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明細書 :精神疾患の検査方法および精神疾患用の検査キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5828407号 (P5828407)
登録日 平成27年10月30日(2015.10.30)
発行日 平成27年12月2日(2015.12.2)
発明の名称または考案の名称 精神疾患の検査方法および精神疾患用の検査キット
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 20
出願番号 特願2012-527674 (P2012-527674)
出願日 平成23年7月26日(2011.7.26)
国際出願番号 PCT/JP2011/067004
国際公開番号 WO2012/017867
国際公開日 平成24年2月9日(2012.2.9)
優先権出願番号 2010175748
優先日 平成22年8月4日(2010.8.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年6月27日(2014.6.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】森信 繁
【氏名】淵上 学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
審査官 【審査官】松原 寛子
参考文献・文献 特開2010-063413(JP,A)
特開2009-254357(JP,A)
MORINOBU Shigeru,Epigenetic regulation of the BDNF gene and the pathophysiology of depression,日本臨床精神神経薬理学会・日本神経精神薬理学会合同年会プログラム・抄録集,2009年,Vol.19th-39th,p.104,AS-1-4
森信繁,難治性うつ病の治療反応性予測と客観的診断法に関する生物学的研究,難治性うつ病の治療反応性予測と客観的診断法に関する生物・心理・社会的統合研究 平成18年度 総括・分担研,2007年,p.21-24
新井恵吏他,肝癌でのDNAメチル化異常,分子消化器病,2008年,Vol.5,p.370-375
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76およびCpG_8,9ユニットの全てのCpGユニットのメチル化状態を検出する検出工程と、
うつ病の個体、統合失調症の個体および健常の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける前記全てのCpGユニットのメチル化状態のクラスタリング解析から得られ、うつ病群と統合失調症群と健常群とに分かれる樹形図を指標として、前記被験体から採取した試料の前記全てのCpGユニットのメチル化状態から、前記被験体がうつ病、統合失調症および健常のいずれであるかを検査する検査工程と、
を含むことを特徴とする精神疾患の検査方法。
【請求項2】
前記試料は、動物から採取した生体試料であることを特徴とする請求項1に記載の精神疾患の検査方法。
【請求項3】
前記試料は、ヒトから採取した末梢血であることを特徴とする請求項1に記載の精神疾患の検査方法。
【請求項4】
前記CpGアイランドは、配列番号1に記載の塩基配列を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の精神疾患の検査方法。
【請求項5】
被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76およびCpG_8,9ユニットの全てのCpGユニットのメチル化状態検出用の、配列番号2および配列番号3、配列番号4および配列番号5、配列番号6および配列番号7、ならびに、配列番号8および配列番号9の全てのプライマーセットを含み、
前記被験体がうつ病、統合失調症および健常のいずれであるかを検査することを特徴とする精神疾患用の検査キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、CpGアイランドのメチル化状態に基づく精神疾患の検査方法、精神疾患用の検査キット、ならびに精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WHO(World Health Organization)の疫学調査において、精神疾患は高い有病率を呈する。特に、うつ病および統合失調症は、有病率が高く、かつ日常生活上において中程度から重症の障害をもたらす疾患群である。
【0003】
現在、このような精神疾患の診断において、公的な統計学的診断基準はAPA(アメリカ精神医学会)によるthe fourth edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM-IV)に依っている。この基準は、主観的な症状の陳述、観察、罹病期間、症状変化の時間経過、および臨床医の印象等から判断することが多い。
【0004】
このような主観的な診断では客観性に欠けるため、精神疾患は多様性に富み、正確な疫学調査や治療法の標準化、ならびに新薬の開発等が進みにくい。そこで、精神疾患の生物学的指標の必要性が久しく提唱されている。例えば、特許文献1には、多数の遺伝子の発現パターン(発現レベル)に基づく、生物学的な特徴に立脚した新たな精神疾患の診断方法、ならびに精神疾患を予防または治療し得る新たな物質を探索する方法が記載されている。また、特許文献2には、被験者の試料から採取される、特定の種々のタンパク質、核酸またはその断片の定量値を以て精神病性障害に罹患しているか否かを判断する方法が記載されている。これら種々のタンパク質、核酸またはその断片のうちの一つには、BDNF遺伝子に係る発現量についても記載されている。その他にも、特許文献3には、種々の遺伝子のSNPs解析から、躁うつ疾患の予測およびかかり易さの判定が可能であると記載されており、当該遺伝子の一つにもBDNF遺伝子が含まれている。
【0005】
一方、このような精神疾患の分野以外で、癌や生活習慣病等の多要因が関与して発症する疾患群に対して、エピジェネティクス(後天的な修飾により遺伝子発現が制御されることに起因する、遺伝学または分子生物学の分野)の観点からの発病マーカーや治療効果の判定が近年注目されてきている。例えば、特許文献4には、BDNF遺伝子の上流のCpGアイランドのメチル化状態によって、大腸癌の病態を判断する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2009-112266号公報
【特許文献2】特開2001-245661号公報
【特許文献3】国際公開第2010/039526号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0053706号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、精神疾患の診断・治療において、臨床医の主観の判断によると、治療法の標準化、ならびに新薬の開発等が進みにくい。そこで、特許文献1ないし特許文献3に記載されている、BDNF遺伝子を含む多数の遺伝子等の発現レベルまたはSNPs解析に基づいた精神疾患の判定方法での診断、治療では、客観的な判断が可能となる。
【0008】
しかし、当該多数の遺伝子または多数の遺伝子のSNPs解析のうち、一部の遺伝子のみで発現レベルの変動が確認された場合、または、一部の遺伝子のSNPs解析において該当する場合、完全な客観的判断のみで診断することができず、臨床医の主観の判断にも依らざるを得ない。さらに、これら多数の遺伝子の発現量の定量または多数のSNPs解析での判断は、大きな労力を要する。そこで、精神疾患に対し、より容易な、例えば網羅的な遺伝子発現や多数のSNPs解析と比較し、一つの遺伝子を対象とした手法において判定可能である新たな客観的判断基準の発見が望まれる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一つの遺伝子を対象とした手法での生物学的指標に基づいた客観的判断基準による、精神疾患の検査方法、精神疾患用の検査キット、ならびに精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する為、本発明者らはBDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor)遺伝子のCpGアイランドにおけるDNAメチル化(エピジェネティクス)に着目した。BDNFは、神経栄養因子群の一つで、主に中枢神経で発見されている。また、記憶・学習、神経発達、神経新生等の脳機能に深く関与し、さらには、ストレスによる海馬の神経可塑性、うつ病の原因に深く関与していることもわかっている。
【0011】
BDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドのメチル化は、身体的ならびに病理学的コンディションでのBDNF遺伝子の制御に関連していることが提唱されている(Chen WG, Chang Q, Lin Y, et al., Science 302, 885-889, 2003、およびYasuda S, Liang MH, Marinova Z, Yahyavi A, Chuang DM, Mol Psychiatry 14, 51-59, 2009参照)。さらに、近位プロモーター活性の観点から、エクソンIも転写において重要であると考えられている(Sengupta PK, Smith BD, Biochim Biophys Acta 1443, 75-89, 1998およびDelgado MD, Leon J, Clin Transl Oncol 8, 780-787, 2006参照)。
【0012】
しかし、BDNF遺伝子のエクソンIまたはエクソンIV上流のCpGアイランドのメチル化と、うつ病や統合失調症等の精神疾患との関連性については、未だ明確には解明されていない。
【0013】
そこで、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ヒト(homo sapiens)のBDNF遺伝子のエクソンIおよびエクソンIV上流のCpGアイランドのメチル化について、当該エクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化のみが、階層的クラスタリングによって、健常者、うつ病患者および統合失調症患者の三つに分類できることが解明された。
【0014】
本発明の第1の態様に係る精神疾患の検査方法は、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を検出する検出工程と、
前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態と比較して、前記被験体が精神疾患か否かを検査する検査工程と、
を含むことを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記精神疾患は、うつ病および/または統合失調症であることを特徴とする。
【0016】
より好ましくは、前記検査工程は、前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態のクラスタリング解析から得られ、精神疾患群と非精神疾患群とに分かれる樹形図を指標として、前記被験体が精神疾患か否かを検査する工程であることを特徴とする。
【0017】
また、好ましくは、前記検査工程は、前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76またはCpG_8,9ユニットの少なくとも一つのCpGユニットのメチル化状態と比較して、前記被験体が精神疾患か否かを検査する工程であることを特徴とする。
【0018】
さらに好ましくは、前記試料は、動物から採取した生体試料であることを特徴とする。
【0019】
好ましくは、前記試料は、ヒトから採取した末梢血であることを特徴とする。
【0020】
最も好ましくは、前記CpGアイランドは、配列番号1に記載の塩基配列を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の態様に係る精神疾患用の検査キットは、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態検出用の、配列番号2および配列番号3、配列番号4および配列番号5、配列番号6および配列番号7、または、配列番号8および配列番号9のうち少なくとも一つのプライマーセットを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の第3の態様に係る精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法は、被験化合物の非存在下および存在下において、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を検出する検出工程と、
精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を指標として、前記被験化合物の非存在下における前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態と前記被験化合物の存在下における前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態とを比較して、前記被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価する評価工程と、
を含むことを特徴とする。
【0023】
好ましくは、前記精神疾患は、うつ病および/または統合失調症であることを特徴とする。
【0024】
より好ましくは、前記評価工程は、前記被験化合物の非存在下および存在下における前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態のクラスタリング解析から得られ、精神疾患群と非精神疾患群とに分かれる樹形図を指標として、前記被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価する工程であることを特徴とする。
【0025】
さらに好ましくは、前記評価工程は、前記被験化合物の非存在下および存在下における前記被験体から採取した試料の前記メチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76またはCpG_8,9ユニットの少なくとも一つのCpGユニットのメチル化状態と比較して、前記被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価する工程であることを特徴とする。
【0026】
最も好ましくは、前記CpGアイランドは、配列番号1に記載の塩基配列を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の第1の態様に係る精神疾患の検査方法および第2の態様に係る精神疾患用の検査キットによれば、一つの遺伝子を対象とした手法での生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、被験体が精神疾患か否かを検査することができる。本発明の第3の態様に係る精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法によれば、一つの遺伝子を対象とした手法での生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例に係る被験者の統計を示す図である。
【図2】実施例に係るBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるPCRでの増幅領域を示す図である。
【図3】エクソンI上流のCpGアイランドにおけるCpGサイトのEpiTYPER解析の結果の一例、およびPCR増幅領域を示す図である。
【図4】実施例に係るBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるCpGユニットのメチル化のデータを示す図である。
【図5】実施例に係るBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるCpGユニットのメチル化の階層的クラスタリング結果を示す図である。
【図6】比較例に係るBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるPCRでの増幅領域を示す図である。
【図7】比較例に係るBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるCpGユニットのメチル化のデータを示す図である。
【図8】比較例に係るBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるCpGユニットのメチル化の階層的クラスタリング結果を示す図である。
【図9】健常者、うつ病患者および統合失調症患者におけるCpGユニットの一元配置分散分析のデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本明細書において「含む」または「含有する」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。なお、ヒト(homo sapiens)の「BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor)」のゲノム配列は、GenBankにおいて、アクセッション番号NG_011794に登録されている。

【0030】
(精神疾患の検査方法)
本発明の実施の形態1は精神疾患の検査方法に関する。具体的には、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を検出する検出工程、ならびに、当該試料のメチル化状態と、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を比較して、被験体が精神疾患か否かを検査する検査工程を含む。

【0031】
本明細書において「精神疾患」とは、脳または心の機能的、器質的障害によって引き起こされる疾患を意味する。例えば、うつ病、統合失調症、双極性気分障害、感情障害、または、発達障害(自閉症、アスペルガー症候群もしくは注意欠陥多動性障害等)等を挙げることができる。このうち、最も好ましくは、うつ病および/または統合失調症を意味する。「非精神疾患」とは、これら精神疾患のいずれの疾患、症状にも該当していない状態、状況を意味する。個体がヒトである場合、非精神疾患の個体とは、主に健常者を意味する。

【0032】
本明細書において「被験体」とは、検査対象となる生物、特に動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコまたはイヌ等の哺乳動物)を意味する。「個体」とは、これら「被験体」と対応する、検査対象でない生物、特に動物を意味する。また、「試料」とは、被験体(個体)から採取でき、かつBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化を検出することができ、当業者が一般的に利用しうる任意の対象試料を意味する。例えば、in vivoまたはin vitroでのDNAを有する生体試料(組織、細胞または液体成分等)が挙げられる。最も好ましくは、被験体(個体)から採取した試料とはヒトから採取した末梢血である。

【0033】
被験体(個体)から試料を採取するには、上述した「被験体(個体)」および「試料」に適宜合った任意の方法において採取することが可能である。例えば、ヒトの末梢血を採取する場合には、注射器等により静脈から5ml程度の末梢血を採取すればよい。

【0034】
本明細書において「CpGアイランド」とは、当業者が一般的な意味で使用する、シトシン(C)とグアニン(G)の含量が多く、哺乳類の遺伝子のプロモーターの40%近く(ヒトの遺伝子のプロモーターの約70%)を占めるDNAの領域を意味する。このようなCpGアイランドの条件については、当業者が一般的に使用する条件であればどのような条件でも構わない。例えば、UCSC genome browser(http://genome.ucsc.edu/)のCpGアイランドの基準である、%GC>50、length>200bpかつObs/Exp CpG>0.6の条件を挙げることができる。

【0035】
そこで、本明細書において「BDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランド」とは、最も好ましくは、配列番号1に示す塩基配列を有する、ヒトの第11番染色体の27743473番目から27744564番目のゲノムDNAの領域を意味する。好ましくは、ヒトの当該領域付近のCpGアイランドに該当する領域のことを意味する。ヒト以外のBDNF遺伝子を有する生物については、当該生物において同様の領域に該当する場所を意味する。

【0036】
さらに、本明細書において「CpGアイランドの(CpGアイランドにおける)メチル化状態」とは、当該CpGアイランドの領域内におけるCpGユニット(一つのCpGサイトを含むもの、もしくは、連続しているCpGサイトの集合であるもの)のメチル化の状況、パターンを意味する。

【0037】
例えば、塩基特異的切断反応と、MALDI-TOF MS(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time Of Flight Mass Spectrometry)とを組み合わせた定量的DNAメチル化解析であるマスアレイ法(特に、MassARRAY(登録商標)system(SEQUENOM社製、特表2002-507883号公報参照))によって検出され、当該CpGアイランド内の個々のCpGユニットのメチル化比率を定量し作成される、メチル化プロファイルを意味する。

【0038】
実施の形態1では、まず、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を検出する。CpGアイランドにおけるメチル化状態の検出手段としては、当該技術分野において公知である任意の手段を用いることができる。例えば、前述したマスアレイ法、Methylation-specific PCR(polymerase chain reaction)法、Methylight(Methylation-specific real-time PCR)法、バイサルファイトシーケンス(Bisulfite sequencing)法、メチレーションチップ法、または、COBRA(Combined Bisulfite Restriction Analysis)法等を挙げることができる。

【0039】
次に、これらの手段により検出された当該被験体の試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態と、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料の当該CpGアイランドにおけるメチル化状態とを比較し、被験体が精神疾患か否かを検査する。

【0040】
具体的には、例えば、予め複数の精神疾患患者および健常者のメチル化状態のデータを収集しておき、当該平均データと比較することによって被験体が精神疾患か否かを検査することができる。さらには、例えば、複数種の精神疾患毎の患者の平均データと比較し、いずれの疾患に該当するか検査してもよい。好ましくは、健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者の平均データと比較することにより、被験体(対象者)がいずれに該当するかを検査する。または、平均データでなくとも、多変量解析を用いることにより、いずれに該当するか検査することも可能である。

【0041】
最も好ましくは、当該試料のメチル化状態と、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態のクラスタリング解析の結果を指標として、被験体が精神疾患か否かを検査する。例えば、具体的な方法としては、まず、予め複数の健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者のサンプルのメチル化状態のデータを収集しておく。次に、それぞれのCpGユニットおよびメチル化状態に基づいて、統計ソフト等を用いたクラスタリング(好ましくは完全連結法の階層的クラスタリング)解析を行い、三つ(健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者)に分類したデンドログラム(樹形図)が作成されることを確認する。これを用い、対象試料(一つまたは複数)のメチル化状態がいずれに属するのか判断、処理またはこれらと共に再度クラスタリング解析を行うことによって検査を行う。

【0042】
また、一部のCpGユニットのみに限定しても、ある程度の検査は可能である(実施例参照)。具体的には、被験体から採取した試料のメチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76またはCpG_8,9ユニットの少なくとも一つ、好ましくはより多く、最も好ましくはこれらのCpGユニット全てのメチル化状態と比較し、被験体が精神疾患か否かを検査する。

【0043】
このように本実施の形態1に係る精神疾患の検査方法によれば、一つの遺伝子を対象とした手法での生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、被験体が精神疾患か否かを検査することができる。すなわち、臨床医等の主観的な判断によらずに精神疾患か否かを検査できるため、より正確に検査を行うことが可能となる。

【0044】
特に、試料をヒト(他の実験動物等でもよい)の末梢血として検査、すなわち診断を行う場合には、生きているヒトに対し苦痛を伴わずに精神疾患の診断を行うことができるため、さらに有利な効果を奏する。前述したような、健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者等のメチル化状態のデータ収集の際においても好適である。

【0045】
(精神疾患用の検査キット)
本発明の実施の形態2は、実施の形態1に係る精神疾患の検査方法において使用する、精神疾患用の検査キットに関する。具体的には、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化検出用の少なくとも一つのプライマーセットを含むことを特徴とする。すなわち、本発明の実施の形態2に係る精神疾患用の検査キットは、実施の形態1で述べたメチル化状態の検出手段のうち、PCRの工程を含むメチル化状態の検出手段での検査方法において使用する。好ましくは、当該精神疾患用の検査キットは、うつ病用の検査キットおよび/または統合失調症用の検査キットである。

【0046】
メチル化検出用のプライマーセットは、当該BDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランド内の領域(好ましくは、ヒトの第11番染色体の27743473番目から27744564番目のゲノムDNAの領域(配列番号1))のメチル化状態を検出するために用いるフォワードおよびリバースプライマーのセットのことである。プライマーは、鋳型との特異的な結合が可能となるような適当な塩基数、例えば、数十bp、10~30bp程度を有することが好ましい。例えば、マスアレイ法によってメチル化状態を検出する場合のPCRの際に使用する、200~600bp毎をターゲット領域としたフォワードおよびリバースプライマーのセットが挙げられる。

【0047】
なお、当該プライマーセットの塩基配列については、当業者であれば公知のメチル化検出用プライマー設計ソフトを使用することで容易に設計可能である。当該プライマーセットの塩基配列の一例については実施例を参照されたい。このようなプライマーセットは、少なくとも一つ含んでいればよく、実施例で述べるように四つのプライマーセットを含んでいても構わない。例えば、配列番号2および配列番号3の塩基配列のフォワードおよびリバースプライマー、配列番号4および配列番号5の塩基配列のフォワードおよびリバースプライマー、配列番号6および配列番号7の塩基配列のフォワードおよびリバースプライマー、または、配列番号8および配列番号9の塩基配列のフォワードおよびリバースプライマーのうち少なくとも一つのプライマーセットを挙げることができる。プライマーの塩基配列についても、それぞれのセットのプライマーとして機能することができれば、配列番号2ないし配列番号9の塩基配列を含有している配列であればよい。

【0048】
その他、各メチル化状態の検出手段に合わせた、各種試薬、酵素、緩衝液、反応器材および/または説明書等が含まれても構わない。例えば、マスアレイ法の場合、試料を溶解するための溶解液および/または重亜硫酸塩含有試薬等を含んでも構わない。

【0049】
このように本実施の形態2に係る精神疾患用の検査キットによれば、PCRの工程を含むメチル化状態の検出手段での精神疾患の検査を、より簡便に行うことができる。また、実施の形態1に係る精神疾患の検査方法と同様に、生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、被験体が精神疾患か否かを検査することができる。すなわち、臨床医等の主観的な判断によらずに精神疾患か否かを検査できるため、より正確に検査を行うことが可能となる。

【0050】
(精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法)
本発明の実施の形態3は、精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法に関する。具体的には、被験化合物の非存在下および存在下において、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を検出する検出工程、ならびに、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を指標として、被験化合物非存在下の試料のメチル化状態と被験化合物存在下の試料のメチル化状態を比較し、被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価する評価工程を含む。

【0051】
本明細書において「被験化合物」とは、精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かの評価(精神疾患治療剤および/または予防剤のスクリーニングも含む)の対象となりうる、あらゆる物質を意味する。例えば、低分子化合物、核酸またはポリペプチド等が挙げられる。低分子化合物、核酸またはポリペプチド等は、天然物から抽出および精製されたものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、精製されたものに限らず、未精製のものでも被験化合物として使用することができる。また、新規な物質に限らず、公知の物質またはその改良物であってもよい。例えば、既存の治療薬もしくは予防薬またはその誘導体につき、評価をすることも可能である。

【0052】
まず、被験化合物の非存在下および存在下において、被験体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を検出する。試料の採取、およびメチル化状態の検出手段等については、前述した実施の形態1と同様である。

【0053】
具体的には、例えば、まず精神疾患である動物の末梢血のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態を、マスアレイ法等の手段にて予め検出しておく。その後、当該動物に被験化合物を経口投与または静脈内投与等を行い、同様に末梢血の当該CpGアイランドにおけるメチル化状態をマスアレイ法等の手段にて検出する。

【0054】
次に、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した当該CpGアイランドにおけるメチル化状態を指標とし、このように検出した被験化合物の非存在下および存在下における試料のメチル化状態を比較する。その結果から、被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価する。

【0055】
具体的には、例えば、予め複数の精神疾患患者および健常者のメチル化状態のデータを収集しておき、当該平均データ等を指標とし、被験化合物の投与前後の試料のメチル化状態を比較する。これにより、被験化合物が精神疾患の治療剤および/または予防剤となるか否かを評価することができる。好ましくは、精神疾患治療剤および/または予防剤は、うつ病治療剤、うつ病予防剤、統合失調症治療剤および/または統合失調症予防剤である。なお、平均データでなくとも、多変量解析により評価を行うことも可能である。

【0056】
最も好ましくは、被験化合物の非存在下および存在下における当該試料のメチル化状態と、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態とのクラスタリング解析の結果を指標として、被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価する。例えば、具体的な方法としては、まず、予め複数の健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者のサンプルのメチル化状態のデータを収集しておく。次に、それぞれのCpGユニットおよびメチル化状態に基づいて、統計ソフト等を用いたクラスタリング(好ましくは完全連結法の階層的クラスタリング)解析を行い、三つ(健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者)に分類したデンドログラム(樹形図)が作成されることを確認する。これを用い、被験化合物の投与前後の試料のメチル化状態がいずれに属するのか判断、処理またはこれらと共に再度クラスタリング解析を行うことによって評価する。

【0057】
また、実施の形態1と同様に、一部のCpGユニットのみに限定しても、ある程度の評価は可能である(実施例参照)。具体的には、被験化合物の存在下および非存在下における被験体から採取した試料のメチル化状態を、精神疾患の個体および非精神疾患の個体から採取した試料のBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおける、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76またはCpG_8,9ユニットの少なくとも一つ、好ましくはより多く、最も好ましくはこれらのCpGユニット全てのメチル化状態と比較し、被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤か否かを評価することができる。

【0058】
このように本実施の形態3に係る精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法によれば、一つの遺伝子を対象とした手法での生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、被験化合物が精神疾患治療剤および/または予防剤となるか否かを評価することができる。すなわち、臨床医等の主観的な判断によらずに精神疾患治療剤および/または予防剤の評価ができるため、より正確な評価を行うことが可能となり、新薬の開発に大いに貢献する可能性が高い。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例および比較例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0060】
(実施例)
本実施例では、ヒトの末梢血を用いたBDNF遺伝子のエクソンIの上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態の検出、ならびに階層的クラスタリングによる解析に係る実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0061】
まず、本実施例に係る被験者について詳細に説明する。
【実施例】
【0062】
図1は、実施例に係る被験者の統計を示す図である。図1に示すように、まず、三つの被験者のグループに分けて実施した。コントロール(Control)としては、広告で募り、現在または過去に精神的・身体的に病気を有しておらず、かつ第一度近親者にもうつ病患者を持たない健常者を被験者とした。うつ病患者(Major depression)および統合失調症患者(Schizophrenia)については、いずれも問診および医学的な記録情報に基づき、DSM-IVの基準を用いて精神科医に診断された患者を被験者とした。
【実施例】
【0063】
うつ病患者に関しては、系統立てた臨床的問診、精神疾患研究医によるMini-International Neuropsychiatric Interview(Otsubo T, Tanaka K, Koda R, et al., Psychiatry Clin Neurosci 59, 517-526, 2005およびSheehan DV, Lecrubier Y, Sheehan KH, et al., J Clin Psychiatry 59 Suppl 20, 22-33 quiz 4-57, 1998参照)の日本語版も用い、診断を行った。性別(Gender、男性(M)/女性(F))、および年齢(Age)は、図1に示す通りである。それぞれのグループの人数(N)についての詳細は後述する。
【実施例】
【0064】
次に、BDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドについて詳細に説明する。
【実施例】
【0065】
具体的には、本実施例におけるBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドとして、ヒトの第11番染色体の27743473番目から27744564番目の領域を選んだ(以下、この領域をCpGIという)。CpGIの塩基配列は、前述の通り配列番号1に示す。なお、CpGIは、UCSC genome browser(http://genome.ucsc.edu/)のCpGアイランドの基準である、%GC>50、length>200bpかつObs/Exp CpG>0.6の条件を満たすものである(%GC=60.5、length=1092bp、Obs/Exp CpG=0.83)。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に係るMassARRAY(登録商標)SystemによるDNAメチル化検出、解析について詳細に説明する。
【実施例】
【0067】
前述した三つのグループの被験者から末梢血のサンプル5mlを採取し、ヘパリンナトリウムを含む真空チューブにおいて、-80度で保管しておいた。これらのサンプルを、DNeasy Blood&Tissue Kit(Qiagen社製、ドイツ、ヒルデン)を用い、使用説明書通りにゲノムDNAを分離した。さらに、分離したゲノムDNA1μgを、EZ DNA methylation kit(Zymo Research社製、米国カリフォルニア州オレンジ)を使用し、亜硫酸水素ナトリウムによって、非メチル化のシトシン(C)をウラシル(U)に転換させた(バイサルファイト処理)。
【実施例】
【0068】
次に、バイサルファイト処理したゲノムDNA1μgを使用し、ターゲット領域であるCpGIに対し、使用説明書に従って、T7 RNAポリメラーゼ配列を取り込ませたPCRを行った。図2は、実施例に係るBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGアイランドにおけるPCRでの増幅領域を示す図である。すなわち、図2には、1092bpであり、81CpGサイト(CpGs)を有するCpGIと、それぞれのPCRでの増幅領域およびその領域に含まれるCpGサイトとが示されている。なお、PCRのプライマー(メチル化DNA用プライマー)については、EpiDesigner software(http://www.epidesigner.com/)を用いて設計した。なお、EpiDesignerのCpGアイランドの基準は、%GC>50かつObs/Exp CpG>0.6である。
【実施例】
【0069】
図2に示すPrimer1の増幅領域における、フォワードプライマー1の塩基配列を配列番号2に、リバースプライマー1の塩基配列を配列番号3に示す。Primer2の増幅領域における、フォワードプライマー2の塩基配列を配列番号4に、リバースプライマー2の塩基配列を配列番号5に示す。Primer3の増幅領域における、フォワードプライマー3の塩基配列を配列番号6に、リバースプライマー3の塩基配列を配列番号7に示す。Primer4の増幅領域における、フォワードプライマー4の塩基配列を配列番号8に、リバースプライマー4の塩基配列を配列番号9に示す。
【実施例】
【0070】
これらのプライマーを用いてPCRを行った後、増幅された産物に対して、使用説明書に従い、in vitroでの転写およびMassCLEAVE T-only kitを用いたRNase分解を行った。分解反応後のサンプル10~20nlを、MassARRAY nanodispenser(SEQUENOM社製)を使用して、前処理されたシリコンマトリックスチップ(SpectroCHIP(SEQUENOM社製))に分注した。その後、MassARRAY Compact System MALDI-TOF(SEQUENOM社製)を使用して、メチル化CpGサイトを分析した。メチル化CpGサイト解析におけるスペクトルのメチル化率は、EpiTYPER software v1.0(SEQUENOM社製)で算出した。図3は、エクソンI上流のCpGアイランドにおけるCpGサイトのEpiTYPER解析の結果の一例、およびPCR増幅領域を示す図である。amplicon1ないしamplicon4は、前述したPCRによる工程によって増幅される4つの領域である。図3に示すCpGIのEpiTYPER解析で検出された81箇所のCpGサイト(CpG count)について、Base Pairs on Input Sequenceの少ない順に、CpG_1ないしCpG_81として名称を付けた。
【実施例】
【0071】
バイサルファイト処理されたそれぞれのサンプルから、独立して三回分析を行った。これらの得られた配列のそれぞれの分析結果の定量によって、それぞれのCpG_1ないしCpG_81を、CpGユニットとして示した。このCpGユニットは、一つのCpGサイトを含むもの、または、連続しているCpGサイトの集合であるもののいずれかである。このような方法によって、CpGIでは、81箇所のCpGサイトが53箇所のCpGユニットに分けられた。
【実施例】
【0072】
この53CpGユニットにおいて、まず、全サンプル中25%以上で解析可能(質の低いデータおよび変化しないデータを除いたもの)であったCpGユニットを抽出した。さらに、抽出したCpGユニットに関して、80%以上で解析可能であったサンプルを抽出した。このように抽出したCpGユニット/サンプルに関して、全サンプル中50%以上で解析可能であったCpGユニットを採用し、CpGユニットに関し50%以上で解析可能であったサンプルを採用した。なお、このQC(quality control)stepは、SEQUENOMの標準プロトコルにそったものである。
【実施例】
【0073】
この結果、本実施例(CpGI)では53CpGユニットのうち35CpGユニットが解析された(68%)。また、図1に示すように、サンプル数は健常者がN=18、うつ病患者がN=20、統合失調症患者がN=20で解析された。
【実施例】
【0074】
図4は、実施例に係るBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGユニットにおけるメチル化のデータを示す図である。すなわち、EpiTYPER software v1.0(SEQUENOM社製)での、各CpGユニットのメチル化率(0~100%)の解析結果を示している。図5は、実施例に係るBDNF遺伝子のエクソンI上流のCpGユニットにおけるメチル化の階層的クラスタリング結果を示す図である。すなわち、図4のEpiTYPERによる解析データを階層的クラスタリングで分析した結果を示す。クラスタリング解析は、統計解析ソフトウェアRを用いて、試料間のユークリッド距離を算出し、Rのパッケージ内のhclustを用いて行った。分析結果は、完全連結法による階層的クラスタリングによって示されている。
【実施例】
【0075】
図5に示すように、58サンプルは、CpGI内の35CpGユニットのメチル化率の解析データに基づいて、元々の三つのグループに分類された。具体的には、図5に示す階層的クラスタリングの樹形図の高さ(Height)1.0~1.5でカットした場合、健常者のグループと患者のグループとを区別することができ、高さ0.5~1.0でカットした場合、健常者とうつ病患者と統合失調症患者とを完全に区別することができることが確認された。
【実施例】
【0076】
(比較例)
本比較例では、ヒトの末梢血を用いたBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態の検出、ならびに階層的クラスタリングによる解析に係る比較例について詳細に説明する。なお、本比較例に係る被験者については、前述した実施例と同様であり、図1と同様である。
【実施例】
【0077】
まず、BDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドについて詳細に説明する。
【実施例】
【0078】
具体的には、本比較例におけるBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドとして、ヒトの第11番染色体の27722844番目から27723980番目の領域を選んだ(以下、この領域をCpGIVという)。CpGIVの塩基配列を、配列番号10に示す。なお、エクソンIVについては、前述したUCSC genome browserのCpGアイランドの基準を満たす領域が存在しなかったため、エクソンIVの上流付近の近位プロモーター活性が認められた領域を選択した(Martinowich K, Hattori D, Wu H, et al., Science 302, 890-893, 2003およびYasuda S, Liang MH, Marinova Z, Yahyavi A, Chuang DM, Mol Psychiatry 14, 51-59, 2009参照)。
【実施例】
【0079】
以下、比較例に係るMassARRAY(登録商標)SystemによるDNAメチル化検出、解析について詳細に説明する。
【実施例】
【0080】
前述した実施例と同様に、被験者からの末梢血のゲノムDNA分離、バイサルファイト処理、それに続くPCRを行った。図6は、比較例に係るBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるPCRでの増幅領域を示す図である。すなわち、図6には、1137bpであり、28CpGサイト(CpGs)を有するCpGIVと、それぞれのPCRでの増幅領域およびその領域に含まれるCpGサイトとが示されている。なお、PCRのプライマー(メチル化DNA用プライマー)については、前述した実施例と同様、EpiDesigner softwareを用いて設計した。
【実施例】
【0081】
図6に示すPrimer5の増幅領域における、フォワードプライマー5の塩基配列を配列番号11に、リバースプライマー5の塩基配列を配列番号12に示す。Primer6の増幅領域における、フォワードプライマー6の塩基配列を配列番号13に、リバースプライマー6の塩基配列を配列番号14に示す。
【実施例】
【0082】
その後、前述した実施例と同様に、PCR後の増幅産物に対してin vitroでの転写、RNase分解を行った。その後も同様に、分解反応後のサンプル10~20nlを、前処理されたシリコンマトリックスチップに分注し、MassARRAY Compact System MALDI-TOFを使用してメチル化CpGサイトを分析した。メチル化CpGサイト解析におけるスペクトルのメチル化率は、EpiTYPER software v1.0で算出した。独立した三回の分析、およびCpGユニットへの分割についても同様である。なお、比較例であるCpGIVでは、28CpGサイトが24CpGユニットにわけられた。
【実施例】
【0083】
この24CpGユニットにおいて、前述した実施例と同様に、SEQUENOMの標準プロトコルにそったQC stepを行った。その結果、CpGIVでは、24CpGユニットのうち19CpGユニットが解析された(79%)。
【実施例】
【0084】
図7は、比較例に係るBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるCpGユニットのメチル化のデータを示す図である。すなわち、EpiTYPER software v1.0での、各CpGユニットのメチル化率の解析結果を示している。図8は、比較例に係るBDNF遺伝子のエクソンIV上流のCpGアイランドにおけるCpGユニットのメチル化の階層的クラスタリング結果を示す図である。すなわち、図7のEpiTYPERによる解析データを、階層的クラスタリングで分析した結果を示す。クラスタリング解析は、統計解析ソフトウェアRを用いて、試料間のユークリッド距離を算出し、Rのパッケージ内のhclustを用いて行った。分析結果は、完全連結法による階層的クラスタリングによって示されている。
【実施例】
【0085】
図8に示すように、図5の実施例とは異なり、58サンプルは、19CpGユニットのメチル化率の解析データに基づいた元の三つのグループには分類されなかった。
【実施例】
【0086】
以上のCpGIに係る実施例およびCpGIVに係る比較例から、CpGIの領域特異的に、メチル化状態を検出し階層的クラスタリングで分析(分類)することにより、健常者、うつ病患者および統合失調症患者の対象三群を完全に分類できることが実証された。
【実施例】
【0087】
なお、本実施例から、最終的な階層的クラスタリングによる結果を指標としなくとも、検出したCpGIの領域におけるメチル化状態の結果を指標とする検査方法も可能であることが示唆される。例えば、予め健常者、うつ病患者および/または統合失調症患者等のCpGIの領域におけるDNAのメチル化状態のパターン(各CpGユニットのメチル化率等)のデータを作成しておけば、当該データと被験者の末梢血から検出したパターンとを比較することによって疾患を検査することが可能であることが示唆される。
【実施例】
【0088】
さらに、図4に示すCpGIの実施例の結果から、特定のCpGユニットが階層的クラスタリングの分類に寄与していることが予測される。本発明者らは、このようなCpGユニットを抽出するため、まず、三つのサンプルのグループ毎に各CpGユニットのメチル化の平均値を算出した。次に、各グループ間の平均値の差を算出し、この平均値の差を用いて一元配置分散分析(One-way test)にて統計学的に非常に有意な差(p<0.001)が検出されたCpGユニットを抽出した。図9は、健常者、うつ病患者および統合失調症患者におけるCpGユニットの一元配置分散分析のデータを示す図である。図9において、Cは健常者を示し、Dはうつ病患者を示し、Sは統合失調症患者を示す。また、図9には、それぞれのグループにおける、グループ毎の各CpGユニットにおけるメチル化率の平均値(Mean of ratio)、算出されたグループ間の平均値の差(Mean difference between group)、平均値の差の絶対値(Absolute value of mean differce)、および、一元配置分散分析を行った際の(p値の小さい(差が有意な)順における)p値(p value of one way test)、が記載されている。なお、当該データには主として有意差が有るもののみを記載した。
【実施例】
【0089】
この結果、図4および図9において、CpG_1、CpG_14、CpG_19,20,21、CpG_22、CpG_23、CpG_24、CpG_29,30,31、CpG_3、CpG_32、CpG_36、CpG_4、CpG_48、CpG_6、CpG_7、CpG_71、CpG_76およびCpG_8,9(p値の小さい順に列挙)が、階層的クラスタリングの分類に寄与していることが予測された。すなわち、CpGI全ての領域のCpGユニットにおけるメチル化状態を指標としなくとも、これらのCpGユニットのうち、一つまたは複数個におけるメチル化のみを指標として健常者、うつ病患者および統合失調症患者を分類・検査できることが予測されうる。
【実施例】
【0090】
また、BDNF遺伝子は元来様々な脳機能、精神疾患に関与していることが知られている。そのため、うつ病および統合失調症のみだけでなく、多様な精神疾患に対しても同様にCpGIの領域特異的なメチル化状態が関与していることも示唆される。
【実施例】
【0091】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【実施例】
【0092】
本明細書の中で明示した論文および公開特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【実施例】
【0093】
本出願は、2010年8月4日に出願された日本国特許出願2010-175748号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2010-175748号の、明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、BDNF遺伝子のエクソンIおよびエクソンIV上流のCpGアイランドのメチル化について、当該エクソンI上流のCpGアイランドにおけるメチル化状態のみが、階層的クラスタリングによって、健常者、うつ病患者および統合失調症患者のそれぞれに分類できることが解明された。これは、エピジェネティクスによる精神疾患発症・難治化の機序解明につながるものであり、当該エクソンI上流のCpGアイランド領域、さらには領域内の特定CpGサイトのメチル化状態における、精神疾患の生物学的指標を大きく示唆するものである。
【0095】
そこで、本発明の精神疾患の検査方法および精神疾患用の検査キットによれば、一つの遺伝子を対象とした手法での生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、被験体の精神疾患を検査することができ、より正確な精神疾患の検査を行うことが可能となる。さらには、現在は主に臨床医の主観の判断によって行われている精神疾患の診断・治療を標準化できる可能性を有する。また、本発明の精神疾患治療剤および/または予防剤の評価方法によれば、生物学的指標に基づいた客観的判断基準によって、精神疾患治療剤および/または予防剤を評価することができ、新薬等を開発する上で大きく貢献する可能性を有する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図8】
4
【図9】
5
【図3】
6
【図4】
7
【図7】
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