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明細書 :複数物質応答性ゲルおよびその製造方法並びにその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5093633号 (P5093633)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
発明の名称または考案の名称 複数物質応答性ゲルおよびその製造方法並びにその利用
国際特許分類 G01N  33/543       (2006.01)
C12N  11/04        (2006.01)
C12N  11/08        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI G01N 33/543 593
C12N 11/04
C12N 11/08 A
C12M 1/00 A
C12N 15/00 F
請求項の数または発明の数 14
全頁数 32
出願番号 特願2012-511475 (P2012-511475)
出願日 平成23年8月30日(2011.8.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 ・刊行物名 高分子学会予稿集 59巻2号[2010]発行日 平成22年9月1日 発行所 社団法人 高分子学会
国際出願番号 PCT/JP2011/069650
国際公開番号 WO2012/117588
国際公開日 平成24年9月7日(2012.9.7)
優先権出願番号 2011043017
優先日 平成23年2月28日(2011.2.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年4月5日(2012.4.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
発明者または考案者 【氏名】宮田 隆志
【氏名】浦上 忠
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】海野 佳子
参考文献・文献 国際公開第2008/084571(WO,A1)
国際公開第2006/118077(WO,A1)
特開2006-138656(JP,A)
特開2004-301529(JP,A)
小嶋友里 他,2種類のタンパク質に応答して膨潤する刺激応答性ゲルの合成,高分子学会予稿集(CD-ROM),2010年 9月 1日,Vol.59 No.2 Disk1,Page.ROMBUNNO.3PB064
宮田隆志 他,リガンドとしてシクロデキストリンを導入した分子応答性ゲルの合成とその認識応答挙動,シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集,2010年 9月 6日,Vol.27th,Page.58-59
小嶋友里 他,タンパク質を認識する刺激応答性ゲルの構造設計とその応答挙動,高分子学会予稿集(CD-ROM),2010年 5月11日,Vol.59 No.1 Disk1,Page.ROMBUNNO.2PD116
大喜多佑里恵 他,温度応答性高分子を用いた抗原応答性ゲルの合成とその応答挙動,高分子学会予稿集(CD-ROM),2009年 5月12日,Vol.58 No.1 Disk1,Page.3PA101
Miyata T. et al.,Tumor marker-responsive behavior of gels prepared by biomolecular imprinting.,Proc Natl Acad Sci U S A.,2006年,Vol.103(5),p.1190-3
調査した分野 G01N 33/48-98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が、高分子ゲルに固定されているとともに、
当該複数種類の複合体は、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されていることを特徴とする複数物質応答性ゲル。
【請求項2】
前記複合体は、特異的結合物質と、結合パートナーとが、それぞれ、高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されていることを特徴とする請求項1に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項3】
前記複合体は、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが、高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されており、特異的結合物質は高分子ゲルに結合していないことを特徴とする請求項1に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項4】
前記特異的結合物質が除去されていることを特徴とする請求項3に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項5】
前記高分子ゲルは、相互に架橋しない複数の架橋ポリマーからなる相互侵入網目ポリマーであり、
前記複数の架橋ポリマーのそれぞれに、異なる種類の前記複合体が固定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項6】
前記高分子ゲルは、単一の架橋ポリマーであって、
当該単一の架橋ポリマーに、複数種類の前記複合体が固定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項7】
前記特異的結合物質および結合パートナーの少なくともいずれかは、生体分子であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項8】
前記特異的結合物質および結合パートナーの少なくともいずれかは、タンパク質、核酸、糖質、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ホルモンまたは金属イオンであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項9】
前記複数の結合パートナーは、包接化合物を形成する複数のホスト分子であることを特徴とする請求項3~6のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項10】
上記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることを特徴とする請求項9に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項11】
複数の検出対象物質と接触させたときに、体積が変化することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲル。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲルと試料とを接触させる工程と、検出対象物質の有無を前記複数物質応答性ゲルの体積変化により検出する工程とを含むことを特徴とする検出方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲルを含有する検出キット。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の複数物質応答性ゲルを、センサーチップ表面に固定化した検出装置であって、前記センサーチップが複数物質応答性ゲルの膨潤率増加による体積の増加を測定して表示する測定装置と連結されていることを特徴とする検出装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、複数物質応答性ゲルおよびその製造方法並びにその利用に関するものであり、特に、複数の検出対象物質を同時に認識して体積変化する複数物質応答性ゲルおよびその製造方法並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍マーカーなどの疾病マーカーの場合には数種類の生体分子がマーカー分子として利用されているため、一つの疾病に対して2種類以上の疾病マーカーを同時検出することができれば、より正確な診断が可能となる。
【0003】
従来、検出対象物質である複数の生体分子を同時に検出する方法として、検出対象物質と選択的または特異的に結合するプローブのアレイまたはマイクロアレイが知られている。しかし、かかる方法では、複数の検出対象物質は同時に測定されるが、それら複数の検出対象物質は個別に測定される必要がある。
【0004】
ところで、本発明者らは、標的とする生体分子を感知して膨潤または収縮する生体分子応答性ゲルについて報告している(例えば、特許文献1、非特許文献1、2等参照)。特許文献1に記載の核酸応答性ゲルは、ハイブリダイズする2本の1本鎖核酸を架橋点として導入したゲルである。そして、ハイブリダイズする2本の1本鎖核酸が鎖交換を起こして解離するような標的と接触したときに、架橋点が減少してゲルが膨潤する性質を利用して、標的とする核酸分子を検出するものである。また、非特許文献1には、抗原抗体複合体を架橋点として導入したゲルが標的抗原の存在下で次第に膨潤することを示している。非特許文献2には、標的糖タンパク質に対するリガンドを導入したゲルが標的糖タンパク質の存在下で次第に収縮することを示している。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2007-244374号公報(2007年9月27日公開)」
【0006】

【非特許文献1】Nature 399, 766-769(1999)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 1190-1193 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のアレイまたはマイクロアレイでは、複数の検出対象物質は同時に測定されるが、それら複数の検出対象物質は個別に測定される必要がある。複数の検出対象物質が、同時に同一の測定により検出されるような検出方法を提供することができれば、複数の検出対象物質を同時に、かつ簡便に検出することができるが、かかる方法は今までに報告されていない。
【0008】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の検出対象物質を同時に同一の測定により検出可能な複数物質応答性物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、前記課題を解決するために、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が、高分子ゲルに固定されているとともに、当該複数種類の複合体は、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されていることを特徴としている。
【0010】
前記の構成によれば、複数の検出対象物質を同時に同一の測定により検出することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、以上のように、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が、高分子ゲルに固定されているとともに、当該複数種類の複合体は、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されている構成を備えているので、複数の検出対象物質を同時に同一の測定により検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1において、ビニル基導入IgGおよびビニル基導入anti-IgGを合成する工程を示す図である。
【図2】本発明の実施例1において、ビニル基導入AFPおよびビニル基導入anti-AFPを合成する工程を示す図である。
【図3】本発明の実施例1において、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを合成する工程を示す図である。
【図4】本発明の実施例1において、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーを形成させ、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを製造する工程を示す図である。
【図5】本発明の参考例3において、AFP抗原抗体架橋ゲルおよびIgG抗原抗体架橋ゲルを、それぞれの標的抗原(検出対象物質)であるAFPおよびIgGが溶解したPBS中に浸漬させた際の膨潤率測定を行った結果を示す図であり、(a)はAFP抗原抗体架橋ゲルの膨潤率測定を行った結果を示す図であり、(b)はIgG抗原抗体架橋ゲルの膨潤率測定を行った結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例1において、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルをPBS中で平衡膨潤させた後、標的抗原(検出対象物質)水溶液に浸漬させた際の膨潤率測定を行った結果を示す図である。
【図7】複数物質応答性ゲルおよび対照の、検出対象物質と接触させたときの様子を模式的に示す図であり、(a)は対照であるポリアクリルアミド(PAAm) IPNゲルを、複数の検出対象物質と接触させたときのPAAm IPNゲルの様子を模式的に示す図であり、(b)は複数物質応答性ゲルであるAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを検出対象物質の1つと接触させたときのAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの様子を模式的に示す図であり、(c)は複数物質応答性ゲルであるAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを2つの検出対象物質と接触させたときのAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの様子を模式的に示す図である。
【図8】複数物質応答性ゲルの一実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。

【0014】
本発明者らがこれまでに特許文献1、非特許文献1等で報告した生体分子応答性ゲルは、高分子ゲルに架橋点を形成する単一種類の複合体を導入し、かかる複合体の結合を解離させることによって、架橋点が減少してゲルが膨潤することを利用するものであった。また、本発明者らが、非特許文献2で報告した、リガンドを導入したゲルは、高分子ゲルに、単一種類の検出対象物質と、当該検出対象物質と特異的かつ可逆的に結合する2種類のリガンドとの複合体を、架橋点を形成するように固定した後、検出対象物質が除去されたインプリントゲルである。かかるゲルは、当該リガンドと特異的かつ可逆的に結合する検出対象物質の存在下で、リガンドと検出対象物質とが結合して架橋点を形成することにより、ゲルが収縮することを利用するものであった。すなわち、架橋点の減少または増加を体積変化により検出するものであった。したがって、複数種類の検出対象物質と結合するような、複数種類の複合体またはリガンドを導入したとしても、架橋点の減少または増加は検出できても、いずれの検出対象物質による体積変化であるのかは区別することができないと考えられた。

【0015】
ところが、本発明者らが、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と種類ごとにそれぞれ特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体を、高分子ゲルに、当該複合体が架橋を形成するように固定したところ、驚くべきことに、当該複合体と反応して複合体を解離させる一部の種類の検出対象物質が存在するときには、当該ゲルはわずかにしか体積が増加しないのに対して、複数種類の前記複合体を解離させるすべての種類の検出対象物質が存在する場合には、大きく体積が増加することを見出した。そして、かかるゲルによれば、複数種類の検出対象物質を同時に、体積変化の測定のみにより、検出できることに思い至り本発明を完成させるに至った。

【0016】
また、上述した検出対象物質と特異的かつ可逆的に結合するリガンドが固定されたインプリントゲルにおいて、複数種類の検出対象物質と結合するリガンドを固定した場合にも同様の現象が起こると考えられる。すなわち、すべての種類の検出対象物質が存在する場合に、一部の種類の検出対象物質が存在する場合と比べて、体積が大きく減少するため、複数の検出対象物質を、同時に、体積変化のみにより検出することができる。

【0017】
(I)複数物質応答性ゲル
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と種類ごとにそれぞれ特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が高分子ゲルに固定されているとともに、当該複数種類の複合体は、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されているものである。

【0018】
ここで、「高分子ゲル」とは、網目構造を有する高分子化合物が液体を吸収して膨潤したものであれば特に限定されるものではない。例えば、網目構造を有する高分子化合物が水で膨潤したヒドロゲルであってもよいし、網目構造を有する高分子化合物が有機溶媒で膨潤したオルガノゲルであってもよい。中でも、前記高分子ゲルは、固定される複合体および検出対象物質の少なくともいずれかが生体物質である場合の安定性の観点からヒドロゲルであることがより好ましい。なお、本発明に係る複数物質応答性ゲルは、膨潤した状態で、検出対象物質に対する応答性を示すが、本発明では、膨潤したゲルから、水、有機溶媒等を除いて乾燥状態としたものも、前記「高分子ゲル」および複数物質応答性ゲルに含めるものとする。なお、本発明において、高分子化合物とは、分子量が1000以上の化合物をいう。ここで、本明細書において、分子量とはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による分子量をいう。

【0019】
本発明において、前記複合体は、特異的結合物質と、当該特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなるものであればよい。また、複合体を形成する特異的結合物質および結合パートナーの数は特に限定されるものではなく、1の特異的結合物質と1の結合パートナーとから形成される複合体であってもよいし、1の特異的結合物質と複数の結合パートナーとから形成される複合体またはその逆であってもよい。

【0020】
前記特異的結合物質および前記結合パートナーは、他の化学物質と特異的かつ可逆的に結合して複合体を形成するものであれば特に限定されるものではないが、前記特異的結合物質および前記結合パートナーの少なくともいずれかは、好ましい実施形態においては、例えば、生体分子である。生体分子には、他の化学物質と特異的かつ可逆的に結合する多種多様な物質があり、本発明で用いられる特異的結合物質および結合パートナーの少なくともいずれかが、かかる生体分子であることが好ましい。かかる生体分子は特に限定されるものではないが、例えば、タンパク質、核酸、糖質、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ホルモン、金属イオン等を挙げることができる。

【0021】
前記特異的結合物質と前記結合パートナーとが結合してなる複合体としては、例えば、抗原と抗体との複合体、核酸と当該核酸とハイブリダイズする核酸との複合体、酵素と基質との複合体、糖質とレクチンとの複合体を挙げることができる。また、前記複合体は、抗原と抗体との結合、核酸と当該核酸とハイブリダイズする核酸との結合、酵素と基質との結合、および糖質とレクチンとの結合から選択される1種類以上の結合を複数含む複合体であってもよい。なお、ここで、これらの複合体を形成する要素はどちらが特異的結合物質であっても、結合パートナーであってもよい。

【0022】
前記複合体が、核酸と当該核酸とハイブリダイズする核酸との複合体である場合は、前記特異的結合物質は、例えば一本鎖DNA、一本鎖RNA、一本鎖PNA等である。そしてこれらに対して特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーは、これらとハイブリダイズする一本鎖DNA、一本鎖RNA、一本鎖PNA等である。これらが結合して形成される複合体は、ハイブリダイズしている2本の一本鎖核酸であり、2本の一本鎖核酸は、DNA同士、RNA同士、またはPNA同士であってもよいし、DNA、RNAおよびPNAから選択される2種類の組み合わせであってもよい。ここで、2本の一本鎖核酸がハイブリダイズしている部分において、2本の一本鎖核酸は完全に相補的であってもよいし、1または複数の塩基がミスマッチであってもよい。なお、前記複合体が、核酸と当該核酸とハイブリダイズする核酸である場合の高分子ゲルへの結合形式、鎖交換、核酸の大きさ等については、特許文献1の記載が援用される。

【0023】
前記複合体が、抗原と抗体との複合体または抗原と抗体との結合を含む複合体である場合は、抗原としては、特に限定されるものではないが、例えば、タンパク質、糖質、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ホルモン、金属イオン等を挙げることができる。より具体的には、かかる抗原としては、例えば、α‐フェトプロテイン(AFP)、ガン胎児性抗原(CEA)、CA19-9、塩基性胎児タンパク質(BFP)、膵胎児抗原(POA)、アルドラーゼ、アルカリ・フォスファターゼ、γグルタミルトランスペプチダーゼ、ニューロン特異的エノラーゼ、5´ヌクレオチド・フォスフォジエステラーゼ・アイソザイムV(5´-NPD-V)、異常プロトロンビン(PIVKA-II)等の腫瘍マーカー;IgM、IgG、IgA、IgE、IgD等の免疫グロブリン;B型肝炎ウイルス関連抗原、C型肝炎ウイルス関連抗原、インフルエンザウイルス等のウイルス抗原;甲状腺ホルモン、ステロイドホルモン等のホルモン等を挙げることができる。また、抗体としては、前記抗原と特異的かつ可逆的に抗原抗体反応を起こすものであれば特に限定されるものではなく、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよく、また、Fab、F(ab´)、F(ab´)等であってもよい。かかる抗体の由来も特に限定されるものではなく、常法により調製することができる。具体的には、例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳動物に抗原を投与し、免疫して得ることができる。また、例えば、抗原で免疫したマウス等の哺乳動物の脾臓からとったB細胞と、骨髄腫細胞とのハイブリドーマが生産するモノクローナル抗体として得ることができる。

【0024】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、特異的結合物質と、当該特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する前記結合パートナーとが結合してなる複合体の複数種類が高分子ゲルに固定されていればよく、固定されている複合体の組み合わせは特に限定されるものではない。例えば、ある疾患に特徴的な複数種類のマーカーと、当該複数種類のマーカーとそれぞれ特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体を組み合わせることにより、疾患の診断をより正確に行うことができる。あるいは、異なる複数の疾患にそれぞれ特徴的なマーカーと、当該複数種類のマーカーとそれぞれ特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体を組み合わせることにより、複数の疾患について同時に診断を行うことができる。

【0025】
なお、本発明において、高分子ゲルに固定されているとは、高分子ゲルを構成する網目構造を有する高分子化合物に結合していることをいう。

【0026】
(I-1)
本発明に係る複数物質応答性ゲルの好ましい一実施形態は、前記複合体が、特異的結合物質と、結合パートナーとが、それぞれ、高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されている複数物質応答性ゲルである。

【0027】
すなわち、前記複合体は、例えば、図7の(b)、(c)の上側に示す円内に模式的に示すように、高分子ゲルに架橋を形成するように結合されている。なお、図7の(b)、(c)に示す例では、四角で示される抗原と該抗原と特異的かつ可逆的に結合する抗体とが結合してなる第1の複合体と、楕円で示される抗原と該抗原と特異的かつ可逆的に結合する抗体とが結合してなる第2の複合体とが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている。ここで架橋は、複合体を形成する特異的結合物質(または結合パートナー)である抗原と、結合パートナー(または特異的結合物質)である抗体とのそれぞれが、当該高分子ゲルの網目構造に結合することによって形成される。すなわち、特異的結合物質と結合パートナーのそれぞれは、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と架橋の片方でのみ結合しているが、複合体を形成することによって、架橋が形成されることになる。

【0028】
なお、本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記複合体を形成する特異的結合物質と結合パートナーとが高分子ゲルに結合する方式は特に限定されるものではないが、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましい。これにより、前記複合体が、高分子ゲルに安定して固定される。なお、前記特異的結合物質と前記結合パートナーとは、直接高分子ゲルに結合していてもよいし、二価の基を介して高分子ゲルに結合していてもよい。

【0029】
ここで、前記複合体では、特異的結合物質と結合パートナーとは可逆的に結合している。すなわち、特異的結合物質と結合パートナーとは、水素結合、配位結合、共有結合、イオン結合、疎水結合等によって互いに結合しているが、温度、pH等の条件の変化や他の分子の存在により、特異的結合物質と結合パートナーとが解離する方向に反応が進むことが可能であり、かかる反応は可逆的である。

【0030】
このように、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルにおいては、特異的結合物質と結合パートナーとが可逆的に結合しているため、前記複合体を形成している特異的結合物質または結合パートナーとより安定な複合体を形成する化学物質、または競争的に複合体を形成する化学物質が存在すると、かかる化学物質は、複合体を形成している特異的結合物質または結合パートナーと取って代わり、特異的結合物質または結合パートナーとの交換が起こる。

【0031】
複合体を形成している特異的結合物質と結合パートナーとが、解離した場合、図7の例の(b)、(c)の下側に示す円内に模式的に示すように、架橋が切断されることになり、架橋点が減少すると考えられる。一般に高分子ゲルの膨潤率は架橋密度が減少すると増加することが知られている。したがって、架橋点が減少する結果、複数物質応答性ゲルは膨潤率が増加して、体積が増加する方向に体積変化すると考えられる。すなわち、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、前記複合体を形成している特異的結合物質または結合パートナーとより安定な複合体を形成する化学物質、または競争的に複合体を形成する化学物質と接触させたときに、架橋密度が減少し、体積が増加する。すなわち、前記複合体を形成している特異的結合物質または結合パートナーとより安定な複合体を形成する化学物質、または競争的に複合体を形成する化学物質が、本発明に係る複数物質応答性ゲルの検出対象物質であるといえる。例えば、本発明に係る複数物質応答性ゲルを、特異的結合物質または結合パートナーと接触させたときには、これらは、高分子ゲルに固定されている特異的結合物質または結合パートナーと競争的に複合体を形成することができる。よって、本発明に係る複数物質応答性ゲルは、固定されているものと同じ特異的結合物質または結合パートナーを検出することができる。また、例えば、本発明に係る複数物質応答性ゲルを、特異的結合物質または結合パートナーとより安定な複合体を形成することができる物質と接触させたときには、当該物質は、高分子ゲルに固定されている特異的結合物質または結合パートナーと複合体を形成するため、これらの物質と特異的結合物質または結合パートナーとの交換が起こる。よって、本発明に係る複数物質応答性ゲルは、特異的結合物質または結合パートナーとより安定な複合体を形成することができる物質を検出することができる。

【0032】
ここで、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルでは、複数種類の前記複合体が、高分子ゲルに固定されている。そして、複数種類の前記複合体をそれぞれ構成する、複数種類の特異的結合物質または結合パートナーと、それぞれ結合可能な複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類が存在するときには、複数物質応答性ゲルはわずかに体積が増加する。そして、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類が存在する場合にはじめて、大きく体積が増加する。

【0033】
このように、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、複数種類の前記複合体が、高分子ゲルの網目構造内に固定されていることにより、複数種類の前記複合体をそれぞれ構成する、複数種類の特異的結合物質または結合パートナーと、それぞれ結合可能な複数種類の前記検出対象物質のうち、すべて存在する場合にはじめて大きく膨潤率が増加するので、複数の前記検出対象物質を、同時に検出することができる。

【0034】
本発明において、前記高分子ゲルは、網目構造を有する高分子化合物を少なくとも1種類含んでいればよい。したがって、前記高分子ゲルを構成する高分子化合物は、単一の架橋ポリマーからなるものであってもよいし、相互に架橋しない複数の架橋ポリマーからなる相互侵入網目ポリマー(IPN(Interpenetrating Polymer-Networks)ポリマー)であってもよい。

【0035】
ここで、相互侵入網目ポリマーとは、相互に架橋しない複数の架橋ポリマーが相互侵入網目構造を形成して、その網目構造が相互に入り組んでいる混合物をいう。

【0036】
ここで、前記高分子ゲルが、相互侵入網目ポリマーである場合は、相互侵入網目ポリマーを構成する複数の架橋ポリマーのそれぞれには、それぞれ、異なる種類の前記複合体が固定されている。相互侵入網目ポリマーを構成する架橋ポリマーの数は2以上、10以下であれば特に限定されるものではない。例えば、前記高分子ゲルが、第1の架橋ポリマーと、第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーである場合、第1の架橋ポリマーと、第2の架橋ポリマーには、異なる種類の前記複合体が固定される。なお、このとき、それぞれの架橋ポリマーに固定される前記複合体は1種類であっても2種類以上であってもかまわないが、同じ種類の前記複合体が、複数の架橋ポリマーに固定されないことが好ましい。これにより、本実施形態では、前記複数種類の複合体によって形成されている架橋のすべての種類が解離することによってはじめて大きく膨潤率が増加するという効果を得ることができると考えられる。その理由は明らかではないが、1種類の架橋ポリマーの架橋点のみが減少しても、他の架橋ポリマーの存在により、体積の増加が抑えられることが理由として考えられる。

【0037】
すなわち、前記相互侵入網目ポリマーでは、互いに化学結合せず、相互に侵入したネットワークが物理的に絡み合ったIPN構造を形成させることにより、それぞれの独立したネットワークの架橋点として前記複合体が結合していると考えられる。かかる相互侵入網目ポリマーは、2種類以上の複合体を有しており、1種類の検出対象物質が存在しても異なる検出対象物質に対する複合体が解離しないため、相互に侵入したネットワークは膨潤できず、その応答性は非常に低くなることが考えられる。しかし、複数の検出対象物質が同時に存在すると、それぞれに対する複合体が交換反応によって解離するため、相互侵入した複数のネットワークが同時に広がり、ゲル全体が膨潤することができると考えられる。

【0038】
また、前記高分子ゲルが、相互侵入網目ポリマーである場合は、相互侵入網目ポリマーを構成する複数の架橋ポリマーは、同じ架橋ポリマーであっても、異なる架橋ポリマーであってもよい。しかし、同じ種類の架橋ポリマーを組み合わせた方が、複数のポリマーが互いに相分離せず、良好な相互侵入網目構造を形成することができるため、前記複数の架橋ポリマーは、同じ架橋ポリマーであることがより好ましい。また、複数の架橋ポリマーが同じであることにより体積変化が均一である方が、すべての種類の複合体が解離した時の膨潤率と、一部の種類の複合体が解離したときの膨潤率との差が均一で、安定した検出結果が得られるため、前記複数の架橋ポリマーは、同じ架橋ポリマーであることがより好ましい。

【0039】
また、前記高分子ゲルが、単一の架橋ポリマーである場合は、当該単一の架橋ポリマーに、複数種類の前記複合体が固定される。これにより、前記高分子ゲルが相互侵入網目ポリマーである場合と同様の理由により、前記複数種類の複合体によって形成されている架橋のすべての種類が解離することによってはじめて大きく膨潤率が増加するという効果を得ることができると考えられる。

【0040】
前記架橋ポリマーは、網目構造を有し、水や有機溶媒により膨潤する高分子化合物であれば特に限定されるものではない。中でも、前記高分子ゲルは、水によって膨潤する高分子化合物であることがより好ましいので、前記架橋ポリマーは、親水性のモノマーを重合、架橋することにより得られる高分子化合物であることがより好ましい。かかるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;アルキル(メタ)アクリレート;マレイン酸;ビニルスルホン酸;ビニルベンゼンスルホン酸;(メタ)アクリルアミド;アクリルアミドアルキルスルホン酸;(メタ)アクリロニトリル;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ置換(メタ)アクリルアミド;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート;スチレン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾール;ジメチルアミノスチレン;N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアルキル置換(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニル;アリルアミン等を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、前記モノマーは、(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸;アルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシエチルメタクリレート;N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド;N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド;酢酸ビニル;アリルアミン等であることがより好ましい。また、得られる複数物質応答性ゲルの性能に悪影響を与えるものでなければ、さらに他のモノマーを組み合わせてもよい。なお、本明細書において、「アクリル」または「メタアクリル」を意味する場合「(メタ)アクリル」と表記する。

【0041】
また、前記架橋ポリマーは、一分子中に2個以上の反応性官能基を有する架橋剤を共重合または反応させることによって架橋されているものであることがより好ましい。前記反応性官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基等を挙げることができる。前記架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;金属イオン等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記架橋ポリマーは、前記架橋剤を用いずに、本発明で用いる前記複合体と共重合させることによって、当該複合体のみにより架橋されているものであってもよい。

【0042】
前記架橋ポリマーとしては、具体的には、例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド;ポリ-N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド;ポリ-N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド;ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ-アルキル(メタ)アクリレート、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらと(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体;ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体;ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体;カルボキシアルキルセルロース金属塩;ポリ(メタ)アクリロニトリル;アルギン酸;キトサン;ポリアリルアミン;セルロースまたはこれらの誘導体や架橋物、金属塩を挙げることができる。これらの中でも、前記架橋ポリマーは、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ-アルキル(メタ)アクリレート、ポリ-N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ-N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、セルロース、キトサン、アルギン酸、これらの誘導体であることがより好ましい。また、前記架橋ポリマーの分子量は、1000以上5000000以下であることが好ましい。分子量がかかる範囲となっていることにより、適度な架橋剤によって架橋ポリマーを合成しやすいので好ましい。

【0043】
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、平衡に達するまで膨潤している状態で前記検出対象物質の検出に用いる。本実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、前記検出対象物質と接触したときに、液体を吸収して、さらに膨潤し、体積が増加する。本発明において、これらの膨潤の際に吸収される液体は、特に限定されるものではなく、水や水系の緩衝液であってもよいし有機溶媒であってもよい。かかる液体としては、具体的には、例えば、水;リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液等の水系の緩衝液;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルn-プロピルケトン、3-ヘキサノン、メチルn-ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチルエステル等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル等のニトリル;プロピレンカーボネート;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;キシレン;トルエン;またはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。中でも、前記液体は生体分子を検出する場合の安定性の観点から水または水系の緩衝液であることがより好ましい。本発明に係る複数物質応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる前記液体の割合は、高分子ゲルの架橋密度、高分子ゲルや溶媒の種類、温度、pH、イオン強度等によって変化するが、複数物質応答性ゲルと複数物質応答性ゲルに含まれる前記液体の合計重量に対して、30重量%以上99.9重量%以下であることが好ましく、70重量%以上99重量%以下であることがより好ましい。本発明に係る複数物質応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる前記液体の割合が前記範囲であることにより、適度な強度を有する高分子ゲルが得られ、前記検出対象物質が高分子ゲル内に拡散することができる高分子網目構造となるので好ましい。

【0044】
また、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルの架橋密度は、0.1(mol/m)以上500(mol/m)以下であることが好ましく、1(mol/m)以上100(mol/m)以下であることがより好ましい。複数物質応答性ゲルの架橋密度が前記範囲であることにより、複数物質応答性ゲルが大きな体積変化を示すことが期待でき、さらに適度な強度を持つので好ましい。なお、本明細書において、架橋密度とは、後述する実施例に記載の方法により求められた値をいう。

【0045】
本実施形態の複数物質応答性ゲルにおける、前記複合体の合計の含有量は、複数物質応答性ゲルが検出対象物質に応答して膨潤率が増加することができる範囲であれば、特に限定されるものではないが、乾燥状態の複数物質応答性ゲルに対して、0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。前記複合体の合計の含有量が大きければそれだけ複数物質応答性ゲルが検出対象物質に応答したときの架橋密度の変化が大きくなる。それゆえ、検出対象物質を認識する認識能を向上することができる。複合体をたくさん入れすぎるとある含有量以上において認識能が向上しない可能性はあるが特に前記複合体の含有量の上限はない。

【0046】
また、本発明に係る複数物質応答性ゲルの形状は特に限定されるものではなく、どのような形状のものであってもよく、用途に応じて好ましい形状を適宜選択すればよい。かかる形状としては、例えば、円柱状、板状、フィルム状、粒子状、球状、直方体状等を挙げることができる。例えばセンサーチップ等に用いる場合には、薄膜状やフィルム状等であることが好ましく、診断試薬等に用いる場合には、粒子状等であることが好ましい。

【0047】
本発明に係る複数物質応答性ゲルを所望の形状とするためには、例えば、複数物質応答性ゲルの原料となるモノマー組成物等を重合前に所望の型に注入し、重合を行う方法等を用いることができる。

【0048】
また、複数物質応答性ゲルの大きさも特に限定されるものではなく、用途に応じて好ましい大きさを適宜選択すればよい。例えば、センサー等に用いる場合には、サイズが小さい高分子ゲルを用いることが好ましく、例えば球状である場合には、その直径が0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。複数物質応答性ゲルのサイズが小さいほど、応答速度が速くなるため、センサー等に好適に用いることができる。

【0049】
(I-2)
本発明に係る複数物質応答性ゲルの他の好ましい一実施形態は、前記複合体が、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されており、特異的結合物質は高分子ゲルに結合していない複数物質応答性ゲルから、前記特異的結合物質が除去されているインプリントゲルである。なお、本発明において、1の特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーを結合パートナーセットと称することがある。

【0050】
かかるインプリントゲルは、前記複合体が、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定された後に、当該特異的結合物質が除去されて得られるものであるため、当該特異的結合物質に対して相補的な結合部位をインプリントゲル内に構築することができる。すなわち、高分子ゲル中に、除去された特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが、当該特異的結合物質の形に従い、当該特異的結合物質の特徴的な官能基を認識するように配置される。この官能基周辺が、当該検出対象物質に対して特異的に結合する部位(特異的結合部位)となる。

【0051】
このように、本実施形態にかかる複数物質応答性ゲルは、分子インプリンティング法により形成されたものである。ここで、分子インプリンティング法とは、ポリマーを合成する際、ポリマー合成用のモノマーに、検出対象物質を混入させて重合を行い、得られたポリマーから検出対象物質を除去することにより、検出対象物質の鋳型をポリマー内にとる方法をいう。

【0052】
したがって、本発明にかかる複数物質応答性ゲルには、インプリントゲルを製造する中間体である前記特異的結合物質が除去される前の、前記複合体が、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されているゲルも含まれる。すなわち、本発明に係る複数物質応答性ゲルの他の好ましい一実施形態は、前記複合体が、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されており、特異的結合物質は高分子ゲルに結合していない複数物質応答性ゲルであってもよい。

【0053】
インプリントゲルを製造する中間体である前記特異的結合物質が除去される前のゲルでは、前記複合体は、例えば、図8左側に示す円内に模式的に示すように、高分子ゲルに架橋を形成するように結合されている。なお、図8に示す例では、四角で示される抗原と該抗原と特異的かつ可逆的に結合する2つの結合パートナーとが結合してなる第1の複合体と、楕円で示される抗原と該抗原と特異的かつ可逆的に結合する2つの結合パートナーとが結合してなる第2の複合体とが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている。ここで架橋は、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって形成され、特異的結合物質は高分子ゲルに結合していない。すなわち、結合パートナーのそれぞれは、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と架橋の片方でのみ結合しているが、特異的結合物質と複合体を形成することによって、架橋が形成されることになる。

【0054】
かかる中間体から、前記特異的結合物質が除去されている複数物質応答性ゲルは、図8右側に示す円内に模式的に示すように、架橋が切断されることになり、架橋点が減少すると考えられる。これにより、架橋点が減少する結果、複数物質応答性ゲルは膨潤率が増加する。

【0055】
なお、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルにおいて、前記結合パートナーが高分子ゲルに結合する方式は特に限定されるものではないが、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましい。これにより、前記複合体が、高分子ゲルに安定して固定される。なお、前記結合パートナーは、直接高分子ゲルに結合していてもよいし、二価の基を介して高分子ゲルに結合していてもよい。また、前記特異的結合物質と結合パートナーとが可逆的に結合している点は、上記I-1の実施形態と同様である。

【0056】
そして、上述した分子インプリンティング法により前記特異的結合物質が除去されている複数物質応答性ゲルは、当該特異的結合物質が存在すると、高分子ゲルに固定されている複数の結合パートナーが、検出対象物質を認識して結合する結果、再び複合体が形成される。

【0057】
複合体が再び形成される結果、図8左側に示す円内に示すように、架橋が再び形成されることになり、架橋点が増加すると考えられる。これにより、架橋点が増加する結果、複数物質応答性ゲルは膨潤率が減少して、体積が減少する方向に体積変化すると考えられる。すなわち、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、前記複合体を形成している特異的結合物質と接触させたときに、体積が減少する。また、前記複合体を形成している特異的結合物質が、本発明に係る複数物質応答性ゲルの検出対象物質であるといえる。

【0058】
ここで、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルでは、複数種類の前記特異的結合物質を特異的に認識する複数種類の結合パートナーセットが、高分子ゲルに固定されている。そして、複数種類の前記結合パートナーセットと、それぞれ結合可能な複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類が存在するときには、複数物質応答性ゲルはわずかに体積が減少する。そして、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類が存在する場合にはじめて、大きく体積が減少する。

【0059】
このように、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、複数種類の前記結合パートナーセットが、高分子ゲルの網目構造内に固定されていることにより、複数種類の結合パートナーセットと、それぞれ結合可能な複数種類の前記検出対象物質のうち、すべて存在する場合にはじめて大きく膨潤率が減少するので、複数の前記検出対象物質を、同時に検出することができる。

【0060】
本実施形態において用いられる、前記高分子ゲル、前記高分子ゲルが、相互侵入網目ポリマーである場合の複数種類の前期複合体または前記結合パートナーが固定される方法、架橋ポリマーの数は、上記I-1の実施形態と同様である。

【0061】
これにより、本実施形態では、前記複数種類の複合体により形成する架橋のすべての種類が形成されることによってはじめて大きく体積が減少するという効果を得ることができると考えられる。その理由は明らかではないが、1種類の架橋ポリマーの架橋点のみが増加しても、上記I-1の場合と同様に他の架橋ポリマーの存在により、体積の減少が抑えられることが理由として考えられる。

【0062】
また、前記高分子ゲルが、単一の架橋ポリマーである場合も、上記I-1の場合と同様に、前記複数種類の複合体を形成する架橋のすべての種類が形成されることによってはじめて大きく体積変化という効果を得ることができると考えられる。

【0063】
前記架橋ポリマー、複数物質応答性ゲルの膨潤の際に吸収される液体、複数物質応答性ゲルを平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる前記液体の割合、複数物質応答性ゲルの架橋密度、前記複合体の合計の含有量、複数物質応答性ゲルの形状、大きさも上記I-1の実施形態と同様である。

【0064】
なお、本実施形態においては、前記特異的結合物質および前記結合パートナーは、上述した例の他、それぞれ、包接化合物を形成するゲスト分子および包接化合物を形成する複数のホスト分子であってもよい。

【0065】
ここで、包接化合物とは、2種類以上の分子が適当な条件下で組み合わさってできる化合物で、ホスト分子が、ゲスト分子を取り囲んだ構造の化合物をいう。また、ホスト分子とは、当該ホスト分子内に検出対象物質を包接することができる化合物であれば特に限定されるものではない。かかるホスト分子は、上述したような包接化合物を形成するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体等を挙げることができる。これらは、環構造を有し、環構造の内孔の大きさ、体積、形状によって特定の分子を認識し包接することができる。

【0066】
(I-3)
本発明の一実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、上述したように、固定された複数種類の前記複合体をそれぞれ構成する、複数種類の特異的結合物質または結合パートナーと、それぞれ交換する複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類に応答してわずかに体積変化を起こし、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類の組み合わせに応答して大きい体積変化を起こす高分子ゲルである。より具体的には、この複数物質応答性ゲルは、複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類を認識すると、液体を吸収してわずかに膨潤率が増加し、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類の組み合わせを認識すると、液体を吸収して大きく膨潤率が増加する高分子ゲルである。

【0067】
また、本発明の他の実施形態に係る複数物質応答性ゲルは、上述したように、複数種類の前記特異的結合物質を特異的に認識する結合パートナーが、高分子ゲルに固定されている。そして、この複数物質応答性ゲルは、複数種類の前記結合パートナーと、それぞれ結合可能な複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類が存在するときには、複数物質応答性ゲルはわずかに体積が減少し、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類が存在する場合にはじめて、大きく体積が減少する高分子ゲルである。

【0068】
腫瘍マーカーなどの疾病マーカーの場合には複数種類の生体分子がマーカー分子として利用されているため、一つの疾病に対して2種類以上の疾病マーカーを同時検出して体積変化する複数物質応答性ゲルを利用すれば、より正確な診断が可能となる。さらに,複数の疾病に対するマーカー分子に対して、1種類のみが存在する場合と、2種以上が同時に存在する場合とを区別することができるため、複数の疾病を同時診断することができるようになるだけでなく、診断の幅も広がる。それゆえ、本発明に係る複数物質応答性ゲルによれば、従来の技術に比較して飛躍的に診断精度が向上し、さらに正確な薬物放出制御システムなどへの応用も可能である。また、従来の生体応答性ゲルの場合には、標的生体分子の数だけゲルを合成する必要があり、さらに個別に応答するために複数の標的生体分子を同時に検出することは困難であったが、かかる問題を解決することができる。

【0069】
ここで、本発明の複数物質応答性ゲルの体積変化は、可逆的であることにより複数物質応答性ゲルを繰り返し使用が可能であり,さらに再現性よいセンサー材料として利用することが可能となる。

【0070】
本発明に係る複数物質応答性ゲルが、複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類を認識して体積変化を起こすときの、体積変化量は特に限定されるものではないが、体積変化後の体積を体積変化前の体積で除した値である膨潤率の絶対値が、1.02以上であることが好ましい。また、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類の組み合わせを認識して体積変化を起こすときの、体積変化量も特に限定されるものではないが、体積変化後の体積を体積変化前の体積で除した値である膨潤率の絶対値が、1.02以上であることが好ましく、1.08以上であることが好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。膨潤率の絶対値が大きいほど感度が向上するため好ましい。また、本発明に係る複数物質応答性ゲルにおいて、前記膨潤率の絶対値の上限は、導入されている架橋の量、高分子ゲルや溶媒の種類、高分子鎖にある解離基の状態等により異なるが、通常2程度である。なお、膨潤率は、複数物質応答性ゲルが円柱状の場合は、後述する実施例に記載の方法により得られる値をいう。後述する実施例では円柱状の複数物質応答性ゲルの膨潤率を求める方法が記載されているが、複数物質応答性ゲルが例えば球状である場合は、実施例の「円柱の直径」の代わりに球の直径を用いて計算すればよい。

【0071】
また、本発明の複数物質応答性ゲルは、さらに、シリカ粒子等の微粒子、色材、蛍光発色団を有する分子、蛍光共鳴エネルギー移動を利用するためのドナーやアクセプター等で標識化した複数物質応答性ゲルであってもよい。かかる複数物質応答性ゲルを用いることにより、複数物質応答性ゲルの体積変化を、分光器、蛍光顕微鏡等を用いて、または目視によって簡便に検出することができる。

【0072】
(II)複数物質応答性ゲルの製造方法
本発明にかかる複数物質応答性ゲルの製造方法は、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が、高分子ゲルに固定されている複数物質応答性ゲルを製造する方法を含んでいればいかなる方法であってもよい。

【0073】
(II-1)複数物質応答性ゲルが相互侵入網目ポリマーである場合
本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法の一実施形態として、前記複数物質応答性ゲルが、相互侵入網目ポリマーである場合は、本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造する第1工程と、第1工程で得られた、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造する第2工程とを含んでいればよい。ここで、第1の複合体とは、第1の特異的結合物質と、当該第1の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複合体であり、第2の複合体とは、第2の特異的結合物質と、当該第2の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複合体であって、前記第1の特異的結合物質と第2の特異的結合物質とは異なる物質である。

【0074】
より具体的には、前記第1の複合体は、上述した複数物質応答性ゲルの実施形態に応じて、前記第1の特異的結合物質およびその結合パートナー、あるいは、当該結合パートナーのみに反応性官能基を導入後、第1の特異的結合物質とその結合パートナーとを結合させたものである。また、前記第2の複合体は、上述した複数物質応答性ゲルの実施形態に応じて、前記第2の特異的結合物質およびその結合パートナー、あるいは、当該結合パートナーのみに反応性官能基を導入後、第2の特異的結合物質とその結合パートナーとを結合させたものである。

【0075】
前記第1工程は、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造することができる工程であれば特に限定されるものではなく、例えば以下に示す(a)または(b)の工程を好適に用いることができる。
(a)第1の特異的結合物質と、当該第1の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第1の複合体を、第1の架橋ポリマーを形成するモノマーと共重合させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造する1次重合工程。
(b)第1の特異的結合物質と、当該第1の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第1の複合体を、ポリマーと結合させる複合体結合工程と、複合体結合工程で得られた、第1の複合体が結合されたポリマーを、架橋剤と反応させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造する1次架橋工程。

【0076】
(a)の1次重合工程では、前記第1の複合体を、第1の架橋ポリマーを形成するモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを得る。本工程で用いられるモノマーについては、前記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。また、ここで用いられる架橋剤についても前記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。なお、1次重合工程は架橋剤の存在下で行うことが好ましいが、架橋剤の不存在下で行ってもよい。かかる場合は、前記第1の複合体のみによって架橋された複数物質応答性ゲルを得ることができる。

【0077】
さらに、1次重合工程では、前記第1の複合体を、前記モノマーおよび必要に応じて前記架橋剤に加えて、さらに他のモノマーと共重合させてもよい。かかる他のモノマーとしては、得られる第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの性能に悪影響を与えるものでなければ特に限定されるものではない。

【0078】
ここで、重合方法としては、特に限定されるものではなく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合、開環重合等を好適に用いることができる。また、重合に用いられる溶媒としては、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を好適に用いることができる。

【0079】
重合開始剤としても、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。あるいは、光、放射線等を開始剤として用いてもよい。

【0080】
また、重合温度は特に限定されるものではないが、前記第1の複合体が解離しない温度であることが好ましい。前記第1の複合体が生体分子を含む場合には、当該生体分子が変性しない温度とする。また、重合時間も、特に限定されるものではないが、通常4時間~48時間である。

【0081】
重合の際の、モノマー、架橋剤等の濃度は、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーが得られる濃度であれば特に限定されるものではない。また、前記重合開始剤の濃度も特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。

【0082】
得られた第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーは、1次重合工程で得られた反応混合物から、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去することにより得られる。なお、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、中性付近の緩衝液中で、得られた第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを洗浄する方法を挙げることができる。

【0083】
前記(b)の工程は、1次重合工程において、第1の複合体を、第1の架橋ポリマーを形成するモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造するかわりに、第1の複合体を、ポリマーに結合した後に、第1の複合体が結合したポリマーを架橋する方法を用いる。なお、ここで、第1の複合体は、架橋を形成するように非架橋ポリマーに結合される。

【0084】
前記複合体結合工程では、前記第1の複合体をポリマーと結合させる。ここで、前記第1の複合体を結合させるポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、非架橋ポリマーであり、前記(I)で述べた高分子化合物を好適に用いることができる。なお、かかる高分子化合物は、非架橋ポリマーであればよいが、前記第1の複合体を結合させることができるかぎりにおいて網目構造を有している架橋ポリマーであってもよい。また、前記第1の複合体を前記ポリマーと結合させる方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。

【0085】
前記1次架橋工程では、前記第1の複合体が結合された前記ポリマーを、架橋剤と反応させて網目構造を形成する。ここで、架橋剤としては、前記(I)で説明した架橋剤を好適に用いることができる。また、架橋反応の条件も、高分子化合物や架橋剤の種類等に応じて適宜選択すればよい。

【0086】
前記第2工程は、第1工程で得られた、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造することができる工程であれば特に限定されるものではなく、例えば以下に示す(c)または(d)の工程を挙げることができる。
(c)第2の特異的結合物質と、当該第2の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第2の複合体を、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの存在下で、第2の架橋ポリマーを形成するモノマーと共重合させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造する工程。
(d)第2の特異的結合物質と、当該第2の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第2の複合体を、ポリマーと結合させる複合体結合工程と、複合体結合工程で得られた、第2の複合体が結合されたポリマーを、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの存在下で、架橋剤と反応させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造する工程。

【0087】
前記(c)の工程では、第2の架橋ポリマーが形成されるが、このとき、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマー内および前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと第2の架橋ポリマーとの相互間に架橋が形成されないような重合条件を適宜選択すればよい。かかる重合条件としては、これに限定されるものではないが、例えば、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーに架橋が形成されないように、1次重合工程とは異なる重合方法を用いることが挙げられる。例えば、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーとして光、放射線等によっては架橋が形成されないものを選択し、かかる第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーに、前記第2の複合体、第2の架橋ポリマーを形成するモノマー、および、必要に応じて架橋剤を、これらを含む溶液に浸漬することにより取り込ませた後、溶液から取り出し、光、放射線等を開始剤として用いて重合を行う方法を挙げることができる。

【0088】
前記重合条件を満たすものであれば、本工程において用いることができるモノマー、架橋剤、架橋剤の使用および不使用、他のモノマーとの共重合、重合方法、重合に用いられる溶媒、重合開始剤、温度条件、反応時間、モノマー等の濃度については、1次重合工程で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。

【0089】
得られた複数物質応答性ゲルは、反応混合物から、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去することにより得られる。なお、未反応モノマー、架橋剤、溶媒等を除去する方法は、1次重合工程で説明したとおりである。また、本発明に係る複数物質応答性ゲルは、ヒドロゲルまたはオルガノゲルであることが好ましいが、乾燥状態としたものであってもよい。乾燥状態とした本発明の複数物質応答性ゲルは、例えば、洗浄後の複数物質応答性ゲルを凍結乾燥することにより得ることができる。

【0090】
前記(d)の工程は、前記(c)の工程において、第2の複合体を、第2の架橋ポリマーを形成するモノマーと、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの存在下で、共重合させて第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造するかわりに、第2の複合体を、ポリマーに結合した後に、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの存在下で、架橋剤と反応させる方法を用いる。なお、ここで、第2の複合体は、架橋を形成するように非架橋ポリマーに結合される。

【0091】
前記複合体結合工程では、前記第2の複合体をポリマーと結合させる。ここで、前記第2の複合体を結合させるポリマー、前記第1の複合体を前記ポリマーと結合させる方法については、前記(b)の工程と同様である。

【0092】
また、(d)の工程で用いられる架橋剤としては、前記(I)で説明した架橋剤を好適に用いることができる。また、架橋反応の条件も、高分子化合物や架橋剤の種類等に応じて適宜選択すればよい。

【0093】
本実施形態に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、少なくとも前記第1工程と第2工程とを含んでいればよく、各工程において用いられる方法はどのような組み合わせであってもよい。例えば、(a)と(c)との組み合わせ、(a)と(d)との組み合わせ、(b)と(c)との組み合わせ、または(b)と(d)との組み合わせを好適に用いることができる。

【0094】
また、本実施形態に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、少なくとも上記工程を含んでいればよいが、前記複数物質応答性ゲルが、3以上の架橋ポリマーからなる相互侵入網目ポリマーである場合は、さらに、第3以降の架橋ポリマーを重合する工程を追加すればよい。例えば、前記複数物質応答性ゲルが、3の架橋ポリマーからなる相互侵入網目ポリマーである場合は、第3の複合体を、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーの存在下で、第3の架橋ポリマーを形成するモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合させて、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーと、第3の複合体が固定された第3の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造すればよい。あるいは、第3の複合体を、ポリマーに結合した後に、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとの存在下で、架橋剤と反応させる方法を用いてもよい。

【0095】
(II-2)複数物質応答性ゲルが単一の架橋ポリマーである場合
本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法の他の一実施形態として、本発明に係る複数物質応答性ゲルが、単一の架橋ポリマーである場合は、例えば、少なくとも前記第1の複合体と、前記第2の複合体とを、当該架橋ポリマーを形成するモノマーと、架橋剤の存在下または不存在下で、共重合する重合工程とを含む製造方法により、本発明に係る複数物質応答性ゲルを製造することができる。

【0096】
また、本実施形態における他の製造方法としては、少なくとも、前記第1の複合体と、前記第2の複合体とを、ポリマーと結合させる複合体結合工程と、前記複合体結合工程により、前記複合体が結合された前記ポリマーを、架橋剤と反応させて網目構造を形成する架橋工程とを含む製造方法を挙げることができる。

【0097】
ここで、前記第1の複合体と前記第2の複合体とを結合させるポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、非架橋ポリマーであり、前記(I)で述べた高分子化合物を好適に用いることができる。なお、かかる高分子化合物は、非架橋ポリマーであればよいが、前記第1の複合体と前記第2の複合体とを結合させることができるかぎりにおいて網目構造を有している架橋ポリマーであってもよい。

【0098】
本実施形態において用いることができるモノマー、架橋剤、架橋剤の使用および不使用、他のモノマーとの共重合、重合方法、重合に用いられる溶媒、重合開始剤、温度条件、反応時間、モノマー等の濃度、複数物質応答性ゲルの洗浄方法等については、複数物質応答性ゲルが、相互侵入網目ポリマーである場合の前記製造方法において説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。

【0099】
本実施形態に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、少なくとも上記工程を含んでいればよい。前記複数物質応答性ゲルが、3種類以上の前記複合体を固定したものである場合は、前記重合工程において3種類以上の複合体を用いればよい。

【0100】
(II-3)複数物質応答性ゲルが(I-1)の複数物質応答性ゲルである場合
前記(I-1)の複数物質応答性ゲルは、前記複合体が、特異的結合物質と、結合パートナーとが、それぞれ、高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されている複数物質応答性ゲルである。かかる複数物質応答性ゲルは、反応性官能基が導入された第1の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて得られる第1の複合体と、反応性官能基が導入された第2の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて得られる第2の複合体とを用いて、前記(II-1)または(II-2)に記載の方法により製造することができる。

【0101】
したがって、前記(I-1)の複数物質応答性ゲルの製造方法は、さらに、反応性官能基が導入された前記第1の特異的結合物質と、反応性官能基が導入された前記結合パートナーとを結合させて第1の複合体を作製する複合体形成工程と、反応性官能基が導入された前記第2の特異的結合物質と、反応性官能基が導入された前記結合パートナーとを結合させて第2の複合体を作製する複合体形成工程とを含んでいてもよい。

【0102】
前記複合体形成工程は、例えば、反応性官能基が導入された特異的結合物質の溶液と、反応性官能基が導入された結合パートナーの溶液とを、前記特異的結合物質と結合パートナーとが結合する条件下で混合することにより行うことができる。

【0103】
(II-4)複数物質応答性ゲルが(I-2)の複数物質応答性ゲルである場合
前記(I-2)の複数物質応答性ゲルは、前記複合体が、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されており、特異的結合物質は高分子ゲルに結合していない複数物質応答性ゲル、または、かかるゲルから前記特異的結合物質が除去されているインプリントゲルである。

【0104】
前記特異的結合物質が除去される前の中間体であるゲルは、反応性官能基が導入されていない第1の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて得られる第1の複合体と、反応性官能基が導入されていない第2の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて得られる第2の複合体とを用いて、前記(II-1)または(II-2)に記載の方法により製造することができる。

【0105】
したがって、前記(I-2)の複数物質応答性ゲルの製造方法は、さらに、前記第1の特異的結合物質と、反応性官能基が導入された前記結合パートナーとを結合させて第1の複合体を作製する複合体形成工程と、前記第2の特異的結合物質と、反応性官能基が導入された前記結合パートナーとを結合させて第2の複合体を作製する複合体形成工程とを含んでいてもよい。

【0106】
前記複合体形成工程は、例えば、反応性官能基が導入された特異的結合物質の溶液と、反応性官能基が導入された結合パートナーの溶液とを、前記特異的結合物質と結合パートナーとが結合する条件下で混合することにより行うことができる。

【0107】
また、前記特異的結合物質が除去される前の中間体であるゲルは、前記(II-1)または(II-2)のように、複合体を先に形成した後に、架橋ポリマーを形成するモノマーと共重合させるか、またはポリマーに固定して架橋するかわりに、前記結合パートナーの少なくとも1つをポリマーに固定し、その後、特異的結合物質の存在下で、反応性官能基が導入された他の結合パートナーと結合させてもよい。より具体的には、例えば、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとは、それぞれ、非特許文献2に記載の方法に準じて製造することができる。

【0108】
中でも、標的分子に対するリガンドモノマーと標的分子との複合体を形成させた後に、モノマーと重合させてゲルを合成し、さらに鋳型分子を取り除いて結合サイトを形成させる方法を好適に用いることができる。

【0109】
前記特異的結合物質が除去された複数物質応答性ゲルは、上記方法により得られた中間体から、第1の特異的結合物質および第2の特異的結合物質を除去することにより製造することができる。

【0110】
したがって、前記(I-2)の複数物質応答性ゲルの製造方法は、さらに、第1の特異的結合物質および第2の特異的結合物質を除去する工程を含んでいてもよい。

【0111】
前記中間体から、第1の特異的結合物質および第2の特異的結合物質を除去する方法は特に限定されるものではなく、前記複合体における特異的結合物質とその結合パートナーとの可逆的な結合を分解することにより、特異的結合物質を除去できる方法であればどのような方法であってもよい。除去の方法としては複合体を解離することができる条件を挙げることができ、例えば複合体が解離するpHを有する溶媒、複合体が解離するイオン強度の高い溶媒等を用いて前記中間体を洗浄する方法、複合体が解離する温度で適当な溶媒を用いて前記中間体を洗浄する方法、電気泳動によって前記中間体から鋳型分子を取り除く方法などを挙げることができる。

【0112】
〔その他の工程〕
さらに、本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、少なくとも前記第1の特異的結合物質およびその結合パートナー、あるいは、当該結合パートナーのみ、ならびに、前記第2の特異的結合物質およびその結合パートナー、あるいは、当該結合パートナーのみにそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程を含んでいてもよい。

【0113】
前記反応性官能基導入工程では、特異的結合物質と、当該特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとにそれぞれ反応性官能基を導入する。ここで用いる反応性官能基としては、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と化学的に結合可能な基であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を挙げることができる。

【0114】
前記反応性官能基を導入する方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、ビニル基を導入する場合の一例として、末端がアミノ化された特異的結合物質または末端がアミノ化された結合パートナーをN-スクシンイミジルアクリレートと反応させる方法を挙げることができる。

【0115】
本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法としては、上述したような方法を好適に用いることができる。したがって、本発明に係る複数物質応答性ゲルには、前記製造方法により得られる複数物質応答性ゲルも含まれる。

【0116】
(III)複数物質応答性ゲルの利用
(III-1)複数物質応答性ゲルを用いた検出方法
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、複数種類の前記複合体、または複数種類の前記複合体から検出対象である特異的結合物質を除去することにより検出対象を認識するように配置された結合パートナーが、高分子ゲルに固定されている。そして、複数種類の前記検出対象物質のうち、一部の種類が存在するときには、複数物質応答性ゲルはわずかに体積が変化する。そして、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類が存在する場合にはじめて、大きく体積が変化する。

【0117】
それゆえ、本発明に係る複数物質応答性ゲルは、前記検出対象物質のうち、一部の種類を検出することができる。さらに、複数種類の前記検出対象物質のうちすべての種類を同時に検出するために利用することができる。したがって、本発明に係る複数物質応答性ゲルを用いた検出対象物質の検出方法も本発明に含まれる。なお、本明細書において、検出対象物質とは、本発明の複数物質応答性ゲルが応答して体積変化を起こす物質をいう。

【0118】
本発明に係る検出対象物質の検出方法は、本発明に係る複数物質応答性ゲルと試料とを接触させる工程と、検出対象物質の有無を前記複数物質応答性ゲルの体積変化により検出する工程とを含んでいればよい。

【0119】
前記試料に含まれる検出対象物質は、前記複合体を形成している特異的結合物質または結合パートナーとより安定な複合体を形成する化学物質、または競争的に複合体を形成する化学物質であり、特異的結合物質が除去された実施形態では除去された特異的結合物質である。より具体的には、前記検出対象物質としては、特異的結合物質、結合パートナーと同じ化学物質または、核酸の場合は完全相補に限らずハイブリダイズ可能な核酸であり、抗原の場合にはそれと結合する抗体である。好ましい実施形態においては、前記検出対象物質は、例えば、上述した生体分子である。

【0120】
前記試料としては、例えば、尿、血液、血清、血漿、唾液、関節液、腹水、胸水、髄液、痰、涙液等を挙げることができる。

【0121】
また、検出対象物質の有無を複数物質応答性ゲルの体積変化により検出する方法としては、従来公知の刺激応答性ゲルの体積変化を検出する方法を用いればよく、特に限定されるものではない。かかる方法としては、例えば、体積変化を顕微鏡で観察する方法、天秤でゲルの重量変化を測定する方法、複数物質応答性ゲル内にシリカ粒子等の微粒子を配列しこれによって生じた構造色の波長や強度の変化を測定する方法、複数物質応答性ゲル内に色材を分散し光の透過率を測定する方法、複数物質応答性ゲル内に蛍光発色団を有する分子等を導入し蛍光強度を測定する方法等を挙げることができる。

【0122】
また、検出対象物質の有無は、体積変化を検出する前記方法の他、複数物質応答性ゲルの重量変化を検知する方法によっても検出することができる。さらに、網目構造内に固定する複合体を形成する特異的結合物質および結合パートナーの少なくともいずれかをあらかじめ蛍光物質等で標識化し分光器等で検知する方法によっても検出することができる。かかる方法としては、例えば、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用する方法を挙げることができる。

【0123】
(III-2)検出キット
複数物質応答性ゲルの利用に関する本発明には、上述した検出対象物質の検出方法だけでなく、該検出方法を実施するための検出キットが含まれる。本発明の検出キットは、具体的には、少なくとも本発明の複数物質応答性ゲルを含む構成であればよい。

【0124】
また、前記検出キットには、さらに、コントロールとなる比較用の標本(検出対象物質等)類や、各種バッファー等が含まれていてもよい。

【0125】
前記検出キットを用いることで、本発明に係る検出対象物質の検出方法を容易かつ簡素に実施することができ、本発明を臨床検査産業や医薬品産業等の産業レベルで利用することが可能となる。

【0126】
また、本発明を用いれば、検出対象物質を高感度でかつ簡便に検出または同定することができる。そのため、本発明は、各種疾患の治療、予防又は診断、あるいは科学技術研究における分析等に応用することも可能である。

【0127】
(III-3)検出装置
本発明に係る複数物質応答性ゲルを、高分子ゲルの膨潤に伴う体積変化を検知可能なセンサーに固定化した場合、このセンサーを利用して、簡便かつ確実に検出対象物質を検出することができる検出装置を製造することができる。

【0128】
前記検出装置としては、より具体的には、例えば、本発明に係る複数物質応答性ゲルを、微細なセンサーチップ表面に固定化した検出装置であって、前記センサーチップが複数物質応答性ゲルの膨潤率増加による体積の増加を測定して表示する測定装置と連結されているものを挙げることができる。かかる検出装置を用いることにより、試料を検出用チップの表面に接触させるだけで、検出対象物質の有無を特異的に検出することが可能となる。

【0129】
前記センサーチップが連結されている測定装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の装置を好適に用いることができる。かかる装置としては、例えば、膜厚測定装置を挙げることができる。この場合には、試料中の検出対象物質に応答した複数物質応答性ゲルの体積変化を膜厚変化として検知することにより、検出対象物質を検出することができる。

【0130】
また、前記測定装置は重量計であってもよい。この場合、検出対象物質を含有する試料を検出用チップの表面に接触させると、複数物質応答性ゲル内に検出対象物質が取り込まれるために複数物質応答性ゲルの重量が増加する一方で複数物質応答性ゲルは膨潤率が変化する。そして複数物質応答性ゲルの膨潤率の変化による体積変化は、取り込んだ検出対象物質の量および検出対象物質の取り込みに伴う複数物質応答性ゲルの重量に依存する。したがって、検出対象物質の取り込みによる複数物質応答性ゲルの重量変化を測定することにより、検出対象物質を検出することができる。

【0131】
また、上述したシリカ粒子等の微粒子、色材、蛍光発色団を有する分子等で標識化した複数物質応答性ゲルを用いる場合は、前記測定装置としては、分光器等を挙げることができる。

【0132】
なお、前記センサーチップは、上述した体積変化を測定して表示する測定装置に限定されるものではなく、検出対象物質による交換または検出対象物質の結合を検知できるものであれば、体積変化以外の他の量を測定する装置と連結されていてもよい。かかる装置としては、蛍光共鳴エネルギー移動を測定するための分光器等であってもよい。かかる場合、複数物質応答性ゲルとしては、蛍光共鳴エネルギー移動を利用するためのドナーやアクセプター等で標識化した複数物質応答性ゲルを用いればよい。

【0133】
すなわち、本願には以下の発明が含まれる。

【0134】
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が、高分子ゲルに固定されているとともに、当該複数種類の複合体は、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されていることを特徴としている。

【0135】
前記の構成によれば、複数の検出対象物質を同時に同一の測定により検出することができるという効果を奏する。

【0136】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記複合体は、特異的結合物質と、結合パートナーとが、それぞれ、高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されていてもよい。

【0137】
前記の構成によれば、複数の検出対象物質を同時に、体積の増加を検出することにより検出することができるという効果を奏する。

【0138】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記複合体は、特異的結合物質と結合する複数の結合パートナーが高分子ゲルに結合することによって、架橋を形成するように、高分子ゲルに固定されており、特異的結合物質は高分子ゲルに結合していないものであってもよい。かかる複数物質応答性ゲルでは、前記特異的結合物質が除去されていてもよい。

【0139】
前記の構成によれば、複数の検出対象物質を同時に、体積の減少を検出することにより検出することができるという効果を奏する。

【0140】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記高分子ゲルは、相互に架橋しない複数の架橋ポリマーからなる相互侵入網目ポリマーであり、前記複数の架橋ポリマーのそれぞれに、異なる種類の前記複合体が固定されていてもよい。

【0141】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記高分子ゲルは、単一の架橋ポリマーであって、当該単一の架橋ポリマーに、複数種類の前記複合体が固定されていてもよい。

【0142】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記特異的結合物質および結合パートナーの少なくともいずれかは、生体分子であることがより好ましい。

【0143】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記特異的結合物質および結合パートナーの少なくともいずれかは、タンパク質、核酸、糖質、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、オリゴペプチド、ポリペプチド、ホルモンまたは金属イオンであることがより好ましい。

【0144】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、前記複数の結合パートナーは、包接化合物を形成する複数のホスト分子であってもよい。

【0145】
本発明に係る複数物質応答性ゲルでは、上記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であってもよい。

【0146】
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、複数の検出対象物質と接触させたときに、体積が変化する。

【0147】
本発明に係る検出方法は、前記複数物質応答性ゲルと試料とを接触させる工程と、検出対象物質の有無を前記複数物質応答性ゲルの体積変化により検出する工程とを含むことを特徴としている。

【0148】
本発明に係る検出キットは、前記複数物質応答性ゲルを含有するものである。

【0149】
本発明に係る検出装置は、前記複数物質応答性ゲルを含有するものである。

【0150】
本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、複数種類の特異的結合物質と、当該複数種類の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる複数種類の複合体が、高分子ゲルに固定されている複数物質応答性ゲルの製造方法であって、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造する第1工程と、第1工程で得られた、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造する第2工程とを含み、前記第1工程は、下記(a)または(b):(a)第1の特異的結合物質と、当該第1の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第1の複合体を、第1の架橋ポリマーを形成するモノマーと共重合させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造する1次重合工程、(b)第1の特異的結合物質と、当該第1の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第1の複合体を、ポリマーと結合させる複合体結合工程と、複合体結合工程で得られた、第1の複合体が結合されたポリマーを、架橋剤と反応させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーを製造する1次架橋工程であり、前記第2工程は、下記(c)または(d):(c)第2の特異的結合物質と、当該第2の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第2の複合体を、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの存在下で、第2の架橋ポリマーを形成するモノマーと共重合させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造する工程、(d)第2の特異的結合物質と、当該第2の特異的結合物質と特異的かつ可逆的に結合する結合パートナーとが結合してなる第2の複合体を、ポリマーと結合させる複合体結合工程と、複合体結合工程で得られた、第2の複合体が結合されたポリマーを、前記第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーの存在下で、架橋剤と反応させて、第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーと、第2の複合体が固定された第2の架橋ポリマーとからなる相互侵入網目ポリマーを製造する工程であり、前記第1の特異的結合物質と第2の特異的結合物質とは異なる物質であることを特徴としている。

【0151】
前記の構成によれば、複数の検出対象物質を同時に同一の測定により検出することが可能な複数物質応答性ゲルを製造することができる。

【0152】
本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、さらに、反応性官能基が導入された前記第1の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて第1の複合体を作製する複合体形成工程と、反応性官能基が導入された前記第2の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて第2の複合体を作製する複合体形成工程とを含んでいてもよい。

【0153】
本発明に係る複数物質応答性ゲルの製造方法は、前記第1の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて第1の複合体を作製する複合体形成工程と、前記第2の特異的結合物質と、反応性官能基が導入されたその結合パートナーとを結合させて第2の複合体を作製する複合体形成工程とを含んでいてもよい。かかる複数物質応答性ゲルの製造方法は、さらに、第1の特異的結合物質および第2の特異的結合物質を除去する工程を含んでいてもよい。
【実施例】
【0154】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0155】
〔実施例1:複数物質応答性ゲルの製造〕
2種類の特異的結合物質として、抗原タンパク質である腫瘍マーカーのα‐フェトプロテイン(AFP)および免疫グロブリン(IgG)を用い、複数物質応答性ゲルを合成した。
【実施例】
【0156】
<1-1:ビニル基導入rabbit IgGおよびビニル基導入anti-rabbit IgGの合成>
図1に示すように、リン酸緩衝液(PBS)(pH7.4)中で、rabbit IgGおよびその抗体であるanti-rabbit IgGを、それぞれ、N-アクリロキシスクシンイミド(N-succinimidyl acrylate(NSA))と反応させることにより、ビニル基導入rabbit IgGおよびビニル基導入anti-rabbit IgGを合成した。
【実施例】
【0157】
具体的には、5mlの20mMリン酸緩衝液(pH:7.4)に125mg(0.5μmol)のRabbit IgGを溶かし、N-アクリロキシスクシンイミド5mg(2mg NSA/ml DMSO(ジメチルスルホキシド))(30μmol)を加えて、36℃で1時間穏やかに反応させた。
【実施例】
【0158】
その後、ゲルろ過により生成物であるビニル基導入抗原を単離した。カラムはセファデックスをガラス管に充填して作製し、ゲルろ過により得られる溶液の吸光度を紫外・可視吸光光度計(UV-2500PC、(株)島津製作所社製)で経時的に測定することにより、高分子物質であるビニル基導入抗原と低分子物質である未反応のNSAの分離を行った。ゲルろ過の条件は、抗原とNSAの特性吸収波長がそれぞれ280nmと260nmであることから、波長270nmで測定を行った。
【実施例】
【0159】
次に、ビニル基導入抗原がネイティブな抗原と同じ280nmに特性吸収波長を持つことから、ネイティブな抗原を用いて作成した検量線によって求めた下記式からビニル基導入抗原の濃度を求めた。
C (mg/L) = 974.89×Abs
同様の方法により、ビニル基導入anti-rabbit IgGを合成した。2mlのPBSに30mgのanti-rabbit IgGを溶かし、NSA0.19mg(1mg NSA/ml DMSO)を加えて、36℃で1時間穏やかに反応させた。
【実施例】
【0160】
その後、ゲルろ過により生成物であるビニル基導入抗体を単離した。作成した検量線によって求めた下記式からビニル基導入抗体の濃度を求めた。
C (mg/L) = 626.3×Abs
<1-2:ビニル基導入AFPおよびビニル基導入anti-AFPの合成>
図2に示すように、リン酸緩衝液(PBS)(pH7.4)中でAFPおよびその抗体であるanti-AFPを、それぞれ、N-アクリロキシスクシンイミド(N-succinimidyl acrylate(NSA))と反応させることにより、ビニル基導入AFPおよびビニル基導入anti-AFPを合成した。
【実施例】
【0161】
具体的には、前記1-1と同様にして、1mlのPBSに2mgのAFPを溶かし、NSA19.89μg(1mg NSA/ml DMSO;20μl)を加えて36℃で1時間穏やかに反応させた。AFP:NSAはモル比で1:4であった。
【実施例】
【0162】
その後、ゲルろ過により生成物であるビニル基導入抗体を単離した。作成した検量線によって下記式からビニル基導入AFPの濃度を求めた。
C (mg/L) =111.83×Abs
また、同様に、1.5mlのanti-AFP(フナコシ(株))にNSA7.46μg(1mg NSA/ml DMSO)を加えて36℃で1時間穏やかに反応させた。AFP:NSAはモル比で1:2であった。なお、anti-AFPの初期濃度が不明なため、紫外・可視吸光光度計(UV-2550 (株)島津製作所社製)を用いて吸光度を測定し、anti-AFPの分量を求めてから使用した。
【実施例】
【0163】
その後、ゲルろ過により生成物であるビニル基導入抗体を単離し、以下に示した式からビニル基導入anti-AFPの濃度を求めた。
C (mg/L) =626.6×Abs
ビニル基を導入した抗原および抗体は、ゲル合成に用いるとき、濃度が薄い場合のみ凍結乾燥機(EYELAFDU-120東京理科器機(株))により濃縮(溶液状態は維持)して用いた。
【実施例】
【0164】
<1-3:AFP抗原抗体架橋PAAmゲル(第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマー)の調製>
図3に示すように、前記1-2で合成したビニル基導入AFPとビニル基導入anti-AFPを用いて、第1の複合体であるAFP抗原抗体複合体を形成させた後、主鎖を形成するモノマー、架橋剤、およびレドックス開始剤を加えて共重合させることによって第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマーとなるAFP抗原抗体架橋ゲルを合成した。
【実施例】
【0165】
具体的には、前記1-2で調製したビニル基導入AFP0.015mgを含むビニル基導入AFPのPBS溶液0.2mlとビニル基導入anti-AFP0.0075mgを含むビニル基導入anti-AFPのPBS溶液0.2mlを混合し、あらかじめAFP抗原抗体複合体を形成させた。この溶液に、アクリルアミド(AAm)90mg(18wt%対(AAm+ビニル基導入抗原溶液+ビニル基導入抗体溶液;計500mg))、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)の5mg/mlPBS溶液0.018ml(0.1wt%対AAm)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレジアミン(TEMED)の0.8MPBS溶液(0.8モルPBS溶液)0.01ml、および過硫酸アンモニウム(APS)の0.1MPBS溶液0.01mlを加え、内径1.5mmのガラス管内に重合溶液を注入し、5℃で6時間共重合させた。その後、ガラス管から得られたゲルを取り出し、PBS中で十分に洗浄して未反応物を取り除き平衡膨潤に達するまで浸漬させた。また、同様にして抗原抗体複合体を用いずに、ポリアクリルアミドゲルも合成した。ゲルの洗浄確認は、顕微鏡を用いて円柱形であるゲルの直径を測定し、24時間後再度ゲルの直径を測定したときに変化がない場合を洗浄終了時とした。さらに、紫外・可視吸光光度計(UV-2550(株)島津製作所社製)によって洗浄液を測定することにより確認した。
【実施例】
【0166】
<1-4:AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの調製>
さらに、得られたAFP抗原抗体架橋PAAmゲルを、図4に示すように、ビニル基を導入したIgG抗原抗体複合体、AAm、MBAAおよび光重合開始剤V-50(和光純薬製)の混合溶液に浸漬させた後、UV光を照射することによって、第2の複合体であるIgG抗原抗体複合体が固定された第2の架橋ポリマーを形成させ、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを製造した。
【実施例】
【0167】
具体的には、前記1-1で調製したビニル基導入rabbit IgG4mgを含むビニル基導入rabbit IgGのPBS溶液0.2mlと、ビニル基導入anti-rabbit IgG2mgを含むビニル基導入anti-rabbit IgGのPBS溶液0.2mlを混合し、あらかじめ抗原抗体結合を形成させた。この溶液に、さらに、AAm90mg(最終的な濃度:18wt%対(AAm+ビニル基導入抗原溶液+ビニル基導入抗体溶液+PBS水溶液)を加え、PBS水溶液で全量が500mgとなるように調整した後、MBAAの5mg/mlPBS溶液0.018ml(0.1wt%対AAm)、および図4に示す構造を有する光重合開始剤V-50の150mg/mlPBS溶液を30μl(V-50:4.5mg (5wt%対AAm))を溶解した溶液に、前記1-3で調製したAFP抗原抗体架橋PAAmゲルを24時間浸漬した。このようにして、AFP抗原抗体架橋PAAmゲルに十分にモノマーなどを取り込ませた後、このゲルに、UV光(365nm)を、ハンディーUVランプSLUV-6(AS ONE(株)製))を用いて10分間照射することによって、第2の複合体を固定した第2の架橋ポリマーを形成させ、IPN構造を有する複数物質応答性ゲルであるAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを合成した。
【実施例】
【0168】
〔比較例1:PAAm IPNゲルの製造〕
ビニル基導入抗原およびビニル基導入抗体を用いない以外は、前記実施例1の1-3、1-4と同様の条件で、PAAm IPNゲルを調製した。
【実施例】
【0169】
すなわち、PBS1mlに、アクリルアミド(AAm)90mg(18wt%対(AAm+PBS))、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)の5mg/mlPBS溶液0.018ml(0.1wt%対AAm)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレジアミン(TEMED)の0.8MPBS溶液0.01ml、および過硫酸アンモニウム(APS)の0.1MPBS溶液0.01mlを加え、ガラス管内に重合溶液を注入し、共重合させて第1の架橋ポリマーのゲルを合成した。
【実施例】
【0170】
さらに、AAm90mg(18wt%対(AAm+ビニル基導入抗原溶液+ビニル基導入抗体溶液)、MBAAの5mg/mlPBS溶液0.018ml(0.1wt%対AAm)、およびV-50の150mg/mlPBS溶液を30μl(V-50:4.5mg (5wt%対AAm))を溶解した溶液に、前記第1の架橋ポリマーのゲルを浸漬させた後、UV光を照射することによって2次ネットワークを形成させ、IPNゲルを製造した。
【実施例】
【0171】
〔参考例1:AFP抗原抗体架橋ゲルの製造〕
AFPとその抗体との複合体が固定されたAFP抗原抗体架橋ゲルを合成した。実施例1の1-3により得られたAFP抗原抗体架橋PAAmゲル(第1の複合体が固定された第1の架橋ポリマー)を、そのままAFP抗原抗体架橋ゲルとして用いた。
【実施例】
【0172】
〔参考例2:IgG抗原抗体架橋ゲルの製造〕
rabbit IgGとその抗体との複合体が固定されたrabbit IgG抗原抗体架橋ゲルを合成した。ビニル基導入AFP0.015mgを含むビニル基導入AFPのPBS溶液0.2mlとビニル基導入anti-AFP0.0075mgを含むビニル基導入anti-AFPのPBS溶液0.2mlのかわりに、前記1-1で調製したビニル基導入rabbit IgG4mgを含むビニル基導入rabbit IgGのPBS溶液0.5mlと、ビニル基導入anti-rabbit IgG2mgを含むビニル基導入anti-rabbit IgGのPBS溶液0.5mlを用いた以外は、実施例1の1-3と同様にして、IgG抗原抗体架橋ゲルを製造した。
【実施例】
【0173】
〔実施例2:複数物質応答性ゲルの膨潤率測定〕
実施例1で製造したAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルをPBS中で平衡膨潤させた後、標的抗原水溶液に浸漬させた際の膨潤率測定を行い、ゲルの応答挙動について検討した。
【実施例】
【0174】
実施例1で製造した洗浄後のAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを、PBS中で平衡膨潤させた。平衡膨潤させた後のAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルを3~4mm程度の長さに切断し、25℃で、AFPをPBSに溶解させたAFP水溶液(200μg/ml)、IgGをPBSに溶解させたIgG溶液(2mg/ml)、AFPとIgGとをPBSに溶解させたAFP/IgG混合溶液(AFP:200μg/ml、IgG:2mg/ml)に、それぞれ浸漬した。円柱状であるAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの直径変化を、光学顕微鏡を用いて測定し、下記式から膨潤率を求めた。測定は倒立型研究用顕微鏡IX70(OLYMPUS(株)社製)を用い、付属のデジタルカメラ(DP70、OLYMPUS(株)社製)で撮影し、パソコン上でゲルの直径を測定して平均値をとった。
膨潤率(Swelling ratio)=(d/d … (1)
ここで、dは、標的抗原溶液中に浸漬後の任意の時間におけるAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの円柱の直径であり、dはPBS中での平衡膨潤時(t=0)におけるAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの円柱の直径を表している。
【実施例】
【0175】
また、対照として、比較例1で製造したポリアクリルアミド(PAAm)ゲルを用いて同様の測定を行った。
【実施例】
【0176】
図6に結果を示す。図6において、縦軸は膨潤率(単位:m/m)、横軸は、時間(単位:時間)を示す。図6中、○はAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルをAFP/IgG混合溶液に浸漬したときの膨潤率変化を、●はAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルをIgG溶液に浸漬したときの膨潤率変化を、△はAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルをAFP溶液に浸漬したときの膨潤率変化を、黒の三角は対照であるポリアクリルアミド(PAAm)ゲルをAFP/IgG混合溶液に浸漬したときの膨潤率変化を示す。
【実施例】
【0177】
図6に示すように、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルは、標的抗原が1種類しか存在しないAFP溶液やIgG溶液中ではごく僅かしか膨潤率が増加しなかった。しかし、2種類の標的抗原が同時に存在するAFP/IgG混合溶液中ではAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの膨潤率は大きく増加した。かかる結果より、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルは2種類の標的抗原を同時検出した場合にのみ大きく膨潤率が増加する複数生体複数物質応答性ゲルであることが判る。
【実施例】
【0178】
〔参考例3〕
比較例2、3で製造した、AFP抗原抗体架橋ゲルおよびIgG抗原抗体架橋ゲルを、それぞれの標的抗原であるAFPおよびIgGが溶解したPBS中に浸漬させた際の膨潤率測定を行った。
【実施例】
【0179】
また、対照として、比較例1で製造したポリアクリルアミド(PAAm)ゲルを用いて同様の測定を行った。
【実施例】
【0180】
図5に結果を示す。図5(a)、(b)において、縦軸は膨潤率(単位:m/m)、横軸は、時間(単位:時間)を示す。図5中(a)は、AFP抗原抗体架橋ゲルを、その標的抗原であるAFPが溶解したPBS中に浸漬させた際の膨潤率変化を示す。○はAFP抗原抗体架橋ゲルを、●は対照であるポリアクリルアミド(PAAm)ゲルの膨潤率を示す。また、図5中(b)は、IgG抗原抗体架橋ゲルを、その標的抗原であるIgGが溶解したPBS中に浸漬させた際の膨潤率変化を示す。○はIgG抗原抗体架橋ゲルを、●は対照であるポリアクリルアミド(PAAm)ゲルの膨潤率を示す。
【実施例】
【0181】
図5に示すように、いずれのゲルも、それぞれ、標的抗原であるAFPおよびIgG存在下で次第に膨潤率が増加し、明確な抗原応答性を示すことがわかった。このような抗原応答性膨潤挙動は、標的生体分子の存在によって架橋点として作用していた抗原抗体複合体が解離し、架橋密度が減少するためと考えられる。
【実施例】
【0182】
〔実施例3:複数物質応答性ゲルの架橋密度測定〕
次に、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの2種類抗原応答挙動を検討するため、当該ゲルのPBS中およびAFP/IgG溶液中での圧縮弾性率を測定し、有効架橋密度を算出した。
【実施例】
【0183】
具体的には、洗浄後、PBS中で平衡膨潤させたAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの直径および高さを、光学顕微鏡(NRM-2XZ型、カートン(株)社製)を用いて測定した。また、圧縮弾性率装置(SMT1-10N、(株)島津製作所社製)を用いてAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルのPBS中およびAFP/IgG溶液中での圧縮弾性率を測定し、次式によって有効架橋密度νを算出した。
G=R・T・ν・v1/3
ここでGは圧縮弾性率(単位:Pa)、Rは気体定数、Tは絶対温度(単位:K)、νは有効架橋密度(mol/m)、vは膨潤ゲル全体(高分子化合物+溶媒)に対する高分子化合物の体積分率である。なお、高分子化合物の体積分率は、膨潤ゲルを50℃の乾燥機内で十分に乾燥させ、その乾燥前の重量(W)と乾燥後の重量(W)を求め、W/W=V/Vと近似した。
【実施例】
【0184】
なお、圧縮弾性率の測定条件を以下に示す。
モード:荷重速度 10mm/min
治具:圧縮
波形:正弦波
リミット:荷重/応力 下限0.000 上限0.020N、変位 下限0.001 上限50.000mm
また、対照として、参考例1で製造したAFP抗原抗体架橋ゲルのPBS中での圧縮弾性率を測定し、有効架橋密度を算出した。
【実施例】
【0185】
表1に結果を示す。標的抗原が存在しないPBS中では、1次ネットワークのAFP抗原抗体架橋ゲルに比較してAFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルの有効架橋密度の方が大きな値を示した。この結果は、1次ネットワークのAFP抗原抗体架橋ネットワークに2次ネットワークのIgG抗原抗体架橋ネットワークを相互侵入させることによって有効架橋密度が増加したことを示している。さらに、AFP-IgG抗原抗体架橋IPNゲルをAFP/IgG混合水溶液に浸漬すると、その架橋密度が大きく減少することが明らかとなった。
【実施例】
【0186】
【表1】
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【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明に係る複数物質応答性ゲルは、例えば、複数の疾病マーカーを同時に検出でき、より精度よく診断できるだけでなく、複合的な要因によって引き起こされる疾病の発見を可能にする新材料としての応用が期待できる。
【0188】
それゆえ、本発明は、医薬品製造業、工業薬品製造業等の各種化学工業、さらには医療産業等に利用可能であり、しかも非常に有用であると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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