TOP > 国内特許検索 > 前立腺癌の予後判定方法及びそのための診断薬 > 明細書

明細書 :前立腺癌の予後判定方法及びそのための診断薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5142288号 (P5142288)
登録日 平成24年11月30日(2012.11.30)
発行日 平成25年2月13日(2013.2.13)
発明の名称または考案の名称 前立腺癌の予後判定方法及びそのための診断薬
国際特許分類 G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
FI G01N 33/574 A
G01N 33/53 D
G01N 33/53 Y
A61K 39/395 E
請求項の数または発明の数 5
全頁数 9
出願番号 特願2008-510894 (P2008-510894)
出願日 平成19年3月30日(2007.3.30)
国際出願番号 PCT/JP2007/057048
国際公開番号 WO2007/119606
国際公開日 平成19年10月25日(2007.10.25)
優先権出願番号 2006104315
優先日 平成18年4月5日(2006.4.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年1月22日(2010.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】梁 明秀
【氏名】青木 一郎
【氏名】佐々木 毅
個別代理人の代理人 【識別番号】100088546、【弁理士】、【氏名又は名称】谷川 英次郎
審査官 【審査官】竹中 靖典
参考文献・文献 特開2002-511564(JP,A)
特開2004-73096(JP,A)
調査した分野 G01N 33/574
A61K 39/395
G01N 33/53
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトから分離された前立腺組織中の、254番目のスレオニンがリン酸化されているヒトNF-κB-p65/RelAを測定することを含む、前立腺癌の転移の可能性の判定方法。
【請求項2】
254番目のスレオニンがリン酸化されているヒトNF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応するが、254番目のスレオニンがリン酸化されていないヒトNF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応しない抗体又はその抗原結合性断片を用いた免疫測定により行なう請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記免疫測定が免疫組織化学染色である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記転移が骨への転移である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
254番目のスレオニンがリン酸化されているヒトNF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応するが、254番目のスレオニンがリン酸化されていないヒトNF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応しない抗体又はその抗原結合性断片を含む、前立腺癌の転移の可能性を判定するための診断薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌の転移の可能性の判定方法及びそのための診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは米国では男性のがん罹患率では第一位の病気である。日本でも食生活の欧米化など生活習慣の変化に伴い増加の一途を辿っている(非特許文献1)。前立腺癌は発生初期段階では特有な症状はなく,前立腺肥大症と合併することが多いため,前立腺肥大症と似ており,排尿困難や夜間頻尿,尿意切迫感などを認めることがある。そのため、最近では特に症状はなくとも,健康診断や人間ドッグで血液中PSA前立腺特異抗原の測定で見つかることがほとんどである。前立腺癌は転移を高頻度に起こすことが特徴であり、進行癌が骨転移による腰痛でみつかることもある(非特許文献2)。
【0003】
前立腺癌の予後を決定する因子として、手術前の進展度(stage)が重要である(以下)。
Stage A: 前立腺肥大症の手術や,膀胱がんの手術などのときに偶然発見された場合
Stage B: がんが前立腺の中にとどまっている場合.
Stage C: 他の臓器(骨,リンパ節,肺,肝臓など)への転移は無いが,がんが前立腺の被膜(周りを被っている膜)を超えて外にでている場合.
Stage D: 骨やリンパ節など他の臓器に転移をしている場合.
【0004】
StageAからCの症例については、基本的に前立腺全摘出術を行なうものの、数年以内に術後再発をきたす例が相当数認められる。とくにホルモン治療抵抗性と転移は生命予後を悪化させる重要な因子であり、初期の段階でこれらを予測することは、患者の治療法や対処法の選択のため臨床的に大きな意味をもつ。しかし、早期の段階で前立腺癌の予後、特に転移を予測する分子マーカーは現在のところ存在しない。
【0005】
一方、転写因子の1つである NF-κB (核因子(nuclear factor, NF)-κB)の活性をブロックすると、ヒト前立腺癌における血管新生、浸潤及び転移が抑制されることが知られている(非特許文献3)。すなわち、非特許文献3には、NF-κB活性を阻害する変異型のIκBαの遺伝子を、転移性のヒト前立腺癌細胞PC-3Mに導入し、これをヌードマウスに移植し、変異型のIκBαの遺伝子を導入していないヒト前立腺癌細胞PC-3Mを移植した場合と比較したところ、変異型IκBαによりNF-κBの活性を抑制したヒト前立腺癌細胞を移植した群では、血管新生、浸潤及び転移が抑制されたことが記載されている。また、非特許文献4には、前立腺癌細胞中では、NF-κBの発現が有意に核内で起きていることが記載されている。さらに、非特許文献5には、蛋白質中に含まれる、リン酸化されたスレオニン又はセリンと、それに続くプロリンの配列に特異的に作用するペプチジル-プロリルイソメラーゼの1種であるPin1が、NF-κBのサブユニットであるp65/RelAの254番目のスレオニンがリン酸化されたものに作用することにより、NF-κB-p65/RelAがNF-κB の阻害因子であるIκBαと結合することが阻害され、それによってNF-κB-p65/RelAの核内蓄積及び安定性が増大し、ひいてはNF-κBの活性が高まることが記載されている。
【0006】

【非特許文献1】Wakai K. Descriptive epidemiology of prostate cancer in Japan and Western countries Nippon Rinsho. 2005 Feb;63(2):207-12.
【非特許文献2】Loberg RD, Gayed BA, Olson KB, Pienta KJ. A paradigm for the treatment of prostate cancer bone metastases based on an understanding of tumor cell-microenvironment interactions. J Cell Biochem. 2005 Oct 15;96(3):439-46.
【非特許文献3】Huang S, Pettaway CA, Uehara H, Bucana CD, Fidler IJ.Blockade of NF-kappaB activity in human prostate cancer cells is associated with suppression of angiogenesis, invasion, and metastasis. Oncogene. 2001 Jul 12;20(31):4188-97.
【非特許文献4】Lessard L, Begin LR, Gleave ME, Mes-Masson AM, Saad F. Nuclear localisation of nuclear factor-kappaB transcription factors in prostate cancer: an immunohistochemical study. Br J Cancer. 2005 Oct 31;93(9):1019-23.
【非特許文献5】Ryo A, Suizu F, Yoshida Y, Perrem K, Liou YC, Wulf G, Rottapel R, Yamaoka S, Lu KP. Regulation of NF-kappaB signaling by Pin1-dependent prolyl isomerization and ubiquitin-mediated proteolysis of p65/RelA. Mol Cell. 2003 Dec;12(6):1413-26.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前立腺癌が転移する可能性を判定する方法及びそれに用いられる診断薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、骨転移が見られた前立腺癌細胞中では、NF-κB-p65/RelAの第254番目のスレオニンがリン酸化されている確率が、骨転移が見られなかった前立腺癌細胞に比較して有意に高くなっていることを見出し、NF-κB-p65/RelAの第254番目のスレオニンがリン酸化されているか否かを調べることにより、前立腺癌の転移の可能性を早期の段階で予測することが可能であることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒトから分離された前立腺組織中の、254番目のスレオニンがリン酸化されているヒトNF-κB-p65/RelAを測定することを含む、前立腺癌の転移の可能性の判定方法を提供する。また、本発明は、254番目のスレオニンがリン酸化されているヒトNF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応するが、254番目のスレオニンがリン酸化されていないヒトNF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応しない抗体又はその抗原結合性断片を含む、前立腺癌の転移の可能性を判定するための診断薬を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、前立腺癌の転移の可能性を、早期の段階で予測可できる手段が初めて提供された。本発明によれば、前立腺癌の転移の可能性を、早期の段階で予測することができるので、患者の治療法や対処法を的確に選択することが可能であり、前立腺癌の治療に大いに貢献するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例において行った前立腺癌組織の免疫組織化学染色の結果が強陽性、陽性、陰性である各比率を骨転移がない症例とある症例とで比較して示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
NF-κBは、ほとんどの細胞において広く発現している転写因子であり、細胞の核内で発現するため核因子と呼ばれる。NF-κB-p65/RelAは、NF-κBのサブユニットの1つである。ヒトNF-κB-p65/RelAのアミノ酸配列及びそれをコードするcDNA配列は既に公知であり、GenBank Accession No. M62399に記載されている。配列表の配列番号1に、ヒトNF-κB-p65/RelAのcDNAの塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列、配列番号2に、該アミノ酸配列を取り出して示す。
【0013】
本発明の方法では、ヒトNF-κB-p65/RelAのアミノ酸配列中、254番目のスレオニンがリン酸化されているヒトNF-κB-p65/RelA(以下、便宜的に「254リン酸化NF-κB-p65/RelA」と略記することがある)を測定する。スレオニンがリン酸化されているとは、スレオニンの側鎖中の水酸基がリン酸エステル化されていることを意味し、リン酸化されたスレオニン自体は周知である。また、本発明における「測定」には、検出、半定量及び定量のいずれもが包含される。また、「254リン酸化NF-B-p65/RelAを測定する」とは、254リン酸化NF-κB-p65/RelAを、254番目のスレオニンがリン酸化されていないNF-κB-p65/RelA(以下、「254非リン酸化NF-κB-p65/RelA」と略記することがある)と区別して測定することを意味する。
【0014】
254リン酸化NF-κB-p65/RelAを測定する好ましい方法として、254リン酸化NF-κB-p65/RelAとは抗原抗体反応するが、254非リン酸化NF-B-p65/RelAとは抗原抗体反応しない抗体(以下、「254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体」と呼ぶことがある)又はその抗原結合性断片を用いた免疫測定を挙げることができる。
【0015】
254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。254リン酸化NF-B-p65/RelA特異ポリクローナル抗体は、254リン酸化NF-B-p65/RelA又は254番目のスレオニンを含むその断片を免疫原として常法によりポリクローナル抗体を作製し、得られた抗254リン酸化NF-B-p65/RelAポリクローナル抗体から、254非リン酸化NF-B-p65/RelAにも抗原抗体反応する抗体を吸着除去することにより得ることができる(下記実施例参照)。モノクローナル抗体の場合には、254リン酸化NF-B-p65/RelA又は254番目のスレオニンを含むその断片を免疫原として常法により抗254リン酸化NF-B-p65/RelAモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製し、得られたハイブリドーマのうち、254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これをin vitro又は動物の腹腔内等で培養し、その培養上清又は腹水から該ハイブリドーマが産生する254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を回収することにより得ることができる。なお、免疫測定には、254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を用いることもできるし、そのFab断片やF(ab')2断片のような、抗原との結合性を有する断片(本発明において「抗原結合性断片」と呼ぶ)を用いることもできる。
【0016】
抗254リン酸化NF-B-p65/RelA抗体の作製に用いられる免疫原としては、上記のように254リン酸化NF-B-p65/RelAの分子全体を用いることもできるし、254番目のスレオニンを含むその断片を免疫原として用いることもできる。後者の場合、そのペプチド断片のサイズとしては、10アミノ酸以上が好ましく、さらに好ましくは12アミノ酸以上である。下記実施例では、12アミノ酸の断片((VFRT(PO3H2)PPYADPSC)(配列番号3)、Tの後の(PO3H2)は、このスレオニン(T)の側鎖の水酸基がリン酸化されていることを示す)を免疫原として用いて254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を得ているので、サイズは12アミノ酸あれば十分である。もっとも、当然ながら、これより長いもの(最長は254リン酸化NF-B-p65/RelA分子全体)も免疫原として利用可能である。免疫原として用いることができる254リン酸化NF-B-p65/RelAのペプチド断片は、市販のペプチド合成装置を用いて容易に化学合成することができる。なお、リン酸化されたスレオニン自体は市販されているので、ペプチドを化学合成する際、254番目のスレオニンに相当するスレオニンを結合する段階で、市販のリン酸化スレオニンを材料として用いて結合すれば、254番目のスレオニンに相当するスレオニンとしてリン酸化スレオニンを含むペプチド断片を合成することができる。免疫原としてペプチド断片を用いる場合、ペプチド断片は、そのままで免疫原として投与してもよいし、免疫応答をさらに高めるために、常法に従い、ウシ血清アルブミン、カゼイン、キーホールリンペットヘモシアニン等のタンパク質キャリアに前記ペプチド断片を結合したものを免疫原として用いることもできる。下記実施例では、12アミノ酸から成るペプチド断片をそのまま投与して254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を得ているので、キャリアタンパク質への結合は特に必要ではない。
【0017】
免疫測定は、生体から分離された前立腺組織に対する免疫組織化学染色法や、生体から分離された前立腺組織の細胞破砕物又はNF-B-p65/RelAを含むその精製物若しくは部分精製物を検体とした、サンドイッチ法、競合法、凝集法等の周知の免疫測定法により行なうことができる。これらのうち、免疫組織化学染色法が好ましい。免疫組織化学染色法は、抗体として254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を用いることを除き常法により行なうことができる(下記実施例参照)。免疫組織化学染色法用のキットも市販されているので、市販のキットを用い、抗体は上記した254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体を用いて容易に免疫組織化学染色法を行なうことができる。
【0018】
下記実施例において具体的に記載するように、骨転移を起こした前立腺癌組織では、254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体との反応性が陽性になる確率(陽性率)が骨転移を起こさなかった前立腺癌組織における陽性率よりも統計学的に有意に高かった。さらに、254リン酸化NF-B-p65/RelAが陽性の場合の中でも、254リン酸化NF-B-p65/RelAの存在量が特に多い場合(免疫組織化学染色で強陽性の場合)には、骨転移する確率が特に高かった。さらに、骨転移が起きている場合、その組織学的悪性度(Gleason grade)に関らず、ほとんどの症例で陽性になった。これらのことから、254リン酸化NF-B-p65/RelAは、前立腺癌の転移の可能性を示す前立腺癌転移マーカーとして利用することができ、これを測定することにより組織学的悪性度に関らず、将来的に転移が起きるか否かを予測することができる。
【0019】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
材料および方法
1. 254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体の作製
RelA/p65の254番目のスレオニンを含むアミノ酸配列(251番バリンから262番システインまでの12アミノ酸)に254番目スレオニンにリン酸基を付加したリン酸化ペプチド(VFRT(PO3H2)PPYADPSC)(配列番号3)を、ペプチド合成機により化学合成した。その際、スレオニンにリン酸基を付加したリン酸化スレオニンは、市販品を用いた。得られたペプチド断片を、フロインドの完全アジュバント(初回免疫時)又はフロインドの不完全アジュバント(2回目以降の免疫時)と等量になるように混合し、ソニケーションにてエマルジョンを作製した。粘性の高くなったエマルジョンをウサギ(ニュージーランドホワイトウサギ)の後背部に皮下投与した。免疫は、2週間間隔で合計4回行なった。第3回免疫時に少量の抗原タンパクを分取し、ELISA法にて抗体価を測定した。第4回免疫後2週間経過した時点で、ケタミン・キシラジン麻酔下、頚動脈より全採血を行った。採取した血液は室温にて1時間静置後、4℃で一昼夜保存し、3000rpm、10分間遠心分離し血清を得た。
【0021】
市販の抗体精製キット(Amersham Bio., HiTrap Protein A HP)を用い、得られた抗血清から抗体を精製した。使用したバッファーは次の通りであった。
結合バッファー 20mM リン酸ナトリウム pH7.0
溶出バッファー 0.1M クエン酸ナトリウム pH3.0
中和バッファー 1.0M Tris-HCl, pH9.0
【0022】
具体的な精製操作は次のようにして行った。
(1) カラムの準備: カラムに気泡が入らないよう、シリンジを接続、25ml超純水を流速5滴/秒で送液。
(2) カラムの平衡化: 25mlの結合バッファーを流速5滴/秒で送液
(3) サンプルの添加: 調整したサンプル(抗血清希釈液)を流速5滴/2秒で送液非吸着成分の洗浄、25mlの結合バッファーを流速5滴/秒で送液。
(4) 抗体の溶出: 25mlの溶出バッファーを流速5滴/秒で送液、溶出液を3mlずつ回収(回収チューブに中和バッファー300μLを添加)濃度測定、5で溶出した各フラクションの280nmの吸光度を測定し、抗体画分を回収PBS(-)で一晩透析し、バッファー交換した。
【0023】
得られたポリクローナル抗体から、254非リン酸化NF-B-p65/RelAにも抗原抗体反応する抗体を吸着除去した。すなわち、ペプチド合成機により化学合成したビオチン化254非リン酸化NF-B-p65/RelA(VFRTPPYADPSC)(配列番号3)を市販のストレプトアビジン-マグネティックビーズに結合させ(結合した合計抗原量0.01 mg、ビーズ量0.2 mg)10倍希釈した抗体溶液(0.3 mL)と4℃、2時間混合後、マグネットを用いて非リン酸化ペプチドに吸着する非特異的抗体を除去し、上清を回収し、254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体とした。
【0024】
2. 免疫組織化学染色
市販の免疫組織化学染色キット(VECTASTAIN ABC Kit)を用い、上記1で得られた254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体で、患者から分離した前立腺組織の免疫組織化学染色を行なった。免疫組織化学染色は、具体的には次のようにして行なった。
【0025】
(1) 組織切片をキシレンおよびエタノールで脱パラフィン化および親水化。
(2) 洗浄2回[各5分間]:トリス緩衝生理食塩水(TBS) 各100mlで洗浄。
(3) 内在性ペルオキシダーゼの失活[1時間]:TBS 60 mlに2 mlの30%-H2O2 (1 %)。
(4) TBS各100mlで洗浄2回[各5分間]。
(5) ブッロキング[1時間]:TBS (3 ml)中ヤギ血清(終濃度10%)。
(6) TBST(0.1% Tween20(商品名)含有TBS)100mlで洗浄1回[5分間] 。
(7) 一次抗体(上記1で作製した254リン酸化NF-B-p65/RelA特異抗体)をブッロキング溶液で希釈(50-150倍)したものを検体に加えて室温2時間又は4℃一夜反応。
(8) TBS各100mlで洗浄2回[各5分間]。
(9) 二次抗体(TBS 500μLにビオチン化第二抗体(ヤギ抗ウサギIgG抗体。キットに附属))を2μL加えた溶液)を検体に加えて2時間反応。
(10) TBS各100mlで洗浄2回[各5分間]。
(11) AB溶液(TBS 10 mlにA:アビジン液(C液)とB:ビオチン化ペルオキシダーゼ(D液)を2滴ずつ加えた溶液)を調製。30分前に調製して、反応させておく。
(12) AB溶液を検体に加え、2時間反応させる。
(13) TBS各100mlで洗浄2回[各5分間]。
(14) DAB溶液(TBS(5 ml)中、ペルオキシダーゼの基質であるジアミノベンチジン(DAB)50μg (10μg/ml)とH2O2 5μL (0.03%)を含む(VECTOR社製))を検体に加え、遮光下、5-10分間程度反応させる。時々、発色を確認する。
(15) TBS100mlで洗浄1回[5分間]。
(16) ヘマトキシリン試薬で細胞の核を青く染色。
(17) エタノール置換、キシレン、封入剤を滴下、カバーグラスによる封入。
【0026】
3.材料
横浜市立大学医学部付属病院および関連病院にて摘出された前立腺癌手術標本または術前針生検標本(計49例、内訳は以下のとおり)
3~5年間の経過中に骨転移を起こした症例( 27例)
上記期間中に骨転移を起こさなかった症例( 22例)
前立腺癌骨転移部位標本(6例)
【0027】
4.結果
前立腺癌組織標本を免疫組織化学法により本抗体による免疫染色を行った。用いた検体は上記のとおり、針生検組織標本または前立腺摘出標本で、3~5年間のフォローアップ期間中に骨転移を示した症例(27例)(初診時にすでに骨転移があるものを含む)、上記期間中に骨転移を示さなかった症例(22例)である。また、前立腺癌骨転移部位標本(6例)も染色を行ない、転移部位における評価も行なった。
【0028】
免疫組織化学染色の結果、骨転移を起こした前立腺癌症例では、原発巣及び骨転移巣において、前立腺癌細胞で陽性像(茶色)が認められた。なお、染色パターンは、主に核内で強く染まった。また、組織学的悪性度(Gleason grade)に関らず、ほとんどの症例で骨転移症例では陽性、非骨転移症例では陰性になった。
【0029】
染色結果を2人以上の病理医により、陰性、陽性および強陽性の3段階に分類した。 なお、陰性は、抗体による染色が認められないもの、強陽性は、抗体による強い染色が認められるもの、陽性は、抗体による染色が認められるが、染色の程度が強陽性ほどは強くないものである。
【0030】
結果を下記表1及び図1に示す。表1及び図1に示すように、組織学的悪性度にかかわらず、骨転移を示した症例では強陽性19例、陽性8例、陰性0例と100% の症例で抗体反応陽性になったのに対し、骨転移を示さなかった症例では、強陽性1例、陽性6例、陰性15例と陰性例が多かった。非骨転移症例における強陽性または陽性症例は、フォローアップの期間が短いため、今後骨転移が再発する可能性もあると考えられる。また、骨転移部位においては6例中強陽性3例、陽性3例で、こちらも陽性率100%であった。骨転移の有無により、本抗体染色結果において有意差が認められるかどうかについて、統計的検定(カイ2 乗検定)を行った。その結果、99%有意差(P<0.01 (χ2=31.2>χ2(2;0.01)=9.21))をもって、骨転移陽性症例において本抗体は有意に強陽性または陽性であった。以上の結果により、本抗体が転移を起こす前立腺癌を予測するための分子マーカー(診断薬)として用いることが可能であることが明らかになった。
【0031】
【表1】
JP0005142288B2_000002t.gif
図面
【図1】
0