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明細書 :フレキシブル配線基板の実装構造及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6226262号 (P6226262)
公開番号 特開2014-192208 (P2014-192208A)
登録日 平成29年10月20日(2017.10.20)
発行日 平成29年11月8日(2017.11.8)
公開日 平成26年10月6日(2014.10.6)
発明の名称または考案の名称 フレキシブル配線基板の実装構造及びその製造方法
国際特許分類 H05K   1/09        (2006.01)
H05K   3/20        (2006.01)
FI H05K 1/09 A
H05K 3/20 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2013-063891 (P2013-063891)
出願日 平成25年3月26日(2013.3.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成24年12月13日淡路夢舞台国際会議場において開催されたICNME2012で発表
特許法第30条第2項適用 第60回応用物理学会春季学術講演会予稿集(平成25年3月11日)公益社団法人応用物理学会発行第12頁~第264頁に発表
審査請求日 平成28年3月10日(2016.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】伊東 栄次
審査官 【審査官】内田 勝久
参考文献・文献 特開2012-004547(JP,A)
特開2012-084392(JP,A)
国際公開第2012/086174(WO,A1)
調査した分野 H05K 1/09
H05K 1/16
H05K 3/10 ~ 3/26
H05K 3/38

特許請求の範囲 【請求項1】
フィルム基板に設けられた配線に電気的に接続して素子が搭載されたフレキシブル配線基板の実装構造であって、
前記素子が正孔をキャリアとする素子であり、
前記配線が、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなり、
前記配線に接続される、前記素子の正孔の注入・取出しに関わる電極が、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなることを特徴とするフレキシブル配線基板の実装構造。
【請求項2】
前記ナノメタルがAgナノメタルであり、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であることを特徴とする請求項1載のフレキシブル配線基板の実装構造。
【請求項3】
フィルム基板に設けられた配線に電気的に接続して、正孔をキャリアとする素子が搭載され、前記配線がナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる、フレキシブル配線基板の実装構造の製造方法であって、
前記素子の正孔の注入・取出しに関わる電極を作成する工程として、
前記電極に対応する部位が凸部となるように凹凸形成されたスタンパにカーボンナノチューブの分散液を供給し、次いでナノメタルインクを供給した後、
カーボンナノチューブの分散液とナノメタルインクを前記スタンパから前記素子の前記電極を形成する部位に転写して、前記電極を形成することを特徴とするフレキシブル配線基板の実装構造の製造方法。
【請求項4】
フィルム基板に設けられた配線に電気的に接続して、正孔をキャリアとする素子が搭載され、前記配線がナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる、フレキシブル配線基板の実装構造の製造方法であって、
前記素子の正孔の注入・取出しに関わる電極と前記配線とを作成する工程として、
前記電極に対応する部位と、前記配線に対応する部位とが凸部となるように凹凸形成されたスタンパにカーボンナノチューブの分散液を供給し、次いでナノメタルインクを供給した後、
カーボンナノチューブの分散液とナノメタルインクを前記スタンパから前記素子の電極を形成する部位と前記配線を形成する部位に転写して、前記電極と前記配線とを形成することを特徴とするフレキシブル配線基板の実装構造の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブル配線基板の実装構造に関し、とくにフレキシブル配線基板に電子部品を実装する実装構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機系の材料からなるフィルム基板は、太陽電池、有機EL、有機トランジスタ、記憶素子、センサ等の様々なエレクトロニクス製品の基材として使用されている。これらの製品に用いられている有機系のフィルム基板は、きわめて薄く形成することができ軽量化を図ることができ、可撓性に優れ、曲げたり、丸めたり、巻き取ったり、伸ばしたりすることができるという特性を有している。
【0003】
フレキシブル配線基板に設けられる配線には、通常、Cu、Ag、Au、等の導電性の良い材料が用いられる。これらの配線を形成する方法には、めっき法、印刷法、スパッタリング法等の種々の方法が利用されている。
本発明者は、基材の表面に導体パターンを形成する方法として、ナノメタルインクとナノカーボン分散液を用いて転写する方法により、カーボンナノチューブとナノメタルとの複合材からなる導体パターンを形成する方法を提案した(特許文献1)。Cu、Ag等の導体材料とカーボンナノチューブとを複合化した配線を形成する方法としてはめっき法によりめっき金属とカーボンナノチューブとを複合化する方法(特許文献2)、カーボンナノチューブを含む導電性ペーストを使用するもの(特許文献3)等がある。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2012-4547号公報
【特許文献2】特開2010-27916号公報
【特許文献3】特開2010-165594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フレキシブル配線基板では、基板を大きく曲げ過ぎてしまったり、何回も曲げたりした場合に、フィルム基板に形成した配線が断線することが問題となっている。
また、フレキシブル配線基板は薄く形成できることが特徴であるが、そのためにはフィルム基板とともに配線の厚さを薄くしなければならない。しかしながら、配線の厚さを薄くすると、抵抗が大きくなり、耐電流密度が低くなって発熱や断線の原因となるという問題がある。
また、有機系材料を用いるタッチパネルなどの操作用には、透明電極が不可欠であるが、透明電極用として多用されている酸化物は曲げによって割れやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、有機系材料をフィルム基板とすることによる可撓性等の特徴を損なうことなく、併せて優れた電気的特性を備えるフレキシブル配線基板の実装構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
レキシブル配線基板は、可撓性を有するフィルム基板に、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる配線が設けられていることを特徴とする。ナノメタルにはAg、Au、Cu等のナノメタルを使用することができる。カーボンナノチューブには多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブを使用することができる。ナノカーボン材としてグラフェンを使用することも可能である。
前記配線が、ナノメタルとしてAgナノメタルを使用し、カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を使用した複合材からなるものは、配線の可撓性、耐電流特性等の優れた特性を備える点で好適である。また、コスト面からもMWCNTはSWCNT(単層カーボンナノチューブ)やDWCNT(二層カーボンナノチューブ)の100分の1程度で済み、かつ直径が100nm未満の細いMWCNTであれば上述の柔軟性を満足し、耐電流特性においても優れている。
【0008】
前記配線は、転写法、印刷法、めっき法等によって形成することができるが、前記配線が、配線パターンにしたがって表面に凹凸形状が形成されたスタンパを用いる転写法により形成されたものであり、前記スタンパにカーボンナノチューブ分散液を供給し、さらにスタンパにナノメタルインクを供給した後、カーボンナノチューブを含浸するナノメタルインクを前記フィルム基板に転写して形成したものは、ナノメタルと十分な量のカーボンナノチューブとを複合化させることができ、配線の厚さの制御も可能であり、可撓性等の物理特性と、耐電流密度等の電気的特性の優れた配線とすることができる。
【0009】
本発明に係るフレキシブル基板の実装構造は、フィルム基板に設けられた配線に電気的に接続して素子が搭載されたフレキシブル配線基板の実装構造であって、前記素子が正孔をキャリアとする素子であり、前記配線が、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなり、前記配線に接続される、前記素子の正孔の注入・取出しに関わる電極が、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなることを特徴とする。
前記ナノメタルがAgナノメタルであり、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であることにより、素子との接続電極における正孔障壁を低くすることができ、正孔をキャリアとする半導体を含む素子を搭載することにより、低電圧動作を可能とし、エネルギー損失を抑えることが可能となる。
また、本発明に係るフレキシブル配線基板の実装構造の製造方法は、フィルム基板に設けられた配線に電気的に接続して、正孔をキャリアとする素子が搭載され、前記配線がナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる、フレキシブル配線基板の実装構造の製造方法であって、前記素子の正孔の注入・取出しに関わる電極を作成する工程として、前記電極に対応する部位が凸部となるように凹凸形成されたスタンパにカーボンナノチューブの分散液を供給し、次いでナノメタルインクを供給した後、カーボンナノチューブの分散液とナノメタルインクを前記スタンパから前記素子の前記電極を形成する部位に転写して、前記電極を形成することを特徴とする。
また、前記素子の正孔の注入・取出しに関わる電極と前記配線とを作成する工程として、前記電極に対応する部位と、前記配線に対応する部位とが凸部となるように凹凸形成されたスタンパにカーボンナノチューブの分散液を供給し、次いでナノメタルインクを供給した後、カーボンナノチューブの分散液とナノメタルインクを前記スタンパから前記素子の電極を形成する部位と前記配線を形成する部位に転写して、前記電極と前記配線とを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
発明に係るフレキシブル配線基板の実装構造によれば、配線をナノメタルとカーボンナノチューブとの複合配線としたことにより、配線材としての抵抗を小さくすることに加えて、素子と接続電極との接触抵抗が小さくなり、低電圧駆動を可能にし、動作時におけるエネルギー損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フレキシブル配線基板の製造方法を示す説明図である。
【図2】繰り返し折り曲げ試験方法を示す説明図である。
【図3】繰り返し折り曲げ試験結果を示すグラフである。
【図4】フレキシブル配線基板の折り曲げ試験方法を示す写真である。
【図5】破壊電流試験の試験方法を示す説明図である。
【図6】ポリイミドフィルム上に配線を形成したサンプルの耐電流特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】PENフィルム上に配線を形成したサンプルの耐電流特性の測定結果を示すグラフである。
【図8】ポリイミドフィルムを用いたサンプルの耐電流試験後の状態を示す写真である。
【図9】PENフィルムを用いたサンプルの耐電流試験後の状態を示す写真である。
【図10】フィルム基板上にゲートとゲート絶縁層を形成するまでの工程を示す説明図である。
【図11】ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタの作製工程を示す説明図である。
【図12】トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタの作製工程を示す説明図である。
【図13】Ag電極とAg/MWCNT電極を使用した場合のエネルギーダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(フレキシブル配線基板の製造方法)
本発明に係るフレキシブル配線基板は、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材によって配線が形成されている。図1は、このナノメタルとカーボンナノチューブとを複合化した配線(複合配線)を備えるフレキシブル配線基板の製造方法を示す。本実施形態の製造方法は、配線パターンにしたがって表面を凹凸面としたスタンパを使用し、転写法により配線を形成する。

【0013】
図1(a)は、配線パターンにしたがって表面に凹凸形状を形成したスタンパ10にカーボンナノチューブ分散液13を供給した状態を示す。スタンパ10は、ガラス基板11の表面にPDMS(ポリジメチルシロキサン)膜12を所定の凹凸形状に熱硬化させて形成する。カーボンナノチューブ分散液13は、スピンコートやディップコート法等によりスタンパ10に供給する。カーボンナノチューブ分散液13には、スタンパ10のPDMS膜12となじみのよい分散溶剤、たとえばIPA(イソプロパノール)を使用する。IPAはスタンパ10となじみがよく、かつスタンパ10を膨潤させたりするという問題がない。

【0014】
スタンパ10にカーボンナノチューブ分散液13を供給した後、さらにナノメタルインク14を供給する(図1(b))。ナノメタルインク14はスピンコート法、ディップ法等によって供給することができる。本実施形態では、ナノメタルインク14としてAgナノメタルインクを使用した。図1(b)では、カーボンナノチューブ分散液13とナノメタルインク14が積層されているように描いているが、実際にはナノメタルインク14はカーボンナノチューブ分散液13と混じり合う。

【0015】
次に、スタンパ10からフィルム基板16に転写する工程に進む(図1(c))。カーボンナノチューブ分散液13とナノメタルインク14が供給されたスタンパ10をフィルム基板16に押接し、加圧しながら加熱する(100℃程度)することにより、1分程度で転写することができる。
図1(d)は、フィルム基板16にカーボンナノチューブ分散液13とナノメタルインク14とを転写した後、ナノメタルインクを焼成する処理(150~230℃加熱)を行い、フィルム基板16の表面にカーボンナノチューブとナノメタルとが複合化された配線17を形成した状態を示す。カーボンナノチューブ分散液13とナノメタルインク14とを転写した後、熱処理を施すことによって、分散剤や溶媒が散失して配線17は、カーボンナノチューブとナノメタル(Agナノメタル)との複合材から構成されるものとなり、フィルム基板16上に所定のパターンに配線17が形成されたフレキシブル配線基板18が得られる。

【0016】
(フレキシブル配線基板)
上記実施形態において説明したフレキシブル配線基板18は、可撓性を有するフィルム基板16上にナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる配線17を形成したものである。上記実施形態では、ナノメタルインクとしてAgナノメタルインクを使用したが、Ag以外のCu、Au等のナノメタルを用いたナノメタルインクを使用することもできる。
また、上記実施形態では、転写法を利用してナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる配線を形成したが、フィルム基板上に配線を形成する方法は転写法に限るものではなく、スクリーン印刷法やインクジェット法、めっき法等を利用することもできる。

【0017】
カーボンナノチューブとナノメタルの複合材からなる配線を形成する際に、上記実施形態のように、カーボンナノチューブ分散液を供給する工程と、ナノメタルインクを供給する工程との2工程として配線を形成する方法は、ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合配線中に十分な量のカーボンナノチューブを供給できるという利点がある。ナノメタルインクとカーボンナノチューブとを単に混合する方法の場合は、カーボンナノチューブと比べて圧倒的にAgの重量比が大きいためにカーボンナノチューブの配合量を確保することができない。また、カーボンナノチューブ分散液を供給する方法であれば、カーボンナノチューブ分散液中のみでカーボンナノチューブの分散性を考慮するだけでよく、カーボンナノチューブを均一に分散させることができるという利点もある。

【0018】
また、本方法によれば、比較的安価なMWCNTを配線中に十分な量供給することにより、フレキシブル配線基板の物理的特性と電気的特性を容易に向上させることができるという利点もある。
上記実施形態では、カーボンナノチューブ分散液を供給する操作を1回としているが、カーボンナノチューブ分散液を供給する操作を複数回繰り返すことによって、スタンパに供給するカーボンナノチューブの量を増やすことができ、このような方法を利用することによって配線中のカーボンナノチューブの量比をかなりの精度で制御することも可能である。フレキシブル配線基板の特定の電気的特性あるいは機械的特性が、配線中におけるカーボンナノチューブの量比に依存するような場合には、カーボンナノチューブの量比を精度よく制御できることは有用である。

【0019】
(折り曲げ試験)
上記実施形態と同様の方法により、カーボンナノチューブとAgナノメタルの複合材からなる導体パターンを備えるフレキシブル基板ついて折り曲げ試験を行った。試験に使用したフィルム基板はポリイミドフィルム(大きさ25×40mm、厚さ0.038mm)である。導体パターンは基板フィルムの長手方向に平行に線幅0.5mm、パターン間隔1mm、厚さ300~600nmで10本設けた。
なお、比較例として、実施例と同一のフィルム基板を使用し、Agナノメタルのみを用いて導体パターンを形成したフレキシブル基板を作製して折り曲げ試験を行った。
折り曲げ試験は図2に示すように、半径3mmの固定円柱体と、半径3mmの回転円柱体とでフレキシブル配線基板を挟圧し、回転円柱体を一方向と他方向に交互に回転方向を反転させながら湾曲させる操作を繰り返し行って、フィルム基板に形成した導体パターンの抵抗がどのように変化するかを測定したものである。

【0020】
図3は、繰り返し折り曲げ試験結果を示す。横軸が折り曲げ回数、縦軸が導体パターンの抵抗値である。折り曲げ回数は10万回まで行い、測定開始初期と終期での抵抗値を測定した。Agナノメタルのみからなる導体パターンを形成した比較例のフレキシブル基板について、3割近くが1万回以内に抵抗が2桁以上増加した。10万回の折り曲げ試験後のサンプルを調べたところ、複数本設けた導体パターンのうちの一部は初期値の2~3倍になり、3~4割程度は断線した。残りの2割程度は2桁以上抵抗が増加した。また、導体パターンのうち一部のものは、試験開始後すぐに抵抗が増加し、断線した。
一方、Agナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる導体パターンを形成したフレキシブル配線基板(実施例)については、10万回の折り曲げ試験後も、導体パターンの断線がほとんど発生せず、折り曲げ試験により抵抗値が増加した場合も、高々2.5倍程度であった。

【0021】
この折り曲げ試験結果は、曲率半径3mmの厳しい曲げ試験であるが、Agナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる導体パターンが折り曲げによる断線にきわめて高い耐久性を備えることを示している。これは、Ag粒界での断線をカーボンナノチューブがつなぐ作用により優れたフレキシブル性がもたらされたものと考えられる。

【0022】
次に、フレキシブル配線基板を折り紙のように曲げたときの機能について調べた。
図4(a)は、直径5mmの棒にフレキシブル配線基板をしっかり巻きつけるようにして折り曲げた状態、図4(b)は、厚さ1mmの板のエッジを用いてフレキシブル配線基板を折り曲げた状態、図4(c)はプラスチック板で押さえつけるようにして完全に折り曲げた状態を示す。使用したサンプルは、厚さ0.125mmのポリイミドフィルムに、幅0.5mm、厚さ約0.3μmのAgナノメタルとカーボンナノチューブの複合配線を形成したもの(実施例)と、Agナノメタルからなる配線を形成したもの(比較例)である。
表1に図4(a)、(b)、(c)の折り曲げ操作を行ったときの抵抗値の測定結果を示す。

【0023】
【表1】
JP0006226262B2_000002t.gif

【0024】
表1に示すように、曲げ1、曲げ2とも、Agナノメタルとカーボンナノチューブの複合配線を形成したものは比較例よりも明らかに抵抗増加が抑えられている。また、完全に折り曲げた状態でも、複合配線による実施例については、配線の破断が1本のみであり、抵抗値の増加を比較しても、実施例のフレキシブル配線基板は曲げに強いことがわかる。

【0025】
(耐電流試験)
Agナノメタルとカーボンナノチューブ(MWCNT)との複合配線を形成したフレキシブル配線基板のサンプル(実施例)と、Agナノメタルのみからなる配線を形成したサンプル(比較例)について耐電流特性を調べた。使用したサンプルは、厚さ0.125mmのポリイミドフィルムと厚さ0.125mmのPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムからなるフィルム基板に前述した方法によって配線を形成したものである。配線幅0.5mm、配線の厚さ0.3~0.6μmである。

【0026】
図5に耐電流試験の試験方法を示す。耐電流試験はフレキシブル配線基板に形成した配線にプラス極とマイナス極の電極を接触させ、配線が破断するときの電流値(破壊電流)を測定する方法で行った。
図6は、ポリイミドフィルム上に配線を形成したサンプル、図7はPENフィルム上に配線を形成したサンプルについての耐電流特性の測定結果を示す。

【0027】
図6から、Agナノメタルからなる配線の耐電流密度は、3×105~6×105[A/cm2]であり、AgナノメタルとMWCNTとの複合配線の耐電流密度は、5.8×105~7.1×105[A/cm2]である。図7から、Agナノメタルからなる配線の耐電流密度は、2.5×105~6.4×105[A/cm2]であり、AgナノメタルとMWCNTとの複合配線の耐電流密度は、5×105~6.5×105[A/cm2]である。
これらの測定結果は、Agナノメタルのみからなる配線を形成したものは、抵抗値のばらつきが大きいのに対して、AgナノメタルとMWCNTとの複合配線を形成したものは、ばらつきが小さく、抵抗値が低い数値にまとまっていることを示す。
また、複合配線を形成したものは、Agナノメタルのみからなるものと比較して耐電流密度が高い値を示している。これは、カーボンナノチューブの優れた耐電流特性を反映していると考えられる。したがって、複合配線からなるものは、配線パターンの厚さを薄くしても配線不良が発生しにくくなる。

【0028】
図8、9は耐電流試験後のサンプルの写真である。図8はポリイミドフィルム上に複合配線を形成したもの、図9はPENフィルム上に複合配線を形成したものである。
図6、7に示すように、ポリイミドフィルム上に配線を形成したものの方がPENフィルム上に配線を形成したものと比較して耐電流密度が高くなっている。これは、ポリイミドフィルム(耐熱温度~300℃)の方がPENフィルム(耐熱温度150~180℃)よりも耐熱温度が高いためと考えられる。図9のPENフィルムを用いたものでは、フィルムが溶けたことによって断線が生じたことを示している。

【0029】
(フレキシブル配線基板を用いる実装構造)
フレキシブル配線基板には半導体素子、センサ素子といった種々の電子部品を搭載することができる。これらの電子部品はフレキシブル配線基板に形成されている配線と電気的に接続して実装されるのであるが、有機薄膜トランジスタや有機太陽電池、有機EL素子といった素子は電流を注入したり取り出したりして動作するから、これらの素子を搭載する場合は、電極界面における接触抵抗を下げることによって動作電圧を下げることができ、エネルギー損失を低減することができる。

【0030】
上述したAgナノメタルとカーボンナノチューブとからなる複合配線は、有機半導体や有機EL素子といった電流を注入したり取り出したりする作用をなす素子の接続電極として使用すると、Agナノメタルのみからなる接続電極を使用した場合と比較して配線抵抗に加えて接触抵抗を大きく下げることができ、動作特性を改善することができる。
以下では、Agナノメタルとカーボンナノチューブからなる複合配線を接続電極とする有機薄膜トランジスタを作製する方法について説明する。

【0031】
図10は、フィルム基板16上にゲート20とゲート絶縁層30を形成するまでの工程を示す。図10(a)は、PEN等からなるフィルム基板16に透明電極あるいはアルミニウム層を製膜し、酸処理により所定パターンにエッチングしてゲート20を形成した状態である。
次に、ガラス基板40の表面にPDMS(ポリジメチルシロキサン)膜41を被着形成したスタンパを用いてフィルム基板16上にゲート絶縁層30を形成する。PDMS膜41はゲート絶縁層30を形成する部位が凸部となるようにパターン形成したもので、このスタンパの表面にゲート絶縁層30となるPMMA(ポリメチルメタクリレート)をクロロホルムに溶かした溶液をスピンコートし、次いで、フィルム基板16のゲート20に位置合わせしてスタンパをフィルム基板16に押接し、フィルム基板16にPMMAを転写することによりゲート絶縁層30を形成する(図10(b))。

【0032】
図11は、図10に示した工程に続いて、ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタを作製する工程を示す。
まず、ゲート絶縁層30の上にソース・ドレイン電極22a、22bを形成する。ソース・ドレイン電極は、ソース・ドレイン電極に対応する部位が凸部となるように凹凸形成したPDMS膜43をガラス基板42上に形成したスタンパを使用し、カーボンナノチューブ分散液とAgナノメタルインクをゲート絶縁層30の上に転写することによって形成する(図11(a))。転写操作後、熱キュア処理を施すことにより、ソース・ドレイン電極22a、22bはカーボンナノチューブとAgナノメタルとの複合材からなる電極となる。
カーボンナノチューブ分散液とAgナノメタルインクを供給してソース・ドレイン電極22a、22bを形成する工程は、図1に示した、フィルム基板16上に配線17を形成する工程と全く同一である。したがって、ソース・ドレイン電極22a、22bを形成する工程で、フィルム基板16上に配線17を形成することが可能である。

【0033】
次に、ソース・ドレイン電極22a、22b上に半導体層を形成する。半導体層はパターニングして転写する必要があるから、ガラス基板44上にPDMS膜45を形成したスタンパの表面に半導体(P3HT:poly(3-hexylthiophene)のクロロホルム溶液を塗布し、抜き版を用いてP3HT膜をパターニングする。
図11(b)は、抜き版によりスタンパのPDMS膜45上にP3HT膜50を所定パターンに残した状態を示す。抜き版はガラス基板46上にシリコーンのモールド47によりスタンパ上に残すP3HT膜に対応する部位を凹部としたものである。スタンパを抜き版に押接することにより、スタンパ側にパターニングされたP3HT膜50を残る。

【0034】
図11(c)は、パターニングされたP3HT膜50が被着されたスタンパを、ソース・ドレイン電極22a、22bに位置合わせしてフィルム基板16に押接し、ソース・ドレイン電極22a、22b間にまたがるようにPDMS膜50を形成した状態を示す。こうして、ゲート20、ソース・ドレイン電極22a、22b、ゲート絶縁層30、半導体膜であるPDMS膜45を備える有機薄膜トランジスタが構成される。

【0035】
図12はトップコンタクト型の有機薄膜トランジスタを作製する工程を示す。トップコンタクト型では、フィルム基板16上にゲート20とゲート絶縁層30を形成した後、半導体層を形成し、その後にソース・ドレイン電極を形成する。
図12(a)は、ガラス基板46上にシリコーンのモールド47を形成した抜き版を使用して、ガラス基板44とPDMS膜45とからなるスタンパに半導体層となるP3HT膜50をパターニングして残した状態である。このスタンパを用いて、フィルム基板16上に形成したゲート絶縁層30上にP3HT膜50を転写する(図12(b))。

【0036】
次に、ソース・ドレイン電極22a、22bのパターンに合わせて表面を凹凸面としたPDMS膜43を備えるスタンパを用いて、フィルム基板16上にカーボンナノチューブとAgナノメタルとからなる複合材を転写して、ソース・ドレイン電極22a、22bを形成する(図12(c))。このソース・ドレイン電極を形成する工程は、図11(a)に示した工程と同様の工程である。本実施形態では、P3HT膜50上にソース・ドレイン電極22a、22bを配する構成とするから、ソース・ドレイン電極22a、22bは断面方向から見て屈曲した形態となる。
なお、半導体層として用いるP3HTは酸素の影響を受けやすいから、P3HT層を形成したりP3HT層を転写する操作は窒素雰囲気下で行う。

【0037】
(有機薄膜トランジスタの特性測定)
上述した方法により作製した有機薄膜トランジスタについて電気的特性を測定した。測定では、ソース・ドレイン電極をAgナノメタルのみ、MWCNT(多層カーボンナノチューブ)のみとした有機薄膜トランジスタを比較例として作製してこれらについても測定を行った。比較例の有機薄膜トランジスタも配線(電極)の構成材料が異なるのみで、製法は上述した方法と同様である。
表2に移動度、電気抵抗等について測定した結果を示す。表2中のS-D電極(ソース・ドレイン電極)の欄は電極の構成材料を示す。Agは、Agナノメタルのみからなるもの、Ag/MWCNTは、Agナノメタルと多層カーボンナノチューブからなるもの、MWCNTは多層カーボンナノチューブのみからなるものである。絶縁層のPIはゲート絶縁層としてポリイミドを使用したものである。

【0038】
【表2】
JP0006226262B2_000003t.gif

【0039】
表2に示す測定結果を見ると、Agのみのソース・ドレイン電極とした場合は、他の例と比較して一桁ほど移動度が低くなっている。これは、MWCNTを含む電極を使用する場合の方がAgのみの電極を使用する場合よりも接触抵抗が低くなるためであると考えられる。Ag/MWCNT電極とMWCNT単体の電極を比べると、同じPMMAを絶縁層とした場合の移動度はほぼ同等であるが、若干複合体の方が高い値となっている。これは配線抵抗の違いの影響が主な原因と考えられる。また、電極抵抗のうち約150~200Ωはゲート電極であるITOによるものである。表2の上から3つのサンプルにおける抵抗の違いはITOの長さ(抵抗)の違いに主に起因するものであり、塗布電極によるものではない。すなわち、Ag単体やAg/MWCNT複合体の抵抗は差し引くと50Ω前後でありMWCNT単体よりも約桁低い値となっている。

【0040】
表3は、有機薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極をAgナノメタルのみ(Ag)、MWCNTのみ(MWCNT)、AgナノメタルとMWCNTの複合材(Ag./MWCNT)としたサンプルについて接触抵抗率を測定した結果を示す。接触抵抗率はチャネル長が異なるサンプル(チャネル長:40~320μm、チャネル幅2mm)を作製し、TLM(Transfer line method)プロットから求めた。

【0041】
【表3】
JP0006226262B2_000004t.gif

【0042】
表3に示す測定結果から、Agナノメタルのみからなるサンプルの接触抵抗率は他のものにくらべて高く、Agナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなるものは、Agナノメタルのみからなるものよりも約3桁、低くなっている。すなわち、ソース・ドレイン電極としてAgナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材を使用することにより、素子と電極(配線)との接触抵抗が大幅に低くなることを示している。Ag単体の電極を用いた素子ではこの接触抵抗による電圧効果によりチャネルに加わる電圧が減少したことで、みかけ上、表2のように低い移動度となっているのである。

【0043】
図13に、Agナノメタルのみからなる電極を用いる場合と、Agナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる電極を用いる場合に接触抵抗が異なる理由をエネルギーダイアグラムとして示した。LUMOはLowest Unoccupied Molecular Orbital(最低空分子軌道)、HOMOはHighest Occupied Molecular Orbital(最高被占有分子軌道)である。図13(a)は電極にAgを使用した場合、図13(b)はAgとMWCNT(多層カーボンナノチューブ)を使用した場合である。仕事関数・イオン化ポテンシャル測定装置を用いた測定により、MWCNTの仕事関数は4.8~5.0eVであった。この仕事関数はAgの仕事関数4.5~4.7eVよりも高い値である。
図13に示すように、MWCNTの仕事関数がAgの仕事関数よりも高いことから、正孔が電極と素子との間で移動する際の障壁の高さは、AgとMWCNTの複合材からなる電極では、MWCNTを介して正孔が移動することから、Ag単独の場合と比較して低くなると考えることができる。この値は同じ装置を用いてAuの蒸着膜について計測したAuの仕事関数4.75~4.8eVよりも高く、Auのように高価な材料を使わなくても、より安価なAgとMWCNTの複合電極により代替可能であることも意味する。

【0044】
Ag、Cu、Auは、金属の中では、いずれも仕事関数が比較的高く、正孔の注入、取出しに有利であり、正孔の注入・取出し電極として有機トランジスタ、有機太陽電池、有機EL素子等の電極に用いられている。電極の仕事関数のみであれば仕事関数の高いMWCNTを使用することが有利であるが、配線材としてMWCNTは十分な導電性を備えるものではない。本実施形態において使用したAgナノメタルとMWCNTの複合材料は、配線材としての十分な導電性を備えるとともに正孔障壁を低くできる点において、上記素子の配線材料として好適に利用することができる。

【0045】
前述したように、AgナノメタルとMWCNTの複合材料はフレキシブル配線基板の配線材料として耐衝撃性、耐久性、柔軟性に優れ、フレキシブル配線基板に求められる優れた電気的、物理的特性を備えている。上述した、AgナノメタルとMWCNTの複合材料が有機トランジスタ、有機太陽電池、有機EL素子等の配線材料として好適に利用できる機能は、AgナノメタルとMWCNTの複合材からなる配線を備えるフレキシブル配線基板がこれら素子の搭載用としてきわめて有効であることを示している。

【0046】
なお、上記実施形態ではナノメタルとしてAgナノメタルを使用した例について説明したが、フレキシブル配線基板の配線材はAgナノメタルに限るものではなく、Cu、Au、Al等のナノメタルを使用することもできる。また、カーボンナノチューブもMWCNT(多層カーボンナノチューブ)の他にSWCNT(単層カーボンナノチューブ)、グラフェン等のナノカーボン材を使用することもできる。

【0047】
また、上記実施形態では、スタンパを用いてナノメタルとカーボンナノチューブとを転写する方法によって配線を形成した。ナノメタルとカーボンナノチューブとの複合材からなる配線を形成する方法は、転写法に限らずスクリーン印刷法、インクジェット法等を利用することもできる。この場合も、配線パターンにしたがってカーボンナノチューブ分散液を供給する工程と、配線パターンにしたがってナノメタルを供給する工程にわけて配線パターンを形成することにより、配線中に十分な量のカーボンナノチューブを供給し、配線中に均一に分散させてカーボンナノチューブを供給することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 スタンパ
11 ガラス基板
12 PDMS膜
13 カーボンナノチューブ分散液
14 ナノメタルインク
16 フィルム基板
17 配線
18 フレキシブル配線基板
20 ゲート
22a、22b ソース・ドレイン電極
30 ゲート絶縁層
40、42、44、46 ガラス基板
41、45 PDMS膜
50 P3HT膜膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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