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明細書 :クリキュラ繭色素及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5565780号 (P5565780)
公開番号 特開2013-028812 (P2013-028812A)
登録日 平成26年6月27日(2014.6.27)
発行日 平成26年8月6日(2014.8.6)
公開日 平成25年2月7日(2013.2.7)
発明の名称または考案の名称 クリキュラ繭色素及びその用途
国際特許分類 C09B  61/00        (2006.01)
C09B  23/00        (2006.01)
C09K   3/00        (2006.01)
C09K  15/08        (2006.01)
C09K  15/34        (2006.01)
FI C09B 61/00 Z
C09B 23/00 C
C09K 3/00 104Z
C09K 15/08
C09K 15/34
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2012-215758 (P2012-215758)
分割の表示 特願2007-046136 (P2007-046136)の分割、【原出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
出願日 平成24年9月28日(2012.9.28)
審査請求日 平成24年10月10日(2012.10.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
発明者または考案者 【氏名】長島孝行
個別代理人の代理人 【識別番号】100122574、【弁理士】、【氏名又は名称】吉永 貴大
審査官 【審査官】岩井 好子
参考文献・文献 特開2002-080498(JP,A)
特表2003-516720(JP,A)
特開2008-138158(JP,A)
特開2005-255673(JP,A)
特開2000-143992(JP,A)
特開2004-018648(JP,A)
特開平10-140154(JP,A)
The Jounrnal of Biological Chemistry,2002年,Vol.277, No.35,32133-32140
調査した分野 C09B 61/00
C09B 23/00
C09K 3/00
C09K 15/08
C09K 15/34
特許請求の範囲 【請求項1】
クリキュラ繭から100~140℃で熱水抽出された色素であって、ルテイン、ゼアキサンチン及びルテイン異性体が含まれていることを特徴とする黄色色素。
【請求項2】
前記色素がパウダー状である請求項1に記載の黄色色素。
【請求項3】
前記色素におけるルテインの含有量が66%以上である、請求項1又は2に記載の黄色色素。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の黄色色素を有効成分として含有することを特徴とする黄色染料。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の黄色色素を有効成分として含有することを特徴とする着色料。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の黄色色素を有効成分として含有することを特徴とする紫外線カット剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、クリキュラ繭から抽出された黄色色素(以下、「クリキュラ繭色素」と略称することがある)及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インドネシアでは、毎年3月頃から黒紫色の小さな芋虫状のクリキュラ(Criculatrifenestrata)が大量に発生する。このクリキュラは野蚕の一種で、その幼虫が街路樹等の葉を食い荒らすため現地では害虫とされている。しかし、この野蚕が蛾になるときに作り出す繭は、その外観が美しい黄金色を呈するため、わが国でも「黄金の繭」として注目され、近年それを利用する各種の研究が行われてきた。
【0003】
例えば、特開平09-328000号公報(特許文献1)には、クリキュラ繭を使用してシート状に加工して装飾布とするために、繭を平面状に成形して基材シートの表面に接着することが提案されている。
【0004】
特開2005-255673号公報(特許文献2)には、クリキュラ繭を、水単独やエタノール水等中性の水性液体で常温ないし加熱抽出すると、この抽出液に紫外線吸収成分がもっとも多く集まること、0.11MPa~0.4MPaの範囲の中性水溶液で加圧加熱抽出すると、金色を保持した絹に精錬され解繊できること、その抽出液は400nm以下の紫外線吸収能と静菌効果があること等が記載されている。
【0005】
また、特開2006-70404号公報(特許文献3)にはクリキュラ繭独特の形態や独特の色を失うことなく、また、繭の持つガス吸着性、吸放湿性、UVカット、抗菌性等の特性を生かした意匠性と機能性を有する繭片入りシートを製造する方法として、繭を小片のシート状に裁断して繭片とする裁断工程と、繭片とシルクを含む有機繊維を水に分散させてスラリーとするスラリー調製工程と、スラリー調製工程で得られたスラリーを抄紙して繭片を有機繊維に埋設するシートを製造する抄紙工程とからなる方法が提案されている。この方法による黄金色のシートは、愛知万博でパビリオン「中部千年共生村」(本発明者はこのパビリオンの生物力の監修者として携わった)の外壁に使用され、注目を集めたところである。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平09-328000号公報
【特許文献2】特開2005-255673号公報
【特許文献3】特開2006-70404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、クリキュラ繭に含まれる色素それ自体については現在のところ何ら知見がない。
【0008】
本発明は、クリキュラ繭に含まれる色素の有効成分を抽出し、その活用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前項記載の目的を達成すべく鋭意研究の結果、前記載の抽出物に含まれる色素に眼病の一要因である白内障に効果があるとされているルテインが多量に含まれており、このことにより紫外線カット効果があり、加えて抗酸化作用があること、さらにはこの色素が黄色の発色に優れていること、特にこの色素を用いてエリ蚕、サク蚕、天蚕、タサール蚕等の野蚕の繭からとった糸を染めると、染色性、染色後の耐光堅牢度に優れていること等を見出し、また、この色素は抽出条件を選ぶことにより効率よく抽出されることを見出し、このような知見に基いて本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は、クリキュラ繭から抽出されたことを特徴とするルテイン含有黄色色素に係るものである。
また、本発明は、上記黄色色素を有効成分とする黄色染料あるいは着色料に係るものである。
そして、本発明は、上記の黄色色素を有効成分とする紫外線遮蔽剤あるいは抗酸化剤に係るものである。
さらに、本発明は、上記の黄色色素を有効成分とすることを特徴とするルテイン含有栄養補助食品に係るものである。
【0011】
かかる黄色色素は、好適には、クリキュラ繭を、オートクレーブ等の加圧容器に入れ、温度100~140℃、時間は10~80分の条件にて水中で加熱抽出した後、フリーズドライにより乾燥することによって、効率的にルテインを多く含む黄色色素パウダーとして得ることが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるクリキュラ繭色素のパウダーは、染料(染色剤)や着色料となるばかりでなく、優れた紫外線カット性や抗酸化活性を有するため、有害な紫外線を防ぐ紫外線カット剤や抗酸化剤となる。したがって、このクリキュラ繭色素で染色した生地やクリキュラ繭色素を含む化粧料は優れた紫外線カット効果を有する。また、このクリキュラ繭色素パウダーはルテインの含有量が極めて高いため栄養補助食品としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】クリキュラ繭色素の成分を高速液体クロマトグラフィーで計測した解析チャート。
【図2】クリキュラ繭色素パウダー及び家蚕の繭の紫外線カット作用を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。

【0015】
クリキュラ繭はその繊維が紫外線カット作用を有する特殊な構造で、かつその色が黄金色のクリキュラ繭そのものとして利用されている。すなわち、このような特性を有するクリキュラ繭は、そのまま又は平らに拡げて、あるいは破砕して練り込む等により、包装材、工芸品材料、内装材等、単なる布や紙の代わりとして、装飾的な役割を果たすもの全般に使うことができる。このようなものは、装飾的効果を呈する他に紫外線カット作用を有するので、退色し難いものとなる。

【0016】
本発明は、クリキュラ繭をそのまま使用するのではなく、繭から色素を抽出して使用するものである。ここで、クリキュラ繭から色素の抽出製造する方法について説明する。色素の抽出は、蛾が羽化した後の抜け殻の繭や、その前の段階で蛾を取り除いた繭又は蛹を持ったままの繭を水等の抽剤(抽出溶媒)による抽出工程に賦することにより行うことができる。

【0017】
クリキュラ繭色素の水抽出を行う条件としては、原則として色素が繭から抽剤である水中に溶出可能であればいかなる条件も採用し得るが、抽出効率及び品質の観点から、以下のような条件が好ましく採用される。
まず、抽出に使用する水の量は、繭100g当り、通常1~5リットルとするのが適当である。繭に対して水が少な過ぎると抽出が不十分となり、一方、多過ぎると、希薄な抽出液が多量に生じることとなり、抽出液の濃縮に余分な時間とエネルギーを要する結果となる。

【0018】
抽出温度は、抽出温度は、例えば60~200℃、好ましくはオートクレーブ等の加圧容器中で100~140℃とするのが良い。この温度が低過ぎると色素の溶出の進行が極端に遅くなり、一方、高過ぎるとセリシンが溶出し、さらにはセリシンの加水分解が生ずる。また、抽出時間は5~80分、好ましくは5~20分とするのが適当である。この時間が足りないと抽出が充分に行われず、一方、抽出が終了後も抽出操作を継続しても無駄である。一般に、これらの温度範囲と時間の範囲内での組み合わせにおいて、高温の場合は短時間で、そして低温の場合は長時間で色素の抽出が完了する。

【0019】
以上のごとき方法で得られた色素抽出液は、冷却後、必要により濾過し、抽出液のままで染色等に使用することが可能であるが、本発明では、フリーズドライ等の方法により乾燥してパウダー状とすることで、保存性及び取り扱い性が高まるので好ましい。また、このように乾燥してパウダー状としたクリキュラ繭の色素は、これを染料(染色剤)として用いると染色液の濃度の調節が容易となるので、極めて使い勝手のよいものとなる。クリキュラ繭色素のパウダー化は、このように種々のメリットがあるが、従来、クリキュラ繭色素のパウダーは全く知られておらず、本発明により初めて実現したものである。

【0020】
本発明者の研究により、以上のようにして抽出製造されたクリキュラ繭色素パウダーの成分には、既に説明したように多量のルテインが含まれていることがわかった。この有効成分により紫外線カット作用及び抗酸化作用がある。また、栄養補助食品としても利用可能である。

【0021】
次に、このようにして抽出製造されたクリキュラ繭色素の用途について説明する。
クリキュラ繭色素は、色素として染色剤として使用することのできることはもちろんで、クリキュラ繭色素で染めた、他の野蚕の繭からとった糸又はそれを織った生地の色は、クリキュラ繭からとった糸又はそれを織った生地の黄色に較べて鮮やかで黄金色を呈し、黄色としては優れた発色を与え、草木染めと同程度の耐光堅牢度のものとなる(後記実施例3参照)。これは、クリキュラ繭の糸は繊維が短く固いので撚り糸とする際に必要以上に蒸すため、表面のセリシン層の色素が落ち、また表面構造が壊れてしまうために色落ちするためである。ところが、クリキュラ繭色素を取り出しこれを用いて前記の方法によって染色すると、他の繭とくに野蚕類の繭からの糸で織った生地においてクリキュラ繭の黄金色が美しく再現される。その他、クリキュラ繭色素は、化粧品や食品等の着色料として使用することができる。

【0022】
クリキュラ繭に多量に含まれている有効成分であるルテインは、目の角膜等に含まれるカロチノイド系色素の一種で、眼病の一要因である白内障に効果があるとされており、例えば、これを栄養補助食品として施用することができる。因みに他のルテインの抽出物ではマリーゴールドやアボガド、ホウレン草等があり、例えば今回抽出したクリキュラ繭色素同量のホウレン草と比較すると60倍~130倍のルテインが含まれていることがわかった(後記実施例参照)。動物の分泌物よりこのような有効成分が抽出された例はこれまで報告されていないが、クリキュラの場合、摂取した有効成分が体内で濃縮されることにより、繭に多量のルテインが含まれていると考えられ、本発明は新規ルテイン抽出方法と言うこともできる。

【0023】
例えば、紫外線カット化粧料の原料や紫外線カット衣料、紫外線カットパラソル等の紫外線カット剤として利用することができる。因みに、家蚕の絹地そのものとこれをクリキュラ繭色素で染色した絹地を比較すると後者の方がより広い範囲の波長の紫外線をカットする(後記実施例3参照)。なお、クリキュラ繭色素はアレルギー等の副作用が生ぜず、これは化学染色剤にはみられない特長である。

【0024】
クリキュラ繭色素は、食品の着色料として使用することのできることはもちろんのこと、先に説明したように、抗酸化作用を有するので、抗酸化剤としての食品原料として使用することができる(後記実施例4参照)。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、例中で単に%とあるのは特に断らない限り重量%を意味する。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
(クリキュラ繭色素パウダーの製造)
蛹を除去したクリキュラ繭100gと水3リットルとをオートクレーブ中に入れ、120℃で10分間加熱処理をして色素抽出液を得た。これを室温まで冷却し、濾過後得られた濾液をフリーズドライして黄色色素パウダーを1~2g得た。
【実施例】
【0027】
(クリキュラ繭色素パウダー含有成分の解析)
実施例1におけると同様にして製造したクリキュラ色素パウダーを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で計測した。なお、この高速液体クロマトグラフィーの計測条件は以下のとおりである。
機種:LC-10AS(株式会社 島津製作所)
検出器:紫外可視吸光光度計 SPD-10AV(株式会社島津製作所)
カラム:Shimadu CLC-SIL(M), φ4.6mm×150mm
移動相:ヘキサン及びアセトンの濁液(81:19)
流速:1.1ml/min
波長:450nm
温度:30℃
【実施例】
【0028】
その結果を後掲の図1に示す。図1の7.817のピークがルテインであり、8.245のピークがゼアキサンチン、9.797、10.1440及び10.814のピークがその他ルテインの異性体である。この図1から理解されるように、本発明のクリキュラ色素パウダーには、ルテインが66.9%、ゼアキサンチンが4.2%、その他ルテインの異性体が19.8%含まれていることが判った。
【実施例】
【0029】
[実施例2]
本実施例ではクリキュラ繭色素の紫外線カット作用を検討するため、実施例1におけると同様にして製造したクリキュラ繭色素パウダーを使用して家蚕の絹地(日本規格協会、絹14目付)を常法により染色した。このようにして染色した絹生地と未染色の絹生地の紫外線カット作用を、積分球の分析装置を搭載した分光光度計「日立U-4000」を使用し220~800nmまでの吸収スペクトルを測定した。
【実施例】
【0030】
その結果を後掲の図2に示す。図2中、曲線Aは、クリキュラ繭色素で染色した家蚕の絹生地の紫外線吸収曲線、そして曲線Bは未染色の家蚕の絹地の紫外線吸収曲線を示す。
この図2から理解されるように、家蚕の絹地そのものは、クリキュラ繭色素で染色した生地に比較して、紫外線の原因になるといわれるUVB(波長280~315nm)も日焼けや皮膚老化の原因になるといわれるUVA(波長315~400nm)もそれほどカットしない(すなわち、吸収しない)のに対し、クリキュラ繭色素で染色した絹生地は、UVBもUVAも顕著にカットする。
【実施例】
【0031】
[実施例3]
本実施例ではクリキュラ繭色素の耐光堅牢度を検討するため、実施例1におけると同様にして製造したクリキュラ繭色素を使用して家蚕の絹地(日本規格協会、絹14目付)を常法により染色した。
【実施例】
【0032】
このようにして染色した絹生地を紫外線ロングライフフィードメター(スガ試験機株式会社UV Long Life Fade Meter
U48)を用いて20℃湿度60%の条件下で7時間、30時間紫外線照射したものをJIS規格のブルースケールと比較し、Lab値を計測し、色差を求め等級を決めた。
【実施例】
【0033】
紫外線照射による色差をHunterの色差式から求めた。Hunterの色差式とは、紫外線照射前のLab値をL1,a1,b1とし、紫外線照射後の値をL2,a2,b2として色差(ΔE)を求める方法で、以下の数式より求めた。
【数1】
JP0005565780B2_000002t.gif
【実施例】
【0034】
その結果、堅牢度3級は7時間照射でΔE=9.72、30時間照射でΔE=3.70であるのに対し、クリキュラ繭色素で染色した布は7時間照射でΔE=2.04、30時間照射でΔE=3.34となり堅牢度は3級である。これは、草木染めの染料と同程度の堅牢度である。
【実施例】
【0035】
[実施例4]
本実施例ではクリキュラ繭色素の抗酸化作用を検討するため、実施例1におけると同様の方法で、クリキュラ繭を熱水処理して色素抽出液を得た。この色素抽出液の抗酸化能を電子スピン共鳴(ESR)法で測定した。その結果、この測定法による検出下限30Unit/gのところ、クリキュラ繭の色素抽出液では60Unit/gとなり、抗酸化性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のクリキュラ繭色素は、染料(染色剤)や着色料として使用する他にこれを配合することによりルテイン含有栄養補助食品、紫外線カット作用や抗酸化力のある化粧品、また紫外線カット衣料やパラソル等が容易に提供される。すなわち、クリキュラ色素による紫外線カット作用、耐光堅牢度を利用すれば、前述のように、紫外線カット化粧料やファッショナブルな紫外線カットシャツ等の衣料やパラソルを提供することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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