TOP > 国内特許検索 > セルロースへの吸着材 > 明細書

明細書 :セルロースへの吸着材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6192002号 (P6192002)
公開番号 特開2014-181227 (P2014-181227A)
登録日 平成29年8月18日(2017.8.18)
発行日 平成29年9月6日(2017.9.6)
公開日 平成26年9月29日(2014.9.29)
発明の名称または考案の名称 セルロースへの吸着材
国際特許分類 C07K  14/375       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C07K 14/375
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2013-058340 (P2013-058340)
出願日 平成25年3月21日(2013.3.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 日本農芸化学会2013年度大会講演要旨集(オンライン)にて公開。掲載年月日:平成25年 3月 5日 https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2013/
審査請求日 平成27年12月11日(2015.12.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】野▲崎▼ 功一
【氏名】天野 良彦
【氏名】水野 正浩
【氏名】西島 拓人
個別代理人の代理人 【識別番号】100142619、【弁理士】、【氏名又は名称】河合 徹
【識別番号】100153316、【弁理士】、【氏名又は名称】河口 伸子
【識別番号】100090170、【弁理士】、【氏名又は名称】横沢 志郎
審査官 【審査官】田ノ上 拓自
参考文献・文献 特表2007-517765(JP,A)
応用糖質科学, 2011年,第1巻, 第3号,p48, Cp-8
応用糖質科学, 2012年,第2巻, 第3号,p41, Cp1-4
Man5D [Phanerochaete chrysosporium], Accession No. ABG79370,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online],13-SEP-2007 uploaded,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ABG79370.1>, Retrieved 2016/09/14
BMC Genomics, 2012年,Vol.13, 605,p.1-15
Microbiol. Mol. Biol. Rev., 2006年,Vol.70, No.2,p.283-295
Functional studies and engineering of family 1 carbohydrate -binding modules,Royal Institute of Technology, Department of Biotechnology, Stochholm,2001年,p.1-54,ISBN 91-7283-152-9
Biotechnology Advances, 2002年,Vol.20,p.191-213
調査した分野 C07K 1/00-19/00
C12N 15/09
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
結合モジュールの立体構造上において、同一表面上に配置されたトリプトファンからなる第1芳香族アミノ酸、チロシンからなる第2芳香族アミノ酸、およびチロシンからなる第3芳香族アミノ酸と、該第3芳香族アミノ酸と隣り合うチロシンからなる第4芳香族アミノ酸とを備えた結合モジュールを備え、前記結合モジュールは、以下のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とするセルロースへの吸着材。
(N末端):Val Ala Glu Trp Gly Gln Cys Gly Gly Ile
Gly Phe Thr Gly Ser Thr Thr Cys Asp Ser
Pro Phe Val Cys Thr Val Ile Asn Ser Tyr
Tyr Tyr Gln Cys Leu:(C末端)
但し、Ala=アラニン、Asn=アスパラギン、Asp=アスパラギン酸、
Cys=システイン、Glu=グルタミン酸、Gln=グルタミン、
Gly=グリシン、Ile=イソロイシン、Leu=ロイシン、
Phe=フェニルアラニン、Pro=プロリン、Ser=セリン、Thr=トレオニン
Trp=トリプトファン、Tyr=チロシン、Val=バリン
【請求項2】
前記ポリペプチドは、以下の塩基配列を備えた遺伝子によってコードされることを特徴とする請求項1に記載のセルロースへの吸着材。
(5′末端):gtc gct gag tgg gga caa tgt ggt ggt atc
ggc ttc act ggc tct acc acg tgt gac tct
ccc ttt gtc tgc acg gtc atc aac agc tac
tac tat cag tgc ttg:(3′末端)
但し、a=アデニン、c=シトシン、g=グアニン、t=チミン
【請求項3】
組換えタンパク質のタグとして用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースへの吸着材。
【請求項4】
セルロースの酵素分解性の制御に用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースへの吸着材。
【請求項5】
セルラーゼに前記結合モジュールが付加されていることを特徴とする請求項1または2
に記載のセルロースへの吸着材。
【請求項6】
蛍光タンパク質に前記結合モジュールが付加されていることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースへの吸着材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のアミノ酸配列を有するタンパク質を利用した吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスの分野では、セルロース系バイオマスに対して高い糖化能を有する酵素に関して様々な技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。本発明者も、Irpex lacteus(ウスバタケ)が多種類のバイオマス分解酵素を生産することに着目し、各種酵素の役割や特性を調査して、バイオマスの分解に役立てるための技術を研究している。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2012-16329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、対象材料に対して高い吸着能を有する酵素であれば、対象材料近傍での酵素濃度が高くなるので、高い糖化能を発揮するという知見に基づいて、各種酵素の吸着能を検討している。その結果、バイオマス分野に限らず、ヒスチジンタグに対して同等以上のタグ等として利用できる結合モジュールを見出したので、かかる結合モジュールを備えた材料を疎水面に対する吸着材として用いることを提案する。すなわち、本発明の課題は、疎水面に高い吸着能を有するセルロースへの吸着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るセルロースへの吸着材は、結合モジュールの立体構造上において、同一表面上に配置されたトリプトファンからなる第1芳香族アミノ酸、チロシンからなる第2芳香族アミノ酸、およびチロシンからなる第3芳香族アミノ酸と、該第3芳香族アミノ酸と隣り合うチロシンからなる第4芳香族アミノ酸とを備えた結合モジュールを備え、前記結合モジュールは、以下のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とする。
(N末端):Val Ala Glu Trp Gly Gln Cys Gly Gly Ile
Gly Phe Thr Gly Ser Thr Thr Cys Asp Ser
Pro Phe Val Cys Thr Val Ile Asn Ser Tyr
Tyr Tyr Gln Cys Leu:(C末端)
但し、Ala=アラニン、Asn=アスパラギン、Asp=アスパラギン酸、
Cys=システイン、Glu=グルタミン酸、Gln=グルタミン、
Gly=グリシン、Ile=イソロイシン、Leu=ロイシン、
Phe=フェニルアラニン、Pro=プロリン、Ser=セリン、Thr=トレオニン
Trp=トリプトファン、Tyr=チロシン、Val=バリン
【0006】
本発明に係る吸着材において、結合モジュールは、アミノ酸配列中に、3つの芳香族アミノ酸(第1芳香族アミノ酸、第2芳香族アミノ酸、および第3芳香族アミノ酸)に加えて、第4芳香族アミノ酸を有している。このため、第1芳香族アミノ酸、第2芳香族アミノ酸、第3芳香族アミノ酸、および第4芳香族アミノ酸を含む結合モジュールは、疎水面と強く疎水結合し、疎水面を有する対象材料に強く吸着する。
【0008】
本発明において、前記酵素は、例えば、Irpex lacteus(ウスバタケ)等から生産される。
【0010】
また、前記ポリペプチドは、以下の塩基配列を備えた遺伝子によってコードされる
(5′末端):gtc gct gag tgg gga caa tgt ggt ggt atc
ggc ttc act ggc tct acc acg tgt gac tct
ccc ttt gtc tgc acg gtc atc aac agc tac
tac tat cag tgc ttg:(3′末端)
但し、a=アデニン、c=シトシン、g=グアニン、t=チミン
【0011】
本発明を適用した吸着材は、例えば、組換えタンパク質のタグや、セルロースの酵素分解性の制御に用いられる。また、本発明を適用した吸着材は、例えば、セルラーゼに前記結合モジュールが付加されている形態や、蛍光タンパク質に前記結合モジュールが付加されている形態で用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る吸着材において、タンパク質は、アミノ酸配列中に、3つの芳香族アミノ酸(第1芳香族アミノ酸、第2芳香族アミノ酸、および第3芳香族アミノ酸)に加えて、第4芳香族アミノ酸を有している。このため、第1芳香族アミノ酸、第2芳香族アミノ酸、第3芳香族アミノ酸、および第4芳香族アミノ酸を含む結合モジュールは、疎水面と強く疎水結合し、疎水面を有する対象材料に強く吸着する。従って、目的タンパク質の検出や精製、セルロースへの担持や結合等、各種用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】セルロースに吸着したタンパク質の電気泳動解析結果を示す説明図である。
【図2】IpxXyn10Bの全体のアミノ酸配列を他菌由来のキシラナーゼのアミノ酸配列と比較した説明図である。
【図3】CBM1をもつセルラーゼが対象材料に吸着している様子を模式的に示す説明である。
【図4】IpxXyn10B-CBM1の遺伝子配列(塩基配列)およびアミノ酸配列を示す説明図である。
【図5】IpxXyn10B-CBM1のアミノ酸配列とその他既知のCBM1のアミノ酸配列とを整列させて比較した説明図である。
【図6】各CBM1の吸着量の測定結果を示すグラフである。
【図7】各CBM1がセルロースに吸着している様子を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る吸着材は、図4等を参照して以下に説明するように、結合モジュールの立体構造上において、同一表面上に配置された第1、第2および第3芳香族アミノ酸と、該第3芳香族アミノ酸に近接する第4芳香族アミノ酸とをアミノ酸配列中に含む結合モジュールを有する。

【0015】
ここで、第1芳香族アミノ酸はトリプトファン、前記第2芳香族アミノ酸、前記第3芳香族アミノ酸および前記第4芳香族アミノ酸はチロシンである。かかる結合モジュールは、例えば、酵素に含まれており、この場合、アミノ酸配列および酵素の遺伝子の塩基配列は、上記の化学式で表される。

【0016】
(検討経過)
図1は、セルロースに吸着したタンパク質の電気泳動解析結果を示す説明図である。なお、図1において、1は培養液の結果、2は非吸着画分、3は吸着したタンパク質を4℃で溶出させた画分、4は吸着したタンパク質を37℃で溶出させた画分、5は3および4の条件でも溶出しなかった画分である。Mは分子量マーカー、矢印は、本発明において吸着材として利用される結合モジュールを含むタンパク質(IpxXyn10B)のバンドである。

【0017】
本発明者は、木材腐朽菌である担子菌が生産するセルロース分解酵素の機能解明を進める中で、セルロースに特異的に高吸着力で吸着する新規なCarbohydrate-binding module family1(結合モジュール/以下CBM1と略す)を発見した。その発見の経緯は、以下の通りである。

【0018】
まず、Irpex lacteus(ウスバタケ)は、多種類のバイオマス分解酵素を生産する。本発明者は、各酵素の役割や特性を調査して、バイオマスの分解に役立てるにあたって、本菌の培養液をセルロースに吸着させ、その中に機能未知でセルロース分解に役立つタンパク質が存在する可能性があると仮定し、実験を行った。その結果、図1に示すように、吸着した成分の中には、既知のセルラーゼ成分の他に、非常に強い吸着力を有するタンパク質が存在することを発見した。これを単離し、そのアミノ酸配列を決定したところ、N末端側からVal-Ala-Glu-Trp-Gly-Gln-Cys-Gly-Gly-Ile-Glyであることが判明した。そこで、上記の配列を我々が決定し保有する本菌の全遺伝子配列(ドラフトゲノム配列)と比較したところ、Xylanase10B(キシラナーゼの1種、以下、IpxXyn10Bと略す。)の配列と完全一致していることを見出した。IpxXyn10Bはアミノ酸配列から存在が予測される酵素(ヘミセルラーゼ群に属するキシラナーゼという酵素)である。

【0019】
(IpxXyn10B全体の構造)
図2は、IpxXyn10Bの全体のアミノ酸配列を他菌(Trichoderma reesei Xylanase 3 [TrXyn3]、Agaricus bisporus Xylanase1 [Xyl1]、Penicillium citrinum Xylanase B [peniXynB])由来のキシラナーゼのアミノ酸配列と比較した説明図である。図2には、糸状菌由来のGH10に属するキシラナーゼのアミノ酸配列を1文字表記で表してあり、最上列がIpxXyn10Bであり、1段目にCBM1が存在する。2~5段目は、触媒領域に相当し、他菌由来の酵素とアミノ酸配列が類似している。なお、黒く塗りつぶした箇所は、共通するアミノ酸残基を示す。図3は、CBM1をもつ酵素が対象材料に吸着している様子を模式的に示す説明である。なお、IpxXyn10Bが有するCBM1をIpxXyn10B-CBM1と略す。

【0020】
図2からわかるように、IpxXyn10Bは、他の酵素と異なり、この中では唯一、N末端側にCBM1をもつ。C末端側の触媒領域(Catalytic domain)は他菌由来のキシラナーゼと相同性が高いことが分かった。ここで、他のキシラナーゼではセルロースに高吸着することが報告されていないことから、IpxXyn10Bにだけ存在するCBM1がセルロースへの高吸着力に関与していることがわかる。CBM1をもつ酵素が対象材料に吸着している様子は、図3に模式的に示すように理解される。

【0021】
(IpxXyn10B全体の構造)
図4は、IpxXyn10B-CBM1の遺伝子配列(塩基配列)およびアミノ酸配列を示す説明図である。図5は、IpxXyn10B-CBM1のアミノ酸配列とその他既知の酵素(Ex-1、Ex-4、En-1、EG-1、CBHII、Xylanase、Xyn-1、Xy1D、Man5D)のCBM1のアミノ酸配列とを整列させて比較した説明図である。なお、図5においては、チロシン(芳香族アミノ酸)を「Y」で示し、トリプトファン(芳香族アミノ酸)を「W」で示してある。

【0022】
図4に示すように、IpxXyn10Bは、キシラナーゼの中でもCBM1が存在する独特の構造を持つ。CBM1は糸状菌のセルロース分解系酵素やタンパク質に広く一般的に存在するものであり、セルロースに吸着する役割を果たす。すなわち、可溶性の酵素を不溶性のセルロース表面に集め、酵素の反応を効率よく進めるために存在することが分かっている。糸状菌の大部分のセルラーゼにはCBM1が存在し、セルラーゼの他にもセルロースの代謝に関連するタンパク質や一部のヘミセルラーゼにも存在することが知られている。

【0023】
図4からわかるように、いずれのCBM1も約30数残基のアミノ酸から構成されており、類似性が非常に高い。他のCBM1の研究から、主にその中の芳香族アミノ酸(Trp/トリプトファン/W)、および芳香族アミノ酸(Tyr/チロシン/Y)がセルロースの疎水面と疎水結合によって結合することが分かっている。これら3つのアミノ酸残基は、IpxXyn10B-CBM1にも存在している。さらに、IpxXyn10B-CBM1には、3つのアミノ酸残基(W-YY)に加えて、付加的な芳香族アミノ酸(Tyr/第4芳香族アミノ酸/Y)が存在することを見い出した。すなわち、IpxXyn10Bは、結合モジュールの立体構造上において、同一表面上に配置された第1芳香族アミノ酸(トリプトファン、Trp)、第2芳香族アミノ酸(チロシン、Tyr)および第3芳香族アミノ酸(チロシン、Tyr)と、第3芳香族アミノ酸に近接する第4芳香族アミノ酸(チロシン、Tyr)をアミノ酸配列中に含む結合モジュール(IpxXyn10B-CBM1)を有するタンパク質(酵素)からなる。従って、一般的なアミノ酸のCBM1は、W-YY型やW-WY型であるのに対して、IpxXyn10B-CBM1はW-YYY型であり、これがIpxXyn10B-CBM1がセルロースに高吸着する要因になっているといえる。よって、本発明では、IpxXyn10B、あるいはIpxXyn10B-CBM1を有するタンパク質(酵素)を吸着材として利用する。

【0024】
(IpxXyn10B-CBM1のセルロースに対する吸着性の評価結果)
IpxXyn10B-CBM1(W-YYY型)、および通常のCBM1(アラゲカワラタケ由来EG1のCBM1/W-YY型)に緑色蛍光タンパク質(GFP)を連結した融合タンパク質を遺伝子操作によって作製し、各CBM1のセルロースへの吸着量を蛍光強度から測定した。その結果を図6に示す。図6は、各CBM1の吸着量の測定結果を示すグラフである。なお、図6において、黒丸および線L1はIpxXyn10B-CBM1の結果を示し、黒四角および線L2は通常のCBM1の結果を示す。また、白三角および線L3は、IpxXyn10B-CBM1に特徴的なアミノ酸残基(W-YYY型のY)を遺伝子操作によってS(Ser)に変化させたW-YYS型の変異体(IpxXyn10B-CBM1/Y52S)の結果を示す。

【0025】
図6からわかるように、IpxXyn10B-CBM1のW-YYY型のYが高吸着能に強く関与していることがわかる。すなわち、IpxXyn10B-CBM1のセルロースへの吸着能力は、通常のCBM1と比較して、最大吸着量(Wmax)で2倍以上、吸着親和度(Kad)で約3倍の値を示した。また、IpxXyn10B-CBM1に特徴的な付加的なアミノ酸残基(W-YYY型のY)を遺伝子操作によってS(Ser)に変化させた変異体(IpxXyn10B-CBM1/Y52S)は、通常のCBM1と同様の吸着性を示した。このことから、IpxXyn10B-CBM1のW-YYY型のYが高吸着能に強く関与していることがわかる。

【0026】
(IpxXyn10B-CBM1のセルロースに対する吸着性)
図7は、各CBM1の立体構造を模式的に示す説明図であり、図7(a)、(b)は、IpxXyn10B-CBM1の説明図、および通常のCBM1の説明図である。

【0027】
W-YYY型CBM1(IpxXyn10B-CBM1)が高吸着能を有する理由としては、以下のように考えられる。まず、通常のCBM1(W-YY型)の芳香族アミノ酸残基3つに加えて、IpxXyn10B-CBM1に付加的なアミノ酸残基(Y)もまたセルロースと直接的に疎水結合を形成している可能性がある。この場合、合計4つの芳香族アミノ酸は共に1つのセルロース分子に結合している場合と、あるいは付加的なYがW-YYが結合するセルロース分子と隣接する他のセルロース分子に結合している場合とが考えられる。

【0028】
また、図7(b)に示すように、通常のCBM1では、3つの芳香族アミノ酸がセルロースに疎水吸着しているだけであるのに対して、図7(a)に示すIpxXyn10B-CBM1では、4つの芳香族アミノ酸において、W-YYY型のN末端側から第4番目のY(第4芳香族アミノ酸)がN末端側から第3番目のY(第3芳香族アミノ酸)と重なって、疎水結合力を強くしている可能性もある。この場合、2つのY(第3芳香族アミノ酸および第4芳香族アミノ酸)が重なり合うことで、そこから生じる疎水結合力が増強されることになる。

【0029】
(IpxXyn10B-CBM1の用途)
IpxXyn10B-CBM1は、まず、組換えタンパク質のタグとして利用することができる。より具体的には、従来のヒスチジン系のタグや、GST(Glutathione S-transferase)系のタグのように、タンパク質の末端にIpxXyn10B-CBM1を遺伝子工学技術で連結させることで、目的タンパク質の検出、精製、セルロースへの担持・結合が可能になる。この場合、ヒスチジン系のタグでは、特殊で高価な担体(樹脂)や溶液を用いて吸着と脱離を行う必要があるという欠点を有していたが、IpxXyn10B-CBM1を利用したタグは、安価なセルロースを担体とし、高塩濃度で吸着し、水で簡単に溶出が可能であるという利点を有する。

【0030】
また、CBM1がない酵素や、従来のCBM1を有する酵素にIpxXyn10B-CBM1を連結させた酵素を作製し、セルロースへの吸着性を増加させることが可能である。かかる構成によれば、セルロースの酵素分解性を制御することが可能となる。

【0031】
さらに、他の酵素にIpxXyn10B-CBM1を連結させ、セルラーゼ(酵素)を用いたバイオエタノールの製造工程において、酵素の回収と再利用に利用することができる。すなわち、セルロース以外の反応残渣に強く吸着して離れにくい酵素や、何にも吸着しない酵素にIpxXyn10B-CBM1を連結させれば、容易にセルロースへの吸着と脱離が可能となるので、回収が容易となる。

【0032】
さらにまた、IpxXyn10B-CBM1はセルロース表面構造の評価にも利用できる。すなわち、蛍光タンパク質などと融合することにより、CBM1の結合の有無や結合量によって、セルロース表面の露出度や性状を視覚的に評価することが可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6