TOP > 国内特許検索 > 半導体結晶、その製造方法、及び多層膜構造体 > 明細書

明細書 :半導体結晶、その製造方法、及び多層膜構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2014-154765 (P2014-154765A)
公開日 平成26年8月25日(2014.8.25)
発明の名称または考案の名称 半導体結晶、その製造方法、及び多層膜構造体
国際特許分類 H01L  21/20        (2006.01)
FI H01L 21/20
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2013-024605 (P2013-024605)
出願日 平成25年2月12日(2013.2.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り
発明者または考案者 【氏名】黒澤 昌志
【氏名】田岡 紀之
【氏名】坂下 満男
【氏名】中塚 理
【氏名】財満 鎭明
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000578、【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
審査請求 未請求
テーマコード 5F152
Fターム 5F152AA02
5F152AA06
5F152AA14
5F152BB01
5F152BB09
5F152CC02
5F152CC04
5F152CC06
5F152CC08
5F152CD13
5F152CD14
5F152CE02
5F152CE05
5F152CE06
5F152CE12
5F152CE16
5F152CE24
5F152CF12
5F152CF13
5F152CF14
5F152CF16
5F152CF18
5F152CF22
5F152CF23
5F152EE13
5F152EE16
5F152FF22
5F152FF29
要約 【課題】ガラスやプラスチック等の絶縁膜上においても高品質なIV族半導体結晶を形成することが可能となる半導体結晶、その製造方法、及び多層膜構造体を提供する。
【解決手段】支持基板1と、前記支持基板の一表面側に形成された非晶質半導体膜2と、前記非晶質半導体膜の支持基板と接していない側の面を被膜する拡散促進膜3と、前記拡散促進膜上の全面あるいは一部分に成膜された共晶金属としての錫4とを備えたことを特徴とする積層構造10を作成し、前記積層構造に熱処理を施すことで、錫4から非晶質半導体膜2の結晶成長を誘起し、1~20%の錫濃度を有する半導体結晶20を形成する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
絶縁膜としての支持基板の上方にIV族元素から選択される1以上の元素からなる非晶質半導体膜を形成する工程と、
前記非晶質半導体膜の上方に拡散促進膜を形成する工程と、
前記拡散促進膜の上方に、錫から成る錫層を形成する工程と、
熱処理により、前記非晶質半導体膜を構成する元素、及び錫から成る半導体結晶を形成する工程と、
を備えることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記半導体結晶において、前記非晶質半導体膜を構成する元素に対する錫の比率が1~20%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
IV族元素から選択される1以上の元素、及び錫から成る半導体結晶であって、
前記IV族元素から選択される1以上の元素に対する錫の比率が1~20%の範囲内であることを特徴とする半導体結晶。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体結晶を備えた多層膜構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質半導体と金属との共晶反応を用いた半導体材料の結晶化に際し、好適に用いることのできる「錫/拡散促進膜/IV族系非晶質半導体/支持基板」から構成される積層構造の製造工程、および、前記積層構造の熱処理工程とを備えた半導体結晶の作製に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の高度情報化社会を根幹から支えているシリコンを主成分とする集積回路や太陽電池の性能向上は、集積回路の基本素子であるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)の微細化や素子構造の工夫(3次元化、表面テクスチャ等)により成し遂げられていた。しかしながら、シリコン自身の物理的限界が訪れようとしているため、チャネルの材料をシリコンに比べて本質的に移動度や光吸収効率が高い新材料(ゲルマニウム、ゲルマニウム錫、シリコンゲルマニウム錫等)に置き換えるための研究が世界中で行われている(例えば、非特許文献1)。なかでも、共にシリコンと同じIV族元素であるゲルマニウムと錫の合金であるゲルマニウム錫半導体に注目が集まっている。その理由として、ゲルマニウム錫が電子および正孔移動度の両方においてシリコンよりも高い移動度を有していること、錫の原子数組成比が10%程度以上ではバンド構造が間接遷移型から直接遷移型に変調するため大幅な光吸収効率の増大が見込めることが挙げられる(例えば、非特許文献2)。
【0003】
MOSFETのチャネル材料や太陽電池の光吸収材料をゲルマニウム錫に置き換える場合、いかにして高錫組成のゲルマニウム錫結晶を形成するかが問題となる。非特許文献3に示す技術は、非平衡状態における分子線堆積法を用いることで、平衡固溶限(2.5%)を超える10%以上の錫組成を有するゲルマニウム錫膜の成長を実現している。
【0004】
ここまで述べてきたゲルマニウム錫の特長を最大限活用するためには、非晶質基板(石英、ガラス、プラスチック等)上における成長も重要である。非特許文献4に示す技術は、熱平衡状態における溶融成長法を用いることで、非晶質(二酸化シリコン)膜で被膜されたシリコン基板上において横方向に錫濃度勾配(錫濃度:0~2.5%、錫濃度勾配:0.1~0.4%/μm)を有するゲルマニウム錫膜の成長を実現している。
【0005】
また,非晶質基板上における低温結晶成長技術の一例として、特開2003?203864号公報(特許文献1)に開示されている金属誘起固相成長法が挙げられる。金属誘起固相成長法は、半導体の結晶化を誘起する触媒金属(ニッケル等)をシリコンやゲルマニウムで主に構成される非晶質膜と一部接触するように配置し、その後の熱処理により、触媒金属を上記非晶質膜中へ拡散させる。その結果、500℃程度の熱処理において上記触媒金属を中心とした上記非晶質膜の結晶化を実現している。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許公開2003—203864
【0007】

【非特許文献1】J. Kouvetakis et al., Annual Review of Materials Research, Vol.36, p.497 (2006).
【非特許文献2】Y. Chibane and M. Ferhat, Journal of Applied Physics Vol.107, p.053512 (2010).
【非特許文献3】M. Nakamura et al., Thin Solid Films, Vol.520, p.3201 (2012).
【非特許文献4】M. Kurosawa et al., Applied Physics Letters, Vol. 101, No. 9, p.091905 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の非特許文献1および非特許文献3に示す技術は、ゲルマニウムウエハのようなゲルマニウムの単結晶基板をゲルマニウム錫成長用のテンプレートとして用いることでゲルマニウム錫の単結晶成長を実現しているが、ガラスのような非晶質基板上での結晶成長には適さない。また、この単結晶基板はゲルマニウム錫成長用の支持基板の役割を果たしている一方で、その大部分は後に形成するゲルマニウム錫半導体素子にはほとんど使用されておらず、費用対効果が乏しいものになってしまう。
【0009】
また、前述の非特許文献4に示す技術では、ゲルマニウムの融点(938℃)以上の温度を必要とするため、高温に耐える高価な石英や高耐熱ガラスを基板として用いることが必須となる。近年では、大面積かつ低価格の高精細ディスプレイへの要求が高まっていることから、軟化温度の低い安価なガラス基板(軟化温度:500℃程度)やプラスチック基板(軟化温度:200℃程度)上にゲルマニウム錫膜を形成する必要がある。更には、当該技術はゲルマニウム錫を完全に溶融させる熱平衡プロセスを経た結晶成長であるため、平衡固溶限以上の錫を含んだゲルマニウム錫結晶を形成することは原理的に不可能である。加えて、当該技術は、溶液が固化する際に生じる液体/固体界面における錫析出現象を利用したものであるため、均一な錫濃度を有するゲルマニウム錫膜の形成には適さない。
【0010】
また、前述の特許文献1に示す技術では、非特許文献4に示す技術のような900℃を超える高温プロセスを必要としないため、軟化温度が500℃程度のガラス基板上における結晶成長は十分に可能である。しかしながら、金属誘起固相成長法の根本的な課題として、触媒金属による汚染が挙げられる。金属の触媒効果を利用する以上、どのような工夫をした場合においても、完全に触媒金属を除去することは困難であり、ごく微量の触媒金属が結晶薄膜中に残存する。様々な触媒金属(ニッケル、パラジウム、アンチモン、チタン、アルミニウム、金)が提案されているが、これらの金属は、シリコンやゲルマニウム結晶中に欠陥準位を形成し、その欠陥準位にはキャリア(電子又はホール)が捕獲されるため、デバイス特性の悪化が懸念される。
【0011】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、前述した課題のうちの少なくとも1つを解決する半導体結晶、その製造方法、及び多層膜構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1記載の半導体結晶の製造方法は、絶縁膜としての支持基板の上方にIV族元素(カーボン、シリコン、ゲルマニウム)のうちいずれか一つあるいは複数からなる非晶質半導体膜を形成する工程と、前記非晶質半導体膜の上方に拡散促進膜を形成する工程と、前記拡散促進膜の上方に錫層を形成する工程と、前記非晶質半導体を構成するIV族元素、錫からなる半導体結晶を形成するように、前記非晶質半導体膜及び前記錫層を熱処理する工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の半導体結晶の製造方法は、請求項1記載の半導体結晶の製造方法において、前記半導体結晶中に錫が含まれ、前記非晶質半導体膜を構成するIV族元素(カーボン、シリコン、ゲルマニウム)に対する錫の比率が1%以上であって、かつ、20%以下になることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の半導体結晶は、絶縁膜としての支持基板上に形成したIV族系非晶質半導体膜上に触媒金属としての錫層を付着して熱処理して得られる半導体結晶において、前記半導体結晶中に錫が含まれ、前記非晶質半導体膜を構成するIV族元素(カーボン、シリコン、ゲルマニウム)に対する錫の比率が1%以上であって、かつ、20%以下になることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の半導体結晶の製造方法は、請求項3記載の半導体結晶を備えた多層膜構造体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1および請求項2記載の発明によれば、本願に開示する半導体結晶の製造方法において、絶縁膜としての支持基板の上方にIV族元素(カーボン、シリコン、ゲルマニウム)のうちいずれか一つあるいは複数からなる非晶質半導体膜を形成する工程と、前記非晶質半導体膜の上方に拡散促進膜を形成する工程と、前記拡散促進膜の上方に錫層を形成する工程と、前記非晶質半導体を構成するIV族元素、錫からなる半導体結晶を形成するように、前記非晶質半導体膜及び前記錫層を熱処理する工程とを備えているので、IV族元素(カーボン、シリコン、ゲルマニウム)に錫が添加された結果、錫の触媒効果により、本来の固相成長温度よりも低い温度(共晶温度近傍およびそれ以上の温度)にて前記非晶質半導体膜の結晶成長を誘起することができるという効果を奏する。なお、本明細書で「上方に形成する」とは、「上側の表面に接するように形成する」ことを想定している。
【0017】
詳細には、共晶金属種(銀、アルミニウム、金、錫)のなかでも共晶温度の最も低い錫(例えば、ゲルマニウム-錫系の共晶温度は231℃)を選択したことで、軟化温度の低いプラスチック基板上において結晶成長を誘起することも可能となる。当該製造方法は、非平衡状態での結晶成長を活用しているため、平衡固溶限(2.5%)を超える錫組成を有するゲルマニウム錫膜の成長を実現できる。なお、錫を使用した場合は、他の金属で問題となっている半導体素子中の金属汚染によるデバイス特性の低下の心配はなく、逆に半導体素子中に錫が混在することで、半導体素子移動度の向上、格子定数とバンド構造の独立制御やバンド構造の直接遷移化も可能となる。
【0018】
さらに詳細には、本願に開示する拡散促進膜を、前述した非晶質半導体膜と触媒金属としての錫の間に挿入することで、熱処理時に生じる当該拡散促進膜に沿った錫原子の横方向拡散を促進すること、かつ、横方向に錫濃度が均一な半導体結晶の形成が可能となる。
【0019】
請求項3および請求項4記載の発明によれば、本願に開示する半導体結晶および半導体結晶を備えた多層膜構造体においては、例えば、ゲルマニウムウエハのようなゲルマニウムの基板を支持基板に用いるのではなく、ガラス基板等上に成膜されたゲルマニウムの薄膜上に拡散促進膜を介して触媒金属としての錫を積層することができるため、必要とするゲルマニウムの量を最小限とし、低資源、低価格で高性能な半導体結晶を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係わる積層構造を用いた半導体結晶の製造工程図。
【図2】本発明の実施例および比較例に係わる積層構造。
【図3】拡散促進膜なし試料を300℃で熱処理した後の光学顕微鏡像およびラマンスペクトル。
【図4】拡散促進膜あり試料を300℃で熱処理した後の光学顕微鏡像およびラマンスペクトル。
【図5】拡散促進膜あり試料を様々な温度で熱処理した場合のゲルマニウム錫結晶中に含まれる錫濃度の変化。
【図6】拡散促進膜の有無がゲルマニウム錫結晶の形成(横方向成長距離および錫濃度プロファイル)に与える影響。
【図7】本発明の実施形態に係わる錫の堆積位置・膜厚の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を説明する。本実施例の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
(実施例)
図1は、本実施形態における半導体結晶の製造工程図である。同図(a)は、本願に開示する積層構造10を示し、結晶性基板としてのシリコン基板1a上に形成した絶縁膜として機能する二酸化ケイ素膜1bを支持基板1とし、その上に非晶質半導体膜としての非晶質ゲルマニウム2、拡散促進膜としての非晶質二酸化ゲルマニウム層3、そして非晶質二酸化ゲルマニウム層3上の一方端に触媒金属としての錫4を備えられている。なお、本明細書において「拡散促進膜」とは、同図(b)の通り、積層構造10の熱処理時に生じる錫原子の横方向への拡散を促進するために好適に用いることのできる膜のことである。拡散促進膜の有無が結晶成長に与える効果については、実施例と比較例の対比の項において後述する。

【0022】
上記の積層構造10は次のように製造される。シリコン基板1a上に二酸化ケイ素膜1bが形成された支持基板1を化学洗浄した後、分子線成長装置に導入し、二酸化ケイ素膜1b上に非晶質ゲルマニウム層2(厚さ:50nm)を形成する。その後、希釈アンモニア水を用いたウエット酸化法により非晶質二酸化ゲルマニウム層3(厚さ:数nm)を形成する。その次に、結晶成長を誘起する触媒金属としての錫4(厚さ:50nm)を非晶質二酸化ゲルマニウム層3上に部分的に堆積する。

【0023】
なお、非晶質ゲルマニウム層2および錫4の形成法は分子線成長法に限らず、スパッタリング法、化学気相成長法等であってもよい。非晶質ゲルマニウム層2と錫4の膜厚比は、所望の錫濃度に応じ、例えば、1:0.1以上、1:2以下、より好ましくは、1:0.3以上、1:1以下である。また、非晶質二酸化ゲルマニウム層3の形成法は、希釈アンモニア水を用いたウエット酸化法に限らず、原子層堆積法、分子線堆積法、スパッタリング法等を用いてもよい。非晶質二酸化ゲルマニウム層3は、均質性に優れる極薄膜を選択することが好適であり、例えば、10nm以下の膜厚にすることが好ましく、より好ましくは5nm以下である。

【0024】
次に、上記積層構造10を真空装置あるいは不活性ガス(窒素やアルゴン等)を流した電気炉に入れ、300℃で5時間の熱処理を施す。以上の処理により、絶縁膜上に錫元素を含む半導体結晶20が得られる(図1(b)参照)。なお、熱処理温度は、共晶温度近傍を選択することが好適であり、例えば、100℃以上、600℃以下にすることが好ましく、より好ましくは、150℃以上、500℃以下である。

【0025】
以下、本実施例の構造・機能・効果をより分かりやすく説明するために、下記の比較例を用いて対比しながら説明する。
(比較例)
比較のために、拡散促進膜としての非晶質二酸化ゲルマニウム層3の製造工程を省略し、非晶質半導体膜としての非晶質ゲルマニウム2の直上に触媒金属としての錫4を付着させた積層構造30(以降、拡散促進膜なし試料。図2(b)参照)を作製した。図2(b)に示した非晶質二酸化ゲルマニウム層3の製造工程を省略せずに作製した本実施例の積層構造10’(以降、拡散促進膜あり試料)との違いは、非晶質二酸化ゲルマニウム層3の有無のみである。

【0026】
作製した各試料を300℃、5時間の熱処理後、結晶構造を光学顕微鏡法および顕微ラマン分光法を用いて評価した。図3は、比較例である拡散促進膜なし試料30の光学顕微鏡像および顕微ラマンスペクトルである。同図(a)中の記号(a、b、c)は、同図(b)に示した顕微ラマンスペクトルの測定位置であることを示している。また、図4は、実施例である拡散促進膜あり試料10’の光学顕微鏡像および顕微ラマンスペクトルであり、同図(a)中の記号(a、b、c)は、同図(b)に示した顕微ラマンスペクトルの測定位置であることを示している。

【0027】
比較例の拡散促進膜なし試料においては、錫近傍(a点およびb点)では、ゲルマニウム錫結晶に起因するゲルマニウム-ゲルマニウム結合ピークが観測された。その一方で、錫パターンより8μm離れたc点では、a点、b点で見られたシャープなゲルマニウム-ゲルマニウム結合ピークは観測されなかった。これは、非晶質ゲルマニウム2が結晶化していないことを意味する。すなわち、拡散促進膜を形成しない場合においては、触媒金属としての錫の拡散が3μm程度に制限されることを示している。

【0028】
一方、実施例である拡散促進膜あり試料においては、すべての点(a点、b点およびc点)でゲルマニウム錫結晶に起因するゲルマニウム-ゲルマニウム結合ピークが観測された。この結果は、拡散促進膜を形成することで、非晶質ゲルマニウム中における錫原子の横方向拡散が大幅に促進されたことを示唆している。本試料のb点およびc点の顕微ラマンスペクトルのピーク位置(図4(b)の横軸)からゲルマニウム錫結晶中に含まれている錫濃度を算出し、熱処理温度の関数としてまとめたグラフを図5に示す。b点の錫濃度は150℃では14%、200℃では11%、300℃では8%のように熱処理温度の増加とともに徐々に減少し、400℃を超えると熱平衡固溶限である2.5%に漸近する。一方、c点の錫濃度は、熱処理温度によらず1.5%のゲルマニウム錫結晶が得られることが判明した。

【0029】
拡散促進膜3の有無がゲルマニウム錫結晶の横方向成長距離および錫濃度プロファイルに与える影響についてそれぞれ図6(a)および図6(b)にまとめた。拡散促進膜あり試料を選択することで、
(1)錫パターンから横方向に進行するゲルマニウム錫結晶の成長距離(横方向成長距離)が、240℃熱処理では15倍化、500℃熱処理では50倍化できること、
(2)拡散促進膜を挿入することで長距離化した横方向成長領域(図中、3.5μm以上の領域)のゲルマニウム錫結晶には,ほぼ均一な1.5%の錫濃度を実現できること、
等の利点が判明した。なお、拡散促進膜あり試料の横方向成長距離の最大値が50μmで制限されているのは、本実施例に使用した積層構造10’(図2(b)参照)の錫パターン間距離が100μmであることによる。したがって、錫パターン間距離を広げれば、更なる長距離成長の可能性もある。

【0030】
以上で述べた本実施例と比較例の対比結果より、当該積層構造10に熱処理を施すことで、
(1)錫4直下に存在する非晶質ゲルマニウム層2が、熱処理過程にて錫4と共晶反応(金属誘起固相成長)し、多結晶ゲルマニウム錫層2a(錫組成比:2.5~13%)に変化すること、
(2)金属誘起固相成長した前述の多結晶ゲルマニウム層2aを結晶成長の種として、拡散促進膜である非晶質二酸化ゲルマニウム層3に沿って更に横方向に固相成長が進行し、1.5%の錫濃度を有する均一な多結晶ゲルマニウム錫層2bを形成する。
という過程を経て図1(b)に示すような半導体結晶20が得られたことが判明した。

【0031】
すなわち、本実施形態における当該積層構造10を用いた半導体結晶20の製造方法は、触媒金属の役割を担っている錫4と非晶質ゲルマニウム膜2の共晶反応により形成された錫4近傍の多結晶ゲルマニウム錫2aを種とし、その後、拡散促進膜3に沿った横方向への多結晶成長層2bが進行するものである。なお、比較例で述べたように、当該拡散促進膜3を形成せず、錫4と非晶質ゲルマニウム膜2を直接接触させた積層構造30では、横方向への多結晶ゲルマニウム錫膜2bの成長は見られなかった。つまり、拡散促進膜3を錫4と非晶質ゲルマニウム膜2の間に挿入されている本願で開示する工程にて形成した積層構造10を用いることが当該半導体結晶20の大面積結晶化に際し、好適であることが判明した。

【0032】
以上の結果、多結晶ゲルマニウム錫層2a及び2bを絶縁膜としての二酸化ケイ素膜1bの直上に形成することが可能となり、トランジスタや太陽電池等の電子や光デバイスを作り込むことに好適である。

【0033】
なお、上記実施形態においては、錫4が非晶質二酸化ゲルマニウム層3上の一方端にあるいは両端に対している例であるが、図7(a)に示すように、錫4が非晶質二酸化ゲルマニウム層3上の全面に堆積している場合でもよいし、図7(b)に示すように、錫4が非晶質二酸化ゲルマニウム層3上に複数存在する場合でもよいし、図7(c)に示すように、膜厚の異なる錫4が非晶質二酸化ゲルマニウム層3上に複数存在する場合であっても上記と同様に半導体結晶20を製造することが可能であることは言うまでもない。

【0034】
なお、上記実施形態において、シリコン基板1a上に形成する絶縁膜としての二酸化ケイ素膜1bに代えて、シリコン窒化膜等を用いることも可能である。さらに、支持基板1として、表面に二酸化ケイ素膜1bを有するシリコン基板1aに代えて、ガラス基板、プラスチック基板、樹脂基板、セラミック基板、高耐性ペーパーを用い、これら基板上に上記と同様に半導体結晶20を製造することが可能である。

【0035】
また、上記実施形態においては、錫/非晶質二酸化ゲルマニウム/非晶質ゲルマニウムの積層構造を例にとって説明したが、IV族元素(カーボン、シリコン、ゲルマニウム)の中から1種又は2種以上から選択される非晶質半導体膜の場合においても、上記と同様に半導体結晶を製造することが可能である。

【0036】
また、拡散促進膜として非晶質二酸化ゲルマニウムを例に取って説明したが、非晶質二酸化ゲルマニウムに代えて、原子層堆積法、分子線堆積法、スパッタリング法等により形成した薄膜群(アルミニウム酸化膜、シリコン酸化膜、錫酸化膜、シリコン窒化膜等)を用いることも可能である。

【0037】
また、錫の代わりに、当該非晶質半導体膜と共晶反応を生じる金属群(銀、アルミニウム、金等)及びこれらの化合物も金属として用いることができることは言うまでもない。なお、錫を使用した場合は、他の金属で問題となっている半導体素子中の金属汚染によるデバイス移動度低下の心配はなく、半導体素子中に錫が混在することで、半導体素子移動度の向上、格子定数とバンド構造の独立制御やバンド構造の直接遷移化も可能となるため、電子・光素子への応用に際し他の金属を用いた場合と比較し、非常に有利である。
【符号の説明】
【0038】
1 支持基板
1a シリコン基板
1b 二酸化ケイ素
2 非晶質ゲルマニウム
2a 多結晶ゲルマニウム錫(錫5近傍)
2b 2aを種にして横方向に成長した多結晶ゲルマニウム錫
3 非晶質二酸化ゲルマニウム
4 錫
10 積層構造
20 半導体結晶
図面
【図2】
0
【図7】
1
【図1】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6