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明細書 :エレクトロスプレーによるイオン化方法および装置,ならびに分析方法および装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5277509号 (P5277509)
登録日 平成25年5月31日(2013.5.31)
発行日 平成25年8月28日(2013.8.28)
発明の名称または考案の名称 エレクトロスプレーによるイオン化方法および装置,ならびに分析方法および装置
国際特許分類 G01N  27/62        (2006.01)
H01J  49/10        (2006.01)
FI G01N 27/62 G
H01J 49/10
G01N 27/62 V
G01N 27/62 F
G01N 27/62 X
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2011-545278 (P2011-545278)
出願日 平成22年12月8日(2010.12.8)
国際出願番号 PCT/JP2010/072511
国際公開番号 WO2011/071182
国際公開日 平成23年6月16日(2011.6.16)
優先権出願番号 2009278458
優先日 平成21年12月8日(2009.12.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年4月4日(2012.4.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】平岡 賢三
個別代理人の代理人 【識別番号】100080322、【弁理士】、【氏名又は名称】牛久 健司
【識別番号】100104651、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 正
【識別番号】100114786、【弁理士】、【氏名又は名称】高城 貞晶
審査官 【審査官】遠藤 直恵
参考文献・文献 特開平10-112279(JP,A)
特表平9-510879(JP,A)
国際公開第2005/104181(WO,A1)
特開2006-134877(JP,A)
国際公開第2003/065405(WO,A1)
特開平9-304344(JP,A)
調査した分野 G01N 27/62
H01J 49/10
特許請求の範囲 【請求項1】
先端部に小さな孔があけられた中空の絶縁性試料保持器の少なくとも上記先端部内に試料を入れ,
上記試料保持器内に挿入された導電性線状体を,その先端が上記孔から外方に突出または内方に退入可能に支持し,
上記線状体の先端を上記試料保持器内の上記試料に接触させながら上記孔を通して試料保持器の外に突出させ,
上記導電性線状体の先端が上記試料保持器の上記孔から外方に突出した後に,上記導電性線状体に高電圧を印加して,上記線状体の先端に付着している試料をエレクトロスプレーによりイオン化する,
エレクトロスプレーによるイオン化方法。
【請求項2】
一つの試料について,上記導電性線状体の先端の突出と退入および試料のエレクトロスプレーを複数回繰返す,請求項1に記載のイオン化方法。
【請求項3】
エレクトロスプレーによって導電性線状体の先端の試料が消費されたときに上記高電圧の印加を停止する,請求項1に記載のイオン化方法。
【請求項4】
上記試料保持器の先端に試料を直接に採取する,請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項5】
液体試料を上記試料保持器に液体クロマトグラフから供給する,請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項6】
大気圧下で行う,請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項7】
少なくとも先端に疎水化表面処理または親水化表面処理を行った導電性線状体を用いる,請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン化方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン化方法によりイオン化された分子を分析するイオン化分析方法。
【請求項9】
先端部に小さな孔があけられた中空な絶縁性試料保持器を支持する支持機構,
上記試料保持器内に挿入された導電性線状体を,その先端を上記孔から外方に突出させまたは内方に退入させる駆動装置,および
上記導電性線状体の先端が上記試料保持容器の上記孔から外方に突出した後に,上記導電性線状体にエレクトロスプレーのための高電圧を印加する高電圧発生装置,
を備えたエレクトロスプレーによるイオン化装置。
【請求項10】
請求項9に記載のイオン化装置と,イオン化された分子を分析する分析装置とを備えたイオン化分析装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明はエレクトロスプレーによるイオン化方法および装置,ならびに分析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料や工業製品などを対象としたイメージング質量分析法の代表的なものにマトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI=Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization)による質量分析法がある。この方法ではMALDI試料の作成という前処理が必要である。
近年,生体単一細胞の分子分析が活発に行なわれるようになり,そのための有効な分析法としてナノ-エレクトロスプレー・イオン化法による質量分析法(nano-electrospray ionization(ESI)mass spectrometry(MS))が提案されている。
Mizuno,Tsuyama,Harada and Masujima“Live single-cell video-mass spectrometry for cellular and subcellular molecular detection and cell classification”J.Mass Spectrom.2008;43:1692-1700
この方法は,口径(内径)がミクロン・オーダの先端をもつガラス製のESIチップ(キャピラリー)の先端に対象細胞またはその細胞液を吸い込み,イオン化用溶媒(一例として,正イオン・モードの場合は0.5%の蟻酸を含むアセトニトリル,負イオン・モードの場合は0.5%アンモニア水)をESIチップ内に加えて10倍以上に希釈した上で,エレクトロスプレーにより希釈した細胞試料をイオン化し,分析装置に導くものである。この方法によると,当然ながら,溶媒も質量分析されるから,溶媒由来の分子によるイオンシグナルも質量分析スペクトル中に現れる。
【発明の開示】
【0003】
この発明は,前処理なしの生体細胞などを対象試料(単一の細胞,生きた動物の体液なども含む)とすることができるイオン化方法および装置を提供するものである。
この発明はまた,大気圧下で試料イオンの脱離,イオン化が可能なイオン化方法および装置を提供するものである。
この発明はさらに,液体状生体試料,塩濃度が高い試料に対してもエレクトロスプレー現象を起こすことができる方法および装置を提供するものである。
さらにこの発明は溶媒による希釈も必ずしも必要のないエレクトロスプレーによるイオン化方法および装置を提供するものである。
さらにこの発明は上述のイオン化方法または装置によりイオン化されたイオンを分析する分析方法および分析装置を提供するものである。
この発明によるイオン化方法は,先端部に小さな孔があけられた中空の絶縁性試料保持器の少なくとも上記先端部内に試料を入れ,上記試料保持器内に挿入された導電性線状体(針状のものを含む)を,その先端が上記孔から外方に突出(進出)または内方に退入可能に支持し,上記線状体の先端を上記試料保持器内の上記試料に接触させながら上記孔を通して試料保持器の外に突出させ,上記線状体の先端が上記孔から外方に突出している時間帯の少なくとも一部において上記線状体に高電圧を印加して,上記線状体の先端に付着している試料をエレクトロスプレーによりイオン化するものである。
上記試料保持器を用いてその先端部に試料を直接に採取することができる。もちろん,別途採取した試料を上記試料保持器の先端部内に入れることもできる。液体試料を上記試料保持器に液体クロマトグラフから供給する構成とすることもできる。
要すれば,試料保持器内の試料または導電性線状体の先端に付着した試料に溶媒を供給してもよい。
上記線状体の先端が上記孔から外方に突出している時間帯の少なくとも一部において上記線状体に高電圧を印加するとは次の態様を含む。すなわち,上記導電性線状体に常時,エレクトロスプレー用高電圧を印加してもよいし,上記導電性線状体の先端が上記試料保持器の上記孔から外方に突出した後に,パルス状高電圧を上記導電性線状体に印加してもよい。後者の場合には,エレクトロスプレーによって導電性線状体の先端の試料が消費されたときに上記パルス状高電圧の印加を停止することが好ましい。高電圧は,好ましくは,導電性線状体と分析装置のイオン導入路との間に印加される。
試料保持器の先端部にあけられた小さな孔とは,最大でも,試料保持器の先端部に入れられた液体状試料が表面張力により外部に漏れ出さない程度,またはそれよりも小さな孔を意味する。
この発明によると,導電性線状体の先端を試料保持器の先端の孔から外方に突出(進出)させたときに,試料保持器内の試料が導電性線状体の先端に付着する。導電性線状体に高電圧を印加するとエレクトロスプレーによりその先端に付着した試料がイオン化される。イオンは質量分析装置に導入され,分析される。
この発明によると,試料保持器や導電性線状体を真空室内に配置する必要はなく,大気圧下(大気,他の不活性ガス中または飽和蒸気圧チャンバー内など)でイオン化を行うことができる。試料に前処理を加えることなくそのまま使用することができる。試料には生体試料を用いることが可能であるし,塩濃度の高い試料に対してもエレクトロスプレーを生起させることができる。さらに,必ずしも溶媒を用いて試料を希釈する必要はない(もちろん,この発明は試料を溶媒により希釈することを排除するものではない)。試料保持器の先端部や導電性線状体の径を小さくして,極微少量の試料に応用することができるし,分析の分解能を高めることも可能となる。導電性線状体は,ガラス(石英を含む)等の絶縁体製ニードルの表面に金属をコーティングしたものを含む。これにより導電性線状体の径をより小さくすることができれば一層高い分解能を得ることができる。
この発明はさらに,上記のイオン化方法によりイオン化された分子を分析するイオン化分析方法を提供している。
一つの試料について,上記導電性線状体の突出と退入および試料のエレクトロスプレーを複数回繰返し,分析装置内でイオンをトラップするか,または分析装置から出力される電気信号を蓄積することによりS/N比を高めることができる。
少なくとも先端に疎水化または親水化表面処理を施した導電性線状体を用いることにより,液体試料中の界面活性の異なる全成分について界面活性の大きな順に時系列でイオン検出が可能となる。
この発明によるイオン化装置は,先端部に小さな孔があけられた中空な絶縁性試料保持器を支持する支持機構,上記試料保持器内に挿入された導電性線状体(針状のものを含む)を,その先端を上記孔から外方に突出させまたは内方に退入させる駆動装置,および上記線状体の先端が上記孔から外方に突出している時間帯の少なくとも一部において上記線状体にエレクトロスプレーのための高電圧を印加する高電圧発生装置を備えたものである。
この発明はまた,上記のイオン化装置と,イオン化された分子を分析する分析装置とを備えたイオン化分析装置も提供している。
【図面の簡単な説明】
【0004】
第1図はこの発明の実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置(分析装置)の全体的構成を示すものである。
第2図は試料保持器の支持装置の一例を示す断面図である。
第3図は細胞内の細胞液を試料として採取する様子を示す斜視図である。
第4図は試料保持器の先端部を拡大して示すもので,金属細線が退入している状態を示す。
第5図は試料保持器の先端部を拡大して示すもので,金属細線が突出(進出)している状態を示す。
第6図は試料保持器の配置の他の例を示す。
第7図は試料保持器の他の構成例を示す。
第8図は試料保持器の他の構成例を示す。
第9図はインスリン溶液について,イオン化に基づく質量分析結果を示すマススペクトル(グラフ)である。
第10図は玉ねぎについて,イオン化に基づく質量分析結果を示すマススペクトル(グラフ)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
第1図はこの発明の実施例によるイオン化装置およびイオン化分析装置の概略構成を示すものである。
イオン分析装置は,イオン化装置10と質量分析装置(イオン分析装置)30とから構成される。
イオン化装置10によって試料から脱離,イオン化された試料イオンは質量分析装置30に導かれる。質量分析装置の例としては(直交型)飛行時間質量分析計を挙げることができるが,この発明は(リニア)イオントラップ型質量分析装置,四重極質量分析装置,フーリエ変換質量分析装置等の質量分析装置にも適用可能である。また,イオントラップ型質量分析装置を除く飛行時間質量分析装置等の質量分析装置の前段にイオントラップ装置を配置し,イオン化装置10においてイオン化されたイオンをイオントラップ装置により蓄積し,その後,これらの蓄積されたイオンを質量分析装置に導くようにしてもよい(詳しくは後述する)。
質量分析装置30の内部は真空に保たれる。質量分析装置30はイオンサンプリング用スキマー(オリフィス)31を備え,その先端部にイオン導入孔(イオン導入路)31aがあけられ,この導入孔31aにより質量分析装置30の内部がイオン化装置10が配置された外界(大気圧)とつながっている。イオン導入路としてスキマーではなく,イオンサンプリング用キャピラリーを備える分析装置もある。そして,質量分析装置の種類によってはイオンサンプリング用キャピラリー(オリフィス)に電源装置によりイオン集束用電圧(正イオン・モードの場合には+100V以下,負イオン・モードの場合には-100V以下の比較的低い電圧)を印加するタイプのものもある。イオンサンプリング用キャピラリーは接地される場合もある。質量分析装置30の外壁は一般に接地される。
イオン化装置10は,XYZステージ13,XYZステージ13上に設けられ,中空の試料保持器11を支持する支持機構15,試料保持器11内に挿入された金属細線(導電性線状体)(先端が針状に尖ったものを含む)12をその長手方向に駆動する駆動装置(アクチュエータ)14,および金属細線12と質量分析装置30のスキマー31(またはグランドもしくは接地電位)との間にエレクトロスプレー用高電圧(数kVから1kV程度,または1kV以下)を印加する高電圧発生装置17を備えている。駆動装置14は支持部材16によってXYZステージ13上に固定されている。
この実施例では電気的絶縁性の試料保持器11はガラス製のキャピラリーないしはピペット状のものであり,全体的に細い円筒状で,中央部の径が一定の胴部と,この胴部から先端11aにいくほど細くなるようにテーパ状に形成されたテーパ部(先細部,チップ,先端構成部)と,このテーパ部とは反対側において胴部につながる基部11bとから構成されている。試料保持器11の先端11aはきわめて小さな内径で開口している(小さな孔)。一例としては試料保持器11の先端11aの孔の内径は,試料の種類,大きさ等に応じて1μm~数百μm程度がよいが,1μm以下でもよい。
試料保持器11は,第2図に示すように,XYZステージ13上にわずかの間隔をあけて垂直に立てられ,試料保持器11の胴部を挟持する円弧状凹部が形成された2枚の挟持板から構成される支持機構15によって,水平な姿勢に支持されている。支持機構15は,たとえばXYZステージ13上に立設された支柱と,この支柱の上部に取付けられ,試料保持器11を把持する腕とから構成するなど,さまざまな形態で実現することができる。
金属細線12は試料保持器11内にその基部11bから挿入されている。金属細線12の径は,試料保持器11の先端11aの孔(開口)をゆるく通る程度またはそれ以下であればよい。たとえば金属細線12の径は先端11aの孔の内径の1/2~1/100程度,またはそれ以下である。金属細線12の先端は尖っていても,尖っていなくてもどちらでもよい。要すれば,試料保持器11内(たとえば胴部内)に,金属細線12を移動自在に支持する支持部材(たとえば金属細線12がその中心部を貫通するゴム栓など)(好ましくは絶縁性)を配置する。金属細線12の先端部は試料保持器11の先端11a内面(孔内側)に接触してもよい。
駆動装置14は金属細線12の試料保持器11の基部11bから外方に突出した後端部を掴み,金属細線12をその長手方向に移動(変位)(振動)(駆動)させるものである。この駆動により,金属細線12の先端部は,試料保持器11の先端11aの孔から外方に突出(進出),または内方に退入する。
XYZステージ13は試料保持器11の支持機構15および駆動装置14の支持部材16を支持し,かつこれらを全体として3つの直交する方向,すなわちX,Y,Z方向に変位させるものである。たとえば,金属細線12の長手方向をX方向とする。XYZステージ13によって,試料保持器11の先端11aの位置が,質量分析装置30のスキマー31のイオン導入孔31aのX方向外方の近傍に位置するように調整される。もちろん,金属細線12の先端が試料保持器11の先端11aから突出(進出)したときに,金属細線12の先端はスキマー31に接触することなく,エレクトロスプレーが発生するように調整される。試料のイオン化は大気圧下で行なわれる。
XYZステージ13および駆動装置14は,ピエゾ素子,モータ駆動または磁気駆動装置など機械的に再現性のよい運動機能を備えた装置を含み,各方向にnmオーダで変位量を制御できることが好ましい。特に,金属細線12をその長手方向に往復動させる駆動装置14は,往復動(振動:1回の往復動を含む)の周波数,振幅および振動回数の制御ができるものであることが好ましい。
対象試料の採取はたとえば次のように行う。第3図に示すように,シャーレ35内に生体の一部Lが置かれている。ピストン・シリンジ19に試料保持器11を取付ける。この生体の一部L中の特定の1個の細胞C(直径10μm~100μm程度)の内容物(細胞液)を試料保持器11の先端11a内(先端の内部ないしは先端部内)にシリンジ19により吸い込む。試料保持器11の先端部内には1個の細胞Cの細胞液(対象試料)のみが採取される。
1個の細胞の全細胞液の10%以下の細胞液(たとえば100fL以下)を顕微鏡下で採取できれば生きた細胞を犠牲にせずにすむ。この場合に,細胞液を吸い取った後に,必要に応じて試料保持器(キャピラリー)内に溶媒を充填し(溶媒を吸い取る),細胞液試料を希釈してもよい(複数回の試料採取を行なわずにすむ)。試料保持器の先端はきわめて細いことが必要となり,その内部に挿入する導電性線状体もきわめて細くする必要がある。後述するように,導電性線状体として,金属細線に代えて,ガラス細線(たとえば直径が1μm~100μm)の表面に金属をコーティング(たとえば金を蒸着)すると極細の導電性線状体を得ることができる。
細胞Cの内容物を採取した試料保持器11を,第1図に示すように支持機構15に取付けて固定する。試料保持器11の基部11bから金属細線12を挿入する。金属細線12の先端は試料保持器11の先端部の内側に位置している(第4図参照)。
対象試料は細胞に限らない。採取方法も上述のやり方に限らない。要するに質量分析すべき試料を試料保持器11の先端部内に入れておけばよい。対象試料は液体または液状物体がよい。液体または液状物体はその表面張力によって,試料保持器11の先端11aの小さな孔から漏れることはない。金属細線12の先端(先端部)は対象試料内に位置している(最内方位置。試料保持器の姿勢に応じて上至点または下至点)。
この状態で金属細線12を試料保持器11の先端11aの孔から外方に突出(進出)させる(第5図参照)。金属細線12の先端(先端部)が外方に突出することに併って試料は金属細線12の先端(先端部)に付着して外方に露出する。液状試料の表面張力によって金属細線12の先端(先端部)への試料の付着は最小限に抑えられるとともにほぼ均一に塗布され,その量も常にほぼ一定している(再現性がよい)。
金属細線12の先端は,試料保持器11の先端部の内方の位置(最内方位置または上至点もしくは下至点)と外方の位置(最外方位置または下至点もしくは上至点)の間をあらかじめ定められた変位量で動く。金属細線12の先端が最外方位置(たとえば先端11aから数10μmないし数mm離れた位置)に至ったときに,金属細線12とスキマー31との間にパルス状高電圧を印加する。これにより,金属細線12の先端(先端部)に付着した試料はエレクトロスプレーによってイオン化される。イオン化された試料はスキマー31の導入孔31aから分析装置30内に導かれて質量分析される。
同一の試料について,金属細線12の試料保持器11の先端11aからの出し入れ(突出,退入)と,金属細線12の先端(先端部)が突出したときのパルス状高電圧の印加を複数回繰返し,イオンを複数回生成することが好ましい。質量分析装置がイオントラップ型のものの場合,またはイオントラップ装置を前段に装備したタイプのものでは,上記の繰返しにおいて発生する試料イオンがイオントラップによって蓄積されるので,S/N比の良いマススペクトルが得られる。またイオンの繰返し生成により質量分析装置から繰返し出力される電気信号を電気的に(たとえばデータをメモリに)蓄積することによってもS/N比のよいマススペクトルを得ることができる。
金属細線12の先端からのエレクトロスプレーによって液体試料が消費されて細線金属面が露出すると,気体放電が発生しやすくなるので,このような場合には,放電が発生する前に,金属細線に印加した電圧をオフにするとよい。このような場合における金属細線への電圧印加のパルス幅は,通常1ms以下である。
金属細線12に連続的にエレクトロスプレーのための高電圧を印加しておいてもよい。この場合には,金属細線12の先端が試料から外方に突出したときにエレクトロスプレーが発生するであろう。
金属細線12に印加される電圧は,正イオン観測モードの場合,正の高電位であり,負イオン観測モードの場合には負の高電位である。
第1図においては試料保持器11は水平に配置されているが,第6図に示すように先端11aを下に向けて垂直に配置してもよい。逆に先端11aを上に向けて試料保持器11を垂直に配置してもよい。試料保持器11を斜めに配置してもよい。いずれにしても,試料保持器11は金属細線12の先端から発生するエレクトロスプレーによる試料イオンがイオン導入孔31aからイオン分析装置30内に効率よく導入される位置に置かれる。なお,第6図およびそれ以降の図においては高電圧発生装置17は簡略して描かれている。
第7図はさらに他の実施例を示すものである。試料保持器11Aは上述した試料保持器11の胴部に試料流入路21(ガラス管)が連通するように結合して構成されている。また,この流入路21が結合している部分よりも基部側において,胴部内に試料流出防止栓22が詰められている。この流出防止栓22はたとえばゴム製である。そして,金属細線12が栓22内を貫通して試料保持器11Aの先端11a付近(その外方または内方)まで延びている。
試料流入路21は,たとえば液体クロマトグラフの流出路に接続され,液体クロマトグラフの流出液が試料保持器11A内に導入され,イオン化と質量分析を受けることができる。
第8図はさらに他の例を示すもので,試料保持器としてガラス製のキャピラリー23が用いられ,先端23aが斜めに切断されている。このキャピラリー23の斜めに切断された先端23aを動植物に直接に突き刺して試料を採取する。必要であれば,試料のイオン化時において,キャピラリー23の先端部に供給管24から溶媒の蒸気を吹きかけるようにすることもできる(溶媒の供給)。第8図において,質量分析装置の図示は省略してある。
なお,第1図において駆動装置14を省略し,作業者の手によって絶縁物を介して金属細線12を出し入れ(進退)するようにしてもよい。または,XYZステージ13も必ずしも必要ではないなど,種々の変形が考えられうる。
溶媒は試料を溶解または湿潤化するものであれば何でもよく,液体状でも気体状でもよい。たとえば,溶媒には,水,アルコール,酢酸,トリフロ酢酸,アセトニトリル,水溶液,混合溶媒,混合気体等がある。これらの溶媒を液体のまま,霧状にして,加熱蒸気にして,またはガス状で試料保持器の先端に供給することができる。
最後にイオン化とそれに基づく分析結果を示す。第9図は,試料保持器として,内径250μmのキャピラリー(全長にわたって径が一定のもの)を用い,その先端部に約0.03μL(マイクロリットル)の容積のインスリン溶液を入れ,金属細線として直径10μmのタングステン・ワイヤを挿入して,このワイヤの先端部をキャピラリー先端から出し入れし,1.6kVの高電圧を印加してエレクトロスプレーによりイオン化と質量分析を行った結果を示すものである。
第10図は,第8図に示すように先端を斜めにカットしたキャピラリー(内径250μm)の先端を玉ねぎに突き刺してその汁を採取し,直径30μmのタングステン・ワイヤの進退によりエレクトロスプレー(電圧1.6kV)を生起させてイオン化と質量分析を行った結果を示す。溶媒として水蒸気を用い,これを第8図に示すように試料にふきかけた。アミノ酸や糖類のピークがみられるのが分る。
導電性線状体としてはガラス(石英を含む)等の細く延伸することが可能な絶縁体製線状体の表面(好ましくはその全面)に金属をコーティング(たとえば金を0.1μm前後またはそれ以下の厚さに蒸着)したものを用いることができる。この態様によると極細(直径10μm以下)の導電性線状体を製造することが可能となる。
液体試料を試料保持器内に装填した場合,溶液と大気との間に必ず界面が存在することになる。この界面には溶液中のより界面活性の高い成分が濃縮されている。したがって,これらの成分を選択的にエレクトロスプレーさせることができれば,溶液中の全成分を界面活性の序列に従って順次検出できることになる。この発明の方法によると,このことが可能となる。
すなわち,液体試料を小さな試料保持器(たとえば内径mmオーダ以下のキャピラリー)内に充填する。
この試料保持器内に,表面を疎水性とする(疎水化)表面処理を行った細い探針を挿入する。この疎水化表面処理は次のようにして行うことができる。たとえばチタン線をバーナー炎に晒して,表面に酸化被膜を形成させる。このチタン探針を数時間から1昼夜,Pentafluorophenyl-triethoxysilane(100%,または50%メタノール溶液)内に放置する。これによって,チタン探針表面が疎水化される。細い探針表面の親水化にも有効である。
探針にはあらかじめ高電圧を印加させておく。または,探針が試料液面から突き出たときにパルス的に高電圧を印加する。
試料保持器内に挿入した探針を試料保持器の軸(長手方向)に沿って前後(進出退入)運動させて(たとえば3Hz)試料保持器内の液体表面から探針を前方に突き出させて,探針先端に付着した液体試料をゆっくりとエレクトロスプレーさせる。
この操作で,まず液体界面(表面)に選択的に凝集している界面(表面)活性の大きなイオンがエレクトロスプレーされる。この操作を繰り返すことにより,界面活性の大きなイオンから小さなイオンの序列でエレクトロスプレーされる。マススペクトルは界面活性の高い成分から低い成分に向って経時的に変化する。このようにして,液体試料中に存在する界面活性の異なる全分析種のイオンが検出される。
従来エレクトロスプレーは,キャピラリーを通して液体を送液し,キャピラリー自体に高電圧を印加してこの液体をエレクトロスプレーさせる。この場合,液体に含まれる全成分が同時に強制的に送液されてエレクトロスプレーされるので,たとえば界面活性の小さな成分は帯電液滴から放出されない(off-spring dropletsの母滴に残る)。したがってこのような成分については気相イオンとしての検出が困難となり,検出感度が犠牲となる。これに対してこの発明の方法によると,液体試料を試料保持器内にバッチシステムで捕捉し,この液滴のすべてを完全にエレクトロスプレーさせることができる。すなわち,全成分分析が可能となる。とくに,細い探針を用いることができるので(先端径は1マイクロメートル以下),捕捉される試料の量が少なく,界面活性の序列を細かく分別して,成分分析が可能となる。
探針表面を親水化すると疎水性の試料イオンは観測されるが,親水性試料は探針表面に捕捉されたままエレクトロスプレーされない場合がある。このような場合,先端に溶媒蒸気を供給してエレクトロスプレーを促進させると,イオンが観測されるようになる。したがって,親水化処理は,疎水性イオンと親水性イオンを分別してエレクトロスプレーする優れた方法である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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