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明細書 :炭化ケイ素基板の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5131675号 (P5131675)
公開番号 特開2008-053537 (P2008-053537A)
登録日 平成24年11月16日(2012.11.16)
発行日 平成25年1月30日(2013.1.30)
公開日 平成20年3月6日(2008.3.6)
発明の名称または考案の名称 炭化ケイ素基板の製造方法
国際特許分類 H01L  21/302       (2006.01)
FI H01L 21/302 201A
請求項の数または発明の数 15
全頁数 12
出願番号 特願2006-229399 (P2006-229399)
出願日 平成18年8月25日(2006.8.25)
審査請求日 平成21年7月30日(2009.7.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】木下 博之
【氏名】須田 淳
【氏名】木本 恒暢
個別代理人の代理人 【識別番号】110001195、【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
【識別番号】100064746、【弁理士】、【氏名又は名称】深見 久郎
【識別番号】100085132、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 俊雄
【識別番号】100083703、【弁理士】、【氏名又は名称】仲村 義平
【識別番号】100096781、【弁理士】、【氏名又は名称】堀井 豊
【識別番号】100098316、【弁理士】、【氏名又は名称】野田 久登
【識別番号】100109162、【弁理士】、【氏名又は名称】酒井 將行
審査官 【審査官】今井 淳一
参考文献・文献 特開平11-233391(JP,A)
国際公開第2005/093796(WO,A1)
調査した分野 H01L 21/302
特許請求の範囲 【請求項1】
半導体層を形成する主面が、平坦なテラスと段差とからなるステップテラス構造を有する炭化ケイ素基板の製造方法であって、
原料基板の主面の面方位を(0001)面から0.03°~1°傾斜させ、1250℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう水素ガスエッチング工程として、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なうA工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なうB工程と、を備える炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項2】
前記A工程の後であって、前記B工程の前に、プロトン照射、イオン照射、電子線照射またはガンマ線照射を施す請求項に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項3】
半導体層を形成する主面が、平坦なテラスと段差とからなるステップテラス構造を有する炭化ケイ素基板の製造方法であって、
原料基板の主面の面方位を(0001)面から0.03°~1°傾斜させ、1250℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう水素ガスエッチング工程として、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第1の工程と、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なうA工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第2のB工程と、を備える炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項4】
前記A工程の後であって、前記第2のB工程の前に、プロトン照射、イオン照射、電子線照射またはガンマ線照射を施す請求項に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項5】
すべての前記水素ガスエッチング工程の終了後、主面上に半導体層を形成する工程を備える請求項1~のいずれかに記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項6】
主面上に形成する前記半導体層は、炭化ケイ素からなる層、または、酸素原子を含むII-VI族半導体層、または、窒素原子を含むIII-V族半導体層である請求項に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項7】
主面上に形成する前記半導体層は、前記半導体層を形成する直前に行なった前記水素ガスエッチング工程におけるエッチング温度より低温で形成する請求項に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項8】
前記炭化ケイ素基板を構成する炭化ケイ素は、6H-炭化ケイ素である請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項9】
前記主面の面方位が、(0001)面から0.03°~0.4°傾斜する請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項10】
前記水素ガスエッチング工程は、水素ガス分圧が267Pa~100kPaの雰囲気下で行なう請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項11】
前記水素ガスエッチング工程の後、温度900℃~1200℃であって、水素ガス分圧が13kPa以上の雰囲気中に基板を保持する工程を備える請求項10に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項12】
主面の前記ステップテラス構造は、隣接するテラス間の段差が、炭化ケイ素のc軸単位格子長さの整数倍の長さを有する請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項13】
直径が1.5インチ以上であり、表面湾曲が5μm以下である基板を製造する請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項14】
前記原料基板は、プロトン照射、イオン照射、電子線照射またはガンマ線照射が施されている請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
【請求項15】
前記水素ガスエッチング工程後の前記原料基板に、プロトン照射、イオン照射、電子線照射、ガンマ線照射または炭化ケイ素ホモエピタキシャル成長を施す請求項1または3に記載の炭化ケイ素基板の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造に用いる炭化ケイ素(SiC)基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイスおよびトランジスタに応用される窒化物半導体は、主に、サファイア基板またはSiC基板上にヘテロエピタキシャル成長させて製造する。特に、SiC基板は、窒化物半導体と格子整合性が良いため、良質の窒化物半導体結晶を容易に積層することができる。また、SiC基板は、熱伝導性が良いため、高出力デバイスを製造することができるなどの優れた長所を持っている。また、SiC結晶には、結晶構造によっていくつかの種類がある。窒化物半導体用には、主に、シリコンと炭素の対が(0001)方向に4周期で積層された4H-SiCと、6周期で積層された6H-SiCの2種類が使用される。
【0003】
一方、窒化物半導体デバイスにおいては、結晶の質の良さと表面の平坦性がデバイスの性能を大きく左右し、SiC基板上の窒化物結晶の質と表面の平坦性は、特にSiC基板表面の状態に依存している。したがって、良質で平坦な窒化物半導体結晶をSiC基板上に成長させるためには、傷および荒れがないように、鏡面加工をSiC基板に施す必要があるが、SiC基板は非常に硬く、化学的にも安定であるため、研磨加工の効率が悪く、生産性が悪く、高コストになるという問題がある。
【0004】
そこで、SiC基板表面を仕上げるために、水素ガス(水素ガスとそれ以外のガスの混合ガスも含む)を用いて表面をエッチングするという方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は、目視で鏡面に加工した基板に対して水素ガスを用いたエッチングを行なうことにより、エッチング処理面に、加工ひずみのない良質な表面を得ることができると紹介されている。SiC単結晶基板の表面は、結晶の原子配列が破壊されていなければ、原子の配列状態が露出し、図2に示すように、平坦なテラス21と段差22(ステップ)とからなるステップテラス構造(階段状構造)となる。階段の踊り場の部分がテラス21であり、テラスは基板の面方位の結晶面となる。たとえば、(0001)面をエッチングすると、テラスは(0001)面となる。テラスの幅wは、基板の傾斜角度θに依存しており、傾斜角度θが大きくなるとテラスの幅wは短くなり、ステップ数が増加する。

【特許文献1】特開2001-77030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、水素ガスエッチングにより表面仕上げを行なう場合には、弊害としてスパイラルピットの形成という問題がある。すなわち、ガスエッチングでは、SiCウエハー結晶中に含まれる螺旋転位部分で、すり鉢状の凹部欠陥であるスパイラルピットが形成されやすい。図3は、スパイラルピットを真上から見たときの図である。図3に示す例では、SiC基板の螺旋転位から、2本のステップが螺旋状に回転しながら、基板表面に向かって成長し、螺旋旋回数が多くなると、スパイラルピットは深く、大きくなる。ナイトライドを積層する電子デバイスまたは光デバイスにおいて、デバイス動作をする部分(活性領域)に、スパイラルピットが含まれると、デバイス性能が大幅に劣化し、デバイス不良が生じる。
【0006】
現在のSiCウエハー製造技術では、巨大空芯螺旋転位であるマイクロパイプについては、ほぼ0個/cm2とすることが可能であるが、螺旋転位については、104個/cm2程度が含まれている。これは、ほぼ100μmの間隔で螺旋転位があることを意味する。したがって、スパイラルピットが形成されると、たとえば、300μm角のデバイス活性領域では、ほぼ確実に螺旋転位によるスパイラルピットが含まれるため、ほとんどすべてのデバイスが不良品となり、歩留まりが大幅に低下する。これが、ガスエッチング処理されたSiCウエハーのナイトライドへの工業的利用を大きく妨げている要因の一つである。
【0007】
さらに、SiC基板の研磨仕上げは、長時間の加工を要するため、基板の外縁部が過剰に研磨され、基板の形状が悪くなるという問題があり、基板の厚さムラは、半導体デバイスの製造に不具合を生じさせる。本発明の課題は、スパイラルピットが少なく、表面の平坦性に優れるSiC基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ある態様においては、半導体層を形成する主面が、平坦なテラスと段差とからなるステップテラス構造を有する炭化ケイ素基板の製造方法であって、原料基板の主面の面方位を(0001)面から0.03°~1°傾斜させ、1250℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう水素ガスエッチング工程として、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう工程と、を備える。かかる態様においては、工程の後であって、工程の前に、プロトン照射、イオン照射、電子線照射またはガンマ線照射を施すと好適である。また、本発明は、別の態様においては、半導体層を形成する主面が、平坦なテラスと段差とからなるステップテラス構造を有する炭化ケイ素基板の製造方法であって、原料基板の主面の面方位を(0001)面から0.03°~1°傾斜させ、1250℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう水素ガスエッチング工程として、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第1の工程と、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第2のB工程と、を備える。かかる態様においては、工程の後であって、第2のB工程の前に、プロトン照射、イオン照射、電子線照射またはガンマ線照射を施すと好適である。
【0009】
すべての水素ガスエッチング工程の終了後、主面上に半導体層を形成することができ、主面上に形成する半導体層は、炭化ケイ素からなる層、または、酸素原子を含むII-VI族半導体層、または、窒素原子を含むIII-V族半導体層とすることができる。主面上に形成する半導体層は、半導体層を形成する直前に行なった水素ガスエッチング工程におけるエッチング温度より低温で形成するのが望ましい。炭化ケイ素基板を構成する炭化ケイ素としては、6H型が好適である。また、主面の面方位は、(0001)面から0.03°~0.4°傾斜する態様が好ましい。水素ガスエッチングは、水素ガス分圧が267Pa~100kPaの雰囲気下で行なう態様が望ましく、水素ガスエッチング工程の後、温度900℃~1200℃であって、水素ガス分圧が13kPa以上の雰囲気中に基板を保持すると、より好ましい。また、主面のステップテラス構造は、隣接するテラス間の段差が、炭化ケイ素のc軸単位格子長さの整数倍の長さを有する態様が好ましい。かかる方法により、直径が1.5インチ以上で、表面湾曲が5μm以下である基板を製造することができる。原料基板は、プロトン照射、イオン照射、電子線照射またはガンマ線照射が施されているものを好適に使用することができ、水素ガスエッチング工程後の原料基板に、プロトン照射、イオン照射、電子線照射、ガンマ線照射または炭化ケイ素ホモエピタキシャル成長を施す態様も好ましい。
【0010】
本発明の炭化ケイ素基板は、半導体層を形成する主面が、平坦なテラスと段差とからなるステップテラス構造を有し、主面の面方位が(0001)面から0.03°~1°傾斜し、主面において50μm×50μm四方の範囲内で深さ10nm以上のすり鉢状の凹部欠陥の数が1個以下である。主面は、螺旋転移部分においてステップが終端し、ステップが終端するまでの螺旋旋回数が5以下である基板が好ましい。炭化ケイ素は、6H型を好ましく使用することができる。また、主面は、面方位が(0001)面から0.03°~0.4°傾斜する態様が好ましく、主面のステップテラス構造は、隣接するテラス間の段差が、炭化ケイ素の単位格子の整数倍の長さを有する態様が好ましい。50μm×50μm四方の範囲内におけるテラス幅の分布の90%以上が、同範囲内におけるテラス幅の算術平均値の±10%以内であるSiC基板を提供することができる。また、直径が1.5インチ以上であり、表面湾曲が5μm以下である炭化ケイ素基板を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるSiC基板の製造方法によれば、高コストとなる仕上げ研磨を省略することができ、仕上げ研磨による形状崩れのないSiC基板を提供することができる。また、スパイラルピットの少ないSiC基板を提供することができるため、窒化物半導体層を形成する基板表面の平坦性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(炭化ケイ素基板)
本発明の炭化ケイ素基板は、半導体層を形成する主面が、ステップテラス構造を有し、主面の面方位が(0001)面から0.03°~1°傾斜し、主面において50μm×50μm四方の範囲内で、深さ10nm以上のすり鉢状の凹部欠陥であるスパイラルピットが1個以下であり、好ましくは0.5個以下である。したがって、窒化物半導体層などを積層する基板表面の平坦性が高まり、電子デバイスまたは光デバイスにおけるデバイス性能を向上させることができる。凹状欠陥などの基板表面の形状は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により測定することができる。また、欠陥数は、主面から、50μm×50μm四方の範囲を任意に5箇所選択し、それぞれの欠陥数を測定し、その平均値をもって、欠陥数とする。スパイラルピットは、SiC基板の螺旋転位から、ステップが螺旋状に回転しながら、基板表面に向かって成長し、螺旋旋回数が多くなると、スパイラルピットは深く、大きくなり、基板の平坦性が損なわれる。このため、主面は螺旋転移部分において、ステップが終端し、ステップが終端するまでの螺旋旋回数が5以下である態様が好ましく、1以下がより好ましい。螺旋旋回数は、主面から、50μm×50μm四方の範囲を任意に5箇所選択し、それぞれについて、螺旋転位ごとの螺旋旋回数を測定し、その平均値をもって、螺旋旋回数とする。
【0013】
半導体層を形成する主面は、図2に示すように、ステップテラス構造を有する。図2(b)は、図2(a)における部分23の拡大図である。傾斜角θ、ステップ段差hとテラスの長さwとの関係は、
h=w×tanθ
であるから、傾斜角θが、それぞれ0.1°、0.3°、0.5°であるときのテラスの長さwを、AFMにより読み取り、ステップの段差hを計算すると、ほぼ1.5nmである。これは、6H-SiCのc軸単位格子長さに相当していることから、シリコンと炭素の対の層数で言えば、6層に相当する。一方、窒化物半導体の積層周期は、III族と窒素の対で2層であるから、上記の6層は2層の3周期分に相当する。このため、本発明の6H-SiC基板は、窒化物半導体のヘテロエピタキシャル成長との整合性が良好である。また、同様に、主面のステップテラス構造は、隣接するテラス間の段差が、炭化ケイ素の単位格子(6層)の整数倍の長さであると、積層不整合欠陥が生じないため有利である。
【0014】
(炭化ケイ素基板の製造方法)
本発明は、半導体層を形成する主面が、ステップテラス構造を有する炭化ケイ素基板の製造方法であって、原料基板の主面の面方位を(0001)面から0.03°~1°傾斜させ、1250℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なうことを特徴とする。かかる条件で水素エッチングをすることにより、スパイラルピットの成長を抑えながら、基板表面の平坦性を高め、窒化物半導体を積層する上で好適なSiC基板を提供することができる。
【0015】
エッチング温度は、エッチング速度を高める点で、1250℃以上とし、1400℃以上が好ましい。一方、スパイラルピットの発生を抑え、発生したとしても成長を抑制し、平坦な主面を得る点で、エッチング温度は、1700℃以下とし、1500℃以下が好ましい。したがって、一定温度でエッチング加工を行なう場合には、1400℃~1500℃で行なう態様が好ましく、長時間のエッチングによっても、スパイラルピットの発生を効果的に抑制することができる。
【0016】
エッチング温度は、エッチング前の基板表面の傷および荒れの状態により調整する態様が好ましい。たとえば、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう第1の工程の後、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第2の工程を実施すると、高温でのエッチングにより深い傷を除去し、効率的なエッチングを行ない、その後、低温でのエッチングにより、基板表面の平坦性を高めて、仕上げ工程全体としての効率を高め、コスト低減を図ることができる。基板の主面の傾斜角が十分に大きいときは、スパイラルピットが発生する傾向が小さいため、高温エッチングによっても、スパイラルピットの発生を抑えることができる。
【0017】
エッチング前の基板の研磨傷もしくは荒れが大きい場合には、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第1の工程と、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう第2の工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第3の工程を備える方法を実施すると、一旦低温でエッチングすることで研磨傷を浅くした後、高温でエッチング効率を高め、最後に、低温でのエッチングにより基板表面の平坦性を高めることができ、主面の傾斜角を小さく抑えつつ、深い研磨傷または荒れが原因となって偶発的にスパイラルピットが生成する現象を防ぐことができる。このような態様は、仕上げ時間の短縮にも有利である。
【0018】
原料基板の主面の面方位を図1に示す。図1に示すように、主面1の傾斜角は、基板の法線と、結晶の<0001>軸との間の角度θであり、基板の主面1と(0001)面が作る角度である。原料基板の主面の面方位は、スパイラルピットの発生および成長を抑える点で、(0001)面から0.03°以上傾斜させ、傾斜角は0.05°以上が好ましく、0.1°以上がより好ましい。より大きな傾斜角を用いると、偶発的な要因によるスパイラルピットの発生を防止する意味で好ましいが、一方、SiC基板上への窒化物半導体の成長においては、大きな傾斜角は、SiC基板のステップ端でのSiCと窒化物半導体のc軸格子定数不整合の顕在化による結晶性の悪化、または傾斜角による窒化物半導体成長表面の表面荒れ(ステップバンチング)によりデバイスの製造が困難になるなどの問題を生じさせる。この点から、基板の主面の面方位は、(0001)面から1°以下傾斜させ、傾斜角は0.5°以下が好ましく、0.4°以下がより好ましい。
【0019】
主面の面方位の傾斜方向は、図1に示すように、結晶の<0001>軸を基板の主面1に投影した直線2が、基板の<1-100>軸からずれている角度γで表される。結晶の傾斜方向が<1-100>軸から外れるに従って、すなわちγの値が大きくなると、ステップの段差が6層から3層になり、3層は窒化物半導体との整合性は良くないため、γ値が小さい方がよい。基板の製造上の技術的な問題があるためγ値を完全に無くすことはできないが、γ値は±10°以下が好ましく、±5°以下がより好ましく、±2°以下が特に好ましい。
【0020】
水素ガスエッチングは、純粋な水素ガス、または水素ガスと任意のガスの混合ガス雰囲気中で行なうことができる。Siの過剰脱離によるSiC基板表面への炭化層の形成を防止する点で、水素ガス分圧として267Pa以上が好ましく、500Pa以上がより好ましい。一方、過剰な水素分圧によりCが過剰に除去され、SiC基板表面へのSi微粒子の形成を防ぎ、また、適度に水素分圧を下げ、ガスエッチングの速度を抑え、安定なステップ形成を行ない、スパイラルピットの生成を抑制する点で、水素ガスエッチングは、水素ガス分圧として100kPa以下が好ましく、13kPa以下がより好ましい。また、1250℃~1700℃であって、たとえば、水素ガス分圧が13kPa以下で水素ガスエッチングを実施した後、900℃~1200℃であって、水素ガス分圧が13kPa以上の雰囲気中に基板を保持する態様が好ましい。かかる態様により、最初の高温低圧雰囲気においてSiをエッチングし、その後の低温高圧雰囲気においてSiとCの双方を基板中に保持することができる。
【0021】
化学研磨仕上げにより、SiC基板の表面は、算術平均粗さ(Ra)で0.1nm程度に平坦化されるが、SiCは硬度が大きく、化学的に安定であるため、加工時間が長く、コストが高い。また、長時間の研磨により、基板外周縁が中央部より過剰に研磨されるため、基板形状の悪化を招き、たとえば、直径1.5インチ基板の表面湾曲は、化学研磨前に3μmであったものが、研磨後には8μmとなる。本発明の製造方法によれば、化学研磨を行なうことなく、所定の水素エッチングにより、直径1.5インチ以上で、表面湾曲が好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下のSiC基板を製造することができる。表面湾曲は、レーザー光の干渉を用いて光学的に表面の形状を観測する平面計測機を用いて測定する。
【0022】
SiC基板には、製造工程中にイオン打ち込みを行ない、不純物濃度を制御することができる。たとえば、イオン打ち込みを施した原料基板を使用することにより、不純物濃度を制御することができる。1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう第1の工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第2の工程を備える場合、第1の水素ガスエッチング工程の後であって、第2の水素ガスエッチング工程の前に、イオン打ち込みを施す態様は、第1の水素エッチング時の高温によりドーパントが拡散しやすいが、第2の水素エッチング時の低温によりドーパントが拡散しにくい場合には、ドーパントの拡散を防止する点で有用である。また、第2の水素エッチング工程の後、イオン打ち込みを行ない、その後、第2の水素ガスエッチング温度以下の温度で主面上に半導体層を形成すると、水素ガスエッチング時の加熱によるドーパントの拡散を防止できる点で好ましい。さらに、イオン注入により形成された点欠陥の拡散、再結合もしくは複合欠陥の形成を回避できる点でも好ましい。このように、すべての水素ガスエッチング工程の終了後、主面上に半導体層を形成し、主面上に形成する半導体層を、半導体層を形成する直前に行なった水素ガスエッチング工程におけるエッチング温度より低温で形成する態様が好ましい。また、第2の水素ガスエッチング工程の後、イオン打ち込みを行ない、その後、第2の水素ガスエッチング温度以上の温度で主面上に半導体層を形成することができる。
【0023】
また、第1の水素ガスエッチング工程の後であって、第2の水素ガスエッチング工程の前に、イオン打ち込みを実施する態様は、第1の水素エッチング時の高温により拡散しやすいが、第2の水素エッチング時の低温では拡散しにくいドーパントの場合には有用である。この場合、イオン注入工程中に基板表面に不純物またはわずかな傷が付いたような場合でも、第2の水素ガスエッチングにより除去できる点でも好ましい。イオン打ち込みのほかにも、プロトン照射、電子線照射またはガンマ線照射などによりSiCの諸特性を制御する場合も同様の態様を適用できる。すなわち、SiCの諸特性を制御するための処理後に必要となる熱処理温度、若しくは目的とする諸特性制御に悪影響が及ぶ温度と、ガスエッチング温度の大小に応じて、第1、第2の水素ガスエッチングと上述の処理の順序を選択することができる。すべての水素ガスエッチング工程の終了後、主面上には、炭化ケイ素からなる層、または、酸素原子を含むII-VI族半導体層、または、窒素原子を含むIII-V族半導体層などを形成することができる。半導体層の形成には、気相エピタキシー法、分子線エピタキシー法、パルスレーザーアブレーション法、スパッタ法など任意の形成プロセスを用いることができる。
【0024】
水素ガスエッチングを、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第1の工程と、1450℃~1700℃で水素ガスエッチングを行なう第2の工程と、1250℃~1500℃で水素ガスエッチングを行なう第3の工程とする場合には、第2の水素ガスエッチング工程の後であって、第3の水素ガスエッチング工程の前に、イオン打ち込みを施す態様は、第2の水素エッチング時の高温によりドーパントが拡散しやすいが、第3の水素エッチング時の低温によりドーパントが拡散しにくい場合には、ドーパントの拡散を防止する点で有用である。また、水素ガスエッチングを行なった基板に、イオン打ち込み、プロトン照射、電子線照射、ガンマ線照射または炭化ケイ素ホモエピタキシャル成長を施すと、SiC基板全体もしくはSiC基板表面付近の導電性などの諸特性を任意に制御できる点で好ましい。さらに、ホモエピタキシャル成長を施すと、表面付近のSiCの結晶性を飛躍的に高めることができる点で好ましい。
【0025】
従来のSiC基板は結晶が均質でなく、主面の面方位が1枚の基板内で大きくずれていたため、0.5°程度の傾斜角を付けなければ、ステップの方向および形状を均質にすることができなかった。しかし、SiC基板の質の向上により、基板の面方位の傾斜角および傾斜方向を0.2°以下の小さな範囲で制御することができるようになり、また、小さな傾斜角であっても、ステップの方向および形状を1枚の基板内で均質にすることができるようになった。本発明においては、主面のステップテラス構造は、たとえば50μm×50μm四方の範囲内におけるテラス幅の分布の90%以上が、50μm×50μm四方の範囲内におけるテラス幅の算術平均値の±10%以内に調整することができる。
【0026】
実施例1
図5に示すように、(0001)面を目視により鏡面に研磨した6H-SiC製2インチ基板51を、水素エッチング炉のサセプタ52にセットした。SiC基板における主面の面方位は、(0001)面から(1-100)面へ向かって、傾斜角0.03°~0.5°とした。炉内のサセプタ52は、SiCでコートされた高純度黒鉛製であり、断熱材53は繊維質黒鉛製である。炉の外周には、石英製チャンバー55を挟んでコイル54を配置し、コイルには高周波電流を流し、炉内のSiC基板を誘導加熱した。また、サセプタ下側の温度を放射温度計により計測し、誘導電流を調節し、温度を1450℃とした。炉内には、6Nの高純度水素を0.1cm3/分で流し、真空ポンプで排気し、炉内を3kPaの水素雰囲気に置換してエッチングを行なった。エッチング温度で30分以上保持した後、降温した。降温時の圧力は900kPaとした。3kPaのままではSiの液滴が基板表面に残ることが確認されたためである。
【0027】
水素エッチング後、基板の主面をAFMにより観察すると、ステップテラス構造が形成されていた。図6に、0.14°の傾斜角を有する基板を用いた場合の50μm×50μm四方の主面の状態(AFM写真)を例示する。図6に示すように、50μm×50μm四方の範囲内での深さ10nm以上のすり鉢状の凹部欠陥は存在しなかった。また、任意の5箇所の測定による平均は0.17個であった。さらに、主面の螺旋転移部分は、ステップが終端し、ステップが終端するまでの螺旋旋回数の平均は、0.8回であった。
【0028】
実施例2
主面の面方位が、(0001)面から(1-100)面に向かって、0.02°傾斜した原料基板に対して、実施例1と同様にしてSiC基板を製造した。その結果、AFMで観察すると、図3に示すような、すり鉢状の凹部欠陥(スパイラルピット)が観察された。図3に示す凹部の中心部の最も内周にあるステップの最小曲率半径(臨界半径;図3に示す2つの矢印間の距離の1/4が相当する)を測定すると、725nmであった。基板の(0001)面からの傾斜により、基板にもともと存在するステップ幅がスパイラルの最小曲率半径より大きいと、螺旋転位からのステップが基板傾斜によるステップと連結しにくくなり、すり鉢状のエッチングが進行し、スパイラルピットが形成された。一方、ステップ幅が最小曲率半径より小さいと、スパイラルピットは形成されなかった。
【0029】
図2に示すように、傾斜角θ、ステップ段差hとテラスの長さwとの関係は、
h=w×tanθ
であり、6H-SiCの場合、ステップ段差hは1.5nmであり、w=725nmを代入すると、θ=0.12°となり、θ≧0.12°であれば、スパイラルピットは生じなかった。同様にして、1650℃で水素エッチングした場合、最小曲率半径は480nmであったから、ステップ段差h=1.5nm、w=480nmを代入すると、θ=0.18°となり、θ≧0.18°であれば、スパイラルピットは生じなかった。
【0030】
これらの結果に基づき、図4に、最小曲率半径(臨界半径)(黒丸)と基板の傾斜角(白丸)とをプロットした。また、スパイラルピットを抑えるために必要な傾斜角のグラフを示した。図4に示すように、エッチング温度が1250℃であるときは、
1000/T(K)=1000/(1250+273)=0.66であるから、図4より
傾斜角θ≧0.03°であれば、スパイラルピットの発生を抑えることができる。同様にして、エッチング温度が1700℃であるときは、
1000/T(K)=1000/(1700+273)=0.51であるから、図4より
傾斜角θ≧0.3°であれば、スパイラルピットの発生を抑えることができる。実際には、SiC基板の面内における面方位のばらつきによる変動を考慮して、傾斜角θを大きく設定するのが好ましい。
【0031】
また、最小曲率半径は、エッチング炉の仕様とエッチングガス雰囲気、水素分圧に依存する。製造にあたっては、まず傾斜のほとんど無いSiC基板を用いて複数の温度でテストエッチングを行ない、意図的に発生させたスパイラルピットの臨界半径を実測し、それぞれの装置、エッチング条件に対応して、図4に示すような図を作成し、その図に基づいて、基板の傾斜角を決定すればよい。
【0032】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
窒化物半導体層などを積層する基板表面の平坦性が高いため、電子デバイスまたは光デバイスにおけるデバイス性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】原料基板の主面の面方位を示す図である。
【図2】SiC単結晶基板の表面のステップテラス構造を示す概念図である。
【図3】スパイラルピットを真上から見たときの状態を示す図である。
【図4】最小曲率半径(臨界半径)と基板の傾斜角との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例において使用した水素エッチング炉の構造を示す図である。
【図6】0.14°の傾斜角を有する基板を用いた場合の50μm×50μm四方の主面の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 主面、21 テラス、22 段差、51 基板、52 サセプタ、53 断熱材、54 コイル、55 石英製チャンバー、θ 傾斜角。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図3】
4
【図6】
5