、近年本願発明者のグループで実用化しつつある2次元マイクロストリップガスチャンバー(MSGC)、及びMSGC用パイプラインデータ処理回路を用いることによって、これが可能になると考えられる。なお、ここでは、このMSGCの説明については省略する。必要であれば、特開平10-300856号、特許公報第2843319号等を参照。このMSGCは、これらの公報からも明らかなように、基板(サブストレート)、陽極ストリップ、陰極ストリップ、セラミックからなるベース基板、バックストリップからなるMSGC基板部と、ドリフト板と、このドリフト板とMSGC基板部間に充填されるガスチャンバーからなっている。

【22】
図1は本発明の時間情報を用いた荷電粒子軌跡の二次元読み出しの原理を示す図である。

【23】
この図において、1はMSGC、2はドリフト電極、3はドリフト電場(E電界)、4はガス雰囲気、5は検出器、6は検出器による検出信号、7は電子雲である。

【24】
この図に示すように、MSGC1は、検出領域のガス雰囲気4中で生じた電子雲7を、ドリフト電場3により電極までドリフトさせ、さらにガス増幅を行うことにより位置検出を行っている。ここで、電子雲7が高速荷電粒子により生じた線状のものである場合、その形状を維持したまま電子雲7は電極へドリフトしていき、電子雲7の形に応じた位置において信号6が次々に現れることになる。

【25】
すなわち、従来のMSGCと高速データ収集システムにおいて、信号の位置と検出時間を連続的に記録することにより、最初の高速荷電粒子の3次元的な軌跡が得られるのである。

【26】
似たような方法で荷電粒子の3次元軌跡を捉える方法は、高エネルギー物理学の分野で数MeV以上の粒子を観察するために用いられている(Time ProjectionChamber:TPC)が、MSGCでは飛跡が数mm程度の低エネルギーの電子(数十keV)でも精度良く観測することができる。

【27】
また、軌跡の長さ(もしくはMSGCで検出できるデポジットエネルギー)から反跳電子のエネルギーが分かる。これらの情報から、元のγ線の入射方向を得るためには、以下のステップを施す必要がある。

【28】
(1)反跳電子を生じさせた物理素過程の識別
前述したように、1MeV以下のγ線に起因する反跳電子が生じるプロセスには、光電効果とコンプトン効果の2つがある。光電効果では、入射するγ線のエネルギーEinを全て吸収するために、反跳電子の運動エネルギーEout は、電子の運動方向に依らず一定値Ein-Wに限定されることになる。ここで、Wは光電効果により出てくる電子の束縛エネルギーである。

【29】
一方、コンプトン効果は、光子と電子の準弾性散乱と考えられ、反跳電子の運動エネルギーは散乱方向に依存するが、このエネルギーは光電効果によるものよりも小さい。

【3】
特に、医学分野への利用においては、現在、癌、腫瘍など多数の診断にγ線による画像診断が利用されている。適用される臓器も脳、心臓、肺、肝臓、循環器、骨などほとんどの分野で広く使用されている。多くは140keVあたりのガンマ線を出す放射性同位体を使用し、それらのガンマ線をコリメータにより検出できる方向を限定したガンマ線検出器で捉え、画像を得るようにしている。

【30】
そこで、この二つの素過程の識別には、反跳電子のエネルギーを用いればよいといえる。検出すべきγ線は、ある一定の核種から出ているものとすると、そのエネルギーは既知であるため、光電効果による電子エネルギーは必ず一定の値となる。つまり、このエネルギーより低いものが観測されれば、コンプトン効果である。

【31】
(2)入射γ線の入射方向の候補の推定(光電効果の場合)
光電効果により生じる電子の散乱角による微分断面積は、入射γ線と散乱電子の角度をθとすると、
JP0003535045B2_000003t.gifとなることが知られている。ここで、βは反跳電子の初速と光速の比である。入射γ線のエネルギーが電子質量(511keV)に対し充分小さい場合は、入射γ線とほぼ垂直方向に光電子が放射されるが、入射エネルギーが高くなるに従い、相対論的効果により電子の射出方向が前方に偏ってくる。

【32】
50keV~800keVのいくつかのエネルギーにおける電子の発生方向を図2に示した。

【33】
この散乱電子の方位角分布は、入射γ線の偏光の度合いに依存するが、偏光がないものと仮定すると、方位角方向の分布は全く同じである。

【34】
そのため、図3に示すように、観測された反跳電子の軌跡より、図2に対応する円錐上の方向(正確には、円錐を中心とするある確率分布)が、γ線の入射方向の候補となる。なお、図3において、8は電子トラック、9は入射γ線候補円錐である。

【35】
(3)入射γ線の入射方向の候補の推定(コンプトン効果の場合)
反跳電子の軌跡がコンプトン効果によるものである場合、エネルギーEinのγ線の入射方向と反跳電子のなす角度θ、及び電子のエネルギーEout の関係式は、以下のようになる。

【36】

JP0003535045B2_000004t.gifここで、mc2 は、電子の静止質量である。すなわち、入射γ線と反跳電子のエネルギーが分かれば、この式はθについて解くことができ、反跳電子の軌跡を軸とした、角度θ方向の円錐上(図3参照)がγ線の入射方向の候補となる。

【37】
(4)複数事象の反跳電子観測によるγ線の入射方向の決定
上記の方法により、単独の反跳電子の観測から、その元となるγ線の到来方向について空間上に大きな制限を与えることができるため、同一方向から到来する複数のγ線入射に起因する反跳電子を観測すれば、それぞれから求められるγ線入射方向の候補の重なりから、入射方向を決定することができる。円錐の重なりにより、入射方向を一意的に決定する場合は、最低限3イベントのγ線入射が必要である。また、複数の方向よりγ線が到来している場合についても、観測された反跳電子より計算される円錐の重ね合わせを計算機上で処理していくことにより、入射方向の決定は可能である(図4参照)。なお、図4において、Aは複数の事象から求められるγ線入射方向、Bは一つの反跳電子から求められるγ線入射方向の候補である。

【38】
この方法によれば、γ線を捉えるためのコリメータは不要となり、また大きな検出領域を持つ検出器が使えるため、線源に対する検出器の立体角が飛躍的に大きくなり、高効率γ線方向検出器が実現できるものと考えられる。

【39】
次に、具体的な実施例の説明を行う。

【4】
また、生物、工業利用でもγ線を用いた調査が試みられている。

【40】
γ線の方向検出器としては、検出器から比較的離れた線源を調べる場合と、近接したものを調べる場合が考えられる。

【41】
前者は、検出器に対する入射γ線の方向のみを調べるもので、放射線の安全管理分野(放射線の洩れ検出や放射性廃棄物の放射化部位の調査)に非常に有用であると考えられる。

【42】
また、後者は、線源に対する検出器の立体角が大きくなることから、低容量の放射性物質の空間的な位置を特定できることが期待でき、医療用の放射性トレーサと組み合わせて利用することで、これまでに比べてはるかに扱いやすく危険性の少ない診療を高精度で実施することが可能になると考えられる。

【43】
この遠距離用と近距離用のγ線方向検出器の実施例は、若干異なるので、それぞれについて説明する。

【44】
図5は本発明の第1実施例を示すMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置の模式図であり、遠距離用検出器の構造を示している。

【45】
この図において、10はγ線到来方向検出装置、11はドリフト電極(窓)、12はガスパッケージ、12Aはガスパッケージ側壁、13はフィールドワイヤ(電場構造線)、14はキャピラリープレート、15は長いドリフト領域、16はMSGC基板部(MSGC本体)、20はデータ収集システムである。

【46】
ここでは、中間増幅器(キャピラリプレート14)付MSGC基板部16に、長いドリフト領域15を設ける。この長いドリフト領域15は電場の直線性が重視されるため、ドリフト電場を補正するためのフィールドワイヤ(電場調整用電極)13を周囲に張る。このγ線到来方向検出装置10内部は、Xeをベースとするガスで満たすことにより、γ線に対する検出効率を上げている。なお、フィールドワイヤ13はガスパッケージ側壁12Aに張りめぐらされる。つまり、ガスパッケージ12の内部は空洞となり、γ線を受け入れることになる。

【47】
また、このガスを封入している部分は圧力容器になっており、検出するγ線のエネルギーや効率などの必要性に応じて、内部のガス圧を上げることができるようになっている。反跳電子は検出領域中のガスを電離させ、このうち電子は検出面に垂直になるよう調整されたドリフト電場に沿ってドリフトし、中間増幅器であるキャピラリプレート14に到達し、ガス増幅される。

【48】
さらに増幅された電子はMSGC基板部16へドリフトし、200μ間隔に配置された2次元の電極で信号を発生し、これがデータ収集システム20によって50~100n秒毎に位置が記録される。キセノンガス中で1気圧・室温における電子のドリフト速度は、電場が300V/cmの場合で約2cm/μ秒であるから、この場合であれば、50n秒毎のデータ収集によって検出器の深さ方向に対し1mmの間隔で反跳電子の軌跡の3次元構造に対応するデータが得られることになる。

【49】
ここで、留意すべきことは、このような長いドリフト領域15を持つMSGC基板部の場合は、電極近傍で起こる電子なだれによってできる正イオンがドリフト層に流れ、絶縁体からなるガスパッケージ側壁12Aに付着しチャージアップを起こし電場を歪めてしまう特性があるので、MSGC基板部16の上に設置したキャピラリープレート14により、下部でできた正イオンは全てキャピラリープレート14の電極で吸収することにより、この影響を無くすことができる。そのため、本発明の装置は、長時間、強い放射線環境においても電場を歪めてしまうことはなく、正確なγ線入射方向の測定を行うことができる。

【5】
一方、核反応を利用する原子力では、γ線は危険であることから遮蔽されなければならないが、γ線を探すことにより汚染を調査することができる。

【50】
図6は本発明の第2実施例を示すMSGCによる反跳電子の軌跡映像からのγ線入射方向決定装置の模式図であり、近距離用検出器の構造を示している。

【51】
近距離用のγ線方向検出器では、反跳電子の3次元像を得る時に、それが検出器中どの位置(深さ)で生じたかということも必要な情報となる。この情報はドリフト電子が発生する時間、つまりγ線の到来時間とドリフト電子がMSGC基板部16に到達した時間差から求められる。

【52】
そこで、近距離用の検出器の構造は、遠距離用のものに加えて、γ線がガス中で光電/コンプトン効果を起こした瞬時の時間を決定するために、電離気体が発生する光(シンチレーション)を捉えるための高速の光検出器17(光電子の像倍管など1光子を数ナノ秒の精度で捉えられる検出器)をドリフト領域脇に配置する。この光検出器17から生じたトリガ信号も、データ収集システム20へ送られる。それ以外の構成は第1実施例と同様であるので、ここでは説明を省略する。

【53】
さらに、遠距離、近距離に共通して、1MeV近いγ線を観測する場合のエネルギーを測定するために、必要に応じて検出領域に磁場を与えられる構造にしておく場合もある。

【54】
図7は本発明の実施例を示すMSGC用データ収集システムのブロック図である。

【55】
この図において、MSGC用データ収集システム20は、エンコーダシステム21、メモリモジュール22、クロック23、カウンタ(タイムスタンプ)24、コンピュータシステム25を有する。なお、16はMSGC基板部、17は光検出器、26はトリガ信号である。

【56】
図7に示すように、基本的にはこれまでのイメージング用の高速データ収集システムと同じ構造であるが、軌跡の3次元構造を捉えるための時間記録の高精度化を実現している。すなわち、従来の2次元のストリップ型検出器で2次元座標を得る場合、このような光速に近い速さの粒子が作るトラックは一つの事象となってしまい、従来のゲートを空けてその間にヒットしたストリップの位置を記録する方法では捉えることが不可能であった。それを解決する方法として、位置方向のストリップをパッドとよぶピクセルの列として各ピクセルに回路を取り付け、そのヒットしたパッドと、残りの方向のストリップのヒット、およびその時間を記録することでこのトラックの各ストリップでの粒子トラックの3次元的位置を捉え、トラック全体を捉えることが初めて可能となった。これがTPC(Time Projection Chamber)である。他にもパッドを使わず一方向のストリップの両端からアナログ信号を読み、粒子のトラックのそのストリップ上での位置を得るJET-Chamberという方法などがある。TPCの場合は回路が面積に比例して増加してしまう。また、JET-Chamberの場合は位置分解能が悪く多くのアナログ信号を変換するADC回路が必要となってしまう。

【57】
本発明のイメージング用の高速データ収集システム20は各ストリップからの信号を高速のクロック23で同期を取る。つまり、一つのクロック23内の各ストリップのヒットが一事象となる。普通粒子トラックからドリフトしてくる電子は、マイクロ秒程度のバラツキを持ってくるので、10MHz程度のクロック23を用いてデータを取ると一つのトラックで10点程度の点の連続した点のデータとして簡単にトラックが記録される。このシステムは、検出器の面積ではなく周囲長、つまり面積の平方根でしか増加せず、また一切アナログ処理を必要としないため、小型で大量の事象の処理が可能となる。すなわち、これまでのデータ収集システムでは、データ収集は10MHzクロックで行っており、時間記録は最高10クロック毎(1μ秒分解能)であったのに対し、本発明のイメージング用の高速データ収集システム20では、各クロック23毎の時間が記録される。さらに、近距離用のシステムに、光検出器17からのトリガ信号26のタイミングもデータとして記録できる。

【58】
データ収集システム20に取り込まれたデータは、直接コンピュータシステム25に取り込むことができ、ここから入射γ線の方向を計算することになる。反跳電子の空間上の軌跡からその射出方向、また長さからそのエネルギーを測定することができる。エネルギーについては、1MeV近くの高いエネルギーのγ線入射の場合、多くの反跳電子軌跡が検出器内で収まらなくなる可能性があるため、この場合には検出領域に磁場をかけて、電子の軌跡が曲がる曲率を観測することにより反跳電子のエネルギーが得られる。これらの値が得られれば、後は上記したように、数イベントの軌跡から入射γ線の方向を決定することができる。

【59】
近距離用のものについては、検出器の中の軌跡の生じた位置の違いを用いて、三角測量と同様な手法により線源までの距離も特定できる。また、遠距離の線源を観測する場合でも、複数の検出器を用いることにより、同様に三角測量法で線源の空間的位置を捉えることができる。これらの計算は、現在のコンピュータを用いればほぼ瞬時にできるものと考えられ、γ線の入射方向をリアルタイムに記録、表示することも可能である。

【6】
このように、エネルギー領域のγ線は現在の最先端技術に不可欠なものであり、その検出方法の改善、向上は科学のみならず産業にも大きな影響があるといえる。

【60】
次に、動作試験の結果について述べる。

【61】
構造的には従来のMSGCと共通することが多いため、従来のMSGCを用いて基本的な現象は観測されている。

【62】
図8にMSGCに何も入射させずに10秒間動作させた時に得られた像を示す。

【63】
一般に地上においては、1cm2 当たり10-2 個程度、μ粒子が降り注いでいるが、この図に、その軌跡と見られるものがはっきり観測されている。現在のデータ収集システムでは、得られた点列の時間並びを正確に記録することはできないが、ここでは、データ収集は10MHzクロックで行っているために、それぞれの点は100n秒毎に得られている(図8におけるC参照)と考えられる。

【64】
ここで、宇宙線起源のμ粒子が通過することにより生じる電離電子の密度よりは、γ線による反跳電子が生じる電子密度の方がはるかに大きいため、少なくともμ粒子の軌跡が見えているということは、γ線の反跳電子も同様に容易に観測できるであろうことを示している。

【65】
このMSGCは、ドリフト領域の厚さが5mm程度であり、ここにかけていた電場が約200V/cm、データ収集が100n秒、ガス組成がキセノン70%:エタン30%であったことから、このドリフト領域を突き抜けたμ粒子の軌跡が5~6個の点列となって現れている。これは、MSGCがTPCとして動作している証拠であり、荷電粒子の軌跡が、深さ方向に1mm単位で得られ、3次元的な粒子の軌跡が記録されていることを示している。

【66】
このように、本発明の装置は、前述したPET以上の3次元的位置分解能をこのエネルギー領域のシングルγ線発生源に対して得ることができ、2πステラジアン(2π str:ほぼ半球の領域)という大きな立体角を有する。また、コリメータを必要としないので、バックグラウンドも激減する。そのため、例えば医療分野の利用に際しては患者の被を従来の100分の1以下にしながらPET以上の位置分解能、時間分解能をシングルガンマ線源で得ることができる。

【67】
また、2ガンマ線崩壊に対する検出に対しても、この装置は500keVからのコンプトン散乱で出てくる反跳電子(ほとんどは200keV以下であり、この装置で完全に捉えられる)を捉えることで、同様の精度で位置を検出することができる。医学利用の場合、ガンマ線のエネルギーが既知であるため、前で述べたように電子の方向とエネルギーのみからガンマ線の方向が求められる。つまり、1ガンマ線のみの検出でよい。また、大立体角のため検出効率は同じく数百倍改善される。より感度を上げたい場合は、ノイズを落とすために、検出器の反対側に同時計測用のシンチレータの板検出器(ピクセルにする必要はない)を置き、同時計測およびエネルギー測定で2ガンマ線事象ということを同定できる。

【68】
このように、従来のガンマ線診断の概念を一新させX線CTに近い能力が得られる。

【69】
次に、生物・工業利用について述べる。

【7】
γ線の検出が必要な分野では、その検出目的により、そのエネルギーを求め、γ線を放射した物質を決定するスペクトル分析、およびその発生源の方向、さらにはγ線によるイメージの検出が必要である。前者は各種のシンチレーション結晶などが開発され多くの装置が使用されている。

【70】
この分野の利用においては、医学利用と同じように同位体を用いたトレーサの流れをリアルタイムでしかも検出器よりもずっと大きな離れたものの中の移動をリアルタイムで診ることができる。例えば、反応炉の中の反応の場所、進み具合、拡散具合など、物質量がガンマ線をある程度透過できるものは大抵、トレーサの動きを捉えられる。

【71】
また、この検出器はガンマ線の角度を得るものであり、検出器に近い程位置分解能があがる。そのため生物、薬学、医学で使用される小動物内では線源と検出器との距離を小さくすることができ、そのため位置分解能があがり、小動物に対しても部位の位置決定が可能となる。

【72】
さらに、原子力関連では、作業前の広範囲な汚染状況の確認、作業後の人体全体の被の確認など、従来サーベメータで全領域をチェックする以外方法がなく、時間がかかり信頼度も低かったものが、大幅に質、時間の両面で改善される。

【73】
なお、本発明は、電極間隔が1mm以下に配置された2次元ガス比例係数装置にも適用可能である。

【74】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。

【75】

【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。

【76】
(1)コリメータを用いることなしに、迅速、確実にγ線入射方向を決定することができる。

【77】
(2)γ線の入射方向をリアルタイムに記録、表示することも可能である。

【78】
(3)キセノンガスを充満することにより、γ線に対する検出効率を上げることができる。

【79】
(4)キセノンガスの圧力を調整することにより、γ線に対する検出効率をより向上させることができる。

【8】
一方、γ線は光やX線のような反射、屈折現象がなく光学的な手法を適用できないため、画像をとることは殆ど不可能であった。

【9】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記した従来の医学分野におけるγ線の利用に際しては、その位置分解能がコリメータのサイズで決まり、さらにコリメータ自身がバックグラウンドのガンマ線を作ってしまいノイズを増やしてしまう。そのため画像というより影が見える程度の検出となってしまい、3次元的な像を得ることはほとんど不可能であった。また、実際的な問題として、診断にはコリメータに入るごく一部のγ線しか使用できない為、全体の像をとるためにはどうしても強い線量が必要となり、結果として患者の被量を増やしていた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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