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明細書 :円偏光発光性希土類錯体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5849255号 (P5849255)
公開番号 特開2013-121921 (P2013-121921A)
登録日 平成27年12月11日(2015.12.11)
発行日 平成28年1月27日(2016.1.27)
公開日 平成25年6月20日(2013.6.20)
発明の名称または考案の名称 円偏光発光性希土類錯体
国際特許分類 C07F   9/58        (2006.01)
C07C  49/92        (2006.01)
H01L  51/50        (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
C09D  11/50        (2014.01)
G02F   1/01        (2006.01)
C07F   5/00        (2006.01)
FI C07F 9/58 CSP
C07C 49/92
H05B 33/14 A
C09K 11/06 660
C09D 11/50
G02F 1/01 A
C07F 5/00 D
請求項の数または発明の数 9
全頁数 19
出願番号 特願2011-269916 (P2011-269916)
出願日 平成23年12月9日(2011.12.9)
審査請求日 平成26年10月16日(2014.10.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】湯浅 順平
【氏名】上野 紘史
【氏名】長谷川 靖哉
【氏名】河合 壯
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査官 【審査官】緒形 友美
参考文献・文献 特開2003-327590(JP,A)
国際公開第2008/111293(WO,A1)
特開2009-023914(JP,A)
国際公開第2010/032395(WO,A1)
HASEGAWA Y. et al,HELVETICA CHIMICA ACTA,2009年,vol.92,pp.2238-2248
HARADA T. et al,INORG. CHEM.,2009年,48,pp.11242-11250
LUNKLEY J. L. et al,J. AM. CHEM. SOC.,2008年,130,pp.13814-13815
調査した分野 C07F 9/53
C07C 49/92
C09D 11/50
C09K 11/06
G02F 1/01
H01L 51/50
C07F 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
7配位型の円偏光発光性希土類錯体であって、
一般式(7)
【化7】
JP0005849255B2_000016t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表す。
で表されることを特徴とする円偏光発光性希土類錯体。
【請求項2】
8配位型の円偏光発光性希土類錯体であって、
一般式(11)
【化11】
JP0005849255B2_000017t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表す。
で表されることを特徴とする円偏光発光性希土類錯体。
【請求項3】
前記希土類イオンが、Nd、Sm、Eu、Tb、Ybのいずれかのイオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の円偏光発光性希土類錯体を含むことを特徴とする光学機能材料。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の円偏光発光性希土類錯体を含むことを特徴とする円偏光フィルタ。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の円偏光発光性希土類錯体を含むことを特徴とするセキュリティーインク。
【請求項7】
請求項に記載の7配位型の円偏光発光性希土類錯体及び請求項に記載の8配位型の円偏光発光性希土類錯体から選ばれる少なくとも一種の円偏光発光性希土類錯体を、ケトン系の第1溶媒及び非ケトン系の第2溶媒を0:10~10:0の割合で混合した析出溶媒に溶解し、前記析出溶媒を除去することによって、前記7配位型の円偏光発光性希土類錯体及び前記8配位型の円偏光発光性希土類錯体を所望の比率で含む円偏光発光性希土類錯体群を得る方法。
【請求項8】
前記第1溶媒は、
一般式(12)
【化12】
JP0005849255B2_000018t.gif
(式中、E1~E2は同一又は異なる炭素数1~5の基を表す。)
で表される鎖状又は環状のケトン系溶媒であることを特徴とする、請求項に記載の円偏光発光性希土類錯体群を得る方法。
【請求項9】
前記第2溶媒はニトリル系溶媒又はハロゲン系溶媒であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の円偏光発光性希土類錯体群を得る方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光発光性を示す希土類錯体、並びにそれを利用した光学機能材料及びセキュリティー技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、円偏光発光性を示す光学機能材料を有機EL素子と組み合わせることにより、光学機能材料を3次元表示ディスプレイや電子ペーパーに応用することが期待されている。また、円偏光発光性を示す光学機能材料は、通常の可視光の中に右円偏光及び左円偏光をセキュリティー情報として付与することができることから、セキュリティーマーカーや不可視性インキの原料としても注目を集めている。
【0003】
このような光学機能材料の一つに希土類錯体がある。例えば、BINAPOをはじめとするビナフチル構造配位子と、facam(3-trifluoroacetyl-D-camphorate)誘導体の両方が希土類イオンに配位した希土類錯体、TPPOをはじめとするホスフィンオキシド誘導体とfacam誘導体の両方が希土類イオンに配位した希土類錯体が報告されている(特許文献1~3)。これらの希土類錯体は、ビナフチル構造配位子やホスフィンオキシド誘導体のジアステレオマー構造に由来する不斉配位子場により、右円偏光及び左円偏光を選択的に発光する、即ち円偏光発光性を有することが分かっている。一方、4個のhfbc(3-hepatafluoro-butylryl-(+)-camphorate)が希土類イオンに配位した希土類錯体や、不斉配位子場環境下における希土類錯体が、円偏光発光性を示すことが報告されている(非特許文献1及び2)。これらの希土類錯体は8配位の構造となっている。また、不斉ビスオキサゾリンピリジン骨格配位子とアセチルアセトン誘導体が配位した希土類錯体が報告されているが(特許文献4)、この希土類錯体は9配位の構造となっている。希土類錯体は、一般に8配位又は9配位の構造をとることが多い。
【0004】
分子の円偏光発光性はg値(異方性因子)で示すことができる。g値は次のように定義される値である。
CDスペクトルからのg値=Δε/ε=2(εL-εR)/(εL+εR)
(式中、εLは左円偏光における吸収係数、εRは右円偏光における吸収係数を表す。)
CPLスペクトルからのg値=ΔI/I=2(IL-IR)/(IL+IR)
(式中、ILは左回りの円偏光発光強度、IRは右回りの円偏光発光強度を表す。)
なお、g値をCDスペクトルから求める場合及びCPLスペクトルから求める場合のいずれにおいても、理論上、g値の最大絶対値は2である。
【0005】
従来の有機化合物のCPLスペクトルにおけるg値は0.001程度である。これに対して、ビナフチル構造配位子とfacam誘導体の両方が配位した希土類錯体のg値は0.01程度であり、ホスフィンオキシド誘導体とfacam誘導体の両方が配位した希土類錯体のg値は0.44であることが報告されている。なお、希土類錯体が示すg値の世界最大値は約1.3である(非特許文献1参照)。
従って、これら希土類錯体のg値は従来の有機化合物のg値に比較すると格段に高く、円偏光発光性に優れているといえる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2003-327590号公報
【特許文献2】特開2005-097240号公報
【特許文献3】WO2008/111293
【特許文献4】WO2011/111607
【0007】

【非特許文献1】Jamie L. Lunkley, Dai Shirotani, Kazuaki Yamanari, Sumio Kaizaki, Gilles Muller: J. AM. CHEM. SOC. (2008) 130, 13814-13815.
【非特許文献2】J. Sokolnicki, J. Legendziewicz, J. P. Riehl: J. Phys. Chem. B 106 (2002) 1508.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、希土類錯体と偏光板等を組み合わせたセキュリティー技術に応用する上では、上記した程度のg値では未だ不十分であって、より高い円偏光発光性を有する新規希土類錯体の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、本発明の目的は、より高い円偏光発光性を有する希土類錯体を提供することにある。また、本発明の目的は、セキュリティー技術分野について十分に応用可能な円偏光発光性を有する希土類錯体、並びにそれを利用した光学機能材料及びセキュリティー技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、希土類錯体は配位数によって異なる円偏光発光性を示すことを見出し、8配位型の希土類錯体よりも高い円偏光発光性を示す7配位型の希土類錯体を得るに至った。
本明細書では、円偏光発光性を有する希土類錯体を円偏光発光性希土類錯体と呼ぶ。
【0011】
本発明に係る円偏光発光性希土類錯体は、7配位型の円偏光発光性希土類錯体であって、
一般式(1)
【化1】
JP0005849255B2_000002t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、A1~A4は炭素数3~20の基を表し、R1~R2はN原子、O原子のいずれかを少なくとも1個含む5員環又は6員環の共役複素環を表す。)
で表され、
R3は二座の不斉なアセチルアセトン配位子であって、
一般式(2)
【化2】
JP0005849255B2_000003t.gif
(式中、L1~L3は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。さらに、L1とL2又はL1とL3は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
で表され、
R1に含まれるN原子、O原子のいずれかと、R2に結合しているP原子が結合し、前記N原子、O原子のいずれかと前記P原子を含む4~6員環の環構造が形成されていることを特徴とする。
【0012】
上記した7配位型の円偏光発光性希土類錯体は、
一般式(8)
【化8】
JP0005849255B2_000004t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、A1~A4は炭素数3~20の基を表し、R1~R2はN原子、O原子のいずれかを少なくとも1個含む5員環又は6員環の共役複素環を表す。)
で表され、
R3は二座の不斉なアセチルアセトン配位子であって、
一般式(2)
【化2】
JP0005849255B2_000005t.gif
(式中、L1~L3は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。さらに、L1とL2又はL1とL3は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
で表されることを特徴とする、8配位型の円偏光発光性希土類錯体と互変異性の関係にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の希土類錯体が示すことのなかった、極めて高い円偏光発光性を有する円偏光発光性希土類錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の合成手順の一例を示す図。
【図2A】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の結晶(A)のX線結晶構造解析の結果を示す図。
【図2B】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の結晶(B)のX線結晶構造解析の結果を示す図。
【図3A】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の結晶(A)の化学式を示す図。
【図3B】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の結晶(B)の化学式を示す図。
【図4】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトル。
【図5】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体のアセトン溶液におけるCPLスペクトルの測定結果を示す図。
【図6】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体におけるg値の溶媒依存性を示す表。
【図7】実施例2に係る円偏光発光性希土類錯体のアセトニトリル溶液におけるCDスペクトルの測定結果を示す図。
【図8】実施例2に係る円偏光発光性希土類錯体の各溶媒溶液におけるCPLスペクトルの測定結果を示す図。
【図9】実施例3に係る円偏光発光性希土類錯体の合成手順の一例を示す図。
【図10】実施例3に係る円偏光発光性希土類錯体における発光スペクトルの測定結果を示す図。
【図11】実施例3に係る円偏光発光性希土類錯体におけるCPLスペクトルの測定結果を示す図。
【図12】実施例3に係る円偏光発光性希土類錯体のアセトン/アセトニトリル混合溶液について、アセトンの混合比率に対して相対発光強度 (Irel)及びg値をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体の構造的特徴について説明する。
本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体は、
一般式(1)
【化1】
JP0005849255B2_000006t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、A1~A4は炭素数3~20の基を表し、R1~R2はN原子、O原子のいずれかを少なくとも1個含む5員環又は6員環の共役複素環を表す。)
で表され、
R3は二座の不斉なアセチルアセトン配位子であって、
一般式(2)
【化2】
JP0005849255B2_000007t.gif
(式中、L1~L3は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。さらに、L1とL2又はL1とL3は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
で表され、
R1に含まれるN原子、O原子のいずれかと、R2に結合しているP原子が結合し、前記N原子、O原子のいずれかと前記P原子を含む4~6員環の環構造が形成されていることを特徴としている。

【0016】
なお、R3は不斉な配位子であることから、L1~L3が全て同じである場合、L1及びL3が同じである場合は除く。

【0017】
さらに具体的には、本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体は、
一般式(3)
【化3】
JP0005849255B2_000008t.gif
(式中、X1~X6は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表され、
A1~A4は同一又は異なる炭素数3~20の炭素芳香族炭化水素基、複素芳香族化合物基または炭化水素基
のいずれかで表すことができる。

【0018】
本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体の大きな特徴は、ジホスフィンオキシド配位子が単座の配位子として希土類イオンと結合している点にある。従来、ジホスフィンオキシド配位子は、二座の配位子として希土類イオンと結合する例しか知られていなかった。しかし、本発明では、ジホスフィンオキシド配位子が二座の配位子として希土類イオンに結合する8配位型の円偏光発光性希土類錯体を互変異性化することにより、7配位型の円偏光発光性希土類錯体を得ることを見出した。

【0019】
即ち、本発明に係る8配位型の円偏光発光性希土類錯体は、本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体の互変異性体であって、二座のジホスフィンオキシド配位子1個と、二座の不斉なアセチルアセトン配位子3個を、希土類イオンに配位させたものである。
本発明に係る8配位型の円偏光発光性希土類錯体は、
一般式(8)
【化8】
JP0005849255B2_000009t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、A1~A4は炭素数3~20の基を表し、R1~R2はN原子、O原子のいずれかを少なくとも1個含む5員環又は6員環の共役複素環を表す。)
で表され、
R3は二座の不斉なアセチルアセトン配位子であって、
一般式(2)
【化2】
JP0005849255B2_000010t.gif
(式中、L1~L3は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。さらに、L1とL2又はL1とL3は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
で表すことができる。

【0020】
さらに具体的には、本発明に係る8配位型の円偏光発光性希土類錯体は、
一般式(9)
【化9】
JP0005849255B2_000011t.gif
(式中、X1~X6は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表され、
A1~A4は同一又は異なる炭素数3~20の炭素芳香族炭化水素基、複素芳香族化合物基または炭化水素基
のいずれかで表すことができる。

【0021】
次に、本発明に係る7配位型及び8配位型の円偏光発光性希土類錯体が共通して有する構造上の特徴について以下に述べる。
本発明に係るこれらの円偏光発光性希土類錯体が有する、二座の不斉なアセチルアセトン配位子は、不斉性と光増感機能の双方を有する。不斉な配位子は、希土類錯体の円偏光発光性を向上させる。

【0022】
特に、上記アセチルアセトン配位子として、
一般式(6)
【化6】
JP0005849255B2_000012t.gif
(式中、Z1はハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Z2~Z3は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されるカンファー誘導体を用いることにより、より高い光増感機能を有する円偏光発光性希土類錯体を得ることができる。
上記アセチルアセトン配位子としてのカンファー誘導体は、ハロゲン化炭素誘導体であることが好ましく、炭素数1から6のハロゲン化炭素誘導体など、例えば炭素数1から3の直鎖フッ化炭素が挙げられる。
ここでは、Z2及びZ3と異なり、Z1には水素原子又は重水素原子が適用されない。その理由は、希土類イオンと結合するO原子と直接結合するC原子がC-H単結合を有すると、C-H単結合の振動性によって円偏光発光性希土類錯体の発光性が低下するためである。
また、アセチルアセトン配位子としてカンファー誘導体のような嵩高い分子を採用することにより、希土類イオンの周辺に物理的な障壁が生じ、円偏光発光性希土類錯体の分子同士が架橋して配位高分子になることを防ぐことができる。

【0023】
さらに、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体が共通して有する、ジホスフィンオキシド配位子は、二個のP=O基を有する。P=O基の二重結合は低振動型構造として知られており、このような構造を有する配位子が配位することにより、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体の発光性を向上させることができる。
上記ジホスフィンオキシド配位子において、P原子に結合するA1~A4は、同一又は異なる
一般式(4-1)~(4-3)
【化4】
JP0005849255B2_000013t.gif
(式中、Q1~Q4は同一又は異なるハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Q5~Q7は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
のいずれかで表されるように、P原子に結合するC原子がC-H単結合を有しないことが好ましい。これは、C-H単結合の振動性によって円偏光発光性希土類錯体の発光性が低下することを防ぐためである。さらに、A1~A4として、3~20個の炭素を含む嵩高い分子を用いることが好ましい。例えば芳香族炭化水素基、複素芳香族化合物基、炭化水素基など、好ましくはフェニル基やt-ブチル基またはn-ブチル基などの嵩高い分子が挙げられる。

【0024】
こうした構造的な特徴を有することにより、本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体及び8配位型の円偏光発光性希土類錯体は、高い円偏光発光性だけでなく、高い発光強度を示す。とりわけ、7配位型の円偏光発光性希土類錯体は、ジホスフィンオキシド配位子が単座の配位子として希土類イオンに結合することによって高い不斉性を有しており、そのために極めて高い円偏光発光性を示す。そのg値は、後述する実施例にて述べるように、希土類錯体が示すg値の世界最大値である約1.3(非特許文献1参照)を大幅に上回る。

【0025】
さらに、上記8配位型の円偏光発光性希土類錯体から7配位型の円偏光発光性希土類錯体を得る方法、及びそのメカニズムについて以下に説明する。

【0026】
上述したように、本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体及び8配位型の円偏光発光性希土類錯体は互変異性体の関係にある。これらの円偏光発光性希土類錯体を得るには、まず有機合成によって8配位型の円偏光発光性希土類錯体を作製後、これを所定の溶媒に溶解させることにより、7配位型の円偏光発光性希土類錯体に変化させる。その後、気化等によって溶媒を除去しても、円偏光発光性希土類錯体の配位型は変化しない。

【0027】
より具体的には、本発明に係る8配位型の円偏光発光性希土類錯体をケトン系溶媒に溶解すると、配位子であるジホスフィンオキシド配位子において、該配位子と希土類イオンとの2つの結合のうちの一方が切断される。そして、例えば
一般式(1)
【化1】
JP0005849255B2_000014t.gif
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、A1~A4は炭素数3~20の基を表し、R1~R2はN原子、O原子のいずれかを少なくとも1個含む5員環又は6員環の共役複素環を表す。)
で表されるように、結合が切断された側のP=O基のO原子が、結合が切断されない側のP原子と結合している共役複素環内のN原子又はO原子と結合し、4~6員環の環構造が形成される。このように、二座のジホスフィンオキシド配位子が二座から単座となることによって、7配位型の円偏光発光性希土類錯体が得られる。このメカニズムは以下のように推測される。

【0028】
一般的にケトン基のO原子は配位結合性を有し、その結合エネルギーはP=O基のO原子が有する配位結合性よりも大きいといわれている。8配位型の円偏光発光性希土類錯体をケトン系溶媒に溶解すると、溶媒分子中のケトン基のO原子が希土類イオンに作用することによって、P=O基のO原子の配位結合の一方が切断される。配位結合が切断された側のP=O基は、希土類イオンから遠ざかる。そして、このP=O基のO原子と、配位結合を維持する側のP原子と結合している共役複素環内のN原子又はO原子の間に相互作用が働き、両者は結合する。その結果、P原子、及び、共役複素環内のN原子又はO原子を含む環構造がジホスフィンオキシド配位子内に形成される。こうした環構造が形成されることにより、ジホスフィンオキシド配位子は単座の配位子となる。
本発明に係る円偏光発光性希土類錯体では、複素環として、平面系の構造を有し、嵩高くなく、且つ自由回転の可能な共役複素環を導入することにより、このような環構造の形成が容易に生じるようにしている。

【0029】
また、以下のようなメカニズムも推測することができる。
本発明の円偏光発光性希土類錯体は、非ケトン系溶媒中において、8配位型として安定的に存在する。この8配位型の円偏光発光性希土類錯体は、ケトン系溶液中においては、溶媒の触媒作用により錯体構造が7配位型の構造へと変化すると考えられる。ここでいう触媒作用とは、ケトン系溶液中が活性化状態において中心金属イオンに配位することで8配位型から7配位構造型への構造変化反応の活性化障壁を下げることを意味している。一方で、ケトン系溶媒以外の非配位性溶媒においてはこのような触媒作用が得られないため、円偏光発光性希土類錯体が8配位型として安定的に存在するものと考えられる。

【0030】
なお、上記ケトン系溶媒は、
一般式(12)
【化12】
JP0005849255B2_000015t.gif
(式中、E1~E2は同一又は異なる炭素数1~5の基を表す。)
で表される鎖状又は環状のケトン系溶媒であることが望ましい。

【0031】
逆に、7配位型の円偏光発光性希土類錯体を非ケトン系溶媒に溶解すると、8配位型の円偏光発光性希土類錯体へと変化する。
このような非ケトン系溶媒として、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、又は、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン系溶媒を使用することができる。

【0032】
また、ケトン系溶媒と非ケトン系溶媒を0:10~10:0の割合で混合した析出溶媒を調製し、本発明に係る7配位型の円偏光発光性希土類錯体又は8配位型の円偏光発光性希土類錯体又はこれらの混合物を溶解させ、前記析出溶媒を気化等によって除去することにより、7配位型の円偏光発光性希土類錯体及び8配位型の円偏光発光性希土類錯体を所望の比率で含む円偏光発光性希土類錯体群を得ることができる。
このようにして得られた円偏光発光性希土類錯体群は、7配位型及び8配位型の円偏光発光性希土類錯体が単独で示す円偏光発光性、又はその存在比率に対応した円偏光発光性を示す。
以下、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体(以下、「Ln(III)錯体」という)の具体的な実施例について述べる。
【実施例1】
【0033】
1.Ln(III)錯体の合成
図1(1)及び(2)に示す合成手順に従い、希土類イオンとしてEu(III)イオンを有するLn(III)錯体を合成した。図1及び以下の説明では、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
まず、酢酸ユウロピウムn水和物(658mg、2.0mmol)および蒸留水150mLを500mLナスフラスコに加え、酢酸ユウロピウムn水和物が溶解するまで超音波処理を施し、酢酸ユウロピウム水溶液を得た。L-facam(1120mg、4.5mmol)をメタノール30mLに溶かし、前記酢酸ユウロピウム水溶液に撹拌しながら加え、室温で12時間撹拌した。生成した黄色の沈殿を吸引ろ過により回収した後、蒸留水で洗浄し、得られた黄色の粉末を減圧下で乾燥させた。これにより、[Eu(L-facam)3(H2O)2]を得た(図1(1))。[Eu(L-facam)3(H2O)2]の収量は1.183gであり、収率は85%であった。
【実施例1】
【0034】
次に、得られた[Eu(L-facam)3(H2O)2](930mg、1.0mmol)、BIPYPO(558mg、1.0mmol)及びメタノール100mLを200mlナスフラスコに入れ、70℃で15時間撹拌した。撹拌後、減圧下で溶媒を留去し、淡黄色の固体を得た。得られた淡黄色の固体をヘキサンに溶解させ、不溶物をろ過により取り除いた後、減圧下でろ液から溶媒を留去し、淡黄色の固体を得た。これにより、[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]を得た(図1(2))。[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]の収量は1.325gであり、収率は91%であった。
【実施例1】
【0035】
さらに、得られた[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]約100mgを少量のアセトンに溶解し、その溶液が濁るまでヘキサンを加え、濁りが消えるまで加熱した後、室温で静置して結晶を析出させた。以下の説明では、この結晶を結晶(A)と呼ぶ。
また、得られた[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]約100mgをアセトニトリル約5mlに溶解し、その溶液が濁るまでヘキサンを加え、濁りが消えるまで加熱した後、室温で静置して結晶を析出させた。以下の説明では、この結晶を結晶(B)と呼ぶ。
【実施例1】
【0036】
2.Ln(III)錯体の同定
得られた結晶(A)及び結晶(B)をESI-MASS(エレクトロスプレー質量分析)及びX線結晶構造解析で同定した。ESI-MASSは日本電子株式会社(JEOL)製のJMS-700、MStationを用いた。また、X線結晶構造解析には株式会社リガク製の有機低分子X線構造解析装置(Rapid)を用いた。
ESI-MASSの結果を以下に示す。

【実施例1】
【0037】
(1) 結晶(A)
ESI-MASS(m/z):[M-(facam)]+ calcd. for C58H54Eu1F6N2O6P2+, 1201.25597、found, 1201.25605
(2) 結晶(B)
ESI-MASS(m/z):[M-(facam]+ calcd. for C58H54Eu1F6N2O6P2+, 1201.25597、found, 1201.25612
【実施例1】
【0038】
また、結晶(A)及び結晶(B)のX線結晶構造解析の結果を図2A及び図2Bに示す。
ESI-MASSの結果及びX線結晶構造解析の結果から、得られた結晶(A)は図3Aに示す7配位型のEu(III)錯体であり、結晶(B)は図3Bに示す8配位型のEu(III)錯体であるといえる。この結果より、本実施例に係るEu(III)錯体は、溶媒条件によって配位数が変化することが示された。図2Bの、右端の2本の短い構造体は、結晶中に存在する溶媒のアセトニトリルである。このような溶媒は、いわゆる結晶水のように、結晶の錯体間の隙間を埋めるように存在し、必ずしも錯体の構造にかかわらないものである。
【実施例1】
【0039】
そこで、[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]7.25mgを以下に示す溶媒5mLに溶解し、1mMのEu(III)錯体溶液(C)~(H)を作製して、各種試験に供した。
Eu(III)錯体溶液(C):アセトン(又は重アセトン-d6)
Eu(III)錯体溶液(D):メチルエチルケトン
Eu(III)錯体溶液(E):ジエチルケトン
Eu(III)錯体溶液(F):シクロヘキサノン
Eu(III)錯体溶液(G):アセトニトリル(又は重アセトニトリル-d3)
Eu(III)錯体溶液(H):ジメチルスルホキシド(又は重ジメチルスルホキシド-d6)
【実施例1】
【0040】
3.Eu(III)錯体溶液の発光スペクトル
各Eu(III)錯体溶液(C)~(H)の発光スペクトルを測定した。発光スペクトルの測定にはJASCOの分光蛍光光度計(FP-6500)を用いた。発光スペクトルの測定は、各Eu(III)錯体溶液(C)~(H)について、溶存酸素による消光を防ぐためにArバブリングを10分間行った後に行った。励起波長は365nmに設定した。Eu(III)錯体溶液(C)~(H)の発光スペクトルを図4に示す。
図4に示すように、いずれのEu(III)錯体溶液においても波長610~620nm付近において高い発光強度が観察された。また、特にEu(III)錯体溶液(C)において最も高い発光強度が観察された。
【実施例1】
【0041】
4.Eu(III)錯体溶液の円偏光発光性
Eu(III)錯体溶液(C)~(H)の円偏光発光性を求めるために、Eu(III)錯体溶液(C)~(H)のCPLスペクトルを測定した。代表としてEu(III)錯体溶液(C)のCPLスペクトルを図5に示す。
得られたCPLスペクトルの結果を基に、以下の式を用いてg値(gCD)を計算した。
CPLスペクトルからのg値=ΔI/I=2(IL-IR)/(IL+IR)
(式中、ILは左回りの円偏光発光強度、IRは右回りの円偏光発光強度を表す。)
g値の計算結果を以下に示す。
【実施例1】
【0042】
Eu(III)錯体溶液(C):-1.81
Eu(III)錯体溶液(D):-1.82
Eu(III)錯体溶液(E):-0.41
Eu(III)錯体溶液(F):-2.45
Eu(III)錯体溶液(G):-0.66
【実施例1】
【0043】
このように、溶媒としてアセトンを用いたEu(III)錯体溶液(C)、(D)、(F)では、絶対値1.8を上回る極めて大きなg値が観察された。一方、アセトニトリルを用いたEu(III)錯体溶液(G)では、ケトン系溶媒を用いた他のEu(III)錯体溶液に比べて小さなg値が観察された。溶媒としてジメチルスルホキシドを用いたEu(III)錯体溶液(H)については、測定中にサンプルの退色が観察されたため、g値を算出していない。
なお、ジエチルケトンを用いたEu(III)錯体溶液(E)が、他のケトン系溶媒を用いた溶液に比べて低いg値を示しているが、これは、ジエチルケトンの立体障害が大きく、Euイオンに配位しにくいためと考えられる。また、Eu(III)錯体溶液(F)のg値が理論値である2を超えているが、これは、当該溶液では左右円偏光のうち左円偏光の強度が極めて低く、そのためベースラインのノイズが左円偏光の強度に含まれているためと考えられる。
次に、本実施例に係るEu(III)錯体が示すg値の溶媒依存性について、以下に検証した。
【実施例1】
【0044】
5.Eu(III)錯体溶液のg値の溶媒依存性
[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]の1mM重アセトン溶液及び1mM重アセトニトリルをそれぞれ調製し、両溶液を適宜混合して、重アセトン:重アセトニトリル=100:0、63:37、35:65、0:100の計4種類の溶液を用意した。それぞれの溶液についてCPLスペクトルを測定し、g値を得た。その結果を図6に示す。
図6に示されるように、アセトン100%において-1.81という大きな絶対値のg値が示された。また、g値の絶対値は、アセトンの比率が下がるにつれて(即ち、アセトニトリルの比率が上がるにつれて)小さくなる傾向が認められ、アセトン0%(即ちアセトニトリル100%)では-0.66であった。
【実施例2】
【0045】
1.[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]の合成
上述した実施例1における[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]と同様の方法により、[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]を合成した。[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]及び[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]について、以下に述べる通り円偏光発光性を調べた。
【実施例2】
【0046】
2.[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]及び[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]の円偏光発光性
[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]及び[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]の円偏光発光性を求めるために、[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]及び[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]のCDスペクトル及びCPLスペクトルを測定した。
まず、[Eu(BIPYPO)(L-facam)3]及び[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]のアセトニトリル溶液(1.0× 10-5M)を調製し、CDスペクトルを測定した。その結果を図7に示す。
次に、[Eu(BIPYPO)(D-facam)3]のアセトン溶液、ジメチルスルホキシド溶液、アセトニトリル溶液及びメタノール溶液(いずれも重水素溶媒、1.0M)を調製し、CPLスペクトルを測定した。その結果を図8に示す。

【実施例3】
【0047】
1.[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の合成
[Eu(D-hfbc)3(H2O)2](1230mg、1.0mmol)、BIPYPO(558mgl、1.0mmol)及びメタノール100mLを200mlナスフラスコに入れ、70℃で15時間撹拌した。撹拌後、減圧下で溶媒を留去し、淡黄色の固体を得た。得られた淡黄色の固体をヘキサンに溶解させ、不溶物をろ過により取り除いた後、減圧下でろ液から溶媒を留去し、淡黄色の固体を得た。これにより、[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]を得た(図9)。[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の収量は1500mgであり、収率は83%であった。

【実施例3】
【0048】
2.[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の発光スペクトル
[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の発光スペクトルを測定した。
[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の1mM重アセトン溶液及び1mM重アセトニトリル溶液を調製し、それぞれの溶液を体積比1:0、3:1、1:1、1:3、0:1で混合した後、これらの混合溶液について発光スペクトルを測定した。この結果を図10に示す。
[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]溶液は、いずれの混合比率においても尖鋭な発光スペクトルを示したが、アセトニトリルの比率が高くなるほど高い発光強度を示した。
【実施例3】
【0049】
3.[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の円偏光発光性
[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]の1mM重アセトン溶液及び1mM重アセトニトリル溶液を調製し、それぞれの溶液を体積比1:0、3:1、1:1、1:3、0:1で混合した後、これらの混合溶液についてCPLスペクトルを測定した。この結果を図11に示す。
図11に示すように、[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]溶液は、アセトンの混合比率が低いほど(即ち、アセトニトリルの混合比率が高いほど)、高い円偏光発光性を示した。
また、上記混合溶液についてg値を求めた。アセトンの混合比率に対して相対発光強度 (Irel)及びg値をプロットしたグラフを図12に示す。
図12に示すように、[Eu(BIPYPO)(D-hfbc)3]は、アセトンの混合比率が高くなるほど(即ち、アセトニトリルの混合比率が低いほど)g値が小さくなる傾向を示した。これは、アセトン存在下における錯体構造とアセトニトリル存在下における錯体構造が、それぞれ異なる符号のCPLを示すためと考えられる。
【実施例3】
【0050】
これらの結果から明らかなように、上記各実施例に係るEu(III)錯体は、高い円偏光発光性だけでなく、高い発光強度を示した。また、アセトン等のケトン系溶媒とアセトニトリルの混合溶媒に上記実施例に係るEu(III)錯体を溶解して得たEu(III)錯体溶液は、混合溶媒中の混合比率に依存して異なるg値を示した。
【実施例3】
【0051】
なお、上述した各実施例では、Ln(III)イオンとしてEu(III)を用いたが、その他、Nd、Sm、Tb、Ybを適用することも可能である。希土類イオンを適宜変更することによって、発光色が異なる円偏光発光性希土類錯体を得ることができる。
【実施例3】
【0052】
また、上述した実施例では、まず8配位体の円偏光発光性希土類錯体を合成し、該錯体をケトン系溶媒に溶解することによって7配位型の円偏光発光性希土類錯体を得た。このように7配位型の円偏光発光性希土類錯体は8配位型の円偏光発光性希土類錯体を前駆体として作製することができる。また、上述した各円偏光発光性希土類錯体の合成例において、溶媒にケトン系溶媒を用いて合成を行えば8配位型を経ずに7配位型を作製することができる。7配位型の円偏光発光性希土類錯体はいずれの方法を用いても作製することが可能である。
【実施例3】
【0053】
次に、本発明の円偏光発光性希土類錯体を利用した光学機能材料の実施例をいくつか述べる。
本発明に係る円偏光発光性希土類錯体に一方の円偏光を吸収させれば、他方の円偏光を得ることができる。即ち、円偏光板などの円偏光フィルタと同じ役割を果たすことから、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体を円偏光フィルタに適用することが可能である。この円偏光フィルタは光多重通信など、広範な用途への適用が可能である。
また、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体は、セキュリティインクに適用することも可能である。
本発明の円偏光発光性希土類錯体は、上記のような光学機能材料について単独で用いることができるが、7配位型と8配位型を所望の比率で含む円偏光発光性希土類錯体群を用いても良い。このような円偏光発光性希土類錯体群を用いれば、所望の円偏光発光性を有する光学機能材料を提供することができる。
【実施例3】
【0054】
本発明の円偏光発光性希土類錯体を上記のような光学機能材料として用いる際は、その結晶を直接用いてもよいし、透明ポリマーや透明ガラスなどの透明固体担体に含有させてもよい。また、その結晶を溶媒に溶解、分散などさせて塗料とすることもできる。
【実施例3】
【0055】
本発明に係る円偏光発光性希土類錯体を含有させる透明ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネイト、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂などが例示され、好ましくはポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合体、エポキシ樹脂等を使用することができる。もちろん、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。
なお、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体を含む透明ポリマーは、公知の文献(Hasegawa, et al. Chem. Lett. 1999, 35.)に従い調製することができる。
【実施例3】
【0056】
本発明の円偏光発光性希土類錯体は、その中心イオンとしての希土類イオンの種類や配位子の種類によって発光色が異なる。従って、本発明の円偏光発光性希土類錯体の希土類イオンの種類を適宜選択することにより、様々な色の発光を示す光学機能性材料を作製することができる。また、発光色を変化させるために有機色素を混合しても良い。
【実施例3】
【0057】
本発明に係る円偏光発光性希土類錯体と共に溶解、分散させることのできる色素は、緑色系の色素としては、アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、及びピリジン-フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。また、赤色系の色素としては、アルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体、及びβ-ジケトネート、β-ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体などが挙げられる。さらに青色系の色素としては、アルカリ土類アルミネート系蛍光体、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラリゾン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。
円偏光発光性希土類錯体は一般にカチオン性であるので、本発明に係る円偏光発光性希土類錯体と共存させる色素としては、例えばアントラセン系色素のように炭素と水素だけで構成されている色素を用いることが好ましい。
【実施例3】
【0058】
本発明に係る円偏光発光性希土類錯体を溶解、分散させることのできる溶剤は、上記したケトン系及び非ケトン系の溶剤の他、アルコール系溶剤、エステル系溶剤或いはこれらの混合物であることが好ましい。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3A】
3
【図3B】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図12】
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【図11】
13