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明細書 :B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5888668号 (P5888668)
公開番号 特開2013-048606 (P2013-048606A)
登録日 平成28年2月26日(2016.2.26)
発行日 平成28年3月22日(2016.3.22)
公開日 平成25年3月14日(2013.3.14)
発明の名称または考案の名称 B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12Q 1/68 A
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 33/48 N
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 10
全頁数 19
出願番号 特願2011-189317 (P2011-189317)
出願日 平成23年8月31日(2011.8.31)
審査請求日 平成26年8月8日(2014.8.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】茶山 一彰
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100151873、【弁理士】、【氏名又は名称】鶴 寛
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
審査官 【審査官】小金井 悟
参考文献・文献 Antiviral Res.,2008年12月,Vol.80, No.3,p.231-238
Hepatology,2005年11月,Vol.42, No.5,p.1046-1054
Blood,2003年10月 1日,Vol.102, No.7,p.2522-2531
Toxicol. Sci.,2011年 4月,Vol.120, No.2,p.507-518
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に抗アシアロGM1抗体を投与する抗アシアロGM1抗体投与工程と、
前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物にクロドロネートを投与するクロドロネート投与工程と、
前記抗アシアロGM1抗体投与工程の後、かつ前記クロドロネート投与工程の日後ないし4日後に、ヒト末梢血単核球を、前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に投与するヒト末梢血単核球投与工程と、
を含み、
前記ヒト肝細胞キメラモデル動物は、ヒト肝細胞が移植された免疫不全マウスと肝不全マウスとの掛け合わせのuPA+/+/SCID+/+マウスであることを特徴とする、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項2】
前記B型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルス-A型、B型肝炎ウイルス-B型、B型肝炎ウイルス-C型、B型肝炎ウイルス-D型、B型肝炎ウイルス-E型、B型肝炎ウイルス-F型、B型肝炎ウイルス-G型およびB型肝炎ウイルス-H型、からなる群より選ばれる1以上のウイルスであることを特徴とする、請求項1に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項3】
前記B型肝炎ウイルスは、HBe抗原、および/または、HBs抗原を発現することを特徴とする、請求項1または2に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項4】
前記クロドロネートは、前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に対し、6μL/gないし14μL/g投与することを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項5】
前記クロドロネートは、前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に対し、8μL/gないし12μL/g投与することを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項6】
前記抗アシアロGM1抗体、前記クロドロネートおよび前記ヒト末梢血単核球は、腹腔内投与することを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項7】
記ヒト末梢血単核球は、2×10cells/mouseないし6×10cells/mouse投与することを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項8】
記ヒト末梢血単核球は、3×10cells/mouseないし5×10cells/mouse投与することを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか1項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法によって作製されることを特徴とする、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物。
【請求項10】
請求項に記載のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物に被検化合物を投与する工程と、
前記被検化合物を投与された前記ヒト肝細胞キメラモデル動物のB型肝炎の病症の程度を測定する工程と、
前記被検化合物を投与しない場合と比較して、前記B型肝炎の病症の程度が緩和する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする、B型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス感染および発症の際における免疫応答に関連する、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法、ならびに、作製したB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を利用するB型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝炎ウイルス感染によって引き起こる肝炎は、時に慢性化、重症化する予後不良の病症である。当該病症の病態の解明および治療のためには、肝炎ウイルス感染モデル動物、特にB型肝炎ウイルス感染モデル動物が必要とされている。B型肝炎ウイルスは、ヒトおよびチンパンジーにのみ感染可能であり、チンパンジーは優れたB型肝炎ウイルス感染モデル動物となり得る。しかし、倫理的、経済的に問題があるとされている。
【0003】
ヒト肝細胞キメラマウスとは、肝臓が部分的にヒト肝細胞に置換されているマウスのことである。近年、肝臓が高度かつ安定的にヒト肝細胞に置換されたヒト肝細胞キメラマウスが多く利用されている。このようなヒト肝細胞キメラマウスの作製方法を具体的に説明すると、まず、免疫不全マウスと肝不全マウスとを掛け合わせ、uPA/SCIDマウス(重度免疫不全肝障害マウス)を作製する。次いで、当該uPA/SCIDマウス(重度免疫不全肝障害マウス)にヒト肝細胞を移植し作製する。ヒト肝細胞キメラマウスは成熟したT細胞およびB細胞の欠損した重症免疫不全マウスである。しかし、マウス樹状細胞やNK細胞は存在するため、前処置を行わずにヒト末梢血単核球を投与するとこのヒト末梢血単核球はこれらの細胞により排除されてしまう。そのためヒト末梢血単核球を生着させるためには、細胞移植前に、マウス樹状細胞およびマウスNK細胞を排除しておく必要があり、これらの排除には、例えば、クロドロネートまたは抗アシアロGM1抗体等が利用され得る(非特許文献1および非特許文献2)。
【0004】
クロドロネートと種々の細胞(樹状細胞およびマクロファージも含む)との代謝メカニズムの詳細については、非特許文献3および非特許文献4に記載されている。また、抗アシアロGM1抗体によるマウスNK細胞の排除は、マウスのリンパ球系組織の全てからアシアロGM1陽性細胞が消失し、マウスNK細胞活性が除去されるということである。
【0005】
なお、このような肝臓が高度かつ安定的にヒト肝細胞に置換されているヒト肝細胞キメラマウスは、B型肝炎ウイルスを接種することにより、B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラマウスとすることが可能となる。さらには、当該B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラマウスの肝臓内においてB型肝炎ウイルスを増殖させることも可能である(非特許文献1および非特許文献5)。そのため、現在、このようなヒト肝細胞キメラマウスは、B型肝炎ウイルス以外にも最も有効な肝炎ウイルス感染モデル動物として多く利用されている(非特許文献5ないし非特許文献9)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Mercer DF. et al., Nat Med 7, 927-933, 2001
【非特許文献2】Tateno C. et al., Am J Pathol 165, 901-912, 2004
【非特許文献3】Nico Van Rooijen. et al., Journal of Immunological Methods 174, 83-93, 1994
【非特許文献4】Julie C. et al., JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH Volume 12 Number 9, 1358-1367, 1997
【非特許文献5】Tsuge C. et al., Hepatology 42, 1046-1054, 2005
【非特許文献6】Hiraga M. et al., FEBS Letts 581, 1983-1987, 2007
【非特許文献7】Matsumura T. et al., Gastroenterology 137, 673-681, 2009
【非特許文献8】Ohira M. et al., J Clin Invest 119, 3226-3235, 2009
【非特許文献9】Kamiya N. et al., J Gen Virol 91, 1668-1677, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、肝臓が高度かつ安定的に置換されたヒト肝細胞キメラマウスは、B型肝炎ウイルスに感染させることが可能である。そのため、優れたB型肝炎ウイルス感染動物モデルとなる。しかし、B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラマウスは成熟したT細胞およびB細胞の欠損した重症免疫不全マウスであるため、肝炎は発症しない。
【0008】
また、これまでにいくつかの肝炎発症モデルは開発されているが(例えば、Ando K. et al., J Exp. Med. 178, 1541-1554, 1993、Cote PJ. et al., Hepatology 32, 807-817, 2000、または、Wieland SF. et al., Proc Natl Acad Sci USA 101, 6669-6674, 2004)、いずれも実際のヒト肝細胞での現象を反映しているものではない。すなわち、実際のヒト肝細胞でのB型肝炎ウイルス感染からB型肝炎発症までの免疫メカニズムの全ては解明されていないため、肝炎に関する医薬開発および病態治療の進退に著しく影響を与えている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、実際のヒト肝細胞でのB型肝炎ウイルス感染からB型肝炎発症までの新規な免疫機構を解明し、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法、ならびに、作製したB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を利用するB型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、ヒト末梢血単核球生着のために使用していたクロドロネートが、マウス樹状細胞およびマクロファージだけでなく、ヒト樹状細胞にも影響を与えているということを発見した。詳細には、クロドロネートの影響でヒト樹状細胞が減少し、ヒトリンパ球の活性化に影響を与え、その結果、肝炎の発症が抑制されることを解明した。
【0011】
さらに、このような新規に発見した免疫機構を利用し、クロドロネートの投与時期の調整を行うことで、免疫応答を行うB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラマウスの作製に成功した。なお、当該B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラマウスの作製の際の、ヒト末梢血単核球の移植前に、抗Fas Ligand抗体を投与すると、やはりB型肝炎の発症は抑制されることがわかり、クロドロネートと、ヒト樹状細胞と、ヒトNK細胞と、Fas/Fas Ligand pathwayとの間には免疫応答に係る関係があることについても確認された。
【0012】
そこで、本発明の第1の態様に係るB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法は、
B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に抗アシアロGM1抗体を投与する抗アシアロGM1抗体投与工程と、
前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物にクロドロネートを投与するクロドロネート投与工程と、
前記抗アシアロGM1抗体投与工程の後、かつ前記クロドロネート投与工程の日後ないし4日後に、ヒト末梢血単核球を、前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に投与するヒト末梢血単核球投与工程と、
を含み、
前記ヒト肝細胞キメラモデル動物は、ヒト肝細胞が移植された免疫不全マウスと肝不全マウスとの掛け合わせのuPA+/+/SCID+/+マウスであることを特徴とする。
【0014】
より好ましくは、前記B型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルス-A型、B型肝炎ウイルス-B型、B型肝炎ウイルス-C型、B型肝炎ウイルス-D型、B型肝炎ウイルス-E型、B型肝炎ウイルス-F型、B型肝炎ウイルス-G型およびB型肝炎ウイルス-H型、からなる群より選ばれる1以上のウイルスであることを特徴とする。
【0015】
また、前記B型肝炎ウイルスは、HBe抗原、および/または、HBs抗原を発現することを特徴とする。
【0017】
また、好ましくは、前記クロドロネートは、前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に対し、6μL/gないし14μL/g投与することを特徴とする。
【0018】
より好ましくは、前記クロドロネートは、前記B型肝炎ウイルスを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に対し、8μL/gないし12μL/g投与することを特徴とする。
【0019】
さらに好ましくは、前記抗アシアロGM1抗体、前記クロドロネートおよび前記ヒト末梢血単核球は、腹腔内投与することを特徴とする。
【0020】
また、好ましくは、前記ヒト末梢血単核球は、2×10cells/mouseないし6×10cells/mouse投与することを特徴とする。
【0021】
また、好ましくは、前記ヒト末梢血単核球は、3×10cells/mouseないし5×10cells/mouse投与することを特徴とする。
【0022】
本発明の第2の態様に係るB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物は、第1の態様に係るB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法によって作製されることを特徴とする。
【0024】
本発明の第3の態様に係るB型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法は、
第2の態様に係るB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物に被検化合物を投与する工程と、
前記被検化合物を投与された前記ヒト肝細胞キメラモデル動物のB型肝炎の病症の程度を測定する工程と、
前記被検化合物を投与しない場合と比較して、前記B型肝炎の病症の程度が緩和する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、実際のヒト肝細胞でのB型肝炎ウイルス感染からB型肝炎発症までの新規な免疫機構が解明され、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法、ならびに、作製したB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を利用するB型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1に係るヒト末梢血単核球(末梢血単核球をPBMCと略記する)が存在するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの調製スケジュールを示す図である。
【図2】実施例1に係るHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスのマウス肝臓組織の染色結果を示す図である。
【図3】実施例1に係る3日前のクロドロネート投与における、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの血清のヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の変化を示す図である。
【図4】実施例1に係る0日前のクロドロネート投与における、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの血清のヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の変化を示す図である。
【図5】実施例2に係るHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの肝臓組織の染色結果を示す図である。
【図6】実施例2に係るHBV感染ヒト肝細胞およびHBV非感染ヒト肝細胞のFasmRNA量を示す図である。
【図7】実施例2に係るヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの血清のヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書において「有する」、「含む」または「含有する」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。

【0028】
(B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法)
本発明の実施の形態1は、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法に関する。具体的には、B型肝炎ウイルスを(以下、HBV)感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に抗アシアロGM1抗体を投与する抗アシアロGM1抗体投与工程と、HBVを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物にクロドロネートを投与するクロドロネート投与工程と、抗アシアロGM1抗体投与工程の後、かつクロドロネート投与工程の1日後ないし4日後に、ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCという)をHBVを感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物に投与するヒトPBMC投与工程と、を含む。

【0029】
本明細書において「B型肝炎ウイルス(HBV)を感染させたヒト肝細胞キメラモデル動物」(以下、HBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物、とも言う)とは、肝臓が高度かつ安定的にヒト肝細胞に置換されており、HBVに感染しているモデル動物を示す。「HBV」とは、広く一般の任意のHBVを含有し、例えば、B型肝炎ウイルス-A型、B型肝炎ウイルス-B型、B型肝炎ウイルス-C型、B型肝炎ウイルス-D型、B型肝炎ウイルス-E型、B型肝炎ウイルス-F型、B型肝炎ウイルス-G型およびB型肝炎ウイルス-H型、からなる群より選ばれる1以上のウイルスを挙げることができる。また、HBe抗原、および/または、HBs抗原を発現するHBVも挙げることができる。HBe抗原の発現に関わるHBVゲノムに変異を有し、HBe抗原が発現していないHBVに感染すると、臨床的に劇症肝炎となることが知られている。「モデル動物」とは、最も好ましくはマウス(Mus musculus)であり、その他ラット(Rattus norvegicus)またはモルモット(Cavia porcellus)等の実験動物として使用され得る動物でも構わない。

【0030】
このようなHBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法は、例えば、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの場合、まず、免疫不全マウスと肝不全マウスとを掛け合わせ、uPA+/+/SCID+/+マウス(重度免疫不全肝障害マウス)を作製する。次いで、当該uPA+/+/SCID+/+マウス(重度免疫不全肝障害マウス)にヒト肝細胞を移植し、ヒト肝細胞キメラマウスを作製し、HBVを接種することによって作製することができる。その他、当該技術分野において公知の作製方法を用いても構わない。また、「肝臓が高度かつ安定的にヒト肝細胞に置換」とは、当該ヒト肝細胞キメラモデル動物がHBVに感染可能である程度置換されていればよい。

【0031】
HBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物を作製後、抗アシアロGM1抗体およびクロドロネートを投与、注入する。なお、いずれについてもリポソームにて封入し、投与、注入してもよい。好ましくは、抗アシアロGM1抗体および/またはクロドロネートは、注射器等を使用し腹腔内投与を行う。また、抗アシアロGM1抗体投与工程と、クロドロネート投与工程は、いずれを先に行っても構わない。抗アシアロGM1抗体またはクロドロネートは、購入することによって容易に入手することが可能である。

【0032】
抗アシアロGM1抗体投与工程について詳細に説明する。抗アシアロGM1抗体は、前述した通り、腹腔内に投与するとマウスNK細胞活性が除去され、後の工程において投与されるヒトPBMCが排除されることはない。なお、抗アシアロGM1抗体が、ヒトNK細胞活性には影響を与えないことは公知である。抗アシアロGM1抗体投与工程は、ヒトPBMC投与工程の1日前に行うと好ましい。抗アシアロGM1抗体の投与量については、投与するHBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物の肝臓の大きさ、体重等に適宜合わせればよい。

【0033】
クロドロネート投与工程について詳細に説明する。クロドロネートは、前述した通り、腹腔内に投与するとマウス樹状細胞(以下、樹状細胞をDCと略記する)およびマクロファージだけでなく、ヒトDCまで排除してしまう。そのため、後述するヒトPBMC投与工程の4日前ないし1日前においてクロドロネートを投与する(すなわち、クロドロネート投与工程の1日後ないし4日後においてヒトPBMCを投与する)。より好ましくは、ヒトPBMC投与工程の4日前ないし3日前においてクロドロネートを投与する(すなわち、クロドロネート投与工程の3日後ないし4日後においてヒトPBMCを投与する)。

【0034】
しかし、このように具体的な「ヒトPBMC投与工程の4日前ないし1日前」等といった期間でなくとも、ヒトPBMC投与工程の際にクロドロネートが適量マウス体内に残存していれば、本実施の形態1と同様のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を作製することは可能である。適量とは、例えば、ヒトPBMC投与工程の当日に投与した場合は、クロドロネートの残存量が多量となりヒトDCを殆ど排除してしまうが、ヒトPBMC投与工程の4日前に投与した場合はクロドロネートの残存量が適量となり、ヒトDCも適量残存することになる。また、例えば、ヒトPBMC投与工程の10日前に投与した場合は、クロドロネートがマウス体内に残存していない状態となってしまう。

【0035】
クロドロネートの投与量は、投与するHBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物の肝臓の大きさ、体重等に適宜合わせればよい。例えば、前述したような期間においてクロドロネートを投与する場合は、HBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物の体重に対し、好ましくは6μL/gないし14μL/g、さらに好ましくは8μL/gないし12μL/g、最も好ましくは10μL/g投与すればよい。さらには、クロドロネートの投与時期と、クロドロネートの投与量とを適宜合わせ、ヒトPBMC投与工程の際にクロドロネートが適量マウス体内に残存している状態に調整することで、前述と同様に本実施の形態1と同様のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を作製することは可能である。

【0036】
ヒトPBMC投与工程について詳細に説明する。HBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物に、前述した通りの抗アシアロGM1抗体投与工程およびクロドロネート投与工程を行い、その後ヒトPBMCを投与(移植)することによって、B型肝炎を発症するヒト肝細胞キメラモデル動物を作製することが可能となる。ヒトPBMCはヒトの末梢血を用い、密度勾配遠心分離等を行うことによって得ることができる。

【0037】
ヒトPBMC投与工程は2回(特に隔日にて)行うと好ましいし、複数回行っても構わない。ヒトPBMC投与工程を複数回行う場合、本明細書において述べているクロドロネートの投与時期とヒトPBMCの投与時期との間隔は、全て、最初に行うヒトPBMC投与工程の時期との間隔を意味している。ヒトPBMCの投与量は、HBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物の肝臓の大きさ、体重に適宜合わせればよい。例えば、モデル動物がマウスの場合、好ましくは2×10cells/mouseないし6×10cells/mouse、さらに好ましくは3×10cells/mouseないし5×10cells/mouse、最も好ましくは4×10cells/mouse程度を投与すればよい(複数回ヒトPBMCを投与する場合は、合計量を示す)。

【0038】
このように、抗アシアロGM1抗体投与工程およびクロドロネート投与工程と、その後のヒトPBMC投与工程を経ることによって、B型肝炎を実際に発症するヒト肝細胞キメラモデル動物を作製することができる。本実施の形態1の変形例として、上述した方法によって作製された、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を挙げることができる。好ましくは、当該B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物は、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラマウスである。また、本実施の形態1において作製されるB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物は、前述したように、クロドロネートと、ヒトDCと、ヒトNK細胞と、Fas/Fas Ligand pathway(以下、Fas/FasL pathway)との間には免疫応答に係る関係があることを示唆している。そのため、本発明を利用することにより、HBVだけでなくその他のウイルス性肝炎の病態の解明および治療・予防薬の開発が可能となり、今後、さらに医療へ応用されることが期待される。

【0039】
(B型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法)
本発明の実施の形態2は、B型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法に関する。具体的には、前述の実施の形態1の変形例のB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物に被検化合物を投与する工程と、当該被検化合物を投与された当該ヒト肝細胞キメラモデル動物のB型肝炎の病症の程度を測定する工程と、当該被検化合物を投与しない場合と比較して、B型肝炎の病症の程度が緩和する化合物を選択する工程と、を含む。

【0040】
本発明において「被検化合物」(「化合物」)とは、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物に投与でき、その被検化合物によるB型肝炎の病症の程度の変化を評価できるあらゆる物質、組成物を示す。例えば、低分子化合物、核酸またはポリペプチド等が挙げられる。低分子化合物、核酸またはポリペプチド等は、天然物から抽出および精製されたものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、精製されたものに限らず、例えば、未精製の細胞抽出液等であっても被検化合物として使用することができる。また、新規な物質に限らず、公知の物質またはその改良物であってもよい。例えば、既存の治療薬もしくは予防薬またはその誘導体において、本実施の形態2のスクリーニング方法により評価をすることも可能である。

【0041】
このような被検化合物の投与は、直接当該ヒト肝細胞キメラモデル動物に投与したり、その他の成分も含有する化合物を構成し、これを当該ヒト肝細胞キメラモデル動物に投与してもよい。本発明における「投与」とは、注射器等を使用した腹腔内投与が最も好ましい。その他、経口投与、静脈内投与、動脈内投与または皮下注射等の公知の方法を用いることが可能である。

【0042】
次の工程である、B型肝炎の病症の程度を測定する工程とは、当該B型肝炎を発症しているヒト肝細胞キメラモデル動物の肝臓組織または肝細胞において、炎症の進行度合を、免疫染色等の既知の技術を用い、確認または評価することを示す。確認または評価方法の詳細については、実施例を参照されたい。

【0043】
最後は、被検化合物を投与していないこと以外は同様であるB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の場合と比較して、B型肝炎の病症の程度が緩和する化合物を選択する。ここで、B型肝炎の病症の程度が「緩和」とは、当該B型肝炎を発症しているモデル動物の肝臓組織または肝細胞において、炎症の進行度合が抑制されること、または炎症の進行が停止すること等を意味する。このような方法で、B型肝炎治療および/または進行抑制化合物をスクリーニングする。

【0044】
他に定義しない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語等は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと同様のまたは等しい方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができる。本明細書中に言及するすべての公開物および他の参考文献は、参照として全体が組み入れられる。相反の場合、定義を含む本明細書が優先する。さらに、材料、方法および具体例は単に例示的なものであり、限定することを意図していない。
【実施例】
【0045】
以下、調製例および実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
(調製例)
まず、後述する実施例にて使用する、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスを調製した。免疫不全マウスと肝不全マウスとを掛け合わせ、uPA/SCIDマウス(重度免疫不全肝障害マウス)を作製し、次いでHLA(白血球抗原)-A0201を有するヒト肝細胞を移植した。この方法は、非特許文献2および非特許文献5、ならびにHiraga N., et al., Journal of Hepatology 51, 1046-1054, 2009に記載の作製方法と同様の方法を用いた。使用した全てのマウスにおいて、同じドナーから得て冷凍しておいたヒト肝細胞を移植した。感染、血清サンプル抽出および安楽死の際には、それぞれ麻酔の下で行った。
【実施例】
【0047】
HBVのDNAを含むヒト血清のサンプル(5.3×10copies/mL)は、提供に同意した慢性肝炎の患者から得た。当該HBV陽性ヒト血清のサンプルは、使用するまで少量ずつ一定量に分け、液体窒素を用い保存しておいた。このように調製されたHBV陽性ヒト血清は、50μLずつヒト肝細胞キメラマウスに静脈注射にて注入し、ヒト肝細胞キメラマウスをHBVに感染させた。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
本実施例1では、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびヒトPBMC移植によって作製された、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラマウスに係る実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0049】
まず、ヒトPBMCを調製した。調製方法は、HLA-A0201を有する健康的なドナーの血液から分離した後、フィコール・ハイパックの密度勾配遠心分離機を使用し、分離調製した。次いで、前述の調製例の方法において作製したHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの腹腔内に120μLの抗アシアロGM1抗体(和光純薬工業)を含む200μLのPBSを注入した。抗アシアロGM1抗体の注入は、マウスNK細胞を排除し、ヒトPBMCの排除を防ぐためである。その1日後にヒトPBMCの1回目の腹腔内移植(投与)を行った。図1は、実施例1に係るヒトPBMCが存在するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの調製スケジュールを示す図である。
【実施例】
【0050】
図1では、抗アシアロGM1抗体(anti-asialoGM1)を投与した日をday0として記載している。図1に示すように、1回目のヒトPBMCの腹腔内投与(PBMC1)(2×10cells/mouse)の3日前(day-2)において、10μL/gのリポソームクロドロネートをHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスに投与した(clodronate)。これは、マウスのマクロファージおよびマウスDCを排除するためである。2回目のヒトPBMC腹腔内投与(PBMC2)(2×10cells/mouse)は、day3において行った。また、HBVの感染(HBV infection)は、調製例にて示した方法で、8週間前に行われた。
【実施例】
【0051】
ここで、図1に記載のday7およびday14に行われたliver samplingについて説明する。前述のような投与、調製スケジュールを経たHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの肝臓組織はどのように変化しているのかを免疫染色によって調べた。すなわち、3日前においてリポソームクロドロネートを投与した場合は、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの肝臓組織はどのように変化したのかを調べた。
【実施例】
【0052】
まず、day7またはday14のヒト肝細胞キメラマウスにジエチルエーテルを用いて麻酔を行い、肝臓を取り出した。次いで、各肝臓を薄片とし、ホルマリン(登録商標)固定後、パラフィン包埋した。その後、各薄片を用い、HE染色、ならびに抗ヒトアルブミン抗体および抗HBc抗体による免疫染色を行った。なお免疫染色は、ストレプトアビジン-ビオチン染色キット(Histofine SAB-PO kit、ニチレイ)およびジアミノベンジジンを用いて行った。なお、ヒトPBMCを後に投与していないHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスについても、同様の実験を行った。
【実施例】
【0053】
図2は、実施例1に係るHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスのマウス肝臓組織の染色結果を示す図である。図2における、A、BおよびCは、それぞれヒトPBMCを投与していないHBV感染ヒト肝細胞キメラマウス(HBV infection(+)、PBMC(-))の薄片の、HE染色、ならびに抗ヒトアルブミン抗体および抗HBc抗体での免疫染色の写真である。
【実施例】
【0054】
D、EおよびF、ならびにG、HおよびIについても、同様の条件の染色の写真であり、それぞれday7またはday14にliver samplingが行われ、PBMCが投与されたHBV感染ヒト肝細胞キメラマウス(HBV infection(+)、PBMC(day7またはday14))である。なお、それぞれの写真は各々のHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの薄片の代表例を示し、40倍で撮影され、Hはヒトの肝細胞の部分を示し、Mはマウスの肝細胞の部分を示す。
【実施例】
【0055】
図2に示すように、3日前においてリポソームクロドロネートを投与した場合では、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの肝臓は、ヒトPBMCを投与した場合のみ、劇症肝炎の際に見られるヒト肝細胞の死細胞の範囲と同様の広範囲の死細胞が確認された。すなわち、肝炎が発症し病態が進行し劇症肝炎となり、ヒト肝細胞は殆ど完全に除去され、day7またはday14には低ヒトアルブミンであるマウス肝細胞に置き換わっていた。
【実施例】
【0056】
さらに、3日前においてリポソームクロドロネートを投与した場合のヒト肝細胞キメラマウスの血清について、ヒトアルブミン量およびHBVのDNA量を調べた。なお、検体は、ヒトPBMCを投与したHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスと、ヒトPBMCを投与していないHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスと、ヒトPBMCを投与したHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの3種類である。ヒトアルブミン量の測定については、当該技術分野における常法を用いた。
【実施例】
【0057】
HBVのDNA量の測定方法について述べる。まず、各ヒト肝細胞キメラマウスの血清からSMITEST(Genome Science Laboratories)を用いDNAを抽出し、20μLの水に溶解させた。次に、溶解させたサンプルを使用し、Light Cycler(Roche, Mannheim, Germany)によってリアルタイムPCRでHBVのDNA量を測定した。増幅のために使用したプライマーは配列番号1および配列番号2に記す。増幅条件は、最初の変性反応を95℃で10分間、続いて95℃で15秒間の変性を45サイクル、アニーリングは58℃で5秒間行い、最後に伸長反応を72℃で6秒間行った。本測定の検出下限は300コピーで行った。
【実施例】
【0058】
図3は、実施例1に係る3日前のクロドロネート投与における、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHB実施例1に係る3日前のクロドロネート投与における、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの血清のヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の変化を示す図である。ヒトアルブミン量(Human albumin(ng/mL))の変化を見ると、HBVに感染しており、かつヒトPBMCを投与されているヒト肝細胞キメラマウスでなければ、ヒトアルブミン量の減少、すなわちヒト肝細胞障害は起こらず、肝炎の発症の病態とはならないということが確認された。
【実施例】
【0059】
また、HBVのDNA量(HBV DNA(copies/mL))についても同様であり、HBVに感染しており、かつヒトPBMCを投与されているヒト肝細胞キメラマウスでなければ、HBVのDNA量は減少しない、すなわちHBV感染ヒト肝細胞が減少する肝炎発症の病態にはならないということが確認された。
【実施例】
【0060】
一方、0日前(24時間前以内)においてリポソームクロドロネートをヒト肝細胞キメラマウスに投与した場合、血清中のヒトアルブミン量、およびHBVのDNA量はどう変化するのかについても調べた。検体は、ヒトPBMCを投与したHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスと、ヒトPBMCを投与したHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスのみの、2種類である。ヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の測定方法については、前述と同様である。
【実施例】
【0061】
図4は、実施例1に係る0日前のクロドロネート投与における、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの血清のヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の変化を示す図である。0日前とは、前述の通り、クロドロネート投与後24時間以内にヒトPBMCを投与することを意味する。いずれもヒトPBMCを投与したヒト肝細胞キメラマウスのデータである。なお、controlとは、前述の図3に示した、3日前のクロドロネート投与における、ヒトPBMCを投与したHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスのデータを記載したものである。
【実施例】
【0062】
ヒトアルブミン量(Human albmin(ng/mL))の変化を見ると、いずれのヒト肝細胞キメラマウスもヒトアルブミンの減少、すなわちヒト肝細胞障害は起こらず肝炎発症の病態となることはなかった。また、HBVのDNA量(HBV DNA(copies/mL))についても同様であり、いずれのヒト肝細胞キメラマウスもHBVのDNA量が減少することはなく、すなわちHBV感染ヒト肝細胞が減少する肝炎発症の病態となることはなかった。
【実施例】
【0063】
これらの結果および現在までの種々の研究結果から、本発明者は、リポソームクロドロネート投与を以てマウスのマクロファージおよびDCを排除する際に、例えばヒトPBMC投与0日前等に投与すると、ヒトPBMC投与時に残存したクロドロネートがヒトDCに影響を与え、ヒトリンパ球の活性化を抑制し、肝炎を発症しないのではないかと考察した。
【実施例】
【0064】
従って、肝炎を発症するHBV感染ヒト肝細胞キメラモデル動物を作製するには、使用するモデル動物の肝臓組織および肝細胞等に適宜合うよう、特定の量および特定の時期に、モデル動物のマクロファージおよびDCを排除する物質、主にクロドロネートを投与すべきであると示唆される。
【実施例】
【0065】
(実施例2)
本実施例2では、ヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスにおける肝炎発症の機序、特にFas/FasL pathwayとの関係に関する実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0066】
実施例1にて前述したように、ヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスにおけるヒトリンパ球の活性化の抑制は、マウスのマクロファージおよびDCを排除するために使用されていたクロドロネートによってひきおこされることが示唆された。ここで、本発明者は、1回目のヒトPBMC投与時の3日前または0日前にリポソームクロドロネートを投与したマウスの肝臓を取り出し、フローサイトメトリーによって、肝臓内に生着したヒトNK細胞の表面のFasLの量を測定した。その結果、3日前にクロドロネートを投与したHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの方のみ発現が亢進していた(図示せず)。
【実施例】
【0067】
これらの結果から、本発明者は、現在までに解明されているFas/FasL pathwayと細胞死との間には関連があると考え、残存したクロドロネートがヒトDCまで除去するため、ヒトリンパ球の活性化が抑制され、HBV感染ヒト肝細胞の障害が起こらないのではないかとの推論に至った。
【実施例】
【0068】
そこで、前述の実施例1の3日前のクロドロネート投与の場合と同様のスケジュールを経たヒト肝細胞キメラマウスの肝臓組織を用い、より詳細な免疫染色およびTUNELアッセイを行った。薄片の製法は、実施例1にて前述した方法と同様である。また、HE染色、ならびに抗ヒトアルブミン抗体および抗Fas抗体による免疫染色も同様に、ストレプトアビジン-ビオチン染色キット(Histofine SAB-PO kit、ニチレイ)およびジアミノベンジジンを用いて行った。TUNELアッセイは、In Situ Cell Death Detection KitのPOD(Roche Diagnostics Japan)を使用した。
【実施例】
【0069】
図5は、実施例2に係るHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスおよびHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウスの肝臓組織の染色結果を示す図である。図5における、A、B、CおよびDは、それぞれday7にliver samplingが行われヒトPBMCが投与されたHBV非感染ヒト肝細胞キメラマウス(HBV infection(-)、PBMC(+、day7))の薄片の、HE染色、抗ヒトアルブミン抗体および抗Fas抗体での免疫染色、ならびにTUNELアッセイでの染色の写真である。
【実施例】
【0070】
E、F、GおよびH、I、J、KおよびL、ならびに、M、N、OおよびPについても、同様の条件の染色写真である。それぞれ、ヒトPBMCが投与されていないHBV感染ヒト肝細胞キメラマウス(HBV infection(+)、PBMC(-))の薄片、day4にliver samplingが行われヒトPBMCが投与されたHBV感染ヒト肝細胞キメラマウス(HBV infection(+)、PBMC(+、day4))の薄片、および、day7にliver samplingが行われヒトPBMCが投与されたHBV感染ヒト肝細胞キメラマウス(HBV infection(+)、PBMC(+、day7))の薄片の写真である。なお、それぞれの写真は各々のヒト肝細胞キメラマウスの薄片の代表例を示し、100倍で撮影さている。Hはヒトの肝細胞の部分を示し、Mはマウスの肝細胞の部分を示す。
【実施例】
【0071】
図5に示すように、HBV感染ヒト肝細胞キメラマウスで抗ヒトアルブミン抗体が陽性のヒト肝細胞においてのみ、抗Fas抗体に対して陽性であった。TUNELアッセイの染色についても、day4またはday7にliver samplingが行われヒトPBMCを投与されたHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの薄片のみ染色されていた。
【実施例】
【0072】
さらに、HBV感染ヒト肝細胞およびHBV非感染ヒト肝細胞のFasのmRNA量についてRT-PCR法によって測定した。まず、それぞれのヒト肝細胞からトータルRNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて抽出した。次に、それぞれのRNAを1μgずつを、ReverseTra Ace(東洋紡)およびランダムプライマー(タカラバイオ)を用い、逆転写を行った。その後、それぞれのヒト肝細胞のFasのmRNAレベルを分析した。なお、Fasフォワードプライマーの塩基配列を配列番号3に、Fasリバースプライマーを配列番号4に記す。
【実施例】
【0073】
図6は、実施例2に係るHBV感染ヒト肝細胞およびHBV非感染ヒト肝細胞のFasmRNA量を示す図である。なお、図6は、HBV非感染ヒト肝細胞(Uninfected liver、n=4)のFasmRNA量を1とし、HBV感染ヒト肝細胞(HBV-infected liver、n=5)のFasmRNA量の割合(Ratio)を示している(有意水準:p=0.01)。図6に示すように、ヒト肝細胞のFasmRNAレベルは、HBVに感染すると著しく増加することが解明した。
【実施例】
【0074】
これらの結果から、ヒトPBMCによるHBV感染ヒト肝細胞の肝炎発症による細胞死はFas/FasL pathwayが影響していると示唆される。そこで、ヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスを用い、ヒトDCが産生するヒトインターフェロンαと、ヒトインターフェロンγの作用を阻害するために、抗ヒトインターフェロンα抗体および抗ヒトインターフェロンγ抗体の前投与と、活性化したヒトリンパ球が発現するヒトFasLの作用を阻害するために抗ヒトFasL抗体を前投与し、ヒトアルブミン量およびHBV DNA量の推移についての比較を行った。ヒトアルブミン量およびHBV DNA量の測定方法は、前述の実施例1と同様である。ヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの作製スケジュールは、前述の実施例1に係る3日前でのクロドロネート投与におけるスケジュールにて行った。なお、それぞれの抗体は1回目のヒトPBMC投与時の1日前に腹腔投与で行った。
【実施例】
【0075】
図7は、実施例2に係るヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの血清のヒトアルブミン量およびHBVのDNA量の変化を示す図である。図7に示すように、抗ヒトインターフェロンγ抗体(anti-interferon gamma、1.5mg/mouse、R&G Systems)、抗ヒトインターフェロンα抗体(anti-interferon alpha、1.5mg/mouse、PBL Biomedical Laboratories)、および、アイソタイプコントロール(control antibody)と比較すると、抗ヒトFasL抗体(anti-FasL、1.5mg/mouse、R&G Systems)を投与したHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスにおいて、ヒトアルブミン量(Human albumin(ng/mL))の減少を認めなかった。また、HBVのDNA量(copies/mL)についても、抗ヒトインターフェロンγ抗体、抗ヒトインターフェロンα抗体、および、アイソタイプコントロールと比較すると、抗ヒトFasL抗体で減少を認めなかった。すなわち、抗ヒトFasL抗体によって肝炎の発症をより抑制できることを示唆している。
【実施例】
【0076】
これらの実施例の結果から、HBV感染ヒト肝細胞は、NK細胞およびDCにおけるFas/FasL pathwayに媒介されている可能性が高く、Fas/FasL pathwayの媒介機能を利用し、肝炎発症抑制剤の研究、開発に繋がることを示唆している。
【実施例】
【0077】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【実施例】
【0078】
本明細書の中で明示した論文等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、ヒトPBMCが生存するHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスの作製に使用していたクロドロネートが、マウスDCおよびマクロファージだけでなく、ヒトDCにも影響を与えているということを発見した。詳細には、クロドロネートの影響でヒトDCが減少し、ヒトリンパ球の活性化に影響を与え、その結果、肝炎の発生が抑制されることを解明した。さらに、このような新規に発見した免疫機構を利用し、クロドロネートの投与時期の調整を行うことで、免疫応答を行うB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラマウスの作製に成功した。なお、当該B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラマウスの作製の際のヒトPBMC移植前に、抗FasL抗体を投与すると、やはりB型肝炎の発症は抑制され、クロドロネートと、ヒトDCと、ヒトリンパ球と、Fas/FasL pathwayとの免疫応答における関係についても確認した。
【0080】
そこで、本発明によれば、実際のヒト肝細胞でのHBV感染からB型肝炎発症までの新規な免疫機構が解明されたため、B型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物の作製方法、ならびに、作製したB型肝炎発症ヒト肝細胞キメラモデル動物を利用するB型肝炎治療および/または進行抑制化合物のスクリーニング方法が提供される。さらには、本発明により解明された新規な免疫機構の関係から、HBVだけでなくその他のウイルス性肝炎の病態の解明および治療薬の開発が可能となり、今後さらに医療へ応用されることが期待される。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図6】
2
【図7】
3
【図1】
4
【図2】
5
【図5】
6