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明細書 :哺乳動物細胞内で目的遺伝子を増幅し高発現させる方法、および当該方法を実施するために用いられるキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5688771号 (P5688771)
登録日 平成27年2月6日(2015.2.6)
発行日 平成27年3月25日(2015.3.25)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物細胞内で目的遺伝子を増幅し高発現させる方法、および当該方法を実施するために用いられるキット
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 14
全頁数 19
出願番号 特願2011-506100 (P2011-506100)
出願日 平成22年3月24日(2010.3.24)
国際出願番号 PCT/JP2010/055123
国際公開番号 WO2010/110340
国際公開日 平成22年9月30日(2010.9.30)
優先権出願番号 2009080153
優先日 平成21年3月27日(2009.3.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年12月5日(2012.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】清水 典明
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】鈴木 崇之
参考文献・文献 国際公開第2008/023671(WO,A1)
特開2006-055175(JP,A)
特開2007-312655(JP,A)
特開2000-201680(JP,A)
特表2004-506428(JP,A)
Nature ,2005年,Vol. 437,p. 1038-1042
Nucleic Acids Research,1990年,Vol. 18, No. 5,p. 1233-1242
Molecular and Cellular Biology,1988年,Vol. 8, No. 7,p. 2837-2847
Nat. Cell. Biol.,2000年,Vol. 2,p. 182-184
Genomics,1994年,Vol. 24, No. 1,p. 53-62
PLoS One,2008年,Vol. 3, No. 8,Article No. : e3099
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 5/10
MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
生体外で実施される、哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するための方法であって、
哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域と目的遺伝子とを具備するベクター
および
500bp以上10,000bp以下の範囲内のテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを、哺乳動物細胞へ同時に導入する遺伝子導入工程を含み、
上記哺乳動物細胞は培養細胞であることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記テロメア反復配列が、TTAGGGまたはTTAGGCからなる塩基配列が複数回反復してなる塩基配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記遺伝子導入工程の後に形質転換細胞を選択する選択工程を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域と目的遺伝子とを具備するベクター
および、
500bp以上10,000bp以下の範囲内のテロメア反復配列からなるポリヌクレオチドが同時に導入されてなる哺乳動物細胞であり、当該哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅している形質転換細胞。
【請求項7】
上記テロメア反復配列が、TTAGGGまたはTTAGGCからなる塩基配列が複数回反復してなる塩基配列である、請求項6に記載の形質転換細胞。
【請求項8】
上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項6または7に記載の形質転換細胞。
【請求項9】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項6ないし8のいずれか1項に記載の形質転換細胞。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項に記載の形質転換細胞を培養する工程を含むことを特徴とする目的遺伝子の発現方法。
【請求項11】
哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するためのキットであって、
哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備し、目的遺伝子が挿入されるベクター、および、
500bp以上10,000bp以下の範囲内のテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
上記テロメア反復配列が、TTAGGGまたはTTAGGCからなる塩基配列が複数回反復してなる塩基配列である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項11または12に記載のキット。
【請求項14】
上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項11ないし13のいずれか1項に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞内で目的遺伝子を高度に増幅し、高発現させる方法、および当該方法を実施するために用いられるキットに関する。より具体的には、本発明者が開発した「高度遺伝子増幅系」を用いて所望の遺伝子を増幅する際に、宿主細胞の染色体に組み込まれることなく目的遺伝子を増幅させることができる手段に関する。本発明によれば、哺乳動物細胞内において目的とする遺伝子を宿主細胞の染色体外にて高度に増幅させることができる。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、哺乳動物の複製開始領域(IR;Initiation Region)と核マトリックス結合領域(MAR; Matrix Attachment Region)とを持つプラスミドベクター(「IR/MARベクター」または「IR/MARプラスミド」という)をヒト由来がん細胞(COLO 320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン(Blasticidin)あるいはネオマイシン(Neomycine))を利用して選択するだけで、
(1)発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子(以下、適宜「目的遺伝子」という)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できること、および、
(2)目的遺伝子はIR/MARベクターに対して同一の遺伝子構築物(シス)として導入した場合であっても、別の遺伝子構築物(トランス)として導入した場合であっても、高度に増幅することができるということを発見した(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
【0003】
そして、本発明者は上記知見に基づいて、IR/MARベクターと目的遺伝子とを、哺乳動物細胞(例えば、ヒト由来がん細胞(COLO320 大腸がん細胞株、およびHeLa細胞株)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)等)にリポフェクション法で導入し、プラスミド上に存在する薬剤耐性遺伝子(BlasticidinあるいはNeomycine)を利用して選択するだけで、目的遺伝子を1万コピー程度に増幅できる系(以下、「高度遺伝子増幅系」という)を完成させるに至った。本発明者は、上記高度遺伝子増幅系に関してさらに研究を進め、種々の知見を公開している(例えば特許文献2-8を参照のこと)。
【0004】
上記高度遺伝子増幅系を用いて増幅した遺伝子は宿主細胞核内において、染色体外の巨大な環状DNAであるDM(ダブルマイニュート染色体)、または宿主細胞の染色体に組み込まれた巨大な構造であるHSR(均一染色領域)の形態で存在する。ただし、哺乳動物細胞内においては、ほとんどの場合目的遺伝子はHSRとして増幅する。しかし、HSRは宿主細胞の染色体に組み込まれた構造であることに加え、目的遺伝子が高度に反復した構造であるため、反復配列依存的な遺伝子の転写抑制を受ける。そのため、目的遺伝子からのタンパク質の発現量が遺伝子増幅数に比例して増加しないという問題があった。
【0005】
現在、タンパク質の大量生産系として広範に用いられている、CHO細胞内でDHFR遺伝子と目的遺伝子とを共に増幅する方法においても増幅構造の形態はHSRであるため、遺伝子の増幅コピー数と目的遺伝子からのタンパク質発現量とが比例しないという問題が発生している。
【0006】
一方、目的遺伝子がDM、すなわち宿主細胞の染色体外にて増幅する、あるいはDMに組み込まれた上で増幅すると、目的遺伝子からのタンパク質発現量は遺伝子増幅コピー数に比例して増加することが、本発明者の研究によって明らかにされた(特許文献2参照)。
【0007】
そこで本発明者は、DMまたはHSRという遺伝子の増幅形態をコントロールする方法を独自に見出し、これまでに明らかにした(特許文献6を参照のこと)。特許文献6に記載された方法は、高度遺伝子増幅系を用いて遺伝子増幅を行う際に、(a)目的遺伝子をダブルマイニュート染色体上または均一染色体領域で小型増幅領域として増幅させる場合には、転写活性調節型プロモーターの転写活性が活性化された状態で導入工程および選抜工程を行う、または(b)目的遺伝子を染色体の均一染色領域で大型増幅領域として増幅させる場合には、転写活性調節型プロモーターの転写活性が不活性化された状態で導入工程および選抜工程を行うことを特徴としている。
【0008】
また本発明者は、IR/MARベクターの形態を、直鎖状、かつ少なくとも片側の末端の形状がヘアピン構造とすることで、目的遺伝子をDMの形態、すなわち染色体外で高度に増幅させることが可能となるということを明らかにし、国際特許出願を行った(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2003-245083号公報(公開日:2003年9月2日)」
【特許文献2】国際公開第2006/054561号パンフレット(国際公開日:2006年5月26日)
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2004-337066号公報(公開日:2004年5月15日)」
【特許文献4】日本国公開特許公報「特開2006-55175号公報(公開日:2006年3月2日)」
【特許文献5】日本国公開特許公報「特開2006-320332号公報(公開日:2006年11月30日)」
【特許文献6】日本国公開特許公報「特開2007-312655号公報(公開日:2007年12月6日)」
【特許文献7】日本国公開特許公報「特開2007-312656号公報(公開日:2007年12月6日)」
【特許文献8】国際公開第2008/023671号パンフレット(国際公開日:2008年2月28日)
【特許文献9】国際公開第2009/048024号パンフレット(国際公開日:2009年4月16日)
【0010】

【非特許文献1】Noriaki Shimizu, et al. (2001) Plasmids with a Mammalian Replication Origin and a Matrix Attachment Region Initiate the Event Similar to Gene Amplification. Cancer Research vol.61, no.19, p6987-6990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高度遺伝子増幅系をさらに改良すべく、IR/MARベクターを用いて目的遺伝子を増幅させる際に、高い確率をもって目的遺伝子をDMの形態、すなわち宿主細胞(哺乳動物細胞)の染色体外で増幅させる新規手段を提供することを目的としている。宿主細胞(哺乳動物細胞)内において目的遺伝子をDMの形態で増幅することができれば、上述したような発現抑制の影響が少なくなり、目的遺伝子の増幅コピー数に比例した目的遺伝子からのタンパク質発現量を得ることができ、最終的に目的遺伝子がコードするタンパク質(「目的タンパク質」という)を大量に取得することができるといえる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、IR/MARベクターと、目的遺伝子と、テロメア反復配列を含むポリヌクレオチドとを宿主細胞(哺乳動物細胞)に同時に導入することによって、目的遺伝子をDMの形態、すなわち宿主細胞の染色体外で増幅させることができるということを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、上記課題を解決するために以下の発明を包含する。
【0013】
本発明にかかる方法は、哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するための方法であって、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを、哺乳動物細胞へ同時に導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴としている。
【0014】
また本発明にかかる方法は、上記テロメア反復配列が、TTAGGGまたはTTAGGCからなる塩基配列が複数回反復してなる塩基配列であってもよい。
【0015】
また本発明にかかる方法は、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する哺乳動物複製開始領域であってもよい。
【0016】
また本発明にかかる方法は、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する核マトリックス結合領域であってもよい。
【0017】
また本発明にかかる方法は、上記目的遺伝子と、上記ベクターとをシスに配置して、哺乳動物細胞に導入する方法であってもよい。
【0018】
また本発明にかかる方法は、上記目的遺伝子と、上記ベクターとをトランスに配置して、哺乳動物細胞に導入する方法であってもよい。
【0019】
また本発明にかかる方法は、上記遺伝子導入工程の後に形質転換細胞を選択する選択工程を含んでいてもよい。
【0020】
一方、本発明にかかる形質転換細胞は、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドが同時に導入されてなる哺乳動物細胞であり、当該哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅している形質転換細胞である。
【0021】
本発明にかかる形質転換細胞は、上記テロメア反復配列が、TTAGGGまたはTTAGGCからなる塩基配列が複数回反復してなる塩基配列であってもよい。
【0022】
また本発明にかかる形質転換細胞は、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する哺乳動物複製開始領域であってもよい。
【0023】
また本発明にかかる形質転換細胞は、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する核マトリックス結合領域であってもよい。
【0024】
一方、本発明にかかる目的遺伝子の発現方法は、上記本発明にかかる形質転換細胞を培養する工程を含むことを特徴としている。
【0025】
また本発明にかかるキットは、哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するためのキットであって、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクター、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを含むことを特徴とするキットである。
【0026】
本発明にかかるキットは、上記テロメア反復配列が、TTAGGGまたはTTAGGCからなる塩基配列が複数回反復してなる塩基配列であってもよい。
【0027】
また本発明にかかるキットは、上記哺乳動物複製開始領域が、c-myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する哺乳動物複製開始領域であってもよい。
【0028】
また本発明にかかるキットは、上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する核マトリックス結合領域であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
上記のように本発明によれば、IR/MARベクターを用いた高度遺伝子増幅系を用いて目的遺伝子を増幅させる際に、目的遺伝子をDMの形態、すなわち哺乳動物細胞の染色体外で増幅させることが可能となる。しかも、本発明によれば、極めて高い確率で目的遺伝子をDMの形態で増幅している形質転換細胞集団を取得することができる。後述する実施例においては、取得された形質転換細胞の約8割がDMの形態で目的遺伝子を増幅していた。
【0030】
高い確率をもって、目的遺伝子をDMの形態で増幅し得る形質転換細胞を取得することができれば、目的遺伝子の増幅コピー数に比例した目的遺伝子からのタンパク質発現量を得ることができ、目的遺伝子がコードするタンパク質(「目的タンパク質」)を大量に生産することができるという効果を本発明は奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例および比較例において使用した脊椎動物由来のテロメア反復配列からなる2本鎖DNAの調製方法の概略を示す図である。
【図2】実施例および比較例において使用したIR/MARベクターであるpΔBM.AR1-d2EGFPの構造を示す図である。
【図3】実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2において得られたポリクローン集団から分裂中期染色体標本を調製し、導入したプラスミドDNAから調製したプローブを用いてFISH法を行うことにより、各種ポリクローン集団に含まれる各種遺伝子増幅形態(HSR、DM)の頻度を比較した結果を示す。
【図4】比較例1、実施例1、および実施例2において得られたポリクローン集団についてフローサイトメーターによりd2EGFPの発現を検出した結果を示す図である。(a)は比較例1、実施例1および2についてd2EGFPの発現量を測定した結果を示し、(b)は比較例1についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(c)は実施例1についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(d)実施例2についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示す。
【図5】比較例3、比較例4、および実施例3において得られたポリクローン集団についてフローサイトメーターによりd2EGFPの発現を検出した結果を示す図である。(a)は比較例3、比較例4、および実施例3についてd2EGFPの発現量を測定した結果を示し、(b)は比較例3についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(c)は比較例4についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(d)実施例3についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示す。
【図6】比較例5および実施例4において得られたポリクローン集団についてフローサイトメーターによりd2EGFPの発現を検出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【0033】
<1.本発明の遺伝子増幅方法および目的遺伝子発現方法>
本発明は、哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するための方法に関する。かかる方法を、以下「本発明の遺伝子増幅方法」と称する。ここで「哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅する」とは、本発明の遺伝子増幅方法を実施することによって目的遺伝子が、宿主細胞である哺乳動物細胞の染色体外のダブルマイニュート染色体(以下、適宜「DM」という)上で増幅すること、および/またはDMの形態、すなわち染色体外で増幅することを意味する。目的遺伝子が、宿主細胞である哺乳動物細胞の染色体外のDM上で増幅、および/またはDMの形態で増幅されたかどうか否かを検出する方法については、特に限定されるものではないが、例えば分裂期の染色体について公知のFISH法(fluorescence in situ hybridization)を行い、哺乳動物細胞へ導入した目的遺伝子を検出することによって判断し得る。上記判断は、当業者であれば容易に行い得る。なおFISH法を実施する際の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。

【0034】
本発明の遺伝子増幅方法は、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクター(すなわち「IR/MARベクター」)、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを、哺乳動物細胞へ同時に導入する遺伝子導入工程を含むことを特徴としている。

【0035】
なお本発明の遺伝子増幅方法には、上記遺伝子導入工程の他に、目的遺伝子とIR/MARベクターとテロメア反復配列とが導入された哺乳動物細胞を選択する工程(以下、「選択工程」という)が含まれていてもよい。当該選択工程は遺伝子導入工程の後に行われる。

【0036】
また上記選択工程によって選択された哺乳動物細胞(すなわち形質転換細胞)を培養する培養工程(以下、「培養工程」という)を、本発明の遺伝子増幅方法と組み合わせることによって、目的遺伝子を大量に発現させることができる。すなわち本発明は、上記培養工程を含むことを特徴とする目的遺伝子の発現方法(以下「本発明の目的遺伝子発現方法」という)をも包含するといえる。

【0037】
また本発明の目的遺伝子発現方法は、上記培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する方法(以下、「精製工程」という)を含んでいてもよい。精製工程が本発明の遺伝子発現方法に含まれることによって、純度の高い目的タンパク質を取得することができる。

【0038】
以下、本発明の遺伝子増幅方法、および本発明の遺伝子発現方法を工程ごとに説明する。なお以下の説明では、本発明の遺伝子増幅方法について「選択工程」を含む態様を説明し、本発明の目的遺伝子発現方法について「精製工程」を含む態様について説明するが、本発明はこれに限定されず、本発明は「選択工程」や「精製工程」が必ずしも含まれていなくてもよい。

【0039】
〔1-1.遺伝子導入工程〕
本発明の遺伝子増幅方法における遺伝子導入工程は、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクター(すなわち「IR/MARベクター」)、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを、哺乳動物細胞へ同時に導入する工程である。

【0040】
IR/MARベクターに含まれる哺乳動物複製開始領域および哺乳動物核マトリックス結合領域は、哺乳動物細胞内で機能する複製開始領域、および哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域であれば特に限定されるものではない。上記哺乳動物複製開始領域としては、例えばc-myc遺伝子座由来、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)遺伝子座由来、β-グロビン遺伝子座由来等の複製開始領域が挙げられる。なおc-myc遺伝子座由来の複製開始領域については、参考文献「McWhinney, C. et al., Nucleic Acids Res. vol. 18, p1233-1242 (1990)」を参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の複製開始領域については、参考文献「Dijkwel, P.A. et al., Mol. Cell. Biol. vol.8, p5398-5409 (1988) 」を参照のこと。またβ-グロビン遺伝子座の複製開始領域については、参考文献「Aladjem, M. et al., Science vol. 281, p1005-1009 (1998) 」を参照のこと。

【0041】
また上記核マトリックス結合領域としては、例えば、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座等の核マトリックス結合領域に由来するポリヌクレオチドが挙げられる。なお、Igκ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、参考文献「Tsutsui, K. et al., J. Biol. Chem. vol. 268, p12886-12894 (1993) 」を参照のこと。またSV40初期領域の核マトリックス結合領域については、参考文献「Pommier, Y. et al., J. Virol., vol 64, p419-423 (1990) 」を参照のこと。またジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域については、参考文献「Shimizu N. et al., Cancer Res. vol. 61, p6987-6990 」を参照のこと。なおIR/MARベクターについては、背景技術の項で挙げた特許文献および非特許文献が参照され得る。

【0042】
IR/MARベクターには、当該ベクターには、大腸菌内でクローニングを行うために必要な配列、薬剤耐性遺伝子(ブラスティサイジン抵抗性遺伝子、ネオマイシン抵抗性遺伝子、ヒグロマイシン抵抗性遺伝子等)または緑色蛍光タンパク質遺伝子等の選択マーカー遺伝子、ヒスチジンタグ等の精製用タグ遺伝子が含まれていてもよい。上記選択マーカーを指標とすることによって、IR/MARベクターが導入された哺乳動物細胞を選択できる。すなわちIR/MARベクターに選択マーカー遺伝子が含まれることによって、後述する選択工程が実施され易くなる。またIR/MARベクターに目的遺伝子が含まれており、かつ目的タンパク質が精製用タグを伴って発現するようにベクターがデザインされている場合には、後述する精製工程が実施され易くなる。

【0043】
また上記テロメア反復配列(単に「テロメア配列」ともいう)を含むポリヌクレオチドは、テロメア反復配列のみからなるポリヌクレオチドであっても、テロメア反復配列にその他の任意のヌクレオチド鎖が連結されてなるポリヌクレオチドであってもよい。なおテロメア反復配列は、染色体末端のテロメアに存在するミニサテライトの一つとして知られており、その配列は種を超えて類似していると言われている。ヒトでは染色体末端に数千塩基対のTTAGGGを繰り返し単位とする反復配列が存在することが知られている。本発明でいうテロメア反復配列は、テロメア反復配列として知られている塩基配列全てを包含する意味であり、その塩基配列は特に限定されるものではない。テロメアの配列は種によって少しずつ異なっており、例えば、ヒト、マウス、ラット等の脊椎動物であればその繰り返し単位は上記したTTAGGGであり、線虫(C. elegans)ではTTAGGC、昆虫のカイコではTTAGG、植物のシロイヌナズナではTTTAGGG、出芽酵母ではTG、TGG、TGGGがランダムに繰り返した配列である。本発明において適用されるテロメア反復配列は、上記した繰り返し単位の塩基配列が複数回反復してなるものであればよい。本発明において適用されるテロメア反復配列は、上記繰り返し単位の塩基配列において、1塩基が置換、欠損または不可された配列であってもよい。そして、その反復回数は本発明の効果(〔発明の効果〕の項を参照のこと)が得られる限りにおいて特に限定されるものではない。上記本発明において採用され得るテロメア反復配列における反復回数は、種々のテロメア反復配列を作製し、これを用いて本発明の効果の有無を確認することで決定され得る。

【0044】
本発明において適用されるテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドのサイズは特に限定されるのではないが、500bp以上10,000bp以下(500bp~10,000bp)の範囲内のものが好ましい。テロメア反復配列を含むポリヌクレオチドのサイズが、上記好ましい範囲内であることによって、テロメア反復配列を含むポリヌクレオチド、目的遺伝子、およびIR/MARベクターの宿主細胞への高い導入効率が得られ、かつ高効率で本発明の効果(哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅する効果)が得られやすくなる。なおテロメア反復配列は既に塩基配列が公知であるため、PCR法や化学合成によって取得可能である。後述する実施例ではPCR法を用いてテロメア配列を含むポリヌクレオチドを取得している。

【0045】
上記「目的遺伝子」とは発現させるべきタンパク質をコードするポリヌクレオチドを意味する。目的遺伝子は、DNAであってもRNAであってもよい。また上記目的遺伝子は、特に限定されるものではなく、所望のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適宜選択の上、採用すればよい。目的遺伝子であるポリヌクレオチドは、その塩基配列情報を元にPCR等の公知の技術を用いて取得すればよい。

【0046】
上記目的遺伝子は、プロモーターに制御可能に連結されていることが好ましい。上記プロモーターは、導入される哺乳動物細胞において機能するものであれば特に限定されるものではなく、転写因子等による所定の操作によって、プロモーターの転写活性が活性化または不活性化されるプロモーター(以下、「転写活性調節型プロモーター」という)であっても、恒常的に転写活性が活性化されている恒常型プロモーターであってもよい。「転写活性調節型プロモーター」は、上記特性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、TREプロモーター(クロンテック社製)、T-REXプロモーター(インビトロジェン社製)等の市販品が本発明にかかる方法において利用可能である。恒常型プロモーターとしては、CMVプロモーター、SV40プロモーター、SRalphaプロモーター、LTRプロモーター、MMTVプロモーター等が利用可能である。

【0047】
本発明の遺伝子増幅方法の遺伝子導入工程においては、IR/MARベクターと、目的遺伝子と、テロメア反復配列を含むポリヌクレオチドとを哺乳動物細胞(「哺乳動物由来細胞」ともいう)へ同時に導入する。哺乳動物細胞は、医薬品等の有用タンパク質の生産に最適であることは周知であり、本発明も医薬品等の有用タンパク質の生産手段として好ましく利用され得るからである。

【0048】
上記哺乳動物細胞としては、特に限定されるものではなく、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220)等の腫瘍細胞や、CHO-K1細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-61、RIKEN RCB0285、RIKEN RCB0403等)等の各種細胞が挙げられる。ただし、上記哺乳動物細胞としては、無限増殖能を有する腫瘍細胞が好ましい場合がある。上記腫瘍細胞としては、例えば、HeLa細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-2、ATCC CCL-2.2、RIKEN RCB0007、RIKEN RCB0191等)、ヒト大腸がんCOLO 320HSR細胞(入手先:例えば、ATCC CCL-220.1)、NS0細胞(入手先:例えば、RIKEN RCB0213)等が挙げられる。なおヒト大腸がんCOLO 320DM細胞については、参考文献「Shimizu, N.et al. Nat. Genet., 12: 65-71, 1996.」を参照のこと。

【0049】
なお、IR/MARベクターと目的遺伝子とテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドとを哺乳動物細胞に導入する際には、全てが同時に哺乳動物細胞へ導入される態様であれば特に限定されるものではなく、例えば、IR/MARベクターと目的遺伝子とテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドとを連結して同一の遺伝子構築物として導入してもよいし、IR/MARベクターと目的遺伝子とテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドとをそれぞれ別々の遺伝子構築物として導入してもよい。またIR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドから任意に選択される2つを連結して同一の遺伝子構築物とし、残りの一つを別の遺伝子構築物として導入してもよい。特にIR/MARベクターと目的遺伝子との関係においては、IR/MARベクターと目的遺伝子とを含むポリヌクレオチドとを連結して同一の遺伝子構築物として宿主細胞へ導入した場合であっても、IR/MARベクターと目的遺伝子とを別々の遺伝子構築物として宿主細胞へ導入した場合であっても、目的遺伝子が高度に増幅し得ることが知られているため、上記のいずれの態様であってもよい。ここでIR/MARベクターと目的遺伝子とを含むポリヌクレオチドとを連結して同一の遺伝子構築物として宿主細胞へ導入することを「IR/MARベクターと目的遺伝子とをシスに配置する」といい、IR/MARベクターと目的遺伝子とを別々の遺伝子構築物として宿主細胞へ導入することを「IR/MARベクターと目的遺伝子とをトランスに配置する」という。「IR/MARベクターと目的遺伝子とをシスに配置する」場合は、導入する遺伝子構築物の数を減らすことができるため、操作が容易であるというメリットがある。一方、「IR/MARベクターと目的遺伝子とをトランスに配置する」場合はそれぞれの遺伝子構築物のサイズを小さくすることができるために、高い遺伝子導入効率が得られるというメリットがある。IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドをそれぞれ別々の遺伝子構築物として哺乳動物細胞へ導入する場合や、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドから任意に選択される2つを連結して同一の遺伝子構築物とし、残りの一つを別の遺伝子構築物として導入する場合において、それぞれの遺伝子構築物の混合比は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限定されるものではなく、当業者が適宜好ましい条件を検討の上、採用し得る事項である。

【0050】
また遺伝子構築物の形態については、プラスミドであってもコスミドであってもよい。またIR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列の哺乳動物細胞への導入方法は、特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法等公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。

【0051】
なおIR/MARベクターと目的遺伝子とをトランスに配置して哺乳動物細胞へ導入する場合には、遺伝子構築物毎に選択マーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。各遺伝子構築物が導入された形質転換細胞を選択することが容易にできるからである。この時、遺伝子構築物毎に含まれる選択マーカー遺伝子が異なっていることが好ましい。

【0052】
〔1-2.選択工程〕
本発明の遺伝子増幅方法における「選択工程」は、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選択する工程である。より詳細には、本工程は、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドのいずれか1つ以上が導入されていない哺乳動物細胞を含む多クローン性集団(ポリクローン集団)から、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選択する工程である。

【0053】
当該選択工程は、薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を利用すれば容易に実施することができる。例えば、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを哺乳動物細胞へ導入する際に用いた遺伝子構築物に薬剤耐性遺伝子が含まれている場合、その薬剤耐性を利用してIR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドが導入された哺乳動物細胞を選抜すればよい。なお、薬剤耐性を指標として選択工程を行う場合には、哺乳動物細胞を培地で培養する工程が含まれる場合があるが、本工程ではIR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドのいずれか一つ以上が導入されていない哺乳動物細胞と、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドの全てが導入されている哺乳動物細胞との混合物を培養するのに対して、後述する培養工程では、IR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドの全てが導入されている哺乳動物細胞として既に選択された細胞を培養する点において、両工程は明らかに相違する。

【0054】
なお、本発明の遺伝子増幅方法における選抜工程は、PCR法やサザンブロット法によって、哺乳動物細胞に含まれるIR/MARベクター、目的遺伝子、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドのヌクレオチド鎖を検出することによっても行われ得る。また上記薬剤耐性を指標とした方法、PCR法を用いた方法、サザンブロット法を用いた方法の具体的な方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が適宜利用され得る。

【0055】
〔1-3.培養工程〕
本発明の目的遺伝子発現方法における「培養工程」は、上記選択工程によって既に選択された哺乳動物細胞(すなわち「形質転換細胞」)を培養する工程である。かかる培養工程によって、哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子が増幅されている形質転換細胞を増殖させることができ、所定の操作(転写誘導操作等)によって、目的遺伝子を大量に発現させることによって、目的タンパク質を大量に生産することができる。本発明は、哺乳動物細胞の染色体外で目的遺伝子を増幅するための方法に関する。

【0056】
上記培養工程の具体的方法は特に限定されるものではなく、培養する哺乳動物細胞に最適な条件を検討の上、適宜採用すればよい。

【0057】
特に、培養工程を行う際に用いられる培地に、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか一つ以上を含ませることによって、目的遺伝子の発現量をさらに向上させることが可能であることを本発明者らは既に見出している(特許文献9を参照)。よって、形質転換細胞を培養することによって目的遺伝子をさらに高発現させるためには、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか一つ以上を培地に含ませることが好ましいといえる。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はヒストンのアセチル化レベルを上昇させることにより、またDNAメチル化阻害剤はDNAメチル化レベルを低下させることにより、目的遺伝子が受けているエピジェネティックな発現抑制を解除することにより、目的遺伝子を高発現させることができる。

【0058】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤は、特に限定されるものではないが、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としては、butyrate、Trichostatin A(TSA)、MS-275、Oxamflatin、DMSOなどが挙げられ、DNAメチル化阻害剤としては、5-aza-2’-deoxycytidine、5-aza-2’-cytidineなどが挙げられる。

【0059】
上記各阻害剤の培地への添加量については、培養される形質転換細胞の増殖に影響を与えない範囲内で、目的遺伝子の発現量が向上する添加量を検討の上、採用すればよい。

【0060】
〔1-4.精製工程〕
本発明における「精製工程」は、上記培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する方法である。

【0061】
本精製工程におけるタンパク質精製の具体的方法としては、例えば、哺乳動物細胞をPBS(Phosphate Buffered Saline)等の緩衝溶液に懸濁した後、ホモジェナイザーまたは超音波等で細胞を破砕し、遠心分離をして上清を回収する。上記緩衝溶液には、タンパク質の可溶化を促進するための界面活性剤や、タンパク質の立体構造を安定化するための還元剤、タンパク質の分解を防止するためのプロテアーゼインヒビターを適宜添加することもできる。上記界面活性剤としては、CHAPS(3-[(3-cholamidopropyl)-dimethylammonio-1-propanesulfonate]、Triton X-100、Nikkol、n—オクチルグリコシド等を利用することができる。また、上記還元剤としては、DTT(dithiothreitol)、DET(dithioerythritol)等を利用することができる。また、上記プロテアーゼインヒビターとしては、アプロチニンや、ロイペプチンを利用することができる。

【0062】
上記上清から、目的タンパク質をアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ろ過クロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーを用いて、精製することができる。また、精製されたタンパク質溶液を適当な緩衝液に透析することで不要な塩を除去することもできる。上記のタンパク質の精製工程は、タンパク質の分解を抑えるために低温条件下で行われることが好ましい。特に4℃下で精製工程が行われることが好ましい。なお、上記精製工程の具体的方法は、この限りではなく、公知の方法を適宜利用され得る。

【0063】
<2.本発明のキット>
本発明は、上記で説示した本発明の遺伝子増幅方法を実施するためのキット(「本発明のキット」という)をも包含する。本発明のキットは、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクター(IR/MARベクター)、およびテロメア反復配列を含むポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。

【0064】
本発明のキットの構成に関する説明については、<1.本発明の遺伝子増幅方法>の項における説明が援用され得る。本発明のキットは、本発明の遺伝子増幅方法を実施し得るものであれば、上記構成に限定されるものではなく、その他の構成を含んでいてもよい。例えば、形質転換を行うために必要な緩衝液、目的遺伝子をベクターに挿入するための制限酵素、バイアル、チューブ類等が本発明のキットに含まれ得る。なお、本発明のキットにヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチル化阻害剤のいずれか1つ以上をさらに含むことによって、遺伝子の発現量をさらに高発現させることができる目的遺伝子発現キットを構築することができる。

【0065】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0066】
<実験1>
〔方法〕
テロメア反復配列からなる2本鎖DNAは、図1に概略した方法により調製された。すなわち、5’-TTAGGG-3’が4回反復した24merの1本鎖DNAと、5’-CCCTAA-3’が4回反復した24merの1本鎖DNAをそれぞれ化学合成して混合した。上記2種類の1本鎖DNAをプライマーおよび鋳型としてPCR反応を行うことによって、鎖長分布が約500bp~約10,000bpで平均鎖長が約1200bpである2本鎖DNA(テロメア反復配列からなる2本鎖DNA)を調製した。なお、上記繰り返し単位TTAGGGは、ヒト、マウス、ラット等の脊椎動物由来のテロメア反復配列における繰り返し単位である。
【実施例】
【0067】
一方、IR/MARベクターであるpΔBM.AR1-d2EGFPの構造を図2に示す。このプラスミドは、以下に記載した方法により構築された。まず、pΔB.AR1をBam HI/MluIで切断してHyg遺伝子領域を除き、その切断部位に、Asc I、Asis I切断部位を有するMCS(multiple cloning site)を挿入したプラスミド(pΔBM.AR1-MCS)を構築した。次に、pΔBM.AR1-MCSをAsc IおよびAsis Iで切断し、その部位にd2EGFP遺伝子発現カセットを挿入することにより、pΔBM.AR1-d2EGFPを構築した。なお、比較用のプラスミドとして、IRおよびMARを持たないプラスミド(pSFV-V)が用いられた。pΔB.AR1は特許文献5(特開2006-320332号公報)に、pSFV-Vプラスミドは、参考文献:N. Shimizu et al., Cancer Research (2003) に記載されている。
【実施例】
【0068】
テロメア反復配列からなる平均1200bpのDNAと、pΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドDNAとを混合比を変えて混合し、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞、またはチャイニーズハムスターCHO-K1細胞に、リポフェクション法により導入した。プラスミドがBlasticidin抵抗性遺伝子を持つことを利用して、10 μg/ml Blasticidin存在下で約一ヶ月培養することにより、安定な形質転換体のポリクローン集団を得た。ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞の培養にはRPMI1640培地(日水製薬社製)を用い、チャイニーズハムスターCHO-K1細胞の培養にはハムF12培地(日水製薬社製)を用いた(以下同じ)。
【実施例】
【0069】
COLO 320DM細胞から得られたポリクローン集団から分裂中期染色体標本を調製し、導入したプラスミドDNAから調製したプローブを用いてFISH(fluorescence in situ hybridization)法を行うことにより、導入されたプラスミドの塩基配列を検出した。
【実施例】
【0070】
〔結果〕
テロメア反復配列からなるDNA(便宜上「テロメアDNA」という)と、pΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドDNAとを混合比を変えてヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入した各種ポリクローン集団について、FISH法を行い、各種ポリクローン集団に含まれる各種遺伝子増幅形態(HSR、DM)の頻度を比較した結果を示す。
【実施例】
【0071】
図3中、「none」は導入されたDNAが増幅されなかったクローンの割合、「HSR」は導入された遺伝子がHSRの形態で遺伝子増幅が起こったクローンの割合、「DM」は導入された遺伝子がDMの形態で遺伝子増幅が起こったクローンの割合をそれぞれ示す。また図3中、「pΔBM.AR1-d2EGFP」はpΔBM.AR1-d2EGFPのみをヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入したポリクローン集団(比較例1)の結果、「pΔBM.AR1-d2EGFP & telomere 0.3μg」はpΔBM.AR1-d2EGFP 1.0μgに対してテロメアDNA 0.3μgを混合したものをヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入したポリクローン集団の結果(実施例1)、「pΔBM.AR1-d2EGFP & telomere 1.0μg」はpΔBM.AR1-d2EGFP 1.0μgに対してテロメアDNA 1.0μgを混合したものをヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入したポリクローン集団の結果(実施例2)、「pSFV-V & telomere 1.0μg」はIRおよびMARを含まないプラスミドであるpSFV-V 1.0μgに対してテロメアDNA 1.0μgを混合したものをヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入したポリクローン集団(比較例2)の結果を示す。
【実施例】
【0072】
図3によれば、pΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドDNAを単独でヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入した場合、プラスミドの塩基配列は効率よくHSRまたはDMの形態で増幅していたことが確認された。一方、テロメアDNAを、pΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドと同時に導入すると、HSRの形成は著しく抑制され、代わりにDMの形態で増幅した細胞が増加した(実施例1および2)。なお、IR/MARベクターでないpSFV-Vを単独でヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入した場合については、ほとんど遺伝子増幅が起こらなかった(比較例2)。
【実施例】
【0073】
<実験2>
〔方法〕
比較例1、実施例1および2で得られたポリクローン集団について、フローサイトメーターによりd2EGFPの発現を検討した。d2EGFPはdecay 2 enhanced green fluorescence proteinであり、細胞内半減期の極めて短い緑色蛍光タンパク質をコードしている。この遺伝子はpΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドが有するため、細胞の緑色蛍光を測定することにより、その時点での細胞ごとのタンパク質生産量を測定できる。
【実施例】
【0074】
〔結果〕
その結果を図4に示す。図4(a)は比較例1、実施例1および2についてd2EGFPの発現量を測定した結果を示し、(b)は比較例1についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(c)は実施例1についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(d)実施例2についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示す。
【実施例】
【0075】
図4に示されるように、d2EGFPの発現量は、テロメアDNAとpΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドと同時導入することにより大きく増加した(実施例1は比較例1の13.4倍。実施例2は比較例1の4.7倍。)。
【実施例】
【0076】
<実験3>
〔方法〕
pΔBM.AR1-d2EGFP 1.0μgに対して実験1で調製したテロメアDNA 1.0μgを混合したものをチャイニーズハムスターCHO-K1細胞に、リポフェクション法により導入した。プラスミドがBlasticidin抵抗性遺伝子を持つことを利用して、10 μg/ml Blasticidin存在下で約一ヶ月培養することにより、安定な形質転換体のポリクローン集団を得た(実施例3)。比較として、IRおよびMARを含まないプラスミドであるpSFV-Vを上記と同様にチャイニーズハムスターCHO-K1細胞に導入して得られた、ポリクローン集団を得た(比較例3)。またpΔBM.AR1-d2EGFPのみを上記と同様にチャイニーズハムスターCHO-K1細胞に導入して得られた、ポリクローン集団を得た(比較例4)。
【実施例】
【0077】
比較例3、比較例4、および実施例3で得られた各種ポリクローン集団について、実験2と同様にフローサイトメーターによりd2EGFPの発現を検討した。
【実施例】
【0078】
〔結果〕
その結果を図5に示す。図5(a)は比較例3、比較例4、および実施例3についてd2EGFPの発現量を測定した結果を示し、(b)は比較例3についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(c)は比較例4についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示し、(d)実施例3についてフローサイトメーターによりd2EGFPの蛍光強度を測定した結果を示す。
【実施例】
【0079】
図5に示されるように、宿主細胞としてCHO-K1細胞を用いた場合であっても、d2EGFPの発現量は、テロメアDNAとpΔBM.AR1-d2EGFPプラスミドと同時導入することにより大きく増加するということが確認された(実施例3は比較例3の608.0倍であり、比較例4の6.7倍であった。)。
【実施例】
【0080】
<実験4>
〔方法〕
線虫(C. elegans)由来のテロメア反復配列の繰り返し単位TTAGGCを持つテロメアDNAは、図1に概略した方法に準じて調製された。すなわち、5’-TTAGGC-3’が4回反復した24merの1本鎖DNAと、5’-GCCTAA-3’が4回反復した24merの1本鎖DNAをそれぞれ化学合成して混合した。上記2種類の1本鎖DNAをプライマーおよび鋳型としてPCR反応を行うことによって、鎖長分布が約500bp~約10,000bpで平均鎖長が約1200bpである2本鎖DNA(テロメア反復配列からなる2本鎖DNA)を調製した。線虫(C. elegans)由来のテロメア反復配列の繰り返し単位と、実験1で調製したヒト、マウス、ラット等の脊椎動物由来のテロメア反復配列の繰り返し単位とは、互いに1塩基置換の関係にある。
【実施例】
【0081】
上記で調製した線虫由来のテロメアDNA1.0μgと、pΔBM.AR1-d2EGFP2.0μgとを混合し、ヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に、リポフェクション法により導入した。プラスミドがBlasticidin抵抗性遺伝子を持つことを利用して、10 μg/ml Blasticidin存在下で約一ヶ月培養することにより、安定な形質転換体のポリクローン集団を得た(実施例4)。
【実施例】
【0082】
またpΔBM.AR1-d2EGFP 2.0μgのみを上記と同様にヒト大腸がんCOLO 320DM細胞に導入して得られた、ポリクローン集団を得た(比較例5)。
【実施例】
【0083】
実施例4および比較例5で得られた各種ポリクローン集団(対数増殖期の細胞)について、実験2と同様にフローサイトメーターによりd2EGFPの発現を検討した。
【実施例】
【0084】
〔結果〕
図6に比較例5および実施例4についてd2EGFPの発現量を測定した結果を示す。
【実施例】
【0085】
図6に示されるように、線虫由来のテロメアDNAとIR/MARベクターであるpΔBM.AR1-d2EGFPとを同時導入することによっても、d2EGFPの発現量は大きく増加するということが確認された(実施例4は比較例5の約3倍であった。)。
【実施例】
【0086】
この結果は、実験1-3で用いた脊椎動物由来のテロメア配列以外のテロメア配列であっても本発明に利用可能であるということを示している。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上記説示したように、本発明によれば、高効率で目的遺伝子を哺乳動物細胞においてDMの形態で増幅させることができるため、目的遺伝子の増幅に伴い、目的遺伝子からの目的タンパク質の発現量も増加するというメリットを享受できる。
【0088】
したがって、従来の高度遺伝子増幅系をさらに改良した、目的タンパク質の大量生産系を樹立することが可能である。それゆえ、目的タンパク質(例えば、医薬として有用タンパク質)を従来法より大量に生産することが可能になるという効果を奏する。
【0089】
したがって本発明は、タンパク質の生産を伴う産業、例えば、医薬品、化学、食品、化粧品、繊維等種々広範な産業において利用可能である。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図1】
5