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明細書 :人工関節

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5742031号 (P5742031)
登録日 平成27年5月15日(2015.5.15)
発行日 平成27年7月1日(2015.7.1)
発明の名称または考案の名称 人工関節
国際特許分類 A61F   2/30        (2006.01)
FI A61F 2/30
請求項の数または発明の数 5
全頁数 30
出願番号 特願2011-537307 (P2011-537307)
出願日 平成22年10月21日(2010.10.21)
国際出願番号 PCT/JP2010/068616
国際公開番号 WO2011/049176
国際公開日 平成23年4月28日(2011.4.28)
優先権出願番号 2009244082
2010060129
優先日 平成21年10月23日(2009.10.23)
平成22年3月17日(2010.3.17)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年10月21日(2013.10.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】中西 義孝
【氏名】峠 睦
個別代理人の代理人 【識別番号】100080160、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 憲一郎
審査官 【審査官】宮崎 敏長
参考文献・文献 特開平07-299086(JP,A)
特開2008-220954(JP,A)
特表2000-508212(JP,A)
英国特許出願公告第1322680(GB,A)
調査した分野 A61F 2/28 - A61F 2/46
A61L 27/00
特許請求の範囲 【請求項1】
関節を構成する一対の関節部材を有し、該一対の関節部材間に、潤滑液を介して互いに接触した状態で相対的に摺動する一対の摩擦面を形成する人工関節であって、
前記一対の摩擦面のうち少なくとも一方の前記摩擦面は、
前記摩擦面の深さ方向に沿う断面視で前記摩擦面の表面側から前記深さ方向の奥側にかけて徐々に幅が狭くなるように鋭角状をなす斜面部を有する溝状および穴状の少なくともいずれかの凹部と、
該凹部を形成する前記斜面部と前記摩擦面の表面部を形成する面とを連続させる凸状の曲面として形成される曲面部と、
を有することを特徴とする人工関節。
【請求項2】
前記凹部の深さは、大きくてもサブミクロンサイズであることを特徴とする請求項1に記載の人工関節。
【請求項3】
前記一対の摩擦面のうち、一方の前記関節部材により形成される前記摩擦面は、金属材料により形成され、他方の前記関節部材により形成される前記摩擦面は、樹脂材料により形成されるものであり、
金属材料により形成される前記摩擦面に、前記凹部と前記曲面部とを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の人工関節。
【請求項4】
前記凹部は、サイズ、形状、および前記摩擦面における分布密度の少なくともいずれかの調整により、前記摩擦面から生じる摩耗粉の量、サイズ、および形状の少なくともいずれかをコントロールするための形状部分として用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の人工関節。
【請求項5】
前記凹部は、前記摩擦面から生じる摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となるように形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の人工関節。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節に関し、詳細には、人工関節が有する摩擦面(摺動面)の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
人工関節は、互いに接触した状態で相対的に摺動する摩擦面(摺動面)を有する。具体的には、人工関節は、互いに連結されることで関節を構成する一対の関節部材を有し、関節部材同士の連結部分における接触面が、関節の動きにともなって潤滑液を介して摺動する摩擦面となる。人工関節における摩擦面を形成する摩擦材料の組み合わせとしては、ポリエチレン等の樹脂材料と、金属やセラミックス等の硬質材料との組み合わせが選択されることが多い。
【0003】
このため、人工関節の摩擦面においては、硬質材料に対して軟質な樹脂側の摩擦材料の摩耗が問題となる。そこで、従来、硬質材料の表面粗さを低下させることや、摩擦面における親水・疎水特性の改善等が行われている。また、硬質材料については、アルミナおよびジルコニア系セラミックスの優位性が例証されている一方で、これらの材料が有する低靭性という特性ゆえの破壊問題が現実問題として起きている。かかる観点から、硬質材料としては、高靭性・延性能力を有する金属材料のフェイルセイフ的特徴を見逃すことはできない。
【0004】
特に、人工関節の一種である人工股関節においては、凹曲面を形成するカップ状の部分に凸曲面を形成するボール状の部分が嵌り込むという連結構造が一般的であることから、摩擦面の形状が単純である。このため、人工股関節においては、摩擦面となる凹曲面と凸曲面との間における径方向の隙間の寸法や摩擦面の表面粗さ等の最適調整によって、摩耗を抑制することが試みられている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、人工股関節においては、現実問題として、人工股関節の使用者の長期立脚時等、摩擦面間において潤滑液により形成される流体膜が破断する機会が多々あるため、摩擦面における潤滑特性の改善や流体膜の速やかな再形成が必要である。
【0005】
また、人工関節において摩擦材料の摩耗を抑制するための技術として、摩擦面に溝状の凹部を形成する技術がある(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2の技術では、摩擦面に形成される凹部は、硬質材料側の摩擦面に固体潤滑膜としての薄膜を形成する合成樹脂を埋設するためや、樹脂の摩耗粉を潤滑液によって流し込むための部分として用いられている。
【0006】
このように、人工関節においては、摩擦材料、特にポリエチレン等の樹脂材料の摩耗を抑制することが課題として存在している。そして、従来は、摩擦材料の摩耗による擦り減りが、人工関節の寿命を決定づける主な要因であった。
【0007】
人工関節における摩擦材料の摩耗に対する対策としては、摩擦材料であるポリエチレン等の樹脂材料の特性の改善や、摩擦面において局部的に接触圧力が高い箇所が発生することを防止する観点からの摩擦材料の形状デザインの改善等が行われた。樹脂材料の特性の改善としては、具体的には、樹脂材料の高分子化や、ガンマ線を照射すること等による樹脂材料の架橋化を図ること等が行われた。また、摩擦材料の形状デザインについては、摩擦面における接触圧力が均一的にかつ低くなるような形状デザインが採用された。このような摩擦材料の摩耗に対する対策により、人工関節における摩擦材料の摩耗が抑制され、摩擦材料の摩耗による擦り減りを原因とする人工関節の寿命の低下の問題は、現状ほぼ解消されている。
【0008】
しかしながら、上記のような摩耗に対する対策、主に樹脂材料の特性の改善にともない、人工関節の摩擦面から摩耗により生じる摩耗粉のサイズが小さくなるという現象が生じた。実際、人工関節の摩擦面からは、数μmからサブミクロンサイズ程度の摩耗粉が生じることがわかっている。このように摩耗粉のサイズが小さくなることは、人工関節を保有する体内において好ましくない生体反応(生体活性)を誘発する。
【0009】
具体的には、人工関節の摩擦面からポリエチレン等の微少な摩耗粉が生じると、その摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象となる。摩耗粉を貪食したマクロファージは、細胞内シグナル伝達を経てTNF-α、IL-6等の炎症性サイトカインを放出する。マクロファージから放出される炎症性サイトカインは、破骨細胞を活性化し、人工関節の周囲で炎症をともなう骨融解を生じさせる。人工関節周囲で生じる骨融解は、人工関節再置換術の原因となる人工関節の緩み(ルースニング)を生じさせる。人工関節再置換術は、患者にとって大きな負担となり、その負担は、高齢者の患者にとっては特に大きい。
【0010】
このような摩耗粉による生体活性に関しては、摩耗粉のサイズが生体活性の程度に大きく影響することが判明している(例えば、非特許文献1参照。)。過去の研究等によれば、摩耗粉のサイズが1μm程度よりも小さくなると、マクロファージによる生体活性が顕著となる。
【0011】
そこで、摩耗粉による生体活性を抑制するための方法として、摩擦面から生じる摩耗粉のサイズを大きくすること、および、個々の摩耗粉の重量は維持しつつ、摩耗粉の形態を生体活性が起こらないような形態にすることが考えられる。前者の方法としては、例えば、複数の摩耗粉を凝集させ、あるいは一体化させることにより、摩耗粉を大きな塊となるようにする。また、後者の方法としては、例えば、摩耗粉の形状を、マクロファージに貪食されない程度の長さを有する細長い形状にしたり、摩耗粉を綿埃のような形状にすることで摩耗粉の密度を下げ、摩耗粉の見かけのサイズをマクロファージに貪食されない程度のサイズにしたりする。
【0012】
これらの方法を実施するためには、前述したように樹脂材料の特性を変えたり、摩擦材料の形状を変えたりすることは有効ではない。実際、ポリエチレンと架橋ポリエチレンとを同じ摩擦条件のもとで分析すると、摩耗粉のサイズについては、架橋ポリエチレンの方が小さめではあるものの、摩耗粉のアスペクト比や真円度等、摩耗粉の形態に関する値は、ポリエチレンと架橋ポリエチレンとで同程度である。また、摩擦材料の形状の面から摩擦の状態が異なる人工股関節と人工膝関節との関係においても、ポリエチレンと架橋ポリエチレンとの関係と同様に、摩耗粉のサイズについては差があるものの、摩耗粉の形態に関する値は同程度である。
【0013】
また、摩擦面から生じる摩耗粉のサイズを大きくする方法としては、ポリエチレン等の樹脂材料の相手方の摩擦材料である金属等の硬質材料側の摩擦面を、傷を付けること等によって粗くすることで、樹脂材料の摩耗粉が大きくなるようにする方法がある。このように硬質材料側の摩擦面を粗くする方法によれば、マクロファージの貪食の対象になりやすい0.1-1.0μmのサイズの摩耗粉の数・量は減り、個々の摩耗粉による生体活性は減るものの、摩耗粉の総数・総量は数倍程度に増加し、結果的に全体的な生体活性は増大するという研究結果が得られている。
【0014】
ここで、人工関節における摩擦面の表面粗さと摩耗量との関連性についての考察を加える。人工関節の摩擦面の環境は、摩擦面間を湿潤状態とする体液・二次関節液の粘度が低いこと、摩擦面間の荷重が大きい(例えば体重の3.5倍程度)ことから、ウエットというよりもドライに近い環境であるといえる。このため、摩擦面の表面粗さが大きくなると、切削性の摩耗が支配的となることで、摩耗量が増加し、摩擦面の表面粗さが小さくなると、凝着性の摩耗が支配的となることで、摩耗量が増加する。つまり、ドライに近い摩擦面環境においては、摩擦面の表面が滑らかなほど摩耗量が減少するということではなく、摩擦面の表面粗さについて摩耗量が少なくなる最適な値の範囲が存在する。現在、多くの人工関節は、硬質材料側の摩擦面の表面粗さがRaの値で0.02~0.2μmの範囲となるように製造されている。
【0015】
以上のように、現在では、摩耗粉の微細化にともなうマクロファージによる生体反応の発生が、従来における摩擦材料の摩耗による擦り減りに代わり、人工関節の寿命を決定づける主な要因となっている。そして、摩耗粉による生体活性を抑制するためには、樹脂材料の特性や摩擦材料の形状の改善、あるいはRaの値等で表記できる摩擦面の表面粗さの調整によっては限界がある。とりわけ、摩擦面の表面粗さについては、摩擦面の環境が完全なウエットの状態であれば、摩耗粉を発生させる摩擦材料の摩耗を抑制する観点からは、Raの値は小さければ小さいほど好ましいが、人工関節では、上記のとおり摩擦面間に存在する体液等の粘度が低いこと等の理由から、摩擦面において完全にウエットの環境を実現することは困難である。
【先行技術文献】
【0016】

【特許文献1】特表2000-508212号公報
【特許文献2】特開平7-299086号公報
【0017】

【非特許文献1】J.Bridget Matthews,Alfred A.Besong,Tim R.Green,Martin H.Stone,B.Mike Wroblewski,John Fisher,Eileen Ingham:Evaluation of the Response of Primary Human Peripheral Blood Mononuclear Phagocytes to Challenge with In Vitro Generated Clinically Relevant UHMWPE Particles of Known Size and Dose,Journal of Biomedical Material Research,296-307,2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記のような背景技術に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、摩擦材料の摩耗を抑制することができるとともに、摩擦面から生じる摩耗粉による生体活性を抑制することができる人工関節を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の人工関節は、関節を構成する一対の関節部材を有し、該一対の関節部材間に、潤滑液を介して互いに接触した状態で相対的に摺動する一対の摩擦面を形成する人工関節であって、前記一対の摩擦面のうち少なくとも一方の前記摩擦面は、前記摩擦面の深さ方向に沿う断面視で前記摩擦面の表面側から前記深さ方向の奥側にかけて徐々に幅が狭くなるように鋭角状をなす斜面部を有する溝状および穴状の少なくともいずれかの凹部と、該凹部を形成する前記斜面部と前記摩擦面の表面部を形成する面とを連続させる凸状の曲面として形成される曲面部と、を有するものである。
【0020】
また、本発明の人工関節においては、好ましくは、前記凹部の深さは、大きくてもサブミクロンサイズであるものである。
【0021】
また、本発明の人工関節においては、好ましくは、前記一対の摩擦面のうち、一方の前記関節部材により形成される前記摩擦面は、金属材料により形成され、他方の前記関節部材により形成される前記摩擦面は、樹脂材料により形成されるものであり、金属材料により形成される前記摩擦面に、前記凹部と前記曲面部とを有するものである。
【0022】
また、本発明の人工関節においては、好ましくは、前記凹部は、サイズ、形状、および前記摩擦面における分布密度の少なくともいずれかの調整により、前記摩擦面から生じる摩耗粉の量、サイズ、および形状の少なくともいずれかをコントロールするための形状部分として用いられるものである。
【0023】
また、本発明の人工関節においては、好ましくは、前記凹部は、前記摩擦面から生じる摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となるように形成されているものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、摩擦材料の摩耗を抑制することができるとともに、摩擦面から生じる摩耗粉による生体活性を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る摩擦面構造を示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る摩擦面の加工方法の一例についての説明図。
【図3】本発明の一実施形態に係る摩擦面構造の他の例を示す断面図。
【図4】本発明の一実施形態に係る人工関節の構成を示す図。
【図5】本発明の一実施形態に係る人工関節における摩擦面構造を示す断面図。
【図6】本発明の実施例に係る試験装置の概略を示す図。
【図7】本発明の実施例に係る潤滑液の内容の表を示す図。
【図8】本発明の実施例に係る第一の比較例品の表面解析結果を示す図。
【図9】本発明の実施例に係る第二の比較例品の表面解析結果を示す図。
【図10】本発明の実施例に係る第三の比較例品の表面解析結果を示す図。
【図11】本発明の実施例に係る第一の実施例品の表面解析結果を示す図。
【図12】本発明の実施例に係る第二の実施例品の表面解析結果を示す図。
【図13】本発明の実施例に係る第三の実施例品の表面解析結果を示す図。
【図14】本発明の実施例に係るスクラッチ痕の表面解析結果を示す図。
【図15】本発明の実施例に係る実験中の摩擦係数の推移の計測結果の一例を示す図。
【図16】本発明の実施例に係る切削性摩耗についての説明図。
【図17】本発明の実施例に係る凝着性摩耗についての説明図。
【図18】本発明の実施例に係る実験後の超高分子量ポリエチレンの摩耗重量の計測結果の一例を示す図。
【図19】本発明の実施例に係る摩擦面の顕微鏡写真の一例を示す図。
【図20】本発明の実施例に係る摩擦面の顕微鏡写真の一例を示す図。
【図21】本発明の実施例に係る第一の比較例品に対応する超高分子量ポリエチレンの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図22】本発明の実施例に係る第二の比較例品に対応する超高分子量ポリエチレンの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図23】本発明の実施例に係る第三の比較例品に対応する超高分子量ポリエチレンの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図24】本発明の実施例に係る第一の実施例品に対応する超高分子量ポリエチレンの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図25】本発明の実施例に係る第二の実施例品に対応する超高分子量ポリエチレンの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図26】本発明の実施例に係る第三の実施例品に対応する超高分子量ポリエチレンの表面の顕微鏡写真を示す図。
【図27】本発明の実施例に係る凹部の作用についての説明図。
【図28】本発明の実施例に係る凹部の作用についての説明図。
【図29】本発明の実施例に係る凹部の作用についての説明図。
【図30】本発明の実施例に係る摩耗粉の観察例としての顕微鏡写真を示す図。
【図31】本発明の実施例に係る摩擦面の表面粗さと摩耗粉の粒径との関係を示す図。
【図32】本発明の実施例に係る摩擦面の表面粗さと摩耗粉の形態との関係を示す図。
【図33】本発明の実施例に係る摩擦面の表面粗さと総摩耗量との関係を示す図。
【図34】本発明の実施例に係る凹部の量と摩耗粉の粒径との関係を示す図。
【図35】本発明の実施例に係る凹部の存在比率と摩耗粉の形態との関係を示す図。
【図36】本発明の実施例に係る凹部の深さと総摩耗量との関係を示す図。
【図37】本発明の実施例に係る凹部の広さと総摩耗量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、人工関節において関節を構成する部材間の摺動面等の摩擦面の形状を工夫することにより、摩擦面における摩耗を低減させるとともに、摩擦面の微細形状(テクスチャ)を制御することにより摩耗のメカニズムを変化させることで、摩擦面から生じる摩耗粉の形態を制御し、マクロファージが摩耗粉を貪食することによる生体活性の上昇を抑制しようとするものである。以下、本発明の実施の形態について説明する。

【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る摩擦面構造は、他の部材に対して潤滑液を介して接触した状態で相対的に摺動する摩擦面1を形成する。つまり、摩擦面1は、所定の部材の表面として形成されるものであり、他の部材により形成される相手側の摩擦面(以下「相手側摩擦面」という。)2に接触した状態で、互いに接触する部材間の相対的な移動によって相手側摩擦面2に対して摺動する。なお、摩擦面1について「潤滑液を介して接触した状態」とは、摩擦面1が他の部材との間に潤滑液を介在させるとともに、摩擦面1と他の部材との間に若干の隙間が存在する状態も含む。摩擦面1は、溝状の凹部3と、曲面部4とを有する。

【0028】
凹部3は、摩擦面1の表面側(図1における上側)から内部側(同図における下側)にかけて徐々に幅が狭くなるように形成される。凹部3は、図1の紙面に対して垂直方向に延びる溝部を形成する。凹部3においては、幅方向(図1における左右方向)の寸法が、深さ方向の奥側(同図における下側)にかけて徐々に狭くなる。

【0029】
本実施形態では、凹部3は、図1に示すような断面視で、底側(深さ方向の奥側)にかけて幅方向の寸法が徐々に狭くなる鋭角状に形成される。したがって、凹部3は、図1に示すような断面視において底側の部分で交わる一対の斜面部3aを有する。

【0030】
また、本実施形態では、凹部3は、摩擦面1において、直線状の溝部として形成されるとともに、ランダムな配置で多数形成される。したがって、凹部3は、摩擦面1において、他の凹部3と交わったり、他の凹部3と交わることなく独立して存在したりする。なお、凹部3は、曲線状の溝部として形成されてもよく、また、複数の凹部3は、所定の方向性を持って形成されてもよい。また、凹部3は、穴状に形成されるものであってもよい。凹部3が穴状に形成される場合、摩擦面1の表面に多数のドット状の凹部3が形成されることとなる。さらに、凹部3としては、溝状に形成されるものと穴状に形成されるものとが混在してもよい。つまり、凹部3は、溝状および穴状の少なくともいずれかの形状部分として形成される。

【0031】
曲面部4は、凹部3を形成する面と摩擦面1の表面部を形成する面とを滑らかに繋ぐ。本実施形態では、図1に示すように、摩擦面1の表面部は、摩擦面1の面形状に沿う平面部5により形成される。したがって、曲面部4は、凹部3を形成する斜面部3aと平面部5との稜線部分において、斜面部3aと平面部5とを滑らかに連続させる凸状の曲面として形成される。

【0032】
このように、凹部3と曲面部4とを有する摩擦面1においては、平面部5の周囲に、曲面部4を介して凹部3が形成される。言い換えると、複数の凹部3の間の部分に、曲面部4を介して平面部5が形成される。つまり、摩擦面1は、複数の凹部3を有することにより、斜面部3aと曲面部4と平面部5とにより形成される凸部6を有する。

【0033】
摩擦面1の各部を形成する面は、例えば、超精密テクスチャ加工が施された金属材料の表面の一般的な表面粗さ(表面粗さを示すRaの値が約0.01μm)との比較において、十分にスムースな(Raの値が小さい)表面粗さに加工される。

【0034】
また、本実施形態では、凹部3は、斜面部3aを有することで底側にかけて連続的に幅が狭くなるように形成されているが、例えば階段状等として段階的に幅が狭くなるように形成されてもよい。つまり、溝状または穴状の凹部3としては、底側にかけて連続的にまたは段階的に幅が狭くなるように形成されるものであればよい。

【0035】
本実施形態に係る摩擦面1を形成するための加工方法の一例について説明する。本例に係る加工方法は、摩擦面1を有する摩擦材料として例えばCo-Cr(コバルトクロム)系合金等の金属材料が採用される場合に好適に用いられる。

【0036】
本例に係る加工方法においては、まず、ラッピング加工を行う工程が行われる。ラッピング加工は、ラッピング用の定盤と加工対象である摩擦材料とが、互いの間にダイヤモンド砥粒と研磨剤とを介在させた状態でこすり合わせながら回転させられ、摩擦材料が微小切削により研磨されることで行われる。ラッピング加工により、図2(a)に示すように、摩擦材料の表面に、多数の凹部3が形成される。つまり、ラッピング加工が行われることで、摩擦材料の表面において、凹部3を形成する斜面部3aと平面部5とを有する複数の凸部6aが形成される。

【0037】
次に、ポリシング加工(鏡面加工)を行う工程が行われる。ポリシング加工は、ポリシング用の定盤と微粉砥粒とが用いられ、ラッピング加工よりも高度な研磨として行われる。ポリシング加工により、図2(b)に示すように、凹部3を形成する斜面部3aと平面部5との稜線部のエッジ部分(同図(a)参照)が研磨によって削られ、曲面部4が形成される。つまり、ポリシング加工が行われることで、摩擦材料の表面において、凹部3を形成する斜面部3aと曲面部4と平面部5とを有する複数の凸部6が形成される。

【0038】
このように、本例に係る加工方法においては、主にラッピング加工とポリシング加工との二段階の工程が行われることにより、凹部3と曲面部4とを有する摩擦面1が得られる。なお、摩擦面1を形成するための加工方法は特に限定されるものではない。摩擦面1を形成するための加工方法としては、摩擦面1を有する摩擦材料の種類や、凹部3および曲面部4の形状・大きさや、摩擦面1における凹部3の密度等によって適宜の方法が採用される。摩擦面1を形成するための加工方法としては、上記の例のほか、例えば成形用の型を用いる方法等が考えられる。

【0039】
また、本実施形態に係る摩擦面構造においては、図3に示すように、凸部6は、斜面部3aに連続するとともに凸部6を形成する曲面部4同士が連続するような構成であってもよい。つまりこの場合、凸部6が、平面部5を有することなく、凹部3の斜面部3aと曲面部4とによって全体として丸みをおびた山型の形状を有する。したがって、図3に示すような摩擦面構造においては、凸部6の頂点部分が摩擦面1の表面部となり、曲面部4は、凹部3を形成する斜面部3aと凸部6の頂点部分とを滑らかに繋ぐ。また、摩擦面1においては、平面部5を有する凸部6(図1参照)と平面部5を有しない凸部6(図3参照)とが混在していてもよい。

【0040】
また、摩擦面1において、凹部3の深さは、大きくてもサブミクロンサイズであることが好ましい。つまり、溝状または穴状の凹部3は、その溝深さまたは穴深さが0.1~1.0μmの深さに形成されることが好ましい。より好ましくは、凹部3は、0.1μm以下の深さに形成される。ここで、凹部3の深さとしては、例えば、摩擦面1の表面部に沿う(複数の凸部6の平面部5または頂点部分を通る)仮想平面に対して垂直な方向について、前記仮想平面から凹部3の底部(図1に示すような断面視において二つの斜面部3aにより形成される頂点部)までの寸法の大きさが採用される。

【0041】
以上のような本実施形態に係る摩擦面1によれば、摩擦面間の潤滑液の停留を促進させることができ、摩擦材料の摩耗を抑制することができる。具体的には、摩擦面1と相手側摩擦面2との間に介在する潤滑液を凹部3によって保持することができるので、摩擦面1および相手側摩擦面2それぞれを形成する摩擦材料の摩耗を抑制することができる。また、摩擦面1は凹部3とともに曲面部4を有することから、単に平面部に凹部が形成された場合の構造との比較において、摩耗量を低減することができる。すなわち、単に平面部に凹部が形成される構造においては、平面部と凹部との稜線部分に形成されるエッジによる引っ掻き作用によって切削性の摩耗が生じやすくなるが、本実施形態に係る摩擦面1によれば、凹部3を形成する斜面部3aと摩擦面1の表面部との間に曲面部4が存在することにより、切削性の摩耗が防止され、摩耗量が低減する。

【0042】
また、本実施形態に係る摩擦面1によれば、凹部3の深さや幅の寸法等を調整することにより、摩擦面1と相手側摩擦面2との摩擦によって生じる摩耗粉の量、サイズ、および形状をコントロールすることが可能となる。つまり、本実施形態の摩擦面1においては、凹部3は、サイズ、形状、および摩擦面1における分布密度の少なくともいずれかの調整により、摩耗粉の量、サイズ、および形状の少なくともいずれかをコントロールするための形状部分として用いられる。

【0043】
具体的には、例えば、摩擦面1を形成する摩擦材料が金属材料であり、相手側摩擦面2を形成する摩擦材料が樹脂材料である場合、凹部3と曲面部4とを有する構造により、相手側摩擦面2の摩耗粉として、針状の形状を有する摩耗粉が得られる。なお、摩耗粉のサイズ等をコントロールするための形状部分としては、凹部3だけに限らず曲面部4が用いられてもよい。この場合、曲面部4の形状や寸法等が調整されることで、摩耗粉のサイズ等がコントロールされる。

【0044】
本実施形態に係る摩擦面1によって摩耗粉が針状となるメカニズムは必ずしも明らかではないが、凹部3の深さや幅の寸法等を調整することで、針状の摩耗粉の長さや太さ等のコントロールが可能になると考えられる。このように摩耗粉の形状が針状となることは、本実施形態に係る摩擦面1が人工関節における摩擦面に適用された場合に、摩耗粉が球状に近い形状である場合との比較において、マクロファージによる食作用等の生体反応を抑制することができるという点で有効となる。つまり、本実施形態に係る摩擦面1によれば、凹部3および曲面部4を有しない従来の摩擦面から摩耗のメカニズムを変化させることで、摩擦面から生じる摩耗粉の形態をコントロールし、マクロファージが摩耗粉を貪食することによる生体活性を抑制することができる。

【0045】
本実施形態に係る摩擦面1は、例えば回転可能に設けられる軸状の部材とこれを支持する軸受とを含む軸受構造や、互いに連結されることで関節を構成する一対の関節部材を有する人工関節や、整形外科用インプラント材料等の種々の機構における摩擦面として適用可能である。したがって、本実施形態に係る摩擦面1を形成する摩擦材料としては、金属材料、樹脂材料、セラミックス等の種々の材料が適用可能である。また、本実施形態に係る摩擦面1は、凹部3等によって潤滑液の保持性が向上することから、例えば自動車における車軸等の回転部の軸受構造において適用された場合、低速運転時や回転停止状態からの始動時等の、回転部が比較的低速で回転している状態において、潤滑液としての潤滑油により形成される油膜の保持や形成に有利となる。

【0046】
続いて、本発明に係る人工関節について説明する。本実施形態では、人工関節として人工股関節を例に説明する。

【0047】
図4に示すように、本実施形態に係る人工股関節10は、互いに連結されることで関節を構成する一対の関節部材として、人工骨頭であるボール20と、人工臼蓋であるカップ30とを有する。ボール20は、球面状の凸曲面21を有し、カップ30は、凸曲面21に対応する内球面状の凹曲面31を有する。ボール20において凸曲面21を形成する部分が、カップ30において凹曲面31を形成する凹状の部分に嵌ることで、ボール20とカップ30とが連結される。

【0048】
ボール20は、凸曲面21を形成する骨頭部20aと、骨頭部20aから幹状(軸状)に突出する幹部20bとを有する。ボール20は、幹部20bの部分が人体における大腿骨の部分に骨セメント等によって固定されることで、大腿骨に固定される。カップ30は、凹曲面31の反対側である外側の部分が人体における骨盤側に形成される凹部に対して骨セメント等によって固定されることで、骨盤側に固定される。

【0049】
互いに連結された状態のボール20とカップ30とは、凸曲面21および凹曲面31を摩擦面として、これらの曲面に沿って相対的に移動する。これにより、人工股関節10は、カップ30が固定される骨盤側に対して、ボール20が固定される大腿骨を可動に連結することで関節として機能する。

【0050】
図5に示すように、人工股関節10においては、互いに対向する凸曲面21と凹曲面31との間には、体液等の潤滑液40が存在する。つまり、凸曲面21と凹曲面31との間には、潤滑液40によって潤滑性の液膜が形成される。このように、人工股関節10は、一対の関節部材間となるボール20とカップ30との間に、潤滑液40を介して互いに接触した状態で相対的に摺動する一対の摩擦面として凸曲面21および凹曲面31を形成する。なお、凸曲面21および凹曲面31について「潤滑液40を介して互いに接触した状態」とは、凸曲面21と凹曲面31とが互いの間に潤滑液40を介在させるとともに、凸曲面21と凹曲面31との間に若干の隙間が存在する状態も含む。

【0051】
また、本実施形態の人工股関節10においては、一対の摩擦面である凸曲面21および凹曲面31のうち、一方の関節部材であるボール20により形成される凸曲面21は、金属材料により形成され、他方の関節部材であるカップ30により形成される凹曲面31は、樹脂材料により形成される。

【0052】
具体的には、人工股関節10において、ボール20を構成する材料としては、例えばTi(チタン)、Ti(チタン)合金、Co-Cr(コバルトクロム)系合金、ステンレス鋼等の生体適合性を有する金属材料が用いられる。また、カップ30を構成する材料としては、例えば超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリアセタール、アクリル等の生体適合性を有する樹脂材料が用いられる。

【0053】
以上のように構成される人工股関節10は、ボール20側に形成される摩擦面である凸曲面21において前述したような摩擦面構造を備える。したがって、図5に示すように、人工股関節10は、金属材料により形成される凸曲面21に、凹部23と曲面部24とを有する。

【0054】
凹部23は、凸曲面21の表面側(図5における上側)から内部側(同図における下側)にかけて徐々に幅が狭くなるように形成される。凹部23は、図5の紙面に対して垂直方向に延びる溝部を形成する。凹部23においては、幅方向(図5における左右方向)の寸法が、深さ方向の奥側(同図における下側)にかけて徐々に狭くなる。

【0055】
本実施形態では、凹部23は、図5に示すような断面視で、底側(深さ方向の奥側)にかけて幅方向の寸法が徐々に狭くなる鋭角状に形成される。したがって、凹部23は、図5に示すような断面視において底側の部分で交わる一対の斜面部23aを有する。

【0056】
また、本実施形態では、凹部23は、凸曲面21において、直線状の溝部として形成されるとともに、ランダムな配置で多数形成される。したがって、凹部23は、凸曲面21において、他の凹部23と交わったり、他の凹部23と交わることなく独立して存在したりする。なお、凹部23は、曲線状の溝部として形成されてもよく、また、複数の凹部23は、所定の方向性を持って形成されてもよい。また、凹部23は、穴状に形成されるものであってもよい。凹部23が穴状に形成される場合、凸曲面21の表面に多数のドット状の凹部23が形成されることとなる。さらに、凹部23としては、溝状に形成されるものと穴状に形成されるものとが混在してもよい。つまり、凹部23は、溝状および穴状の少なくともいずれかの形状部分として形成される。

【0057】
曲面部24は、凹部23を形成する面と凸曲面21の表面部を形成する面とを滑らかに繋ぐ。図5に示すように、凸曲面21は、凹部23の斜面部23aと曲面部24とにより形成される凸部26を有する。凸部26は、斜面部23aに連続するとともに凸部26を形成する曲面部24同士が連続することで構成される。つまり、凸部26は、凹部23の斜面部23aと曲面部24とによって全体として丸みをおびた山型の形状を有する。したがって、本実施形態では、凸部26の頂点部分が凸曲面21の表面部となり、曲面部24は、凹部23を形成する斜面部23aと凸部26の頂点部分とを滑らかに繋ぐ。

【0058】
なお、凸曲面21においては、凸曲面21の面形状に沿う平面部(図1、平面部5参照)が形成されてもよい。この場合、凸曲面21の表面部は、凸曲面21の面形状に沿う平面部により形成され、曲面部24は、凹部23を形成する斜面部23aと平面部との稜線部分において、斜面部23aと平面部とを滑らかに連続させる凸状の曲面として形成される。

【0059】
凸曲面21が有する凹部23および曲面部24は、前述したように、例えばラッピング加工を行う工程とポリシング加工を行う工程とを含む加工方法により形成される。また、凸曲面21の各部を形成する面は、例えば、超精密テクスチャ加工が施された金属材料の表面の一般的な表面粗さとの比較において、十分にスムースな表面粗さに加工される。また、凸曲面21において、凹部23の深さは、前述したように摩擦面1を形成する摩擦面構造における凹部3の深さと同様に、大きくてもサブミクロンサイズであることが好ましい。

【0060】
本実施形態の人工股関節10によれば、凹部23によって凸曲面21と凹曲面31との間の潤滑液40の停留を促進させることができ、摩耗材料の摩耗、特に凸曲面21を形成する金属材料に対して軟質な樹脂材料によって形成される凹曲面31の摩耗を効果的に抑制することができる。また、凸曲面21は凹部23とともに曲面部24を有することから、単に平面部に凹部が形成された場合の構造との比較において、凹曲面31において発生する切削性の摩耗が防止され、摩耗量を低減することができる。これにより、人工関節において問題となる耐用年数を延長させることが可能となる。

【0061】
また、本実施形態に係る人工股関節10によれば、凸曲面21における凹部23の深さや幅の寸法等を調整することにより、凸曲面21と凹曲面31との摩擦によって生じる摩耗粉の量、サイズ、および形状をコントロールすることが可能となる。つまり、本実施形態の人工股関節10においては、凹部23は、サイズ、形状、および摩擦面である凸曲面21における分布密度の少なくともいずれかの調整により、摩擦面から生じる摩耗粉の量、サイズ、および形状の少なくともいずれかをコントロールするための形状部分として用いられる。

【0062】
このように凹部23が摩耗粉のサイズ等をコントロールするための形状部分として用いられることで、摩耗粉の量、サイズ、および形状を容易にコントロールすることが可能となる。これにより、上述のとおり摩擦面の表面粗さについて摩耗量が少なくなる最適な範囲を選択するとともに、凹部23のサイズ等の調整によって摩耗粉の量をコントロールすることが可能であるので、効果的に摩耗量を低減することができる。また、凹部23のサイズ等の調整による摩耗粉のサイズのコントロールにより、マクロファージが摩耗粉を貪食することにより生じる生体活性を抑制することができる。

【0063】
したがって、本実施形態の人工股関節10においては、凹部23のサイズ等の調整により、例えば、摩耗粉が、マクロファージが貪食することができない程度の大きさにコントロールされる。なお、摩耗粉のサイズ等をコントロールするための形状部分としては、凹部23だけに限らず曲面部24が用いられてもよい。この場合、曲面部24の形状や寸法等が調整されることで、摩耗粉のサイズ等がコントロールされる。

【0064】
本実施形態の人工股関節10においては、凹部23のサイズ等の調整により、例えば、樹脂材料により形成される凹曲面31の摩耗粉として、針状の形状を有する摩耗粉が得られる。このように摩耗粉の形状が針状となることは、人工股関節10において、摩耗粉が球状に近い形状である場合との比較において、マクロファージによる食作用等の生体反応を抑制することができるという点で有効となる。つまり、本実施形態に係る人工股関節10によれば、摩擦面に凹部23および曲面部24を有しない従来の人工股関節から摩耗のメカニズムを変化させることで、摩擦面から生じる摩耗粉の形態をコントロールし、マクロファージが摩耗粉を貪食することによる生体活性を抑制することができる。

【0065】
したがって、本実施形態に係る人工股関節10においては、凹部23は、摩擦面から生じる摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となるように形成されていることが好ましい。ここで、人工股関節10の摩擦面から生じる摩耗粉は、主に金属材料の凸曲面21の摩擦作用により樹脂材料の凹曲面31が摩耗することによって生じる摩耗粉である。つまり、本実施形態の人工股関節10によれば、摩擦面から生じる摩耗粉が、マクロファージにより貪食されないようなサイズ・形状のものとして発生する。

【0066】
凸曲面21と凹曲面31との摩擦によって生じる摩耗粉のサイズ・形状は、凸曲面21に形成される凹部23の深さや幅の寸法等を調整することによりコントロールされる。そこで、本実施形態の人工股関節10においては、凹部23の深さや幅の寸法等の調整により、人工股関節10において発生する摩耗粉のサイズ・形状が、人工股関節10を利用する患者の体内においてマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となるようにコントロールされる。なお、摩耗粉のサイズ等をコントロールするためには、凸曲面21における曲面部24の形状や寸法等が調整されてもよい。

【0067】
ここで、摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となることには、摩耗粉が次のような状態となることが含まれる。まず、複数の摩耗粉が凝集したり一体化したりして塊となることで、摩耗粉のサイズ自体がマクロファージが貪食できない程度に大きくなることである。また、摩耗粉が例えば長細い針状の形状のように、少なくとも一部にマクロファージが貪食できない程度に大きい寸法の部分を有するこことである。また、摩耗粉が綿埃のような形状となることで密度を下げ、摩耗粉の見かけのサイズがマクロファージが貪食できない程度のサイズになることである。

【0068】
摩耗粉の具体的なサイズ・形状としては、具体的には、例えば、摩耗粉の見かけのサイズを含め、球状の摩耗粉の場合は、直径が1μmよりも大きい摩耗粉が、マクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状の摩耗粉であるといえる。同様に、例えば、針状のように細長い形状の摩耗粉の場合は、その長さが1μmよりも大きい摩耗粉が、マクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状の摩耗粉であるといえる。

【0069】
このように、凹部23が、摩擦面から生じる摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となるように形成されることで、マクロファージが人工股関節10から生じる摩耗粉を貪食することにより生じる生体活性を効果的に抑制することができる。これにより、人工股関節10の緩みの原因となる人工股関節10周囲の骨融解を抑制することができる。結果として、人工股関節10の寿命を長くすることができ、人工股関節10を利用する患者の負担となる人工股関節10の再置換術を極力少なくすることができる。

【0070】
なお、本実施形態では、人工関節として人工股関節10を例に説明したが、本発明は人工股関節のほか、人工膝関節や人工肘関節等の種々の人工関節に適用可能である。また、本発明に係る人工関節において一対の摩擦面を形成する摩擦材料の組み合わせとしては、金属材料と樹脂材料との組み合わせのほか、金属材料同士や樹脂材料同士、あるいはセラミックスを含む組み合わせ等であってもよい。さらに、凹部23および曲面部24を有する凸曲面21のような摩擦面構造は、人工関節において形成される一対の摩擦面のうち少なくとも一方の摩擦面に備えられればよい。

【0071】
以下では、本発明の実施例について説明する。本実施例は、硬質材料としてのCo-Cr-Mo(コバルトクロムモリブデン)合金と、超高分子量ポリエチレン(Ultra-High Molecular Weight Polyethylene;UHMWPE)とを摩擦材料の組み合わせとする人工関節において、Co-Cr-Mo合金により形成される摩擦面に、本発明に係る摩擦面構造を適用したものである。

【0072】
人工関節の軸受材料として用いられるUHMWPEの摩耗特性を左右する因子に、相手側の摩擦面を形成する硬質材料の表面粗さがあることがわかっている。また、潤滑下であれば、硬質材料の表面粗さが小さくなるほど、UHMWPEの摩耗は小さくなることもわかっている。こうした結果は、人工関節の軸受面間が潤滑液にて完全に分離されず、境界~混合潤滑で摩擦されていることから妥当であると考えられる。

【0073】
一方で、UHMWPEと硬質材料との接触面圧を増加させると、摩耗が低下するということもわかっている。このメカニズムについては、UHMWPEと硬質材料との接触面圧が増加すると、軸受面表面粗さレベルにおいて潤滑膜が破断し、無潤滑状態となることから、UHMWPEの移着膜形成による摩耗低下が発現しやすいためと説明されている。

【0074】
仮に、無潤滑領域が支配的な状態となった場合、UHMWPEの摩耗が最小となる最適な表面粗さがある可能性があり、必ずしもスムースな面がUHMWPEの摩耗を低減するとは限らないことも予想される。本実施例では、硬質材料としてのCo-Cr-Mo合金により形成される軸受面(摩擦面)に超精密プロファイル加工を施し、表面プロファイルとUHMWPEの摩耗特性の関係を調査した。

【0075】
図6に本実施例に係る試験装置の概略を示す。図6に示すように、本実施例に係る試験装置は、ピン・オン・ディスク型の摩耗試験機であり、直径12.0mmのUHMWPE(平均分子量600万)のピン51を、Co-28Cr-6Mo合金のディスク52に接触させた状態で、これらを摺動させる。本実施例では、図6に示すように、ピン51をディスク52の上側の表面である摩擦面52aに接触面圧1.5MPaで接触させ、摩擦面52aの中心部における20.0mm四方の範囲を摩擦範囲として、12.12mm/sの速度で、総滑り距離が15.0kmに至るまで多方向滑りを行った。また、ピン51とディスク52との間に介在させる潤滑液としては、図7に示す表の模擬潤滑液を使用した。

【0076】
本実施例では、実験に供するディスク52として、本発明に係る摩擦面構造を適用した三つの実施例品と、三つの比較例品とを準備した。第一の比較例品としては、ディスク52の表面テクスチャとして一般的な表面状態のもの(Ra=0.011μm)を準備した(図8参照)。また、第二の比較例品としては、第一の比較例品に対して摩擦面52aの表面粗さが約1/2のもの(Ra=0.005μm)を準備した(図9参照)。また、第三の比較例品としては、第一の比較例品に対して摩擦面52aの表面粗さが約1/10のもの(Ra=0.001μm)を準備した(図10参照)。

【0077】
また、第一の実施例品としては、摩擦面52aが第三の比較例品と同等の表面粗さであり(Ra=0.001μm)、かつ、摩擦面52aにサブミクロンレベルの凹み溝処理を施したものを準備した(図11参照)。また、第二の実施例品としては、摩擦面52aが第一の実施例品と同等の表面粗さであり(Ra=0.001μm)、第一の実施例品における凹み溝処理に代えて、摩擦面52aにサブミクロンレベルの凹み穴処理を施したものを準備した(図12参照)。また、第三の実施例品としては、摩擦面52aが第一の実施例品と同等の表面粗さであり(Ra=0.001μm)、かつ、摩擦面52aにサブミクロンレベルの凹み溝処理および凹み穴処理を施したものを準備した(図13参照)。つまり、第三の実施例品においては、摩擦面52aに溝状の凹部および穴状の凹部が混在する。

【0078】
第一の実施例品には、次のような表面加工を施した。まず、定盤として塩化ビニル製のスパイラル状の溝付きのものを用い、2~4μmのダイヤモンドスラリーを砥粒とするラッピング加工を、加工時間10分で3回にわたって行った。次に、定盤において市販のポリシングパッド(日本エンギス社製ポリシングクロス410)を用い、2~4μmのダイヤモンドスラリーを砥粒とするポリシング加工を、加工時間10分で5回にわたって行った。このような表面加工により、第一の実施例品の表面において多数のサブミクロンレベルの凹み溝が形成される。

【0079】
第二の実施例品にも、第一の実施例品と同様の表面加工を施した。ただし、2~4μmのダイヤモンドスラリーを砥粒とするポリシング加工を、総加工時間10時間にわたって行った。このような表面加工により、第二の実施例品の表面において多数のサブミクロンレベルの凹み穴が形成される。第三の実施例品にも、第一の実施例品と同様の表面加工を施した。ただし、2~4μmのダイヤモンドスラリーを砥粒とするポリシング加工を、総加工時間10時間にわたって行った。このような表面加工により、第二の実施例品の表面において多数のサブミクロンレベルの凹み溝および凹み穴が形成される。以下の説明では、便宜上、第一の比較例品、第二の比較例品、第三の比較例品、第一の実施例品、第二の実施例品、および第三の実施例品それぞれの表面(摩擦面)を、それぞれ符号A、B、C、D、E、およびFに対応させる。

【0080】
図8から図13は、本実施例に係る試験に供するCo-Cr-Mo合金の表面を光学式表面粗さ解析装置(WYKO社製「NT3300」)により解析した結果を示す。図8は、第一の比較例品の解析結果を示し、同図(a)は、第一の比較例品の表面(A)についての解析結果を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるA-A断面位置における表面形状についての解析結果を示すものである。

【0081】
図9は、第二の比較例品の解析結果を示し、同図(a)は、第二の比較例品の表面(B)についての解析結果を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるB-B断面位置における表面形状についての解析結果を示すものである。同様に、図10は、第三の比較例品の解析結果を示し、同図(a)は、第三の比較例品の表面(C)についての解析結果を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるC-C断面位置における表面形状についての解析結果を示すものである。

【0082】
図11は、第一の実施例品の解析結果を示し、同図(a)は、第一の実施例品の表面(D)についての解析結果を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるD-D断面位置における表面形状についての解析結果を示すものである。図11(a)、(b)に示されるように、第一の実施例品の表面に形成される多数の直線状の凹み溝が、上述した実施形態に係る凹部3(凹部23)に相当する。また、同じく図11(a)、(b)に示されるように、直線状の凹み溝と第一の実施例品の表面部(図11(b)における上側の部分)との間においては、上述した実施形態に係る曲面部4(曲面部24)に相当する曲面部分が形成されている。

【0083】
図12は、第二の実施例品の解析結果を示し、同図(a)は、第二の実施例品の表面(E)についての解析結果を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるE-E断面位置における表面形状についての解析結果を示すものである。図12(a)、(b)に示されるように、第二の実施例品の表面に形成される多数のドット状の凹み穴が、上述した実施形態に係る凹部3(凹部23)に相当する。また、同じく図12(a)、(b)に示されるように、ドット状の凹み穴と第二の実施例品の表面部(図12(b)における上側の部分)との間においては、上述した実施形態に係る曲面部4(曲面部24)に相当する曲面部分が形成されている。

【0084】
図13は、第三の実施例品の解析結果を示し、同図(a)は、第三の実施例品の表面(F)についての解析結果を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるF-F断面位置における表面形状についての解析結果を示すものである。図13(a)、(b)に示されるように、第三の実施例品の表面に形成される多数の直線状の凹み溝およびドット状の凹み穴が、上述した実施形態に係る凹部3(凹部23)に相当する。また、同じく図13(a)、(b)に示されるように、直線状の凹み溝またはドット状の凹み穴と第三の実施例品の表面部(図13(b)における上側の部分)との間においては、上述した実施形態に係る曲面部4(曲面部24)に相当する曲面部分が形成されている。

【0085】
第一の実施例品の表面に形成される凹み溝、第二の実施例品の表面に形成される凹み穴、第三の実施例品の表面に形成される凹み溝および凹み穴は、軸受面にて一般的に観察されることがあるスクラッチ痕と大きく異なり、凸部を形成する部分の表面が第二の比較例品と同様にスムースで、凹部が深い溝または穴になっている。図14に、Co-Cr-Mo合金の表面に形成されたスクラッチ痕についての解析結果を示す。図14(a)は、表面から見たスクラッチ痕を示すものであり、同図(b)は、同図(a)におけるG-G断面位置における表面形状についての解析結果である。図11(b)、図12(b)、図13(b)と図14(b)との比較からわかるように、一般的なスクラッチ痕は、上側に鋭く突出する凸部を形成するが、第一の実施例品において形成される凹み溝、第二の実施例品の表面に形成される凹み穴、および第三の実施品の表面に形成される凹み溝および凹み穴は、滑らかな丘状のスムースな凸部を形成する。

【0086】
以上のような三つの実施例品と三つの比較例品について、ピン・オン・ディスク型の摩耗試験により、実験中の摩擦係数の推移の計測と、実験後のUHMWPEの摩耗重量の計測および軸受面の表面観察を行った。

【0087】
図15に、実験中の摩擦係数の推移の計測結果として、滑り距離(Sliding distance,m)と摩擦係数(Coefficient of friction)との関係を示す。図15において、白丸で示すグラフG1、白三角で示すグラフG2、白四角で示すグラフG3、黒丸で示すグラフG4、黒三角で示すグラフG5、および黒四角で示すグラフG6が、それぞれ第一の比較例品(A)、第二の比較例品(B)、第三の比較例品(C)、第一の実施例品(D)、第二の実施例品(E)、第三の実施例品(F)についての摩擦係数の推移を示す。なお、図15に示す各グラフにおける摩擦係数の値は、複数回(2、3回程度)の計測による平均的な値を示す。

【0088】
図15に示される結果から、第一の比較例品(A)と第二の比較例品(B)とは、摩擦係数の値が同程度であることが計測された。また、第一の比較例品(A)および第二の比較例品(B)と比較し、第三の比較例品(C)の摩擦係数が大きいことが計測された。これは、第一の比較例品(A)および第二の比較例品(B)から、第三の比較例品(C)のように表面粗さが小さくなることで、真実接触面積が増え、摩擦面間の凝着力が大きくなったためと考えられる。つまり、摩擦面52aの表面粗さがある程度よりも小さくなると、凝着性摩耗が生じることで、摩擦力(摩擦係数)が大きくなる。一方、摩擦面52aの表面粗さがある程度よりも大きくなると、切削性摩耗が生じることで、摩擦力(摩擦係数)が大きくなる。

【0089】
したがって、第一の比較例品(A)よりも表面粗さが大きい(粗い)場合、第一の比較例品(A)の場合よりも切削性摩耗に起因する摩擦力(摩擦係数)が増大する可能性がある。一方、第三の比較例品(C)よりも表面粗さが小さい(滑らかな)場合、第三の比較例品(C)の場合よりも凝着性摩耗に起因する摩擦力が増大する可能性がある。つまり、第一の比較例品(A)、第二の比較例品(B)、第三の比較例品(C)の順に表面粗さが小さくなることにより、切削性摩耗の影響が大きく凝着性摩耗の影響が小さい状態から、切削性摩耗の影響が減少するとともに凝着性摩耗の影響が増大し、切削性摩耗の影響が小さく凝着性摩耗の影響が大きい状態となる。本実施例においては、第一の比較例品(A)では、摩擦力は主に切削性摩耗に起因し、第二の比較例品(B)では、切削性摩耗および凝着性摩耗の両者の影響がある程度大きく、第三の比較例品(C)では、摩擦力は主に凝着性摩耗に起因すると推測される。

【0090】
また、図15に示される結果から、三つの実施例品については、第一の実施例品(D)、第三の実施例品(F)、第二の実施例品(E)の順に、摩擦係数が大きいことが計測された。

【0091】
ここで、切削性摩耗および凝着性摩耗について具体的に説明する。なお、ここで説明する切削性摩耗および凝着性摩耗は、三つの比較例品のように、実施例品のような凹み溝や凹み穴を有しない場合についてのものである。

【0092】
まず、切削性摩耗について説明する。図16に示すように、例えば第一の比較例品(A)のように表面粗さが比較的大きい場合、ディスク52の摩擦面52aに、UHMWPE製のピン51の摩擦面(以下「樹脂側摩擦面」という。)51aに対向する側に突出する鋭利な突部52bが模式的に表わされる。このため、ディスク52のピン51に対する相対的な移動(図16、矢印参照)による摩擦によって、突部52bが作用することにより樹脂側摩擦面51aが切削されるようにして擦り減る。このように樹脂側摩擦面51aがディスク52の突部52bによって切削されるようにして生じる摩耗が、切削性摩耗である。このような切削性摩耗によれば、突部52bによって切削された部分が突部52bに押されて集まることで凝着物51bとなり、この凝着物51bが樹脂側摩擦面51aから遊離してピン51の摩耗粉へと成長する。

【0093】
次に、凝着性摩耗について説明する。図17(a)に示すように、例えば第三の比較例品(C)のように表面粗さが比較的小さい場合、ディスク52の摩擦面52aは、図16との比較において、模式的に平面で表わされる。このように摩擦面52aの表面粗さが小さい場合、上記のとおり摩擦面52aの真実接触面積が増えて摩擦面間の凝着力が大きくなることから、ピン51とディスク52との相対的な移動による摩擦によって、摩擦面52aの樹脂側摩擦面51aに対する接触部分(符号W1で示す部分参照)が凝着部となり、樹脂側摩擦面51aにおいてピン51の凝着部とこの凝着部の周辺の部分との間でせん断力による亀裂51cが生じる。

【0094】
そして、図17(b)に示すように、ピン51とディスク52との摩擦が進むと、ピン51の摩擦面52aに対する凝着部がせん断されて転がりながら長細く丸まった摩耗粉51dとして成長する(矢印W2参照)。さらに、図17(c)に示すように、ピン51とディスク52との摩擦が進むと、長細く丸まった摩耗粉51dが一部凝集したり一体化したりすることで、摩耗粉51dの塊が生じる。

【0095】
図18に、実験後のUHMWPEの摩耗重量(Wear,mg)の計測結果を示す。図18においては、左から順に、第一の比較例品(A)、第二の比較例品(B)、第三の比較例品(C)、第一の実施例品(D)、第二の実施例品(E)、第三の実施例品(F)のそれぞれに対応するUHMWPEの摩耗重量のグラフが示されている。なお、図18の各グラフは、各グラフの横に丸印で示す3回の計測値の平均値を示す。

【0096】
図18に示される結果から、第一の比較例品(A)、第二の比較例品(B)、および第三の比較例品(C)については、同程度の量の摩耗量が観察された。しかし、これら三つの比較例品については、上述のとおり、表面粗さの変化に応じて、切削性摩耗と凝着性摩耗の影響が変化する。したがって、これら三つの比較例品については、表面粗さの変化にともない、総摩耗量には大した変化はないが、摩耗のメカニズムは変化していることがわかる。

【0097】
一方、凹み溝処理が施された第一の実施例品(D)、および凹み穴処理が施された第二の実施例品(E)は、三つの比較例品に対して、相手材料となるUHMWPEの摩耗が増加する傾向が観察された。また、これら第一の実施例品(D)および第二の実施例品(E)については、同程度の量の摩耗量が観察された。このことから、総摩耗量については、摩擦面52aに凹み溝が形成される場合と凹み穴が形成される場合とで、同様の効果が得られると推測できる。

【0098】
また、第一の実施例品(D)および第二の実施例品(E)による摩耗量が、三つの比較例品による摩耗量よりも多くなるのは、次のような理由によるものと推測できる。第一の実施例品(D)および第二の実施例品(E)の場合、凹み溝または凹み穴とともに形成される凸部(図5、凸部26参照)によって、上述したような切削性摩耗が生じることに加え、ピン51を構成するUHMWPEが、凹み溝等が形成されるディスク52を構成する硬質材料よりも柔らかいことから凹み溝等に食い込み、樹脂側摩擦面51aにおいてせん断力による亀裂が生じる。そして、ピン51とディスク52との摩擦が進むと、樹脂側摩擦面51aに生じる亀裂が成長し、樹脂側摩擦面51aからUHMWPEの一部が粉状に遊離して摩耗粉が生じる。

【0099】
なお、図18に示すような計測結果が得られている反面、摩擦面52aの表面粗さが同程度の場合、摩擦面52aに多数の凹み溝が形成されていることにより、潤滑液が摩擦面間に介在しやすくなり、摩擦面同士の凝着作用が緩和され、摩擦係数の低減効果、つまり摩擦軽減効果が得られるという計測結果も得られている。

【0100】
図19および図20に、デジタル光学顕微鏡(KEYENCE社製「VH-6300」)による実験後のCo-Cr-Mo合金ディスク(ディスク52)の表面(摩擦面52a)の観察例(顕微鏡写真)を示す。図19は、第一の実施例品のように摩擦面52aが多数の凹み溝を有する場合についての顕微鏡写真を示し、同図(a)は、ピン51が接触して摺動した部分(Contact area)の表面を示すものであり、同図(b)は、ピン51の接触を受けてない部分(Non-contact area)の表面を示すものである。同様に、図20は、第一の比較例品のように摩擦面52aに凹み溝等の凹部が形成されていない場合についての顕微鏡写真を示すものである。

【0101】
図19および図20それぞれにおける(a)と(b)との比較により、ピン51が接触して摺動した部分の表面には、黒い斑点で表れているように、UHMWPEの移着物または凝着物が存在することがわかる。そして、図19(a)と図20(a)との比較からわかるように、凹み溝を有する場合の方が、UHMWPEの移着物または凝着物が少ない傾向が観察された。このことから、凹み溝処理によってCo-Cr-Mo合金側の凝着物が少なくなり、潤滑状態は改善されると予想される。

【0102】
図21から図26に、共焦点レーザ顕微鏡(KEYENCE社製「VK-8510」)による実験後のUHMWPEの表面観察例(顕微鏡写真)を示す。図21は第一の比較例品(A)に、図22は第二の比較例品(B)に、図23は第三の比較例品(C)に、図24は第一の実施例品(D)に、図25は第二の実施例品(E)に、図26は第三の実施例品(F)にそれぞれ対応するUHMWPEの顕微鏡写真を示す。

【0103】
図21から図26に示されるように、すべての条件に対応するUHMWPEの表面において、多方向滑りの影響だと考えられる直交する摩耗痕が観察された。これは、UHMWPE(ピン51)とCo-Cr-Mo合金ディスク(ディスク52)が潤滑液にて完全に分離されない境界または混合潤滑域に曝されていることを示している。

【0104】
また、すべての条件に対応するUHMWPEの表面において、UHMWPEの表面上(摩耗痕の上)に、摩耗粉に成長すると考えられる凝着物が観察された。図21に示すように、第一の比較例品(A)に対応するUHMWPEでは、UHMWPEの表面上に存在する凝着物(以下「表面凝着物」という。)は、切削性摩耗の割合が高いことから、比較的丸みを帯びた形状に成長していた。また、図22に示すように、第二の比較例品(B)に対応するUHMWPEでは、表面凝着物は、切削性摩耗および凝着性摩耗の両者の影響がある程度大きいことから、細長い形状(針状)に成長したもの(同図(a)参照)と、比較的丸みを帯びた形状に成長したもの(同図(b)参照)とが混在して観察された。なお、図22の(a)、(b)は、第二の比較例品(B)に対応する同一のUHMWPEの表面上における異なる場所の顕微鏡写真である。また、図23に示すように、第三の比較例品(C)に対応するUHMWPEでは、表面凝着物は、凝着性摩耗の割合が高いことから、細長い形状(針状)に成長していた。

【0105】
また、図23および図24に示すように、第三の比較例品(C)と第一の実施例品(D)との比較においては、第一の実施例品(D)の方が、第三の比較例品(C)よりも、表面凝着物の塊の大きさが小さくなっている。これは、第一の実施例品(D)において摩擦面52aが有する凹み溝の作用によるものと考えられる。

【0106】
具体的には、図27に示すように、摩擦面52aに凹部としての凹み溝52cが存在することにより、摩耗粉51dが凹み溝52cに入ってしまう(符号X1で示す部分参照)。これにより、摩耗粉51d同士が凝集したり一体化したりする機会が減少し、表面凝着物が比較的小さくなる。また、同じく摩擦面52aに凹み溝52cが存在することにより、潤滑液53が摩擦面間に介在しやすくなり、表面凝着物が凝集したり一体化したりしにくくなり(符号X2で示す部分参照)、表面凝着物が比較的小さくなる。

【0107】
第三の比較例品(C)に対応するUHMWPEと第一の実施例品(D)に対応するUHMWPEに見られる線状の凝着物は、Co-Cr-Mo合金のUHMWPEとの直接接触部の表面粗さが小さいときに発生する凝着作用の増加により生み出された可能性がある。図23および図24から、第三の比較例品(C)に対応するUHMWPEに観察される大きい塊が第一の実施例品(D)に対応するUHMWPEでは観察されない。この点については、第一の実施例品(D)に対応するUHMWPEの場合には多数の凹み溝があるために潤滑液の介在が起こりやすいこと、あるいは凹み溝部に摩耗粉が入り込んだ結果、移着物が成長する前に比較的大きい凝着物の塊が摩擦面から脱落した可能性があることが原因として考えられる。この結果は、第一の実施例品(D)に対応するUHMWPEの摩耗重量が第三の比較例品(C)に対応するUHMWPEと比べて増加した要因の一つと考えられる(図18参照)。

【0108】
一方で、第三の比較例品(C)には第一の実施例品(D)のような凹み溝がなく、UHMWPEに対する非接触部が少ないため、UHMWPEの凝着物は摩擦面間に停留する可能性が大きい。その結果、凝着物同士が凝集し、凝着物が成長したと考えられる。また、第三の比較例品(C)においては、摩擦面外への凝着物の排出が抑制されることから、第一の比較例品(A)の場合と同じレベルの摩耗抑制が起こると考えられる(図18参照)。図21から図26に示される結果から、Co-Cr-Mo合金の表面プロファイルが、生体反応の発現程度を左右すると考えられるUHMWPEの摩耗粉の形態に影響を与えていることがわかった。

【0109】
図24および図25に示すように、摩擦面52aに凹み溝を有する第一の実施例品(D)と、摩擦面52aに凹み穴を有する第二の実施例品(E)との比較においては、第二の実施例品(E)の方が、第一の実施例品(D)よりも、表面凝着物が丸みを帯びやすくなっている。このように表面凝着物の形態が異なることは、摩擦面52a上に存在する凹み溝と凹み穴とで作用が異なることに起因すると考えられる。なお、図25の(a)、(b)は、第二の実施例品(E)に対応する同一のUHMWPEの表面上における異なる場所の顕微鏡写真である。

【0110】
ここで、凹み溝および凹み穴と、表面凝着物の形態との関連性について説明する。図28に示すように、摩擦面52a上に多数の凹み溝52cが存在する場合、ピン51とディスク52との摩擦によって表面凝着物54が転がりながら成長する過程において(矢印Y1参照)、表面凝着物54が転がる距離が比較的長くなる。このことは、図28に示すように、摩擦面52a上に多数の凹み溝52cが存在する場合、凹み溝52cの分布密度の影響によって、転がりながら成長する表面凝着物54において、凹み溝52cに押し付けられることで切断される可能性がある部分(符号Y2で示す部分参照)が比較的少ないことに起因する。したがって、摩擦面52aに多数の凹み溝52cを有する第一の実施例品(D)においては、表面凝着物54が、比較的長い距離を転がることによって長細くなりやすい。

【0111】
一方、図29に示すように、摩擦面52a上に多数の凹み穴52dが存在する場合、ピン51とディスク52との摩擦によって表面凝着物54が転がりながら成長する過程において(矢印Z1参照)、表面凝着物54が転がる距離が比較的短くなる。このことは、図29に示すように、摩擦面52a上に多数の凹み穴52dが存在する場合、凹み穴52dの分布密度の影響によって、転がりながら成長する表面凝着物54において、凹み穴52dに押し付けられることで切断される可能性がある部分(符号Z2で示す部分参照)が多いことに起因する。したがって、摩擦面52aに多数の凹み穴52dを有する第二の実施例品(E)においては、表面凝着物54が、比較的短い距離を転がることによって長細くなりにくく、丸みを帯びやすい。

【0112】
図30に、第三の実施例品の表面に生じた摩耗粉の観察例を示す。図30(a)、(b)の各図は、電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製「JSM-6390LV」)による実験後のCo-Cr-Mo合金ディスク(ディスク52)の表面(摩擦面52a)の観察例(顕微鏡写真)を示す。

【0113】
図30(a)、(b)に示す各写真において、略中央に存在する塊が摩耗粉である。具体的には、図30(a)の写真には、右上側から左下側に向かう方向を長手方向とする細長い形状の摩耗粉が示されている。また、図30(b)の写真には、一端側(図では左側)が二又に割れたような形状の摩耗粉が示されている。

【0114】
図30(a)、(b)の各写真に示される摩耗粉は、いずれも数10μm程度のサイズであり、マクロファージによる貪食の対象から除外されるに十分なサイズ・形状の摩耗粉であるといえる。このように、本発明に係る摩擦面構造を適用することにより、マクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状の摩耗粉が生じるということが、本実施例の一つの結果として得られた。

【0115】
本実施例を踏まえ、樹脂側摩擦面51aに対するディスク52の摩擦面52aの直接接触部の粗さ(Raの値)と、ピン51の(UHMWPEの)摩耗特性との関係について説明する。ここで、三つの実施例品のように凹み溝52cや凹み穴52dを有する摩擦面52aの場合、摩擦面52aの直接接触部は、凹み溝52cや凹み穴52dとともに形成される凸部56の部分である。

【0116】
図31は、摩擦面52aの表面粗さ(Ra)と摩耗粉の粒径との関係を示すグラフである。図31に示すように、摩耗粉粒径は、表面粗さ(Ra)がある値のときに最大となり、その摩耗粉粒径が最大となる表面粗さ(Ra)の値を境に、摩耗粉粒径は、表面粗さ(Ra)の値が大きい方に変化しても小さい方に変化しても表面粗さ(Ra)の値の変化にともなって徐々に小さくなる傾向にある。本実施例では、第一の比較例品(A)の表面粗さ(Ra=0.011μm)と、第三の比較例品(C)の表面粗さ(Ra=0.001μm)との間に、摩耗粉粒径が最大となる表面粗さ(Ra)の値が存在すると推測できる。

【0117】
図32は、摩擦面52aの表面粗さ(Ra)と摩耗粉の形態との関係を示すグラフである。図32に示すように、摩耗粉形態は、表面粗さ(Ra)が大きくなるほど、丸みを帯びた形態となり、表面粗さ(Ra)が小さくなるほど、細長い形態となる傾向にある。このことは、本実施例において、表面粗さ(Ra)が順に大きくなる第一の比較例品(A)、第二の比較例品(B)、および第三の比較例品(C)のそれぞれに対応するUHMWPEの表面凝着物の形状から見てとれる(図21~図23参照)。

【0118】
このような摩擦面の表面粗さ(Ra)と摩耗粉粒径および摩耗粉形態それぞれとの関係に基づき、摩擦面から生じる摩耗粉が、マクロファージによる生体活性が抑制されるような粒径あるいは形態となるように、凹み溝・凹み穴が形成される摩擦面の表面粗さ(Ra)が適正値に調整される。言い換えると、凹み溝・凹み穴が形成される摩擦面の表面粗さ(Ra)の調整により、マクロファージによる生体活性を抑制することができる。

【0119】
図33は、摩擦面52aの表面粗さ(Ra)と総摩耗量との関係を示すグラフである。図33において実線で示グラフは、三つの比較例品のように凹み溝・凹み穴が摩擦面52aに存在しない場合についてのグラフである。この実線のグラフからわかるように、総摩耗量は、表面粗さ(Ra)がある値のときに最少となり、その総摩耗量が最少となる表面粗さ(Ra)の値を境に、総摩耗量は、表面粗さ(Ra)の値が大きい方に変化しても小さい方に変化しても表面粗さ(Ra)の値の変化にともなって徐々に増加する傾向にある。

【0120】
このことは、摩擦面の表面粗さ(Ra)が大きくなると、切削性摩耗が支配的となることで、摩耗量が増加し、摩擦面の表面粗(Ra)さが小さくなると、凝着性摩耗が支配的となることで、摩耗量が増加することに基づく。つまり、ドライに近い摩擦面環境においては、摩擦面の表面が滑らかなほど(表面粗さ(Ra)が小さいほど)摩耗量が減少するということではなく、摩耗量を少なくする観点からは、摩擦面の表面粗さ(Ra)について最適な値の範囲が存在する。本実施例では、第一の比較例品(A)の表面粗さ(Ra=0.011μm)と、第三の比較例品(C)の表面粗さ(Ra=0.001μm)との間に、総摩耗量が最少となる表面粗さ(Ra)の値が存在すると推測できる。

【0121】
また、図33において、一部破線で示すグラフは、三つの実施例品のように凹み溝・凹み穴が摩擦面52aに存在する場合についてのグラフである。この一部破線のグラフからわかるように、摩擦面52aに凹み溝・凹み穴が存在することで、表面粗さ(Ra)が小さくなるほど、総摩耗量は減少する(矢印a1参照)。これは、凹み溝・凹み穴によって摩擦面間に潤滑液が介在しやすくなって摩擦面間がウエットに近い環境となり、摩擦面同士の凝着作用が緩和されるという現象に起因する。摩擦面間がウエットに近い環境では、表面粗さ(Ra)が小さいほど摩耗量も少なくなる。つまり、摩擦面52aに凹み溝・凹み穴が形成されることにより、表面粗さ(Ra)が小さいほど影響が大きい凝着性摩耗が抑制され、表面粗さ(Ra)が比較的小さい範囲での総摩耗量が減少する(矢印a2参照)。

【0122】
続いて、ディスク52の摩擦面52aに形成される凹部(凹み溝・凹み穴)と、ピン51の(UHMWPEの)摩耗特性との関係について説明する。

【0123】
図34は、摩擦面52aに形成される凹み溝・凹み穴の量(単位面積あたりの量、分布密度)と摩耗粉の粒径との関係を示すグラフである。図34に示すように、摩耗粉粒径は、凹み溝・凹み穴の量が多くなるほど小さくなり、凹み溝・凹み穴の量が少なくなるほど大きくなる傾向にある。このことは、上述したような摩擦面間において転がりながら成長する表面凝着物が凹み溝・凹み穴に押し付けられて切断されるという現象に基づく。つまり、摩擦面52aにおいて凹み溝・凹み穴の量が多くなると、表面凝着物が切断される箇所が増えるので、摩耗粉粒径は小さくなる。逆に、摩擦面52aにおいて凹み溝・凹み穴の量が少なくなると、表面凝着物が切断される箇所が減るので、摩耗粉粒径は大きくなる。

【0124】
図35は、摩擦面52aに形成される凹み溝および凹み穴の存在比率と摩耗粉の形態との関係を示すグラフである。ここで、凹み溝および凹み穴の存在比率とは、摩擦面52aに凹み溝と凹み穴とが混在する状態における凹み溝と凹み穴との相対的な比率である。図35に示すように、摩耗粉形態は、凹み穴の存在比率が大きくなるほど、丸みを帯びた形態となり、凹み溝の存在比率が大きくなるほど、細長い形態となる傾向にある。このことは、上述したように凹み穴の方が凹み溝よりも表面凝着物を切断する可能性のある部分を多く存在させることに基づく。

【0125】
図36は、摩擦面52aに形成される凹み溝・凹み穴の深さと総摩耗量との関係を示すグラフである。図36に示すように、総摩耗量は、凹み溝・凹み穴の深さがある値のときに最少となり、その総摩耗量が最少となる凹み溝・凹み穴の深さの値を境に、総摩耗量は、凹み溝・凹み穴の深さが深い方に変化しても浅い方に変化しても凹み溝・凹み穴の深さの値の変化にともなって徐々に増加する傾向にある。このことは、凹み溝・凹み穴の深さが深くなると、切削性摩耗が支配的となることで、摩耗量が増加し、凹み溝・凹み穴の深さが浅くなると、凝着性摩耗が支配的となることで、摩耗量が増加することに基づく。

【0126】
図37は、摩擦面52aに形成される凹み溝・凹み穴の広さと総摩耗量との関係を示すグラフである。ここで、凹み溝・凹み穴の広さは、凹部として形成される凹み溝・凹み穴の摩擦面における開口面積に相当する。図37に示すように、総摩耗量は、凹み溝・凹み穴の広さが広くなるほど多くなり、凹み溝・凹み穴の広さが狭くなるほど少なくなる傾向にある。このことは、切削性摩耗および凝着性摩耗の影響は、いずれも、凹み溝・凹み穴の広さが広くなるほど大きくなることに基づく。

【0127】
以上のように、摩擦面に形成される凹み溝・凹み穴とUHMWPEの摩耗特性と間には関連性が存在する。この関連性に基づき、凹み溝・凹み穴として形成される凹部は、そのサイズ、形状、および摩擦面における分布密度の少なくともいずれかの調整により、摩擦面から生じる摩耗粉の量、サイズ、および形状(形態)の少なくともいずれかをコントロールするための形状部分として用いられる。そして、凹み溝・凹み穴のサイズ等の調整は、好ましくは、摩擦面から生じる摩耗粉がマクロファージによる貪食の対象から除外されるサイズ・形状となるように行われる。

【0128】
以上のように、本実施例では、UHMWPEの摩耗を抑制するため、および摩耗粉による生体活性を抑制するための硬質材料側の軸受面の最適な表面処理方法の検討指針を得るため、UHMWPEおよびCo-Cr-Mo合金の表面プロファイルとUHMWPEの摩耗との関係を調査した。本実施例から、必ずしも単純な表面粗さの減少は摩耗抑制にはつながらないこと、および本発明に係る摩擦面構造に関係するサブミクロンレベルの溝加工または穴加工の有効性が認められた。

【0129】
今後の展望としては、切削性の摩耗に影響を与えない程度の深さで溝加工または穴加工を行い、摩擦面間への潤滑液の介在を容易にして凝着性の摩耗を抑制するとともに摩耗粉による生体活性を抑制するような表面プロファイル加工を提案する必要がある。そして、潤滑状態を改善しつつ、軸受面の表面粗さに影響を与えない表面プロファイルを提案することにより、UHMWPEの摩耗粉の形態制御や総摩耗量の抑制を促すことが可能であると考えられる。

【0130】
本発明に係る人工関節は、すでに臨床応用されている人工関節の硬質材料側の摩擦面の加工方法の変更、具体的には摩擦面の表面テクスチャリングの適用という観点に基づくものであるため、安全性は保証されており、かつ、人工関節を取り扱う産業界の理解と参入も容易である。そして、例えば人工関節の硬質材料としては、従来、チタン合金、コバルトクロム系合金、ステンレス鋼等の金属材料が多用されているが、本発明によれば、それらの金属材料が有する良好な加工性や高靭性・延性能力等の優れた特徴を維持したまま、総摩耗量を減らすかあるいは現状維持のままで、摩擦面で発生する摩耗粉による生体活性の抑制を可能とする潤滑システムの完成を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0131】
1 摩擦面
2 相手側摩擦面
3 凹部
3a 斜面部
4 曲面部
5 平面部
6 凸部
10 人工股関節
20 ボール(関節部材)
21 凸曲面(摩擦面)
23 凹部
23a 斜面部
24 曲面部
26 凸部
30 カップ(関節部材)
31 凹曲面(摩擦面)
40 潤滑液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31
【図33】
32
【図34】
33
【図35】
34
【図36】
35
【図37】
36