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明細書 :蛋白質結晶化剤および蛋白質結晶化剤を用いた蛋白質結晶化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5484041号 (P5484041)
登録日 平成26年2月28日(2014.2.28)
発行日 平成26年5月7日(2014.5.7)
発明の名称または考案の名称 蛋白質結晶化剤および蛋白質結晶化剤を用いた蛋白質結晶化方法
国際特許分類 C07K   1/14        (2006.01)
FI C07K 1/14
請求項の数または発明の数 11
全頁数 31
出願番号 特願2009-500055 (P2009-500055)
出願日 平成19年9月19日(2007.9.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 バイオ関連化学合同シンポジウム 生体機能関連化学部会(21回)バイオテクノロジー部会(9回)生命化学研究会(9回)講演要旨集(平成18年9月19日)社団法人日本化学会 生体機能関連化学部会・バイオテクノロジー部会・生命化学研究会発行第170ページに発表
国際出願番号 PCT/JP2007/068192
国際公開番号 WO2008/102469
国際公開日 平成20年8月28日(2008.8.28)
優先権出願番号 2007044275
優先日 平成19年2月23日(2007.2.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年9月16日(2010.9.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
発明者または考案者 【氏名】山口 宏
【氏名】伊藤 廉
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】池上 文緒
参考文献・文献 特表2006-512416(JP,A)
特表2000-510161(JP,A)
特開平06-046845(JP,A)
ADDitTM Additive Screen. [online]. B-Bridgeニュースレター, 2005, p.28. [retrieved on 2007-11-14]. <URL: http://www.b-bridge.com/products/newsletter/spr_05.pdf>
ADDitTM Additive Screen- technical sheet. [online].B-Bridge International,Inc,. 2004. [retrieved on 2007-11-14]. <URL: http://www.b-bridge.com/products/emerald/datasheet/addit.pdf>
Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. (1995) vol.D51, pt.5, p.827-829
調査した分野 C07K 1/14
PubMed
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
グリシンエチルエステル、アルギニンエチルエステル、リシンエチルエステル、セリンエチルエステル、システインエチルエステル、グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミド、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とする蛋白質結晶促進剤。
【請求項2】
グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、セリンエチルエステルグリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミド、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とする、請求項1記載の蛋白質結晶促進剤。
【請求項3】
グリシンエチルエステル、アルギニンエチルエステル、リシンエチルエステル、セリンエチルエステル、システインエチルエステル、グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミド、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物からなるか、またはこれらの少なくとも1つの化合物を含有する蛋白質結晶化剤。
【請求項4】
グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、セリンエチルエステルグリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミド、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物からなるか、またはこれらの少なくとも1つの化合物を含有する、請求項3記載の蛋白質結晶化剤。
【請求項5】
グリシンエチルエステル、セリンエチルエステル、リシンエチルエステル、グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミド、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物からなる、請求項3記載の蛋白質結晶化剤。
【請求項6】
グリシンエチルエステル、アルギニンエチルエステル、リシンエチルエステル、セリンエチルエステル、システインエチルエステル、グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミド、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物と、沈殿剤およびpH緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つの成分との組み合わせ物である、請求項3に記載する蛋白質結晶化剤。
【請求項7】
蛋白質を含有する溶液と、請求項1または2に記載する蛋白質結晶促進剤または請求項3~6のいずれか1項に記載する蛋白質結晶化剤とを接触状態に置いて蛋白質を析出させる工程を有する、蛋白質の結晶化方法。
【請求項8】
蒸気拡散法、バッチ法、液-液拡散法または透析法において、蛋白質結晶促進剤として請求項1または2に記載する蛋白質結晶促進剤、または蛋白質結晶化剤として請求項3~6のいずれか1項に記載する蛋白質結晶化剤を用いて、当該蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤と蛋白質含有溶液とを接触状態に置いて蛋白質を析出させる工程を有する、請求項7に記載する蛋白質の結晶化方法。
【請求項9】
蛋白質含有溶液と請求項1または2に記載する蛋白質結晶促進剤または請求項3~6のいずれか1項に記載する蛋白質結晶化剤とを接触状態に置いて、蛋白質の析出の有無を確認する工程を有する、蛋白質の結晶化条件をスクリーニングする方法。
【請求項10】
蒸気拡散法において、蛋白質結晶促進剤として請求項1または2に記載する蛋白質結晶促進剤、または蛋白質結晶化剤として請求項3~6のいずれか1項に記載する蛋白質結晶化剤を用いて、当該蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤と蛋白質含有溶液とを混合して蛋白質を析出させる工程を有する、請求項9に記載する蛋白質の結晶化条件をスクリーニングする方法。
【請求項11】
請求項1もしくは2に記載する蛋白質結晶促進剤または請求項3~6のいずれか1項に記載する蛋白質結晶化剤を含むことを特徴とする、蛋白質結晶化スクリーニング試薬または試薬キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質含有溶液から蛋白質の結晶析出を促進して、蛋白質の結晶を取得するために用いられる蛋白質結晶促進剤および蛋白質結晶化剤に関する。また本発明は、蛋白質含有溶液から蛋白質結晶を析出するための方法に関する。さらに本発明は、蛋白質含有溶液から蛋白質を結晶化するための条件をスクリーニングする方法およびそれに使用するための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム研究のもと、近年、蛋白質の立体構造をもとにして創薬する試みがなされており、蛋白質の構造解析が急務となっている。蛋白質の構造解析に最適な手法は、結晶構造解析であるが、そのための必須工程である蛋白質の結晶化は成功率が低く、時間がかかるなど、非常に難しいのが現状であり、蛋白質の立体構造解析ひいてはそれに利用した創薬化のボトルネックとなっている。
【0003】
一般に蛋白質含有溶液から蛋白質の結晶を析出させるには、溶媒蒸発、温度変化または沈殿剤等を利用してより過飽和度を大きくする必要がある。過飽和が低いと核が発生しなかったり、核形成・結晶成長が遅延するなどといった問題があるからであるが、逆に、あまりにも過飽和度を高くしすぎると、結晶が一気に析出して急成長するため、得られる結晶の品質に問題が生じたり、また溶液から分離した非晶質の沈殿が生成しやすくなるという問題がある。また通常、結晶化の条件は、実際に結晶化を複数~多数試みるなど、試行錯誤の結果決定されるが、これでは労力と時間がかかり過ぎて効率的ではない。
【0004】
これを解決する方法として、蛋白質含有溶液に短波パルスのレーザーを照射して強制的に結晶の核を発生させ、溶液を攪拌することで短期間に結晶を作成する方法が開発されている(非特許文献1、特許文献1など参照)。また高品質で大型の蛋白質の結晶の育成に適した方法として、温度を降下させながら2液界面で結晶を育成する方法が提案されている(非特許文献2など参照)。
【0005】
一方、ある種の沈殿剤や緩衝剤が蛋白質の結晶化を促進することを利用して、蛋白質結晶化スクリーニング試薬キット(例えば、Hampton Research社、Emerald Biostructure社、Jena Bio Science社、Molecular Dimensions社など)が市販されている。蛋白質の結晶化には、明快なセオリーがあるわけではないから、まずは種々の広範囲な条件下でスクリーニングを行って結晶化する条件を探り当て(初期スクリーニング、ランダムスクリーニング)、次いで得られた結晶化条件に基づいて最適な結晶化条件を絞っていく(条件の精密化)という手法がとられるのが一般的である。ゆえにこの方法の場合、目的蛋白質の結晶化が成功するか否かは、上記初期スクリーニングで結晶化条件を探り当てることができるか否かにかかっているといっても過言ではない。さらに、目的蛋白質を結晶化させるためには、目的蛋白質が結晶化に適する高純度である必要がある。
【0006】
上記市販の蛋白質結晶化スクリーニング試薬キットは、確かに簡便に利用できる点で有用ではあるものの、結晶が得られる確率は必ずしも高いものではないため、より高い確率で蛋白質の結晶を析出させることのできるスクリーニング試薬の開発が望まれている。また、純度の低い蛋白質においても結晶化を可能にする試薬が求められている。

【特許文献1】国際公開公報(WO2004/018744)
【非特許文献1】日本結晶成長学会誌、Vol.29、No.5、2002
【非特許文献2】日本結晶成長学会誌、Vol.29、No.3、2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、所望の蛋白質を高い確率で結晶化するための技術(蛋白質結晶促進剤、蛋白質結晶化剤および蛋白質結晶化方法)を提供することを目的とする。また、本発明は、蛋白質の結晶化条件を簡単にしかも効率良く探索して決定するための技術(蛋白質の結晶化条件のスクリーニング方法および蛋白質結晶化スクリーニング試薬)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために日夜鋭意検討していたところ、蛋白質を含有する溶液に、特定のアミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体またはアミノ酸のアミド誘導体などの低分子化合物を配合することによって、蛋白質の結晶析出が促進され、高い確率で蛋白質が結晶化することを見出し、これらの低分子化合物が蛋白質結晶促進剤として機能すること、またこれらの低分子化合物が単独で、または従来蛋白質結晶化剤として公知の沈殿剤やpH緩衝剤などと組み合わせて、蛋白質結晶化剤として有効に用いることができることを確認した。また、蛋白質を含有する溶液にこれらの低分子化合物を配合することによって、従来蛋白質の結晶が析出しなかった条件や、やや純度の劣る蛋白質でも結晶析出が可能になることを見出し、当該低分子化合物は、蛋白質結晶化条件を探索するためのスクリーニング試薬としても有効に用いることができることを確認した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を含むものである。
【0010】
(I)蛋白質結晶促進剤
(I-1)塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とする蛋白質結晶促進剤。
(I-2)上記塩基性アミノ酸がアルギニン、リシン、およびオルニチンであり;酸性アミノ酸がアスパラギン酸、およびグルタミン酸であり;アミノ酸のエステル誘導体がグリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、およびセリンエチルエステルであり;アミノ酸のアミド誘導体がグリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミドである、(I-1)記載の蛋白質結晶促進剤。
【0011】
(II)蛋白質結晶化剤
(II-1)塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物からなるか、またはこれらの少なくとも1つの化合物を含有する蛋白質結晶化剤。
(II-2)上記塩基性アミノ酸がアルギニン、リシン、およびオルニチンであり;酸性アミノ酸がアスパラギン酸、およびグルタミン酸であり;アミノ酸のエステル誘導体がグリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、およびセリンエチルエステルであり;アミノ酸のアミド誘導体がグリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミドである、(II-1)記載の蛋白質結晶化剤。
(II-3)アルギニン、リシン、オルニチン、グリシンエチルエステル、セリンエチルエステル、リシンエチルエステル、グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物からなる、(II-1)記載の蛋白質結晶化剤。
(II-4)塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物と、沈殿剤およびpH緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つの成分との組み合わせ物である、(II-1)または(II-2)に記載する蛋白質結晶化剤。
【0012】
(III)蛋白質結晶化方法
(III-1)蛋白質を含有する溶液と、(I-1)若しくは(I-2)に記載する蛋白質結晶促進剤または(II-1)~(II-4)のいずれかに記載する蛋白質結晶化剤とを、接触状態に置いて蛋白質を析出させる工程を有する、蛋白質の結晶化方法。
(III-2)蒸気拡散法、バッチ法、液-液拡散法または透析法において、蛋白質結晶促進剤として(I-1)若しくは(I-2)に記載する蛋白質結晶促進剤、または蛋白質結晶化剤として(II-1)~(II-4)のいずれかに記載する蛋白質結晶化剤を用いて、当該蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤と蛋白質含有溶液とを接触状態に置いて蛋白質を析出させる工程を有する、(III-1)に記載する蛋白質の結晶化方法。
【0013】
(IV)蛋白質の結晶化条件のスクリーニング方法
(IV-1)蛋白質含有溶液と、(I-1)若しくは(I-2)に記載する蛋白質結晶促進剤または(II-1)~(II-4)のいずれかに記載する蛋白質結晶化剤とを、接触状態に置いて蛋白質の析出の有無を確認する工程を有する、蛋白質の結晶化条件をスクリーニングする方法。
(IV-2)蒸気拡散法において、蛋白質結晶促進剤として(I-1)若しくは(I-2)に記載する蛋白質結晶促進剤、または蛋白質結晶化剤として(II-1)~(II-4)のいずれかに記載する蛋白質結晶化剤を用いて、当該蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤と蛋白質含有溶液とを混合して蛋白質を析出させる工程を有する、(IV-1)に記載する蛋白質の結晶化方法。
【0014】
(V)蛋白質の結晶化条件をスクリーニングする試薬または試薬キット
(V-1)(I-1)若しくは(I-2)に記載する蛋白質結晶促進剤または(II-1)~(II-4)のいずれかに記載する蛋白質結晶化剤を含むことを特徴とする、蛋白質結晶化スクリーニング試薬または試薬キット。
【0015】
(VI)アミノ酸またはアミノ酸誘導体の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤としての使用
(VI-1)塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、アミノ酸アミド誘導体、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物の、蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤としての使用。
(VI-2)上記塩基性アミノ酸がアルギニン、リシン、およびオルニチンであり;酸性アミノ酸がアスパラギン酸、およびグルタミン酸であり;アミノ酸のエステル誘導体がグリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、およびセリンエチルエステルであり;アミノ酸のアミド誘導体がグリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミドである、(IV-1)記載の使用。
【0016】
なお本発明が対象とする「蛋白質」には、天然または人造(化学合成法、発酵法、遺伝子組み換え法)などの由来や製造方法の別にかかわらず、ペプチド、ポリペプチド、蛋白質、およびこれらの複合体(例えば、(ポリ)ペプチドまたは蛋白質と化合物との複合体、(ポリ)ペプチドまたは蛋白質と糖類との複合体、(ポリ)ペプチドまたは蛋白質と金属との複合体、(ポリ)ペプチドまたは蛋白質と補酵素との複合体など)が含まれる。
【0017】
本明細書において、「結晶化」または「結晶の析出」とはいずれも同一の意味であり、蛋白質含有溶液から当該蛋白質の結晶を生成および成長させて析出させることを意味する。
【0018】
「蛋白質含有溶液」とは、結晶化させる対象の蛋白質またはスクリーニング方法で結晶化条件を特定する対象の蛋白質を溶解した溶液である。蛋白質の溶解に使用する溶媒としては、通常、水を挙げることができる。ただし、有機溶媒を含む水を用いることを制限するものではない。当該蛋白質含有溶液には、対象とする蛋白質の他、蛋白質の溶解を助ける蛋白質溶解剤や安定化剤などを配合することもできる。
【0019】
また本発明において、蛋白質含有溶液と蛋白質結晶促進剤若しくは蛋白質結晶化剤とを「接触状態に置く」とは、蛋白質含有溶液と蛋白質結晶促進剤若しくは蛋白質結晶化剤とが互いに触れあう状態に配置されることを意味する。かかる具体的な態様としては、蛋白質含有溶液に蛋白質結晶促進剤若しくは蛋白質結晶化剤またはこれらの溶液を添加する態様、蛋白質含有溶液に蛋白質結晶促進剤若しくは蛋白質結晶化剤またはこれらの溶液を添加し混合する態様、蛋白質含有溶液と蛋白質結晶促進剤若しくは蛋白質結晶化剤を含有する溶液の界面を直接または間接的(ゲルや透析膜などを介して)に接触させる態様などを例示することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明が提供する塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩および溶媒和物(以下、これらを総称して「アミノ酸類(AMINO ACIDS)」ともいう)は、蛋白質含有溶液中での蛋白質の結晶析出を促進する作用を有するため、蛋白質の結晶化に有効に使用することができる。この意味で本発明が提供するアミノ酸類は、蛋白質結晶促進剤として有用である。
【0021】
特に本発明が提供する上記アミノ酸類によれば、前述するように蛋白質結晶促進作用を有するため、単独で、また従来公知の蛋白質結晶化剤(沈殿剤やpH緩衝剤など)と併用することによって、広範囲な条件で早期に蛋白質結晶を析出することができる。この意味で本発明が提供するアミノ酸類は、単独または従来公知の蛋白質結晶化剤(沈殿剤やpH緩衝剤など)と組み合わせて、蛋白質結晶化剤として用いることができる。
【0022】
これらの蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤によれば、やや純度の劣る蛋白質でも結晶を析出させることが可能になるため、蛋白質の結晶化の確率(ヒット率)を高めることもできる。
【0023】
このため、これらのアミノ酸類からなる本発明の蛋白質結晶促進剤、ならびに当該アミノ酸類からなるか、またはこれらアミノ酸等と従来公知の蛋白質結晶化剤との組み合わせからなる本発明の蛋白質結晶化剤は、蛋白質の結晶化条件を探索するスクリーング試薬として有用である。ゆえに、当該スクリーニング試薬を用いた本発明スクリーニング方法によれば、広範囲な条件で高い効率で蛋白質の結晶を析出することができるため、迅速かつ簡便に、蛋白質の結晶化に適した条件を見つけ出すことが可能である。また本発明のスクリーニング試薬を用いた本発明スクリーニング方法によれば、やや純度の劣る蛋白質でも結晶化に適した条件を見つけ出すことが可能である。
【0024】
現在、蛋白質の結晶化に特化した企業や蛋白質の構造解析を請け負う企業が国内外で複数立ち上がっている。本発明が提供する技術は、蛋白質構造解析のために必須で且つ困難であるがゆえにその律速段階となる蛋白質の結晶化に有用であり、例えば蛋白質構造解析に基づく創薬に貢献するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
I.蛋白質結晶促進剤
本発明の蛋白質結晶促進剤は、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩および溶媒和物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物からなることを特徴とする。
【0026】
アミノ酸としては、グリシン、バリンおよびアラニンなどのモノアミノモノカルボン酸:セリンおよびトレオニンなどのヒドロキシモノアミノモノカルボン酸:アスパラギン酸およびグルタミン酸などのモノアミノジカルボン酸:アルギニン、リシンおよびオルニチン等のジアミノモノカルボン酸:メチオニンおよびシステイン等の硫黄含有アミノ酸:プロリンおよびヒスチジンなどの複素環式アミノ酸が知られているが、本発明が対象とする塩基性アミノ酸は、上記のうち、アルギニン、リシンおよびオルニチンといったジアミノモノカルボン酸であり、酸性アミノ酸は上記アミノ酸のうち、アスパラギン酸およびグルタミン酸などのモノアミノジカルボン酸である。塩基性アミノ酸のうち、好ましくはリシンおよびオルニチンであり、酸性アミノ酸のうち、好ましくはグルタミン酸である。
【0027】
アミノ酸のエステル誘導体としては、アミノ酸のカルボキシル基がメチルエステル化またはエチルエステル化されたものであればよく、例えばグリシンエチルエステル、グリシンt-ブチルエステル、グリシンベンジルエステル、アルギニンメチルエステル、ニトロアルギニンメチルエステル、アルギニンエチルエステル、リシンメチルエステル、リシンエチルエステル、フェニルアラニンエチルエステル、アスパラギン酸ジメチルエステル、システインエチルエステル、セリンエチルエステル、トレオニンエチルエステル、およびプロリンエチルエステルを挙げることができる。好ましいアミノ酸のエステル誘導体として、グリシンエチルエステル、アルギニンエチルエステル、リシンエチルエステル、セリンエチルエステルおよびシステインエチルエステルを挙げることができる。より好ましくは、グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、およびセリンエチルエステルである。
【0028】
アミノ酸のアミド誘導体としては、アミノ酸のカルボキシル基がアミド化されたものであればよく、例えばグリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、アルギニンアミド、およびプロリンアミドを挙げることができる。中でも好ましくはプロリンアミド、グリシンアミドおよびセリンアミドである。
【0029】
なお、これらの塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、およびアミノ酸誘導体(アミノ酸エステル誘導体、アミノ酸アミド誘導体)は、いずれも塩の形態や溶媒和物の形態を有していてもよい。ここで塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属との塩;マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;または塩酸、燐酸、硝酸、硫酸、亜硫酸などの無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸等の有機酸との塩を挙げることができる。また溶媒和物としては、水和物を挙げることができる。
【0030】
本発明の蛋白質結晶促進剤は、上記に掲げる塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、アミノ酸アミド誘導体、これらの塩、またはこれらの溶媒物(アミノ酸類(AMINO ACIDS))からなるものであり、これらを1種単独からなるものであってもよいし、またこれらの2以上の化合物を任意に組み合わせてなるものであってもよい。
【0031】
本発明の蛋白質結晶促進剤は、溶液に溶解している蛋白質を、当該溶液から結晶として析出することを促進する作用を有し、もっぱらその目的で用いられる。但し、結晶析出を促進する結果として蛋白質が結晶化する場合も、結晶の析出促進作用を利用しているとして、本発明の蛋白質結晶促進剤の用途の範疇に含まれる。
【0032】
当該蛋白質結晶促進剤は、通常、上記アミノ酸類からなるものであるが、その蛋白質結晶化促進作用が妨げられない限り、上記アミノ酸類の1種または2種以上に、他の成分を含有するものであってもよい。かかる他成分としては、保存安定剤、または蛋白質含有溶液への溶解を補助する作用を有する溶解剤または溶解補助剤などを例示することができる。具体的には、グリセロール、糖、金属イオン(例えば、Ca++、Mg++、Mn++)、塩、緩衝剤などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
【0033】
なお、本発明の蛋白質結晶促進剤の形状は、特に制限されず、固体状(例えば、凍結乾燥形状、粉末、顆粒状、錠剤)および液状のいずれでもよいが、使用の簡便性から好ましくは液状である。この場合、蛋白質結晶促進剤は、通常、アミノ酸類を約0.1mM~飽和濃度の割合で含む水溶液の状態に調製される。
【0034】
本発明の蛋白質結晶促進剤は、前述するように蛋白質の結晶化を促進するために用いられるが、この場合、蛋白質結晶化剤と組み合わせて用いることもできる。ここで蛋白質結晶化剤としては、従来蛋白質結晶化剤として使用されているもの(以下、「公知結晶化剤」という)、具体的には蛋白質の溶解度を下げる作用を有する沈殿剤や、pH緩衝剤を挙げることができる。
【0035】
より具体的には、沈殿剤としては、例えば塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウムなどの塩化物;硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸リチウム、硫酸カドミウムなどの硫酸塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、無水リン酸アンモニウム、無水リン酸カリウムなどのリン酸塩;リン酸2水素ナトリウムやリン酸2水素カリウムなどのリン酸水素塩;硝酸ナトリウムなどの硝酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸アンモニウム、酢酸亜鉛などの酢酸塩;クエン酸3ナトリウムなどのクエン酸塩;ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムなどのギ酸塩;その他、酒石酸カリウムナトリウム、マロン酸ナトリウムなどの有機酸塩;ならびにこれらの水和物)、水溶性高分子化合物(例えば、分子量400~20000程度のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレンイミンなど)、有機溶剤(例えば、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、tert-ブタノール、ジオキサンなど)を挙げることができる。
【0036】
またpH緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、グッド緩衝剤などの公知のpH緩衝剤を挙げることができるが、具体的には、酢酸ナトリウム三水和物;リン酸カリウム;イミダゾール;クエン酸ナトリウム;カコジル酸ナトリウム;MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS、およびBis-Tris Propaneなどのグッド緩衝剤;そのほか、AMPSO、CABS、glycine、HEPBS、MOBS、TABS、TEAなどが例示される。
【0037】
また、本発明の蛋白質結晶促進剤は、上記公知結晶化剤(例えば、沈殿剤および/またはpH緩衝剤)に加えて、1価または2価の塩、有機溶媒、グリセロール、糖、高分子化合物、補酵素や基質、および界面活性剤などの1種または2種以上の付加物と組み合わせて用いることもできる。
【0038】
なお公知結晶化剤は、上記に掲げる沈殿剤、pH緩衝剤およびその他付加物に限定されず、公知文献に基づくものや市販の蛋白質結晶化スクリーニングキット(例えば、Hampton Research社、Emerald Biostructure社、Jena Bio Science社、Molecular Dimensions社製など)で使用されている公知結晶化剤も同様に使用することができる。
【0039】
II.蛋白質結晶化剤
本発明の蛋白質結晶化剤は、溶液に溶解している蛋白質を、当該溶液から結晶として析出する作用を有し、もっぱらこの目的で使用されるものである。
【0040】
本発明は、前述する塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩または溶媒和物(アミノ酸類)が、蛋白質結晶促進剤としての作用だけでなく、それ単独で、蛋白質を結晶化する蛋白質結晶化剤として使用できるという知見に基づくものである(実施例5参照)。また、上記アミノ酸類は、前述するように、他の蛋白質結晶化剤(例えば、公知結晶化剤など)による蛋白質の結晶化を促進する作用を有するため、当該他の蛋白質結晶化剤(公知結晶化剤)と組み合わせた形態で、蛋白質結晶化剤として用いることができる。すなわち、本発明でいう蛋白質結晶化剤には、(1)前述するアミノ酸類単独を有効成分とするもの(単独使用態様)、および(2)前述するアミノ酸類と他の蛋白質結晶化剤(公知結晶化剤)との組み合わせ物を有効成分とするもの(併用態様)が含まれる。
【0041】
本発明の蛋白質結晶化剤で使用される塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩または溶媒和物(アミノ酸類(AMINO ACIDS))としては、(I)で前述したものを同様に挙げることができ、またこれらは、(I)に記載するように、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
なお、アミノ酸類を上記(1)の単独使用態様で使用する場合、かかるアミノ酸類として好ましくは、リシン、アルギニン、およびオルニチンといった塩基性アミノ酸;グルタミン酸やアスパラギン酸といった酸性アミノ酸;セリンエチルエステル、リシンエチルエステルおよびグリシンエチルエステルといったアミノ酸エステル誘導体;グルシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、プロリンアミド、およびアルギニンアミドといったアミノ酸アミド誘導体を挙げることができる。
【0043】
また上記アミノ酸類を(2)の併用態様(公知結晶化剤との組み合わせ)で使用する場合、上記アミノ酸類と組み合わせて用いられる蛋白質結晶化剤(公知結晶化剤)としては、例えば蛋白質の溶解度を下げる作用を有する沈殿剤や、pH緩衝剤を挙げることができる。
【0044】
ここで沈殿剤としては、(I)に記載する塩、水溶性高分子化合物、および有機溶剤を同様に挙げることができる。塩として好ましくは、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、無水リン酸ナトリウム、無水リン酸カリウム、無水リン酸アンモニウム、リン酸2水素カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸亜鉛、クエン酸3ナトリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、ならびにこれらの水和物を;水溶性高分子化合物として好ましくは、400~20000程度のポリエチレングリコールを;また有機溶剤として好ましくは、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、イソプロパノールを例示することができる。
【0045】
またpH緩衝剤としても、(I)に記載するpH緩衝剤を同様に挙げることができる。好ましくは、酢酸ナトリウム三水和物、リン酸カリウム、イミダゾール、クエン酸ナトリウム、カコジル酸ナトリウム、並びにHEPES・NaやTris-HClなどのグッド緩衝剤を例示することができる。これらのpH緩衝剤は、蛋白質含有溶液を、結晶の析出に適したpH条件、例えばpH3~10の範囲、好ましくはpH4~9の範囲に設定し維持するために有効に用いられる。なお、これらのpH緩衝剤は、上記pH条件に調整する目的で、単独または2種以上組み合わせて、また必要に応じて酸あるいはアルカリなどと併用して用いることができる。
【0046】
また、前述する本発明のアミノ酸類は、公知結晶化剤として上記沈殿剤および/またはpH緩衝剤に加えて、1価または2価の塩、有機溶媒、グリセロール、糖、高分子化合物、補酵素や基質、および界面活性剤などの付加物と組み合わせて、蛋白質結晶化剤として用いることもできる。
【0047】
なお公知結晶化剤は、上記に掲げる沈殿剤、pH緩衝剤およびその他付加物に限定されず、公知文献に基づくものや市販の蛋白質結晶化スクリーニングキット(例えば、Hampton Research社、Emerald Biostructure社、Jena Bio Science社、Molecular Dimensions社製など)で使用されている公知結晶化剤も同様に使用することができる。
【0048】
上記(1)の単独使用態様の本発明の蛋白質結晶化剤は、通常、上記アミノ酸類からなるものであるが、その蛋白質結晶化作用が妨げられない限り、上記アミノ酸等の1種または2種以上に加えて、他の成分を含有するものであってもよい。かかる他成分としては、保存安定剤、または蛋白質含有溶液への溶解を補助する作用を有する溶解剤または溶解補助剤などを例示することができる。具体的には、グリセロール、糖、金属イオン(例えば、Ca++、Mg++、Mn++)、塩、緩衝剤などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
【0049】
この場合、本発明の蛋白質結晶化剤の形状は、特に制限されず、固体状(例えば、凍結乾燥形状、粉末、顆粒状、錠剤)および液状のいずれでもよいが、使用の簡便性から好ましくは液状である。この場合、蛋白質結晶化剤は、通常、アミノ酸等を約0.1mM~飽和濃度の割合で含む水溶液の状態に調製される。
【0050】
上記(2)の併用態様の本発明の蛋白質結晶化剤は、通常、上記アミノ酸類と、前述する公知結晶化剤の少なくとも1種との組み合わせからなる。この場合、上記アミノ酸類と前述する公知結晶化剤の少なくとも1種とがあらかじめ混合されて一つの包装形態からなるものであってもよいし(配合剤)、また上記アミノ酸類と前述する公知結晶化剤の少なくとも1種とが別個に包装されており、蛋白質を結晶化する際に全成分を混合して使用される形態を有するものであってもよい(セット剤)。また、この蛋白質結晶化剤には、その蛋白質結晶化作用が妨げられない限り、上記アミノ酸類や公知結晶化剤に加えて、他の成分を含有するものであってもよい。かかる他成分としては、保存安定剤、または蛋白質含有溶液への溶解を補助する作用を有する溶解剤または溶解補助剤などを例示することができる。
【0051】
配合剤の形態を有する本発明の蛋白質結晶化剤は、その形状を特に制限せず、固体状(例えば、凍結乾燥形状、粉末、顆粒状、錠剤)および液体のいずれの形状を有することができる。使用の簡便性からは好ましくは液状であり、この場合、アミノ酸等が約0.1mM~飽和濃度となるように、またpHが3~10、好ましくはpH4~9の範囲の水溶液の状態に調整される。また、公知結晶化剤として、塩を含む場合はその濃度として0.1M~飽和濃度を、有機溶剤を含む場合はその濃度として1~80%(v/v)を、水溶性高分子を含む場合はその濃度として1~60%(w/v)を、またpH緩衝剤を含む場合、その濃度として5mM~0.3Mを挙げることができる。
【0052】
またセット剤の形態を有する本発明の蛋白質結晶化剤は、上記アミノ酸類と1種または2種以上の公知結晶化剤とがあらかじめ混合されておらず、使用時に混合して使用できるように2以上の包装形態を有するものであればよく、その限りにおいて各包装物の形状は特に制限されない。
【0053】
例えば、同一または異なって、固体状(例えば、凍結乾燥形状、粉末、顆粒状、錠剤)または液体の形状を有していてもよい。液体の形状を有する場合、アミノ酸類は、通常0.1mM~飽和濃度の範囲になるように調製される。公知結晶化剤として、塩を含む場合、通常0.1M~飽和濃度になるように、有機溶剤を含む場合は、通常1~80%(v/v)の濃度となるように、水溶性高分子を含む場合は、通常1~60%(w/v)の濃度となるように、またpH緩衝剤を含む場合、通常5mM~0.3Mの濃度となるように、それぞれ調製することができる。
【0054】
III.蛋白質結晶化方法
本発明が提供する蛋白質結晶化方法は、蛋白質の結晶化に際して、蛋白質結晶促進剤として前述する本発明の蛋白質結晶促進剤を、または蛋白質結晶化剤として前述する本発明の蛋白質結晶化剤(アミノ酸類、またはアミノ酸類と公知結晶化剤の組み合わせ)を用いることを特徴とするものである。
【0055】
蛋白質結晶化の手法として、従来、バッチ法、蒸気拡散法、液-液拡散法、および透析法が用いられているが、本発明の方法はこれらのいずれの手法にも適用することができる。
【0056】
(III-1)バッチ法
「バッチ法」は、結晶化させる対象の蛋白質を含有した溶液(蛋白質含有溶液)に蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を少しずつ加えて両者を接触させ、蛋白質含有溶液がわずかに濁ったところで不溶物を遠心分離して除去し、上清を小さな試験管等の容器に入れて密封した後、静置することによって結晶を析出する方法である。また、ごく微量(例えば1μl程度)の蛋白質含有溶液に蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を混合して蒸発しない条件下で保存する(例えば、不揮発性のオイル中に液滴として保存する)方法を用いることもできる。従って、この蛋白質結晶促進剤として前述する本発明の蛋白質結晶促進剤を、また蛋白質結晶化剤として前述する本発明の蛋白質結晶化剤を用いることによって、発明の蛋白質結晶化方法をバッチ法に適用することができる。なお、当該方法は、通常、-5~30℃、好ましくは0~25℃の条件で行われる。
【0057】
ここで蛋白質含有溶液の蛋白質濃度としては、通常0.1~15%(w/v)の範囲を挙げることができ、好ましくは0.3~100%(w/v)、より好ましくは0.5~2%(w/v)である。当該蛋白質含有溶液には、対象とする蛋白質の他、あらかじめ、pH緩衝剤、蛋白質の溶解を助ける溶解剤や溶解補助剤、安定化剤などを配合しておくこともできる。
【0058】
上記蛋白質含有溶液への添加に使用する蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤は、液体の形状を有していることが好ましい。当該蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤のアミノ酸類の濃度として、通常0.1mM~飽和濃度、好ましくは50mM~2Mを挙げることができる。また、当該蛋白質結晶化剤が公知結晶化剤(塩、有機溶剤、水溶性高分子、またはpH緩衝剤)を含むものである場合、塩の含有量としては、通常50mM~飽和濃度、好ましくは0.1~2M:有機溶剤の含有量としては、通常1~80%(v/v)、好ましくは5~40%(v/v):水溶性高分子の含有量としては、通常0.1~60%(w/v)、好ましくは1~40%(w/v)、pH緩衝剤の含有量としては、通常5~300mM、好ましくは50~200mMを、それぞれ例示することができる。
【0059】
なお、蛋白質の結晶化は、通常pH3~10、好ましくはpH4~9の範囲で行うことが好ましい。ゆえに、pH緩衝剤は、蛋白質含有溶液のpHが上記範囲になるような割合で用いることが好ましい。
【0060】
(III-2)蒸気拡散法
「蒸気拡散法」は、蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を混合した蛋白質含有溶液の液滴を、より高濃度の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を含む緩衝液(リザーバー溶液)の入った容器中に置き、密閉後、静置する方法である。液滴の置き方によりハンギングドロップ法、シッティングドロップ法に区別される。ハンギングドロップ法は、図1に示すように、蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を含む蛋白質含有溶液の小さな液滴をカバーガラス上に設置し、当該カバーガラスを液滴が吊り下がるように反転させて、容器周縁に密着させて密閉する方法である。シッティングドロップ法は、より高濃度の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を含む緩衝液(リザーバー溶液)の入った容器内に液滴台を設置し、蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を混合した蛋白質含有溶液の液滴を当該液滴台上に設置し、カバーガラス等で容器を密閉する方法である。通常、蛋白質含有溶液の液滴の容量は、外液の容量の1/100程度になるように調製される。当該蒸気拡散法は、多数の条件をより微量の蛋白質で検討できるため、結晶化条件を幅広くスクリーニングするのに適した方法である。
【0061】
ここで蛋白質結晶促進剤として前述する本発明の蛋白質結晶促進剤を、また蛋白質結晶化剤として前述する本発明の蛋白質結晶化剤を用いることによって、本発明の蛋白質結晶化方法を蒸気拡散法に適用することができる。なお、当該方法は、通常、0~30℃、好ましくは4~25℃の条件で行われる。
【0062】
ここで使用する蛋白質含有溶液の蛋白質濃度としては、通常0.1~15%(w/v)の範囲を挙げることができ、好ましくは0.3~10%(w/v)、より好ましくは0.5~2%(w/v)である。
【0063】
リザーバー溶液の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の濃度としては、アミノ酸類の濃度として、通常0.1M~飽和濃度、好ましくは0.2~2Mを挙げることができる。また、当該蛋白質結晶化剤が公知結晶化剤(塩、有機溶剤、水溶性高分子、またはpH緩衝剤)を含むものである場合、塩の濃度として、通常50mM~飽和濃度、好ましくは0.1~2M:有機溶剤の濃度としては、通常1~80%(v/v)、好ましくは5~40%(v/v):水溶性高分子の濃度としては、通常0.1~60%(w/v)、好ましくは1~40%(w/v)、pH緩衝剤の含有量としては、通常5~300mM、好ましくは50~200mMを、それぞれ例示することができる。
【0064】
また、蛋白質含有溶液の液滴中の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の濃度としては、上記リザーバー溶液の10/100~80/100程度の濃度を挙げることができる。具体的には、アミノ酸類の濃度として、通常0.1mM~飽和濃度の10/100~80/100、好ましくは1mM~1Mを、また蛋白質結晶化剤が公知結晶化剤(塩、有機溶剤、水溶性高分子、またはpH緩衝剤)を含む場合は、塩の濃度として、通常50mM~飽和濃度の10/100~80/100、好ましくは0.1~3.5M:有機溶剤の濃度としては、通常1~80%(v/v) の10/100~80/100、好ましくは10~70%(v/v) :水溶性高分子の濃度としては、通常0.1~60%(w/v) の10/100~80/100、好ましくは1~40%(w/v) 、pH緩衝剤の濃度としては、通常5~300mM、好ましくは50~200mMを、それぞれ例示することができる。
【0065】
なお、蛋白質の結晶化は、通常pH3~10、好ましくはpH4~9の範囲で行うことが好ましい。ゆえに、pH緩衝剤は、蛋白質含有溶液のpHが上記範囲になるような割合で用いることが好ましい。
【0066】
(III-3)液-液拡散法または透析法
「液-液拡散法」(「自由界面法」)又は「透析法」は、蛋白質含有溶液を蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の入った緩衝液に対して、それぞれ両溶液の界面を直接、またはゲル又は半透膜を介して接触させることによって、蛋白質含有溶液に蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を移行させて、その濃度を徐々に上昇させる方法である。これらの方法は、良質な蛋白質結晶を得るために好適に使用することができる。
【0067】
これらの方法において蛋白質結晶促進剤として前述する本発明の蛋白質結晶促進剤を、また蛋白質結晶化剤として、前述する本発明の蛋白質結晶化剤を用いることによって、本発明の蛋白質結晶化方法を液-液拡散法または透析法に適用することができる。なお、これらの方法は、通常、-5~30℃、好ましくは0~25℃の条件で行われる。
【0068】
ここで使用する蛋白質含有溶液の蛋白質濃度としては、通常0.1~15%(w/v)の範囲を挙げることができ、好ましくは0.3~10%(w/v)、より好ましくは0.5~2%(w/v)である。
【0069】
緩衝液中の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の濃度としては、アミノ酸類の濃度として、通常0.1mM~飽和濃度、好ましくは0.2~2Mを挙げることができる。
【0070】
また、当該蛋白質結晶化剤が公知結晶化剤(塩、有機溶剤、または水溶性高分子)を含むものである場合、塩の濃度として、通常50mM~飽和濃度、好ましくは0.1~2M:有機溶剤の濃度としては、通常1~80%(v/v)、好ましくは5~40%(v/v):水溶性高分子の濃度としては、通常0.1~60%(w/v)、好ましくは1~40%(w/v)を、それぞれ例示することができる。これらの蛋白質結晶化剤を含有する緩衝液としては、前述するpH緩衝剤から調製される水溶液を挙げることができ、その濃度としては、通常5~300mM、好ましくは50~200mMを、またpH条件としてはpH3~10、好ましくはpH4~9を挙げることができる。
【0071】
これらの方法において、結晶析出の有無は、通常、肉眼(目視)で行うことができるが、より正確には実体顕微鏡、電子顕微鏡、光学顕微鏡、またはX線回折装置などにより観察してもよい。対象とする蛋白質の種類、その純度や濃度などによっても異なるが、本発明の方法によれば、通常、数十分~30日間の期間で結晶析出の有無を図ることが可能である。条件によっては、数ヶ月後に結晶が得られることもある。
【0072】
なお、析出した結晶は、必要に応じて、キャピラリーやピペットなどで溶液より吸い上げたり、小さなループやスパチュラで溶液から取り出したり、回収したりすることができる。
【0073】
IV.蛋白質結晶化条件のスクリーニング方法とそれに使用する試薬
本発明が提供するスクリーニング方法は、蛋白質の結晶化条件を、多くの条件(蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の種類や濃度、pH、温度など)から探索して、決定する方法であり、蛋白質結晶化剤として前述する本発明の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤(アミノ酸類、またはアミノ酸類と公知結晶化剤の組み合わせ)を用いることを特徴とするものである。当該方法は、特に結晶化条件を決定する初期段階におけるランダムスクリーニング(初期スクリーニング)に好適に使用される。
【0074】
本発明のスクリーング方法は、前述するバッチ法、蒸気拡散法、液-液拡散法、および透析法のいずれの手法でも行うことができるが、多数の条件をより微量の蛋白質で検討できる蒸気拡散法(ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法)を用いて行うことが好ましい。
【0075】
蒸気拡散法を用いる場合、本発明のスクリーニング方法は、上記本発明の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を混合した蛋白質含有溶液の液滴を、より高濃度の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤を含む緩衝液(外液)の入った容器中に置き、密閉した状態で静置することによって行われる。すなわち、本発明によるスクリーニング方法は、対象とする蛋白質を含有する溶液と本発明の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤とを混合して、当該蛋白質を本発明の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の存在下に置くことによって行われる。
【0076】
蛋白質の結晶化は、対象とする蛋白質の純度や濃度、使用する蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の種類や濃度、蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤が複数からなる場合はその組み合わせや組成、pH条件や温度条件などのパラメーターによって影響を受ける。このため、蛋白質の結晶化条件は、これらのパラメーターの組み合わせによって決定される。すなわち、蛋白質の結晶化条件をスクリーニングするとは、上記パラメーターの多数の組み合わせの中から、対象とする蛋白質の結晶化に適したパラメーターの組み合わせを選抜することを意味する。
【0077】
本発明のスクリーニング方法は、複数のウエル内にこれらのパラメーター(対象とする蛋白質の濃度、使用する本発明の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の種類や濃度、蛋白質結晶促進剤や蛋白質結晶化剤が複数からなる場合はその組み合わせや組成、pH条件など)が複数集積されたマイクロアレイまたはマルチプルプレートを利用することによって行うことが好ましく、こうすることで微量の蛋白質試料を用いて、多数想定される結晶化条件の中から最適な条件を簡便かつ迅速に決定することが可能になる。
【0078】
例えば、上記パラメーターの一つである蛋白質濃度は、制限されないが、通常0.1~150mg/mlの範囲で数段階に設定することが好ましい。なお、蛋白質含有溶液は、対象とする蛋白質の他、蛋白質の溶解を助ける可溶化剤、還元剤などの安定化剤などを含有していてもよい。
【0079】
上記パラメーターの一つである蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤の種類としては、前述する塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸のエステル誘導体、アミノ酸のアミド誘導体、並びにこれらの塩または溶媒和物(アミノ酸類)を1種で使用する態様、またはこれらを任意に2種以上組み合わせて使用する態様、またはこれらのアミノ酸類の1種または2種以上と、公知結晶剤〔沈殿剤(塩、水溶性高分子、有機溶剤)、pH緩衝剤、その他の付加物〕の1種または2種以上とを組み合わせて使用する態様を、種々設定することが好ましい。またこれらの使用濃度(反応液中の濃度)は、アミノ酸類の場合、通常20mM~1Mの範囲で数段階設定することが好ましく、またこれに公知結晶剤を併用する場合、塩(沈殿剤)については通常50mM~2.5Mの範囲、水溶性高分子(沈殿剤)については通常0.5~40% (w/v)の範囲、有機溶剤(沈殿剤)については通常1~40%(v/v)の範囲、pH緩衝剤については通常10mM~0.2Mの範囲で数段階設定することが好ましい。
【0080】
また温度条件やpH条件も、蛋白質結晶化条件の一要件であるため、数段階設定してスクリーニングを行うことが好ましく、温度条件としては、例えば4~25℃の範囲で数段階、またpH条件としては、例えばpH3~9の範囲で数段階設定することができる。
【0081】
こうした種々のパラメーターからなる条件で、対象蛋白質と本発明の蛋白質結晶促進剤または蛋白質結晶化剤とを共存させた状態で静置することによって結晶の析出を待つ。蛋白質が析出するのに要する十分な時間としては、蛋白質の種類、濃度および純度などによっても異なるが、通常1時間から10日間であり、30日以上経過しても結晶が析出しない場合には、その結晶化条件(パラメーターの組み合わせ)は、結晶化に適していないと判断することができる。
【0082】
なお、結晶析出の有無は、通常、肉眼(目視)で行うことができるが、より正確には実体顕微鏡、光学顕微鏡、またはX線回折装置などにより観察してもよい。また、多数の結晶化条件における結晶析出の様子を、例えば顕微鏡に搭載したCCDカメラにより撮影記録して、画像処理してもよく、こうすることによって結晶化の成否を遠隔地にいながらも高速に判断することができる。
【0083】
蛋白質の結晶が確認された場合は、当該結晶の析出に使用した条件(パラメーターの組み合わせ)を、結晶化条件として決定する。また必要に応じて、さらにより詳細な蛋白質結晶化条件に絞り込むために、さらに蛋白質結晶化条件をより狭い範囲で設定した第2段階のスクリーング方法、また、さらなる条件を精密化した方法を行うこともできる。
【0084】
斯くして決定された結晶化条件を用いることにより、当該対象の蛋白質は、この技術分野で通常使用される蛋白質結晶化手法(バッチ法、蒸気拡散法、液-液拡散法、および透析法)により、よりX線実験に適した結晶を析出することが可能となる。
【0085】
蒸気拡散法を用いた本発明のスクリーニング方法によれば、微量の蛋白質を用いて複数の蛋白質結晶化条件の中から適切な条件を簡便にスクリーニングすることができ、蛋白質結晶化条件を容易かつ迅速に決定するために有用である。
【0086】
なお、上記のスクリーニング方法は、前述するアミノ酸類からなる本発明の蛋白質結晶促進剤、前述するアミノ酸類を有効成分とする本発明の蛋白質結晶促進剤、または当該アミノ酸等からなるか、またはこれらアミノ酸類と従来公知の蛋白質結晶化剤(公知結晶化剤)との組み合わせからなる本発明の蛋白質結晶化剤を含む、スクリーング試薬を用いて行うのが簡便である。よって、本発明は、前述する本発明の蛋白質結晶促進剤、および蛋白質結晶化剤をスクリーニング試薬として提供する。
【0087】
また当該スクリーニング試薬は、そのほか、スクリーニング方法に使用されるマイプロアレイ、マイクロプレート、カバーガラス、仕様書、緩衝液などをセットとして備えた試薬キットの形態を有するものであってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、実験例および実施例を示して本発明を説明するが、本発明はかかる実施例などによって制限されるものではない。
【0089】
実施例1
蛋白質としてリゾチーム(生化学工業(株))を用いて、各種アミノ酸(グリシン、アラニン、メチオニン、オルニチン[以上、和光純薬工業(株)]、リシン[シグマ(株)])、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、システインエチルエステル[シグマ(株)])、およびアミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド、プロリンアミド[和光純薬工業(株)])の蛋白質結晶化剤または蛋白質結晶化促進剤としての機能を調べた。
【0090】
(1)実験方法
具体的には、蛋白質溶液として、上記各種アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、またはアミノ酸アミド誘導体を最終濃度が0.2Mとなるように添加した0.1 M緩衝溶液 (酢酸ナトリウム(pH 4.5)またはリン酸ナトリウム(pH 6.5))を用いて、25 mg/mlもしくは50 mg/ml濃度のリゾチーム溶液を調製した。この蛋白質溶液を用いて、スパースマトリックス法(J. Jancarik and S.-H. Kim, J. Appl. Cryst. (1991). 24, 409-411)により、結晶化のための初期スクリーニングを行った。なお、結晶化は、ハンギングドロップ蒸気拡散法(「タンパク質の結晶化 回折構造生物学のために」P 373、京都大学学出版会、坂部知平監修、相原茂夫編者)の手法を用いて、下記に示す操作に従って行った(図1参照)。
【0091】
スクリーニングには、市販のCrystal Screen 1 (Hampton Research社)スクリーニングキットを用いた。このキットには表1に示す50種類の溶液が含まれており、これをリザーバー溶液として用いた。









【0092】
【表1】
JP0005484041B2_000002t.gif

【0093】
<結晶化操作> ハンギングドロップ蒸気拡散法(図1)
操作1:ビーカーに表1に示す各組成からなるリザーバー溶液を500μl入れ、一方、カバーガラスに蛋白質溶液(25 もしくは50 mg/ml濃度のリゾチーム溶液)を1μlのせる。
操作2:ビーカー内のリザーバー溶液から1μl取り出す。
操作3:取り出したリザーバー溶液1μlを、カバーガラスにのせた蛋白質溶液1μlと混ぜ合わせる。
操作4:カバーガラスを反転させて、蛋白質溶液の液滴がビーカー内側に吊り下がる形になるように、カバーガラスをビーカーの口に密着させて密閉する。
操作5:この状態で20℃の条件で放置し、結晶析出の有無を観察する。
【0094】
なお、対照実験(control)として、上記蛋白質溶液に代えて、アミノ酸やアミノ酸誘導体を含まない0.1 M緩衝溶液 (酢酸ナトリウム(pH 4.5)またはリン酸ナトリウム(pH 6.5))を用いて調製した25 mg/mlもしくは50 mg/ml濃度のリゾチーム溶液を用いて、同様の操作を行った。
【0095】
結晶析出有無の判断は、蛋白質溶液内に生じた析出物を光学顕微鏡で観察することによって行い、析出物の形状(結晶のエッジ)がきれいで透明性が高い場合に「結晶析出あり」と判断した。
【0096】
(2)実験結果
異なるpH条件下(pH4.5、pH6.5)での結晶析出結果を表2および3に示す。各表に示す番号は、使用した50種類のリザーバー溶液のうち結晶析出した溶液の番号であり、その横の%は結晶析出成功率(ヒット率)を示す。また、この結果をグラフ化したものを図2に示す。
【0097】
【表2】
JP0005484041B2_000003t.gif



【0098】
【表3】
JP0005484041B2_000004t.gif

【0099】
また異なる蛋白質濃度条件(25mg/ml、50mg/ml)、pH 4.5での結晶析出結果を表4および5に示す。各表に示す番号は、表2と3と同じく、使用した50種類のリザーバー溶液のうち結晶析出した溶液の番号であり、その横の%は結晶析出成功率(ヒット率)を示す。また、この結果をグラフ化したものを図3に示す。
【0100】
【表4】
JP0005484041B2_000005t.gif




【0101】
【表5】
JP0005484041B2_000006t.gif

【0102】
また異なる蛋白質濃度条件(25mg/ml、50mg/ml)、pH 6.5での結晶析出結果を表6に示す。各表に示す番号は、表2と3と4と5と同じく、使用した50種類のリザーバー溶液のうち結晶析出した溶液の番号であり、その横の%は結晶析出成功率(ヒット率)を示す。また、この結果をグラフ化したものを図4に示す。










【0103】
【表6】
JP0005484041B2_000007t.gif

【0104】
アミノ酸またはアミノ酸誘導体の配合による結晶析出成功率が、対照実験(各図左端:control)のそれよりも大きい場合に、そのアミノ酸またはアミノ酸誘導体の配合によって蛋白質の結晶化が促進されると判断することができる。
【0105】
図2の結果から、pHの別にかかわらず、リシン、オルニチン、グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、システインエチルエステル、およびグリシンアミドによって結晶化が促進されることが分かった。また図3から、25 mg/ml濃度のリゾチームの場合、リシン、オルニチン、グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、システインエチルエステル、およびグリシンアミドによって結晶化が促進されることが分かった。また、50 mg/ml濃度のリゾチームの場合、アルギニン、リシン、オルニチン、グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、システインエチルエステル、およびグリシンアミドによって結晶化が促進されることが分かった。
【0106】
また図4から、25 mg/ml濃度のリゾチームの場合、オルニチン、グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、システインエチルエステル、グリシンアミド、およびプロリンアミドによって結晶化が促進されることが分かった。また、50mg/ml濃度のリゾチームの場合、オルニチン、グリシンエチルエステル、リシンエチルエステル、システインエチルエステル、グリシンアミド、およびプロリンアミドによって結晶化が促進されることが分かった。
【0107】
以上の結果から、pHや蛋白質濃度などの条件によって効果のある添加剤の種類は異なるものの、結晶化に際して、蛋白質溶液に塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、アルニチン)、アミノ酸エステル誘導体、またはアミノ酸アミド誘導体を加えることによって結晶化が促進されること、言い換えれば結晶析出の成功率が向上することがいえる。すなわち、これらの結果は、これらのアミノ酸またはアミノ酸誘導体に、蛋白質結晶化剤または蛋白質結晶促進剤としての作用があることを示すものである。
【0108】
実施例2
蛋白質としてリゾチーム(生化学工業(株))を用いて、各種アミノ酸(グリシン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、オルニチン[以上、和光純薬工業(株)]、リシン[シグマ(株)])、アミノ酸誘導体(グリシンエチルエステル[シグマ(株)]、グリシンアミド[和光純薬工業(株)])の蛋白質結晶化剤または蛋白質結晶化促進剤としての機能を調べた。
【0109】
(1)実験方法
蛋白質溶液として、0.1 M緩衝溶液(リン酸水素ナトリウム (pH 6.5))を用いて調製した25 mg/ml濃度のリゾチーム溶液を用い、またリザーバー溶液として下記組成からなるアミノ酸またはアミノ酸誘導体含有溶液を用いて、実施例1で用いたハンギングドロップ蒸気拡散法(操作1~5)と同様の操作を行うことによって、結晶析出の有無を観察した。
【0110】
<リザーバー溶液の組成>
緩衝溶液:0.1 M リン酸水素ナトリウム (pH 6.5)
沈 殿 剤:2.0 M~0.1 M 塩化ナトリウム
添 加 剤:0.1 M~1.0 M各種アミノ酸またはアミノ酸誘導体。
【0111】
また対照実験(control)として、リザーバー溶液として、上記添加剤(アミノ酸やアミノ酸誘導体)を含まない上記緩衝溶液(0.1 M リン酸水素ナトリウム(pH 6.5))と沈殿剤(2.0 M~0.1 M 塩化ナトリウム)のみからなる溶液を用いて、同様の操作を行った。
【0112】
(2)実験結果
結果を図5、6および7に示す。図5は結晶化開始から9日目に観察した結果を、図6は結晶化開始から3日目に観察した結果を示す。また図7は蛋白質濃度条件(50mg/ml)での結晶析出結果を示す。なお、各図の縦軸は、結晶化に使用した沈殿剤(NaCl)の濃度を示し、各種アミノ酸またはアミノ酸誘導体を配合した場合に得られるバーの長さが対照実験(各図左端:control)で得られるバーより長い場合に、アミノ酸またはアミノ酸誘導体によって結晶析出が促進され、結晶を析出させる沈殿剤の使用濃度範囲がより広くなること、言い換えれば結晶化条件の範囲が広がることを意味する。
【0113】
図5に示すように、グリシンおよびセリン以外のアミノ酸(アルギニンおよびリシンの塩基性アミノ酸、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸)と、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル)でcontrolと異なる結果を得た。具体的には、アルギニンおよびグリシンエチルエステルは、高濃度の沈殿剤含有溶液(高過飽和溶液)において蛋白質の結晶化を促進し、また他のアミノ酸(リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸)、およびグリシンエチルエステルは、低濃度の沈殿剤含有溶液(低過飽和溶液)において蛋白質の結晶化を促進することが確認された。
【0114】
これらのことより、上記アミノ酸(アルギニンやリシンの塩基性アミノ酸、アスパラギン酸やグルタミン酸の酸性アミノ酸)またはアミノ酸エステル誘導体を従来公知の沈殿剤と併用することによって広範囲の条件で結晶を析出させることができること、言い換えれば上記アミノ酸またはアミノ酸エステル誘導体を使用することによって結晶の析出が促進され、従来の沈殿剤を用いても結晶化しない条件(control)でも結晶が析出し、結晶の成功率を向上させることができることが分かった。
【0115】
また、図6は結晶開始から3日目の結晶化状況を示す結果であるが、従来の沈殿剤を用いても結晶化しない条件(control)でも、上記アミノ酸またはアミノ酸エステル誘導体を用いることによって結晶が析出した。またその結果は結晶開始から9日目の結果(図5)と大差ないことから、上記アミノ酸またはアミノ酸エステル誘導体の配合によって結晶析出までの時間が短縮できることが分かる。
【0116】
また図7で示すように、グリシンおよびセリン以外のアミノ酸(アルギニン、リシンおよびオルニチンといった塩基性アミノ酸、アスパラギン酸やグルタミン酸といった酸性アミノ酸)、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル)、およびアミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド)でcontrolと異なる結果を得た。具体的には、アルギニン、グリシンエチルエステル、およびグリシンアミドは、高濃度の沈殿剤含有溶液(高過飽和溶液)において蛋白質の結晶化を促進し、また他のアミノ酸(リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、オルニチン)、グリシンエチルエステル、およびグリシンアミドは、低濃度の沈殿剤含有溶液(低過飽和溶液)において蛋白質の結晶化を促進することが確認された。
【0117】
これらの結果から、結晶化に際して蛋白質溶液に上記アミノ酸(アルギニン、リシンおよびオルニチンといった塩基性アミノ酸、アスパラギン酸やグルタミン酸といった酸性アミノ酸)、アミノ酸エステル誘導体、またはアミノ酸アミド誘導体を加えることによって結晶化が促進され、その結果、広範囲の条件でまた短時間に結晶を析出させることが可能になることが分かる。すなわち、これらの結果は、蛋白質結晶化の初期スクリーニングにおいて、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、またはアミノ酸アミド誘導体を従来公知の蛋白質結晶化剤と組み合わせて用いることによって、蛋白質結晶化の成功率を上げることができることを示すものである。
【0118】
実施例3
蛋白質としてリゾチーム(生化学工業(株))を用いて、各種アミノ酸(グリシン、アルギニン、オルニチン[以上、和光純薬工業(株)]、リシン[シグマ(株)])、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル、セリンエチルエステル、リシンエチルエステル[以上、シグマ(株)])、アミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、プロリンアミド、アルギニンアミド[以上、和光純薬工業(株)])の蛋白質結晶化剤または蛋白質結晶化促進剤としての機能を、実施例2の方法と同様にして調べた。
【0119】
50mg/mlのリゾチーム濃度条件で、結晶開始から2日目に観察した結果を図8に示す。図の縦軸は、結晶化に使用した沈殿剤(NaCl)の濃度を示し、各種アミノ酸またはアミノ酸誘導体を配合した場合に得られるバーの長さが対照実験(各図左端:control)で得られるバーより長い場合、またそのバーの範囲からシフトしている場合に、アミノ酸またはアミノ酸誘導体によって結晶析出が促進され、結晶を析出させる沈殿剤の使用濃度範囲がより広くなること、言い換えれば結晶化条件の範囲が広がることを意味する。
【0120】
図8に示すように、グリシン以外のアミノ酸(アルギニン、リシンおよびオルニチンの塩基性アミノ酸)、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル、セリンエチルエステル、リシンエチルエステル)、およびアミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド、セリンアミド、スレオニンアミド、プロリンアミド、アルギニンアミド)でcontrolと異なる結果を得た。具体的には、アルギニン、グリシンエチルエステル、セリンエチルエステル、リシンエチルエステル、グリシンアミド、スレオニンアミド、プロリンアミド、およびアルギニンアミドは、高濃度の沈殿剤含有溶液(高過飽和溶液)において蛋白質の結晶化を促進し、また他のアミノ酸(リシン、オル二進)、およびグリシンエチルエステル、セリンエチルエステル、リシンエチルエステル、グリシンアミド、およびプロリンアミドは、低濃度の沈殿剤含有溶液(低過飽和溶液)において蛋白質の結晶化を促進することが確認された。
【0121】
これらのことより、上記アミノ酸(アルギニン、リシンおよびオルニチンの塩基性アミノ酸)、アミノ酸エステル誘導体またはアミノ酸アミド誘導体を従来公知の沈殿剤と併用することによって広範囲の条件で結晶を析出させることができること、言い換えれば上記アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体またはアミノ酸アミド誘導体を使用することによって結晶の析出が促進され、従来の沈殿剤を用いても結晶化しない条件(control)でも結晶が析出し、結晶の成功率を向上させることができることが分かった。
【0122】
実施例4
沈殿剤として硫酸アンモニウムを用いてリゾチームを結晶化することは非常に困難とされている(Acta Cryst.(1997) D53, 759-797、Acta Cryst.(1994) D50, 366-369)。そこで、沈殿剤として硫酸アンモニウムを用いた条件で、酸性アミノ酸(グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、オルニチン)、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル)、またはアミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド)を加えた場合に、リゾチームの結晶が析出するかどうかを調べた。
【0123】
(1)実験方法
蛋白質溶液として、0.1 M緩衝溶液(リン酸水素ナトリウム (pH 6.5))を用いて調製した100 mg/mlまたは150 mg/ml 濃度のリゾチーム溶液を用い、またリザーバー溶液として下記組成からなるアミノ酸、またはアミノ酸誘導体含有溶液を用いて、実施例1で用いたハンギングドロップ蒸気拡散法(操作1~5)と同様の操作を行うことによって、結晶析出の有無を観察した。
【0124】
<リザーバー溶液の組成>
緩衝溶液:0.1 M リン酸水素ナトリウム (pH 6.5)
沈 殿 剤:1.5 M~0.1 M 硫酸アンモニウム
添 加 剤:0.1 M~1.0 M各種アミノ酸、またはアミノ酸誘導体。
【0125】
また対照実験(control)として、リザーバー溶液として、上記添加剤(アミノ酸やアミノ酸誘導体)を含まない上記緩衝溶液(0.1 M リン酸水素ナトリウム(pH 6.5))と沈殿剤(1.5 M~0.1 M 硫酸アンモニウム)のみからなる溶液を用いて、同様の操作を行った。
【0126】
(2)実験結果
結晶開始から3週間目の結果を図9(100 mg/mlリゾチーム)と図10(150 mg/mlリゾチーム)に示す。なお、図の縦軸は、結晶化に使用した沈殿剤(硫酸アンモニウム)の濃度を示す。図9と10からわかるように、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、およびアミノ酸誘導体のいずれも使用しない対照実験(左端:control)では結晶の析出は認められなかったのに対して、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、またはアミノ酸アミド誘導体、特にグルタミン酸、アルギニン、リシン、オルニチン、グリシンエチルエステル、またはグリシンアミドを使用した場合には、沈殿剤(硫酸アンモニウム)の存在で結晶が析出した。この結果は、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、およびアミノ酸アミド誘導体によって結晶析出が促進され、従来困難とされていた硫酸アンモニウムを沈殿剤としたリゾチームの結晶化が可能になることを示すと同時に、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、アミノ酸エステル誘導体、およびアミノ酸アミド誘導体を用いることによって、蛋白質結晶に有効に使用できる沈殿剤の種類の幅が広がること、言い換えれば、蛋白質結晶化の初期スクリーニングにおいて使用できる結晶化条件の範囲が広がることを意味する。
【0127】
上記文献(Acta Cryst.(1997) D53, 759-797.、Acta Cryst.(1994) D50, 366-369)では、硫酸アンモニウムを沈澱剤として用いたリゾチームの結晶化を、市販のリゾチームをさらに高純度に精製することによりようやく成功している。しかし、本発明の方法によれば、前述するように、市販のリゾチームに単に上記のアミノ酸またはアミノ酸誘導体を添加するだけで硫酸アンモニウムによる結晶化に成功した。このことは、純度がさほど良くない蛋白質を用いても、上記アミノ酸またはアミノ酸誘導体の使用により結晶化を成功に導くことを意味している。
【0128】
実施例5
蛋白質としてヘモグロビン(シグマ(株))を用いて、各種アミノ酸(プロリン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸 [以上、和光純薬工業(株)])の蛋白質結晶化剤または蛋白質結晶化促進剤としての機能を調べた。
【0129】
(1)実験方法
蛋白質溶液として、0.1 M緩衝溶液(リン酸水素ナトリウム (pH 6.5))を用いて調製した4%(w/v) ヘモグロビン溶液を用い、またリザーバー溶液として下記組成からなるアミノ酸含有溶液を用いて、実施例1で用いたハンギングドロップ蒸気拡散法(操作1~5)と同様の操作を行うことによって、結晶析出の有無を観察した。
【0130】
<リザーバー溶液の組成>
緩衝溶液:0.1 M リン酸水素ナトリウム (pH 6.5)
沈 殿 剤:12.5 %(w/v)~25.0 %(w/v) ポリエチレングリコール3350
添 加 剤:0.2 M~1.0 M各種アミノ酸。
【0131】
また対照実験(control)として、リザーバー溶液として、添加剤(アミノ酸)を含まない上記緩衝溶液(0.1 M リン酸水素ナトリウム(pH 6.5))と沈殿剤(12.5(w/v)~25.0(w/v) ポリエチレングリコール)のみからなる溶液を用いて、同様の操作を行った。
【0132】
(2)実験結果
結晶開始から3日目の結果を図11に示す。図の縦軸は、結晶化に使用した沈殿剤(PEG)の濃度を示す。ポリエチレングリコール3350は、25%(w/v)よりも濃度の低い範囲を検討している。このため、、各種アミノ酸を配合した場合に得られるバーが対照実験(各図左端:control)で得られるバーより下方向に長く伸びている場合に、当該アミノ酸によって結晶析出が促進され、結晶を析出させる沈殿剤(PEG)の使用濃度範囲がより広くなること、言い換えれば結晶化条件の範囲が広がることを意味する。この結果から、アスパラギン酸またはグルタミン酸の酸性アミノ酸を使用することによって、沈殿剤としてポリエチレングリコールを用いた場合の結晶化条件の幅が広がることが判明した。
【0133】
図12は、アスパラギン酸またはグルタミン酸を用いることによって析出した結晶の顕微鏡写真である(接眼レンズ×10, 対物レンズ×4)。また、アルギニンの使用によって析出した結晶の顕微鏡写真も併せて掲載する。図中、「No additive」は対照実験(control)で得られた蛋白質の結晶を示すが、小さな結晶が重なり合っているためX線回折実験には使用できない(本来、4%(w/v)ヘモグロビン、沈殿剤に17.5%(w/v)PEG 3350を使用)。一方、アスパラギン酸、グルタミン酸、またはアルギニンを配合することによって得られた蛋白質の結晶は、いずれも単結晶であり、X線回折実験に好適に使用できる良質のものであった。このことから、酸性アミノ酸は、結晶化条件の範囲を広げるだけでなく、結晶の質をも向上させるとことが示唆された。
【0134】
実施例6
蛋白質としてリボヌクレアーゼA(ワーシングトン(株))を用いて、各種アミノ酸(アラニン、グルタミン酸 、オルニチン[以上、和光純薬工業(株)]、 アスパラギン酸、リシン[以上、シグマ(株)]およびアミノ酸誘導体(グリシンエチルエステル)の蛋白質結晶化剤または蛋白質結晶化促進剤としての機能を調べた。
【0135】
(1)実験方法
蛋白質溶液として、0.1 M緩衝溶液(酢酸ナトリウム (pH 6.0))を用いて調製した25 mg/ml リボヌクレアーゼA溶液を用い、またリザーバー溶液として下記組成からなるアミノ酸含有溶液を用いて、実施例1で用いたハンギングドロップ蒸気拡散法(操作1~5)と同様の操作を行うことによって、結晶析出の有無を観察した。
【0136】
<リザーバー溶液の組成>
緩衝溶液:0.1 M 酢酸ナトリウム (pH 6.0)
沈 殿 剤:35 %(w/v) 硫酸アンモニウム
添 加 剤:0.5 M各種アミノ酸、またはアミノ酸誘導体。
【0137】
また対照実験(control)として、リザーバー溶液として、添加剤(アミノ酸)を含まない上記緩衝溶液(0.1 M酢酸ナトリウム (pH 6.0))と沈殿剤(35 %(w/v) 硫酸アンモニウム)のみからなる溶液を用いて、同様の操作を行った。
【0138】
(2)実験結果
図13は、アスパラギン酸またはグリシンエチルエステルを用いることによって析出した結晶の顕微鏡写真である(接眼レンズ×10, 対物レンズ×4)。図中、「No additive」は対照実験(control)を示すが、結晶の析出は観察されず、非晶質の沈殿物のみが観察された。一方、アスパラギン酸、グリシンエチルエステルを配合することにより良質の蛋白質結晶を得ることができた。文献(Protein Sci. (2002) 11(1). 72)では、硫酸アンモニウムを沈澱剤として用いてリボヌクレアーゼAの結晶化に成功している。しかし、蛋白質の結晶化はその蛋白質純度により、以前報告された結晶化条件において結晶が析出しないと言ったことが度々起こる。しかし、本発明の方法によれば、前述するように、既存の結晶化条件において結晶が析出しない、やや純度に問題があると考えられる市販のリボヌクレアーゼAに、単に上記のアミノ酸またはアミノ酸誘導体を添加するだけで硫酸アンモニウムによる結晶化に成功した。このことは、純度がさほど良くない蛋白質を用いても、上記アミノ酸またはアミノ酸誘導体の使用により結晶化を成功に導くことを意味している。このことから、特に酸性アミノ酸は、純度が良くない蛋白質を用いても結晶化を向上させるとことが示唆された。
【0139】
実施例7
蛋白質としてリゾチーム(生化学工業(株))を用いて、各種アミノ酸(グルタミン酸、オルニチン、アルギニン、アスパラギン酸[以上、和光純薬工業(株)]、リシン[シグマ(株)])、アミノ酸エステル誘導体(グリシンエチルエステル、アルギニンエチルエステル[シグマ(株)])、およびアミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド[和光純薬工業(株)])の単独使用による蛋白質結晶化剤としての作用を調べた。
【0140】
(1)実験方法
蛋白質溶液として、0.1 M緩衝溶液(リン酸水素ナトリウム (pH 6.5))を用いて調製した50 mg/ml, 100 mg/ml, または150 mg/ml濃度のリゾチーム溶液を用い、またリザーバー溶液として下記組成からなるアミノ酸、またはアミノ酸誘導体含有溶液を用いて、実施例1で用いたハンギングドロップ蒸気拡散法(操作1~5)と同様の操作を行うことによって、結晶析出の有無を観察した。
【0141】
<リザーバー溶液の組成>
緩衝溶液:0.1 M リン酸水素ナトリウム (pH 6.5)
添 加 剤:0.75 M~2.0 M各種アミノ酸、またはアミノ酸誘導体。
【0142】
(2)実験結果
結晶開始から14日目の結果を図14に示す。アミノ酸(リシン、アルギニン、オルニチン、アスパラギン酸、グルタミン酸)、アミノ酸エステル誘導体(アルギニンエチルエステル、グリシンエチルエステル)、またはアミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド)を配合すると結晶が析出した。この結果は、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、オルニチン)、アミノ酸アミド誘導体(グリシンアミド)、およびアミノ酸エステル誘導体(アルギニンエチルエステル、グリシンエチルエステル)は、これら単独で蛋白質を結晶化し、蛋白質結晶化剤として有用であることを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】実施例1~6で結晶化に使用するハンギングドロップ上記拡散法の操作の概略を示す。
【図2】実施例1における結果(表2と3)をグラフにした図である。すなわち、初期スクリーニングにおける各種アミノ酸(横軸)使用による結晶成功率を、pH別(pH4.5と6.5)に示した図である。
【図3】実施例1における結果(表4と5)をグラフにした図である。すなわち、初期スクリーニングにおける各種アミノ酸またはアミノ酸誘導体(横軸)使用による結晶成功率を、蛋白質濃度別(25mg/ml、50mg/ml)に示した図である(pH 4.5)。
【図4】実施例1における結果(表6)をグラフにした図である。すなわち、初期スクリーニングにおける各種アミノ酸またはアミノ酸誘導体(横軸)使用による結晶成功率を、蛋白質濃度別(25mg/ml、50mg/ml)に示した図である。(pH 6.5)
【図5】実施例2における結晶開始から9日目の結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(NaCl)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。なお、蛋白質濃度は25mg/mlである。
【図6】実施例2における結晶開始から3日目の結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(NaCl)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。なお、蛋白質濃度は25mg/mlである。
【図7】実施例2における結晶開始から3週間後の結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(NaCl)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。なお、蛋白質濃度は50mg/mlである。
【図8】実験例3における結晶開始から2日後の結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(NaCl)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。なお、蛋白質濃度は50mg/mlである。
【図9】実施例4における結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(硫酸アンモニウム)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。なお、蛋白質濃度は100mg/mlである。
【図10】実施例4における結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(硫酸アンモニウム)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。なお、蛋白質濃度は150mg/mlである。
【図11】実施例5における結晶析出状況を示す。縦軸は結晶化に使用した沈殿剤(ポリエチレングリコール)の濃度を、横軸は結晶化に使用したアミノ酸およびアミノ酸誘導体を示す。
【図12】実施例5において得られた結晶を実体顕微鏡で観察した結果を示す画像を示す。図中、「No additive」は対照実験(control)で得られた蛋白質の結晶を示す。
【図13】実施例6において得られた結晶を実体顕微鏡で観察した結果を示す画像を示す。図中、「No additive」は対照実験(control)でのドロップの様子を示す。対照試験では、結晶は得られず沈殿のみが得られた。
【図14】実施例7における結晶析出状況を示す。横軸は結晶化に使用したアミノ酸、ジペプチド、およびアミノ酸誘導体を、縦軸はその濃度を示す。
図面
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