TOP > 国内特許検索 > 消化汚泥の分解方法 > 明細書

明細書 :消化汚泥の分解方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6218264号 (P6218264)
公開番号 特開2014-158433 (P2014-158433A)
登録日 平成29年10月6日(2017.10.6)
発行日 平成29年10月25日(2017.10.25)
公開日 平成26年9月4日(2014.9.4)
発明の名称または考案の名称 消化汚泥の分解方法
国際特許分類 C12N   1/14        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C02F  11/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12R   1/645       (2006.01)
C12R   1/80        (2006.01)
FI C12N 1/14 A
C12N 1/14 Z
C12N 1/14 B
C12N 1/00 S
C02F 11/02 ZAB
C12N 15/00 A
C12N 1/14 A
C12R 1:645
C12R 1:80
請求項の数または発明の数 7
微生物の受託番号 NPMD NITE P-1523
NPMD NITE P-1524
NPMD NITE P-1522
NPMD NITE P-1525
全頁数 12
出願番号 特願2013-030270 (P2013-030270)
出願日 平成25年2月19日(2013.2.19)
審査請求日 平成28年2月16日(2016.2.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】藤井 克彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100120086、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼津 一也
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
審査官 【審査官】小林 薫
参考文献・文献 J. Appl. Microbiol., 2011, Vol.111, p.1371-1380
Ann. Microbiol., 2010, Vol.60, p.615-622
Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.94, p.413-423
Bioprocess Biosyst. Eng., 2011, Vol.34, p.939-949
調査した分野 C12N 1/00- 7/08
C02F 11/00-11/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である微生物を、消化汚泥を含有する培養液で培養する消化汚泥の分解方法であって、前記微生物がペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のいずれか1種又は2種以上の微生物であることを特徴とする消化汚泥の分解方法。
【請求項2】
微生物がキシラナーゼ及びキチナーゼ活性を有することを特徴とする請求項1記載の消化汚泥の分解方法。
【請求項3】
微生物がペニシリウム・ジャンシネラムCedarWA2株(受託番号:NITE P-1523)、カニンガメラ・バイニエリCedarWA4株(受託番号:NITE P-1524)、ネオサルトリア・フィシェリOreWA株(受託番号:NITE P-1522)、ウンベロプシス・イサベリナFernWA株(受託番号:NITE P-1525)のいずれか1種又は2種以上の微生物であることを特徴とする請求項1又は2記載の消化汚泥の分解方法。
【請求項4】
消化汚泥からあらかじめ金属を溶脱させる工程を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の消化汚泥の分解方法。
【請求項5】
消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である、ペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)CedarWA2株(受託番号:NITE P-1523)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)CedarWA4株(受託番号:NITE P-1524)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)OreWA株(受託番号:NITE P-1522)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)FernWA株(受託番号:NITE P-1525)のいずれかの微生物。
【請求項6】
キシラナーゼ及びキチナーゼ活性を有することを特徴とする請求項5記載の微生物。
【請求項7】
請求項5又は6記載の微生物を、消化汚泥を含有する培養液に接種して培養することを特徴とする、消化汚泥分解物と微生物との混合物の製造方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である微生物や、かかる微生物を、消化汚泥を含有する培養液で培養する消化汚泥の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭生活ならびに産業由来の下水を浄化する場合、一般には活性汚泥法等の生物学的処理が用いられている。生物学的処理では下水中の有機物、窒素、リン等の汚染物質を処理槽に棲息する微生物に栄養として摂取させることで下水の上澄みを浄化し、河川等の自然水域に放流できる仕組みとなっている。かかる処理槽では、下水から汚染物質が除去された量に応じて微生物が増殖し、増殖した微生物が廃棄物として大量に発生しており、これは余剰汚泥と呼ばれている。このように、地域の下水処理場には毎日大量の下水が流入することから余剰汚泥の年間発生量は莫大なものとなる。
【0003】
そこで、下水処理場で排出される余剰汚泥を有効利用する手段として、バイオガス(メタン含有ガス)生産が採用されるようになってきた。特によく研究されているのはメタン生産菌等の嫌気性微生物による嫌気消化技術であり、例えば、余剰汚泥を汚泥分、液状有機性廃棄物及び固形状有機性廃棄物とともにメタン発酵処理する廃棄物処理方法(例えば、特許文献1参照)や、メタン生成菌を主体とする嫌気性菌が自己固定化したグラニュール汚泥を充填したメタン生成槽を備えた汚泥処理装置(例えば、特許文献2参照)や、アルカリ無添加の余剰汚泥、あるいは0.02N以下のアルカリ濃度でアルカリ条件とした余剰汚泥を、嫌気条件で加温処理して得られた可溶化液を上向流嫌気性汚泥床法により高速メタン発酵処理する余剰汚泥の処理方法(例えば、特許文献3参照)が報告されている。
【0004】
このように、余剰汚泥を有効利用する手段として、バイオガス生産が行われているが、バイオガス生産ではメタン生産菌等の嫌気性微生物によって生分解しやすい成分、例えば、水溶性糖質、タンパク質、脂質等の下水中の水溶性有機物や、活性汚泥微生物の細胞内成分は分解されるものの、分解後には難生分解性の成分、例えば、活性汚泥微生物やメタン生産菌の細胞壁多糖に由来するキチン、人毛に由来するケラチン、し尿由来のセルロース、キシラン等の難分解性糖質などの消化汚泥が発生する。その消化汚泥の量は年間およそ1億7千万トンにも達し、我国で最も大量に排出される産業廃棄物であり、産業廃棄物全体の44.5%も占める(例えば、非特許文献1参照)。発生した消化汚泥は、一部が建設資材の副原料や下水堆肥の原料として利用されるにとどまり、残りの多くは有効な用途もなく産業廃棄物として処分される現状にある。
【0005】
そこで、消化汚泥を減量する方法が研究されている。例えば、消化汚泥の一部分にオゾン処理を行ない、オゾン処理後にアルカリ処理及び嫌気性消化を行なう工程を含む有機性廃液の処理方法(例えば、特許文献4参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平11-309438号公報
【特許文献2】特開平9-29290号公報
【特許文献3】特開平09-1194号公報
【特許文献4】特開2005-7339号公報
【0007】

【非特許文献1】平成23年度事業 産業廃棄物排出・処理状況調査報告書 平成21年度実績(概要版) 第25頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでに、物理化学的処理工程を含まず、生物学的に消化汚泥を処理する技術は開発されていない。また、消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である微生物を単離したことも報告されていない。本発明の課題は、下水処理の最終産物である消化汚泥を微生物によって分解する方法や、消化汚泥を分解する微生物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、下水処理の最終産物である消化汚泥を分解できる微生物を鋭意探索した。消化汚泥の主要成分は難生分解性とはいえ、元々は微生物の増殖バイオマスを多く含むことから、これを生分解できる微生物は比較的容易に得られるであろうと当初期待したが、探索開始から数年間は消化汚泥を分解できる微生物を得ることができなかった。そこで原因を検討し、汚泥に含まれる重金属類や消化汚泥を脱水するために用いられる凝集剤の塩化アルミニウム等が微生物の生育に悪影響を与えていることが関与していると考え、酸処理によって金属を溶脱させた消化汚泥を用いて再度微生物探索を試みたところ、消化汚泥を分解する能力を持つ微生物を単離することができ、かかる微生物が意外にも消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育できるものであることを確認し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、[1]消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である微生物を、消化汚泥を含有する培養液で培養する消化汚泥の分解方法であって、前記微生物がペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のいずれか1種又は2種以上の微生物であることを特徴とする消化汚泥の分解方法や、[2]微生物がキシラナーゼ及びキチナーゼ活性を有することを特徴とする上記[1]記載の消化汚泥の分解方法や、[3]微生物がペニシリウム・ジャンシネラムCedarWA2株(受領番号:NITE AP-1523)、カニンガメラ・バイニエリCedarWA4株(受領番号:NITE AP-1524)、ネオサルトリア・フィシェリOreWA株(受領番号:NITE AP-1522)、ウンベロプシス・イサベリナFernWA株(受領番号:NITE AP-1525)のいずれか1種又は2種以上の微生物であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の消化汚泥の分解方法や、[4]消化汚泥からあらかじめ金属を溶脱させる工程を含むことを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載の消化汚泥の分解方法に関する。
【0011】
また本発明は、[5]消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上である、ペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のいずれかの微生物や、[6]キシラナーゼ及びキチナーゼ活性を有することを特徴とする上記[5]記載の微生物や、[7]ペニシリウム・ジャンシネラムが、ペニシリウム・ジャンシネラムCedarWA2株(受領番号:NITE AP-1523)であることを特徴とする上記[5]又は[6]記載の微生物や、[8]カニンガメラ・バイニエリが、カニンガメラ・バイニエリCedarWA4株(受領番号:NITE AP-1524)であることを特徴とする上記[5]又は[6]記載の微生物や、[9]ネオサルトリア・フィシェリが、ネオサルトリア・フィシェリOreWA株(受領番号:NITE AP-1522)であることを特徴とする上記[5]又は[6]記載の微生物や、[10]ウンベロプシス・イサベリナが、ウンベロプシス・イサベリナFernWA株(受領番号:NITE AP-1525)であることを特徴とする上記[5]又は[6]記載の微生物に関する。
【0012】
さらに本発明は、[11]上記[5]~[10]のいずれか記載の微生物を、消化汚泥を含有する培養液に接種して培養することにより得られる、消化汚泥分解物と微生物との混合物や、[12]上記[11]記載の消化汚泥分解物と微生物との混合物を含む燃料に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に用いる微生物は消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥の分解能力も高いことから、消化汚泥を低コストで大量に分解することができ、産業廃棄物の大幅な減量が可能となる。また、本発明によって得られた消化汚泥の分解物と微生物との混合物(以下「汚泥-菌体混合物」ともいう)は燃焼時発熱量が高いことから、燃料としての利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】分離した消化汚泥分解微生物の顕微鏡写真である。
【図2】消化汚泥分解試験の結果を示す図である。
【図3】CedarWA2における熱量測定の結果を示す図である。
【図4】分離した消化汚泥分解微生物の系統樹を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の微生物としては、消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育でき、消化汚泥に水を添加した培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養したときの固形物重量の減少率(%)が10.0%以上であるペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、又はウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)に属する微生物であれば特に制限されず、また、本発明の消化汚泥の分解方法としては、上記本発明の微生物を、消化汚泥を含有する培養液で培養する方法であれば特に制限されず、かかる本発明の消化汚泥の分解方法により、消化汚泥を低コストで大量に分解することができ、産業廃棄物の大幅な減量が可能となる。また本発明は、上記本発明の微生物を、消化汚泥を含有する培養液に接種して培養することにより得られる消化汚泥分解物と微生物との混合物に関する他、かかる消化汚泥分解物と微生物との混合物を含む燃料に関する。さらに、本発明の消化汚泥の分解方法により得られる汚泥-菌体混合物もまた燃料として有用である。

【0016】
本発明において、「消化汚泥」とは、余剰汚泥をメタン生産菌等の嫌気性微生物によって生分解した際に発生する難生分解性の成分から構成される汚泥残渣であり、かかる消化汚泥には、活性汚泥微生物等の好気性菌及びメタン生産菌等の嫌気性菌の細胞壁多糖に由来するキチン、人毛に由来するケラチン、し尿由来のセルロース、キシラン等の難分解性糖質が含まれる。

【0017】
本発明において、「消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液」とは、消化汚泥以外の有機物、無機物等の微生物が生育するために必要な栄養源を添加していない培養液、好ましくは懸濁培養液であり、懸濁状態にある消化汚泥や消化汚泥と水との混合物等を挙げることができる。培養液のpHは5であり、適宜調節することができる。また、培養液を使用する前には、必要に応じてオートクレーブ等により培養液を滅菌処理することができる。

【0018】
本発明において、「固形物重量の減少率(%)」とは、(培養前の固形物重量(g)-培養後の固形物重量(g))/培養前の固形物重量(g)×100で求められ、上記培養前の固形物重量とは、微生物を接種した培養前の消化汚泥の乾燥重量であり、上記培養後の固形物重量とは、培養後の汚泥-菌体混合物の乾燥重量であり、ここで乾燥重量は、遠心分離(3000rpm、10分)後の残渣を乾燥(105℃、24時間)した重量(g)である。

【0019】
本発明において、「消化汚泥を含有する培養液」とは、少なくとも消化汚泥を含有する培養液であれば特に制限されず、かかる培養液には、消化汚泥や水の他に、必要に応じて有機物、無機物等の栄養源やpH調節剤を添加することができる。また、培養液を使用する前には、オートクレーブ等により培養液を滅菌処理してもよい。

【0020】
本発明において、消化汚泥を含有する培養液で培養し、消化汚泥を分解する際の培養条件は特に制限されないが、例えば培養液のpHは4~8、好ましくは5~7であり、培養温度は20℃~35℃、好ましくは25℃~30℃であり、培養時間は3日~20日、好ましくは7日~14日であり、通気培養、振とう培養、撹拌培養、静置培養、又はこれらの組み合わせでもよい。

【0021】
本発明の消化汚泥の分解方法に用いる微生物や本発明の微生物としては、上記固形物重量の減少率(%)が10%以上のペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、カニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のいずれかの天然から分離した微生物やその人為的な変異株であれば特に制限されないが、キシラナーゼやキチナーゼ活性、好ましくはキシラナーゼ、キチナーゼ及びケラチナーゼ活性を有する微生物や、固形物重量の減少率(%)が13%以上、好ましくは14%以上、より好ましくは18%以上、さらに好ましくは25%以上の微生物や、汚泥-菌体混合物の単位重量あたりの燃焼時発熱量(発熱により増加する温度センサーの電圧値を燃焼時間で積分した値;μVsec/mg)が10000以上、好ましくは11000以上、より好ましくは12000以上の微生物を好適に例示することができる。なお、消化汚泥の分解方法に用いる場合には、上記微生物を2種以上用いてもよい。

【0022】
本発明の消化汚泥の分解方法に用いる微生物や本発明の微生物としては、天然から分離したペニシリウム・ジャンシネラムCedarWA2株(受領番号:NITE AP-1523)、カニンガメラ・バイニエリCedarWA4株(受領番号:NITE AP-1524)、ネオサルトリア・フィシェリOreWA株(受領番号:NITE AP-1522)、若しくはウンベロプシス・イサベリナFernWA株(受領番号:NITE AP-1525)、又はそれらの変異株を特に好適に例示することができる。かかる天然から分離した微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2013年2月1日付でそれぞれ寄託されている。

【0023】
本発明の消化汚泥の分解方法においては、消化汚泥からあらかじめ金属を溶脱させる工程を含むことが好ましい。金属には、アルミニウム等の軽金属や、銅、ニッケル、鉛、亜鉛、カドミウム等の重金属が含まれる。金属を溶脱させる方法としては、消化汚泥を硫酸や塩酸等の鉱酸、好ましくは硫酸で処理し、その後酸を除去する方法を挙げることができ、例えば2Nの硫酸で1時間処理し、その後消化汚泥と酸の混合物をろ過し、ろ過残渣を十分量の水で洗浄する方法が挙げることができる。金属を溶脱させることにより、微生物の増殖力が高まり、消化汚泥の分解能力が向上する。

【0024】
さらに本発明の微生物の菌糸体や胞子は、消化汚泥を分解するためのキットや微生物製剤として使用されてもよく、その場合には、本発明の微生物を用いて消化汚泥を分解する方法等を記載した文書を添付することができる。

【0025】
本発明において、消化汚泥を含有する培養液に本発明の微生物を接種して、消化汚泥分解物と微生物との混合物を得る際の培養条件は、前述の本発明の消化汚泥の分解方法における培養条件と同様である。かかる消化汚泥分解物と微生物との混合物には、消化汚泥の分解物、消化汚泥の未分解物、増殖した微生物等が含まれる。

【0026】
本発明の燃料としては、上記消化汚泥分解物と微生物との混合物を含む固形物を好適に例示することができ、かかる固形物としては、培養後の培養液を遠心分離して培養上清を除去した後に残った残渣の乾燥物や、培養後の培養液におがくず、もみ殻等の可燃性吸水物質を添加し、必要に応じて乾燥したものを挙げることができる。上記遠心分離の条件は特に制限されないが、消化汚泥の量や組成、微生物の種類によって適宜調整することができ、例えば回転数は1000~10000rpm、好ましくは2000rpm~5000rpm、より好ましくは2500rpm~3500rpmであり、時間は1分~60分、好ましくは3分~30分、より好ましくは5分~15分である。上記乾燥の温度や時間は、消化汚泥の量や組成、微生物の種類によって適宜調整することができ、例えば、温度は90℃~120℃、好ましくは100℃~110℃であり、時間は12時間~30時間、好ましくは20時間~28時間である。
【実施例1】
【0027】
[消化汚泥分解微生物の探索]
(消化汚泥の酸処理)
下水処理場から入手した脱水消化汚泥300gと2N硫酸600mlをガラスビーカーに加えて混合し、1時間室温静置し、活性汚泥に含まれる金属を溶脱した。この方法で酸処理を施した消化汚泥と硫酸の混合物をガーゼでろ過し、ガーゼ上に残った消化汚泥を十分量の水で洗浄することで硫酸を除いた。水洗を繰り返すごとにpH試験紙を消化汚泥に漬け、pHが6以上に戻った時点で硫酸が除去されたと判断した。さらに消化汚泥を105℃で24時間乾燥させた後、オステライザーブレンダー(Oster社製)で破砕することで乾燥粉末とした。
【実施例1】
【0028】
(汚泥分解微生物の分離)
消化汚泥分解微生物を得るために、山口県各所(森林など9箇所)より土壌を採集し、土壌10gを滅菌水30mlに懸濁して接種源とした。消化汚泥200mgと水10mlからなる消化汚泥培養液(以下、単に「消化汚泥培養液」ともいう。)をフラスコに入れて121℃、15分間オートクレーブ(TOMY社製)にて滅菌した。滅菌後の消化汚泥培養液のpHは5.0であった。熱処理により汚泥中の一部の成分が水に溶出したことにより、pHが低下したと考えられる。次に、滅菌した消化汚泥培養液に接種源0.2mlを加え、30℃で7日間振とう培養(集積培養)した。集積培養によって微生物増殖が認められたフラスコから菌液0.2mlを採取し、滅菌した新鮮な消化汚泥培養液が入ったフラスコに接種し、継代培養を7日間行った。この継代培養を2回繰り返した後、菌液30μlをYM寒天培地(10g/lグルコース、3g/l酵母エキス、3g/l麦芽エキス、5g/lバクトペプトン、20g/lバクトアガー)に接種し、30℃で静置培養を7日間行った。出現したコロニーを滅菌済み爪楊枝で拾い、これを新しいYM寒天培地に画線接種することで菌株の純粋分離を行った。このようにして合計8株の分離株(FernWA、CedarWA1、CedarWA2、CedarWA3、CedarWA4、OreWA、OreYA、GalleryYA)を得た。得られた8株を滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間培養し、顕微鏡で観察した結果を図1に示す。
【実施例1】
【0029】
図1中の矢印で示した箇所で明らかなように、菌糸又は胞子を観察することができ、得られた8株はいずれも消化汚泥培養液で生育できること、すなわち消化汚泥を唯一の栄養源とする培養液で生育できることが確認できた。なお、図1中の黒又は灰色の粒子は伸展した菌糸と絡み合った消化汚泥である。
【実施例2】
【0030】
[消化汚泥分解試験]
(固形物重量の減少率の算出)
各分離株の薄い菌膜片5mgを上記と同様の条件でオートクレーブ処理して滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養した。培養後の菌液をH-19F遠心分離機(コクサン社製)で遠心分離(3000rpm、10分)して培養上清を除去した後に残った残渣(消化汚泥分解物、消化汚泥の未分解物及び増殖した微生物の混合物)を乾燥(105℃、24時間)し、固形物を得た。この固形物の重量を測定することで、培養による固形物重量の減少率を、固形物重量の減少率(%)=(培養前の固形物重量(g)-培養後の固形物重量(g))/培養前の固形物重量(g)×100で求めた。コントロールとして、微生物の接種無しで滅菌した消化汚泥培養液をpH5、温度30℃の条件下で7日間振とうした。各分離株それぞれ3株の固形物重量の減少率の平均値を図2に示す。
【実施例2】
【0031】
(結果)
図2に示すように、固形物重量の減少率はFernWA株で13.0%、CedarWA1株及びCedarWA2株はそれぞれ14.0%、14.5%、CedarWA3株及びCedarWA4株はそれぞれ18.5%、18.0%、OreWA株で27.0%であった。
【実施例3】
【0032】
[酵素活性試験]
分離株が活性汚泥に含まれるどのような成分を分解して生育するのかを知るため、消化汚泥の成分に対する分解酵素の活性を検討した。具体的には、エキソセルラーゼ、エンドセルラーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼ、ケラチナーゼ活性を測定した。
【実施例3】
【0033】
(測定方法)
実施例2と同様に各分離株を滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養した。次に、培養液をガラスろ紙でろ過し、得られた培養上清を酵素液として各種酵素活性試験に用いた。エキソセルラーゼ、エンドセルラーゼ、キシラナーゼ及びキチナーゼ活性の測定では、各基質(セルロース、カルボキシメチルセルロース、キシラン及びキチン)10mg、クエン酸緩衝液(pH4.8)0.8ml、酵素液0.2mlをマイクロチューブに加えて50℃で60分加温し、この間に遊離する還元糖の濃度をDNS法(Ghose TK, Pure and Applied Chemistry (1987) 59, 257-268)で測定することで酵素活性を定量した。ケラチナーゼ活性の測定では、ケラチンアズール(シグマアルドリッチ社製)10mg、62.5mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)0.8ml、酵素液0.2mlをマイクロチューブに加えて50℃で60分加温し、Riffelらの方法(Riffel A et al., Journal of Biotechnology (2007) 128, 693-703)に基づき酵素活性を算出した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0034】
【表1】
JP0006218264B2_000002t.gif
【実施例3】
【0035】
(結果)
表1より、分離株はすべてキシラナーゼ活性を有し、CedarWA3とGalleyYAを除いてキチナーゼ活性も有していた。また、FernWA、CedarWA4、OreWA、OreYAはキシラナーゼ、キチナーゼ及びケラチナーゼ活性を有していた。活性汚泥にはし尿に由来するキシラン等の未消化植物繊維が含まれると推察される。また、メタン生産菌には分解できない糸状菌や原生生物の細胞壁成分であるキチンや、人毛に由来するケラチンも多く残存していると考えられる。これらは活性汚泥曝気槽の好気微生物やメタン生産菌では生分解しづらい成分であることから、分離株はこれら成分を分解することで生育していると考えられる。
【実施例4】
【0036】
[熱量及び燃焼時発熱量の測定]
(熱量の測定方法)
実施例2と同様に各分離株を滅菌した消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、遠心分離及び乾燥処理を行って消化汚泥分解物と微生物との混合物からなる固形物を得た。この固形物の熱量をThermo Plus EvoII差動型示差熱天秤(リガク社製)を用いて測定した。炉内温度を毎分20℃の割合で室温から800℃まで昇温させ、この間に燃焼して発せられる熱量を、発熱により増加する温度センサーの電圧値(μV)によって測定した。
【実施例4】
【0037】
(結果)
CedarWA2における熱量測定の結果を図3に示す。横軸は燃焼時間(分)、右の縦軸は熱量(μV)、左の縦軸は炉内温度(℃)であり、点線の直線が炉内温度、実線の曲線がCedarWA2を接種した消化汚泥培養液の培養後の固形物の熱量、点線の曲線が微生物未接種の消化汚泥培養液の培養後の固形物の熱量である。微生物未接種の消化汚泥培養液の培養後の固形物では、530℃で70μV程度であるのに対し、CedarWA2を接種した消化汚泥培養液の培養後の固形物では、530℃で2倍以上の180μVであり、高い熱量を有していた。
【実施例4】
【0038】
(燃焼時発熱量の測定方法)
さらに、各分離株を消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、培養液から得た固形物の単位重量あたりの燃焼時発熱量(μVsec/mg)、及び、消化汚泥培養液に微生物未接種でpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、培養液から得た固形物の単位重量あたりの燃焼時発熱量を1とした場合の、各分離株を消化汚泥培養液に接種してpH5、温度30℃の条件下で7日間振とう培養し、培養液から得た固形物の単位重量あたりの燃焼時発熱量との相対発熱量を求めた。単位重量あたりの燃焼時発熱量は、発熱により増加する温度センサーの電圧値を燃焼時間で積分することで求めた。
【実施例4】
【0039】
(結果)
結果を表2に示す。いずれの微生物で培養した場合も微生物未接種に較べて単位重量あたりの燃焼時発熱量で高い値が得られ、特に、FernWA株、CedarWa2株、CedarWA4株、OreWA株では微生物未接種における固形物の燃料の1.4倍~1.68倍もの燃焼時発熱量を有していた。
【実施例4】
【0040】
【表2】
JP0006218264B2_000003t.gif
【実施例5】
【0041】
[各分離株の系統解析]
(系統解析方法)
得られた各分離株の系統解析は、菌類の系統分類に用いられるDNAバーコードとして最も有望であると提案されている内部転写スペーサー領域(Internal Transcribed Spacer:ITS)を解析する方法によって行った(Conrad L. Schoch et al., PNAS (2012) 109, 6241-6246)。各分離株をYM培地(10g/lグルコース、3g/l酵母エキス、3g/l麦芽エキス、5g/lバクトペプトン)20mlで30℃の条件下で7日間静置培養した。7日間の培養で生成された菌膜を水洗した後、Master Pure Yeast DNA Purification Kit(Epicentre社製)を用いてゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型とし、KOD Fx DNA polymerase(東洋紡社製)を用いてITS領域をPCR増幅した。PCR反応のプライマーにはITS1プライマー(5’-TCCGTAGGTGAACCTGCGG-3’:配列番号1)とITS4プライマー(5’-TCCTCCGCTTATTGATATGC-3’:配列番号2)を用い、PCR温度条件は、98℃で10秒、54℃で30秒、68℃で60秒を30サイクルとした。増幅されたITS領域DNAはBigDye Terminator ver3.1 Cycle Sequencing kit(Life Technologies社製)を用いて配列を決定した。得られた配列をBLASTアルゴリズムに入力し、GenBank、EMBL、DDBJ遺伝子データベースの既知DNA配列と照合することで、分離株の属種を決定した。
【実施例5】
【0042】
(結果)
CedarWA1のITS領域の塩基配列(配列番号3)、CedarWA2のITS領域の塩基配列(配列番号4)はペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)のITS領域の塩基配列と99%同一であり、CedarWA3のITS領域の塩基配列(配列番号5)、CedarWA4のITS領域の塩基配列(配列番号6)はカニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)のITS領域の塩基配列と99%同一であり、OreWA株のITS領域の塩基配列(配列番号7)はネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)のITS領域の塩基配列と100%同一であり、FernWA株のITS領域の塩基配列(配列番号8)はウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)のITS領域の塩基配列と99%同一であり、GalleryYA株のITS領域の塩基配列(配列番号9)はケトミウム・グロボスム(Chaetomium Globosum)のITS領域の塩基配列と95%同一であり、OreYA株のITS領域の塩基配列(配列番号10)はフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)のITS領域の塩基配列と99%同一であった。また、近隣結合法として知られているClustal W プログラム(Saitou&Nei,(1987)Mol.Biol.Evol.4,406-425、Thompson et al., Nucleic Acids Res. (1994) 22, 4673-4680)を用いて,ITS領域のDNAに基づく系統樹を作成した結果を図4に示す。図4に示すように、CedarWA1、CedarWA2はペニシリウム・ジャンシネラム(Penicillium janthinellum)、CedarWA3、CedarWA4はカニンガメラ・バイニエリ(Cunninghamella bainieri)、OreWA株はネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)、FernWA株はウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)、GalleryYA株はケトミウム・グロボスム(Chaetomium Globosum)、OreYA株はフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の消化汚泥の分解方法は、難生分解性の消化汚泥を低コストで分解できるものであり、産業廃棄物処理の分野において産業上の有用性は高い。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3