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明細書 :生物組織固定・包埋・薄切用カセット及びその操作方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4792586号 (P4792586)
登録日 平成23年8月5日(2011.8.5)
発行日 平成23年10月12日(2011.10.12)
発明の名称または考案の名称 生物組織固定・包埋・薄切用カセット及びその操作方法
国際特許分類 G01N   1/36        (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
G01N   1/06        (2006.01)
FI G01N 1/28 R
G01N 1/28 U
G01N 1/28 J
G01N 1/06 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 19
出願番号 特願2007-551954 (P2007-551954)
出願日 平成18年12月25日(2006.12.25)
国際出願番号 PCT/JP2006/325771
国際公開番号 WO2007/074769
国際公開日 平成19年7月5日(2007.7.5)
優先権出願番号 2005375186
優先日 平成17年12月27日(2005.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年12月2日(2009.12.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】天野 殖
【氏名】戸田 好信
個別代理人の代理人 【識別番号】100074206、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 文二
【識別番号】100087538、【弁理士】、【氏名又は名称】鳥居 和久
【識別番号】100112575、【弁理士】、【氏名又は名称】田川 孝由
【識別番号】100117400、【弁理士】、【氏名又は名称】北川 政徳
審査官 【審査官】野村 伸雄
参考文献・文献 特開平08-285745(JP,A)
特開平09-145571(JP,A)
特開2002-005800(JP,A)
調査した分野 G01N 1/06
G01N 1/28
G01N 1/36
G01N 33/48
特許請求の範囲 【請求項1】
所定以上の硬さ及び強度の薄切可能な素材板からなり採取された生物組織を載置する基板11と、基板11と一体の前記素材板を折曲させ、又は別体の前記素材板を着脱自在として開閉する蓋板12とを備え、基板11に生物組織を密着・保持して収納する収納部13Bを設け、蓋板12を閉じてその間に生物組織を密着・保持し生物組織の移動を阻止する密着・保持部材13Aを基板11の収納部13B内に蓋板12を介して又は着脱自在に設け、基板(11)および蓋板(12)には固定および包埋に用いる液が浸入可能な多数の小孔16を設けた生物組織固定・包埋・薄切用カセット。
【請求項2】
前記収納部13Bを、短冊状の生物組織の形状に対応する溝13、不整な生物組織の形状に対応する凹み13b、又は不整形な生物組織を収納するのに十分な平面状広さを有する凹み13bのいずれかとしたことを特徴とする請求項1に記載の生物組織固定・包埋・薄切用カセット。
【請求項3】
前記薄切可能な素材を耐水性、耐固定剤性、耐有機溶剤性、耐包埋剤性、かつ-30℃~65℃の耐温度性を有する合成高分子化合物、特殊加工紙類、又は上記素材と同等の特性を有する生物素材からなる板のいずれかとしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の生物組織固定・包埋・薄切用カセット。
【請求項4】
前記基板11の外周辺に沿って周縁板17を形成し、その側辺に支持部材17aを設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生物組織固定・包埋・薄切用カセット。
【請求項5】
前記請求項4に記載の生物組織固定・包埋・薄切用カセットの基板11下の収納部13B内に生物組織を収容し、蓋板12を閉じて生物組織固定・包埋・薄切用カセットを固定液中に浸漬して、密着・保持部材13Aで生物組織を定着させた状態で生物組織を固定し、その後固定・包埋・薄切用カセットを自動包埋装置に設置して脱水した後、包埋剤浸透槽内に入れて固定・包埋・薄切用カセット内の生物組織に包埋剤を浸透させ、次いでこの固定・包埋・薄切用カセットを自動包埋装置より取り出し包埋皿40内に入れ、その上から包埋剤を注入し、固定・包埋・薄切用カセットを包埋した後、包埋皿40を分離して薄切用包埋ブロックを形成し、この薄切用包埋ブロックを、組織切片作成用ミクロトームに設置して、固定・包埋・薄切用カセットを含む薄切用包埋ブロックを薄切する生物組織の固定・包埋・薄切用カセットの固定・包埋・薄切操作方法。
【請求項6】
前記請求項1乃至4のいずれかに記載の固定・包埋・薄切用カセットに生物組織を入れた後、直ちに固定・包埋・薄切用カセット内に凍結切片作成用包埋剤を注入包埋し、蓋板12で蓋をした後、固定・包埋・薄切用カセットを冷凍し、その後、クリオスタットで薄切する生物組織の固定・包埋・薄切用カセットの固定・包埋・薄切操作方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、生物組織の固定、脱水、包埋剤への浸透並びに包埋、さらには薄切までの一連の作業を同一の容器(カセット)内で行うことにより組織標本作成の操作過程を簡素化、省力化し他の検体の混入を排除し得る生物組織固定・包埋・薄切の操作を可能とする固定・包埋・薄切用カセット及びその操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物体より採取された組織からその組織の状態を調べる場合、組織検査室で検査し、組織の病理学的診断を行い、又、形態研究のために生物組織をカセットに収納し、固定、包埋、さらに薄切という一連の作業が一般に行われる。このような従来の一般的な操作作業は、まず生物体より採取された組織を、直接固定液の入った瓶に入れたり、ナイロンメッシュの袋に入れた後、固定液の入った瓶に入れたり、あるいは多孔板で形成された図17に示すようなカセット1に収納し、図示していない蓋を閉じてこのカセット容器をホルマリン、純エタノール、アセトン等の固定液の入った瓶に入れ、組織を固定する。
【0003】
図17において、2は容器内に設けられた仕切り、3は容器底面に設けられた多数の小孔、4はカセットの蓋のはめ込み部分である。そして、この生物組織を収納したカセットを入れた固定容器を組織検査室に運ぶ。場合によっては既に固定された生物組織を新たにカセット容器に入れて以下の操作に供することもある。検査室では、既にカセット容器に収納され固定された組織については、カセット容器の蓋を開けて中の生物組織を確かめると共にその組織とカセット容器に記載されている患者情報の内容を確認した後、蓋を閉じて自動包埋装置にセットする。小さな生検組織では、初めからカセットに入っていることは少なく、この時点で固定瓶から小組織専用のカセットに入れ替えられる。
【0004】
カセットに入っていない生物組織で固定瓶の中で固定液に浸漬されている組織は、固定瓶中の組織を新たにカセット容器に入れ替えた後、自動包埋装置にセットする。ナイロンメッシュに入って固定された組織はそのまま自動包埋装置にセットすることが出来る。自動包埋装置ではカセット容器や、ナイロンメッシュに入った組織が自動的に脱水、パラフィン浸透操作を受ける。パラフィン浸透が終了すると、自動包埋装置から組織の入ったカセット容器、あるいはナイロンメッシュを取り出して、隣接する包埋センターのパラフィン槽に移す。なお、自動包埋装置とは生物組織の脱水からパラフィン浸透までの一連の操作を自動的に行う装置である。
【0005】
また、包埋センターとは包埋剤で浸透された組織を包埋、冷却する装置である。現在ほとんどの検査室では自動包埋装置及び包埋センターが使用されているが、自動包埋装置を使用することなく、生物組織の入った固定・包埋・薄切用カセットを手動で脱水、パラフィン浸透させ、また包埋センターを使用せず手動で、包埋・冷却操作を行うことも出来る。次に、包埋センターのテーブル上に別途用意された包埋皿を所定位置にセットし、融解したパラフィンを包埋皿内に少量流し込む。
【0006】
この包埋皿のパラフィン内に、包埋センター内のパラフィン槽から出したカセット容器内、あるいはナイロンメッシュ内の生物組織をピンセットで取り出して、包埋皿の中に生物組織をセットする。次いで包埋皿の上に包埋枠を乗せて、上から融解パラフィンを流し込み、生物組織と一体となった包埋枠を含む包埋皿を包埋センターに隣接する冷却部上に置いて冷却する。これによりパラフィンが固まると、生物組織と包埋枠を一体に形成したブロック、すなわち薄切用包埋ブロックを包埋皿から外す。そして、このブロックをミクロトーム(薄切装置)にセットして薄切する。上記の一般的な固定・包埋・薄切方法については特許文献1にも記載されている。

【特許文献1】特開平8-211047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の一般的な生物組織の固定・包埋・薄切方法では、生検組織を採取後直ちに固定瓶やカセットに入れると、組織はその周囲に自由空間があるため固定に伴い組織の形に歪をきたすことが多く、標本作成上の大きな問題点となる。また、検査室でカセット容器やナイロンメッシュから生物組織をピンセットで取出して別の包埋皿の上に移動させて包埋操作をするため、生物組織を部分的に挫滅して傷付け、良好な組織標本の作製が出来なくなることがある。また、カセット容器内の複数の生物組織を誤って元の配置と異なる配置で包埋皿に配置し、生物組織間にコンタミ状態を生ずることがあり、検査結果に大きな影響を与え、重大な誤診の原因となることがある。このような問題は、特許文献1でも指摘されている。
【0008】
しかし、特許文献1の方法は、採取された生検試料を包埋カセットの皿内底面に置く際に、底面に単に複数の生検試料を置くだけで、組織を出来るだけ採取されたそのままの状態、例えば直線状に固定させるために底面に溝、あるいは不整形な状態の場合は凹みのような収容部は設けられていない。従って、例えば人体の肝臓、腎臓あるいは前立腺など短冊状となった組織、あるいは胃粘膜、大腸粘膜などの小型で不整な組織を生検試料として採取した場合、それらの組織を包埋カセット内に置くだけでは、最終的に包埋皿の底面に組織全体をきれいに密着させることができなくなることがある。このため、後にミクロトームで薄切した際に生検試料の全長に亘る十分な検査情報が得られないという問題を生じる可能性がある。
【0009】
又、上記特許文献1の方法では生検試料をグルコマンナン、ホルマリンを含む定着支持剤で固化し、カプセル容器内に包埋カセットを入れてその周りをメタノール、ホルマリンを含むゲル化剤でゲル化して固定し、このカプセル容器を病理検査室に搬送し、そこでカプセル容器から取出した包埋カセットを別の容器内に入れて脱水操作剤で脱水操作し、さらに脱脂、透徹等の操作後包埋カセットを容器から取出し、この包埋カセットから生検試料をゲル状ブロックの状態で取出して包埋皿内に入れ、その上に空の包埋カセットを載せてその上からパラフィン等の包埋剤を注入し、これを冷却固化して包埋ブロックが得られる。
【0010】
しかし、この方法はゲル化剤やその他各種の操作剤を必要とし、かつシャーレ、カプセル、別の容器、包埋皿へと移動させ、種々の機材、操作過程を必要とし、操作が煩雑なため、実際の医療現場では殆ど利用されていない。従来の方法による生検組織の採取時より染色作業までの一連の工程について、本願発明の工程表(図9の(a)図、詳細は後述)と比較する図9の(b)図において、その「工程表」を示す。なお、(b)図中の太線の矢印f(f、f、f、f)は組織を医師、看護師或いは検査技師がピンセットを用いて手で扱うところを示しており、この際に組織の変形や、座滅が起こり、又組織の取り違えミスなどが起きる可能性が生じる。
【0011】
この発明は、上記の問題に留意して、薄切可能な素材で容器を作成して、採取された生物組織を容器に収納後、固定から包埋・薄切過程まで容器を変えることなく操作過程を進め、作業の簡略化・省力化を図り、組織の変形や挫滅、さらには組織同士の取り違えミスの可能性を無くし、また組織を底面に密着した状態で包埋し、その結果として良好で正確な病理組織診断結果を得ることができる生物組織固定・包埋・薄切用カセットを提供することを第1の課題とする。
【0012】
又、もう1つの課題は、第1の課題で得られる生物組織固定・包埋・薄切用カセットを用いて生物組織を収納、固定・包埋し、組織の固定から薄切操作まで操作の途中で容器を変えることなく検体組織をカセットに入れたまま操作が可能であり、さらに組織の形態を保ち、挫滅を防ぎ、取り違えミスを防ぐ一貫した生検組織作成を可能とする生物組織固定・包埋・薄切の操作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、上記の第1の課題を解決する手段として、所定以上の硬さ及び強度の薄切可能な素材板に採取された生物組織を載置する基板と、基板と一体の素材板を折曲させ、又は別体の板材を着脱自在として開閉する蓋板とを備え、基板に生物組織を収納する収納部を設け、蓋板を閉じてその間に生物組織を密着・保持し生物組織の移動を阻止する密着・保持部材を基板の収納部内に蓋板を介して又は着脱自在に設け、両板材には多数の小孔を設けた生物組織固定・包埋・薄切用カセットとしたものである。
【0014】
上記生物組織固定・包埋・薄切用カセットを用いた、もう1つの課題を解決する手段である生物組織の固定・包埋・薄切操作方法として、生物組織固定・包埋・薄切用カセットの基板下の収納部内に生物組織を載せ、蓋板を閉じて収納部内に生物組織を収容し、生物組織固定・包埋・薄切用カセットを固定液中に浸漬して、密着・保持部材で生物組織を定着させた状態で生物組織を固定し、その後固定・包埋・薄切用カセットを自動包埋装置に設置して脱水した後、包埋剤浸透槽内に入れて固定・包埋・薄切用カセット内の生物組織に包埋剤を浸透させ、次いでこの固定・包埋・薄切用カセットを自動包埋装置より取り出し包埋皿内に入れ、その上部より包埋剤を注入し、固定・包埋・薄切用カセットを包埋した後、包埋皿より分離して薄切用包埋ブロックを形成し、この薄切用包埋ブロックを、組織切片作成用ミクロトームに設置して、固定・包埋・薄切用カセットを含む薄切用包埋ブロックを薄切する生物組織の固定・包埋・薄切用カセットの固定・包埋・薄切操作方法を採用することができる。
【0015】
或いは、上記固定・包埋・薄切用カセットに生物組織を入れた後、直ちに固定・包埋・薄切用カセット内に凍結切片作成用包埋剤を注入包埋し、蓋板で蓋をした後、固定・包埋・薄切用カセットを冷凍し、その後クリオスタットで薄切する生物組織の固定・包埋・薄切方法を採用してもよい。なお、クリオスタットとは薄切用ミクロトームをマイナス15℃からマイナス30℃程度の冷凍室に設置し、冷凍下で生物組織を薄切する装置である。
【0016】
上記の構成とした生物組織固定・包埋・薄切用カセットは、蓋板を基板から開いて基板下の収納部に生物組織を入れ、生物組織が収納部底面内で移動せず且つ収納時の形態を保つために密着・保持部材で生物組織を底面に密着させ、蓋板を閉じてホルマリンの入った容器内に入れて搬送する。組織検査室ではこの生物組織の入ったカセットを容器から取り出し、自動包埋装置にセットして脱水した後、パラフィン包埋剤を浸透させ、その後このカセットを自動包埋装置より取り出して、カセット内部から生物組織を取り出すことなくカセットに入れたまま生物組織を包埋皿内に入れ、カセットの上方から包埋剤を注入して包埋する。なお、包埋枠を必要とする場合もあるが、この場合は包埋材を注入する前にカセット上に置く。また、この発明では、基板、蓋板の用語は基部シート、蓋シートの材料を含む概念であり、板材の形態や厚さによって平面的形態で比較的厚さが薄いものを基部シート或いは蓋シートと呼び、立体的形態で比較的厚いものを基板或いは蓋板と呼ぶこととする。
【0017】
上記カセットを冷却した後、包埋皿を取除くと生物組織を収納したカセットを含む薄切用包埋ブロックが形成される。このブロックをミクロトームで薄切すると良好な生物組織標本が得られる。ここで、薄切とは生物組織をミクロトームと呼ばれる特殊な刃を持った装置で薄く切ることである。また、固定とは組織の腐敗を防ぎ組織構築を保つ為に、染色目的に応じてホルマリン、ピクリン酸・ホルマリン・酢酸混合液、純エタノール、アセトンなどの薬品で生体蛋白質を凝固あるいは変性させて、生体成分を液化状態から固化状態に変化させること(通常ホルマリン水溶液が使用される)である。
【0018】
脱水とは生物組織内の水分をエタノール、エタノール・メタノール混合液あるいはアセトンなどで置換し生物内水分を除くことで、通常はエタノールが使用される。さらに、包埋剤の浸透とは脱水された生物組織を、中間剤を介して融解したパラフィン、セロイジンなどの包埋剤の中に浸し、生物組織内に包埋剤を浸みこませることで、通常はパラフィンが用いられる。
【0019】
上記カセットはミクロトームで薄切可能な素材で容器を作成することにより、採取された生物組織を一旦このカセット容器に収容すると、固定から薄切過程まで容器を変えることなく一連の作業を進めることが可能となり、作業の簡略化・省力化と組織の挫滅を軽減し、組織間の取り違えのミス発生の可能性を無くすことができる。又カセット底面に組織が密着しているので、組織の採取から固定、包埋過程で生ずる組織の変形を少なくし、良好な薄切切片の作成が出来る。包埋とは生物組織を標本作製の目的に応じてパラフィン、パラプラスト、セロイジン、エポキシ樹脂などに浸透させて固めることであり、通常パラフィンが使用される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、この発明の生物組織固定・包埋・薄切用カセットは生物組織を載置する基板と、基板に対して開閉する蓋板とを備え、基板に生物組織を収納する収納部を設け、生物組織を密着・保持し生物組織の移動を阻止する密着・保持部材を基板の収納部内に蓋板を介して又は着脱自在に設け、両板材には多数の小孔を設けたものとしたから、生物組織をカセット容器内に収容した後は、生物組織の移動を阻止した状態でカセットと共に固定剤による固定、脱水、包埋剤の浸透、包埋剤による包埋・薄切用ブロックを形成し、このブロックをミクロトームに設置して、上記カセットを含む上記ブロックを薄切することにより生物組織を薄切することができるという利点が得られる。
【0021】
また、上記生物組織固定・包埋・薄切用カセットを用いた生物組織の固定・包埋・薄切操作方法では、生物組織固定・包埋・薄切用カセットの基板の収納部上に生物組織を載せ、蓋板を閉じて生物組織を収容し、このカセットを固定液中に浸漬して、密着・保持部材で生物組織を定着させた状態で生物組織を固定し、このカセットを包埋した後、包埋皿より分離して薄切用包埋ブロックを形成し、このブロックを、ミクロトームに設置して、上記カセットを含む上記ブロックを薄切する固定・包埋・薄切操作方法を順次用いることにより、組織を採取しカセットに入れた後、ミクロトームで数ミクロン単位の薄さで薄切し、染色作業をするまで一貫して生物組織を一切ピンセット等で扱うことなく生物組織を操作でき、生物組織の染色用薄切切片標本の作成を簡便かつ良好に作成でき、作業中に起こる組織の取り違えミスを防止すると共に作業の簡素化、省力化を図ることができ、臨床検査を含む組織形態学的検査領域で有効な検査容器として利用することができるという種々の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態の生物組織固定・包埋・薄切用カセットの(a)外観斜視図、(b)(a)図の矢視B-Bからの断面図
【図2】同上のカセットへ生物組織を収容する作業の説明図
【図3】同上のカセットを固定用収納容器へ入れた斜視図
【図4】(a)自動包埋装置のパラフィン浸透槽内の容器から同上のカセットを取出す作業の説明図、(b)上記カセットを包埋皿に載せる作業の説明図
【図5】同上のカセットを包埋皿上に置き、その上方に包埋枠を置いて、上部より融解したパラフィンを流し込む状態の断面図
【図6】(a)包埋皿上に形成されたブロックから包埋皿を取除いた薄切用包埋ブロックの外観斜視図、(b)薄切用包埋ブロックを薄切用ミクロトームにセットした状態の説明図
【図7】生物組織の薄切片をスライドガラス上に貼付けた状態の説明図
【図8A】第1、第2、第3変形例の生物組織を収納するための生物組織固定・包埋・薄切用カセットの外観斜視図
【図8B】第1変形例の生物組織固定・包埋・薄切用カセットを着脱自在形式とした部分変形例の外観斜視図
【図9】生検組織操作の工程表((a)本願発明、(b)従来例)
【図10】第2実施形態の固定・包埋・薄切用カセットの分解斜視図
【図11】図10の(a)同上のカセットの平面図、(b)(a)図の矢視B-Bからの断面図、(c)(a)図の矢印Cからの断面図
【図12】同上カセットを用いた生検組織の挿入状態を説明する説明図
【図13】(a)同上カセットにパラフィンを流し込む操作の断面図、(b)ミクロトームにセットして薄切する状態を示す断面図
【図14】第2実施形態の第1、第2、第3変形例の生物組織を収納するための生物組織固定・包埋・薄切用カセットの分解斜視図
【図15】シート素材、スポンジ素材の対薬品性、耐熱性、薄切試験結果の図表
【図16】生物組織固定・包埋・薄切用カセットの薄切・染色試験結果の比較図
【図17】採取された生物組織を入れる従来の容器の一例の外観斜視図
【符号の説明】
【0023】
10A、10A’、10A''、10A'''、10AR 生物組織固定・包埋・薄切用カセット
10B、10B’、10B”、10B''' 生物組織固定・包埋・薄切用カセット
11 基板
11’ 基部シート
12 蓋板
12’ 蓋シート
12a 凸片
13A 密着・保持部材
13a スポンジ素材
13B 収納部
13 溝
13b 凹み
13b’ 仕切り板
13c 縁材
14 折曲部
15 患者情報表示部
15b 嵌合部
16、16a 孔
16b 嵌合孔
17 周縁板
17a 支持部
18 掴持部
20 固定瓶
21 蓋
30 パラフィン浸透槽(自動包埋装置内)
31 容器
40 包埋皿
41 包埋枠
50 ミクロトーム
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態の生物組織の固定・包埋・薄切用カセット10Aを示す。(a)図は外観斜視図、(b)図は(a)図の矢視B-Bからの断面図である。このカセット10Aは、底面に複数の溝を持ち、肝臓、前立腺、腎臓などの短冊状となった生検組織を固定・包埋・薄切する生物組織固定・包埋・薄切用カセットである。なお、カセットの他の形状については図8Aに示し、これについては後述する。図示のように、固定・包埋・薄切用カセット10Aは、一枚の長尺状の薄いプラスチックのシートを折曲部14で2つに折曲げて、一方を基部シート11’、対向するシート片を蓋シート12’とし、基部シート11’には複数列の溝13を設けて形成されている。
【0025】
一方蓋シート12’の下面には、図示のように、基部シート11’の溝13に対応して、生物組織を密着・保持し生物組織の移動を阻止する密着・保持部材13Aとして、生物組織を底面に密着させ、生物組織を挫滅させない程の弾力性を有し且つ薄切可能なスポンジ素材13aが貼り付けてある。ただし、スポンジ素材13aは必ずしも蓋シートに貼り付ける必要はなく、溝13内に収納しておき、使用時に取り出して組織を溝13に収納した後、その上から溝13の組織上にセットし蓋シート12’を閉じるようにしてもよい。但し、密着・保持部材13Aとして図示の例ではスポンジ素材としたが、これに替わる機能を有する、例えば接着剤を用いて生物組織を密着・保持させるようにしてもよい。
【0026】
基部シート11’、蓋シート12’の素材は、耐水性で、ホルマリン、アルコール、アセトンのような固定剤に対する耐固定剤性、キシレン、クロロホルムのような有機溶媒に対する耐有機溶媒性で、パラフィンで変質せず、-30℃~65℃の温度変化で著しい変形、材質変化等の大きな影響を受けず、かつ後述するミクロトーム(薄切装置)により組織収納部13の溝13Bの部分は数ミクロン単位の厚さに生物組織を含む固定・包埋・薄切用カセットを薄切可能な素材を用いる。なお、15は基部シート11’の隅位置の裏面に書き込まれる患者名、コード記号等の患者情報表示部、15aは基部シート11’の溝の横に記入された採取組織を区別するための溝番号である。
【0027】
図示の例では、上記基部シート、溝素材として合成高分子化合物(プラスチック)の中から選んだポリプロピレンを用いている。但し、基部シート11’と溝13の素材は厚さ・硬さの異なる2種類のポリプロピレンを用いており、両方共硬質ではあるが、基部シート11’の方が硬く、溝13の方が柔らかい。図示の試験例のカセット10Aは、縦20mm、横34mm、溝の幅3mm、溝の深さ2mm、素材の厚さは基部シート11’、蓋シート12’が0.4mm~1mm、溝13(コ字断面全体)が0.1mm~0.2mmである。スポンジ素材13aは、基部シートの溝に対応して幅2.5mm、高さ1.5mm、長さ20mmである。但し、シート並びにスポンジ素材の大きさ、厚さはこれに限定されないことは勿論である。
【0028】
又、基部シート11’の溝13の底面、側面並びに端板、さらには蓋シート12’で溝13に対応する部位に、図示省略しているが、固定、脱水、包埋剤浸透、包埋操作中に液がカセット内に浸入出来るように直径0.5mm~1.0mm程度の孔を10孔~40孔/100mmの基準で設ける。溝13の両端は端板13tで閉じられている。この端板13tも溝13と硬さ、厚さは同じである。なお、図示の例では、シート、溝素材としてポリプロピレンを示したが、これに代えて上記耐性、耐温度性、薄切り可能性等の条件を満たす材料であれば他の素材、例えばテフロン(登録商標)、ポリスチレン、ナイロン、ABS樹脂、特殊加工を施した紙類あるいはその他の生物素材等を用いることができる。
【0029】
さらに、図1に示すように、両シートの先端側周辺の適宜位置に互いに密着して嵌合する小さな凹部と凸部による嵌合部15bをいずれか一方のシートと他方のシートに複数箇所(図示の例では2箇所)それぞれ形成し、基部シート11’に蓋シート12’を被せて生物組織をその間に収容するときは、それぞれの凹部と凸部を嵌合させて両シートを結合状態にする。必要に応じて上記凹凸の嵌合部15bは、両シートの一方を他方から引き離して解放する。凹凸の嵌合部による形式以外にも、例えば両シートの適宜外周辺をクリップやホッチキスなどの挟持手段や接着剤等で互いに接合する形式のように基部シート11’に蓋シート12’を着脱できれば上記以外の他の種々の形式のものを採用することができる。
【0030】
上記構成の溝を有する固定・包埋・薄切用カセット10Aは、主として採取された生物組織の臨床検査に用いられるカセット容器であり、人体の生検で採取された前立腺のように細長く、短冊状の組織を収容し、その後固定、脱水、包埋剤の浸透並びに包埋、さらに薄切までの組織染色標本作成に必要な一連の作業を同一容器内で行い、作業の簡素化と省力化を図り、かつ確実で良好な組織染色標本を作成するのに用いられる。図1~図9を参照して、上記固定・包埋・薄切用カセット10A内に生物組織を収容する作業以下の一連の作業について説明する。
【0031】
まず、図1に示すように、作業の前準備として、未使用の固定・包埋・薄切用カセット10Aの患者情報表示部15に対象となる患者の患者名、採取年月日、部位等の患者情報を記入する。次に、図2に示すように、蓋シート12’を基部シート11’から開き、採取された生物組織T,T・・・を医師或いは看護師がピンセットPで摘んで基部シート11’の複数の溝13に順次所定の配置で収容する。ついで組織密着・保持機能のためのスポンジを貼り付けた蓋シート12’を基部シート11’に被せ、生物組織が基部シート11’の収納部底面に密着するようにしてカセットを閉じる。スポンジ素材は蓋シートに貼り付けておく必要はなく、溝部に収納しておいても良い。その後、直ちに生物組織を含むカセットを固定液の入った固定瓶に入れる。
【0032】
この固定・包埋・薄切用カセット10Aを搬送するための固定瓶20には、図3に示すように固定・包埋・薄切用カセット10Aが十分浸る程度に固定液Lsを入れておき、カセットをこの固定液Lsに浸す。カセット収納容器である固定瓶20の蓋21を閉じ、固定瓶20の表示部22に病院名等を記入する。なお、以上の作業は患者の属する病院・医院等で行なわれ、その後、病院から検査室へ搬送される。検査室を持つ病院・医院等では組織採取室より組織検査室に運ばれる。
【0033】
組織検査室に固定瓶20が送られると、固定瓶20の蓋21を開けて固定・包埋・薄切用カセット10Aを取出し、自動包埋装置にセットする。自動包埋装置内でカセットは、脱水後にパラフィン浸透槽に移動し、浸透が終わると図4の(a)図に示すように、パラフィン浸透槽30の容器(金網製)31内の複数の固定・包埋・薄切用カセット10A(10a~10d)が槽内からピンセットで取り出され、包埋センターに設置されたパラフィン槽に移される。パラフィン槽より取り出されたカセットは包埋センター上で、図4の(b)図に示すように、カセット底面を下にして少量のパラフィンを入れてある包埋皿40内に入れる。
【0034】
その後、包埋センター上で図5に示すように包埋皿40内にカセットの上方から包埋皿40の上に包埋枠41をセットする。次いで、溶融タンクからパラフィン等の融解した包埋剤Lpを包埋皿40に流し込む。このとき、包埋皿の深さ一杯に包埋剤Lpを入れることにより固定・包埋・薄切用カセット10Aだけでなく、包埋枠41と包埋皿40の凹部との隙間スペースにも包埋剤Lpが満たされる。包埋枠41の上方からピンセットでカセットを包埋皿に向けて下方に押し付ける。この状態で包埋皿40は包埋センターに隣接する冷却台(図示省略)上に移され、所定時間冷却されて包埋皿40内並びに包埋枠41内の包埋剤Lpが固化される。
【0035】
そして、固化された包埋剤Lpによるブロックから包埋皿40を取り除くと、図6の(a)図に示す固定・包埋・薄切用カセット10Aを含む薄切用ブロックBpが得られる(包埋枠41を下にして示している)。カセット底面がパラフィンブロックのパラフィン表面に密着している状態で包埋されている。Bpは固定・包埋・薄切用カセット10Aを含む上層ブロック、Bpは包埋枠41より成る下層ブロックである。薄切用ブロックBpではパラフィンを透かして患者情報表示部15に記入された患者情報等を見ることが出来る。
【0036】
このようにして得られた薄切用ブロックBpは、図6の(b)図に示すように、ミクロトーム50のブロック保持部51にセットされ、切断刃52によりミクロン単位の極薄状にブロックBpの上端面から複数回切断が行なわれ、極薄の切断片Bp1’が切断の深さに応じて複数枚得られる。得られた生物組織を含む薄切用ブロックBpのミクロトームによる薄切は、従来の方法と同様の良好な薄切結果であった。上記切断片Bp1’を図7に示すスライドガラス60上に置いた後、次の染色操作過程に移る。この切断片Bp1’には生物組織の薄片T1’~T4’、及び固定・包埋・薄切用カセットのカセット素材の薄片13’が含まれている。なお、上記切断片Bp1’を染色すると、一般染色ではカセット素材の薄片13’は染色されず、生物組織のみが染色されて従来の方法と同様の良好な染色結果が得られた。
【0037】
なお、上記第1実施形態では、基部シート11’と蓋シート12’は1枚の長尺シートを2つ折りに折曲して一体に形成したものを示したが、両シートは別体のシートとし、両シートに嵌合着脱部を設けて互いに着脱自在に形成してもよい。又、基部シートの底面の収容構造として溝13を設けるタイプとし、この溝13はシート長さ方向に直交する方向の細い帯状の複数列の溝13を互いに平行に設けた例を示したが、溝形状はこれに限らず、例えばL字形、コ字形等としてもよい。また底面収納構造は溝形以外に後述する平面、凹み或いは仕切り板で分割された形などの種々の構造としてもよい。
【0038】
図9に以上の「操作工程」の比較表を示す。(a)図は上記実施形態のカセットを用いた場合の工程であり、(b)図は従来のカセットを用いた場合の工程である。この表を参照すれば、従来の操作工程では病院で採取された組織検体をカセットに入れて組織検査室に移動させ、この組織検査室において包埋カセットに組織を移し替える作業を2回も行っていたのに対して、上記実施形態のカセットを使用すれば、病院で組織をカセットにいれ(F)た後は、最後に(F)染色作業をするまで組織を移し替える作業が全く必要ないことが理解される。移し替え作業が不要となることについては以下の変形例や第2実施形態でも同様である。
【0039】
図8Aに第1実施形態の変形例(第1~第3変形例)の固定・包埋・薄切用カセット10A’、10A''、10A'''を示す。図8Aの(a)図の第1変形例の固定・包埋・薄切用カセット10A’は、基部シート11’の下方(蓋シート12’と反対側)に突出する所定深さの縁材13cで囲まれた凹み13bの収納部を持ったカセットであり、胃粘膜生検組織、大腸粘膜生検組織、子宮頚部粘膜生検組織などの複数の小型、不整な生検組織の為の生物組織固定・包埋・薄切用カセットである。ただし、凹み13bの縁材13c並びに下底材は溝13の場合と同じく基部シート11’より薄い薄切可能な材料が用いられている。
【0040】
図8Aの(b)図の第2変形例の固定・包埋・薄切用カセット10A''は、基部シート11’の下方に突出する所定深さの縁材13cで囲まれ、内部を仕切り板13b’で仕切られた複数の凹み13bから成る収納部を有するカセットであり、大腸ポリープ切除組織、あるいは経尿道的膀胱癌摘除術等によって得られる複数の中型組織のための生物組織固定・包埋・薄切用カセットである。この例でも、凹み13bの縁材13c、仕切板13b’並びに下底材は溝13の場合と同じく基部シート11’より薄い薄切可能な材料が用いられている。但し、仕切板13b’を設ける形状は、十字状以外にも種々の形状とすることができる。又、凹み13bのスペースを図示の状態より可能な限り広げた場合、縁材13cの頂部厚みが基部シート11’の幅に一致するが、基部シート11’はこの場合を含むこととする。
【0041】
図8Aの(c)図の第3変形例の固定・包埋・薄切用カセット10A'''は、基部シート11’の下方に突出する所定深さの縁材13cにより囲まれ、下面が平面状に広がった凹み13bから成る収納部を有するカセットであり、肝臓手術材料、胃手術材料など大型で平面的な組織のための生物組織固定・包埋・薄切用カセットである。この変形例の場合も、凹み13bの縁材13c並びに下底材は溝13の場合と同じく基部シート11’より薄い薄切可能な材料が用いられている。
【0042】
なお、上記各実施形態の蓋シート12’には第1実施形態で図示されているような密着・保持用のスポンジ素材13aがそれぞれ貼り付けてある。各スポンジ素材13aは、基部シート11’の凹み、仕切り板で仕切られたスペース、平面状の収納スペースにそれぞれ対応した形状として形成されている。又、この例でも凹み13bのスペースを図示の状態より可能な限り広げた場合、縁材13cの頂部厚みが基部シート11’の幅に一致するが、基部シート11’はこの場合を含むこととする。
【0043】
ただし、前述したように、スポンジ素材13aは必ずしも蓋シート12’に貼り付ける必要はなく、収納部としての凹み13b内に収納しておき、使用時に取り出して組織を凹み13bに収納した後、その上から溝13の組織上にセットし蓋シート12’を閉じるようにしてもよい。又基部シート11’の底面、側面並びに端板、さらには蓋シート12’で収納部に対応して付着されたスポンジ素材13aの面以外の部位に、図示省略しているが、固定、脱水、包埋剤浸透、包埋操作中に液がカセット内に浸入出来るように直径0.5mm~1.0mm程度の多数の孔を10孔~40孔/100mmの基準で設ける。第1、第2、第3変形例のいずれに於いても、基部シート11’と蓋シート12’を第1実施形態と同様の方法で互いに接合する型式を取る。
【0044】
胃粘膜生検組織、大腸粘膜生検組織、子宮頚部粘膜生検組織などの複数の小型、不整な生検組織の為の基部シート11’に凹みを持ったカセット、大腸ポリープ切除組織、あるいは経尿道的膀胱癌摘除術等によって得られた複数の中型組織のための底面に仕切り板を有するカセット、肝臓手術材料、胃手術材料など大型で平面的な組織の為の基部シート11’底面が平面となったカセットを用いた、固定から脱水、包埋、薄切に至る一連の作業は、溝を有する第1実施形態の固定・包埋・薄切用カセットを用いる場合と基本的に同様である。
【0045】
なお、上記各実施形態では全て固定・包埋・薄切用カセットは、基部シート11’と蓋シート12’を折曲部14で折曲させる形式のものを示しているが、折曲形式以外の形式として、図8Bに示すように、基部シート11’と蓋シート12’を着脱自在な形式とすることも出来る。この着脱自在形式のものについては、第1変形例の固定・包埋・薄切用カセットに適用した例である生物組織固定・包埋・薄切用カセット10ARについてのみ図示し、他の変形例については図示省略する。
【0046】
しかし、この場合折曲部14による折曲形式ではないため、これに替えて両シートの周辺の適宜位置に互いに密着して嵌合する小さな凹部と凸部による嵌合部15bをいずれか一方のシートと他方のシートに複数箇所それぞれ形成する。そして、基部シート11’に蓋シート12’を被せて生物組織をその間に収容するときは、それぞれの凹部と凸部を嵌合させて両シートを結合状態にする。必要に応じて上記凹凸の嵌合部15bは、両シートの一方を他方から引き離すことにより開放できるものとする。
【0047】
但し、凹凸の嵌合部15bによる形式以外にも着脱自在とする形式、例えば両シートの適宜外周辺をクリップやホッチキスなどの挟持手段で互いに接合する形式のように基部シート11’に蓋シート12’を着脱できれば上記以外の他の種々の形式のものを採用することが出来る。又、折曲形式の場合は、基部シート11’と蓋シート12’は、一般に同一材料、同一厚さで形成される(異なる材料、異なる厚さとしてもよい)が、上記各実施形態の固定・包埋・薄切用カセットでは、最終工程でミクロトームにより薄切する際に、蓋シート12’を薄切する必要がないから、着脱自在形式の場合、蓋シート12’は基部シート11’と異なる材料、異なる厚さ(厚くて硬く、高強度)のシートにより形成してもよい。
【0048】
図10に第2実施形態の固定・包埋・薄切用カセット10Bの分解斜視図を示す。このカセット10Bは、第1実施形態のカセット10Aの基板11の外周に沿って基板11と同じ素材を用いた、支持部17aを有する周縁板(側板)17を備え、かつ基板11と蓋板12が別体(着脱自在)として形成され、かつ蓋板12の形状、端部の細部が少し異なり、密着・保持部材13Aが蓋板12の裏面に接着されず、1つずつ別個に用意される点が第1実施形態の例と異なる。17aは周縁板の支持部、18は蓋板12の掴持部である。掴持部の位置はこの部位に限らず、蓋板12の適当な位置に形成できる。
【0049】
なお、以下では、第1実施形態の詳細な構成についてこの第2実施形態では図示、説明を省略したものでも必要に応じて適用されるものとし、かつ同一素材、同一機能の部材には同一の符号を付して(但し、下記の基板11、蓋板12は基部シート11’、蓋シート12’のダッシュを省略)詳細な説明を省略し、主として第1実施形態と異なる構成、機能について説明する。又、基板11、蓋板12は、第1実施形態のカセット10Aの基部シート11’、蓋シート12’に相当するが、第1実施形態のカセットの各シートの厚さより板材の厚さが厚く、立体的形状が異なるので、上記のように板材として説明する。従って、この発明では、基板、蓋板の用語は基部シート、蓋シートの材料を含む概念である。
【0050】
図10に示すように、上記カセット10Bは、基板11の外周を囲むように周縁板17が形成されており、このカセットの内側に着脱自在に蓋板12が隙間なく嵌合する箱型形状に形成されている。係合用の凸片12aはこの部位に限らず、蓋板12の適当な位置に形成できる。密着・保持部材13Aとしてのスポンジ素材13aは、図示の例では蓋板12と別個に(非接着状)用意され、生物組織を1つずつピンセットで溝部13内に挿入した後、その上から被せる方式を採用している。但し、蓋板12の裏面に、第1実施形態と同様に、スポンジ素材13aを下部の溝部に対応した部位に複数箇所、所定の間隔で取り付けるようにしてもよい。
【0051】
基板11の平面には第1実施形態と同様に溝13が蓋板12の幅より少し短い範囲に設けられており、その詳細構造については説明を省略する。基板11の短辺側隅には、蓋板12の凸片12aに対応する位置に嵌合孔16bが設けられている。この嵌合孔16bはこの部位に限らず、蓋板12の係合用凸片12aに対応する部位に適宜形成することが出来る。また、基板11の周縁板17の一側には、支持部17aが設けられている。この支持部17aは、カセットの強度を保ち、カセット10Bを病院から組織検査室に移動するときなどに持ち易くするために設けられている。支持部17aの大きさを変え、基板11の大きさを変えて形成することも出来る。その傾斜面には患者番号等の情報が表示される。
【0052】
なお、図示の例では、上記基板、溝素材、周縁板、蓋板として合成高分子化合物(プラスチック)の中から選んだポリプロピレンを用いている。但し、基板11と溝13、周縁板17、支持部17aの素材は厚さの異なるポリプロピレンを用いており、両方共硬質ではあるが、基板11,周縁板17、支持部17aの方が硬く、溝13の方が柔らかい。図示のカセット10Bは、縦27mm、横40mm、溝の幅2mm、溝の深さ4mm、素材の厚さは基板11、蓋板12が1.0mm~1.5mm、溝13(コ字断面全体)が0.1mm~0.2mmである。スポンジ素材13aは、基板の溝に対応して幅2mm、高さ2mm、長さ24mmである。
【0053】
又、基板11の溝13の底面、側面並びに端板、さらには蓋板12の適宜位置に、図11に示すように、固定、脱水、包埋剤浸透、包埋操作中に液がカセット内に浸入出来るように直径0.5mm~1.0mm程度の多数の孔16a、或いはこれに類似の小孔(図示の例では孔16aは溝13の底面に設けられ、複数の小孔16は溝13の側壁に沿った長孔、嵌合孔16bは蓋板12の凸片12aに対応する複数の切欠き孔)を設けている。なお、図示の例では、基板、蓋板、周縁版、並びに溝素材のポリプロピレンに代えて上記耐性、耐温度性、薄切り可能性等の条件を満たす材料であれば他の素材、例えばポリウレタン、テフロン(登録商標)、ポリスチレン、ビニロン、ナイロン、ABS樹脂、特殊加工を施した紙類あるいはその他の生物素材等を用いることができる。
【0054】
上記第2実施形態の固定・包埋・薄切用カセット10Bを用いてその溝13内に生物組織Tをピンセットを用いて挿入する状態の模式図を図12に示す。この場合、蓋板12は予め基板11から外され、スポンジ素材13aも別途用意された状態で使用される。図12に示すように、生物組織TやT等を順次溝13内に入れ、スポンジ素材13aをそれぞれの生物組織の上に載せ、蓋板12を被せて閉じた後、組織検査室へ移動される。蓋板12を閉じるときは、蓋板12の凸片12aを基板11の嵌合孔16bに嵌め込み、蓋板12を閉じる。
【0055】
このとき、生物組織を密着・保持して生物組織の移動を阻止し、生物組織を底面に密着させ、生物組織を挫滅させない程の弾力性を有し且つ薄切可能なスポンジ素材13aを密着・保持部材13Aとして予め別途に用意しているから、基板11の複数の溝13の収納部に挿入された生物組織を移動しないように保持して蓋板12が閉じられる。
【0056】
図13に第1実施形態の場合の図5に相当する状態の操作断面図を示す。病院で組織をカセット内に挿入した後は、図9の(b)図の従来例と異なり、カセットから生物組織を取り出すことなく、組織検査室へ運ばれ、そのカセットをそのまま自動包埋装置にセットして脱水、パラフィン浸透を行いカセットより検体生物組織を取り出すことなくパラフィンによる包埋作業が始まる。図13の(a)図に示すように、パラフィンを流し込んだ後、包埋皿40を取り外して出来た(b)図に示すカセットと一体の上層ブロックBp(但し、(a)図と上下逆に示している)を、図6の(b)図のようにミクロトームに取り付け、薄切が始まる。
【0057】
但し、この実施形態ではパラフィンを流し込む際に包埋枠41が使用されず、従って薄切用ブロックBpでは第1実施形態の下層部ロックBpの枠板を含む包埋枠41がない点で第1実施形態と異なる。また、その後染色操作過程に移ることは第1実施形態の場合と同じである。また、上記操作工程は、第1実施形態の場合と同様、図9の(a)図に示すように、病院で生体組織をピンセットで採取してカセットに入れた(矢印F)後、最後に薄切された薄切片を染色作業に移す(矢印F)まではピンセットでカセットから取り出すことはない。
【0058】
図14に第2実施形態のカセット10Bの3つの変形例のカセット10B’、10B”、10B'''の外観斜視図を示す。これらの変形例でも、蓋板12は着脱式であり、特記しない限り第2実施形態と同じ構成については同じ符号を用いて説明を省略する。(a)図の第1変形例のカセット10B’では、周縁板17が基板11の外周を囲むように形成され、基板11の下方(蓋板12と反対側)に突出する所定深さの縁材13cで囲まれた凹み13bの収納部を設けている。また、孔16、16a、嵌合孔16b等の細部については図示を省略しているが、第2実施形態と同様に設けられている。この点は下記の例でも同じである。
【0059】
図14の(b)図の第2変形例のカセット10B”は、複数の中型組織のための生物組織固定・包埋・薄切用カセットである。この例でも、凹み13bの縁材13c、仕切板13b’並びに下底材は溝13の場合と同じく基板11より薄い薄切可能な材料が用いられている。(c)図の第3変形例のカセット10B'''は、下方に突出する所定深さの縁材13cにより囲まれ、下面が平面状に広がった凹み13bから成る収納部を有するカセットであり、縁材13c並びに、下底材は溝13の場合と同じく基板11より薄い薄切可能な材料が用いられており、大型で平面的な組織のための生物組織固定・包埋・薄切用カセットである。
【0060】
図15に上記第1、第2実施形態の生物組織固定・包埋・薄切用カセットに適合する板材(図中ではシート素材)、スポンジ素材の材料別の適合性(耐薬品性、耐熱性、薄切適合性)について試験した結果を表形式で示す。板材の素材については、表から分かるように、ポリプロピレン、ビニール、ナイロン、テフロン(登録商標)のいずれも適合する。また、スポンジ素材については、各種の耐性の点でポリウレタンが最も適合する。
【0061】
図16に第2実施形態の生物組織固定・包埋・薄切用カセットの薄切・染色試験結果を示す。図中には従来の方法と第2実施形態のカセットを用いた方法(以下本例の方法と言う)による生検組織のパラフィン包埋状態、薄切状態、染色状態(顕微鏡写真 HE染色x200)の写真を複写したものである。本例の方法による包埋、薄切、染色の状態は、従来の方法と何ら変わらず正常な処理、操作が出来た。
【産業上の利用可能性】
【0062】
この発明の生物組織固定・包埋・薄切用カセットは、採取された生物組織を載置する基板と蓋板とを備え、収納部内に生物組織を収納し、密着・保持部材により両板材の間に生物組織を密着・保持部材で密着・保持して生物組織の移動を阻止し、多数の小孔から固定剤を流入させて生物組織を固定・包埋・薄切するようにしたものであり、この生物組織固定・包埋・薄切用カセットを用いて生物組織を採取しカセットに入れた後ミクロトームで数ミクロン単位の薄さで薄切することが出来、臨床検査を含む組織形態学的検査領域で有効な検査容器として広く利用することが出来る。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8A】
7
【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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