TOP > 国内特許検索 > オゴノリ由来のシクロオキシゲナーゼの遺伝子及び該遺伝子を利用するプロスタグランジン類生産方法 > 明細書

明細書 :オゴノリ由来のシクロオキシゲナーゼの遺伝子及び該遺伝子を利用するプロスタグランジン類生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5641232号 (P5641232)
公開番号 特開2012-125229 (P2012-125229A)
登録日 平成26年11月7日(2014.11.7)
発行日 平成26年12月17日(2014.12.17)
公開日 平成24年7月5日(2012.7.5)
発明の名称または考案の名称 オゴノリ由来のシクロオキシゲナーゼの遺伝子及び該遺伝子を利用するプロスタグランジン類生産方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/02        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
C07K  16/16        (2006.01)
C12Q   1/26        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/02
C12N 1/21
A01H 5/00 A
C12P 7/64
C07K 16/16
C12N 15/00 F
C12Q 1/26
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 16
全頁数 32
出願番号 特願2011-040304 (P2011-040304)
出願日 平成23年2月25日(2011.2.25)
優先権出願番号 2010261053
優先日 平成22年11月24日(2010.11.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年8月26日(2013.8.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
発明者または考案者 【氏名】大山 莞爾
【氏名】小林 美保
【氏名】金本 浩介
個別代理人の代理人 【識別番号】100077012、【弁理士】、【氏名又は名称】岩谷 龍
審査官 【審査官】渡邉 潤也
参考文献・文献 特開平06-090788(JP,A)
特表2007-530453(JP,A)
特開平03-206895(JP,A)
特開2000-262294(JP,A)
特表2003-511035(JP,A)
特開2005-068157(JP,A)
国際公開第2011/010485(WO,A1)
特開2013-183639(JP,A)
Appl.Microbiol.Biotechnol.,2011 Aug,91(4),p.1121-9,Epub 2011 Jun 3
調査した分野 C12N 15/00
C12N 9/00
CAplus/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の(a)又は(b)のDNAを含む遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNA又は該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するオゴノリ目生物由来のたんぱく質をコードするDNA
【請求項2】
下記の(a)~(c)のいずれかのDNAを含む遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列の一部からなり、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNA
(c)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAの全部又は一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNA
【請求項3】
下記の(A)又は(B)のたんぱく質をコードする遺伝子。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、一個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するオゴノリ目生物由来のたんぱく質
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
【請求項6】
少なくとも請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子を宿主細胞であるE. coliに導入してなるE. coli形質転換体。
【請求項7】
少なくとも請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子をゼニゴケ目生物に導入してなるゼニゴケ目生物形質転換体若しくは該形質転換体と同一の性質を有する該ゼニゴケ目生物形質転換体の子孫となるゼニゴケ目生物形質転換体、又は該ゼニゴケ目生物形質転換体の組織。
【請求項8】
請求項7に記載のゼニゴケ目生物形質転換体又は該ゼニゴケ目生物形質転換体の組織から得られる繁殖材料。
【請求項9】
請求項6に記載のE. coli形質転換体を、アラキドン酸及び/又はエイコサペンタエン酸存在下で培養する工程を含むことを特徴とするアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生産方法。
【請求項10】
請求項7に記載のゼニゴケ目生物形質転換体又はその組織を、増殖又は生育させる工程を含むことを特徴とするアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生産方法。
【請求項11】
請求項6に記載のE. coli形質転換体、又は請求項7に記載のゼニゴケ目生物形質転換体よりたんぱく質画分を調製する工程を含むことを特徴とするアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生産方法。
【請求項12】
請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子をゼニゴケ目生物に導入する工程を含むことを特徴とするゼニゴケ目生物又はその組織のプロスタグランジン組成を改変する方法。
【請求項13】
請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質を認識する抗体。
【請求項14】
請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子の少なくとも一部の塩基配列又はその相補配列をプローブとして用いる遺伝子検出器具。
【請求項15】
請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質を用いて、該たんぱく質を調節する物質をスクリーニングする方法。
【請求項16】
(I)請求項1~3の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質に、in vitroでアラキドン酸及び/又はエイコサペンタエン酸、並びに候補物質を接触させる工程、(II)アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生成量をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)におけるプロスタグランジン類生成量の増加又は減少が検出された候補物質を該たんぱく質を調節する物質として選択する工程を含むことを特徴とする請求項15に記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はオゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)由来のプロスタグランジン(以下、「PG」と略記することもある)類生合成に関わる遺伝子であるシクロオキシゲナーゼの遺伝子とその利用に関するものである。本発明はまた、形質発現した大腸菌(Escherichia coli、単にE. coliともいう)、植物形質転換体等によるプロスタグランジン類生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エイコサノイドの1分類であるプロスタグランジン類には、末梢血管拡張作用、血小板凝集抑制作用、細胞保護作用、血管新生作用などがあり、いわゆるリポPG剤としてこれらの治療剤として用いられている。
【0003】
アラキドン酸(以下、「AA」と略記することもある)、エイコサペンタエン酸(以下、「EPA」と略記することもある)などの高度不飽和脂肪酸は、ヒト等において神経系を中心として細胞膜脂質に多く含まれている。これら高度不飽和脂肪酸から、シクロオキシゲナーゼの反応により、プロスタグランジン類といった薬理学的に非常に重要な生理活性物質が生合成されている。これら生合成代謝経路は、アラキドン酸カスケードと呼ばれている(図1)。
【0004】
このように、生理活性物質であるプロスタグランジン類等が、動物細胞で生合成されていることは、報告されている。血液中のプロスタグランジン類が定量分析用に調製されている(特許文献1)。
【0005】
現在、プロスタグランジン類は、化学合成法により、ラクトンから全化学合成により生産されている。このため生産コストが高いという問題点が挙げられる。プロスタグランジン類は、例えばヒトの生体内では、AA又はEPAより、シクロオキシゲナーゼの反応により生合成されると考えられている。これらの反応では、まずホスホリパーゼによりAA又はEPAが細胞膜脂質より細胞内に遊離され、該AA又はEPAがシクロオキシゲナーゼにより2分子の酸素により酸化され、プロスタグランジン類に変換される。
【0006】
海藻オゴノリは、原生生物界、紅色植物門(Rhodophyta)に属し、オゴノリ目、オゴノリ科、オゴノリ属に分類される。オゴノリ目にはオゴノリのほかに、カバノリ、シラモ、ツルシラモが知られている。オゴノリでプロスタグランジン類の蓄積が報告されている(非特許文献1及び特許文献2)。オニオン、ポプラ、カラマツ、マツヨイグサ、アサガオ、ベンケイソウ及びある種のタイ類でプロスタグランジン様物質の存在が報告されているが、詳細は不明である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2007-278750号公開
【特許文献2】特開平3-206895号公報
【0008】

【非特許文献1】Bull. of the Jpa. Society of Science Fisheries 50(3), p465-469, 1984
【非特許文献2】Botanical Review 63, p199, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、E. coli等の微生物、植物等を用い、プロスタグランジン類を生産し得る、オゴノリ目生物等の由来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子、並びにその利用法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、オゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)由来のcDNAクローンから、シクロオキシゲナーゼをコードする遺伝子を同定した。また、該遺伝子をE. coliに導入し形質発現させることにより、該E. coliにプロスタグランジン類を産生させることができることを見出し、該遺伝子を微生物又は植物に導入して得られる形質転換体により、プロスタグランジン類を効率よく産生できることに想到した。例えば、前記シクロオキシゲナーゼをコードする遺伝子が発現可能に導入されたE. coli形質転換体をAA及び/又はEPA存在下で培養すると、細胞(菌体)内のAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の含量が増加し、さらに細胞内で生合成されたプロスタグランジン類が培養液中に分泌される。このため、前記遺伝子及び該遺伝子が発現可能に導入されたE. coli形質転換体は、製薬産業及び各種素材産業等において、プロスタグランジン類を生産する上で、薬等の原料や試薬の供給に極めて有用である。
【0011】
また、前記シクロオキシゲナーゼをコードする遺伝子が発現可能に導入されたゼニゴケ目生物の形質転換体(ゼニゴケ目生物形質転換体)は、増殖又は生育に伴い細胞内にプロスタグランジン類を蓄積する。ゼニゴケ目生物はプロスタグランジン合成の基質であるアラキドン酸及びエイコサペンタエン酸を生合成しているので、このような植物形質転換体を用いると、培地等にこれらの基質を加える必要がないという効果を奏する。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔16〕の発明を包含する。
〔1〕 下記の(a)又は(b)のDNAを含む遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNA又は該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するオゴノリ目生物由来のたんぱく質をコードするDNA
〔2〕 下記の(a)~(c)のいずれかのDNAを含む遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に示される塩基配列の一部からなり、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNA
(c)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAの全部又は一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNA
〔3〕 下記の(A)又は(B)のたんぱく質をコードする遺伝子。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、一個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するオゴノリ目生物由来のたんぱく質
【0013】
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質。
〔5〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
〔6〕 少なくとも前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子を宿主細胞であるE. coliに導入してなるE. coli形質転換体。
〔7〕 少なくとも前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子をゼニゴケ目生物に導入してなるゼニゴケ目生物形質転換体若しくは該形質転換体と同一の性質を有する該ゼニゴケ目生物形質転換体の子孫となるゼニゴケ目生物形質転換体、又は該ゼニゴケ目生物形質転換体の組織。
〔8〕 前記〔7〕に記載のゼニゴケ目生物形質転換体又は該ゼニゴケ目生物形質転換体の組織から得られる繁殖材料。
【0014】
〔9〕 前記〔6〕に記載のE. coli形質転換体を、アラキドン酸及び/又はエイコサペンタエン酸存在下で培養する工程を含むことを特徴とするアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生産方法。
〔10〕 前記〔7〕に記載のゼニゴケ目生物形質転換体又はその組織を、増殖又は生育させる工程を含むことを特徴とするアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生産方法。
〔11〕 前記〔6〕に記載のE. coli形質転換体、又は前記〔7〕に記載のゼニゴケ目生物形質転換体よりたんぱく質画分を調製する工程を含むことを特徴とするアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生産方法。
〔12〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子をゼニゴケ目生物に導入する工程を含むことを特徴とするゼニゴケ目生物又はその組織のプロスタグランジン組成を改変する方法。
〔13〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質を認識する抗体。
〔14〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子の少なくとも一部の塩基配列又はその相補配列をプローブとして用いる遺伝子検出器具。
【0015】
〔15〕 前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質を用いて、該たんぱく質を調節する物質をスクリーニングする方法。
〔16〕 (I)前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の遺伝子にコードされるたんぱく質に、in vitroでアラキドン酸及び/又はエイコサペンタエン酸、並びに候補物質を接触させる工程、(II)アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生成量をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)におけるプロスタグランジン類生成量の増加又は減少が検出された候補物質を該たんぱく質を調節する物質として選択する工程を含むことを特徴とする前記〔15〕に記載のスクリーニング方法。
【0016】
アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類とは、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸から生合成されるプロスタグランジンを意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る遺伝子の好ましい態様の1つは、オゴノリから単離されたシクロオキシゲナーゼ遺伝子、並びにこれらの遺伝子にコードされるたんぱく質と同等の活性を有するたんぱく質をコードする遺伝子である。例えば、シクロオキシゲナーゼ遺伝子をE. coli、植物等の宿主細胞にて発現させた場合には、プロスタグランジン類生合成に係わる遺伝子が宿主細胞で良好に機能し、その結果プロスタグランジン類が生合成されるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係るE. coli形質転換体は、プロスタグランジン類を生産でき、しかも細胞内で合成したプロスタグランジン類を細胞外に分泌すると言う効果を奏する。このため、プロスタグランジン類を効率よく生産できる。このような本発明に係るE. coli形質転換体を用いると、医薬品の有効成分等として有用なプロスタグランジン類の生産コストを著しく低減でき、同時に、より環境に易しい生産プロセスを実現することができる。また、本発明に係る植物形質転換体においては、その増殖又は生育に伴いプロスタグランジン類が生成し、細胞内に蓄積する。つまり本発明によれば、低コストかつ環境にやさしい生産プロセスで、プロスタグランジン類を安価に生産することができるという効果を奏する。さらに、E. coli形質転換体であれば、微生物培養法による大量生産ができることから、より安価なプロスタグランジン類を工業的に効率よく供給できるという効果も奏する。こうして得られたプロスタグランジン類は、薬理活性物質、健康食品の原料等として、活用できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、アラキドン酸カスケードにおける、細胞内でアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸からシクロオキシゲナーゼによりプロスタグランジンが生成する反応を示す図である。
【図2】図2は、本発明のE. coli形質転換体によるプロスタグランジン生産の流れの概略を示す図である。
【図3】図3A~図3Bはそれぞれ、オゴノリ由来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子を導入するための形質発現コンストラクト(図3A:E. coli、図3B:酵母)の作製手順の一例を示す図である。
【図4】図4C~図4Dは、オゴノリ由来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子を導入するための形質発現コンストラクト(植物形質発現組換えベクター)の作製手順の一例を示す図である。
【図5】図5A~図5Dはそれぞれ、オゴノリ目生物由来のシクロオキシゲナーゼの遺伝子を導入するためのE. coli形質発現組換えベクター(図5A)、酵母発現用ベクター(図5B)、及び植物形質発現組換えベクター(図5C及び図5D)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。

【0021】
以下、プロスタグランジン類の生合成経路、本発明に係る遺伝子、本発明に係るたんぱく質、本発明に係るたんぱく質及び遺伝子の取得方法、並びに本発明に係る遺伝子及びたんぱく質の生産方法(有用性、すなわちプロスタグランジン類の生産)の順で本発明を詳細に説明する。

【0022】
(1)プロスタグランジン類の生合成経路(図1)
細胞内では、プロスタグランジン類はそれぞれアラキドン酸及びエイコサペンタエン酸を起点(基質)として、該基質が2分子の酸素により酸化されプロスタグランジン類に生合成される。これらの反応は、図1に示すように、シクロオキシゲナーゼ(COX)により触媒される。これらの反応経路はアラキドン酸カスケードと呼ばれている。

【0023】
(2)本発明に係る遺伝子
本発明の遺伝子は、シクロオキシゲナーゼ遺伝子である。本発明の遺伝子は、例えば、組換えたんぱく質の調製、プロスタグランジン類の生産、プロスタグランジン類組成が改変されたE. coli、酵母及び植物形質転換体の作製などに好適に利用することができるものである。

【0024】
[本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子]
本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子は、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とし、2分子の酸素により基質を酸化するシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードする遺伝子であり、以下の1.~7.に記載する遺伝子である。
1.配列番号1に示される塩基配列からなるDNAを含む遺伝子。
2.配列番号1に示される塩基配列の一部からなり、かつ、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNAを含む遺伝子。
3.配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAの全部又は一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNAを含む遺伝子。

【0025】
4.配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNAを含む遺伝子。
5.配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNA又は該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するオゴノリ目生物由来のたんぱく質をコードするDNAを含む遺伝子。

【0026】
6.配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質をコードする遺伝子。
7.配列番号2に示されるアミノ酸配列おいて、一個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するオゴノリ目生物由来のたんぱく質をコードする遺伝子。
本発明において、「数個」とは、通常20個程度、好ましくは10個程度、より好ましくは7個程度、さらに好ましくは5個程度、特に好ましくは3個程度、最も好ましくは2個程度である。
本発明において、上記アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質は、アラキドン酸及びエイコサペンタエン酸を基質としてもよい。
本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子は、好ましくは、オゴノリ目生物由来である。より好ましくはオゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)由来である。

【0027】
配列番号1に示される塩基配列からなるDNAは、オゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)に由来する遺伝子である。なお、配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質に翻訳される領域である。配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質は、2分子の酸素によりアラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を酸化するシクロオキシゲナーゼである。なお、配列番号1の1840ないし1842番目の塩基配列(TAG)は、終始コドンである。配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列を、配列番号3に示す。

【0028】
上記配列番号1に示される塩基配列の一部からなり、かつ、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質をコードするオゴノリ目生物由来のDNAとしては、例えば、配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列を有するDNA(すなわち、配列番号3に示される塩基配列を有するDNA)が好ましい。また、配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列の一部からなるDNAとしては、例えば、配列番号1の塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列のDNAが好ましい。
また、上記配列番号1に示される塩基配列のうち154ないし1842番目の塩基配列からなるDNA(配列番号3のDNA)を含む遺伝子として、例えば、配列番号1に示される塩基配列等が好適に用いられる。

【0029】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも約90%の同一性、好ましくは少なくとも約95%の同一性、最も好ましくは約97%の同一性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。

【0030】
上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A lLaboratory Manual. 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory (1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同な遺伝子を取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、市販のDIG(ジゴキシゲニン)ハイブリダイゼーションバッファー(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて行うことなどが挙げられる。

【0031】
本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子は、オゴノリ目生物から取得することができる。
上記「オゴノリ目生物」は、すなわち、海藻オゴノリは、原生生物界、紅色植物門(Rhodophyta)に属し、オゴノリ目、オゴノリ科、オゴノリ属に分類され、オゴノリ目にはオゴノリのほかに、カバノリ、シラモ、ツルシラモが知られている。オゴノリ目生物でプロスタグランジン類の蓄積が報告されている(Bull. of the Jpa. Society of Science Fisheries 50(3), p465-469, 1984)。

【0032】
これらの生物からシクロオキシゲナーゼ遺伝子を取得することは現在の技術水準を持ってすれば容易である。例えば、近縁生物の同じ機能を有する酵素をコードする遺伝子は、クロスハイブリダイゼーションすることが一般に知られている。

【0033】
本発明の遺伝子は、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖と言った各1本鎖DNAやRNAを包含する。アンチセンス鎖は、プローブとして又はアンチセンス化合物として利用できる。DNAには、例えばクローニング若しくは化学合成技術又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA等が含まれる。さらに、本発明の遺伝子は、プロモーター領域、非翻訳領域(5’UTRの配列、3’UTRを含むターミネーター配列等)、ベクター配列(例えば、後述するE. coli形質発現組換えベクター配列等の組換え発現ベクター配列)などの配列を含むものであってもよい。

【0034】
(3)本発明に係るたんぱく質
本発明に係るたんぱく質は、シクロオキシゲナーゼたんぱく質である。

【0035】
[本発明に係るシクロオキシゲナーゼたんぱく質]
本発明に係るシクロオキシゲナーゼたんぱく質は、上述したシクロオキシゲナーゼ活性、すなわちAA又はEPAに対して基質特異性を示し、これらをプロスタグランジン類に変換する作用を有するたんぱく質であればよい。より具体的には、以下に示すたんぱく質が好ましい。好ましくはオゴノリ目生物由来のシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質である。より好ましくはオゴノリ(Gracilaria vermiculophylla) 由来のシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質である。
1.上記(2)に記載した本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子によってコードされるたんぱく質
2.配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質
3.配列番号2に示されるアミノ酸配列の1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするシクロオキシゲナーゼ活性を有するたんぱく質
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるたんぱく質は、オゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)由来のシクロオキシゲナーゼである。

【0036】
上記「1個~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法などの公知の変異たんぱく質作製法により、置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(通常20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、さらにより好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個、最も好ましくは1個程度)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。

【0037】
(4)本発明に係る遺伝子及びたんぱく質の取得方法
本発明に係る遺伝子及びたんぱく質取得方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、代表的な方法として次に示す各方法を挙げることができる。

【0038】
[遺伝子の取得方法]
本発明の遺伝子を取得する方法も特に限定されるものではないが、例えば、ディファレンシャルスクリーニング(サブトラクションクローニング)を利用する方法を挙げることができる。この方法では、公知の技術に従って、試験管内での直接的ハイブリダイゼーションを繰り返し、目的のcDNA(本発明の遺伝子)を濃縮すればよい。

【0039】
上記ディファレンシャルスクリーニングにおける各ステップについては、通常用いられる条件の下で行えばよい。これによって得られたクローンは、制限酵素地図の作製及びその塩基配列決定(シークエンシング)によって、さらに詳しく解析することができる。これらの解析によって、本発明の遺伝子配列を含むDNA断片を取得したか容易に確認することができる。

【0040】
また、本発明の遺伝子を取得する方法として、公知の技術により、本発明の遺伝子を含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明の遺伝子の塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明の遺伝子の塩基配列又はその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列・長さのものを用いてもよい。

【0041】
また、例えば、上記プローブの配列を、上述したオゴノリ目生物間で良好に保存されている領域の中から選択し、他のオゴノリ目生物のゲノムDNA(又はcDNA)ライブラリーをスクリーニングすれば、上記たんぱく質と同様の機能を有する相同分子又は類縁分子をコードする遺伝子を単離しクローニングできる。

【0042】
あるいは、本発明の遺伝子を取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明の遺伝子のcDNA配列のうち、5’側及び3’側の配列(又はその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(又はcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明の遺伝子を含むDNA断片を大量に取得できる。PCR、プライマーの調製等の操作は、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、行うことができる。また、本発明の遺伝子は、DNA合成機によって合成することもできる。

【0043】
上記方法により得られた遺伝子によりコードされるたんぱく質がシクロオキシゲナーゼ活性を有することは、例えば、E. coli、酵母等に該遺伝子を導入してたんぱく質を生産させ、調製したたんぱく質画分を用いて、それらの酵素活性in vitroで分析することにより確かめることができる。
シクロオキシゲナーゼ活性の測定は、通常、Hashimoto et al,J. Biol. Chem.254,829-836,(1979)に記載の方法に従って行うことができる。

【0044】
[たんぱく質の取得方法]
本発明のたんぱく質を取得する方法(生産方法)は、上述したように特に限定されるものではないが、まず、本発明のたんぱく質を発現するE. coli等の微生物、植物から該たんぱく質を単離精製する方法を挙げることができる。精製方法も特に限定されるものではなく、公知の方法でE. coli形質転換体等から抽出液を調製し、この抽出液を公知の方法、例えばカラム等を用いて精製すればよい。

【0045】
また、本発明のたんぱく質を取得する方法として、遺伝子組換え技術等を用いる方法も挙げられる。この場合、例えば、本発明の遺伝子を組換えベクターなどに組み込んだ後、公知の方法により発現可能に宿主細胞に導入し、得られる形質転換細胞(形質転換体)を培養して、該細胞内で翻訳されて得られる上記たんぱく質を精製するという方法などを採用することができる。宿主細胞は、植物、微生物、動物のいずれの細胞でもよい。

【0046】
なお、このように本発明のたんぱく質を取得する目的で、宿主細胞として、例えば、E. coliに外来遺伝子を導入する場合、外来遺伝子の発現のためE. coli内で機能するプロモーターを組み入れたE. coli形質発現ベクターは様々なものが存在するので、目的に応じたものを選択すればよい。宿主細胞内で産生されたたんぱく質を精製する方法は、用いた宿主、たんぱく質の性質によって異なるが、該宿主細胞又はその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、たんぱく質を回収することが可能である。例えば、タグの利用等によって比較的容易に目的のたんぱく質を精製することが可能である。

【0047】
変異たんぱく質を作製する方法についても、特に限定されるものでない。例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto et al. Gene 152, 271-275(1995)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異たんぱく質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異たんぱく質作製法を用いることができる。変異たんぱく質の作製には市販のキットを利用しても良い。

【0048】
本発明のたんぱく質の取得方法は上述の方法に限定されることはなく、例えば、化学合成されたものであってもよい。例えば、無細胞系のたんぱく質合成液を利用して本発明の遺伝子から本発明のたんぱく質を合成してもよい。また、Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966 ; The Proteins, Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976; ペプチド合成、丸善(株)、1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成、広川書店、1991などに記載されているペプチド合成方法によって合成することもできる。
たんぱく質がシクロオキシゲナーゼ活性を有することは、上述した方法で該活性を測定することにより確認できる。

【0049】
(5)本発明に係る遺伝子及びたんぱく質の利用方法(有用性、プロスタグランジン類生産性)
(5-1)組換え発現ベクター
本発明の遺伝子を含む組換え発現ベクターも、本発明に包含される。
本発明の組換え発現ベクターは、例えば、前述した本発明に係るたんぱく質(シクロオキシゲナーゼたんぱく質)を宿主細胞に生産させるため、又は、後述するプロスタグランジン類生産能が高められた形質転換体、プロスタグランジン類生産能を獲得した形質転換体、及びプロスタグランジン類の細胞内組成が改変された形質転換体の作出のため等に好適に使用され得るものである。

【0050】
本発明に係る組換え発現ベクターは、前記(2)に記載した本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子を含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る遺伝子のcDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。本発明の組換え発現ベクターは、本発明に係る遺伝子を宿主細胞中で発現させるために、さらに、該遺伝子の発現に必要なプロモーター等の調節配列を含むことが好ましい。本発明の組換え発現ベクターの作製方法は、公知の方法を用いて行えばよい。

【0051】
本発明に係る遺伝子を含む組換え発現ベクターは、通常、基礎となるベクター(pET、以下の説明では、便宜上、基礎ベクターと称する)のマルチクローニングサイトに本発明に係る遺伝子、プロモーター及びターミネーター等を組み込んで構築すればよい。

【0052】
基礎ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で形質発現可能なベクターを適宜選択すればよい。ここで、上記基礎ベクターとしては、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列等を選択し、これと本発明の遺伝子を各種プラスミド等の基礎ベクターに組み込んだものを組換え発現ベクターとして用いればよい。

【0053】
上記宿主細胞として、植物、ヒトを除く動物、昆虫、E. coli等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等の細胞を挙げることができるが、特に限定されるものではない。細菌としては、E. coliが好ましい。中でも、本発明に係るたんぱく質を調製するための宿主細胞は、植物、E. coli、酵母等が好ましく、植物、E. coli等がより好ましく、E. coliがさらに好ましい。

【0054】
E. coliとしては、例えば、E.coli B株由来のE. coli BL21(DE3)等が好ましい。

【0055】
本発明の組換え発現ベクターの好ましい態様の1つは、本発明の遺伝子をE. coli細胞内で発現できるE. coli形質発現組換えベクターである。前記組換え発現ベクター(E. coli形質発現組換えベクター)をE. coliに導入してE. coli形質転換体(E. coli形質発現体)を作出する、又はE. coliのAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類組成を改変する場合、基礎ベクターとして、後述するE. coli用ベクターを用いることが好ましい。

【0056】
E. coli形質発現組換えベクターの作製に用いられる基礎ベクターとして、pET等のE. coli用ベクターが好適である。また、E. coli細胞内で恒常的に遺伝子を発現させるプロモーター例えば、rrnプロモーターを有するベクターや、外的な刺激IPTGで誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることができる。

【0057】
組換え発現ベクターに含まれる、上述した本発明に係る遺伝子をE. coli細胞中で発現させるためのプロモーターとしては、E. coli細胞中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、T7プロモーター等が好ましい。さらに、tacプロモーター等のように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。また、E. coliの遺伝子由来の種々のプロモーターを利用することもできる。中でも、導入した遺伝子がE. coliにおいて恒常的に発現することが好ましいことから、構成的プロモーターを用いることが好ましく、rrn プロモーター等がより好ましい。
ターミネーターとしては、適宜選択することができるが、例えば、tT7ターミネーター等が挙げられる。

【0058】
本発明の組換え発現ベクターを酵母に導入して形質転換体を作出する、又は酵母によりAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類を生産する場合、基礎ベクターとして、pPICZAベクター等を用いることが好ましい。上述した本発明に係る遺伝子を酵母細胞中で発現させるためのプロモーターとしては、酵母中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばpAOX1プロモーター等が好ましい。
ターミネーターとしては、適宜選択することができるが、例えば、tAOX1ターミネーター等が挙げられる。

【0059】
例えば、本発明の組換え発現ベクターを植物に導入して植物形質転換体を作出する、又は植物細胞によりAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類を生産する場合、基礎ベクターとして、後述する植物細胞用ベクターを用いることが好ましい。

【0060】
植物の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、該植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものあれば特に限定されない。組換え発現ベクターの作製に用いられる基礎ベクターとして、例えばpUC18、pUC19等のpUC系プラスミド;pBI221等の植物宿主細胞用プラスミドDNA、又は、pWTT23132(DNAP社製)、Gateway(Invitrogen社製)等のバイナリーベクター、PCS31ベクター(葉緑体用)等の植物細胞用ベクターが好適である。また、上述したような、植物細胞内で恒常的に遺伝子を発現させるプロモーター(例えば、上述したカリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター)を有する組換え発現ベクターや、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有する組換え発現ベクターを用いることができる。なお、組換え発現ベクターが導入される植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。本発明の遺伝子は、組換え発現ベクターにより、植物細胞中の葉緑体等の核以外の細胞内小器官に導入されてもよい。

【0061】
組換え発現ベクターに含まれる、上述した本発明に係る遺伝子を植物細胞中で発現させるためのプロモーターとしては、植物細胞中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばカリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター又はrbcSプロモーター等の植物由来のプロモーター;或いはカリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターのエンハンサー配列をアグロバクテリウム由来のマンノピン合成酵素プロモーター配列の5’側に付加したmac-1プロモーター等のような構成的プロモーター等が好ましい。さらに、tacプロモーター等のように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。また、植物の遺伝子由来の種々のプロモーターを利用することもできる。中でも、導入したシクロオキシゲナーゼたんぱく質をコードする遺伝子が植物において恒常的に発現することが好ましいことから、構成的プロモーターを用いることが好ましく、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター等がより好ましい。
ターミネーターは、適宜選択することができるが、例えば、AG7ターミネーター、NOSターミネーター、35Sターミネーター、rps16ターミネーター、CaMV35Sターミネーター等が挙げられる。

【0062】
本発明の遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、さらに、宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。マーカーは、特に限定されず、自体公知のものを用いてよい。例えば、宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明の遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。このようなマーカー遺伝子として、例えば、各種の薬剤耐性遺伝子、植物の栄養要求性を相補する遺伝子等が挙げられる。より具体的には、例えば、ハイグロマイシン、ネオマイシン耐性遺伝子(G418耐性)、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子又は除草剤クロルスルフロン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。あるいは、本発明のたんぱく質を融合たんぱく質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光たんぱく質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明のたんぱく質をGFP融合たんぱく質として発現させてもよい。例えば、宿主細胞が植物細胞の場合には、マーカーは、ハイグロマイシン耐性遺伝子が好ましい。宿主細胞がE. coliの場合には、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等が好ましい。また、該マーカー遺伝子の上流及び下流には、該遺伝子を認識するためのプロモーター及びターミネーターを有することが好ましい。

【0063】
(5-2)形質転換体
本発明に係る形質転換体は、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子が導入された形質転換体であれば、特に限定されるものではない。好ましくは、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子が宿主細胞に発現可能に導入されてなる形質転換体である。このような形質転換体は、本発明に係るたんぱく質(シクロオキシゲナーゼたんぱく質)を生産(発現)することができるものである。本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子が宿主細胞に発現可能に導入されてなる形質転換体は、通常、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産能が高められた又は該プロスタグランジン類生産能を獲得した形質転換体である。本発明の形質転換体は、形質転換前と比較して、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の細胞内含有量が増加した形質転換体であることが好ましい。

【0064】
ここで「遺伝子が宿主細胞に発現可能に導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、遺伝子が、対象細胞(例えば、E. coli、酵母、植物細胞等)内に発現可能に導入されることを意味する。

【0065】
本発明の形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した本発明の組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換する方法が好適である。

【0066】
上記宿主細胞としては、上述した植物、ヒトを除く動物、昆虫、E. coli等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等の細胞を挙げることができるが、特に限定されるものではない。細菌としては、E. coliが好ましい。

【0067】
本発明の組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して、形質転換体、好ましくはAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産能が高められた又は該プロスタグランジン類生産能を獲得した形質転換体を作出する場合、宿主細胞としては微生物又は植物細胞が好ましい。より好ましい宿主細胞は、植物、E. coli、酵母等であり、さらに好ましくは、植物、E. coli等であり、E. coliが特に好ましい。例えば、本発明の組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の細胞内組成が改変された形質転換体を作出する場合、宿主細胞としては、植物細胞が好ましい。

【0068】
宿主細胞として用いられる植物の細胞としては、細胞内でAA及び/又はEPAを生合成できるものが好ましく、例えば、藻類、ヒメツリガネゴケ、ゼニゴケ目生物等の細胞が好ましく、ゼニゴケ科生物がより好ましい。AA及びEPAを生合成できない植物であっても、AA及び/又はEPAの生合成に関する遺伝子を導入することにより、本発明における宿主細胞として好適に用いることができる。AA及び/又はEPAの生合成に関する遺伝子及びそれを植物細胞に導入する方法は、例えば特開2011-000123号公報、特開2010-279387号公報、国際公開WO2005/061713号等に記載されている。上記本発明の遺伝子を含む組換え発現ベクターを植物細胞に導入して、植物形質転換体、好ましくはプロスタグランジン類組成が改変された植物形質転換体を作出する場合、植物としてはゼニゴケ目生物が好ましく、中でも、ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)が好ましい。
上記「ゼニゴケ目生物」とは、(Marchantia polymorpha)に限定されるものでなく、ゼニゴケ亜綱ゼニゴケ目(Marchantiales)に属する生物が含まれる。ゼニゴケ亜綱ゼニゴケ目(Marchantiales)に属する生物としては、例えば、ハマグリゼニゴケ科、ミカズキゼニゴケ科、ジャゴケ科、アズマゼニゴケ科、ジンガサゴケ科、ジンチョウゴケ科、ヤワラゼニゴケ科、ウキゴケ科、ゼニゴケ科等の植物が挙げられる。
ここで「植物形質転換体」とは、植物の細胞、組織、器官のみならず、植物個体(植物体)を含む意味である。

【0069】
本発明の植物形質転換体によりAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類を生産する場合、宿主である植物は、ゼニゴケ目生物が好ましい。中でも、ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)がより好ましい。

【0070】
本発明の形質転換体の作製において、組換え発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法は、公知の方法を利用すればよく、宿主により適宜選択すればよい。例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明のたんぱく質を昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウィルスを用いた発現系を採用することができる。

【0071】
例えば、本発明の形質転換体によりAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類を生産する場合、宿主細胞は、微生物、植物等が好ましい。中でも、微生物としては、E. coliがより好ましい。
本発明の形質転換体の好ましい態様の1つは、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子をE. coliに導入して作製されるE. coli形質転換体である。このような、本発明の遺伝子をE. coliに導入してなるE. coli形質転換体は、後述するようにAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の生産に好適に用いることができるものである。ここで「形質転換体」とは、E. coli細胞である。本発明の遺伝子が導入されてなるE. coli形質転換体によって生産されるプロスタグランジン類はE. coliの細胞外に分泌及び細胞内に蓄積されてもよい。

【0072】
本発明に係る形質転換体として、本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子がE. coliに発現可能に導入されてなる、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産能が高められた又は該プロスタグランジン類生産能を獲得したE. coli形質転換体がより好ましい。このような形質転換体は、プロスタグランジン類の生産により好適に用いることができるものである。このようなプロスタグランジン類生産能が高められた又は該プロスタグランジン類生産能を獲得したE. coli形質転換体は、例えば、本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子を(好ましくは上述したE. coli形質発現組換えベクターを用いて)E. coliに発現可能に導入することによって作出することができる。プロスタグランジン類生産能が高められたとは、本発明の遺伝子による形質転換前と比べて、プロスタグランジン類生産能が高いことを意味する。

【0073】
E. coli形質発現組換えベクターをE. coliに導入する方法、すなわちE. coli形質発現方法は上述したように特に限定されるものではなく、E. coliの種類に応じて適宜選択すればよい。従来のE. coli形質転換法の他に、ポリエチレングリコール(PEG-リン酸カルシウム)法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)(例えば、Heiei,Y.ら、Plant J.,6,271-282,1994、Takaiwa,F.ら、Plant Sci.111,39-49,1995. Axelos, M.らPlant Physiol. Biochem. 30,123-128,1992.)など、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。

【0074】
上記方法により作製したE. coli形質転換体は、導入されたシクロオキシゲナーゼ遺伝子を発現できるものであるが、該遺伝子を効率的に発現させるために、IPTG等を添加して遺伝子を誘導発現させることが好ましい。例えば、後述するようにE. coli形質転換体を用いてプロスタグランジン類を製造する場合には、AA及び/又はEPA存在下での培養の前に、例えば、培地にIPTGを添加することが好ましい。IPTGは、培地中に通常0.05~0.2mM程度添加することが好ましい。IPTG添加後、通常約15~30℃、好ましくは約20~25℃で2~24時間程度培養することにより、導入したシクロオキシゲナーゼ遺伝子が効率的に発現する。

【0075】
本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子が酵母に発現可能に導入されてなる、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産能が高められた又は該プロスタグランジン類生産能を獲得した酵母形質転換体も、本発明の好ましい態様の1つである。

【0076】
本発明の形質転換体の別の好ましい態様の1つは、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子を植物細胞に導入して作製される植物形質転換体である。好ましくは、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産能が高められた又は該プロスタグランジン類生産能を獲得した、及び/又は該プロスタグランジン類の細胞内組成が改変された植物形質転換体である。このような植物形質転換体も、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の生産に好適に用いることができるものである。このような植物形質転換体は、例えば、本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子を植物に発現可能に導入することによって作出することができる。また、このような植物形質転換体と同一の性質を有する該植物形質転換体の子孫となる植物形質転換体、又は該植物形質転換体の組織も、本発明の好ましい態様の1つである。

【0077】
本発明の別の好ましい態様として、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子が植物に発現可能に導入されてなる植物形質転換体の作製方法を、以下に述べる。
植物形質転換体は、例えば、上述した植物用基礎ベクターを用いて作製された組換え発現ベクターを植物細胞に導入することにより作製される。

【0078】
植物細胞への組換え発現ベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法(例えば、Heiei,Y.ら、Plant J.,6,271-282,1994、Takaiwa,F.ら、Plant Sci.111,39-49,1995)、パーティクルガン法など、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。

【0079】
例えば、ゼニゴケ目生物の植物形質転換体を作出する手法については、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、アグロバクテリウムを介する方法など、いくつかの技術が既に確立されている。本発明においては、これらの公知の方法を好適に用いることができる。このようなゼニゴケ目生物の形質転換体を作製する技術については、例えば、Plant Cell Physiol., 49, p1048 2008に記載されている。

【0080】
ゲノム内に本発明の遺伝子が導入された植物形質転換体が一旦得られれば、該植物形質転換体の植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることができる。また、当該植物形質転換体、又は、その子孫、あるいは、クローンから、繁殖材料、例えば、葉状体、胚状体、胞子、仮根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物形質転換体を量産することが可能である。したがって、本発明には、本発明の遺伝子が導入された植物形質転換体、該植物形質転換体と同一の性質を有する該植物形質転換体の子孫となる植物形質転換体、及び、該植物形質転換体の組織も含まれる。さらに、本発明には、該植物形質転換体又は該植物形質転換体の組織から得られる繁殖材料も含まれる。該植物形質転換体又は該植物形質転換体の組織から繁殖材料を得る方法としては、公知の方法を使用できる。上記組換え発現ベクターにより遺伝子が導入された植物又は植物の組織を増殖又は生育させる方法、植物細胞から植物体を再生させる方法、栽培する方法等については特に限定されるものではなく、植物の種類等に応じた条件を適宜用いることができる。

【0081】
本発明に係る遺伝子が植物に発現可能に導入されてなる、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類組成が改変された植物形質転換体、該植物形質転換体と同一の性質を有する該植物形質転換体の子孫となる植物形質転換体、該植物形質転換体の組織、及び、該植物形質転換体又は該植物形質転換体の組織から得られる繁殖材料も本発明に含まれる。「プロスタグランジン類組成が改変された」とは形質転換前の植物におけるプロスタグランジン類組成と形質転換後における植物形質転換体又はその組織のプロスタグランジン類組成とが異なっていることを意味する。例えば、(1)本来プロスタグランジン類組成にAA又はEPAを基質とするプロスタグランジンが含まれていなかった植物を本発明に係る遺伝子で形質転換することにより、作出された植物形質転換体のプロスタグランジン類組成にAA又はEPAを基質とするプロスタグランジンが含まれる場合、(2)形質転換前と比較して、プロスタグランジン類組成におけるAA又はEPAを基質とするプロスタグランジンの含量が増加した場合等を挙げることができる。

【0082】
本発明の植物異質転換体は、好ましくは、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子をゼニゴケ目生物に導入してなるゼニゴケ目生物形質転換体である。また、該ゼニゴケ目生物形質転換体と同一の性質を有する該ゼニゴケ目生物形質転換体の子孫となるゼニゴケ目生物形質転換体、又は該ゼニゴケ目生物形質転換体の組織も、本発明の好ましい実施態様の1つである。より好ましくは、前記(2)に記載した本発明のシクロオキシゲナーゼ遺伝子をゼニゴケに導入してなるゼニゴケ形質転換体である。また、該ゼニゴケ形質転換体と同一の性質を有する該ゼニゴケ形質転換体の子孫となるゼニゴケ形質転換体、又は該ゼニゴケ形質転換体の組織も、本発明におけるより好ましい実施態様の1つである。該ゼニゴケ目生物形質転換体又は該ゼニゴケ目生物形質転換体の組織から得られる繁殖材料も本発明に含まれる。

【0083】
このような本発明に係る遺伝子をE. coli、植物等の宿主細胞に導入してなる形質転換体により、低コストかつ環境にやさしい生産プロセスでプロスタグランジン等を生産することができる。本発明において植物とは、例えば、植物体全体でも、植物体の一部でもよく、また、プロトプラスト、カルス等の植物細胞であってもよい。

【0084】
(5-3)プロスタグランジン類生産方法
本発明には、本発明に係る遺伝子で形質転換された形質転換体、又は該形質転換体から調製されたたんぱく質を含む画分を用いてプロスタグランジン類を生産する方法が含まれる。例えば、本発明の形質転換体よりたんぱく質画分を調製し、該たんぱく質画分にAA、EPA等の基質を添加すると、たんぱく質画分に含まれるシクロオキシゲナーゼによってプロスタグランジン類が生産される。細胞からのたんぱく質画分の調製は、公知の抽出方法により行うことができる。

【0085】
例えば、形質転換体が、本発明に係る遺伝子がE. coli、酵母等の微生物又は植物に発現可能に導入されてなる形質転換体である場合、該形質転換体の抽出液(好ましくは、たんぱく質画分)を用いてin vitroでプロスタグランジン類を生産することができる。

【0086】
本発明に係る遺伝子がE. coliに発現可能に導入されてなる E. coli形質転換体を用いるプロスタグランジン類の生産方法においては、例えば、該E. coli形質転換体を、プロスタグランジン類の前駆体であるAA及び/又はEPA存在下で培養することにより、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類を生産することができる。このような、前記E. coli形質転換体を、AA及び/又はEPA存在下で培養する工程を含むAA及び/又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産方法も、本発明に包含される。E. coli形質転換体によって生産されたプロスタグランジン類は、E. coli形質転換体の細胞外に分泌されてもよく、細胞内に蓄積されてもよい。

【0087】
E. coli形質転換体を用いるプロスタグランジン類の生産の一例について、図2に概略を示す。まず、E.coliに本発明の遺伝子(図2では、一例として、実施例1で得られたGvCOX遺伝子(配列番号1)が示されている)を組換え発現ベクター等により導入し(図2の(1))、細胞内で発現させる。得られたE. coli形質転換体を、基質であるAA及び/又はEPAの存在下(図2の(2))で培養する。細胞内に取り込まれたAA又はEPAから、IPTGで誘導し、導入した遺伝子により発現したシクロオキシゲナーゼ(COX)により、AAからプロスタグランジンH(PGH)、プロスタグランジンG(PGG)等のプロスタグランジンが生成する。EPAから、プロスタグランジンH(PGH)、プロスタグランジンG(PGG)等のプロスタグランジンが生成する。生成したプロスタグランジンは、菌体内に蓄積又は菌体外に分泌される(図2の(3))。

【0088】
E. coli形質転換体の培養条件は特に限定されないが、例えば、まず好気条件でE. coli形質転換体を培養して菌体濃度を高め、次いでE. coli形質転換体を、AA及び/又はEPA存在下で培養することが好ましい。好気条件で培養することにより、短時間で高微生物濃度まで培養することができる。培養するための手段としては公知の方法が用いられる。培養は、好気条件で、例えば、振盪培養、ジャーファーメンター培養もしくはタンク培養などの液体培養、または固体培養が挙げられる。培地は、E. coliの培養に通常使用される培地であればよい。培養温度は、E. coli形質転換体が生育可能な範囲で適宜選択できるが、通常約15~37℃、好ましくは約20~25℃である。培地のpHは約6~8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが、通常約12~48時間が好ましく、18~36時間程度がより好ましく、20~30時間程度がさらに好ましく、約24時間が特に好ましい。

【0089】
E. coli形質転換体において、導入したシクロオキシゲナーゼ遺伝子の誘導発現を行う場合には、通常、菌体濃度を高めた後、IPTG等を添加して誘導発現を行うことが好ましい。誘導発現は、AA及び/又はEPA存在下での培養と同時に行ってもよい。

【0090】
AA及び/又はEPA存在下でのE. coli形質転換体の培養は、好気条件下で行うことが好ましい。AA及び/又はEPA存在下での培養は、E. coliの培養に使用される炭素源、窒素源、ミネラル源等を含む通常の栄養培地を用いて行うことができる。炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セルロース、廃糖蜜、グリセロール等を、窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩等、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸類、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。またミネラル源として、おもにK、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。通常、培養開始時の炭素源濃度は0.1~20%(W/V)程度が好ましく、さらに好ましくは1~5%(W/V)程度である。

【0091】
培養の条件として、温度は、通常約15~30℃が好ましく、約20~25℃の範囲がより好ましい。pH域は、約6~10が好ましく、約6~8の範囲がより好ましい。同時にpHを制御することが好ましく、酸、アルカリを用いてpHの調整を行うことも可能である。AA及び/又はEPA存在下での培養の際の微生物初濃度は、通常、OD600=0.6~0.8程度であるが、特に限定されない。
培養時間は、培養条件によって異なるが、通常約12~48時間が好ましく、18~36時間程度がより好ましく、20~30時間程度がさらに好ましく、24時間程度が特に好ましい。培養は、撹拌培養が好ましい。

【0092】
AA及び/又はEPA存在下で培養において、AA及び/又はEPAを供給する方法は特に限定されず、例えば、E. coli形質転換体の培地(培養液)に、基質であるAA及び/又はEPAを添加することにより行うことができる。添加するAA及び/又はEPAの量は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、例えば、培地中に、約0.01~10mMとすることが好ましく、約0.05~1mMとすることがより好ましく、約1mMとすることがさらに好ましい。このような、E. coli形質転換体の培地にAA又はEPAを添加する工程を含むプロスタグランジン類の生産方法は、本発明の好ましい実施態様の1つである。また、AA及び/又はEPA存在下での培養は、例えば、AA及び/又はEPAを生産する微生物とE. coli形質転換体を共培養することによっても行うことができる。AA及び/又はEPAを生産する微生物として、例えば、Mortierella属微生物等が挙げられる。

【0093】
AA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の生産においては、AA及び/又はEPA存在下でE. coli形質転換体を培養することにより、該E. coli形質転換体内でプロスタグランジン類が効率よく生産される。生産されたプロスタグランジン類は、E. coli形質転換体内に蓄積する又は培養液中に分泌される。
E. coli形質転換体内に蓄積した、又は培地中に分泌されたプロスタグランジン類は、公知の手法により分離及び精製することができる。また、プロスタグランジン類を細胞内に含有するE. coli形質転換体、及び分泌されたプロスタグランジン類を含む培地を、そのまま医薬品、食品、動物用医薬、飼料等に用いることもできる。

【0094】
E. coli形質転換体よりたんぱく質画分を調製する工程を含むAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産方法も、本発明に包含される。E. coli形質転換体よりたんぱく質画分を調製し、該たんぱく質画分にAA及び/又はEPAを添加すると、たんぱく質画分に含まれるシクロオキシゲナーゼによってプロスタグランジン類が生産される。細胞からのたんぱく質画分の調製は、公知の抽出方法により行うことができる。
また、たんぱく質画分から、公知の手法によりシクロオキシゲナーゼを精製し、該シクロオキシゲナーゼをプロスタグランジン類の製造に用いることもできる。上記たんぱく質画分又はシクロオキシゲナーゼと、基質であるAA又はEPAとの反応は、例えば、温度約5~37℃(より好ましくは約5~25℃、さらに好ましくは約15~25℃)で、pH約6~8(好ましくはpH約7~8)の溶液中で行われることが好ましい。反応を行う溶液は特に限定されないが、例えば、トリス塩酸バッファー等の緩衝液等が好適である。また、反応を行う溶液には、1~10mM程度のEDTAを添加することが好ましい。反応液中のたんぱく質濃度及び基質濃度は、適宜設定することができる。本発明においては、酵素を固定化して反応を行うことも好ましい。固定化の方法は、公知の方法を採用できる。

【0095】
上記E. coli形質転換体を用いるプロスタグランジン類の製造方法において、E. coli形質転換体の代わりに酵母形質転換体を用いても、プロスタグランジン類を生産することができる。酵母形質転換体の培養条件等は、通常酵母の培養に用いられる条件を採用することができる。

【0096】
上記本発明の遺伝子が導入されてなる植物形質転換体(好ましくはAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類組成が改変された植物形質転換体)又は植物形質転換体の組織を用いてAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類を生産する方法も、本発明に包含される。例えば、細胞内のプロスタグランジン類の含量が増加した本発明に係る植物形質転換体は、医薬、薬理活性の高い原料として価値の高いものになる。このような植物形質転換体は、動物用医薬、機能性食品、飼料等の原料としても有用なものである。

【0097】
植物形質転換体の植物体又は該植物形質転換体の組織を用いるプロスタグランジン類の生産においては、該植物体又はその組織の増殖又は生育に伴い、該植物体又はその組織の細胞内でプロスタグランジン類が効率よく生産される。生産されたプロスタグランジン類は、植物形質転換体又はその組織の細胞内に蓄積する。植物形質転換体又は植物形質転換体の組織を用いるプロスタグランジン類の生産方法は、該植物形質転換体又はその組織を、(好ましくは無性生殖(栄養生殖)により)増殖又は生育させる工程を含むことが好ましい。植物形質転換体又はその組織を増殖又は生育させるには、植物形質転換体又はその組織を、適宜栽培又は培養すればよい。該植物形質転換体又はその組織を増殖又は生育させる(栽培又は培養する)条件及び時間は、植物の種類により適宜選択すればよい。例えば、本発明に係る遺伝子で形質転換されたゼニゴケ目生物を用いる場合には、ゼニゴケ目生物の繁殖形態として無性生殖(栄養生殖)によることが好ましい。つまりゼニゴケ目生物については、その形質転換体又はその組織を、無性生殖(栄養生殖)により増殖又は生育させると、生長速度が早く植物工場システムとしても大量生産が可能であるため好ましい。ゼニゴケ目生物を無性生殖させる方法は、「ゼニゴケの無菌培養法および形質転換法」(植物細胞工学シリーズ14-植物のゲノム研究プロトコール、秀潤社、pp155-162.、2001年)等に記載されている。植物用栽培床及び植物栽培方法については、公知の方法を使用できる。また、例えば、特開2010-088314号公報に記載の方法(縦型多段式栽培棚を用いマット方式による栽培装置)等も使用することができる。例えば、ゼニゴケ目生物の細胞に本発明の遺伝子を導入した形質転換体(形質転換細胞)は、通常20~49日間、好ましくは31~49日間培養して増殖させることにより、プロスタグランジン類を細胞内に蓄積する。培地等は、通常ゼニゴケ目生物の培養又は栽培に用いられるものを使用できる。ゼニゴケ目生物の場合、培養又は栽培温度は、通常約20~30℃、好ましくは約25~30℃である。

【0098】
植物形質転換体よりたんぱく質画分を調製する工程を含むAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生産方法も、本発明に包含される。植物形質転換体よりたんぱく質画分を調製し、該たんぱく質画分にAA、EPA等の基質を添加すると、たんぱく質画分に含まれるシクロオキシゲナーゼによってプロスタグランジン類が生産される。細胞からのたんぱく質画分の調製は、公知の抽出方法により行うことができる。
また、たんぱく質画分から、公知の手法によりシクロオキシゲナーゼを精製し、該シクロオキシゲナーゼをプロスタグランジン類の製造に用いることもできる。上記たんぱく質画分又はシクロオキシゲナーゼと、基質であるAA又はEPAとの反応条件等は、上述したE. coli形質転換体より調製されたたんぱく質画分又はシクロオキシゲナーゼと、AA又はEPAとの反応条件と同じである。また、本発明においては、酵素を固定化して反応を行うことも好ましい。固定化の方法は、公知の方法を採用できる。

【0099】
本発明によりプロスタグランジン類を生産させたE. coli形質転換体、酵母形質転換体、植物形質転換体又はその組織等の形質転換体は、プロスタグランジン類を含有する素材として、そのまま医薬品、食品、動物用医薬、飼料等に用いることができるが、さらに、該形質転換体又はその組織等から、生成したプロスタグランジン類を精製する工程を含んでもよい。プロスタグランジン類の精製方法は特に限定されず、通常、有機溶媒による抽出法、高圧高温水蒸気蒸留法により行うことができる。
上述のようにプロスタグランジン類を生産する本発明に係るE. coli形質転換体、酵母形質転換体、植物形質転換体又はその組織等の形質転換体はプロスタグランジン類の含量が高く、医薬、薬理活性の高い原料として価値の高いものになる。このような形質転換体は、動物用医薬、機能性食品、飼料等の原料としても有用なものである。

【0100】
(5-4)素材
本発明には、上述のプロスタグランジン類生産方法により得られた物質、プロスタグランジン類を少なくとも1つ含む素材も含まれる。この「素材」とは、上述の医薬品原料用途、食品原料用途、動物用医薬原料用途、飼料用途等に利用できる素材全般を意味する。

【0101】
上記素材のプロスタグランジン類は、分子内に二重結合を複数有するという、ユニークな物性を持つ。そのため、現在はラクトンを原料として全化学合成により合成されている。このため、例えば、本発明の形質転換体(好ましくは、E. coli形質転換体、酵母形質転換体、植物形質転換体又はその組織等)により、プロスタグランジンを生産させることにより、これらのプロスタグランジン類の生産コストを著しく低減できる。また、本発明により、環境にやさしいプロスタグランジン類の生産プロセスを実現できる。

【0102】
本発明により製造されるプロスタグランジン類としては、例えばアラキドン酸から生産される(アラキドン酸を基質とする)プロスタグランジン類として、プロスタグランジンG(PGG)、プロスタグランジンH(PGH)、プロスタグランジンE(PGE)、プロスタグランジンF2α(PGF2α)等のプロスタグランジン(PG)等が挙げられる。エイコサペンタエン酸から生産される(エイコサペンタエン酸を基質とする)プロスタグランジン類として、例えば、プロスタグランジンH(PGH)、プロスタグランジンG(PGG)等のプロスタグランジンが挙げられる。中でも本発明の方法は、プロスタグランジンH(PGH)、プロスタグランジンG(PGG)、プロスタグランジンE(PGE)、プロスタグランジンF2α(PGF2α)、プロスタグランジンH(PGH)、プロスタグランジンG(PGG)等のプロスタグランジン(PG)の製造に好適である。

【0103】
(5-5)プロスタグランジン類組成改変方法
本発明には、本発明に係る遺伝子を用いて、宿主のプロスタグランジン類組成を改変する方法が含まれる。例えば、上述のように本発明に係る遺伝子を導入した形質転換体を作製することにより宿主細胞のプロスタグランジン類組成を改変することが可能となる。プロスタグランジン類組成を改変する対象は特に限定されるものではなく、植物、動物、細菌、酵母等、あらゆる生物を対象とすることが可能である。

【0104】
上述した本発明に係る遺伝子を宿主細胞に導入する工程を含む宿主細胞のAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の組成を改変する方法も、本発明の1つである。好ましくは、本発明に係るシクロオキシゲナーゼ遺伝子を植物細胞等に導入する。例えば、本発明に係る遺伝子を植物細胞(好ましくは、ゼニゴケ目生物、より好ましくはゼニゴケ)に導入する工程を含む植物形質転換体のAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の組成を改変する方法は、本発明の好ましい実施態様の1つである。

【0105】
例えば、上述のように本発明に係る遺伝子を導入したE. coli形質転換体、酵母形質転換体、植物形質転換体等の形質転換体を作製することにより宿主細胞のプロスタグランジン類組成を改変することが可能となる。本発明には、該E. coli形質転換体、酵母形質転換体等の形質転換体を、AA、EPA等のプロスタグランジン類の基質の存在下で培養することにより該形質転換体のプロスタグランジン類組成を改変する方法が含まれる。プロスタグランジン類の基質の存在下で培養は、例えば、形質転換体の培地にAA、EPA等を添加することにより行うことができる。

【0106】
上述した本発明に係る遺伝子を植物に導入して植物形質転換体を作製することにより、植物又はその組織のプロスタグランジン類組成を改変することが可能となる。本発明に係る遺伝子を植物に導入する工程を含む、植物形質転換体のAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類組成を改変する方法も、本発明の1つである。植物としては、細胞内でAA及び/又はEPAを生合成できる植物が好ましく、例えば、上述したゼニゴケ目生物が好ましく、中でも、ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)がより好ましい。本発明には、該植物形質転換体又はその組織を増殖又は生育させることにより該形質転換体又はその組織のプロスタグランジン類組成を改変する方法が含まれる。

【0107】
(5-6)抗体
本発明の遺伝子にコードされるたんぱく質を認識する抗体も、本発明に包含される。本発明に係る抗体は、好ましくは、本発明に係るたんぱく質、又はその部分たんぱく質、部分ペプチドを抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体として得られる抗体である。公知の方法としては、例えば、文献(Harlowらの「Antibodies:A laboratory manual」(Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988))、岩崎らの「単クローン抗体ハイブリドーマとELISA,溝談社(1991)」)に記載の方法が挙げられる。このようにして得られる抗体は、本発明のたんぱく質の検出、測定などに利用できる。

【0108】
(5-7)スクリーニング方法
本発明に係るスクリーニング方法は、本発明に係るたんぱく質を用いて、該たんぱく質を調節する遺伝子、又は該たんぱく質を調節する物質をスクリーニングする方法である。本発明のスクリーニング方法としては、物質間の結合の有無や解離の有無を調べる従来公知の種々の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。例えば、本発明に係るたんぱく質の活性(シクロオキシゲナーゼ活性)を促進又は阻害するような物質のスクリーニングを挙げることができる。

【0109】
本発明のスクリーニング方法として、例えば、(I)前記本発明の遺伝子にコードされるたんぱく質に、in vitroでアラキドン酸及び/又はエイコサペンタエン酸、並びに候補物質を接触させる工程、(II)アラキドン酸又はエイコサペンタエン酸を基質とするプロスタグランジン類生成量をモニターする工程、及び(III)候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)におけるプロスタグランジン類生成量の増加又は減少が検出された候補物質を該たんぱく質を調節する物質として選択する工程を含む方法等が好適である。

【0110】
工程(I)において、本発明の遺伝子にコードされるたんぱく質に、in vitroでAA及び/又はEPA、並びに候補物質を接触させる方法は特に限定されず、例えば、上記本発明の遺伝子が導入されてなる形質転換体又は該形質転換体から単離したたんぱく質に候補物質等を接触させればよい。形質転換体を用いる場合には、例えば、形質転換体を培養している培地中に候補物質等を添加すればよい。

【0111】
工程(II)においては、生成したAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類量をモニターする。例えば、細胞内に蓄積したプロスタグランジン類量は、細胞抽出液を分析することにより測定することができる。細胞外に分泌された、又は単離したたんぱく質(シクロオキシゲナーゼタンパク質)によって生産されたプロスタグランジン類量は、例えば、培養液又は培地の組成を分析することにより測定することができる。プロスタグランジン類の測定は、公知の方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)/質量分析装置(LC-MS/MS)による分析等により行うことができる。

【0112】
工程(III)において、例えば、候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)においてAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類生成量の増加又は減少が検出された候補物質は、上記たんぱく質を調節する物質として選択される。例えば、該プロスタグランジン類生成量の増加が検出された候補物質は、該たんぱく質の活性化剤として選択される。また、候補物質を接触させない場合と比較して、工程(II)において細胞内における該プロスタグランジン類生成量の減少が検出された候補物質は、該たんぱく質の阻害剤として選択される。

【0113】
候補物質としては特に限定されず、例えば、核酸等の遺伝子、ペプチド、たんぱく質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液等の物質が挙げられる。候補物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が用いられる。
本発明には、上記スクリーニング方法により得られた遺伝子又は物質も含まれる。

【0114】
(5-8)遺伝子検出器具
本発明の遺伝子の少なくとも一部の塩基配列又はその相補配列をプローブとして用いる遺伝子検出器具も、本発明に包含される。
このような遺伝子検出器具は、種々の条件下において、本発明の遺伝子の発現パタ-ンの検出・測定などに利用することができる。

【0115】
本発明の遺伝子検出器具としては、例えば、本発明の遺伝子と特異的にハイブリダイズする上記プローブを基盤(担体)上に固定化したDNAチップが挙げられる。ここで「DNAチップ」とは、主として、合成したオリゴヌクレオチドをプローブに用いる合成型DNAチップを意味するが、PCR産物などのcDNAをプローブに用いる貼り付け型DNAマイクロアレイをも包含するものとする。

【0116】
プローブとして用いる配列は、cDNA配列の中から特徴的な配列を特定する従来公知の方法によって決定することができる。具体的には、例えば、SAGE:Serial Analysis of Gene Expression法(Science 276:1268,1997;Cell 88:243,1997;Science 270:484,1995;Nature 389:300,1997;米国特許第5,695,937号)等を挙げることができる。

【0117】
なお、DNAチップの製造には、公知の方法を採用すればよい。例えば、オリゴヌクレオチドとして合成オリゴヌクレオチドを使用する場合には、フォトリソグラフィ-技術と固相法DNA合成技術との組み合わせにより、基盤上で該オリゴヌクレオチドを合成すればよい。一方、オリゴヌクレオチドとしてcDNAを用いる場合には、アレイ機を用いて基盤上に貼り付ければよい。

【0118】
また、一般的なDNAチップと同様、パーフェクトマッチプローブ(オリゴヌクレオチド)と、該パーフェクトマッチプローブにおいて一塩基置換されたミスマッチプローブとを配置して遺伝子の検出精度をより向上させてもよい。さらに、異なる遺伝子を並行して検出するために、複数種のオリゴヌクレオチドを同一の基盤上に固定してDNAチップを構成してもよい。

【0119】
本発明に係る遺伝子検出器具は、上記例示したDNAチップに限定されるものではなく、本発明に係る遺伝子の少なくとも一部の塩基配列又はその相補配列をプローブとして用いたものであればよい。

【0120】
本発明の形質転換体、例えば、E. coli形質転換体を用いるAA又はEPAを基質とするプロスタグランジン類の生産においては、該E. coli形質転換体内でプロスタグランジン類が効率よく生産される。生産されたプロスタグランジン類は、形質転換体内に蓄積する又は細胞外に分泌される。また、本発明の植物形質転換体を増殖又は生育させると、該形質転換体の細胞内でプロスタグランジン類が効率よく生産され、細胞内に蓄積する。本発明には、形質転換体の抽出液に基質AA又はEPAを添加することにより、反応させプロスタグランジン類が生産されることも含まれる。

【0121】
本発明によりプロスタグランジン類を生産させた形質転換体は、プロスタグランジン類を含有する素材として、そのまま医薬品、食品、動物用医薬、飼料等に用いることができるが、さらに、該形質転換体(例えば、E. coli形質転換体、酵母形質転換体、植物形質転換体又はその組織等)の抽出液に基質であるAA又はEPAを添加することにより、反応させ生成したプロスタグランジン類を精製する工程を含んでもよい。プロスタグランジン類の精製方法は特に限定されず、上述した公知の方法により行うことができる。

【0122】
以下にいくつかの実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものでなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに本発明は技術的実施形態に限定されるものではなく、請求項にしめした種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0123】
本実施例において実験手法は、特に断らない限り、Molecular Cloning (Sambrook et al.Cold Spring Harbour Laboratory Press, 1989)に記載されている方法に従った。
【実施例】
【0124】
(実施例1)
オゴノリ由来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子
他生物のクローニングされているシクロオキシゲナーゼ遺伝子のアミノ酸配列を鋭意比較検討した結果、アミノ酸配列Tyr-Asn-Asp-Tyr-Arg-Glu-His(配列番号4)とAsp-Ile-Phe-Asn-Glu-Lys-Thr(配列番号5)が保存されていることを見出した。そこで、オゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)のシクロオキシゲナーゼ遺伝子を単離するために、上記のアミノ酸配列をコードする下記のプライマーを用いた。
COX-F 5’-TAYAAYGAYTAYAGNGARCAY-3’(配列番号6)
COX-R 5’-NGTYTTYTCRTTRAADATRTC-3’(配列番号7)
配列番号6及び7において、“N”は、4塩基(アデニン、グアニン、チミン/ウラシル、シトシン)のいずれでも良いことを意味する。
【実施例】
【0125】
上記のプライマー(COX-F及びCOX-R)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片をサブクローニングした。得られたクローンの塩基配列を決定し、目的のシクロオキシゲナーゼ遺伝子の部分配列を取得した。実験材料及び方法について、詳述する。
試料として用いる、オゴノリからのtotalRNAの単離については、RNA抽出キット RNeasy Mini kit(QIAGEN社製)を用いて製造者の推奨する方法に従い行った。単離したtotalRNA 5μgを、ReverTra Ace(TOYOBO社製)を用いてcDNAに逆転写した。cDNA 1μLを鋳型とし、上記プライマー(COX-F及びCOX-R)及び酵素(Takara Ex Taq、Takara社製)0.5Uとを用いて、製造者の推奨する方法でPCRを行った。反応液量は20μLとし、PCR Thermal Cycler Dice(Takara社製)を用いて、95℃2分間保持後、95℃で30秒間、55℃で1分間、72℃で30秒間の反応を40回繰り返し、その後4℃に冷却した。
【実施例】
【0126】
得られたPCR産物を0.7%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、従来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子の塩基配列から予想されるサイズを有する増幅断片を、Gel Extraction kit(QIAGEN社製)を用いてゲルより回収した。回収した増幅断片をpGEM-Teasy(プロメガ社製)に連結し、コンピテント大腸菌DH5αに形質転換した。
pGEM-Teasyに連結した増幅断片の塩基配列を3130xl ジェネティックアナライザ(製品名、Applied Biosystems社製)を用いて候補遺伝子の部分塩基配列を解読し、その塩基配列情報を基にRACE反応に使用する下記プライマー配列を設計した。
3’RACE(COX):5’-CGACCGATGCGGCAATCTTGGCCAAGTTGAAGCAAGT-3’(配列番号8)
5’RACE(COX):5’-CGCCTATTGCTGCCAAGAAAGGTCCATGAACACCTCC-3’(配列番号9)
【実施例】
【0127】
候補遺伝子の全長配列を明らかにするためにSMART RACE cDNA Amplification Kit (Clontech社製)を使用してRapid amplified cDNA ENDs (RACE)反応を行った。オゴノリから抽出したtotalRNA 1μgと3’-RACE(COX)プライマー(配列番号8)を用いて試薬製造者の指定した方法に従い3’-RACE反応を行った。5’-RACE反応についても同様にtotalRNA 1μgと5’-RACE(COX)プライマー(配列番号9)を用いて行った。RACE反応により得られた候補遺伝子の3’端側配列と5’端側配列をそれぞれpGEM-Teasyに連結し、コンピテント大腸菌DH5αに形質転換した。
【実施例】
【0128】
その結果、1種類のホモログ遺伝子候補が単離され、この遺伝子をGvCOX遺伝子とした。GvCOX遺伝子のcDNAの長さ(ポリA部分を除く)は、2019bp(配列番号1)で、推定アミノ酸配列は562残基であった。その塩基配列を配列番号1に、推定アミノ酸配列を配列番号2に示した。
【実施例】
【0129】
GvCOXcDNAの推定アミノ酸配列をマウス及びヒトのシクロオキシゲナーゼのアミノ酸配列と比較した結果、それぞれ21.5%、20.4%の同一性を示すことを見出した。
【実施例】
【0130】
(実施例2)
E. coliに導入する形質発現組換えベクターの構築及び当該ベクターのE. coliへの導入
E. coliにおいて、実施例1で得られたオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)を発現させるために、以下に示す手順で、E. coli形質発現組換えベクターを構築した。宿主細胞としては、E. coliを用いた。
【実施例】
【0131】
実施例1の配列番号6のプライマー及び配列番号7のプライマーを用いるPCRにより得られたPCR産物を0.7%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、従来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子の塩基配列から予想されるサイズを有する増幅断片を、Gel Extraction kit(QIAGEN社製)を用いてゲルより回収した。回収したオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)のORF増幅断片をpGEM-Teasy(プロメガ社製)に連結し、形質発現組換えベクターのコンストラクトを作製した。また、この作製手順を図3Aに示した。
【実施例】
【0132】
図3Aに、オゴノリ(Gracilaria vermiculophylla)のシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX)をE. coliで発現させるために、基礎ベクターpET-21a(+)(メルク社より購入)からのE. coli形質発現組換えベクターを作製した方法を示す。図3A中、pT7は、T7プロモーターを意味し、tT7は、T7ターミネーターを意味する。
【実施例】
【0133】
具体的には、オゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)のORFを含むcDNA断片は制限酵素サイトを付加するために下記プライマーを用いてPCR増幅し、pGEM-Teasyに導入して3130xl ジェネティックアナライザ(製品名、Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列を決定したのち用いた。
オゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子のORF増幅に用いたプライマー
COX-F5: 5’-CATATGGTGTTCAACAACTTCCG-3’ (配列番号10)
COX-R7: 5’-GCTCAGCTACACAGGGTTATTCTTCG-3’(配列番号11)
【実施例】
【0134】
オゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)を増幅させるためのPCRにおいては、オゴノリcDNAを鋳型にPrimeSTAR DNA polymerase(Takara社製)0.5Uを用い、95℃2分間保持後、98℃で10秒間、55℃で15秒間、68℃で2分30秒間の反応を35回繰り返し、その後4℃に冷却した。得られた断片を制限酵素(NudI-Bpu1102I)で処理して、インサートを作製した。得られたインサートは、常法に従ってNdeI及びBpu1102Iにより制限酵素処理し精製したpET21a(+)と常法に従って連結し、E. coli形質発現組換えベクター(GvCOX/pET21a(+))を得た。E. coli形質発現組換えベクター(GvCOX/pET21a(+))の構造を、図5(A)に模式的に示す。
【実施例】
【0135】
(実施例3)
E. coli形質発現組換えベクター(GvCOX/pET21a(+))による形質転換、及び得られた大腸菌形質転換体の抽出液を用いたシクロオキシゲナーゼ酵素活性の測定
実施例2で作製した、GvCOX遺伝子を大腸菌発現用ベクターpET21aに導入したベクター(GvCOX/21a(+))を、大腸菌BL21(DE3)株にエレクトロポレーション法により導入した。なお、大腸菌BL21(DE3)株は、プロスタグランジンを産生しない菌である。GvCOX発現ベクター(GvCOX/21a(+))を導入した大腸菌コロニーをアンピシリン(50μg/mL)を含む3mLのLB培地に接種し、37℃条件下、振とう培養した。該培養液100μLを新しい10mLのLB培地に移し、さらにOD600 = 0.6になるまで37℃で振とう培養した。OD600 =0.6に到達後、0.1mM IPTG(最終濃度)を培地に添加し、その後20℃の条件で2時間振とう培養した。
【実施例】
【0136】
培養液から菌体(大腸菌形質転換体)のみを遠心分離によって集菌し、500μL抽出バッファー(100mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA、1mM PMSF)に懸濁した。超音波破砕機を用いて菌体を破砕した後、17,000×Gで15分間の遠心分離を行い、上清を回収した。
【実施例】
【0137】
回収した上清250μLと活性測定バッファー(100mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA、2μM Hematin)250μLを混合し、25℃で5分間静置した。混合液に最終濃度200μMとなるようにアラキドン酸を添加して25℃で30分間反応させた。次に最終濃度5mMのSnClを添加して反応を停止した。
【実施例】
【0138】
塩酸にて反応液のpHを3に調整後、700μLの酢酸エチルで抽出した。ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で溶媒を留去し、残渣をプロスタグランジンの粗画分とした。粗画分は200μLエタノールに溶解し、17,000×G、15分間の遠心分離により不溶物を除いた後、上清を測定用サンプルとした。
【実施例】
【0139】
調整した測定用サンプルに含まれるプロスタグランジンF2α(PGF2α)について液体クロマトグラフィー/質量分析装置(LC-MS/MS)(型番3200QTRAP、Applied Biosystem社製)を用いてPGFα由来のフラグメントイオン(m/z=309)の検出及びPGF2αの分子イオン353.2[M-H]から生じるフラグメントパターンの検出を行った。LC-MS/MS測定条件は、カラム:RP-18 GP 150×4.6 (5 mm) (関東化学工業社製)、 移動相:2.5 mM 酢酸アンモニウム水溶液と2.5 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液によるグラジエント溶出、流速:400 mL/min、カラム温度:40℃、コリジョンエネルギー:40 V 、コリジョンガス:窒素ガス、エレクトロイオンスプレイモード:ネガティブ、を用いた。
【実施例】
【0140】
反応生成物と標品PGF2α(CAYMAN CHEMICAL社製)のフラグメントパターン(表1)が一致すること、及び、液体クロマトグラフィーの保持時間が反応生成物と標品PGF2α-d4で一致することから反応生成物中にPGF2αが含まれていることを確認した。
【実施例】
【0141】
【表1】
JP0005641232B2_000002t.gif
【実施例】
【0142】
(実施例4)
大腸菌培養によるPGF2αの生産
実施例3で作製した大腸菌形質転換体(LB培地中)に、IPTG存在、1mM濃度になるようにAAを添加し、LB培地で20時間、25℃で培養した。培養後、菌体を遠心分離(10,000rpm、15分)除去し、培養液を集め、上記のプロスタグランジン抽出法にてプロスタグランジン類を回収した。回収したプロスタグランジン類を実施例3で述べた方法にて、分析したところ、培地にプロスタグランジンF2α(PGF2α)の生成を認めた。この結果から、実施例3で作製した大腸菌形質転換体は、細胞内で生産したAAを基質とするプロスタグランジンを細胞外に分泌することが確認できた。
【実施例】
【0143】
(実施例5)
酵母に導入する酵母発現用ベクターの構築
酵母において、実施例1で得られたオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)を発現させるために、以下に示す手順で、酵母発現用ベクターを構築した。
【実施例】
【0144】
実施例1の配列番号6のプライマー及び配列番号7のプライマーを用いるPCRにより得られたPCR産物を0.7%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、従来のシクロオキシゲナーゼ遺伝子の塩基配列から予想されるサイズを有する増幅断片を、Gel Extraction kit(QIAGEN社製)を用いてゲルより回収した。回収したオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)のORF増幅断片を制限酵素KpnI及びApaIで消化し、酵母発現基礎ベクターpPICZA(インビトロジェン社製)を制限酵素KpnI及びApaIで消化した制限酵素処理したベクターpPICZAと連結酵素により連結した。これにより、酵母発現用ベクター(GvCOX/pPICZA)を得た。酵母発現用ベクター(GvCOX/pPICZA)の作製手順の概略を、図3(B)に模式的に示した。
【実施例】
【0145】
得られた酵母発現用ベクター(GvCOX/pPICZA)の構造を、図5(B)に模式的に示す。図5(B)中、pAOX1は、pAOX1プロモーターを表す。tAOX1は、tAOX1ターミネーターを表す。
酵母発現用ベクター(GvCOX/pPICZA)を酵母に導入して形質転換することにより、AA又はEPAを基質とするプロスタグランジンを生産できる酵母形質転換体を作製することができる。
【実施例】
【0146】
(実施例6)
ゼニゴケに導入するゼニゴケ発現用(アグロバクテリウム感染用)ベクターの構築
実施例1で得られたオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)を、アグロバクテリウムを用いてゼニゴケに導入し発現させるために、以下に示す手順で、ゼニゴケ発現用(アグロバクテリウム感染用)ベクターを構築した。
【実施例】
【0147】
ゼニゴケ発現用(アグロバクテリウム感染用)ベクターの作製手順の概略を、図4(C)に模式的に示した。植物発現基礎ベクターpBin-Hyg-TX(Gatz C. et al., Plant J. 2, 397-404 (1992))を制限酵素KpnI及びSalIで消化した。次に、実施例1で得られたオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)のORF増幅断片を制限酵素KpnI及びSalIで消化し回収したGvCOX断片を、制限酵素処理したベクターpBin-Hyg-TXと連結酵素により連結した。これにより、ゼニゴケ発現用(アグロバクテリウム感染用)ベクター(GvCOX/pBin-Hyg-TX)を得た。
【実施例】
【0148】
得られたゼニゴケ発現用(アグロバクテリウム感染用)ベクター(GvCOX/pBin-Hyg-TX)の構造を、図5(C)に模式的に示す。図5(C)中、p35Sは、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)35Sプロモーターを表す。tOCSは、オクタピンシンターゼターミネーターを表す。
【実施例】
【0149】
(実施例7)
ゼニゴケ形質発現組換えベクター(GvCOX/pBin-Hyg-TX)による形質転換、及び得られたゼニゴケ形質転換体の抽出液を用いたシクロオキシゲナーゼ酵素活性の測定
実施例6で作製した、GvCOX遺伝子をゼニゴケ発現用(アグロバクテリウム感染用)ベクターpBin-Hyg-TX(Gatz C. et al., Plant J. 2, 397-404 (1992))に導入したベクター(GvCOX/pBin-Hyg-TX)を、ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)に、アグロバクテリウム感染法により導入した。アグロバクテリウム感染法によるベクターの導入は、Ishizaki et al., Plant Cell Physiol., 49, 1084-1091.(2008)に記載された方法に従って行った。なお、ゼニゴケは、プロスタグランジンを産生しない植物である。GvCOX発現ベクター(GvCOX/pBin-Hyg-TX)を導入したゼニゴケ(形質転換ゼニゴケ)を、ハイグロマイシン(10μg/mL)を含む0M51C寒天培地上で、25℃で1週間生育させた。
【実施例】
【0150】
形質転換ゼニゴケを、液体窒素中で凍結後、抽出バッファー(100mM Tris(pH7.5), 5mM EDTA, 0.5mM PMSF, 1μM hematin)400μLを加え、超音波破砕機で破砕した。17,000×G、15分間の遠心分離を行い、上清を回収した。
【実施例】
【0151】
回収した上清を20℃で5分間静置した。混合液に最終濃度200μMとなるようにアラキドン酸を添加して20℃で5分間反応させた。次に、最終濃度5mMのSnClを添加して、反応を停止した。
【実施例】
【0152】
塩酸にて反応液のpHを3に調整後、700μLの酢酸エチルで抽出した。ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で溶媒を留去し、残渣をプロスタグランジンの粗画分とした。粗画分は200μLエタノールに溶解し、17,000×G、15分間の遠心分離により不溶物を除いた後、上清を測定用サンプルとした。
【実施例】
【0153】
調整した測定用サンプルに含まれるプロスタグランジンF2α(PGF2α)及びプロスタグランジンE(PGE)について液体クロマトグラフィー/質量分析装置(LC-MS/MS)(型番3200QTRAP、Applied Biosystem社製)を用いてPGF2α由来のフラグメントイオン(m/z=309)及びPGF2αの分子イオン353.2[M-H]から生じるフラグメントパターン、ならびにPGE由来のフラグメントイオン(m/z=271)及びPGEの分子イオン351.2[M-H]から生じるフラグメントパターンの検出を行った。LC-MS/MS測定条件は、カラム:RP-18 GP 150×4.6 (5 mm) (関東化学工業社製)、 移動相:2.5 mM 酢酸アンモニウム水溶液と2.5 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液によるグラジエント溶出、流速:400 mL/min、カラム温度:40℃、コリジョンエネルギー:40 V 、コリジョンガス:窒素ガス、エレクトロイオンスプレイモード:ネガティブ、を用いた。
【実施例】
【0154】
反応生成物と標品PGF2αならびにPGE(CAYMAN CHEMICAL社製)のフラグメントパターン(表1及び表2)が一致すること、及び、液体クロマトグラフィーの保持時間が反応生成物と標品PGF2α-d4及びPGEとで一致することから、反応生成物中にPGF2αならびにPGEが含まれていることを確認した。
【実施例】
【0155】
【表2】
JP0005641232B2_000003t.gif
【実施例】
【0156】
(実施例8)
ゼニゴケに導入するゼニゴケ発現用(パーティクルガン用)ベクターの構築
実施例1で得られたオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)を、パーティクルガンによりゼニゴケに導入し発現させるために、以下に示す手順で、ゼニゴケ発現用(パーティクルガン用)ベクターを構築した。
【実施例】
【0157】
ゼニゴケ発現用(パーティクルガン用)ベクターの作製手順の概略を、図4(D)に模式的に示した。植物発現基礎ベクターpBI221(タカラ社製)を制限酵素SmaI及びSacIで消化した。次に、実施例1で得られたオゴノリのシクロオキシゲナーゼ遺伝子(GvCOX遺伝子)のORF増幅断片を制限酵素SmaI及びSacIで消化し回収したGvCOX断片を、制限酵素処理したベクターpBI221と連結酵素により連結した。これにより、ゼニゴケ発現用(パーティクルガン用)ベクター(GvCOX/pBI221)を得た。
【実施例】
【0158】
得られたゼニゴケ発現用(パーティクルガン用)ベクター(GvCOX/pBI221)の構造を、図5(D)に模式的に示す。図5(D)中、p35Sは、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)35Sプロモーターを表す。tNOSは、NOS遺伝子ターミネーターを表す。
【実施例】
【0159】
(実施例9)
ゼニゴケ形質発現組換えベクター(GvCOX/pBI221)による形質転換、及び得られたゼニゴケ形質転換体の抽出液を用いたシクロオキシゲナーゼ酵素活性の測定
実施例8で作製した、GvCOX遺伝子をゼニゴケ発現用(パーティクルガン用)ベクターpBI221に導入したベクター(GvCOX/pBI221)を、ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)にパーティクルガン法により導入した。パーティクルガン法によるベクターの導入は、Ishizaki et al., Plant Cell Physiol., 49, 1084-1091.(2008)に記載された方法に従って行った。なお、ゼニゴケは、プロスタグランジンを産生しない植物である。GvCOX発現ベクター(GvCOX/pBI221)を導入したゼニゴケを、ハイグロマイシン(10μg/mL)を含む0M51C寒天培地上で25℃で1週間生育させた。
【実施例】
【0160】
形質転換ゼニゴケを、液体窒素中で凍結後、抽出バッファー(100mM Tris(pH7.5), 5mM EDTA, 0.5mM PMSF, 1μM hematin)400μLを加え、超音波破砕機で破砕した。17,000×G、15分間の遠心分離を行い、上清を回収した。
【実施例】
【0161】
回収した上清を20℃で5分間静置した。混合液に最終濃度200μMとなるようにアラキドン酸を添加して20℃で5分間反応させた。次に、最終濃度5mMのSnClを添加して、反応を停止した。
【実施例】
【0162】
塩酸にて反応液のpHを3に調整後、700μLの酢酸エチルで抽出した。ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で溶媒を留去し、残渣をプロスタグランジンの粗画分とした。粗画分は200μLエタノールに溶解し、17,000×G、15分間の遠心分離により不溶物を除いた後、上清を測定用サンプルとした。
【実施例】
【0163】
調整した測定用サンプルに含まれるプロスタグランジンF2α(PGF2α)及びプロスタグランジンE(PGE)について液体クロマトグラフィー/質量分析装置(LC-MS/MS)(型番3200QTRAP、Applied Biosystem社製)を用いてPGF2α由来のフラグメントイオン(m/z=309)及びPGF2αの分子イオン353.2[M-H]から生じるフラグメントパターン、ならびにPGE由来のフラグメントイオン(m/z=271)及びPGEの分子イオン351.2[M-H]から生じるフラグメントパターンの検出を行った。LC-MS/MS測定条件は、カラム:RP-18 GP 150×4.6 (5 mm) (関東化学工業社製)、 移動相:2.5 mM 酢酸アンモニウム水溶液と2.5 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液によるグラジエント溶出、流速:400 mL/min、カラム温度:40℃、コリジョンエネルギー:40 V 、コリジョンガス:窒素ガス、エレクトロイオンスプレイモード:ネガティブ、を用いた。
【実施例】
【0164】
反応生成物と標品PGF2α及びPGE(CAYMAN CHEMICAL社製)とのフラグメントパターン(表1及び表2)が一致すること、及び、液体クロマトグラフィーの保持時間が反応生成物と標品PGF2α-d4ならびにPGEで一致することから反応生成物中にPGF2αならびにPGEが含まれていることを確認した。
従って、シクロオキシゲナーゼ遺伝子をゼニゴケに導入した形質転換体によって、プロスタグランジン類を製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0165】
以上のように、本発明の遺伝子及びたんぱく質は、プロスタグランジン類生産に有用である。また、本発明の遺伝子が発現可能に導入されたE. coli形質転換体等の形質転換体は、製薬産業及び各種素材産業等において、プロスタグランジン類を生産する上で、薬等の原料や試薬の供給に極めて有用である。また本発明の遺伝子が発現可能に導入されたE. coli形質転換体等においては、E. coli内のプロスタグランジン類の含量が増加する又は培養液中に放出されるので、このようなE. coli形質転換体は、製薬分野等において非常に有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4