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明細書 :細胞の評価方法およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-083042 (P2014-083042A)
公開日 平成26年5月12日(2014.5.12)
発明の名称または考案の名称 細胞の評価方法およびその利用
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12M   1/34        (2006.01)
FI C12Q 1/02
C12N 5/00 202A
C12M 1/34 A
請求項の数または発明の数 19
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2012-237081 (P2012-237081)
出願日 平成24年10月26日(2012.10.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り A.刊行物発表(要旨集発行)▲1▼発行者名 Organizing committee for Joint Meeting of The 45th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists & The 64th Annual Meeting of the Japan Society for Cell Biology ▲2▼刊行物名 Joint Meeting of The 45th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists & The 64th Annual Meeting of the Japan Society for Cell Biology,Program & Abstructs ▲3▼発行年月日 2012年4月27日 B.集会での発表(ワークショップにおける口頭発表) ▲1▼集会名 Joint Meeting of The 45th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists & The 64th Annual Meeting of the Japan Society for Cell Biology ▲2▼発表日 2012年5月31日 C.集会での発表(ポスター掲示)▲1▼集会名 Joint Meeting of The 45th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists & The 64th Annual Meeting of the Japan Society for Cell Biology ▲2▼発表日 2012年5月31日
発明者または考案者 【氏名】難波 大輔
【氏名】難波 富士緒
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
4B065
Fターム 4B029AA07
4B029AA08
4B029BB11
4B029FA02
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QR72
4B063QS39
4B063QX01
4B065AA93X
4B065AC20
4B065CA44
要約 【課題】非侵襲的に幹細胞を同定可能な方法、非侵襲的に移植用細胞における幹細胞の割合を評価する方法を提供する。
【解決手段】細胞の運動を解析することで、幹細胞コロニーを同定できることを見出した。本発明は、対象から得た細胞を培養系において評価する方法であって、細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む方法を提供する。細胞の移動速度は、培養系における細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像の特定ピクセルでの輝度の変化に基づく値として求めることができ、またインターバル撮像された2枚の細胞画像から、特定領域内の各ピクセルにおける輝度差の絶対値を算出し、特定領域内の輝度差の絶対値の総量を特定領域の面積値で除したモーション・インデックスで代替することができる。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
対象から得た細胞を培養系において評価する方法であって、細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む、方法。
【請求項2】
対象が、受傷組織および健常組織を有しており、対象から得た細胞が、対象の健常組織から得た、受傷部位に移植するための自家培養組織を作製するためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織が、皮膚または角膜であり、自家培養組織が、自家培養表皮または自家培養角膜上皮である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
細胞の移動速度が、培養系における特定領域内の複数の細胞の平均移動速度である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞の移動速度が、細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像の特定ピクセルでの輝度の変化に基づく値で代替される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
複数の細胞の平均移動速度が、インターバル撮像された2枚の細胞画像から特定領域内の各ピクセルにおける輝度差の絶対値を算出し、特定領域内の輝度差の絶対値の総量を特定領域の面積値で除したモーション・インデックスで代替される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
対象から得た細胞中の幹細胞を同定する方法であって、培養系中の細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む、方法。
【請求項8】
対象が、受傷組織および健常組織を有しており、対象から得た細胞が、対象の健常組織から得た、受傷部位に移植するための自家培養組織を作製するためのものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
組織が、皮膚または角膜であり、自家培養組織が、自家培養表皮または自家培養角膜上皮である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
自家培養組織の製造方法であって:
受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞を培養し、受傷部位に移植するための自家培養組織を作製する工程、および
対象から得た細胞を培養系において、移動速度を指標に評価する工程
を含む、製造方法。
【請求項11】
自家培養組織が、自家培養表皮または自家培養角膜上皮である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
移動速度が、培養系における特定領域内の複数の細胞の平均運動速度である、請求項7または11に記載の方法。
【請求項13】
細胞の移動速度が、培養系における細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像の特定ピクセルでの輝度の変化に基づく値として求められる、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
複数の細胞の平均移動速度を、モーション・インデックスとして求められる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項の評価方法を実施するための、装置。
【請求項16】
受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像を入力する画像入力部と、
入力された複数の細胞画像から、モーション・インデックスを算出するモーション・インデックス算出部と、
を備える細胞画像解析装置。
【請求項17】
モーション・インデックス閾値を予め記憶する閾値記憶部と、
算出されたモーション・インデックスとモーション・インデックス閾値とを比較し、閾値を超える領域を増殖性細胞領域として特定する増殖性細胞領域特定部と
をさらに備える、請求項16に記載の細胞画像解析装置。
【請求項18】
コンピュータに対し、
受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像を入力する画像入力ステップと、
入力された複数の細胞画像から、モーション・インデックスを算出する、モーション・インデックス算出ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項19】
コンピュータが、モーション・インデックス閾値を予め記憶する閾値記憶部を備えており、
算出されたモーション・インデックスとモーション・インデックス閾値を比較し、閾値を超える領域を増殖性細胞領域として特定するステップと、
をさらに実行させるための、請求項18に記載のプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の評価方法に関する。より詳細には、細胞の運動性を指標とした、幹細胞の同定方法、および移植用の細胞の評価方法に関する。本発明の方法は、特に、自家培養表皮または自家培養角膜上皮の品質評価のために好適である。本発明は、例えば、再生医療等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
正常な皮膚から増殖能の高い表皮角化細胞を得て、培養によりシート状の培養表皮を調製し、患者の皮膚損傷部位に移植する培養表皮移植技術が開発されている。再生医療に用いられるヒト表皮角化細胞の培養系において、培養状態や増殖能の高い細胞の含有率の評価は重要である。また、移植することを目的に培養された表皮は、医療行為である臓器移植の場合とは異なり、製品としての品質管理が求められる。
【0003】
ヒト表皮角化細胞は、適切な培養条件ではコロニーを形成するが(非特許文献1)、コロニーを形成する角化細胞には異なる増殖活性を持つ数種の細胞が含まれる(非特許文献2)。これらの中で、ヒト表皮角化幹細胞(ホロクローンとも呼ばれる:非特許文献2)は、高い増殖活性を持ち、ヒトが一生涯に必要とする表皮角化細胞を生み出す能力を持っている(非特許文献3,4)。このヒト表皮角化幹細胞の培養は、広範囲の重度熱傷患者への角化細胞シートの自家移植を実現した(非特許文献5-7)。これはヒト幹細胞を用いた再生医療の成功例として、広く認知されている(非特許文献8-11)。他のコロニー形成能のある角化細胞は、限られた増殖能を持つ前駆細胞(メロクローン)と一過的な増殖能しかない細胞(パラクローン)(非特許文献2)である。前者は、短期間のみ表皮を再生できるが、後者はその能力が無い。
【0004】
幹細胞の移植は、表皮のような自己複製する組織の再生医療にとって必須である。これまでのところ、ヒト表皮角化幹細胞は、クローン解析(非特許文献2)や細胞表面マーカー(非特許文献12-14)によって、同定されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Rheinwald, J.G., & Green. H. Serial cultivation of strains of human epidermal keratinocytes: the formation of keratinizing colonies from single cells. Cell 6, 331-344 (1975).
【非特許文献2】Barrandon, Y. & Green, H. Three clonal types of keratinocyte with different capacities for multiplication. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 2302-2306 (1987).
【非特許文献3】Rochat, A., Kobayashi, K., & Barrandon, Y. Location of stem cells of human hair follicles by clonal analysis. Cell 76, 1063-1073(1994).
【非特許文献4】Mathor,M.B. et al. Clonal analysis of stably transduced human epidermal stem cells in culture. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 1031-1036 (1996).
【非特許文献5】Gallico, G.G., O'Connor, N.E., Compton, C.C., Kehinde, O., and Green, H. Permanent coverage of large burn wounds with autologous cultured human epithelium. N. Engl. J. Med. 311, 448-451 (1984).
【非特許文献6】Pellegrini, G. Et al. The control of epidermal stem cells (holoclones) in the treatment of massive full-thickness burns with autologous keratinocytes cultured on fibrin. Transplantation 68, 868-879 (1999).
【非特許文献7】Ronfard, V., Rives, J.M., Neveux, Y., Carsin, H., & Barrandon, Y. Long-term regeneration of human epidermis on third degree burns transplanted with autologous cultured epithelium grown on a fibrin matrix. Transplantation70, 1588-1598 (2000).
【非特許文献8】De Luca, M., Pellegrini, G., & Green, H. Regeneration of squamous epithelia from stem cells of cultured grafts. Regen Med 1, 45-47 (2006).
【非特許文献9】Green, H. The birth of therapy with cultured cells. Bioessays30, 897-903 (2008).
【非特許文献10】Fuchs, E. The impact of cell culture on stem cell research. Cell Stem Cell 10, 640-641 (2012).
【非特許文献11】Rochat A., Grasset, N., Gorostidi, F., Lathion, S., & Barrandon., Y. (2012). Regeneration of epidermis from adult human keratinocyte stem cells. In Handbook of stem cells 2ed edition. Lanza R, Atala A, editors. Academic press, pp.767-780.
【非特許文献12】Jones, P.H. & Watt, F.M. Separation of human epidermal stem cells from transit amplifying cells on the basis of differences in integrin function and expression. Cell 73, 713-724 (1993).
【非特許文献13】Li, A., Simmons, P.J., & Kaur, P. Identification and isolation of candidate human keratinocyte stem cells based on cell surface phenotype. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 3902-3907 (1998).
【非特許文献14】Jensen, K.B. & Watt, F.M. Single-cell expression profiling of human epidermal stem and transit-amplifying cells: Lrig1 is a regulator of stem cell quiescence. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 11958-11963 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移植用の培養組織製品に含まれる細胞は単一ではないと考えられる。複数の種類の細胞からなるヒト組織から得たものであるため、種々の細胞が混在しうる。また、同一の種類の細胞に由来したとしても、培養中に異なる分化をした結果、意図した機能を喪失した細胞も混在しうる。現在のところ、培養中に幹細胞の存在を確認できる非襲侵的な方法はない。培養ヒト表皮角化幹細胞の非襲侵な同定は、表皮角化幹細胞培養のモニタリングと品質管理を可能とし、このことは移植幹細胞の生着や、移植後の再生表皮の長期的な維持の改善につながる。そのような技術はまた、治療のために高い増殖能を持つ細胞の選別にも応用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幹細胞は、培養において、密に集合した形態、すなわちコロニーを形成する。これは一般的な現象であるが、コロニー内における幹細胞の動態は明らかでない。今回、本発明者らは、ヒト表皮角化幹細胞が、集団的な運動を引き起こし、その運動を解析することで、角化幹細胞コロニーを同定できることを見出した。詳細には、コロニー内の細胞の移動速度が、そのコロニーに含まれる細胞の増殖能と正の相関があることを見出した。このことは細胞の運動性が、培養系における品質管理の重要なパラメーターになることを示している。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1]対象から得た細胞を培養系において評価する方法であって、細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む、方法。
[2]対象が、受傷組織および健常組織を有しており、対象から得た細胞が、対象の健常組織から得た、受傷部位に移植するための自家培養組織を作製するためのものである、[1]に記載の方法。
[3]組織が、皮膚または角膜であり、自家培養組織が、自家培養表皮または自家培養角膜上皮である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]細胞の移動速度が、培養系における特定領域内の複数の細胞の平均移動速度である、[1]~[3]のいずれか一に記載の方法。
[5]細胞の移動速度が、インターバル撮像された複数の細胞画像の特定ピクセルでの輝度の変化に基づく値で代替される、[1]~[3]のいずれか一に記載の方法。
[6]複数の細胞の平均移動速度が、インターバル撮像された2枚の細胞画像から、特定領域内の各ピクセルにおける輝度差の絶対値を算出し、特定領域内の輝度差の絶対値の総量を特定領域の面積値で除したモーション・インデックスで代替される、[4]に記載の方法。
[7]対象から得た細胞中の幹細胞を同定する方法であって、培養系中の細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む、方法。
[8]対象が、受傷組織および健常組織を有しており、対象から得た細胞が、対象の健常組織から得た、受傷部位に移植するための自家培養組織を作製するためのものである、[7]に記載の方法。
[9]組織が、皮膚または角膜であり、自家培養組織が、自家培養表皮または自家培養角膜上皮である、[7]または[8]に記載の方法。
【0009】
[10]自家培養組織の製造方法であって:
受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞を培養し、受傷部位に移植するための自家培養組織を作製する工程、および
対象から得た細胞を培養系において、移動速度を指標に評価する工程
を含む、製造方法。
[11]自家培養組織が、自家培養表皮または自家培養角膜上皮である、[10]に記載の方法。
[12]移動速度が、培養系における特定領域内の複数の細胞の平均移動速度である、[10]または[11]に記載の方法。
[13]細胞の移動速度が、培養系における細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像の特定ピクセルでの輝度の変化に基づく値として求められる、[10]~[12]のいずれか一に記載の方法。
[14]複数の細胞の平均移動速度が、モーション・インデックスで代替される、[12]に記載の方法。
【0010】
[15][1]~[6]のいずれか一の評価方法を実施するための、装置。
[16]受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像を入力する画像入力部と、
入力された複数の細胞画像から、モーション・インデックスを算出するモーション・インデックス算出部と、
を備える細胞画像解析装置。
[17]モーション・インデックス閾値を予め記憶する閾値記憶部と、
算出されたモーション・インデックスとモーション・インデックス閾値とを比較し、閾値を超える領域を増殖性細胞領域として特定する増殖性細胞領域特定部をさらに備える、[16]に記載の細胞画像解析装置。
[18]コンピュータに対し、
受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像を入力する画像入力ステップと、
入力された複数の細胞画像から、モーション・インデックスを算出する、モーション・インデックス算出ステップと、
を実行させるためのプログラム。
[19]コンピュータが、モーション・インデックス閾値を予め記憶する閾値記憶部を備えており、算出されたモーション・インデックスとモーション・インデックス閾値を比較し、閾値を超える領域を増殖性細胞領域として特定するステップをさらに実行させるための、[18]に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ヒト表皮角化細胞のような再生医療に用いられる細胞、およびそれから調製された培養組織に関して、培養状態や増殖性の高い細胞の含有率の推定が容易に行えるようになる。
本発明により、非侵襲的に、培養条件や幹細胞の増殖性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ヒト表皮角化細胞における移動と増殖能の相関性。a. 左パネル:フィーダー細胞である3T3細胞上でのヒト表皮角化細胞のグローイング・コロニーの運動解析。10分間隔の画像(0,10,20分)をそれぞれ再生医療用の培養細胞管理に位相差顕微鏡画像による簡便で客観的な方法の導入。赤、緑、青に変換し、全てを重ね合わせたもの。白黒の部分は細胞が動いていない領域。スケール・バー 50 mm。右パネル:グローイング・コロニー内の個々の細胞の移動速度。それぞれの点がコロニー内の各細胞の速度を示す。縦に並んだ点は、同一コロニー内の細胞の速度。30分ごとの平均速度は赤い点で示してある。b. 左パネル:ターミナル・コロニーの運動解析。右パネル:ターミナル・コロニー内での個々の角化細胞の移動速度。スケール・バー 50 mm。c. 上パネル:グローイング・コロニー内の内部と辺縁部の細胞の移動速度の分布。下パネル:グローイング・コロニーのベクトル地図。各ベクトルは10分間の移動の軌跡を表す。スケール・バー 50 mm。d. グローイング・コロニーはコロニー内の平均移動速度の多様性を示す。スケール・バー 100 mm。e. dのそれぞれのグローイング・コロニーをトリプシン処理し、10cmの培養皿に継代培養したもの。dとeの上下が対応している。培養皿は12日間培養した後固定し、ローダミンBで染色した。各グローイング・コロニーの増殖活性は、継代培養後の10cmの培養皿におけるターミナル・コロニーの割合で評価した。スケール・バー 10 mm 。f. 上パネル:各グローイング・コロニー内の平均細胞移動速度と増殖活性の相関性。下パネル:平均細胞移動速度を元に、グローング・コロニーを3つのグループに分け、その各グループでの増殖活性の違い。各グループは以下のとおり。slow (≦30 mm/h), middle (30 mm/h <, ≦ 35 mm/h), and fast (> 35 mm/h). p値はスチューデントのt検定によって計算した。
【図2】a. タイム・ラプス観察とクローン解析の組み合わせ実験は、独立に5回おこなった。20091107以外の実験で、平均細胞移動速度と増殖活性に関して、全体をまとめた結果よりもより強い相関性を示した。b.すべての実験における測定値。
【図3】a. 細胞の位相差顕微鏡画像の各ピクセルは、位置情報(X、Y)および輝度情報(B)を持つ。もし細胞が短時間aで動いた場合、各ピクセルの輝度Bが変化しΔBが算出される。b. 5分間隔の2枚のコロニーの位相差画像から、ΔBを算出し、異なった輝度で可視化したもの。コロニー内のすべてのピクセルでの輝度を計算し(Σ|ΔB|)、コロニー面積(S)で平均化したものをmotion indexとした。c. グローイング・コロニーとターミナル・コロニーのコロニー内平均細胞移動速度はそれぞれ21.0 ± 9.76 mm/h (7つのコロニーで86細胞の結果)と6.55 ± 3.60 mm/h (7つのコロニーで43細胞の結果)であった。motion indexの計算によって、上記の集団的な細胞移動速度の違いを、表すことに成功した。
【図4】グローイング・コロニー内における細胞移動に対する阻害剤の効果。2-deoxy-D-glucose (2-DDG)は50 mMで使用した。Motion indexの計算方法は図3についての図面の簡単な説明および図3を参照。p値はスチューデントのt検定によって計算した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔定義等〕
本発明で「n1~n2」で範囲を表すときは、特に記載した場合を除き、両端の値を含む。
本発明は、対象から得た細胞を培養系において評価する方法であって、細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む方法を提供する。本発明において「培養系」というときは、特に記載した場合を除き、細胞が体外で維持・培養されている状態を指す。

【0014】
本発明で培養する細胞の由来に関し、「対象」というときは、特に記載した場合を除き、ヒトを含む動物生体を意味する。対象には、健常な対象のほか、培養組織の移植により治療されることが望ましい対象(患者)が含まれる。対象は、熱傷、褥瘡(床ずれ)、潰瘍、外傷等による皮膚欠損を有する対象、またはスティーブンス・ジョンソン症候群、水疱性角膜症、円錐角膜、角膜混濁、角膜潰瘍、角膜ヘルペス、角膜変性症(ジストロフィー)、化学傷/熱傷等による角膜に損傷を有する対象であり得る。対象が損傷された組織のほか、健常組織を有していれば、培養される細胞は、幹細胞を含む対象自身に由来する健常組織(例えば、表皮または角膜輪部)から得ることができる。

【0015】
本発明において「幹細胞」というときは、特に記載した場合を除き、特に記載した場合を除き、自己複製能力を有し、複数の細胞系譜へ分化する能力を有する細胞をいう。本発明でいう「幹細胞」には、皮膚幹細胞、表皮角化幹細胞、網膜幹細胞、網膜上皮幹細胞、軟骨幹細胞、毛包幹細胞、筋幹細胞、骨前駆細胞、脂肪前駆細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、外胚葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、内胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞のほか、扁平重層上皮細胞(腫瘍細胞も含む。)、誘導された表皮角化幹細胞が含まれる。

【0016】
本発明は、表皮角化細胞(表皮角化幹細胞を含む)およびそれから調製された培養組織(培養皮膚シート)に適用するのに特に有用であり、以下では、ヒト皮膚から得た表皮角化細胞を例に本発明を説明することがあるが、本発明は様々な細胞および当該細胞から作製された培養組織のために用いることができる。本発明は、表皮角化細胞のほか、特に角膜上皮細胞、扁平重層上皮細胞(腫瘍細胞も含む。)のために有用である。以下では、本発明を、表皮由来の細胞およびそれから得られた培養組織を例に説明することがあるが、その説明は、特に記載した場合を除き、幹細胞を含む他の組織由来の細胞に関しても当てはまる。

【0017】
〔評価・同定方法〕
本発明は、対象から得た細胞を培養系において評価する方法であって、細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む方法、および対象から得た細胞中の幹細胞を同定する方法であって、培養系中の細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む方法を提供する。本発明はまた、増殖性を維持するために適した培養条件を評価する方法であって、培養系中の細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する工程を含む方法も提供する。

【0018】
本発明者らは、培養ヒト表皮角化細胞培養系において、増殖性の高い細胞が作るコロニー、特に角化幹細胞の作るコロニー内で、細胞の平均移動速度が最大であることを見出し、またヒト表皮角化細胞の増殖能は移動速度と相関することを見出した(実施例および図1f)。本発明は、このような新規な知見に基づいてなされたものである。なお本発明において、細胞に関して「増殖能」または「増殖性」があるいうときは、特に記載した場合を除き、その細胞がコロニーを形成することができ、かつ形成されたコロニーが増殖能の失われた細胞または増殖能が失われつつある細胞からなるものではなく、専らさらに増殖することができる能力を有する細胞からなるものである場合をいう。

【0019】
表皮角化細胞の増殖能の有無または程度は、実際に培養を行うことによる増殖性試験、幹細胞であるか否かの解析(クローン解析、細胞表面マーカーの存在の確認)等の、種々の方法で確認しうる。

【0020】
培養による確認は、詳細には、次のように実施することができる。ヒト表皮角化細胞は、小型の増殖性の細胞から構成されるグローイング・コロニーと、増殖活性を消失しつつある扁平な細胞から構成されるターミナル・コロニーとの、少なくとも2種類のコロニーを形成することが知られている(前掲非特許文献11)。したがって、対象となる表皮角化細胞をクローン形成上有効な細胞密度で播種して培養を開始し、培養後に現れた増殖活性を消失しつつある扁平な細胞から構成されるターミナル・コロニーの出現頻度を求めることができる。出現頻度は、出現率(%)(=形成されたターミナル・コロニーの数/形成された全コロニーの数×100)として表すことができる。

【0021】
ターミナル・コロニーの出現率(%)は、より詳細には、次のようにして求めることができる。対象となる細胞をクローン形成上有効な細胞密度で培養皿に播種し、数日間、例えば12日間、適切な条件下で培養し、培養の結果形成されたコロニーについて、必要であれば染色して、形態観察を行うことにより、ターミナル・コロニーを特定することができる。当業者であれば、ターミナル・コロニーを他のコロニーから形態的に区別することができる。そして、ターミナル・コロニーを計数し、総コロニー数に対するターミナル・コロニーの割合(%)を求めることができる。なお本発明者らの検討では、グローイング・コロニーでは、細胞は密集形態を維持しつつも、自発的に移動していることが観察される一方で(実施例および図1a)、ターミナル・コロニー内では、細胞は、ほぼ静止状態にあることが観察されている(実施例および図1b)。

【0022】
幹細胞であるか否かの解析は、クローン解析、または細胞表面マーカーの存在の確認によって実施することができ、このための方法は、非特許文献2、並びに非特許文献12-14を参照することができる。幹細胞マーカーの存在の確認には、簡便には、市販の抗幹細胞マーカー抗体を利用することができる。

【0023】
細胞の移動速度(μm/h)もまた種々の方法により確認しうる。例えば、適切な環境下にある細胞について、従来の顕微鏡に付属するタイム・ラプス画像を撮影するための装置と付属ソフト等を利用して、適宜測定することができる。より詳細には、顕微観察用のチャンバーに対象となる細胞を移し、チャンバー内をその細胞を培養するために適した条件、例えば37℃、10%CO2とし、数分間隔、例えば5分間隔で、180分間かけてタイム・ラプス画像を取得する。次いで各画像を順に比較することにより、各5分間の移動距離を追跡する。そして180分間での総移動距離を算出し、時間で除することにより、移動速度を求めることができる。

【0024】
必要に応じ、ある領域内の複数の細胞(例えば、2~100個の細胞)について移動速度を求め、その領域の細胞の平均移動速度を求めてもよい。なお、ここでいう領域は、典型的には一の細胞に由来して形成されたコロニーからなる領域を指す。移動速度と増殖能との相関は、コロニー形成上有効な濃度で播種され、他のコロニーからは離れて形成された一のコロニー内の細胞の平均移動速度とそのコロニーをトリプシン処理して播種した系におけるターミナル・コロニーの出現率(%)との間で十分に確認されているため、以下では、他のコロニーからは離れて形成された一のコロニーからなる領域に含まれる細胞の評価を例に本発明を説明することがある。しかしながら、他のコロニーと接して、または融合してコロニーが形成されていても、コロニー内で細胞の移動は生じうる。そこで、目視等により特定した接触/融合コロニーからなる領域、またはコンフルエントに増殖した細胞やシート状の細胞において任意に選択した細胞数100個~数百個程度の領域に含まれる細胞の評価としても、本発明を実施しうる。本明細書では、他のコロニーからは離れて形成された一のコロニーからなる領域に含まれる細胞に関して移動速度を説明することがあるが、その説明は、特に記載した場合を除き、接触/融合コロニーからなる領域や、任意に選択した領域に含まれる細胞についても当てはまる。

【0025】
なお、本発明者らの検討によると、実験実施日が同じ場合には、移動速度と増殖能の相関性がより明確である場合がある。これはおそらく、角化細胞やフィーダー細胞である3T3細胞の継代数などの実験条件の均質性に依存していると考えられる。本発明を実施する際には、このような事項を留意してもよい。

【0026】
ある領域に含まれる細胞の平均移動速度は、モーション・インデックスにより、代替することができる。細胞の位相差顕微鏡画像は、各ピクセルに位置情報(X, Y)と輝度(B)情報を持っている(図3a)。位相差画像の場合、細胞内構造の違いが、輝度の差となって現れる。短時間で細胞が移動した場合、あるピクセルでの輝度が変化することから、本発明者らは適切なインターバル(間隔)で撮像された2枚のコロニーの位相差画像の輝度の差の絶対値(実数aに対して、aまたはその符号を変えた-aのうち、負でないほうを、aの絶対値といい、|a|のように表す。)を算出し、コロニーの面積(S)で平均化する。本発明で「モーション・インデックス」というときは、このようにして求めた値をいう(図3b)。本発明者によると、2-DDGの添加により低栄養条件に置かれたヒト表皮角化細胞コロニーは、実測により、内部の細胞運動速度が著しく低下していたが、5分間隔の2枚の連続画像の輝度差(左図)が大きく減少し、モーション・インデックスによる指標化でも著しい数値の違いを得ることができた(図3c)。

【0027】
モーション・インデックスによれば、位相差顕微鏡、デジタルカメラ、本発明を基礎とした簡単な画像解析プログラムを組み合わせた評価法を確立することができる。

【0028】
本発明においては、細胞移動速度(平均移動速度であってもよい。)またはモーション・インデックスにより、細胞の同定、培養条件の評価、培養組織の評価等を行うことができるが、判定基準は、適宜定めることができる。予備的な試験をすることにより、基準となる値(「閾値」ということもある。)を定めてもよく、また対象となる培養系について細胞移動速度またはモーション・インデックスを求める際に、同時に対照系についても同様の操作を行い、対照系について得られた値との比較により、判定してもよい。

【0029】
本発明者らの検討によると、実施例の条件では、グローイング・コロニーについては、平均移動速度21.0±9.76μm/h(n=7)、モーション・インデックス28.5±10.58μm/h(n=7)が得られており、ターミナル・コロニーについては、平均移動速度6.55±3.60μm/h(n=7)、モーション・インデックス11.3±2.96μm/h(n=7)が得られており(図3)、これらの値を参考に、判定基準を設定してもよい。例えば、実施例と同様の条件で測定した場合に、平均移動速度10.0μm/h以上またはモーション・インデックス14.0以上であること、あるいは平均移動速度12.0μm/h以上またはモーション・インデックス17.0以上であることを、判定基準としてもよい。

【0030】
本発明者らの、細胞運動に関する過程を阻害する2-deoxy-D-glucose (2-DDG)を使用した実験では、2-DDGの非存在下に比較して、2-DDGの存在下ではモーション・インデックスは約1/2に減じており(図4)、このことを参考に、判定基準を設定してもよい。例えば、実施例と同様の条件で測定した場合に、充分量の細胞運動阻害性物質を用いた系の運動速度またはモーション・インデックスの、1.2倍以上、あるいは1.5倍以上の運動速度またはモーション・インデックスであることを、判定基準としてもよい。

【0031】
なお、モーション・インデックスは、画像の解像度や露光時間、画像が8ビットか16ビットか等により、異なる値として算出されるものであるが、所定の培養条件で細胞を維持しつつ画像撮影を同一条件で行えば、種々の場合に共通に適用可能な判断基準を得られることが期待できる。

【0032】
これまで、非侵襲的に培養条件や培養角化細胞の増殖性を評価する手法は存在しなかった。しかしながら、細胞の移動速度を指標に、細胞の増殖能を評価する本発明によれば、非侵襲的評価が達成される。また従来の幹細胞の増殖性を維持する培養条件の管理等は、技術者の経験知に依拠したものであった。再生医療分野において、移植することを目的に培養された細胞は,いわゆる製品として品質管理が求められる。通常、移植用培養組織を調製するための細胞は、由来する個人により差があるであろうし、完成した細胞製品にはさまざまなバラツキを生じる可能性がある。培養組織の品質管理は、極めて重要である。しかしながら本発明のモーション・インデックスの計算により、簡便で客観的に、培養条件や細胞を評価できる。また、技術者の熟練度に依存しない客観的指標の導入による再生医療用細胞製品の品質管理を行うことができる。

【0033】
〔培養組織の製造方法〕
本発明の別の態様においては、自家培養組織を含む、培養組織の製造方法を提供する。本発明で「培養組織」というときは、特に記載した場合を除き、ヒトの細胞を用いて体外で培養し、再構築させた組織モデルをいう。培養組織の例は、培養表皮、培養角膜上皮、培養軟骨である。

【0034】
本発明の製造方法により得られる培養組織は、対称の治療のために、対象へ移植するために用いることができる。また本発明の製造方法により得られる培養組織は、動物や単純な培養細胞の代替となり得、種々の研究・実験に適用することができる。例えば、培養組織は、薬理試験、毒性試験等への適用が可能である。

【0035】
本発明の製造方法は、少なくとも、工程(1):対象から得た細胞を培養して培養組織を作製する工程、および工程(2):対象から得た細胞を培養系において、移動速度を指標に評価する工程を少なくとも含む。工程(1)は、典型的には、受傷組織および健常組織を有する対象、すなわち患者の健常皮膚から得た皮膚角化細胞を培養し、受傷部位に移植するための自家培養皮膚を作製する工程であり、以下ではこの場合を例に説明することがあるが、当業者であれば、その説明を適宜改変して、患者以外の対象から得た皮膚角化細胞について実施される場合や、皮膚角化細胞以外の細胞について実施される場合にあてはめることができる。

【0036】
工程(1)として、皮膚角化細胞を培養する際は、表皮細胞の培養のための公知の方法を適用することができる。当業者であれば、細胞の種類に応じて、培養環境(培地、温度、CO2濃度、培養期間を含む。)を適宜設計できる。好ましい場合は、3T3細胞のようなフィーダー細胞による層の上で、対象となる細胞を培養してもよい。

【0037】
本発明の製造方法は、工程(1)および(2)以外に、対象から組織を得る工程、組織から目的の細胞を分離および/または純化する工程、得た細胞を適切な培養環境に播種する工程を含みうる。製造された培養組織を培養系から取り出す工程を含みうる。得られたシート状の細胞は、患者へ移植される。対照から組織を得る工程は、医療行為であり得るが、それ以外の工程は、医師以外の者により実施することができる。

【0038】
本発明の工程(2)は、上記のいずれの工程の前、途中および後であっても、特に制限なく実施しうる。組織から分離された細胞が培養組織を作製するのに十分であるか否かを判断するとの観点からは、工程(2)は、細胞を分離および/または純化した工程の後に行うことが好ましい。また、移植用細胞組織の品質を評価するとの観点からは、工程(1)の途中または後、培養組織を培養系から取り出す工程の前(移植の前)に行うことが好ましいと考えられる。

【0039】
〔装置、プログラム〕
本発明はまた、細胞画像解析のための装置およびプログラムを提供する。

【0040】
装置は、具体的には、画像入力部と、モーション・インデックス算出部とを有する。また、閾値記憶部と、増殖性細胞領域特定部とを備えていてもよい。

【0041】
画像入力部は、受傷組織および健常組織を有する対象の健常組織から得た細胞がインターバル撮像された複数の細胞画像のデジタルデータを細胞画像解析装置に入力する。入力される細胞画像は、細胞シート全体の画像であってもよく、シート化前の培養系全体(例えば、培養皿全体)の画像であってもよく、一のコロニーについての画像であってもよいが、細胞シート全体の画像あるいは培養系全体の画像である場合は、モーション・インデックスが特定される領域(例えば、一のコロニーに相当する領域)であってもよく、シート化前の培養系全体(例えば、培養皿全体)の画像を入力する場合は、細胞数100個から数百個からなる領域であって、モーション・インデックスを算出すべき一または複数の領域を指定してもよい。以下では、モーション・インデックスが算出される領域を、「対象領域」ということがある。

【0042】
モーション・インデックス算出部は、入力された複数の細胞画像から、モーション・インデックスを算出する。

【0043】
閾値記憶部は、増殖性細胞領域特定部の処理で用いられるモーション・インデックス閾値を予め記憶する。なおモーション・インデックス閾値は、上述の判定基準に関する説明として述べたように、適宜定めることができる。予備的な試験をすることにより、解析対象細胞の種類、由来等に応じ、解析に先だって求めておいてもよい。

【0044】
増殖性細胞領域特定部は、算出されたモーション・インデックスとモーション・インデックス閾値とを比較し、入力された細胞画像の全体または一部において、閾値を超える領域を増殖性細胞領域として特定する。その領域の位置と範囲を表す情報を取得してもよい。

【0045】
本願発明の装置は、解析結果出力部を有していてもよい。解析結果出力部は、特定した領域についての情報に基づいて、解析結果を生成し出力する。解析結果出力部は、解析結果を画像出力装置に文字またはグラフなどの図形として表示させることによって出力しても良いし、プリンターに印字させることによって出力しても良い。解析結果出力部が出力する解析結果は、例えば以下の項目である。

【0046】
・算出されたモーション・インデックス
・そのコロニーまたは領域が、増殖性細胞領域であるか否か
・画像中の増殖性細胞領域の数
・各増殖性細胞領域の面積および/または各増殖性細胞領域の面積の総和
・画像中の細胞領域の面積の総和と細胞核増殖性細胞領域の面積の総和との比

【0047】
本発明の細胞画像解析装置の動作例について説明する。まず、画像入力部がインターバル撮影された複数の(ここでは2枚を例に説明する。)細胞画像のデジタルデータを細胞画像解析装置に入力する。次に、モーション・インデックス算出部が、入力された2枚の画像中の対象領域おける各ピクセルでの輝度差の絶対値を算出する。次に、対象領域内で算出された輝度の差の絶対値の総和を対象領域の面積で割ることにより、その領域のモーション・インデックスを算出する。

【0048】
場合により、増殖性細胞領域特定部が、閾値記憶部に記憶されているモーション・インデックス閾値を読み出し、細胞画像から閾値以上のモーション・インデックス値を持つ領域をすべて特定し、処理を終了する。

【0049】
増殖性細胞領域特定処理が終了すると、場合により、解析結果出力部が、特定結果に基づいて解析結果を生成し、出力し、処理を終える。

【0050】
上述した細胞画像解析装置の機能をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、各機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【実施例】
【0051】
〔コロニー中の表皮角化細胞の動態〕
ヒト表皮角化細胞は、形態的に区別可能な少なくとも2種類のコロニーを形成する。一つはグローイング・コロニーと呼ばれ、小型の増殖性の細胞から構成され、もう一方は、ターミナル・コロニーと呼ばれ、増殖活性を消失しつつある扁平な細胞から構成される(前掲非特許文献11)。グローイング・コロニーでは、細胞は密集形態を維持しつつも、自発的に移動しているのが観察された(図1a)。対照的に、ターミナル・コロニー内の細胞は、ほぼ静止していた(図1b)。グローイング・コロニー内における細胞の移動速度は21.0 ± 9.76 mm/h (mean ± s.d.)(7つのコロニーで86細胞の結果)、ターミナル・コロニーでは6.55 ± 3.60 mm/h (mean ± s.d.)(7つのコロニーで43細胞の結果)であった(図1aおよび1b)。またグローイング・コロニーでは、個々の細胞の移動速度に多様性があり(図1a)、またコロニー内部の細胞の方が、コロニーの辺縁部よりも比較的早く移動していた(図1c)。
【実施例】
【0052】
グローイング・コロニーを形成するヒト表皮角化細胞は、異なった増殖活性を示す(前掲非特許文献2)。そこで、細胞移動が、角化細胞の増殖能と相関しているかどうかを確かめるために、タイム・ラプス観察によってグローイング・コロニー内での細胞移動速度を測定し、その後、クローン解析(前掲非特許文献2)によって、その増殖能を評価した (図1dおよび1e)。個々のコロニーから直径10 cmの培養皿へサブ・クローニングされた角化細胞の増殖能は、培養後に現れるターミナル・コロニーの出現頻度によって評価した。この解析によって、コロニーをサブ・クローニングした時に出現するターミナル・コロニーの出現頻度と、クローニングする前のコロニー内での細胞の移動速度が負に相関していることが明らかとなり(r=-0.477, p=0.0335, n=20)、高い移動能力を持つ細胞で構成されるコロニーほど、その増殖活性が高いことがわかった(図1f)。実験実施日が同じ場合、移動速度と増殖能の相関性はより強いという結果が得られた(図2)。これはおそらく、角化細胞やフィーダー細胞である3T3細胞の継代数などの実験条件の均質性に依存していると考えられる。
【実施例】
【0053】
以上の結果は、ヒト表皮角化幹細胞(ホロクローンとも呼ばれる)由来の増殖活性の非常に高い角化細胞コロニーは、高い移動能を持った細胞によって構成されていることを示している。
【実施例】
【0054】
〔細胞運動〕
細胞運動に関する過程を阻害する低分子化合物を使用することで、コロニー内の角化細胞の集団運動について実験を行った。この実験のために、コロニー内の集団的な細胞移動を評価する方法を開発した(図3および図3についての図面の簡単な説明)。この方法によって、簡便にコロニー内の細胞移動速度とよく相関性を保った値(motion index)を得た(図2)。 2-deoxy-D-glucose (2-DDG)によって細胞内のATPを欠乏させた場合、コロニー内の角化細胞移動は著しく阻害された(図4)。
【実施例】
【0055】
〔結論〕
培養系における角化幹細胞の維持と自己複製は、表皮再生のための移植の成否に大きく関与している(前掲非特許文献11)。今回、我々は、ヒト表皮角化幹細胞コロニーは、高い移動能力を持った細胞によって構成されていることを明らかにした。この発見は、細胞運動の解析によって、培養角化細胞の増殖能を評価し、移植に適した角化細胞のモニタリングと品質を評価するための非襲侵的な方法の基礎となる。
【実施例】
【0056】
〔試料と実験方法〕
[細胞培養]
ヒト新生児の包皮から単離された表皮角化細胞(KURABO)を用いた。角化細胞は、放射線照射またはマイトマイシンCで処理された3T3-J2細胞(Harvard大学Howard Green教授より分与)をフィーダー細胞として、37℃、10%二酸化炭素条件下で培養した。また培養液の組成は以下のとおりである:Dulbecco-Vogt modification of Eagle’s medium (DMEM)とHam's F12 mediumの3:1混合液に 10% fetal calf serum (FCS), 5 mg/ml insulin, 0.4 mg/ml hydrocortisone, 10-10 M cholera toxin, および 2 x 10-9 M triiodothyronine (T3)を添加(前掲非特許文献1,3)。培地は4日ごとに交換し、培養は最終的に3.7%ホルマリンで固定した後、1%ローダミンBで染色した。コロニーは実体顕微鏡下で観察し計測した。またクローン解析は前掲非特許文献2の方法によった。2-deoxy-D-glucoseはSigma-aldrichから購入した。
【実施例】
【0057】
[タイム・ラプス観察と画像解析]
35mmの培養皿に3T3細胞をフィーダー細胞として角化細胞を低密度で播種し、6または7日間、培養した。その後、タイム・ラプス観察のため、角化細胞を37℃、10%二酸化炭素条件下に設定した顕微鏡観察用のチャンバー(ZEISS)に移し、Axiovert 200M microscope (Zeiss)でタイプ・ラプス観察を行った。画像は5分間隔で、180分間取得した。タイム・ラプス画像から、細胞移動速度をgraphic tablet (Wacom)上でMetaMorpho (Molecular Devices)またはVolocity (PerkinElmer)を用いて計算した。細胞の移動速度の計算は、各5分間の移動距離を追跡し、180分間での総移動距離から算出した。
【実施例】
【0058】
[Motion indexの計算方法]
5分間隔で2枚のグローイング・コロニーの位相差画像を取得し、2枚の連続画像から、Adobe Photoshopのイメージ>演算コマンドの描画モード「差の絶対値」を実行することによって、1300x1030個ある各ピクセル間の輝度の差の絶対値を算出した。さらにコロニー内のピクセルでの輝度の差の絶対値の総量をコロニーの面積値で平均化したものをmotion indexとした。コロニー面積の計算は、graphic tablet (Wacom)上でVolocity (PerkinElmer)を用いて計算した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
従来の表皮再生医療に関する細胞培養においては、幹細胞の増殖性を維持する培養条件の管理は技術者の経験知に依拠したものであった。また、非侵襲的に培養条件や培養角化細胞の増殖性を評価する手法は存在しなかった。しかしながら、本発明によれば、培養細胞管理に、位相差顕微鏡画像等による簡便で客観的な方法が導入できる。
【0060】
再生医療分野において、移植することを目的に培養された細胞は,いわゆる製品として品質管理が求められる。通常、移植用培養組織を調製するための細胞は、由来する個人により差があるであろうし、完成した細胞製品にはさまざまなバラツキを生じる可能性がある。培養組織の品質管理は、極めて重要である。本発明によれば、技術者の熟練度に依存しない客観的指標の導入による再生医療用細胞製品の品質管理を行うことができる。
【0061】
本発明によれば、位相差顕微鏡、デジタルカメラ、本発明を基礎とした簡単な画像解析プログラムを組み合わせることで、再生医療用の細胞製品の品質管理をより簡単に行うことができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3