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明細書 :Rhoキナーゼ阻害剤を含むビタミンA付加リポソーム製剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6067330号 (P6067330)
公開番号 特開2014-088357 (P2014-088357A)
登録日 平成29年1月6日(2017.1.6)
発行日 平成29年1月25日(2017.1.25)
公開日 平成26年5月15日(2014.5.15)
発明の名称または考案の名称 Rhoキナーゼ阻害剤を含むビタミンA付加リポソーム製剤
国際特許分類 A61K  31/4409      (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/10        (2006.01)
A61K  47/24        (2006.01)
A61P   1/16        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
FI A61K 31/4409
A61K 9/127
A61K 47/10
A61K 47/24
A61P 1/16
A61P 9/10
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2012-240426 (P2012-240426)
出願日 平成24年10月31日(2012.10.31)
審査請求日 平成27年10月22日(2015.10.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】田代 裕尊
【氏名】木村 康浩
【氏名】大段 秀樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100062144、【弁理士】、【氏名又は名称】青山 葆
【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
審査官 【審査官】天野 貴子
参考文献・文献 国際公開第2006/068232(WO,A1)
特開2002-193833(JP,A)
特開2009-221164(JP,A)
国際公開第2010/061880(WO,A1)
特表昭63-500456(JP,A)
JOURNAL of HEPATOLOGY,2012年 1月,vol.56, no.1,p146-152,要約(DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.jhep./2011.04.029),URL,http://www.jounal-of-hepatology.eu/article/S0168-8278(11)00526-5/ppt
調査した分野 A61K 31/4409
A61K 9/127
A61K 47/10
A61K 47/24
A61P 1/16
A61P 9/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
Rhoキナーゼ阻害剤を含む、ビタミンA付加リポソーム製剤であって、Rhoキナーゼ阻害剤がY-27632である、肝虚血再灌流障害を処置するための、製剤。
【請求項2】
リポソームの構成脂質の総脂質量とビタミンAの比率がモル比で1:0.01~1:0.03である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
Rhoキナーゼ阻害剤とビタミンAの比率がモル比で1:3~1:5である、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
リポソームが中性荷電リポソームである、請求項1~3のいずれかに記載の製剤。
【請求項5】
リポソームの構成脂質の総脂質量とビタミンAの比率がモル比で1:0.01~1:0.03であり、Rhoキナーゼ阻害剤とビタミンAの比率がモル比で1:3~1:5であり、かつリポソームが中性荷電リポソームである、請求項1に記載の製剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Rhoキナーゼ阻害剤を含むビタミンA付加リポソーム製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝癌に対する肝切除、肝不全や肝細胞癌などに対する生体肝移植は、今日日常の診療として行われているが、今尚いくつかの解決すべき課題が残されている。その中で、術後肝不全は極めて重大な問題である。大量肝切除また過小グラフトや脂肪肝を移植肝に用いた生体部分肝移植では、術後肝不全に陥ることがしばしば見られ、その肝不全のメカニズムには肝虚血再潅流障害が大きく関与している。
【0003】
肝星細胞(Hepatic stellate cell: HSC)は、ディッセ腔と呼ばれる肝細胞と肝類洞内皮細胞の間隙に存在しており、アクチンやミオシンといった収縮性タンパク質を含んでいる。細胞内シグナルであるRhoシグナルの制御下にエンドセリンや一酸化窒素(NO)に反応し、その収縮活動と緊張状態により類洞血流を調節していることが知られている。また、低分子GTP結合タンパク質であるRhoファミリーは、アクチン細胞骨格の再編成を通じて細胞の形状や運動性を調節することが知られている。Rho標的タンパク質の1つであるRhoキナーゼ(Rho-associated coiled-coil forming kinase: ROCK)は、ミオシン軽鎖(myosin light chain: MLC)のリン酸化を増大させることにより、平滑筋の収縮や細胞骨格の制御に関与する。リン酸化ミオシン軽鎖(phosphorylated myosin light chain:P-MLC)の増大により、アクトミオシンの収縮性は増大し、結果として平滑筋が収縮する。
【0004】
温阻血肝移植モデルを用いた肝虚血再潅流障害の研究において、Rhoキナーゼに対する阻害剤の投与により移植肝の虚血再潅流障害が軽減されることが報告されている(非特許文献1,2)。すなわち、肝類洞内皮細胞とそれを裏打ちする星細胞が虚血再潅流により活性化・収縮することで類洞が狭小化し、肝血流障害が引き起こされること、Rhoキナーゼ阻害剤により星細胞の活性化が抑制され、肝組織中の末梢循環の改善が得られ、肝虚血再潅流障害が軽減されることが明らかとなっている。
【0005】
Rhoシグナルは、体細胞においては細胞の運動、接着、分裂などに、がん細胞においては浸潤、転移などに中心的な役割を果たすシグナル伝達系である。また、血管平滑筋収縮に関しても、Caシグナルによりミオシン軽鎖リン酸化酵素(myosin light chain kinase: MLCK)を介してミオシンのリン酸化レベルを制御することにより、血圧の維持に貢献している。そのため、全身投与では低血圧などの副作用が報告され、より選択的なドラッグデリバリーシステム(DDS)が求められる。
【0006】
一般的に、肝星細胞は、類洞循環の調節作用としての機能以外にも、レチノール結合タンパク質の受容体を発現し、ビタミンA貯蔵細胞としても作用する。この特性を利用し、肝硬変治療にコラーゲン特異的シャペロンであるヒートショックプロテイン47に対するsiRNAをビタミンA付加リポソームに封入し、肝硬変ラットに投与し、肝硬変の進行を軽減できることが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、Rhoキナーゼ阻害剤を封入したビタミンA付加リポソームにより肝疾患を治療した例は報告されていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】国際公開第00/64478号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/068232号パンフレット
【0008】

【非特許文献1】Mizunuma K, Ohdan H, Tashiro H, Fudaba Y, Ito H, Asahara T. Prevention of ischemia-reperfusion-induced hepatic microcirculatory disruption by inhibiting stellate cell contraction using rock inhibitor. Transplantation. 75:579-86, 2003
【非特許文献2】Kuroda S, Tashiro H, Igarashi Y, Tanimoto Y, Nambu J, Oshita A, Kobayashi T, Amano H, Tanaka Y, Ohdan H. Rho inhibitor prevents ischemia-reperfusion injury in the rat steatotic liver. J Hepatology 2012; 56: 146-152.
【非特許文献3】Sato Y, et al. Resolution of liver cirrhosis using vitamine A-coupling liposomes to deliver siRNA against a collagen-specific chaperone. Nature Biotech.2008; 26: 431-442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Rhoキナーゼ阻害剤を肝星細胞に特異的に送達できる製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、Rhoキナーゼ阻害剤を含むビタミンA付加リポソーム製剤を提供する。
【0011】
本発明はまた、Rhoキナーゼ阻害剤を含むビタミンA付加リポソームを製造する方法であって、リポソームの構成脂質とビタミンAとをモル比で1:0.03~1:0.3の比率で混合することを特徴とする方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、Rhoキナーゼ阻害剤を肝組織、特に肝星細胞に特異的に送達し、効果的に肝疾患を治療することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Y-27632の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量。
【図2】リポソームへのY-27632の内包化率の検討。
【図3】リポソームに付加されたビタミンAの定量。
【図4】肝星細胞におけるGFP内包化ビタミンA付加リポソームの取り込み。
【図5】肝組織へのリポソームの取り込み。Lip-GFP:GFP内包化ビタミンA非付加リポソーム、VA-Lip-GFP:GFP内包化ビタミンA付加リポソーム。
【図6】各臓器へのGFP内包化ビタミンA付加リポソームの取り込み。
【図7】Y-27632による肝星細胞活性化(収縮)の抑制(コラーゲンゲルコントラクションアッセイ)(1)。Y:Y-27632単独(Y)、Lip-Y :Y-27632内包化ビタミンA非付加リポソーム、VA-Lip-Y :Y-27632内包化ビタミンA付加リポソーム。
【図8】Y-27632による肝星細胞活性化(収縮)の抑制(コラーゲンゲルコントラクションアッセイ)(2)。
【図9】Y-27632による肝星細胞活性化(収縮)の抑制(ファイロジン染色)(1)。
【図10】Y-27632による肝星細胞活性化(収縮)の抑制(ファイロジン染色)(2)。
【図11】Y-27632による肝星細胞活性化(収縮)の抑制(ファイロジン染色)(3)。
【図12】正常肝ラットにおける虚血再灌流後の生存率に対する効果。
【図13】正常肝ラットにおける虚血再灌流後の血中AST値に対する効果。
【図14】正常肝ラットにおける血圧に対する効果。
【図15】脂肪肝ラットにおける虚血再灌流後の肝血流に対する効果。
【図16】脂肪肝ラットにおける虚血再灌流後の門脈灌流圧に対する効果。
【図17】脂肪肝ラットにおける虚血再灌流後の生存率に対する効果。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、Rhoキナーゼ阻害剤を含むビタミンA付加リポソーム製剤に関する。Rhoキナーゼ阻害剤としては、Y-27632、塩酸ファスジルなどが挙げられるが、本発明は特にY-27632に好適である。Y-27632は、以下の化学式を有する化合物である。
【化1】
JP0006067330B2_000002t.gif

【0015】
リポソームとは、脂質二重層からなり内部に水相を有する閉鎖小胞をいう。本発明のリポソームを構成する脂質としては、通常リポソーム製剤に使用しうる脂質を使用することができ、例えば、ホスファチジルコリン類(例えば、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリン)、ホスファチジルグリセロール類(例えば、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、およびジステアロイルホスファチジルグリセロール)、ホスファチジルイノシトール類(例えば、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、およびジステアロイルホスファチジルイノシトール)、ホスファチジルセリン類(例えば、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、およびジステアロイルホスファチジルセリン)、ステロール類(コレステロール、コレステロールヘミサクシネート、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール、エルゴステロール、およびラノステロール)、糖脂質類(例えばガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、フォスファチド、およびグロボシド)、長鎖アルキルアミン類(例えば、ステアリルアミン)が挙げられる。本発明のリポソームに特に好適な脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、コレステロール、ステアリルアミンである。

【0016】
本発明のリポソームは、正荷電、中性荷電、負荷電のいずれであってもよい。Rhoキナーゼ阻害剤がY-27632である場合、取り込み効率の点から、中性荷電リポソームであることが好ましい。

【0017】
本発明のリポソームは、当業者に周知の方法により製造することができる。かかる方法としては、例えば、薄膜法、逆相蒸発法、エタノール注入法、エーテル注入法、脱水-再水和法等が挙げられる。

【0018】
本発明のリポソームの粒径は、特に限定されないが、好ましくは30~250nm、より好ましくは50~200nmである。リポソームの粒径は、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等の方法により調節することができ、動的光散乱法等の原理に基づき測定することができる。

【0019】
Rhoキナーゼ阻害剤のリポソームへの封入は通常の方法によって行えばよい。例えば、リポソーム溶液とRhoキナーゼ阻害剤の溶液とを混合することによって、Rhoキナーゼ阻害剤をリポソーム内に封入することができる。あるいは、リポソームの構成脂質を有機溶媒に溶解し、ロータリーエバポレーターで有機溶媒を揮発することにより作成した脂質薄膜に、Rhoキナーゼ阻害剤を溶解した水溶液を混合することにより、Rhoキナーゼ阻害剤を内包化したリポソームを作製することができる。本発明のリポソーム製剤は、好ましくは、脂質1mgあたりRhoキナーゼ阻害剤を0.01~0.1mg、より好ましくは0.0016~0.008mg含む。

【0020】
本発明のリポソーム製剤において、リポソームを構成する脂質の総脂質量とビタミンAとのモル比は特に限定はされないが、好ましくは1:0.001~1:1、より好ましくは1:0.01~1:0.1、更により好ましくは1:0.01~1:0.03、特に好ましくは1:0.03である。本発明のリポソーム製剤におけるRhoキナーゼ阻害剤とビタミンAのモル比も特に限定はされないが、Rhoキナーゼ阻害剤およびビタミンAの投与量の観点から、好ましくは1:1~1:10、より好ましくは1:2~1:7、更により好ましくは1:3~1:5である。

【0021】
ビタミンAは、リポソーム溶液とビタミンA溶液とを混合することによってリポソームに付加することができる。例えば、リポソームの構成脂質の総脂質量とビタミンAとのモル比を1:0.01~1:1、好ましくは1:0.03~1:0.3、より好ましくは1:0.1の比で混合すればよい。

【0022】
本発明のリポソーム製剤の投与方法は特に限定されないが、好適には注射剤、点滴剤などにより静脈内投与する。注射剤または点滴剤の場合、本発明のリポソーム製剤は、通常注射剤に使用される生理食塩水、リン酸緩衝液、グルコースを含む糖水溶液などにリポソームが分散されている。また、本発明のリポソーム製剤は、用時溶解型の凍結乾燥製剤であってもよい。

【0023】
本発明のリポソーム製剤は、肝組織、特に肝星細胞に対する標的指向性を有し、肝虚血再再灌流障害、肝炎、肝線維症、肝硬変を含む肝疾患の処置に有用である。本発明のリポソーム製剤は、中でも肝虚血再再灌流障害の処置に好適である。

【0024】
本発明のリポソーム製剤の投与量は、投与対象の年齢、疾患の重症度などにより適宜変更されるが、例えば成人体重1kgあたり、Rhoキナーゼ阻害剤の量として0.01~1mg、好ましくは0.03~0.3mg、より好ましくは0.08~0.12mgである。
【実施例】
【0025】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は如何なる意味においても本実施例に限定されない。
【実施例】
【0026】
1.Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632のビタミンA付加リポソームの調製
はじめにリポソームに内包化されたY-27632の定量・内包化率の測定が可能かを検討するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により既知濃度のY-27632を測定し、ピーク面積を指標として絶対検量線を作成した。その結果、各濃度とピーク面積は良好な直線性を示し、Y-27632の定量が可能であることを確認した(図1)。
【実施例】
【0027】
次いで、表1に示す中空リポソームに、以下の手順によりY-27632を内包化した。
【表1】
JP0006067330B2_000003t.gif
DPPC:ジパルミトイルホスファチジルコリン
DPPG:ジパルミトイルホスファチジルグリセロール

(1)Y-27632(Wako, Osaka, Japan)を20 mg/mLでPBSに溶解した。
(2)マイクロチューブにリポソーム約0.025gを量りとり、(1)のY-27632溶液を0.4 mL加え、転倒混和し、30分間静置した。
(3)(2)の溶液を遠心濃縮チューブに移し、1,500×gで5分間遠心した。その後、下記の操作を記載の順序で行った。
↓ PBS 1 mLを加え、ピペッティング
↓ 遠心 1,500×g 5 分
↓ PBS 1 mLを加え、ピペッティング
↓ 遠心 1,500×g 5 分
↓ PBS 1mLを加え、ピペッティング
↓ 遠心 1,500×g 5 分
↓ リバース 1,500×g 5 分
↓ 孔径220 nmのフィルターに通してリポソームのサイズを調製
↓ ビタミンA(Sigma-Aldrich,Saint Louis,MO)の溶液(6.0 mg/2.0 mL)400 mLを加え、ピペッティング
↓ 遠心 1,500×g 5 分 (1.5 mLになるまで)
↓ リバース 1,500×g 5 分
(4)パラフィルムで封をして、アルミ泊で覆い、冷蔵保存した。
【実施例】
【0028】
得られたリポソームへのY-27632の内包化率を検討したところ、Y-27632の添加量に依存してY-27632のリポソームへの取り込みは増大した。さらに、正荷電、中性荷電、負荷電のリポソームにおけるY-27632の内包化率を比較すると、中性荷電、負荷電、正荷電の順に、取り込み率は高かった(図2)。
【実施例】
【0029】
次いで、中性荷電リポソームであるEL-N-01について、リポソームに付加されたビタミンAを定量した。ビタミンAは、励起:325-345nm、発光:470-490nmでの自家蛍光をマイクロプレートリーダー(MTP-300、コロナ電気)を用いて測定することで定量した。その結果、リポソームの総脂質量とビタミンAのモル比を1:0.1の比率で混合した場合に最も効率よくビタミンAがリポソームに付加されることがわかった。この場合にリポソームに付加されたビタミンAの量は、総脂質量とビタミンAのモル比で1:0.03であった。また、総脂質量とY-27632のモル比は、1:0.003~0.014の範囲、平均1:0.007であり、脂質1mgあたりのY-27632の量は平均0.004mgであった。以下の実験では、EL-N-01リポソームの総脂質量とビタミンAのモル比を1:0.1の比率で混合して得たビタミンA付加リポソームを使用した。
【実施例】
【0030】
2.ビタミンA付加リポソームの標的指向性
上記1で得られたビタミンA付加リポソーム(VA付加リポソーム)の標的指向性を検討した。組織・細胞内でのY-27632の濃度の正確な測定は困難であるため、蛍光タンパクである緑色蛍光タンパク質(GFP)を上記1と同様の方法によりリポソームに内包化し、ラットに静脈内投与し、組織・細胞内のGFPの蛍光を観察した。雄Wisterラット(4週齢)にコリン欠乏食を6週間摂取させたラットを脂肪肝ラットとして使用し、普通食を6週間摂取させたラットを正常肝ラットとして使用した。
【実施例】
【0031】
GFPを内包化させたビタミンA付加リポソーム(VA付加リポソーム)およびビタミンA非付加リポソーム(VA非付加リポソーム)を、脂肪肝ラットに静脈注射した。30分後に麻酔下で開腹し、門脈にカニュレーションした後、プロネース、コラゲネースを溶解した灌流液により肝臓を灌流し、Nycodenz(Axis-Shield Poc AS, Norton, MA)を用いた比重遠沈法により肝星細胞を分離した。肝星細胞の純度をビタミンAの自家蛍光と抗デスミン抗体(Dako, Versailles, France)による染色で確認したところ、95%以上であった。分離した肝星細胞について、BD FACSAriaTMII(Becton, Dickinson and Company, Tokyo, Japan)を用いてフローサイトメトリーを行い、GFPの取り込まれた肝星細胞を測定した。コントロール、VA非付加リポソームを投与したラットの肝星細胞と比較して、VA付加リポソームを投与したラットの肝星細胞では、GFPの取り込みが増加していた。この結果から、リポソームにビタミンAを付加することで内包薬剤をより選択的に効率よく肝星細胞に送達できるが出来ることが示された。
【実施例】
【0032】
次に、リポソームの静脈内投与後の各組織におけるGFPの蛍光を観察した。GFP内包化VA非付加リポソームおよびGFP内包化VA付加リポソームを、脂肪肝ラットに静脈注射した。30分後に麻酔下で開腹し、肝臓、心臓、肺、腎臓、小腸、脾臓を摘出し、液体窒素を用いて凍結固定を行った。クリオスタットを用いて凍結切片を作成した後、蛍光顕微鏡(BZ-9000, KEYENCE)で観察を行った。その結果、肝組織において、VA付加リポソームおよびVA非付加リポソームのいずれによってもGFPの蛍光が観察されたが、VA付加リポソーム投与群においてより強い蛍光が観察された(図5)。さらに、肝星細胞のマーカーである抗デスミン抗体による二重染色では、GFPによる蛍光と抗デスミン抗体による染色部分が重なり、VA付加リポソームが肝星細胞に取り込まれることが示唆された。また、VA付加リポソームの静脈内投与後、肝臓、脾臓組織にGFPの蛍光が観察されたが、心、肺、腎、小腸組織では、GFPの蛍光は観察されなかった(図6)。これらの結果により、ビタミンAの付加によりリポソームの肝臓組織、特に肝星細胞への指向性が上昇したことが示された。
【実施例】
【0033】
3.ビタミンA付加リポソームの肝星細胞活性化(収縮)抑制効果
上記1で得られたリポソームを、脂肪肝ラットより分離・培養した肝星細胞に投与し、肝星細胞への影響を検討した。肝星細胞の収縮力は、コラーゲンゲルコントラクションアッセイ法およびファイロジン染色により検討した。上記2と同様にして肝星細胞を分離し、24ウェルプレートに0.3mlずつ分注したコラーゲンゲル培養キット(Nitta Gelatin, Osaka, Japan)上に1x106細胞/ウェルで播種し、24時間培養した。Y-27632単独、Y-27632内包化VA非付加リポソーム、およびY-27632内包化VA付加リポソームを、0.01、0.1、1、10μMの濃度でそれぞれ投与し、1時間後にコラーゲンゲルがウェルの底面から剥離された面積を測定した(各n=4)。Y-27632単独群のコントロールは薬剤非投与、Y-27632内包化VA非付加リポソーム群のコントロールは薬剤非内包化VA非付加リポソーム、Y-27632内包化VA付加リポソーム群のコントロールは薬剤非内包化VA付加リポソームとした。コラーゲンゲルコントラクションアッセイの結果を図7~8に、ファイロジン染色の結果を図9~11に示す。
【実施例】
【0034】
空のVA付加リポソーム(VA-Lip-Y、control)では、肝星細胞の収縮力の抑制効果は認めなかった。Y-27632単独では、10μMの濃度で100%の抑制効果が得られた。Y-27632内包化VA付加リポソームは、Y-27632単独の1/100の濃度である0.1μMでも肝星細胞の収縮を抑制した。
【実施例】
【0035】
薬剤添加後48時間までの効果を検討すると、Y-27632単独では10μMで対照(非添加)と比べ肝星細胞の収縮は有意に抑制され、さらにY-27632内包化VA非付加リポソームではより強い抑制が観察され48時間までその効果が持続した。Y-27632内包化VA付加リポソームでも同様な効果が得られた(図11)。
【実施例】
【0036】
4.正常肝ラットにおける虚血再灌流後生存率の改善
正常肝ラットを用い、虚血30分前に薬剤投与を行い、70分間の虚血の後に再灌流とした。コントロール群、Y-27632単独0.1mg/kg群、10mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.03mg/kg群、0.1mg/kg群でそれぞれn=10とした。虚血再灌流後7日目までの生存率を測定した。虚血再灌流は、ラットをエーテル麻酔のもと、開腹下にマイクロクリップを用いて行った後、閉腹を行った。結果は、Y-27632単独10mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群において生存率が90%、100%であり、コントロール群と比べ有意に改善していた(p<0.01, p<0.01)(図12)。Y-27632内包化VA付加リポソームはY-27632単独の1/100の量で同等の効果があることが示された。【0037】
5.正常肝ラットにおける虚血再灌流後の肝機能の改善
正常肝ラットを用い、虚血30分前に薬剤投与を行い、45分間の虚血の後に再灌流とした。コントロール群、Y-27632単独0.1mg/kg群、1mg/kg群、10mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.03mg/kg群、0.1mg/kg群、0.3mg/kg群、1mg/kg群でそれぞれn=5とした。虚血再灌流後3時間で採血を行い、血清AST値の測定を行った。虚血再灌流はラットをエーテル麻酔のもと、開腹下にマイクロクリップを用いて行った後、閉腹を行った。結果は、Y-27632単独10mg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群、0.3mg/kg群、1mg/kg群において、コントロール群と比べ血清AST値が有意に低下していた(p<0.05, p<0.01, p<0.01, p<0.01)(図13)。Y-27632内包化VA付加リポソームはY-27632単独の1/100の量でも同等の効果があることが示された。【0038】
6.正常肝ラットにおけるY-27632による副作用(低血圧)の軽減
正常肝ラットを用い、エーテル麻酔のもと、大腿動脈より24ゲージ針を留置し、カニュレーション法で薬剤投与時の平均動脈圧の変化の測定を行った。圧測定にAP601G (NIHON KODEN)を用いた。Y-27632単独10mg/kg群、0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群でそれぞれn=5とした。薬剤投与後、Y-27632単独10mg/kg群では約60mmHgの血圧低下を認めたが、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群では約30mmHgと有意に血圧低下が小さい結果であった(p<0.01)(図14)。また、その後の血圧の回復も良好であった。【0039】
7.脂肪肝ラットにおける虚血再灌流後の肝血流の改善
脂肪肝ラットを用い、開腹下に薬剤投与時の腸管血流、肝血流の推移を測定した。開腹はエーテル麻酔下に行い、虚血の30分前に尾静脈より薬剤を投与し、マイクロクリップを用いて肝虚血を行い、45分後に再灌流を行った。腸管血流、肝血流の測定はレーザー光による血流測定装置であるmoorFLPI リアルタイム血流画像化装置(LMS)を用いて行った。薬剤非投与のコントロール群、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群とし、それぞれn=5とした。腸管血流においては虚血再灌流後、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群において、コントロール群と比べ有意な血流の回復が見られたのに対し、肝血流においてはY-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群においてのみ、コントロール群と比べ有意な血流の回復が見られた。この結果から、Y-27632内包化VA付加リポソームは、肝臓により選択的に作用し、肝血流を改善する効果があることが示された。
【実施例】
【0040】
8.脂肪肝ラットにおける虚血再灌流後の門脈灌流圧の減少
脂肪肝ラットを用い、虚血30分前に薬剤投与を行い、45分間虚血、再灌流後15分の時点で門脈灌流圧の測定を行った。虚血再灌流はラットをエーテル麻酔のもと、開腹下にマイクロクリップを用いて行った。ラット門脈に24Gカニューレを挿入し、Krebs-Henseleit Bufferを用いて0.3ml/min/mlで灌流し、門脈灌流圧の測定はAP601G (NIHON KODEN)を用いて行った。虚血なし群(IR-)、虚血あり薬剤なしのコントロール群、Y-27632単独0.1mg/kg群、10mg/kg群、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群でそれぞれn=5とした。Y-27632単独10mg/kg群、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群では、それぞれ有意に肝虚血再灌流後の門脈灌流圧の低下を認めた(図16)。この結果から、Y-27632内包化VA付加リポソームはY-27632単独の1/100の量でも類洞の血管抵抗を低下させ、類洞血流を改善させる効果があることが示された。
【実施例】
【0041】
9.脂肪肝ラットにおける虚血再灌流後生存率の改善
脂肪肝ラットを用い、虚血30分前に薬剤投与を行い、45分間の虚血の後に再灌流とした。コントロール群、Y-27632単独10mg/kg群、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群でそれぞれn=10とした。虚血再灌流後7日目までの生存率を測定した。虚血再灌流は、ラットをエーテル麻酔のもと、開腹下にマイクロクリップを用いて行い、その後閉腹を行った。結果は、Y-27632単独10mg/kg群、Y-27632内包化VA非付加リポソーム0.1mg/kg群、Y-27632内包化VA付加リポソーム0.1mg/kg群において生存率が60%、60%、70%であり、それぞれコントロール群と比べ有意に改善していた(p<0.01, p<0.01, p<0.01)(図17)。Y-27632内包化VA非付加リポソームおよびY-27632内包化VA付加リポソームはY-27632単独の1/100の量で同等の効果があることが示された。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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