TOP > 国内特許検索 > ポリヒドロキシアルカノエートの生産装置及び生産方法 > 明細書

明細書 :ポリヒドロキシアルカノエートの生産装置及び生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6016062号 (P6016062)
公開番号 特開2013-226071 (P2013-226071A)
登録日 平成28年10月7日(2016.10.7)
発行日 平成28年10月26日(2016.10.26)
公開日 平成25年11月7日(2013.11.7)
発明の名称または考案の名称 ポリヒドロキシアルカノエートの生産装置及び生産方法
国際特許分類 C12M   1/00        (2006.01)
C12P   7/62        (2006.01)
C02F   3/30        (2006.01)
C02F   3/34        (2006.01)
C02F   3/08        (2006.01)
FI C12M 1/00 D
C12P 7/62
C02F 3/30 A
C02F 3/30 B
C02F 3/34 Z
C02F 3/08 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2012-100299 (P2012-100299)
出願日 平成24年4月25日(2012.4.25)
審査請求日 平成27年3月27日(2015.3.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】大橋 晶良
【氏名】小寺 博也
【氏名】尾崎 則篤
【氏名】金田一 智規
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
審査官 【審査官】市島 洋介
参考文献・文献 国際公開第2010/092472(WO,A1)
特開平06-062875(JP,A)
特開2010-194499(JP,A)
特開2011-177618(JP,A)
調査した分野 C12M 1/00-3/10
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)

特許請求の範囲 【請求項1】
PHA蓄積細菌が担持される微生物保持部材と、
前記微生物保持部材を排水中への浸漬及び排水中からの取り出しを行う微生物保持部材駆動装置と、
前記微生物保持部材駆動装置の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置が前記微生物保持部材駆動装置を駆動させて前記微生物保持部材を所定時間排水中に浸漬させ、排水中の酢酸又はプロピオン酸を前記PHA蓄積細菌に摂取させて、前記PHA蓄積細菌が酢酸又はプロピオン酸をポリヒドロキシアルカノエートに変換して蓄積する嫌気処理を行い、
前記制御装置が前記微生物保持部材駆動装置を駆動させて前記微生物保持部材を排水中から取り出して所定時間空気中に晒し、前記PHA蓄積細菌がポリヒドロキシアルカノエートを消費して増殖する好気処理を行い、
前記制御装置が前記微生物保持部材駆動装置を制御して前記嫌気処理及び前記好気処理を複数回繰り返し行って、前記微生物保持部材に形成される活性汚泥中の前記PHA蓄積細菌の割合を高め、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高めるとともに、
前記微生物保持部材を複数備え、
前記制御装置は、いずれかの前記微生物保持部材を空気中に晒している際、他の前記微生物保持部材の少なくとも一つを排水中に浸漬するよう前記微生物保持部材駆動装置を制御する、
ことを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートの生産装置。
【請求項2】
前記制御装置は、活性汚泥を回収する前の前記嫌気処理の時間をそれまでの前記嫌気処理よりも長い時間行うよう前記微生物保持部材を制御して、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高める、
ことを特徴とする請求項1に記載のポリヒドロキシアルカノエートの生産装置。
【請求項3】
PHA蓄積細菌が担持される微生物保持部材を所定時間排水中に浸漬させて排水中の酢酸又はプロピオン酸を前記PHA蓄積細菌に摂取させ、前記PHA蓄積細菌が酢酸又はプロピオン酸をポリヒドロキシアルカノエートに変換して蓄積する嫌気処理工程と、
前記微生物保持部材を排水中から取り出して所定時間空気中に晒し、前記PHA蓄積細菌がポリヒドロキシアルカノエートを消費して増殖する好気処理工程と、を備え、
前記嫌気処理工程及び前記好気処理工程を複数回繰り返し行って、前記微生物保持部材に形成される活性汚泥中の前記PHA蓄積細菌の割合を高め、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高めるとともに、
前記微生物保持部材を複数用い、
いずれかの前記微生物保持部材を空気中に晒している際、他の前記微生物保持部材の少なくとも一つを排水中に浸漬させる、
ことを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートの生産方法。
【請求項4】
活性汚泥を回収する前の前記嫌気処理工程をそれまでの前記嫌気処理工程よりも長い時間行い、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高める、
ことを特徴とする請求項に記載のポリヒドロキシアルカノエートの生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートの生産装置及び生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現状、プラスチックのほとんどが石油や天然ガスから生産されている。将来的な化石燃料の枯渇も叫ばれており、天然資源由来のバイオプラスチックが注目されている。
【0003】
バイオプラスチックは、バイオマス起源の素材が原料であるため、二酸化炭素の増減に影響を与えないカーボンニュートラルの性質を持っており、地球温暖化対策にも資する。また、バイオプラスチックの多くは、生分解性であり、埋め立てや投棄されても、微生物によって分解されるので、環境にも優しい。
【0004】
バイオプラスチックは、主にデンプンや糖の含有量の多いトウモロコシやサトウキビなどから製造されている。しかし、これらの原料は食料と競合するので、食料以外の廃棄物等からバイオプラスチック生産を模索することが望ましい。
【0005】
下水等の排水である液状のバイオマス廃棄物も資源として捉える考えが定着してきている。例えば、PHA蓄積細菌は、有機物を摂取し、ポリヒドロキシアルカノエート(Polyhydroxyalkanoate)(以下、PHAとも記す)に変換、蓄積する。このPHA蓄積細菌を利用し、下水から生分解性プラスチック原料として利用可能なPHAを生産するアイデアがあるが、現状、実用化までは至っていない。
【0006】
その理由として、下水処理の活性汚泥法では、細菌が有機物を分解して増殖して活性汚泥(主に増殖した細菌の集合体)が発生し、その中にPHA蓄積細菌が含まれているが、活性汚泥に占めるPHA蓄積細菌の割合が低いことから、活性汚泥中のPHA含有量が数%と低いことに起因する。したがって、余剰汚泥のほとんどは有効利用されず、廃棄物として処分されているのが実情である。
【0007】
上記事項に鑑み、活性汚泥中のPHA含有量を高める方法が検討されている。非特許文献1では、排水中の有機物濃度を制御してPHA細菌を優占化させ、余剰汚泥中のPHA濃度を高めている。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Katja Johnson, Yang Jiang, Robbert kleerebezem, Gerard Muyzer, and Mark C. M. van Loosdrecht; Enrichment of a Mixed Bacterial Culture with a High Polyhydroxyalkanoate Storage Capacity; Biomacromolecules 2009, 10, 670-676
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示の方法では、排出された排水の有機物の濃度を制御する必要がある。排水には種々の有機物を含有し、その濃度も一定ではないことから、実排水処理には適していない。
【0010】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、実排水処理に適用可能なポリヒドロキシアルカノエートの生産装置及び生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係るポリヒドロキシアルカノエートの生産装置は、
PHA蓄積細菌が担持される微生物保持部材と、
前記微生物保持部材を排水中への浸漬及び排水中からの取り出しを行う微生物保持部材駆動装置と、
前記微生物保持部材駆動装置の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置が前記微生物保持部材駆動装置を駆動させて前記微生物保持部材を所定時間排水中に浸漬させ、排水中の酢酸又はプロピオン酸を前記PHA蓄積細菌に摂取させて、前記PHA蓄積細菌が酢酸又はプロピオン酸をポリヒドロキシアルカノエートに変換して蓄積する嫌気処理を行い、
前記制御装置が前記微生物保持部材駆動装置を駆動させて前記微生物保持部材を排水中から取り出して所定時間空気中に晒し、前記PHA蓄積細菌がポリヒドロキシアルカノエートを消費して増殖する好気処理を行い、
前記制御装置が前記微生物保持部材駆動装置を制御して前記嫌気処理及び前記好気処理を複数回繰り返し行って、前記微生物保持部材に形成される活性汚泥中の前記PHA蓄積細菌の割合を高め、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高めるとともに、
前記微生物保持部材を複数備え、
前記制御装置は、いずれかの前記微生物保持部材を空気中に晒している際、他の前記微生物保持部材の少なくとも一つを排水中に浸漬するよう前記微生物保持部材駆動装置を制御する、
ことを特徴とする。
【0012】
また、前記制御装置は、活性汚泥を回収する前の前記嫌気処理の時間をそれまでの前記嫌気処理よりも長い時間行うよう前記微生物保持部材を制御して、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高めることが望ましい。
【0014】
本発明の第2の観点に係るポリヒドロキシアルカノエートの生産方法は、
PHA蓄積細菌が担持される微生物保持部材を所定時間排水中に浸漬させて排水中の酢酸又はプロピオン酸を前記PHA蓄積細菌に摂取させ、前記PHA蓄積細菌が酢酸又はプロピオン酸をポリヒドロキシアルカノエートに変換して蓄積する嫌気処理工程と、
前記微生物保持部材を排水中から取り出して所定時間空気中に晒し、前記PHA蓄積細菌がポリヒドロキシアルカノエートを消費して増殖する好気処理工程と、を備え、
前記嫌気処理工程及び前記好気処理工程を複数回繰り返し行って、前記微生物保持部材に形成される活性汚泥中の前記PHA蓄積細菌の割合を高め、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高めるとともに、
前記微生物保持部材を複数用い、
いずれかの前記微生物保持部材を空気中に晒している際、他の前記微生物保持部材の少なくとも一つを排水中に浸漬させる、
ことを特徴とする。
【0015】
また、活性汚泥を回収する前の前記嫌気処理工程をそれまでの前記嫌気処理工程よりも長い時間行い、活性汚泥中のポリヒドロキシアルカノエートの含有量を高めることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るポリヒドロキシアルカノエートの生産装置及び生産方法では、排水中の有機物濃度を制御することなく、排水中の有機物をバイオプラスチックの原料となるPHAを生産させることができるとともに、形成される活性汚泥中のPHAの含有量を高めることができる。また、好気処理において、エアレーションが不要であるため、PHAの生産コストの低減にもつながる。したがって、実排水処理にも適用可能である
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PHA生産装置の概略構成図である。
【図2】PHA生産装置の動作を説明する図である。
【図3】PHA生産装置の動作を説明する図である。
【図4】PHA生産装置の動作を説明する図である。
【図5】PHA生産装置の動作を説明する図である。
【図6】PHA生産装置の動作を説明する図である。
【図7】PHA生産装置の活性汚泥回収前の動作を説明する図である。
【図8】PHA生産装置の活性汚泥回収前の動作を説明する図である。
【図9】PHA生産装置の活性汚泥回収前の動作を説明する図である。
【図10】PHA生産装置の活性汚泥回収前の動作を説明する図である。
【図11】PHA生産装置の活性汚泥回収前の動作を説明する図である。
【図12】PHA生産装置の活性汚泥回収前の動作を説明する図である。
【図13】実施例1にて使用した装置の概略構成図であり、嫌気処理の状態を説明する図である。
【図14】実施例1にて使用した装置の概略構成図であり、好気処理の状態を説明する図である。
【図15】実施例1において流入させる人工下水及び排出される処理水のCOD変化を示すグラフである。
【図16】実施例1における布担体あたりのバイオマス濃度を示すグラフである。
【図17】実施例1におけるバイオマス組成を示すグラフである。
【図18】実施例2におけるバイオマス組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図を参照しつつ、ポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAとも記す)の生産装置及び生産方法について詳述する。

【0020】
PHA生産装置1は、図1の概略構成図に示すように、微生物保持部材11~14と微生物保持部材駆動装置20と、制御装置30とを備える。

【0021】
微生物保持部材11~14には、PHA蓄積細菌(Polyhydroxyalkanoate accumulating bacteria)が担持される。微生物保持部材11~14は、PHA蓄積細菌が担持され、PHA蓄積細菌群の生物膜、即ち、活性汚泥が形成され得るものであればどのようなものでもよい。また、後述の好気処理において、微生物保持部材11~14を所定時間空気中に晒している際に、微生物保持部材11~14が乾燥してしまわぬよう、保水性の高い部材であることが好ましい。微生物保持部材11~14として、例えば、布、スポンジ等の多孔質部材が挙げられる。

【0022】
PHA蓄積細菌は、細胞内にPHAを蓄積することが可能な微生物であれば特に限定されない。例えば、アエロモナス(Aeromonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、バチルス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ハロバクテリウム(Halobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、ロドスピリルム(Rhodospirillum)属、シュウドモナス(Psuedomonas)属、ラルストニア(Ralstonia)属、ズーグロエア(Zoogloea)属等の微生物が挙げられる。

【0023】
なお、微生物保持部材11~14にPHA蓄積細菌を担持させてから用いてもよいが、通常、PHA蓄積細菌はどのような排水にも存在するものゆえ、PHA蓄積細菌を担持させずに微生物保持部材11~14を用いてもよい。

【0024】
微生物保持部材駆動装置20は、微生物保持部材11~14を排水中に浸漬するとともに、浸漬させた微生物保持部材11~14を排水中から取り出す機能を備える。一例として、図1に示す微生物保持部材駆動20は、内蔵される不図示のモータ等の駆動源により糸やワイヤ等で吊った微生物保持部材11~14をそれぞれ独立して昇降可能に構成されている。なお、微生物保持部材駆動装置20は、微生物保持部材11~14の排水への浸漬及び排水からの取り出しが可能であれば、上記の構成のほか、どのような構成であってもよい。

【0025】
制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20の駆動を制御する装置であり、それぞれの微生物保持部材11~14を所定時間排水中に浸漬させたり、大気中に晒したりする制御を行う。制御装置30はタイマを備え、予め設定された時間に基づいて、微生物保持部材駆動装置20を制御する。

【0026】
続いて、図2~図6を参照しつつ、PHA生産装置1を用いたPHA生産方法について説明する。ここでは、嫌気処理を2時間、好気処理を6時間行い、PHA回収前の嫌気処理を4時間行う例について説明する。

【0027】
まず、排水Wが流れる流路にPHA生産装置1を配置する。PHA生産装置1は、微生物保持部材11~14を下降させた際に流路を流れる排水Wに浸漬するとともに、上昇させた際に排水Wから取り出され空気中に晒されるよう配置される。

【0028】
そして、図2に示すように、制御装置30が、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材11を下降させ排水Wに浸漬させる。これにより、微生物保持部材11は嫌気条件におかれるので、PHA細菌による嫌気処理が行われる。嫌気処理では、微生物保持部材11に担持されたPHA細菌は、排水Wに含まれる有機物を摂取し、PHAへと変換し、細胞内にPHAを蓄積する。

【0029】
2時間後、図3に示すように、制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材11を上昇させて排水Wから取り出すとともに、微生物保持部材12を排水Wに浸漬させる。

【0030】
微生物保持部材11は大気中に晒され、微生物保持部材11は好気条件におかれるので、PHA細菌による好気処理が行われる。好気処理では、PHA細菌は、酸素及び蓄積したPHAを利用して呼吸し、PHA細菌が増殖する。

【0031】
一方、排水Wに浸漬された微生物保持部材12は、嫌気条件におかれ、上記と同様に嫌気処理が行われることとなる。

【0032】
4時間経過後、図4に示すように、制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材12を上昇させて排水Wから取り出すとともに、微生物保持部材13を排水Wに浸漬させる。上記同様に、微生物保持部材12は好気条件におかれ、PHA細菌による好気処理が行われる。また、上記と同様に、微生物保持部材13は嫌気条件におかれ、上記同様に嫌気処理が行われる。

【0033】
6時間経過後、図5に示すように、制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材13を上昇させて排水Wから取り出すとともに、微生物保持部材14を排水Wに浸漬させる。上記と同様に、微生物保持部材13は好気条件におかれ、PHA細菌による好気処理が行われる。また、上記と同様に、微生物保持部材14は嫌気条件におかれ、上記と同様に嫌気処理が行われる。

【0034】
8時間経過後、図6に示すように、制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材14を上昇させて排水Wから取り出すとともに、再度、微生物保持部材11を排水Wに浸漬させる。上記と同様に、微生物保持部材13は好気条件におかれ、PHA細菌による好気処理が行われる。また、上記と同様に、再度、微生物保持部材11は嫌気条件におかれ、上記と同様に嫌気処理が行われる。

【0035】
そして、上記の工程を順に複数サイクル行う。このように嫌気処理及び好気処理が繰り返し行われることで、微生物保持部材に担持されるPHA蓄積細菌が増殖する。上記のサイクルによって、他の細菌(嫌気条件でのみ生存できる微生物、好気条件でのみ生存できる微生物)が排除されるので、形成される活性汚泥中のPHA蓄積細菌の割合が高まり、PHA蓄積細菌が優占化した活性汚泥が得られる。

【0036】
上記のサイクルを行って、活性汚泥中のPHA蓄積細菌を優占化させた後、活性汚泥を回収する。そして、活性汚泥を回収する前の嫌気処理の時間(例えば、4時間)をそれまでの嫌気処理の時間(例えば、2時間)より長くするよう、制御装置30は微生物保持部材駆動装置20の駆動を制御する。

【0037】
一例として、以下に記すように制御装置30は微生物保持部材駆動装置20を制御する。上述した嫌気処理及び好気処理を複数回繰り返したX時間後の状態を図7に示す。制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材11が排水Wに浸漬される。

【0038】
X+2時間経過後、図8に示すように、制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材12が排水Wに浸漬される。この際、制御装置30は、微生物保持部材11が排水Wから取り出されないよう微生物保持部材駆動装置20を制御する。

【0039】
X+4時間経過後、図9に示すように、制御装置30は、微生物保持部材駆動装置20を駆動させ、微生物保持部材11を上昇させて排水Wから取り出すとともに、微生物保持部材13を排水Wに浸漬させる。この結果、微生物保持部材11では、4時間嫌気処理が行われたこととなる。このようにして排水Wから取り出された微生物保持部材11の表面に形成された活性汚泥を回収し、活性汚泥中のPHAを抽出する。

【0040】
X+6時間経過後、X+8時間経過後、X+10時間経過後では、図10、図11、図12にそれぞれ示すように、4時間嫌気処理が行われた微生物保持部材12、13、14が順次それぞれ排水Wから取り出される。そして、取り出された微生物保持部材12、13、14の表面に形成された活性汚泥をそれぞれ回収し、活性汚泥中のPHAを抽出する。

【0041】
以上のようにして、回収前の嫌気処理をそれまでの嫌気処理よりも長い時間行うことで、増殖したPHA蓄積細菌が多くの有機物を摂取してPHAを変換し、細胞内にPHAを蓄積する。このようにして、回収する活性汚泥中のPHAの含有量を高めることができる。

【0042】
なお、活性汚泥の回収は、微生物保持部材11~14の表面に形成された活性汚泥の剥離等、公知の手法により行い得る。また、活性汚泥中のPHAの回収は公知の手法により行い得る(Nicolas Jcquel et al., Isolation and purification of bacterial poly(3-hydroxyalkanoates), Biochemical Engineering Journnal, Vol.39 (2008) p15-27)参照)。

【0043】
活性汚泥が回収された微生物保持部材11~14は、再度上記と同様に嫌気処理、好気処理のサイクルが繰り返される。

【0044】
本実施の形態によれば、排水中の有機物濃度を制御することなく、流れている排水中の有機物からバイオプラスチックの原料となるPHAを生産することができるとともに、形成される活性汚泥中のPHAの含有量を高めることができる。

【0045】
また、本実施の形態によれば、好気処理において、エアレーションが不要である。通常の排水処理における活性汚泥法ではエアレーションを行っており、エアレーションに要するコストが多大である。本実施の形態によれば、エアレーションを行うことなく好気処理が行えるため、PHAの生産コストの低減にもつながるとともに排水処理コストの低減にもつながる。したがって、実排水処理にも適用できるPHA生産装置及び生産方法として利用可能である。

【0046】
また、活性汚泥から有用なPHAを生産できるので、活性汚泥の再利用ができるとともに、活性汚泥の処理コストの低減にもつながる。

【0047】
なお、上記では、一例として嫌気処理時間を2時間、好気処理時間を6時間、活性汚泥回収前の嫌気処理時間を4時間とした形態について説明したが、各処理時間は上記に限定されない。PHA蓄積細菌の優占化における各処理時間の例として、嫌気処理時間が1~6時間、好気処理時間が4~12時間が挙げられる。また、活性汚泥回収前の嫌気処理時間の例として2~12時間が挙げられる。上記の各処理時間となるよう、制御装置30が微生物保持部材駆動装置20を制御するよう構成すればよい。

【0048】
また、微生物保持部材11~14を上記では四つ用いた例について説明したが、微生物保持部材の数は限定されることはなく、四つ未満でも四つ以上でもよい。

【0049】
なお、微生物保持部材は少なくとも2つ以上用い、いずれかの微生物保持部材にて好気処理を行う際に、他の微生物保持部材の少なくとも一つを排水に浸漬させて嫌気処理を行うとよい。いずれかの微生物保持部材に担持されるPHA蓄積細菌が、排水中の有機物を絶えず摂取することになるので、排水処理が滞ることもない。

【0050】
また、上記では、PHA生産装置1を用いてPHAを生産する方法について説明したが、微生物保持部材駆動装置20、制御装置30を用いず、手動で行う形態であってもよい。
【実施例1】
【0051】
以下の実験により、活性汚泥中のPHA含有量を高めることを試みた。図13に示すように、800mL容量のリアクター容器40を用意し、ポンプ41、42にて人工下水の流入及び排出可能な装置を構築した。リアクター容器40内に微生物保持部材を設置した。微生物保持部材として、フレーム43にポリエステル製の布(以下、布担体44と記す)を取り付けたものを用いた。一つのフレーム43に布担体44を2つ取り付けたものを3つ用意し、リアクター容器40内に設置した。即ち、布担体44を6つ用いた。なお、布担体44はそれぞれ2.5cm×6.7cm×0.5cm(6枚全部で50mL)である。
【実施例1】
【0052】
嫌気処理では、リアクター容器40内に5mL/minの流量で人工下水を流し、図13に示すように、リアクター容器40内に人工下水を満たし、布担体44を人工下水に浸漬させた。嫌気処理時間は4時間とした。なお、リアクター容器40内における人工下水の滞留時間は2時間である。流した人工下水の成分を表1に示す。
【実施例1】
【0053】
【表1】
JP0006016062B2_000002t.gif
【実施例1】
【0054】
好気処理は、図14に示すように、リアクター容器40内の人工下水を全て排出することで布担体44を大気中に晒し、好気条件にして行った。好気処理の時間は8時間とした。
【実施例1】
【0055】
なお、好気処理を行う際、リアクター容器40内の人工下水を全て保留タンクに移しておき、嫌気処理を行う際に保留タンクに保持しておいた人工下水を再びリアクター容器40内に全て移してから行った。
【実施例1】
【0056】
上記の嫌気処理及び好気処理を繰り返し行い、布担体44に活性汚泥(以下、バイオマスと記す)を形成させた。運転を開始してから126日目より、およそ4日おきに、6つの布担体44のうち2つずつからバイオマスを採取した。すなわち、同じ布担体44からは12日おきにバイオマスを採取した。
【実施例1】
【0057】
採取したバイオマスの布担体あたりの量、及び、バイオマス中のPHAの含有量を測定した。バイオマスは、20mLの純水に布担体を漬けて10回揉んだ後の上澄みをサンプルとして用い、サンプル中のPHA含有量を測定した。また、布担体はその後再びリアクター容器に設置し、嫌気処理及び好気処理を行った。
【実施例1】
【0058】
また、嫌気処理においては、流入させる人工下水及び排出される処理水のCOD(Chemical Oxygen Demand)をそれぞれ経時的に測定した。
【実施例1】
【0059】
図15に人工下水及び処理水のCODの測定結果を示す。流入される人工下水のCODはおよそ300mgCOD/Lであるが、排出される処理水のCODは100mgCOD/Lであり、人工下水の有機物が分解されており、排水処理が可能であることを確認した。
【実施例1】
【0060】
続いて、図16に、採取した布担体あたりのバイオマス濃度を示す。それぞれの布担体44から最初に採取したバイオマスの濃度(126日目、132日目、136日目に採取したバイオマス濃度)は、それまでの蓄積により、高い値を示した。その後についても、ばらつきはあるものの継続してバイオマスが形成されていることがわかる。
【実施例1】
【0061】
続いて、採取したバイオマスを乾燥させて、バイオマスの組成を検証した。バイオマス内のPHA及びグリコーゲン組成は公知の手法にて抽出し、PHAはFIDガスクロマトグラム、グリコーゲンは代謝アッセイキット(BioVision社)を用いて測定した(Carlos D. M. Filipe et al., Stoichiometry and kinetics of acetate uptake under anaerobic conditions by an enriched culture of phosphorus accumulating organisms at different pHs, Biotechnology and Bioengineering, Vol. 76 (2001), p. 32-43参照)。
【実施例1】
【0062】
その結果を図17に示す。PHAの含有量は0.15~0.20g・gSS-1で推移しており、バイオマス中のPHA含有量が高められたことがわかる。
【実施例2】
【0063】
続いて、実施例1にて嫌気処理及び好気処理を繰り返し行った布担体について、バイオマス回収前の嫌気処理の時間を変えて行い、回収したバイオマス中のPHA含有量の変化について検証した。実験には、実施例1にて12日間(24サイクル)嫌気好気サイクルを行った布担体を用いた。
【実施例2】
【0064】
1Lのビンに実施例1と同じ人工下水を入れ、これに実施例1にて嫌気処理及び好気処理を繰り返し行った布担体を浸漬し、嫌気処理を行った。このバイオマス回収前の嫌気処理の時間は、0時間(回収前の嫌気処理無し)、4時間、8時間、12時間、16時間、20時間とした。それぞれについて嫌気処理終了後、実施例1と同様にバイオマスの組成を検証した。
【実施例2】
【0065】
その結果を図18に示す。嫌気処理時間が8時間までは嫌気処理時間が長くなるにつれ、PHA含有量が増加していることがわかる。また、PHA含有量は嫌気処理時間が8時間以上では0.20g・gSS-1を超えて推移している。これらのことから、バイオマス回収前に嫌気処理時間をそれまでの嫌気処理時間より長い時間行うことで、PHA含有量を高め得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
排水中の有機物濃度を制御することなく、排水中の有機物をバイオプラスチックの原料となるPHAを生産させることができるとともに、形成される活性汚泥中のPHAの含有量を高めることができる。また、好気処理において、エアレーションが不要であるため、PHAの生産コストの低減にもつながる。したがって、実排水処理への利用が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 PHA生産装置
11~14 微生物保持部材
20 微生物保持部材駆動装置
30 制御装置
40 リアクター容器
41、42 ポンプ
43 フレーム
44 布担体
W 排水
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図16】
14
【図17】
15
【図18】
16
【図15】
17