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明細書 :防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5842237号 (P5842237)
公開番号 特開2013-048812 (P2013-048812A)
登録日 平成27年11月27日(2015.11.27)
発行日 平成28年1月13日(2016.1.13)
公開日 平成25年3月14日(2013.3.14)
発明の名称または考案の名称 防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法
国際特許分類 A61B   5/01        (2006.01)
A62B  17/00        (2006.01)
FI A61B 5/00 101K
A62B 17/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2011-189457 (P2011-189457)
出願日 平成23年8月31日(2011.8.31)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 刊行物名:日本生理人類学会誌vol.16特別号(1)、第92~93ページ 発行人:日本生理人類学会第64回大会 大会長 栃原 裕 発行日:平成23年6月11日 研究集会名:日本生理人類学会第64回大会 主催者名: 日本生理人類学会 開催日: 平成23年6月12 文書の種類:OHP
審査請求日 平成26年6月2日(2014.6.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】高橋 直樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100078961、【弁理士】、【氏名又は名称】茂見 穰
審査官 【審査官】増渕 俊仁
参考文献・文献 特開2009-108451(JP,A)
特表2002-507904(JP,A)
特開2010-131209(JP,A)
特開2010-236780(JP,A)
特開2006-000174(JP,A)
米国特許出願公開第2005/0245839(US,A1)
調査した分野 A41D 13/00-13/12
A41D 20/00
A61B 5/00-5/01
A61B 5/06-5/22
A62B 7/00-33/00
特許請求の範囲 【請求項1】
防護服を着用して作業する作業員の鼓膜温を赤外線方式により検出する耳栓型鼓膜温測定センサ、実測した鼓膜温を、着用する防護服の被服条件、作業環境の温湿度条件、及び作業時の運動強度に応じて予め求めておいた予測式に入力して直腸温を予測する直腸温予測部とを具備し、その予測した直腸温に基づいて直腸温基準の熱中症の発症リスク管理を行うシステムの作動方法であって、前記予測式は、直腸温を目的変数とし、鼓膜温を説明変数として回帰分析を行うことで得られる、定数項有りの一次式であることを特徴とする防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法。
【請求項2】
防護服を着用して作業する作業員の鼓膜温を赤外線方式により検出する耳栓型鼓膜温測定センサと、心拍数を検出する心拍数センサ、実測した鼓膜温と心拍数を、着用する防護服の被服条件、作業環境の温湿度条件、及び作業時の運動強度に応じて予め求めておいた予測式に入力して直腸温を予測する直腸温予測部とを具備し、その予測した直腸温に基づいて直腸温基準の熱中症の発症リスク管理を行うシステムの作動方法であって、前記予測式は、直腸温を目的変数とし、鼓膜温及び心拍数を説明変数として重回帰分析を行うことで得られる、定数項有りまたは無しの一次式であることを特徴とする防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法。
【請求項3】
前記の予測した直腸温の直近の時間的な変化傾向から、防護服の脱装に要する時間経過後の直腸温を推測し、その推測した直腸温が警報設定値を超える時に作業中断・防護服脱装を指示し退域行動に移るように警報する請求項1又は2記載の防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、防護服を着用して作業に従事する作業員の熱中症の発症リスクを管理する方法に関し、更に詳しく述べると、作業者の鼓膜温から直腸温を予測し、また予測した直腸温の変化傾向から防護服の脱装に要する時間経過後の直腸温を推定して防護服着用作業員の熱中症発症リスクを管理するシステムの作動方法に関するものである。この技術は、特に原子力施設において防護服等を着用して作業する作業員の熱中症発症リスク管理に有用である。
【背景技術】
【0002】
原子力施設では、事故等の非常事態の発生時に限らず、設備機器等の健全性を維持するために定期的に実施される点検や保守作業、更には施設の解体・撤去などに際して、作業員の放射性物質による身体汚染を防止するために、防護服や呼吸防護具(マスク)が着用される。また、一般産業界等においても、人体に対して有害な化学物質等から身体を保護することを目的とした防護服(アスベスト防護服、農薬散布揚防護服、消防服など)の着用が行われている。
【0003】
一般に防護服は、通常の作業服(綿服等)に比べて通気性、透湿性が悪く、作業に伴う筋労作によって発生した熱や汗は防護服内に留まるため、防護服内の空気は飽和状態となり、体温を下げるために分泌された汗の蒸発は著しく妨げられる。その結果、汗は蒸発することなく体表面を流れ落ち、体温低下には殆ど寄与しない無効発汗状態となり、体温は下がることなく上昇し続ける。加えて、体内からは汗として水分及び塩(ミネラル)が一方的に失われていき、防護服を着用する作業員に大きな生理的負担を与える。更に呼吸防護具の着用は、呼吸抵抗を大きくし、活動に必要な酸素摂取を妨げると共に、作業中は常時呼吸防護具を着用し続けなければならず、汗として失われた水分や塩の補給を行うことがができない。
【0004】
周知のように、体液調節機能と体温調節機能は密接に関連しており、体液の状態変化は体温調節反応に大きな影響を及ぼす。とりわけ防護服を着用する作業では、作業に伴う肉体的な負荷に加えて、作業環境や衣服環境からの暑熱負荷も加わるため、作業員の熱中症の発症リスクは、通常作業に比べて著しく高まる問題がある。
【0005】
熱中症は、一般に、その兆候が見られてから短時間で重篤化し易いと言われている。通常の作業環境であれば、その兆候が見られた場合、速やかに水分等の補給や扇風機等を用いた積極的な体温冷却等の処置を講じることが可能であるが、とりわけ原子力施設においては、作業環境中に存在する放射性物質を所定の汚染コントロールエリアから外へと持ち出すことなく、且つ作業員の身体への汚染移行がないように入念な汚染確認を行いつつ、何重にも重ね着した防護服を1枚ずつ脱装することによって、徐々に汚染レベルを下げながら、汚染レベルの高い作業エリアから低い作業エリアへと移動し退域しなければならない。そのため、仮に身体的な不調を感じてから作業エリアからの退域行動を起こしても、基本的には直ぐには防護服を脱ぐことができず、所定の手順に従い作業エリアから退域したときには、既に熱中症が重篤化してしまう恐れがあった。
【0006】
従来、作業員の体調管理(熱中症管理)は、専ら作業員の自己申告(主観的な情報)と時間管理を併用することによって行われてきたが、そのような本人の自己申告のみに頼った作業管理では、作業員が暑熱環境から受ける負荷等に起因する体調の変化を見逃す恐れがあった。
【0007】
ところで通気性・透湿性が悪い衣服を着用して作業を行う場合、暑熱負担の生理学的モニタリングとして、米国ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists )では、深部体温等の測定が提唱されている。ここで言う深部体温とは直腸温のことである。作業員の熱中症発症リスクをモニタリングする上での指標として、直腸温が暑熱順応者で38.5℃以上、非順応者で38℃以上である時、過剰な暑熱負担の下にあると判断するとの基準がある。
【0008】
このような基準に基づき、防護服を着用する作業員を熱中症の危険から守るための警告を発する装置として、防護服着用作業員のための熱中症警告装置が提案されている(特許文献1参照)。ここでは深部体温を測定するセンサの具体的な型式は特に規定されていないが、正確に深部体温を測定しようとすると、直腸温測定用プローブを直腸内へ挿入・留置しておかねばならない。しかし、直腸温を定常的に測定することは、実験室レベルでは可能であっても、実際の作業現場では、作業員への精神的・肉体的な負担が大きく、作業員の同意を得ることが難しいこともあって、極めて困難である。
【0009】
他方、防護服着用を前提としない建設現場などのような一般的な作業環境での使用を想定したものとして、耳栓型の個人熱中症警報装置が開発されている(特許文献2参照)。ここでは、深部体温の測定に鼓膜温センサを用いている。鼓膜温は、体温調節中枢である視床下部へと灌流する血流温を反映すると言われており、外耳道内に向けたサーモパイルで測定することができる。
【0010】
このような耳栓型の鼓膜温センサであれば、実際の作業現場でも、作業員への精神的・肉体的な負担は小さく、測定に際して作業員の同意を得ることも容易である。しかし、鼓膜温は環境温度に左右されやすいなどの問題があり、鼓膜温を正確に計測しても、その値をもって直ちに深部体温(直腸温)とすることはできない。特に、防護服着用作業員の熱中症の発症リスク管理では、経時的に深部体温(直腸温)を正確に求め続けることができなければ、作業員の安全と作業効率の向上は望めない。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2009-108451号公報
【特許文献2】特開2010-13129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、作業員にかかる負担を最小限に抑えつつ、防護服を着用する作業員の熱中症に対する安全の確保と作業効率の向上という相反する要求を同時に満たすことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、防護服を着用して作業する作業員の鼓膜温を赤外線方式により検出する耳栓型鼓膜温測定センサ、実測した鼓膜温を、着用する防護服の被服条件、作業環境の温湿度条件、及び作業時の運動強度に応じて予め求めておいた予測式に入力して直腸温を予測する直腸温予測部とを具備し、その予測した直腸温に基づいて直腸温基準の熱中症の発症リスク管理を行うシステムの作動方法である。ここで前記予測式は、直腸温を目的変数とし、鼓膜温を説明変数として回帰分析を行うことで得られる、定数項有りの一次式とする。
【0014】
また本発明は、防護服を着用して作業する作業員の鼓膜温を赤外線方式により検出する耳栓型鼓膜温測定センサと、心拍数を検出する心拍数センサ、実測した鼓膜温と心拍数を、着用する防護服の被服条件、作業環境の温湿度条件、及び作業時の運動強度に応じて予め求めておいた予測式に入力して直腸温を予測する直腸温予測部とを具備し、その予測した直腸温に基づいて直腸温基準の熱中症の発症リスク管理を行うシステムの作動方法である。ここで前記予測式は、直腸温を目的変数とし、鼓膜温及び心拍数を説明変数として重回帰分析を行うことで得られる、定数項有りまたは無しの一次式とする。
【0015】
これらにおいて、前記の予測した直腸温の直近の時間的な変化傾向から、防護服の脱装に要する時間経過後の直腸温を推測し、その推測した直腸温が警報設定値を超える時に作業中断・防護服脱装を指示し退域行動に移るようにする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法は、作業員の鼓膜温を赤外線方式による耳栓型鼓膜温測定センサで検出し、必要に応じて心拍数を心拍数センサで検出し、実測した鼓膜温または鼓膜温と心拍数を、着用する防護服の被服条件、作業環境の温湿度条件、及び作業時の運動強度に応じて予め求めておいた予測式に入力して直腸温を予測するので、深部体温(直腸温)を正確に求めることができる。そして、予測した直腸温に基づいて直腸温基準で熱中症の判断をするので、適切な発症リスク管理を行うことができる。この管理方法は、直腸温を直接測定しなくてもよいので、実際の作業現場でも、作業員への精神的・肉体的な負担が小さくて済む利点がある。
【0017】
更に、予測した直腸温によって該直腸温の直近の時間的な変化傾向から防護服の脱装に要する時間経過後の直腸温を推測し、その推測した直腸温が警報設定値を超える時に作業中断・防護服脱装を指示し退域行動に移るようにするので、退域行動ための時間的余裕が確保でき、熱中症が重篤化する前に全ての防護服を脱装し、作業エリアから退域することができる。このため、防護服を着用して作業する作業員の安全を確保できると共に、確実な熱中症発症リスク管理によって作業時間を延長でき、作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】作業中における直腸温と鼓膜温の推移を示す説明図。
【図2】鼓膜温による作業管理が作業効率の低下に及ぼす影響を示す説明図。
【図3】直腸温(予測値)に基づく作業管理の説明図。
【図4】15分後の直腸温予測手法の説明図。
【図5】不織布スーツ着用時における直腸温予測値と実測値の比較結果。
【図6】ビニールスーツ着用時における直腸温予測値と実測値の比較結果。
【図7】不織布スーツ着用時の15分後の直腸温予測値と実測値の比較結果。
【図8】ビニールスーツ着用時の15分後の直腸温予測値と実測値の比較結果。
【発明を実施するための形態】
【0019】
鼓膜温と直腸温との間に相関性があることは周知である。本発明者等の研究によれば、図1に示すように、安静時~運動初期における鼓膜温(鼓膜温の変化を符号10で示す)は直腸温(直腸温の変化を符号12で示す)よりも低い値を示すが、運動中期~後期における鼓膜温は直腸温よりも高い値を示すとの知見が得られており、作業中の熱中症のリスク管理に必要な体温として、実測された鼓膜温を既存の直腸温に基づく管理基準に照らし合わせて管理ことにより、安全サイドの管理(直腸温<鼓膜温であるため)が行える見通しが得られ、実際の現場における管理において運用されている。

【0020】
しかし、上述のように、実測された鼓膜温は、運動中期~後期にかけて、その時の直腸温よりも高い値を示しており、実測された鼓膜温を既存の直腸温基準に照らし合わせて管理した場合、実際の直腸温は警報設定値には達していないにも関わらず、鼓膜温が警報設定値に達した時点で作業を軽減したり、中断しなければならない(図2参照)。このような管理手法は、安全性という観点ではより保守的に管理できるものの、作業効率という観点では、実際には作業を継続できるにも関わらず、鼓膜温が警報設定値を超えたが故に作業を中断等しなければならないため、作業効率(実働時間)を低下(短縮)させてしまうことになる。もし、図3に示すように、直腸温が警報設定値を超える時点で作業終了となれば、作業時間を延長でき作業効率は向上することになる。

【0021】
本発明は、作業効率を低下させることなく、しかも安全性を担保することを目的に、実測された鼓膜温からその時の直腸温を予測し、その予測された直腸温を既存の直腸温基準に照らし合わせて管理することによって、安全性と作業効率と言った相反する課題の解決を図ったものである。

【0022】
実際には、原子力施設において一般的に着用される防護服を着用し、空調管理されていない施設における夏場の現場環境(気温:30℃/湿度:50%)及び空調管理されている施設の現場環境(気温:25℃/湿度:50%)を想定し、標準的な作業負荷に相当する運動(歩行運動)を行った際の鼓膜温(及び心拍数)と直腸温を同時に計測して、鼓膜温(及び心拍数)から直腸温を予測するための予測式の算出を行った。具体的には、鼓膜温と同様に防護服の着用(作業及び防護服内の温熱環境)によって影響を受ける心拍数について、直腸温(真値)を目的変数とし、鼓膜温及び心拍数を説明変数として重回帰分析を行い予測式を作成した。また、心拍数については考慮せず、予測式を直腸温(真値)を目的変数とし、鼓膜温を説明変数として回帰分析を行い予測式を作成した。その後、作成された予測式の妥当性を評価したところ、実測された鼓膜温からその時の直腸温を±0.1℃(直腸温の測定に使用したセンサの精度と同様)の精度で予測でき、実測された直腸温と予測された直腸温との標準偏差(真値からのバラつき)もほぼ±0.1℃と極めて高い精度と正確さをもって予測可能であることが実証された。

【0023】
本発明は、防護服を着用して作業する作業員の鼓膜温を赤外線方式による耳栓型鼓膜温測定センサで検出し、必要に応じて心拍数も心拍数センサで検出し、実測した鼓膜温(及び心拍数)を、着用防護服の被服条件、作業環境の温湿度条件、及び作業時の運動強度に応じて上記のようにして予め求めておいた予測式に入力して直腸温を予測し、予測した直腸温に基づいて直腸温基準の熱中症の発症リスク管理を行う防護服着用作業員の熱中症発症リスク管理システムの作動方法である。ここで前記予測式は、例えば、直腸温を目的変数とし、鼓膜温(及び心拍数)を説明変数として(重)回帰分析を行うことで得られる、定数項有りまたは無しの一次式とするか、あるいは直腸温を目的変数とし、鼓膜温を説明変数として回帰分析を行うことで得られる、定数項有りの一次式とする。


【0024】
このようにして得られる、鼓膜温等から直腸温を高い精度と正確さで予測可能な予測式は、作業中の熱中症の発症リスクの高まりを検知し、作業管理に用いることができる。

【0025】
更に、予測された直腸温から直近の所定時間(例えば5分間)の直腸温(予測値)を基に上昇率を算出し、その時点から防護服の脱装に要する時間(例えば15分)経過後に到達するであろう直腸温を推測し、その推測した直腸温を管理基準に照らし合わせ警報設定値を超える時に作業中断・防護服脱装を指示し退域行動に移るようにすることで、リスクを先取りした管理を行うことが可能となる。前述のように、原子力施設においては、防護服を脱ぐ際に、その表面に付着した核燃料物質が飛散・拡散しないように入念に汚染確認を行いながら、重ね着した防護服を1着ずつ脱がなければならない。そのため、作業を終了したからと言って直ぐにはすべての防護服を脱ぐことはでず、汚染確認を行い、全ての防護服を脱ぎ終わり、作業エリアから退域するまでには15分程度はかかってしまう。図4に示すように、所定時間(例えば15分)後の到達するであろう直腸温を高い精度と正確さで予測することができるので、本発明によって、防護服脱装時における熱中症の発症リスクを含めた総合的な作業管理方法を確立することが可能となる。
【実施例】
【0026】
被験者に、原子力施設において一般的に着用される防護服を着用させ、実際の作業環境における代表的な温湿度環境において、原子力施設における平均的な作業負荷(RMR2~3相当)を模擬した運動を行わせ、鼓膜温と直腸温を測定した。また、同時に心拍数も測定した。
【実施例】
【0027】
測定条件及び測定計器は、次の通りである。
・被服条件(2条件)
(a)基本的な作業服である綿つなぎ服の上に、不織布製防護服(タイベックスーツ:商品名)2重を着用(以下、この被服条件を「不織布スーツ」と略記する)
(b)基本的な作業服である綿つなぎ服の上に、不織布製防護服2重、更にビニール製スーツ1重を着用(以下、この被服条件を「ビニールスーツ」と略記する)
・温湿度条件(2条件)
25℃/50%及び30℃/50%
・運動条件(1条件)
トレッドミルによる平地歩行運動(歩行速度:4km/h)
・測定計器
直腸温の測定…直腸温測定用のサーミスタプローブ
鼓膜温の測定…赤外線方式による耳栓型鼓膜温測定センサ
心拍数の測定…心拍数センサ
【実施例】
【0028】
防護服を着用した作業員の鼓膜温は直腸温と強い相関を有していることから、上記の条件で歩行運動を行った際に実測された直腸温Treを「目的変数」とし、同時に測定された鼓膜温Ttyと心拍数HRを「説明変数」として重回帰分析(一次式、定数項あり・なし)を行うことにより、直腸温(予測値Tca)の予測式の作成を試みた。また、実測された直腸温Treを「目的変数」とし、同時に測定された鼓膜温Ttyを「説明変数」として回帰分析(一次式、定数項あり・なし)を行うことにより、直腸温(予測値Tca)の予測式の作成を試みた。
【実施例】
【0029】
作成した予測式を用いて得られた鼓膜温等からの直腸温(予測値)と実測値との比較結果を図5~図6に示す。図5は不織布スーツ着用時であり、Aは25℃/50%、Bは30℃/50%の場合の結果である。図6はビニールスーツ着用時であり、Aは25℃/50%、Bは30℃/50%の場合の結果である。
【実施例】
【0030】
作成した予測式に基づき算出された直腸温(予測値)と実測された直腸温(真値)との単相関係数は、いずれの条件においても、0.98~0.99と非常に強い相関を有しており、作成された予測式は直腸温を良く反映していることが分かった。
【実施例】
【0031】
鼓膜温と心拍数を説明変数とした重回帰分析による予測式では、作成された予測式の係数のうち、不織布スーツ・25℃の定数項ありの場合を除いて、心拍数の係数がマイナス符号となる多重共線性が発現していた。これは、直腸温の上昇に伴い、鼓膜温は上昇するものの心拍数は減少することを意味する予測式になっており、運動生理学上の理論とは相反するものである。しかし、全体的な傾向として、予測式から算出された予測値は、定数項の有無に関わらず実測値と概ね直腸温測定用サーミスタプローブの測定誤差の範囲(±0.1℃)内に収まっており、作成された予測式は鼓膜温及び心拍数から直腸温を高い正確度で予測可能であることが分かった。以上のことから、作成された予測式に多重共線性が発現していることを承知の上で使用するのであれば、定数項の有無に関わらず、作業員の熱中症管理が可能である。
【実施例】
【0032】
鼓膜温を説明変数とした回帰分析による予測式では、全体的な傾向として、定数項がない予測式から算出された予測値は、実測値に比べて同等若しくは高めに算出されるとともに、作業の進捗に伴い直腸温測定用サーミスタプローブの測定誤差の範囲(±0.1℃)からマイナス方向に外れていく傾向にあり、安全性を確保するという点では優れているものの、作業効率を低下させてしまうことが分かった。定数項がある予測式から算出された予測値においては、定数項がない場合と類似した傾向があるものの、予測値は、概ね直腸温測定用サーミスタプローブの測定誤差の範囲内に収まっており、定数項のある予測式の方が定数項のない予測式に比べてより高い正確度を有していることが分かった。
【実施例】
【0033】
以上のことから、鼓膜温及び心拍数の両方を変数としなくても、鼓膜温のみを変数とする定数項有りの予測式で、十分な正確度と精度で直腸温を予測することが可能であり、安全性を確保しつつ作業効率を損なうことなく、合理的に作業管理が可能であることが分かった。
【実施例】
【0034】
このようにして最終的に得られた予測式は次の通りである。
・不織布スーツ・25℃/50% :Tca=0.72Tty+10.55
・不織布スーツ・30℃/50% :Tca=0.88Tty+4.34
・ビニールスーツ・25℃/50%:Tca=0.88Tty+4.59
・ビニールスーツ・30℃/50%:Tca=0.88Tty+4.47
【実施例】
【0035】
上記の予測式が、体型・年代・運動習慣等に関わらず広く適用できることの可否、予測値と実測値との誤差(精度)及び予測の正確さについて評価・検証するため、予測値の作成時とは異なる被験者について、予測式の検証試験を実施した。実測された鼓膜温を、上記の予測式に入力することによって算出した直腸温(予測値)と実測された直腸温(真値)を比較したところ、その予測値はいずれの条件(被服・環境条件)においてもほぼ直腸温測定用サーミスタプローブの測定誤差(±0.1℃)の範囲内で予測でき、実測された直腸温(真値)に対する直腸温(予測値)との標準偏差も小さかった。このことから、直腸温を実測しなくても、より簡便に測定することが可能な鼓膜温を測定することによって直腸温を高い精度と正確さをもって予測することが可能となり、防護服を着用して作業に従事する作業員の熱中症発症リスク管理を行う上で鼓膜温の測定が有効であることが分かった。
【実施例】
【0036】
また上記のように、鼓膜温から直腸温を高い精度と正確さで予測可能な予測式は、作業中の熱中症の発症リスクの高まりを検知し、作業管理に用いることができるだけでなく、予測された直腸温から、例えば直近5分間の直腸温(予測値)を基に上昇率を算出し、防護服の脱装に要する時間(例えば15分)後に到達するであろう直腸温を予測し、その値を既存の管理基準に照らし合わせることで、リスクを先取りした総合的な作業管理を行うことが可能となる。従って、図4に示すように、1分当たりの直腸温上昇率が一定であると仮定し、直近5分間の移動平均より1分当たりの直腸温上昇率を算出し、15分後の直腸温予想値が警報設定値を超えるとすると、その時点で作業中断と防護服脱装を指示する。作業員は、放射性物質による汚染のある作業場所で2重目の防護服を脱装し、防護服脱装・汚染検査場所に移動して全身の汚染検査と汚染の固定等を行い、1重目の防護服を脱装し、更に汚染検査場所に移動して全身の汚染検査を行い、汚染がなければ汚染コントロールエリアを出て全身の汚染検査(最終確認)を行う。このように2重目防護服脱装から最終の汚染検査までに要する時間が通常15分程度であるから、作業員の直腸温が警報設定値に達した時には汚染コントロールエリアからの退域がすでに完了しており、熱中症の発症を回避できることになる。
【実施例】
【0037】
15分後の予測値と実測値との比較を、図7~図8に示す。図7は不織布スーツ着用時であり、Aは25℃/50%、Bは30℃/50%の場合の結果である。図8はビニールスーツ着用時であり、Aは25℃/50%、Bは30℃/50%の場合の結果である。これらの比較結果から、直近5分間の直腸温(予測値)を基に上昇率を算出し、それに基づき15分後に到達するであろう直腸温を予測して、その値を既存の管理基準に照らし合わせることで、熱中症の発症リスクを管理する手法は、作業員の安全性の確保と作業効率の向上を両立させることができ、極めて有効な作業管理方法であることが実証された。
【実施例】
【0038】
ところで、鼓膜温は外気の影響を受けやすく、直腸温に代わる核心温として使用することに関しては議論の余地はある。しかし、原子力施設のように放射性物質の体内への取り込みや防護服内への侵入を防ぐため、全面マスクを着用した上に全身を覆うタイプの防護服を着用し、防護服と全面マスクの境界部や全ての開口部をテープ等で完全に目張りを行う場合には、防護服内の環境は外気と遮断される上に、耳栓型鼓膜温測定センサは外耳道内への常時装着が可能であり、外気が外耳道内へと流入することなく断熱できるために、外耳道内の環境は外気の影響を受けることなく鼓膜温とほぼ均熱となり、安定した鼓膜温測定が可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 鼓膜温の変化を示す曲線
12 直腸温の変化を示す曲線
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7