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明細書 :アレルギー性疾患治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5858402号 (P5858402)
登録日 平成27年12月25日(2015.12.25)
発行日 平成28年2月10日(2016.2.10)
発明の名称または考案の名称 アレルギー性疾患治療薬
国際特許分類 C07K  14/735       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
A61P  11/02        (2006.01)
A61P  11/06        (2006.01)
A61P  17/00        (2006.01)
A61P  27/14        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C12N   5/078       (2010.01)
FI C07K 14/735 ZNA
A61K 37/02
A61P 43/00 105
A61P 37/08
A61P 11/02
A61P 11/06
A61P 17/00
A61P 27/14
C07K 19/00
C12N 5/078
請求項の数または発明の数 5
全頁数 30
出願番号 特願2011-529981 (P2011-529981)
出願日 平成22年9月7日(2010.9.7)
国際出願番号 PCT/JP2010/065689
国際公開番号 WO2011/027916
国際公開日 平成23年3月10日(2011.3.10)
優先権出願番号 2009206324
優先日 平成21年9月7日(2009.9.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月5日(2013.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】岡山 吉道
【氏名】羅 智靖
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】野村 英雄
参考文献・文献 KIMURA, T. et al.,"Downstream signaling molecules bind to different phosphorylated immunoreceptor tyrosine-based activation motif (ITAM) peptides of the high affinity IgE receptor.",J. BIOL. CHEM.,1996年11月 1日,Vol.271, No.44,P.27962-27968
KIMURA, T. et al.,"Syk-independent tyrosine phosphorylation and association of the protein tyrosine phosphatases SHP-1 and SHP-2 with the high affinity IgE receptor.",J. IMMUNOL.,1997年11月 1日,Vol.159, No.9,P.4426-4434
SOTO-CRUZ, I. et al.,"Analysis of proteins binding to the ITAM motif of the beta-subunit of the high-affinity receptor for IgE (FcepsilonRI).",J. RECEPT. SIGNAL. TRANSDUCT. RES.,2007年 2月,Vol.27, No.1,P.67-81
TAYLOR, J.A. et al.,"Activation of the high-affinity immunoglobulin E receptor Fc epsilon RI in RBL-2H3 cells is inhibited by Syk SH2 domains.",MOL. CELL. BIOL.,1995年 8月,Vol.15, No.8,P.4149-4157
ON, M. et al.,"Molecular dissection of the FcRbeta signaling amplifier.",J. BIOL. CHEM.,2004年10月29日,Vol.279, No.44,P.45782-45790
XIAO, W. et al.,"Positive and negative regulation of mast cell activation by Lyn via the FcepsilonRI.",J. IMMUNOL.,2005年11月15日,Vol.175, No.10,P.6885-6892
調査した分野 C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)又は(b)のペプチド、あるいはその塩を含む、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤。
(a) 下記式(I):
KVPEDRV-Y1-EELNI-Y2-SAT-Y3-SELEDPG (I)
(Y1、Y2及びY3は、いずれもチロシン残基を表し且つこれらのうち少なくともY1及びY3がリン酸化されたチロシン残基である。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b) 上記式(I)で示されるアミノ酸配列において1~2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制活性を有するペプチド。
【請求項2】
前記(a)又は(b)のペプチドが、N末端に細胞膜透過性ペプチドを有するものである、請求項1記載の抑制剤。
【請求項3】
前記マスト細胞がヒトマスト細胞である、請求項1又は2記載の抑制剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の抑制剤を含む、アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用医薬組成物。
【請求項5】
前記アレルギー性疾患が、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息及びアトピー性皮膚炎からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト高親和性IgE受容体β鎖のITAMモチーフのチロシン残基をリン酸化したペプチド、及びこれを含むアレルギー性疾患治療薬等に関する。
【背景技術】
【0002】
マスト細胞は、即時型のアレルギー反応を惹起するのみならず、マスト細胞が産生し放出するケモカイン、サイトカイン及びロイコトリエン等のメディエーターにより、好塩基球及びT細胞等の炎症細胞をアレルギー炎症局所へ動員する。花粉症等の鼻粘膜のアレルギー炎症局所では、マスト細胞はB細胞、T細胞及び樹状細胞等と直接の相互作用を行い、鼻粘膜局所におけるB細胞及びT細胞の増殖並びにIgE(免疫グロブリンE)の産生亢進が惹起さる。その産生されたIgEにより、マスト細胞や樹状細胞におけるヒト高親和性IgE受容体(FcεRI)の発現が増強し、これらの細胞の抗原に対する感受性、すなわち過敏性と過剰な反応性が、ますます増幅される経路が形成される。従って、炎症のコンダクターとしてのマスト細胞の制御が、アレルギー性疾患治療の一つの鍵となる。
そこで、げっ歯類(マウス等)のマスト細胞の活性化を抑制する多くのマスト細胞活性化阻害剤(クロモグリク酸及びアドレナリンβ2刺激薬等)が開発され、抗アレルギー薬として臨床に用いられている(“Okayama Y,Benyon RC,Rees PH,Lowman MA,Hiller K,Church MK:Inhibition profiles of sodium cromoglycate and nedocromil sodium on mediator release from mast cells of human skin,lung,tonsil,adenoid and intestine.Clin Exp Allergy 22(3):401-409,1992.”等を参照)。また、IgEとFcεRIとの結合阻害を目的とした薬剤として、既にヒト化された抗ヒトIgE抗体(omalizumab)が実用化されており、重症気管支喘息の治療に有効であることが示されている(“Holgate,A.
JP0005858402B2_000002t.gifand safety of a recombinant anti-immunoglobulin E antibody in severe allergic asthma,Clin Exp Allergy 34:632-638,2004.”等を参照)。さらに、アレルギー性疾患治療薬として、ヒスタミンに対してはヒスタミン受容体拮抗薬、ロイコトリエンに対してはロイコトリエン受容体拮抗薬、サイトカイン産生に対してはステロイドといった、それぞれのメディエーターの阻害剤が用いられている(“Cohn L,Elias JA,Chupp GL.Asthma:mechanisms of disease persistence and progression.Annu Rev Immunol 22:789-815,2004.”等を参照)。
しかしながら、クロモグリク酸等のいわゆる抗アレルギー薬は、げっ歯類のマスト細胞脱顆粒を低濃度で抑制するが、効果は極めて限定的であり、ヒトのマスト細胞の活性化に対してはほとんど効果が認められない。アドレナリンβ2刺激薬は、ヒトマスト細胞の脱顆粒を抑制するが、容易に脱感作を来たし、長時間使用すると効果は消失する。また、ヒト化された抗ヒトIgE抗体(omalizumab)は、非常に高価であるため、通常のアレルギー性疾患治療薬では効果が認められない重症気管支喘息等の特定の疾患に、適用が限られている。さらに、ヒスタミンやロイコトリエンといった一つ一つのメディエーターを阻害しても、その治療効果には限界があった。
【発明の概要】
【0003】
このような状況下において、ヒトマスト細胞におけるIgE依存性活性化(脱顆粒等)のアレルギー反応を抑制し、かつ脱感作が見られず、さらに生産が容易でコストを安価に抑えることができるアレルギー性疾患の治療薬及び予防薬の開発が望まれていた。
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、リン酸化ペプチド、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制方法、アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用医薬組成物、及びアレルギー性疾患の治療及び/又は予防方法等を提供するものである。
(1)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩。
(a)下記式(I):
KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG (配列番号1) (I)
(Y、Y及びYは、いずれもチロシン残基を表し且つこれらの少なくとも1つがリン酸化されたチロシン残基である。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)上記式(I)で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制活性を有するペプチド。
本発明のペプチド、その誘導体又はこれらの塩(以下、ペプチド等ということがある)は、例えば、前記式(I)で示されるアミノ酸配列中、前記Y、Y及びYのうち少なくともY及びYがリン酸化されたチロシン残基であってもよい。
本発明のペプチド等は、例えば、前記(a)又は(b)のペプチドが、N末端に細胞膜透過性ペプチドを有するものであってもよい。
(2)以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩を含む、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤。
(a)下記式(I):
KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG (配列番号1) (I)
(Y、Y及びYは、いずれもチロシン残基を表し且つこれらの少なくとも1つがリン酸化されたチロシン残基である。Xは任意のアミノ酸残基を表す。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)上記式(I)で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制活性を有するペプチド。
本発明の抑制剤は、例えば、前記式(I)で示されるアミノ酸配列中、前記Y、Y及びYのうち少なくともY及びYがリン酸化されたチロシン残基であってもよい。
本発明の抑制剤は、例えば、前記(a)又は(b)のペプチドが、N末端に細胞膜透過性ペプチドを有するものであってもよい。
本発明の抑制剤は、例えば、前記マスト細胞がヒトマスト細胞であってもよい。
(3)マスト細胞に対して、以下の(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩を作用させる工程を含む、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制方法。
(a)下記式(I):
KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG (配列番号1) (I)
(Y、Y及びYは、いずれもチロシン残基を表し且つこれらの少なくとも1つがリン酸化されたチロシン残基である。)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(b)上記式(I)で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制活性を有するペプチド。
本発明の抑制方法は、例えば、前記作用させる工程が、マスト細胞に前記(a)又は(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩を導入する工程であってもよい。
本発明の抑制方法は、例えば、前記式(I)で示されるアミノ酸配列中、前記Y、Y及びYのうち少なくともY及びYがリン酸化されたチロシン残基であってもよい。
本発明の抑制方法は、例えば、前記(a)又は(b)のペプチドが、N末端に細胞膜透過性ペプチドを有するものであってもよい。
本発明の抑制方法は、例えば、前記マスト細胞がヒトマスト細胞であってもよい。
(4)上記(2)の抑制剤を含む、アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用医薬組成物。
本発明の医薬組成物において、前記アレルギー性疾患としては、例えば、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息及びアトピー性皮膚炎からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、ヒトマスト細胞への各ペプチドの導入をフローサイトメトリー(FACS)により確認した結果を示す図である。
図2は、ヒトマスト細胞への各ペプチドの導入を共焦点レーザー顕微鏡により確認した結果を示す図である。
図3は、ヒトマスト細胞からのヒスタミン遊離の抑制効果の分析結果を示す図である。
図4は、ヒトマスト細胞のプロスタグランジンD産生の抑制効果の分析結果を示す図である。
図5は、IgE依存性ヒトマスト細胞活性化の抑制機序の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2009-206324号明細書(2009年9月7日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.本発明の概要
ヒト高親和性IgE受容体(FcεRI)は、α鎖、β鎖及び2つのγ鎖からなる四量体の形で細胞膜上に発現しており、そのうちFcεRIβ鎖がIgE受容体シグナルの増幅因子であることは、本発明者らにより既にマウスマスト細胞(マウス肥満細胞)の実験系で報告されていた。ヒトマスト細胞(ヒト肥満細胞)にウイルスベクターを用いてFcεRIβ鎖の遺伝子発現を抑制させると、IgE依存性の刺激による脱顆粒、アラキドン酸代謝物の産生、及びサイトカインの産生が抑制されることを、本発明者は確認した。
そこで、本発明者は、FcεRIβ鎖の責任領域を追求したところ、FcεRIβ鎖のITAMモチーフであることを見つけ出した。さらに、本発明者は、このITAMモチーフ中の特定のアミノ酸残基(具体的にはチロシン残基)をリン酸化させたペプチドを細胞膜透過性ペプチドと結合させて、ヒトマスト細胞に導入すると、当該細胞のIgE依存性活性化をほぼ完全に抑制し、脱顆粒(ヒスタミン等の特異顆粒の放出)等のアレルギー反応を効果的に抑えることを確認した。本発明はこのような新規な知見に基づき見出されたものである。
従来知られているマスト細胞活性化阻害薬は、げっ歯類(マウス等)のマスト細胞のIgE依存性活性化は抑制するが、ヒトのマスト細胞の活性化に対する抑制効果は認められていない。また、ヒトマスト細胞の活性化を阻害するものとしては、唯一、ヒト化抗ヒトIgE抗体(IgEとFcεRIとの結合を阻害)が知られているが、極めて高価であるため、日常的な使用には適さず、実用性に欠けるものであった。
これに対し、本発明は、上述の通り、特定のリン酸化ペプチド、すなわちチロシン残基をリン酸化させたFcεRIβ鎖のITAMモチーフを有するペプチドが、ヒトマスト細胞におけるIgE依存性活性化、ひいては脱顆粒等のアレルギー反応を、ほぼ完全に抑制し得るという新規な知見に基づき完成されたものであり、極めて有用性の高いものである。また、本発明のペプチドは、化学合成により得ることができ、前述した抗ヒトIgE抗体に比べて生産が容易であり且つコストを非常に安価に抑えることができるため、当該ペプチド、並びにこれを用いたマスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤、及びアレルギー性疾患治療用及び/又は予防用医薬組成物等は、日常的な使用用途にも適する極めて実用性に優れたものである。
2.マスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤
本発明に係るマスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤(以下、本発明の抑制剤という。)は、先に述べた通り、下記(a)のペプチド(リン酸化ペプチド)を含むものである。
(a)下記式(I):
KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG (配列番号1) (I)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
上記(a)のペプチド中、式(I)のアミノ酸配列は、アミノ酸の1文字表記を用いて示したものであり、例えば、Kはリジン(Lys)、Vはバリン(Val)、Eはグルタミン酸(Glu)を意味する。
ここで、式(I)のアミノ酸配列中、Y、Y及びYは、いずれもチロシン(Tyr)残基を表すが、これらY、Y及びYは少なくとも1つがリン酸化されたチロシン残基であり、好ましくはY、Y及びYは少なくとも2つがリン酸化されたチロシン残基、より好ましくはY、Y及びYのうち少なくともY及びYがリン酸化されたチロシン残基、さらに好ましくはY、Y及びYがすべてリン酸化されたチロシン残基である。本明細書では、他のアミノ酸配列を示す場合も、式(I)と同様に1文字表記で表すことがある。
前記式(I)のアミノ酸配列としては、例えば、以下の配列番号2及び配列番号3に示されるアミノ酸配列が好ましく挙げられ、なかでも配列番号2に示されるアミノ酸配列がより好ましい。
KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG (配列番号2)
(但し、当該アミノ酸配列中、Y及びYはリン酸化されたチロシン残基であり、Yはリン酸化されていないチロシン残基を表す。)
KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG (配列番号3)
(但し、当該アミノ酸配列中、Y、Y及びYはいずれもリン酸化されたチロシン残基を表す。)
本発明において、「ペプチド」とは、少なくとも2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合して構成されたものを意味し、オリゴペプチド、ポリペプチドなどが含まれる。さらに、ポリペプチドが一定の立体構造を形成したものはタンパク質と呼ばれるが、本発明においては、このようなタンパク質も上記「ペプチド」に含まれるものとする。従って、本発明の抑制剤に含まれるペプチドは、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれをも意味し得るものである。
また本発明の抑制剤は、先に述べた通り、下記(b)のペプチドを含むものであってもよい。
(b)前記式(I)で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制活性を有するペプチド。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1個~5個程度、好ましくは1個~2個程度のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が挙げられ、限定はされない。ただし本発明においては、前記式(I)で示されるアミノ酸配列における第8番目、第14番目、第17番目のアミノ酸残基(それぞれ順に、Y、Y、Y)が欠失、置換又は付加されていないものが好ましい。上記欠失、置換、付加等の変異の導入は、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えば、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、及びTaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、上記欠失、置換又は付加の変異が導入されたペプチドであるかどうかは、各種アミノ酸配列決定法、並びにX線及びNMR等による構造解析法などを用いて確認することができる。
本発明において、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制活性とは、IgE依存性の刺激によるマスト細胞の脱顆粒、アラキドン酸代謝物(プロスタグランジンD等)の産生及びサイトカインの産生が抑制される活性(好ましくは、IgE依存性の刺激によるマスト細胞の脱顆粒)を意味し、当該活性は、例えば、ヒスタミンアッセイキット(例えば、Immunotech A Beckman Coulter社製、製品名:histamine EIA kit)、アラキドン酸代謝物アッセイキット(例えば、Cayman Chemical社製、製品名:PGD MOX EIA kit)、サイトカインアッセイキット(例えば、R&D Systems社製、製品名:TNF-alpha ELISA kit)等により測定することができる。なお、本発明において、マスト細胞としては、限定はされないが、ヒトマスト細胞であることが好ましい。
本発明の抑制剤に含まれる前記(a)又は(b)のペプチドは、前記式(I)のアミノ酸配列を含むペプチド、又は前記欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチドである限り、その構成アミノ酸の残基数は限定されず、好ましくは17残基以上(前記欠失されたアミノ酸の場合等)、より好ましくは25残基以上であり、例えば25~100残基であってもよいし、25~50残基であってもよいし、25~40残基であってもよいし、25~30残基であってもよい。
前記(a)又は(b)のペプチドは、天然物由来のペプチドであってもよいし、人工的に化学合成して得られたものであってもよく、限定はされない。人工的に化学合成して得られるペプチドである場合は、生産が容易であり、コストを安価に抑えて大量調製することができるため好ましい。天然物由来のペプチドである場合は、IgE依存性活性化抑制の目的とする細胞(マスト細胞)以外の細胞に対する細胞毒性等の悪影響がない場合が多いため好ましい。なお、前述したY、Y及びYのチロシン残基をリン酸化する方法としては、限定はされず、公知の方法が採用できるが、例えば、化学合成によりペプチドを得る場合は、予めリン酸化したチロシン残基(市販品等)を用いることにより、ペプチド中の所望のチロシン残基をリン酸化した状態にすることもできる。
化学合成ペプチドは、公知のペプチド合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてペプチドを精製することができる。
また、天然物由来のペプチドとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のペプチドは、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得てもよいし、又は、公知の遺伝子組換え技術により、当該ペプチドをコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)及びRTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該ペプチドを産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。
本発明の抑制剤に含まれる前記(a)又は(b)のペプチドは、N末端に細胞膜透過性ペプチドを有するものであることが好ましい。この細胞膜透過性ペプチドとしては、具体的には、マスト細胞の細胞膜透過性を有するシグナルペプチドであることが好ましく、例えば下記の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられるが、限定はされず、マスト細胞の細胞膜透過性を有するペプチドであれば、いずれも本発明でいう細胞膜透過性ペプチドに含まれるものとする。
AAVLLPVLLAAP(配列番号4)
上記細胞膜透過性ペプチド(配列番号4)が、前述した式(I)のアミノ酸配列からなるペプチド(配列番号1)のN末端に結合しているペプチドとしては、下記式(I’)のアミノ酸配列からなるペプチド(配列番号5)が挙げられる。なお、式(I)のアミノ酸配列からなるペプチド中のアミノ酸表記(特に、Y、Y、Y)に関しては、配列番号1に示されるアミノ酸配列について前述した説明が適用できる。
AAVLLPVLLAAP-KVPEDRV-Y-EELNI-Y-SAT-Y-SELEDPG
(配列番号5)
本発明の抑制剤は、前記(a)又は(b)のペプチドとともに又はそれに代えて、当該ペプチドの誘導体を含むことができる。当該誘導体とは、前記(a)又は(b)のペプチドに由来して調製され得るものをすべて含む意味であり、例えば、構成アミノ酸の一部が非天然のアミノ酸に置換されたものや、構成アミノ酸(主にその側鎖)の一部に化学修飾が施されたもの等が挙げられる。
本発明の抑制剤は、前記(a)或いは(b)のペプチド、及び/又は当該ペプチドの誘導体とともに又はそれに代えて、当該ペプチド及び/又は当該誘導体の塩を含むことができる。当該塩としては、生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸などの無機酸との塩、あるいは酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。塩基性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウムなどの無機塩基との塩、あるいはカフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
塩は、塩酸などの適切な酸、又は水酸化ナトリウムなどの適切な塩基を用いて調製することができる。例えば、水中、又はメタノール、エタノール若しくはジオキサンなどの不活性な水混和性有機溶媒を含む液体中で、標準的なプロトコルを用いて処理することにより調製することができる。
本発明の抑制剤は、上述した(a)若しくは(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩からなるものであってもよいし、当該ペプチド、その誘導体又はこれらの塩と他の成分とを含むものであってもよく、限定はされない。他の成分としては、例えば、PBS及びTris-HCl等の緩衝液、並びにアジ化ナトリウム及びグリセロール等の添加剤などが挙げられる。他の成分を含む場合、その含有割合は、上記ペプチド、その誘導体又はこれらの塩によるマスト細胞のIgE依存性活性化抑制効率の上昇活性が著しく妨げられない範囲で、適宜設定することができる。具体的には、上記ペプチドの溶液で用いる場合、ペプチド濃度は、限定はされないが、100nM以上であることが好ましく、より好ましくは100~500nM、さらに好ましくは500~1,000nM、さらにより好ましくは1,000~2,000nM、特に好ましくは2,000~5,000nM、最も好ましくは5,000nMである。
本発明の抑制剤による、IgE依存性活性化抑制の対象となる細胞としては、アレルギー性疾患の発症に関与し得るマスト細胞であればよく、限定はされないが、特にヒト由来のマスト細胞(ヒトマスト細胞)であることが好ましい。
本発明においては、本発明の抑制剤を用いる、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制方法も提供することができる。当該誘導方法は、マスト細胞に対して本発明の抑制剤を作用させる工程を含む方法であり、それ以外に何らかの工程を含むものであってもよく、限定はされない。本発明の抑制剤を作用させる工程とは、マスト細胞の細胞内に本発明の抑制剤を導入する工程ことを意味することが好ましい。なお、マスト細胞内に本発明の抑制剤を導入する場合は、本発明の抑制剤の有効成分である前述した(a)又は(b)のペプチドを、当該細胞内に直接導入してもよいし、あるいは当該ペプチドをコードする(当該ペプチドを発現可能な)DNAの状態で導入(遺伝子導入)してもよく、限定はされない。DNAの導入は、リポソーム法(リポプレックス法)、ポリプレックス法、ペプチド法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、及びウイルスベクター法などの公知の各種遺伝子導入方法を用いて行うことができる。
3.DNA、組換えベクター、形質転換体
(1)DNA
本発明においては、前記(a)又は(b)のペプチドを構成するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAも包含される(但し、当該DNAを考慮するに当たっては、上記ペプチド中のリン酸化チロシン残基は非リン酸化チロシン残基であるとして扱う。)。当該DNAは、前記(a)又は(b)のペプチドをコードする塩基配列からなるDNAであってもよいし、あるいは、当該塩基配列を一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含んでなるDNAであってもよく、限定はされない。なお、前記(a)又は(b)のペプチドをコードする塩基配列では、コドンの種類は限定されず、例えば、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよいし、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に使用されているコドンを用いたものであってもよく、適宜選択又は設計することができる。
また本発明においては、前記(a)又は(b)のペプチドをコードする塩基配列を含むDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、塩(ナトリウム)濃度が150~900mMであり、温度が55~75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が150~200mMであり、温度が60~70℃での条件をいう。
(2)DNAを含む組換えベクター
本発明においては、適当なベクターに上記本発明のDNAを連結(挿入)することにより得られる組換えベクターも包含される。本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルス等が挙げられる。
プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。またウイルスとしてはアデノウイルスやレトロウイルスなどが挙げられる。
本発明の組換えベクターには、プロモーター、本発明のDNAのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを連結することができる。なお、選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその変異体(EGFP、BFP、YFP等の蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、LacZ等の遺伝子が挙げられる。
(3)形質転換体
本発明においては、上記本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入して得ることができる形質転換体も包含される。宿主としては、本発明のDNAを発現し得るものであれば限定されず、例えば、当該分野において周知の細菌、酵母等を用いることができる。
細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列を含めることができる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)などが挙げられる。プロモーターとしては、例えばlacプロモーターなどが用いられる。細菌へのベクター導入法としては、公知の各種導入方法、例えばカルシウムイオン法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが用いられる。この場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター等が挙げられる。酵母へのベクター導入法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
4.医薬組成物
本発明の抑制剤(前述した(a)及び(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩そのものと考えることもできる。)は、医薬組成物に含まれる有効成分として有用である。
当該医薬組成物は、アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用の医薬組成物として有用である。特に、本発明の抑制剤は、マスト細胞(特にヒトマスト細胞)に対して、当該細胞のIgE依存性活性化をほぼ完全に抑制し、脱顆粒(ヒスタミン等の特異顆粒の放出)等のアレルギー反応を効果的に抑制する活性を有するものであるため、各種アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用に使用されることが好ましい。すなわち、本発明の抑制剤は、アレルギー性疾患の治療剤及び/又は予防剤に含まれる有効成分として有用なものである。
本発明の医薬組成物は、本発明の抑制剤を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。また、本発明の抑制剤(前述した(a)及び(b)のペプチド)を生体内に投与する場合は、コロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチドの生体内の安定性を高めたり、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであればよく限定はされないが、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げることができ、好ましくは、特定の臓器、組織又は細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞である。
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される本発明の抑制剤(前述した(a)及び(b)のペプチド)の種類などにより異なっていてもよい。通常、成人一人あたり、一回につき100μg~5000mgの範囲で投与することができるが、限定はされない。
例えば注射剤により投与する場合は、ヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、100μg~100mgの量を、1日平均あたり1回~数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
なお、本発明は、アレルギー性疾患を治療及び/又は予防する医薬(薬剤)を製造するための、前記本発明の抑制剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用の前記本発明の抑制剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩)を提供するものでもある。
さらに、本発明は、前記本発明の抑制剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩)を用いること(すなわち患者に投与すること)を特徴とする、アレルギー性疾患の治療及び/又は予防方法を提供するものであり、また、アレルギー性疾患を治療及び/又は予防するための、前記本発明の抑制剤(あるいは前述した(a)及び(b)のペプチド、その誘導体又はこれらの塩)の使用を提供するものでもある。
本発明において、治療及び/又は予防の対象となり得るアレルギー性疾患としては、限定はされないが、例えば、季節性アレルギー性鼻炎、通年性アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、急性蕁麻疹、慢性蕁麻疹、アナフィラキシー、ペニシリンなどの薬剤アレルギー、蜂アレルギーなどの昆虫アレルギー、アトピー性湿疹、食物アレルギー、肥満細胞腫、間質性膀胱炎、過敏性大腸症候群等が好ましく挙げられ、中でも、季節性アレルギー性鼻炎、通年性アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息、急性蕁麻疹、蜂アレルギー、食物アレルギーがより好ましい。
5.キット
本発明においては、構成成分として本発明の抑制剤を含むことを特徴とする、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制用キットも提供される。本発明のキットは、マスト細胞に対して、簡便に且つ効果的にIgE依存性活性化抑制を行うために用いることができるため、前述した各種アレルギー性疾患の治療及び/又は予防の分野に限らず、各種実験・研究等の分野においても極めて有用性が高いものである。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
<ペプチドの合成>
ペプチド合成機(島津製作所製、製品名:PSSM-8)を用いて以下のペプチドA~Gを合成し、各ペプチドのC末端をFITC標識した。
ペプチドA~Dは、ヒト高親和性IgE受容体(FcεRI)β鎖のアミノ酸配列(配列番号17;計244アミノ酸残基;GenBankアクセッション番号:BAA01440)の第212番目~第236番目のアミノ酸配列(計25アミノ酸残基)のN末端に、細胞膜透過性ペプチド(AAVLLPVLLAAP(配列番号4))を結合させたアミノ酸配列からなるペプチドである。なお、上記FcεRIβ鎖のアミノ酸配列をコードするcDNAを含む塩基配列(GenBankアクセッション番号:D10583)については配列番号16に示す通りである。
但し、ペプチドA~D中、FcεRIβ鎖由来の計25アミノ酸残基からなるペプチド部分の第8番目、第14番目及び第18番目のチロシン残基が、ペプチドAでは全て非リン酸化、ペプチドBでは第14番目のみリン酸化、ペプチドCでは第8番目及び第18番目のみリン酸化、ペプチドDではすべてリン酸化されたものとなるようにした。ペプチドB~D中、リン酸化されたチロシン残基は「Y(p)」と表記した。なお、所望のチロシン残基のリン酸化は、予めそのようにリン酸化したチロシン残基(市販品、渡辺化学工業(株)社製、製品名:Fmoc-Tyr{PO(OBzl)OH}-OH)をペプチド合成に供することにより達成した。
ペプチドE~Gは、ペプチドAにおいてFcεRIβ鎖のアミノ酸配列(配列番号17)の第212番目~第236番目のアミノ酸配列を用いた代わりに、ペプチドEではFcεRIβ鎖のアミノ酸配列の第1番目~第25番目のアミノ酸配列(N末端)を、ペプチドFではFcεRIβ鎖のアミノ酸配列の第202番目~第230番目のアミノ酸配列を、ペプチドGではFcεRIβ鎖のアミノ酸配列の第220番目~第244番目のアミノ酸配列を用いた以外は、ペプチドAと同様にして合成した。
・ペプチドA(配列番号6)
AAVLLPVLLAAP-KVPEDRVYEELNIYSATYSELEDPG-FITC
・ペプチドB(配列番号7)
AAVLLPVLLAAP-KVPEDRVYEELNIY(p)SATYSELEDPG-FITC
・ペプチドC(配列番号8)
AAVLLPVLLAAP-KVPEDRVY(p)EELNIYSATY(p)SELEDPG-FITC
・ペプチドD(配列番号9)
AAVLLPVLLAAP-KVPEDRVY(p)EELNIY(p)SATY(p)SELEDPG-FITC
・ペプチドE(配列番号10)
AAVLLPVLLAAP-MDTESNRRANLALPQEPSSVPAFEV-FITC
・ペプチドF(配列番号11)
AAVLLPVLLAAP-CGAGEELKGNKVPEDRVYEELNIYS-FITC
・ペプチドG(配列番号12)
AAVLLPVLLAAP-EELNIYSATYSELEDPGEMSPPIDL-FITC
【実施例2】
【0007】
<ヒトマスト細胞への各ペプチドの導入>
ヒトマスト細胞(成人末梢血由来培養マスト細胞(以下同様))と実施例1で合成したペプチドA~Gとを、それぞれ、37℃で10分インキュベートした後、パラホルムアルデヒド固定して、FACS(Becton Dickinson社製、製品名:LSR II)により観察した。陽性コントロールとしてARF2-17(ADP-RIBOSYLATION FACTOR2の暫定番号17番目のペプチド;核周囲に存在することが知られている)を用い、陰性コントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。その結果を図1に示した。図1において、×500及び×1000はそれぞれペプチド濃度2μM及び1μMに対応し、ヒストグラムの中の数値はisotype controlに対する各ペプチドのintensityの比である(MFI)。
図1の結果から、ペプチドA~Gはいずれもヒトマスト細胞に導入されていることが認められた。
上記観察において、FACSに代えて共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察を行った(ペプチド濃度:2μM)。その結果を図2に示した。
図2の結果からも、ペプチドA~Gはいずれもヒトマスト細胞の細胞質、特に細胞膜付近に導入されていることが認められた。
【実施例3】
【0008】
<ヒトマスト細胞からのヒスタミン遊離の抑制>
ヒトマスト細胞をヒト組換えIgE(1μg/mL)で24時間感作したのち洗浄した。実施例1で合成したペプチドA~G(それぞれ2μM)とヒトマスト細胞とを、37℃で10分インキュベートした。なお、陰性コントロールとしてDMSOを用いた。次いで、抗IgE抗体又はcalcium ionophore A23187により37℃で30分インキュベートし、その後、細胞上清中に遊離されたヒスタミンを細胞内の何%に当たるかで表した(各アッセイはtriplicatesで行った。N=4,P<0.05,**P<0.01,***P<0.001)。その結果を図3に示した。なお、図3中、「Spon」とは抗IgE抗体又はcalcium ionophoreを加えずに37℃で30分インキュベートしたものを意味し、また「αIgE」は抗IgE抗体刺激を、「A23187」はcalcium ionophore A23187刺激を意味する。
図3の結果から、ペプチドD及びペプチドCが、IgE依存性のマスト細胞からのヒスタミン遊離を統計学的に有意に抑制することが認められた。統計処理はunpaired Student’s t-testを用いた。
【実施例4】
【0009】
<ヒトマスト細胞のプロスタグランジンD(PGD)産生の抑制>
ヒト組換えIgE(1μg/mL)で24時間感作したのち洗浄した。実施例1で合成したペプチドA~G(それぞれ2μM)とヒトマスト細胞とを、37℃で10分インキュベートした。なお、陰性コントロールとしてDMSOを用いた。次いで、抗IgE抗体又はcalcium ionophore A23187により37℃で30分インキュベートし、その後、細胞上清中に産生されたPGDを、濃度(/2500cells/mL)で表した(N=3,P<0.05,**P<0.01,***P<0.001)。その結果を図4に示した。なお、図4中、「Spon」とは抗IgE抗体又はcalcium ionophoreを加えずに37℃で30分インキュベートしたものを意味し、「αIgE」は抗IgE抗体刺激、「A23187」はcalcium ionophore A23187刺激を意味する。
図4の結果から、ペプチドD及びペプチドCが、IgE依存性のマスト細胞からのPGDの産生を統計学的に有意に抑制することが認められた。統計処理はunpaired Student’s t-testを用いた。
【実施例5】
【0010】
<IgE依存性ヒトマスト細胞活性化の抑制機序の解析>
実施例1で合成したペプチドA、D及びEにおいて、細胞膜透過性ペプチド(AAVLLPVLLAAP(配列番号4))部分を除いたペプチドを、実施例1と同様の方法により合成(及び必要によりリン酸化)し、それぞれペプチドA’、D’及びE’とした。これらペプチドA’、D’及びE’のN末端にBiotinを結合させた。
・ペプチドA’(配列番号13)
Biotin-KVPEDRVYEELNIYSATYSELEDPG
・ペプチドD’(配列番号14)
Biotin-KVPEDRVY(p)EELNIY(p)SATY(p)SELEDPG
・ペプチドE’(配列番号15)
Biotin-MDTESNRRANLALPQEPSSVPAFEV
上記Biotin化ペプチドA’、D’及びE’を用いて、U937細胞及びヒトマスト細胞のcell lysatesと免疫沈降(immunoprecipitation:IP)を行い、細胞内情報伝達分子であるLynタンパク質(Lyn)との会合を調べた。具体的には、Biotin化ペプチドA’、D’及びE’(それぞれ5μM)と3x10個のU937細胞及びヒトマスト細胞のcell lysatesを、4℃で2時間インキュベートし、遠心し、沈殿を回収、洗浄し、これを電気泳動(ウエスタンブロット:WB)し、抗Lynモノクローナル抗体(anti-Lyn)と反応させ、各ペプチドとLynとの会合を検出した。その結果を図5に示した。
図5の結果から、ペプチドD’がマスト細胞内の情報伝達分子であるLynと会合することが分かった。すなわち、内在性のFcεRIβ鎖と会合しマスト細胞内の情報伝達分子として働くべきLynが、ペプチドD’と会合してしまい、ペプチドD’がdominant negativeとして働くことで、IgE依存性ヒトマスト細胞活性化を抑制していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明によれば、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制剤、マスト細胞のIgE依存性活性化抑制方法、アレルギー性疾患の治療用及び/又は予防用医薬組成物、及びアレルギー性疾患の治療及び/又は予防方法等、並びにこれらに用いることができるリン酸化ペプチドを提供することができる。
本発明のリン酸化ペプチドは、マスト細胞(好ましくはヒトマスト細胞)に導入すると、当該細胞のIgE依存性活性化をほぼ完全に抑制することができ、ひいては、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息及びアトピー性皮膚炎等の各種アレルギー性疾患の治療薬の有効成分として用いることができる点で、極めて有用なものである。
【配列表フリ-テキスト】
【0012】
配列番号1:ペプチド
配列番号1:存在位置:8,14,18のチロシン(Tyr)残基は、リン酸化又は非リン酸化残基であり、少なくとも1つがリン酸化チロシン残基である。
配列番号2:ペプチド
配列番号2:存在位置:8,18のチロシン(Tyr)残基はリン酸化チロシン残基である。
配列番号3:ペプチド
配列番号3:存在位置:8,14,18のチロシン(Tyr)残基はリン酸化チロシン残基である。
配列番号4:ペプチド
配列番号5:ペプチド
配列番号5:存在位置20,26,30のチロシン(Tyr)残基は、リン酸化又は非リン酸化残基であり、少なくとも1つがリン酸化チロシン残基である。
配列番号6:ペプチド
配列番号7:ペプチド
配列番号7:存在位置26のチロシン(Tyr)残基はリン酸化チロシン残基である。
配列番号8:ペプチド
配列番号8:存在位置20,30のチロシン(Tyr)残基はリン酸化チロシン残基である。
配列番号9:ペプチド
配列番号9:存在位置20,26,30のチロシン(Tyr)残基はリン酸化チロシン残基である。
配列番号10:ペプチド
配列番号11:ペプチド
配列番号12:ペプチド
配列番号13:ペプチド
配列番号14:ペプチド
配列番号14:存在位置:8,14,18のチロシン(Tyr)残基はリン酸化チロシン残基である。
配列番号15:ペプチド
[配列表]
JP0005858402B2_000003t.gifJP0005858402B2_000004t.gifJP0005858402B2_000005t.gifJP0005858402B2_000006t.gifJP0005858402B2_000007t.gifJP0005858402B2_000008t.gifJP0005858402B2_000009t.gifJP0005858402B2_000010t.gifJP0005858402B2_000011t.gifJP0005858402B2_000012t.gifJP0005858402B2_000013t.gifJP0005858402B2_000014t.gif
図面
【図1】
0
【図5】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4