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明細書 :イオン化装置およびイオン化分析装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5239102号 (P5239102)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月17日(2013.7.17)
発明の名称または考案の名称 イオン化装置およびイオン化分析装置
国際特許分類 H01J  49/10        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
FI H01J 49/10
G01N 27/62 G
請求項の数または発明の数 11
全頁数 12
出願番号 特願2011-553923 (P2011-553923)
出願日 平成23年2月9日(2011.2.9)
国際出願番号 PCT/JP2011/053314
国際公開番号 WO2011/099642
国際公開日 平成23年8月18日(2011.8.18)
優先権出願番号 2010029157
優先日 平成22年2月12日(2010.2.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年7月3日(2012.7.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】平岡 賢三
【氏名】チェン・リー チュイン
個別代理人の代理人 【識別番号】100080322、【弁理士】、【氏名又は名称】牛久 健司
【識別番号】100104651、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 正
【識別番号】100114786、【弁理士】、【氏名又は名称】高城 貞晶
審査官 【審査官】長井 真一
参考文献・文献 国際公開第2009/157312(WO,A1)
国際公開第2008/153199(WO,A1)
CHEN Lee Chuin et.al.,"Application of Probe Electrospray Ionization for Biological Sample Measurements",Environment Control in Biology,日本,Japanese Society of Agricultural, Biological and Environmental Engineers and Scientists,2009年11月20日,Vol.47, No.2,pp.73-86
Na Na et.al.,"Direct detection of explosives on solid surfaces by mass spectrometry with an ambient ion source based on dielectric barrier discharge",Journal of Mass Spectrometry,John Wiley & Sons, Ltd.,2007年 8月,Vol.42, No.8,pp.1079-1085
Na Na et.al.,"Development of a Dielectric Barrier Discharge Ion Source for Ambient Mass Spectrometry",Journal of the American Society for Mass Spectrometry,米国,Elsevier B.V.,2007年10月,Vol.18, No.10,pp.1859-1862
調査した分野 H01J 49/10
G01N 27/62
特許請求の範囲 【請求項1】
バリヤー放電管部と,試料導入管部と,イオン供給管部と,閉鎖型のイオン化室を形成するイオン化室壁とを備え,
上記バリヤー放電管部は誘電体で形成された部分を有し,その誘電体部分の外周面側と内部にそれぞれ配置された外側電極および内側電極を備え,
上記試料導入管部はその一端側に外界につながる試料導入口を有し,
上記バリヤー放電管部の前方であって上記試料導入管部の他端側からイオン供給管部の一端側に向う空間が上記イオン化室壁によって囲まれることにより外界と遮断された上記イオン化室が形成され,
上記イオン供給管部はその他端側に分析装置とつながるイオン供給口を有している,
イオン化装置。
【請求項2】
上記イオン化室が外界よりも減圧した状態に保たれる,請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
上記試料導入管部の開口断面の面積が上記イオン供給管部の開口断面の面積よりも小さい,請求項2に記載のイオン化装置。
【請求項4】
上記イオン化室壁が3つの接続口を有し,各接続口に上記バリヤー放電管部の前端部,上記試料導入管部の上記他端部,上記イオン供給管部の上記一端部がそれぞれ接続される,請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項5】
上記イオン化室壁がT字型の管体である,請求項4に記載のイオン化装置。
【請求項6】
上記イオン化室壁と上記イオン供給管部とが電気的に絶縁され,これらの間に直流電圧が印加される,請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項7】
上記試料導入管部が導電体製部分を有し,この導電体製部分が上記バリヤー放電管部内に上記内側電極として挿入されている,請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項8】
上記バリヤー放電管部が上記イオン供給管部と連結され,上記イオン供給管部が上記イオン化室壁を兼ねている,請求項7に記載のイオン化装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のイオン化装置と上記分析装置とを備えたイオン化分析装置。
【請求項10】
上記分析装置は上記イオン供給口につながる減圧室を有し,上記イオン化室内は外気よりも減圧した状態に保たれ,上記減圧室は上記イオン化室内よりも低い圧力に保たれている,請求項9に記載のイオン化分析装置。
【請求項11】
上記分析装置が順次段階的に減圧する少なくとも2段の減圧室を備えている,請求項10に記載のイオン化分析装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明はバリヤー放電を利用したイオン化装置およびイオン化分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バリヤー放電を利用したイオン化分析方法および装置の例が次の文献に記載されている。
Na Na,Chao Zhang,Mengxia Zhao,Sichun Zhang,Chengdui Yang,Xiang Fang and Xinrong Zhang,“Direct detection of explosives on solid surfaces by mass spectrometry with an ambient ion source based on dielectric barrier discharge”,J.Mass Spectrom.2007;42:1079-1085
Na Na,Mengxia Zhao,Sichun Zhang,Chengdui Yang,and Xinrong Zhang,“Development of a Dielectric Barrier Discharge Ion Source for Ambient Mass Spectrometry”,J Am Soc Mass Spectrom.2007,18,1859-1862
これらの文献に記載のイオン化分析方法および装置は,板状電極と,板状電極の表面上に配置されたガラス板と,ガラス板(板状電極)の面にほぼ垂直にガラス板から離して配置された針状電極とを備え,板状電極と針状電極との間に交流高電圧を印加し,バリヤー放電を起こすものである。分析対象物である試料をガラス板上に置き,バリヤー放電によって生じるプラズマ・トーチに晒す。これによって試料から原子,分子が脱離しかつイオン化される。生成されたイオンは質量分析装置に導かれ,分析される。
上記の文献に記載のイオン化方法では大気に解放された空間において試料のイオン化が行なわれる。したがって,生成された多くのイオンは大気に発散してしまい,その一部のみが質量分析装置に導入されることになり,感度が犠牲になる。
【発明の開示】
【0003】
この発明は,高感度のイオン化分析が可能なイオン化装置およびイオン化分析装置を提供することを目的とする。
この発明はまた,構造が簡素なイオン化装置を提供することを目的とする。
この発明によるイオン化装置は,バリヤー放電管部と,試料導入管部と,イオン供給管部と,閉鎖型のイオン化室を形成するイオン化室壁とを備える。上記バリヤー放電管部は誘電体で形成された部分を有し,その誘電体部分の外周面側と内部にそれぞれ配置された外側電極および内側電極を備える。上記試料導入管部はその一端側に外界につながる試料導入口を有する。上記バリヤー放電管部の前方であって上記試料導入管部の他端側からイオン供給管部の一端側に向う空間が上記イオン化室壁によって囲まれることにより外界と遮断された上記イオン化室が形成される。上記イオン供給管部はその他端側に分析装置とつながるイオン供給口を有する。
バリヤー放電管部,試料導入管部,イオン供給管部における管部の断面は円形に限らず,角形(多角形を含む),楕円形,その他の任意の形状でよい。バリヤー放電管部の前方とは,イオン化室に向う方向である。試料導入管部の試料導入口の具体的一例はサンプリング・ノズルである。イオン供給管部のイオン供給口とは分析装置側からみればイオン導入口に相当する。
バリヤー放電管部に放電ガスが流れ,その外側電極と内側電極との間に高周波高電圧が印加されることにより,バリヤー放電が起り,これにより準安定励起種,その他のイオン種が生成され,イオン化室に送られる(プラズマはイオン化室までは伸びない)。他方,試料導入管部からは検出すべき気体または粒子を含む気体がイオン化室に導入される(検出すべき気体または粒子が含まれない場合もありうる)。いずれにしても,イオン化室においてペニングイオン化,反応イオン化等により,試料導入管部から導入される気体がイオン化される。生成されたイオンはイオン供給管部を通ってイオン分析装置に移送され,分析される。
イオン化室は閉鎖した空間であり,ここで生成されたイオンはその殆どすべてがイオン供給管部を通して分析装置に移送されるから,感度を犠牲にすることなく高い感度で分析が可能となる。またイオン化装置の構成も簡素である。
一実施態様では,上記イオン化室壁が3つの接続口を有し,各接続口に上記バリヤー放電管部の前端部,上記試料導入管部の上記他端部,上記イオン供給管部の上記一端部がそれぞれ接続される。上記イオン化室壁の具体例は,たとえばT字型の管体である。
他の実施態様では,上記試料導入管部が導電体製部分を有し,この導電体製部分が上記バリヤー放電管部内に上記内側電極として挿入されている。そして,上記バリヤー放電管部が上記イオン供給管部と連結され,上記イオン供給管部がイオン化室壁を兼ねている。構成がきわめて簡素となる。
望ましい実施態様では,上記イオン化室が外界よりも減圧した状態に保たれる。
一般に分析装置の内部は真空に保たれる。外界(大気圧)の状態から急激に真空の分析装置内にイオンが導入されると,大きな圧力差のために分析装置内のイオン導入口付近でイオンが勢いよく空間全体に広く発散してしまう可能性があるが,減圧した状態のイオン化室からイオンが導かれるときには穏やかに分析装置内に導入されるようになり,さらに減圧下のために,イオンを電場で効率よく収束できるので,イオンの捕集効率が高まる。これにより多くのイオンが分析のために寄与できるようになるので,イオンの検出効率が高まる。
イオン化室内を減圧した状態に保つための様々な方法があるが,その一例としては,上記試料導入管部の(最も狭い箇所の)開口断面の面積を上記イオン供給管部の(最も狭い箇所の)開口断面の面積よりも小さく設定することである。そうすることにより,閉鎖空間の圧力を大気圧以下の真空(減圧状態)に排気することが可能となる。要すれば,バリヤー放電管部からイオン化室に流入する放電ガスの流量を調整して,イオン化室の圧力を適切な値に保つことができる。
一実施態様では,上記イオン化室壁と上記イオン供給管部とが電気的に絶縁され,これらの間に直流電圧が印加される。直流電圧の電極は,イオンが分析装置によりよく導入されるようにイオンの極性に応じて定められる。
この発明はまた,イオン化装置と上記分析装置とを備えたイオン化分析装置を提供している。
一実施態様では,上記分析装置は,その内部に,上記イオン供給口につながる1段または複数段の減圧室を有する。上記イオン化室内は外気よりも減圧した状態に保たれ,上記減圧室は上記イオン化室内よりも低い圧力に保たれる。複数段の減圧室が設けられる場合には,段階的に減圧される。これにより,イオンは大きな圧力差のない2段階または3段階以上に段階的に減圧された真空領域を進んで分析装置の分析部にきわめて穏やかに導かれることになる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
第1図は,第1実施例のイオン化装置を分析装置とともに示す断面図である。
第2図は,第2実施例のイオン化装置を分析装置とともに示す断面図である。
第3図は,第3実施例のイオン化装置を分析装置とともに示す断面図である。
第4図は,携帯型のイオン化分析装置を示す斜視図である。
第5図は,第4実施例のイオン化装置と分析装置を示す断面図である。
第6図は,レモンの分析結果を示すマススペクトルである。
第7図は,にんにくの分析結果を示すマススペクトルである。
第8図は,シナモン(粉末)の分析結果を示すマススペクトルである。
第9図は,風邪薬錠剤の分析結果を示すマススペクトルである。
第10図は,指紋(付着物)の分析結果を示すマススペクトルである。
第11図は,HMTD10ngの分析結果を示すマススペクトルである。
第12図は,HMTD5pgの分析結果を示すマススペクトルである。
第13図は,ブランクのマススペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
第1図は第1実施例によるイオン化装置を質量分析装置とともに示すものである。イオン化装置と質量分析装置(分析装置)をあわせてイオン化分析装置という。
質量分析装置としては飛行時間型質量分析計,イオントラップ型質量分析計,四重極質量分析計など,イオンを大気圧から真空中へ導入するタイプのあらゆる質量分析計を用いることができる。この種のタイプの質量分析装置は,内部が高真空(一例として10-5Torr以下)に保たれるので,大気との間に大きな圧力差が存在する。一般にはこの圧力差(差動排気)を利用して外部からイオンを質量分析装置内に取り込む(吸い込む)。
この実施例の質量分析装置50は,そのスキマー52の前方に減圧室51が形成されているタイプのものである。減圧室51はフランジ(囲繞壁,装置壁)(または,分析装置50のハウジングの一部)53によって形成されている。フランジ53には,スキマー52のイオン導入口52aに対向する位置にイオン導入口55があけられている。これらのイオン導入口55と52aとの間には,減圧室51内においてリングレンズ54が設けられ,イオン導入口55から減圧室51内に導入されたイオンはこのレンズ54によって収束されてイオン導入口52aを経て高真空の質量分析装置50内に取り込まれる。減圧室51内の圧力は一例を挙げれば1Torr程度である。
イオン化装置1Aは上記の質量分析装置50の前面に取付けられる。この実施例ではイオン化装置1Aはフランジ53の前面に取付けられている。
この実施例ではイオン化装置1Aは,外部から遮断された(後述するサンプリング・ノズル,バリヤー放電管のバルブ,イオン供給口を除く)閉じたイオン化室を有するように構成されている。すなわち,イオン化装置1AはT字管(イオン化室壁)41を備えている。T字管41の部分をイオン化室部40という。
T字管41は3つの第1,第2,第3の管部42,43,44が互いに連通するように結合して形成されている。管部42と43は一直線状につながり,管部44がこれらの管部42と43との結合部に垂直に結合している。これらの管部42と43と44との結合部分の内部空間がイオン化室SPである。後述するように,イオン化室SPは減圧された状態(大気圧よりも低く,減圧室51内の圧力よりも高い状態)に保たれる。
T字管41を金属(導電体)により作製すれば,後述する第2実施例のように,正または負の直流電圧を印加して,イオンを分析装置50の方向に移動させる電気的反発力を生じさせることができるが,金属に限られる必要はなく,ガラス等の絶縁体により形成してもよい。
第1の管部42の外界側端部には,継手(ジョイント)24により中間パイプ22が接続され,さらにこの中間パイプ22に継手によりサンプリング・ノズル21が接続されている。サンプリング・ノズル21の先端が試料導入口である。第2の管部43の分析装置側端部には継手32によりイオン供給管31が接続され,このイオン供給管31が継手(アダプタ)56により,質量分析装置50の外側フランジ53に結合している。イオン供給管31の分析装置側端部がイオン供給口であり,継手56を経てフランジ53のイオン導入口55につながっている。このようにして,サンプリング・ノズル21から中間パイプ22,T字管41,イオン供給管31を経てイオン導入口55,52aまで連通することになる。サンプリング・ノズル21,中間パイプ22の部分を試料導入部(試料導入管部)20といい,イオン供給管31の部分をイオン供給部(イオン供給管部)30という。
サンプリング・ノズル21,中間パイプ22,イオン供給管31および継手23,24,32,56はすべて金属により作製することができるが,必ずしも材質は金属に限らない。たとえば,サンプリングノズルには,金属細管の他,シリカチューブ等の絶縁体の使用も可能である。
第3の管部44には継手16によりバリヤー放電管11が接続されている。バリヤー放電管11は誘電体(たとえばガラス)製である。バリヤー放電管11の先端は第1,第2の管部42,43までは突出していない。バリヤー放電管11の外周面には外側電極12が設けられ,内部には直線状の内側電極13が管11の中心を通って(管11の内面との間に間隙を保って)設けられている(内側電極13の支持体については図示略)。内側電極11の先端の位置はバリヤー放電管11の先端部の位置と同程度であるが,管11の外に突出していても,若干内方に退入していてもよい。バリヤー放電管11の部分がバリヤー放電部(バリヤー放電管部)10である。
バリヤー放電管11には放電ガス供給管(チューブ)14が(必要ならば継手を用いて)接続されている。この供給管14の途中には流量調整バルブ15が設けられ,このバルブ15により放電ガス・ボンベ(図示略)等(放電ガス供給源)から供給される放電ガス(たとえばHeガス)の供給量(流量)が調整される。
バリヤー放電部10において,外側電極12と内側電極13との間に,高周波高圧電源70により,高周波数の高電圧が印加される。これにより,放電管11の内部およびその前方(放電ガスが流れる方向,すなわちT字管41の側)にバリヤー放電が発生する。バリヤー放電はイオン化室(3つの管部42~44の結合部の内部空間)SPまでは達しない。放電ガスにはアルゴン(Ar),ヘリウム(He)等の希ガス,窒素(N)ガス,酸素(O)ガス,大気(空気)等を用いることができる。
バリヤー放電により,放電ガス(たとえばHe)の準安定励起種,熱化した電子(熱電子),イオン種等が生成され,これらは放電ガスの流れにより管部44を通ってイオン化室SPの方向に送られていく。
他方,サンプリング・ノズル21からはサンプル気体(大気を含んでいてもよいし,固体,液体試料から蒸発した,または脱離した粒子等を含んでもよいし,ガスクロマトグラフからの気体,その他の分析すべき気体)(分析対象気体が存在しないこともあり得る)が吸引され,中間パイプ22,管部42を通ってイオン化室SPに流入する。これらのサンプル気体(原子,分子など)は,バリヤー放電により生成された準安定励起種,イオン種等によりイオン化(ペニングイオン化,反応イオン化)される。電子親和力が正の分子においては,熱電子が分子に付着して,負イオンが効率よく生成する。このようにして,イオン化された試料イオンは,放電ガス等の流れにより,管部43,イオン供給管31を経て,イオン導入口55から減圧室51に入り,さらにイオン導入口52aを経て質量分析装置50内に導かれ,質量分析される。
この実施例の構成のイオン化装置は次の2つの特徴をもっている。
その一は,上述したように,サンプリング・ノズル21,バリヤー放電部10のバルブ15およびイオン供給管31のイオン供給口を除いて,イオン化室SPが外界から閉鎖されていることである。このため,イオン化室SPで生成したイオンはその殆どすべてが(器壁との衝突で電荷を失うもの,また正・負イオン同士の再結合により中性化するものを除いて)分析装置50内に導入されるということである。これにより,効率が良く高感度の分析が可能となる。もしイオン化室SPの一部または全部が大気に解放されていたとすると,イオンは大気に発散して,分析装置50に導入されるイオンは僅かになってしまう。閉鎖されたイオン化室SPおよびイオン供給管31の構造により上記の問題点が解決されている。
その二は,イオン化室SP内が減圧されているので,イオン化室SPで生成したイオンが穏やかに高真空の分析装置50内に導かれるということである。この実施例では,分析装置50の前段にも減圧室51があり,その圧力はイオン化室SP内の圧力と分析装置50内の圧力との間の値に保たれているので,イオン化室SPから順次減圧されて分析装置50内に至ることになる。したがって,イオンはその多くが確実に分析装置50内部で分析のために供されることになる。たとえば,大気圧の雰囲気からイオンが急激に高真空の分析装置内部に吸引されたとすると,イオンは大きな圧力差のために分析装置内部で発散してしまう可能性があるが,そのような事態が発生するのが上記の段階的減圧構造により防止される。
イオン化室SP内の圧力の調整はたとえば次のようにして行なわれる。サンプリング・ノズル21の先端部(試料導入口)の内径(最も細い箇所の内径)dは,イオン供給管31のイオン供給口の内径(イオン供給管31からフランジ53のイオン導入口55までの経路で最も細い箇所の内径)Dよりも小さく設定される(一例を挙げればd=0.2mm,D=0.8mm)。すなわち,ノズル21を通して流入する気体の流量よりも分析装置50内に吸引される気体の流量をより大きくすることができる。他方,バリヤー放電管11からは放電ガスがイオン化室SPに流入する。したがって,上述の径d,D,バルブ15により調整される放電ガスの流量および分析装置内を真空にする真空ポンプの能力を調節することにより,イオン化室SP内を,ある減圧状態(たとえば10~100Torr程度)に保つことができる。このようにして,イオン化室SPと減圧室51の2段階の圧力調整が行なわれる。要するに,イオン化室の流入側と流出側の絞りを適切に設定し,放電ガス流量をバルブ15により調整するということである。
サンプリング・ノズル21にはスペーサ26を介して,または継手23,24を用いて,または中間パイプ22もしくは管部42に直接に,延長パイプ25を接続すれば,分析すべき気体の採取の空間的範囲が広がる。延長パイプ25は長くても(たとえば1m以上でも)よい。延長パイプ25をフレキシブル・チューブとすることもできる。サンプリング・ノズルは延長パイプ25の先端に設けてもよいし,図示のようにイオン化室SPの近くに設けてもよい。
第2図は他の実施例を示している。このイオン化装置1Bにおいては,イオン化室SPからイオンを分析装置50内に直接に導入するために,延長管(イオン供給管)33をフランジ53の継手56の部分からイオン化室SPまで延ばしている。また分析装置50(またはその外壁もしくはフランジ53)とT字管(イオン化室壁)41との間に,直流電源72により直流電圧を印加している。そのために,T字管41の管部43を延長管33の途中に連結する継手32と延長管33との間に絶縁体35を介在させ,T字管41と延長管33とを電気的に絶縁している。継手32を絶縁体で形成してもよい。延長管33と継手56は金属製であり,フランジ53と同電位である。
イオン化室SP内で発生するイオンの正,負に応じてT字管41に印加する電圧の正,負を変える。正イオンの場合にはT字管41に正電位を,負イオンの場合には負電位を与える。同じように,フランジ53とスキマー52との間にも電位差を与えることが好ましい。
他の構成は第1図に示すものと同じであり,第1図に示すものと同一物には同一符号を付し重複説明を避ける。
第3図はさらに他の実施例を示している。
このイオン化装置1Cにおいては,T字管は用いられず,分析装置50のフランジ53のイオン導入口を囲むようにイオン供給管(イオン導入管)36が直接に(または図示しない継手(アダプタ)により)設けられ,その内部がイオン化室SPとなっている。イオン供給管36のイオン供給口とフランジ53のイオン導入口とが共用されており,この部分の内径Dがリング36A等を挿入することにより調整されている。
イオン供給管36には継手37によりバリヤー放電管11が取付けられ,バリヤー放電管11の内部とイオン供給管36の内部とが連通している。バリヤー放電管11の前方にイオン化室SPがある。
サンプリング・ノズル26を有する試料導入管27は金属で形成され,バリヤー放電管11内の中心部に気密状態を保って挿入され,内側電極13を兼ねている。サンプル導入管27の分析装置側端部の位置はバリヤー放電管11の対応する端部の位置とほぼ一致している(いずれかが他方よりも少し突出していてもよい)。バリヤー放電管11の内面と試料導入管27との間には当然,間隙がある。バリヤー放電管11は途中で屈曲され,継手16を経て放電ガス供給管14に接続されている。
バリヤー放電管11の内側電極(試料導入管)27(13)と外側電極12との間には,電源70により高周波高電圧が印加されるとともに,発生するイオンの正負に応じて直流電源73により直流電圧がこれに重畳して印加される。他の構成は第1図に示すものと同じである。
この実施例においても,バリヤー放電(バリヤー放電はイオン化室SPまでは伸びない)により発生した準安定励起種等により,サンプル導入管27により導入されたサンプルがイオン化室SPでペニングイオン化等のイオン化過程によってイオン化され,分析装置50内に導入される。イオン化室SPは適当な減圧状態に保たれる。
上記実施例では分析装置50に減圧室51が設けられているが,この減圧室51は必ずしも設けなくてもよい。
第4図は可搬型のイオン化分析装置を示している。このイオン化分析装置60は,小型の質量分析装置のハウジングに必要な操作盤,表示装置を設けるとともに,上述したイオン化装置1A(または1Bもしくは1C)を取付けたものである。イオン導入管部にはサンプリング・ノズル25Aを有する可撓性延長チューブ25が接続されている。
第5図はさらに他の実施例を示し,質量分析装置に段階的に減圧構造を持たせたものである。この実施例においても,既に述べた実施例におけるものと同一物には同一符号を付し,重複説明をできるだけ避ける。
質量分析装置50として四重極質量分析計が示されている。この質量分析装置50のイオン供給側に,上述したフランジ(囲繞壁ないしは装置壁)53を用いて減圧室(第1の減圧室)51が設けられている。分析装置50のハウジング50Aのイオン供給側にスキマー52を設けて第1減圧室51を区画したと表現することもできる。このスキマー52よりも装置の内部寄りに(イオン供給側とは反対側)もう1つのスキマー56がスキマー52と間隔をあけて設けられ,これらのスキマー52と56との間に第2の減圧室55が形成されている。スキマー56にも小さなイオン導入口56aがあけられている。
分析装置50の内部には,リングレンズ57,4本のロッド電極59,リングレンズ58,イオン検出器60等が配置されている。
ダイヤフラムポンプ71が排気管74により第1減圧室51に接続され,第1減圧室をたとえば100~200Torr程度に減圧する。
第2減圧室55は排気管75により接続されるロータリーポンプ72により排気され,たとえば数Torr程度に減圧される。
4本のロッド電極59が配置された四重極質量分析計本体内部は,排気管76を通して,たとえばターボ分子ポンプにより10-5Torrの高真空に排気される。
このように分析装置50の内部において3段階に圧力を低減するようにしているので,分析装置50の内部でイオンが発散するのを防止することができる。
イオン化装置1Dにおいて,フランジ53に設けられたイオン供給管36に誘電体製のバリヤー放電管11が連結され,このバリヤー放電管11の先端は連結部28によって閉じられている。この連結部28を通してサンプル導入管27(兼サンプリング・ノズル26兼内側電極13)がバリヤー放電管11の内部に挿入されている。また連結部28に放電ガス供給管14が接続されている。
第3図に示す実施例と同じように,内側電極13と外側電極12との間に高周波高電圧が印加される(図示略)。また必要ならばこれらの間に直流電圧がイオンの正負に応じて印加される。さらに必要ならば,スキマー52,56を絶縁体81,82,83,84により分析装置のハウジング50Aから電気的に絶縁し,これらのスキマー52,56にもイオンを装置内部に導入しやすくするための直流電圧を印加するとよい。さらに,イオン導入口55に鎖線で示すようにリング36Aを設け,第1減圧室51とイオン化室SPの圧力を異ならせれば,全体として4段階の減圧構造となる。
質量分析装置として四重極質量分析計を用いると小型化が可能であり,第5図に示すイオン化分析装置は,第4図に示すような可搬型のものとして構成することが可能である。
第6図,第7図,第8図はそれぞれ,第1図に示すイオン化分析装置において,そのサンプリング・ノズル21の先端に,レモン,にんにく,シナモン(粉末)をそれぞれ近づけたときに得られたマススペクトルを示している。
第9図から第13図もまた,第1図に示すイオン化分析装置を用いた分析結果を示すものである。
第9図は風邪薬錠剤の直接分析例である。試料分子がほとんどフラグメントイオンを与えず,ソフトにイオン化されている。これは,Heペニングイオン化の特徴である。
第10図はアルミニウムフォイルに指を押し付けて指紋(付着物)を残し,これをサンプリング・ノズル21に近づけ,アルミニウムフォイルの背後から加熱窒素を吹き付けて加熱して気化した蒸気成分を分析した例である。負イオンモードでの測定である。乳酸(lactic acid),脂肪酸などの負イオンが強く観測されている。
第11図および第12図は,手製爆弾であるHMTD(Hexamethylenetriperoxidediamine)(N(CH-O-O-CHN)の分析例である。ガラス棒にHMTDを一定量塗布し,これをサンプリング・ノズル21に近づけ,背後から加熱窒素ガス(150度C)を吹き付けて蒸気分析した。第11図は10ngのHMTD,第12図は5pgのHMTDの場合である。HMTDが5pgまで検出された。この検出限界は,化学イオン化法(気相イオン分子反応)による検出感度の極限に近い値であり,本発明の優位性を検証している。第13図はブランクの場合のマススペクトルである。
上記実施例のように,サンプリング・ノズルを用いてサンプルを採取する方法は,極めて応用範囲が広い。たとえば,マトリックス支援レーザ脱離イオン化のレーザ照射部分にサンプリング・ノズルを近づければ,大気圧MALDIの高感度イオン分析が可能となる。その他にも,レーザ加熱や,電気抵抗加熱などで発生する蒸気分析,食品蒸気分析,土壌分析,麻薬分析,違法薬物分析,尿の分析など,さらに乾燥血液中の環境ホルモン分析(PCB,可塑剤など),指紋分析,植物から発生する蒸気分析,呼気分析に用いることができる。
探針を試料(特に水分を含むあらゆる形態の試料)に突き刺して探針の先端に試料を採取し,探針に高電圧を印加して脱離,イオン化する探針エレクトロスプレーと組合せ上記イオン化分析装置を用いることもできる。探針エレクトロスプレーで発生したイオンおよび中性ガスを上記サンプリング・ノズルで採取し,イオン化装置内で中性ガスをペニングイオン化する。これにより,探針エレクトロスプレーで発生したイオンと同時に中性ガス成分もイオン化して検出できる。一般にエレクトロスプレーでは,極性分子が検出されやすく(含窒素,含酸素化合物),無極性分子(炭化水素成分など)はイオン化され難い。上記実施例の方法は,極性の低いガス成分をイオン化できるので,エレクトロスプレーの本質的欠点をカバーできる画期的な方法である。
ざらに上記実施例の装置は過酸化水素(H)の検出に適用することもできる。すなわち,ヘリウム(He)を放電ガスとして流すバリヤー放電により高いエネルギーを持つ準安定励起種Heが形成され,これによって大気成分ガス(N,Oなど)が励起イオン化され,電子が放出される。生成された電子が酸素分子Oに付着して,酸素分子負イオンOが生成される。この酸素分子負イオンOはイオン化室SPに流れていく。
他方,サンプリング・ノズル21により採取された気体中に過酸化水素Hが含まれていれば,この過酸化水素もイオン化室SPに送られる。イオン化室SPにおいて酸素分子負イオンOが過酸化水素Hと強い結合を形成し,酸素分子負イオンと過酸化水素のクラスタイオンO(H)を生成する。このクラスタイオンはイオン導入口55,52a(56a)から質量分析装置50内に導かれ,検出される。すなわち,過酸化水素Hの存在と量を酸素分子負イオンとのクラスタイオンO(H)として検出する訳である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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