TOP > 国内特許検索 > 光学活性らせんポリマーの製造方法および光学活性らせんポリマー重合開始剤 > 明細書

明細書 :光学活性らせんポリマーの製造方法および光学活性らせんポリマー重合開始剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4904504号 (P4904504)
登録日 平成24年1月20日(2012.1.20)
発行日 平成24年3月28日(2012.3.28)
発明の名称または考案の名称 光学活性らせんポリマーの製造方法および光学活性らせんポリマー重合開始剤
国際特許分類 C08G  61/12        (2006.01)
FI C08G 61/12
請求項の数または発明の数 7
全頁数 21
出願番号 特願2007-507174 (P2007-507174)
出願日 平成18年3月9日(2006.3.9)
国際出願番号 PCT/JP2006/304583
国際公開番号 WO2006/095810
国際公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
優先権出願番号 2005067723
優先日 平成17年3月10日(2005.3.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年6月29日(2007.6.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】杉野目 道紀
【氏名】山田 哲也
【氏名】野口 宙幹
個別代理人の代理人 【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査官 【審査官】井津 健太郎
参考文献・文献 M.SUGINOME et al.,"Highly Effective,Easily Accessible Screw-Sense-Determining End Group in the Asymmetric Polymerizati,ORGANIC LETTERS,2002年,Vol.4,No.3,p.351-354
M.SUGINOME et al.,"Transition Metal-Mediated Polymerization of Isocyanides",ADVANCES IN POLYMER SCIENCE,Polymer Synthesis,2004年,Vol.171,p.77-136
Y.Ito et al.,"Asymmetric Synthesis of Helically Stable Poly(quinoxaline-2,3-diyl)s Having Hydrophilic and/or Hyd,Macromolecules,1998,1998年, Vol.31,No.5,p.1697-1699
Y.Ito et al.,"Asymmetric Synthesis of Helical Poly(quinoxaline-2,3-diyl)s by Palladium-Mediated Polymerization of,Journal of the American Chemical Society,1998年,Vol.120,No.46,p.11880-11893
調査した分野 C08G 61/00-61/12
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
(A)芳香族化合物または芳香族複素環化合物と(B)ニッケル化合物とを(C)配位子の存在下で反応させる工程、および
前記反応物と(D)隣接する2つの不飽和炭素にそれぞれイソニトリル基を有するジイソニトリル化合物とを混合しジイソニトリル化合物を重合させる工程
を有する光学活性らせんポリマーの製造方法であって、
前記(A)芳香族化合物または芳香族複素環化合物が式(VI):
【化1】
JP0004904504B2_000027t.gif
または式(VII):
【化2】
JP0004904504B2_000028t.gif
(式中、Xはハロゲン基、R’はアセチル基、ホルミル基またはメトキシカルボニル基のうちのいずれかであり、Phはフェニル基、tolはトリル基を示す)
で表される化合物であり、前記(C)配位子がトリアルキルホスフィンであることを特徴とする光学活性らせんポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記(D)ジイソニトリル化合物が式(I):
【化3】
JP0004904504B2_000029t.gif
(式中、R1~R4は同じかまたは異なってもよく、それぞれ水素、置換されても良い直鎖または分岐アルキル基、置換されても良いアリール基、置換されても良い芳香族複素環基、置換されても良い脂肪複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換されても良いアミノ基、置換されても良いアルコキシル基、置換されても良いカルバモイル基から選択される基のうちのいずれかである。また、R1とR3,R3とR4またはR4とR2がそれぞれ環を成す構造でも良い)
で表される請求の範囲第1項記載の光学活性らせんポリマーの製造方法。
【請求項3】
式(I)で表される(D)ジイソニトリル化合物において、R1とR2および/またはR3とR4が同じ置換基である請求の範囲第2項記載の光学活性らせんポリマーの製造方法。
【請求項4】
(D)ジイソニトリル化合物が式(II):
【化4】
JP0004904504B2_000030t.gif
(式中、Yは酸素または硫黄、Rは炭素数1~12のアルキル基を示し、mおよびnはそれぞれ1≦m≦12、0≦n≦11、かつ1≦m+n≦12の関係を満たす整数である)
で表される請求の範囲第3項記載の光学活性らせんポリマーの製造方法。
【請求項5】
(D)ジイソニトリル化合物が式(III):
【化5】
JP0004904504B2_000031t.gif
(式中、Meはメチル基を示す)
で表される請求の範囲第4項記載の光学活性らせんポリマーの製造方法。
【請求項6】
(B)ニッケル化合物における配位子が、1,5-シクロオクタジオエンである請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項または第5項記載の光学活性らせんポリマーの製造方法。
【請求項7】
ニッケルに対して光学活性アリール基が結合した光学活性らせんポリマー重合開始剤であって、光学活性アリール基が式(X):
【化6】
JP0004904504B2_000032t.gif
または式(XI):
【化7】
JP0004904504B2_000033t.gif
(式中、R’はアセチル基、ホルミル基またはメトキシカルボニル基のうちのいずれかであり、Phはフェニル基、tolはトリル基を示す)
で表されることを特徴とする光学活性らせんポリマー重合開始剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性を有するらせんポリマーの製造方法および光学活性らせんポリマー重合開始剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の身の回りにある合成高分子は、一般的にランダムな構造を取る。一方、DNAやタンパク質に代表される生体高分子には、左右一方向のらせん状のものが数多く存在する。これらの生体高分子は、キラル物質の右手体と左手体を識別する「分子認識能」や右手体と左手体とを作り分ける「触媒作用」、自己複製、自己増殖、および情報伝達を司る「情報機能」といったらせん構造に特異な機能を有しており、これらの機能は、生命維持に不可欠の高度な機能の発現において重要な役割を果たしていると考えられている。
【0003】
ところで、生体高分子だけでなく、特異的な機能を付与したポリマーを人工的に合成することが検討されている。特開2004-27207号公報では、アクリル酸誘導体および架橋性モノマーとを共重合することにより鋳型高分子化合物を創製し分子認識を付与させ、クロマトグラフィー用固定相として使用できることが開示されている。
【0004】
また、特開2004-263071号公報では、溶媒として液晶化合物を用い、液晶化合物の異方的性質を利用して、ポリアセチレンの特異的な機能である導電性を保持したまま、一方向にねじれたヘリカルあるいはスパイラル構造を有するポリアセチレンの製造法が記載されている。このようなポリアセチレンは、分子銅線でできた分子ソレノイドの有力なモデルとなり、電気的、そして磁気的機能素子の実現に向けて大きく飛躍していくことが期待される。しかしながら、このような不斉異方性反応場として液晶化合物を用いてヘリカルポリマーを重合する際に、配向している液晶を乱すような物質が増えると液晶性が発現しなくなるため、液晶の物質量に対するポリアセチレンの物質量の比を小さい値に保ち、液晶の配向を保持しながら重合を行なわなければならない。また、液晶分子は通常用いられる有機溶媒に比べ極めて高価であり、大量生産への応用は不可能であるなどの問題がある。
【0005】
ところで、ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)は、溶液中100℃においても変性や光学純度の低下が見られない特徴的なポリマーであり、光学異性体分離材料や光学材料を代表とする材料科学分野での応用が期待されている。従来、このポリマーの合成は光学活性な有機パラジウム錯体を開始剤として用いた、1,2-ジイソシアノベンゼン誘導体の不斉重合反応により行なわれている(Y. Ito, et al. J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 11880.およびM. Suginome, et al. Org. Lett., 2002, 4, 351.参照)。この反応で生成するポリマーはらせん構造を有し、不斉重合開始剤として光学活性有機パラジウム錯体を用いるとそのらせん不斉はほぼ完全に制御できる。しかしながら、パラジウムは高価なため実用的ではなく、また重合反応速度もそれほど速くはないなどの問題があった。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、不斉重合触媒として光学活性な有機ニッケル錯体を用いて不斉重合を行なうことにより、安価で、かつ室温において重合速度が早い光学活性ならせんポリマーの製造方法および光学活性らせんポリマーの重合開始剤を提供する。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)芳香族化合物または芳香族複素環化合物と(B)ニッケル化合物とを(C)配位子の存在下で反応させる工程、および前記反応物と(D)隣接する2つの不飽和炭素にそれぞれイソニトリル基を有するジイソニトリル化合物とを混合しジイソニトリル化合物を重合させる工程を有する光学活性らせんポリマーの製造方法であって、前記芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)および前記配位子(C)の少なくともいずれか一方が光学活性であることを特徴とする光学活性らせんポリマーの製造方法に関する。
【0008】
ジイソニトリル化合物(D)が下記式(I)で表されることが好ましい。
【0009】
【化1】
JP0004904504B2_000002t.gif
(式中、R1~R4は同じかまたは異なってもよく、それぞれ水素、置換されても良い直鎖または分岐アルキル基、置換されても良いアリール基、置換されても良い芳香族複素環基、置換されても良い脂肪複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換されても良いアミノ基、置換されても良いアルコキシル基、置換されても良いカルバモイル基から選択される基のうちのいずれかである。また、R1とR3、R3とR4あるいはR4とR2がそれぞれ環を成す構造でも良い。)
【0010】
式(I)で表されるジイソニトリル化合物(D)において、R1とR2および/またはR3とR4が同じ置換基であることが好ましい。
【0011】
ジイソニトリル化合物(D)が下記式(II)で表されることが好ましい。
【0012】
【化2】
JP0004904504B2_000003t.gif
(式中、Yは酸素または硫黄、Rは炭素数1~12のアルキル基を示し、mおよびnはそれぞれ1≦m≦12、0≦n≦11、かつ1≦m+n≦12の関係を満たす整数である。)
【0013】
【化3】
JP0004904504B2_000004t.gif
(式中、Meはメチル基を示す。)
【0014】
ニッケル錯体(B)の配位子が、1,5-シクロオクタジオエンであることが好ましい。
【0015】
芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)が下記式(IV)または(V)で表わされることが好ましい。
【0016】
【化4】
JP0004904504B2_000005t.gif

【0017】
【化5】
JP0004904504B2_000006t.gif
(式中、Xはハロゲン基、R*は光学活性な置換基を示す。)
【0018】
芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)が下記式(VI)または(VII)で表わされることが好ましい。
【0019】
【化6】
JP0004904504B2_000007t.gif

【0020】
【化7】
JP0004904504B2_000008t.gif
(式中、Xはハロゲン基、R’はアセチル基、ホルミル基またはメトキシカルボニル基のうちのいずれかであり、Phはフェニル基、tolはトリル基を示す。)
【0021】
配位子(C)がトリアルキルホスフィンであることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、ニッケルに対して光学活性アリール基が結合した光学活性らせんポリマー重合開始剤にも関する。
【0023】
ニッケルに対してさらにハロゲン基または擬ハロゲン基が結合していることが好ましい。
【0024】
光学活性アリール基が下記式(VIII)または(IX)で表されることが好ましい。
【0025】
【化8】
JP0004904504B2_000009t.gif

【0026】
【化9】
JP0004904504B2_000010t.gif
(式中、R*は光学活性な置換基を示す。)
【0027】
光学活性アリール基が下記式(X)または(XI)で表されることが好ましい。
【0028】
【化10】
JP0004904504B2_000011t.gif

【0029】
【化11】
JP0004904504B2_000012t.gif
(式中、R’はアセチル基、ホルミル基またはメトキシカルボニル基のうちのいずれかであり、Phはフェニル基、tolはトリル基を示す。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、(A)芳香族化合物または芳香族複素環化合物と(B)ニッケル化合物とを(C)配位子の存在下で反応させる工程、および前記反応物と(D)隣接する2つの不飽和炭素にそれぞれイソニトリル基を有するジイソニトリル化合物とを混合しジイソニトリル化合物を重合させる工程、を有する光学活性らせんポリマーの製造方法であって、前記芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)および前記配位子(C)の少なくともいずれか一方が光学活性であることを特徴とする光学活性らせんポリマーの製造方法に関する。
【0031】
芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)において、芳香族化合物または芳香族複素環化合物の母核としては、特に限定はされないが、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレンなどの炭化水素、ピリジン、ピロール、インドール、チオフェン、フラン、ピラゾール、ピリミジン、キノリン、キノキサリンなどの複素環などが挙げられる。なかでも原料入手の容易さ、ならびに合成の容易さからベンゼンやナフタレンを用いることが好ましく、また重合中間体との構造の類似性からキノキサリンを用いることもまた好ましい。さらに、任意成分として1,2-ジイソシアノ-3,6-ジ-パラ-トリルベンゼンが、重合開始剤を錯体として単離でき、取り扱い性を向上できる点で好ましい。
【0032】
このような芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)の置換基としては、特に限定されないが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、アルキルスルホニルオキシ基(RSO3-、たとえばTsO(TsOはトシラートを意味する)、TfO(TfOはトリフラ-トを意味する)など)、アシロキシ基(RCO2-、たとえばAcO(Acはアセチル基を意味する)、BzO(Bzはベンゾイルを意味する)など)、またはO=P(OR)2Oなどの擬ハロゲン、ハロゲン化マグネシウムなどのハロゲン化金属などが挙げられる。なかでも入手の容易さ、ニッケル化合物調製の容易さの観点から、塩素、臭素、ヨウ素を用いることが好ましい。
【0033】
このような化合物(A)としては、特に限定されないが、不斉炭素、軸不斉または面不斉を有するビナフチル誘導体、ビフェニル誘導体、フェロセン誘導体などが挙げられる。具体的には下記式で表されるキラル芳香族化合物が挙げられ、なかでも下記式(IV)または(V)、特に下記式(VI)または(VII)で表わされる化合物が好ましい。
【0034】
【化12】
JP0004904504B2_000013t.gif

【0035】
さらに、不斉炭素、軸不斉または面不斉を有するビナフチル誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体としては、下記式で表わされる化合物が挙げられる。
【0036】
【化13】
JP0004904504B2_000014t.gif
(式中、Xはハロゲン基、R*は光学活性な置換基、R’はアセチル基、ホルミル基またはメトキシカルボニル基のうちのいずれかであり、Phはフェニル基、tolはトリル基、Arはアリール基、RおよびR1~R7はそれぞれ水素、置換されても良い直鎖または分岐アルキル基、置換されても良いアリール基、置換されても良い芳香族複素環基、置換されても良い脂肪複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換されても良いアミノ基、置換されても良いアルコキシル基、置換されても良いカルバモイル基から選択される基のうちのいずれかであり、R1~R4の少なくとも1種が他の置換基と異なる。また、R5~R7はそれぞれ異なる。)ここで、置換されても良いとは、前記置換基にさらに、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等のアリール基、ベンジル基や2-フェニルエチル基等のアラルキル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基等の芳香族複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基などの置換基で置換されてもよいことを意味する。
【0037】
ニッケル化合物(B)は、特に限定されないが、Ni(cod)2(codは、1,5-シクロオクタジエンを意味する)などのニッケル0価錯体、NiCl2、NiBr2、Ni(acac)2(acacはアセチルアセトンを意味する)などのニッケル2価化合物などが挙げられる。なかでも、Ni(cod)2を用いることが好ましい。
【0038】
配位子(C)としては、ニッケルに配位可能なものであれば特に限定されないが、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン、トリアリールホスフィン、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体が挙げられる。なかでもトリメチルホスフィンを用いることが好ましい。光学活性をもつ配位子(C)としては、光学活性3級ホスフィン、光学活性ジホスフィン、光学活性カルベン、光学活性3級アミン、光学活性スルフィドや、脱プロトン化可能な活性水素を有する光学活性1級または2級アミン、光学活性カルボン酸、光学活性アルコール、光学活性チオールとそれらの脱プロトン化されたアニオン体などが挙げられる。
【0039】
なお、本発明においては、前記芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)および前記配位子(C)の少なくともいずれか一方が光学活性であれば良い。
【0040】
本発明の製造方法において、モノマーとしては、隣接する2つの不飽和炭素にイソニトリル基を有するジイソニトリル化合物(D)が用いられる。ジイソニトリル化合物(D)としては、イソニトリル基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されないが、2つのイソニトリル基は芳香族環のシス位に置換されていることが好ましい。具体的には、下記式(I)で表される化合物である1,2-ジイソシアノベンゼン誘導体が好ましい。
【0041】
【化14】
JP0004904504B2_000015t.gif
(式中、R1~R4は同じかまたは異なってもよく、それぞれ水素、置換されても良い直鎖または分岐アルキル基、置換されても良いアリール基、置換されても良い芳香族複素環基、置換されても良い脂肪複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換されても良いアミノ基、置換されても良いアルコキシル基、置換されても良いカルバモイル基から選択される基のうちのいずれかである。また、R1とR3、R3とR4またはR4とR2がそれぞれ環を成す構造でも良い。)
【0042】
上記式(I)において、R1~R4は同じかまたは異なってもよく、それぞれ水素、置換されても良い直鎖または分岐アルキル基、置換されても良いアリール基、置換されても良い芳香族複素環基、置換されても良い脂肪複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換されても良いアミノ基、置換されても良いアルコキシル基、置換されても良いカルバモイル基から選択される基のうちのいずれか挙げられる。また、R1とR3、R3とR4あるいはR4とR2がそれぞれ環を成す構造でも良い。ここで、置換されても良いとは、前記置換基にさらに、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等のアリール基、ベンジル基や2-フェニルエチル基等のアラルキル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基等の芳香族複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基などの置換基で置換されてもよいことを意味する。
【0043】
式(I)で表されるジイソニトリル化合物(D)においてはR1とR2および/またはR3とR4が同じ置換基であるものが、得られるらせんポリマーの構造安定性、制御性の向上に寄与する点で好ましく、なかでも下記式(II)、特には下記式(III)で表わされるジイソニトリル化合物が好ましい。
【0044】
【化15】
JP0004904504B2_000016t.gif
(式中、Yは酸素または硫黄、Rは炭素数1~12のアルキル基を示し、mおよびnはそれぞれ1≦m≦12、0≦n≦11、かつ1≦m+n≦12の関係を満たす整数である。)
【0045】
化学式(II)のRにおける炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基またはエチル基が好ましく、両方のRが同じ置換基であることがより好ましく、さらに上記式(II)のジイソニトリル化合物(D)におけるRが、両方メチル基である下記式(III)で表されることが好ましい。
【0046】
【化16】
JP0004904504B2_000017t.gif
(式中、Meはメチル基を示す。)
【0047】
(A)芳香族化合物または芳香族複素環化合物と(B)ニッケル化合物とを(C)配位子の存在下で反応させる工程は塩基性条件下で行なってもよい。その場合、用いられる塩基としては、ピリジン、トリアルキルアミン、イミダゾール、t-ブトキシカリウム、t-ブトキシナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
前記ジイソニトリル化合物(D)の不斉重合を行なう際の溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジエチルエーテル、ヘキサン、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、クロロホルムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。なかでも、THFを用いることが好ましい。
【0049】
重合後、反応系に重合停止剤を加えてもよい。重合停止剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、金属亜鉛、金属アルミニウム、リチウムアルミニウムヒドリド、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。
【0050】
反応温度は、-20~60℃が好ましい。反応温度が-20℃より小さい場合には、反応速度が低下し、充分な分子量のらせんポリマーを得ることができず、生成ポリマーの溶解性に問題が生じる。また、60℃をこえると、分子量分布が広くなり、またらせん方向過剰率が低下する傾向がある。
【0051】
なお、前記光学活性らせんポリマーの製造方法としては、化合物(A)~(C)を反応させた後に反応生成物である重合開始剤を精製し、この開始剤を用いてジイソニトリル化合物(D)を重合反応してもよく、化合物(A)~(C)を反応させた後にジイソニトリル化合物(D)を添加して重合反応してもよく、または化合物(A)~(D)を一括に混合して重合反応を行なっても構わない。
【0052】
本発明の光学活性らせんポリマー重合開始剤は、ニッケルに対して光学活性アリール基が結合してなるものであり、前記光学活性らせんポリマーの製造方法において、芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)とニッケル化合物(B)とを配位子(C)の存在下で反応させる工程により製造されるものである。
【0053】
ニッケルに結合する光学活性アリール基については、前述した芳香族化合物または芳香族複素環化合物(A)におけるハロゲン基以外のアリール部位をそのまま適用することができるが、なかでも下記式(VIII)または(IX)、特に下記式(X)または(XI)で表わされるものであることが好ましい。
【0054】
【化17】
JP0004904504B2_000018t.gif
(式中、R*は光学活性な置換基、R’はアセチル基、ホルミル基またはメトキシカルボニル基、Phはフェニル基、tolはトリル基を示す。)
【0055】
なお、ニッケルに結合する光学活性基としては、前記光学活性アリール基に限られず、前述した配位子(C)のうち光学活性なものであってもよい。
【0056】
また、ニッケルにはさらにハロゲン基または擬ハロゲン基が結合していることが好ましい。ハロゲン基または擬ハロゲン基としては、前記のハロゲンまたは擬ハロゲンが挙げられる。
【0057】
本発明の製法により製造される光学活性らせんポリマーとしては、例えばポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)が挙げられる。ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)のらせん構造は非常に安定しているが、その安定性を左右する要因は3つある。(1)5、8位の置換基のかさ高さ、(2)重合度(鎖長が伸びるほど安定)、(3)末端置換基のかさ高さである。末端置換基の効果は驚くほど大きく、両末端がメチル基の場合には室温でラセミ化してしまう場合でも、片方の末端だけをかさ高いアリール基(1,1’-ビナフチル-2-ジイル基など)に代えることで、100℃で加熱しても全くラセミ化しないポリマーとなる。
【0058】
また、ポリマーのらせん構造が安定であるほど、いったん形成されたらせんの巻き戻しは起こらないので、速度論的にらせん方向を制御する重合法-不斉重合法-の開発が重要となる。前記らせんポリマーは、有機ニッケル錯体を開始剤とする1,2-ジイソシアノベンゼンの芳香化リビング重合によって合成される。
【0059】
一方、不斉リビング重合は、C-M結合へのイソシアノ基の連続挿入反応によって進行する。開始剤が有していた光学活性アリール基(Ar*)は、重合の進行につれて成長末端から遠ざかることとなる。それでも、らせんの制御が完全に行なわれるのは、前記らせんポリマーのらせん構造が極めて剛直なためである。らせん構造は3量体程度の初期段階で形成されるが、この時点ではまだ左右らせんは巻き戻し可能で、Ar*の立体効果により、熱力学的に安定ならせんが形成される。重合度が増すにつれ巻き戻しは起きにくくなり、らせん構造の形成は、すでに形成されているらせんの向きに沿って速度論的に行なわれる。このような機構を含む不斉重合の例はまだ少ないが、今後安定ならせんの不斉合成を行なう際には有力な戦略となる。
【0060】
本発明の製造方法で得られる光学活性らせんポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよく、コポリマーとしてはブロックコポリマーであることが好ましい。また、光学活性らせんポリマーの分子量は、反応条件や用いる用途によって異なるため、任意である。
【0061】
本発明の製造方法で得られる光学活性らせんポリマーは、キラルカラムやキラル分離膜などの光学異性体分離材料、非線形光学材料などの光学材料、キラル高分子材料、キラル高分子触媒、らせん高分子のもつ剛直性に由来した、皮膚などの生命体の力学的強度の保持成分、剛直なロッド形状およびらせん構造による物理的特性を利用した分野、製品における利用が可能である。
【0062】
また、新たな機能を発現させるために、側鎖部分に機能性を有する置換基を導入することにより、置換機の分子構造に起因する機能性らせんポリマーを創製することが可能であり、機能性らせんポリマーを介して生命機能発現の原理の解明や、導電性、発光性、液晶性、光応答性、強誘電性などを有する機能性材料の構築が可能である。そのような置換基としては、例えばアゾベンゼン、1,2-ジアリールエテン、ポリチオフェン、ポルフィリンなどが挙げられる。
【0063】
さらに、立体的な規則性を有する高分子から、望みの向きのらせん構造を構築し、らせん軸に沿って任意の化合物群からなる置換基や、有機・無機化合物、フラーレンや酵素などを自由自在に配列した機能性らせんポリマーの創製も期待できる。
【0064】
さらに、単一のらせんポリマーのみならず、らせんポリマーの集合体によって、精密な配列制御が可能になれば、「分子認識能」、「触媒作用」、「情報機能(自己複製や自己増殖)」の発現するキラル識別材料やセンサー、膜、液晶材料への利用など新規なキラル材料としての応用が期待できる。
【0065】
既存の高分子の性能をしのぐ革新的な機能性材料の創製につながるだけでなく、医療や医薬品開発などで重要なキラルテクノロジーの分野の進歩にも大いに貢献することが期待できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
実施例1(光学活性ニッケル開始剤(1)の合成)
【化18】
JP0004904504B2_000019t.gif

【0068】
グローブボックス内で反応容器にNi(cod)2(ビス(η-1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0))を100mg(0.36mmol)とりTHF4.5mlに溶解し、1.0mol/lのトリメチルホスフィンのTHF溶液0.81mlを室温で加え、1時間撹拌した。(4S,5S)-1-アセチル-2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-4,5-ジヒドロイミダゾール151mg(0.40mmol)をTHF2.0mlに溶解した溶液を別に調製し、先に調製した溶液に室温で加えて1時間撹拌した。この反応混合物に、任意成分である1,2-ジイソシアノ-3,6-ジ-パラ-トリルベンゼン187mg(0.61mmol)をTHF3.0mlに溶解した溶液を加え、室温で2時間撹拌した。反応後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去してカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジエチルエーテル=10:1)で精製し、光学活性ニッケル開始剤(1)168mg(0.19mmol)を得た。収率52%であった。
【0069】
実施例2(光学活性ニッケル開始剤(1)を用いたジイソシアノベンゼン(2)の不斉重合)
【化19】
JP0004904504B2_000020t.gif

【0070】
グローブボックス内で反応容器にニッケル開始剤(1)のTHF溶液(0.05mol/l)83μl(4.2μmol)をとり、THF6.2mlを加えた。トリメチルホスフィンのTHF溶液(1.0mol/l)4.2μl(4.2μmol)を室温で加え、15分間撹拌した。ジイソシアノベンゼン(2)50mg(0.17mmol)をTHF2.1mlに溶解した溶液を室温で加え、4時間撹拌した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム10mg(0.26mmol)を加えて15分撹拌した後、グローブボックス外で水10mlを加えた。クロロホルムで抽出した後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過してロータリーエバポレータで溶媒留去することにより、キノキサリンポリマー(3)53.1mg(4.2mmol)を得た。収率は100%であった。得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPC(ポリスチレン換算)で測定したところ、Mnは8095、Mw/Mnは1.16であった。らせん方向過剰率を測定したところ、91%であった。また、反応開始後5分間隔でサンプリングを行なって、反応追跡したところ重合は長くとも5分で完結していた。
【0071】
実施例3(光学活性ニッケル開始剤(1)を用いたジイソシアノベンゼン(4)の不斉重合)
【化20】
JP0004904504B2_000021t.gif

【0072】
ジイソシアノベンゼン(2)のメチル基を、エチル基に代えたジイソシアノベンゼン(4)を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて重合を行ない、キノキサリンポリマー(5)31.7mg(2.30μmol)を得た。収率は92%であった。得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)をGPC(ポリスチレン換算)で測定したところ、Mnは9689、Mw/Mnは1.109であった。らせん方向過剰率を測定したところ、33%であった。
【0073】
実施例4(光学活性有機ハロゲン化物からの開始剤調整も含んだ、ジイソシアノベンゼン(2)の不斉重合)
【化21】
JP0004904504B2_000022t.gif

【0074】
グローブボックス内で反応容器にNi(cod)2(ビス(η-1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0))1.14mg(4.2μmol)をとり、2.95mlのTHFに溶解した。トリメチルホスフィンのTHF溶液(1.0mol/l)8.3μlを室温で加え、1時間撹拌した。(4S,5S)-1-アセチル-2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-4,5-ジヒドロイミダゾール1.56mg(4.2μmol)をTHF1.31mlに溶かして加え、室温で1時間撹拌した。この反応溶液にTHF1.97mlを室温で加えて2時間半撹拌した。トリメチルホスフィンのTHF溶液(1.0mol/l)4.2μl(4.2μmol)を室温で加えて15分間撹拌した後、ジイソシアノベンゼン(2)50mg(1.66mmol)をTHF2.08mlに溶解した溶液を加え、1時間撹拌した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム10mg(0.26mmol)を加えて15分間撹拌した後、グローブボックス外で水10mlを加えた。クロロホルムで抽出した後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過してロータリーエバポレーターで溶媒留去することにより、キノキサリンポリマー(6)46.7mg(3.7μmol)を得た。得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mnは10579、Mw/Mnは1.12であった。また、らせん方向過剰率を測定したところ、83%であった。一方、反応時間は実施例2と同様に長くとも5分で完結していた。
【0075】
実施例5(光学活性有機ハロゲン化物からの開始剤調整も含んだ、ジイソシアノベンゼン(2)の不斉重合)
【化22】
JP0004904504B2_000023t.gif

【0076】
任意成分として、1,2-ジイソシアノ-3,6-ジ-パラ-トリルベンゼン1.54mg(5.00μmol)を加えた以外は、実施例4と同様の方法にて重合を行ない、キノキサリンポリマー(3)50.2mg(3.96μmol)を得た。得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mnは5423、Mw/Mnは1.35であった。また、らせん方向過剰率を測定したところ、98%であった。
【0077】
実施例6(光学活性有機ハロゲン化物からの開始剤調整も含んだ、ジイソシアノベンゼン(2)の不斉重合)
【化23】
JP0004904504B2_000024t.gif

【0078】
(4S,5S)-1-アセチル-2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-4,5-ジヒドロイミダゾールを(4S,5S)-1-ホルミル-2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-4,5-ジヒドロイミダゾールに代えた以外は、実施例5と同様の方法にて重合を行ない、キノキサリンポリマー(7)53.9mg(4.26μmol)を得た。得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mnは8735、Mw/Mnは1.15であった。また、らせん方向過剰率を測定したところ、93%であった。
【0079】
実施例7(光学活性有機ハロゲン化物からの開始剤調整も含んだ、ジイソシアノベンゼン(2)の不斉重合)
【化24】
JP0004904504B2_000025t.gif

【0080】
(4S,5S)-1-アセチル-2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-4,5-ジヒドロイミダゾールを(4S,5S)-1-メトキシカルボニル-2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニル-4,5-ジヒドロイミダゾールに代えた以外は、実施例5と同様の方法にて重合を行ない、キノキサリンポリマー(8)51.1mg(4.03μmol)を得た。得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mnは8006、Mw/Mnは1.29であった。また、らせん方向過剰率を測定したところ、70%であった。
【0081】
比較例1(光学活性パラジウム開始剤(9)を用いたジイソシアノベンゼン(2)の不斉重合)
【化25】
JP0004904504B2_000026t.gif

【0082】
パラジウム開始剤(9)1.7mg(1.7μmol)を3mlのTHFに溶解し、トリメチルホスフィンのTHF溶液(0.7mmol/l)を2.4ml、次いでジイソシアノベンゼン(2)20mg(0.067mmol)を加え、室温で18時間撹拌した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム10mg(0.26mmol)を加えて1時間撹拌した後、水3mlを加えてクロロホルムで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過してロータリーエバポレータで溶媒留去することにより、キノキサリンポリマー(3)を得た。収率は86%であった。
【0083】
得られたらせんポリマーの分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mnは約10663、Mw/Mnは1.28であった。また、らせん方向過剰率を測定したところ、98%であった。また、反応開始後1時間間隔でサンプリングを行なって反応追跡したところ、重合は4時間では原料が残っており、12時間で95%以上進行していた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の光学活性らせんポリマーの製造方法によれば、光学活性ニッケル錯体が用いられるため、従来用いられたパラジウムと比べ、光学活性ポリマーの合成をはるかに安価で行なうことができる。また、反応速度が著しく速くなるので、重合に必要な時間も著しく短くなるという極めて優れた効果を得ることができる。