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明細書 :細胞遊走調節剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5791022号 (P5791022)
公開番号 特開2012-126652 (P2012-126652A)
登録日 平成27年8月14日(2015.8.14)
発行日 平成27年10月7日(2015.10.7)
公開日 平成24年7月5日(2012.7.5)
発明の名称または考案の名称 細胞遊走調節剤
国際特許分類 A61K  38/36        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P  17/02        (2006.01)
A61P  35/04        (2006.01)
C07K  14/745       (2006.01)
FI A61K 37/46
A61P 9/10 101
A61P 17/02
A61P 35/04
C07K 14/745 ZNA
請求項の数または発明の数 11
全頁数 21
出願番号 特願2010-276777 (P2010-276777)
出願日 平成22年12月13日(2010.12.13)
審査請求日 平成25年10月2日(2013.10.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】日臺 智明
【氏名】北野 尚孝
【氏名】真宮 淳
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】佐々木 大輔
参考文献・文献 Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol., 2002, Vol.282, pp.H1924-H1932
Genes Dev., 1998, Vol.12, No.1, pp.21-33
Endocrinology, 2010 Apr, Vol.151, No.4, pp.1732-1742
Gastroenterology, 2004, Vol.126, No.4, Suppl.2, pp.A65-A66
J. Biol. Chem., 2002, Vol.277, No.5, pp.3622-3631
日小血会議, 2007, Vol.21, pp.53-61
調査した分野 A61K 38/00-38/58
A61K 41/00-45/08
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
血液凝固第9因子の軽鎖からなるペプチド、又はその塩を含むことを特徴とする、細胞遊走促進剤。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のペプチド、あるいはその塩を含むことを特徴とする、細胞遊走促進剤。
(a) 配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b) 配列番号6に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞遊走促進活性を有するペプチド。
【請求項3】
血液凝固第9因子の全長、若しくは血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメインを除いた部分からなるペプチド、又はその塩を含むことを特徴とする、細胞遊走抑制剤。
【請求項4】
以下の(a)、(b)又は(c)のペプチド、あるいはその塩を含むことを特徴とする、細胞遊走抑制剤。
(a) 配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞遊走抑制活性を有するペプチド。
(c) 配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、細胞遊走抑制活性を有するペプチド。
【請求項5】
被験非ヒト動物に請求項1又は2記載の促進剤を投与することを特徴とする、細胞遊走促進方法。
【請求項6】
被験非ヒト動物に請求項3又は4記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞遊走抑制方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載の促進剤を用いることを特徴とする、培養細胞の展開促進方法。
【請求項8】
請求項3又は4記載の抑制剤を用いることを特徴とする、培養細胞の上皮様配列保持方法。
【請求項9】
請求項1又は2記載の促進剤を含む、細胞の展開促進用組成物。
【請求項10】
請求項3又は4記載の抑制剤を含む、細胞の上皮様配列保持用組成物。
【請求項11】
細胞が培養細胞である、請求項9又は10記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞遊走調節剤等に関する。詳しくは、細胞遊走能を促進又は抑制し得るペプチドを含む細胞遊走調節剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、凝固反応の過程で凝固第11因子(F11)により2つの断片(重鎖、軽鎖)等に切断されることで活性化され、凝固反応を促進する。F9において、凝固因子としての機能を有する重要な部分はC末端側(重鎖)のトリプシンドメインであり、N末端側(軽鎖)の機能についてはよく知られていなかった。
血液凝固により生じる血栓は、凝固因子を含む種々のタンパク質から構成される。これまで、血栓内に新生血管が形成されやすいことや、血栓形成の認められる癌患者において癌転移率が高いことが確認されているが(例えば、非特許文献1参照。)、その機序や主要分子については未だ一定の結論が出ていない。血栓と癌転移との関係が統計的に明らかにされたことで、抗凝固剤を投与することにより癌転移を抑制しようという試みがなされ、癌転移の有意な抑制が確認された。しかしながら、抗凝固剤の使用は出血の危険を伴うため、使用量には限界があった。また、経験的には有効であっても、機序が不明であるため、広く普及するには至っていない。
【0003】
ところで、細胞遊走は、人体の生命活動において必須の現象であり、人体で起こる広範な現象に関与するものであるが、同時に、癌の転移等の好ましくない結果も引きこすことが知られている。また、細胞遊走が関与する他の現象としては、血管新生や、創傷の治癒等が知られている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Gerotziafas GT et al., Clinical studies with anticoagulants to improve survival in cancer patients. Pathophysiol Haemost Thromb., 2008, vol. 36(3-4), p. 204-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、細胞遊走の促進又は抑制を行うことができる細胞遊走調節剤、細胞遊走調節方法、及び当該調節剤を含む医薬組成物等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、細胞遊走調節剤(例えば、細胞遊走促進剤、細胞遊走抑制剤)、細胞遊走調節方法(例えば、細胞遊走促進方法、細胞遊走抑制方法)、当該調節剤を含む医薬組成物(血管新生促進用、創傷又は潰瘍治療用、癌転移抑制又は阻害用、あるいは血管新生抑制又は阻害用の医薬組成物)、並びに、細胞の展開促進方法、細胞の上皮様配列保持方法、細胞の展開促進用組成物、及び細胞の上皮様配列保持用組成物等を提供するものである。
【0007】
(1)血液凝固第9因子の全長、血液凝固第9因子の全長からトリプシンドメインを除いた部分、血液凝固第9因子の軽鎖、若しくは血液凝固第9因子のEGF1ドメイン、又は内皮細胞遺伝子座-1タンパク質のEGF3ドメインを含むペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞遊走調節剤。
(2)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞遊走調節剤。
(a) 配列番号2、4、6、8若しくは12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号2、4、6、8若しくは12に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞遊走調節活性を有するペプチド。
【0008】
(3)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞遊走促進剤。
(a) 配列番号6、8若しくは12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号6、8若しくは12に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞遊走促進活性を有するペプチド。
(4)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩を含むことを特徴とする、細胞遊走抑制剤。
(a) 配列番号2、4、8若しくは12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 配列番号2、4、8若しくは12に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞遊走抑制活性を有するペプチド。
【0009】
(5)被験動物に請求項1又は2記載の調節剤を投与することを特徴とする、細胞遊走調節方法。
(6)被験動物に請求項3記載の促進剤を投与することを特徴とする、細胞遊走促進方法。
(7)被験動物に請求項4記載の抑制剤を投与することを特徴とする、細胞遊走抑制方法。
【0010】
(8)請求項1又は2記載の調節剤を含む、医薬組成物。
(9)請求項3記載の促進剤を含む、血管新生促進用医薬組成物。
(10)請求項3記載の促進剤を含む、創傷又は潰瘍治療用医薬組成物。
(11)請求項4記載の抑制剤を含む、癌転移抑制又は阻害用医薬組成物。
(12)請求項4記載の抑制剤を含む、血管新生抑制又は阻害用医薬組成物。
【0011】
(13)請求項3記載の促進剤を用いることを特徴とする、細胞の展開促進方法。
(14)請求項4記載の抑制剤を用いることを特徴とする、細胞の上皮様配列保持方法。
上記(13)及び(14)の方法において、細胞としては、例えば培養細胞が挙げられる。
(15)請求項3記載の促進剤を含む、細胞の展開促進用組成物。
(16)請求項4記載の抑制剤を含む、細胞の上皮様配列保持用組成物。
上記(15)及び(16)の組成物において、細胞としては、例えば培養細胞が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞遊走の促進又は抑制を行うことができる細胞遊走調節剤、例えば、細胞遊走促進又は抑制剤を提供することができる。
本発明の細胞遊走調節剤は、例えば、血管新生を促進する、創傷又は潰瘍を治療する、癌転移を抑制又は阻害する、あるいは血管新生を抑制又は阻害するための医薬組成物に用い得る点で、医学及び薬学の分野に応用可能であり、極めて有用なものである。
また、本発明の細胞遊走調節剤は、細胞遊走の促進により細胞(特に培養細胞)の展開を促進したり、細胞遊走の抑制により細胞(特に培養細胞)の上皮様配列の保持することにも有効に用い得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】血液凝固第9因子(F9)を構成するアミノ酸配列上の構造を示す図である。図中の番号(例えば140-1414)は、塩基番号であり、F9の各アミノ酸配列領域に対応する、F9の塩基配列(配列番号13;GenBankアクセッション番号:AK149372)中の領域を示すものである。F9(140-1414)は、F9の全長(定義は後述する)からなるペプチド(配列番号2)であり、F9(140-709)は、F9の全長からトリプシンドメイン(すなわちF9の重鎖)を除いた部分からなるペプチド(配列番号4)であり、F9(140-574)は、F9の軽鎖からなるペプチド(配列番号6)であり、F9(290-391)は、F9のEGF1ドメイン(F9-E1)からなるペプチド(配列番号8)である(以下、本明細書及び図面において同様。)。
【図2】Wound healing assayの結果を示す図である。A:SCCKN細胞(口腔扁平上皮癌由来の細胞株)について行った結果である。陰性コントロール(NC:APのみ)に比較して、F9(140-1414)とF9(140-709)は遊走を約20%抑制し、F9(140-574)とF9(290-391)は遊走能を約50%促進させた。B:上記Aの結果を示す写真である。馴化培地(conditioned medium)を加えて6時間後の細胞であり、左図・陰性コントロール(NC:APのみ)、右図・F9(140-574)である。コントロールと比較して、細胞同士が離れており、配列も変化している(写真内のスケールバーは100μm)。C:同様のassayを、Cos細胞(サル腎由来細胞株)(左図)、P5細胞(マウス血管内皮由来細胞株)(右図)についても行い、同様の結果を得た。なお、図2A~C中の番号及び表記(例えば140-1414、及びF9(140-1414))は図1と同様の意味である。
【図3】Boyden chamber assayの結果を示す図である。A:遊走したSCCKN細胞の様子を示す。青く染まっているのは遊走して穴に入り込んだ細胞であり、白く見えるのは、細胞が入り込んでいない穴である(写真内のスケールバーは10μm)。B:上記Aの結果等を示すグラフである。コントロール(NC:APのみ)に比較して、F9(140-1414)とF9(140-709)は遊走を約25%抑制し、F9(140-574)、F9(290-391)は遊走能を約80%促進させた。C:同様のassayをCos細胞を用いても行い、同様の結果を得た。なお、図3A~C中の番号及び表記(例えば140-1414、及びF9(140-1414))は図1と同様の意味である。
【図4】血液凝固第9因子(F9)のEGF1ドメイン(F9-E1)の構造と、内皮細胞遺伝子座-1(Del-1;developmentally endothelial locus-1)タンパク質のEGF3ドメイン(Del1-E3)の構造との相同性を示す図である。A:Del-1の構造上のDel1-E3の位置を示す。B:Del1-E3(図中ではmDel1)とF9-E1(図中ではmF9)との相同性を示す。図中の番号(134, 145, 108, 119)は、Del-1(配列番号10)又はF9(配列番号14)中のアミノ酸残基の番号を表す。
【図5】Wound healing assayの結果を示す図である。A:陰性コントロール(NC;CAT(chloramphenicol acetyl transferase)タンパク質)に比較し、Del1-E3(図中ではE3)を1 ng/mlの濃度で添加すると遊走能が促進されたが、100 ng/mlでは逆に抑制された。B:組み換えタンパク質(Del1-E3)を加えて24時間後の細胞の状態である(写真内のスケールバーは100μm)。陰性コントロールに比較し、1 ng/mlのDel1-E3(図中ではE3)を添加した群では、細胞が遠くまで到達し、細胞間に隙間が広がっていた(遊走能が促進された)が、100 ng/mlのDel1-E3を添加した群では、細胞の移動距離は短く、細胞の突起の先が細かく分かれて縮んでいる(遊走能が抑制されている)様子が見られた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

【0015】

1.本発明の概要
本発明者は、これまで止血凝固に寄与するだけのタンパク質として考えられてきた凝固第9因子(F9)には、他にも重要な機能があることを見出した。具体的には、F9の軽鎖、特にF9の第一EGF(EGF1;上皮増殖因子)ドメイン(F9-E1)に、細胞の遊走能を促進させる活性があることを発見した。この促進活性は、F9が凝固反応の過程で凝固第11因子(F11)により軽鎖と重鎖等に切断されたとき(すなわち、凝固因子として活性化されたとき)に現れるものであった。
また、本発明者は、F9-E1と類似のアミノ酸配列を有する内皮細胞遺伝子座-1(Del-1;developmentally endothelial locus-1)タンパク質の第三EGF(EGF3)ドメイン(Del1-E3)にも、同様に、効果的な細胞遊走能の促進活性があることを発見した。従来、Del-1遺伝子を虚血モデル動物に導入することにより、血管新生を促進することが知られていたが、その程度は不十分であった。この遺伝子治療の効果は、血管新生療法の標準となっている血管内皮細胞増殖因子(VEGF)による治療に及ぶものではなく、また、どのようなメカニズムで血管新生が進むのかが解明されていなかったため、それ以上の技術発展は不可能と考えられていた。また、Del-1は細胞外基質に沈着する不溶性タンパク質であり、Del-1全長については不溶性のために製剤化が困難であった。よって、Del-1全長のうち特にDel1-E3に優れた血管新生促進活性があることを見出したことは、上記遺伝子治療の効果を高めることになり、またDel1-E3はF9-E1と同様に可溶性であるため製剤化も容易となる。

【0016】
他方、凝固因子として活性化される前のF9全長には、細胞の遊走能を抑制するという、全く逆の機能があることも発明した。この細胞遊走能の抑制活性は、F9全長からトリプシンドメイン(すなわちF9の重鎖)を除いた部分についても認められた。
さらに、本発明者は、上記促進活性を有するF9-E1及びDel1-E3については、低濃度では細胞遊走能を促進させるが、高濃度ではむしろ細胞遊走能を抑制することを明らかにした。つまり、F9-E1及びDel1-E3は、使用濃度によって細胞遊走能を調節できるものであることを見出した。
ところで、前述した通り、細胞の遊走は、哺乳動物、特に人体にとって必須の現象であり、生体内で起こる広範な現象に関与している。例えば、血管新生や、創傷又は潰瘍の治癒過程、癌細胞の転移などが挙げられる。よって、前述した細胞遊走能の調節(促進又は抑制)により、血管新生療法(例えば、心筋梗塞や脳梗塞等の動脈硬化性虚血に対する該療法)、創傷及び潰瘍の治療、癌転移の抑制又は阻害、並びに、血管新生の抑制又は阻害等を効果的に行うことができる。
また、本発明者は、細胞の遊走を促進することにより細胞(特に培養細胞)の展開を促進したり、あるいは細胞の遊走を抑制することにより細胞(特に培養細胞)の上皮様配列を保持することも効果的に行うことができることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものである。

【0017】

2.細胞遊走調節剤
本発明の細胞遊走調節剤(以下、本発明の調節剤という。)は、先に述べた通り、(i) 血液凝固第9因子(F9)の全長を含むペプチド、(ii) F9の全長からトリプシンドメイン(すなわちF9の重鎖)を除いた部分を含むペプチド、(iii) F9の軽鎖を含むペプチド、若しくは(iv) F9のEGF1ドメイン(F9-E1)を含むペプチド、又は(v) 内皮細胞遺伝子座-1(Del-1)タンパク質のEGF3ドメイン(Del1-E3;EGF類似ドメインのうちの一つ)を含むペプチドを含むものである。
好ましくは、本発明の調節剤は、(i) F9の全長からなるペプチド、(ii) F9の全長からトリプシンドメイン(すなわちF9の重鎖)を除いた部分からなるペプチド、(iii) F9の軽鎖からなるペプチド、若しくは(iv) F9-E1からなるペプチド、又は(v) Del1-E3からなるペプチドを含むものである。
ここで、本発明における、F9の全長とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全体のアミノ酸配列(配列番号14;GenBankアクセッション番号:BAE28840)から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)を意味する。当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分は、配列番号14に示されるアミノ酸配列の第1番目~第46番目のアミノ酸からなる領域である(本明細書中において同様)。なお、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(タンパク質)をコードするDNAは、配列番号13に示される塩基配列(GenBankアクセッション番号:AK149372)である。

【0018】
また、Del-1タンパク質の全長は、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなり、当該Del-1タンパク質をコードするDNAは、配列番号9に示される塩基配列である。
本発明の調節剤は、具体的には、先に述べた通り、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a) 配列番号2、4、6、8又は12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号2、4、6、8又は12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。
ここで、配列番号2、4、6、8及び12に示されるアミノ酸配列は、それぞれ順に、(i) F9の全長のアミノ酸配列(配列番号2)、(ii) F9の全長からトリプシンドメイン(すなわちF9の重鎖)を除いた部分のアミノ酸配列(配列番号4)、(iii) F9の軽鎖のアミノ酸配列(配列番号6)、(iv) F9-E1のアミノ酸配列(配列番号8)、及び(v) Del1-E3のアミノ酸配列(配列番号12)を示すものである。なお、配列番号1、3、5、7及び11に示される塩基配列は、後述するが、それぞれ順に、配列番号2、4、6、8及び12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAである。
配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列の第47番目~第471番目のアミノ酸からなる配列であり、配列番号4に示されるアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列の第47番目~第236番目のアミノ酸からなる配列であり、配列番号6に示されるアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列の第47番目~第191番目のアミノ酸からなる配列であり、配列番号8に示されるアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列の第97番目~第130番目のアミノ酸からなる配列である。

【0019】
さらに、配列番号12に示されるアミノ酸配列は、配列番号10に示されるアミノ酸配列の第123番目~第157番目のアミノ酸からなる配列である。
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の調節剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の調節剤は、先に述べた通り、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b) 配列番号2、4、6、8又は12に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞遊走調節活性を有するペプチド。

【0020】
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個(1~数個)、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされないが、当該欠失、置換又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。当該欠失、置換又は付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。

【0021】
また、前記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、配列番号2、4、6、8又は12に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ細胞遊走調節活性を有するペプチドも挙げられる。このようなペプチドとしては、配列番号2、4、6、8又は12に示されるアミノ酸配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ細胞遊走調節活性を有するペプチドが挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、細胞遊走調節活性とは、細胞遊走能の促進活性又は抑制活性を意味し、当該促進活性又は抑制活性は、例えば、後述する実施例に記載のWound healing assay又はBoyden chamber assay等により測定することができる。

【0022】
本発明の調節剤としては、より詳しくは、細胞遊走促進剤と細胞遊走抑制剤とが挙げられる。
本発明の細胞遊走促進剤(以下、本発明の促進剤という。)は、下記(a1)のペプチドを含むものである。
(a1) 配列番号6、8又は12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a1)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号6、8又は12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。ここで、配列番号6、8及び12に示されるアミノ酸配列は、それぞれ、前述した通りである。
また本発明の促進剤は、前記(a1)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b1)のペプチドを含むものであってもよい。
(b1) 配列番号6、8又は12に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞遊走促進活性を有するペプチド。

【0023】
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」についても、前述の説明が同様に適用できる。
また、前記(a1)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、配列番号6、8又は12に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ細胞遊走促進活性を有するペプチドも挙げられる。このようなペプチドとしては、配列番号6、8又は12に示されるアミノ酸配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ細胞遊走促進活性を有するペプチドが挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、細胞遊走促進活性は、例えば、後述する実施例に記載のWound healing assay又はBoyden chamber assay等により測定することができる。

【0024】
本発明の細胞遊走抑制剤(以下、本発明の抑制剤という。)は、下記(a2)のペプチドを含むものである。
(a2) 配列番号2、4、8又は12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a2)のペプチドとしては、限定はされないが、配列番号2、4、8又は12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。ここで、配列番号2、4、8及び12に示されるアミノ酸配列は、それぞれ、前述した通りである。
また本発明の促進剤は、前記(a2)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b2)のペプチドを含むものであってもよい。
(b2) 配列番号2、4、8又は12に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞遊走促進活性を有するペプチド。

【0025】
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」についても、前述の説明が同様に適用できる。
また、前記(a2)のペプチドと機能的に同等なペプチドとしては、例えば、配列番号2、4、8又は12に示されるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ細胞遊走抑制活性を有するペプチドも挙げられる。このようなペプチドとしては、配列番号2、4、8又は12に示されるアミノ酸配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ細胞遊走抑制活性を有するペプチドが挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、細胞遊走抑制活性は、例えば、後述する実施例に記載のWound healing assay又はBoyden chamber assay等により測定することができる。

【0026】
なお、配列番号8又は12に示されるアミノ酸配列を含むペプチドは、上記本発明の促進剤及び抑制剤のいずれにも含まれ得るものであるが、これは、後述するように、当該ペプチドは使用濃度によって細胞遊走を促進することもできるし、抑制することもできるという両面の機能を有するためである。使用濃度が低い場合は、細胞遊走を促進する活性を有し、使用濃度が高い場合は、細胞遊走を抑制する活性を有する。

【0027】
本発明の調節剤に含まれる前記(a)及び(b)のペプチド、並びに、本発明の促進剤及び抑制剤に含まれる(a1)、(a2)、(b1)及び(b2)のペプチドは、その構成アミノ酸の残基数は特に限定はされず、所定の活性(細胞遊走の調節、具体的には促進又は抑制活性)を有する範囲内で適宜設定することができる。
前記(a)及び(b)のペプチド、並びに(a1)、(a2)、(b1)及び(b2)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、細胞毒性等の悪影響や副作用等がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。

【0028】
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
本発明の調節剤、促進剤及び抑制剤(以下、本発明の調節剤等という。)は、前記(a)又は(b)のペプチド、(a1)又は(b1)のペプチド、あるいは(a2)又は(b2)のペプチドとともに、又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、当該ペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。

【0029】
本発明の調節剤等は、前記(a)又は(b)のペプチド、(a1)又は(b1)のペプチド、あるいは(a2)又は(b2)のペプチド、及び/又は、当該ペプチドの誘導体とともに、あるいはそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。

【0030】
本発明の調節剤等は、前記(a)又は(b)のペプチド、(a1)又は(b1)のペプチド、あるいは(a2)又は(b2)のペプチド、その誘導体あるいはこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris-HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩による細胞遊走の調節活性(促進活性又は抑制活性)が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3 ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5 ng/ml、さらに好ましくは0.3~2 ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5 ng/ml、特に好ましくは0.6~1 ng/ml、最も好ましくは0.8~1 ng/mlである。
本発明の調節剤等による細胞遊走能の調節(促進又は抑制)の対象となる細胞としては、限定はされず、血管内皮細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞、腫瘍細胞(癌細胞)等を含む各種細胞が挙げられる。

【0031】
本発明においては、本発明の調節剤を用いる細胞遊走調節方法も提供することができる。同様に、本発明の促進剤又は抑制剤を用いる細胞遊走促進方法又は細胞遊走抑制方法を提供することもできる。当該方法は、被験動物に対して本発明の調節剤等を投与する工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。被験動物としては、限定はされないが、ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の調節剤等の投与方法、用法、用量については、限定はされないが、後述する医薬組成物の投与方法が適宜同様に適用できる。
なお、被験動物の生体内に本発明の調節剤等を投与する場合は、本発明の調節剤の有効成分である前記(a)又は(b)のペプチド等を直接投与してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。

【0032】
また本発明においては、本発明の調節剤を用いることにより、細胞(特に培養細胞)の展開の促進方法や、細胞(特に培養細胞)の上皮様配列を保持する方法等も提供することできる。具体的には、本発明の促進剤を用いる細胞の展開促進方法、及び本発明の抑制剤を用いる細胞の上皮様配列保持方法を提供し得る。これら方法においては、本発明の調節剤(促進剤、抑制剤)を対象とする細胞(培養細胞)の培養液中に直接添加することにより行うことが好ましい。例えば、細胞の展開促進方法の場合は、培養液内濃度で、0.1~10 ng/ml程度添加することが好ましく、より好ましくは0.1~5 ng/mlであり、細胞の上皮様配列保持方法の場合は、培養液内濃度で、1~10 ng/ml程度添加することが好ましく、より好ましくは5~10 ng/mlである(いずれも本発明の調節剤に含まれるペプチド換算での添加量)。
さらに、本発明の促進剤を含む細胞の展開促進用組成物、及び本発明の抑制剤を含む細胞の上皮様配列保持用組成物も提供される。

【0033】
本発明において、細胞(特に培養細胞)の展開とは、細胞が培養器内で増殖、遊走することにより広がることを意味し、当該展開を促進することとは、細胞がより短い時間でより広い面積の基質を覆うことを意味する。
また、細胞(特に培養細胞)の上皮様配列とは、細胞同士が敷石状に接着して隙間なく配列することを意味し、当該上皮様配列を保持することとは、成長因子、サイトカイン、F9-E1等の細胞遊走を促進する因子に抵抗して、細胞の敷石状配列を維持することを意味する。
上記の展開促進の対象となる細胞(培養細胞)としては、限定はされないが、例えば、血管内皮細胞、角化上皮細胞、線維芽細胞、人工多能性幹細胞等が好ましい。また、上記の上皮様配列の保持の対象となる細胞(培養細胞)としては、限定はされないが、例えば、血管内皮細胞、角化上皮細胞、人工多能性幹細胞等が好ましい。
本発明により、細胞の展開を促進することによる実用的な効果としては、例えば、人体から採取した細胞やそれらを加工した細胞によって人工基質を修飾する期間を短縮し得ること等が挙げられる。

【0034】
また、本発明により、細胞の上皮様配列を保持することによる実用的な効果としては、例えば、人体から採取した細胞やそれらを加工した細胞によって人工基質を修飾する際に、培養液中でそれらの細胞を上皮化し得ること等が挙げられる。

【0035】

3.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1) DNA
本発明においては、前記(a)又は(b)のペプチド、(a1)又は(b1)のペプチド、あるいは(a2)又は(b2)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、当該ペプチドをコードする塩基配列からなるDNA(具体的には、前述した配列番号1、3、5、7又は11に示される塩基配列からなるDNA)であってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、当該ペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)又は(b)のペプチド、(a1)又は(b1)のペプチド、あるいは(a2)又は(b2)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、細胞遊走調節(促進又は抑制)活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件をいう。

【0036】
上記以外に当該ハイブリダイズが可能なDNAとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号1、3、5、7又は11に示される塩基配列からなるDNA、あるいは、配列番号2、4、6、8又は12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。

【0037】
(2) DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。

【0038】
(3) 形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。

【0039】

4.医薬組成物
本発明の調節剤等は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。なお、前記(a)又は(b)のペプチド、(a1)又は(b1)のペプチド、あるいは(a2)又は(b2)のペプチドを、当該有効成分ということもできる。
本発明の医薬組成物は、限定はされないが、例えば、血管新生促進用、創傷又は潰瘍治療用、癌(癌細胞)転移抑制又は阻害用、及び血管新生抑制又は阻害用の医薬組成物として有用である。特に、本発明の調節剤が細胞遊走促進剤である場合は、血管新生促進用(特に、心筋梗塞や脳梗塞等の動脈硬化性の虚血に対する治療用)や、創傷又は潰瘍治療用の医薬組成物に用いられることが好ましく、本発明の調節剤が細胞遊走抑制剤である場合は、癌(癌細胞)転移抑制又は阻害用や、血管新生抑制又は阻害用の医薬組成物に用いられることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、本発明の調節剤等を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供されることが好ましい。

【0040】
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、有効成分である本発明の調節剤等を生体内に投与する場合、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。

【0041】
本発明の医薬組成物の投与量は、被験動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の調節剤等の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、100μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。

【0042】
なお、前述したように、本発明の調節剤等に含まれるペプチドとして、配列番号8又は12に示されるアミノ酸配列を含むペプチド(好ましくは当該アミノ酸配列からなるペプチド)を用いる場合は、当該ペプチドの使用濃度により細胞遊走促進活性を呈する場合と細胞遊走抑制活性を呈する場合とが存在するため、使用濃度が重要である。例えば、細胞遊走促進活性を呈するためには、当該ペプチドの血中濃度が0.1 ng/ml~10 ng/mlとなるように投与することが好ましく、より好ましくは0.1 ng/ml~5 ng/ml、さらに好ましくは0.1 ng/ml~1 ng/mlである。他方、細胞遊走抑制活性を呈するためには、当該ペプチドの血中濃度が100 ng/ml~200 ng/mlとなるように投与することが好ましく、より好ましくは100 ng/ml~500 ng/ml、さらに好ましくは100 ng/ml~1000 ng/mlである。

【0043】
なお、本発明は、血管新生を促進する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、血管新生促進用の本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)を提供するものでもある。さらに、本発明は、本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)を用いること(すなわち被験動物に投与すること)を特徴とする血管新生の促進方法を提供するものであり、また、血管新生を促進するための、本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)の使用を提供するものでもある。
同様に、本発明は、創傷又は潰瘍を治療する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、創傷又は潰瘍治療用の本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)を提供するものでもある。さらに、本発明は、本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)を用いること(すなわち被験動物に投与すること)を特徴とする創傷又は潰瘍の治療方法を提供するものであり、また、創傷又は潰瘍を治療するための、本発明の調節剤等(特に本発明の促進剤)の使用を提供するものでもある。

【0044】
本発明は、癌(癌細胞)の転移を抑制又は阻害する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、癌(癌細胞)転移抑制又は阻害用の本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)を提供するものでもある。さらに、本発明は、本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)を用いること(すなわち被験動物に投与すること)を特徴とする癌(癌細胞)転移の抑制又は阻害方法を提供するものであり、また、癌(癌細胞)転移を抑制又は阻害するための、本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)の使用を提供するものでもある。
本発明は、血管新生を抑制又は阻害する医薬(薬剤)を製造するための、本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、血管新生抑制又は阻害用の本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)を提供するものでもある。さらに、本発明は、本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)を用いること(すなわち被験動物に投与すること)を特徴とする血管新生の抑制又は阻害方法を提供するものであり、また、血管新生を抑制又は阻害するための、本発明の調節剤等(特に本発明の抑制剤)の使用を提供するものでもある。

【0045】

5.細胞遊走調節用キット
本発明においては、構成成分として本発明の調節剤等を含むことを特徴とする、細胞遊走調節用(促進用又は抑制用)キットも提供される。本発明のキットは、各種細胞の遊走能の促進又は抑制を行うことが可能であり、例えば、動脈硬化性の虚血に対する血管新生療法、創傷や潰瘍の治療、癌転移の抑制又は阻害、あるいは血管新生の抑制又は阻害等を行う場合に有効に用いることができるため、医薬及び薬学の分野における各種実験・研究等においても極めて有用性が高いものである。また、上記本発明のキットは、細胞(特に培養細胞)の展開促進、又は細胞(特に培養細胞)の上皮様配列の保持にも有効に用い得る。
本発明のキットは、本発明の調節剤等の他に、各種バッファー、滅菌水、各種反応容器(エッペンドルフチューブ等)、洗浄剤、界面活性剤、各種プレート、防腐剤、各種細胞培養容器、及び実験操作マニュアル(説明書)等を含んでいてもよく、限定はされない。

【0046】

以下に、実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

【0047】
〔参考例1〕
凝固第9因子タンパクの構造
図1に示すとおり、血液凝固第9因子(F9)の全長(図中のF9(140-1414))を構成するアミノ酸配列(配列番号2)においては、N末端側から、GLAドメインに続いて2つのEGFドメイン(EGF1、EGF2)があり、そのC末端側に、45残基程度のアミノ酸配列領域を介して、トリプシンドメインが連なっている。凝固反応が進む過程で、図1中の矢印で示した場所で活性化第11凝固因子(図中のF-11a)によって切断される(この際、上記45残基程度のアミノ酸配列領域が除かれる。)。切断されて除かれたアミノ酸配列領域のN末端側がF9のlight chain(軽鎖)であり、C末端側がF9のheavy chain(重鎖)(すなわち、トリプシンドメイン)である。

【実施例1】
【0048】
Wound healing assay
3 cm培養皿にプラスチック製のリングを置き、その中にSCCKN細胞(口腔扁平上皮癌由来の細胞株)を播いて24時間培養した。リングをはずし、1分おきに細胞を撮影した。通常の培養液の中で6時間観察し、その後、培養液中にアルカリホスファターゼ(AP;陰性コントロール)、並びにAP-F9(140-1414)、AP-F9(140-709)、AP-F9(140-574)及びAP-F9(290-391)の組み換えタンパク質(図2中では単にF9(140-1414)等と表記)を、それぞれ0.1 pmol/mlの濃度で添加して観察を続けた。これらの組み換えタンパク質は、APとF9の全長又はその一部との融合タンパク質であり、それぞれ、アルカリフォスファターゼ(AP)発現ベクター(APtag4)に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて、所定のペプチド(F9の全長又はその一部)をコードするcDNAをAP遺伝子との融合遺伝子となるように挿入した組み換えベクターを構築し、当該ベクターをCHO細胞に導入して当該融合タンパク質を発現させ作製した。なお、上記各cDNA(具体的には、配列番号1、3、5及び7に示される塩基配列からなるDNAを含むもの)は、公知のF9の遺伝子配列(配列番号13)に基づいて適宜プライマーを設計し、PCRにより所望のcDNA断片を増幅して得、APtag4に組み込んで用いた。
【実施例1】
【0049】
撮影された動画の、馴化培地(conditioned medium)を加える前後2時間の遊走について解析した。遊走する細胞の前線を30μm毎に分割し、前線の移動の平均値を算出した。conditioned mediumを加える前の遊走速度を1として、添加後の遊走速度(平均±SEM)を表した。同様のassayをCos細胞及びP5細胞についても行った。その結果を図2に示した。P<0.01。なお、図2Bの写真内のスケールバーは100μmを示す。【実施例2】
【0050】
Boyden chamber assay
細胞の遊走能を実施例1のWound healing assayとは別の方法で評価するため、クラボウ社製のChemotaxicellを用いて、Boyden chamber assayを施行した。Assayに用いた組み換えタンパク質及び陰性コントロール、並びにその添加量については、実施例1と同様にして行った。上層には血清のない培養液に浮遊させた過剰量の細胞(SCCKN細胞又はCos細胞)を入れ、下層には血清入りの通常の培養液を入れ、30分から1時間培養した。4%パラフォルムアルデヒドで固定後にトリパンブルーで染色し、顕微鏡下に、細胞が入り込んだ穴の割合を数えた。その結果を図3に示した。なお、図3Aの写真内のスケールバーは10μmを示す

【実施例2】
【0051】
〔参考例2〕
F9の構造とDel-1の構造との相同性
図4に示すとおり、Del-1のアミノ酸配列(配列番号10)は、N末端より、3つのEGFドメイン(EGF1~EGF3)と2つのdiscoidinドメイン(Discoidin1、Discoidin2)から構成される(図4A)。Del-1の3番目のEGFドメイン(Del1-E3)が、F9のEGF1ドメイン(F9-E1)とコンセンサス配列を共有することを示した(図4B)。

【実施例3】
【0052】
Wound healing assay
3 cm培養皿にプラスチック製のリングを置き、その中にCOS細胞を播いて24時間培養した。リングをはずし、1分おきに細胞を撮影した。通常の培養液の中で6時間観察、その後培養液中に1 ng/mlのCAT(chloramphenicol acetyl transferase)タンパク質(陰性コントロール)とDel1-E3を添加して観察を続けた。これらの組み換えタンパク質は、公知の遺伝子組み換え技術により、E. coliに組み換えDNAを導入して作製された。撮影された動画の、conditioned mediumを加える前後2時間の遊走について解析した。遊走する細胞の前線を30μm毎に分割し、前線の移動の平均値を算出した。馴化培地(conditioned medium)を加える前の遊走速度を1として、添加後の遊走速度(平均±SEM)を表した。その結果を図5に示した。P<0.01。なお、図5Bの写真内のスケールバーは100μmを示す。【0053】
細胞の遊走は人体で起こる広範な現象に関与している。本発明はそのような現象の治療に関連した医学及び薬学の分野に応用し得るものである。例えば、F9-E1のペプチドを作製して薬剤として使用することが可能であり、該ペプチドをコードする遺伝子を用いて遺伝子治療を行うことも可能と考えられる。遊走が関与する現象の例としては、血管新生、創傷又は潰瘍の治癒過程、癌細胞の転移などが挙げられる。よって、本発明は、動脈硬化性の虚血に対する血管新生療法、創傷や潰瘍の治療、癌転移の抑制又は阻害、血管新生の抑制又は阻害等に有用なものである。また、本発明は、細胞遊走の促進により細胞(特に培養細胞)の展開を促進したり、あるいは細胞遊走の抑制により細胞(特に培養細胞)の上皮様配列を保持することにも有用なものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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