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明細書 :光学的センサ及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4783907号 (P4783907)
登録日 平成23年7月22日(2011.7.22)
発行日 平成23年9月28日(2011.9.28)
発明の名称または考案の名称 光学的センサ及びその製造方法
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
FI G01N 21/65
請求項の数または発明の数 8
全頁数 14
出願番号 特願2006-550853 (P2006-550853)
出願日 平成17年12月28日(2005.12.28)
国際出願番号 PCT/JP2005/024100
国際公開番号 WO2006/073117
国際公開日 平成18年7月13日(2006.7.13)
優先権出願番号 2005003019
優先日 平成17年1月7日(2005.1.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年12月25日(2008.12.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】鈴木 基史
【氏名】福岡 隆夫
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
審査官 【審査官】廣田 健介
参考文献・文献 特開2002-372620(JP,A)
調査した分野 G01N 21/62-21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
基体上に斜め方向から透明な物質を蒸着するとともに、その方向を随時反転することで所定のアスペクト比を有する異方形状の微小柱状体を多数その長手方向及び短手方向を揃えて形成する透明物質蒸着工程と、形成された微小柱状体の表面に貴金属を蒸着する貴金属蒸着工程と、から成ることを特徴とする分子計測を行うためのラマン光の測定に用いられる光学的センサの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、前記透明物質蒸着工程と、貴金属蒸着工程のそれぞれを少なくとも2回以上行うことにより、前記貴金属部を少なくとも各微小柱状体の中間部分に形成することを特徴とする光学的センサの製造方法。
【請求項3】
前記貴金属部がAu、Ag、Cuのいずれかから成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学的センサの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法によって製造された、分子計測を行うためのラマン光の測定に用いられる光学的センサであって、
基体と、この基体上に形成された、該基体に略平行な断面が所定のアスペクト比を有する多数の微小柱状体と、から成り、
各微小柱状体が、透明部と、微小柱状体の形状に応じた異方形状を有し、少なくとも各微小柱状体の頂部又は中間部分に形成されている貴金属部と、の組合せで構成されているとともに、
多数の微小柱状体が、前記基体に略平行な断面の長手方向が略直線状あるいは略平行となるように配置されており、
偏光方向が前記長手方向と同じ方向である光が入射したときにラマン光を増強することを特徴とする光学的センサ。
【請求項5】
前記貴金属部がAu、Ag、Cuのいずれかから成ることを特徴とする請求項4に記載の光学的センサ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された光学的センサ用のラマン光測定装置であって、
光学的センサの表面に垂直に直線偏光レーザを照射する入射光部と、
該光学的センサを透過した透過光の強度を測定する透過光モニタ部と、
該透過光モニタ部において測定される透過光の強度が最小となるように前記光学的センサを入射光に対して垂直な平面内で回転させる回転制御部と、
を含むことを特徴とする光学的センサ用のラマン光測定装置。
【請求項7】
請求項4又は5に記載された光学的センサ用のラマン光測定装置であって、
光学的センサの表面に垂直に直線偏光レーザを照射する入射光部と、
該光学的センサの下部に、直線偏光レーザの偏光の向きに対して主軸の向きが45°となるように設けられる1/4波長板と、
該1/4波長板の下部に設けられるミラーと、
を含むことを特徴とする光学的センサ用のラマン光測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光学的センサ用のラマン光測定装置において、
光学的センサとミラーとの間に設けられ、光学的センサを透過した透過光の強度を測定する透過光モニタ部と、
該透過光モニタ部において測定される透過光の強度が最小となるように前記光学的センサを入射光に対して垂直な平面内で回転させる回転制御部と、
を更に含むことを特徴とする光学的センサ用のラマン光測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は分子計測に用いられる光学的センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AuやAgなどの貴金属の局所プラズモンを励起した際に起きる局所電場の増強効果によってラマン散乱の感度を向上させる表面増強ラマン散乱法や、局所プラズモンの共鳴周波数が周囲の誘電率に敏感であるという特性を利用したプラズモン共鳴分光法などといった、光を用いて分子計測を行う光学的センサに関する研究が盛んに行われている。
【0003】
光学的センサによって分子計測を行う場合、通常、目的とする物質を含む溶液をセンサ表面に滴下した後、プローブ光を測定方法に沿った条件(光の種類、強度、入射角など)で入射し、反射光などを光検出器によって受光して解析することにより、物質の計測(同定)を行う。このような光学的センサの計測感度を一分子レベルにまで高めることが可能となれば、医療、バイオ、環境といった様々な分野への適用・応用が期待される。
【0004】
光による分子計測に使用されるセンサの感度を高めるためには、貴金属ナノ粒子の形状と配列を制御することが鍵となる。局所電場を増強する表面電荷はナノ粒子の端部に現れるため、この制御を適切に行うことができれば計測感度が飛躍的に向上する。また、センサが現実的な製品として利用可能であるためには、その感度が高いことはもちろん、センサ作製の再現性が高いことや製造コストが低廉であることも同時に要求される。
【0005】
上記のような条件を満たすセンサを得ることを目的として、これまでに種々の技術が開発・開示されてきている。例えば、非特許文献1には、表面増強ラマン散乱の基板を作製する方法として、ナノ球リソグラフィ技術が開示されている。この技術を用いることにより、三角形のナノ粒子を互いの頂点が向かい合うように規則的に配置することを比較的簡便な手法によって行うことができ、高感度の分子計測が可能となる。しかし、本技術による局所電場の増強効果は、ナノ粒子の形状が三角形であることに起因する限界がある。
【0006】
また、特許文献1には、ラマン散乱の測定用センサに関する技術として、表面に金属をコーティングした同径同寸の粒子を、粒子層の表面に周期的な凹凸を形成するように周期的に配列したセンサ及びその製造方法が開示されている。このセンサは、一様性及び高再現性を有しているとともに、簡便且つ安価に作製することが可能である。とはいえ、粒子形状が球形であるため、計測感度はまだ十分に高いとは言えない。
【0007】
ナノ粒子の形状及び配置を制御する他の方法として、ホログラフィや電子線リソグラフィなどがある。この方法を用いれば、ナノメートルレベルの粒子を規則正しく配列させることが可能である(例えば、特許文献3及び非特許文献2参照)。
ところが、この方法はコストがかかりすぎるため、分子計測のための使い捨てセンサの製造方法としては現実的ではない。
【0008】
表面増強ラマン散乱基板に関するさらに別の技術として、特許文献4には、基板に対して金属を斜め蒸着し、基板に対して斜めに成長した針状のコラム構造を利用した基板が記載されている。この方法によればnmレベルの細長い金属ナノロッドを自己集合的に形成することが可能であるが、針状コラムが互いに先端をつきあわせる形で配列することがないため、増強効果に限界がある。
【0009】

【特許文献1】特開2004-170334号公報
【特許文献2】特開2002-372620号公報
【特許文献3】米国特許第4448485号公報
【特許文献4】米国特許第5017007号公報
【非特許文献1】John C. Hulteen et al. "Nanosphere Lithography: Size-Tunable Silver Nanoparticle and Surface Cluster Arrays", J. Phys. Chem. B, 103, 3854-3863(1999)
【非特許文献2】P.F. Liao et al. "Surface-enhanced raman scattering from microlithographic silver particle surfaces", Chemical Physics Letters Volume 82, number 2, 1 September 1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、従来のものよりも飛躍的に計測感度が高く、再現性を備えた光学的センサを提供すること、及びその光学的センサの簡便な製造方法を提供することである。
【0011】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特許文献2において開示されている偏光制御素子の有する特徴的な構造が局所電場を顕著に増強させる作用を及ぼすということを見いだし、この偏光制御素子を光学的センサとして利用することにより、極めて高感度の分子計測が可能となることに想到した。また、この素子を極めて容易且つ安価に製造する方法に想到した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分子計測を行うためのラマン光の測定に用いられる光学的センサの製造方法は、基体上に斜め方向から透明な物質を蒸着するとともに、その方向を随時反転することで所定のアスペクト比を有する異方形状の微小柱状体を多数その長手方向及び短手方向を揃えて形成する透明物質蒸着工程と、形成された微小柱状体の表面に貴金属を蒸着する貴金属蒸着工程と、から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光学的センサでは、各微小柱状体の一部である貴金属部の基体に略平行な断面が細長い形状を有している。このため、所定の波長を有する光に共鳴し、貴金属部の長手方向の端部に大きな局所電場が発生しやすい。さらに、多数の微小柱状体が長手方向を揃えて配向していることに基づき、各微小柱状体の貴金属部の端部同士が近接しており、そのような近接箇所も多いため、電界の増強効果が著しい。これらの結果として、光学的分子計測の感度が極めて高くなる。
また、基体上に多数形成される微小柱状体の間に空間が形成されるため、測定する液体がその空間に容易に入り込むことができる。
【0014】
本発明に係る光学的センサの製造方法は、平板状の基体に斜め方向から交互に向きを反転しつつ透明物質又は貴金属を蒸着するという単純なものであるため、再現性も高く、製造コストも低廉である。
また、本発明の光学的センサの製造方法によれば、従来一般のリソグラフィ法で作製されてきたもののように微小柱状体の形状が均一に揃うのではなく、適度なばらつきが生じる。このことによって入射光及び散乱光が好適に共鳴し、より一層高い増強効果が得られるというメリットがある。
【0015】
さらに、本発明に係る光学的センサでは微小柱状体同士(即ち貴金属部の端部同士)が数nm程度に近接する箇所が形成される。この構成によって電場が増強され、ラマン散乱の増強効果が劇的に大きくなる。この程度に微小柱状体が近接した構造を従来のホログラフィやリソグラフィによって作製することは極めて困難である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光学的センサの模式図。
【図2】微小柱状体の一例。
【図3】微小柱状体の他の例。
【図4】微小柱状体の他の例。
【図5】微小柱状体の他の例。
【図6】微小柱状体の他の例。
【図7】微小柱状体の他の例。
【図8】微小柱状体の他の例。
【図9】微小柱状体の他の例。
【図10】微小柱状体の他の例。
【図11】微小柱状体の他の例。
【図12】本発明に係る光学的センサの製造方法である動的斜め蒸着方法の模式図。
【図13】SiO2によって作製した雛形の表面のAFM像。
【図14】雛形表面に銀が蒸着された光学的センサ表面の後方散乱電子像。
【図15】本発明に係る光学的センサによって得たローダミン水溶液のラマンスペクトル(A:入射光の偏光が貴金属部の長手方向、B:入射光の偏光が貴金属部の短手方向)。
【図16】本発明に係る光学的センサによって得た4,4-bipyridine水溶液のラマンスペクトル。
【図17】光学的センサ用ラマン光測定装置の一形態の模式図。
【図18】光学的センサ用ラマン光測定装置の他の形態の模式図。
【図19】光学的センサ用ラマン光測定装置の他の形態の模式図。
【符号の説明】
【0017】
1…光学的センサ
2…基体
3…微小柱状体
31…透明部
32…貴金属部
4…入射光部
5…光モニタ部
6…回転制御部
7…1/4波長板
8…ミラー
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る光学的センサ1は、図1に示すように、基体2の上に、この基体に略平行な断面が所定のアスペクト比を有する(細長い)多数の微小柱状体3が一方向に配向しつつ形成されて構成される。
【0019】
基体2は、その表面上に多数の微小柱状体3を形成するための平板である。基体の材料は、各種のガラス、半導体、金属などを利用することができるが、光学的計測の方法に即した材料を選択する必要がある。例えば、プラズモン共鳴分光法を用いて分子計測を行う場合にはガラスから成るプリズムを基体とするか、又は透明なガラス板とプリズムとを貼り合わせたものを基体とする。
【0020】
基体2の表面は平坦でもよいが、微小柱状体を成長しやすくするために機械的又は化学的に表面処理をすることもできる。また、基体2の表面をあらかじめ加熱したポリイミドやテフロン(登録商標)などによってラビング処理を施したり、微小な研磨痕を形成することにより、微小柱状体3の異方性を大きくすることができる。
【0021】
微小柱状体3は、透明な物質から成る透明部31と、貴金属から成る貴金属部32との組合せによって構成される(図2)。構成例は後述するが、通常は透明部31の表面又は内部に少なくとも一層以上の貴金属部32が形成されることにより構成される。
【0022】
透明部31を構成する材料は、プローブ光に対して透明であればどのようなものでもよいが、誘電率がプラズマ共鳴振動数に影響を与えるため、使用するプローブ光の波長でプラズマ共鳴が生じるような材料を選択する必要がある。例えば、SiO2、Ta2O5、TiO2等の酸化物、LiF等のフッ化物等を好適に使用することができる。
【0023】
貴金属部32は各種貴金属の単体や合金によって構成することができるが、高感度の光学的センサを得るためには、Au、Ag、Cuのうちのいずれかを用いるのが好ましい。
【0024】
微小柱状体3の形状について説明する。微小柱状体3は基体2の面に平行な方向に細長い異方形状を有している。その長手方向の長さは、プローブ光の散乱が問題とならない程度に短く、且つプローブ光の共鳴波長に合致していることが望ましい。長手方向の長さと短手方向の長さの比であるアスペクト比が2以上であれば、微小柱状体3の形状の異方性に基づき、入射光の光軸方向に対する透過特性に差が生じる。
【0025】
微小柱状体3は、基体2の表面に対して垂直に立っていることが望ましいが、若干傾斜していても構わない。また、微小柱状体3同士の間隔は、プローブ光の散乱が問題とならない程度に小さくなければならない。なお、隣接する微小柱状体同士が接触していても構わない。
【0026】
このような微小柱状体は、後述する斜め蒸着方法によって好適に製造することができる。
【0027】
微小柱状体3の透明部31及び貴金属部32の構成例を図2~図11に基づき説明する。なお、図2~図11の各図において、左上は微小柱状体3を上から見た平面図、左下は長手方向の側面図、右下は短手方向の側面図をそれぞれ示している。
【0028】
構成例1:微小柱状体3の上部に貴金属部32が形成されている(図2)。この構成は透明部31を形成した後に、基体2を適宜に角度を変えつつ貴金属を蒸着させることにより得ることができる。なお、本例において貴金属部32は、図3に示すように、不均一に形成されていても構わない。
【0029】
構成例2:微小柱状体3の上部の一部に貴金属部32が形成されている(図4)。この構成は、透明部31に対して一方向から斜め蒸着を行うことにより得ることができる。また、本例において貴金属部32は、図5に示すように、不均一に形成されていても構わない。
【0030】
構成例3:微小柱状体3の頂部のみが貴金属部32によって覆われている(図6)。この構成は、上記構成例1と比較して、貴金属の蒸着量を少なくすることにより得ることができる。また、本例において貴金属部32は、図7に示すように、不均一に形成されていても構わない。
【0031】
構成例4:微小柱状体3の頂部の一部が貴金属部32によって覆われている(図8)。この構成は、上記構成例2と比較して、貴金属の蒸着量を少なくすることにより得ることができる。また、本例において貴金属部32は、図9に示すように、不均一に形成されていても構わない。
【0032】
構成例5:上記実施例1~4において、貴金属部32が貴金属の微粒子によって構成される(図10)。各微粒子の間隔は、互いに相互作用を及ぼしあう程度に近接していることが望ましい。
【0033】
構成例6:透明部31と貴金属部32とが交互に形成された多層構造である(図11)。この構造には、多孔質の微小柱状体の間に浸透した分子だけを大きな汚れに影響されずに検出でき、さらには貴金属部(有感部分)を多数形成することで高感度化できるという特長がある。このとき各貴金属部32の間隔は、透明部31によって、貴金属が互いに接触あるいは相互作用して実効的な異方性が低下するのを避けるという理由により、10nm以上隔てられていることが望ましい。
【0034】
次に、本発明に係る光学的センサの製造法である斜め蒸着法について、図13に基づき説明する。斜め蒸着法では、真空蒸着法やスパッタリングなどの物理的蒸着法を用いることにより基体2上に微小柱状体3を形成する。
【0035】
基体2を透明部材料の蒸着流の入射方向に対して角度αだけ傾斜させておき(図12の左側図)、適当な厚みまで膜が形成されると基体の面内方位を180°反転させる(図12の右側図)ことにより、基体2の表面上に微小柱状体3の雛形を形成する。傾斜角度(蒸着角)αは、45°~88°程度であることが好ましい。この蒸着角によって、蒸着される部分のアスペクト比を制御することが可能である。
【0036】
ここにおいて、形成される膜厚が100nm以上の周期で基体2を反転させると、微小柱状体の形状が膜厚方向にジグザグとなってしまう。そこで、基体2を反転させる周期を、通常の斜め蒸着でコラムを形成する場合よりも短くするとよい。最適な反転周期は蒸着する材料によって異なるが、一般には5~100nm程度とするのがよく、通常の酸化物であれば50nm以下が適当である。このようにして作製した膜は、通常の斜め蒸着で作製した膜と異なり、蒸着面(基体面)の垂直方向に長く伸びた異方的な形状のコラム構造を呈する。
【0037】
本発明においては、上記コラム構造を微小柱状体3の雛形として使用する。この雛形の上に透明部31又は貴金属部32を適宜形成してゆくことにより、光学的センサを作製する。図13に、SiO2によって作製した雛形の表面のAFM(Atomic Force Microscope)像を示す。雛形が異方的な形状を有していることが確認される。
【0038】
この雛形の上に貴金属を蒸着する際は、面内の蒸着方向を、微小柱状体3の長手方向に対して垂直な方向(すなわち、短手方向)とするとともに、適当な蒸着角を設定することにより、微小柱状体3の凸部にのみ貴金属を蒸着させることができる。この蒸着角も、45°~88°程度とするのが好適である。図14に、このようにして雛形表面に銀が蒸着された光学的センサ表面の後方散乱電子像を示す。明るく浮き上がった多数の斑点が銀の粒子である。
【0039】
貴金属部32の厚みは、使用する測定方法やプローブ光の波長などに応じて最適化する必要がある。しかし、あまり厚みを大きくすると、雛形の形状とは関係なく斜めのコラム構造が成長してしまうという問題があるため、その厚みは50nm以下にすることが望ましい。
【0040】
貴金属の蒸着は、雛形を作製する時と同様に、基体2を面内反転させつつ行ってもよいが、面内反転させることなく、斜め蒸着を一方向からのみ行ってもよい。
【0041】
上記のような斜め蒸着法を用いることによって、制御された形態を有する光学的センサを得ることができる。このように、本製造方法は極めて単純であるため、光学的センサを低コストで製造することができる。とりわけ、貴金属多層構造を有するセンサは、従来では簡便に作製することは困難であったが、本発明に係る斜め蒸着法によって容易に作製することができる。
【0042】
以下、本発明に係る光学的センサの製造例を示す。透明物質としてSiO2、貴金属としてAgを用いた。
【0043】
(1)基体としてコーニング7059ガラスを用いた。この基体を有機洗浄した後に真空槽に取り付け、1×10-6Torr(1.33×10-4Pa)まで排気を行った。
【0044】
(2)基体の下方約50cmの位置に配置した電子ビーム蒸着源にSiO2ペレットを入れ、これに電子ビームを照射して加熱した。
【0045】
(3)上記SiO2を、蒸着角82°、基体反転周期15nm(堆積厚15nmごとに反転)で、基体反転を30回行いつつ蒸着し、SiO2の雛形層(透明部)を形成した。
【0046】
(4)基体の下方約50cmの位置に配置した電子ビーム蒸着源にAgペレットを入れ、これに電子ビームを照射して加熱した。
【0047】
(5)上記Agを、蒸着角75°で一方向から斜め蒸着を行うことにより、堆積厚15mnのAg層を形成した。
【0048】
(6)蒸発源をSiO2に交換し、再度電子ビームを照射して加熱した。
【0049】
(7)蒸着角82°、基体反転周期15nmで、基体反転を10回行うことにより、SiO2の蒸着を行った。
【0050】
(8)上記(4)~(7)の工程を4回繰り返すことにより、内部に8層の貴金属部を有する微小柱状体を多数備えた光学的センサを得た。
【0051】
本発明の効果を確認するため、本願発明者らは本発明に係る光学的センサにローダミン水溶液を滴下して、波長が780nmのプローブ光を用いてラマンスペクトルの測定を行った。図15に測定結果を示す。図15においてA(実線)は入射光の偏光を貴金属部(微小柱状体)の長手方向に合わせた場合、B(破線)は入射光の偏光を貴金属部の短手方向に合わせた場合に得られたスペクトルである。Aにのみ、ローダミンに起因するピークが観測された。
【0052】
また、比較例として、貴金属部を有さず、透明部のみで構成された多数の微小柱状体から成る基体を光学的センサとして用いた場合には、ローダミンに起因するピークは検出されなかった。
【0053】
さらに、本発明の光学的センサを用いて4,4-bipyridine水溶液(1mmol/l)のラマンスペクトルの測定を行った。センサを4,4-bipyridine水溶液に10分間含浸させて測定されたスペクトルを図16に示す。図16には比較例として、微小柱状体を備えていない基体のみを用いた場合のラマンスペクトルも記載されている。このように、本発明の光学的センサによって、極めて顕著な増強効果が得られることがわかった。
【0054】
本発明に係る光学的センサのような、基体に略平行な断面が異方性を有する多数の微小柱状体から成る光学的センサを用いてラマン光の測定(分子計測)を行うにあたっては、上述したように、その感度を高める(ラマンスペクトルの強度を上げる)ために、入射光の偏光を貴金属部すなわち微小柱状体の長手方向に合わせる必要がある。しかし、従来の装置を用いると、この調整は手作業で行わなければならず、時間が掛かるだけでなく、経験も必要とされていた。本願発明者らはさらに研究を進め、この問題を解決することが可能な、光学的センサに好適なラマン光測定装置に想到した。
【0055】
なお、以下において説明する本発明に係るラマン光測定装置において使用することができる光学的センサは、本発明に係る光学的センサ又は本発明に係る製造方法によって得られる光学的センサに限られることはなく、同様の形態を有する従来一般の光学的センサであっても良い。
【0056】
本発明に係る光学的センサ用のラマン光測定装置の一例を図17に示す。図17では、光学的センサ1から発生するラマン光を測定するためのラマン光測定部の記載は省略している。
この装置では、入射光として半導体レーザ等の直線偏光レーザを用いる。レーザ発振器やミラーから成る入射光部4においては、偏光方向が変化しないように光学系を構成する。ここでは、光強度の低下を防ぐため、反射率が高いs偏光となるようにレーザの偏光を調整して用いるのが好適である。
【0057】
図17に示す装置において、例えば図に対して垂直な方向に光が偏光している場合、光学的センサ1の貴金属部の長手方向も図に対して垂直な方向であることが望ましい。そこでまず、光学的センサ1を、その表面が入射光に対して垂直となるように配置する。しかし、異方形状を有する貴金属部の方向は不明である。そこで本実施例に係る装置では、光学的センサ1の下部にフォトダイオード等の光モニタ部5を設け、光学的センサ1において吸収されずに透過してくる透過光の強度を測定する。光モニタ部5は測定した透過光の強度を表す検出信号を回転制御部6に出力する。なお、入射光が透過可能であるように、光学的センサ1の基体は透明な材料から成るものとする。
【0058】
回転制御部6は図示せぬ回転機構を有しており、光学的センサ1を入射光に対して垂直な面内で回転させる。光学的センサ1が回転することに伴い、入射光の偏光方向と異方性を有する貴金属部の配列方向とが相対的に変化する。従って光学的センサ1の表面で吸収される入射光の量が増減し、それに併せて透過光の強度も増減する。回転制御部6は光モニタ部5において測定される透過光の強度が最小となるように、光モニタ部5から出力される検出信号に基づき光学的センサ1の回転位置を特定し、その位置を光学的センサ1の最適測定位置として決定する。
【0059】
透過光強度が最小であるということは、その光学的センサ1において生じるラマン光強度が最大であるということにほかならないから、この測定装置によって光学的センサ1から生じるラマン光の強度が最大となる箇所を自動的に特定することができる。よって、この測定装置を用いることによりセットアップの手間を非常に小さくすることができる。
【0060】
本発明に係る光学的センサ用のラマン光測定装置の他の例を図18に示す。図18では、入射光部4やラマン光測定部の記載を省略している。
【0061】
レーザ発振器の種類や性能によっては、入射光となるレーザの直線偏光度がそれほど高くない場合もある。このような場合には、光学的センサ1表面の貴金属部の長手方向の向きが入射光の主な偏光の向きと揃っていたとしても、全ての入射光が光学的センサ1の表面で吸収されるわけではなく、吸収されずに透過し、ラマン光の増強に寄与することがない入射光(すなわち透過光)が存在してしまう。
【0062】
本実施例に係る光学的センサでは、光透過性を有する材料からなる基板を備える光学的センサ1の下部に、1/4波長板7と、その更に下部にミラー8を設ける。ここにおいて「下部」とは、入射光が進行する方向のことを指す。1/4波長板7は、一般的に用いられている位相差板や位相差フィルムを用いることができるが、図示せぬ入射光部4から出力される直線偏光レーザの偏光の向きに対して主軸の向きが45°となるように設置する。ミラー8は、誘電体ミラー等のように高い反射率を有するミラーを用いるのが望ましい。
【0063】
図18に示す測定装置では、光学的センサ1の貴金属部の長手方向が、図に対して略垂直方向に揃っているものとする。このとき、入射光の偏光方向が図面に対して略垂直な光(図8の右側)は光学的センサ1表面で吸収され、ラマン光の発生に寄与する。一方、偏光方向が図に対して略水平な入射光(図8の左側)の多くは、光学的センサ1において吸収されずに透過する。透過光が進行して1/4波長板7を通過すると、その偏光は円偏光に変化する。更に進行してミラー8で反射されるとその偏光の向きが逆になるが、再度1/4波長板7を通過することにより、最終的に偏光の方向が図面に対して垂直方向となる。この光は光学的センサ1の下面から光学的センサ1表面の貴金属部に到達して吸収され、ラマン光の発生に寄与する。
このように、本実施形態に係る測定装置では、入射時には光学的センサ1を透過してしまう偏光を有する入射光を無駄にすることなく光学的センサ1に吸収させることができるようになるため、ラマン光の強度を増大させることができる。
【0064】
なお、図18では光学的センサ1と、1/4波長板と、ミラー8とが互いに空間を空けて配置されているが、一部又は全てを一体化させた構成とすることもできる。
【0065】
さらに好適な光学的センサ用のラマン光測定装置として、上述した2例のラマン光測定装置の構成を組み合わせることもできる。この構成では、例えば図19に示すように光学的センサ1と1/4波長板7との間に光モニタ部5を設け(1/4波長板7とミラー8との間に設けてもよい)、回転制御部6によって光学的センサ1の最適な位置を決定する。その後、光モニタ部5によって透過光が遮られないように光モニタ部5を移動させたり入射光の位置を移動させ、測定を開始すればよい。この構成により、ラマン光の強度を更に高めることが可能となる。
【0066】
以上、本発明に係る光学的センサ、光学的センサの製造方法、及び光学的センサ用のラマン光測定装置について説明したが、上記実施形態は例にすぎず、適宜変更や修正を行ってもよいことは明らかである。

図面
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