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明細書 :遺伝子増幅効率の増加方法、および当該方法を行なうためのキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5464378号 (P5464378)
公開番号 特開2012-034698 (P2012-034698A)
登録日 平成26年1月31日(2014.1.31)
発行日 平成26年4月9日(2014.4.9)
公開日 平成24年2月23日(2012.2.23)
発明の名称または考案の名称 遺伝子増幅効率の増加方法、および当該方法を行なうためのキット
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 12
全頁数 22
出願番号 特願2011-203822 (P2011-203822)
分割の表示 特願2006-144663 (P2006-144663)の分割、【原出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
出願日 平成23年9月16日(2011.9.16)
審査請求日 平成23年9月16日(2011.9.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】清水 典明
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 特開2003-245083(JP,A)
特開2006-055175(JP,A)
国際公開第2005/111220(WO,A1)
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
(i)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1ポリヌクレオチドと、(ii)発現させるべきタンパク質をコードする第2ポリヌクレオチド、およびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該第2ポリヌクレオチドが当該プロモーターに制御可能に連結されている第3ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞へ同時に導入する導入工程、並びに
当該第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜する選抜工程を行なって、第2ポリヌクレオチドを増幅する場合において、
以下に示される(I)の条件および(II)の条件を満たすことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法:
(I)上記導入工程において、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドと同時に、逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入する
(II)上記プロモーターは、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターであり、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なう。
【請求項2】
上記逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチドが、回文配列よりなるポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を行なうためのキットであって、
真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含むポリヌクレオチドと、逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチド、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターを含むポリヌクレオチドとを含むことを特徴とするキット。
【請求項6】
上記逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチドが、回文配列よりなるポリヌクレオチドである、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来することを特徴とする請求項5または6に記載のキット。
【請求項8】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
発現させるべきタンパク質をコードする目的遺伝子、およびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該目的遺伝子が当該プロモーターに制御可能に連結されているポリヌクレオチドを、哺乳動物細胞へ同時に導入する導入工程、並びに
上記ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜する選抜工程を行なって、上記目的遺伝子を増幅する場合において、以下に示される(I)の条件および(II)の条件を満たすことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法:
(I)上記導入工程において、上記ポリヌクレオチドと同時に、逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入する
(II)上記プロモーターは、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターであり、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なう。
【請求項10】
上記逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチドが、回文配列よりなるポリヌクレオチドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法を行なうためのキットであって、
逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチド、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターを含むポリヌクレオチドとを含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
上記逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチドが、回文配列よりなるポリヌクレオチドである、請求項11に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞において所望の遺伝子を増幅する際に、遺伝子増幅効率を増加させる方法、および当該方法を行なうためのキットを提供する。より好ましくは本発明は、本発明者が開発した「高度遺伝子増幅系」を用いて所望の遺伝子を増幅する際の遺伝子増幅効率をさらに増加させる方法、および当該方法を行なうためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、哺乳動物複製開始領域(IR; initiation region)と核マトリックス結合領域(MAR; matrix attachment region)とを持つプラスミド(以下「IR/MAR プラスミド」という)をヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン(Blasticidine)あるいはネオマイシン(Neomycine))を利用して選択するだけで、
(1)発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子(以下、適宜「目的遺伝子」という)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できること、および、
(2)目的遺伝子はIR/MAR プラスミドに対して同一の遺伝子構築物(シス)として導入した場合であっても、別の遺伝子構築物(トランス)として導入した場合であっても、高度に増幅することができるということを発見した(特許文献1および非特許文献1参照)。そして、本発明者は当該知見に基づいて、IR/MAR プラスミドと目的遺伝子とを、哺乳動物細胞(例えば、ヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)、CHO細胞等)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(BlasticidineあるいはNeomycine )を利用して選択するだけで、目的遺伝子を1万コピー程度に増幅できる系(以下、「高度遺伝子増幅系」という)を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2003-245083号公報(公開日:平成15(2003)年9月2日)
【0004】

【非特許文献1】Noriaki Shimizu, et al. (2001) Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification. Cancer Research vol.61, no.19, p6987-6990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記高度遺伝子増幅系における遺伝子増幅効率をさらに向上させることを目的とした。また本発明は上記高度遺伝子増幅系を用いない場合においても、導入された目的遺伝子の増幅効率を向上させる方法、および当該方法を行なうためのキットを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく上記高度遺伝子増幅系を用いて鋭意検討を行なったところ、以下の(1)および(I)~(II)に示す少なくとも1つ以上の条件を満たすことによって、遺伝子増幅効率をさらに向上することができることを発見し、本発明を完成させるに至った:
(1)形質転換哺乳動物細胞を低酸素濃度条件下で培養する;
(I)逆方向反復配列(例えば回文配列)を哺乳動物細胞に導入する;
(II)転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で遺伝子導入および形質転換細胞の選抜を行なう。
【0007】
特に本発明は以下の発明を包含する。
【0008】
すなわち、本発明にかかる方法は、(i)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1ポリヌクレオチドと、(ii)発現させるべきタンパク質をコードする第2ポリヌクレオチド、およびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該第2ポリヌクレオチドが当該プロモーターに制御可能に連結されている第3ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞へ同時に導入する導入工程、並びに、
当該第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜する選抜工程を行なって、第2ポリヌクレオチドを増幅する場合において、
以下に示される(I)の条件を満たすことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法である。
(I)上記導入工程において、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドと同時に、逆方向反復配列を哺乳動物細胞へ導入する。
【0009】
本発明にかかる方法は、以下に示す(II)の条件をさらに満たしていてもよい。
(II)上記プロモーターは、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターであり、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なう。
【0010】
本発明にかかる方法は、上記逆方向反復配列が、回文配列であってもよい。
【0011】
また本発明にかかる方法は、上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来していてもよい。
【0012】
また本発明にかかる方法は、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来していてもよい。
【0013】
また本発明にかかるキットは上記本発明にかかる方法を行なうためのキットであって、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含むポリヌクレオチドと、逆方向反復配列とを含むことを特徴としている。
【0014】
本発明にかかるキットにおいて上記逆方向反復配列は、回文配列であってもよい。
【0015】
また本発明にかかるキットは、上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来していてもよい。
【0016】
また本発明にかかるキットは、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高度遺伝子増幅系を用いて、または当該高度遺伝子増幅系を用いることなく目的遺伝子を増幅する際に、遺伝子増幅効率を増加させることが可能となる。それゆえ本発明によれば、所望のタンパク質(例えば有用タンパク質)を大量に生産することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】pΔBNAR1が導入された形質転換細胞の多クローン性集団に関する遺伝子増幅構造形成頻度を示す棒グラフである。
【図2】pΔBNTREが導入された形質転換細胞の多クローン性集団に関する遺伝子増幅構造形成頻度を示す棒グラフである。
【図3】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞を低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合、または通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合における遺伝子増幅構造形成頻度を示す棒グラフである。
【図4】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞を低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合、または通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合におけるd2EGFP発現量を示す棒グラフである。
【図5】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞を通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合において、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
【図6】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞を通常の低酸素濃度条件(10%(v/v))で培養した場合において、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
【図7】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞を通常の低酸素濃度条件(5%(v/v))で培養した場合において、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
【図8】pSFV-Vd2EGFPが導入されたCHO細胞を低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合、または通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合における遺伝子増幅構造形成頻度を示す棒グラフである。
【図9】pSFV-Vd2EGFPが導入されたCHO細胞を低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合、または通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合におけるd2EGFP発現量を示す棒グラフである。
【図10】pSFV-Vd2EGFPが導入されたCHO細胞を通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合において、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
【図11】pSFV-Vd2EGFPが導入されたCHO細胞を通常の低酸素濃度条件(10%(v/v))で培養した場合において、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
【図12】pSFV-Vd2EGFPが導入されたCHO細胞を通常の低酸素濃度条件(5%(v/v))で培養した場合において、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である。
【図13】pΔBN.Palimdの構造を示す模式図である。
【図14】pΔBN.Palindが導入されたCHO細胞の増幅構造形成頻度の結果を示す棒グラフである。
【図15】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞の増幅構造形成頻度の結果を示す棒グラフである。
【図16】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に対して、(I)~(V)の各パターンにおいてDoxを添加した場合における、d2EGFP発現量を示す棒グラフである。
【図17】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に対して、(I)のパターンにおいてDoxを添加した場合における、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果である。
【図18】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に対して、(II)のパターンにおいてDoxを添加した場合における、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果である。
【図19】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に対して、(III)のパターンにおいてDoxを添加した場合における、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果である。
【図20】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に対して、(IV)のパターンにおいてDoxを添加した場合における、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果である。
【図21】pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に対して、(V)のパターンにおいてDoxを添加した場合における、d2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。

【0020】
本発明にかかる方法は、高度遺伝子増幅系を用いて、または当該高度遺伝子増幅系を用いることなく目的遺伝子を増幅する際に、遺伝子増幅効率を増加させる方法に関するものである。

【0021】
ここで本発明において「遺伝子増幅効率を増加させる」とは、本発明の方法を実施することによって、本発明が実施されていない場合に比して、形質転換細胞の遺伝子増幅構造形成頻度を向上させることを意味する。上記「遺伝子増幅構造形成頻度」は、多クローン性集団に含まれる当該増幅構造が形成されたクローンの割合を計算することにより求めることができる。増幅遺伝子の増幅構造は、染色体外のダブルマイニュート染色体(以下、適宜「DM」という)上、または染色体の均一染色領域(Homogeneously staining regeon;以下、適宜「HSR」という)で小型増幅領域として増幅される場合、HSRで大型増幅領域または中型増幅領域として増幅される場合がある。形質転換細胞のクローンについて増幅構造が形成されたかを判断する方法については、特に限定されるものではないが、例えば分裂期の染色体について公知のFISH法(fluorescence in situ hybridization)を行ない、哺乳動物細胞へ導入した遺伝子を検出することによって判断し得る。上記判断は、当業者であれば容易に行ない得る。なおFISH法を実施する際の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。

【0022】
また上記FISH法を行なうことによって、DM上で小型増幅領域として増幅された、HSRで小型増幅領域として増幅された、HSRで中型増幅領域として増幅された、または大型増幅領域として増幅されかを判断し得る。より具体的には、DM上に蛍光を示すか、またはHSRで蛍光を示すかを検出することによって、目的遺伝子がDM上で増幅されたか、またはHSR上で増幅されたかをまず判断し得る。HSRは染色体上の領域であるのに対して、DMは染色体外に存在するため、蛍光顕微鏡観察を行なうことによって、両者の区別は容易に行ない得る。また目的遺伝子が大型増幅領域として増幅されたか、中型増幅領域として増幅されたか、または小型増幅領域として増幅されたかについては、例えば、”The ACT Cytogenetics Laboratory Manual (second edition” edited by Margaret J. Barch, Raven Press (1991) に記載された方法にしたがって分裂間期染色体標本を作製し、分裂間期染色体標本中で、染色体腕の幅を基準にして、それよりも増幅領域の長さが長ければ大型、同程度であれば中型、それより短ければ小型、といったようにして判断することができる。

【0023】
また「遺伝子増幅効率を増加させる」とは、本発明の方法を実施していない場合に比べて遺伝子増幅構造形成頻度を上昇させることをいう。より具体的には、DM上で遺伝子増幅が行われている頻度を、本発明の方法を実施していない場合に比して上昇させること、あるいはHSRで遺伝子が増幅している場合には、本発明の方法を実施していない場合に比してより長い増幅形態をとる(すなわち増幅領域が長くなる)頻度を上昇させることをいう。

【0024】
本発明にかかる方法は、(i)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1ポリヌクレオチドと、
(ii)発現させるべきタンパク質をコードする第2ポリヌクレオチド、およびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該第2ポリヌクレオチドが当該プロモーターに制御可能に連結されている第3ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞へ同時に導入する導入工程、並びに、
当該第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜する選抜工程を行なって、第2ポリヌクレオチドを増幅する場合において、以下に示される(1)または(I)のいずれか1つ以上の条件を満たすことを特徴としている:
(1)上記選抜工程において、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を、哺乳動物細胞を通常培養する酸素濃度未満である低酸素濃度条件下で培養する;
(I)上記導入工程において、第2ポリヌクレオチドの回文配列を、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドと同時に、哺乳動物細胞へ導入する。

【0025】
また本発明にかかる方法は、以下に示す(II)の工程をさらに含む方法であってもよい:
(II)上記プロモーターは、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターであり、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なう。すなわち本発明にかかる方法には、上記(1)の条件、(I)の条件、(1)+(I)の条件、(1)+(II)の条件、(I)(II)の条件、または(1)+(I)(II)の条件、を満たす場合が含まれる。

【0026】
本発明にかかる方法には、上記当該選抜工程によって選抜された哺乳動物細胞を培養する培養工程が含まれていてもよい。以下、本発明にかかる方法を工程ごとに説明する。

【0027】
<導入工程>
本発明にかかる方法における導入工程は、
(i)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1ポリヌクレオチドと、
(ii)発現させるべきタンパク質をコードする第2ポリヌクレオチド、およびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該第2ポリヌクレオチドが当該プロモーターに制御可能に連結されている第3ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞へ同時に導入する工程である。

【0028】
上記第1ポリヌクレオチドには、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域が含まれている。かかる第1ポリヌクレオチドに含まれる複製起点としては真核生物細胞内で機能するものであれば特に限定されるものではなく、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、β-グロビン遺伝子座等の複製起点が挙げられる。なおc-myc遺伝子座の複製起点については、「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. vol. 18, p1233-1242 (1990)」参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製起点については、「Dijkwel, P.A. et al., Mol. Cell. Biol. vol.8, p5398-5409 (1988) 」参照のこと。またβ-グロビン遺伝子座の複製起点については、「Aladjem, M. et al., Science vol. 281, p1005-1009 (1998) 」参照のこと。

【0029】
また第1ポリヌクレオチドに含まれる核マトリックス結合領域としては、真核生物細胞内で機能するものであれば特に限定されるものではなく、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座等の核マトリックス結合領域に由来する配列が挙げられる。なお、Igκ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、「Tsutsui, K. et al., J. Biol. Chem. vol. 268, p12886-12894 (1993) 」参照のこと。またSV40初期領域の核マトリックス結合領域については、「Pommier, Y. et al., J. Virol., vol 64, p419-423 (1990) 」参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、「Shimizu N. et al., Cancer Res. vol. 61, p6987-6990 」参照のこと。

【0030】
なお上記第1ポリヌクレオチドには、この他、適宜目的に応じて、大腸菌内でクローニングを行なうために必要な配列、および/または、選択マーカー(マーカータンパク質)としての薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子、ヒグロマイシン抵抗性遺伝子等)または緑色蛍光タンパク質遺伝子等が含まれていてもよい。これらの選択マーカーを指標とすることによって、第1ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選別できる。

【0031】
一方、第2ポリヌクレオチドは、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチド(すなわち「目的遺伝子」)であり、特に限定されるものではなく、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適宜選択の上、採用すればよい。第2ポリヌクレオチドは、その塩基配列情報を元にPCR等の公知の技術を用いて取得すればよい。なお本発明の説明において「発現させるべきタンパク質」のことを、適宜「目的タンパク質」と称する。

【0032】
また本発明にかかる方法において利用する、第3ポリヌクレオチドは、第2ポリヌクレオチドが、プロモーターに制御可能に連結されているポリヌクレオチドを含むものである。上記プロモーターは、導入される哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、転写因子等による所定の操作によって、プロモーターの転写活性が活性化または不活性化されるプロモーター(本明細書においては「転写活性調節型プロモーター」という)であっても、恒常的に転写活性が活性化されている恒常型プロモーターであってもよい。「転写活性調節型プロモーター」は、上記特性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T-REXプロモーター(インビトロジェン社製)等の市販品が本発明にかかる方法において利用可能である。恒常型プロモーターとしては、CMVプロモーター、SV40プロモーター、SRalphaプロモーター、LTRプロモーター、MMTVプロモーター等が利用可能である。

【0033】
上記第1ポリヌクレオチド、および第3ポリヌクレオチドが、哺乳動物細胞へ同時に導入されることによって、本発明者が特許文献1等に開示した「高度遺伝子増幅系」を構成することができ、当該哺乳動物細胞において第2ポリヌクレオチドを高度に増幅することが可能となる。上記哺乳動物細胞は、特に限定されるものではなく、例えばCHO-K1細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-61、RIKEN RCB0285、RIKEN RCB0403等)、各種腫瘍細胞等が挙げられる。ただし、上記哺乳動物細胞としては、無限増殖能を有する腫瘍細胞が特に好ましい。上記腫瘍細胞としては、例えば、HeLa細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-2、ATCC CCL-2.2、RIKEN RCB0007、RIKEN RCB0191等)、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220)、ヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220.1)、NS0細胞(入手先:例えば、RIKEN RCB0213)等が挙げられる。なおヒト大腸がんCOLO 320DM細胞については、「Shimizu, N., Kanda, T., and Wahl, G. M. Selective capture of acentricfragments by micronuclei provides a rapid method for purifying extrachromosomally amplified DNA. Nat. Genet., 12: 65-71, 1996.」参照のこと。

【0034】
なお、第1および第3ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞に導入する際には、両ポリヌクレオチドが同時に哺乳動物細胞へ導入される態様であれば特に限定されるものではなく、両ポリヌクレオチドを連結して同一の遺伝子構築物として導入してもよいし、おのおの別々の遺伝子構築物として導入してもよい。また遺伝子構築物の形態については、プラスミドであってもコスミドであってもよい。また第1および第3ポリヌクレオチドの哺乳動物細胞への導入方法は、特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法等公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。

【0035】
なお第1および3ポリヌクレオチドを別の遺伝子構築物として導入する場合には、それぞれの遺伝子構築物に選択マーカーをコードする遺伝子が含まれていることが好ましい。上記ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜することができるからである。この時、第1ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物に含まれる選択マーカーと、第3ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物に含まれる選択マーカーとが異なることが好ましいことはいうまでもない。

【0036】
また本発明にかかる方法は、当該プロモーターの転写因子をコードするポリヌクレオチド(第4ポリヌクレオチド)を哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程を包含していてもよい。かかる工程によれば、目的タンパク質の発現を制御するプロモーターの転写活性を調節することができ、目的タンパク質の発現を適宜調節することができるという効果を奏する。ここで第4ポリヌクレオチドとは、上記第3ポリヌクレオチドに含まれるプロモーターの転写因子をコードするポリヌクレオチドのことである。例えば、プロモーターとしてTREプロモーターを用いた場合には、Tet-ONタンパク質をコードするポリヌクレオチド(「Tet-ON遺伝子(クロンテック社製)」という)、またはTet-OFFタンパク質をコードするポリヌクレオチド(「Tet-OFF遺伝子(クロンテック社製)」という)を第4ポリヌクレオチドとすればよい。第4ポリヌクレオチドを上記哺乳動物細胞に導入して転写活性化因子を発現させる工程では、かかる第4ポリヌクレオチドと当該第4ポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとを制御可能に連結して構築した遺伝子構築物を哺乳動物細胞に導入すればよい。当該第4ポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターは、哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、転写活性調節型プロモーターであっても、恒常型プロモーターであってもよい。

【0037】
また第4ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物の哺乳動物細胞への導入の時期は、上記第1および第3ポリヌクレオチドの導入後に第4ポリヌクレオチドを導入してもよいし、またその逆であってもよい。さらに上記第1および第3ポリヌクレオチドの導入と同時に第4ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入してもよい。本発明者の検討によれば、上記第1および第3ポリヌクレオチドの導入と同時に第4ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入した方が、目的タンパク質が高発現するとの知見が得られているため、同時に導入することが最も好ましい。なお第4ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入する際には、第4ポリヌクレオチドを導入するための遺伝子構築物に選択マーカーをコードする遺伝子が含まれていることが好ましい。上記ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜することができるからである。この時、第1および/または3ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物に含まれる選択マーカーと、第4ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物に含まれる選択マーカーとが異なることが好ましいことはいうまでもない。なお遺伝子構築物の形態、哺乳動物細胞への導入方法については、既述の第1および第3ポリヌクレオチドの場合と同様にすればよい。

【0038】
本発明にかかる方法では、上記導入工程において、回文配列(「Palindrome」ともいう)をはじめとする逆方向反復配列を、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドと同時に、哺乳動物細胞へ導入することを1つの特徴としている。ここで本発明の説明において「逆方向反復配列」および「回文配列」とは、「逆方向反復配列よりなるポリヌクレオチド」および「回文配列よりなるポリヌクレオチド」のことをそれぞれ意味する。なお逆方向反復配列および回文配列については、例えば分子生物学辞典 第1版 第4刷(発行:東京化学同人、発行日:1999年7月1日)に記載されている。また上記回文配列をはじめとする逆方向反復配列は、通常の遺伝子工学的手法を用いて作製し得るため、当業者であれば容易に作製し得る。

【0039】
回文配列をはじめとする逆方向反復配列を哺乳動物細胞へ導入する際には、
(i)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1ポリヌクレオチドと、
(ii)発現させるべきタンパク質をコードする第2ポリヌクレオチドおよびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該第2ポリヌクレオチドが当該プロモーターに制御可能に連結されている第3ポリヌクレオチドと、
(iii)逆方向反復配列(回文配列)とを、哺乳動物細胞へ同時に導入すればよい。
かかる場合、第1ポリヌクレオチド、第3ポリヌクレオチド、および逆方向反復配列(回文配列)をすべて連結し、同一の遺伝子構築物として哺乳動物細胞へ導入してもよいし、それぞれを連結せずに別々の遺伝子構築物として導入してもよい。また第1ポリヌクレオチドと逆方向反復配列(回文配列)とを同一の遺伝子構築物とし、第3ポリヌクレオチドを別の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよい。また第3ポリヌクレオチドと逆方向反復配列(回文配列)とを同一の遺伝子構築物とし、第1ポリヌクレオチドを別の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよい。さらに第1ポリヌクレオチドと第3ポリヌクレオチドとを同一の遺伝子構築物とし、逆方向反復配列(回文配列)を別の遺伝子構築物として哺乳動物細胞に導入してもよい。

【0040】
なお、本発明の方法において利用される逆方向反復配列(回文配列)の長さは、特に限定されるものではないが、50bp以上1000bp以下が好ましく、100bp以上400bp以下がさらに好ましい。上記好ましい範囲であれば、高い細胞増殖効率と高い遺伝子増幅効率とを両立し易くなる。

【0041】
また、本発明の方法において利用される逆方向反復配列(回文配列)の塩基配列は、逆方向反復配列(回文配列)となっている以外は特に限定されるものではなく、タンパク質をコードするものであっても、コードしないものであってもよい。後述する実施例においては、d2EGFP構造遺伝子を用いて逆方向反復配列(回文配列)作製している。なお逆方向反復配列(回文配列)は、任意のヌクレオチド鎖を化学合成等の公知の手法により適宜調製してもよい。

【0042】
本発明者は、逆方向反復配列(回文配列)を哺乳動物細胞へ導入した際に、遺伝子の増幅効率が増加することを見出した。上記のごとく逆方向反復配列(回文配列)を宿主細胞へ導入することによって遺伝子の増幅効率が向上するメカニズムの詳細は現時点では不明であるが、逆方向反復配列(回文配列)の位置でDNAの2本鎖切断が生じ、それが遺伝子増幅の引き金となるためではないかと発明者は推察している。

【0043】
また本発明にかかる方法は、以下の条件を満たす方法であってもよい。
第3のポリヌクレオチドに含まれるプロモーターが転写活性調節型プロモーターであり、かつ転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なう。

【0044】
上記プロモーターの転写活性を、活性化させたり、または不活性化させたりする方法は、プロモーターに応じた所定の方法により行なえばよい。より具体的には、プロモーターが転写活性化因子の存在によってその転写活性が活性化されるプロモーターである場合には、導入工程および選抜工程を行なう系内に転写活性化因子を存在させずに導入工程および選抜工程を行なえばよく、逆に当該プロモーターが転写不活性化因子の存在によってその転写活性が不活性化されるプロモーターである場合には、導入工程および選抜工程を行なう系内に転写不活性化因子を存在させて導入工程および選抜工程を行なえばよい。

【0045】
例えば、第3ポリヌクレオチドに含まれる転写活性調節型プロモーターとして、TREプロモーター(クロンテック社製)を用い、当該プロモーターの転写活性化因子をコードするTet-ON遺伝子(クロンテック社製)を第4ポリヌクレオチドとして用いた場合には、テトラサイクリン(Doxycycline(クロンテック社製))の非存在下で第2ポリヌクレオチド、第3ポリヌクレオチド、および第4ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞に導入し、さらにテトラサイクリン(Doxycycline(クロンテック社製))の非存在下で選抜工程を実施すればよい。Tet-ONタンパク質(クロンテック社製)は、TREプロモーターと結合する転写活性化因子であり、テトラサイクリン(Doxycycline(クロンテック社製))の存在下でTREプロモーター(クロンテック社製)の転写活性が活性化される。

【0046】
一方、第3ポリヌクレオチドに含まれる転写活性調節型プロモーターとして、TREプロモーター(クロンテック社製)を用い、当該プロモーターの転写活性化因子をコードするTet-OFF遺伝子(クロンテック社製)を第4ポリヌクレオチドとして用いた場合には、テトラサイクリン(Doxycycline(クロンテック社製))の存在下で第2ポリヌクレオチド、第3ポリヌクレオチド、および第4ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞に導入し、さらにテトラサイクリン(Doxycycline(クロンテック社製))の存在下で選抜工程を実施すればよい。Tet-OFFタンパク質(クロンテック社製)は、TREプロモーター(クロンテック社製)と結合する転写活性化因子であり、テトラサイクリン(Doxycycline(クロンテック社製))の存在下でTREプロモーター(クロンテック社製)の転写活性が不活性化される。

【0047】
転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なうことによって、遺伝子の増幅効率が向上するメカニズムの詳細は現時点では不明であるが、プロモーターからの転写が生じていると、それがIRからの複製フォークと正面衝突することによりDNAの2本鎖切断があらゆる箇所で頻繁に激しく生じるために、一旦形成された遺伝子増幅構造が破壊されてしまうのに対して、プロモーターからの転写が生じていない状態では遺伝子増幅構造の破壊が起こり難いために遺伝子の増幅効率が向上するのではないかと、発明者は推察している。なお、DNAの2本鎖切断は遺伝子増幅の引き金となるが、上記のとおり2本鎖切断があらゆる箇所で頻繁に激しく生じればもはや修復不可能となり遺伝子増幅構造の破壊につながるものと考えられる。

【0048】
<選抜工程>
本発明にかかる方法の「選抜工程」は、上記第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜する工程である。より詳細には、本工程は、上記第1および第3ポリヌクレオチドが導入されていない哺乳動物細胞、および第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞が含まれる細胞の多クローン性集団から後者の細胞を選抜する工程である。なお、薬剤耐性を指標として本工程を行なう場合には、哺乳動物細胞を培地で培養する工程が含まれる場合があるが、本工程では第1および第3ポリヌクレオチドが導入されていない哺乳動物細胞、および第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞が含まれる細胞の混合物を培養するのに対して、後述する培養工程は第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞として既に選抜された細胞を培養する点において、両工程は明らかに相違する。かかる選抜工程によって、哺乳動物細胞に導入された第2ポリヌクレオチド(目的遺伝子)が高度に増幅された哺乳動物細胞を選抜することができる。

【0049】
上記選抜工程の具体的方法は特に限定されるものではないが、例えば、第1および第3ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入する際に用いた遺伝子構築物に薬剤耐性遺伝子が含まれている場合、その薬剤耐性を利用して第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜すればよい。

【0050】
本発明にかかる方法は、上記のごとく選抜工程に第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を培養する工程が含まれる態様において、哺乳動物細胞を通常培養する酸素濃度未満である低酸素濃度条件下で培養することを特徴点の一つとしている。「低酸素濃度条件下」とは、哺乳動物細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、当該哺乳動物細胞が通常培養される酸素濃度未満であることを意味する。「哺乳動物細胞が通常培養される酸素濃度」は、細胞によって異なるために一義的に決定されるものではないが、通常の哺乳動物細胞であれば20%(v/v)である。よって、低酸素濃度条件下とは、哺乳動物細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、20%(v/v)未満である場合がある。なお哺乳動物細胞を低酸素条件下で培養する際の酸素濃度は、5%(v/v)以上20%(v/v)未満が好ましく、5%(v/v)以上10%(v/v)未満がさらに好ましい。上記好ましい範囲内であれば、哺乳動物細胞が増殖し易く、かつ遺伝子増幅効率の増加効果が得られやすい。なお「%(v/v)」は「体積パーセント」を意味し、「% v/v」または「% vol/vol」とも表記する。

【0051】
哺乳動物細胞を通常培養する酸素濃度未満である低酸素濃度条件下で培養することによって、遺伝子の増幅効率が向上するメカニズムの詳細は現時点では不明であるが、低酸素濃度下ではDNA2本鎖切断が生じる場合があり、それが遺伝子増幅の引き金となるのではないかと発明者は推察している。

【0052】
なお、本発明の方法における選抜工程は、PCR法やサザンブロット法によって、哺乳動物細胞に含まれる第1および第3ポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド断片を検出することによっても行ない得る。上記薬剤耐性、PCR法、サザンブロット法の具体的な方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が適宜利用され得る。

【0053】
<培養工程>
本発明にかかる方法の「培養工程」は、上記選抜工程によって既に選抜された哺乳動物細胞を培養する工程である。かかる培養工程によって、第2ポリヌクレオチド(目的遺伝子)が導入され且つ高度に増幅された哺乳動物細胞を増殖させることができ、所定の操作(転写誘導操作)によって、目的タンパク質を生産することができる。

【0054】
上記培養工程の具体的方法は特に限定されるものではなく、培養する哺乳動物細胞に最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。かかる培養工程における、培養雰囲気中の酸素濃度は特に限定されるものではなく、通常の酸素濃度条件であっても、低酸素条件下であってもよい。ただし、本発明者の検討によれば、後者の条件で培養する方が目的タンパク質の高い発現量が得られる傾向にあるため、培養工程においても低酸素条件下で哺乳動物細胞を培養する方が好ましいといえる。

【0055】
なお本発明は、上記で説示した本発明にかかる方法を行なうためのキットをも包含する。すなわち、本発明にかかるキットは、真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含むポリヌクレオチドと、逆方向反復配列とを含むことを特徴としている。本発明にかかるキットは、本発明にかかる方法を実施し得るものであれば、上記構成に限定されるものではなく、その他の構成を含んでいてもよい。なお、本発明にかかるキットを構成する物品等の説明については、本発明にかかる方法の説明を適宜援用することができる。

【0056】
ところで、上記説示した本発明にかかる方法は、本発明者が開発した高度遺伝子増幅系以外の系、すなわちIRとMARを利用しない通常の系においても適用し得る。具体的には、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を、哺乳動物細胞を通常培養する酸素濃度未満である低酸素濃度条件下で培養する工程を含むことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法も本発明は包含する。さらには、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチド、および逆方向反復配列(回文配列)を、哺乳動物細胞へ同時に導入する工程を含むことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法も本発明は包含する。さらには、逆方向反復配列(回文配列)を含むことを特徴とする、遺伝子増幅効率を増加させる方法を実施するためのキットをも本発明は包含する。高度遺伝子増幅系以外の系を用いた態様の説明は、IRとMARの説明を除き、既述の説明を適宜援用し得る。

【0057】
本発明は、以下の通りに表現することができる。すなわち本発明にかかる方法は遺伝子増幅効率を増加させる方法であって、上記課題を解決するために、
(i)真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含む第1ポリヌクレオチドと、
(ii)発現させるべきタンパク質をコードする第2ポリヌクレオチド、およびプロモーターを含むポリヌクレオチドであり、かつ当該第2ポリヌクレオチドが当該プロモーターに制御可能に連結されている第3ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞へ同時に導入する導入工程、並びに、
当該第1および第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜する選抜工程を行なって、第2ポリヌクレオチドを増幅する場合において、以下に示される(1)または(I)のいずれか1つ以上の条件を満たすことを特徴としている:
(1)上記選抜工程において、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を、哺乳動物細胞を通常培養する酸素濃度未満である低酸素濃度条件下で培養する;
(I)上記導入工程において、第1ポリヌクレオチドおよび第3ポリヌクレオチドと同時に、逆方向反復配列を哺乳動物細胞へ導入する。

【0058】
また本発明にかかる方法は、以下に示す(II)の条件をさらに満たす方法であってもよい:
(II)上記プロモーターは、所定の操作によって転写活性が活性化または不活性化される転写活性調節型プロモーターであり、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なう。

【0059】
また本発明にかかる方法は、上記逆方向反復配列が、回文配列であってもよい。

【0060】
また本発明にかかる方法は、上記真核生物細胞内で機能する複製起点が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、またはβ-グロビン遺伝子座の複製起点に由来するものであってもよい。

【0061】
また本発明にかかる方法は、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、またはジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域に由来するものであってもよい。

【0062】
また本発明にかかる方法は、上記低酸素濃度条件が、酸素濃度20%(v/v)未満であってもよい。

【0063】
また本発明は、上記方法を行なうためのキットであって、
真核生物細胞内で機能する複製起点および核マトリックス結合領域を含むポリヌクレオチドと、逆方向反復配列とを含むことを特徴とするキットをも包含する。

【0064】
また本発明は、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を、哺乳動物細胞を通常培養する酸素濃度未満である低酸素濃度条件下で培養する工程を含むことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法をも包含する。

【0065】
また本発明は、発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、逆方向反復配列とを、哺乳動物細胞へ同時に導入する工程を含むことを特徴とする遺伝子増幅効率を増加させる方法をも包含する。さらに本発明は、上記方法を行なうためのキットであって、逆方向反復配列を含むことを特徴とするキットをも包含する。

【0066】
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。

【0067】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0068】
〔実施例1〕
(方法)
ブラスティサイジン抵抗性遺伝子(「BSR」と適宜表記する)、IRおよびMARを持った2種類のプラスミド(pΔBNAR1およびpΔBNTRE)を、それぞれCHO-K1細胞(以下「CHO細胞」という)にリポフェクションにより導入した。その後、形質転換体を5μg/mlブラスティサイジンにより選抜した。ブラスティサイジンによる選抜の際に、培養雰囲気中の酸素濃度を、通常の20%(v/v)、低酸素条件の10%(v/v)、または低酸素条件の5%(v/v)にしてCHO細胞の培養を行なった。4週間培養後、細胞を固定し、プラスミドプローブを用いてFISHを行なった。
【実施例】
【0069】
pΔBNAR1は、pSFVdhfrをBam HIおよびNru Iの同時消化によってヒグロマイシン抵抗性遺伝子を発現する部分を除去し、その後一旦クローン化した後に、BSRの下流でジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製起点(「DHFR IR」と適宜表記する)と接している部分にあるNot Iサイトで切断して、その位置にMAR活性を持つAR1を挿入することにより構築された。なお上記AR1は、「N. Shimizu, et al. (2001) Cancer Research , vol.61, p6987-6990.」に記載の方法によって取得された。
【実施例】
【0070】
またpΔBNTREは、pSFVdhfrをBam HIおよびNru Iの同時消化によってヒグロマイシン抵抗性遺伝子を発現する部分を除去した後、その位置に、TRE promoter-マルチクローニングサイト(「MCS」と表記する)-SV40 polyAの配列を挿入することで構築された。なお上記TRE promoter-MCS-SV40 polyAの配列は、pTRE2Hyg(Clontech社より購入)をXho IおよびAse II消化することによって得られた。
【実施例】
【0071】
pSFVdhfr(11.0kbp)は、John Kolman 博士および Geoffrey M. Wahl 博士(The Salk Institute, San Diego, CA)から供与された。PSFVdhfrはヒドロ葉酸リダクターゼに対して3'-下流の領域に由来するOriβを含む4.6kbp断片を有している(「Dijkwel, P. A., and Hamlin, J. L. Matrix attachment regions are positioned near replication initiation sites, genes, and an interamplicon junction in the amplified dihydrofolate reductase domain of Chinese hamster ovary cells. Mol. Cell Biol., 8: 5398-5409, 1988.」参照)。
【実施例】
【0072】
CHO細胞は、東北大学加齢医学研究所 医用細胞資源センターより入手された。細胞培養は、上記細胞株をD-MEM/F-12培地(Gibco社製)へ10%牛胎児血清を添加した培地中で、37℃、5% CO2存在下で行われた。
【実施例】
【0073】
上記のプラスミドを、Qiagenプラスミド精製キット(Qiagen Inc., Valencia, CA)により精製し、GenePorter 2リポフェクションキット(Gene Therapy Systems, San Diego, CA)により細胞にトランスフェクトした。
【実施例】
【0074】
FISH法は、細胞に導入したものと同じプラスミドDNAをビオチンまたはDIG(ジゴキシゲニン:Digoxigein)標識したものをプローブとし、形質転換体細胞から調製した染色体標本との間でハイブリダイゼーションを行なった後、ハイブリダイズしたプローブを蛍光色素で検出することによって行なわれた。
【実施例】
【0075】
(結果)
図1にpΔBNAR1が導入された形質転換細胞の多クローン性集団において遺伝子増幅構造(遺伝子がHSRで小型増幅領域として増幅されている(「小型HSR」で示す)、遺伝子がHSRで中型増幅領域として増幅されている(「中型HSR」で示す)、および遺伝子がHSRで大型増幅領域として増幅されている(「大型HSR」で示す))が形成された頻度(すなわち「遺伝子増幅構造形成頻度」)を示した。また図2にpΔBNTREが導入された形質転換細胞の多クローン性集団において遺伝子増幅構造(小型HSR、中型HSR、および大型HSR)が形成された頻度を示した。なお遺伝子増幅構造形成頻度(単に「増幅構造形成頻度」ともいう)の合計が大きいほど、遺伝子増幅効率が高いことを示している。また小型HSR→中型HSR→大型HSRの順に増幅構造が大きくなればなるほど、細胞あたりの目的遺伝子のコピー数を顕著に増加させることができるというメリットを享受できる。増幅構造の大きさについては、”The ACT Cytogenetics Laboratory Manual (second edition” edited by Margaret J. Barch, Raven Press (1991)に記載された方法にしたがって分裂間期染色体標本を作製し、分裂間期染色体標本中で、染色体腕の幅を基準にして確認した。
【実施例】
【0076】
図1および図2の横軸は培養雰囲気中の酸素濃度%(v/v)を示し、縦軸は増幅構造形成頻度(%)を示す。両図によれば、IRおよびMARを備えたプラスミド(pΔBNAR1、およびpΔBNTRE)が導入された形質転換細胞を、低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合は、通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合に比して、明らかに増幅構造形成頻度が高くなっていることが示された。また低酸素濃度条件下で培養された細胞は、増幅構造が大型化する傾向が見られた(中型HSRまたは大型HSRが増加)。
【実施例】
【0077】
なお、図1および2における「L」、「M」、および「S」は、「大型HSR」、「中型HSR」、および「小型HSR」をそれぞれ示す(以下の実施例において同じ)。
【実施例】
【0078】
〔実施例2〕
(方法)
TREプロモーターの下流に発現マーカーのd2EGFP構造遺伝子(以下「d2EGFP遺伝子」)を備え、且つIRおよびMARをもつプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)、または、TREプロモーターおよびd2EGFP遺伝子を備え、IRおよびMARを有しないプラスミド(pSFV-Vd2EGFP)をそれぞれTet-Onプラスミド(クロンテック社製)と共に、CHO細胞にリポフェクションにより導入した。その後、形質転換体を5μg/mlブラスティサイジンにより選抜した。ブラスティサイジンによる選抜の際に、培養雰囲気中の酸素濃度を、通常の20%(v/v)、低酸素条件の10%(v/v)、または低酸素条件の5%(v/v)にしてCHO細胞の培養を行なった。4週間培養後、細胞を固定し、プラスミドプローブを用いてFISHを行なった。また4週間培養後、Doxycycline(クロンテック社製、以下「Dox」という)を1μg/mlになるように培地中へ添加することによって、タンパク質の発現を誘導し、セルソーターでd2EGFP(Green Fluorescent Protein)の発現量を定量した。セルソーターによるd2EGFP発現量の測定は、生細胞のみをゲートにかけ、2万個の細胞をソートすることによって行なわれた。なおセルソーターは、Becton Dickinson 社製を用い、運転条件は付属のマニュアルに従った。
【実施例】
【0079】
pSFVdhfr/d2EGFPは、pSFVdhfrのヒグロマイシン抵抗性遺伝子発現ユニットを除去し、その位置にTREプロモーター(クロンテック社製)、d2EGFP遺伝子、SV40 poly A配列(pTRE-d2EGFP (クロンテック社製)由来)を、この順で、転写がIRの方向に向かうように組み込むことにより構築された。なお上記pSFVdhfr(11.0kbp)は、John Kolman 博士および Geoffrey M. Wahl 博士(The Salk Institute, San Diego, CA)から供与された。PSFVdhfrはヒドロ葉酸リダクターゼに対して3'-下流の領域に由来するOriβを含む4.6kbp断片を有している(「Dijkwel, P. A., and Hamlin, J. L. Matrix attachment regions are positioned near replication initiation sites, genes, and an interamplicon junction in the amplified dihydrofolate reductase domain of Chinese hamster ovary cells. Mol. Cell Biol., 8: 5398-5409, 1988.」参照)。
【実施例】
【0080】
またpSFV-Vd2EGFPは、pSFVdhfrからDHFR IR部分をNot I消化により切り出し、一旦クローン化した後、Bam HIおよびNru I消化によりヒグロマイシン抵抗性遺伝子の発現カセットを除き、その位置にTREプロモーター(クロンテック社製)、d2EGFP遺伝子、SV40 poly A配列(pTRE-d2EGFP (クロンテック社製)由来)を、この順で、転写がBam HIがあった方向に向かうように組み込むことにより構築された。
【実施例】
【0081】
(結果)
図3~図7は、pSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞に関する結果を示しており、図3は遺伝子増幅構造形成頻度を示す図であり、図4は各形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量を示す図であり、図5は20%(v/v)の酸素条件で培養された形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図であり(d2EGFP発現量=2,882)、図6は10%(v/v)の酸素条件で培養された形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図であり(d2EGFP発現量=10,825)、図7は5%(v/v)の酸素条件で培養された形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である(d2EGFP発現量=3,422)。
【実施例】
【0082】
図3によれば、IRおよびMARを備えたプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)が導入された形質転換細胞を、低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合は、通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合に比して増幅構造形成頻度が高くなる傾向が見られ、さらに低酸素濃度条件下で培養された細胞は、増幅構造が大型化していることが示された(大型HSRが増加していた)。また図4~7によれば、IRおよびMARを備えたプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)が導入された形質転換細胞を、低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合は、通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合に比してd2EGFPの発現量が高くなっていることが示された。
【実施例】
【0083】
また図8~図12は、pSFV-Vd2EGFPが導入されたCHO細胞に関する結果を示しており、図8は遺伝子増幅構造形成頻度を示す図であり、図9は各形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量を示す図であり、図10は20%(v/v)の酸素条件で培養された形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図であり(d2EGFP発現量=136)、図11は10%(v/v)の酸素条件で培養された形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図であり(d2EGFP発現量=165)、図12は5%(v/v)の酸素条件で培養された形質転換細胞の多クローン性集団のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果を示す図である(d2EGFP発現量=740)。
【実施例】
【0084】
図8によれば、IRおよびMARを有しないプラスミド(pSFV-Vd2EGFP)が導入された形質転換細胞を、低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合は、通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合に比して増幅構造形成頻度が高くなる傾向が見られ、さらに低酸素濃度条件下で培養された細胞は、増幅構造が大型化していることが示された(中型HSRが増加していた)。また図9~12によれば、IRおよびMARを備えたプラスミド(pSFVdhfr/d2EGFP)が導入された形質転換細胞を、低酸素濃度条件下(10%(v/v)または5%(v/v))で培養した場合は、通常の酸素濃度条件(20%(v/v))で培養した場合に比してd2EGFPの発現量が高くなることが示された。
【実施例】
【0085】
〔実施例3〕
d2EGFP遺伝子の回文配列(Palindrome)をもつプラスミド(pΔBN.Palimd)を構築した。簡単には以下の通りとした。まずpSFVdhfr/d2EGFPをSac IIおよびBam HIで消化して得られたd2EGFP遺伝子をライゲーションすることによって、当該遺伝子の回文配列(Palindrome)の繰り返し構造を有する遺伝子構築物を得た。次に上記遺伝子構築物をBam HI消化することによって、d2EGFP遺伝子の回文配列(1単位)を調製した。得られたd2EGFP遺伝子の回文配列(1単位)を、pSFVdhfr/d2EGFPのSacIIおよびBam HI消化物にライゲーションして、ブラスティサイジン耐性遺伝子、IR、MAR、TREプロモーター、およびd2EGFP遺伝子の回文配列(1単位)を有するプラスミド(pΔBN.Palind)を構築した。当該pΔBN.Palindの模式図を図13に示す。なおpΔBN.Palindにおいては、目的遺伝子はブラスティサイジン耐性遺伝子(図13における「BSR」)といえる。
【実施例】
【0086】
d2EGFP遺伝子の回文配列を有するpΔBN.Palind、d2EGFP遺伝子の回文配列を有しないpSFVdhfr/d2EGFPをそれぞれTet-Onプラスミド(クロンテック社製)と共に、CHO細胞にリポフェクションにより導入した(導入工程)。
【実施例】
【0087】
遺伝子導入後の各細胞を、5μg/mlブラスティサイジンを含む培地中で2週間培養することによって、安定な形質転換細胞の多クローン性集団を選抜した(選抜工程)。
【実施例】
【0088】
選抜工程によって選抜された形質転換細胞の多クローン性集団を新鮮な培地に接種し、さらに2週間培養を行なった(培養工程)。
【実施例】
【0089】
なお、以下に示すパターンにしたがって、Doxを1μg/mlとなるように培地中へ添加した。
(I)導入工程、選抜工程および培養工程の全工程においてDoxが系内に添加されている。
(II)導入工程および選抜工程においてDoxが系内に添加されている。培養工程においてDoxが培地に添加されていない。
(III)導入工程および選抜工程においてDoxが系内に添加されていない。培養工程の2週間においてDoxが培地に添加されている。
(IV)導入工程および選抜工程においてDoxが系内に添加されていない。培養工程の後半1週間のみにおいてDoxが培地に添加されている。
(V)導入工程および選抜工程においてDoxが系内に添加されていない。培養工程の最後の1日のみにおいてDoxが培地に添加されている。
【実施例】
【0090】
上記各工程を経た形質転換細胞を固定し、プラスミドプローブを用いてFISHを行なった。また上記細胞について、セルソーターでd2EGFPの発現量を定量した。
【実施例】
【0091】
(結果)
図14にpΔBN.Palindが導入されたCHO細胞の増幅構造形成頻度の結果を示し、図15にpSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞の増幅構造形成頻度の結果を示した。各図の横軸は(I)~(V)は、上記Doxの添加パターン(I)~(V)にそれぞれ対応している。図14と図15とを比較すれば、pΔBN.Palindが導入されたCHO細胞の増幅構造形成頻度の方が、pSFVdhfr/d2EGFPの場合のそれに比して明らかに高いということが分かる。すなわち上記結果は、回文配列を導入することによって遺伝子増幅効率が増加したことを示している。
【実施例】
【0092】
また図14および15の結果によれば、(I)および(II)のパターンに比して、(III)、(IV)および(V)のパターンでDoxを添加した細胞の方が、増幅構造形成頻度が高くなる傾向にあり、さらに増幅構造が大型化していることが示された(中型HSRおよび大型HSRが増加していた)。すなわちこの結果は、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なうことによって、遺伝子の増幅効率が向上したことを示している。
【実施例】
【0093】
図16~21にpSFVdhfr/d2EGFPが導入されたCHO細胞のd2EGFP発現量を示した。図16は、(I)~(V)のDox添加パターンにおける、d2EGFP発現量を示す棒グラフであり、図17~21は、(I)~(V)のパターンのパターンでDoxが添加された場合のd2EGFP発現量をセルソーターにより解析した結果をそれぞれ示す((I)のd2EGFP発現量=686、(II)のd2EGFP発現量=1,003、(III)のd2EGFP発現量=3,277、(IV)のd2EGFP発現量=3,459、(V)のd2EGFP発現量=3,020)。
【実施例】
【0094】
図16~21によれば、d2EGFPの発現量についても、(I)および(II)のパターンに比して、(III)、(IV)および(V)のパターンでDoxを添加した細胞の方が、高くなることが示された。すなわちこの結果は、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行なうことによって、遺伝子の増幅効率が向上し、最終的にd2EGFPが高発現したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
上記説示したように本発明にかかる方法によれば、高度遺伝子増幅系を用いて、または当該高度遺伝子増幅系を用いることなく目的遺伝子を増幅する際に、遺伝子増幅効率を増加させることが可能となる。それゆえ本発明によれば、所望のタンパク質(例えば有用タンパク質)を大量に生産することができるという効果を奏する。
【0096】
したがって本発明は、タンパク質の生産を行なう産業、例えば医薬品、化学、食品、化粧品、繊維等種々広範な産業において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
18
【図20】
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【図21】
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