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明細書 :リグニン含有ミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5398180号 (P5398180)
公開番号 特開2009-019200 (P2009-019200A)
登録日 平成25年11月1日(2013.11.1)
発行日 平成26年1月29日(2014.1.29)
公開日 平成21年1月29日(2009.1.29)
発明の名称または考案の名称 リグニン含有ミクロフィブリル化植物繊維及びその製造方法
国際特許分類 C08J   5/04        (2006.01)
D21H  11/18        (2006.01)
B27N   3/04        (2006.01)
FI C08J 5/04 CER
C08J 5/04 CEZ
D21H 11/18
B27N 3/04 D
請求項の数または発明の数 11
全頁数 18
出願番号 特願2008-153489 (P2008-153489)
出願日 平成20年6月11日(2008.6.11)
優先権出願番号 2007153897
優先日 平成19年6月11日(2007.6.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月8日(2011.6.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】中坪 文明
【氏名】矢野 浩之
【氏名】阿部 賢太郎
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】長谷川 大輔
参考文献・文献 国際公開第2007/063980(WO,A1)
調査した分野 B27N1/00-9/00
B29B11/16
15/08-15/14
C08J5/04-5/10
5/24
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロース重量に対してリグニンを14.3~70重量%含有したパルプを機械的に解繊することによって得られるミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項2】
機械的な解繊処理が磨砕処理である請求項1に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項3】
セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆した構造である請求項1又は2に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項4】
セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲がヘミセルロース、リグニンの順で被覆された構造である請求項3に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項5】
機械的な解繊に供されるパルプがエステル化処理パルプ、エーテル化処理パルプ、アセタール化処理パルプ及びリグニンの芳香環が処理されたパルプからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性パルプである請求項1~4のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維を成形してなるミクロフィブリル化植物繊維成形体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維を含有する樹脂成形物。
【請求項8】
セルロース重量に対してリグニンを14.3~70重量%含有するパルプを機械的に解繊するミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
【請求項9】
解繊が磨砕処理である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
パルプを水で蒸解した後、解繊処理するものである請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
機械的な解繊に供されるパルプがエステル化処理パルプ、エーテル化処理パルプ、アセタール化処理パルプ及びリグニンの芳香環が処理されたパルプからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性パルプである請求項8~10のいずれかに記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプのミクロフィブリル化技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物構造体は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを主たる構成成分としている。植物構造体の微細構造では、通常、約40本のセルロース分子が、水素結合で結合し、幅数nm(通常4~5nm程度)のセルロースミクロフィブリルを形成している。そして、セルロースミクロフィブリルが数個集まってセルロース微繊維(セルロースミクロフィブル束)を形成している。ヘミセルロースはセルロースミクロフィブリル同士の間隙やセルロースミクロフィブリルの周囲に存在している。そして、リグニンがセルロースミクロフィブリル同士の間隙に充填されている。
【0003】
セルロースミクロフィブリルは高い強度及び低い密度を備え、さらに近年の環境負荷の観点から、植物原料からセルロースミクロフィブリル又はセルロース微繊維を取り出し、利用することが試みられている。例えば、樹脂にアラミド繊維等の合成繊維を配合し物理的特性の向上を図る繊維強化樹脂が知られているが、この繊維として植物原料から取り出したセルロース微繊維(ミクロフィブリル化セルロース)あるいはセルロースミクロフィブリルを利用することが試みられている。また、微小繊維状セルロースを含む木質セメント成形体としての利用も試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、製紙、パルプ産業の分野では、植物原料からリグニン、ヘミセルロース、セルロース等を分離することによって、各成分の有効利用が図られていた。このため、リグニン、ヘミセルロース等の非結晶成分の分離方法も発達しており、例えば、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの混合液で加圧加熱処理するクラフトパルプ法、ソーダパルプ法、亜硫酸パルプ法などをはじめ、次亜塩素酸ナトリウム溶液処理後シュウ酸アンモニウム水溶液で処理する方法(常圧でも可能)などが行われていた。ミクロフィブリル化セルロースを植物原料から製造する場合も、製紙、パルプ産業と同じような考え方が中心であり、リグニン、ヘミセルロースといった非結晶成分を上記の製紙、パルプ産業分野で知られた化学的処理或いはこれを適宜変更した処理により除去していわゆる粗パルプとし、これを機械的に(例えばグラインダー、臼、高圧ホモジナイザー等で)解繊し、ミクロフィブリル化セルロースを製造していた。リグニン、ヘミセルロース等の成分には、互いに結合する作用或いはセルロース繊維等と結合し、接着する作用が知られているため、これらの成分が存在すると、解繊がうまくできないと考えられていたため、リグニンの除去された粗パルプがミクロフィブリル化の原料として利用されていたのである。
【特許文献1】特開2005-059513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、リグニン除去物から製造されたミクロフィブリル化セルロースは微小かつ比表面積が大きく、表面に多くの水酸基を有しているため、濾水性や脱水性が悪く、水系での利用が困難であった。
【0006】
さらに、リグニン除去物から製造されたミクロフィブリル化セルロースは、主としてセルロースに由来する親水性を備えているため、本来疎水性である樹脂とのなじみが悪い。このため、ミクロフィブリル化セルロースをそのまま樹脂に配合して繊維強化樹脂を製造しようとすると、繊維の分散性が悪くなり、得られる樹脂の物理的特性の向上を抑制していた。このため、繊維の濾水性や分散性を向上させるため、繊の親水性を低下させる処理、第3成分の添加等が必要であった。
【0007】
また、リグニンを除去する処理によって、リグニンが副生するが、リグニンは利用用途が低く、様々な利用方法が模索されているものの、実際には製紙、パルプ産業において燃焼原料(黒液)として利用されているのみであり、他の用途では利用されていなかった。このように、リグニンは再利用が困難であることから、リグニンの副生は好ましいものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、リグニン除去が不要なミクロフィブリル化された植物繊維の製造方法とリグニンが除去されていないミクロフィブリル化植物繊維、また、該植物繊維の成形体、該植物繊維を配合した樹脂成形物の提供を目的とする。本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、次のような知見を得た。化学薬品(例えば、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、シュウ酸アンモニウム等)によって植物原料から完全にはリグニンを除去することはせず、リグニンが除去されていない或いはリグニンの一部が除去されたパルプ、例えばセルロース重量に対して2~70重量%程度のリグニンを含有するパルプを、必要に応じて蒸し、機械的に解繊処理することによってリグニン及びヘミセルロースを含有するミクロフィブリル化植物繊維が得られること、該ミクロフィブリル化植物繊維の分解温度がリグニンを実質的に含有しない通常のミクロフィブリル化セルロースと比較して高いこと、該ミクロフィブリル化植物繊維の親水性がリグニンを実質的に含有しない通常のミクロフィブリル化セルロースと比較して低く、これにより、繊維の濾水性や脱水性に優れ、水系での処理が容易になること、樹脂に配合された際に繊維の分散性に優れ繊維強化樹脂の繊維として非常に有用である(物理的強度向上に寄与する)こと。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のミクロフィブリル化植物繊維、その成形体、該植物繊維を含有する樹脂成形物、それらの製造方法を提供するものである。
項1.セルロース重量に対してリグニンを2~70重量%含有したパルプを機械的に解繊することによって得られるミクロフィブリル化植物繊維。
項2.機械的な解繊処理が磨砕処理である項1に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
項3.セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆した構造である項1又は2に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
項4.セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲がヘミセルロース、リグニンの順で被覆された構造である項3に記載のミクロフィブリル化植物繊維。
項5.機械的な解繊に供されるパルプがエステル化処理パルプ、エーテル化処理パルプ、アセタール化処理パルプ及びグニンの芳香環が処理されたパルプからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性パルプである項1~4のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維。
項6項1~5のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維を成形してなるミクロフィブリル化植物繊維成形体。
項7.項1~5のいずれかに記載のミクロフィブリル化植物繊維を含有する樹脂成形物。
項8.セルロース重量に対してリグニンを2~70重量%含有するパルプを機械的に解繊するミクロフィブリル化植物繊維の製造方法。
項9解繊が磨砕処理である項8に記載の製造方法。
項10パルプを水で蒸した後、解繊処理するものである項8又は9に記載の製造方法。
項11.機械的な解繊に供されるパルプがエステル化処理パルプ、エーテル化処理パルプ、アセタール化処理パルプ及びリグニンの芳香環が処理されたパルプからなる群から選択される少なくとも1種の化学変性パルプである項8~10のいずれかに記載の製造方法。
【0010】
本発明では化学的にリグニンを完全には除去しないため、ミクロフィブリル化セルロースの間を埋めているリグニン及びヘミセルロースからなるマトリックス部分が壊れて微小繊維化(ミクロフィブリル化)していると推測される。したがって、本発明の製造方法によって得られるミクロフィブリル化植物繊維は、植物原料が本来有しているセルロース、ヘミセルロース及びプロトリグニン(植物組織中に存在する状態でのリグニン)から構成される構造を保持していると推測される。具体的には、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲の一部又は全部をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆した構造、特に、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される(図1)。ただし、ヘミセルロース及び/又はリグニンが取れてヘミセルロース又はセルロース繊縦が表面に露出する部分も存在するであろうと推測される。
【0011】
本発明において、ミクロフィブリル化植物繊維の繊維径は平均値が4nm~400nmであることが好ましく、4nm~200nmであることがより好ましく、4nm~100nmであることがより一層好ましい。また、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は繊維が複雑に絡み合っている。本発明のミクロフィブリル化植物繊維におけるリグニン含有率とセルロース含有率の関係は、リグニンはセルロース重量に対し、2~70重量%、好ましくは5~60重量%、より好ましくは10~50重量%である。また、本発明のミクロフィブリル化植物繊維におけるリグニンの含有率は、好ましくは1~40重量%、より好ましくは3~35重量%、より一層好ましくは5~35重量%である。なお、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、原料であるパルプ中のリグニンを除去していないため、パルプにおけるリグニン含有率とミクロフィブリル化植物繊維におけるリグニン含有率とはほぼ同じとなる。これと同様に、パルプにおけるセルロース含有率とリグニン含有率の関係とミクロフィブリル化植物繊維におけるセルロース含有率とリグニン含有率の関係もほぼ同じである。
【0012】
なお、特開2001-342353号公報には、木粉を脱脂処理(エタノー:ベンゼン=1:2溶液)した脱脂木粉に、フェノール誘導体のアセトン溶液を加えてフェノール誘導体を収着させ、リン酸処理して得られる組成物が記載されているが、この組成物は、ミクロフィブリル化されていない点、プロトリグニンが存在しない点で、本発明のミクロフィブリル化植物繊維とは相違する。
【0013】
本発明において使用されるパルプは、従来のミクロフィブリル化セルロースの製造に使用されていたパルプとは異なり、リグニンが完全に除去されていないことが必要である。パルプ中のリグニン含有率は、1~40重量%、好ましくは3~35重量%、より好ましくは5~35重量%である。また、パルプにおけるリグニン含有率とセルロース含有率の関係は、リグニンはセルロース重量に対し、2~70重量%、好ましくは5~65重量%、より好ましくは10~60重量%である。
【0014】
本発明に使用されるパルプを供給するための植物原料としては、従来のミクロフィブリル化セルロースの製造に使用されていたパルプを供給するための植物原料を広く使用でき、例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、再生パルプ、古紙が挙げられる。好ましくは、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物である。
【0015】
植物原料をパルプ化する方法は植物原料中のリグニンが完全には除去されず、パルプ中のセルロース含有重量に対しリグニン含有重量が2~70重量%程度となるパルプ化の方法であれば制限なく適用できる。例えば、植物原料を機械的にパルプ化するメカニカルパルプ化法等が適用できる。メカニカルパルプ化法により得られるメカニカルパルプ(MP)としては砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等を挙げることができる。
【0016】
また、植物原料を塩素処理、アルカリ処理、酸素酸化処理、次亜塩素酸ナトリウム処理、亜硫酸塩処理等により化学的に或いは化学的及び機械的にパルプ化することにより得られるケミカルパルプ(CP,(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP)など)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)であっても、リグニンが完全に除去されず所定量含まれていれば、本発明におけるパルプとして利用可能である。また、パルプは、必要に応じてパルプ分野で慣用されている化学変性処理されていても良く、例えば、エステル化処理、エーテル化処理、アセタール化処理、リグニンの芳香環が処理されたパルプなどを施されたパルプが例示される。エステル化処理、エーテル化処理、アセタール化処理は、主として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンに存在する水酸基をエステル化、エーテル化、アセタール化処理することを包含する。また、リグニンの芳香環の処理は、リグニンの芳香環に所望の置換基を導入することを包含する。
【0017】
本発明においては、リグニン含有パルプは、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解することによって解繊又は微細化され、ミクロフィブリル化植物繊維とされる。解繊処理における好ましい温度は0~99℃、より好ましくは0~90℃である。解繊処理の原料となるパルプは、このような解繊処理に適した形状(例えば粉末状等)であることが望ましい。また、解繊処理に先立って、パルプを蒸気で蒸す(例えば、圧力釜中、水分存在下で加熱する)と解繊エネルギーの低減の点で有利である。
【0018】
好ましい、解繊方法は磨砕処理(グラインダー処理)である。グラインダーとしては、石臼式磨砕機が好ましい。磨砕は繊維径が所望の大きさになるまで行えばよい。
【0019】
本発明のミクロフィブリル化植物繊維は成形性にも優れている。一方、従来のミクロフィブリル化セルロースは、乾燥により容易に固し、セルロース間が強固な水素結合で結合するため乾燥後の成形が困難であった。これに対し、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、熱可塑性を有するリグニンを含有するため、乾燥固化後も、加熱により熱可塑化させ成形体とすることができる。例えば、ミクロフィブリル化植物繊維を脱水し、適度に乾燥させた後、金型内で形状を整えながら、ミクロフィブリル化植物繊維成形物を製造することができる。
【0020】
また、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、従来のミクロフィブリル化セルロースと同じく樹脂に配合して繊維複合樹脂とすることができる。ミクロフィブリル化植物繊維の配合された樹脂におけるミクロフィブリル化植物繊維の含有率は通常、1~99重量%、好ましくは3~90重量%である。
【0021】
樹脂の材質は特に限定されないが、例えばポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、フッ素樹脂、アミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート、繊維素プラスチック、ポリグリコール酸、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキバリレートポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂、フェノール脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂などを使用でき、一種単独又は二種以上組み合わせて使用できるがこれらに限定されない。好ましくは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂である。
【0022】
生分解性樹脂の例としては、L-乳酸、D-乳酸、DL-乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、コハク酸、ε-カプロラクトン、N-メチルピロリドン、炭酸トリメチレン、パラジオキサノン、1,5-ジオキセパン-2-オン、水酸化酪酸、水酸化吉草酸などのホモポリマー、コポリマー又はこれらポリマーの混合物が挙げられ、一種単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンであり、より好ましいのはポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートである。
【0023】
ミクロフィブリル化植物繊維を樹脂に配合する方法は特に限定されず、通常のミクロフィブリル化セルロースを樹脂に配合する方法を採用できる。例えば、ミクロフィブリル化植物繊維より構成されるシートあるいは成形体を樹脂モノマー液に十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、あるいは、ポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に含浸させて乾燥する方法のほか、ミクロフィブリル化植物繊維を樹脂モノマー液中に十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、あるいは、ポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に分散させて乾燥する方法のほか、ミクロフィブリル化植物繊維を熱溶融した樹脂液中に混練分散させてプレス成形、押し出し成形、あるいは射出成形する方法等が挙げられる。しかし、本発明のミクロフィブリル化植物繊維は、従来のミクロフィブリル化セルロースが親水性であるのと比較して、リグニンの存在により疎水化されているため、疎水性である樹脂とのなじみが格段に良く、その結果、樹脂中における繊維の分散性に優れる。このため、樹脂への配合が容易であり、また、得られる繊維強化樹脂の機械的強度も向上する。
【0024】
ミクロフィブリル化植物繊維の樹脂への配合にあたっては、界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物、着色剤、可塑剤、香料、顔料、流動調整剤、レベリング剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤の添加剤を配合してもよい。
【0025】
好ましいミクロフィブリル化植物繊維と樹脂の組み合わせとしては、ケミサーモメカニカルパルプからグラインダー処理して得られるミクロフィブリル化植物繊維であり、セルロース重量に対するリグニン重量%が30~65重量%(特に40~65重量%)のものと、ポリブチレンサクシネート、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との組み合わせが挙げられる。該熱可塑性樹脂におけるミクロフィブリル化植物繊維の含有率は通常、2~70重量%(特に20~60重量%)が好適である。
【0026】
他の好ましいミクロフィブリル化植物繊維と樹脂の組み合わせとしては、サルファイトパルプ又はクラフトパルプから二軸解繊処理して得られるミクロフィブリル化植物繊維であり、セルロース重量に対するリグニン重量%が2~50重量%(特に4~30重量%)のものと、ポリ乳酸等の生分解性樹脂又はポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との組み合わせが挙げられる。該生分解性樹脂又は熱可塑性樹脂におけるミクロフィブリル化植物繊維の含有率は通常、2~70重量%(特に20~60重量%)が好適である。
【0027】
以上のようにして繊維強化された樹脂成形物を製造することができる。本発明の樹脂成形物は、従来のミクロフィブリル化セルロースの配合された樹脂成形物と比較して機械的強度、特にじん性に優れた樹脂成形物である。また、繊維として、本発明のミクロフィブリル化植物繊維を使用すると、ミクロフィブリル化セルロースを使用した場合と比較して、リグニンを多く合有するため耐熱性に優れ、より高い温度で樹脂成形が可能である。本発明の樹脂成形物は他の成形可能な樹脂と同様に成形可能であり、例えば押出成形、射出成形により成形することができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、リグニン及びヘミセルロースを比較的多く含有するミクロフィブリル化植物繊維が得られる。また、該ミクロフィブリル化植物繊維の分解温度は通常のミクロフィブリル化セルロースと比較して高い。該ミクロフィブリル化植物繊維の規水性が通常のミクロフィブリル化セルロースと比較して低く、これにより、濾水性や脱水性に優れ、水分散状態からのシート化が容易になるなど、水系での用途が格段に増え、さらには、樹脂との相溶性に優れ繊維強化樹脂の繊維として配合が容易であり、物理的強度向上に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下において、ミクロフィブリル化植物繊維をMFPF、ミクロフィブリル化セルロースをMFC、ケミサーモメカニカルパイプをCTMPと称することがある。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
(1)ケミサーモメカニカルパルプからのミクロフィブリル化植物繊維の製造
ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP;日本製紙(株)製の針葉樹のケミサーモメカニカルパルプQ250B60、同B70、同B80の3種)を等量水に懸濁して十分に撹拌し、1重量%スラリーとし、これをグラインダー(石臼式磨砕機)により磨砕することでミクロフィブリル化植物繊維(MFPF)を得た。磨砕処理は1回のみ行った。このようにして得られたミクロフィブリル化セルロースを一旦凍結乾燥させた。MFPFのリグニン含量及びリグニン含量から求められるバニリン量を求めた。また、別途精含量も測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
JP0005398180B2_000002t.gif

【0032】
表1に示されているように、本発明のミクロフィブリル化植物繊維では、リグニン含量、バニリン量ともに、針葉樹の一般的範囲にあり、植物原料のリグニンやセルロース、ヘミセルロースがほとんど変性あるいは除去されていないことが示唆された。なお、本例における製造条件、測定定条件等は次のとおりである。
[グラインダー]
セレンディピターMKCA6-3((株)増幸産業製)
砥石:MKG— C80♯(直径15cm)
回転速度:1500rpm
温度:室温(25℃)
[リグニン定量法]
Klasonリグニン含有率の測定
木材構成多糖類は酸加水分解により水可溶とし、リグニンは酸触媒縮重反応により水不溶物として分離し定量した。
【0033】
パルプサンプル約1gを乾燥させ、その重量(S)を秤量した。このサンプルを100ml容のビーカーに入れ、72%硫酸15mlを加え内容物が均一になるようにガラス棒で十分にかき混ぜた。恒温室(20℃)にて、適宜かき混ぜながら2時間放置した。その後、内容物に蒸留水560mlを添加しつつlL容のビーカーに移した。液量を一定に保つために、蒸留水を適宜加えながら2時間沸騰させた。放冷後、予め秤量しておいたlG3のガラスフィルターで濾過し、熟蒸留水500mとで洗浄した。110℃の送風乾燥機にて24時間乾燥し、得られた水不溶沈殿物の重量(W)を算出した。リグニン含有率(L)を、以下の式に従い算出した。
【0034】
リグニン含有率L(%)=W/S×100
[セルロース定量法]
パルプサンプル約1gを乾燥させ、その重量(S)を秤量した。亜硫酸Na30mlを加え、10分煮沸し、その後ろ過する。晒し工程として有効塩素10%の次亜塩素酸カルシウムと20%の濃硫酸を各30ml加え10分間放置する。これら煮沸、洗浄、漂白を繰り返し最後に温水、エーテルで洗浄後、110℃の送風乾燥機にて24時間乾燥し、得られた水不溶沈殿物の重量(W)を算出した。セルロース含有率(C)を以下の式に従い算出した。
【0035】
セルロース含有率C(%)=W/S×100
セルロース重量に対するリグニン重量%=リグニン含有率L/セルロース含有率C×100
[バニリン定量法]
リグニンをアルカリ性ニトロベンゼン酸化により酸化分解し生成するバニリンをガスクロマトグラフィにより定量分析した。
【0036】
試料(凍結乾燥ミクロフィブリル化植物繊維)100mgに2N-NaOH溶液(4ml)とニトロベンゼン(0.24ml)を加えオートクレーブ中170℃で2時間加熱する。反応液からバニリンを抽出し、アセチル化した後、ガスクロマトグラフ(Shimadzu GC-18A型)により定量分析した。
[構成糖の定量分析]
アルジトールアセテート法を適用した。すなわち、試料を酸加水分解し(遊離した単糖類を還元した後、生成したアルジトールをアセチル化してガスクロマトグラフィにより定量分析した。
【0037】
試料(凍結乾燥ミクロフィブリル化植物繊維)80mgに72%硫酸(0.3ml)を加え、30℃で1時間放置する。その後、水(8.4ml)を加え、オートクレーブ中120℃で1時間加熱する。その反応液を飽和Ba(OH)を用いてpH5.5-5.3に調整し、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を加えて水溶液中の単糖類を還元しアルジトールとした。生成アルジトールに無水酢酸2mlと硫酸0.lmlを加えアセチル化した後にガスクロマトグラフ(Shimadzu GC-18A型)により定量分析した。
(2)シート状MFPFの製造(熱プレスシート)
上記で得られるミクロフィブリル化植物繊維(MFPF)をテフロン(登録商標)シャーレに流し入れ(キャストし)、105℃の乾燥機内で乾燥することでシート状MFPFを得た。
【0038】
このようにして得られたシート状のMFPFを電子顕微鏡で観察した(図2上段左2000倍,図2上段右20000倍)。
【0039】
さらに、上記で得られるミクロフィブリル化植物繊維(MFPF)を凍結乾燥し、得られた固形物を分析粉砕器(R-8,日本理化学器械(株))にて粉砕し、パウダー状とした。得られたパウダー(約2g)をφ=50mmの丸形金型に入れ、19MPaで15分間プレスし、厚さ約lmmのシートを得た。作製したシートを、各々110℃で2時間乾燥後、200℃、130MPa、5分の条件でホットプレスした。プレス後は、冷却、取り出し等は行わなかった。
(3)MFPF配合ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂の製造
グラインダーで処理したMFPFスラリーをPBS微粉末(平均粒子径13,lμm)と繊維分10重量%としてラボプラストミル混練(混擁温度:130℃、混練時間:5分)し、得られた混練物をホットプレス(神藤金属工業所社製NF-50型、20MPa、130℃)によりシート状(厚さ約35μm)に成形し、シート状のMFPF配合PBS樹脂を得た。
<実施例2>
脱リグニン処理(亜塩素酸処理(弱))されたリグニン高含有パルプからのMFPFの製造
30gのCTMPを蒸留水570mlに分散させ、50℃に加温した。次に亜塩素酸ナトリウム6gを添加し、ガラス棒でよくかき混ぜた。さらに酢酸をlml程度添加し、pH試験紙にてpHが4~5になるように調整した。途中、かき混ぜながら1時間保持した。反応終了後、濾過にて反応液を取り除き、さらに蒸留水lLに分散させ濾過した。この操作を計4回行った。得られた亜塩素酸処理パルプを蒸留水3Lに分散させ、実施例1と同様のグラインダーにて処理し、ミクロフィブリル化し、MFPFを製造した。これら以外は実施例1と同様の方法で、熱プレスシート、PBS樹脂との複合物を作成した。
<実施例3>
アルカリ処理されたリグニン高含有パルプからのMFPFの製造
20gのCTMPを5%水酸化ナトリウム水溶液2Lに分散させ、室温にて6時間撹拌した。反応終了後、300rpmで3分間遠心分離し反応液を取り除いた。得られた沈殿物を5%酢酸水溶液lLに分散させ、300rpmで3分間遠心分離し中和した。さらに得られた沈殿物を2Lの蒸留水に分散させ濾過した。この操作を、ろ液が中性になるまで繰り返した。
【0040】
得られたアルカリ処理パルプを蒸留水2Lに分散させ、実施例1と同様のグラインダーにて処理し、ミクロフィブリル化し、MFPFを製造した。これら以外は実施例1と同様の方法で、熱プレスシートを作成した。
<実施例4>
アセチル化処理されたリグニン高含有パルプからのMFPFの製造
10gのCTMPを蒸留水lLに分散させ、濾過にて脱水した。濾過残さを酢酸800mlに分散させ、無水酢酸82mと、60%過塩素酸4.6mとを添し、室温にて1時間撹拌した。蒸留水約100mlを添加し反応を終了させ、濾過により反応液を取り除いた。さらに蒸留水2Lに分散させ濾過し、ろ液が中性になるまでこの操作を繰り返し、アセチル化処理パルプを得た。別途10gのCTMPを使用し、同様にしてアセチル化処理パルプを得、先に得たアセチル化処理パルプと合わせ、合計で約20gのアセチル化処理パルプを得た。
【0041】
得られたパルプを蒸留水2Lに分散させ、グラインダーにて処理し、ミクロフィブリル化し、MFPFを製造した。これら以外は実施例1と同様の方法で、熱プレスシート、PBS樹脂との複合物を作成した。
<実施例5>
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)とポリ乳酸の複合化樹脂の製造
日本製紙製のリグニン含有サルファイトパルプ(固形分25.1%、リグニン量:セルロースに対して5.2%)79.7g(パルプ含有量20g)を固形分濃度3%となるように水溶液に分散した後、当該水溶液にポリ乳酸(三井化学製、商品名レイシアH100)80gを添加して2時間攪拌した。
【0042】
得られたパルプ/ポリ乳酸懸濁液を直径18.5cmのろ紙を用い吸引濾過し風乾した。得られたパルプ/ポリ乳酸混合シートをろ紙から剥がしとり、テクノベル製二軸押出機、(スクリュー直径:15mm)に入れてパルプの解繊とパルプとポリ乳酸の混合を同時に行った。回転数400/分で、解繊時間は60分である。
【0043】
得られたミクロフィブリル化セルロースとポリ乳酸の混合物をラボプラストミル(東洋精機製;MODEL 30C 150)にて溶融混練した。混練条件は180℃、回転数40RPMにて15分間混練を行った。得られた混合物をプレスにて成型機((株)神藤金属工業所)にてプレス成形をした。成形条件は180℃0.5MPaにて5min,その後2MPaにて10分である。これによりプレス成形物を得た。
<実施例6>
王子製紙製のNUKP(固形分22.3%、リグニン量:セルロースに対して14.3%)224.2g(パルプ含有量50g)を固形分濃度3%となるように水溶液に分散した後、当該水溶液にポリプロピレン(日本ポリプロ製、商品名MA4AHB)44.4g,マレイン酸変性ポリプロピレン(東洋化成工業製、商品名 H1000)を添加して2時間攪拌した。得られたパルプ/ポリプロピレン/マレイン酸変性ポリプロピレン混合液を直径18.5cmのろ紙を用い吸引濾過し風乾した。得られたパルプ/ポリプロピレン/マレイン酸変性ポリプロピレン混合シートをろ紙から剥がしとり、テクノベル製二軸押出機、(スクリュー直径:15mm)に入れてパルプの解繊とパルプとポリプロピレン/マレイン酸変性ポリプロピレンの混合を同時に行った。回転数400/分で、解繊時間は60分である。
【0044】
得られたミクロフィブリル化セルロースとポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレンの混合物をラボプラストミル(東洋精機製;MODEL 30C 150)にて溶融混練した。混練条件は180℃、回転数40RPMにて15分間混練を行った。得られた混合物をプレスにて成型機((株)神藤金属工業所)にてプレス成形した。成形条件は180℃0.5MPaにて5min,その後2MPaにて10分である。これによりプレス成形物を得た。
<比較例1>
リグニン除去(亜塩素酸処理(強))されたリグニン除去未解繊パルプ
実施例1に使用したケミサーモメカニカルパルプ(CTMP;日本製紙(株)製の針葉樹のケミサーモメカニカルパルプQ250B60、同B70、同B80の3種)を等量水に懸濁して十分に撹拌し、1重量%スラリーとした。ただし、実施例1とは異なり、グラインダー(石臼式磨砕機)による磨砕処理は行わずにテフロン(登録商標)シャーレに流し入れ(キャストし)、105℃の乾燥機内で乾燥することでシート状とし、後述する「リグニン除去処理」してリグニンを除去し、セルロースシートを得た。
【0045】
リグニン除去は次のようにして行った。前述の乾燥したキャストシート5gを、本留水300ml、亜塩素酸ナトリウム2g、氷酢酸0,4mlの溶液中に入れ、時折撹拌しながら70-80℃の湯浴中で1時間加熱した。1時間後、再度亜塩素酸ナトリウム2g、氷酢酸0.4mlを加えて同様に加熱した。
【0046】
この反復処理を4回行った後、冷水3L及びアセトン300mlで洗浄し、リグニン除去未解繊パルプシートが得られる。このほかは、実施例1と同様の方法で、熱プレスシートを作成した。
<比較例2>
脱リグニン処理(亜塩素酸処理(強))されたパルプからのMFCの製造
実施例1で得られたCTMP50gを蒸留水570mlに分散させ、80℃に加温した。次に亜塩素酸ナトリウム10gを添加し、ガラス棒でよくかき混ぜた。さらに酢酸2ml程度添加し、pH試験紙にてpHが4~5になるように調整した。途中、かき混ぜながら1時間保持した。引き続き同量の亜塩素酸ナトリウムと酢酸を添加し、同様の操作を行った。この操作を計5回行った。反応終了後、濾過にて反応液を取り除き、さらに蒸留水2Lに分散させ濾過した。この操作を4回行った。
【0047】
得られた亜塩素酸処理パルプを蒸留水2Lに分散させ、実施例1と同様のグラインダーにて処理し、ミクロフィブリル化し、MFCを製造した。このMFCをテフロン(登録商標)シャーレに流し入れ(キャストし)、105℃の乾燥機内で乾燥することシート状のミクロフィブリル化セルロース(MFC)を得た。このシート状MFC(比較例2)を電子顕微鏡で観察した(図2下段左5000倍,図2下段右30000倍)。図2上段と下段の比較より、上段に示されたシートではセルロースファイバーの間がリグニンで充填されていたことが確認された。これら以外は実施例1と同様の方法で、熱プレスシート、PBS樹脂との複合物を作成した。
<比較例3>
脱リグニン処理(亜塩素酸処理(強))されたパルプによるミクロフィブリル化セルロース(MFC)とポリ乳酸の複合化樹脂の製造
比較例2と同様にCTMP50gを蒸留水570mlに分散させ、80℃に加温し、次に亜塩素酸ナトリウム10gを添加、ガラス棒でよくかき混ぜ、さらに酢酸2ml程度添加し、pH試験紙にてpHが4~5になるように調整した。途中、かき混ぜながら1時間保持した。引き続き同量の亜塩素酸ナトリウムと酢酸を添加し、同様の操作を行った。この操作を計5回行った。反応終了後、濾過にて反応液を取り除き、さらに蒸留水2Lに分散させ濾過した。この操作を4回行った。
【0048】
得られた亜塩素酸処理パルプを蒸留水2Lに分散させ、実施例1と同様のグラインダーにて処理し、ミクロフィブリル化し、MFCを製造した。このMFCを固形分濃度3%となるように水溶液に分散した後、当該水溶液にポリ乳酸(三井化学製、商品名レイシアH100)80gを添加して2時間攪拌した。得られたパルプ/ポリ乳酸懸濁液を直径18.5cmのろ紙を用い吸引濾過し風乾した。得られたパルプ/ポリ乳酸混合シートをろ紙から剥がしとり、テクノベル製二軸押出機、(スクリュー直径:15mm)に入れてパルプの解繊とパルプとポリ乳酸の混合を同時に行った。回転数400/分で、解繊時間は60分である。
【0049】
得られたミクロフィブリル化セルロースとポリ乳酸の混合物をラボプラストミル(東洋精機製;MODEL30C150)にて溶融混練した。混練条件は180℃、回転数40RPMにて15分間混練を行った。得られた混合物をプレスにて成型機((株)神藤金属工業所)にてプレス成形をした。成形条件は180℃0.5MPaにて5min,その後2MPaにて10分である。これによりプレス成形物を得た。
<比較例4>
NBKPミクロフィブリル化セルロース(MFC)とポリプロピレンの複合化樹脂の製造
王子製紙製のNBKP(固形分23.6%、リグニン量:セルロースに対して0%)211.9g(パルプ含有量50g)を固形分濃度3%となるように水溶液に分散した以外は実施例6と同様にプレス成形物を作製した。
<比較例5>
日本製紙製のリグニン未含有クラフトパルプ(固形分30.0%、リグニン量:セルロースに対して0%)を固形分濃度3%となるように水溶液に分散した後、株式会社エスエムテーの高圧式ホモジナイザーLAB1000を用い、500kg/ m2 の圧力でホモジナイザー処理(15パス循環)し、MFPFを製造した。これら以外は実施例1と同様の方法で、熱プレスシートを作成した。
<試験例>
実施例及び比較例で得られたセルロース、熱プレスシート、PBS樹脂との複合体、PLA又はPPとの複合体を用いて以下の分析を行った。試験結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
JP0005398180B2_000003t.gif

【0051】
なお、本例における試験方法は次の通りである。
[熱分解温度測定]
サンプル約3mgを用いて以下の条件で測定した。測定装置としてTGA2050(TA Instruments)を使用し、110℃、10分保持後、10℃/分で500℃まで昇温した。
[酢化度](実施例4のMFPFのみ適用)
実施例4のサンプル約0.2gを110℃の送風乾燥機にて24時間乾燥し、乾燥後の重量(S)を秤量した。メタノール15m1/留水5mlを加え、70℃で30分間撹拌した。0.5N-NaOHを10ml添加し、さらに70℃で15分間撹拌し、引き続き室温で24時間撹拌した。その後、0.2N HClで滴定し、要した0.2N-HClの量(A(ml))を求めた。さらに、非処理パルプ(乾燥後の重量:S')を用いて上記と同様の操作を行い、滴定に要した0.2N—HClの量(A'(ml))を求めた。酢化度を以下の式を用いて求めた。なお、各サンプルは5個ずつ用意し、その平均値を酢化度とした。
【0052】
サンプルによって消費されたNaOHの量(mol)=(0.5×100×1/1000-0.2×A×1/1000)/S=X
非処理パルプが消費したNaOHの量(mol1/g)=(0.5×100×1/1000-0.2×A'×1/1000)/S'=Y
サンプルのアセチル基によって消費されたNaOHの量(mol)=(X-Y)×S=Z
酢化度(%)=Z×60/S×100
[密度]
サンプルを35mm×5mmの大きさにカットした。それを各サンプルにつき5本ずつ用意し、50℃、真空条件下で24時間乾燥した。乾燥後の重量から各サンプルの密度を算出した。
[平衡含水率]
サンプルを35mm×5mmの大きさにカットし、それを各サンプルにつき5本ずつ用意し、50℃、真空条件下で24時間乾燥した。乾燥後、各サンプルの重量を測定し、20℃、47%RHの雰囲気中で2日間静置し調湿した。調湿後の重量を測定し、平衡含水率を算出した。
[耐温水性]
サンプルを10mm×5mmの大きさにカットし、それを各サンプル5本ずつ用意し、50℃、真空条件下で24時間乾燥した。乾燥後、重量および厚さを測定し、50℃の温水中に5分間浸せきした。所定時間経過後、取り出し、表面についた水分を軽く拭き取った後、重量および厚さを測定し、それらの増加率を算出した。
[シート状成形物の曲げヤング率及び曲げ強度測定]
JIS K 7203(プラスチックの曲げ試験方法)に準じて、実施例1、2、4、5、6で得られたシート状MFPF及び比較例2、3、4で得られたシートの曲げ特性を3点曲げにより測定した。
【0053】
なお、曲げヤング率及び曲げ強度測定に使用した測定機はインストロン3365型(インストロンコーポレーション製)であり、試料は厚さ1mm、幅4mm、長さ8cmである。結果を表2に示す。
【0054】
表2、図3の結果より、次のことが分かる。
【0055】
実施例1~4のMFPFは、比較例2のリグニンをほとんど含有しないパルプのMFCと比較して、熱分解温度が13℃以上高く、熱安定性において顕著に優れることが確認された。特にアセチル化されたリグニン高含有パルプのMFPF(実施例4)は、実施例1~3のMFPFと比較しても熱分解温度が37℃以上高く、特に熱安定性が高かった。
【0056】
実施例と比較例とを対比する。例えば、実施例1、2、4は、比較例2よりも、より大きい曲げヤング率及び曲げ強度を示した。また、実施例5は比較例3に対し、実施例6は比較例4に対し、より大きい曲げ強度を示した。
【0057】
また、MFPF配合PBS樹脂は、リグニンを除去したMFC配合PBS樹脂より、樹脂(ポリブチレンサクシネート)との馴染みが良く、50%近い破壊ひずみの増大を示した。
【0058】
この結果より、繊維間が良好に結合し、成形体の剛性が高くなっていることがわかる。これは、リグニンの熱可塑による繊維間の密着性向上によるものである。
【0059】
実施例2の密度のみ比較例より低く、他の実施例の密度は比較例とほぼ同等を示した。
【0060】
実施例は比較例より明らかに耐温水性が高かった。したがって、実施例はリグニン含有の効果により繊維の疎水性が比較例より強く、比較例より耐水性、耐湿性に優れた成形体が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】上図は植物細胞壁構造を表す模式図、下図は植物繊維の基本構造を表す模式図である。上図においては植物細胞壁がセルロースミクロフィブリルの配向が異なる複数の層が積層して出来ていることを示しており、図中の線はミクロフィブリルの配向方向を示すものである。下図は、その一部を拡大したもので、 Mfaはセルロースミクロフィブリル非晶領域を示し、Mfcはセルロースミクロフィブリル結晶領域を示し、HCはヘミセルロースを示し、cross sectionはセルロースミクロフィブリルおよびその周辺の断面図を示し、longitudinal sectionはセルロースミクロフィブリルに沿った縦断面図を示す。繊維強化プラスチック(FRP)に擬えるのであれば、補強繊維であるミクロフィブリルの周囲が、マトリックス成分であるヘミセルロース、リグニンの順に覆われていることを模式的に示している。
【図2】上段はシート状のMFPF(実施例2)の電子顕微鏡写真である(図2上段左2000倍,図2上段右20000倍)。また、下段は、脱リグニン処理されたシート状のMFCの電子顕微鏡である(図2下段左5000倍,図2下段右30000倍)。
【図3】試験例における実施例1と比較例2で得られた成形物の引張試験の結果を表すグラフであり、実線(—)はMFPF配合PBS樹脂成形物(実施例1)、破線(…)はMFPFを脱リグニン処理した繊維を配合したPBS樹脂成形物(比較例2)である。また、縦軸は応力(MPa)、横軸はひずみ(%)である。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図2】
2