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明細書 :高分子電解質、プロトン伝導膜、燃料電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6143498号 (P6143498)
公開番号 特開2014-175111 (P2014-175111A)
登録日 平成29年5月19日(2017.5.19)
発行日 平成29年6月7日(2017.6.7)
公開日 平成26年9月22日(2014.9.22)
発明の名称または考案の名称 高分子電解質、プロトン伝導膜、燃料電池
国際特許分類 H01M   8/02        (2016.01)
C08G  73/10        (2006.01)
H01B   1/06        (2006.01)
H01B   1/12        (2006.01)
H01M   8/10        (2016.01)
FI H01M 8/02 P
C08G 73/10
H01B 1/06 A
H01B 1/12 Z
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2013-045191 (P2013-045191)
出願日 平成25年3月7日(2013.3.7)
審査請求日 平成28年3月2日(2016.3.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】長尾 祐樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100080159、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 望稔
【識別番号】100090217、【弁理士】、【氏名又は名称】三和 晴子
【識別番号】100152984、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 秀明
審査官 【審査官】▲高▼橋 真由
参考文献・文献 特開2009-243031(JP,A)
特開2011-213763(JP,A)
特開2005-272666(JP,A)
特開2008-013668(JP,A)
特開平01-245031(JP,A)
Karthik KRISHNAN 他,Influence of Confined Polymer Structure on Proton Transport Property in Sulfonated Polyimide Thin Films,The Electrochemical Society of Japan,2014年,82(10),865-869
調査した分野 H01M 8/02
C08G 73/10
H01B 1/06
H01B 1/12
H01M 8/10
特許請求の範囲 【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位を有するスルホン酸基含有ポリイミドを含む高分子電解質であって、
互いに直交する第1方向、第2方向および第3方向の3方向から観察される前記高分子電解質のそれぞれの面に対して赤外分光分析を行い、各方向にて測定された赤外線吸収スペクトルの1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)と1650~1690cm-1における最大吸光度(DL)との吸光度比(Ds/DL)をそれぞれ算出し、算出された3つの前記吸光度比(Ds/DL)のうち最小値と最大値とを選択し、両者の比率(最大値/最小値)が2.0以上である、高分子電解質。
【化1】
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(式(1)中、Ar1式(2-1)で示される4価の基、式(2-2)で示される4価の基、式(2-3)で示される4価の基、式(2-5)で示される4価の基、または、2個のベンゼン環が-C(CF32-により連結された化合物の4価の残基を表す。Ar2は、少なくとも一つのスルホン酸基またはその塩を含む置換基を有する、芳香環の2価の残基、芳香環が2個直接連結された化合物の2価の残基、または、2個のベンゼン環が-C(CF32-、-SO2-若しくは-CO2-により連結された化合物の2価の残基を表す。
【化2】
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式(2-3)中、ZおよびYは、単結合を表す。式(2-5)中、Zは、単結合、-CO-、-O-、または-CO-Ph-CO-を表す。なお、Phはフェニレン基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の高分子電解質を含むプロトン伝導膜。
【請求項3】
請求項1に記載の高分子電解質を含む燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質に係り、特に、所定の方向に配向されたスルホン酸基含有ポリイミドを含む高分子電解質に関する。
また、本発明は、上記高分子電解質を含むプロトン伝導膜または燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への対応として燃料電池への期待が大きく高まり、特にプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いた高分子電解質型燃料電池は、低温で作動することが可能であり、また、小型軽量化の可能性があることから注目を集めている。
高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜としては、例えば、ナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標。以下同様)に代表される超強酸基含有フッ素系高分子が知られている。しかし、超強酸基含有フッ素系高分子はフッ素系のポリマーであるため非常に高価であり、また、合成時および廃棄時に環境への配慮が必要となる欠点を有している。
超強酸基含有フッ素系高分子が高価である問題に対し、より安価な炭化水素系高分子電解質膜として、スルホン酸基を有するスルホン化芳香族ポリイミドを用いた高分子電解質膜が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2004-155998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年、燃料電池の性能向上の要望に伴い、高分子電解質のプロトン伝導性に関してもより高いレベルが要求されるようになっている。
本発明者は、特許文献1に記載の高分子電解質膜について検討したところ、そのプロトン伝導性は必ずしも昨今の要求レベルを満たしておらず、更なる改良が必要であることが見出された。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、優れたプロトン伝導性を示す高分子電解質を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記高分子電解質を含むプロトン伝導膜および燃料電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討した結果、スルホン酸基含有ポリイミドの配向状態を制御することにより、所望の効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0007】
(1) 後述する式(1)で表される繰り返し単位を有するスルホン酸基含有ポリイミドを含む高分子電解質であって、
互いに直交する第1方向、第2方向および第3方向の3方向から観察される前記高分子電解質のそれぞれの面に対して赤外分光分析を行い、各方向にて測定された赤外線吸収スペクトルの1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)と1650~1690cm-1における最大吸光度(DL)との吸光度比(Ds/DL)をそれぞれ算出し、算出された3つの前記吸光度比(Ds/DL)のうち最小値と最大値とを選択し、両者の比率(最大値/最小値)が2.0以上である、高分子電解質。
(2) 後述する式(1)中のAr1が、後述する式(2-1)~式(2-5)で示される4価の基からなる群から選択される、(1)に記載の高分子電解質。
(3) 後述する式(1)中のAr2が、後述する式(3)~式(5)で示される2価の基からなる群から選択される基である、(1)または(2)に記載の高分子電解質。
(4) 後述する式(3)、後述する式(4)、後述する式(6)~式(9)中におけるL2が、*1-W-L3-*2で表される基である、(1)~(3)のいずれかに記載の高分子電解質。
(5) (1)~(4)のいずれかに記載の高分子電解質を含むプロトン伝導膜。
(6) (1)~(4)のいずれかに記載の高分子電解質を含む燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れたプロトン伝導性を示す高分子電解質を提供することができる。
また、本発明によれば、上記高分子電解質を含むプロトン伝導膜および燃料電池を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】赤外分光分析の測定方法を示す概略図である。
【図2】スルホン酸基含有ポリイミドがy軸方向に配向している高分子電解質に対する赤外分光分析の測定方法を示す概略図である。
【図3】実施例1の高分子電解質に対して3方向から赤外分光分析を行った際の赤外吸収スペクトルである。
【図4】比較例1の高分子電解質に対して3方向から赤外分光分析を行った際の赤外吸収スペクトルである。
【図5】実施例1および比較例1の高分子電解質についての25℃における湿度と伝導度の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の高分子電解質の好適態様について詳述する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
本発明の特徴点の一つとしては、材料であるスルホン酸基含有ポリイミドの配向状態を制御した点が挙げられる。より具体的には、スルホン酸基含有ポリイミドが所定の方向に配向することにより、所定の方向におけるプロトン伝導性がより高まることを見出している。なお、スルホン酸基含有ポリイミドの配向状態を検知する方法としては、後述するように、互いに直交する3方向(x軸、y軸、z軸にそれぞれ対応)から観察される高分子電解質のそれぞれの面に対して赤外分光測定を行う方法が挙げられる。
まず、本発明の高分子電解質に含まれるスルホン酸基含有ポリイミドについて詳述する。

【0011】
(スルホン酸基含有ポリイミド)
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリイミドには、以下の式(1)で表される繰り返し単位が含まれる。
なお、式(1)で表される繰り返し単位は1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。

【0012】
【化1】
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【0013】
式(1)中、Ar1は芳香環を有する4価の基を表す。芳香環を有する4価の基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環の4価の残基、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環が2個直接連結された化合物の4価の芳香族残基、2個のベンゼン環が-C(CF32-、-SO2-、-CO2-などの連結基により連結された化合物の4価の残基、などが好ましいものとして挙げられ、より好ましくは2個の芳香環を有する化合物の4価の残基である。
より具体的には、以下の式(2-1)~式(2-5)で表される4価の基が挙げられる。
なお、式(2-3)~(2-5)中、ZおよびYは、単結合、-CO-、-O-、または-CO-Ph-CO-を表す。なお、Phはフェニレン基を表す。

【0014】
【化2】
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【0015】
なお、上記Ar1を含む構造を合成する際には芳香族テトラカルボン酸類を使用することが好ましく、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、ピロメリット酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、m-(ターフェニル)3,4,3”,4”-テトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる。

【0016】
式(1)中、Ar2は、少なくとも一つのスルホン酸基またはその塩を含む置換基を有する芳香環を有する2価の基を表す。
芳香環を有する2価の基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環の2価の残基、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環が2個直接連結された化合物の2価の芳香族残基、2個のベンゼン環が-C(CF32-、-SO2-、-CO2-などの連結基により連結された化合物の2価の残基、などが好ましいものとして挙げられる。

【0017】
Ar2中においては、少なくとも一つのスルホン酸基またはその塩を含む置換基が含まれていればよく、その数は特に制限されない。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、1~3個が好ましく、1~2個がより好ましい。
なお、本発明において、スルホン酸基またはその塩とは、スルホン酸基、およびそのナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属との塩、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルアニリンなどの第3アミンとの塩、ピリジン、2,3-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,5-ジメチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-エチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどの環式アミンとの塩である。
スルホン酸基またはその塩を含む置換基とは、スルホン酸基またはその塩を構造の一部として含む基を意図する。

【0018】
Ar2で表される芳香環を有する2価の基の好適態様としては、プロトン伝導性がより優れる点で、式(3)~式(5)で示される2価の基からなる群から選択される基であることが好ましい。

【0019】
【化3】
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【0020】
式(3)中、R1は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。
アルキル基としては特に制限されないが、合成がより容易で取扱い性に優れ、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、炭素数1~4個のアルキル基が好ましく、炭素数1~2個のアルキル基がより好ましい。なお、R1が複数ある場合は、同一であっても異なっていてもよい。

【0021】
1は、-O-、-S-、-C(CF32-、-SO2-、-CO-、アリーレン基(例えば、フェニレン基など)、または、アルキレン基(なかでも、炭素数1~4のアルキレン基が好ましい)を表す。

【0022】
2は、単結合または2価の有機基を表す。2価の有機基としては、2価の脂肪族炭化水素基(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数3~8)、2価の芳香族炭化水素基(好ましくは炭素数6~12)、-O-、-S-、-SO2-、-N(R)-(R:アルキル基)、-CO-、-NH-、-COO-、-CONH-、またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。
2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基などが挙げられる。
なかでも、L2の好適態様としては、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、*1-W-L3-*2で表される2価の有機基が挙げられる。Wは、-O-、または-S-を表す。L3は、アルキレン基、アルキレンオキシ基、またはこれらを組み合わせた基を表す。アルキレン基およびアルキレンオキシ基中のアルキレン基としては、炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、炭素数3~8のアルキレン基がより好ましい。*1および*2は結合位置を表し、*2はSO3Xと結合する。
また、2つのL2は、同一であっても異なっていてもよい。

【0023】
Xは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または4級アミンを表す。なお、2つのXは同一であっても異なっていてもよい。
nは1~3の整数を表し、mは1~3の整数を表し、n+m=4の関係を満たす。なかでも、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、mが1で、nが3の態様が好ましい。なお、2つのnおよびmは、同一であっても異なっていてもよい。

【0024】
式(4)中のR1、L2、X、nおよびmの定義は、式(3)中の各基と同義である。
式(5)中のR1およびL1の定義は、式(3)中の各基と同義である。
式(5)中、lは整数4を表す。
式(5)中、Ar3は、式(6)~式(9)で表される基からなる群から選択される基である。

【0025】
【化4】
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【0026】
式(6)中のR1、L1、L2、X、nおよびmの定義は、式(3)中の各基と同義である。
式(6)中、pは、0~2の整数を表す。

【0027】
式(7)中のL2およびXの定義は、式(3)中の各基と同義である。
式(7)中、qは、1~4の整数を表す。なかでも、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、qは1~2が好ましく、1がより好ましい。

【0028】
式(8)中のL2およびXの定義は、式(3)中の各基と同義である。
式(8)中のqの定義は、式(7)中のqと同義である。

【0029】
式(9)中のL2およびXの定義は、式(3)中の各基と同義である。
式(9)中のqの定義は、式(7)中のqと同義である。

【0030】
スルホン酸基含有ポリイミド中のAr2で表される芳香環を有する2価の基を形成するためには芳香族ジアミン化合物を用いることが好ましく、その種類としては、例えば、2,2’-ジスルホン酸ベンジジン、1,4-ジアミノベンゼン-3-スルホン酸、1,3-ジアミノベンゼン-4-スルホン酸、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメチル-(1,1’-ビフェニル)-2,2’-ジスルホン酸、以下の式(10)~式(12)で表される化合物が挙げられる。
なお、式(10)中の各基は式(3)中の各基と同じであり、式(11)中の各基は式(4)中の各基と同じであり、式(12)中の各基は式(5)中の各基と同じである。

【0031】
【化5】
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【0032】
上記スルホン酸基含有ポリイミド中における式(1)で表される繰り返し単位の含有量は特に制限されないが、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、全繰り返し単位中、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。

【0033】
上記スルホン酸基含有ポリイミドの重量平均分子量は特に制限されないが、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、5000~50000が好ましく、25000~40000がより好ましい。

【0034】
スルホン酸基含有ポリイミドの合成方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、所定の芳香族テトラカルボン酸成分と所定の芳香族ジアミン成分とを反応させてポリアミド酸を得て、さらにイミド化することにより、所望のスルホン酸基含有ポリイミドを合成できる。なお、上記反応を行う際には、アミン化合物やアルカリ金属塩の存在下で行うことが好ましい。これらの化合物の存在下にて反応を行うと、スルホン酸基にアミン化合物やアルカリ金属イオンが結合した状態で反応を行うことができ、反応が効率的に進行しやすく、分子量の制御もしやすくなる。なお、使用されるアミン化合物としては、第3級アミン化合物が好ましく、トリアルキルアミン(例えば、トリエチルアミン)がより好ましい。
スルホン酸基含有ポリイミドの合成において、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とは、芳香族テトラカルボン酸成分のモル数をMa、芳香族ジアミン成分のモル数をMbとした時、Ma/Mbが、0.98~1.02の範囲が好ましい。

【0035】
また、上記スルホン酸基含有ポリイミドを合成した後、必要に応じて、スルホン酸基含有ポリイミドをイオン交換樹脂と接触させる処理(工程)を実施することが好ましい。本処理を実施することにより、スルホン酸基含有ポリイミド中のスルホン酸基に結合する成分(例えば、アミン化合物やアルカリ金属イオン)などを除去することができ、プロトン伝導性を向上させることができる。
使用されるイオン交換樹脂の種類は特に制限されないが、例えば、陽イオン交換能を有する官能基が導入された陽イオン交換樹脂が挙げられる。陽イオン交換樹脂は、スルホン酸基等を官能基として持つ強酸性陽イオン交換樹脂、カルボキシル基等を官能基として持つ弱酸性陽イオン交換樹脂などが挙げられる。イオン交換樹脂の樹脂母体の構造としては、例えば、スチレン系、アクリル系、メタクリル系等が挙げられる。また、イオン交換樹脂には、架橋度や多孔性等、高分子基体構造の違いによって、ゲル型またはマクロポーラス型のものがある。
スルホン酸基含有ポリイミドをイオン交換樹脂と接触させる方法は特に制限されず、バッチ法とカラム法が挙げられる。バッチ法とは、スルホン酸基含有ポリイミドを含む水溶液中に直接イオン交換樹脂を投入し、攪拌機で攪拌しながらイオン交換樹脂を接触させる方法である。カラム法とは、所定のサイズを持つカラムにイオン交換樹脂を充填し、スルホン酸基含有ポリイミドを含む水溶液をカラム中に通液または循環させることによりイオン交換樹脂と接触させる方法である。
上記処理は、複数回繰り返して実施してもよく、繰り返し回数が増えるほど不純物が除去されると共に、プロトン伝導性が向上する。

【0036】
上記スルホン酸基含有ポリイミドを含む高分子電解質は、赤外分光分析において所定の特性を示す。
より具体的には、本発明の高分子電解質に対して互いに直交する第1方向、第2方向および第3方向の3方向から赤外分光分析を行い、各方向にて測定された赤外線吸収スペクトルの1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)と1650~1690cm-1における最大吸光度(DL)との吸光度比(Ds/DL)を算出し、算出された3つの吸光度比(Ds/DL)のうち最小値と最大値とを選択し、両者の比率(最大値/最小値)が2.0以上となる。
以下、赤外分光分析の測定方法に関して、図1を参照しながらより詳述する。

【0037】
図1に示すように、高分子電解質10に対して、互いに直交する第1方向12(x軸方向に相当)、第2方向14(y軸方向に相当)および第3方向16(z軸方向に相当)の3方向から観察される高分子電解質のそれぞれの面に対して、赤外分光分析を行う。例えば、図1においては、第1方向12から観察される面10a、第2方向14から観察される面10b、第3方向から観察される10cに対して、それぞれ赤外分光分析を行う。なお、図1においては、高分子電解質10は立方体状の形状であるが、その形状は特に制限されない。ただし、赤外分光分析における各面の測定精度がより高まる点で、立方体状が好ましい。
次に、各面に対して赤外分光分析を行い、得られた3つの赤外線吸収スペクトルから、1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)と1650~1690cm-1における吸光度(DL)との最大吸光度比(Ds/DL)をそれぞれ算出する。
なお、赤外線吸収スペクトルから得られる1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)は、スルホン酸基含有ポリイミドに含まれるC-N間の伸縮振動に由来する1340~1360cm-1に現れるピークの高さをいう。
また、赤外線吸収スペクトルから得られる1650~1690cm-1における最大吸光度(Ds)は、スルホン酸基含有ポリイミドに含まれるC=O間の伸縮振動に由来する1650~1690cm-1に現れるピークの高さをいう。

【0038】
次に、3つの赤外線吸収スペクトルから算出された3つの吸光度比(Ds/DL)のうち最小値と最大値の2つを選択し、その比(最大値/最小値)を計算しその比が2.0以上である。なお、3つの吸光度比(Ds/DL)がすべて同一である場合は、上記比は1とする。
例えば、第1方向12から観察される高分子電解質10に対する赤外線吸収スペクトルから算出された吸光度比(Ds/DL)をR1とし、第2の方向から観察される高分子電解質10に対する赤外線吸収スペクトルから算出された吸光度比(Ds/DL)をR2とし、第3の方向から観察される高分子電解質10に対する赤外線吸収スペクトルから算出された吸光度比(Ds/DL)をR3とする。これらR1~R3のうち最小値と最大値の2つを選択して、その比率(最大値/最小値)を求める。例えば、R1>R2>R3の場合、最大値としてR1を、最小値としてR3を選択し、その比(R1/R3)を計算し、その値が2.0以上となる。
なお、上記比(最大値/最小値)の値としては、高分子電解質のプロトン伝導性がより優れる点で、3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、通常、5.0以下の場合が多い。

【0039】
本発明の高分子電解質中では、スルホン酸基含有ポリイミドは所定の方向に配向しており、構造的な異方性が生じている。そのため、上記3つの方向から赤外分光分析を行った場合、赤外線が照射される方向によってスルホン酸基含有ポリイミド中の各基の吸収特性が変わる。つまり、得られる赤外線吸収スペクトルの波形が異なる。
例えば、図2に示すように、高分子電解質10中においてスルホン酸基含有ポリイミド20がy軸方向に配向している場合、第1方向12および第3方向16より赤外分光分析を行って得られる赤外線吸収スペクトルはほぼ同じ波形を示す。一方、第2方向14より赤外分光分析を行って得られる赤外線吸収スペクトルにおいては、上記第1方向12および第3方向16とはスルホン酸基含有ポリイミド20中の官能基の振動方向が異なるため、その波形が第1方向12および第3方向16より赤外分光分析を行って得られる赤外線吸収スペクトルとは大きく異なる。
一方、高分子電解質中においてスルホン酸基含有ポリイミドが配向せず、ランダムな状態の場合、スルホン酸基含有ポリイミド中の各官能基は、いずれの方向にも平均して向いている。そのため、上記3つの方向から赤外分光分析を行ったとしても、各方向における吸収特性に差はなく、実質的に同じ波形の赤外線吸収スペクトルが得られる。
以上のように、高分子電解質中においてスルホン酸基含有ポリイミドが配向の程度が大きいほど、上記比率の値が大きくなる。

【0040】
本発明で用いられる赤外分光分析としては、ATR(Attenuated Total Reflectance)法赤外分光分析が使用される。
ATR法赤外分光分析とは、全反射吸収(Attenuated Total Reflectance)を利用する一回反射型ATR法により赤外吸収スペクトルを測定する分析方法である。この分析方法は、高い屈折率を持つATRプリズムを試料に密着させ、ATRプリズムを通して赤外線を試料に照射し、ATRプリズムからの反射光を分光分析する方法である。
ATR法赤外分光分析は、試料とATRプリズムとを密着させるだけでスペクトルを測定できるという簡便さ、深さ数μmまでの表面分析が可能であるなどの理由で高分子材料などの有機物をはじめ、種々の物質の表面分析に広く利用されている。
なお、本発明において、ATR法赤外分光分析は、Nicolet 6700、Thermo Fisher Scientific社を用いる。

【0041】
本発明の高分子電解質にはスルホン酸基含有ポリイミドが含まれるが、発明の効果を損なわない範囲で、他の成分(例えば、多孔質金属酸化物(例えば、ポーラスシリカ、ポーラスアルミナ)、金属酸化物粒子(例えば、コロイダルシリカ、酸化チタン粒子、チタン酸ストロンチウム粒子)が含まれていてもよい。

【0042】
(高分子電解質の製造方法)
上記高分子電解質の製造方法は特に制限されず、例えば、スルホン酸基含有ポリイミドに対して所定の配向処理を施す方法が挙げられる。一例としては、所定の方向に配向処理が施された配向膜上に、上記スルホン酸基含有ポリイミドを塗布することにより、配向膜に沿った方向にスルホン酸基含有ポリイミドを配向させることができる。
また、他の方法としては、スルホン酸基含有ポリイミドを延伸して配向させる方法もある。
さらに、他の方法としては、上述したように、スルホン酸含有ポリイミドをイオン交換樹脂と接触させた後、金属酸化物基材上にスルホン酸基含有ポリイミドを塗布して、所定の厚みの薄膜状の高分子電解質を形成する方法(以後、方法Xとも称する)も挙げられる。
以後、この方法Xの手順について詳述する。

【0043】
本発明者らは、上記スルホン酸含有ポリイミドをイオン交換樹脂と接触させた後、スルホン酸基含有ポリイミドを金属酸化物基材上に塗布することにより、スルホン酸基含有ポリイミドが配向することを見出している。
使用される金属酸化物基材中の金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
金属酸化物基材の表面の接触角は特に制限されないが、スルホン酸基含有ポリイミドがより配向される点で、50°以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。

【0044】
スルホン酸含有ポリイミドとイオン交換樹脂とを接触させる方法は、上述の通りである。
塗布する方法は特に制限されず、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法などの塗布法が挙げられる。
金属酸化物基材上に形成される塗膜の厚みは、1000nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましい。塗膜の厚みが厚すぎると、スルホン酸基含有ポリイミドの配向が十分でなくなる。
なお、塗膜の厚みの下限は特に制限されないが、製造上、10nm以上の場合が多い。

【0045】
(用途)
本発明の高分子電解質は、優れたプロトン伝導性を有し、プロトン伝導膜として好適に使用できる。その理由の詳細は不明であるが、上述したようにスルホン酸基含有ポリイミドが所定の方向に配向することにより、特にその配向方向にプロトンが伝導されやすくなると推測される。
本発明の高分子電解質は、種々の用途に適用可能である。例えば、体外循環カラム、人工皮膚などの医療用途、ろ過用用途、イオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途に適用可能である。また、人工筋肉としても好適である。なかでも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置などが挙げられるが、なかでも燃料電池が最も好ましい。
燃料電池のなかでも固体高分子型燃料電池に好適であり、これには水素を燃料とするものとメタノールなどの有機化合物を燃料とするものがあり、炭素数1~6の有機化合物およびこれらと水の混合物から選ばれた少なくとも1種を燃料とする直接型燃料電池に特に好ましく用いられる。炭素数1~6の有機化合物としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1~3のアルコール、ジメチルエーテルが好ましく、メタノールが最も好ましく使用される。
さらに、本発明の高分子電解質を使用した固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA、テレビ、ラジオ、ミュージックプレーヤー、ゲーム機、ヘッドセット、DVDプレーヤーなどの携帯機器、産業用などの人型、動物型の各種ロボット、コードレス掃除機等の家電、玩具類、電動自転車、自動二輪、自動車、バス、トラックなどの車両や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源、据え置き型の発電機など従来の一次電池、二次電池の代替、もしくはこれらとのハイブリット電源として好ましく用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
(合成例1)
3,3’-ビス(3-スルホプロポキシ)ベンジジン(3,3‘-bis(3-sulfopropoxy)benzidine)(0.46g)と1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(0.27g)とを混合し、そこにm-クレゾール(10ml)とトリエチルアミン(0.3ml)を加えた。得られた混合物をアルゴンガス雰囲気中で150℃に加熱し、5時間程度還流した。還流終了後、混合物を十分に空冷し、室温まで冷ました。
得られた混合物にアセトンを入れ氷冷することで沈殿物(スルホン化ポリイミドのトリエチルアミン誘導体)を析出させ、遠心分離を行うことで沈殿物を回収した。
次に、回収した沈殿物を適量の超純水に溶解させイオン交換樹脂(アンバーリスト31wet)に通すことでイオン交換を行い、トリエチルアミンを除去した。イオン交換後の水溶液を蒸発乾固させ、2-プロパノールで回収した。その後、得られた誘導体を減圧下で常温乾燥させ、以下構造式のスルホン酸基含有ポリイミド1(重量平均分子量40000)を合成した。
【実施例】
【0048】
【化6】
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【実施例】
【0049】
(合成例2)
1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(0.27g)の代わりに、4,4’-ビフタル酸無水物(0.29g)を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って、以下構造式のスルホン酸基含有ポリイミド2を合成した。
【実施例】
【0050】
【化7】
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【実施例】
【0051】
(合成例3)
1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(0.27g)の代わりに、ピロメリット酸無水物(ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物)(0.22g)を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って、以下構造式のスルホン酸基含有ポリイミド3を合成した。
【実施例】
【0052】
【化8】
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【実施例】
【0053】
(実施例1)
得られたスルホン酸基含有ポリイミド1(120mg)を水(0.4ml)とTHF(0.4ml)の混合溶液に溶解させ、プラズマ処理した石英上にスピンコート(300rpm、1分間)して高分子電解質膜(厚み:400nm)を製造した。
【実施例】
【0054】
次に得られた高分子電解質膜に対して、Nicolet 6700(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、図1に示すように、互いに直交する3方向から観察される高分子電解質膜に対して赤外分光分析を実施した。より具体的には、高分子電解質膜を立方体状に加工し、図1に示すように、各面に対して赤外分光分析を行った。得られた赤外線スペクトルを図3に示す。なお、図3においては、3方向をそれぞれx軸方向、y軸方向、z軸方向として記載する。
図3に示すように、x軸方向における赤外線吸収スペクトルは、他のy軸方向およびz軸方向の赤外線吸収スペクトルと波形が大きく異なっていた。図3より、1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)と1650~1690cm-1における最大吸光度(DL)との吸光度比(Ds/DL)を算出し、算出された3つの吸光度比(Ds/DL)のうち最小値であるx軸方向の吸光度比(Dx)と最大値であるy軸方向の吸光度比(Dy)を選択し、その比率(Dy/Dx)を計算したところ、4.7であった。
【実施例】
【0055】
(比較例1)
日立ハイテクノロジー製 錠剤成形器033-0023を用いて、合成例1で得られたスルホン酸基含有ポリイミド1の粉末(数ミリグラム)を1GPa程度の圧力で加圧して、直径2.5mmΦ、厚さ0.5mm程度に加圧成形して、サンプルを作製した。
なお、高分子電解質膜に対して、実施例1と同様の手順に従って、赤外分光分析を実施した。得られた赤外線スペクトルを図4に示す。図4に示すように、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向から測定して得られた赤外線吸収スペクトルは、ほぼ同じ波形をしていた。図4より、1340~1360cm-1における最大吸光度(Ds)と1650~1690cm-1における最大吸光度(DL)との吸光度比(Ds/DL)を算出し、算出された3つの吸光度比(Ds/DL)のうち最小値と最大値とを選択し、その比率(Dy/Dx)を計算したところ、1.1であった。
【実施例】
【0056】
(プロトン伝導度測定)
プロトン伝導率はSI1260と1296(ソーラトロン社)を用いてインピーダンス法により求めた。ペレット状サンプルでは両面に金ペーストと金線を用いて端子付して、疑似4端子法もしくは2端子法で測定した。基板上の膜については基板に平行方向に2端子法でインピーダンスを測定した。膜は電極を付ける前に4x10mm2程度に成形し、膜の両端をしっかり覆うように金ペーストを塗ることでそれを電極とした。湿度と温度管理については恒温恒湿器SH-221(エスペック社)を用いた。
図5に、実施例1で得られた高分子電解質膜の結果、および、比較例1でのペレット状サンプルの結果を示す。
【実施例】
【0057】
上記結果より、本発明の高分子電解質を用いるとより優れたプロトン伝導性が達成されることが確認された。
なお、合成例2および3で製造されたスルホン酸基含有ポリイミド2およびスルホン酸基含有ポリイミド3を上記スルホン酸基含有ポリイミド1の代わりに使用して高分子電解質膜を作製した場合も、スルホン酸基含有ポリイミド1と同様に、優れたプロトン伝導性が達成されることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
10 高分子電解質
12 第1方向
14 第2方向
16 第3方向
20 スルホン酸基含有ポリイミド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4