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明細書 :電解液用溶媒、電解液、及びゲル状電解質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5725510号 (P5725510)
登録日 平成27年4月10日(2015.4.10)
発行日 平成27年5月27日(2015.5.27)
発明の名称または考案の名称 電解液用溶媒、電解液、及びゲル状電解質
国際特許分類 H01M  10/0569      (2010.01)
H01M  10/0568      (2010.01)
H01M  10/0565      (2010.01)
H01M  10/052       (2010.01)
FI H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01M 10/0565
H01M 10/052
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願2011-533083 (P2011-533083)
出願日 平成22年9月28日(2010.9.28)
国際出願番号 PCT/JP2010/066853
国際公開番号 WO2011/037263
国際公開日 平成23年3月31日(2011.3.31)
優先権出願番号 2009223373
優先日 平成21年9月28日(2009.9.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年9月25日(2013.9.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
発明者または考案者 【氏名】藤波 達雄
【氏名】田中 康隆
【氏名】入山 恭寿
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】結城 佐織
参考文献・文献 特開2008-300125(JP,A)
特開2003-132946(JP,A)
特開2000-100469(JP,A)
特開2004-002342(JP,A)
金子淳哉、簑島政訓、入山恭寿、田中康隆、藤波達雄,混合ホウ酸エステル電解液の電気化学的性質,電気化学会大会講演要旨集,2009年 3月29日,Vol.76th,p.480
調査した分野 H01M 10/05-10/0587
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(I)で表されるホウ酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、下記式(II)で表されるホウ酸エステルと、下記式(III)で表されるホウ酸エステル及び炭酸エステルから選ばれる少なくとも1種とを含み、前記式(I)で表されるホウ酸エステルに含まれる-ORf及び前記式(II)で表されるホウ酸エステルに含まれる-OCHCHCNの少なくとも一部がエステル交換されている電解液用溶媒。
B(ORf) (I)
B(OCHCHCN) (II)
(式(I)におけるRfは、それぞれ独立してCH(CFCF又はCH(CFを表し、nは0以上6以下の整数である。)
B(OR) (III)
(式(III)において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基又はt-ブチル基を表す。)
【請求項2】
前記式(I)で表されるホウ酸エステルと前記式(II)で表されるホウ酸エステルとの混合モル比が、2:1~1:6である請求項1に記載の電解液用溶媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電解液用溶媒にリチウム塩を溶解した電解液。
【請求項4】
前記リチウム塩がLiPFである請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
前記リチウム塩がLiBFである請求項に記載の電解液。
【請求項6】
請求項3~請求項5のいずれか1項に記載の電解液とポリマーとを含むゲル状電解質。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液用溶媒、電解液、及びゲル状電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は放電電圧及びエネルギー密度が高いことから、ノートパソコンや携帯電話などの携帯電子機器用の電源として広く普及している。また、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車用電源としての開発が進められている。プラグインハイブリッド車や電気自動車の一充電あたりの走行距離を伸ばすことが重要課題であり、また、HEV(ハイブリッド電気自動車)でも蓄電池の軽量化及び出力を高くすることが求められている。
【0003】
車載用リチウム電池のエネルギー密度(Wh/Kg=VAh/Kg)を大きくするためには、電極活物質の容量(Ah/Kg)を大きくすることと、放電電圧(V)を高電位化する二つの方法があり、これらを併用することが望まれている。また、現在用いられているコバルト酸リチウム正極では、4.2Vの充電では約半分のリチウムしか利用されていないが、高電位化してリチウムイオンの利用率を高めることができればエネルギー密度の向上が可能となる。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の電解質は、非プロトン性有機溶媒にリチウム塩を溶解させた液体電解質、または、それらをPVDF-HFP(多孔性ポリビニリデンフッ化物‐ヘキサフルオロプロピレン)などの多孔性構造材料に含浸させたゲルポリマー電解質から構成されているが、可燃性の有機溶媒の使用は電池が大型化するほど安全上の問題が大きくなり、電解液の不燃化あるいは難燃化が求められている。
【0005】
例えば、無機固体電解質は安全性の高い不燃性電解質である。イオン導電率も高く(10-3S/cmオーダー)、電気化学的にも安定な酸化物系及び硫化物系材料が報告されている。しかし、無機物質であるため脆く、セルの形成が困難である。また、電極と電解質のコンタクトが悪いという問題がある。
【0006】
ポリマー電解質は真性ポリマー電解質(以下「ポリマー電解質」と記す。)とゲル電解質に分類される。
ポリマー電解質は、ポリエチレンオキシドなどのホストポリマーにリチウム塩を溶解させた電解質である。ポリマー電解質を用いる電池は全固体型であることから、液漏れの恐れがなく、安全性が高い。しかし、ポリマー電解質はイオン導電率の温度依存性が大きく、室温でのイオン導電度がやや低い(10-4S/cmオーダー)上に、零下の低温域では大きく低下してしまい電池の作動も困難になる。
一方、ゲル電解質はポリマーを有機電解液で膨潤させた電解質であり、ポリマー電解質に比べてイオン伝導率が高い(10-3S/cmオーダー)。また、電極との界面抵抗が小さく、ゲル電解質を用いた電池は既に実用化、商品化の段階にある。しかし、有機溶媒を用いているため、ポリマー電解質に比べ安全性が低い。
【0007】
また、イオン性液体電解質は、融点が室温以下の溶融塩にリチウム塩を溶解させた電解質である。イオン性液体電解質は、イオン導電率は高いが、負極での電気化学的安定性、低温特性及びコストの改善に課題がある。
【0008】
高電位でも高い電気化学的安定性を示す電解液として、フッ素系溶媒及びシアノ基を有する溶媒を用いた電解液等がある。例えば、フッ素置換炭酸エステル電解液は約6Vの高い耐酸化性を有する。しかし、フッ素系溶媒はリチウム塩の溶解性が低下する問題がある。
【0009】
Lewis酸性のホウ素化合物は、アニオンを捕捉する機能があり、リチウム塩の解離を促進し、イオン導電率が向上する。また、ホウ素化合物は難燃効果のあることも知られている。そのため、ホウ素を含むリチウム塩の他、電解液への利用やポリマー電解質への利用がなされている。最も一般的なホウ素化合物であるホウ酸エステルの電解液への利用もなされており、例えば、ホウ酸エステルと有機電解系との混合による電極の界面抵抗の増大の抑制や高温保存での劣化の抑制(特開2003-132946号公報、特開2003-317800号公報参照)、燃焼性抑制による安全化(特開2002-334717号公報、特開2008-300125号公報参照)などが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐酸化性及び難燃性に優れた電解液用溶媒、電解液、及びゲル状電解質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため以下の発明が提供される。
<1> 下記式(I)で表されるホウ酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、下記式(II)で表されるホウ酸エステルとを含み、これらのホウ酸エステルに含まれる-ORf及び-OCHCHCNの少なくとも一部がエステル交換されている電解液用溶媒。
B(ORf) (I)
B(OCHCHCN) (II)
(式(I)におけるRfは、それぞれ独立してCH(CFCF又はCH(CFを表し、nは0以上6以下の整数である。)
<2> さらに下記式(III)で表されるホウ酸エステル及び炭酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含む<1>に記載の電解液用溶媒。
B(OR) (III)
(式(III)において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基又はt-ブチル基を表す。)
<3> <1>又は<2>に記載の電解液用溶媒にリチウム塩を溶解した電解液。
<4> 前記リチウム塩がLiPFである<3>に記載の電解液。
<5> <3>又は<4>に記載の電解液とポリマーとを含むゲル状電解質。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐酸化性及び難燃性に優れた電解液用溶媒、電解液、及びゲル状電解質が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】1成分系のホウ酸エステル又は2種混合ホウ酸エステル溶媒にLiPFを溶かした電解液のイオン導電率を示す図である。
【図2】1成分系のホウ酸エステル又は2種混合ホウ酸エステル溶媒にLiPFを溶かした電解液のLSV測定結果を示す図である。
【図3】B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)とB(OCHCF(ホウ酸エステル4)を等モル量混合して測定したNMRスペクトルを示す図である。
【図4】B(OCH(ホウ酸エステル1)とLiPFを用いた場合に置換基交換反応が生じたことを示すNMRスペクトルを示す図である。
【図5】3種混合ホウ酸エステル電解液のイオン導電率を示す図である。
【図6】3種混合ホウ酸エステル電解液のLSV測定結果を示す図である。
【図7】B(OCH(ホウ酸エステル1)、B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)及びB(OCHCF(ホウ酸エステル4)を等モル量混合して測定したNMRスペクトルを示す図である。
【図8】LiPF(1mol/Kg)/[B(OCHCHCN)/B(OCHCF(1:1モル比)-EMC]混合電解液のイオン導電率を示す図である。
【図9】LiPF(1mol/Kg)/[B(OCHCHCN)/B(OCHCF(1:1モル比)-EMC]混合電解液のLSV測定結果を示す図である。
【図10】各種エステル電解液のLSV測定結果を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ホウ酸エステルは、アルコキシ置換基によって沸点、リチウム塩溶解性、電気化学的安定性、燃焼性等が大きく変化する。例えば、フッ素を有するアルコキシ置換基を持つホウ酸エステルは難燃性を示し、また、フッ素の高い電子求引性のためにアルコキシ酸素の電子密度が低下し、耐酸化性が高い。しかし、フッ素を有するためにリチウム塩の溶解性が低い。一方で、短鎖アルキルを持つホウ酸エステルの粘性は低いが可燃性であり、リチウム塩の溶解性も低い。このように、1種類のホウ酸エステルを溶媒として用いた場合、リチウム塩の溶解性、イオン伝導性、難燃性、耐酸化性等の条件を同時に満たすことは困難である。
【0015】
本発明者は、5V以上の耐酸化性及び難燃性を有する電解液を得るためにホウ酸エステルについて鋭意研究及び検討を行ったところ、B(OCHCHCN)とB(OCHCFを混合することにより、耐酸化性と難燃性を兼ね備えた電解液用溶媒が得られることを見出し、さらに研究及び検討を重ねて、耐酸化性(高電位化)及び難燃性に優れる電解液が得られることを見出した。
【0016】
本発明に係る電解液用溶媒は、下記式(I)で表されるホウ酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、下記式(II)で表されるホウ酸エステルとを含み、これらのホウ酸エステルに含まれる-ORf及び-OCHCHCNの少なくとも一部がエステル交換されている電解液用溶媒である。
B(ORf) (I)
B(OCHCHCN) (II)
(式(I)におけるRfは、それぞれ独立してCH(CFCF又はCH(CFを表し、nは0以上6以下の整数である。)
【0017】
上記2種類のホウ酸エステルの混合は、ホウ酸エステル同士のエステル交換反応、及びホウ酸エステルとリチウム塩との置換基交換反応を想定して行ったものである。すなわち、ホウ酸エステルはアルコキシ置換基を分子内に3つ有しており、2種類以上のホウ酸エステルを混合することで、置換基のエステル交換反応が起きる可能性がある。そして、1つのホウ素原子上に異なるアルコキシ置換基を有するエステルが生成すると、単独エステルの場合と比べて電解液としての性能、特に耐酸化性の向上が期待される。一方、単純な混合の場合、耐酸化性の高い物質を混合させたとしても、耐酸化性の低い物質から分解が始まるため電解質の耐酸化性は向上しない。
また、ホウ素はフッ素イオンとの親和性が高く、フッ素置換アニオンとの間で置換基交換、塩交換反応を起こす可能性があり、B-F結合生成による耐酸化性の向上も起こりうる系で、単純な混合効果ではなく、高度に設計された混合系により高性能な電解液が得られる。
【0018】
前記式(I)で表されるホウ酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、前記式(II)で表されるホウ酸エステルとの混合モル比(B(ORf):B(OCHCHCN))は、リチウム塩の溶解性、高電位化及び難燃性の観点から2:1~1:6が好ましく、1:1~1:3がより好ましい。
B(ORf)とB(OCHCHCN)を所定の比率で混合して攪拌することにより、下記式(A)のエステル交換反応により新たな種のホウ酸エステルの生成が示され、耐酸化性が向上すると考えられる。
【0019】
【化1】
JP0005725510B2_000002t.gif


【0020】
本発明に係る電解液用溶媒は、前記式(I)及び式(II)でそれぞれ表されるホウ酸エステルを必須成分とするが、さらに下記式(III)で表されるホウ酸エステル及び炭酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
B(OR) (III)
(式(III)において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基又はt-ブチル基を表す。)
【0021】
前記式(III)で表されるホウ酸エステル及び炭酸エステルから選ばれる少なくとも1種も混合することで、電解液の粘度が低下し、イオン導電率の向上を図ることができる。
前記式(III)で表されるホウ酸エステルとしては、例えば、B(OCH、B(OCHCHなどが挙げられる。前記式(I)及び式(II)でそれぞれ表されるホウ酸エステルのほかに、前記式(III)で表されるB(OR)も配合することで、これら3種のホウ酸エステルの間でエステル交換反応が生じることになる。
【0022】
一方、炭酸エステル(有機溶媒)としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン(GBL)及びそれらの混合溶剤より選ぶことができる。
【0023】
前記式(III)で表されるホウ酸エステル及び炭酸エステルから選ばれる少なくとも1種も混合する場合、その配合量は、必須となる2種のホウ酸エステルによる耐酸化性及び耐難燃性を維持するとともに、導電率を向上させる観点から、B(ORf)とB(OCHCHCN)を合せた1モルに対して、0.5~5モルが好ましく、1~2モルがより好ましい。
【0024】
本発明に係る電解液は、前記式(I)及び式(II)でそれぞれ表されるホウ酸エステルの混合溶媒にリチウム塩を溶解させることが好ましい。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、Li(CFSON(リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、適宜「TFSI」と記す。)、LiCFSOなどが挙げられ、高電位化(耐酸化性)の観点から特にLiPFが好ましい。
本発明に係る電解液におけるリチウム塩の濃度は、イオン導電率の観点から、好ましくは、0.5mol/kg~1.5mol/kgである。
【0025】
本発明に係る電解液は、そのまま使用してもよいが、本発明に係る電解液とポリマーとを含むゲル状電解質として使用することもできる。ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、エチレンキシド-プロピレンオキシド共重合体(EO-PO)、ポリ(メトキシオリゴエチレングリコキシ)メタクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)より選ばれる1種を用いることができる。
【0026】
ポリマーを本発明に係る電解液で膨潤させたゲル状の電解質とすることで、通常のポリマー電解質に比べてイオン伝導率が高く、電極との界面抵抗が小さく、さらに、難燃性を有するため、安全性も高い電解質が得られる。
電解液とポリマーとの配合比(質量比)は、ポリマーの種類等にもよるが、例えば、2:1~4:1である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例及び実験例について説明するが、本発明はこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
以下の手順によりホウ酸エステル1~4及び電解液を合成又は調製し、実施例及び実験例でもこれらのホウ酸エステルを用いて混合溶媒及び電解液の調製並びに測定を行った。これらのホウ酸エステルは、図中、単に数字(1、2、3、4)のみで表す場合がある。
ホウ酸エステル1:B(OCH
ホウ酸エステル2:B(OCHCH
ホウ酸エステル3:B(OCHCHCN)
ホウ酸エステル4:B(OCHCF
【0029】
‐ホウ酸エステル1、2の調製‐
ホウ酸エステル1(B(OCH、ホウ酸トリメチル)及びホウ酸エステル2(B(OCHCH、ホウ酸トリエチル)は、それぞれ市販品(東京化成社製)を蒸留により精製して使用した。
【0030】
‐ホウ酸エステル3の合成‐
Dean Stark管を接続した50mlの2口フラスコにトルエン20mlとホウ酸4.953g(0.080mol)、3-ヒドロキシプロピオニトリル17.954g(0.253mol)を加え、加熱・撹拌して3時間トルエンの還流を行った。反応により生成する水はトルエンとの共沸により反応系から除去した。反応終了後、トルエンを留去した粗生成物を減圧蒸留によって精製し、無色透明のホウ酸トリシアノエチル:B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)(b.p.198℃/0.3mmHg、収率:83.8%)を得た。
H-NMR(CDCl):4.20ppm(t:OCHCHCN)、2.65ppm(t:OCHCHCN)
【0031】
‐ホウ酸エステル4の合成‐
50mlの2口フラスコを窒素置換し、その中にトリフルオロエタノール18.768g(0.1817mol)を加えた後、水浴で冷却しながらBHのTHF(テトラヒドロフラン)溶液61.018g(0.067mol)を滴下した。反応が終了した後、THFを留去した粗成生物を減圧蒸留によって精製し、無色透明のホウ酸エステル:B(OCHCF(ホウ酸エステル4)(b.p.86℃/347.3mmHg、収率:51.1%)を得た。
H-NMR(CDCl):4.20ppm(q:OCHCF
【0032】
‐2種混合ホウ酸エステル電解液の調製‐
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)、B(OCHCF(ホウ酸エステル4)及び電池グレードのLiPFまたはLi(CFSON(TFSI)を秤量し、フラスコ内で混合、撹拌することにより混合ホウ酸エステル電解液を得た。
【0033】
<実施例2>
‐2種混合ホウ酸エステル電解液のイオン導電率の測定‐
2種のホウ酸エステル:B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)及びB(OCHCF(ホウ酸エステル4)の混合電解液のイオン導電率を、ACインピーダンス法により測定した。測定用セルには密閉に電極セル(東洋システム製)を使用した。上記2種のホウ酸エステル混合溶媒(B(OCHCHCN):B(OCHCF=2:1(モル比))にLiPFを溶かした電解液のイオン導電率と、B(OCHCHCN)にLiPFを溶かした電解液のイオン導電率を図1に示す。
B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)は極性のCN基によってリチウム塩を溶解したが、単独溶媒では粘度が高く、イオン導電率はやや低かった。一方、粘性の低いB(OCHCF(ホウ酸エステル4)はリチウム塩を溶かさないが、B(OCHCHCN)と混合することによってB(OCHCHCN)と同程度のイオン導電率を示した。
【0034】
なお、一般に、電解液のイオン導電率は、イオン種の濃度とイオンの拡散速度に依存するが、拡散速度は溶液の粘度上昇に伴って低くなる。B(OCHCHCN)に粘性の低いホウ酸トリメチル(ホウ酸エステル1)またはホウ酸トリエチル(ホウ酸エステル2)を混合するとイオン導電率は向上するが、後述の難燃効果に劣る。
【0035】
<実施例3>
‐2種混合ホウ酸エステルの電気化学的安定性評価‐
2種のホウ酸エステル:B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)及びB(OCHCF(ホウ酸エステル4)の混合電解液の電気化学的安定性評価は、LSV(リニアスイープボルタンメトリー)の測定により行った(掃引速度0.1mV/s)。電解液をメチルセルロースに含浸させ、作用電極に白金、参照電極及び対電極にリチウム金属を使用した。LSV測定結果を図2に示す。
B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)は電子求引性のシアノ基によって耐酸化性が高くなった。B(OCHCF(ホウ酸エステル4)を添加しても5.5V以上の酸化電位を示し、5V級の高電位電池に対応できる耐酸化性を有している。
【0036】
<実施例4>
‐2種混合ホウ酸エステルのエステル交換の確認‐
2種のホウ酸エステルが混合しているだけでは、それぞれのホウ酸エステルのうち、耐耐酸化性の低いホウ酸エステルの酸化分解が低い電位で起こるはずである。混合によって耐酸化性等の特性が向上するのは、下記式(A)のエステル交換反応が起こるためと考えられ、その現象はNMRスペクトルによって観測した。2種のホウ酸エステル:B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)及びB(OCHCF(ホウ酸エステル4)を等モル量混合した後、CDCl溶媒に溶かしてNMRスペクトルを測定した。結果を図3に示す。
B(OCHCHCN)とB(OCHCFとの混合溶媒(モル比1:1)では、4.06ppm付近のB(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)のメチレンプロトン及び4.22ppm付近のB(OCHCF(ホウ酸エステル4)のメチレンプロトンに帰属されるシグナルが、それぞれ複数のシグナル混合系として観測された。これにより、新たな種のホウ酸エステルの生成が示され、下記式(A)のエステル交換反応の進行が確認された。
【0037】
【化2】
JP0005725510B2_000003t.gif


【0038】
<実験例5>
‐置換基交換反応の確認‐
耐酸化性はリチウム塩によって異なり、LiPFを用いた場合に最も高くなった。その理由は、置換基交換反応が起こり、ホウ素上にフッ素置換基が一部導入されたためであると考えられる。この交換反応は、図4に示すNMRスペクトルによって確認された。ここでは、ホウ酸エステルとして、シングレットで観測されシグナルの分析が容易なB(OCHを用い、種々のモル比で測定を行った。B(OCHにLiPFを添加すると、3.68ppm付近のLiP(OCH6-k及び3.87ppm付近のP(OCH5-lのP-OCH結合の二重線のシグナルが現れ、LiPFの割合を増やすにつれ、そのシグナルが大きくなり、下記式(B)に示す置換基の交換反応及び一部ホスフェートからボレートへの塩の交換反応が起こっていることが支持された。
【0039】
【化3】
JP0005725510B2_000004t.gif


【0040】
<実施例6>
‐3種混合ホウ酸エステル電解液のイオン伝導率の測定‐
3種のホウ酸エステル:B(OCHCFと、B(OCHCHCN)と、B(OCH)又はB(OCHCHとの混合電解液のイオン導電率を実施例2と同様の方法で測定した。
B(OCHCF、又は、B(OCHCFとB(OCHCHCN)の混合溶媒は、粘性が高く、イオン導電率がやや低かったため、粘性の低下をもたらすホウ酸トリメチル(ホウ酸エステル1)またはホウ酸トリエチル(ホウ酸エステル2)、支持塩の溶解性及び解離促進効果を有するホウ酸トリシアノエチル(ホウ酸エステル3)、及び、難燃効果を有するB(OCHCF(ホウ酸エステル4)を、それぞれモル比1:1:1で混合し、0.5M濃度のLiPF又はTFSI電解液を調製した。調製した電解液のイオン導電率を図5に示す。
ホウ酸エステル電解液は、組成を最適化すると室温で10-3Scm-1オーダーを示した。また、ホウ酸トリエチルよりホウ酸トリメチルを用いた電解液の方がイオン導電率は高くなった。
【0041】
<実施例7>
‐3種混合ホウ酸エステル電解液の電気化学的安定性評価1‐
3種のホウ酸エステル:B(OCHCF、B(OCHCHCN)、及びB(OCH)又はB(OCHCHの混合電解液の電気化学的安定性評価は、実施例3と同様にLSV測定により行い、測定結果を図6に示す。
支持塩としてLiPFを用いた電解液(図6中のb、c)は約6Vの酸化分解電位を示し、5V級電池への適応可能な耐酸化性を示した。一方、LiTFSIを用いた電解液(図6中のa)ではLiPFを用いた場合よりも耐酸化性は低いが、それでも分解電位は約5Vに達している。また、どちらの支持塩についてもホウ酸トリエチル(ホウ酸エステル2)を用いた電解液はホウ酸トリメチル(ホウ酸エステル1)を用いた電解液よりも酸化分解電位が高くなった。
【0042】
<実施例8>
‐3種混合ホウ酸エステル溶媒のエステル交換の確認‐
三成分系においてもホウ酸エステルのエステル交換についても確認するため、3種のホウ酸エステル(B(OCH)、B(OCHCF、B(OCHCHCN))を等モル量混合した後、CDCl溶媒に溶かしてNMRスペクトルを測定した。結果を図7に示す。図7に見られるように、1本のCHO基が混合により6本に分かれた。2種のホウ酸エステル混合系では3本であったのに対し、6種類のCHO基を有するホウ酸エステルが生成したことが示され、エステル交換反応が起こっていることが示された。
【0043】
<実施例9>
‐燃焼試験‐
ホウ酸エステル電解液の燃焼性について、ガラスフィルターに電解液を染み込ませ、3cm下から試験炎で熱し、引火するまでの時間を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
JP0005725510B2_000005t.gif


【0045】
燃焼試験の結果、ホウ酸エステルB(OCHCHCN)を用いた電解液は引火しにくいが燃焼した。一方、B(OCHCHCN)+B(OCHCFの混合ホウ酸エステル電解液は引火しなかった。また、炭酸エステル溶媒としてエチルメチルカーボネート(EMC)を用いた電解液は試験開始後すぐに引火したが、ホウ酸エステルB(OCHCHCN)との混合系では引火までの時間が長くなった。
一方、B(OCHCHCN)とB(OCHCFの混合ホウ酸エステル溶媒に炭酸エステルを混合した系では、試験を開始した後十数秒で白煙を上げ始めたが、30秒以上たった後も引火しなかった。すなわち、安全性の高い電解液であることがわかった。なお、ホウ酸トリメチル及びホウ酸トリエチルは可燃性であり、実際に燃焼試験を行うと数秒で引火に至るが、B(OCHCHCN)とB(OCHCFを混合させることにより引火しなくなった。
【0046】
<実施例10>
B(OCHCHCN)(ホウ酸エステル3)とB(OCHCF(ホウ酸エステル4)の1:1モル比の混合物に、同容量のエチルメチルカーボネート(EMC)を混ぜて混合溶媒を得た。その混合溶媒にLiPFを1mol/kgの濃度になるように溶かした電解液を調製し、実施例2と同様の方法でイオン導電率及びLSVを測定した。イオン導電率の測定結果を図8に、LSVの測定結果を図9にそれぞれ示す。
【0047】
図8より、EMC溶媒を加えると、粘度低下効果によりホウ酸エステル3とホウ酸エステル4の混合電解液(実施例2、図1参照)に比べイオン導電率は上昇した。また、図9より、耐酸化性が低い炭酸エステルを混合しても、6V以上まで安定となった。フッ素交換してLewis酸性の向上したホウ酸エステルが炭酸エステルと相互作用することによって、耐酸化性が向上したと考えられる。
2種混合エステルと炭酸エステルとの混合電解液でも同様の効果が得られる。
【0048】
<実施例11>
‐3種混合ホウ酸エステル電解液の電気化学的安定性評価2‐
以下の溶媒a~dを用い、Li塩をLiPF(1mol/kg)として実施例3と同様にLSV測定を行った。
(a) B(OCHCFと炭酸エステル(EC-EMC 1:1)の混合溶媒(1:1)
(b) 炭酸エステルのみ(EC-EMC 1:1)
(c) B(OCHCHCN)と炭酸エステル(EC-EMC 1:1)の混合溶媒(1:1)
(d) B(OCHCHCN)と、B(OCHとB(OCHCFのホウ酸エステル混合溶媒
【0049】
測定結果を図10に示す。なお、BTFEはB(OCHCFを、BCNはB(OCHCHCN)を、BTMはB(OCHをそれぞれ表す。
図10に見られるように、溶媒として炭酸エステルのみを用いたbでは4.5V付近から分解が開始した。フッ素系ホウ酸エステル(BTFE)と炭酸エステルの混合エステルを用いたaではbに比べて耐酸化性が少し高くなるが、5V未満で分解が開始し、5V級電池に使用できない。BCNと炭酸エステルの混合エステルを用いたcでは6V付近から分解が始まり、耐酸化性が最も高いが、前記表1に示したように燃焼し易く、安全性が低い。
一方、BCN、BTM、及びBTFEの混合ホウ酸エステル溶媒を用いたdでは5.5V以上の酸化安定性があり、耐酸化性が高いほか、前記表1に示したように難燃性であり、安全性も高い。
図面
【図2】
0
【図10】
1
【図1】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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