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明細書 :ナノサイズワイヤーの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5062721号 (P5062721)
公開番号 特開2008-006513 (P2008-006513A)
登録日 平成24年8月17日(2012.8.17)
発行日 平成24年10月31日(2012.10.31)
公開日 平成20年1月17日(2008.1.17)
発明の名称または考案の名称 ナノサイズワイヤーの製造方法
国際特許分類 B82B   3/00        (2006.01)
B82Y  40/00        (2011.01)
FI B82B 3/00
B82Y 40/00
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2006-176270 (P2006-176270)
出願日 平成18年6月27日(2006.6.27)
審査請求日 平成21年6月8日(2009.6.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
発明者または考案者 【氏名】下間 靖彦
【氏名】三浦 清貴
【氏名】平尾 一之
【氏名】川崎 三津夫
【氏名】梶田 治
【氏名】岩元 孝文
【氏名】安田 英太郎
【氏名】木村 茂幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100107641、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 耕一
【識別番号】100115152、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 茂
審査官 【審査官】佐藤 久則
参考文献・文献 特開2002-067000(JP,A)
特開2003-159699(JP,A)
特開2004-358583(JP,A)
特開2005-048213(JP,A)
特開2006-075961(JP,A)
特開2004-339538(JP,A)
調査した分野 B22F 9/00-9/30、
B82B 1/00-3/00、
B82Y 5/00-99/00
特許請求の範囲 【請求項1】
金属元素を含む粉体の懸濁液にフェムト秒レーザーを照射して前記粉体を分割することにより、前記金属元素を含むナノサイズワイヤーを形成する、ナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記金属元素が銅である請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項3】
前記粉体が薄片状である請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項4】
1つの前記粉体から3以上の前記ナノサイズワイヤーを形成する、請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項5】
ストライプ状に配列した2以上の分割線で前記粉体を分割する、請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項6】
前記懸濁液の媒体が、非水媒体である請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項7】
前記懸濁液の媒体が、アルコールまたはアセトンである請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項8】
前記フェムト秒レーザーが、チタンサファイアレーザーである請求項1に記載のナノサイズワイヤーの製造方法。
【請求項9】
金属元素を含む粉体の懸濁液にフェムト秒レーザーを照射して前記粉体を分割することにより、前記金属元素を含むナノサイズワイヤーを形成し、
前記形成したナノサイズワイヤーに前記レーザーをさらに照射して前記ナノサイズワイヤーを分割することにより、前記金属元素を含むナノサイズ粒子を形成する、ナノサイズ粒子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フェムト秒レーザーの照射によるナノサイズワイヤーの製造方法と、ナノサイズワイヤーとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノスケール材料の一つとして、金や銀などの金属からなるナノサイズワイヤー(以下、単に「ナノワイヤー」ともいう)が注目されている。ナノワイヤーは、その微小なサイズや高いアスペクト比などにより、従来の材料に無い物理的、化学的性質(例えば、電気伝導性、熱伝導性、発光特性、触媒活性など)を発現することが予想される。ナノワイヤーの製造方法は、例えば、特許文献1~3および非特許文献1~3に開示されている。
【0003】
特許文献1には、金属銅と、炭素薄膜がコーティングされたモリブデン基板とを、真空中で800~850℃の温度に加熱して、銅のナノロッドまたはナノワイヤーを形成する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、金属ナノワイヤー製造用前駆体の表面に対して、プローブの先端部から電圧または電流を印加して、当該プローブの先端部において金属ナノワイヤーを引き出すことで、金属ナノワイヤーを連続的に形成する方法が開示されている。ここで、金属ナノワイヤー製造用前駆体としては、高いイオン導電性を有する無機化合物に予め金、白金、銀、銅およびパラジウムから選ばれる少なくとも1種類の金属のイオンを担持させた材料が例示されており、このような材料は、例えば、上記少なくとも1種類の金属イオンを含有する水溶液または溶融塩に、所定のナトリウム超イオン導電体型化合物またはβ型アルミナなどの粉末を接触させて形成できることが示されている。上記例示の前駆体からは、上記少なくとも1種類の金属のナノワイヤーを形成できる。
【0005】
特許文献3には、金属イオン担持体(例えば、Ag2.3Na0.2Zr2Si1.51.512:特許文献3の製造例1を参照)に電子線を照射することで、金属ナノワイヤーおよび/または金属ナノパーティクルを形成する方法が開示されている。上記担持体からは、銀のナノワイヤーを形成できる。
【0006】
非特許文献1には、レーザーアブレーションにより粒径数nm~100nm程度の銀コロイド微粒子を水中に形成し、形成したコロイド微粒子にナノ秒レーザーを照射することで、当該微粒子同士を融合させて銀のナノワイヤーを形成する方法が開示されている。
【0007】
非特許文献2、3には、非特許文献1と同様に、水中レーザーアブレーションにより作製した銀コロイド微粒子(平均粒径18nm)へのNd:YAGレーザーの照射により生成したナノワイヤーが開示されている。非特許文献2、3に公開されている、当該ナノワイヤーの観察像を図18、19に示す。

【特許文献1】特開2004-263318号公報
【特許文献2】特開2004-223693号公報
【特許文献3】特開2002-67000号公報
【非特許文献1】辻剛志、辻正治、「銀コロイドのレーザー光照射によるナノサイズワイヤーの形成」、放射線化学、日本放射線化学会、2003年、第75号、p.31~34
【非特許文献2】辻剛志、辻正治、“辻剛志雷射集団”、[online]、九州大学先導物質化学研究所 ヘテロ融合材料分野 辻正治研究室、[平成18年6月19日検索]、インターネット<URL:http://133.5.181.45/TKSTSUJI/>
【非特許文献3】辻剛志、辻正治、“5.水中レーザーアブレーションで作製した球形銀ナノ粒子へのレーザー光照射による形状変化(1)”、[online]、九州大学先導物質化学研究所 ヘテロ融合材料分野 辻正治研究室、[平成18年6月19日検索]、インターネット<URL:http://133.5.181.45/TKSTSUJI/researches/photoconv_wire.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、金属銅を蒸発させてモリブデン基板上に析出させるために、真空および高温が必要とされる。
【0009】
特許文献2の方法では、出発物質として上記ナノワイヤー製造用前駆体の形成が必要であるとともに、ナノワイヤー形成雰囲気を真空(8×10-2Pa以下)および高温(100~500℃)とすることが望まれる。
【0010】
特許文献3の方法では、出発物質として上記金属イオン担持体の形成が必要である他、金属イオン担持体の表面に当該担持体と接続された状態でナノワイヤーが形成されるため、ナノワイヤーを得ようとすると、遠心分離などの機械的手法による担持体とナノワイヤーとの分離が必要となる。
【0011】
非特許文献1~3の方法を含むこれら従来の方法では、蒸発させた金属を基板上に析出させたり(特許文献1)、金属イオンの還元による金属の析出を行ったり(特許文献2、3)、ナノメートルサイズの粒径を有する微粒子同士を融合させたり(非特許文献1~3)してナノワイヤーを形成するため、複数のナノワイヤーを形成した場合に、当該複数のナノワイヤー間におけるサイズや形状の制御が難しく、得られるナノワイヤーのバラツキが大きくなる。
【0012】
そこで本発明では、これら従来のナノワイヤーの製造方法とは全く異なる手法により、従来よりも簡便、かつ、形成するナノワイヤーのサイズや形状の制御がより容易である、ナノワイヤーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のナノワイヤーの製造方法では、金属元素を含む粉体の懸濁液(当該懸濁液は、金属元素を含む粉体と、媒体とを含む)にフェムト秒レーザーを照射して前記粉体を分割することにより、前記金属元素を含むナノワイヤーを形成する。
【0014】
ここで「ナノワイヤー」とは、その直径が1nm以上1μm未満であり、直径に対する長さ(ナノワイヤーに沿った長さ)の比で示されるアスペクト比にして、5以上、好ましくは10以上である物体をいう。ナノワイヤーの直径および長さは、当該ナノワイヤーの顕微鏡像の評価などにより求めることができる。これに対し、後述する「ナノサイズ粒子」は、その粒径が1nm以上1μm未満であり、短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比にして、5未満、典型的には2以下の物体をいう。
【0015】
フェムト秒レーザーの照射により、当該粉体が分割されてナノワイヤーとなる理由は明確ではないが、以下のような原理が考えられる:金属元素を含む粉体にフェムト秒レーザーが照射されると、当該粉体の表面に沿って表面プラズモンの波が生じる。生じた表面プラズモンの波は、引き続き照射されるレーザーと干渉して、粉体の表面に、周期的に配列した干渉パターンが形成される。干渉パターンが形成されると、当該パターンに基づく表面プラズモンの励起が粉体の表面に生じ、この励起によって、粉体が分割されると考えられる(図1参照)。
【0016】
このような粉体の分割は、ピコ秒レーザー、および、非特許文献1~3などに用いられているナノ秒レーザーの照射では起こすことができない。上記分割は、1パルスあたりの発光時間が非常に短時間であり、瞬間的に高いエネルギーを与えることができるフェムト秒レーザーの照射によって初めて実現できる。例えば上記粉体にナノ秒レーザーを照射した場合、粉体に対する熱の寄与が大きくなってアブレーションが発生し、直接ナノサイズ粒子が形成されることはあるが、中間生成物としてもナノワイヤーは形成できない。
【0017】
本発明のナノワイヤーの製造方法において、ナノワイヤーが形成された後もフェムト秒レーザーのさらなる照射を続けると、形成したナノワイヤーをさらに分割してナノサイズ粒子を形成できる(図2参照)。
【0018】
このナノサイズ粒子(以下、単に「ナノ粒子」ともいう)の製造方法では、金属元素を含む粉体の懸濁液にフェムト秒レーザーを照射して前記粉体を分割することにより、前記金属元素を含むナノサイズワイヤーを形成し、前記形成したナノサイズワイヤーに前記レーザーをさらに照射して前記ナノサイズワイヤーを分割することにより、前記金属元素を含むナノサイズ粒子を形成する。
【0019】
本発明のナノワイヤーは、例えば上記本発明の製造方法により形成したナノワイヤーであり、金属元素を含む粉体を分割して得たナノワイヤーである、ともいえる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法では、金属元素を含む粉体の懸濁液にフェムト秒レーザーを照射して、上記金属元素を含むナノワイヤーを形成する。レーザーを照射する懸濁液は、例えば、上記粉体と媒体とを混合して形成できる。即ち、本発明の製造方法では、ナノワイヤーを形成するために真空および高温の環境は必要とされず、また、出発物質として、特許文献2および3に開示されている前駆体およびイオン担持体の形成も不要である。さらに、形成したナノワイヤーは、媒体の除去、あるいは、懸濁液からのナノワイヤーの濾過などの手法で容易に取り出すことができる。よって、本発明の製造方法によれば、従来よりも簡便に、金属元素を含むナノワイヤーを形成できる。
【0021】
また本発明の製造方法では、フェムト秒レーザーの照射により上記粉体を分割してナノワイヤーを形成する。即ち、複数のナノワイヤーを同時に形成できるとともに、形成した複数のナノワイヤー間におけるサイズや形状の制御を、金属の析出や金属微粒子の融合に基づく従来の製造方法に比べて、より容易とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(粉体)
懸濁液に含まれる粉体は金属元素を含めばよい。この粉体にフェムト秒レーザー(以下、単に「レーザー」ともいう)を照射することにより、当該粉体の表面に表面プラズモンの波を発生できる。
【0023】
粉体が含む金属元素の種類は特に限定されず、形成するナノワイヤーの用途などに応じて適宜選択すればよい。特許文献2、3に開示の方法のように、出発物質として前駆体または金属イオン担持体が必要とされる製造方法では、ナノワイヤーを構成する金属元素の種類は、当該前駆体または担持体を構成でき、かつ、比較的容易に還元可能な元素(例えば、金、銀、パラジウムなどの標準酸化還元電位が比較的小さい元素)に限定される。これに対して本発明の製造方法では、このような出発物質が不要であり、また、酸化還元反応などの化学反応を経ないため、ナノワイヤーを構成する金属元素の種類をより自由に選択できる。
【0024】
粉体は金属元素からなってもよく、この場合、当該金属元素からなるナノワイヤーを形成できる。
【0025】
粉体が含む金属元素は1種類であっても2以上の種類であってもよい。2以上の種類の金属元素からなる粉体としては、例えば、固溶体、共晶体などの合金からなる粉体が挙げられ、当該粉体からは当該合金からなるナノワイヤーを形成できる。
【0026】
粉体が含む金属元素は、例えば、銅、コバルト、銀、金、白金、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛および鉛から選ばれる少なくとも1種であってもよい。銅を含む(銅からなる)粉体とした場合、銅を含む(銅からなる)ナノワイヤーを形成でき、当該ナノワイヤーは、例えば偏光制御素子やガスセンサーとしての用途が想定される。銅およびコバルトを含む粉体、例えば、銅-コバルト合金からなる粉体とした場合、銅-コバルト合金からなるナノワイヤーを形成でき、当該ナノワイヤーは、例えば磁性材料としての用途が想定される。
【0027】
粉体は金属元素以外の元素を含んでいてもよく、例えば、酸素を含んでいてもよい。酸素を含む粉体としては、例えば、上記金属元素の酸化物からなる粉体が挙げられ、当該粉体からは当該酸化物からなるナノワイヤーを形成できる。
【0028】
粉体の形状は特に限定されないが、レーザーの照射による分割を容易にするためには非球体であることが好ましく、例えば、鱗片状(フレーク状)、および、円板状などの板状(ディスク状)などの薄片状であることが好ましい。薄片状の粉体では、その他の形状を有する粉体に比べて、レーザーの照射、干渉による表面プラズモンの励起が生じやすく、ナノワイヤーの形成がより容易となる。
【0029】
粉体のサイズは特に限定されないが、粉体が薄片状である場合、1μm以上の長さを有するナノワイヤーを形成するためには、当該粉体の平均径が1μm以上であることが好ましい。また、薄片状の粉体の分割によるナノワイヤーの形成をより容易とするためには、当該粉体の平均厚さを1nm以上1μm未満とすることが好ましい。
【0030】
上述したように本発明の製造方法では、粉体の表面に形成される表面プラズモンの励起により粉体が分割されると考えられ、想定される励起のパターンは、図1に示すようにストライプ状である。このため、本発明の製造方法では、1つの粉体から3以上のナノワイヤーを形成できる。また、換言すれば、本発明の製造方法では、ストライプ状に配列した2以上の分割線で粉体を分割することができ、このような分割線では、粉体は短冊状に分割され、棒状のナノワイヤーとなる。
【0031】
本発明の製造方法では、粉体の分割によりナノワイヤーを形成するため、粉体の結晶構造と同一の結晶構造を有するナノワイヤーを形成できる。例えば、粉体がアモルファスである場合にはアモルファスのナノワイヤーを、粉体が多結晶体である場合には多結晶体のナノワイヤーを形成できる。即ち、本発明の製造方法では、棒状であり、かつ、金属元素を含む多結晶体であるナノワイヤーを形成できる。このようなナノワイヤーは、特許文献1~3および非特許文献1~3の方法では形成できない。特許文献1の方法により得られるナノワイヤーは基板上の特定の面に析出した単結晶体であり、特許文献2、3および非特許文献1~3の方法により得られるナノワイヤーは、金属イオンの酸化還元反応やコロイド微粒子のランダムな融合に基づいて形成されるため、棒状とはならない。例えば、図18(非特許文献2)に示す形状は網目状であるといえる。
【0032】
本発明の製造方法では、粉体の分割によりナノワイヤーを形成するため、特許文献1に開示の方法のように銅の蒸発、析出によりナノワイヤーを形成する方法、あるいは、特許文献2、3に開示の方法のように前駆体(担持体)に含まれる金属元素の析出によりナノワイヤーを形成する方法に比べて、出発物質に含まれる金属元素の量に対するナノワイヤーの収率を向上できる。
【0033】
本発明の製造方法では、粉体が薄片状である場合、粉体の平均径以下の平均長さを有するナノワイヤー、および/または、粉体の平均厚さ以下の平均直径を有するナノワイヤーを形成できる。ただし、後述の実施例に示すように、ナノワイヤー形成後もレーザーの照射を続けた場合、形成されたナノワイヤーがさらに分割されてナノ粒子が形成され、形成されたナノ粒子がナノワイヤーに付着して、ナノワイヤーの長さおよび直径が一時的に増大することがある(そのままレーザーの照射を続けると、ナノワイヤーの分割が進み、懸濁液に元々含まれる粉体のほぼ全てをナノ粒子とすることができる)。このため、粉体の平均径以下の平均長さを有するナノワイヤー、あるいは、粉体の平均厚さ以下の平均直径を有するナノワイヤーを形成するためには、照射時間、照射パルス数、波長など、レーザーの照射条件の制御が必要になることがある。
【0034】
なお、形成されたナノ粒子がナノワイヤーに付着することに着目すると、本発明の製造方法では、レーザーの照射条件によっては、ナノ粒子が側面および/または端面に付着したナノワイヤーを形成できる、ともいえる。
【0035】
(懸濁液)
レーザーを照射する懸濁液は、上記粉体と、媒体とを混合して形成すればよい。ただしレーザー照射時には、懸濁液に含まれる粉体に対してより均一にレーザーを照射するために、スターラーなどの攪拌手段を用いて懸濁液を攪拌することが好ましい。
【0036】
懸濁液の媒体は特に限定されず、任意に選択すればよい。懸濁液中(媒体中)に形成されたナノワイヤーの酸化を抑制するためには、媒体が非水媒体であることが好ましい。非水媒体としては、例えば、アルコールまたはアセトンを用いてもよい。媒体としてアルコールまたはアセトンを用いる場合、これらの媒体は比較的容易に蒸発させることができるため、懸濁液中に形成されたナノワイヤーの取り出しがより容易となる。
【0037】
なお、本発明の製造方法によって形成されたナノワイヤーおよび後述するナノワイヤー群は、必要に応じて、媒体中に含まれる状態で流通させてもよい。
【0038】
媒体に用いるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールから選ばれる少なくとも1つであればよい。
【0039】
懸濁液に含まれる粉体の量は特に限定されず、任意に設定すればよい。懸濁液中の粉体により均一にレーザーを照射するためには、当該量が多すぎないことが好ましく、例えば、懸濁液全体の重量に対する粉体の重量(即ち、懸濁液における粉体の含有率)を、0.001wt%~0.1wt%程度とすればよい。
【0040】
(フェムト秒レーザー)
懸濁液に照射するレーザーは、フェムト秒レーザー(パルス幅がフェムト秒(10-13~10-16秒)のレーザー)であればよく、その波長、パルス周期(繰り返し周波数)、発振源などは特に限定されない。例えば、レーザーの波長は、通常、200~1600nm程度であればよく、レーザーの発振源は、フェムト秒レーザーとして一般的なチタンサファイアレーザーであればよい。
【0041】
フェムト秒レーザーの出力は特に限定されない。
【0042】
レーザーは、懸濁液に焦点を合わせて照射すればよく、そのための光学系は任意に設定できる。
【0043】
(ナノ粒子の形成)
上述したように本発明の製造方法では、懸濁液にレーザーを照射し続ける、即ち、レーザーの照射時間を長くする、あるいは、照射するレーザーのパルス数を多くする、ことにより、ナノ粒子を形成できる。換言すれば、本発明の製造方法では、レーザーの照射条件を制御することにより、ナノワイヤーおよびナノ粒子のいずれかを選択して形成する、あるいは、その双方を形成することができる。
【0044】
ナノ粒子を形成する場合、本発明の製造方法は、レーザーを照射して上記粉体を分割することにより上記金属元素を含むナノワイヤーを形成し、形成したナノワイヤーにレーザーをさらに照射して当該ナノワイヤーをさらに分割することにより、ナノ粒子を形成する方法であるともいえる。また、本発明の製造方法は、粉体の分割により、ナノワイヤーを経てナノ粒子を得る方法である、ともいえる。
【0045】
(ナノワイヤー群)
本発明の製造方法では粉体を分割してナノワイヤーを形成するため、複数の粉体を分割する場合に、例えば、全ての粉体が分割される前の時点であれば、金属元素を含むナノワイヤーを2以上含むナノワイヤー群であって、当該ナノワイヤーと組成および結晶構造が同一の上記粉体を含むナノワイヤー群を得ることができる。
【0046】
本発明の製造方法では、粉体を分割してナノワイヤーを形成するため、金属元素を含むナノワイヤーを15以上含むナノワイヤー群であって、当該ナノワイヤーの長さおよび直径が実質的に揃っているナノワイヤー群を製造できる。ここで「実質的に揃っている」とは、ナノワイヤー群から15本以上のナノワイヤーを任意に選択したときに、選択されたナノワイヤーの長さおよび直径の標準偏差が所定の値以下であることをいう。所定の値は、以下の通りである。長さについて:選択されたナノワイヤーの平均長さが2μm~5μmの場合に1μm、選択されたナノワイヤーの平均長さが5μmを超える場合に2μm。直径について:選択されたナノワイヤーの平均直径が100nm以下の場合に20nm、選択されたナノワイヤーの平均直径が100nmを超える場合に55nm。
【0047】
なお、本発明者らが特許文献1の記載(段落番号[0013]および[0014])および当該文献の図1を基に、特許文献1で形成される複数のナノワイヤーにおける長さおよび直径の平均値および標準偏差を見積もったところ、15本のナノワイヤーを選択したときに、平均長さが1.05μmに対して長さの標準偏差が0.71μm(即ち、平均長さを2μmとしたときに長さの標準偏差が1.35μm)、平均直径が75.7nmに対して直径の標準偏差が26.0nm(即ち、平均直径を100nmとしたときに直径の標準偏差が34.3nm)であった。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0049】
(懸濁液の作製)
粉体として、銅フレーク(福田金属箔粉工業社製:平均径約4~5μm、平均厚さ約100nm)4.8mgと、媒体として、窒素バブリングによる脱酸素処理を施した無水のエタノール6mlとを混合し、スターラーにより攪拌して懸濁液とした。当該懸濁液における銅フレークの含有率は、0.01重量%であった。懸濁液の作製に用いた銅フレークを、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を、図3に示す。
【0050】
(レーザー照射)
このように作製した懸濁液に対し、スターラーによる攪拌を続けながらフェムト秒レーザー(チタンサファイアレーザー、波長780nm、パルス幅215フェムト秒)を照射したところ、照射時間の経過に伴って、懸濁液の色が銅色から青みがかかった黒色へと変化した。レーザーの繰り返し周波数(以下、単に「繰り返し周波数」)は100Hzまたは1kHzとし、単位パルス当たりの出力は400μJとした。懸濁液へのレーザーの照射は、開口数0.25、倍率10倍の対物レンズを光学系に用い、レーザーの焦点を懸濁液に合わせた状態で行った。レーザーのビーム幅は、およそ4μmであった。
【0051】
(評価)
繰り返し周波数が100Hzおよび1KHzのそれぞれの場合において、レーザー照射前の懸濁液、ならびに、レーザーを照射してから1分、3分、5分、10分および20分経過後の各懸濁液に対して、分光光学計(JASCO社製、V-570)を用いてその吸収スペクトルを測定し、レーザーの照射時間に対する懸濁液の吸収スペクトルの変化を評価した。繰り返し周波数が1KHzの場合の評価結果を図4に、100Hzの場合の評価結果を図5に示す。
【0052】
図4に示すように、繰り返し周波数が1kHzの場合、レーザーの照射により波長380nm近傍の吸収ピークが立ち上がった後、照射時間の経過に伴って、波長600nm近傍の吸収ピークが立ち上がるとともに、波長380nm近傍の吸収ピークが次第に弱まりながら最終的に消失することがわかった。
【0053】
繰り返し周波数が1kHzの場合における、レーザーの照射時間に対する両吸収ピークの変化を図6に示す。図6に示すように、波長380nm近傍の吸収ピークは、レーザー照射後3分の時点で最大となり、10分の時点でほぼ消失した。
【0054】
一方、図5に示すように、繰り返し周波数が100Hzの場合、レーザーの照射により波長380nm近傍の吸収ピークが立ち上がった後、レーザーの照射時間の経過に伴って波長600nm近傍の吸収ピークが立ち上がることは、繰り返し周波数が1kHzの場合と同様であったが、レーザー照射後20分の時点においても、波長380nm近傍のピークは残存していた。繰り返し周波数が1kHzと100Hzとでは、100Hzの場合の方が、照射時間に対する吸収ピークの変化がマイルドであるといえるが、これは、同じ照射時間におけるレーザーの照射パルス数の差に基づくと考えられる。
【0055】
Mieの理論によれば、粒径10nmの銅のナノ粒子の表面プラズモン吸収は波長560nm近傍にある。また、ナノスケールの物質では、球体(即ち、アスペクト比=1)から、より高いアスペクト比への形状の変化により、表面プラズモン吸収が短波長側へ移動することが知られている。このことから、波長380nm近傍における吸収ピークは銅のナノワイヤーによるピークであり、波長600nm近傍における吸収ピークは銅のナノ粒子によるピークであると予想された。
【0056】
そこで、上記吸収スペクトルの評価とは別に、繰り返し周波数が1kHzの場合における、レーザーを照射してから1分、3分、5分、10分および20分経過後の各懸濁液内の物体の形状の評価を行った。当該評価は、各懸濁液から媒体を蒸発させて得られた残留物をSEMにより観察して行った。SEMによる評価結果を図7~図11に示す。図7~図11は、それぞれ、レーザー照射後1分、3分、5分、10分および20分の時点における懸濁液内の物体の形状を示している。
【0057】
図7~図11に示すように、レーザー照射後1分の時点(図7)において、無数のナノワイヤーが形成されていることがわかった。照射後3分(図8)では、わずかに残留する銅フレーク(図8における符号A)を除き、懸濁液内の物体のほぼ全部がナノワイヤーとなっており、照射後5分の時点(図9)では銅フレークはほぼ消失していた。図3と図7~9とを比較すると、図1に示すように、ストライプ状に配列した2以上の分割線によって、1つの粉体が3以上の短冊状に分割されたと考えられる。図7~9に示すように、各時点におけるナノワイヤーの長さおよび直径はほぼ均一である。
【0058】
一方、照射後10分の時点(図10)では、懸濁液内の物体からナノワイヤーがほぼ消失し、代わって懸濁液内の物体のほぼ全部がナノ粒子となった。照射後20分の時点(図11)では、照射後10分の時点とほぼ変化が見られなかった。
【0059】
また、レーザー照射後3分の時点における上記残留物からナノワイヤーを取り出し、当該ナノワイヤーの構成を、透過型電子顕微鏡(TEM)による電子線回折およびエネルギー分散X線分光(EDX)による元素分析により評価した。上記ナノワイヤーのTEM観察結果を図12、13に示す。また、図13において符号Cおよび符号Dで示される上記ナノワイヤーの各部分の電子線回折像を、それぞれ、図14Aおよび図14Bに示す。
【0060】
図12に示すように(図12における符号Bで示される物体が上記ナノワイヤーである)、棒状、かつ、表面が非常に滑らかなナノワイヤーが形成されていた。また、図13、14Aおよび14Bに示すように、上記ナノワイヤーは、無数の結晶粒(粒径にして数nm~20nm程度の範囲、平均粒径にして5~6nm)からなる多結晶体であった。
【0061】
図13において符号Cおよび符号Dで示される上記ナノワイヤーの各部分の組成をEDXによる元素分析により評価したところ、各部分ともCuからなることがわかった。即ち、懸濁液への上記レーザーの照射により、Cuの多結晶体からなる棒状のナノワイヤーが形成されたことがわかった。
【0062】
これらの結果から判断して、例えば、図6に示す両吸収ピークの変化と、図7~図11に示すSEMの結果とは非常によく合致しているなど、上述した予想はほぼ正しいことがわかった。図6の横軸である照射時間の区間「a」では、銅フレークの分割による銅ナノワイヤーの形成が行われ、区間「b」では、区間「a」で形成されたナノワイヤーの分割による銅ナノ粒子の形成が行われ、区間「c」では、銅フレークおよび銅ナノワイヤーがともに消費されることで銅ナノ粒子の形成が終了している、と考えられる。
【0063】
一方、繰り返し周波数が100Hzの場合は、図5に示すように、レーザー照射後20分の時点においても、波長380nm近傍の吸収ピークが増大しているため、当該時点においても銅ナノワイヤーの形成が続いていると考えられる。
【0064】
なお、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後5分の時点におけるナノワイヤーの一部には、その側面に、ナノワイヤーの分割により形成されたと考えられるナノ粒子が付着していた(図15参照。図15における符号Eがナノ粒子)。
【0065】
上述の各評価とは別に、レーザー(繰り返し周波数1kHz)を照射してから1分、3分および5分経過後に形成されたナノワイヤー、ならびに、レーザー(繰り返し周波数100Hz)を照射してから3分、5分、10分および20分経過後に形成されたナノワイヤーの平均長さと平均直径との評価を、SEMの観察像を解析することにより行った。解析に用いたナノワイヤーの数はn=15とし、平均長さおよび平均直径の各々において、その標準偏差を同時に算出した。
【0066】
評価結果を、以下の表1、2ならびに図16、17に示す。
【0067】
【表1】
JP0005062721B2_000002t.gif

【0068】
【表2】
JP0005062721B2_000003t.gif

【0069】
表1、2および図16、17に示すように、照射時間が長くなる、即ち、照射パルス数が増すに従い、形成されたナノワイヤーの平均長さおよび平均直径がともに大きくなることがわかった。これは、レーザーの照射により、ナノワイヤーがさらに分割されてナノ粒子が形成し、形成したナノ粒子がナノワイヤーに付着することが原因であると考えられる。
【0070】
また、繰り返し周波数によらず、同じ照射パルス数では、ほぼ同じ平均長さ、平均直径を有するナノワイヤーが形成されることがわかった。
【0071】
照射パルス数が60000未満では、形成されたナノワイヤーの平均長さおよび平均直径のそれぞれが、出発物質である銅フレークの平均径(およそ5μm)および平均厚さ(およそ100nm)以下であることがわかった。
【0072】
なお、表1、2に示す結果から算出すると、本実施例ではアスペクト比が20程度から最大60程度のナノワイヤーを形成でき、照射時間が長くなるに従って、形成されたナノワイヤーのアスペクト比が減少することがわかった。
【0073】
表1、2に示す標準偏差に着目すると、ナノワイヤーの平均長さが2μm~5μmの場合に、長さの標準偏差を1μm以下(場合によっては0.5μm以下)、選択されたナノワイヤーの平均長さが5μmを超える場合に、長さの標準偏差を2μm以下とすることができるとともに、選択されたナノワイヤーの平均直径が100nm以下の場合に20nm以下、選択されたナノワイヤーの平均直径が100nmを超える場合に、55nm以下とすることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、従来のナノワイヤーの製造方法とは全く異なる手法により、従来よりも簡便、かつ、形成するナノワイヤーのサイズや形状の制御がより容易である、ナノワイヤーの製造方法を提供できる。
【0075】
本発明の製造方法により形成されたナノワイヤーは、様々な分野への応用が期待される。例えば、銅など、電気伝導性に優れる金属元素を含むナノワイヤーは、超小型電子デバイスの配線や回路、あるいは、電界放出型ディスプレー用の電子放出源などへの応用が期待される。また例えば、銅-コバルト合金など、磁気特性に優れる合金を含むナノワイヤーは、情報記録媒体としての応用が期待される。また例えば、銅、白金など、化学工業の分野において、表面積の大きな触媒への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】粉体の分割によるナノワイヤーの形成を説明するための概念図である。
【図2】ナノワイヤーの分割によるナノ粒子の形成を説明するための概念図である。
【図3】実施例に用いた粉体(銅フレーク)を示す図である。
【図4】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)の照射時間に対する懸濁液の吸収スペクトルの変化を示す図である。
【図5】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数100Hz)の照射時間に対する懸濁液の吸収スペクトルの変化を示す図である。
【図6】図4に示す吸収スペクトルにおける、レーザーの照射時間に対する波長380nm近傍および波長600nm近傍の両ピークの変化を示す図である。
【図7】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後1分の時点における懸濁液内の物体を示す図である。
【図8】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後3分の時点における懸濁液内の物体を示す図である。
【図9】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後5分の時点における懸濁液内の物体を示す図である。
【図10】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後10分の時点における懸濁液内の物体を示す図である。
【図11】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後20分の時点における懸濁液内の物体を示す図である。
【図12】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後3分の時点で形成されたナノワイヤーを示す図である。
【図13】実施例で評価した、レーザー(繰り返し周波数1kHz)照射後3分の時点で形成されたナノワイヤーを示す図である。
【図14A】図13に示すナノワイヤーの符号Cで示される部分のTEMによる電子線回折像を示す図である。
【図14B】図13に示すナノワイヤーの符号Dで示される部分のTEMによる電子線回折像を示す図である。
【図15】実施例で評価した、側面にナノ粒子が付着したナノワイヤーを示す図である。
【図16】実施例で評価した、レーザーの照射パルス数に対するナノワイヤーの平均長さを示す図である。
【図17】実施例で評価した、レーザーの照射パルス数に対するナノワイヤーの平均直径を示す図である。
【図18】従来の方法で形成したナノワイヤーの一例を示す図である。
【図19】従来の方法で形成したナノワイヤーの一例を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図16】
5
【図17】
6
【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
10
【図10】
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【図11】
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【図12】
13
【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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