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明細書 :曲率分布結晶レンズおよびX線反射率測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4973960号 (P4973960)
登録日 平成24年4月20日(2012.4.20)
発行日 平成24年7月11日(2012.7.11)
発明の名称または考案の名称 曲率分布結晶レンズおよびX線反射率測定装置
国際特許分類 G21K   1/06        (2006.01)
G01N  23/207       (2006.01)
G02B   1/02        (2006.01)
G02B   3/00        (2006.01)
FI G21K 1/06 B
G21K 1/06 D
G21K 1/06 C
G01N 23/207
G02B 1/02
G02B 3/00 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2009-530180 (P2009-530180)
出願日 平成20年8月28日(2008.8.28)
国際出願番号 PCT/JP2008/065420
国際公開番号 WO2009/028613
国際公開日 平成21年3月5日(2009.3.5)
優先権出願番号 2007227174
優先日 平成19年8月31日(2007.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年8月26日(2011.8.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】奥田 浩司
【氏名】中嶋 一雄
【氏名】藤原 航三
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】村川 雄一
参考文献・文献 国際公開第2006/022333(WO,A1)
国際公開第2007/072906(WO,A1)
特開2005-142370(JP,A)
特開昭62-231198(JP,A)
特開2002-286658(JP,A)
調査した分野 G21K 1/06
G01N 23/207
G02B 1/02
G02B 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
Geの(110)単結晶板を高温型押し成型により塑性変形させた曲率分布結晶レンズであって、
結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、それに直交する方向を谷とする円筒曲面または対数曲面であることを特徴とする曲率分布結晶レンズ。
【請求項2】
Siの(110)単結晶板を高温型押し成型により塑性変形させた曲率分布結晶レンズであって、
結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、それに直交する方向を谷とする円筒曲面または対数曲面であることを特徴とする曲率分布結晶レンズ。
【請求項3】
上記高温型押し成型は、融点より1℃から120℃低い温度条件で行われることを特徴とする請求項1に記載の曲率分布結晶レンズ。
【請求項4】
上記高温型押し成型は、融点より1℃から200℃低い温度条件で行われることを特徴とする請求項2に記載の曲率分布結晶レンズ。
【請求項5】
結晶格子面の結晶表面に対する傾きがJohanssonの回折条件を満たすように、結晶表面が研磨されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の曲率分布結晶レンズ。
【請求項6】
X線発生源と、
請求項1から5の何れか1項に記載の曲率分布結晶レンズと、
位置敏感検出器とを備えたことを特徴とするX線反射率測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性変形された曲率分布結晶レンズおよびそれを用いたX線反射率測定装置に関する。本発明の応用分野の一例として、Johann(ヨハン)型またはJohansson(ヨハンソン)型結晶レンズに代表される、X線の回折等に用いられる曲率分布結晶レンズを挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
従来のX線用モノクロメータでは、結晶を弾性的に少し曲げ、その後研磨によって所定の回折が均一に得られるように、研磨仕上げを行うか、あるいは逆に、結晶を研磨した後、曲げ変形させている。そして、弾性限界内で変形させたJohann型やJohansson型のモノクロメータ結晶は、実用化されている。
【0003】
しかしながら、この弾性限界内で変形させた従来のX線用のモノクロメータ結晶の作成方法では、曲率の大きな曲げができないため、大型のX線装置にしか用いることができなかった。また、角度分解能と積分反射能とを大幅に低下させることが許容されるような場合は、低降伏応力の結晶を塑性変形して用いる場合もあった。
【0004】
X線用のJohann型やJohansson型のモノクロメータは、通常、切削・研磨加工の後に、適当な弾性変形を加えて固定するか、加工の容易な結晶を塑性変形させるといった方法で製造されている。
【0005】
例えば、LiF結晶などの加工しやすい結晶を低速塑性変形した後に削り出しを行うか、あるいは型への強制貼付による弾性変形が行われている。また、特許文献1に記載のように、本発明者らは、共有結合が主であるSiの(100)単結晶を基底に使用して、高温高圧下で塑性変形させる型押し成型を行い、曲率分布結晶レンズを作製する技術を発明している。
【0006】
しかしながら、弾性変形を利用した手法では、弾性変形結晶の保持における変形量の安定性、経年変化の問題があり、また弾性限界内の変形にとどまるため、見込み角が極めて小さな値に制限されてしまう。そして、塑性変形を利用する場合には、塑性変形による結晶性劣化に伴い、半値幅が著しく増加し、さらに積分反射能が低下してしまう。
【0007】
また、特許文献1に記載のようにSiの(100)面を基底に使用した塑性変形では、均一に湾曲した単結晶を得ることができるものの、当該均一な変形領域が少し狭く、X線結晶分光の入射角範囲が狭くなることがわかった。そのため、より入射角範囲が広く、集光精度の高い曲率分布結晶レンズを実現することが望まれる。

【特許文献1】国際公開第2007/072906号パンフレット(2007年6月28日公開)
【発明の開示】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、入射角範囲が広く、集光精度の高い曲率分布結晶レンズを実現することにある。
【0009】
本発明に係る曲率分布結晶レンズは、上記課題を解決するために、Geの(110)単結晶板を高温型押し成型により塑性変形させた曲率分布結晶レンズであって、結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、それに直交する方向を谷とする1次元円筒曲面または1次元対数曲面であることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る曲率分布結晶レンズは、上記課題を解決するために、Siの(110)単結晶板を高温型押し成型により塑性変形させた曲率分布結晶レンズであって、結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、それに直交する方向を谷とする1次元円筒曲面または1次元対数曲面であることを特徴としている。
【0011】
なお、本明細書において、(110)単結晶板は、理想的な面方位(110)に対して製造上のバラツキの範囲内(具体的には、0~2°)で傾斜している単結晶板も含まれる。
【0012】
ここで、高温型押し成型は、融点直下の温度(具体的には、Siの場合には、融点より1℃から200℃低い温度(より好ましくは、融点より1℃から120℃低い温度)、Geの場合には、融点より1℃から120℃低い温度(より好ましくは、融点より1℃から60℃低い温度))であることが好ましい。これにより、塑性加工させることができる。
【0013】
そして、SiまたはGeの(110)単結晶を半球状に塑性変形した場合に、2回対称で一方向([1-10]方向)に比較的広い均一変形領域を得ることができる。また、[001]方向は[1-10]方向と比較して曲率に対する変形領域は狭いものの、同じく2回対称性の変形パターンを示すことから円筒変形における捩れを軽減可能である。
【0014】
そのため、結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、それに直交する方向を谷とする1次元円筒曲面または1次元対数曲面であることにより、最大の曲率を示す方向においても幅広い範囲で均一変形領域を得ることとなる。その結果、X線結晶分光の入射角範囲を広くすることができる。
【0015】
また、上記の構成によれば、均一変形領域が大きくなることにより、30度の入射角(見込み角)の範囲において、結晶格子面の曲率誤差(σ)を0.1度以下にすることができる。そして、幅広い範囲において積分反射強度および半値幅の均一性も良好となる。すなわち、集光精度の高い曲率分布結晶レンズを実現することができる。
【0016】
さらに、本発明の曲率分布結晶レンズは、結晶格子面の結晶表面に対する傾きがJohanssonの回折条件を満たすように、結晶表面が研磨されていてもよい。
【0017】
これにより、Johanssonの回折条件を満たすことができ、集光効率を高めることができる。
【0018】
また、本発明のX線反射率測定装置は、X線発生源と、上記の曲率分布結晶レンズと、位置敏感検出器とを備えている。
【0019】
上記構成によれば、X線発生源から発生されるX線を、曲率分布結晶レンズにて回折し、その回折されたX線を試料に照射することができる。そして、試料にて反射されたX線の強度は、位置敏感検出器により検出することができる。
【0020】
ここで、位置敏感検出器には、例えば、PSPC、IP(Imaging Plate)のような輝尽性フィルム、CCD(Charge Coupled Device)、PD(PhotoDiode)-arrayなどが含まれる。
【0021】
ここで、曲率分布結晶レンズは、上述のように、広い入射角範囲を有し、集光精度の高いものである。そのため、広角度での集光が可能となり、X線強度を飛躍的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Geの(110)単結晶板を用いたときの曲率分布結晶レンズの半値幅および積分反射強度を示す図である。
【図2】球状に塑性変形されたSi基板の反射光の像を示すものであり、(a)が(111)単結晶、(b)が(110)単結晶、(c)が(100)単結晶を示している。
【図3】Cuに対するSiおよびGeの回折線による焦点広がりの要因を示す図である。
【図4】Moに対するSiおよびGeの回折線による焦点広がりの要因を示す図である。
【図5】曲率分布結晶レンズとX線発生源と集光位置との配置関係を示す図である。
【図6】図5に示した曲率分布結晶レンズの斜視図である。
【図7】曲率分布結晶レンズを用いるX線反射率測定装置の構成を示す図である。
【図8】型押し成形で用いられる型を示す図であり、(a)は上部ボードを、(b)は下部ボードを示す。
【図9】Geの(111)単結晶板を用いたときの曲率分布結晶レンズの結晶格子面の曲率を示す図である。
【図10】Geの(111)単結晶板を用いたときの曲率分布結晶レンズの半値幅および積分反射強度を示す図である。
【図11】Geの(110)単結晶板を用いたときの曲率分布結晶レンズの結晶格子面の曲率を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
7 位置敏感検出器
10 曲率分布結晶レンズ
11 X線反射率測定装置
12 X線発生源
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の曲率分布結晶レンズは、X線回折装置などに用いられる集光結晶であり、X線結晶分光の入射角範囲が広く、精度の高いものである。
【0025】
本発明の発明者らは、実験により、結晶の融点未満の温度にて、SiやGeのような高降伏応力の結晶板に全体的または局所的に荷重を加え、当該結晶板を塑性変形させることで、結晶格子面が線収束条件を満たす曲率分布を有する曲率分布結晶レンズを作製することができるという知見を得た(特許文献1参照)。
【0026】
ただし、上述したように、特許文献1に記載のようにSi(100)単結晶を用いた場合、X線結晶分光の入射角範囲が少し狭いことがわかった。そこで、本発明者らは、当該入射角範囲が狭い要因ならびに良好な集光を得るための要因について鋭意検討を行い、本願発明を行うに至った。
【0027】
まず、本発明者らは、厚み0.5mmのSi基板を、曲率半径50mmの半球状の凸部を有する型と、ほぼ同じ曲率半径の半球状の凹部を有する型との間に挟み、温度1300℃、圧力20kgfの条件下で塑性変形を行った。Si基板としては、(111)単結晶、(110)単結晶、(100)単結晶の3種について行った。そして、球状に変形されたウエハの反射光の像を確認した。図2は、球状に塑性変形されたSi基板の反射光の像を示すものであり、(a)が(111)単結晶、(b)が(110)単結晶、(c)が(100)単結晶を示している。
【0028】
図2に示されるように、周辺では、像のうねりやすべり線が見え、不均一に変形していることがわかる。一方、中央付近では、均一に変形している領域(均一変形領域)が存在することがわかる。ただし、(100)単結晶では、4回対称を示しており、均一変形領域は少し狭く、(110)単結晶では、2回対称を示しており、[1-10]方向において広い均一変形領域が得られることがわかった。(111)面結晶では、6回対称を示し、比較的広い均一変形領域が得られる。このような対称性はGeでも同様である。
【0029】
このことから円筒曲げのような2回対称変形を行う場合には、(110)単結晶の均一変形領域を利用することが好適であることを本発明者らは見出した。
【0030】
また、図3は、Cu Kα特性X線に対するSiおよびGeの回折線による焦点広がりの要因を計算したものである。一方、図4は、Mo Kα特性X線に対するSiおよびGeの回折線による焦点広がりの要因を計算したものである。図において、「0.1 deg. deflection」および「0.3 deg. deflection」のプロットは、結晶面に角度誤差0.1,0.3度の誤差を持ち、そのばらつきのまま回折が起こる場合の焦点位置での回折線の広がりを示しており、「absorption error」のプロットは、試料への侵入による位置のボケが原因の焦点ボケの大きさを示しており、「Johann error」は、Johann条件での回折が起こる場合のJohansson条件からのずれに起因する焦点広がりを示しており、実際には回折半値幅をこえる広がりの回折は起こらないため、Rが小さい側は結晶の回折半値幅で制限を受ける。これらの図から、Rが大きな結晶で良好な集光を得るための第一の要素が格子面曲率誤差を抑えることであることがわかった。
【0031】
本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0032】
以下、本発明の一実施形態である曲率分布結晶レンズおよびX線反射率測定装置について説明する。
【0033】
(1.曲率分布結晶レンズについて)
本実施形態の曲率分布結晶レンズは、SiまたはGeの(110)単結晶を基底に用いるものである。なお、(110)単結晶板は、理想的な面方位(110)に対して製造上のバラツキの範囲内(具体的には、0~2°)で傾斜していてもよい。そして、結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、それに直交する方向を谷とする1次元円筒曲面または1次元対数曲面となるように、融点直下の温度条件で型押し成型されたものである。
【0034】
図2の(b)で示されるように、(110)単結晶では、2回対称を示しており、[1-10]方向において最も広い均一変形領域が得られる。そして、[1-10]方向から110)面内において30度以内の方向であっても、広い均一変形領域を得ることができる。そのため、[1-10]方向から(110)面内において30度以内の方向を最大曲率方向にすることにより、最大曲率方向においても幅広い均一変形領域を得ることができ、X線結晶分光の入射角範囲を広くすることができる。また、[001]方向は[1-10]方向と比較して曲率に対する変形領域は狭いものの、同じく2回対称性の変形パターンを示すことから円筒変形における捩れを軽減可能である。そして、1次元円筒曲面または1次元対数曲面であるため、線収束条件を満たすこととなる。
【0035】
ここで、融点直下の温度とは、単結晶板の塑性変形により塑性加工が可能な温度から加圧時に一部融解が始まる温度直前までの加熱温度である。Geの場合には、融点より1~120℃低い温度(より好ましくは、融点より1~60℃低い温度)であり、Siの場合には、融点より1~200℃低い温度(より好ましくは、融点より1~120℃低い温度)である。
【0036】
なお、本実施形態の曲率分布結晶レンズは、Johann型またはJohansson型のモノクロ形状を有する。
【0037】
Johann型の場合には、結晶格子面が1次元円筒曲面または1次元対数曲面をいずれかを有する曲率分布結晶レンズが用いられる。1次元対数曲面を有する曲率分布結晶レンズの場合、1次元円筒曲面に比べて、精度よく集光することができる。
【0038】
また、Johansson型の場合には、結晶格子面が1次元円筒曲面を有する曲率分布結晶レンズを用いればよい。
【0039】
(2.曲率分布結晶レンズおよびX線反射率測定装置の構成)
次に、本実施形態の曲率分布結晶レンズを用いたX線反射率測定装置の構成について説明する。
【0040】
図5は、曲率分布結晶レンズ10に関してX線発生源12と集光位置Bとが対称となるよう、曲率分布結晶レンズを配置した構成を示す図である。曲率分布結晶レンズ10と、X線発生源12の位置Aと、集光位置Bとは、同一の円(ローランド円 半径R)上にのるように配置される。なお、図5はJohansson型の曲率分布結晶レンズ10を示している。
【0041】
また、図6は、図5に示した曲率分布結晶レンズ10の斜視図である。図6に示されるように、曲率分布結晶レンズ10を線状のX線発生源12が延びる軸に直交する平面で切断したとすると、その切断面が常に同じJohansson型モノクロの形状を有する。
【0042】
そして、このような曲率分布結晶レンズ10によれば、Johanssonの回折結晶の条件が広い角度範囲にわたって厳密に満たされており、広角度での集光が可能となる。
【0043】
なお、図5,6では、Johansson型モノクロについて説明したが、上述したように、Johann型であってもよい。
【0044】
図7に、上述した曲率分布結晶レンズ10を用いるX線反射率測定装置11の構成を示す。図7に示すように、X線反射率測定装置11は、曲率分布結晶レンズ10と、線状のX線発生源12と、取込スリット13と、整形スリット14と、位置敏感検出器7とを備えている。
【0045】
上記構成のX線反射率測定装置11において、X線発生源12から照射されたX線は、取込スリット13を介して必要な取り込み角度のみに切り取られて、曲率分布結晶レンズ10へ導かれる。そして、曲率分布結晶レンズ10で回折したX線は、整形スリット14により、結晶レンズ周辺部の質が劣る回折線が遮蔽・整形され、試料上の集光位置に入射する。そして、試料にて反射したX線は、位置敏感検出器7に入射する。
【0046】
なお、X線反射率測定装置11における位置敏感検出器7は、反射率測定用配置および入射光強度分布測定用配置という2つの位置の間を移動可能である。反射率測定用配置および入射光強度分布測定用配置については、反射率測定を行う場合およびX線の強度分布を調べる場合に応じて、移動させればよい。
【0047】
上記構成のX線反射率測定装置11によれば、線状のX線発生源12から発生したX線が、曲率分布結晶レンズ10により、試料上に線状に集光される。このようにX線を線状に集光させれば、試料の広い範囲を迅速にスキャンすることが可能となる。したがって、X線反射率測定装置11は、大きな試料に対してX線を照射するのに適したものといえる。
【0048】
そして、本実施形態の曲率分布結晶レンズ10では、変形してもより広い均一変形領域を得ることができる[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内の方向を最大曲率方向(図5のx方向)としているため、X線の入射角範囲(取り込み角度の範囲)を大きくすることができ、集光効率を向上させることができる。
【0049】
その結果、X線反射率測定装置(粉末回折計、散漫散乱測定装置、小角散乱装置などのX線回折装置)の強度を飛躍的に高めることができる。また、X線縮小/拡大光学系を構成する大開口光学系を実現し、X線顕微鏡や縮小露光を可能とする。
【0050】
(3.曲率分布結晶レンズの製造方法)
本実施形態に係る曲率分布結晶レンズの製造方法について説明する。本実施形態の曲率分布結晶レンズは、1次元円筒曲面または1次元対数曲面を有する一対の型の間にSiまたはGeの(110)単結晶板を挟み、高温高圧下で型押し成形する工程を経ることで製造される。これにより、Johan型の曲率分布結晶レンズを得ることができる。
【0051】
ただし、[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内の方向が最大の曲率を示す方向とし、それに直交する方向が谷(軸方向)になるように、型押しする。
【0052】
ここで、1次元円筒曲面または1次元対数曲面とは、図5に示すように、曲率分布結晶レンズの結晶格子面における各点P(θ)において、結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、点P(θ)と点Xとを結ぶ直線と直交する曲面を意味する。
【0053】
ここで、曲面型押し成形においては、図8の(a)に示す上部ボード(凸状型押し部材)および図8の(b)に示す下部ボード(凹状型押し部材)が用いられる。これらの上部ボードおよび下部ボードは、カーボン製であり、SiあるいはGeの(110)単結晶板を間に挟み加圧することにより、当該単結晶板に曲面を加工するものである。
【0054】
図8の(a)に示されるように、上部ボード(凸状型押し部材)の下面には、1次元円筒曲面または1次元対数曲面の突起(凸部)が形成されている。一方、図8の(b)に示されるように、下部ボード(凹状型押し部材)の上面には、1次元円筒曲面または1次元対数曲面の窪み(凹部)が形成されている。
【0055】
そして、上部ボードの下面と、下部ボードの上面とに、離型剤を塗布し、高温で一旦アニール処理を行う。その後、アニール処理を施した上部ボードと下部ボードとの間に、SiまたはGeの(110)単結晶板を挟み、縦型炉の中に配置する。なお、離型剤の塗布は、半導体単結晶板の材料や成型条件に応じて省略することも可能である。
【0056】
このとき、SiまたはGeの(110)単結晶板の[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内の方向に直交する方向が、上部および下部ボードの1次元円筒曲面または1次元対数曲面の上記凹部および凸部の軸方向と同じになるように配置する。
【0057】
このSiまたはGeの(110)単結晶板の全面または一部の面に、汚染防止や熱による表面劣化を防ぐため、離型剤等の熱に全く不純物の少ない表面保護膜を塗ってもよい。この縦型炉には、金属製の押し棒が炉の上部に配置されてあり、この押し棒を外部から操作することにより、上部ボードの上面に荷重をかけて、SiまたはGeの単結晶板の変形に必要な力を与えることができるようになっている。
【0058】
このようにセットした上部ボードおよび下部ボードと単結晶板とを水素雰囲気中で、上述した融点直下の温度に昇温する。この温度に到達した時、金属棒を炉内で下げ、上部ボードの上面を押して、たとえば200N程度の荷重をかける。なお、この融点直下の温度は、上述したように、Geの場合には、融点より1~120℃低い温度(より好ましくは、融点より1~60℃低い温度)であり、Siの場合には、融点より1~200℃低い温度(より好ましくは、融点より1~120℃低い温度)である。この温度範囲を選択することにより、曲率分布結晶レンズの特性として問題の塑性変形を安定して実現できる。
【0059】
これにより、SiまたはGeの(100)単結晶板にも圧縮力がかかり、高温加圧により単結晶板が、上部ボードと下部ボードとの間で曲面状に塑性変形する。なお、上部ボードには、1分程度の荷重をかければよい。
【0060】
この塑性変形によって、SiまたはGeの(110)単結晶板の結晶格子面は、上部ボード下面の凹部および下部ボード上面の凸部の形状により定義付けられた1次元円筒曲面または1次元対数曲面となる。
【0061】
ここで、上記凹部および凸部が1次元円筒曲面である場合、その曲率半径は、上記ローランド円の半径の2倍である2Rに設定される。ただし、間に挟みこまれる単結晶板の厚みを考慮して、下部ボードの窪みの曲率については僅かに大きくする。これにより、曲率分布結晶レンズをローランド円上に配置したときに、X線発生源12からの光を集光位置Bにほぼ集光させることができる。
【0062】
また、上記凹部および凸部が1次元対数曲面である場合、曲率分布結晶レンズをローランド円上に配置したときに、Johann型であってもX線発生源12からの光を集光位置Bにより確実に集光させることができる。
【0063】
そして、上述のように得られる曲率分布結晶レンズにおいては、図2の(b)に示したように、2回対称性の変形パターンを示す[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内の方向を最大曲率方向になるように、結晶格子面が1次元円筒曲面に湾曲される。これにより、円筒変形における捩れを軽減可能であり、広い範囲で均一な変形領域を得ることができる。
【0064】
なお、Johansson型の曲率分布結晶レンズを得る場合には、上記のような型押し成型を行った後に、結晶表面が曲率半径Rの1次元円筒曲面となるように研削すればよい。もしくは、型押し成型前に、型押し成型後に一方の結晶表面がJohanssonの回折条件を満たすように(つまり、ローランド円の曲率半径Rの1次元円筒曲面になるように)予め予備研削を行っておけばよい。
【0065】
(曲率分布結晶レンズの精度についての確認結果)
次に、本実施形態の曲率分布結晶レンズにおける、結晶格子面の曲率誤差と、積分反射強度および半値幅(FWHM)の均一性とを確認した結果を説明する。
【0066】
まず比較のために、Geの(111)単結晶板を用いて、本実施形態と同様に結晶格子面が曲率半径2R=50mmの1次元円筒曲面となるように変形させた曲率分布結晶レンズを作製し、結晶格子面の曲率誤差、積分反射強度および半値幅を測定した。なお、CuのKα1 440反射光を用いて測定を行った。図9は結晶格子面の曲率の結果を示し、図10は積分反射強度(右軸)および半値幅(左軸)の結果を示している。図9において、縦軸がピークシフトの測定値を示し、横軸がピークシフトの理想値を示している。図9から、35度の見込み角に対して結晶格子面の曲率誤差(σ)が0.133度であることがわかった。また、図10において、横軸は、曲率分布結晶レンズにおける最大曲率方向の位置座標を示すものである。
【0067】
次に、Geの(110)単結晶板を用い、結晶格子面が、最大の曲率を示す方向を[001]方向から約20度回転した方向とし、それに直交する方向を谷とする1次元円筒曲面である曲率分布結晶レンズについて、結晶格子面の曲率誤差、積分反射強度および半値幅を測定した。なお、結晶格子面の曲率半径、測定光については、Geの(111)単結晶板のときと同じである。
【0068】
図11は、Geの(110)単結晶板を用いたときの曲率分布結晶レンズの結晶格子面の曲率を示すものである。また、図1は、Geの(110)単結晶板を用いたときの曲率分布結晶レンズの、積分反射強度(右軸)および半値幅(左軸)の結果を示している。
【0069】
図11から、結晶格子面の曲率誤差(σ)が見込み角30度の範囲で0.075度と、0.1度以下を実現できることがわかった。さらに、積分反射強度および半値幅の均一性もきわめて良好であることがわかった。特に、曲率分布結晶レンズにおける最大曲率方向において幅約2cmの範囲でも非常に良好な均一性が得られている。
【0070】
このように、結晶格子面の曲率誤差が見込み角30度範囲において0.1度以下を達成することができ、非常に良好な積分反射強度および半値幅の均一性をえることができたのは、図2の(b)に示すような単結晶板の変形特性に基づくものである。なお、最大の曲率を示す方向を[001]または[1-10]方向から(110)面内において30度以内とし、その直交する方向を谷とすることにより、結晶格子面の曲率誤差が見込み角30度範囲において0.1度以下にすることができ、良好な均一性の積分反射強度および半値幅を得ることができる。
【0071】
なお、図1および図11の実験結果は、CuのKα1 440反射光を用いたものである。当該光は、わずかのずれでも影響されるより厳しい条件での実験結果である。通常用いられるCuのKα1 220反射光では、より一層、精度が向上する。
【0072】
また、図1および図11では、Geの(110)単結晶板を用いた場合の曲率分布結晶レンズについての結果を示したが、Siの(110)単結晶板を用いた場合の曲率分布結晶レンズについても同様に、結晶格子面の曲率誤差が見込み角30度の範囲で0.1度以下であり、良好な均一性の積分反射強度および半値幅を得ることができる。
【0073】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
上述のように製造される曲率分布結晶レンズは、種々のX線装置に適用可能である。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
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【図10】
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【図11】
9
【図2】
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