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明細書 :アルツハイマー病を検出する方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5991666号 (P5991666)
公開番号 特開2014-013190 (P2014-013190A)
登録日 平成28年8月26日(2016.8.26)
発行日 平成28年9月14日(2016.9.14)
公開日 平成26年1月23日(2014.1.23)
発明の名称または考案の名称 アルツハイマー病を検出する方法及びキット
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
C07K  14/765       (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI G01N 33/53 D
G01N 33/543 501A
C07K 14/765 ZNA
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2012-150688 (P2012-150688)
出願日 平成24年7月4日(2012.7.4)
審査請求日 平成27年4月6日(2015.4.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
発明者または考案者 【氏名】山本 圭一
【氏名】嶋田 裕之
【氏名】三木 隆己
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 国際公開第2006/046644(WO,A1)
特表2009-540335(JP,A)
特開2012-016595(JP,A)
特開2014-142310(JP,A)
Biere, A. L. et al.,Amyloid b-Peptide Is Transported on Lipoproteins and Albumin in Human Plasma,J. Biol. Chem.,1996年,271(51),Page.32916-32922
調査した分野 G01N 33/53
G01N 33/543
C07K 14/47
C07K 14/765
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
対象者の血液サンプルにおいてアミロイドβ蛋白結合性アルブミンを定量することを特徴とするアルツハイマー病を検出するためのデータを取得する方法。
【請求項2】
前記アミロイドβ蛋白結合性アルブミンの定量が、アミロイドβ蛋白に結合したアルブミン(アミロイドβ蛋白結合アルブミン)を定量することにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミロイドβ蛋白結合性アルブミンの定量が、アミロイドβ蛋白に結合可能な物質又はアルブミンに結合可能な物質を介して支持体上に不動化されたアミロイドβ蛋白結合アルブミンを定量することにより行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミロイドβ蛋白結合性アルブミンの定量が、抗アルブミン抗体を用いて行われる請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アミロイドβ蛋白結合性アルブミンの定量が、抗アミロイドβ蛋白抗体を用いて行われる請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アミロイドβ蛋白結合性アルブミンに結合可能な物質を含んでなることを特徴とするアルツハイマー病の検出用キット。
【請求項7】
アミロイドβ蛋白に結合可能な物質又はアルブミンに結合可能な物質が固定された支持体を更に含んでなる請求項6に記載のキット。
【請求項8】
アミロイドβ蛋白結合性アルブミンに結合可能な物質が抗アルブミン抗体である請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
アミロイドβ蛋白結合性アルブミンに結合可能な物質が抗アミロイドβ蛋白抗体である請求項6又は7に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願発明は、アルツハイマー病の検出方法及びキットに関する。より具体的には、本発明は、対象者の血液サンプル中のアミロイドβ蛋白結合性アルブミンを定量することを特徴とするアルツハイマー病の検出方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルツハイマー病の診断には、CT、MRI、PETなどによる画像診断や神経心理学的診断が用いられている。また、脳脊髄液中のバイオマーカー(例えばアミロイドβ蛋白、タウ蛋白)の量が、アルツハイマー病診断の補助データとして用いられている。
しかしながら、画像診断や心理学的診断は、高度の専門知識が必要であり、診断に時間を要し、費用も高額である。
しかも、髄液の採取は侵襲性が大きく、患者の心理的及び身体的負担が大きい。
【0003】
そこで、検査サンプルの採取に際して侵襲性が小さく、簡便な方法が求められている。
最近、血中Aβ量の減少に伴い脳内Aβが血中に引き抜かれるという「引き抜き」仮説が提唱されている。この仮説に基づけば、血中Aβ量は脳内Aβ量を反映していると考えられる。
しかし、血中アミロイドβ蛋白の量は、アルツハイマー病患者と健常人との間で差は観察されていない。
【0004】
また、血漿中のアミロイドβ蛋白を測定する方法が開発された(非特許文献1)が、この方法は、将来の認知機能の低下の度合いを予測するものであり、現時点でのアルツハイマー病を診断するものではなかった。
一方、血液中のアミロイドβ蛋白は約90%がアルブミンと結合しているとの報告がある(非特許文献2)。
しかしながら、血液中のアミロイドβ蛋白をアルブミンと関連付けて測定した報告はない。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Yaffe, K.ら,JAMA, 2011, 305(3): 261-266
【非特許文献2】Biere, A. L.ら,J. Biol. Chem., 1996, 271(51): 32916-32922
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、侵襲性のより小さい方法で被検サンプルを採取でき、且つアルツハイマー病を簡便に検出できる方法及びキットの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対象者の血液サンプルにおいてアミロイドβ蛋白結合性アルブミンを定量することを特徴とするアルツハイマー病を検出する方法を提供する。
本発明はまた、アミロイドβ蛋白結合性アルブミンに結合可能な物質を含んでなることを特徴とするアルツハイマー病の検出用キットを提供する。
【発明の効果】
【0008】
サンプルとして、採取時の侵襲性が小さい血液サンプルを用いるため、サンプル採取が容易であり、被検者の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態におけるアミロイド蛋白結合性アルブミン量の測定原理を説明する図である。
【図2】実施例における測定値を示す散布図である。
【図3】実施例における測定データを説明する統計学的グラフ(箱ひげ図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<アルツハイマー病の検出方法>
本発明のアルツハイマー病を検出する方法は、対象者の血液サンプルにおいてアミロイドβ蛋白結合性アルブミンを定量することを特徴とする。
本発明は、アルツハイマー病患者の血液サンプル中の「アミロイドβ蛋白結合性」アルブミンの量が健常人と比較して有意に少ないという新たな知見に基づく。

【0011】
「対象者」は、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含むが、好ましくはヒト、特にアルツハイマー病に罹患していることが疑われるヒトである。
「血液サンプル」は、全血サンプル、血清サンプル又は血漿サンプルである。
「アミロイドβ蛋白」(以下、「Aβ」と表記することもある)は、アミロイド前駆体蛋白(APP)から生じる37~43アミノ酸からなるペプチドであり、代表的にはAβ1-40、Aβ1-42及びAβ1-43、特にはAβ1-42である。ヒトAβ1-40、Aβ1-42及びAβ1-43の代表的なアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1、2及び3として配列表に示す。
「アルブミン」は、本発明に関しては、血清アルブミンをいう。ヒト(血清)アルブミンの代表的なアミノ酸配列を配列番号4として配列表に示す。

【0012】
血液サンプル中のAβ結合性アルブミンは、色素結合法、イムノアッセイ、電気泳動法、クロマトグラフィー、質量分析法及びこれらの組合せなど種々の方法により定量することができる。
好ましくは、Aβ結合性アルブミンは、Aβに結合したアルブミン(Aβ結合アルブミン)として、特に支持体上に不動化されたAβ結合アルブミンとして定量する。

【0013】
不動化されたAβ結合アルブミンの定量は、当該分野において公知のアルブミン定量法により行うことができる。
例えば、色素結合法では、アルブミンと反応して発色するか又は色調が変化する試剤を使用する。このような試剤としては、例えば、ブロムクレゾールグリーン(BCG)やブロムクレゾールパープル(BCP)が挙げられる。

【0014】
イムノアッセイでは、アルブミンに対する抗体(抗アルブミン抗体)を使用する。
本発明において、「抗体」とは、完全抗体及びその抗原結合部位を有するフラグメント(単鎖抗体(scFv)、Fab抗体、F(ab')2抗体、Fab'抗体を含む)をいう。抗体は、既知の抗体であってもよいし、新たに作製された抗体であってもよい。抗体は、モノクローナルであってもポリクローナルであってもよいが、モノクローナルであることが好ましい。

【0015】
特定の蛋白又はペプチドに結合する抗体を作製する方法は、当該分野において公知である。簡潔には、そのような抗体は、当該蛋白又はペプチドを、単独で又は適切なキャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、ジフテリア毒素、破傷風毒素)に結合させて、必要に応じてアジュバント(例えば、完全若しくは不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム又はリン酸化アルミニウム(ミョウバン))と共に、1回又はそれ以上(皮下、静脈内、腹腔内などに)投与した動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ラクダ、ニワトリ、ダチョウなど抗体産生に使用できる動物)の血清から、例えばアフィニティークロマトグラフィーのような精製法を用いて精製することにより(例えば、免疫グロブリン画分又は精製抗体として)取得することができる。精製することなく、全血清(抗血清)をそのまま用いてもよい。

【0016】
モノクローナル抗体を作製する方法もまた当該分野において公知である(例えば、Kohler and Milstein(Nature, 256:495-497, 1975;Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane編, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。簡潔には、当該蛋白又はペプチドで免疫した動物の脾臓細胞(B細胞)を、細胞融合法により適切な骨髄腫細胞と融合して不死化細胞(ハイブリドーマ)を作製し、所望の結合能を有する抗体を産生するハイブリドーマを選択する。このハイブリドーマを、インビトロ又はインビボ(例えば、マウス腹腔内)で増殖させて産生抗体を取得してもよい。

【0017】
抗アルブミン抗体は、対象哺乳動物のアルブミンを認識する一方で、(例えばブロッキング剤などの他の試剤中に含まれ得る)その他の哺乳動物のアルブミンを認識しないことが好ましい。より好ましくは、抗アルブミン抗体は、ヒトアルブミンを認識するが、ウシ、ウサギ、ヤギ及び/又はヒツジのアルブミンを認識しない抗体である。このような抗ヒトアルブミン抗体は、標識又は非標識の抗ヒト血清アルブミン-マウスモノクローナル抗体又は抗ヒト血清アルブミン-ウサギ(ヤギ、ヒツジなど)ポリクローナル抗体若しくは血清として国内外の供給業者から入手可能であり、又は上記の方法で容易に作製することができる。

【0018】
抗体は、検出可能な標識が付されていることが好ましい。抗体の標識は、当該分野で公知であり、使用する検出手段に応じて適宜選択できる。例えば、標識には、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発色物質、発光物質などが使用できる。酵素としては、例えばペルオキシダーゼ(特にHRP)、β-ガラクトシダーゼ、ホスファターゼ(特にアルカリホスファターゼ)、ルシフェラーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-グルコシダーゼ、β-グルクロニダーゼなどが挙げられる。放射性同位体としては、例えば、3H、14C、32P、35S、125I、131Iが挙げられる。蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Cy2、Cy3などが挙げられる。発色物質としては、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などが挙げられる。発光物質としては、ルミノール、ルシフェリンなどが挙げられる。

【0019】
不動化されたAβ結合性アルブミンはまた、アルブミンに特異的に結合し得るアプタマー又はペプチドを用いて定量することも可能である。
アプタマーは、特定の標的を認識する一本鎖核酸(DNA、RNA又は核酸アナログ(例えばLNA))である。特定の標的に特異的に結合し得るアプタマーを作製する方法は、当該分野において公知である。簡潔には、ランダムな塩基配列(例えば30~150塩基)を有する核酸群を作製し、この中から対象の標的を特異的に認識するものを、例えばSELEX法などのスクリーニング法により選定する。

【0020】
アルブミンに特異的に結合し得るペプチドは、例えば、WO96/14416[特表平10-509311号公報]やWO2009/016043[特表2010-534486号公報]に記載のような細菌由来のアルブミン結合性ドメインを含むものや、WO2008/096158[特表2010-518062号公報]に記載のような抗アルブミン抗体由来の可変ドメインを含むものである。
アルブミンに特異的に結合し得るアプタマー又はペプチドは、検出可能な標識が付されていることが好ましい。例えば、標識には、上記のような放射性同位体、蛍光物質、発色物質、化学発光物質などが用いられる。核酸標識法は当該分野で公知である。

【0021】
標識からのシグナルの測定は、分光光度計、蛍光光度計、CCDカメラ、CMOSカメラ、フォトダイオード、光電子増倍管などから適宜選択したものを、必要に応じて光源及び/又はフィルターと共に使用して行うことができる。

【0022】
Aβ結合性アルブミンの不動化は、例えば、Aβに結合可能な物質が固定された支持体を用いて行うことができる。この場合、Aβ結合性アルブミンは、サンプル中のAβを介して支持体上に不動化される。また、不動化は、Aβが固定された支持体を用いても行うことができる。
Aβに結合可能な物質としては、例えば、Aβに対する抗体(抗Aβ抗体)、Aβに特異的に結合し得るアプタマーが挙げられる。

【0023】
抗Aβ抗体は、AβのN末端側領域(例えば、アミノ酸1~5位、1~6位、1~7位、3~7位、1~8位、3~8位、1~10位、3~9位、4~10位、5~9位、9~10位、1~11位、5~11位、1~12位、1~16位、5~16位、10~16位、12~16位、1~17位、11~17位)を認識する抗体、中央部領域(例えば、アミノ酸11~26位、11~28位、12~28位、13~28位、15~24位、15~30位、16~24位、17~22位、18~21位、18~22位、22~35位、25~34位、25~35位)を認識する抗体、Aβ40、Aβ42及び/又はAβ43のC末端側領域(例えば、アミノ酸31~40位、32~40位、33~40位、33~42位、34~40位、35~40位、34~42位、35~42位、35~43位、36~42位、37~42位、38~43位)を認識する抗体が知られている(例えば、Johnson-Wood, Kら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94: 1550-1555 (1997);Asami-Odaka Aら,Biochemistry, 34(32): 10272-10278, 1995)。これら抗体は、国内外の供給業者から入手可能であり、また上記の方法によって(例えば、Aβ又は上記のようなエピトープを有するフラグメントを用いて)容易に取得することができる。好ましくは、抗Aβ抗体は、AβのN末端側領域又はC末端側領域を認識する抗体(より好ましくはモノクローナル抗体)である。

【0024】
Aβに特異的に結合し得るアプタマーは、例えばTakahashiら(Bol. Biosyst., 5(9): 986-991, 2009)に記載されており、また上記のようにして容易に取得できる。

【0025】
不動化されたAβ結合アルブミンの定量はまた、当該分野において公知のAβ定量法により行うこともできる。
例えば、不動化されたAβ結合アルブミンは、上記のような抗Aβ抗体又はAβに特異的に結合し得るアプタマーを用いるアッセイにおいて定量することができる。抗Aβ抗体又はAβに特異的に結合し得るアプタマーは、上記のような標識が付されていることが好ましい。
このようなアッセイのためには、Aβ結合アルブミンの不動化は、アルブミンに結合可能な物質が固定された支持体を用いて行うことができる。アルブミンに結合可能な物質としては、例えば、上記のような抗アルブミン抗体又はアルブミンに特異的に結合し得るアプタマー若しくはペプチドが挙げられる。

【0026】
Aβ結合性アルブミンの定量を、上記のような色素結合法、イムノアッセイ、アプタマーを用いる方法などにより行う場合、特に、当該方法を実施するためのキット(後述)を用いて行う場合には、簡便かつ安価で、比較的迅速な検出が可能になる。このため、本発明の方法は、臨床検査用の設備・機器の充実した病院や検査機関のみならず、診療所や医院においても比較的容易に実施できる。

【0027】
後述する実施例から明らかなように、アルツハイマー病患者からの血液サンプル中のAβ結合性アルブミン量は、健常人の血液サンプル中の量より低い傾向がある。よって、血液サンプル中のAβ結合性アルブミン量は、アルツハイマー病の指標として有用である。

【0028】
好ましくは、測定したAβ結合性アルブミン量と、同一対象者からの別のサンプルにおいて測定した総アルブミン(Aβ結合性アルブミン+Aβ非結合性アルブミン)量とから、当該血液サンプルにおける比(Aβ結合性アルブミン量)/(総アルブミン量)を求める。この比が、予め決定された閾値レベル(カットオフ値)と比較して、より低いとき、当該血液サンプルを提供した対象者は、アルツハイマー病に罹患している蓋然性が高いと考えられる。或いは、前記比が、閾値レベル(カットオフ値)と比較して、より高いとき、対象者は、アルツハイマー病に罹患している蓋然性が低いと考えられる。閾値レベル(カットオフ値)は、統計学的に有意な数の、アルツハイマー病であると確定診断された患者及び(アルツハイマー病に罹患していないことが明確な)健常人についての測定データに基づいて決定できる。

【0029】
総アルブミン量に対するAβ結合性アルブミン量を測定するために、血液サンプルを、予め、総アルブミン量が所定値となるように希釈剤(例えば緩衝液)で希釈してもよい。
緩衝液は、当該分野において公知のものから適宜選択するが、例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液などである。緩衝液は、必要に応じて、NaCl、界面活性剤(例えば、Tween 20、Triton X-100)及び/又は防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム)を含んでいてもよい。緩衝液の具体例は、PBS、PBS-T、TBS又はTBS-Tである。

【0030】
具体的には、本発明の方法は、例えば下記のように実施する。
本実施形態では、血液サンプル中のAβ結合性アルブミンを不動化するために、Aβに結合可能な物質が固定された支持体を用いる。
血液サンプルを支持体と、該サンプル中のAβ結合性アルブミンがAβを介して支持体上のAβに結合可能な物質との結合するに適切な条件(例えば、温度:20℃~40℃、より好ましくは25~38℃;時間:5~120分間、より好ましくは10~90分間、より好ましくは30~60分間)下に接触させる(インキュベーション;図1A)。

【0031】
インキュベーション後、支持体上に不動化されなかった物質(Aβ非結合性アルブミンを含む)を除去するために、洗浄液(例えば、緩衝液)で、支持体を1回以上洗浄する。
この時点で、サンプル中のAβ非結合性アルブミンは除去され、Aβ結合性アルブミンのみが支持体上に不動化される。よって、支持体上に不動化されたアルブミンの量は、血液サンプル中のAβ結合性アルブミンの量を反映する。

【0032】
支持体上に不動化されたアルブミンは、BCG法、BCP法、BCP改良法のような色素結合法を用いて定量することができる。

【0033】
或いは、支持体上に不動化されたアルブミンは、イムノアッセイにより、例えば下記のように定量することができる(図1B)。
標識抗アルブミン抗体を(Aβ結合アルブミンが不動化された)支持体と、抗アルブミン抗体とアルブミンとの結合に適切な条件(例えば、温度:20℃~40℃、より好ましくは25~38℃;時間:5~120分間、より好ましくは10~60分間)下に接触させる。
支持体を洗浄液で1回以上洗浄することにより未結合の抗アルブミン抗体を除去する。
抗アルブミン抗体に付された標識に応じた方法により、標識からのシグナルを定量する。例えば、必要に応じて光源及び/又はフィルターと共に、マイクロプレートリーダーを用いて測光する。

【0034】
支持体上に不動化されたアルブミンを定量する前、間又は後に、使用する定量方法(Aβ結合性アルブミンに結合可能な物質)に応じて、ブランク及び標準物質(標準溶液)を用いて標準曲線(検量線)を作成してもよい。

【0035】
上記の実施形態では、支持体上に不動化したAβ結合性アルブミンを色素結合法又はイムノアッセイにより定量する方法について具体的に説明したが、サンプル中のAβ結合アルブミンは、他の方法(例えばウェスタンブロッティングなど)によっても定量可能であることは言うまでもない。

【0036】
本発明の方法は、アルツハイマー病の症状も徴候も示していない対象者の血液サンプルについて実施することにより、アルツハイマー病に罹患するリスクを評価する方法として利用することができる。測定値が、閾値を下回っているとき、当該対象者は、アルツハイマー病に罹患するリスクが高いと推定でき、閾値を下回っていないものの、健常人の平均値より低く閾値に近いレベルであるときには、対象者は、アルツハイマー病に罹患するリスクが比較的高いと推定できる。一方、測定値が、閾値を上回っているとき、当該対象者は、アルツハイマー病に罹患するリスクが低いと推定できる。
本発明の方法は、小さい侵襲性で実施し得るので、例えば定期健康診断に際して実施することにより、将来的な罹患のリスクを推定することができる。その結果、予防に向けた取り組みを早期に喚起することが可能になる。

【0037】
本発明の方法はまた、アルツハイマー病の治療を受けている対象者(患者)からの2以上の時点での血液サンプルについて実施して、血液サンプル中のAβ蛋白結合性アルブミンを経時的に定量、比較することにより、アルツハイマー病の進行をモニターする方法としても利用することができる。より後の時点のサンプル中のAβ結合性アルブミン量が、より前の時点のサンプル中と比較して、より増加しているとき、アルツハイマー病から回復傾向にあると推定でき、逆に減少しているとき、アルツハイマー病が進行中であると推定できる。

【0038】
経時的な定量は、例えば、5、10、15若しくは20日ごと、1、2若しくは3週間ごと、1、2、3、4、5若しくは6ヶ月ごと、1、2、3、4若しくは5年ごとに行う。
患者がアルツハイマー病の治療を受けている場合には、この方法は、当該治療の有効性を評価するために利用できる。治療は、薬物療法に限られず、例えば食事療法、運動療法のような非薬物療法、及び薬物療法と非薬物療法との組合せを含む。

【0039】
<アルツハイマー病の検出キット>
本発明のアルツハイマー病の検出キットは、アミロイドβ蛋白結合性アルブミンに結合可能な物質を含んでなることを特徴とする。
本キットは、上述した本発明の方法の実施に適切である。

【0040】
Aβ結合性アルブミンに結合可能な物質は、例えば、BCG、BCP、上記のような抗アルブミン抗体、上記のようなアルブミンに特異的に結合し得るアプタマー、上記のようなアルブミンに特異的に結合し得るペプチド、上記のような抗Aβ抗体、上記のようなAβに特異的に結合し得るアプタマーであり得、好ましくは抗アルブミン抗体又は抗Aβ抗体である。
Aβ結合性アルブミンに結合可能な物質は、溶液形態で提供されてもよいし、蛋白又はペプチドである場合には、凍結乾燥形態で提供されてもよい。
Aβ結合性アルブミンに結合可能な物質はまた、必要であれば、上記のような標識が付されていてもよい。或いは、Aβ結合性アルブミンに結合可能な物質は、(ストレプト)アビジン-ビオチンのような結合対の一方のパートナー(例えば、ビオチン)が付着されており、他方のパートナー(例えば、(ストレプト)アビジン)が付着した標識と結合可能にされていてもよい。

【0041】
本発明のキットは、好ましくは、上記のようなAβ蛋白に結合可能な物質又はアルブミンに結合可能な物質が固定された支持体を更に含んでなる。Aβに結合可能な物質は、好ましくは、上記のような抗Aβ抗体である。アルブミンに結合可能な物質は、好ましくは、上記のような抗アルブミン抗体である。
支持体の形態は、当該分野において公知のものから適宜選択でき、例えば、マイクロタイタープレート、チューブ、キャピラリチューブ、ビーズ、粒子、濾紙、フィルター、膜、ディスク、スティック、ストリップ、スライドグラス、チップなどであり得る。

【0042】
支持体の材料は、当該分野において公知のものをいずれも使用でき、例えば、ガラス、樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリプロピレン、ポリビニルブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、レーヨン)、セルロース及びその誘導体(例えば、ニトロセルロース)などであり得る。
支持体へのAβ又はアルブミンに結合可能な物質の固定は、物理的吸着、共有結合若しくは非共有結合(イオン結合、静電結合、疎水性相互作用など)のいずれであってもよい。

【0043】
支持体は非特異的吸着を防止するためにブロッキング処理されていることが好ましい。ブロッキング剤は、当該分野において公知のものをいずれも使用できるが、例えば対象の哺乳動物以外の哺乳動物の血清アルブミン(対象がヒトである場合、例えばウシ血清アルブミン(BSA))、脱脂粉乳、カゼインなどであり得る。
Aβ又はアルブミンに結合可能な物質が固定され、ブロッキング処理された支持体の表面は、水溶性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースのようなセルロースエステル)又は非還元多糖類(例えば、スクロース、トレハロース、ラフィノース)などでコーディングされていてもよい。このようなコーディングにより、支持体上のAβ又はアルブミンに結合可能な物質を含む固相は非常に安定化し、長期間の保存に適する。

【0044】
本発明のキットは、必要に応じて、標識シグナル生成剤(例えば発色剤)及び/又は反応停止液を更に含んでいてもよい。
標識シグナル生成剤は、標識に応じて公知のものから適宜選択できる。例えば、標識がペルオキシダーゼである場合には、TMB、DAB、o-フェニレンジアミン(OPD)、2,2-アジノ-ジ-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(ADHP)などであり得、アルカリホスファターゼである場合には、p-ニトロフェニルリン酸(pNPP)、4-メチルウンベリフェリルリン酸(4-MUP)などであり得る。
反応停止液は、例えば、硫酸又は水酸化ナトリウムであり得る。

【0045】
本発明のキットはまた、標準曲線(検量線)作成用の標準溶液、任意に標準溶液希釈剤を含んでいてもよい。
本発明のキットはまた、洗浄液(例えば、上記のような緩衝液)や、インキュベーションの間に支持体をシールするシーリング材(例えば、支持体がプレートである場合、プレートシール)を含んでいてもよい。
本発明のキットは、上記のように、アルツハイマー病に罹患するリスクを評価するため、及び/又はアルツハイマー病の進行をモニターするため、及び/又はアルツハイマー病治療の有効性を評価するためにも使用することができる。
【実施例】
【0046】
いずれもインフォームドコンセントが得られた15人のアルツハイマー病(AD)患者(60~87歳)及び17人の健常人(65~87歳)から血清を採取した。AD患者の確定診断は神経心理学的診断及び画像診断、その他認知症を来す疾患の除外診断によった。
採取したサンプルを3つに小分けして、1つを総アルブミン濃度及びアポリポ蛋白E(ApoE)フェノタイプ用に、2つをAβ結合性アルブミン定量用に使用した。
総アルブミン濃度及びApoEフェノタイプはそれぞれBCP改良法及び等電点電気泳動法によるイムノブロット法でSRL社において測定した。
【実施例】
【0047】
総アルブミン量に基づいて、対応するAβ結合性アルブミン定量用血清サンプルを、総アルブミン濃度が150μg/mlとなるようにTBSで希釈した。
希釈サンプルを、AβのN末端領域(アミノ酸1~16位)を認識するモノクローナル抗体(BAN50;武田薬品工業)が固定された96穴マイクロプレートの各ウェルに100μl投入し、37℃にて1時間インキュベートした後、TBS-Tween 20で4回洗浄した。次いで、各ウェルに、1:30000希釈したHRP標識化抗ヒトアルブミンポリクローナル抗体(Goat anti-Human Albumin Antibody HRP Conjugated Catalog No.A80-129P;Bethyl社)を投入し、37℃にて1時間インキュベートした後、再びTBS-Tで4回洗浄した。
【実施例】
【0048】
TMB/H2O2溶液を各ウェルに投入して発色反応を開始し、15分後に停止溶液で加えて発色反応を停止した。次いで、マイクロプレートリーダーにて450nmのフィルターを用いて0.1秒間測光した。
結果を図2及び3に示す。図2は散布図であり、図3は箱ひげ図である。結果は、同一サンプルについて独立して行った2回の測定データの平均として示す。
独立した2群のt検定により、差は95%の信頼区間で有意であり(p=0.021)、年齢、ApoE4を加味した多項ロジスティック解析でも有意であった(p=0.021)。
AD患者群のアミロイドβ蛋白に結合したアルブミンは、健常人群より有意に少ないことが判明した。
【実施例】
【0049】
上記の実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的形態及び例のみに限定されるものではない。本明細書に記載された具体的な構成、手段及び方法は、本発明の要旨を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2