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明細書 :結晶膜形成体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6037278号 (P6037278)
公開番号 特開2014-122122 (P2014-122122A)
登録日 平成28年11月11日(2016.11.11)
発行日 平成28年12月7日(2016.12.7)
公開日 平成26年7月3日(2014.7.3)
発明の名称または考案の名称 結晶膜形成体の製造方法
国際特許分類 C30B   9/00        (2006.01)
C30B   9/02        (2006.01)
C30B  29/22        (2006.01)
H01M   4/505       (2010.01)
H01M   4/525       (2010.01)
FI C30B 9/00
C30B 9/02
C30B 29/22 Z
H01M 4/505
H01M 4/525
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2012-277551 (P2012-277551)
出願日 平成24年12月20日(2012.12.20)
審査請求日 平成27年10月26日(2015.10.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】手嶋 勝弥
【氏名】我田 元
審査官 【審査官】安齋 美佐子
参考文献・文献 特開2005-281067(JP,A)
特開2011-063452(JP,A)
特開2002-299671(JP,A)
特開2005-039248(JP,A)
特開昭52-117896(JP,A)
森力 他4名,プラズマアシストフラックス法によるリン酸カルシウム結晶/活性炭複合体の作製,第70回応用物理学会学術講演会 講演予稿集,日本,2009年 9月 8日,No.1,第219頁
日高美樹 他3名,酸化モリブデン系フラックス蒸発法によるルビー単結晶皮膜の育成,第19回日本セラミックス協会秋季シンポジウム 講演予稿集,日本,2006年 9月19日,第109頁
調査した分野 C30B 1/00-35/00
H01M 4/505
H01M 4/525
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
電池の集電体となる基材と、基材表面に形成された電極活物質である結晶膜とを備える結晶膜形成体の製造方法であって、
前記基材として、前記結晶膜を形成する面が粗面となる基材を使用し、
結晶材料とフラックス材とからなる混合材を用いて結晶を生成するフラックス法により、前記基材の表面に結晶を析出させて前記結晶膜を形成する工程として、
前記基材の粗面が形成された面に、前記混合材からなる混合材層を設ける工程と、
前記混合材層に熱エネルギーを付与して、前記基材の粗面上に、中間層を介することなく、均一に、各々が単結晶となる前記電極活物質の結晶粒を析出させる工程と、
基材の表面に前記結晶粒を析出させた後、結晶膜を除く基材表面の残留物を除去する工程とを備えることを特徴とする結晶膜形成体の製造方法。
【請求項2】
前記混合材層に熱エネルギーを付与する方法として、加熱処理、活性エネルギー線放射
またはプラズマ処理を用いることを特徴とする請求項1記載の結晶膜形成体の製造方法。
【請求項3】
電池の集電体となる基材と、基材表面に形成された電極活物質である結晶膜とを備える結晶膜形成体の製造方法であって、
前記基材として、前記結晶膜を形成する面が粗面となる基材を使用し、
結晶材料とフラックス材とからなる混合材を用いて結晶を生成するフラックス法により、前記基材の表面に結晶を析出させて前記結晶膜を形成する工程として、
前記混合材を加熱し混合材が蒸発する蒸発雰囲気内に前記基材を配置して、前記基材の粗面上に、中間層を介することなく、均一に、各々が単結晶となる前記電極活物質の結晶粒を析出させる工程と、
基材の表面に結晶を析出させた後、結晶膜を除く基材表面の残留物を除去する工程とを備えることを特徴とする結晶膜形成体の製造方法。
【請求項4】
前記基材としてアルミニウム基板を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の結晶膜形成体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は基材表面に結晶膜を形成した結晶膜形成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件発明者は、フラックスコーティング法を利用して金属、セラミックスあるいは樹脂等からなる基材の表面に、結晶膜を形成する方法について提案している(特許文献1)。この方法によれば、結晶材料とフラックス材とを混合した混合材を基材の表面にコーティングし、加熱することにより、基材の表面に結晶を析出させた結晶膜形成体を形成することができる。
フラックスコーティング法によれば、酸化物のような溶融温度がきわめて高温の結晶材料を扱う場合であっても、大幅に加熱温度を引き下げた条件下で結晶膜を形成することができ、環境負荷を抑えて、安価に結晶膜形成体(基材表面に直に結晶膜を形成したもの)を得ることができる。
【0003】
フラックスコーティング法によれば、基材の表面に形成される結晶膜が完全な単結晶の結晶粒からなるため、高品質の結晶性が求められる製品の製造にきわめて有効に用いられる。たとえば、二次電池の電極は、集電体である金属板の表面にLiCoO2、LiNi0.5Mn1.5O4、Li4Ti5O12、H2Ti12O25、等の電極活物質を成膜して形成される。従前は、集電体の表面に活物質を塗布し、焼成して電極としている(特許文献2、3)。塗布・焼成工程による方法は2段階プロセスによることと、集電体の表面に形成される被膜が多結晶粒子であるために、電極活物質の本来的な電気化学特性が得られないという問題があった。これに対して、フラックスコーティング法による電極体の形成方法は、電極活物質が完全な結晶体として得ることができることから、優れた電極特性を備えるとともに、製造が簡易であるという大きな利点がある。
【0004】
なお、フラックスコーティング法は、酸化物結晶に限らず、ほとんど全ての結晶形成に利用することができる。酸化物結晶には組成元素の組み合わせや組成比により、きわめて多種類の結晶があるが、フラックスコーティング法では、結晶組成に合わせて結晶材料(混合材)を用意することにより、所望の結晶(結晶膜)を形成することが可能である。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2011-63452号公報
【特許文献2】特表2009-524900号公報
【特許文献3】特開2009-129889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラックスコーティング法は基材の表面に結晶粒を析出させて結晶膜を形成する方法であり、基材の表面に直接、結晶膜を形成する。したがって、二次電池の電極体等として使用する際には、所要の特性及び耐久性等を維持するために、結晶膜が基材表面に強固に密
着して容易に剥がれないこと、また、基材表面に均一に結晶膜( 結晶粒) が形成されることが求められる。
本発明は、基材表面との密着性が高く、かつ好適な結晶性を備えた結晶膜形成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る結晶膜形成体の製造方法は、電池の集電体となる基材と、基材表面に形成された電極活物質である結晶膜とを備える結晶膜形成体の製造方法であって、前記基材として、前記結晶膜を形成する面が粗面となる基材を使用し、結晶材料とフラックス材とからなる混合材を用いて結晶を生成するフラックス法により、前記基材の表面に結晶を析出させて前記結晶膜を形成する工程として、前記基材の粗面が形成された面に、前記混合材からなる混合材層を設ける工程と、前記混合材層に熱エネルギーを付与して、前記基材の粗面上に、中間層を介することなく、均一に、各々が単結晶となる前記電極活物質の結晶粒を析出させる工程と、基材の表面に前記結晶粒を析出させた後、結晶膜を除く基材表面の残留物を除去する工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る結晶膜形成体の製造方法は、電池の集電体となる基材と、基材表面に形成された電極活物質である結晶膜とを備える結晶膜形成体の製造方法であって、前記基材として、前記結晶膜を形成する面が粗面となる基材を使用し、結晶材料とフラックス材とからなる混合材を用いて結晶を生成するフラックス法により、前記基材の表面に結晶を析出させて前記結晶膜を形成する工程として、前記混合材を加熱し混合材が蒸発する蒸発雰囲気内に前記基材を配置して、前記基材の粗面上に、中間層を介することなく、均一に、各々が単結晶となる前記電極活物質の結晶粒を析出させる工程と、基材の表面に結晶を析出させた後、結晶膜を除く基材表面の残留物を除去する工程とを備えることを特徴とする結晶膜形成体の製造方法。



電池の集電体となる基材と、基材表面に形成された電極活物質である結晶膜とを備える結晶膜形成体の製造方法であって、結晶材料とフラックス材とからなる混合材を用いて結晶を生成するフラックス法により、前記基材の表面に結晶を析出させて前記結晶膜を形成する工程として、前記混合材を加熱し混合材が蒸発する蒸発雰囲気内に、前記結晶膜を形成する面を粗面とした基材を配置して、前記基材の粗面上に、中間層を介することなく、均一に、各々が単結晶となる前記電極活物質の結晶粒を析出させる工程と、基材の表面に結晶を析出させた後、結晶膜を除く基材表面の残留物を除去する工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
フラックス法では、結晶材料とフラックス材とからなる混合材を使用するが、結晶によっては、結晶の組成材料の一部を結晶の形成に要する分量よりも多く使用することにより、結晶材料をフラックス材としても作用させて結晶を形成することができる。結晶材料とフラックス材とからなる混合材は、結晶材料とフラックス材とが同一材料となる場合を含む意である。
フラックス法により基材表面に結晶膜を形成する方法によれば、結晶材料とフラックス材とを適宜選択して使用することにより、きわめて多種類の結晶膜を備える結晶膜形成体を得ることができる。
【0010】
フラックス法は、従来の溶融法によって結晶を形成する方法と比較して、大幅に低温に設定した加熱環境下において結晶を形成することができ、基材表面に形成される結晶膜(結晶粒)の結晶性が良好であり、各々の結晶粒は外面が結晶面となる単結晶として析出することが特徴である。基材表面に形成される結晶膜の結晶性が良いことから、結晶本来の電気化学特性を備える結晶膜形成体として提供される。
また、低温の加熱環境の大気圧下において結晶膜を形成できることから、加熱処理、活性エネルギー線放射またはプラズマ処理といった簡易な方法が利用でき、大掛かりな加熱装置を必要とせず、熱処理工程の負荷を軽減することができる。
【0011】
結晶材料とフラックス材とを用いて形成できる結晶膜の例としては、アルカリ土類金属酸化物、遷移金属酸化物、遷移金属含有複酸化物、卑金属酸化物、卑金属含有複酸化物、またはそれらを含む化合物からなるもの、また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属のうちの少なくともいずれか一つの金属の酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、塩化物、フッ化物、リン酸塩、アンモニウム塩及び有機化合物から選ばれる結晶材料を用いて得られるアパタイトが挙げられる。
前記アルカリ土類金属酸化物としては、酸化マグネシウムがあり、前記遷移金属酸化物としては、酸化チタン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化タンタル、酸化タングステン、または希土類金属酸化物がある。また、前記遷移金属含有複酸化物としては、チタン酸塩、コバルト酸塩、ニッケル酸塩、ニオブ酸塩、モリブデン酸塩、タンタル酸塩、タングステン酸塩、または希土類金属塩があり、前記卑金属酸化物としては、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化錫または酸化アンチモンがあり、前記卑金属含有複酸化物としては、酸化インジウム錫、酸化亜鉛アルミニウム、または酸化ガリウムアンチモンがある。
また、前記アパタイトとしては、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、または水酸アパタイトがある。
【0012】
また、本発明において表面に結晶膜を形成する基材としては、アルミニウム、銅等の金属、ガラス、セラミックスから選ばれる無機材、生体高分子、あるいはポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、及びポリ(メタ)アクリレート等の樹脂材を用いることができる。また、これらの材料の複合材からなる基材、たとえば、樹脂基板の表面に金属材等の他の材料をラミネートした材料を用いることができる。
【0013】
本発明においてもっとも特徴とする点は、結晶膜を形成する面を粗面とした基材を使用することにある。結晶膜を形成する面を粗面とした基材を用いることにより、基材の表面に、粒の大きさが揃った結晶粒からなる結晶膜を均一に形成することができ、結晶膜を構成する結晶粒の結晶性を良好にする(単結晶として析出させる)ことができる。
基材の粗面の粗度については、とくには限定されないが、基材の表面を粗面として結晶膜を形成する実験において、粗面の凹凸の高さ及び間隔が、数百nm~数十μmである基材を使用して、均一に結晶性の良い結晶膜が得られることを確認した。
【0014】
また、本発明方法によって形成される結晶膜形成体は、基材と、基材の表面上に形成された結晶膜とを備え、前記基材の前記結晶膜が形成された面が粗面に形成され、前記結晶膜は、外面に単結晶の結晶面が現れた結晶粒が集合して膜状に形成されていることを特徴とする。
この結晶膜形成体は、粗面に形成された基材上に結晶が直接析出して形成されたものであり、基材表面が粗面に形成されていることにより、結晶膜と基材との密着性が良好で、耐久性に優れ、結晶膜は単結晶の結晶粒から構成されることにより、結晶そのものの電気化学特性を反映した特性を備え、優れた特性を備える結晶膜形成体として提供される。
また、前記基材表面の凹凸及び間隔が、数百n m ~ 数十μ m であることにより、結晶性のよい結晶膜が形成された結晶膜形成体として提供される。
また、前記結晶膜が電池の電極を構成する活物質からなることにより、電池の電極体として好適に利用できる結晶膜形成体として提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る結晶膜形成体の製造方法によれば、基材の表面に結晶膜が密着した結晶膜形成体提供することができ、また基材表面に形成される結晶膜が単結晶の結晶粒からなることから、結晶そのものの優れた電気化学特性を備える結晶膜形成体として提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フラックスコーティング法により結晶膜形成体を製造する方法を示す説明図である。
【図2】LNMO結晶膜を形成する実験に使用したアルミニウム基板の写真である。
【図3】図2のアルミニウム基板のSEM像である。
【図4】LNMO結晶膜を形成する実験に使用した表面を粗面としたアルミニウム基板の写真である。
【図5】図4のアルミニウム基板のSEM像である。
【図6】平滑表面のアルミニウム基板にLNMO結晶膜を形成した状態を示す写真である。
【図7】粗面に形成したアルミニウム基板の表面にLNMO結晶膜を形成した状態を示す写真である。
【図8】平滑表面のアルミニウム基板に形成したLNMO結晶膜のSEM像である。
【図9】粗面のアルミニウム基板に形成したLNMO結晶膜のSEM像である。
【図10】粗面のアルミニウム基板に形成したLiNi0.5Mn1.5O4結晶膜のXRD測定結果を示すグラフである。
【図11】フラックス蒸発法により結晶膜形成体を製造する方法を示す説明図である。
【図12】表面を粗面としたアルミニウム基板のSEM像である。
【図13】粗面のアルミニウム基板に形成したLCO結晶膜のSEM像である。
【図14】粗面のアルミニウム基板の表面に形成したLiCoO2結晶膜のXRD測定結果を示すグラフである。
【図15】平滑表面のアルミニウム基板に形成したLCO結晶膜のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(結晶膜形成体の製造:フラックスコーティング法)
図1(a)、(b)、(c)は、フラックスコーティング法により基材表面に結晶膜を形成する方法を示す。
図1(a)は、アルミニウム基板等の基材10上に、結晶材料とフラックス材(融剤)とを混合してペースト状とした混合材12を塗布し、基材10上に混合材層12aを形成した状態を示す。
次に、この混合材層12aが設けられた基材10を加熱装置20を用いて熱処理し、基材10の表面に結晶12bを析出させる(図1(b))。
最後に、結晶を析出させた基材10を水洗し、基材10の表面に残留する結晶膜14以外のフラックス材等の残留物を除去し(図1(c))、乾燥させることにより基材表面に結晶膜が被着形成された結晶膜形成体15が得られる。

【0018】
本発明に係る結晶膜形成体の製造方法において、最も特徴とする点は、結晶膜を形成する基材として結晶膜を形成する面を粗面とした基材を使用することにある。
本発明者は、表面を平滑面としたアルミニウム基板と、表面を粗面としたアルミニウム基板の表面に、それぞれフラックスコーティング法によりLNMO結晶膜を形成する比較実験を行い、アルミニウム基板の表面を粗面にすることが、基板表面に均一かつ強固に密着する結晶膜を形成する方法としてきわめて有効であることを確かめた。以下、その実験例について説明する。

【0019】
(実験例:LNMO結晶膜)
結晶膜形成体を形成する例として、アルミニウム基板を基材とし、二次電池の正極に使用されるLi-Ni-Mn系の活物質(LNMO結晶膜)をアルミニウム基板上に形成した例について説明する。
表面が平滑面のアルミニウム基板と、表面を粗面にしたアルミニウム基板を結晶膜を形成に使用するサンプルの基材とした。表面を粗面にしたアルミニウム基板は、表面が平滑面のアルミニウム基板の表面をサンドペーパで擦って粗面にしたものである(基材を用意する工程)。

【0020】
図2は、LNMO結晶膜を形成する実験に使用した、表面が平滑面のアルミニウム基板の写真である。図3(a)、(b)はこのアルミニウム基板のSEM像である。
一方、図4は表面を粗面としたアルミニウム基板の写真であり、図5(a)、(b)はこのアルミニウム基板のSEM像である。図5(a)には、アルミニウム基板をサンドペーパで擦った際に形成された擦過傷が見えている。図5(b)から、基板表面の凹凸部分は数百nm~数十μm程度の範囲にあることがわかる。

【0021】
本実験例では、表面を粗面とするアルミニウム基板(基材)を得るために、サンドペーパによる処理を行ったが、表面を粗面とする方法には、機械的な処理に限らず、化学的なエッチング方法や、放電加工等の電気的加工、レーザ光を用いた光学的加工といった適宜方法が利用できる。また、表面が粗面に形成された基材が市販品等で用意されている場合は、それらの材料を利用してもよい。
実験で使用した基材表面の粗度は、凹凸の高さあるいは間隔が数百nm~数十μm程度の範囲にばらついており、基材表面の凹凸は形状や間隔が必ずしも整っているものでなければならないものではない。基材表面に形成する結晶粒はナノオーダから5μm程度の大きさであり、結晶粒の大きさよりもかなり粗い粗面であっても均一に結晶膜を形成することができる。

【0022】
次いで、サンプルのアルミニウム基板の塗布する塗布液を用意する。塗布液は、LNMO結晶膜を形成するための結晶材料であるLi源、Ni源、Mn源の各化合物とフラックス材とを混合した混合材である。この混合材に水を加えて水溶液とし、アルミニウム基板の表面に滴下してアルミニウム基板の表面に混合材層を形成した。混合材層の厚さは10μm程度である(混合材層を形成する工程:図1(a))。

【0023】
実験では、Li源、Ni源、Mn源とフラックス材として下記のものを使用した。
LI源:LiNO3 、Ni源:Ni(NO3)2・6H2O 、Mn源:Mn(NO3)2・6H2O
Li/(Ni-Mn)比:1.5
フラックス:LiCl-KCl(LiCl:KCl=59.5:40.5)
LNMO結晶の化学式はLiNiMn2-xO4(0<x<1)である。実験では、Li/(Ni-Mn)比が1.5となるように混合材を調整し、アルミニウム基板の表面にLiNiMn1.5O4からなる結晶膜(活物質)が生成されるようにした。

【0024】
次に、混合材を塗布した二つのアルミニウム基板を、ともに加熱炉内に設置し、熱処理した。実験では、室温から所定温度まで徐々に昇温させ、結晶粒を析出させる温度で保持した後、停止温度まで降温させ、停止温度以降は室温まで自然放冷させた。熱処理における具体的な温度条件は、下記のとおりである。
加熱速度:15℃・min-1 、 保持温度:400℃ 、 保持時間:30min
冷却速度:200℃・h-1 、 停止温度:300℃

【0025】
上記の熱処理工程は、アルミニウム基板に塗布形成した混合材層にエネルギーを与えて、混合材を溶融し、基材の表面にLNMO結晶を析出させるための工程である(結晶を析出させる工程:図1(b))。この熱処理工程における温度条件は、混合材の組成によって適宜条件に設定される。混合材層にエネルギーを与える方法としては、加熱炉、大気圧プラズマジェット、大気圧マイクロプラズマ、レーザ等を利用することができる。

【0026】
次に、熱処理を施して基板の表面に結晶粒を析出させたアルミニウム基板を水洗し、基板表面に残留する結晶膜以外のフラックス成分その他の残留物を除去した後、乾燥させることにより、表面にLNMO結晶膜が形成されたアルミニウム基板(結晶膜形成体)を得た(残留物を除去する工程:図1(c))。実験では、水温約80℃で水洗浄し、100℃で乾燥させた。フラックス成分は水溶性であり、水洗によって簡単に洗浄除去できる。

【0027】
図6、7は、表面にLNMO(LiNi0.5Mn1.5O4)結晶膜を形成したアルミニウム基板の写真である。図6は、平滑表面のアルミニウム基板を使用したもの、図7は、結晶膜を形成する面を粗面にしたアルミニウム基板を使用したものである。
図6のサンプルでは、基板の表面にLNMO結晶膜が均一に形成されておらず、結晶膜が偏って付着している。これに対して、表面を粗面とした図7のサンプルでは、基板の表面全体に均一に、厚さのばらつきもなく結晶膜が形成されている。

【0028】
図8(a)、(b)は、平滑表面のアルミニウム基板の表面に形成したLNMO結晶膜のSEM像、図9(a)、(b)は粗面のアルミニウム基板の表面に形成したLNMO結晶膜のSEM像である。
図8に示す、平滑表面のアルミニウム基板に形成されているLNMO結晶膜は、結晶粒が粗く、基板表面に形成された結晶の形態がきわめて不均一となっている。これに対して、図9に示す、粗面に形成したLNMO結晶膜は、結晶粒の大きさが平滑表面に析出した結晶にくらべてはるかに小さく、かつ結晶粒の大きさがそろっている。
図9(b)に示すように、一つ一つの結晶が完全結晶(単結晶)となっており、LNMO結晶の結晶面が現れていることがわかる。すなわち、アルミニウム基板の表面を粗面にすることにより、基板表面に形成される結晶膜の結晶性を良好にすることができ、結晶そのものの電気化学特性を反映した結晶膜となる。また、基板表面に均一に、緻密に結晶膜を形成されることから、図8に示すような大小の結晶がまばらに形成される状態と比較して、基板と結晶膜との密着性が良好になる。

【0029】
図10は、粗面のアルミニウム基板の表面に形成したLNMO(LiNi0.5Mn1.5O4)結晶膜についてのXRD測定結果を示す。XRD測定では、基板に被着した結晶膜を削り取り、粉末として測定した。この測定結果は、基板上に形成された被膜が、LiNi0.5Mn1.5O4結晶からなることを示している。

【0030】
(結晶膜形成体の製造:フラックス蒸発法)
図11(a)、(b)、(c)は、フラックス蒸発法により基材の表面に結晶膜を形成する工程を示す。
フラックス蒸発法では、基材表面に形成する結晶膜の材料となる結晶材料とフラックス材とからなる混合材13を容器30に入れ、容器30内の混合材13とは離間させるようにして容器30の開口部にアルミニウム基板等の基材10を配置し(図11(a))、基材10と容器30とを加熱装置40を用いて熱処理して基材10の表面に結晶13aを析出させ(図11(b))、結晶粒が析出した基材10を水洗して、基材10上の結晶膜を除くフラックス材等の残留物を除去して(図11(c))、乾燥することにより、基材10の表面に結晶膜16が形成された結晶膜形成体18を得る。

【0031】
フラックス蒸発法は、容器30内で混合材13を溶融させて蒸発させることにより、基材10の表面に結晶を析出させる方法である。フラックス蒸発法においてもフラックスコーティング法と同様に、結晶材料とフラックス材との混合材を用いることにより、結晶材料の溶融温度よりも低温で溶融させることができ、加熱装置40の負荷を軽減させることができる。基材10は単に容器30の開口部を覆うように配置し、混合材が蒸発する蒸発雰囲気に基材表面が曝されるようにすればよく、大気圧下において結晶を析出させることができる。

【0032】
(実験例:LCO結晶膜)
フラックス蒸発法を利用して結晶膜形成体を形成する例として、LiCoO2の結晶膜(LCO結晶膜)をアルミニウム基板上に形成した例について説明する。
本実験においても、表面が平滑面のアルミニウム基板と、表面を粗面にしたアルミニウム基板をサンプルとして実験を行った。図12(a)、(b)は、表面を粗面としたアルミニウム基板のSEM像である。表面を粗面にしたアルミニウム基板も、前述した実験例と同様にサンドペーパで平滑表面のアルミニウム基板を擦って得たものである。図12(b)に示すように、この実験で使用したアルミニウム基板の粗面の凹凸形状も均一ではなく、凹凸の大きさ及び間隔は数百nm~数十μm程度である。

【0033】
LCO結晶膜を形成する結晶材料であるLi源とCo源、フラックス材には、下記のものを使用した。
Li源:Li2CO3 、Co源:Co(NO3)2・6H2O
Li/Co比:1
フラックス:Li2CO3

【0034】
容器30には、容積30ccのアルミナ製容器を使用し、Li源及びフラックスとして働くLi2CO3を2.9グラム、Co(NO3)2・6H2Oを11.3グラムを混合して混合材13とした。
混合材13を容器30の容積の4/5程度まで入れ、容器30の開口部を塞ぐようにアルミニウム基板10をセットした。アルミニウム基板10は結晶膜を形成する面を容器30の内側に向けて配置する。

【0035】
加熱装置40として加熱炉を使用し、下記の温度条件で熱処理した。
加熱速度:15℃・min-1 、 保持温度:600℃ 、 保持時間:10h
冷却速度:200℃・h-1 、 停止温度:200℃
600℃に10時間保持した後、200℃・h-1で降温させ、200℃となったところで、降温コントロールを停止し、それ以降は室温まで自然放冷させた。

【0036】
上記の熱処理工程により、基材であるアルミニウム基板の表面にLCO結晶粒が析出する。
次に、この結晶粒が析出したアルミニウム基板を水洗し、基板表面に残留する結晶膜以外のフラックス成分その他の残留物を除去し、乾燥させる。実験では、水温約80℃で水洗浄し、100℃で乾燥させた。こうして、アルミニウム基板の表面にLCO結晶膜が形成された結晶膜形成体が得られた。

【0037】
図13(a)、(b)は、表面を粗面としたアルミニウム基板の表面に形成された結晶膜のSEM像である。基板の表面に粒の大きさがそろった結晶粒が均一に形成されている。図13(b)は、基板表面に形成された結晶粒が完全結晶(単結晶)として形成され、単結晶の結晶面が現れていることを示す。

【0038】
図14は、アルミニウム基板の表面に形成された結晶膜のXRD測定結果である。XRD測定は、結晶膜を形成したアルミニウム基板をそのまま測定したものである。このXRD測定結果から、基板表面にLiCoO2結晶が形成され、わずかにCoOとCo3O4が存在することがわかる。
なお、図15(a)、(b)は平滑表面のアルミニウム基板の表面に形成された結晶膜のSEM像である。基板の表面に粒の大きさが不揃いな結晶粒がまばらに形成されている。

【0039】
上述したように、フラックス蒸発法によって基材の表面に結晶膜を形成した場合も、基材の表面を粗面に形成することによって、基材表面に均一に結晶膜を形成することができ、結晶膜を形成する結晶粒の結晶性が良好になることが確かめられた。基材表面に形成される結晶膜の均一性、結晶性が優れることから、上記方法によって得られた結晶膜形成体は、結晶そのものが有する優れた電気化学特性を発揮することができ、基材との密着性も良好となって耐久性を向上させることが可能となる。

【0040】
本発明に係る結晶膜形成体は、基材の表面を粗面に形成するという、きわめて簡易な構成を要件とするものであり、フラックスコーティング法あるいはフラックス蒸発法といった、基材表面に高品質の結晶膜を形成する方法として有用な方法に適用する方法としてきわめて効果的に利用することができる。
結晶膜を形成する表面をあらかじめ粗面とした基材を使用する方法は、結晶材料とフラックス材との混合材を利用して基材表面に結晶膜を形成する方法については、フラックスコーティング法、フラックス蒸発法以外の方法を適用する場合にも同様に利用することが可能である。

【0041】
また、上記実験例では、二次電池の正極の活物質となるLNMO結晶膜、LCO結晶膜を基材表面に形成する例について説明したが、上記実験例は、基材表面に結晶膜を形成する一例であり、LNMO結晶膜、LCO結晶膜以外の多くの活物質の結晶膜を形成する場合にも適用できる。また、Li4Ti5O12、H2Ti12O25等の二次電池の負極の活物質の結晶膜を形成するあ場合もまったく同様に利用することができる。
アルミニウム基板上のこれらの活物質を形成した結晶膜形成体は、電気化学特性に優れるとともに、結晶膜の安定性、耐久性、寿命の点においても優れていることから、二次電池の電極体として好適に利用することができる。

【0042】
また、上記実験例では、基材としてアルミニウム基板を使用したが、結晶膜を形成する基材はアルミニウム基板に限られるものではなく、銅基板等の他の金属材を使用することができる。また、基材は金属材に限らす、セラミックや樹脂材を使用することが可能であり、用途に応じて基材と、基材表面に形成する結晶膜とを選択することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 基材
12、13 混合材
12a 混合材層
12b 結晶
13a 結晶
14、16 結晶膜
15、18 結晶膜形成体
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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