TOP > 国内特許検索 > 触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラム > 明細書

明細書 :触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-071546 (P2014-071546A)
公開日 平成26年4月21日(2014.4.21)
発明の名称または考案の名称 触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラム
国際特許分類 G06T  19/00        (2011.01)
FI G06T 19/00 G
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2012-215303 (P2012-215303)
出願日 平成24年9月27日(2012.9.27)
発明者または考案者 【氏名】河合 隆史
【氏名】盛川 浩志
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100148253、【弁理士】、【氏名又は名称】今枝 弘充
【識別番号】100148079、【弁理士】、【氏名又は名称】梅村 裕明
審査請求 未請求
テーマコード 5B050
Fターム 5B050AA09
5B050BA08
5B050BA12
5B050BA13
5B050EA13
5B050EA19
5B050EA24
5B050EA30
5B050FA02
要約 【課題】現実空間に立体表示させた仮想物体に基づきユーザに対し触覚刺激を錯覚させ得る触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラムを提案する。
【解決手段】シースルー型HMD装置1では、立体的形状でなる半透明の仮想物体8を、両眼視差を利用してユーザUが存する現実空間に立体表示し、現実空間にて仮想物体8がユーザUの両掌H上にあたかも存在しているかのようにユーザUに視認させ、さらに、仮想物体8がユーザUの両掌Hに近接したまま両掌Hに沿って移動しているかのような状態をユーザUに視認させるようにした。これによりシースルー型HMD装置1では、視覚的な錯覚に基づいて、実際には与えられていない仮想物体8からの触覚刺激を知覚しているかのような錯覚をユーザUに与えることができる。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
半透明および/または輪郭をぼかした、立体的形状でなる仮想物体を、両眼視差を利用してユーザが存する現実空間に立体表示し、前記仮想物体を前記ユーザの身体部位に重畳させて、虚像である前記仮想物体が前記ユーザの身体部位上にあたかも存在しているかのように該ユーザに視認させる画像呈示手段を備え、
前記画像呈示手段は、
前記仮想物体が前記ユーザの身体部位に近接したまま該身体部位に沿って移動しているかのような状態を前記ユーザに視認させることで、実際には与えられていない該仮想物体からの触覚刺激を知覚しているかのような錯覚を該ユーザに与える
ことを特徴とする触錯覚呈示装置。
【請求項2】
前記画像呈示手段は、
前記ユーザの身体部位上に前記仮想物体が存在しているかのような距離に該仮想物体を立体表示させる
ことを特徴とする請求項1記載の触錯覚呈示装置。
【請求項3】
前記画像呈示手段は、
前記身体部位の範囲内で前記仮想物体が移動するように該仮想物体を表示変化させる
ことを特徴とする請求項1または2記載の触錯覚呈示装置。
【請求項4】
前記画像呈示手段は、
ヘッドマウントタイプでなり、左眼用画像を前記ユーザの左眼に表示すると同時に、右眼用画像を前記ユーザの右眼に表示し、両眼視差によって前記ユーザの眼前に前記仮想物体を立体表示させる
ことを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項記載の触錯覚呈示装置。
【請求項5】
コンピュータに対して、
半透明および/または輪郭をぼかした、立体的形状でなる仮想物体を、両眼視差を利用してユーザが存する現実空間に立体表示し、前記仮想物体を前記ユーザの身体部位に重畳させて前記仮想物体が前記ユーザの身体部位に近接したまま該身体部位に沿って移動しているかのような状態を前記ユーザに視認させることで、実際には与えられていない該仮想物体からの触覚刺激を知覚しているかのような錯覚を該ユーザに与える画像呈示ステップを実行させる
ことを特徴とする触錯覚呈示プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザの頭部に装着する支持部に画像表示部が設けられ、当該ユーザに対して所定の映像を視認させるヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display:以下、HMDと呼ぶ)装置が知られている。また、この種のHMD装置としては、ユーザに対してユーザが存する現実空間を視認させつつ、画像表示手段によって所定の画像を仮想物体として現実空間に立体表示させ、仮想物体が現実空間にあたかも存在しているかのような錯覚をユーザに対して与えるシースルー型HMD装置も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2005-221888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のシースルー型HMD装置の研究としては、仮想物体に対するユーザの身体動作を基に、描画や操作命令等の入力操作を行うような技術の開発が進められているものの、仮想物体を利用した触感覚呈示に関する研究例についてはまだ少ない。
【0005】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、現実空間に立体表示させた仮想物体に基づきユーザに対し触覚刺激を錯覚させ得る触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラムを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1における触錯覚呈示装置および請求項5の触錯覚呈示プログラムでは、半透明および/または輪郭をぼかした、立体的形状でなる仮想物体を、両眼視差を利用してユーザが存する現実空間に立体表示し、前記仮想物体を前記ユーザの身体部位に重畳させて前記仮想物体が前記ユーザの身体部位に近接したまま該身体部位に沿って移動しているかのような状態を前記ユーザに視認させることで、実際には与えられていない該仮想物体からの触覚刺激を知覚しているかのような錯覚を該ユーザに与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、仮想物体がユーザの身体部位に近接したまま身体部位に沿って移動しているかのような状態をユーザに視認させることで、視覚的な錯覚を基に、現実空間に立体表示させた仮想物体に基づきユーザに対し触覚刺激を錯覚させ得る触錯覚呈示装置および触錯覚呈示プログラムを実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明によるシースルー型HMD装置の回路構成を示すブロック図である。
【図2】ユーザが存する現実空間に立体表示された仮想物体の構成を示す概略図である。
【図3】ユーザが両掌に仮想物体を位置合わせしたときの様子を示す概略図である。
【図4】ユーザの視点から見て、仮想物体を両掌に近接するように位置合わせしたときの様子を示す写真である。
【図5】ユーザ自ら頭部を左右に振ることで、仮想物体が掌上で移動しているかのように見せるときの説明に供する概略図である。
【図6】掌の移動に合わせて仮想物体が追従するときの様子を示す概略図である。
【図7】実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の各条件をまとめた表である。
【図8】実施例2における輪郭をぼかした仮想物体を示す写真である。
【図9】実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の各条件での心理尺度上での座標を示す概略図と、それをまとめた表である。
【図10】検証試験で用いた仮想物体の左眼用画像と右眼用画像を示す概略図である。
【図11】検証試験において用いた仮想物体に対する評定点をまとめたグラフである。
【図12】検証試験における各運動条件に対する評定点をまとめたグラフである。
【図13】検証試験における仮想物体条件および運動条件と、それに対する被験者の自由回答をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。

【0010】
(1)本発明のシースルー型HMD装置について
図1において、1は本発明の触錯覚呈示装置としてのシースルー型HMD装置を示し、ユーザの頭部に装着可能なHMD部2aと、このHMD部2aに接続された制御ボックス2bとを備えている。制御ボックス2bは、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータ構成の制御部3と、電源ボタンなどの各種ボタンからなる操作部4と、外部インターフェイス5と、記憶部6とがバスBを介して相互に接続された構成を有し、外部インターフェイス5を介してHMD部2aが接続されている。

【0011】
制御部3は、ROMに予め格納されている触錯覚呈示プログラムをRAMにロードして立ち上げることにより、シースルー型HMD装置1における各種機能を統括的に制御して触錯覚呈示処理を実行し、HMD部2aに設けた画像表示部7によって、所定画像を仮想物体としてユーザが存する現実空間に立体表示し得るようになされている。

【0012】
実際上、制御部3は、触錯覚呈示処理の実行命令が操作部4を介して与えられると、記憶部6に予め記憶された左眼用画像データと右眼用画像データとを読み出し、これら左眼用画像データおよび右眼用画像データを、外部インターフェイス5を介してHMD部2aの画像表示部7に送出し得る。ここで、HMD部2aは、ユーザの頭部に装着された際、画像表示部7がユーザの右眼および左眼に位置決めされ得るものの、当該画像表示部7が右眼および左眼に位置決めされてもユーザに対して現実空間の外界像をそのまま視認させ得るようになされている。

【0013】
この場合、画像表示部7は、左眼用画像データに基づいて生成した左眼用画像を、左眼に対向配置させた左眼側表示面に表示させるとともに、右眼用画像データに基づいて生成した右眼用画像を、右眼に対向配置させた右眼側表示面に表示させ、左眼および右眼にそれぞれ異なる画像を同時に呈示し得るようになされている。画像表示部7は、左眼用画像と右眼用画像とによって生じる両眼視差により、図2に示すような仮想物体8をユーザが存する現実空間に立体表示し得る。

【0014】
これにより、画像表示部7は、ユーザが存する現実空間に、画像により生成した仮想物体8が実際に存在し、当該仮想物体8がユーザの眼前でまるで浮かんでいるかのような錯覚をユーザに対して与え得る。

【0015】
ここで、この実施の形態の場合、仮想物体8は、半透明な球体からなり、後方の背景をそのまま透過してユーザに視認させ得るようになされている。また、仮想物体8は、その表面に濃淡パターンによって凹凸を表す影が付され、現実空間において奥行き感のある立体的な構造体としてユーザに視認させ得るようになされている。

【0016】
なお、この実施の形態の場合では、図3に示すように、ユーザUがHMD部2aを頭部に装着して仮想物体8を視認した際、ユーザUから約300[mm]離れた位置に直径40[mm]の球状でなる仮想物体8があたかも存在しているかのように表示位置が調整されている。これにより画像表示部7は、ユーザUが手を前方に延ばすことで、ユーザUの両掌Hに仮想物体8が近接するように位置合わせすることができ、まるで仮想物体8を両掌Hに載せているかのような錯覚をユーザUに与えることができる。

【0017】
なお、上述した実施の形態においては、ユーザUから約300[mm]離れた位置に仮想物体8を立体表示させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ユーザUがHMD部2aを介して仮想物体8を視認した際にユーザUの掌H上に仮想物体8が位置合わせ可能な距離L以内なら種々の位置に仮想物体8を立体表示させても良い。

【0018】
図4に示すように、ユーザUは例えば掌Hの小指球側面同士および小指側面同士を接触させて両掌Hで載置領域を形成し、この両掌H上に仮想物体8を位置合わせさせ得る。この際、仮想物体8は、半透明に形成されていることから、仮想物体8の後方にある身体部位(この場合、指)をそのままユーザに対し視認させ得るようになされている。

【0019】
このように、仮想物体8は、後方の背景が透過してユーザUにそのまま視認させることで、仮想物体8の質量が小さいことをユーザUにイメージさせ、仮想物体8が掌Hに触れたとしても微弱な触覚刺激しか生じないであろうというイメージをユーザUに与え得る。

【0020】
また、これに加えて、この実施の形態の場合、制御部3は、図4に示したように、左右方向において所定範囲内で周期的に往復移動する仮想物体8を、画像表示部7によって現実空間に立体表示させ得るようになされており、ユーザUの両掌Hが仮想物体8直下に位置合わせされると、ユーザUの両掌Hに近接したまま両掌Hに沿って仮想物体8があたかも動いているかのような錯覚を与えるようになされている。

【0021】
かくして、画像表示部7は、まるで仮想物体8自体が持つ何らかのエネルギーによってユーザUの掌Hに近接した位置で浮遊しているかのような状態をユーザUに視認させるとともに、仮想物体8自体が何らかの意思を持ってユーザUの掌H上を移動しているかのような状態をユーザUに視認させ得る。

【0022】
画像表示部7は、このような視覚的な錯覚をユーザUに与え続けることで、仮想物体8の動きに合わせて、仮想物体8から発生しているだろう何らかのエネルギーを、まるで掌Hで感じているかのような触覚的な錯覚をユーザUに対して与え得るようになされている。

【0023】
以上の構成において、シースルー型HMD装置1では、画像表示部7によって、立体的形状でなる半透明の仮想物体8を、両眼視差を利用してユーザUが存する現実空間に立体表示し、現実空間にて仮想物体8がユーザUの両掌H上にあたかも存在しているかのようにユーザUに視認させ、さらに、仮想物体8がユーザUの両掌Hに近接したまま両掌Hに沿って移動しているかのような状態をユーザUに視認させるようにした。

【0024】
このようにシースルー型HMD装置1では、仮想物体8がユーザUの掌Hに近接したまま掌Hに沿って移動しているかのような状態をユーザUに視認させることで、視覚的な錯覚を基に、実際には与えられていない仮想物体8からの触覚刺激を知覚しているかのような錯覚をユーザUに与えることができる。

【0025】
(2)他の実施の形態
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施の形態においては、仮想物体として、後方の背景が透過可能な半透明の仮想物体8を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、不透明であっても輪郭をぼかした仮想物体を適用してもよく、また、半透明で、かつ輪郭をぼかした仮想物体を適用してもよい。

【0026】
このように仮想物体の輪郭をぼかして仮想物体と後方の背景との境目を曖昧にした場合でも、仮想物体の質量が小さいであろうことをユーザにイメージさせることができ、かくして仮想物体が掌に触れたとしても微弱な触覚刺激しか生じないであろうというイメージをユーザに与えることができる。

【0027】
また、半透明で、かつ輪郭をぼかした仮想物体を適用した場合には、仮想物体の質量が一段と小さいことをユーザにイメージさせることができ、かくして仮想物体が掌に触れたとしても微弱な触覚刺激しか生じないであろうというイメージを更にユーザに与えることができる。

【0028】
また、上述した実施の形態においては、仮想物体として、球体の仮想物体8を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、楕円体や三角錐体、円錐体、直方体の他、例えば掌などの身体部位の範囲内に収まるものであれば、人や動物を模したキャラクタ、気流等を表した仮想物体等その他種々の仮想物体を適用してもよい。

【0029】
さらに、上述した実施の形態においては、仮想物体8が掌Hに近接したまま掌Hに沿って移動するように仮想物体8の立体表示を変化させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、左右方向等に移動することなく、所定の位置で静止したままの仮想物体8を適用してもよい。

【0030】
この場合、シースルー型HMD装置では、図5に示すように、仮想物体8を掌Hに位置合わせした状態で、ユーザ自ら頭部を左右に振ることで、仮想物体8が掌Hに近接したまま両掌Hに沿って移動しているかのような状態をユーザUに視認させることができ、かくして、上述した実施の形態と同様に、視覚的な錯覚に基づいて、実際には与えられていない仮想物体8からの触覚刺激をユーザUに錯覚させることができる。

【0031】
また、制御部3は、図示しないセンサによってユーザUの掌Hを予め認識しておき、当該掌H上に仮想物体8を常に位置合わせするように仮想物体8の立体表示を自動的に移動させるようにしてもよい。この場合、制御部3は、図6に示すように、例えばユーザUの片方の掌H上に仮想物体8が位置合わせされている際、ユーザUがこの掌Hを横方向に移動させると、これに合わせて仮想物体8も僅かに遅れて掌Hを追従するように横方向に移動させ、仮想物体8が常に掌H上に近接しているかのような感覚をユーザに与えることができる。この場合でも、ユーザUは、仮想物体8が掌Hの移動に合わせて追従する際、掌Hと仮想物体8が僅かに位置ずれするとき、その動きに合わせて、仮想物体8から発生しているだろうエネルギーを、まるで掌Hで感じているかのような錯覚をユーザUに与えることができる。

【0032】
さらに、上述した実施の形態においては、仮想物体8が重畳される身体部位として、掌Hを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば上腕部や腹部、大腿部、下腿部等、ユーザが直接目視できるその他種々の身体部位を適用してもよい。この場合、制御部3は、仮想物体8を重畳させる身体部位に合わせて仮想物体8を立体表示させる表示位置を調整し、虚像である仮想物体8がユーザUの身体部位上にあたかも存在しているかのようにユーザUに視認させ得る。

【0033】
(3)検証試験
次に、上述したシースルー型HMD装置1を用いた検証試験について説明する。ここでは、上述したシースルー型HMD装置1を用いて触覚刺激が与えられているかのような錯覚現象(以下、触錯覚現象と呼ぶ)に関して、最適な刺激呈示方法を検討するため、ユーザが錯覚する触覚刺激の特性と、仮想物体の最適な呈示方式とを調べるため下記のような検証試験を行った。

【0034】
この検証試験では、図7に示すように、条件の異なる実施例1、実施例2、比較例1および比較例2について被験者が触覚刺激を錯覚したか否かについて検証を行った。この場合、実施例1では、半透明の立体的な仮想物体を両眼視差により立体視させ(図7の表中、「両眼半透明条件」と表記)、実施例2では、同じく両眼視差を利用して仮想物体を立体表示させるものの、仮想物体を不透明とし輪郭をぼかしたものを用いた(図7の表中、「両眼不透明条件」と表記)。

【0035】
一方、比較例1では、立体的形状でなる半透明の仮想物体を単眼で呈示し、立体視されない仮想物体を呈示した(図7の表中、「単眼半透明条件」と表記)。また、比較例2では、両眼視差を用いずに、仮想スクリーン面に仮想物体を呈示した(図7の表中、「遠距離条件」と表記)。比較例2では、シースルー型HMD装置の仮想スクリーン位置を24[m]とし、仮想物体を24[m]先に呈示した。なお、仮想物体は、静止画であり、3DCGソフトウェア(3ds Max,Autodesk)によってレンダリングして作製した。

【0036】
実施例1にて呈示した仮想物体は、図2に示すような直径40[mm]の白色の球体とし、この球体をユーザ眼前300[mm]の位置に立体表示させるように両眼視差を設定した。ただし、単眼半透明条件で行った比較例1では、優位眼のみに仮想物体を呈示した。そのため比較例1では、球体のスクリーン上での位置は変わらないが視差はなく、シースルー型HMD装置のスクリーン面に表示されることになる。比較例1におけるシースルー型HMD装置の光学的な焦点位置は2.5[m]とした。

【0037】
仮想物体を遠距離に呈示する遠距離条件の比較例2では、光学シースルー条件を基準として視差のない仮想物体を呈示した。両眼不透明条件の実施例2では、図8に示すように、HMD部2aにおける画像表示部7の前面に黒色のシールを貼ったフィルタ10aを付加することで、球体8aの後方が透過して見えない仮想物体10とした。このとき、被験者の瞳孔間隔やHMD部2aの装着位置によって、球体8aとフィルタ10aの位置関係が変化するため、球体8aよりもやや広い範囲の背景を、フィルタ10aによって遮蔽した。ただし、仮想物体10は、フィルタ10aの輪郭をぼかしてフィルタ10aと後方背景との境目を曖昧にした。

【0038】
仮想物体8,10と身体部位とを近接させることは、仮想物体8,10直下に被験者が掌Hを添えることで実現した。さらに、この検証試験では、静止画からなる仮想物体8,10を用いたため、掌H上に仮想物体8,10を位置合わせさせた状態で被験者に首を振ってもらうことで、仮想物体8,10が掌H上を左右に振幅運動している状態を実現した。

【0039】
なお、シースルー型HMD装置1としては光学シースルー型HMD(Moverio BT-100、EPSON)を用いた。被験者の前方には黒幕を配置し、被験者が仮想物体8,10を視認する際、仮想物体8,10の後方にある背景が見えないようにし、さらに一般的なオフィスの明るさと同程度の明るさの部屋で行った。但し、シースルー型HMD装置1の迷光を防ぐため、被験者の直上の光源は消灯した。

【0040】
被験者は21歳から39歳までの男女12名(男性9名、女性3名)であった。検証試験は、被験者に検証試験の目的や取得するデータについて説明した後に行った。実際上、検証試験は第1実験と第2実験の2部に分けて行い、最初に、第1実験として、実施例1の両眼半透明条件で仮想物体8を観察してもらい、図5に示したように、両掌H上に仮想物体8を位置合わせした後、首を振ってもらい両掌H上で仮想物体8を振幅運動させた。そして、この際に、被験者が手に感じる感覚についてインタビュー調査を行った。

【0041】
インタビューでは、手に感じる感覚、その強度、感じる位置、振幅運動の速さを変えた際の印象変化、運動方向を変えたときの印象変化、仮想物体8と身体部位の位置関係による印象変化等について質問し、自由に回答させた。

【0042】
その結果、仮想物体8が掌H上を振幅運動している状態を見た被験者からは、「掌に風があたるような感覚があった」という意見や、「掌に冷たさを感じた」という意見、「掌に物の存在や気配を感じた」とう意見が確認できた。

【0043】
その一方で、ある被験者からは「物が触れている感触ではない」という意見や、「言われてみれば何かを感じるという程度である」とう意見も聞かれた。これらの意見から、掌Hへの物体の接触といったはっきりとした触覚刺激ではなく、空気や風を受けているという程度の非常に微弱な触覚刺激があるかのような錯覚現象が生じていることが確認できた。

【0044】
また、被験者からは、仮想物体8と掌Hが接触しているように見えている箇所で触覚刺激を知覚しているかのような錯覚が得られたという意見を得た。特に、浮いているように見える場合や、完全に手と交叉して見える場合には、上記のような微弱な触覚刺激が生じないという意見も聞かれ、仮想物体8が身体部位の表面上に近接しているように視認させることが、錯覚現象の発生に有効であることが分かった。

【0045】
仮想物体8の振幅運動の速さについては、速くしたり遅くしたりしても感覚は変わらないという報告もあれば、速いほうが冷たさをより感じたといった報告もあり、被験者によって印象が異なった。冷たさを感じたという被験者からは、振幅運動の速さによって錯覚の強度が異なったという報告も得られた。

【0046】
次に第2実験を行った。この第2実験では、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の各条件の下、被験者に仮想物体8,10の直下に両掌Hを配置させ、首を振って仮想物体8,10が両掌H上で振幅運動しているかのような状態を被験者に視認させた。実施例1、実施例2、比較例1および比較例2において両掌H上で振幅運動する仮想物体8,10の観察時間は10秒間とした。ここで、各実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の評価はシェッフェの一対比較法によって行った。

【0047】
2回の画像呈示の後、1回目の条件に比べ、2回目の条件では、どちらのほうが錯覚を感じたかについて、-3~+3の7段階で回答を求めた。このとき、錯覚の定義として、はじめのパートで生じた感覚であると説明し、その感覚の強度自体を比較するのではなく、どちらが錯覚の発生を認識し易かったかついて評価させた。上記の呈示と評価を1セットとして、4条件(実施例1、実施例2、比較例1および比較例2)の組み合わせで12セットの試行を行った。全試行の評価が終了した後、検証試験全体で感じた印象などについても内省報告を求めた。

【0048】
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の4つの条件について、どの条件で錯覚の発生を認識し易かったかを示す一対比較法で得られた評価結果を、図9Aおよび図9Bにまとめた。ここで、図9Aは、各比較の評価値を基に、錯覚の発生し易さについて求めた心理尺度を座標軸に表したものであり、図9Bは、これら心理尺度上の座標値をまとめた表である。

【0049】
図9Aおよび図9Bから、半透明の立体的な仮想物体8を呈示した実施例1と、不透明な仮想物体10を呈示した実施例2では、実施例1の方が実施例2よりも評価が高かった。但し、これら実施例1および実施例2のどちらも、他の比較例1および比較例2に比べて有意に錯覚が発生し易いことが分かった。すなわち、比較例1は、上記の実施例1および実施例2よりも錯覚が発生し難いといえ、比較例2は比較例1よりもさらに錯覚が発生し難いという結果が得られた。

【0050】
錯覚が起き易い実施例1および実施例2と、錯覚が起き難い比較例1および比較例2との1つの違いとしては、立体視によって手の位置と同じ位置に仮想物体が呈示できたかどうかということがあり、仮想物体8,10によって奥行き位置が定位できることは、錯覚現象の発生において有効であるといえる。

【0051】
次に、仮想物体の形状を変えて、上述した実施例1と同様の検証試験を行い、触覚刺激の錯覚発生について調べた。具体的には、直径40[mm]の球体を視距離300[mm]に呈示したとき、直径40[mm]の球体を視距離を変えて400[mm]に呈示したとき、直径40[mm]高さ40[mm]の円錐体を視距離300[mm]に呈示したとき、輪郭を画像処理でぼかした直径40[mm]の球体を視距離300[mm]に呈示したときに、それぞれ被験者が触覚刺激を錯覚するか否か検証試験を行った。

【0052】
なお、図10Aは、仮想物体である球体を両眼視差によって現実空間に立体表示させる際の左眼用画像15aおよび右眼用画像15bを示し、図10Bは、仮想物体である円錐体を両眼視差によって現実空間に立体表示させる際の左眼用画像16aおよび右眼用画像16bを示し、図10Cは、仮想物体であるぼかし球体を両眼視差によって現実空間に立体表示させる際の左眼用画像17aおよび右眼用画像17bを示したものである。これら仮想物体は、HMDを用いて観察した際にいずれも半透明で呈示され、左眼用画像15a,16a,17aおよび右眼用画像15b,16b,17bを3DCGソフトウェア(3ds Max,Autodesk)によってレンダリングにより作製した。

【0053】
仮想物体の身体部位上での運動は、上述した検証試験と同様に、HMD部2aを装着した頭部を左右に振らせることで、仮想物体の振幅運動を再現し、このときの振幅の幅、速度については、被験者に「手の幅で」、「自分のリズムで」と教示し、この幅と速度を標準とした。

【0054】
そして、主観評価として、「触覚を全く感じない」を1点、「触覚を強く感じる」を5点として集計したところ、図11Aに示すような結果が得られた。図11Aから、半透明の仮想物体であればその形状については、錯覚強度に大きな影響を与えないことが示唆された。但し、同じ球体であっても、被験者にとって手の届きやすい視距離300[mm]に球体を呈示したときのほうが、被験者にとってやや手の届きにくい視距離400[mm]に球体を呈示したときよりも評定点が僅かに高かく、触覚刺激の錯覚が感じ易いことが確認できた。

【0055】
次に、仮想物体の標準の運動に対し、「速く振幅させる」、「遅く振幅させる」、「広い幅で振幅させる」、「狭い幅で振幅させる」の4条件の下、触覚刺激の錯覚がどのようになるか検証試験を行った。なお、この検証試験では、直径40[mm]の球体を眼前300[mm]の位置に呈示した。これら検証試験の結果を図11Bに示す。図11Bから、仮想物体の運動条件を変えても、錯覚強度に大きな影響を与えないことが示唆された。

【0056】
図12および図13は、上記した検証試験を行った際に、各被験者から得られた自由回答をまとめたものである。以上をまとめると、仮想物体が掌に近接したまま掌に沿って移動しているかのような状態を視認した被験者からは、図12に示すように、「冷たい感じがした」、「球が転がっている感じがした」、「くすぐったい感じがした」、「空気の塊が通る感じがした」、「風が手を通るような感じがした」、「物体の重みを感じた」といった意見が聞かれた。「冷たさ」や、「空気の塊」、「風」といったように、気体が接触するような感覚が錯覚として生じていることが分かった。

【0057】
また、仮想物体の形状を球体とした場合には、「転がり感がある」という意見も多く、物体の形状から発想される触覚が、そのまま錯覚として感じられていると考えられる。同様に、仮想物体を速く大きく動かす条件においては、動きによって生じる風を発想させ、それをそのまま錯覚として感じていると考えられる。このように、シースルー型HMD装置1では、仮想物体を現実空間の身体部位に重畳させるように立体表示し、かつ、この仮想物体を身体部位に近接させたまま身体部位に沿って動かす状態をユーザに視認させることで、仮想物体から身体部位に対しあたかも微風など微弱な触覚刺激が与えられているかのような錯覚をユーザに与えることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1 シースルー型HMD装置
2a HMD部
2b 制御ボックス
3 制御部
7 画像表示部(画像表示手段)
8 仮想物体
H 掌(身体部位)
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図9】
5
【図13】
6
【図2】
7
【図4】
8
【図8】
9
【図10】
10
【図11】
11
【図12】
12