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明細書 :運動性良好な精子採取装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5877512号 (P5877512)
公開番号 特開2012-213395 (P2012-213395A)
登録日 平成28年2月5日(2016.2.5)
発行日 平成28年3月8日(2016.3.8)
公開日 平成24年11月8日(2012.11.8)
発明の名称または考案の名称 運動性良好な精子採取装置
国際特許分類 C12M   1/26        (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
C12N   5/076       (2010.01)
FI C12M 1/26
G01N 1/28
C12Q 1/04
C12N 5/076
請求項の数または発明の数 9
全頁数 10
出願番号 特願2012-081396 (P2012-081396)
出願日 平成24年3月30日(2012.3.30)
優先権出願番号 2011080358
優先日 平成23年3月31日(2011.3.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年3月26日(2015.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】松浦 宏治
【氏名】舟橋 弘晃
【氏名】古市 卓也
審査官 【審査官】植原 克典
参考文献・文献 特表2005-518794(JP,A)
特開2000-314719(JP,A)
特開2006-170589(JP,A)
特許第4356694(JP,B1)
特開2004-97886(JP,A)
調査した分野 C12M 1/26
C12N 5/076
C12Q 1/04
G01N 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
精液流入口(11)と精液流入口(11)に対向する位置に精液流出口(12)を備えた上部薄膜蓋部(10)と、前記精液流入口(11)に続く精液導入部(21)、前記精液流出口(12)に続く精液流出部(22)、前記精液流出部(22)の上流側に対向する位置に設けられ精子よりも小さな夾雑物を通過させる堰状抵抗流路部(23)と前記精液導入部(21)と前記堰状抵抗流路部(23)との間にチャンバー部(24)を備え、かつ側壁構造によって囲まれた中間流路部(20)と、前記中間流路部(20)と一体化していてもよい底面部(30)から構成され、前記チャンバー部(24)上部の前記上部薄膜蓋部(10)を剥離または貫通して採取することを可能にした運動性良好な精子採取装置。
【請求項2】
前記精子採取装置が、顕微受精用精子採取装置である請求項1記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項3】
前記上部薄膜蓋部(10)が、透明樹脂の薄膜層である請求項1または2に記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項4】
前記上部薄膜蓋部(10)が、剥離可能に形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項5】
前記側壁によって囲まれた中間流路部(20)が、透明樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項6】
前記底面部(30)が、透明な樹脂である請求項1~5のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項7】
前記中間流路部(20)の前記精液導入部(21)と前記精液流出部(22)とのあいだの前記チャンバー部(24)の幅が拡大されている請求項1~6のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項8】
前記チャンバー部(24)の上部薄膜蓋部(10)に精液取り出し口(13)が設けられている請求項1~7のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
【請求項9】
前記中間流路部(20)の前記精液導入部(21)のチャンバー入口(25)が複数個設けられている請求項1~8のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は運動性良好な精子採取装置に関し、とくに顕微授精のために微量精液から運動性良好な精子を短時間で選別することのできる精子採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高度生殖補助医療においては、採卵で得られた卵子を体外で受精・授精させ、授精卵を体外で発育させた後、母体に戻す施術が一般的に行われている。体外で受精・授精させる一手段として「顕微授精」が行われる。運動性が低いかまたは精子数が少ないなどの難患者の場合、殆ど顕微授精が選択される。顕微授精では顕微鏡観察による精子の選別とガラスキャピラリー内に精子を吸引する作業を伴う(非特許文献1)。上記の施術は熟練した技術と時間が必要となり、作業負担の軽減が望まれている。従って、男性因子不妊難患者の顕微授精においては、施術時間の短縮が作業マネジメント効率化及び治療効率上昇に貢献する。
【0003】
顕微授精において精子選別は精子形態の顕微鏡による目視で行われる。現時点では精子のダメージを形態で判別することは極めて困難であることから、精液の洗浄・調整もダメージがないように行う必要がある。通常、精液の洗浄は400g程度の遠心処理で行われる。しかし、遠心処理によって精子のペレットが作製されると、活性酸素の影響を受けやすくなるために、精子のDNAが切断されるリスクが上昇する(非特許文献2)。そこで、遠心処理を伴わないマイクロ流体操作を伴う装置が利用される。
【0004】
マイクロ流体操作技術を伴う精子選別方法として、運動性良好な精子分離装置が挙げられる。非運動性あるいは低運動性の精子が混在している液体からの運動性精子の選別は、選別される運動性精子、及び、非運動性精子あるいは低運動性精子を含有する乱れのない、そして、好ましくは層状の流れ(選別流)を設け、この選別流を第二の乱れのない、好ましくは同層状の媒体の流れ(媒体流)に接触させ、少なくとも運動性粒子が豊富な媒体の流れの一部に出口流を、また、運動性精子が減少された選別流に出口流を提供することにより実施される。運動性精子は、その運動性により、該媒体流と該選別流間の界面に沿って該媒体流に入り込み、一方、非運動性精子あるいは低運動性精子は、ほぼ該選別流内に残存する。(特許文献1)
【0005】
特許文献1に関する装置の問題点として、微量精子または低運動性精子からの運動性良好な精子回収には適さない点が挙げられる。また、本課題に関わる特許文献1以外の発明がなされていないのが現状である。一方、従来法であるマイクロドロップを用いた時には、水と油の界面が平らではないために、精子数が少ない場合は顕微鏡下における精子の探索が困難になる傾向がある。そのため、簡便な流体操作と平らな観察面を有する微量精子または低運動性精子からの精子選別及び回収を可能とする装置が望まれていた。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2005-518794号公報
【0007】

【非特許文献1】エンブリオロジストのためのART必須マニュアル 医歯薬出版株式会社,2005年,44-59頁
【非特許文献2】MORTIMER,D.HUMAN REPRODUCTION誌,1991年,6巻,173‐176頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、顕微授精に要する時間を短縮する装置を提供するものである。重度の男性不妊患者の治療において、精子の数が少なくても、また運動性が良好でなくても顕微授精を行うことがある。当デバイスを使用することにより、精子の運動速度が低く、運動性良好な精子数の極めて少ない重度の男性不妊患者の治療における施術時間を短縮することができる。また、遠心処理を含まないために、精子へのダメージを低減できる。当デバイスを使用することによって顕微授精の時間を短縮できることは胚培養士の負担を低減させる利点がある。その結果、DNA断片化リスクが低減し、従来法と比較して妊娠率の上昇が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の概要は次のとおりである
[1]精液流入口と精液流入口に対向する位置に精液流出口を備えた上部薄膜蓋部と、前記精液流入口に続く精液導入部、前記精液流出口に続く精液流出部、前記精液流出部の上流側に対向する位置に設けられ精子よりも小さな夾雑物を通過させる堰状抵抗流路部と前記精液導入部と前記堰状抵抗流路部との間にチャンバー部を備え、かつ側壁構造によって囲まれた中間流路部と、前記中間流路部と一体化していてもよい底面部から構成され、前記チャンバー部上部の前記上部薄膜蓋部を剥離または貫通して採取することを可能にした運動性良好な精子採取装置。
[2]前記精子採取装置が、顕微受精用精子採取装置である[1]記載の運動性良好な精子採取装置。
[3]前記上部薄膜蓋部が、透明樹脂の薄膜層である[1]または[2]に記載の運動性良好な精子採取装置。
[4]前記上部薄膜蓋部が、剥離可能に形成されている[1]~[3]のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
[5]前記側壁によって囲まれた中間流路部が、透明樹脂である[1]~[4]のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
[6]前記底面部が、透明な樹脂である[1]~[5]のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
[7]前記中間流路部の前記精液導入部と前記精液流出部とのあいだの前記チャンバー部の幅が拡大されている[1]~[6]のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
[8」前記チャンバー部の上部薄膜蓋部に精液取り出し口が設けられている[1]~[7]のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
[9]前記中間流路部の前記精液導入部のチャンバー入口が複数個設けられている[1]~[8]のいずれか1項に記載の運動性良好な精子採取装置。
【0010】
本発明の運動性良好な精子採取装置を構成するチップデバイスは三層構造になっている。底面部は好ましくは透明性の高いスライドガラスまたは透明樹脂である。これは、倒立顕微鏡で細胞を観察するために、透明かつ表面凹凸の少ない材質を用いることが望ましい。また、透明フィルムでも好適である。中間流路部は好ましくは流路を形成する樹脂層である。主に切削または金型成型によって加工される。上部薄膜蓋部は好ましくは透明フィルムまたはシート層であり、剥離することにより上部からのピペットによる回収が可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の運動性良好な精子採取装置によって、微量精子精液における精子探索の時間を短縮することが可能になる。重度の男性不妊患者の治療において、精子の数が少なくても、また、運動性が良好でなくても顕微授精を行うことがある。本発明の運動性良好な精子採取装置を使用することにより、精子の運動速度が低く、運動性良好な精子数が極めて少ない重度の男性不妊患者の治療における施術時間を短縮することができる。また、遠心処理を含まないために、精子へのダメージを低減できる。本発明の運動性良好な精子採取装置を使用することによって顕微授精の時間を短縮できることは胚培養士の負担を低減させる利点がある。特に、精子濃度が104個/mL程度の系に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の運動性良好な精子採取装置の上面図である。
【図2】本発明の運動性良好な精子採取装置の断面図である。
【図3】本発明の運動性良好な精子採取装置の斜視図である。
【図4】実施例4の顕微授精に要した時間の比較を示す図である。灰色は従来のマイクロドロップ法であり、黒色は本発明の運動性良好な精子採取装置を使用した際に要した平均時間(秒)である。各群の標本数は20程度である。エラーバーは平均誤差を示す。
【図5】実施例のB内の実際の精子濃度を示す図である。灰色は従来のマイクロドロップ法であり、黒色は本発明の運動性良好な精子採取装置を使用した際の精子濃度(個/mL)である。各群の標本数は5である。エラーバーは平均誤差を示す。
【図6】他の実施例の精子採取装置の上面図である。
【図7】他の実施例の精子採取装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の運動性良好な精子採取装置の好適な実施態様について、図面を用いてより詳しく説明する。図1は本発明の装置における上面図であり、図2は本発明の装置における断面図であり、図3は本発明の装置における斜視図である。

【0014】
まず、本発明の運動性良好な精子採取装置の構造について説明する。
本発明の運動性良好な精子採取装置は、図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)に示すように、上部薄膜蓋部10と、側壁構造によって囲まれた中間流路部20と、前記中間流路部20と一体化していてもよい底面部30から構成されている。

【0015】
本発明の運動性良好な精子採取装置の上部薄膜蓋部10は、前記中間流路部20の上部に密着するように配設されており、接着されていてもよいし、剥離可能に密着されていてもよい。また、上部薄膜蓋部10と前記中間流路部20とは一体的に成形されていてもよい。上部薄膜蓋部10の厚みは0.01~0.5mm、好ましくは0.05~0.2mmのフィルムまたはシートである。この上部薄膜蓋部10は透明樹脂が好ましく採用され、たとえばポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどがあげられる。上部薄膜蓋部10を剥離可能に形成させれば、精液を採取するときに、便利である。上部薄膜蓋部10を剥離不可能に形成させるときには、上部薄膜蓋部10のチャンバー部24上部に、精液取り出し口13を設けていれば、この取り出し口から精液を採取できる。

【0016】
本発明の運動性良好な精子採取装置の中間流路部20は、精液流入口11に続く精液導入部21と前記精液導入部21に対向する位置に精液流出口12に続く精液流出部22を備えた流路を形成し、前記精液流出部22の上流側に対向する位置に設けられ、精子よりも小さな夾雑物及び運動性に劣る精子を通過させる堰状抵抗流路部23と、前記精液導入部21と前記堰状抵抗流路部23との間にチャンバー部24を備え、かつ側壁構造によって囲まれている。さらに、本発明の運動性良好な精子採取装置において、前記精液流出部22の上流側に対向する位置に設けられ精子よりも小さな夾雑物及び運動性に劣る精子を通過させる堰状抵抗流路部23について説明する。堰状抵抗流路部23は、たとえば、大きな細胞塊や精子の凝集体を沈降させるための断面積が0.01~1mm四方である抵抗となる5~500個の流路を備えることが好ましい。

【0017】
本発明の運動性良好な精子採取装置の前記中間流路部20の前記精液導入部21の先には、複数個のチャンバー入口25が配設されていることが好ましい。

【0018】
本発明の運動性良好な精子採取装置の前記中間流路部20は、透明樹脂またはガラスが好ましく採用され、透明樹脂たとえばポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどがあげられ、これらを切削加工することにより、中間流路部20を形成してもよいし、金型成形により中間流路部20を溶融形成してもよい。

【0019】
本発明の運動性良好な精子採取装置において、底面部30は、前記中間流路部20と一体化していてもよい。底面部30の材質としては、透明樹脂またはガラスが好ましく採用され、透明樹脂たとえばポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどがあげられる。
本発明の運動性良好な精子採取装置において、前記チャンバー部24上部の前記上部薄膜蓋部1を剥離または貫通して精液を採取することを可能にしてもよい。

【0020】
本発明の運動性良好な精子採取装置において、前記チャンバー部24の上部薄膜蓋部10に精液取り出し口13が設けられている態様について説明する。顕微授精などガラスピペットによる回収を伴う作業においては、ピペット挿入時の水平面とのなす角度が小さい場合があるために、前記チャンバー部24の上部薄膜蓋部10に数cm四方の精液取り出し口13を設けることが好ましい。
本発明の運動性良好な精子採取装置は、顕微授精用精子採取装置として好適である。

【0021】
本発明の運動性良好な精子採取装置の使い方について簡単に説明する。
本発明の運動性良好な精子採取装置の操作は、1mLのマイクロピペットを用いて行う。あらかじめ、マイクロピペットで精液導入部21を通して複数個設けられているチャンバー入口25から前記中間流路部20を培養液で満たす。その際に、気泡が入らないようにする。次に、精液または精液洗浄液を精液導入部21から同様に導入する。数秒後、顕微鏡で中央の前記チャンバー部24を観察して精子を探索する。分散された精子のサイズは精子凝集体や大きな粒子と比較して小さいために、前記チャンバー部24の底面ではなく上面に居る割合が多く、観察時に他粒子と区別することが可能である。また、前記チャンバー部24内の液面が水平であるために顕微鏡観察における負担が少なくなる。そのため、ガラスキャピラリーによる回収が容易になる。顕微授精に適切な運動性良好な精子を発見した際には、剥離可能な最上層をガラスキャピラリーで突き破り、該精子をキャピラリーで吸引する。
また、本発明の運動性良好な精子採取装置の精液導入部21から精液を導入し、前記チャンバー部24において、顕微鏡またはマイクロスコープで精子を観察し、精液取り出し口13からマイクロピペットで精子を選択採取することが好ましい。

【0022】
本発明の運動性良好な精子採取装置の構造について以下にさらに詳細に記載する。全体の構造としては、好ましくは厚み2mm、縦3cm、横6cmの樹脂内に流路が刻まれる。図1に上面図、図2に断面図及び図3に斜視図を示す。

【0023】
さらに、本発明の運動性良好な精子採取装置において、前記チャンバー部24に向けて複数個のチャンバー入口25が設けられた好ましい態様について説明する。図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)において、3本のチャンバー入口25が設けられた本発明の運動性良好な精子採取装置が示されている。
(a)前記中間流路部20のチャンバー部24の流れが横になるように、一つの入口から前記チャンバー部24に向けて3本のチャンバー入口25を備えている。前記チャンバー部24の出口側に設けられている前記堰状抵抗流路部23に対して、いずれの部分においても液体が平行に流れるように、複数のチャンバー入口25を備えるように設計する。
(b)チャンバー部24はガラスピペットが操作できるように、最低1cm四方の面積を備える方が好ましく、最大3cm四方に抑えるのが流体操作上好適である。
(c)特に重要なのは、(c)の前記堰状抵抗流路部23が細くなっている部位であり、液が通りやすい方が操作し易いこと、及び、樹脂加工の限界及び流体の操作性を考慮して、流路の高さは0.1-0.3mm、幅は0.1-1mmが好適である。

【0024】
図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)の流路構造を有するチップはこれまでの試験から最適と判断したチップ構造である。しかし、本発明は図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)の構造だけを規定するものではなく、上記の(a)~(c)の三要件を備えていれば良いものとする。当該チップに通過させる試料液量は最大1mL程度を想定している。顕微鏡上で操作することが多いため、このチップの面積は10cm四方、厚みは1cm以下に留めることが望ましい。

【0025】
MDX-40(ローランド社製)の切削加工によって、長さ60mm幅30mm厚さ2mmのゼオノア(日本ゼオン社製)内に流路を刻み図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)に示した前記中間流路部6と前記底面部7が一体化した構造体を作製した。その上面に、食品用ラップフィルム(旭化成社製)で上部薄膜蓋部1をラミネート(富士プラスチック社製)することによって本発明の運動性良好な精子採取装置が得られる(図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図))。
また、シリコーンエラストマー(例えば、ジーイー東芝シリコーン株式会社製のTSE3032)で下記の方法により前記中間流路部20と前記底面部30が一体化した構造体を作製する方法も適用できる。
次に、切削加工した前記中間流路部20と前記底面部30が一体化した構造体と前記上部薄膜蓋部10とをシリコーンエラストマーを用いて貼り合わせた。エキシマーや酸素プラズマ発生装置による接着も好適である。シリコーンエラストマーA液とB液を10:1の比で混合し、デシケーター内で脱泡する。脱泡した混合液の一部をスピンコート(ミカサ社製)(500 rpm, 2分間)によって薄膜を作製する。この液体薄膜を70度1時間オーブンに入れて硬化させて固体薄膜をはがし取る。流路が刻まれた樹脂(前記中間流路部20と前記底面部30が一体化した構造体)の上部にその薄膜(前記上部薄膜蓋部10)を貼り付ける。その後、シリコーンエラストマー膜に穴をあけることによって、精液導入部21に続く精液流入口11(図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)の左側)と精液流出部22に続く精液流出口12(図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)の右側)を作製した。

【0026】
次に、本発明の運動性良好な精子採取装置による、ブタの精液の採取実験について記載する。
ブタ精液を遠心管(TP-108, アズワン社製)に1mL移し、TL-HEPS-PVAを適量加え24・℃、750g、3分遠心分離し、上清を除去し、洗浄を行った。3回の洗浄後、10mM caffeine sodium benzonate (C4144, Sigma社製)+ 0.4%(w/v)BSA(A8806, Sigama社製)添加修正M199で再懸濁し、再懸濁精液の10μLを990μLのイオン交換水に加えて100倍希釈精液とした。その後100倍希釈精液100μLを900μLのイオン交換水に加えて1000倍希釈精液とした。1000倍希釈精液をトーマ氏血球計算盤(HIRSCHMANN社製)で2区画観察した結果を用いて、精子濃度を1.0・106 個/mLとなるようにイオン交換水を加えて調製した。1.0・106個/mLに調製した精子を再度mM199/BSA+caffeinで1.0・105個/mL、1.0・104個/mLとなるようにイオン交換水を加えて調製した。

【0027】
顕微授精実験を図1(上面図)、図2(断面図)及び図3(斜視図)の本発明の運動性良好な精子採取装置(流路断面0.3・1.0 mm2)を用いて行った。従来法である体積10 μLのマイクロドロップと比較した際のブタ精子の挿入に必要な時間を計測した。実験は一人で計5日計約40-50個の受精卵について顕微授精を行った。濃度105個/mLになるように調製した区の場合では両区間で差が無かったのに対し、104個/mLになるように調製した区の場合ではマイクロドロップではその挿入時間に有意差が得られた。その結果を図4にまとめた。このことから、精子数の少ない精液において顕微授精に必要な時間を短縮できることが示唆された。

【0028】
実際の中央B内の精子数を評価することによって、104個/mLになるように調製した区の場合にのみ顕微授精に要した時間の短縮と精子濃度濃縮効果についての相関を検証した。従来のマイクロドロップ及び当デバイスに精液を通過させた後、10 μLをマイクロピペットで回収し、トーマ氏血球計算盤に移して顕微鏡による目視よって精子濃度を計算した(それぞれ標本数=5)。2区画(1区画あたりの体積:1mm・1mm・0.1mm)内の精子を観察した。その結果を図5に示す。精子濃度が105個/mLになるように調製した区では両方法で精子濃度には差が見られなかった。一方、104個/mLになるように調製した区では両方法間の平均精子濃度に差が見られた。当該デバイスを用いることにより、微量精子精液(この場合は104 個/mLになるように調製した区)における精子濃度が若干上昇し、探索が容易になったことが一要因であると考えられる。

【0029】
上記の方法で顕微授精したブタ受精卵を7日間培養したところ、マイクロドロップを用いて顕微授精した区と本中央回収部を用いた区との間では発育に差はなかった。従って、このデバイスは精子及び卵子に悪い影響を与えないことが示唆され、安全に使用できると言える。

【0030】
図6および図7には、本発明の採取装置の構造について、別の実施例が示されている。これは、上記の工程を経て製作されたデバイスの流路構造を検討することによって、さらに濃縮効率を上昇させたものである。
その流路は、チャンバー入口(25)を3つ、堰状抵抗流路部(23)を3つ備えており、精液導入部(21)およびチャンバー入口(25)の深さは0.8mm、チャンバー部(24)の深さは1.5mmであることを特徴としている。

【0031】
使用した細胞懸濁液は、3T3cells(マウス繊維芽細胞)あるいは、不動ヒト精子であり、上記調整方法によって、濃度を1.0・104個/mLあるいは、1.0・105個/mLに調整したものを使用した。
上記のデバイスの流路を培地または純水で満たした後、体積の5倍量の細胞懸濁液を入れ、チャンバー部(24)に濃縮された流路内の液を10μL回収した。

【0032】
回収された流路内の液は、初めの濃度が1.0・104個/mLのものは、チャンバー部内で6~8倍に濃縮された。一方、1.0・105個/mLの試料は、約2倍に濃縮された。このことから、本デバイスによって濃縮された細胞は、体外受精にも適用できる濃度であることが示された。また、他の細胞でも当技術が可能であるために、細胞工学分野にも適用可能である。例えば、患者自身の細胞を利用した移植医療において、患者から採取した細胞数が少ない場合に当該デバイスを使用すれば、たとえメカニカルストレスに弱い細胞でも濃縮でき、細胞操作が容易になると想定される。
【符号の説明】
【0033】
10 上部薄膜蓋部
11 精液流入口
12 精液流出口
13 精液取り出し口
20 中間流路部
21 精液導入部
22 精液流出部
23 堰状抵抗流路部
24 チャンバー部
25 チャンバー入口
30 底面部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図4】
5
【図5】
6