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明細書 :アポトーシス誘導剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5786266号 (P5786266)
登録日 平成27年8月7日(2015.8.7)
発行日 平成27年9月30日(2015.9.30)
発明の名称または考案の名称 アポトーシス誘導剤
国際特許分類 A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 37/02 ZNA
A61P 43/00 105
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 84
出願番号 特願2011-528910 (P2011-528910)
出願日 平成22年8月25日(2010.8.25)
国際出願番号 PCT/JP2010/064857
国際公開番号 WO2011/025050
国際公開日 平成23年3月3日(2011.3.3)
優先権出願番号 2009194747
優先日 平成21年8月25日(2009.8.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年5月27日(2013.5.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】日臺 智明
【氏名】北野 尚孝
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】上條 のぶよ
参考文献・文献 特表平11-507527(JP,A)
国際公開第08/044794(WO,A1)
国際公開第05/001093(WO,A1)
Exp Cell Res., Vol.313 No.12 p.2622-2633 (2007)
調査した分野 A61K 38/00-58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号7、配列番号42、若しくは配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又はこれらの塩を含むことを特徴とする、アポトーシス誘導剤。
【請求項2】
ヒト生体外における目的の細胞又は細胞集団に対して請求項1記載の誘導剤を作用させる工程を含む、アポトーシス誘導方法。
【請求項3】
前記工程が、ヒト生体外における目的の細胞又は細胞集団に前記誘導剤を接触させる工程である、請求項記載の方法。
【請求項4】
請求項1記載の誘導剤を含む、抗腫瘍剤の抗腫瘍効果増強剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシス誘導剤等に関する。詳しくは、腫瘍細胞等を含む各種細胞に対してアポトーシスを誘導するアポトーシス誘導剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスは、細胞死の形態の一つであり、特に細胞内の核の破壊を伴う細胞死のことを言う。これまで、癌細胞におけるアポトーシスの死分子機構としては、カルシウム経路、死のシグナル経路、セラミド経路、ミトコンドリア経路、及びp53アポトーシス経路の5つの経路を介して誘導される分子機構が知られている(例えば、「橋本嘉幸、新アポトーシスの分子医学、羊土社、2001年4月、10-58頁」参照)。
アポトーシスを誘導する物質は数多く知られており、臨床医学ではマイトマイシンやタキソールなどの抗がん剤が使用されている。これらの人工物以外に、生体にはFasL(Fas ligand)やTNFαのようなアポトーシスを誘導するタンパクが存在している。これら人工、自然のアポトーシス誘導物質を用いて、がん細胞のように人体に有害な細胞を死に至らしめることが可能である。上述したように、化学療法に使用される抗がん剤も、遺伝子療法についての研究が進みつつあるFasLも、この原理を適用している。化学療法では、健常組織への副作用が治療の障害となるため、病巣にのみ効果を及ぼすことを期待して、病巣への遺伝子導入による遺伝子治療が検討されている。しかしながら、実際に遺伝子が導入される細胞は、通常、病巣にある細胞のうちの一部分であり、また遺伝子を導入された病的細胞はその後死滅し、治療効果のあるタンパク質等は当該細胞からそれ以上産生されないため、結果的に、遺伝子治療の効果は部分的なものになる場合が多い。そのため、残存する病的細胞には、繰り返し遺伝子導入を行う必要が出てくる。また、最初の遺伝子導入により遺伝子が導入されなかった細胞は、導入を受けにくい特性を有している可能性があり、治療の妨げとなる。
【発明の概要】
【0003】
このような状況下において、腫瘍細胞等を含む各種細胞に対して簡便にアポトーシスを誘導することができるアポトーシス誘導剤の開発が望まれていた。
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、アポトーシス誘導剤、癌の治療用医薬組成物等を提供するものである。
(1) 以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩を含むことを特徴とする、アポトーシス誘導剤。
(a) 下記式(I):
C-X-D-X-X-X-X-Y-X-C-X-C (配列番号1) (I)
(Xは任意のアミノ酸残基を表し、Cはシステインを表し、Dはアスパラギン酸を表し、Yはチロシンを表す。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 上記式(I)で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、アポトーシス誘導活性を有するペプチド。
上記(1)の誘導剤において、式(I)で示されるアミノ酸配列は、例えば、配列番号2又は配列番号3に示されるアミノ酸配列が挙げられる。また、前記(a)のペプチドは、例えば、配列番号5又は配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。
(2) 目的の細胞又は細胞集団に対して上記(1)の誘導剤を作用させる工程を含む、アポトーシス誘導方法。
当該誘導方法において、前記工程は、例えば、目的の細胞又は細胞集団に前記誘導剤を接触させる工程が挙げられる。
(3) 上記(1)の誘導剤を含む、癌の治療用医薬組成物。

【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、実施例1における、位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。
図2は、実施例2における、ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果(左)と、乳酸脱水素酵素(LDH)活性測定の結果(右)を示す図である。
図3は、実施例3における、蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。
図4は、実施例4における、蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。
図5は、実施例5における、蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。
図6は、実施例6における、ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び銀染色の結果を示す図である。
図7は、実施例7における、LDH活性測定の結果を示す図である。である。
図8は、実施例8における、位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。
図9は、実施例9における、LDH活性測定の結果を示す図である。
図10は、実施例10における、LDH活性測定の結果を示す図である。
図11は、実施例11における、LDH活性測定の結果を示す図である。
図12は、実施例12における、各遺伝子導入後の腫瘍サイズの経時的測定(7日間:Day0~Day7)の結果を示す図である。腫瘍サイズの測定は、定規で腫瘍の長径と短径を計測して積算した。図中、腫瘍サイズ(縦軸)は、遺伝子導入時の値を1として相対値で表した(平均値±SD)。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2009-194747号明細書(2009年8月25日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.アポトーシス誘導剤
本発明のアポトーシス誘導剤(以下、本発明の誘導剤という。)は、先に述べた通り、下記(a)のペプチドを含むものである。
(a)下記式(I):
JP0005786266B2_000002t.gifで示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチド中、式(I)のアミノ酸配列は、アミノ酸の1文字表記を用いて示したものであり、例えば、Cはシステイン(Cys)、Dはアスパラギン酸(Asp)、Yはチロシン(Tyr)を意味する。また、Xは任意のアミノ酸残基を表し、任意のアミノ酸残基は、通常、20種類のアミノ酸残基、すなわちA(アラニン;Ala)、R(アルギニン;Arg)、D(アスパラギン酸;Asp)、N(アスパラギン;Asn)、C(システイン;Cys)、Q(グルタミン;Gln)、E(グルタミン酸;Glu)、G(グリシン;Gly)、H(ヒスチジン;His)、I(イソロイシン;Ile)、L(ロイシン;Leu)、K(リジン;Lys)、M(メチオニン;Met)、F(フェニルアラニン;Phe)、P(プロリン;Pro)、S(セリン;Ser)、T(スレオニン;Thr)、W(トリプトファン;Trp)、Y(チロシン;Tyr)、V(バリン;Val)から選択することができる。本明細書では、他のアミノ酸配列を示す場合も、式(I)と同様に1文字表記で表すことがある。
前記式(I)のアミノ酸配列としては、例えば、以下の配列番号2及び配列番号3に示されるアミノ酸配列が好ましく挙げられ、なかでも配列番号2に示されるアミノ酸配列がより好ましい。
JP0005786266B2_000003t.gif 本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の誘導剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の誘導剤は、先に述べた通り、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)前記式(I)で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、アポトーシス誘導活性を有するペプチド。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1個~5個程度、好ましくは1個~2個程度のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされない。ただし本発明においては、前記式(I)で示されるアミノ酸配列における第1番目、第3番目、第8番目、第10番目、第12番目のアミノ酸残基(それぞれ順に、C、D、Y、C、C)が欠失、置換又は付加されていないもの、及び/又は、前記式(I)で示されるアミノ酸配列における第2番目、第4~7番目、第9番目、第11番目のアミノ酸残基(いずれもX)が欠失又は付加されていないものが好ましい。上記欠失、置換、付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
本発明において、アポトーシス誘導活性とは、細胞内の核の破壊を伴う細胞死をもたらす活性を意味し、当該活性は、例えば、DNAラダーの検出、クロマチン染色、アネキシンV染色等により測定することができる。
本発明の誘導剤に含まれる前記(a)又は(b)のペプチドは、前記式(I)のアミノ酸配列を含むペプチド、又は前記欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチドである限り、その構成アミノ酸の残基数は限定されず、好ましくは12残基以上であり、例えば12~100残基であってもよいし、12~50残基であってもよいし、12~30残基であってもよい。
前記(a)又は(b)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされないが、天然物由来のペプチドである場合は、アポトーシス誘導の目的とする細胞以外の細胞に対する細胞毒性等の悪影響がない場合が多いため好ましい。
天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
また、化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
ここで、前記(a)又は(b)のペプチドであって天然物由来のペプチドに該当するものとして、(i)内皮細胞遺伝子座-1(Del-1;developmentally endothelial locus-1)タンパク質及びその部分断片、並びに(ii)血液凝固因子 第IX因子を、以下に例示説明する。
Del-1タンパク質は、上皮増殖因子(EGF;epidermal growth factor)類似ドメイン及びジスコイジンI類似ドメインを有する細胞外基質沈着タンパク質であり、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。このDel-1タンパク質のEGF類似ドメインとしてはEGF1、EGF2及びEGF3があり、ジスコイジンI類似ドメインとしてはDiscoidin1及びDiscoidin2があることが知られている。本発明者は、上記各種ドメインのうちEGF3に着目し、さらにEGF3を構成するアミノ酸配列(配列番号7)中の特定の12アミノ酸残基からなる領域:C-T-D-L-V-A-N-Y-S-C-E-C(配列番号2)に着目した。そして、この特定領域からなる又はこの特定領域を含むペプチドが、高いアポトーシス誘導活性を有することを見出した。すなわち、前記(a)又は(b)のペプチドであって天然物由来のペプチドに該当するものとしては、例えば、Del-1タンパク質全長(配列番号5)、並びにEGF3からなる部分断片(配列番号7)、及びEGF3を一部に含む各種部分断片(配列番号9、11、13、15、17及び19(下記表1参照)、並びに配列番号42)を挙げることができる。特に、前記(a)のペプチドとしてDel-1タンパク質全長(配列番号5)、EGF3からなる部分断片(EGF3を構成するペプチド;配列番号7)、及びEGF3とDiscoidin1との融合ペプチド(配列番号42)が好ましい。なお、Del-1タンパク質及びその部分断片に関する詳細については、WO 2005/0001093に記載の内容を全て参酌することができ、下記表1に示したアミノ酸配列を有する部分断片以外の部分断片についても本発明の例示として含むことができる。例えば、下記表1中の「Del-1全長」のうちシグナルペプチド部分を除いたアミノ酸配列を有する部分断片も、本発明の例示として含まれる。
【表1】
JP0005786266B2_000004t.gif
また、血液凝固因子 第IX因子は、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり、N末端から順に、Glaドメイン、EGFドメイン及びプロテアーゼドメインを有する一本鎖糖タンパク質である。ここで、第IX因子のEGFドメインは、配列番号23に示されるアミノ酸配列のうちの第90番目~第123番目のアミノ酸からなる配列(配列番号25)で構成される。本発明者は、第IX因子のEGFドメインを構成するアミノ酸配列中には、前述したDel-1タンパク質のEGF3(EGF類似ドメイン)と同様に、特定の12アミノ酸残基からなる領域:C-K-D-D-I-S-S-Y-E-C-W-C(配列番号3)が含まれていることに着目し、この領域を含むペプチドが、遺伝子導入効率を高めることができることを見出した。すなわち、前記(a)又は(b)のペプチドであって天然物由来のペプチドに該当するものとしては、例えば、第IX因子全長のほか、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチド断片又は当該断片を一部に含む各種部分断片、及びEGFドメインからなる部分断片又は当該EGFドメインを一部に含む各種部分断片を挙げることができる。なお、第IX因子全長をコードするDNAの塩基配列は、配列番号22に示されるものであり、第IX因子のEGFドメインをコードするDNAの塩基配列は、配列番号24に示されるものである。
本発明の誘導剤は、前記(a)又は(b)のペプチドとともに又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、前記(a)又は(b)のペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の誘導剤は、前記(a)或いは(b)のペプチド、及び/又は当該ペプチドの誘導体とともに又はそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の誘導剤は、上述した(a)若しくは(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris-HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、上記ペプチド、その誘導体又はこれらの塩によるアポトーシス誘導効率の上昇活性が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、0.3ng/ml以上であることが好ましく、より好ましくは0.3~5ng/ml、さらに好ましくは0.3~2ng/ml、さらにより好ましくは0.4~1.5ng/ml、特に好ましくは0.6~1ng/ml、最も好ましくは0.8~1ng/mlである。
本発明の誘導剤によるアポトーシス誘導の対象となる細胞としては、限定はされず、腫瘍細胞等を含む各種細胞が挙げられるが、特に接着細胞が好ましい。例えば、Cos細胞、CRL細胞(ヒトメラーノマ細胞株)、P5細胞(血管内皮細胞株)、KN細胞(ヒト扁平上皮がん細胞株)等が挙げられる。本発明においては、腫瘍細胞をアポトーシス誘導の目的の細胞とすることが好ましく、腫瘍細胞としては、具体的には、上記CRLの他、Cos細胞、P5細胞、KN細胞(ヒト扁平上皮がん細胞株)等が好ましく挙げられる。
本発明の誘導剤は、目的の細胞にアポトーシスを誘導させるために当該細胞内に導入する必要は必ずしもなく、当該細胞外から添加することでその細胞のアポトーシスを誘導することができる。そのため、各種腫瘍細胞等のアポトーシス誘導を、従来にない簡便さで、且つより広い範囲の細胞腫(癌種)に対して行うことができ、例えば、癌の治療やその研究等において極めて有用なものである。
また、本発明の誘導剤は、上述した(a)又は(b)のペプチド等が、アポトーシスを起こさせる目的細胞の周辺(癌の病巣等)に残存し得るという特徴を有するものである。また、上述した(a)又は(b)のペプチド等は、細胞への遺伝子導入効率を向上させ得るという特徴を有するものでもある。従って、例えば、癌の治療において、本発明の誘導剤の使用と遺伝子治療とを併用すれば、残存する病的細胞に繰り返し遺伝子導入を行う必要が生じた場合などに、病巣に残存している本発明の誘導剤(上述した(a)又は(b)のペプチド等)が、病的細胞への遺伝子導入効率を向上させるという効果をもたらす。その結果、治療効果の高い遺伝子治療を行うことができる。
本発明においては、本発明の誘導剤を用いるアポトーシス誘導方法も提供することができる。当該誘導方法は、目的の細胞又は細胞集団(組織、臓器)に対して本発明の誘導剤を作用させる工程を含む方法であり、それ以外にどのような工程を含むものであってもよく、限定はされない。本発明の誘導剤を作用させるとは、目的の細胞又は細胞集団に対して本発明の誘導剤を接触させる(すなわち当該細胞等に添加してその外部に接触させる)ことや、目的の細胞内に本発明の誘導剤を導入することを意味し、中でも前者の添加の態様が好ましい。なお、目的の細胞内に本発明の誘導剤を導入する場合は、本発明の誘導剤の有効成分である前述の(a)又は(b)のペプチドを、当該細胞内に直接導入してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードするDNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
2.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)又は(b)のペプチドを構成するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAも包含される。当該DNAは、前記(a)又は(b)のペプチドをコードする塩基配列からなるDNAであってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、前記(a)又は(b)のペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)又は(b)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであってアポトーシス誘導活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件をいう。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
3.医薬組成物
本発明の誘導剤(前述した(a)及び(b)のペプチドと言うこともできる。)は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。
当該医薬組成物は、癌(腫瘍)の治療用の医薬組成物として有用である。特に、本発明の誘導剤は、腫瘍細胞等に対してアポトーシス誘導活性を有するものであるため、腫瘍の治療用に使用されることが好ましい。すなわち、本発明の誘導剤は、腫瘍治療剤に含まれる有効成分として有用なものである。
また、本発明の誘導剤は、既存の抗腫瘍剤(腫瘍治療剤)と併用し、癌治療用医薬組成物の有効成分として用いることもできる。この場合、本発明の誘導剤のアポトーシス誘導活性により、結果として、既存の抗腫瘍剤の抗腫瘍効果(抗腫瘍活性)を増強することができる。よって、本発明は、本発明の誘導剤を含む、抗腫瘍剤の抗腫瘍効果増強剤、及び、本発明の誘導剤を用いる、抗腫瘍剤の抗腫瘍効果増強方法等を提供することができる。抗腫瘍剤としては、公知のものが全て含まれ、特に限定はされないが、例えばFasL(Fas ligand)、TNFα、マイトマイシン及びタキソール等が挙げられる。
本発明の医薬組成物は、本発明の誘導剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。
本発明の医薬組成物の適用の対象となる癌(腫瘍)としては、具体的には、肺癌(小細胞肺癌等)、大腸癌、乳癌、肝臓癌、腎臓癌、卵巣癌、神経内分泌腫瘍、神経芽細胞腫、神経膠腫、1型神経線維腫症、胃癌、大腸癌、すい臓癌、膀胱癌、皮膚癌等が挙げられ、好ましくは、これらのヒト癌(腫瘍)である。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、本発明の誘導剤(前述した(a)及び(b)のペプチド)を生体内に投与する場合は、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の誘導剤(前述した(a)及び(b)のペプチド)の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、100μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明は、癌(腫瘍)を治療する医薬(薬剤)を製造するための、前記本発明の誘導剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、癌(腫瘍)の治療用の前記本発明の誘導剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド)を提供するものでもある。
さらに、本発明は、前記本発明の誘導剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド)を用いること(すなわち患者に投与すること)を特徴とする癌(腫瘍)の治療方法を提供するものであり、また、癌(腫瘍)を治療するための、前記本発明の誘導剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド)の使用を提供するものでもある。
4.アポトーシス誘導用キット
本発明においては、構成成分として本発明の誘導剤を含むことを特徴とする、アポトーシス誘導用キットも提供される。本発明のキットは、腫瘍細胞等を含む各種細胞に対して、簡便に且つ効果的にアポトーシス誘導を行う場合に用いることができるため、前述した癌の治療の分野に限らず、各種実験・研究等の分野においても極めて有用性が高いものである。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
Del-1のアポトーシス誘導(1)
発現ベクターpcDNA3(Invitrogen社)にDel-1全長のcDNA(配列番号4)を組み込んで、培養Cos細胞に導入した。コントロールには、Del-1全長のcDNAを含まないpcDNA3を使用した。導入から24時間後に、細胞核染色用のH33342(ヘキスト社)で染色し、位相差顕微鏡(透過像)及び蛍光顕微鏡(H33342)を用いて観察した。その結果を図1に示した。
図中の矢印で示したように、上記導入後の培養Cos細胞では、位相差顕微鏡の透過像により培養容器底面から剥がれかけている細胞の核が、H33342で強く染まり、染色体が凝集していることが認められた。
【実施例2】
【0007】
Del-1のアポトーシス誘導(2)
発現ベクターpcDNA3(Invitrogen社)にDel-1全長のcDNA(配列番号4)を組み込んで、培養Cos細胞に導入した。コントロールには、Del-1全長のcDNAを含まないpcDNA3を使用した。導入率の標準化のため、LacZ遺伝子を組み込んだDNAを同時に導入し。その結果を図2(左図及び右図)に示した。
左図:細胞から染色体DNAを採取し、ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動にかけ、銀染色を施した。Del-1を強制発現させた細胞のサンプルでは、アポトーシスを示すラダーが観察された。
右図:培養上清中の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定した。LDHは、通常、細胞質中に含まれている酵素であり、細胞死により、培養上清中に漏出されたことが確認された。
【実施例3】
【0008】
Del-1のアポトーシス誘導(3)
発現ベクターにDel-1全長のcDNA(配列番号4)を組み込んで、培養Cos細胞に導入した。導入から24時間後に、H33342及びC3-annexin V(蛍光色素C3と結合したannexin V)で細胞を染色し、蛍光顕微鏡を用いて観察した。その結果を図3に示した。
H33342染色により凝集した染色体が観察される細胞の細胞膜は、C3-annexin Vで染色され、アポトーシスを起こしていることが認められた。なお、annexin Vは細胞膜の構成成分であるホスファチジルセリンと結合し得るものであり、ホスファチジルセリンは細胞がアポトーシスを起こした場合に細胞膜の外側に出てくる(局在してくる)ことが知られている。
【実施例4】
【0009】
Del-1のアポトーシス誘導(4)
eGFP-Del-1(eGFPとDel-1全長との融合タンパク質)をコードするcDNAが組み込まれた発現ベクターを、培養Cos細胞に導入した。導入から24時間後に細胞を固定し、H33342で染色した。その結果を図4に示した。
Del-1が遺伝子導入された細胞(すなわち上記融合タンパク質を発現する細胞)は、eGFP由来の緑色に観察された。これらの細胞では染色体の凝集が認められ、アポトーシスを起こしていることが確認された。図中の矢印で示された3つの細胞は、緑色蛍光が観察されずDel-1を発現していない(すなわちDel-1が遺伝子導入されていない)にも関わらず、染色体の凝集が認められた。これは、Del-1が遺伝子導入された細胞から分泌されたDel-1が、近接した細胞にも機能しアポトーシスを誘導することを意味すると考えられた。
【実施例5】
【0010】
Del-1のアポトーシス誘導(5)
アルカリフォスファターゼ(AP)発現ベクター(APtag4)に、Del-1全長のcDNA(配列番号4)を組み込んで、培養Cos細胞に導入した。コントロールにはDel-1全長のcDNAを含まないAP発現ベクターを使用した。得られた培養上清のAP活性を測定して、AP融合タンパク濃度を標準化し、CRL細胞(ヒトメラーノマ細胞)とP5細胞(血管内皮細胞株)の培養液に添加した(CRLとP5は遺伝子導入率が低いので、直接遺伝子を導入する方法をとらず、Cos細胞に組み換えタンパク質を生産させ、そのconditioned mediumを使用した。)。添加から24時間後に、H33342及びC3-annexin Vで細胞を染色して、観察した。その結果を図5に示した。
H33342染色により凝集した染色体が観察される細胞の細胞膜は、C3-annexin Vで染色され、アポトーシスを起こしていることが認められた。
【実施例6】
【0011】
Del-1のアポトーシス誘導(6)
AP発現ベクター(APtag4)に、Del-1全長のcDNA(配列番号4)を組み込んで、培養Cos細胞に導入した。コントロールにはDel-1全長のcDNAを含まないAP発現ベクターを使用した。得られた培養上清のAP活性を測定して、AP融合タンパク濃度を標準化し、CRL細胞(ヒトメラーノマ細胞)とP5細胞(血管内皮細胞株)の培養液に添加した(CRLとP5は遺伝子導入率が低いので、直接遺伝子を導入する方法をとらず、Cos細胞に組み換えタンパク質を生産させ、そのconditioned mediumを使用した。)。添加から24時間後に細胞から染色体DNAを採取し、ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動にかけ、銀染色を施した。その結果を図6に示した。
Del-1を強制発現させた細胞のサンプルでは、アポトーシスを示すラダーが観察された。
【実施例7】
【0012】
アポトーシス誘導の活性中心(1)
AP発現ベクター(APtag4)に、Del-1全長のcDNA(配列番号4)を組み込んで、培養Cos細胞に導入した。同様に、APtag4にDel-1の一部分のcDNAを組み込んで、培養Cos細胞に導入した。コントロールには上記Del-1全長等のcDNAを含まないAP発現ベクターを使用した。なお、上記Del-1の一部分としては、Del-1全長タンパク質のEGF類似ドメインであるEGF1(E1;cDNA:配列番号26、アミノ酸配列:配列番号27)、EGF2(E2;cDNA:配列番号28、アミノ酸配列:配列番号29)及びEGF3(E3;cDNA:配列番号6、アミノ酸配列:配列番号7)、ジスコイジンI類似ドメインであるDiscoidin1とDiscoidin2との融合タンパク質(C1C2;cDNA:配列番号30、アミノ酸配列:配列番号31)、上記Del-1全長のアミノ酸置換(D136E)変異体(Del1m;cDNA:配列番号32、アミノ酸配列:配列番号33)、並びに上記E3のアミノ酸置換(D136E)変異体であるE3 D136E(E3m;cDNA:配列番号34、アミノ酸配列:配列番号35)をそれぞれ用いた。ここで、E3mのアミノ酸置換態様を示す「D136E」中の「136」の表記は、Del-1全長のアミノ酸配列(配列番号5)中の第136番目のアミノ酸残基の位置を示しており、E3のアミノ酸配列(配列番号7)においては第14番目のアミノ酸残基の位置に対応するものである。導入率の標準化のため、LacZ遺伝子を組み込んだDNAを同時に導入した。導入から24時間後に新鮮な培養液と交換し、さらに1時間後に上清のLDH活性を測定した。細胞融解液を調製し、LacZ活性を測定した。Del-1全長のcDNAを導入した細胞のLacZ活性を1として、LDH活性の上昇を標準化した。その結果を図7に示した。
E3のcDNAを導入した細胞上清には、Del-1全長のcDNAを導入した場合に近いLDH活性の上昇が認められた。その効果は、E3mのcDNAを導入した場合の結果から、D136Eの変異により失われたことが確認された。
【実施例8】
【0013】
アポトーシス誘導の活性中心(2)
培養Cos細胞に、形質転換大腸菌で産生した組換えE3タンパク質を添加した。添加から24時間後にH33342で染色し、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを用いて検鏡した。その結果を図8に示した。
図中の矢印で示したように、上記添加後の培養Cos細胞では、位相差顕微鏡の透過像により培養容器底面から剥がれかけていると観察される細胞の核が、H33342で強く染まり、染色体が凝集していることが認められた。
【実施例9】
【0014】
Consensus sequence
AP発現ベクター(APtag4)に、Del-1の一部分であるE3及びそのアミノ酸置換変異体のcDNAを組み込んで、それぞれ培養Cos細胞に導入した。同様に、APtag4に血液凝固因子第IX因子のEGFドメイン(F IX;cDNA:配列番号24、アミノ酸配列:配列番号25)のcDNAを組み込んで、培養Cos細胞に導入した。コントロールには上記E3等のcDNAを含まないAP発現ベクターを使用した。なお、上記E3のアミノ酸置換変異体としては、E3 D136E(cDNA:配列番号34、アミノ酸配列:配列番号35)、E3 D136N(cDNA:配列番号36、アミノ酸配列:配列番号37)及びE3 Y141F(cDNA:配列番号38、アミノ酸配列:配列番号39)をそれぞれ用いた。ここで、E3変異体のアミノ酸置換態様を示す「D136E」、「D136N」及び「Y141F」中の「136」及び「141」の表記は、Del-1全長のアミノ酸配列(配列番号5)中の第136番目及び第141番目のアミノ酸残基の位置を示しており、E3のアミノ酸配列(配列番号7)においては第14番目及び第19番目のアミノ酸残基の位置に対応するものである。導入率の標準化のため、LacZ遺伝子を組み込んだDNAを同時に導入した。導入から4時間後に新鮮な培養液と交換し、さらに24時間後に上清のLDH活性を測定した。細胞融解液を調製し、LacZ活性を測定した。E3(野生型)を導入した細胞のLacZ活性を1として、LDH活性の上昇を標準化した。その結果を図9に示した。
E3変異体を導入した場合のLDH活性はすべて低下した。このことから、アスパラギン残基の水酸化配列(ASN-HYDROXYL)を構成するアミノ酸配列(C-X-[D/N]-X-X-X-X-[Y/F]-X-C-X-C(配列番号40))中の特定のアミノ酸残基(C,D,Y,C,C(配列番号40中の第1、3、8、10及び12番目のアミノ酸残基))に対応するアミノ酸残基(本実施例ではDやY)が変異することで、LDH活性が低下することが分かった。一方、上記特定のアミノ酸残基の他にはE3と共通するアミノ酸残基のないF IXを導入した場合は、E3を導入した場合と同様に、高いLDH活性を有することが認められた。
【実施例10】
【0015】
濃度依存性
形質転換大腸菌で産生した組換えE3タンパク質を、種々の濃度(0~2.0ng/ml)で培養Cos細胞に添加した。添加から24時間後に、培養上清中のLDH活性を測定した。その結果を図10に示した。
E3タンパク質濃度が0.4ng/ml以上の場合にアポトーシス誘導の有効性が現れた。なお、E3タンパク質濃度が1ng/ml以上の場合は、アポトーシス誘導の効果は変わらなかった。
【実施例11】
【0016】
種々の細胞におけるE3の有効性
形質転換大腸菌で産生した組換えE3タンパク質を、1ng/ml又は5ng/mlの濃度で培養Cos細胞に添加した。添加から24時間後に、培養上清中のLDH活性を測定した。その結果を図11に示した。
E3タンパク質は、接着細胞であるCRL細胞(ヒトメラーノマ細胞)及びP5細胞(血管内皮細胞株)に対しては細胞障害活性(アポトーシス誘導)を示したが、浮遊細胞であるMEL細胞(マウス白血病細胞)に対しては同活性を示さなかった。
【実施例12】
【0017】
EGF3ドメインを含むペプチドの腫瘍治療効果
移植腫瘍モデルマウスを用い、Del-1の一部分であるEGF3ドメインを含むペプチドによる腫瘍治療効果を検討した。詳しくは、当該ペプチドと、既に抗腫瘍効果が確立しているFasL(Fas ligand)タンパク質とを併用した場合に、FasLのみの場合と比較して、抗腫瘍効果の増強(亢進)がみられるかどうか確認した。
まず、下記(A)及び(B)のcDNAを、それぞれ、発現ベクターとしてのpcDNA3Dベクター(Invitrogen社)に組み込んでクローニングし、2種の組換えDNAを作製した。
(A)全長マウスFasL(cDNA(GenBankアクセッション番号:NM_010177):配列番号43、アミノ酸配列(GenBankアクセッション番号:NP_034307):配列番号44)のcDNA
(B)上記(A)のcDNA、及び、EGF3ドメインとDiscoidin1との融合ペプチド(E3C1;cDNA:配列番号41、アミノ酸配列:配列番号42)のcDNA(計2種のcDNA)
なお、E3C1は、マウス全長Del-1のアミノ酸配列(配列番号5)の第123番目~第319番目のアミノ酸からなるペプチド(マウス全長Del-1の塩基配列(配列番号4)の第985番目~第1575番目の塩基配列によりコードされるペプチド)である。
次いで、5週齢のヌードマウス背部皮下に、5×10個のSCCKN(ヒト口腔扁平上皮癌由来の細胞株)を注射した。その後、経時的に腫瘍サイズを測定し、10×10mm大を超えた時点で、予め作製した2種の組換えDNAをそれぞれ腫瘍内に注射(遺伝子導入)して、各cDNAを腫瘍細胞内で発現させた。当該遺伝子導入の際、遺伝子導入試薬としてはin vivo jet-PEI(Polyplus Trasfection社)を用い、導入DNA量は10μgとした。前記(A)のcDNAを含む組換えDNAの導入は、マウス4匹に対して行い、前記(B)のcDNAを含む組換えDNAの導入は、マウス5匹に対して行った。
遺伝子導入後の腫瘍サイズを経時的に測定し(7日間:Day0~Day7)、その結果を図12に示した。E3C1のcDNAを併せて導入した方が、優れた抗腫瘍効果を示し、E3C1によるFasLの抗腫瘍効果の増強効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によれば、腫瘍細胞等を含む各種細胞に対してアポトーシスを誘導するアポトーシス誘導剤等を提供することができる。
本発明のアポトーシス誘導剤は、幅広い細胞種に対して簡便にアポトーシスを誘導することができ、腫瘍細胞に対しても有効にアポトーシス誘導ができる。よって、癌の治療用医薬組成物や癌の治療方法等に有効に用い得る点で極めて有用なものである。
また、本発明のアポトーシス誘導剤は、病巣等の目的細胞の周辺に残存し、その後の遺伝子治療等における遺伝子導入効率を向上させ得るという効果も有する。よって、本発明のアポトーシス誘導剤は、遺伝子治療剤との併用により、治療効果の高い癌の治療用医薬組成物や癌の治療方法等を提供することができる点で、極めて有用なものである。
【配列表フリ-テキスト】
【0019】
配列番号1:ペプチド
配列番号1:存在位置:2,4,5,6,7,9,11のXaaは任意のアミノ酸残基を表す。
配列番号40:ペプチド
配列番号40:存在位置:2,4,5,6,7,9,11のXaaは任意のアミノ酸残基を表す。
配列番号40:存在位置:3のXaaはアスパラギン酸又はアスパラギンを表す。
配列番号40:存在位置:8のXaaはチロシン又はフェニルアラニンを表す。
[配列表]
JP0005786266B2_000005t.gifJP0005786266B2_000006t.gifJP0005786266B2_000007t.gifJP0005786266B2_000008t.gifJP0005786266B2_000009t.gifJP0005786266B2_000010t.gifJP0005786266B2_000011t.gifJP0005786266B2_000012t.gifJP0005786266B2_000013t.gifJP0005786266B2_000014t.gifJP0005786266B2_000015t.gifJP0005786266B2_000016t.gifJP0005786266B2_000017t.gifJP0005786266B2_000018t.gifJP0005786266B2_000019t.gifJP0005786266B2_000020t.gifJP0005786266B2_000021t.gifJP0005786266B2_000022t.gifJP0005786266B2_000023t.gifJP0005786266B2_000024t.gifJP0005786266B2_000025t.gifJP0005786266B2_000026t.gifJP0005786266B2_000027t.gifJP0005786266B2_000028t.gifJP0005786266B2_000029t.gifJP0005786266B2_000030t.gifJP0005786266B2_000031t.gifJP0005786266B2_000032t.gifJP0005786266B2_000033t.gifJP0005786266B2_000034t.gifJP0005786266B2_000035t.gifJP0005786266B2_000036t.gifJP0005786266B2_000037t.gifJP0005786266B2_000038t.gifJP0005786266B2_000039t.gifJP0005786266B2_000040t.gifJP0005786266B2_000041t.gifJP0005786266B2_000042t.gifJP0005786266B2_000043t.gifJP0005786266B2_000044t.gifJP0005786266B2_000045t.gifJP0005786266B2_000046t.gifJP0005786266B2_000047t.gifJP0005786266B2_000048t.gifJP0005786266B2_000049t.gifJP0005786266B2_000050t.gifJP0005786266B2_000051t.gifJP0005786266B2_000052t.gifJP0005786266B2_000053t.gifJP0005786266B2_000054t.gifJP0005786266B2_000055t.gifJP0005786266B2_000056t.gifJP0005786266B2_000057t.gifJP0005786266B2_000058t.gifJP0005786266B2_000059t.gifJP0005786266B2_000060t.gifJP0005786266B2_000061t.gifJP0005786266B2_000062t.gifJP0005786266B2_000063t.gifJP0005786266B2_000064t.gif
図面
【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
6
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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