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明細書 :石綿検出方法、石綿検出剤および石綿検出キット、並びに、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤候補物質のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5464385号 (P5464385)
公開番号 特開2012-108163 (P2012-108163A)
登録日 平成26年1月31日(2014.1.31)
発行日 平成26年4月9日(2014.4.9)
公開日 平成24年6月7日(2012.6.7)
発明の名称または考案の名称 石綿検出方法、石綿検出剤および石綿検出キット、並びに、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤候補物質のスクリーニング方法
国際特許分類 G01N  33/00        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI G01N 33/00 D
G01N 33/53 S
請求項の数または発明の数 7
全頁数 42
出願番号 特願2012-055183 (P2012-055183)
分割の表示 特願2007-544159 (P2007-544159)の分割、【原出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
出願日 平成24年3月12日(2012.3.12)
優先権出願番号 2005326502
2006005061
2006135674
2006203983
優先日 平成17年11月10日(2005.11.10)
平成18年1月12日(2006.1.12)
平成18年5月15日(2006.5.15)
平成18年7月26日(2006.7.26)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成24年4月11日(2012.4.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】黒田 章夫
【氏名】野村 和孝
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 米国特許第04248854(US,A)
国際公開第2007/055288(WO,A1)
特開2010-131587(JP,A)
日本生物工学会大会講演要旨集,2006年 8月 3日,Vol.58th, Page.33 3B10-2
医療と検査機器・試薬,2005年,Vol.28, No.5, Page.403-406
病理と臨床,2004年,Vol.22, No.7, Page.667-674
J Biol Chem,1993年,Vol.268, No.5, Page.3538-3545
J Appl Toxicol,1983年,Vol.3, No.3, Page.135-138
Biotechnol Bioeng,2008年,Vol.99, No.2, Page.285-289
SORSTジョイントシンポジウム-超微量物質の同定/認識の化学 (6th) 東京,2007年,Page.45-49
Environ Sci Technol,2010年,Vol.44, No.2, Page.755-759
調査した分野 G01N 33/00
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質を、試料中の石綿と接触させる工程;および
石綿に結合した上記タンパク質を検出する工程
を包含し、
上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、
配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴とする石綿検出方法。
【請求項2】
少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質と、レポータータンパク質との融合タンパク質を取得する工程;
得られた融合タンパク質を試料中の石綿と接触させる工程;および
石綿に結合した上記融合タンパク質を検出する工程
を包含し、
上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、
配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴とする石綿検出方法。
【請求項3】
上記レポータータンパク質が、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼおよびパーオキシダーゼから選択されることを特徴とする、請求項2に記載の石綿検出方法。
【請求項4】
少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質を含み、
上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、
配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴とする、石綿検出剤。
【請求項5】
少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質と、レポータータンパク質との融合タンパク質を含み、
上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、
配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴とする、石綿検出剤。
【請求項6】
上記レポータータンパク質が、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼおよびパーオキシダーゼから選択されることを特徴とする請求項5に記載の石綿検出剤。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の石綿検出剤を備えることを特徴とする石綿検出キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、石綿に特異的に結合するタンパク質を用いて試料中の石綿を検出する方法、当該タンパク質を含む石綿検出剤、および当該石綿検出剤を備える石綿検出キット、並びに、当該タンパク質を用いた石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤候補物質のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、石綿(繊維状ケイ酸塩)が人体に悪影響を及ぼすことが問題となっている。すなわち、過去に石綿を製造し、または取扱う業務に従事していた人々に、肺がん、中皮腫等の健康被害が多発していることが企業から公表され、石綿粉じんを吸入することにより、主に石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などの健康障害を生じるおそれがあることが報告されている。
【0003】
石綿肺は、肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つである。肺の線維化を起こすものは他の鉱物性粉じん等多くの原因があるが、石綿のばく露によって起きた肺線維症を特に石綿肺として区別されている。肺がんは、肺胞内に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされている。発がん性の強さは、石綿の種類により異なる他、石綿の太さ、長さにも関与する。悪性中皮腫は、肺を取り囲む胸膜や、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜等にできる悪性の腫瘍である。
【0004】
石綿には、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトなどの種類がある。石綿の用途としては、使用量のうち9割以上が建材に使用されており、その他、化学プラント設備用のシール材、摩擦材等の工業製品等に使用されている。なお、平成16年10月1日より建材、摩擦材、接着剤の製造等は禁止されているが、過去に大量に使われた経緯があり、多くの建物に取り残されている。
【0005】
石綿の検出方法としては、大気中の石綿を検査する場合、ポンプで大気を吸い込む際にフィルターに石綿をトラップし、そのフィルターをアセトンなどを用いて無色化し、位相差顕微鏡で観察する方法が用いられる。また、建材中の石綿を検査する場合、分析対象の建材から適切な量の試料を採取し、当該建材の形状や共存物質の状況に応じて、研削、粉砕、加熱等の処理を行った後、分析用試料を調製する。次に、分析用試料に石綿が含有しているか否かについて、位相差顕微鏡を使用して分散染色分析法による定性分析およびエックス線回折分析法による定性分析を実施し、石綿の含有を確認する。石綿の含有が確認された試料は、ぎ酸で処理して定量分析用の試料を調製し、基底標準吸収補正法によるエックス線回折分析法により定量分析を行い、石綿含有量を求め、石綿含有率を算出する方法が用いられる(非特許文献1、2参照)。
【0006】
しかしながら、位相差顕微鏡での観察には熟練した技能が必要であり、また相当の時間を要するため、同時に多数の処理を行うことは困難である。また、エックス線分析装置は非常に高価な機械であるため、誰でも簡便に実施できるものではない。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】「作業環境測定シリーズNo.3、繊維状物質測定マニュアル」 社団法人日本作業環境測定協会、平成16年7月28日
【非特許文献2】「建材中の石綿含有率の分析方法について」 基安化発第0622001号、平成17年6月22日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、石綿が疾病の病因または増悪因子となることは明らかとなっているが、石綿が上述のような疾病を誘発するメカニズムについてはほとんど解明されておらず、石綿が誘発するとされている疾病の治療法の研究はほとんど進んでいない。このような状況下、社会的に石綿を迅速・簡便に検出し得る方法の開発が切望されている。
【0009】
そこで、石綿と特異的に結合し得るタンパク質を見出すことができれば、迅速・簡便な石綿の検出に非常に有用であり、公衆衛生分野において非常に意義が大きいといえる。さらに、生体内、特に哺乳動物の肺などの呼吸器系器官に存在し、石綿と特異的に結合し得るタンパク質が存在すれば、石綿の疾病誘発メカニズムの解明に大きく貢献でき、当該タンパク質と石綿との結合を阻害することで、石綿が誘発するとされる疾患の予防または治療に結びつくことが期待できる。
【0010】
しかしながら、石綿と特異的に結合し得るタンパク質の存在は、過去に報告されていない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、石綿と特異的に結合し得るタンパク質を見出し、迅速・簡便な石綿検出方法を実現し、さらに、哺乳動物の呼吸器系器官に存在し、石綿と特異的に結合し得るタンパク質を見出し、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質をスクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の細菌由来タンパク質の中から石綿に結合し得るタンパク質を見出し、当該タンパク質とレポータータンパク質との融合蛋白質により、迅速かつ簡便に石綿を検出し得ることを見出した。さらに、マウス肺に存在するタンパク質中からも石綿に結合し得るタンパク質を見出し、当該タンパク質がアクチンであることを同定し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなはち、本発明に係る石綿検出方法は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質を、試料中の石綿と接触させる工程;および石綿に結合した上記タンパク質を検出する工程を包含し、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る石綿検出方法は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質と、レポータータンパク質との融合タンパク質を取得する工程;得られた融合タンパク質を試料中の石綿と接触させる工程;および石綿に結合した上記融合タンパク質を検出する工程を包含し、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴としている。
【0015】
本発明に係る石綿検出方法では、上記レポータータンパク質が、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼおよびパーオキシダーゼから選択されることが好ましい。
【0016】
本発明に係る石綿検出剤は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質を含み、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る石綿検出剤は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質と、レポータータンパク質との融合タンパク質を含み、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号13に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質である、ことを特徴としている。
【0018】
本発明に係る石綿検出剤では、上記レポータータンパク質が、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼおよびパーオキシダーゼから選択されることが好ましい。
【0019】
本発明に係る石綿検出キットは、上記本発明に係る石綿検出剤を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る石綿検出方法、石綿検出剤を用いれば、試料中における石綿の有無を迅速かつ簡便に検出することができるという効果を奏する。また、生体試料を対象とすれば、石綿健康被害の診断に応用することができる。
【0021】
本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質を簡便かつ効率的にスクリーニングすることができるという効果を奏する。
【0022】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】大腸菌K12の細胞破砕液から石綿(クリソタイル)結合タンパク質が得られたことを示す電気泳動画像である。
【図2】Pseudomonas putida KT2440の細胞破砕液から石綿(クリソタイル)結合タンパク質が得られたことを示す電気泳動画像である。
【図3】Corynebacterium glutamicum ATCC13032の細胞破砕液から石綿(クリソタイル)結合タンパク質が得られたことを示す電気泳動画像である。
【図4a】APタンパク質が石綿(クリソタイル)に結合することを確認した結果を示す電気泳動画像である。
【図4b】DksA-AP融合タンパク質が石綿(クリソタイル)に強く結合することを確認した結果を示す電気泳動画像である。
【図5】DksA-AP融合タンパク質を用いて発色により石綿(クリソタイル)を検出した結果を示す図である。
【図6】DksA-AP融合タンパク質を用いて発色により石綿(クリソタイル)を検出する系において検出感度を検討した結果を示す図である。
【図7】DksA-AP融合タンパク質およびフィルターを用いて石綿(クリソタイル)を検出した結果を示す図である。
【図8】マウス肺タンパク質試料から石綿(クリソタイル)結合タンパク質が得られたことを示す電気泳動画像である。
【図9】大腸菌K12の細胞破砕液から石綿(クロシドライト/アモサイト)結合タンパク質が得られたことを示す電気泳動画像である。
【図10】高度好熱性細菌HB27の細胞破砕液から石綿(クロシドライト/アモサイト)結合タンパク質が得られたことを示す電気泳動画像である。
【図11】TTC0984-AP融合タンパク質およびフィルターを用いて石綿(アモサイト)を検出した結果を示す図である。
【図12】実施例4で試料として用いた3種類の建材の写真である。
【図13】建材中の石綿を検出した結果を示す図である。
【図14】実施例5で試料として用いたロックウールの写真である。
【図15】ロックウール中の石綿を検出した結果を示す図である。
【図16】スライドグラス上でロックウール中の石綿を検出した結果を示す図である。
【図17】DksA-GFP融合タンパク質を用いて蛍光顕微鏡により石綿を検出した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔石綿に結合するタンパク質の取得および同定〕
本発明に用いられるタンパク質は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質であればよい。本明細書においては、「少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質」を「石綿に結合するタンパク質」と称する。また、当該タンパク質の由来は特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物など、いずれの生物に由来するタンパク質であってもよい。

【0025】
また、石綿の種類も限定されず、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中でいずれか1種類の石綿と結合し得るタンパク質であればよい。例えば、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中でクリソタイル(白石綿)と結合し得るが、クロシドライト(青石綿)とは結合しないタンパク質も「石綿に結合するタンパク質」に含まれる。

【0026】
本明細書において、「タンパク質」は、「ポリペプチド」または「ペプチド」と交換可能に使用される。「タンパク質」には、タンパク質の部分断片(フラグメント)が含まれるものとする。また、「タンパク質」には、融合タンパク質が含まれるものとする。「融合タンパク質」は、2つ以上の異種タンパク質の一部(フラグメント)または全部が結合したタンパク質である。

【0027】
本発明に用いられる石綿に結合するタンパク質は、例えば以下のようにして取得することができる。ただし、取得方法はこれに限定されるものではなく、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質は、本発明に好適に用いることができる。

【0028】
すなわち、本発明に用いられる石綿に結合するタンパク質は、1種以上のタンパク質を含む溶液に石綿を添加し、その後石綿を回収して少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で洗浄し、洗浄後においても石綿に結合しているタンパク質を単離することで取得することができる。

【0029】
上記1種以上のタンパク質を含む溶液(以下「タンパク質溶液」と記す。)としては、例えば細胞破砕液を好適に用いることができる。また、例えばファージライブラリー由来のランダムペプチドライブラリーや合成ペプチドライブラリーを好適に用いることができる。ただし、これらに限定されるものではない。なお、このタンパク質溶液にはタンパク質以外の物質が含まれていてもよい。

【0030】
タンパク質溶液の調製は、用いる材料に応じて適宜公知の方法を選択すればよい。例えば細胞破砕液を調製する場合には、ホモジナイザー、超音波などにより物理的に細胞を破砕する方法、酵素や界面活性剤を用いて細胞を破砕する方法、酵素や界面活性剤と物理的方法を組み合わせて細胞を破砕する方法などを用いることができる。

【0031】
添加する石綿の量は特に限定されない。例えば本発明者らは、細菌由来の細胞破砕液1mlに対して5mgの石綿(クリソタイルまたはアモサイトまたはクロシドライト)を添加している(実施例1および3参照)。また、本発明者らは、マウス肺由来の細胞破砕液0.6mlに対して5mgの石綿(クリソタイル)を添加している(実施例2参照)。

【0032】
タンパク質溶液に石綿を添加した後は、当該タンパク質と石綿との混合液を十分混和することが好ましい。混和する条件は特に限定されないが、例えば4℃で15分~30分間転倒混和することが挙げられる。

【0033】
石綿の回収は、例えば上記混合液を石綿が沈澱し得る回転数で遠心分離し上清を除くことにより行うことができる。また、上記混合液を適当なポアサイズのフィルターを用いてろ過することにより行うことができる。ただし、これらの方法に限定されるものではない。回収操作を行うことにより石綿と結合していないタンパク質を除くことができる。

【0034】
洗浄は、石綿と非特異的に結合しているタンパク質を除外するために行う。洗浄方法としては、例えば上記により回収した石綿に少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液を加え、ピペッティング等により十分混和後、上記と同様に遠心分離やフィルターろ過を行う方法が挙げられる。この操作を数回繰り返すことにより洗浄効果が向上する。また、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液を用いて上記タンパク質溶液を調製することで、洗浄効果(非特異的な結合を除外する効果)を向上させることができる。

【0035】
洗浄用の溶液は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含むものであれば特に限定されないが、pHが中性付近の緩衝液が好ましい。なお、「少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液」とは、多くのタンパク質において石綿に非特異的な弱い結合が見られる0.1M未満を排除する意図である。また、石綿に結合するタンパク質においても、0.1M未満では石綿以外の無機物に弱く結合することから、その弱い結合による吸着を除き、特異性を高める意図である。

【0036】
本発明に用いられる石綿に結合するタンパク質は、少なくとも0.1Mの塩化ナトリウムを含む溶液で洗浄を行っても石綿と結合し得るタンパク質であればよいが、洗浄溶液の塩化ナトリウム濃度を高くすることにより、石綿に対してより強力に結合するタンパク質を取得することができる。したがって、石綿に結合するタンパク質を取得する際に0.1Mより高濃度の塩化ナトリウムを含む溶液を用いることが好ましい。さらに、洗浄用溶液に界面活性剤を添加することで、より結合特異性の高いタンパク質を取得することができる。

【0037】
本発明者らは、石綿に結合する細菌由来のタンパク質を取得する際に、0.1Mまたは1M塩化ナトリウム、および0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5またはpH8.0)を洗浄用緩衝液として用いている(実施例1および3参照)。また、本発明者らは、石綿に結合するマウス肺由来のタンパク質を取得する際に、0.5Mまたは1M塩化ナトリウム、および0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を洗浄用緩衝液として用いている(実施例2参照)。

【0038】
石綿に結合している状態のタンパク質を石綿から遊離させる方法としては、例えばドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いる方法、pHを低下させる方法、溶液の塩濃度を上げる(塩化ナトリウム濃度を2M程度にする)方法などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明者らは、1%ドデシル硫酸ナトリウムおよび2%メルカプトエタノールを含む液を用いている(実施例参照)。

【0039】
取得した石綿に結合するタンパク質の同定は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、上記により石綿から遊離したタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーし、膜をクマシーブリリアントブルーで染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出す。切り出したバンドのトリプシン消化物をマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)により分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析により同定することができ、公知のタンパク質データベースからアミノ酸配列を取得することができる。また、例えば、自動ペプチドシーケンサを用いてアミノ酸配列を決定することができる。

【0040】
アミノ酸配列が決定すれば、当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、公知の遺伝子データベースから取得することができる。また、当該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて、プライマーまたはプローブを設計し、当該タンパク質をコードするDNA断片をクローニングして、DNAシーケンサを用いて塩基配列を決定することができる。

【0041】
本発明に好適に用いることができる石綿に結合するタンパク質としては、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。これらのタンパク質は、本発明者らにより石綿に結合するタンパク質として同定されている。これらのうち、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質および配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(青石綿)およびクロシドライト(茶石綿)のいずれにも結合することが確認されている。また、これらのタンパク質は全て公知のタンパク質であるが、石綿に結合し得ることは本発明者らが初めて見出した機能である。配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、クリソタイルには結合するが、アモサイト、クロシドライトには結合せず、また石綿に類似のシリカには結合しないことから特異性があると言え、本発明に好適に用いることができる。

【0042】
また、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質も、本発明に好適に用いることができる。

【0043】
ここで「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。

【0044】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。

【0045】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。

【0046】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。

【0047】
本発明に用いられる石綿に結合するタンパク質は、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリアルギニンタグ(Arg-tag)やポリヒスチジンタグ(His-tag)やMyc、Flag等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。

【0048】
本発明に用いられる石綿に結合するタンパク質は、その供給源となる細胞を培養し、単離、精製することにより生産できる。また、公知の遺伝子工学的手法により組み換え発現ベクター構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させることにより生産できる。

【0049】
以下、説明の便宜上、上述の本発明に用いられる石綿に結合するタンパク質を、適宜「石綿結合タンパク質」と称する。

【0050】
〔石綿検出方法〕
本発明に係る石綿検出方法の一実施形態は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)を、試料中の石綿と接触させる工程;および石綿に結合した上記タンパク質(石綿結合タンパク質)を検出する工程を包含するものであればよい。なお、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。

【0051】
本方法を適用する試料は、石綿を含み得るものであればよい。試料の形態は特に限定されず、液体、個体、粒状体、粉状体、流動体、組織切片などの形態を挙げることができる。

【0052】
少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)を、試料中の石綿と接触させる工程では、試料に石綿結合タンパク質溶液を添加、または、石綿結合タンパク質溶液に試料を添加すればよい。また、試料中の石綿と石綿結合タンパク質とを十分結合させるために4℃~室温で5分~30分程度インキュベートすることが好ましい。ただし、インキュベート条件はこれに限定されない。

【0053】
なお、「少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)を、試料中の石綿と接触させる」とは、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿結合タンパク質と試料中の石綿とを接触させることを意図した表現ではなく、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るという性能、換言すれば、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液で洗浄を行っても石綿と結合し得るという性能を有する石綿結合タンパク質を、試料中の石綿と接触させることを意図したものである。したがって、石綿結合タンパク質と試料中の石綿との接触はどのような条件で行ってもよい。

【0054】
上記工程の後段に、試料中の石綿と結合していないタンパク質を除去するための工程を設けることが好ましい。例えば、遠心分離やろ過により遊離のタンパク質を除去する方法、試料の表面を水洗する方法などを用いることができる。

【0055】
石綿に結合した石綿結合タンパク質を検出する工程では、石綿結合タンパク質を公知の方法を用いて検出すればよい。例えば、用いた石綿結合タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて免疫化学的に検出することができる。具体的にはELISA法などを利用して検出することができる。また、石綿結合タンパク質を修飾タンパク質としてもよい。例えば、Cy3、Cy5、フルオレセインなどの蛍光物質で標識した石綿結合タンパク質を用いれば、蛍光を検出することにより目的の石綿を検出できる。なお、標識は蛍光に限定されるものではない。

【0056】
また、本発明に係る試料中の石綿を検出する方法の他の実施形態は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)と、レポータータンパク質との融合タンパク質を取得する工程;得られた融合タンパク質を試料中の石綿と接触させる工程;および石綿に結合した上記融合タンパク質を検出する工程を包含するものであればよい。なお、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。

【0057】
ここで、レポータータンパク質は、石綿結合タンパク質と融合タンパク質を形成してもそのレポーター機能を維持できるものであればよい。なかでも、レポーター機能を容易に検出できるものであることが好ましい。例えば、蛍光性タンパク質、酵素などを挙げることができる。より具体的には、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼなどを挙げることができる。

【0058】
石綿結合タンパク質とレポータータンパク質との融合タンパク質を取得する工程では、公知の遺伝子工学的手法を用いることにより組み換えタンパク質として融合タンパク質を取得すればよい。すなわち、石綿結合タンパク質をコードする遺伝子とレポータータンパク質をコードする遺伝子とを人工的に連結した融合遺伝子(ハイブリッド遺伝子)を作製し、当該融合遺伝子を、発現ベクターのプロモーターの下流に挿入し、大腸菌などの宿主細胞に導入して発現させる方法を用いることができる。融合タンパク質発現ベクターの構築、融合タンパク質の発現および精製の具体例としては、後述の実施例に記載の方法を挙げることができる。

【0059】
融合タンパク質を試料中の石綿と接触させる工程は、上述の少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)を試料中の石綿と接触させる工程に準じて行うことができる。また、この工程の後段には、試料中の石綿と結合していないタンパク質を除去するための工程を設けることが好ましく、これについても上記に準じて行うことができる。

【0060】
石綿に結合した融合タンパク質を検出する工程では、融合タンパク質のレポータータンパク質部分の機能を検出すればよい。

【0061】
例えば、融合タンパク質のレポータータンパク質部分にGFPを用いた場合は、蛍光顕微鏡を用いて緑色蛍光を発光している粒子の有無を観察すればよい。また、ルシフェラーゼを用いた場合は、基質であるルシフェリンとATPを添加して化学発光量をルミノメーターなどを用いて測定すればよい。

【0062】
また、レポータータンパク質にアルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼなどの酵素を用いた場合は、蛍光基質や発色基質を用いて蛍光量または発色量を蛍光光度計や分光光度計を用いて測定すればよい。発色基質を用いた場合には、目視による検出も可能である。

【0063】
本発明に係る石綿検出方法において、石綿結合タンパク質は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質であることが好ましい。配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、発明者が石綿に結合するタンパク質として同定したものである。

【0064】
上記配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、石綿に結合するタンパク質であり、かつ、レポータータンパク質として利用できるアルカリホスファターゼである。したがって、石綿の検出に用いる融合タンパク質のレポータータンパク質としては、アルカリホスファターゼが好適である。

【0065】
上記配列番号21または23に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、マウス肺組織中のタンパク質から石綿に結合するタンパク質として見出されたアクチンである。具体的には、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、マウスの細胞質由来γ-アクチンであり、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質はマウスの細胞質由来β-アクチンである。

【0066】
ここで、アクチンはすべての真核細胞に存在し、その中で最も大量に存在(全タンパク質の5%、脊椎動物の骨格筋細胞では全重量の20%)するタンパク質である。アクチンは細胞骨格の基本構成要素として生存に必須の役割を果たしており、筋収縮、核分裂、原形質流動、エンドサイトーシス、エキソサイトーシスなどのいずれも運動に関する仕事に利用されている。筋肉ではF-アクチン(線維状アクチン)となり、また、アクチンとミオシンとからなる複合体(アクトミオシン)を形成し、収縮力が生成される。

【0067】
アクチンの大きな特徴の一つとして、すべての生物で構造が非常によく保存されていることが知られている。例えば、ヒトのアクチンと酵母のアクチンは90%のアミノ酸配列が同じで、哺乳類アクチンと最も相同性が低いと言われている原生動物のアクチンでも、60%程度のアミノ酸配列が同じである。酵母では1種類であるが、哺乳類では少なくとも6種類のアクチンが存在する。α-アクチンは筋肉細胞に存在し、β-アクチンおよびγ-アクチンは非筋肉細胞に存在する。筋肉の乾燥粉末をうすい塩溶液で処理するとアクチンフィラメントからアクチンが得られる。

【0068】
ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびニワトリの骨格筋α-アクチンのアミノ酸配列は同一であり、ヒト、マウス、ラット、ウシおよびニワトリの細胞質β-アクチンのアミノ酸配列は同一である(例えば、Hennessey ES, Drummond DR, Sparrow JC. Molecular genetics of actin function. Biochem J. 282, 657-671, 1993.を参照)。γ-アクチンについても、少なくともヒトとマウスのアミノ酸配列は同一である。なお、ヒトγ-アクチンのアミノ酸配列(ACCESSION: NM_001614)およびそれをコードする遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号27および28に示し、ヒトβ-アクチンのアミノ酸配列(ACCESSION: NM_001101)およびそれをコードする遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号29および3034に示した。

【0069】
したがって、石綿の検出に利用可能なアクチンは上記配列番号21または23に示されるアミノ酸配列からなるアクチンに限定されず、石綿に結合する全てのアクチンが、本発明に係る石綿検出方法に使用できることが容易に予測できる。特にヒトを含む哺乳動物のアクチンのアミノ酸配列は、上記配列番号21または23に示されるアミノ酸配列と同一または相同性が非常に高いので、石綿の検出に好適に使用できる。また、哺乳動物のアクチン(例えば、ウシ、ブタ、ウサギの骨格筋由来アクチン)は試薬として市販されているので、入手が容易であるという観点からも好適である。

【0070】
また、F-アクチン(線維状アクチン)と特異的に結合するタンパク質としてファロイジンが知られている。ファロイジンは、タマゴテングタケ(Amanita phalloides)の毒成分として分離されたアミノ酸7個からなる環状ペプチドで、その後構造決定された類似の一群の化合物とともにファロトキシン類(phallotoxins)と総称されている。ファロイジンは植物、動物を問わず様々な種のアクチンと特異的に結合するため、アクチンの特異的染色剤として、各種の標識ファロイジン(合成ファロイジン誘導体)が市販されている(例えば、タカラバイオ、invitrogen など)。したがって、石綿の検出にアクチンを用いる場合には、石綿に結合したアクチンを検出する工程において標識ファロイジンを好適に用いることができる。

【0071】
試料は、例えば以下のように調製すればよい。ただしこれに限定されない。

【0072】
石綿粉塵を含み得る空気をフィルターでろ過し、あるいは石綿を含み得る喀痰などの生体試料をフィルターでろ過し、フィルター上に回収された粉塵等を適当な緩衝液に溶解(懸濁)する。また、喀痰などの生体試料の場合、燃焼により有機物を除去した後、緩衝液に溶解(懸濁)することも可能である。また、石綿を含み得る建材等をそのまま試料として用いてもよい。

【0073】
このように調製した試料に、石綿結合タンパク質とアルカリホスファターゼとの融合タンパク質溶液を添加し、遠心分離等により融合タンパク質が結合した石綿を回収し、発色基質(BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium))を添加して、発色の程度を目視または吸光度測定により石綿を検出することができる。

【0074】
また、ろ過後のフィルターに直接上記発色基質を添加すれば、フィルター上の発色の有無を目視することが可能である。

【0075】
アクチンを用いる場合は、上記のように調製した試料にアクチンを添加し、遠心分離等によりアクチンが結合した石綿を回収し、標識ファロイジン(例えば、蛍光標識ファロイジン)を添加して、蛍光顕微鏡観察または蛍光光度計による測定により石綿を検出することができる。

【0076】
また、石綿による疾病の認定基準(厚生労働省労働基準局)として、胸部レントゲンかCT(コンピューター断層撮影装置)により、胸膜が盛り上がって厚くなる「胸膜プラーク」の明らかな症状が見つかった上、肺の組織が硬くなる「線維化」が見られた場合、肺がん発症リスクが2倍になる石綿の吸引量があったと認定される。あるいはこれら症状が見られなくても石綿吸引により肺がんを発症した可能性があるため、石綿繊維にたんぱく質などが付着した「石綿小体」が肺1グラム当たり5000本あるかなどで認定する基準も併せて設けられている。石綿繊維にはアクチンが結合するため、蛍光標識ファロイジンを用いれば、石綿小体が組織切片中で蛍光観察でき、判定が容易になる。このように石綿結合タンパク質は、石綿健康被害の診断に利用することができる。

【0077】
〔本発明に係る石綿検出剤および石綿検出キット〕
本発明に係る石綿検出剤は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)、または、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)とレポータータンパク質との融合タンパク質を含むものであればよい。

【0078】
レポータータンパク質は、自身が石綿に結合するアルカリホスファターゼが好ましい。

【0079】
石綿結合タンパク質または融合タンパク質以外に含まれるものは特に限定されない。なお、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質(石綿結合タンパク質)および融合タンパク質については既に説明したとおりである。本発明に係る石綿検出剤は、上述の石綿検出方法に準じて使用することができる。

【0080】
本発明に係る固定化剤および本発明に係る検出剤は、例えば、石綿結合タンパク質溶液、融合タンパク質溶液、石綿結合タンパク質の凍結乾燥物、融合タンパク質の凍結乾燥物などの形態で実施することができる。

【0081】
本発明に係る石綿検出キットは、上記本発明に係る石綿検出剤を備えるものであればよい。これ以外の具体的なキットの構成については特に限定されるものではなく、必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。例えば、洗浄用緩衝液、基質溶液、反応用チューブ、フィルターなどを挙げることができる。なお、石綿結合タンパク質とレポータータンパク質との融合タンパク質発現用ベクターを備えるキットとすることも可能である。

【0082】
より具体的なキットとして、ボトルA(洗浄用緩衝液)、ボトルB(融合タンパク質の凍結乾燥物)、ボトルC(発色基質溶液)、フィルター、スポイト、取り扱い説明書、色見本からなるキットを挙げることができる。

【0083】
本明細書中において用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは当該材料を使用するための使用説明書を備える。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。

【0084】
〔スクリーニング方法〕
本発明に係るスクリーニング方法は、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質をスクリーニングする方法であって、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で被検物質と石綿とアクチンとを接触させる工程;および上記溶液中の石綿とアクチンとの結合レベルを測定する工程を包含するものであればよい。なお、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。

【0085】
本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質を簡便かつ効率的にスクリーニングすることができる。

【0086】
石綿が病因または増悪因子となる疾病としては、例えば、石綿肺(じん肺)、肺がん、悪性中皮種を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。

【0087】
本発明者らが、マウス肺由来のタンパク質中から見出した石綿に結合するタンパク質は、具体的には、配列番号配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるマウスの細胞質由来γ-アクチンおよび配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるマウスの細胞質由来β-アクチンである。

【0088】
しかしながら、上述のようにアクチンはすべての生物で構造が非常によく保存されていることが知られている。したがって、本発明に係るスクリーニング方法に使用可能なアクチンは上記配列番号21または23に示されるアミノ酸配列からなるアクチンに限定されず、石綿に結合する全てのアクチンが本発明に係るスクリーニング方法に使用可能であることは容易に予測できる。特にヒトを含む哺乳動物のアクチンのアミノ酸配列は、上記配列番号21または23に示されるアミノ酸配列と同一または相同性が非常に高いので、本発明に係るスクリーニング方法に好適に使用できる。

【0089】
アクチンは微小管とともに細胞骨格系を構成する主要メンバーであり、腫瘍の転移など細胞の運動に深く関わることが従来知られている。例えばMullerらは、腫瘍細胞の移動におけるケモカインの役割を研究する過程で、ケモカインと受容体CXCR4およびCCR7との相互作用の結果、線維状アクチン(F-アクチン)の重合および仮足形成が開始されることを明らかにした。すなわち、細胞骨格の主要な構成要素の1つであるF-アクチンによる仮足形成が、ケモカインによる癌細胞の移動メカニズムで重要な要素となることを報告している(Muller A, Homey B, Soto H, Ge N, Catron D, Buchanan ME, McClanahan T, Murphy E, Yuan W, Wagner SN, Barrera JL, Mohar A, Verastegui E, Zlotnik A. Involvement of chemokine receptors in breast cancer metastasis. Nature. 2001 Mar 1;410(6824):50-6.)。

【0090】
以上のように、アクチンは細胞の運動に関与する生存に必須のタンパク質であり、腫瘍転移のメカニズムにも重要な要素となっている。それゆえ、石綿粉じんの吸入によりアクチンと石綿とが結合し、アクチンの機能に何らかの変化が生じることによって、健康障害が引き起こされることは、十分に予測し得ることである。したがって、アクチンと石綿との結合を阻害し得る物質は、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質となり得ることは容易に理解できる。

【0091】
少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で被検物質と石綿とアクチンとを接触させる工程は、例えば0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中に被検物質と石綿とアクチンとを順次添加すればよい。添加する順序によって結果が異なる場合があり得るので、添加順序ごとに独立した被検群とすることが好ましい。また、被検物質を添加しない対照群を設けることが好ましい。溶液に含まれる塩化ナトリウム濃度は少なくとも0.1M以上であれば限定されず、具体的な石綿と石綿結合タンパク質に応じて最適な濃度を設定すればよい。なお、「少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液」とは0.1M未満を排除する意図である。

【0092】
被検物質と石綿とアクチンとの混合溶液は、例えば4℃~室温で5分~30分程度インキュベートすることが好ましい。ただし、インキュベート条件はこれに限定されない。

【0093】
溶液中の石綿とアクチンとの結合レベルを測定する工程では、上記被検物質と石綿とアクチンとの混合溶液中の石綿とアクチンとの結合レベルを測定すればよい。具体的には、例えば、遠心分離やろ過などにより上記混合溶液をから石綿と結合していないアクチンを除去した後に、石綿と結合しているアクチンを検出すればよい。被検群の結果を対照群の結果と比較することで、被検物質の結合阻害の強さを確認することができる。

【0094】
石綿と結合しているアクチンの検出には、上述の標識ファロイジンを好適に用いることができる。

【0095】
石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質としては、被検物質を添加していない対照群における石綿とアクチンとの結合レベルを50%阻害する物質であることが好ましく、より好ましくは70%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは100%阻害する物質である。

【0096】
本発明に係るスクリーニング方法により得られる物質は、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質として有用である。さらに得られた候補物質を薬理試験供することにより有効性が見出されれば、当該候補物質は、石綿が病因または増悪因子となる疾病の予防・治療用薬剤の有効成分となる。

【0097】
また、本発明に係るスクリーニング方法により得られる物質は、石綿が病因または増悪因子となる疾病におけるメカニズム解明のための研究ツールとしても非常に有用である。

【0098】
本発明は、以下のように構成することも可能である。

【0099】
本発明の石綿検出方法は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質を、試料中の石綿と接触させる工程;および石綿に結合した上記タンパク質を検出する工程を包含することを特徴としている。

【0100】
本発明の石綿検出方法は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質と、レポータータンパク質との融合タンパク質を取得する工程;得られた融合タンパク質を試料中の石綿と接触させる工程;および石綿に結合した上記融合タンパク質を検出する工程を包含することを特徴としている。

【0101】
本発明の石綿検出方法では、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質であることが好ましい。

【0102】
本発明の石綿検出方法では、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、アクチンであることが好ましい。

【0103】
本発明の石綿検出方法では、上記レポータータンパク質が、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼおよびパーオキシダーゼから選択されることが好ましい。

【0104】
本発明の石綿検出剤は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質を含むことを特徴としている。

【0105】
本発明の石綿検出剤は、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質と、レポータータンパク質との融合タンパク質を含むことを特徴としている。

【0106】
本発明の石綿検出剤では、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23および25のいずれかに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質より選択される1種以上のタンパク質であることが好ましい。

【0107】
本発明の石綿検出剤では、上記少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で石綿と結合し得るタンパク質が、アクチンであることが好ましい。

【0108】
本発明の石綿検出剤では、上記レポータータンパク質が、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼおよびパーオキシダーゼから選択されることが好ましい。

【0109】
本発明の石綿検出キットは、本発明の石綿検出剤を備えることを特徴としている。

【0110】
本発明のスクリーニング方法は、石綿が病因または増悪因子となる疾病を予防または治療する薬剤の候補物質をスクリーニングする方法であって、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で被検物質と石綿とアクチンとを接触させる工程;および上記溶液中の石綿とアクチンとの結合レベルを測定する工程を包含することを特徴としている。

【0111】
〔実施例1:石綿(クリソタイル)結合タンパク質〕
(1)使用菌株
大腸菌(Escherichia coli)K12(ATCC 700926)、Pseudomonas putida KT2440および Corynebacterium glutamicum ATCC13032の3種類を用いた。

【0112】
(2)細胞破砕液の調製
2×YT培地で37℃一晩培養したものを新しい2×YT培地に1%植菌し、37℃で4時間培養した。培養後の菌体を遠心分離により集菌した後、50mM Tris-HCl pH 7.5、10%スクロースで縣濁した。凍結融解を行い、250μg/mlになるようにリゾチームを加え、30分氷上においた。37℃で5分間反応後、再び氷上に10分おき、粘性がなくなるまで超音波破砕を行った。さらに20,000×g、15分間遠心分離した上清を細胞破砕液として用いた。

【0113】
(3)石綿(クリソタイル)結合タンパク質の取得
得られた細胞破砕液のタンパク質濃度が1mg/mlになるように25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20, 0.1M NaClで希釈した。調製した溶液1mlに5mgのクリソタイル(白石綿、(社)日本作業環境測定協会)を加え、4℃で30分間転倒混和した。遠心分離(10,000×g、3分間)後、上清を捨て、沈殿に25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20, 0.1M NaCl を1ml加え、ボルテックスで溶解した。この洗浄操作を計3回行った。洗浄後の沈殿にSDSサンプルバッファー(1%ドデシル硫酸ナトリウム[SDS]、75mM Tris-HCl pH7.5, 10%グリセロール, 1%ベータメルカプトエタノール)50μlを加え、100℃で5分間インキュベートした。抽出したタンパク質は一般的なポリアクリルアミド電気泳動法(Laemmli法)により分離した。

【0114】
図1に大腸菌K12の結果を示した。図1から明らかなように、分子量約14kD、約15kD、約17kD、約20kD、約37kD、約40kDおよび約65kDの位置に石綿(クリソタイル)結合タンパク質(以下、「石綿結合タンパク質」と記す。)のバンドが確認された。

【0115】
図2にPseudomonas putida KT2440の結果を示した。図2から明らかなように、分子量約5kDの位置に石綿結合タンパク質のバンドが確認された。

【0116】
図3にCorynebacterium glutamicum ATCC13032の結果を示した。図3から明らかなように、分子量約50kDの位置に石綿結合タンパク質のバンドが確認された。

【0117】
(4)アミノ酸配列および塩基配列の決定
取得タンパク質をポリアクリルアミド電気泳動法により分離後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーした。膜をクマシーブリリアントブルーで染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出した。膜片を100%アセトニトリルに浸した後、100mM酢酸、0.5%ポリビニルピロリドンK-30、1%メチオニン溶液100μl中で37℃30分間反応させた。超純水1mlで10回洗浄後、さらに50mM重炭酸アンモニウム、5%アセトニトリル100μlで3回洗浄した。0.5μg/mlのトリプシン溶液(50mM重炭酸アンモニウム、5%アセトニトリル)20μl中で37℃24時間消化した。トリプシン消化物の脱塩にはZipTipC18(ミリポア)を使用した。方法は同社のプロトコルに従った。脱塩したサンプルをマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計 (BiflexIV:ブルカーダルトニクス)により分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析によりタンパク質およびそれをコードする遺伝子を同定した。同定したタンパク質のアミノ酸配列はデータベース(DDBJ)から取得した。また、同定したタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列もデータベース(DDBJ)から取得した。

【0118】
以上の結果より、大腸菌K12由来の分子量約65kDの石綿結合タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_414555)、配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子(dnaK)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0119】
大腸菌K12由来の分子量約37kDの石綿結合タンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_415477)、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子(ompA)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0120】
大腸菌K12由来の分子量約40kDの石綿結合タンパク質は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_416719)、配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子(ompC)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0121】
大腸菌K12由来の分子量約17kDの石綿結合タンパク質は、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_414720)、配列番号8に示される塩基配列からなる遺伝子(hlpA)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0122】
大腸菌K12由来の分子量約14kDの石綿結合タンパク質は、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_417496)、配列番号10に示される塩基配列からなる遺伝子(ygiW)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0123】
大腸菌K12由来の分子量約20kDの石綿結合タンパク質は、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_414687)、配列番号12に示される塩基配列からなる遺伝子(dksA)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0124】
大腸菌K12由来の分子量約15kDの石綿結合タンパク質は、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION: NP_415753)、配列番号14に示される塩基配列からなる遺伝子(hns)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0125】
Pseudomonas putida KT2440由来の分子量約5kDの石綿結合タンパク質は、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_744611)、配列番号16示される塩基配列からなる遺伝子(cspA-2)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0126】
Corynebacterium glutamicum ATCC13032由来の分子量約50kDの石綿結合タンパク質は、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_600201)、配列番号18に示される塩基配列からなる遺伝子(Cgl0974)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0127】
なお、以下の実験は、上記大腸菌K12由来の分子量約20kDの石綿結合タンパク質(DksA)および大腸菌K12由来の分子量約50kDのタンパク質(PhoA:アルカリホスファターゼ(ACCESSION:NP_414917)、以下「AP」と記す)を用いて行った。APのアミノ酸配列を配列番号19に示し、APをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号20に示した。

【0128】
(5)DksA-AP融合タンパク質発現ベクターの構築
まず、AP発現ベクターの構築を行った。既知のphoA遺伝子配列(配列番号20)より2種のオリゴヌクレオチドプライマーP1:GTTAAGCTTCGGACACCAGAAATGCCTGT(配列番号31)およびP2:GTTGCGGCCGCTTTCAGCCCCAGAGCGGCT(配列番号32)を作製し、大腸菌K12の染色体を鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用い、同社のプロトコルに従った。PCR産物および発現ベクターpET21-b(Novagen)を制限酵素HindIIIおよびNotIにより37℃2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pET APとした。

【0129】
次にDksA-AP発現ベクターの構築を行った。配列番号12に示される塩基配列に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマーP3:GGAATTCGCTAGCATGCAAGAAGGGCAAAACCG(配列番号33)およびP4:GTTGGATCCCCGCCAGCCATCTGTTTTTCGC(配列番号34)を作製し、大腸菌K12の染色体を鋳型としてPCRを行った。PCR産物および上記pET APを制限酵素NheIおよびBamHIにより37℃2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pET DksA-APと名付けた。

【0130】
(6)APタンパク質およびDksA-AP融合タンパク質の発現
pET APまたはpET DksA-APで形質転換したRosetta BL21(DE3) pLysS (Novagen)を2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTGを添加してさらに4時間培養を行った。ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。破砕後、20,000×gで15分間遠心した上清を、それぞれAPタンパク質を含む細胞破砕液(以下「AP細胞破砕液」と記す)およびDksA-AP融合タンパク質を含む細胞破砕液(以下「DksA-AP細胞破砕液」と記す)とした。

【0131】
(7)APタンパク質およびDksA-AP融合タンパク質の石綿(クリソタイル)への結合確認
50μlのAP細胞破砕液またはDksA-AP細胞破砕液と950μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)を混合後、石綿(クリソタイル、(社)日本作業環境測定協会)5mgを加えて室温5分間放置して結合させた。遠心操作(10,000×g、3分間)で石綿を沈殿させ、各濃度(0mM、100mMまたは300mM)のNaClを含む緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)で懸濁して再度遠心操作で石綿を回収し、結合しているタンパク質を電気泳動で確かめた。

【0132】
結果を図4(a)および図4(b)に示した。図4(a)はAP細胞破砕液の結果を示し、図4(b)はDksA-AP細胞破砕液の結果を示している。図4(a)および図4(b)のいずれもレーン1は細胞破砕液のみ0.2μl、レーン2はNaClを含有しない緩衝液を用いた場合の石綿沈殿物と結合しているタンパク質、レーン3は100mMのNaClを含む緩衝液を用いた場合の石綿沈殿物と結合しているタンパク質、レーン4は300mMのNaClを含む緩衝液を用いた場合の石綿沈殿物と結合しているタンパク質をそれぞれサンプルとした電気泳動結果を示している。

【0133】
図4(a)から明らかなように、APは石綿と弱く結合する能力を有していることが確認された。また、図4(b)から明らかなように、DksA-AP融合タンパク質は石綿と強く結合し沈殿物中に濃縮されていた。

【0134】
(8)DksA-AP融合タンパク質の石綿(クリソタイル)への結合の発色による検出
50μlのAP細胞破砕液、またはDksA-AP細胞破砕液、または組み換えタンパク質を発現させていない大腸菌由来の細胞破砕液と、950μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)とを混合後、石綿(クリソタイル)5mgを加えて室温5分間放置して結合させた。また、石綿を加えないもの、いずれの細胞破砕液も加えないものをコントロールとした。遠心操作(10,000×g、3分間)で石綿を沈殿させ、NaClを含まない緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)で懸濁して再度遠心操作で石綿を回収した。

【0135】
回収した石綿を100μlの発色試薬(100mM Tris-HCl pH9.5, 100mM NaCl, 50mM MgCl2, 0.4mM BCIP, 0.3mM NBT)で縣濁後、37℃で5分間反応させた。反応後のサンプルを96ウェルのプレートに移し、スキャナーにより取り込んだ。なお、BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)はアルカリホスファターゼの発色基質として一般的に用いられているものである。

【0136】
結果を図5に示した。図5から明らかなように、DksA-AP融合タンパク質またはAPを発現させていない大腸菌由来の細胞破砕液を用いた場合は石綿が存在しても着色せず、AP細胞破砕液およびDksA-AP細胞破砕液を用いた場合は石綿が存在する場合には着色することが確認された。また、AP細胞破砕液とDksA-AP細胞破砕液とを比較した場合には、DksA-AP細胞破砕液を用いたほうが石綿への結合活性が強いことが明らかとなった。

【0137】
(9)DksA-AP融合タンパク質を用いた石綿(クリソタイル)検出系の感度の検討
10μlのDksA-AP細胞破砕液と90μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)を混合後、石綿(クリソタイル、(社)日本作業環境測定協会)を0、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5または1mg加えて室温5分間放置して結合させた。遠心操作(10,000×g、3分間)で石綿を沈殿させ、NaClを含有しない緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)で懸濁して再度遠心操作で石綿を回収した。

【0138】
回収した石綿を100μlの発色試薬(100mM Tris-HCl pH9.5, 100mM NaCl, 50mM MgCl2, 0.4mM BCIP, 0.3mM NBT)で縣濁後、37℃で5分~60分間反応させた。反応後のサンプルを96ウェルのプレートに移し、プレートリーダーを用いて吸光度を測定した。

【0139】
結果を図6に示した。この実験系において、目視による石綿の検出感度は50μg程度、プレートリーダーによる検出感度は5μg程度であることが明らかとなった。また、発色反応時間を長くすると、検出感度が若干向上し、10μgの石綿を目視で検出可能となった。

【0140】
(10)フィルターを用いた石綿(クリソタイル)の検出
10μlのDksA-AP細胞破砕液と990μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)を混合後、石綿(クリソタイル、(社)日本作業環境測定協会)を0、5または50μg加えて4℃、15分間結合させた。結合後の溶液を1mlのシリンジを用いてSWINNEXフィルターホルダー(MILLIPORE)に装着したDURAPORE MEMBRANE FILTERS(直径13mm、孔径0.45mm:MILLIPORE)に通過させた。1mlの上記緩衝液で3回洗浄を行った後、フィルターの表面を50μlの発色試薬(100mM Tris-HCl pH9.5, 100mM NaCl, 50mM MgCl2, 0.4mM BCIP, 0.3mM NBT)で覆い、37℃で10分間反応させた。反応後のフィルターは乾燥させ、スキャナーにより取り込んだ。

【0141】
結果を図7に示した。図7から明らかなように、フィルターを用いて検出した場合、5μgの石綿を十分に目視で検出できた。上記図6で示したように、96ウェルのプレートを用いた場合の目視により検出感度は50μg程度であったので、フィルターを用いる検出系のほうが目視による検出感度が高いことが明らかとなった。

【0142】
〔実施例2:石綿(クリソタイル)結合マウス肺タンパク質〕
(1)使用マウス肺
マウス肺はフナコシ株式会社から購入した(商品コード:J110、マウスの系統:C57BL/6J)。

【0143】
(2)試料調製
マウス肺(170mg)にM-PER(登録商標、PIERCE社製、哺乳類タンパク質抽出試薬)1.7mlおよびプロテアーゼ阻害剤0.017ml(シグマ社製)を添加し、超音波処理(7分30秒)により細胞を破砕した。続いて遠心分離(10,000×g、15分)して上清を採取し、さらに超遠心分離(100,000×g、20分)した上清を試料とした。

【0144】
(3)石綿(クリソタイル)結合マウス肺タンパク質の取得
得られた試料(タンパク質濃度:4mg/ml)0.15mlに緩衝液(25mM Tris-HCl pH8.0, 0.5% Tween20, 0.1M NaCl)0.45mlを加えて全量を0.6ml(タンパク質濃度:1mg/ml)とした。この溶液に5mgのクリソタイル(白石綿、(社)日本作業環境測定協会)を加え、4℃で30分間転倒混和した後、遠心分離(20,000×g、10分)し、石綿(クリソタイル)を沈澱として回収した。沈殿に0.5Mまたは1MのNaClを含む緩衝液(25mM Tris-HCl pH8.0, 0.5% Tween20)を1ml加え、ボルテックスで溶解した。この洗浄操作を計3回行った。洗浄後の沈殿にSDSサンプルバッファー(1%ドデシル硫酸ナトリウム[SDS]、75mM Tris-HCl pH7.5, 10%グリセロール, 1%ベータメルカプトエタノール)50μl加え、100℃で5分間インキュベートした。抽出したタンパク質は一般的なポリアクリルアミド電気泳動法(Laemmli法)により分離した。

【0145】
結果を図8に示した。図中レーン1は0.5MのNaClを含む緩衝液で洗浄した後に石綿(クリソタイル)と結合しているタンパク質、レーン2は1MのNaClを含む緩衝液で洗浄した後に石綿(クリソタイル)と結合しているタンパク質を電気泳動した結果を示している。図8から明らかなように、高塩濃度(1M NaCl)においても、分子量約42kDの位置に石綿結合タンパク質のバンドが確認された。

【0146】
(4)アミノ酸配列および塩基配列の決定
実施例1と同様の方法で、当該石綿結合タンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、当該石綿結合タンパク質は配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(ACCESSION:NM_009609)および配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(ACCESSION:NM_007393)の少なくとも1種、すなわちアクチンであることが明らかとなった。なお、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は配列番号22に示される塩基配列からなる遺伝子(actg1)にコードされるタンパク質であり、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は配列番号24に示される塩基配列からなる遺伝子(actb)にコードされるタンパク質である。

【0147】
〔実施例3:石綿(クロシドライト、アモサイト)結合タンパク質〕
(1)使用菌株
大腸菌(Echerichia coli)K12(ATCC 700926)、高度好熱性細菌(Thermus thermophilus)HB27(ATCC BAA-163)の2種類を用いた。

【0148】
(2)細胞破砕液の調製
実施例1と同様の方法で細胞破砕液を調製した。

【0149】
(3)石綿(クロシドライト、アモサイト)結合タンパク質の取得
得られた細胞破砕液のタンパク質濃度が1mg/mlになるように25mM Tris-HCl pH8.0, 0.5% Tween20, 1M NaClで希釈した。調製した溶液1mLに5mgのアモサイト(青石綿、(社)日本作業環境測定協会)またはクロシドライト(茶石綿、(社)日本作業環境測定協会)をそれぞれ加え、4℃で30分間転倒混和した。遠心分離(10,000×g、3分間)後、上清を捨て、沈殿に25mM Tris-HCl pH8.0, 0.5% Tween20, 1M NaCl を1ml加え、ボルテックスで溶解した。この洗浄操作を計3回行った。洗浄後の沈殿にSDSサンプルバッファー(1%ドデシル硫酸ナトリウム[SDS]、75mM Tris-HCl pH7.5, 10%グリセロール, 1%ベータメルカプトエタノール)50μlを加え、100℃で5分間インキュベートした。抽出したタンパク質は一般的なポリアクリルアミド電気泳動法(Laemmli法)により分離した。

【0150】
図9に大腸菌K12の結果を示した。図9から明らかなように、アモサイトとクロシドライトのバンドパターンに違いはなく、分子量約30kDおよび約40kDの位置に石綿結合タンパク質のバンドが確認された。

【0151】
図10に高度好熱性細菌HB27の結果を示した。図10から明らかなように、アモサイトとクロシドライトのバンドパターンに違いはなく、分子量約10kDの位置に石綿結合タンパク質のバンドが確認された。

【0152】
(4)アミノ酸配列および塩基配列の決定
実施例1と同様の方法で、上記3種類の石綿(クロシドライト/アモサイト)結合タンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列を決定した。

【0153】
大腸菌K12由来の分子量約30kDの石綿結合タンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_415477)、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子(ompA)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。なお、実施例1で発見したOmpAと比較して分子量が小さいが、これは内在性のプロテアーゼなどにより分解されたためであると考えられる。

【0154】
大腸菌K12由来の分子量約40kDの石綿結合タンパク質は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_416719)、配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子(ompC)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0155】
高度好熱性細菌HB27由来の分子量約10kDの石綿結合タンパク質は、配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:YP_004953)、配列番号26に示される塩基配列からなる遺伝子(ttc0984)によりコードされるタンパク質であることが明らかとなった。

【0156】
(5)TTC0984-AP融合タンパク質発現ベクターの構築
配列番号26に示される塩基配列に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマーP5:GGAATTCCATATGGCTGCGAAGAAGACGGT(配列番号35)およびP6:GTTGGATCCCCCTTCTTGACCTTATCCTTC(配列番号36)を作製し、高度好熱性細菌HB27の染色体を鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用い、同社のプロトコルに従った。PCR産物および実施例1で作成した発現ベクターpET APを制限酵素NdeIおよびBamHIにより37℃2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pET TTC0984-APとした。

【0157】
(6)TTC0984-AP融合タンパク質の発現および精製
pET TTC0984-APで形質転換したRosetta gamiB pLysS (Novagen)を2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTGを添加してさらに16時間培養を行った。集菌後、上記実施例1(2)に記載の方法で細胞破砕液を調製し、当該細胞破砕液をHisTrap HP 1ml (アマシャムバイオサイエンス)カラムにより精製を行った。10mMのイミダゾールを含む緩衝液A (50mM リン酸ナトリウム pH7.4, 20%グリセロール)で洗浄後、0.5Mイミダゾールを含む緩衝液Aで溶出した。精製したタンパク質について、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。

【0158】
(7)フィルターを用いた石綿(アモサイト)の検出
0、0.1、1または10μgアモサイト((社)日本作業環境測定協会)を含む超純水1mLを吸引ろ過装置(フィルターホルダー、吸引瓶、ポンプで構成)を用いてDURAPORE MEMBRANE FILTERS(直径13mm、孔径0.45mm:MILLIPORE)に通過させた。1mlの上記緩衝液で1回洗浄を行った後、フィルターの表面を5μgの精製TTC0984-APタンパク質を含む上記緩衝液50μlで覆い、室温で1分間反応させた。さらに1mlの上記緩衝液で3回洗浄を行った後、フィルターの表面を50μlの発色試薬(BCIP/NBT PLUS:Moss,INC.)で覆い、37℃で10分間反応させた。反応後のフィルターは乾燥させ、スキャナーにより取り込んだ。

【0159】
結果を図11に示した。図11から明らかなように、1μgのアモサイトを十分に目視で検出できた。

【0160】
〔実施例4:建材中の石綿の検出1〕
(1)試料および試料の調製
実際に使用されている3種類の建材を試料とした。図12に試料とした3種類の建材を示した。これら3種類の建材は、石綿を含有していないことがわかっている。

【0161】
各試料建材を乳鉢で粉末状になるまで粉砕し、30mgを秤量して1チューブあたりの試料とした。各建材について2本のチューブを準備し、それぞれ一方にクリソタイル標準物質((社)日本作業環境測定協会)を300μg(試料の1%)添加した。

【0162】
(2)操作手順
操作は以下の(a)~(f)の手順で行った。
(a)試料の前洗浄
上記(1)で調製した試料が入ったマイクロチューブに緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)1mlを加えて混和した。続いて、遠心操作(10,000×g、3分間)により試料を沈殿させ、緩衝液を除去した。
(b)ブロッキング
ブロッキング液((a)の緩衝液に0.5%カゼインを添加したもの)1mlを加え、ミキサー(RVM-2000,IWAKI社製)を用いて5分間混和した。続いて、遠心操作(10,000×g、3分間)により試料を沈殿させ、ブロッキング液を除去した。
(c)酵素の結合
タンパク質濃度が0.5mg/mlのDksA-AP細胞破砕液50μlを加え、ミキサー(T360,TOMY社製)を用いて5分間混和した。続いて、遠心操作(10,000×g、3分間)により試料を沈殿させ、余分な酵素溶液を除去した。
(d)洗浄
(a)の緩衝液1mlを加えて混和し、遠心操作(10,000×g、3分間)により試料を沈殿させ、緩衝液を除去した。この操作を計3回行った。
(e)基質添加
発色液(BCIP/NBT PLUS:Moss,INC.)50μlを加え、混和した。
(f)色調判定
基質添加から一定の時間後に色の変化を目視観察し、石綿の有無を判定した。

【0163】
(3)結果
結果を図13に示した。図13から明らかなように、クリソタイルを1%添加した3種類の試料において、発色反応時間10分で十分に反応液の色調変化を目視判定可能であることが確認された。なお、反応時間を30分としても判定に何ら影響を及ぼすことはなく、色調変化がより明確になった。したがって、反応時間を10分より長くしてもよいことは明らかである。

【0164】
〔実施例5:建材中の石綿の検出2〕
ロックウールは石綿と同様の鉱物繊維であるが、石綿が天然鉱物繊維であるのに対してロックウールは人造鉱物繊維である点で異なる。現在石綿が混ざっているロックウールは市販されていないが、過去に石綿が混ざったロックウールが市販されていた時期があり、石綿を含有しているロックウールであるか否かを容易に検出できる方法が必要である。しかしながら、いずれも鉱物繊維であるため、従来の位相差顕微鏡による方法では、判別が困難である。そこで、本発明に係る方法を用いて石綿含有ロックウールと非含有ロックウールを判別できるか否かを確認した。

【0165】
試料として用いたロックウールを図14に示した。

【0166】
1チューブあたり30mgのロックウールを秤量し、これにクリソタイル標準物質((社)日本作業環境測定協会)を0、30、150、300μg添加した。これにより、各試料の石綿含有量は、それぞれ0、0.1、0.5、1.0%となる。

【0167】
これらの試料を用いて上記実施例4の操作手順(a)~(f)に従って操作し、基質添加10、30および60分後に色調の変化を目視で観察した。

【0168】
結果を図15に示した。図15から明らかなように、石綿含有量0.5%以上のロックウールについて、発色反応時間10分で十分に反応液の色調変化を目視判定可能であることが確認された。なお、反応時間を30分または60分としても判定に何ら影響を及ぼすことはなく、色調変化がより明確になった。したがって、反応時間を10分より長くしてもよいことは明らかである。

【0169】
〔実施例6:建材中の石綿の簡易検出〕
(1)試料および試料の調製
実験のためのサンプル調製は次の方法で行った。サンプルとしてはロックウールのみ(5mg)、および、ロックウール4mgとクリソタイル標準物質((社)日本作業環境測定協会)1mgを混合したものを用いた。

【0170】
(2)操作手順
操作は以下の(a)~(f)の手順で行った。
(a)試料の固定
スライドグラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白縁磨 1mm厚)上に両面テープを貼付し、その上に微量(5mg)の試料を塗布し、吸着固定した。
(b)ブロッキング
固定した試料にブロッキング溶液(緩衝液[25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20]に0.5%カゼインを添加したもの)100μlを滴下し、室温で5分間放置した。続いて、スライドグラスを100mlの水が入ったビーカーに1分間浸し、洗浄することにより、余分なブロッキング剤を除去した。さらに、ビーカーよりスライドグラスを取り出し、室温で5分間放置し乾燥させた。
(c)酵素の結合
実施例4と同様のDksA-AP細胞破砕液50μlを試料の上に添加し、室温で5分間放置することにより、試料中に含まれる石綿に酵素を結合させた。
(d)洗浄
スライドグラスを100mlの水がはいったビーカーに1分間浸した後取り出し、再度、新しい水を入れたビーカーに1分間浸した。この操作を計2回行った後、スライドグラスを取り出し、5分間放置し乾燥させた。
(e)基質添加
発色液(BCIP/NBT PLUS:Moss,INC.)50μlを試料の上に滴下し、室温で反応させた。
(f)色調判定
基質添加から一定の時間後に色の変化を目視観察し、石綿の有無を判定した。

【0171】
(3)結果
結果を図16に示した。図16から明らかなように、クリソタイルを含むサンプルに滴下した基質は5分程度で紫色に発色したが、クリソタイルを含まないサンプルの場合発色作用が見られなかった。このことから、本方法の有効性が確認された。なお、反応時間を20分としても判定に何ら影響を及ぼすことはなく、色調変化がより明確になった。したがって、反応時間を5分より長くしてもよいことは明らかである。

【0172】
〔実施例7:蛍光顕微鏡を用いた石綿の検出〕
(1)DksA-GFP融合タンパク質発現ベクターの構築
実施例1で作製した発現ベクターpET DksA-APのphoA遺伝子をgfp遺伝子に置換することで作製した。すなわち、既知のgfp遺伝子配列(ACCESSION No.U62636: cloning vector pGFVuv)に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマーP7:AGAAAAGCTTAGTAAAGGAGAAGAACTTTTCACT(配列番号37)およびP8:TCATGCGGCCGCAAGCTCATCCATGCCATGTGTA(配列番号38)を作製し、pGFPuvベクター(clontech)を鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用い、同社のプロトコルに従った。PCR産物およびpET DksA-APを制限酵素NotIおよびHindIIIにより37℃2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pET DksA-GFPとした。

【0173】
(2)DksA-GFP融合タンパク質の発現および精製
pET DksA-GFPで形質転換したRosetta BL21(DE3) pLysS (Novagen)を2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.3mMになるようにIPTGを添加してさらに16時間培養を行った。集菌後、上記実施例3(6)に記載の方法で細胞破砕液の調製およびアフィニティーカラムによる精製を行った。精製したタンパク質について、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。

【0174】
(3)DksA-GFPを用いた蛍光によるクリソタイルの検出
精製したDksA-GFP 0.2μgとクリソタイル(白石綿、(社)日本作業環境測定協会)40μgを緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20)10μl中で混合し、室温10分間結合させた。結合後のサンプル3μlをスライドガラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白縁磨 1mm厚)に滴下し、落射蛍光顕微鏡BX-60(OLYMPUS)で観察した。GFPの蛍光観察にはU-MNIBAキューブ(ダイクロイックミラー:DM505、励起フィルター:BP470-490、吸収フィルター:BA515IF)を用い、画像の取り込みには顕微鏡デジタルカメラDP70(OLYMPUS)を使用した。

【0175】
結果を図17に示した。図17から分かるように可視光でみられるクリソタイル繊維に対応して蛍光でも観察することができた。また、図17では明らかではないが、可視光において肉眼で確認が困難であった繊維についても蛍光において観察することが可能であった。

【0176】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。

【0177】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、公衆衛生、環境衛生、医療などの分野に利用することができる。さらに、製薬産業や基礎医学などの分野に利用することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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